説明

生分解性樹脂組成物

【課題】ポリ乳酸樹脂などの生分解性樹脂本来の特性を損なうことなく、柔軟性に優れ、加工性に優れた生分解性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】二酸化ケイ素と可塑剤と生分解性樹脂とを含む生分解性樹脂組成物とする。この生分解性樹脂組成物を用いてシート、容器などの成形品を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂組成物に関するものであり、より詳しくは、加工性、柔軟性および透明性に優れた生分解性樹脂組成物、並びに生分解性樹脂組成物に加工性および柔軟性を付与するための可塑剤および分散剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂組成物は、使用後に廃棄した場合、水中または土中の微生物により炭酸ガスと水に分解される。また、公共施設や産業施設で生ゴミと同様にコンポスト化されることにより、完全に二酸化炭素と水に分解することができる。また、焼却された場合でも、燃焼ガス中にNOxの発生がないうえ、燃焼熱がポリエチレンやポリプロピレン等の約3分の1程度であるため焼却炉を傷めないという特徴がある。そのため、現在、農林水産資材、土木建築資材、野外レジャー製品、食品包装容器、衛生医療用品、日用雑貨品、合成繊維等の用途が期待されている。
【0003】
従来、生分解性樹脂組成物は、シートまたはフィルムを製造する方法として、加工の容易さから、押出成形が主に使用されてきた。そこで、透明性があり、加工性の良く、柔軟性の良い生分解性樹脂組成物が要望されてきている。
【0004】
近年、植物由来の原料や微生物により得られる熱可塑性樹脂が注目されている。これらの樹脂は、石油を原料としない、環境循環型の素材であり、焼却しても地球上の二酸化炭素を増大させず、また、焼却せずに埋設処理した場合は、微生物により分解されるため、環境破壊を招くことも少ない。このような樹脂としては、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸等があり、特にポリ乳酸はガラス転移点(Tg)が約60℃と最も高く、透明であることなどから、将来性のある素材として、各種成形材料への用途開発が進められている。
【0005】
ポリ乳酸樹脂を用いたシートは、Tダイ押出成形機で熱可塑化し、ポリ乳酸樹脂を練り、シート厚み0.1mm以上のシートを押出し加工し製造する。Tダイから吐出されたポリ乳酸樹脂性シートは吐出時そのTダイの幅で吐出されるが、製品にするため、ある一定に規定された幅に定められたカッターによりカットされながら、ロールとして巻き取るられたりカット版として製品化される場合が多い。しかし、硬く脆いポリ乳酸樹脂の樹脂特性により、カッターでカットされる際そのカット部分のシートが割れる問題が発生したり、ロールとして巻き取る時にシートが硬く、均一に巻き取る事ができない問題がある。
【0006】
これらシート製造を安定的に且つ製造ロスを少なくするため、ポリ乳酸樹脂の柔軟化が必要とされる。ポリ乳酸樹脂を柔軟化する為の方法としては、様々な可塑剤や軟質ポリマーのブレンドやコポリマー化などの検討がされている。しかし、軟質ポリマーをブレンドする場合には、生分解性の観点よりポリブチレンサクシネート等の生分解性樹脂のブレンドに限られる。そのため、十分な柔軟性を付与するためには多量に添加する必要があり、その結果、ポリ乳酸の特徴を損なう恐れがある。コポリマー化の場合には、結晶性およびガラス転移点の低下に伴い、融点、耐熱性の物性が変化する。一方、可塑剤を添加する場合には、可塑剤が表面に滲み出て表面を汚したり、シートがブロッキングを起こしたり、透明性が損なわれる場合が多い。この為、様々な可塑剤が提案されている。
【0007】
例えば、可塑剤として、特開平4−335060号公報(特許文献1)でアジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジオクチルや、特開平11−35808号公報(特許文献2)及び特開平11−181262号公報でエーテルエステル系可塑剤(特許文献3)、特開2000−136300号公報(特許文献4)でポリプロピレングリコールジベンゾエート、特開2000−198908号公報(特許文献5)でアセチルトリブチルサイトレート、ジオクチルフタレート又はジイソデシルアジペート、特開2001−294736号公報(特許文献6)でビス(ブチルジグリコール)アジペートなどが既に知られている。しかし、何れも相溶性が悪かったり、ブリードアウトし易いものがほとんどである。また、これら可塑剤の形態はほとんどが液状であり、単純に可塑剤をポリ乳酸樹脂にまぶしてシート加工すると、可塑剤が均一に分散しにくく、配合時均一添加配合されない。具体的に説明すると、例えば、ポリ乳酸樹脂に練り込む際ホッパー内に可塑剤を単にまぶして樹脂を投入すると、先に可塑剤が押出し機シリンダー内に入り押出し始めのシートには可塑剤の添加量が多く、また押出し後半では可塑剤が少ないなど可塑剤が均一に添加されたシートを取ることができない状態となりやすい。
【0008】
上記の問題を解決するために、これら液状の可塑剤を押出し機シリンダーの途中で定量的に滴下し樹脂に練りこみ予め均一に可塑剤を練り込んだペレットを製造し、その可塑剤をある規定量含んだペレットを使用しシートを製造する方法がある。しかし、一度この可塑剤をポリ乳酸樹脂に練りこみペレット粗製造する工程を付与すると、その分の加工費が上乗せされ、最終的にシートの製品代が高くなり、コスト的に生分解性シートの汎用性が阻害される。
【0009】
このように、生分解性樹脂組成物用の可塑剤は、生分解性樹脂に均一に練り込むことが難しく、満足できるものは開発されていないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】特開平4−335060号公報
【特許文献2】特開平11−35808号公報
【特許文献3】特開平11−181262号公報
【特許文献4】特開2000−136300号公報
【特許文献5】特開2000−198908号公報
【特許文献6】特開2001−294736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような状況に鑑み、本発明は、ポリ乳酸樹脂などの生分解性樹脂本来の特性を損わずに、柔軟性に優れ、加工性に優れた生分解性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、柔軟性に優れ、加工性に優れた生分解性樹脂組成物を得るために、可塑剤を添加する方法について鋭意研究を進めたところ、所定の無機担体を添加することにより、可塑剤が樹脂組成物中に均一に分散し、柔軟性が良く、加工性優れた樹脂組成物とすることができることを見出した。さらに、所定の無機担体を添加することによって、透明性に優れた生分解性樹脂とすることができることも見出した。本発明は以上の知見に基づき完成されたものである。すなわち、本発明は、下記構成を備えた生分解性樹脂組成物、可塑剤および分散剤を提供するものである。
【0013】
〔1〕二酸化ケイ素と可塑剤と生分解性樹脂とを含む生分解性樹脂組成物。
〔2〕前記生分解性樹脂がポリ乳酸である請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
〔3〕前記可塑剤が脂肪酸系可塑剤である請求項1または2に記載の生分解性樹脂組成物。
〔4〕二酸化ケイ素100重量部に対して可塑剤を20〜200重量部含有する、上記〔1〕から〔3〕の何れか一項に記載の生分解性樹脂組成物。
〔5〕上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の生分解性樹脂組成物で形成された生分解性成形体。
〔6〕シート状に成形された上記〔5〕に記載の生分解性成形体。
〔7〕容器に成形された上記〔5〕に記載の生分解性成形体。
〔8〕二酸化ケイ素と可塑剤とを含む生分解性樹脂用分散性可塑剤。
〔9〕二酸化ケイ素を含む生分解性樹脂用可塑剤分散剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柔軟性および加工性に優れると共に、透明性も優れた生分解性樹脂粗組成物とすることができる。本発明の生分解性樹脂組成物で形成された成形品は、柔軟性、透明性に優れる。さらに、所定の可塑剤と二酸化ケイ素を用いることにより可塑剤等のブリードアウトの問題を生じにくいものとすることが可能である。
また、本発明により、上記のような本発明の生分解性樹脂組成物を得るために好適な可塑剤および分散剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂と可塑剤と二酸化ケイ素とを含む。生分解性樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロエラクトン、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)、ポリビニールアルコールなどの石油系生分解性樹脂、それ以外としてポリ乳酸、酢酸セルロース、ポリヒドロキシ酪酸などの生分解性樹脂などが例示される。透明性の観点から、本発明の生分解性樹脂組成物としてはポリ乳酸樹脂が好適である。
【0016】
本発明におけるポリ乳酸樹脂とは、乳酸あるいはラクチドの重縮合物であり、ポリラクチドとも呼ばれている。本発明において用いられるポリ乳酸はその製法に特に制限はなく、例えば、乳酸を直接脱水重縮合する方法、あるいは乳酸を脱水してラクチドを合成した後、ラクチドを開環重合する方法等公知の手段で製造することができる。
【0017】
ポリ乳酸のポリマー中には不斉炭素が存在し、L体、D体、DL(ラセミ体)の3種の光学異性体が存在するが、本発明においては、それらいずれでも良く、またそれらの光学異性体の混合物であってもよい。物性の面から考慮すると、好ましくは、L体の含有率を95%以上とする形態が挙げられる。L体の含有率を95%以上とすることにより、融点が高く、カレンダー・シート成形など成形加工において成形しやすくなり、また、その他射出成形など成形方法も広がり様々な用途展開も出来る。
【0018】
さらに、樹脂成分たるポリマーの分子量としては、好ましくは50,000〜300,000、より好ましくは70,000〜200,000である。上記下限以上であれば強度が強くすることができる。
【0019】
本発明の生分解性樹脂組成物に含まれる生分解性樹脂は、1種であってもよいし、また2種以上を配合してもよい。上記のとおり、好ましい生分解性樹脂の1つとしてポリ乳酸樹脂が挙げられるが、ポリ乳酸樹脂単体では剛性が高いため、フィルムや包装材等の用途としては柔軟性が十分ではない場合がある。そのため、柔軟性を増す1つの手法として他の生分解性樹脂をブレンドする形態が例示される。他の生分解性を有する樹脂の例としては、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。但し、この様な他の樹脂とブレンドすることにより、ポリ乳酸の軟質化は可能となるが、配合量などによっては、ポリ乳酸樹脂の大きな特徴でもある透明性が低下する。
【0020】
本発明で用いられる樹脂組成物における生分解性樹脂の含有量は、生分解性樹脂の種類等にもよるが、生分解性樹脂や可塑剤等の添加剤を入れた総量に対し好ましくは51〜99質量%、より好ましく51〜95質量%である。上記の含有量とすることにより、生分解性樹脂の持つ特性を有効に発揮し得るためである。特に、ポリ乳酸樹脂においては上記の範囲とすることでポリ乳酸樹脂の生分解性、透明性などを保ちつつ、脆性などの欠点を軽減することができる。
【0021】
本発明の生分解性樹脂組成物には、可塑剤および分散剤が含まれる。本発明で用いられる可塑剤としては、脂肪族可塑剤およびセルロース系可塑剤などが例示される。脂肪族可塑剤としては、例えば、脂肪族多塩基酸とアルコール又はエーテルアルコールとのエステルが挙げられ、好ましくは、脂肪族多塩基酸と2種以上のアルコール又はエーテルアルコールとのエステル(混基エステル)が挙げられる。また、セルロース系可塑剤としては、メチルセルロース樹脂組成物、アセチルセルロース樹脂組成物などが例示される。
【0022】
脂肪族多塩基酸と2種以上のアルコールまたはエーテルアルコールとのエステル(混基エステル)からなる可塑剤の詳細について説明する。
【0023】
単一エステルについて説明すると、多塩基酸に単一のアルコールまたはエーテルアルコールを反応させることによって、単一種類のエステル基を有する多塩基酸エステルが得られる。例えば、1モルのアジピン酸と2モルのメタノールを反応させることによりジメチルアジペートが得られる。
【0024】
一方、多塩基酸にアルコールまたはエーテルアルコールを反応させる際に、少なくとも1つは異なるアルコールまたはエーテルアルコールを用いることにより、同一分子中に異なるエステル基を有する多塩基酸エステルが得られる。本発明では、このようなエステルを混基エステルと言う。例えば、1モルのアジピン酸と1モルのメタノールおよび1モルのブタノールとから、混基エステルであるメチルブチルアジペートが得られる。本明細書のエステル化合物において、脂肪族多塩基酸としては特に限定されないが、好ましくは2価又は3価の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族多塩基酸を採用できる。また、エステル化合物の炭素数は、好ましくは、2〜20程度、より好ましくは4〜10程度のものを使用できる。
【0025】
アルコールとして、特に限定はないが、好ましくは直鎖または分岐状の飽和脂肪族アルコール又は芳香族のアルコールを採用できる。また、アルコールの炭素数は、好ましくは1〜20程度、より好ましくは4〜10程度のものを使用できる。
【0026】
エーテルアルコールとして、特に限定されないが、前記アルコールのエチレンオキサイド付加物、プロピレン付加物、ブチレン付加物等であって、炭素数が通常3〜20程度、特に3〜10程度のものを使用できる。
【0027】
エステル化合物としては、好ましいものとして例えば、以下の一般式(1)で表される二塩基酸エステル化合物(B1)及び以下の一般式(3)で表されるクエン酸エステル化合物(B2)が挙げられる。
【0028】
二塩基酸エステル化合物(B1):
混基エステルのうち、二塩基酸エステル(B1)は、下記の一般式(1)で表される化合物である。
【0029】
【化1】

(式(1)中、mは0〜8の整数を示す。R1およびR2は、互いに異なって、それぞれ下記の一般式(2)で表される。)
【0030】
【化2】

(式(2)中、R3はC16のアルキレン基を示し、R4はC110の直鎖または分岐状のアルキル基、C612のアリール基、C715のアリールアルキル基またはC715のアルキルアリール基を示し、nは0〜6の整数を示す。)
【0031】
二塩基酸エステル(B1)の原料となる二塩基酸の具体例としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらの中ではコハク酸またはアジピン酸が好ましい。
【0032】
一方、二塩基酸エステル(B1)の原料となるアルコールの具体例としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノ−ル、1,1−ジメチル−1−エタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、フェノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が好ましく、ベンジルアルコール、1−ブタノール、オクタノール、フェネチルアルコールがより好ましい。
【0033】
また、二塩基酸エステル(B1)の原料となるエーテルアルコールとしては、上記アルコールのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。具体例としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジェチレングリコールモノエチルエーテル、ジェチレングリコールモノブチルエーテル、ジェチレングリコールモノフェニルエーテル、ジェチレングリコールモノベンジルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノベンジルエーテルのようなエチレンオキサイド付加物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピングレリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノベンジルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノベンジルエーテルのようなプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0034】
これらの中では、ジェチレングリコールモノメチルエーテル、ジェチレングリコールモノエチルエーテル、ジェチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が好ましく、ジェチレングリコールモノメチルエーテル、ジェチレングリコールモノエチルエーテル、ジェチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。
【0035】
上記二塩基酸とアルコールまたはエーテルアルコールとの反応によって得られる具体的な化合物としては、例えばメチルジグリコールブチルジグリコールアジペート、ベンジルメチルジグリコールアジペート、ベンジルブチルジグリコールアジペート等が挙げられる。
【0036】
クエン酸エステル(B2):
クエン酸エステル(B2)は下記の一般式(3)で示される化合物である。
【0037】
【化3】

(式(3)中、R5はH、C15の脂肪族アシル基またはC612の芳香族アシル基を示し、R6、R7、R8は全てが同一ではなく、それぞれ下記の一般式(4)または一般式(5)で表わされる。)
【0038】
【化4】

(式(4)中、R9はC16のアルキレン基を示し、R10はC110の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、C612のアリール基、C715のアリールアルキル基またはC715のアルキルアリール基を示し、pは0〜6の整数を示す。)
【0039】
【化5】

(式(5)中、R11はC16のアルキレン基を示し、R12はC110の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、C612のアリール基、C715のアリールアルキル基またはC715のアルキルアリール基を示し、qは0〜6の整数を示す。)
【0040】
上述したように、R5は水素原子、炭素数1から5の脂肪族アシル基または炭素数6から12の芳香族アシル基であるが、特に炭素数2〜4の脂肪族アシル基または炭素数7から10の芳香族アシル基が好ましく、アセチル基又はベンゾイル基がより好ましい。R9及びR11は炭素数1〜6のアルキレン基であるが、特にエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0041】
10及びR12は炭素数1〜10の直鎖または分岐状のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜15のアリールアルキル基または炭素数7〜15のアルキルアリール基であるが、特に炭素数2〜8の直鎖または分岐状のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアリールアルキル基または炭素数7〜10のアルキルアリール基であることが好ましい。R10及びR12の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基またはベンジル基等が挙げられ、中でもエチル基、プロピル基、ブチル基等が好ましく、エチル基、ブチル基がより好ましい。p及びqは0から6の整数であり、好ましくは0〜4である。
【0042】
クエン酸エステル化合物(B2)の具体的な化合物としては、例えばメトキシカルボニルメチルジメチルサイトレート、メトキシカルボニルメチルジェチルサイトレート、メトキシカルボニルメチルジブチルサイトレート、エトキシカルボニルメチルジメチルサイトレート、エトキシカルボニルメチルジブチルサイトレート、エトキシカルボニルメチルジオクチルサイトレート、ブトキシカルボニルメチルジメチルサイトレート、ブトキシカルボニルメチルジェチルサイトレート、ブトキシカルボニルメチルジブチルサイトレート、ジメトキシカルボニルメチルモノメチルサイトレート、ジメトキシカルボニルメチルモノエチルサイトレート、ジメトキシカルボニルメチルモノブチルサイトレート、ジェトキシカルボニルメチルモノメチルサイトレート、ジェトキシカルボニルメチルモノブチルサイトレート、ジェトキシカルボニルメチルモノオクチルサイトレート、ジブトキシカルボニルメチルモノメチルサイトレート、ジブトキシカルボニルメチルモノエチルサイトレート、ジブトキシカルボニルメチルモノブチルサイトレート及び、これらの化合物の前記一般式(3)におけるR5の部分がアセチル化された化合物等が挙げられる。この中でも、メトキシカルボニルメチルジブチルサイトレート、エトキシカルボニルメチルジブチルサイトレート、ブトキシカルボニルメチルジブチルサイトレート、ジメトキシカルボニルメチルモノブチルサイトレート、ジェトキシカルボニルメチルモノブチルサイトレート、ジブトキシカルボニルメチルモノブチルサイトレート等が好ましく、エトキシカルボニルメチルジブチルサイトレートがより好ましい。
【0043】
混基エステルの数平均分子量:
混基エステルの数平均分子量は、特に限定されないが、一般に分子量が小さいほど可塑効果が大きい反面、安定性が低く、成形品表面へのブリードアウトによるブロッキングおよび汚れ発生の可能性が大きくなる。そのため、混基エステルの数平均分子量は200〜1500の程度が好ましく、300〜1000程度がより好ましい。
【0044】
混基エステルの用途:
上記混基エステルは、生分解性を有し、さらに脂肪族系ポリエステル樹脂との相溶性が良好であることから、生分解性脂肪族系ポリエステル樹脂用可塑剤として好適に使用できる。
【0045】
次に、本発明で用いる無機担体について説明する。本発明で用いられる無機担体は、生分解性樹脂中に可塑剤を分散させるものであればよい。すなわち、本発明で用いられる無機担体は、可塑剤分散剤として用いられる。本発明で用いる可塑剤を含浸させる無機担体としては、可塑剤が高濃度に含浸できるものであって、ポリ乳酸などの生分解性樹脂に練り込んだ時に、無機担体それ自体がペレットやシート加工時の加工温度により変質せずに耐熱性があり、樹脂中に均一に分散しやすく、樹脂の透明性を阻害しないものが望ましい。
【0046】
本発明で用いる無機担体としては、二酸化ケイ素が用いられる。二酸化ケイ素は、ポリ乳酸などの生分解性樹脂およびこれに用いられる可塑剤との混練性が良い。二酸化ケイ素を用いることにより、生分解性樹脂に十分な柔軟性を付与するに足りる可塑剤を混合することができ、本発明の生分解性樹脂組成物は、柔軟性、加工性に優れたものとすることができる。また、二酸化ケイ素を用いることにより、生分解性樹脂組成物の透明性も良好である。二酸化ケイ素はいくつかの形態が存在する。本発明においては、二酸化ケイ素として、例えば、二酸化ケイ素としては、無定形二酸化ケイ素、クリストパル石、リンケイ石、ルシャテリーライト、タンパク石、石英などを用いることができる。なお、他の無機担体としては、例えば、ゼオライト、カオリン、バリウム、活性炭、ベントナイト、珪藻土、タルク類、クレー、炭酸カルシウム、合成含水酸化珪素、酸化亜鉛、酸性白土などの粘土類、セラミック、セリサイト、石英、水和シリカ、ケイ酸などが挙げられる。本発明の樹脂組成物には、上記本発明の樹脂組成物の効果を損なわない範囲で他の無機担体を1種または2種以上混合してもよい。また、本発明の可塑剤分散剤は、上記のような無機担体の他、酸化防止剤や滑剤などの他の成分を配合することもできる。
【0047】
無機担体の平均粒径は、特に限定されないが種々の加工において対応しやすい観点から平均粒子径0.1nm〜8.0μmのものが好ましいが、より好ましくは10nm〜50nmであり、更に好ましくは20〜30nmである。平均粒子径10nm〜50nm、より好ましくは20〜30nmのものは通常二次、三次のブドウ状に凝集しており、その分比表面積、細孔容積が大きく高給油性となり可塑剤を大量に含浸する事ができ、且つ、ポリ乳酸樹脂などの生分解性樹脂の透明性を阻害せず均一に分散できるためである。二酸化ケイ素と可塑剤との配合割合は、二酸化ケイ素100重量部に対して、好ましくは可塑剤20〜200重量部、より好ましくは100〜150重量部を含浸する事が好ましい。
【0048】
二酸化ケイ素を可塑剤と混合し、分散性可塑剤が得られる。上記のように無機担体は可塑剤を含浸するものが好適である。可塑剤を二酸化ケイ素などの無機担体に均一に含浸させる方法としては、例えば回転混合機、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ニーダー、ロール機、ディスパー、ナウターミキサー等の混合機が挙げられ、そこに一定量の可塑剤を滴下投入し一定時間含浸、分散、混合処理をして可塑剤が高濃度に含浸した無機担体が得られる。本発明の分散性可塑剤には、可塑剤および無機担体の他、酸化防止剤や滑剤などの他の成分を配合することもできる。
【0049】
この可塑剤が高濃度に含浸した二酸化ケイ素と樹脂とをさらに押出し機やニーダー機、ロール機等で混合すると、生分解性樹脂組成物が得られる。
【0050】
本発明の樹脂組成物としては、樹脂と可塑剤が高濃度に含浸した二酸化ケイ素との比率は樹脂100重量部に対し、可塑剤が高濃度に含浸した二酸化ケイ素を、好ましくは5〜100重量部、より好ましくは10〜50重量部添加する。また、本発明の樹脂組成物は、液体、固体などいずれの状態であってもよいが、例えばマスターバッチ、或はコンパウンドなどの形態で原材料として保管することが好適であり、必要に応じて、成形品の加工等に用いられる。これらマスターバッチ、或はコンパウンドの製造方法としては、予め可塑剤が高濃度に含浸した二酸化ケイ素と樹脂をタンブラーなどの混合機に投入し一定時間混合する。この混合した材料を加工温度は160℃〜220℃に設定したスクリューが一軸或はニ軸であり、シリンダー口径が30mmφ〜120mmφの押出し機に投入し適当な時間溶融混合する。溶融混合する温度は、樹脂の種類、投入量により適宜選択する必要があり、一定温度で昇温してもよい。その後、冷却槽に通しカットする事によりペレット化する。
【0051】
本発明の樹脂組成物は、加工して成形体とすることができる。本発明の樹脂組成物は生分解性樹脂が用いられるあらゆる成形品に適用可能であり、例えばシート状成形物、容器などが例示される。本発明のシート状成形体には、厚みが1/100μ以下の、いわゆるフィルムタイプのものも含まれる。
【0052】
本発明のシート状成形体は、上記のようにして得られた生分解性樹脂組成物を成形してシート化することによって、製造することができる。シート化の方法は、樹脂組成物を溶融および混練した後に、押出法、インフレーション法等の公知のシート化方法を採用できる。シート化後は、延伸しても、しなくてもよい。
【0053】
本発明の生分解性樹脂組成物には、用途に応じて他の成分も適宜添加することができる。例えば、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、帯電防止剤、抗菌剤、エポシキ化合物、多価アルコール、架橋剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明する。なお、本発明が下記実施例に限定されるものではない。なお、分散剤として表1に示す各無機担体を用いた。分散性可塑剤は、無機担体100重量部に、表1に示す各可塑剤10、30、150または250重量部を含浸させて得た。
【0055】
JIS K 5101法に準じた方法で含浸試験を実施し、可塑剤の含浸量の確認および粉体化試験を実施した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1中の含浸量評価は次の通りである。
含浸量評価;○:可塑剤が均一に含浸され、粉体状となっている。
×:可塑剤が含浸されず、ペースト状になる。
【0058】
ポリ乳酸樹脂に表2に示す各無機担体を練り込んだ時の透明性をHAZE値で測定した。HAZE値はJIS K 7105法に準じた方法で測定した。結果を表2に示す。
【0059】
表2に示す各無機担体を170℃に設定された6インチチルドロールにて1.0mmの厚さになるシートを作製し、このシートをHAZE測定用サンプルとした。また、シート作製時にポリ乳酸樹脂をロールで練るときポリ乳酸樹脂がロールに粘着し厚みが均一なシートが出来ない為、各配合組成に同添加量の離型剤を加えた。なお、表中の「二酸化ケイ素」は純度95質量%の試薬品(製品名:カープレックス#80、塩野義製薬(株)製)を用いた。この「二酸化ケイ素」は湿式法で製造した含水無晶形二酸化ケイ素で、単粒子が20〜30nm程度の球形微粒子である。これらが二次、三次的にブドウ状に凝集し1つの粒子を形成していることから、比表面積、細孔容積が大きく、高給油性となっているものである。
【0060】
【表2】

なお、表2において混練の可否について「○」とは良好な混練状態が得られたことを示す。
【0061】
以上の試験から、表1に記載の無機担体は可塑剤を含浸することが確認できた。また、表2に示されるように、ポリ乳酸に無機担体を混練可能であることが示された。また、表2に示すように、二酸化ケイ素を添加した場合が最も透明性の点で優れていることが明らかになった。
【0062】
次に、表3に示すような使用原料1〜5の書く組成のポリ乳酸樹脂組成物を調製し、シート状に加工して、相溶化時間、ブリード性、HAZE(透明性)、機械強度についてそれぞれ測定した。
【0063】
各種生分解性樹脂への相溶性、HAZE測定用サンプルとして、表3に示す各可塑剤単体の場合と無機担体を含浸させた各可塑剤を、各々170℃に設定された6インチチルドロールにて1.0mmの厚さになるシートを作製した。また、シート作製時にポリ乳酸樹脂をロールで練るとき各種生分解性樹脂がロールに粘着し厚みが均一なシートが出来ない為、各配合組成に同添加量の離型剤を加えた。
【0064】
各種生分解性樹脂への相溶化時間確認試験を次のようにして実施した。まず、170℃に設定された6インチチルドロールにてポリ乳酸樹脂と各材料を投入する。混練加工を進め5分ごとに混合された樹脂のシートを取り出す。各種生分解性樹脂に各材料が均一に混合分散しているかを目視にて確認し、均一に分散混合できた時の時間を確認した。
【0065】
各種生分解性樹脂に各材料を練り込んだ時のブリード性を次のようにして確認した。80mm×80mm、厚さ0.5mmの試験片を調製した。試験片を温度80℃恒温槽中に浸漬し、48時間エージングを行い、試験片の重量変化及び試験片表面を目視確認した。表3中、目視確認評価結果は、「○:ブリードなし」、「×:ブリードあり」を示す。
【0066】
各種生分解性樹脂に各材料を練り込んだ時の透明性をHAZE値で測定した。HAZE値はJIS K 7105法に準じた方法で測定した。
【0067】
ポリ乳酸樹脂に各材料を練り込んだ時の各機械的強度は次のようにして測定した。引張強度測定用試験片を180℃に設定された射出成型機に各材料をポリ乳酸樹脂に混合し、成型した。作製した試験片を引張強度試験の測定はASTM D638に従って測定し、伸び率(%)および引張弾性率(MPa)について結果を得た。
【0068】
【表3−1】

【0069】
【表3−2】

【0070】
表3に示すように、二酸化ケイ素を配合することにより相溶化時間が短縮した。すなわち、二酸化ケイ素を配合することにより、樹脂、可塑剤等の成分が均一に混練しやすくなった。また、二酸化ケイ素を配合した場合、透明性にも優れる。さらに、伸び率、引っ張り強度の点でもシート加工に十分耐える数値を示し、柔軟性および加工性に優れた生分解性樹脂組成物とすることができることが明らかとなった。
【0071】
天然系可塑剤と二酸化ケイ素との組み合わせのほうが、脂肪酸系可塑剤よりもブリード性が高く、例えばこの組み合わせでポリ乳酸樹脂に添加し、ペレットやシートを作ると短期間で表面がべたつく問題が生じる。但し、天然系可塑剤と二酸化ケイ素との組み合わせで天然系可塑剤の添加量を少なくする等の対応で十分に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は生分解性樹脂およびその応用分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素と可塑剤と生分解性樹脂とを含む生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
前記生分解性樹脂がポリ乳酸である請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
前記可塑剤が脂肪酸系可塑剤である請求項1または2に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
二酸化ケイ素100重量部に対して可塑剤を20〜200重量部含有する、請求項1から3の何れか一項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の生分解性樹脂組成物で形成された生分解性成形体。
【請求項6】
シート状に成形された請求項5に記載の生分解性成形体。
【請求項7】
容器に成形された請求項5に記載の生分解性成形体。
【請求項8】
二酸化ケイ素と可塑剤とを含む生分解性樹脂用分散性可塑剤。
【請求項9】
二酸化ケイ素を含む生分解性樹脂用可塑剤分散剤。

【公開番号】特開2006−28219(P2006−28219A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204813(P2004−204813)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(502332991)富士ケミカル株式会社 (20)
【Fターム(参考)】