説明

生分解性積層不織布からなる食品用フィルター

【課題】粉漏れ性、ヒートシール強度、透明性、機械的強度等に優れる食品用フィルターの提供。
【解決手段】ポリ乳酸系重合体の長繊維及び極細繊維から構成された生分解性の積層不織布からなる食品用フィルターであって、該積層不織布は、繊径10〜20μm、目付10〜40g/mの長繊維不織布と、繊径1〜10μm、目付1〜10g/mの極細繊維不織布の少なくとも2種類の不織布が熱圧着により一体化されており、該積層不織布の厚みは0.02〜0.50mm、通気度は100〜300cc/cm2/sec、そしてヒートシール強度は4N/25mm以上であることを特徴とする前記食品用フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に飲料用の抽出、出し汁用の抽出に用いられ、生分解性を有し、粉漏れが少なく、且つ、機械的強度とヒートシール性、透明性、成分抽出性に優れた生分解性積層不織布からなる食品用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、包装材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等の樹脂からなる不織布が使用されているが、これらの樹脂からなる不織布は自己分解性がなく、自然環境下で極めて安定である。そのため、使用済みの包装材料等は、焼却炉での焼却や埋立処理がなされているが、近年、環境保護の観点から、リサイクル及び温室効果ガス抑制等を目的として、使用済包装材料に関して環境に優しい有効利用の方法や廃棄方法の早期開発が望まれている。
また、ティーバッグ用途等に使用されている包装材料として紙が用いられていることが多いが、紙は透明性が悪く、包装材料の中身が見えないこと、ヒートシール加工ができない等の問題もある。
【0003】
以下の特許文献1には、短繊維が熱溶着された生分解性不織布を用いた飲料用フィルターバッグが開示されているが、該フィルターバッグはヒートシール性、抽出性等に優れている反面、微細な粒子、粉末等の粉漏れが発生すること、繊維が脱落し易いこと等の問題がある。
【0004】
以下の特許文献2には、短繊維ウェブと長繊維ウェブが高圧液体流処理により積層された剥離強力に優れる不織布が開示されているが、機械的交絡を施した不織布をフィルター材料として用いた場合、不織布の繊維は交絡されているが、繊維表面は抑えられていないために毛羽立ち易いという問題がある。また、交絡による厚みを有し、薄いシートとして用いた場合、見た目も悪くなり、高目付化が必要となる。
【0005】
以下の特許文献3には、予め作製したスパンボンド不織布の上面にメルトブロー紡糸で直接に極細繊維のウェブを捕集形成した積層シートに部分熱圧着を施すことにより積層不織布を得る方法が記載されている。しかしながら、この積層方法では、長繊維層の構造が予め固定されたものであるので、メルトブロー極細繊維を長繊維層内部に実質的に侵入させてアンカー効果を発揮することができないため、極細繊維による熱圧着性改善に因る機械的強度の向上効果は得られず、また、層間剥離がし易いという問題がある。
【0006】
以下の特許文献4には、スパンボンド不織布とメルトブロー不織布とをインラインで積層させ、風合いと機械的強度に優れた不織布を得る方法が開示されているが、この積層不織布では表層にスパンボンド層を配置した構成となっており、フィルター材料として用いた場合、十分なヒートシール性が得られないという問題がある。
以上のように、粉漏れ性やヒートシール性、透明性、成分抽出性に関して総合的に満足することができる生分解性積層不織布からなる食品用フィルターは未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−177148号公報
【特許文献2】特開2000−199163号公報
【特許文献3】特開2004−270081号公報
【特許文献4】特開2005−48350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、コンポスト処理や埋立処理により最終的には炭酸ガスと水に戻すことができる生分解性を有する繊維から構成される不織布からなり、粉末状物や細かい粒子状物等においても粉漏れがしにくく、且つ、袋体にする時にヒートシールが可能である機械的強度や成分抽出性に優れる食品用フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、ポリ乳酸系重合体からなる長繊維不織布層と低結晶性成分の極細繊維不織布層の積層不織布を用いることにより、粉漏れ性、ヒートシール性、透明性、機械的強度等に優れた食品用フィルターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
【0010】
[1]ポリ乳酸系重合体の長繊維及び極細繊維から構成された生分解性の積層不織布からなる食品用フィルターであって、該積層不織布は、繊径10〜20μm、目付10〜40g/mの長繊維不織布と、繊径1〜10μm、目付1〜10g/mの極細繊維不織布の少なくとも2種類の不織布が熱圧着により一体化されており、該積層不織布の厚みは0.02〜0.50mm、通気度は100〜300cc/cm2/sec、そしてヒートシール強度は4N/25mm以上であることを特徴とする前記食品用フィルター。
【0011】
[2]前記ポリ乳酸系重合体は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、及びL−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、又は該記重合体の2種類以上のブレンド体である、前記[1]に記載の食品用フィルター。
【0012】
[3]前記積層不織布は、フラットロールにより略全面に熱圧着が施され、かつ、毛羽等級が2.5級以上である、前記[1]又は[2]に記載の食品用フィルター。
【0013】
[4]前記積層不織布の粉漏れ率は10wt%以下、沸水収縮率は5%以下、そして透明性は50%以上である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の食品用フィルター。
【0014】
[5]前記積層不織布のMD方向とCD方向の100g/m目付に換算した時の引張強度の和が250N/50mm以上である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の食品用フィルター。
【0015】
[6]前記積層不織布を構成する極細繊維の含有量は5〜30wt%であり、かつ、該極細繊維の結晶化度は10〜30%である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の食品用フィルター。
【0016】
[7]前記積層不織布の長繊維は、紡糸速度3000〜8000m/minで牽引された繊維から構成され、かつ、結晶化度は30〜60%である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の食品用フィルター。
【0017】
[8]前記積層不織布の長繊維は、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルを0.5〜10wt%の添加率でブレンドされているポリ乳酸系重合体からなる、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の食品用フィルター。
【0018】
[9]前記熱可塑性脂肪族ポリエステルは、ポリブチレンサクシネートである、前記[8]に記載の食品用フィルター。
【0019】
[10]以下の工程:
ポリ乳酸系重合体の長繊維をスパンボンド法でコンベア上に紡糸して、長繊維層を形成する工程、
該長繊維層の上にポリ乳酸系重合体の極細繊維をメルトブロー法で吹き付けてインラインで積層して、極細繊維層を形成する工程、その後
前記長繊維層側の下ロールの熱圧着温度を前記長繊維の融点より20〜80℃低い温度に、かつ、前記極細繊維層側の上ロールの熱圧着温度を前記極細繊維のガラス転移温度以下に設定したエンボスロール又はフラットロールを用いた熱圧着により、前記長繊維層と前記極細繊維層を一体化する工程、
を含む、前記[1]〜[9]のいずれかに記載の食品用フィルターの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の生分解性積層不織布からなる食品用フィルターは、例えば長繊維不織布層と極細繊維不織布層とをインラインで積層し、フラットロールで全面的に熱圧着することで、比較的太い長繊維層の間隙に極細繊維が被膜及び混合繊維化されるように重なり、構成繊維間隙及び最大開孔径が極めて小さい積層不織布となるため、細かい粒子の漏れを防ぐことができる。さらに、長繊維不織布層間に低結晶性成分の極細繊維を介在させることで熱圧着が良好に行われ、層間の接合がより強固になるために不織布の剛性が高まり、安定した機械的強度やヒートシール強度が得られる。従って、本発明の生分解性積層不織布からなる食品用フィルターは、粉漏れが少なく、機械的強度やヒートシール性、成分抽出性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるポリ乳酸系重合体としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれるいずれかの重合体、又は該重合体の2種類以上のブレンド体が挙げられる。ポリ乳酸系重合体としては、融点が100℃以上である重合体を好適に使用できる。
【0022】
上記ポリ乳酸系重合体の成分として用いられるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中では、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0023】
前記ポリ乳酸系重合体のMFRは、スパンボンド法の場合、20〜120g/10minが好ましく、より好ましくは30〜70g/10minである。MFRが20g/10min未満であると、溶融粘性が高すぎるために紡糸工程における繊維の細化、配向結晶化の点から好ましくなく、一方、MFRが120g/10minを超えると溶融粘性が低すぎるため、紡糸工程における単糸切れ、単糸強度の点から好ましくない。また、メルトブロー法の場合、MFRは40〜400g/10minが好ましく、より好ましくは80〜200g/10minである。MFRが40g/10min未満であると、溶融粘性が高すぎるために10μm以下の極細繊維を安定して得ることが困難であり、紡糸工程における熱結晶化、熱圧着時のロール取られ等の点から好ましくなく、一方、MFRが400g/10minを超えると溶融粘性が低すぎるため紡糸工程において繊径の細い繊維しか得られず、繊径のコントロールができなくなる。
【0024】
本発明に用いるポリ乳酸系重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で他の慣用の各種添加成分、例えば、各種エラストマー類などの衝撃性改良剤、結晶核剤、着色防止剤、酸化防止剤、耐熱剤、可塑剤、滑剤、耐候剤、着色剤、顔料等の添加剤を添加してもよい。
【0025】
ポリ乳酸系重合体には、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルが0.5〜10wt%の添加率でブレンドされることができる。
生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンテレフタレート・アジペート、ポリカプロラクトン等を挙げることができる。これらの中でも特にポリブチレンサクシネートが好ましい。また、主体となるポリ乳酸系重合体よりも5〜20%光学純度が異なるポリ乳酸系重合体も挙げられる。ポリ乳酸系重合体は、光学純度が低くなると結晶性や融点が降下するため、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルの添加により、熱圧着性を改善する効果が得られる。
【0026】
熱可塑性脂肪族ポリエステルのMFRは、100g/10min以下が好ましく、より好ましくは20〜80g/10minであり、さらに好ましくは30〜70g/10minである。また、ポリ乳酸系重合体と熱可塑性脂肪族ポリエステルとの溶融流量比は、0.2〜1.5であり、好ましくは0.3〜1.4である。すなわち、0.2≦[熱可塑性脂肪族ポリエステルの溶融流量/ポリ乳酸系重合体の溶融流量]≦1.5である。溶融流量比がこの範囲内であると海島型複合繊維の紡糸性が良好であり、且つ、熱可塑性脂肪族ポリエステルの繊維中での分散性が良好となるために安定した熱圧着性が得られ、ヒートシール性、機械的強度に優れた不織布が得られる。
【0027】
本発明でいう海島型構造とは、ポリ乳酸系重合体が海部を、熱可塑性脂肪族ポリエステルが島部を形成し、ポリマーブレンド繊維断面において真円、楕円状等に島部が微分散している構造をいい、通常、繊維軸方向では不連続に小さな島部が微分散していると推定されるものであり、好ましくは繊維断面において内側よりも繊維外周側に多くの島部が微分散しており、一部が繊維表面に露出している構造をいう。これらブレンド樹脂の延伸時に島部の熱可塑性脂肪族ポリエステルが、海部を形成するポリ乳酸系重合体の延伸、配向結晶化を阻害するものと推定される。それゆえ、ポリ乳酸系重合体が、低結晶性のまま延伸を終了し、熱接着性が改善された繊維が得られる。また、本発明の積層不織布は、低融点・低結晶性成分を含有した海島型ブレンド長繊維ウェブを熱圧着で一体化した構造を有しているために繊維間の接合が強固であり、剛性が高められて高い機械的強度とヒートシール強度が得られ、また、低融点・低結晶性成分を不連続に有する構造にすることで熱圧着時の「ロール取られ」が起こりにくく、且つ、寸法安定性に優れる等の特徴が得られる。
【0028】
本発明においては、ポリ乳酸系重合体に対する熱可塑性脂肪族ポリエステルの添加率は、紡糸性や熱圧着性改善による不織布の機械的強度向上の点から0.5〜10.0wt%が好ましく、より好ましくは1.0〜5.0wt%である。添加率が0.5wt%未満であると熱圧着性、高剛性化の点から好ましくなく、一方、添加量が10.0wt%を超えると紡糸中に糸切れが多発し、安定して連続した繊維が得られず、生産性が低下する。
【0029】
本発明に係る長繊維の形成は、常用の紡糸口金を用いて溶融紡糸で行うことができる。ポリ乳酸系重合体と熱可塑性脂肪族ポリエステルをブレンドさせるには、ポリ乳酸系重合体にマスターバッチ化する方法、ドライブレンドにより混合する方法等が挙げられるが、コスト面からドライブレンド法を採用することが好ましい。
【0030】
本発明に係る長繊維は、スパンボンド法により効率よく製造することができる。すなわち、前記のポリ乳酸系重合体を加熱溶融して紡糸口金から吐出させ、得られた紡出糸条を公知の冷却装置を用いて冷却し、エアサッカー等の吸引装置にて牽引細化する。引き続き、吸引装置から排出された糸条群を開繊させた後、コンベア上に堆積させてウェブとする。スパンボンド法で得られる不織布は、布強度が強く、ボンディング部の破損等による短繊維の脱落が無い等の物性上の特徴を有しており、また、低コストで生産性が高いため、衛生、土木、建築、農業・園芸、生活資材を中心に広範な用途で使用されている。
【0031】
本発明に係る長繊維の繊径は、10〜20μmであり、好ましくは10〜15μmである。繊径が10μm未満であると紡糸時におけるエジェクターの張力に繊維が十分に耐えることができず、繊維の一部が切れる場合があり、一方、繊径が20μm以下であれば不織布化し、食品用フィルターとして用いる際、粉漏れ量が少なく、フィルター材として適している。
【0032】
本発明に係る長繊維を製造する際の紡糸速度は、3000〜8000m/minが好ましく、より好ましくは4000〜7000m/minである。紡出糸条を牽引細化する際の牽引速度が上記の範囲内であると、ポリ乳酸系重合体の配向結晶化が十分で、機械的特性に優れ、沸水収縮率の小さい長繊維不織布が得られ、また、紡糸性が良好で糸切れがほとんど生じない。紡糸速度が3000m/min未満では、機械的特性、さらには生産性の点から好ましくない。
【0033】
本発明に係る長繊維の複屈折率Δnは、0.010〜0.025が好ましく、より好ましくは、0.015〜0.025である。複屈折率がこの範囲内であると、繊維の配向結晶性が適度で、高強度な繊維が得られる。
本発明に係る長繊維の結晶化度は、30〜60%が好ましく、より好ましくは40〜60%である。結晶化度がこの範囲内であると耐熱性や機械的強度に優れた繊維が得られる。
【0034】
本発明に係る極細繊維は、前記のポリ乳酸系重合体を加熱溶融し、メルトブローノズルを経て、メルトブロー紡糸法により噴射し、コンベア上に堆積させて得ることができる。また、極細繊維の捕集性及び品位、長繊維不織布層へのアンカー効果を発現させるためにメルトブローノズルからコンベアまでの噴射距離が50〜100mmであることが好ましい。
【0035】
本発明に係る極細繊維の繊径は、1〜10μmであり、好ましくは2〜6μmである。極細繊維は、繊維間隙及び最大開孔径を小さくし、粉漏れ量を少なくする役目を有する。特に、大きな繊維間隙に極細繊維が被覆するように積層されることにより、少ない極細繊維比率で繊維間隙を小さくすることができる。一方で繊維径が大きすぎると繊維間隙の被覆効果が低下する。
【0036】
本発明に係る極細繊維の結晶化度は10〜30%が好ましく、より好ましくは10〜20%である。結晶化度が30%を超えるとヒートシール性や層間の剥離強度の点から好ましくなく、一方、結晶化度が10%未満であると生産時に極細繊維がロールに取られ易く、生産性の点から好ましくない。
【0037】
本発明に係る積層不織布は、長繊維不織布層に低結晶性の極細繊維の不織布層を積層し、インラインで熱圧着により一体化した構造を有する。特に本発明では、長繊維不織布層間に極細繊維を介在させる積層構造とすることで、第一に、長繊維不織布層の比較的大きな繊維間隙層に極細繊維が被膜及び混合繊維化して積層しているために繊維間隙を小さくすることができ、第二に、低結晶性の極細繊維が長繊維不織布層間に介在しているために熱圧着により層間の接合が強固になり、剛性や層間の剥離強度、機械的強度を高くすることができ、第三に、極細繊維である低結晶性成分を表層に有する積層構造にすることで高いヒートシール強度が得られる。
【0038】
本発明に係る積層不織布の製造においては、高い機械的強度、ヒートシール強度、剛性等を得るために、長繊維不織布とメルトブロー極細繊維不織布をインラインで一対の金属フラットロールや5〜40%の熱圧着面積率の凹凸表面構造を有するエンボスロールとフラットロールからなる一対の加熱ロールを用いることができる。一対の金属フラットロールにより全面的に均一な熱圧着を行うことが好ましい。なぜなら、ポリ乳酸系重合体は、熱圧着が効きにくく、そのために単糸物性が不織布物性に反映されないという問題があるため、部分的な熱圧着を行うよりも全面的な熱圧着を行うことにより高い剛性や機械的強度、ヒートシール強度が得られるからである。また、インラインで一段プレスによる積層方式が好ましい。なぜなら、該方法では、極細繊維を長繊維不織布層間に介在させ易いために長繊維がより強固に固定され、且つ、生産性に優れているからである。
【0039】
本発明に係る積層不織布の熱圧着温度は、供給されるウェブの目付、速度等の条件によって適宜選択されるべきものであり、一概には定められないが、長繊維不織布側の下ロールの熱圧着温度は、ポリ乳酸系重合体の融点より20〜80℃低い温度であることが好ましく、メルトブロー極細繊維不織布側の上ロールの熱圧着温度は、ポリ乳酸系重合体のガラス転移温度(65℃)以下であることが好ましい。前記したように、長繊維の結晶化度は30〜60%であるのに対しメルトブロー極細繊維の結晶化度は10〜30%であり、結晶化度が低いと「ロール取られ」や「ロール汚れ」の要因となり易いため、メルトブロー極細繊維不織布側の熱圧着温度は、ポリ乳酸系重合体のガラス転移温度以下であることが好ましい。極細繊維層は、メルトブロー紡糸工程で噴出距離を50〜100mmとすることで繊維同士が自己融着をしており、高温での熱圧着が不要となっている。一方、長繊維不織布側の下ロールの熱圧着温度がポリ乳酸系重合体の融点より20℃未満低い温度であると、「ロール取られ」や「ロール汚れ」が発生し、安定した生産ができなくなる。また、ポリ乳酸系重合体の融点より80℃以上低い温度であると、繊維の熱圧着が不十分となり、毛羽立ちが多く、機械的強度の点から好ましくない。不織布の毛羽等級としては好ましくは2.5級以上であり、より好ましくは3級以上である。
【0040】
本発明に係る積層不織布の粉漏れ率は、10wt%以下であり、好ましくは7.5wt%以下、より好ましくは5.0wt%以下である。粉漏れ率が10wt%以下であると遮蔽性、保持性に優れる。粉漏れ率が10wt%を超えると食品用フィルターとして用いた際、粉漏れ性の点から好ましくない。
【0041】
本発明に係る積層不織布の沸水収縮率は、5%以下であり、好ましくは3%以下である。沸水収縮率が5%以下であると、熱成型加工等での収縮がほとんど無く、工程安定性に優れ、また、100℃近い高温環境下にさらされるような使用形態でも、形態保持性に優れる。
【0042】
本発明に係る積層不織布のヒートシール強度は、4N/25mm以上であり、好ましくは6N/25mm以上である。ヒートシール強度が4N/25mm以上であるとシール部分の剥離がなく、内容物が外部に漏れる等の問題が生じることがない。
【0043】
本発明に係る積層不織布の透明性は、50%以上であり、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上である。透明性が50%以上であれば、不織布を通じて中身の状態を確認することが可能で、内容物を鮮明に見ることができる。
【0044】
本発明に係る長繊維不織布層の目付は、10〜40g/mであり、好ましくは10〜30g/mであり、より好ましくは10〜20/mである。長繊維量が10g/m未満では、引張強度や剛性の点から好ましくなく、一方、40g/mを超えると高い引張強度や剛性が得られるが、透明性や成分抽出性の点から好ましくない。
【0045】
また、本発明に係る極細繊維層の目付は、1〜10g/mであり、好ましくは2〜8g/mであり、より好ましくは2〜6g/mである。極細繊維量が1g/m未満では、極細繊維による繊維間隙の被覆性やヒートシール強度の点から好ましくなく、一方、10g/mを超えると高いヒートシール強度が得られるが、透明性の点から好ましくない。積層不織布全体に対する極細繊維の含有量は、好ましくは5〜30wt%であり、より好ましくは10〜25wt%である。
【0046】
本発明に係る積層不織布の総目付は、12〜50g/mが好ましく、より好ましくは12〜30g/mであり、さらに好ましくは12〜20g/mである。目付が12g/m未満では、透明性は良いが、繊維間隙が大きく、粉漏れし易くなる傾向にあり、一方、50g/mを超えると、粉漏れ性は少なくなるが、透明性の点から好ましくない。本発明に係る積層不織布の厚みは、0.02〜0.50mmであり、好ましくは0.03〜0.30mmである。目付と厚みがこの範囲にあると食品用フィルターとして使用する際に優れた透明性、粉漏れ性、剛性、成分抽出性が得られる。
【0047】
本発明に係る積層不織布の平均見掛け密度は、0.05〜0.50g/cmが好ましく、より好ましくは0.15〜0.45g/cmであり、さらに好ましくは0.25〜0.40g/cmであ。平均見掛け密度は、不織布の剛性、粉漏れ性及び成分抽出性に関係し、この範囲であれば、本発明の目的とする食品用フィルターとしての袋形状への加工性、及び粉漏れ性に優れる。平均見掛け密度が0.05g/cm未満では、繊維間隙が大きくなるために粉漏れが大きく、不織布の剛性が不足し、一方、平均見掛け密度が0.50g/cmを超えると繊維間隙が小さくなり、粉漏れ性は良くなるが、成分抽出性が悪くなり、食品用フィルターとしての要求性能を達成できない。
【0048】
本発明に係る積層不織布の通気度は、100〜300cc/cm2/secであり、好ましくは100〜250cc/cm2/secである。通気度がこの範囲内であると食品用フィルターとして要求される成分抽出性に優れる。
【0049】
本発明に係る積層不織布の引張強度は、MD方向とCD方向の100g/m目付に換算した時の引張強度の和が250N/50mm以上であることが好ましく、より好ましくは300N/50mm以上であり、さらに好ましくは320N/50mm以上である。引張強度がこの範囲以上であると製袋加工時の生産安定性や食品用フィルターとしての使用時に破れ防止等に優れる。
【0050】
本発明に係る積層不織布には、本発明の作用効果が発揮される範囲で、常用の後加工、例えば、消臭剤、抗菌剤、防ダニ剤等の付与をしてもよいし、染色、撥水加工、透水加工、透湿防水加工等を施してもよい。
【0051】
本発明に係る積層不織布は、透明性に優れているために中身が鮮明に見え、且つ、粉漏れ性に優れているために緑茶、紅茶、コーヒー等の食品用フィルターとして非常に適した特性を有している。食品用フィルターとしては、平袋でもよいが、立体形状であると、中身が一層良く見え、抽出が効果的に行われるので好ましい。立体形状としては、四面体形状、三角錐立体形状等が好ましい。
【0052】
立体形状の食品用フィルターは、被抽出物を充填し封入した後、袋詰めされて販売されるが、購入した消費者が袋から取り出して使用する時には、速やかに元の立体形状に戻ることが要求される。本発明の積層不織布は、コシがあり、適度な剛性を有しているため、このような形状回復性に優れている。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されることを意図されない。
まず、測定方法、評価方法等を説明する。
(1)目付(g/m):JIS L−1906に準拠し、縦20cm×横25cmの試験片を試料の幅1m当たり3箇所採取して質量を測定し、その平均値を単位面積当たりの質量に換算して求めた。
(2)厚み:JIS L−1906に規定の方法で荷重100g/cmの厚みを測定した。
(3)平均見掛け密度(g/cm):JIS L−1906に規定の方法で測定した目付と厚みから、以下の式により単位体積当たりの質量を求め、試料の幅1m当たり3箇所の平均で求めた。
平均見掛け密度(g/cm)=(目付 g/m)/((厚み mm)×1000)
【0054】
(4)繊径(μm):1cm角の試験片をサンプリングして電子顕微鏡で写真を撮影し、各写真より単糸繊維径を各20点ずつ測定し、その総平均値から繊径を算出した。
(5)MFR(g/10min):メルトインデクサー(東洋精機社製:MELT INDEXER S−101)溶融流量装置を用い、JIS K−7210に準じてオリフィス径2.095mm、オリフィス長0.8mm、荷重2.16kg、測定温度230℃の条件で一定体積分を吐出するのに要する時間から10分間当たりの溶融ポリマーの吐出量(g)を算出して、求めた。
【0055】
(6)沸水収縮率(%):JIS L−1906に準拠し、縦25cm×横25cmの試験片を試料の幅1m当たり3箇所採取し、沸騰水中に3分間浸漬して自然乾燥後にMD方向及びCD方向の収縮率を求めた。それぞれの平均値を算出し、MD方向とCD方向のいずれか大きい方の収縮率をその不織布の沸水収縮率とした。
【0056】
(7)透明性(%):マクベス分光光度計(CE-7000A型:サカタインク社製)で反射率(L値)を測定し、標準白板のL値(Lw0)と標準黒板のL値(Lb0)の差を求めて基準とし、試料を白板上に置いたL値(Lw)と同様に黒板状に置いたL値(Lb)から、以下の式により透明性を求めた。
透明性(%)={(Lw−Lb)/(Lw0−Lb0)}×100
【0057】
(8)熱圧着面積率(%):1cm角の試験片をサンプリングして電子顕微鏡で写真撮影し、その各写真より熱圧着部の面積を測定し、その平均値を熱圧着部の面積とした。また、熱圧着部のパターンのピッチをMD方向及びCD方向において測定し、これらの値により、不織布の単位面積当たりに占める熱圧着面積の比率を熱圧着面積率として算出した。
(9)通気度(cc/cm2/sec):JIS L−1906フラジュール法に準拠して測定した。
【0058】
(10)粉漏れ率(wt%):JIS Z−8901試験用粉末7種ダストを約2g秤取し、その重量W1(g)を測定して不織布の上に乗せ、振動機で5分間振動させた後、不織布を通過したダスト重量W2(g)を測定し、下記式により求めた。
粉漏れ率(wt%)=(W2/W1)×100
(11)引張強度(N/50mm):島津製作所社製オートグラフAGS−5G型を用いて、50mm幅の試料を把握長100mm、引張速度300mm/minで伸長し、得られた破断時の荷重を強度とし、不織布のMD、CD方向についてそれぞれ5回ずつ測定を行い、その平均値を求めた。
【0059】
(12)ヒートシール強度(N/25mm):島津製作所社製オートグラフAGS−5G型を用いて25mm幅の試料のヒートシール部分を約50mm上下方向に剥離して取り付け、把握長50mm、引張速度100mm/minで伸長し、得られる破断時の荷重を強度とし、不織布のMD方向について5回測定を行い、その平均値を求めた。ヒートシール条件は、シール温度150℃、シール時間1秒、圧力0.5MPa、シール面積7mm×25mmであった。
【0060】
(13)複屈折率(Δn):OLYMPUS社製のBH2型偏光顕微鏡コンペンセーターを用いて、通常の干渉縞法によってレターデーションと繊維径より牽引直後の繊維の複屈折率を求めた。
(14)結晶化度(%):TAインスツルメント社製の示差走査熱量計DSC2920を用い、昇温速度を10℃/minで、30℃から200℃まで昇温して結晶化発熱量ΔHc、結晶融解熱量ΔHmを測定した。結晶化度(%)は、下記式により求めた。
結晶化度χc(%)=(△Hm−ΔHc)/93×100
ここで、93J/gはポリ乳酸の完全結晶の融解熱量である。
【0061】
(15)生分解性:不織布を土中に埋設し、6ケ月後に取り出して不織布の形態保持性、又は破断強度の保持率によって、以下の評価基準に従って、生分解性を評価した。
○:不織布の形態を保持していない、または、破断強度が初期値に対して50%以下に低下している。
×:破断強度が初期値に対して50%を超える。
【0062】
(16)毛羽等級:MD、CD方向に25mm×300mmの試験片を採取し、日本学術振興会型堅牢度試験機を用いて、摩擦子の荷重が200g、摩擦子側には同布を使用し、50回動作をさせて、以下の基準に従って、耐毛羽性を等級付けた。
1.0級:試験片が破損するほど繊維が剥ぎ取られる。
2.0級;試験片が薄くなるほど甚だしく繊維が剥ぎ取られる。
2.5級:毛玉が大きくはっきりと見られ、複数箇所で繊維が浮き上がり始める。
3.0級:はっきりとした毛玉ができ始め、または小さな毛玉が複数見られる。
3.5級:繊維が3〜5本程度、もしくは数ヶ所に小さな毛玉ができ始める程度に毛羽
立っている。
4.0級:繊維が1〜2本程度、もしくは一ヶ所に小さな毛玉が出来始める程度に毛羽
立っている。
5.0級:毛羽立ちがない。
【0063】
次に、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
融点167℃、MFR44g/10minであるポリ乳酸系重合体をスパンボンド紡糸口金から紡糸温度230℃で溶融紡糸し、紡出糸条を冷却装置にて冷却した後、引き続きエアサッカーにて紡糸速度6000m/minで延伸細化し、繊径12μm、目付12g/mのウェブを捕集ネット上に作製した。次いで、融点165℃、MFR118g/10minであるポリ乳酸系重合体をメルトブロー噴出口金から紡糸温度240℃、熱風温度250℃で細化し、繊径3μm、目付4g/mの極細繊維ウェブをスパンボンドウェブ上に吐出して積層した。さらに一対の金属フラットロールを用い、スパンボンド不織布側の下ロール温度130℃、メルトブロー不織布側の上ロール温度55℃で熱圧着処理を行い、生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
【0064】
[実施例2]
実施例1においてスパンボンド長繊維繊径を15μmにしたこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
【0065】
[実施例3]
実施例1においてスパンボンド紡糸用のポリ乳酸系重合体にポリブチレンサクシネートを添加量が3.0wt%となるようにドライブレンドにて混合したこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
【0066】
[実施例4]
実施例1において極細繊維径を6μmにしたこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
【0067】
[実施例5]
実施例1において14.4%の熱圧着面積率のエンボスロールとフラットロールからなる一対の加熱ロールを用いて熱圧着処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
【0068】
[実施例6]
実施例1においてスパンボンド長繊維ウェブの目付を24g/mに、極細繊維の繊維径を6μmにし、ウェブの目付を6g/mにした以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。
【0069】
[比較例1]
融点167℃、MFR44g/10minであるポリ乳酸系重合体をスパンボンド紡糸口金から紡糸温度230℃で溶融紡糸し、紡出糸条を冷却装置にて冷却した後、引き続きエアサッカーにて紡糸速度6000m/minで延伸細化してネット上に捕集し、連続的に一対の金属フラットロールを用いて熱圧着温度130℃で熱圧着処理を行い、繊径12μm、目付16g/mの生分解性スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。得られた不織布は、実施例1で得られた不織布に比べ、ヒートシール強度と粉漏れ性が大きく低下しており、フィルター性能に劣るものであった。
【0070】
[比較例2]
融点167℃、MFR44g/10minであるポリ乳酸系重合体をスパンボンド紡糸口金から紡糸温度230℃で溶融紡糸し、紡出糸条を冷却装置にて冷却した後、引き続きエアサッカーにて紡糸速度6000m/minで延伸細化し、ネット上に捕集、連続的に一対の金属フラットロールを用いて熱圧着温度130℃で熱圧着処理を行い、繊径12μm、目付12g/mの生分解性スパンボンド不織布を得た。次に融点165℃、MFR118g/10minであるポリ乳酸系重合体をメルトブロー噴出口金から紡糸温度240℃、熱風温度250℃で細化し、繊径3μm、目付4g/mの極細繊維ウェブをオフラインにてスパンボンドウェブ上に吐出して積層した。さらに一対の金属フラットロールを用い、ロール温度55℃で熱圧着処理を行い、生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。オフラインで極細繊維ウェブが積層されたため、極細繊維のアンカー効果が低く、熱圧着性の改善効果が得られなかった。そのため、引張強度が低く、層間剥離し易いものとなった。
【0071】
[比較例3]
実施例1において融点167℃、MFR44g/10minであるポリ乳酸系重合体を用いてメルトブロー紡糸で結晶化度が9.2%の極細繊維ウェブを得たこと以外は、実施例1と同様にして積層不織布を得ようとしたが、極細繊維ウェブの結晶性が低いために「ロール取られ」が発生し、熱圧着不可の状態であった。
【0072】
[比較例4]
実施例1においてポリブチレンサクシネートを添加率が15wt%となるようにスパンボンド紡糸用のポリ乳酸系重合体にブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にしてスパンボンドウェブを得ようとしたが、糸切れの多発と紡口付近での糸曲がりが発生し、紡糸不可の状態であり、連続した糸を得ることができなかった。
【0073】
[比較例5]
実施例1においてスパンボンド長繊維繊径を24μmにしたこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。長繊維の紡糸速度が低いために沸水収縮率が高く、また、繊径が大きいために粉漏れ性が高くなり、フィルター性能に劣るものであった。
【0074】
[比較例6]
実施例1において極細繊維径を0.5μmにしたこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。極細繊維の繊維径が小さすぎるため通気度が低くなり、フィルターとして抽出性の悪いものとなった。
【0075】
[比較例7]
実施例1において3%の熱圧着面積率のエンボスロールとフラットロールからなる一対の加熱ロールを用いて熱圧着処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。熱圧着面積率が低く、ウェブの熱圧着が不完全であるためにヒートシール強度と引張強度が不良であり、粉漏れ性が高くなり、フィルター性能に劣るものであった。
【0076】
[比較例8]
実施例1においてスパンボンド長繊維ウェブの目付を50g/mに、極細繊維の繊維径を6μmにし、ウェブの目付を10g/mにした以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得た。得られた不織布の物性を以下の表1に示す。高目付であるために透明性が低く、通気度が低いためにフィルターとして抽出性の悪いものとなった。
【0077】
[比較例9]
実施例1において極細繊維径を12μmにしたこと以外は実施例1と同様にして生分解性積層不織布を得ようとしたが、極細繊維ウェブの結晶化度が8.8%と低かったために「ロール取られ」が発生し、熱圧着不可の状態であった。
【0078】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る生分解性積層不織布は、粉漏れ性、ヒートシール強度、透明性、機械的強度等に優れることから土嚢袋、ベタガケシート、防草シート、植生シート、育苗ポット等の土木農業資材、ワイピングクロス、水切り袋、シーツ、ベッドカバー、発熱体包材、乾燥包材、食品用包材等の生活資材、マット,吸音材、天井材、シート内張布等の自動車内装材、空調用フィルター、ダスト捕集用フィルター材等の工業資材、使い捨ておむつ等の衛生材料等に好ましく用いられ、特に、緑茶、紅茶、コーヒー、出し汁等に用いられる食品用フィルターの分野に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体の長繊維及び極細繊維から構成された生分解性の積層不織布からなる食品用フィルターであって、該積層不織布は、繊径10〜20μm、目付10〜40g/mの長繊維不織布と、繊径1〜10μm、目付1〜10g/mの極細繊維不織布の少なくとも2種類の不織布が熱圧着により一体化されており、該積層不織布の厚みは0.02〜0.50mm、通気度は100〜300cc/cm2/sec、そしてヒートシール強度は4N/25mm以上であることを特徴とする前記食品用フィルター。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系重合体は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、及びL−乳酸とD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体からなる群から選ばれる重合体、又は該記重合体の2種類以上のブレンド体である、請求項1に記載の食品用フィルター。
【請求項3】
前記積層不織布は、フラットロールにより略全面に熱圧着が施され、かつ、毛羽等級が2.5級以上である、請求項1又は2に記載の食品用フィルター。
【請求項4】
前記積層不織布の粉漏れ率は10wt%以下、沸水収縮率は5%以下、そして透明性は50%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品用フィルター。
【請求項5】
前記積層不織布のMD方向とCD方向の100g/m目付に換算した時の引張強度の和が250N/50mm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の食品用フィルター。
【請求項6】
前記積層不織布を構成する極細繊維の含有量は5〜30wt%であり、かつ、該極細繊維の結晶化度は10〜30%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の食品用フィルター。
【請求項7】
前記積層不織布の長繊維は、紡糸速度3000〜8000m/minで牽引された繊維から構成され、かつ、結晶化度は30〜60%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の食品用フィルター。
【請求項8】
前記積層不織布の長繊維は、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルを0.5〜10wt%の添加率でブレンドされているポリ乳酸系重合体からなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の食品用フィルター。
【請求項9】
前記熱可塑性脂肪族ポリエステルは、ポリブチレンサクシネートである、請求項8に記載の食品用フィルター。
【請求項10】
以下の工程:
ポリ乳酸系重合体の長繊維をスパンボンド法でコンベア上に紡糸して、長繊維層を形成する工程、
該長繊維層の上にポリ乳酸系重合体の極細繊維をメルトブロー法で吹き付けてインラインで積層して、極細繊維層を形成する工程、その後
前記長繊維層側の下ロールの熱圧着温度を前記長繊維の融点より20〜80℃低い温度に、かつ、前記極細繊維層側の上ロールの熱圧着温度を前記極細繊維のガラス転移温度以下に設定したエンボスロール又はフラットロールを用いた熱圧着により、前記長繊維層と前記極細繊維層を一体化する工程、
を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の食品用フィルターの製造方法。

【公開番号】特開2011−157118(P2011−157118A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21134(P2010−21134)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】