説明

生分解性被記録材

【課題】 インクの吸収性が良く、各種インクでの印刷適性、熱転写記録方式、インクジェット記録方式等によるプリント適性、筆記性、スタンプ性等に優れ、かつ増え続ける廃棄問題にも寄与することができる生分解性に優れた被記録材を提供する。
【解決手段】 生分解性樹脂を含有し、少なくとも一方の面が多孔質記録面である被記録材であって、前記多孔質記録面が、(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とを含み、その質量比(B)/(A)が0.1〜5.0の範囲であり、多孔質記録面の平滑度が500sec以上、かつ多孔質記録面の平均孔径が0.01〜10μmであることを特徴とする被記録材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性被記録材に関し、各種インクでの印刷適性、熱転写記録方式、インクジェット記録方式等によるプリント適性、筆記性及びスタンプ適性等に優れ、少なくとも片面にインクの吸収性を改良させた記録層を有する、生分解性を有し、廃棄、焼却が容易な被記録材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷用紙又は情報記録用紙に使用される被記録材は、プラスチックフィルムが、強度、耐水性、及び平滑な表面を生かした滑らかな画像や、OHPなどの透明性が要求される用途で使われており、これらの被記録材の廃棄量は年々増加している。廃棄された被記録材は、その多くをプラスチック製品が占めており、特に半永久的に分解しないことから極めて処理困難な素材として問題になってきている。
また、被記録材は焼却処理を行なうことも可能であるが、プラスチック製品は燃焼カロリーが高く燃焼炉に負担がかかる一方、プラスチックの種類によっては、ダイオキシンの発生の原因となる可能性がある。
それらに伴い環境問題に対する意識の高まりから、生分解性を有する素材を利用した商品の開発が盛んに行われている。これら生分解性素材は最終的には微生物や酵素によって水と二酸化炭素に分解されるため、環境に与える負荷が大きく低減される。これらの生分解性素材のなかでも、とうもろこしや澱粉などの植物体由来のポリ乳酸樹脂が、ポリエチレン樹脂とほぼ同等な特性を持つものとして注目され、被記録材分野においても、基材や記録層に使用される樹脂として多くの検討がなされている。
【0003】
被記録材分野において生分解性素材を用いた例としては、「乳酸残基を70〜100モル%を含有し、L−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が5.0〜19.0の結晶性を有し融解熱が観測される生分解性ポリエステルから形成された良好な塗膜物性を有する生分解性コーティング」(例えば特許文献1参照)、「支持体がポリ乳酸フィルムであり、支持体の上に有機溶剤に可溶なポリ乳酸からなる受像層アンカーコート層とインク受容層とがこの順に形成されているインクジェット記録媒体」(例えば特許文献2参照)、「基材層として、ポリ乳酸と乳酸系ポリエステルとを含む融点120℃以上の結晶化された乳酸系ポリエステル組成物を用い、インク受理層としてポリ乳酸と乳酸系ポリエステルとを含む軟化点が40〜110℃の非晶性組成物を用い、それらを共押し出しすることによって得られる印刷フィルム」(例えば特許文献3参照)、「脂肪族ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物とを溶媒に溶解、混合し、溶媒を乾燥除去した後、加熱により硬化して得られる柔軟性、靱性、耐溶剤性などの物性を改良した生分解性の樹脂組成物(ポリ乳酸フィルムに塗布する)」(例えば特許文献4参照)などが提案されている。
【0004】
前記、特許文献1で用いられている基材は、ポリL−乳酸二軸延伸フィルム、また、特許文献3で用いられている基材は、ポリ乳酸と乳酸系ポリエステルとを含む融点120℃以上の結晶化された乳酸系ポリエステル組成物であり、基材として結晶性のポリ乳酸フィルムを使用している。特許文献2及び特許文献4についても基材はポリ乳酸を使用しているが、結晶性に関する明確な記載はない。しかしながら、特許文献2に「ポリ乳酸は通常,構造単位としてL−乳酸の連続ユニットを有しており、結晶性が高く、一般的な汎用性有機溶剤には不溶である。」([0008])と記載されているように、基材の要求特性をも含め基材としては、結晶性のポリ乳酸が使用される。
一方、記録層やインク受理層のバインダーには、汎用性有機溶剤に可溶な非晶性のポリ乳酸樹脂が用いられる。このように基材および記録層のいずれにも、ポリ乳酸系の樹脂が用いられているが、基材に用いられる結晶性のポリ乳酸は汎用性有機溶剤には不溶なため、記録層やインク受理層と基材間の密着性については必ずしも十分であるとはいえない。結晶性のポリ乳酸を溶解させるにはハロゲン系の有機溶剤を用いることが出来るが、ハロゲン系は環境に問題があり好ましくない。
但し、いずれの手法で形成された被記録材においても、印刷時におけるインクを選定する必要があり、上記のポリ乳酸系の樹脂は、特に一般のプロセスインク、大豆油インク、ノンVOCインク等でのインクの吸収性が低いため、印刷用紙としては不向きである。
一方、「ポリ乳酸のL体とD体の比率が90:10〜10:90である共重合体を、有機溶媒に溶解せしめた溶液を基材に塗工後、該有機溶媒に親和性を有し、ポリ乳酸系共重合体を溶解しない溶媒に浸漬した後、乾燥して得られる生分解性多孔質膜」(特許文献5参照)では、空隙率をコントロールすることにより、生分解性速度をコントロールできるとの提案がなされている([0013])。しかしながら、空隙率をどのようにコントロールすることで、その生分解性を高めることができるかについては、依然として未解決のままであった。
環境にやさしい生分解性に優れ、かつ一般のプロセスインク、大豆油インク、ノンVOCインクインク等を含めた各種インクでの印刷適性、熱転写記録方式、インクジェット記録方式等によるプリント適性、筆記性及びスタンプ適性等などの良好な被記録材を提供するためには、インクの吸収性の改良を図ることが望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−204378号公報
【特許文献2】特開平11−321072号公報
【特許文献3】特開2003−94586号公報
【特許文献4】特開平10−251368号公報
【特許文献5】特開2002−20530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生分解性の被記録材に関し、インクの吸収性が良く、各種インクでの印刷適性、熱転写記録方式、インクジェット記録方式等によるプリント適性、筆記性、スタンプ性等に優れ、かつ増え続ける廃棄問題にも寄与することができる生分解性に優れた被記録材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、生分解性樹脂を含有し、被記録材の記録面に特定範囲の平滑度かつ平均孔径を有する多孔質表面からなるものを用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の被記録材を提供するものである。
(1)生分解性樹脂を含有し、少なくとも一方の面が多孔質記録面である被記録材であって、前記多孔質記録面が、(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とを含み、その質量比(B)/(A)が0.1〜5.0の範囲であり、多孔質記録面の平滑度が500sec以上、かつ多孔質記録面の平均孔径が0.01〜10μmであることを特徴とする被記録材。
(2)(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とを含む単層構造である(1)の被記録材。
(3)生分解性樹脂を主たる樹脂成分とする基材の少なくとも一方の面に、(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とを含む多孔質記録面を有する層が形成された多層構造である(1)の被記録材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被記録材は、インクの吸収性を改良させ、一般のプロセスインク、大豆油インク、ノンVOCインク(溶剤として植物油のみを使用したインク)等を含めた各種インクでの印刷適性、熱転写記録方式、インクジェット記録方式等によるプリント適性、筆記性、スタンプ性等に優れ、加えて、生分解性を有し、廃棄、焼却が容易であるという格別の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられる被記録材は生分解性樹脂を含有するものである。この(A)生分解性樹脂には、乳酸系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネート、及びポリブチレンサクシーネート・カーボネート等のポリアルキレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸・ヒドロキシ吉草酸共重合体等が挙げられ、その一種又は二種以上を混合して用いることができる。
上記乳酸系ポリマーとしては、ポリ乳酸、または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマー等が挙げられる。なかでもポリ乳酸はトウモロコシ等の植物澱粉を乳酸発酵させたものであり、加水分解により乳酸までの分解が容易である為、生分解性に優れる。また、分子量の制御や他のモノマーとの共重合により、ゴム状柔軟素材から硬い材料まで自由に化学合成できる特徴を持つ。さらに、近年ポリ乳酸は、増産計画や低価格化により市場を拡大しつつあり、生産性、加工適性等にも優れたものである。このような種々の面から、使用する樹脂としては、ポリ乳酸樹脂が好ましい。
多孔質記録層には、接着性の向上その他の機能を付加するために、更に、生分解性樹脂以外の樹脂を、混合することもできる。この生分解性以外の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。但し、これらの樹脂と生分解性樹脂との合計量中の50質量%以上が生分解性樹脂であるのが好ましい。
【0011】
前記ポリ乳酸樹脂としては、質量平均分子量が通常1万〜100万、好ましくは10万〜30万である結晶性のポリ乳酸樹脂が好ましい。構成単位に乳酸構造を有するものであればいずれでもよく、たとえば乳酸の環状二量体であるL,Dラクチドを開環重合して得た樹脂あるいは、L−乳酸又はD−乳酸の重縮合反応によって得られた樹脂などが挙げられる。これらの樹脂をシート化したものが用いられ、また、熱安定性を増すために延伸処理したものが好適である。このようなポリ乳酸樹脂は多くの生物体内に存在する乳酸を原料としているため、微生物による分解性を有する。このため環境中に廃棄された場合、時間とともに自然界の微生物によって分解、資化され最終的には水と二酸化炭素に還元される。したがって、廃棄物による環境汚染の心配がない。
【0012】
また、本発明の被記録材は、生分解性樹脂を含有し、少なくとも一方の面に(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とからなる多孔質記録面を有するものである。(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とからなる単層構造であっても良いし、生分解性樹脂を主たる樹脂成分とする基材の少なくとも一方の面に(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とからなる多孔質記録層を有する層が形成された多層構造であっても良い。
この多層構造の場合の生分解性樹脂を主たる樹脂成分とする基材は、樹脂成分として生分解性樹脂又は生分解性樹脂と共に生分解性樹脂以外の樹脂を含むものであって、樹脂成分中の生分解性樹脂の割合が50質量%以上であるものを意味する。
なお、生分解性樹脂及び生分解性樹脂以外の樹脂としては、多孔質記録層に使用し得るものとして例示したものを使用することができる。
すなわち本発明の被記録材は、それ自体が多孔質記録面である単層構造でも、基材の片面又は両面に多孔質記録面を有する層を形成させた多層構造でもよい。また、本発明の被記録材は、カール防止等の目的で多孔質記録面を有する層を基材の両面に設けて多層構造としてもよいし、ひび割れ防止の目的等により基材の1つの面に多孔質記録面を有する層を二層以上設けてもよい。多層構造を形成する方法としては、例えば、必要な成分を溶媒に分散させたり溶解させた塗工液を塗工して乾燥させることなどによって層を形成するコーティング方法、接着剤を介して層同士を貼り合せる方法、複数の押し出し機から複数の原料を押し出し合流させて製膜するいわゆる共押出方法、フィルムの上に押出機から直接フィルムを押し出しながら貼り合わせて積層するいわゆる押し出しラミネート方法など、公知の方法の何れで形成したものも用いることができる。
多層構造の場合は、層間の密着性が良好であれば、印刷又はプリント時に於ける記録層の剥離を及ぼすことはなく、単層構造と同様に使用することが可能となる。
さらに、本発明の被記録材は多孔質記録面を有する層以外の層を設けてもよい。例えば、隠蔽性を向上させる目的で、適当な不透明度を有する層を設けてもよく、紫外線吸収層を設けてもよい。また、カール防止のための層を設けてもよい。これら多孔質記録面を有する層以外の層についても生分解性樹脂を用いることが好ましい。
【0013】
本発明の被記録材の総厚みは、単層構造及び多層構造のいずれの場合も、特に制限はないが、通常1〜1000μm程度であり、好ましくは10〜500μmである。
多層構造における多孔質記録面を有する層の厚さ(塗工の場合は乾燥後)は、0.1〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは1〜50μmの範囲である。0.1μm以上とすることによりインク吸収容量の不足によるにじみの発生がなく、100μm以下とすることにより多孔質記録面を有する層の強度が低下することがない。
【0014】
多層構造を形成する際のコーティング方法としては、リバースロールコート、エアナイフコート、グラビアコート、ブレードコート等の従来公知の種々の方法を用いることが可能である。多孔質記録面を有する層等との密着性や濡れ性を向上させるなどの目的で、所望により、基材の片面または両面に、酸化法や凹凸法などにより表面処理を施すことができる。
上記の酸化法としては、例えばコロナ放電処理、熱風処理、などが挙げられ、また、凹凸法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般にはコロナ放電処理法が効果および操作性などの面から好ましく用いられる。また、基材表面に易接着処理を施すこともできる。
【0015】
本発明の被記録材は、少なくとも一方の面の多孔質記録面の平滑度が500sec以上であり、800sec以上であることがより好ましい。平滑度を500sec以上とすることにより、光沢性が向上し、優れた美観が得られる。なお、この平滑度は後述のJIS規格により測定したものである。
一方、多孔質記録面の平均孔径は、0.01〜10μmであり、好ましくは0.1〜5μmである。平均孔径を0.01μm以上とすることにより、高いインクの吸収性が得られ、短時間で乾燥するので画像が流れてしまうことがない。また、平均孔径を10μm以下とすることにより、光沢度を高めることができ、かつ、インクが吸収されるよりも横方向への広がりが早くなりニジミが大きくなることがなくなり、強度不足による表層が脆くなる恐れがない。
また、生分解性に関しては、平均孔径を0.01μm以上とすることにより、分解を促進させるためにコンポストのような堆肥中かつ一定の環境下に置くことが不要となり、一般土壌での分解が容易となる。生分解性樹脂は、微生物の産出する分解酵素により表面から分解され、平均孔径が大きい程分解は促進される。更に微生物のサイズからすると、0.1〜5μmの平均孔径では定着しやすく、より分解速度も上がる。
【0016】
上記の多孔質記録面を形成する方法としては、特定範囲の平滑度及び平均孔径の得やすさから、湿式凝固法が有効である。
湿式凝固法とは、例えば生分解性樹脂を溶媒に溶解したもの、またはその溶液にフィラーを添加したものを、成形して単層構造とした後又は基材に塗工して多層構造とした後、前記溶媒との相溶性は有するが前記樹脂は溶解しない液中に通すことにより、前記樹脂を凝固させ、乾燥して多孔質塗工面を形成するものである。
湿式凝固法に用いられる溶媒の具体例としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。中でもジメチルホルムアミド(DMF)が好適に用いられる。また、DMFとの相溶性は有するが生分解性樹脂は溶解しない液体としては、水が最も好適に用いられる。常温の水中に通して凝固させた後、50〜100℃の熱水中に通し乾燥を行うと、表面の孔径を大きくすることができる。この方法は、表面の平均孔径をコントロールする場合に有効である。
【0017】
多層構造において基材に塗工(コーティング)する場合は、生分解性樹脂を主たる樹脂成分とする基材の少なくとも片面に塗布される生分解性樹脂は、非晶性のポリ乳酸樹脂であることが望ましい。なかでも質量平均分子量が、10000以上、軟化点が40〜110℃程度である非晶性のポリ乳酸樹脂が好ましい。この非晶性のポリ乳酸樹脂としては、D−乳酸とL−乳酸との共重合体を用いることができる。上記D−乳酸とL−乳酸との共重合割合については、得られるポリ乳酸樹脂が、所望の分子量及び軟化点を有し、非晶性であればよく、特に制限はない。
なお、L−乳酸は通常の乳酸発酵によって安価に得られるが、D−乳酸は高価である。一方、化学合成で得られる乳酸はD−乳酸とL−乳酸のラセミ混合物であるため、非晶性のポリ乳酸樹脂を合成する原料にこのラセミ混合物を加えて製造することにより安価にD,L−乳酸構造をもつ非晶性のポリ乳酸を合成することができる。また、先に述べた乳酸の環状二量体であるD,L−ラクチドを経由して開環重合させても、上記の条件を満たすポリ乳酸樹脂を得ることができる。
本発明の被記録材は生分解性を有するので、自然環境中に廃棄される場合に好適で、自然環境中の微生物に代謝させて最終的に水と二酸化炭素に分解される。
【0018】
本発明においては、記録面のインクの吸収性や強度などを向上させる目的で、(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材が添加される。(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材との混合比は、質量比で、(B)/(A)が0.1〜5.0の範囲であることが好まく、更に好ましくは0.3〜4.0の範囲である。
充填材と生分解性樹脂の比率を上記範囲内にすることで、記録面のインクの吸収性及び強度などが向上する。(B)/(A)を0.1以上とすることにより適量のインクの吸収能力が得られ、ニジミを生じることがなく、適度の乾燥速度が得られる。また、5.0以下とすることにより、適度の樹脂接着能力が得られ、記録面が脆くなることがない。
【0019】
天然の無機充填材としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、酸化チタン、シリカ等が挙げられる。天然の無機充填材の好ましい平均粒径は30μm以下、より好ましくは0.1〜20μmである。天然の無機充填材は、鉛筆等の筆記のための適度な荒れを表層にもたらすとともに、水性および油性インクの吸収の効果をもたらす。
天然の無機充填材は自然環境中の微生物に代謝されることは無いが、元々地中にあった鉱物資源をある程度精製処理したものであり、環境中に廃棄されて樹脂が分解後残存しても問題は無い。
天然の有機充填材としては、特に澱粉系微粒子やセルロース系粒子が微生物分解性の点ですぐれている。澱粉系微粒子としては、たとえば米澱粉、とうもろこし澱粉、馬鈴薯澱粉などの微粉末が挙げられる。また、セルロース系粒子としては、トスコ麻セルロースパウダー、酢酸セルロースパウダーなどの微粉末があげられる。これら天然の有機充填材の好ましい平均粒径は50μm以下、より好ましくは1〜30μmである。
基材の充填材としても、これらの多孔質記録層に使用する充填材として例示したものと同様の充填材を使用するのが好ましい。
【0020】
なお、(A)生分解性樹脂に対し、種々の添加剤を加えてもよい。例えば、ポリカルボジイミドを添加することにより、加水分解性を適度に調節することも可能である。
さらに、単層構造の被記録材又は基材上に設けられる層には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ、消泡剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、防腐剤、顔料分散剤、増粘剤などの各種添加剤を含有させることができる。
但し、上記の各種添加剤は、本発明における被記録材全体の30質量%以下に抑えるのが好ましい。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、多孔質記録面の平滑度および平均孔径は以下に示す方法に従って測定した。
(1)平滑度
ベック平滑度試験機(熊谷理機工業社製)を用いてJIS P−8119「紙及び板紙−ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に基づき平滑度を測定した。
(2)平均孔径
走査型電子顕微鏡(S−3000H、日立製作所社製)による表面の観察を行い、汎用画像処理ソフトNS2KPro(ナノシステム社製)により孔径を測定した。
【0022】
また、被記録材の評価は、以下に示す方法に従って行った。
(1)インクセット性
RI印刷適性試験機(明製作所社製)で、オフセット印刷用インクを被記録材に印刷し、原紙に一定加圧で押し当て、原紙へのインクの転移状況を観察し、次のように目視で評価した。インクは一般のプロセスインク(ベストキュア161アイ、T&K TOKA社製)、大豆油インク(ナチュラリス100アイ、大日本インキ社製)、ノンVOCインク(CKウインエコーNVアイ、東洋インキ社製)を使用した。
○:インクは即座に吸収された。
△:インクの吸収性がやや悪いが、実用上問題なし。
×:インクの吸収性が非常に悪い。
【0023】
(2)インクジェット記録方式によるプリント適性
富士ゼロックス社製インクジェットプリンター(Tektronix PHASER850)を使用し、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の顔料系の固形インクによりカラー記録画像を形成させた。
印画直後、記録物の記録部を目視し、色再現性の具合を次のように評価した。
○:鮮明な画像を形成。
△:インクの吸収性がやや悪く、画像の品質も劣る。
×:インクの流出が認められ画像が滲む。
【0024】
(3)熱転写記録方式によるプリント適性
アルプス電気社製熱転写プリンター(Smile Profile N−800 II)を使用し、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の樹脂溶融型の転写インクのインクリボンによりカラー記録画像を形成させた。
印字直後、記録物の記録部を目視し、色再現性の具合を次のように評価した。
○:鮮明な印字を形成。
△:ドットの再現性が悪く、印字の品質も劣る。
×:ドットが転写されずほとんど印字しない。
【0025】
(4)筆記性
鉛筆(トンボ鉛筆社製89002H/H/F/HB/B/2B)、ボールペン(ゼブラ社製N−5100)、水性ペン(Magic ラッション水性ペンNo.300)、油性ペン(トンボ鉛筆社製「なまえ専科」ツインマーカー)で筆記して、次のように評価した。
○:滲みや擦れが無く鮮明。
△:滲みや擦れが発生するが判読可能。
×:滲みや擦れが発生し判読不可能。
【0026】
(5)スタンプ性
捺印スタンプインク(シャチハタ社製、朱肉エコス MG50EC)による捺印を施し、その直後に該捺印部分を指先で摩擦し、次のように評価した。
○:滲みが無く鮮明。
△:滲みが発生するが判読可能。
×:滲みが発生し判読不可能。
【0027】
(6)密着性
密着性は碁盤目テープ法で評価した(JIS K−5400−1990準拠)。
多孔質記録面を有する層を貫通して基材面に達する切り傷を碁盤目状につけ、この碁盤目の上にセロハンテープ片(ニチバン製、No.405、幅18mm)を貼り付けた。親指で5回強く擦ったのち、セロハンテープを45度の向きに急激に引き離してセロハンテープ側に付着した全正方形面積の記録面の欠損部の面積から次のように評価した。
○:欠損部が見られない。
△:欠損部の面積が50%以下。
×:欠損部の面積が50%超。
【0028】
(7)生分解性
畑土壌中に埋設して3ヶ月経過後の記録面の分解面積を次のように評価した。
○:分解面積が30%以上。
△:分解面積が30%未満。
×:全く分解していない。
【0029】
(8)光沢度
上記(1)インクセット性と同様の印刷(インクはプロセスインクを使用)を実施し、デジタル変角光沢計(スガ試験機社製)を用いてJIS P−8119「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」に基づき、印画部および未印画部の光沢度を測定した。
(9)印画濃度
上記(1)インクセット性と同様の印刷(インクはプロセスインクを使用)を実施し、マクベス濃度計(RD918、マクベス社製)を用いて、印画部の濃度を測定した。
【0030】
実施例1
厚さ50μmのポリ乳酸フィルム(エコロージュSA101、三菱樹脂社製)の片面に下記組成1の塗工液を塗布し、水に1分間浸漬した後、80℃の熱水に10秒間浸漬して、70℃で1分間乾燥し、塗工厚30μmのインク受理層を形成した。上記(1)〜(9)の各評価を実施し、その結果を表1に示す。
組成1
ポリ乳酸樹脂(LACEA H−280、三井化学社製) 12.7質量部
DMF 72.0質量部
炭酸カルシウム 9.2質量部
(軽質炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製、平均粒径2μm)
珪藻土 6.1質量部
(ハイミクロンHE−5、竹原化学工業社製、平均粒径1.6μm)
【0031】
実施例2
厚さ50μmのポリ乳酸フィルム(エコロージュSA101、三菱樹脂社製)の片面に下記組成2の塗工液を塗布し、水に1分間浸漬した後、80℃の熱水に10秒間浸漬して、70℃で1分間乾燥し、塗工厚30μmのインク受理層を形成した。実施例1と同様に評価し、その結果を表1に示す。
組成2
ポリ乳酸樹脂(H−280、三井化学社製) 12.5質量部
DMF 75.0質量部
炭酸カルシウム 11.1質量部
(軽質炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製、平均粒径2.0μm)
酸化チタン 1.4質量部
(タイペークR−820、石原産業社製、平均粒径0.3μm)
【0032】
比較例1
厚さ50μmのポリ乳酸フィルム(エコロージュSW501、三菱樹脂社製)のみを用い、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0033】
比較例2
厚さ50μmのポリ乳酸フィルム(エコロージュSW501、三菱樹脂社製)を用い、サンドブラスト処理によって粗面化した後、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0034】
比較例3
厚さ50μmのポリ乳酸フィルム(エコロージュSW103、三菱樹脂社製)の片面に下記組成3の塗工液を塗布し、乾燥した後、塗工厚5μmのインク受理層を形成した。実施例1と同様に評価し、その結果を表1に示す。
組成3
ポリ乳酸樹脂(LACEA H−280、三井化学社製) 8.0質量部
混合溶媒 58.7質量部
(トルエン:酢酸エチル:メチルエチルケトン=4:3:3)
溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル) 28.0質量部
炭酸カルシウム 0.8質量部
(軽質炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製、平均粒径2.0μm)
シリカ 2.4質量部
(ミズカシールP526、水澤化学社製、平均粒径6.4μm)
酸化チタン 1.3質量部
(タイペークR670、石原産業社製、平均粒径0.2μm)
【0035】
比較例4
厚さ50μmのポリ乳酸フィルム(エコロージュSA101、三菱樹脂社製)の片面に組成2の塗工液を塗布し、水に1分間浸漬した後、80℃の熱水に10秒間浸漬して、120℃で5分間加熱乾燥し、塗工厚30μmのインク受理層を形成した。実施例1と同様に評価し、その結果を表1に示す。
【0036】
比較例5
厚さ50μmのポリ乳酸フィルム(エコロージュSA101、三菱樹脂社製)の片面に下記組成4の塗工液を塗布し、水に1分間浸漬した後、80℃の熱水に10秒間浸漬して乾燥し、塗工厚15μmのインク受理層を形成した。この記録用シートを実施例1と同様に評価し、その結果を表1に示す。
組成4
ポリ乳酸樹脂(LACEA H−280、三井化学社製) 4.8質量部
DMF 70.0質量部
炭酸カルシウム 15.1質量部
(軽質炭酸カルシウム、丸尾カルシウム社製、平均粒径2.0μm)
含水珪酸アルミニウム 10.1質量部
(スペシャルカオリンクレー、竹原化学工業社製、平均粒径7.0μm)
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の被記録材は、身分証明書、運転免許証、定期券、キャッシュカード、IDカード、商品表示ラベル(バーコード)、広告宣伝用ラベル(ステッカー)、汎用ラベル、電飾用紙、成形加工品、ポスター、カレンダー、雑誌など一般商業印刷物、あるいは包装シート、化粧箱等包装用印刷物などに使用され、水性・油性スタンプで押印したり、水性・油性ボールペン、鉛筆等で筆記したり、熱転写記録方式またはインクジェット記録方式等の各種プリンターで印字したりするもので、特に一定期間の使用後に廃棄される用途に好適に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂を含有し、少なくとも一方の面が多孔質記録面である被記録材であって、前記多孔質記録面が、(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とを含み、その質量比(B)/(A)が0.1〜5.0の範囲であり、多孔質記録面の平滑度が500sec以上、かつ多孔質記録面の平均孔径が0.01〜10μmであることを特徴とする被記録材。
【請求項2】
(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とを含む単層構造である請求項1に記載の被記録材。
【請求項3】
生分解性樹脂を主たる樹脂成分とする基材の少なくとも一方の面に、(A)生分解性樹脂と(B)天然の無機充填材及び/又は有機充填材とを含む多孔質記録面を有する層が形成された多層構造である請求項1に記載の被記録材。


【公開番号】特開2006−82494(P2006−82494A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271769(P2004−271769)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】