説明

生分解性装丁用含浸紙

【課題】 生分解性でかつ再生可能であるという環境適性を有し、しかも耐折度、引裂度、及び層間剥離強度が実用的強度を有する装丁用含浸紙を提供する。
【解決手段】 パルプを主体とする原紙に生分解性樹脂エマルジョンあるいはこれと生分解性可塑剤エマルジョンを含浸紙中の固形分が10〜20重量%となるように含浸してなる樹脂含浸紙及びその少なくとも一方の面に顔料及び生分解性樹脂エマルジョンあるいはこれと生分解性可塑剤エマルジョンからなる着色層が塗布された塗布紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂エマルジョンを含浸した紙、並びにこれの少なくとも一方の面に生分解性樹脂エマルジョン及び顔料からなる着色層が塗布された紙の用途である再生可能な装丁用含浸紙に関する。
【背景技術】
【0002】
書籍、手帳、ビジネスダイアリー、アルバムあるいは各種バインダーファイル等の表紙として紙や不織布等の繊維基材に樹脂エマルジョンを含浸し、更にその表面に着色塗布層を設けた装丁紙が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−346439号公報更に含浸紙であっても、環境対策として、古紙処理装置で製紙用繊維の回収が可能な再生可能装丁紙も知られている。そしてこの装丁紙用の含浸樹脂としてはアクリル酸エステル共重合エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合エマルジョン、スチレンブタジエン共重合エマルジョン、アクリロニトリルブタジエン共重合エマルジョン、メタクリル酸エステルブタジエン共重合エマルジョン、ポリウレタンエマルジョンが用いられている。また、着色塗布用の樹脂としては上記エマルジョン樹脂に加えて水溶性のバインダーが用いられている。しかしながら、これらの樹脂は水溶性バインダーの一部を除き非生分解性樹脂からなる(特許文献2〜5)。
【特許文献2】特開平5−195491号公報
【特許文献3】特開2000−168267号公報
【特許文献4】特開2002−173891号公報
【特許文献5】特開2004−250615号公報
【0003】
近年、生分解性樹脂からなるエマルジョンが開発されてきた。そしてこれを用いた含浸紙も検討されている。
【0004】
具体的例として、農業用マルチシートがある(特許文献6及び7)。また、強度向上方法のひとつとして生分解性樹脂エマルジョンに脂肪族ポリイソシアネート化合物を配合する方法が提案されており、含浸紙への応用が記載されている(特許文献8)。更に、具体的な例としてはクリーンペーパー(特許文献9)がある。しかしながら、これらはいずれも装丁紙に関するものではない。
【特許文献6】特開平07−123876号公報
【特許文献7】特開2000−191930号公報
【特許文献8】特開2002−371259号公報
【特許文献9】特開2005−281921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は生分解性樹脂エマルジョンを含浸して得られる生分解性の含浸紙からなる再生可能な装丁紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、パルプを主体とした原紙に生分解性樹脂エマルジョンを一定含有率になるように含浸することにより課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の第一は、パルプを主体とした原紙に生分解性樹脂エマルジョンあるいはこれと生分解性可塑剤エマルジョンを含浸紙中の固形分が10〜20重量%となるように含浸された再生可能な生分解性装丁用含浸紙、である。
【0008】
本発明の第二は、生分解性樹脂エマルジョンが粒径1.0μ以下のポリ乳酸である、請求項1に記載された生分解性装丁用含浸紙、である。
【0009】
本発明の第三は、含浸紙の少なくとも一方の面に、生分解性樹脂エマルジョンあるいはこれと生分解性可塑剤エマルジョン及び顔料からなる着色層が塗布された、請求項1に記載された生分解性装丁用含浸紙である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の含浸紙は、パルプを主体とした原紙に生分解性樹脂エマルジョンを固形分が10〜20重量%となるように含浸することにより、装丁紙としての実用強度を有し、かつ再生が可能で更に廃棄されても微生物による生分解が可能という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる生分解性樹脂エマルジョンとは、生分解性脂肪族ポリエステルのエマルジョンであり、具体的にはポリブチレンサクシネート系、ポリカプロラクトン系、ポリ乳酸系等のエマルジョンがある。しかしながら、含浸性を考慮すると、エマルジョン樹脂の粒径は1.0μ以下が好ましい。更に実用的強度の点から、ポリ乳酸系が好ましい。
ポリ乳酸樹脂は単独では比較的硬い樹脂であるので、含浸紙に柔軟性をもたせるためにはこれに生分解性の可塑剤あるいは低Tgの生分解性樹脂を混合させたタイプの含浸剤を用いたり、あるいは別途、生分解性の可塑剤エマルジョンを含浸時に混合して用いる。
含浸に用いる生分解性樹脂及び可塑剤の量は含浸紙中の固形分が10〜20重量%となるようにする。含浸率が低すぎると実用的な強度物性が得られない。また含浸率が高すぎると再生困難になる。
【0012】
本発明において、含浸される原紙の繊維素材はセルロースパルプを主体としてこれに生分解性の化学繊維(レーヨン等)や合成繊維(ポリ乳酸繊維等)を含んでもよい。セルロースパルプとしては具体的にはLBKP、NBKP、LBSP、あるいはNBSPが含浸紙物性及び地合のバランスを考慮して単独あるいは混合で用いられる。そして、含浸性、含浸紙物性並びに地合のバランスを考慮して叩解される。
【0013】
本発明において、含浸時に原紙の紙切れを起こさないことを目的として抄造時に湿潤紙力剤を用いる。通常対パルプ固形分で0.2重量%以上添加する。添加率が高くなると再生し難くなるので通常1.0%以下、好ましくは0.5%以下とする。
【0014】
本発明において、用いられる湿潤紙力剤としてはポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリンがある。
【0015】
本発明において、湿潤紙力剤以外にアニオン性の乾燥紙力剤を添加してもよい。具体的にはCMCやアニオン性のアクリルアミド系樹脂がある。通常、固形分として対パルプ1重量%以下で用いられる。
【0016】
本発明において、抄紙する原紙の坪量は50g/m2以上が好ましい。
【0017】
本発明において、装丁用含浸紙を着色する場合、原紙抄造の段階あるいは含浸の段階で顔料あるいは染料を用いて着色することが出来る。
【0018】
本発明において、含浸剤にはサイズ剤を添加することが好ましい。市販の生分解性樹脂エマルジョンは含浸後に含浸紙にサイズ度が付与されないものが多い。このため、サイズ剤を加えてサイズ度を付与する。サイズ剤としては、ワックス系のサイズ剤を用いると良い。具体的にはパラフィン系、マイクロクリスタリン系、カルナウバワックス系、あるいはAKD系のサイズ剤がある。
【0019】
本発明において、含浸紙の少なくとも一方の面に着色層を塗布することができる。この場合、着色剤としての顔料のバインダーとして生分解性樹脂エマルジョンあるいはこれと生分解性可塑剤エマルジョンを用いることが出来る。
【0020】
本発明において、装丁紙にエンボスを付与しても良い。エンボスは抄紙工程中、含浸工程中あるいは塗布工程後に行うことが出来る。
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、実施例中の測定値は以下の方法によった。
1)引裂度:JISP-8116
2)耐折度:JISP-8115
3)紙間剥離強度:JISP-8189
4)離解性:試料3gを採取し、50℃、濃度0.5%の苛性ソーダ水溶液100mlに10分間浸漬した後、取り出しこれを水800mlの入ったミキサーで1分間処理した後、手漉きして離解状態を観察した。
:完全に離解されている。
:微量の未離解物がある。
× :未離解物が相当量ある。
【0022】
実施例1
パルプ配合をNBKP/LBKP=4/6として500mlCSFに叩解したパルプに湿潤紙力剤(荒川化学工業製AF-255)を対パルプ当たり0.5重量%添加して坪量200g/m2の原紙を得た。この原紙に、ポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬製プラセマL110、粒径0.6μ)/可塑剤エマルジョン(第一工業製薬製サプラセマPCZ)=(固形分比)100/30の配合の10重量%及びAKDサイズ剤(荒川化学工業製SPK-920)0.7重量%からなる含浸剤を含浸率が10重量%になるように含浸して乾燥後120℃×3分熱処理した。この含浸紙の耐折強さは3.48、剥離強度は0.150N/mm、引裂度は3,890mNで、離解性は○であった。
【0023】
比較例1
実施例1において、ポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬製プラセマL110)/可塑剤エマルジョン(第一工業製薬製サプラセマPCZ)=(固形分比)100/30の配合の30重量%及びAKDサイズ剤(荒川化学工業製SPK-920)0.7重量%からなる含浸剤を含浸率が30重量%になるように含浸した以外は同じ方法で原紙作製、含浸並びに熱処理して含浸紙を得た。これらの含浸紙の耐折度は3.70、層間剥離強度は0.216N/mm、引裂度は3290mNであったが、離解性は×であった。
【0024】
実施例2
パルプ配合をNBKP/LBKP=2/8として580mlCSFに叩解したパルプに湿潤紙力剤(荒川化学工業製AF-255)を対パルプ当たり0.3重量%添加して坪量200g/m2の原紙を得た。この原紙に、ポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬製プラセマL110)/可塑剤エマルジョン(第一工業製薬製サプラセマPCZ)=(固形分比)100/50の配合の20重量%及びAKDサイズ剤(荒川化学工業製SPK-920)0.7重量%からなる含浸剤を含浸率が20重量%になるように含浸して乾燥後120℃×3分熱処理した。この含浸紙の耐折強さは3.60、剥離強度は0.170N/mm、引裂度は4,260mNで、離解性は○であった。
【0025】
比較例2
実施例1において、ポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬製プラセマL110)/可塑剤エマルジョン(第一工業製薬製サプラセマPCZ)=(固形分比)100/30の配合の7重量%及びAKDサイズ剤(荒川化学工業製SPK-920)0.7重量%からなる含浸剤を含浸率が7重量%になるように含浸した以外は同じ方法で原紙作製、含浸並びに熱処理して含浸紙を得た。この含浸紙の耐折度は3.10、層間剥離強度は0.110N/mm、引裂度は3,900mNで、離解性は○であった。
【0026】
実施例3
実施例2において、ポリ乳酸と生分解性可塑剤からなるポリ乳酸系エマルジョン(ミヨシ油脂ランディPL−3000、粒径1.2μ)の15重量%及びAKDサイズ剤(荒川化学工業製SPK-920)0.7重量%からなる含浸剤を含浸率が15重量%となるように含浸した以外は同じ方法で原紙作成、含浸並びに熱処理して含浸紙を得た。この含浸紙の耐折度は3.09、層間剥離強度は0.160N/mm、引裂度は3,980mNで、離解性は○であった。
【0027】
実施例4
実施例1において含浸剤に0.5重量%の青色染料、0.2重量%の黄色染料並びに0.3重量%の界面活性剤を加えた以外は同じ方法で原紙作成及び含浸して含浸紙を得た。次にポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬製プラセマL110)/可塑剤エマルジョン(第一工業製薬製サプラセマPCZ)=(固形分比)100/20の配合のエマルジョンを固形分で25重量部、緑色顔料3重量部、増粘剤としてCMCNa2重量%液5重量部からなる塗布液を作製して、これをワイヤーバーで片面に25g/m2塗布した。得られた含浸塗布紙の物性はこの含浸紙の耐折度は3.43、層間剥離強度は0.144N/mm、引裂度は4,100mNで、離解性は△であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明してきたように、本発明の生分解性樹脂含浸紙は耐折度、引裂度、層間剥離強度等の装丁紙としての実用強度があり、かつ再生可能であり、更に廃棄する場合には微生物による生分解が可能であるので環境適性にも優れている。















【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主体とした原紙に生分解性樹脂エマルジョンあるいはこれと生分解性可塑剤エマルジョンを含浸紙中の固形分が10〜20重量%となるように含浸したことを特徴とする再生可能な生分解性装丁用含浸紙。
【請求項2】
生分解性樹脂エマルジョンが粒径1.0μ以下のポリ乳酸である、請求項1に記載された生分解性装丁用含浸紙。
【請求項3】
含浸紙の少なくとも一方の面に、顔料及び生分解性樹脂エマルジョンあるいはこれと生分解性可塑剤エマルジョンからなる着色層が塗布された、請求項1に記載された生分解性装丁用含浸紙。

























【公開番号】特開2008−2021(P2008−2021A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173446(P2006−173446)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(305021960)有限会社 葵テクノ (9)
【Fターム(参考)】