説明

生化学用プレートの製造方法

【課題】 複数のウェルの底部を光透過性のガラスにより形成するにもかかわらず、接着剤の成分が試料内へ溶出するのを回避して試料への悪影響を防止し、しかも、ウェル底部の研磨処理作業が容易な生化学用プレートの製造方法。
【解決手段】 光透過性の底部4を有して上方に開口する複数のウェル2を備えた生化学用プレートの製造方法で、底部4を含む底板1をガラスにより形成し、その底板1のガラスと熱膨張率の異なる材料でウェル2を構成する筒体3を形成して、その熱膨張率の差に基づいて筒体3を底板1の底部4に嵌合固定して製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性の底部を有して上方に開口する複数のウェルを備えた生化学用プレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような生化学用プレートとしては、例えば、マイクロプレートと称される生化学用容器などが知られており、従来、ポリスチレンのような合成樹脂により製造されたものが多用されている(例えば、特許文献1参照)。
ところで、最近、逆ミセルの特異環境中でDNAのハイブリダイゼーション挙動を紫外線分光測定により観察する遺伝子解析方法が提案され、かつ、注目もされているが、この遺伝子解析方法では、試料がイソオクタンなどの有機溶剤となる。
したがって、ポリスチレンなどの合成樹脂製の生化学用容器では、有機溶剤によって溶解する可能性があるため、耐有機溶剤性に優れた生化学用容器の必要性が高まってきた。
そこで、本出願人は、光透過性のガラス基板と多数の筒体を使用し、無機接着剤によって多数の筒体をガラス基板の表面に接着して製造する光透過性ガラス製の生化学用容器を提案した。さらに、光透過性のガラス素材を軟化点以上に加熱し、溶融状態あるいは軟化状態にある光透過性ガラス素材を型枠内に入れて成形し、その後、分光測定が可能なように、各ウェル内の底部を研磨処理して製造する光透過性ガラス製の生化学用容器も提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−78388号公報
【特許文献2】特開2004−109107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来方法のうち、多数の筒体をガラス基板の表面に接着して製造する方法では、たとえ接着剤として無機系の接着剤を使用しても、使用する試料によっては、接着剤の成分の一部が試料内に溶出するという問題が考えられる。
さらに、生化学用容器では、ウェルそのものが比較的小さくて数も多いため、上述した従来方法のうち、ガラス素材を使用して型成形する方法では、各ウェルの底部、言い換えると、小さな穴の内側の底部を研磨処理する作業が非常に困難で煩雑となり、この点に改良の余地があった。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、複数のウェルの底部を光透過性のガラスにより形成するにもかかわらず、接着剤の成分が試料内へ溶出するのを回避して試料への悪影響を防止し、しかも、ウェル底部の研磨処理作業が容易な生化学用プレートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、光透過性の底部を有して上方に開口する複数のウェルを備えた生化学用プレートの製造方法であって、前記底部を含む底板をガラスにより形成し、その底板のガラスと熱膨張率の異なる材料で前記ウェルを構成する筒体を形成して、その熱膨張率の差に基づいて前記筒体を前記底板の底部に嵌合固定して製造するところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、光透過性の底部を含む底板をガラスにより形成し、その底板のガラスと熱膨張率の異なる材料でウェルを構成する筒体を形成して、ガラス製の底板と筒体との熱膨張率の差に基づいて筒体を底板の底部に嵌合固定するので、例えば、試料内への溶出が懸念される接着剤などを使用することなく、仮に使用するにしても非常に少量で済むため、試料への悪影響のおそれのない生化学用プレートを製造することができる。
また、ガラス製の底板とウェルを構成する筒体が別体となるので、筒体を取り付ける前に予めウェルの底部を研磨処理することができ、それによって、ウェル底部の研磨処理作業も容易となる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記底部が底板の上面から上方へ突出する突出底部であり、その突出底部に前記筒体を外嵌固定するところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、前記底部が底板の上面から上方へ突出する突出底部であり、その突出底部に筒体を外嵌固定するので、突出底部に対する筒体の外嵌によって、各筒体はガラス製の底板に確実に固定される。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記底部が底板の上面から下方へ凹入する凹入底部であり、その凹入底部に前記筒体を内嵌固定するところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、前記底部が底板の上面から下方へ凹入する凹入底部であり、その凹入底部に筒体を内嵌固定するので、凹入底部に対する筒体の内嵌によって、各筒体はガラス製の底板に確実に固定される。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記筒体と前記底板を加熱して、その加熱時の熱膨張率の差に基づいて前記筒体を前記底板の底部に嵌合固定するところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、筒体と底板を加熱して、その加熱時の熱膨張率の差に基づいて筒体を底板の底部に嵌合固定するので、例えば、筒体と底板を加熱炉内に入れて加熱処理することにより、各筒体を底板の底部に比較的簡単に固定することができる。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記筒体と前記底板を冷却して、その冷却時の熱膨張率の差に基づいて前記筒体を前記底板の底部に嵌合固定するところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、筒体と底板を冷却して、その冷却時の熱膨張率の差に基づいて筒体を底板の底部に嵌合固定するので、例えば、筒体と底板を冷却器内に入れて冷却処理することにより、各筒体を底板の底部に比較的簡単に固定することができる。
【0016】
本発明の第6の特徴構成は、前記底板の底部と前記筒体との少なくともいずれか一方に仮嵌合用のテーパ面が形成されているところにある。
【0017】
本発明の第6の特徴構成によれば、底板の底部と筒体との少なくともいずれか一方に仮嵌合用のテーパ面が形成されているので、各筒体を底板の底部に嵌合固定するに際して底部の所定位置へ確実に嵌合固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明による生化学用プレートの製造方法につき、その実施の形態を図面に基づいて説明する。
生化学用プレートの一例である生化学用容器は、図1に示すように、光透過性のソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどのような各種のガラスにより長方形の板状に形成された底板1を備え、その底板1の上面1aには、上方に開口する多数のウェル2、例えば、合計96(8×12)個のウェル2が設けられ、各ウェル2を構成する筒体3がガラス製の底板1とは熱膨張率の異なる材料で形成されている。
【0019】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、図2に示すように、ガラス製の底板1が、その底板1の上面1aから一体的に上方へ突出する円柱形の突出底部4を備えていて、各突出底部4に円筒形の筒体3が外嵌固定され、その突出底部4と筒体3によりウェル2が構成されている。
筒体3は、底板1の材料であるガラスよりも熱膨張率が大で、耐薬品性に優れ、かつ、試料内へ溶出するおそれの少ない材料で形成されている。具体的には、酸化皮膜で覆われたアルミニウム、金や白金などをはじめとして、ニッケルメッキやロジウムメッキが施された各種の金属材料、あるいは、ホウロウ処理などの表面処理が施された各種の金属材料、さらには、底板1のガラスよりも熱膨張率の大きなガラスなどで形成され、その筒体3の突出底部4への外嵌側内面には、予め仮嵌合用のテーパ面3aが形成されている。
一方、ガラス製の底板1の方は、その下面1bと各突出底部4の上面4aが、予め研磨処理されている。
【0020】
第1の実施形態による生化学用容器を製造するには、図2(イ)に示すように、底板1の各突出底部4の上方にそれぞれ筒体3を被せて、底板1と筒体3を図外の加熱炉内に入れて加熱処理する。
すると、底板1の材料であるガラスと筒体3との熱膨張率の差に基づいて、図2(ロ)に示すように、筒体3の内径が突出底部4の外径に対して相対的に大きくなって、筒体3が自重により、必要な場合には、筒体3に下方への押圧力を加えることによって、突出底部4に外嵌する。
その後、底板1と筒体3を徐々に常温にまで戻すことにより、図2(ハ)に示すような生化学用容器が製造されるのである。
【0021】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、図3に示すように、ガラス製の底板1が、その底板1の上面1aから下方へ凹入する平面視円形の凹入底部5を備えていて、各凹入底部5に円筒形の筒体3の下端部が内嵌固定され、その凹入底部5と筒体3によりウェル2が構成されている。
筒体3は、第1の実施形態において具体的に記述した材料、つまり、底板1の材料であるガラスよりも熱膨張率が大で、耐薬品性に優れ、かつ、試料内へ溶出するおそれの少ない材料で形成され、筒体3の凹入底部5への内嵌側外面には、予め仮嵌合用のテーパ面3bが形成されている。
ガラス製の底板1の方は、第1の実施形態と同様に、その下面1bが予め研磨処理され、さらに、各凹入底部5の上面5aも予め研磨処理されている。
【0022】
第2の実施形態による生化学用容器を製造するには、図3(イ)に示すように、底板1の各凹入底部5の上方にそれぞれ筒体3を嵌入して、底板1と筒体3を図外の冷却器内に入れて冷却処理する。
すると、底板1の材料であるガラスと筒体3との熱膨張率の差に基づいて、図3(ロ)に示すように、筒体3の外径が凹入底部5の内径に対して相対的に小さくなって、筒体3が自重により、必要な場合には、筒体3に下方への押圧力を加えることによって、凹入底部5に内嵌する。
その後、底板1と筒体3を徐々に常温にまで戻すことにより、図3(ハ)に示すような生化学用容器が製造されるのである。
【0023】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、底板1の上面1aに形成する底部として突出底部4と凹入底部5を例示したが、図4に示すように、平面視円形のスリット6aにより底部6を形成して、そのスリットにより形成された底部6に筒体3を外嵌したり、図示はしないが、スリットにより形成された底部6に筒体3を内嵌することもできる。
【0024】
(2)先の実施形態では、底部4,5への外嵌または内嵌のみによって筒体3を底板1に固定する構成を例示したが、例えば、底板1と筒体3との間にあまり熱膨張率の差がなくて、外嵌または内嵌のみでは必要な嵌合力が得られないおそれのある場合には、底部4,5と筒体3との間に少量の接着性材料、好ましくは、低融点ガラスなどを介在させて固定することもできる。
さらに、接着性材料に代えて、あるいは、接着性材料と共に、図5に示すように、突出底部4と筒体3との間に抜け止め用の係合手段7を設けたり、図6に示すように、突出底部4の上端側を下方よりも大径にした抜け止め手段8を設けることができ、また、図7に示すように、熱膨張率の大きな締め付け用リング9を併用して、筒体3を突出底部4に対して締め付け固定することもできる。
なお、図示はしないが、図5に示す係合手段7と図6に示す抜け止め手段8に関しては、凹入底部5と筒体3との間に設けることもできる。
【0025】
(3)先の実施形態では、底部4,5と筒体3のうち、筒体3側にのみ仮嵌合用のテーパ面3a,3bを形成した例を示したが、逆に、底部4,5側に仮嵌合用のテーパ面を形成することも、また、底部4,5側と筒部3側の両方にそれぞれ仮嵌合用のテーパ面を形成して実施することもできる。
また、図8に示すように、突出底部4と筒体3との間にポリエチレンなどからなる緩衝リング10を介在させることもでき、図示はしないが、凹入底部5と筒体3との間に同じような緩衝リングを介在させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】生化学用容器の斜視図
【図2】第1の実施形態による生化学用容器の製造工程を示す要部断面図
【図3】第2の実施形態による生化学用容器の製造工程を示す要部断面図
【図4】別の実施形態による生化学用容器の要部断面図
【図5】別の実施形態による生化学用容器の要部断面図
【図6】別の実施形態による生化学用容器の要部断面図
【図7】別の実施形態による生化学用容器の要部断面図
【図8】別の実施形態による生化学用容器の要部断面図
【符号の説明】
【0027】
1 底板
2 ウェル
3 筒体
3a,3b 仮嵌合用のテーパ面
4 突出底部
5 凹入底部
6 スリットにより形成された底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の底部を有して上方に開口する複数のウェルを備えた生化学用プレートの製造方法であって、
前記底部を含む底板をガラスにより形成し、その底板のガラスと熱膨張率の異なる材料で前記ウェルを構成する筒体を形成して、その熱膨張率の差に基づいて前記筒体を前記底板の底部に嵌合固定して製造する生化学用プレートの製造方法。
【請求項2】
前記底部が底板の上面から上方へ突出する突出底部であり、その突出底部に前記筒体を外嵌固定する請求項1に記載の生化学用プレートの製造方法。
【請求項3】
前記底部が底板の上面から下方へ凹入する凹入底部であり、その凹入底部に前記筒体を内嵌固定する請求項1に記載の生化学用プレートの製造方法。
【請求項4】
前記筒体と前記底板を加熱して、その加熱時の熱膨張率の差に基づいて前記筒体を前記底板の底部に嵌合固定する請求項1〜3のいずれか1項に記載の生化学用プレートの製造方法。
【請求項5】
前記筒体と前記底板を冷却して、その冷却時の熱膨張率の差に基づいて前記筒体を前記底板の底部に嵌合固定する請求項1〜3のいずれか1項に記載の生化学用プレートの製造方法。
【請求項6】
前記底板の底部と前記筒体との少なくともいずれか一方に仮嵌合用のテーパ面が形成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の生化学用プレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−112917(P2006−112917A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300331(P2004−300331)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】