生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス
本願発明は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染および/またはいくつかのRSV関連疾患の発症に対するワクチンとして有用な生弱毒化RSVを特徴とする。開示されるウイルスは、対象に投与された場合に非病原性である程度まで弱毒化されているが、野生型RSVの抗原性および免疫原性特性を実質的に維持している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2008年11月5日に出願された米国仮出願第61/198,327号の利益を主張するものであり、この出願は本明細書に参照により取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
ヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、マイナス一本鎖RNAウイルスであり、ニューモウイルス(Pneumoviras)属、パラミクソウイルス(Paramyxoviradae)科のウイルスである。RSVは1歳未満の乳児におけるウイルス性肺炎および細気管支炎の第一の原因であり、これら乳児における入院および致死性気道疾患の主要な原因である。ある種の基礎疾患(例えば免疫不全、先天性心疾患、気管支肺異形成症など)を有する小児においては、重篤な疾患も発症し得る。ほとんど全ての子供は2歳までに感染し、通常は年長児または成人になってから再感染する(Chanockら、 Viral Infections of Humans、 第3版、 A. S. Evans編、 Plenum Press、 N. Y. (1989))。健康な成人では、大抵の感染は無症状であり、一般には軽度の上気道疾患に限られる。しかし、高齢の患者や免疫不全者では、重篤で生命を危うくする可能性のある感染症になりやすい。
【0003】
RSVの2つの主要な抗原性サブグループAおよびBならびにそれぞれのサブグループにおける複数の遺伝子型が同定されている(Andersonら、 1985、 J Infect. Dis. 151 :626−633; Mufsonら、 1985、 J. Gen、 Virol. 66:2111−2124)。正逆交雑中和分析(reciprocal cross−neutralization analysis)によれば、2つの抗原性サブグループは抗原的におよそ25%関連している。温暖な気候において毎年秋の終わりから、冬、春にかけて起こる流行では、各サブグループの多様な異型が循環していることが確認されている(Andersonら、 1991、 J. Infect. Dis. 163:687−692)。2つの重要なESVサブグループのうちの一方に感染した子供は、同種サブグループによる再感染から保護され得ることを示す証拠がある(Mufsonら、1987、J.Clin.Microbiol.26:1595−1597)。感染を繰り返した後で防御免疫が蓄積することを示す証拠とあわせて、このことは、重篤な疾患および死亡を防御する十分な免疫が得られる乳児および小児へのRSVワクチンレジメント(vaccination regiment)の開発が可能であることを示唆している。
【0004】
天然のRSVゲノムは概してマイナス鎖ポリヌクレオチド分子からなり、このポリヌクレオチド分子は相補性ウイルスmRNAを介して11種類のウイルスタンパク質、即ち、非構造種NS1およびNS2、N、P、マトリックス(M)、小疎水性(SH)、糖タンパク質(G)、融合体(F)、M2(ORF1)、M2(ORF2)、およびLをコードしている。以上のことはMinkら、1991、 Virology 185:615−624; Stecら、 1991、 Virology 183:273−287; および Connorsら、 1995、 Virology. 208:478−484において詳細に記載されている。
【0005】
数十年の研究の後、近年ようやく免疫予防薬シナジス(登録商標)が、早産高リスク新生児におけるRSV関連疾患の予防のために市販されたが、RSV感染および関連疾患に対する安全でかつ有効なワクチンは未だにない。分泌型抗体は上気道の防御に最も重要であり、一方、高レベルの血清抗体は下気道におけるRSV感染への抵抗において重要な役割を担っていると考えられている。しかし、精製ヒト免疫グロブリン(Ig)製剤は、血液感染性ウイルスに感染する可能性が懸念され、一方、組み換えIg製剤は製造費用が高い。
【0006】
小児ワクチン接種の初期の試み(1966年)では、ホルマリン不活化RSVワクチンの非経口投与が用いられた。残念なことにいくつかの実地試験において、このワクチン投与がRSVへの自然感染後の非常に激しい発症に明らかに関連していることが示された(Kapikianら、 1968、 Am. J Epidemiol 89:405−421; Kimら、 1969、 Am. J Epidemiol. 89:422−434; Fulginitiら、 1969、 Am. J Epidemiol 89:435−448; Chinら; 1969、 Am, J Epidemiol 89:449−463)。このワクチンがRSV疾患を悪化させる原因は明らかではない。RSV抗原に対する暴露によって異常な、あるいは、バランスの崩れた免疫応答が誘発され、本来の疾患が免疫病理学的に増強されたことが示唆されている(Kimら、 1976、 Pediatr. Res.10:75−78; Princeら、 1986、 J Virol 57:721−728)。
【0007】
サブユニットあるいは不活化ウイルスワクチンに比較して、生弱毒化または生ベクターウイルスワクチンの利用には有利な点がいくつかある。生弱毒化ウイルスワクチンは天然のウイルス感染と類似した感染を再現し、効果的に宿主免疫系を作動させることができ、また、サブユニットあるいは不活化ワクチンに比べて液性要素および細胞性要素の両方を含む強力な免疫を付与しやすい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chanockら、 Viral Infections of Humans、 第3版、 A. S. Evans編、 Plenum Press、 N. Y. (1989)
【非特許文献2】Andersonら、 1985、 J Infect. Dis. 151 :626−633
【非特許文献3】Mufsonら、 1985、 J. Gen、 Virol. 66:2111−2124
【非特許文献4】Andersonら、 1991、 J. Infect. Dis. 163:687−692
【非特許文献5】Mufsonら、1987、J.Clin.Microbiol.26:1595−1597
【非特許文献6】Minkら、1991、 Virology 185:615−624
【非特許文献7】Stecら、 1991、 Virology 183:273−287
【非特許文献8】Connorsら、 1995、 Virology. 208:478−484
【非特許文献9】Kapikianら、 1968、 Am. J Epidemiol 89:405−421
【非特許文献10】Kimら、 1969、 Am. J Epidemiol. 89:422−434
【非特許文献11】Fulginitiら、 1969、 Am. J Epidemiol 89:435−448
【非特許文献12】Chinら、 1969、 Am, J Epidemiol 89:449−463
【非特許文献13】Kimら、 1976, Pediatr. Res.10:75−78
【非特許文献14】Princeら、 1986、 J Virol 57:721−728
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は野生型の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染に対して、対象(ヒトを含む)を免疫するために適したRSVの生株を開示する。RSV感染に関連した重篤な呼吸器疾患を防ぐ一方でその免疫自体に基づく呼吸器疾患をもたらすことがないような免疫応答を、ワクチン接種した対象において効果的に誘導するように適切に弱毒化された株が提供される。この弱毒株は、表現型としては野生型であるサブグループAのヒトRSV株を一定の多重度でVero細胞中において継代培養することによって得られた。継代培養過程で突然変異が誘導され、その結果として遺伝的に安定で、免疫原性および防御性を有し、かつ非病原性であるRSV株となったことが、配列分析によって示された。
【0010】
本発明の他の側面は、(1)本明細書において特定される1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の突然変異、(2)1以上のヌクレオチド突然変異を含み、さらに/または本明細書において開示される弱毒化RSV中において同定された1以上のアミノ酸突然変異をコードするウイルスゲノム、および/または(3)本明細書において記載される1以上のヌクレオチド突然変異を有するか、あるいは本明細書において記載される1以上のアミノ酸突然変異をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む生弱毒化RSVに関する。
【0011】
「突然変異」との記載は、それぞれタンパク質配列または遺伝子および/もしくはゲノム配列内の特定のアミノ酸またはヌクレオチドの位置において、参照配列あるいは野生型配列のアミノ酸またはヌクレオチドとは異なったアミノ酸またはヌクレオチドが存在することを意味している。示された突然変異が最終的に付与される限りにおいて、結果的な突然変異は参照配列または野生型配列に直接導入するか、あるいは参照配列または野生型配列とは異なる配列によって提供され得る。
【0012】
本発明の生弱毒化RSVは、RSV感染またはRSV感染に関連した重篤な呼吸器疾患の発症のいずれかに対して免疫原性および防御性を有する。好ましい具体例として、生弱毒化RSVはサブグループAおよび/またはBの野生型RSV感染に対する免疫に適したヒトRSVである。本明細書においては、当該生弱毒化RSVを含む医薬組成物および当該組成物を投与することによりRSV感染に対して対象、好ましくはヒトを治療する方法も記載される。
【0013】
本明細書に記載される1以上のアミノ酸突然変異をコードするか本明細書に記載される1以上のヌクレオチド突然変異を有する配列を含む核酸の例には、(1)特定の全長RSV参照配列に基づく全長RSVゲノム配列、(2)本明細書に記載される特定のRSV核酸配列に基づく種々のRSV核酸領域、(3)本明細書に記載される1以上の特定のRSV核酸配列を含む部分的ゲノム配列、(4)本明細書に記載される1以上の特定のRSV核酸配列を含む全長ゲノム配列が含まれる。
【0014】
用語「処置する」あるいは「処置」とは、感染または再感染の予防もしくは軽減、またはRSV感染に関連した症状、病気または状態の軽減もしくは除去を含む治療的および/または予防的処置を意味している。処置が必要なヒトには、RSVに感染した一般集団および/または患者が含まれる。処置が必要なヒトの例には、既にRSV関連疾患を発症したヒト、そのような疾患を発症しそうなヒト、および/またはそのような疾患を予防する必要があるヒトが含まれる。
【0015】
「疾患」とはその原因の全て、または一部がRSV感染である状態であり、肺炎および細気管支炎を含むがこれらに限定されるものではない。用語「疾患」には、哺乳動物を当疾患にかかりやすくする病理学的な状態を含む慢性および急性疾患および病気が含まれる。
【0016】
用語「防御する」または「防御」は、本発明の弱毒化ウイルスまたは治療方法と関連して使用される場合には、RSV感染、再感染、RSV感染に起因する疾患の可能性を軽減すること、および感染、再感染および/または当該感染に起因する疾患の重症度を軽減することを意味している。
【0017】
用語「有効量」とは、脊椎動物宿主、好ましくはヒト宿主の体内に導入された場合に、防御的免疫応答を生じる十分な量を意味している。当業者であれば、このレベルが多様であり得ることを理解している。
【0018】
本明細書に記載される生弱毒化RSVはいずれかのRSVサブグループ(AまたはB)または種族(例えばヒト、ウシ、マウス)から得られ、好ましくはヒトから得られる。防御免疫応答を誘導するために、このRSV株は免疫対象にとって内因性のものであってもよく、例えばヒトRSVがヒトを免疫するために使用される。
【0019】
RSV株の記載において、用語「野生型」または「wt」は、弱毒に関する既知マーカーにおいて野生型であるゲノム配列を有するウイルスおよび/または弱毒化のin vivoモデル(例えばヒトまたは他の適当な動物モデル)またはin vitroモデルのいずれかにおいて示されるような表現型における野生型(即ち非毒性)のウイルスの両方に及ぶ。RSVタンパク質または核酸(例えば遺伝子、ゲノム)配列に対する記載における用語「野生型」は、弱毒表現型に寄与することが知られているマーカーを含まない配列を意味する。
【0020】
本明細書に開示されるRSVの記載における「生弱毒化ウイルス」は、遺伝子型において野生型RSVと異なる(即ちゲノム配列に相違を含む)とともに表現型において野生型RSVと異なる(即ち弱毒表現型によって証明されるような)ウイルスを意味している。弱毒化ウイルスは生存能力がある(即ち「生きている」)が、減弱された毒性を示す点において表現型が異なり、したがって、複数のウイルスは異なった程度の弱毒性を示し得る。本発明のこれら生弱毒化RSVは弱毒化されており、そのために対象宿主において非病原性である。不完全に弱毒化されたウイルスは病原性の減弱を示すが、依然として対象宿主において病害応答を生じさせ得る。本願発明の生弱毒化RSVは(例えば野生型または不完全な弱毒化株の継代培養によって)自然に得られるか、または組み換え技術によって産生し得る。組み換え技術によって作られた場合には、組み換えRSVは、組み換え発現系から直接または間接的に得られたRSVもしくはRSV様ウイルスもしくはサブウイルス粒子、またはそれらより生成されたウイルスもしくはサブウイルス粒子から増幅されたものを意味する。
【0021】
「実質的に類似」とは、特定の核酸またはアミノ酸配列が、参照配列に対して、明細書に記載されているように、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%または少なくとも99%の同一性を有することを意味している。参照配列に対する配列同一性は、ある配列を参照配列とアライン(整列)させて、対応する領域内における同一のヌクレオチドまたはアミノ酸の数を特定することにより決定する。この数を参照配列の総アミノ酸数で割り、100倍してから小数点以下第1位で四捨五入して整数にする。配列同一性は、当技術分野において承認されている多数の配列比較アルゴリズムまたは目視検査によって決定することができる(Ausubel, F Mら、 Current Protocols in Molecular Biology、 4、 John Wiley & Sons, Inc.、 Brooklyn、 N.Y.、 A.1E.1−A.1F.11、 1996−2004を総合的に参照のこと)。本願発明の実質的に類似な核酸配列またはアミノ酸配列は、NS2、G、LまたはFタンパク質をコードするかまたはこれらから構成される場合には、後段で詳述するように、p17内において見出される1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸突然変異を保持している。
【0022】
「単離された」との記載は、天然で認められるものとは異なった形態あるいは感染患者の鼻咽頭などの天然型ウイルスの本来の環境とは異なった環境中に存在する異なった形態を意味する。したがって単離されたウイルスは細胞培養その他の系の異種成分であり得る。例えば、当該異なった形態は、自然で認められるものとは異なった純度および/または自然で認められるのとは異なった構造であり得る。
【0023】
「含む」等の開放型の用語の記載は、付加的な要素または工程を許容するものである。場合により「1以上」等の句が、付加的な要素または工程の可能性を強調するために、開放型の用語を伴って、あるいは伴わずに使用される。
【0024】
明示しない限り、「a」、「an」および「the」等の語は単数に限らず、文脈から明らかに反しない限り複数を示す語をも含む。例えば、「細胞(a cell)」は、「複数の細胞(cells)」を排除するものではない。場合により、「1以上」等の句が、複数の存在の可能性を強調するために使用される。
【0025】
用語「哺乳動物」はヒトを含むあらゆる哺乳動物を意味する。
【0026】
略語「Kb」はキロベースを意味する。
【0027】
略語「pfu」はプラーク形成単位を意味する。
【0028】
略語「ORF」は遺伝子のオープンリーディングフレームを意味する。
【0029】
本発明の他の特徴や有利性は、種々の実施例を含む本明細書の他の記載から明らかである。提示される実施例は、本発明を実施する上で有用な種々の成分および手順を例示している。実施例は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものではない。本明細書の開示に基づいて、当業者は本発明を実施する上で有用な他の成分および手順を特定し、用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、野生型RSV株、hRSV S2由来のNS2タンパク質(配列番号2:NCBI GenBank Accession no. U39662; Tolley ら、 1996、 Vaccine 14:1637−1646参照)、Merck株287(配列番号4)およびp17(配列番号6)のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるNS2タンパク質の相違を示している。Merck株p17 ppのNS1アミノ酸配列は、p17のものと同じである(配列番号6)。
【図2】図2は、hRSV S2(配列番号8)、Merck株287(配列番号10)およびp17(配列番号12)由来のGタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるGタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。Merck株p17 ppのGアミノ酸配列は、p17のものと同じである(配列番号12)。
【図3A】図3Aは、hRSV S2(配列番号14)、Merck株287(配列番号16)およびp17(配列番号18)由来のFタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるFタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号18の第294位アミノ酸はGluかLys残基のいずれかを表示する「X」で示されている。配列番号18の第486位アミノ酸もAspかGly残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図3B】図3Bは、hRSV S2(配列番号14)、Merck株287(配列番号16)およびp17(配列番号18)由来のFタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるFタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号18の第294位アミノ酸はGluかLys残基のいずれかを表示する「X」で示されている。配列番号18の第486位アミノ酸もAspかGly残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4A】図4Aは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4B】図4Bは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4C】図4Cは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4D】図4Dは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4E】図4Eは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4F】図4Fは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4G】図4Gは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図5】図5は、各ウイルスを鼻腔内に接種されたコットンラットから得られた鼻および肺標本の両方における、野生型hRSV A2株(HuangおよびWetz、 1982、 J. Virol. 43:150)、Merck株287の継代3(p3)およびMerck株287の継代17(p17)のウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図6】図6は、各ウイルスを鼻腔内経路および気管内経路の組合せで接種されたアフリカミドリザルから得られた鼻および肺標本の両方における、野生型hRSV A2株、Merck株287の継代3(p3)およびMerck株287の継代17(p17)のウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図7】図7は、各ウイルスを鼻腔内に接種されたコットンラットから得られた鼻および肺標本の両方における、Merck株287の継代3(p3)、継代5(p5)、継代10(p10)、継代15(p15)のウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図8】図8は、コットンラットにおける、wt hRSV A2、Merck株287の継代3(p3)またはMerck株287の継代17(p17)による免疫後14、28および56日目での、野生型hRSV A2に対する血清中和(SN)抗体価の比較を示す。ラットはこれらウイルスを筋肉内投与して免疫した。
【図9】図9は、最初に野生型hRSV A2、Merck株287p3またはMerck株287p17のいずれかで筋肉内免疫されたかあるいは免疫されず、その後にwtA2ウイルスの105.5pfuを鼻腔内暴露されたコットンラットの鼻および肺標本内におけるウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図10】図10は、Merck株287の継代17(p17)を免疫したかあるいは免疫しなかったアフリカミドリザルにおける、免疫28日後での野生型hRSV A2に対する鼻および肺内の血清中和(SN)抗体価の比較を示す。サルは、筋肉内免疫した。
【図11】図11は、最初にMerck株287p17で免疫するかあるいは免疫せずに、その後wt A2の105.5pfuを鼻腔内および気管内暴露されたアフリカミドリザルの鼻および肺標本内の平均ウイルス力価(pfu/ml)の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染および/またはRSV関連疾患の発症に対するワクチンとして使用するための生弱毒化RSVに関する。本明細書に開示されるウイルスは、対象、好ましくはヒト、に投与された場合に、非病原性であるが実質的に野生型RSVの抗原性および免疫原性特性を維持しているように弱毒化されている。したがって、本明細書に開示される弱毒化ウイルスは、接種された哺乳動物において野生型ウイルスによって起こる呼吸器の病的症状を誘発することなく防御免疫応答を刺激するために有用である。
【0032】
I.生弱毒化RSV
本明細書に記載される生弱毒化RSVウイルスはhRSV A型株(以後「Merck株287」、「株287」または「p0.」と称する)を連続して継代することによって同定された。Merck株287は、GMK細胞で最初に2回増幅されたRSV株に由来する。この最初の増幅の後、当該ウイルスはヒトニ倍体細胞株WI−38中において更に5回の継代を経ている。この5回継代材料は、Merck株287と命名され、配列が決定されて、弱毒化の既知遺伝子マーカーについて遺伝学的に野生型であり且つ表現型も野生型であることが示された(後段の実施例参照)。
【0033】
Merck株287はVeroCCL−81サル腎臓細胞内において一定の多重度で継代された。一連の継代をとおしてウイルス力価は一定であり、培養中のウイルスによる細胞変性効果も終始一定であった。継代されたウイルスの弱毒化は、in vivoげっ歯類モデルおよび霊長類モデルにおけるウイルス排出の減少を測定することによってモニターした。コットンラットモデルおよびアフリカミドリザルの両方において、継代3(p3)と継代17(p17)の間で顕著な弱毒化が認められ、ウイルス量において2〜4対数減少率を示した。p17ウイルス個体群と起源種のMerck株287から単離されたゲノムDNAの配列を比較した結果、p17ゲノム中に複数のヌクレオチド突然変異が確認され、それらの大半はG、FおよびLタンパク質をコードする遺伝子(以下各々G、FおよびL遺伝子と称する)の中に存在した。p17はMerck株287と比較して、総数21のヌクレオチドの相違と、11アミノ酸の相違を有している。p17由来のプラーク純化したウイルス(p17 pp)は、Merck株287と比較して更に1つのヌクレオチド突然変異を有している。継代5(p5)、継代10(p10)および継代15(p15)において配列分析を更に行い、継代過程をとおして遺伝子の変化をモニターするとともに、継代18(p18)および継代22(p22)において配列分析を行い、誘導された突然変異の遺伝的安定性を評価した。免疫原性および防護試験も行った。これらの試験結果は、本明細書において開示されるp17株が遺伝的に安定であり、免疫原性および防護性を有し、非病原性であることを示している。したがって、本発明の生弱毒化RSVはRSV感染に起因する疾患を防御するためのワクチンとして使用し得る。
【0034】
Merck株287(継代0またはp0)とその様々な継代株との間での配列比較の詳細な一覧が後段の実施例2および4に記される。簡単に説明すると、p0、p17およびp17 pp(p17由来のプラーク純化ウイルス)の全長ウイルスゲノムが配列決定、比較され、同様に継代5、10、15および18の標的配列についても配列決定、比較がなされた。Merck株287のゲノム配列を配列番号25として記す。p17およびp17 pp株のゲノム配列を、各々配列番号26よび配列番号91として記す。Merck株287とp17のウイルスゲノム間において相違する21ヌクレオチドの位置および具体的なヌクレオチド突然変異を表5(後段)に列挙する(例えば、5295位におけるアラニン(A)からグアニン(G)への突然変異)。p17 pp株のゲノム配列は、本明細書において配列番号91として記す。p17 ppのゲノム配列は、NS1タンパク質をコードする遺伝子内(NS1遺伝子のヌクレオチド162位)において更に非表現ヌクレオチド突然変異を有することを除けば、p17のゲノム配列と同じである。表8(後段)には、Merck株287、p17およびp17 pp間におけるヌクレオチドの相違が記されている。表6および/または表9(後段)には、p17とp17 ppゲノム配列内におけるヌクレオチド突然変異の位置が列挙されるとともに、RSV遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の対応する位置が示されている。例えば、p17ウイルスゲノム5295位の突然変異はG遺伝子ORFのヌクレオチド610位の突然変異に対応する。表6および表9は更に特定の点突然変異(あるいは点突然変異の組合せ)によってアミノ酸置換が生じるか否かと、当該置換アミノ酸の位置を記している。例えば、p17ウイルスゲノムのヌクレオチド5295位における突然変異によって、Gタンパク質のアミノ酸204位においてリシン(LYS)からグルタミン酸(GLU)へのアミノ酸置換が生じる。p17およびMerck株287の間における21のヌクレオチドの相違(およびp17 ppおよびMerck株287の間における22のヌクレオチドの相違)の中において、1つのヌクレオチドの相違がウイルスゲノムの非翻訳領域内(即ち、5’非翻訳領域内のヌクレオチド15046)に位置している。
【0035】
p17ウイルスゲノム内において同定された親p0株(Merck株287)に対する21ヌクレオチドの相違のうち、RSVウイルスゲノムのヌクレオチド6538位、7115位、8937位および14656位に位置する4つのヌクレオチドの相違が、継代17に含まれるウイルス個体群内において、多型を示し得る(後段の実施例2参照)。これらの位置は配列番号26において「n」で示される。6538位の「n」はGまたはAのいずれかでありえ、7115位の「n」はAまたはGのいずれかでありえ、8937位の「n」はAまたはCでありえ、14656位の「n」はGまたはTのいずれかでありえる。これらのヌクレオチド多型は、FおよびL遺伝子(各々配列番号17および23)に対応する遺伝子配列中においても「n」で示され、FおよびLタンパク質(各々配列番号18および24)に対応するタンパク質配列中においては「x」で示される。多型は2つ(またはそれ以上)の遺伝子の形態が1つの個体群の中に存在することを意味し、いずれの形態もあまりに多く存在するため、単に新規であるとの理由のみで重要でない突然変異と認識することはできない。これらの利用可能性がある多型のうちの2つがFタンパク質のコード領域内に位置し、他の2つがLタンパク質のコード領域内に位置している。これらの多型はシークエンシングクロマトグラムにおいてはっきりと表れており、少なくとも2つのヌクレオチドに対応する二重のピークによって示される。この多型の存在は、配列分析のためにDNAが抽出されたp17ウイルス集団の中にあるウイルスの個体群は、同一のウイルス個体から成る群ではないことを示している。これら4つのヌクレオチド多型はいずれもアミノ酸置換の原因となる(後段の実施例2参照)。
【0036】
p17RSV株はクローン集団、p17 ppになるまでプラーク純化し、配列を決定した(後段の実施例4参照)。p17 ppゲノム内のNS1タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド162における非表現突然変異の同定に加えて、p17のLおよびFタンパク質をコードする遺伝子内において見出された多型を解明した(後段の表8および9参照)。かくして、p17 ppウイルスのFおよびLタンパク質をコードする遺伝子が本明細書において各々配列番号92および配列番号94として記され、コードされるタンパク質が配列番号93および配列番号95として記される。
【0037】
(後段の実施例2の中にある)表7は、本明細書に記されるMerck株287の継代を経て誘導された突然変異の進行過程を示す。例えば、継代5(p5)ではRSVゲノムのヌクレオチド954位に位置する1つのヌクレオチド突然変異のみが認められる。継代が進むにしたがってヌクレオチド突然変異の数が増え、p17内の21ヌクレオチド突然変異のうち少なくとも20がp15までに存在することとなる。p17において見出された、5’非翻訳領域内のウイルスゲノムのヌクレオチド15046に位置する21番目のヌクレオチド相違はp15において存在するであろうが、p15ウイルスゲノムの当領域を含む遺伝子断片の配列決定は行わなかった。
【0038】
図7に示される結果は、p3、p5、p10およびp15のin vivo複製を比較することにより、ウイルス継代と弱毒化程度の関係を強調している(後段の実施例3も参照のこと)。継代5(p5)はp3に比較してすでに複製の減弱を示している。継代10(p10)および15(p15)は、複製の更なる減弱を示し、p10とp15の間で複製の顕著な減弱が示される。p15ウイルスは上記のp17ウイルスと同様に弱毒化されていると考えられる(図5参照)。p10とp15内に存在する突然変異の整列を比較すると、p15はFおよびLタンパク質のコーディング領域内に位置する2つの更なるヌクレオチド相違を有しているのみである。したがって、如何なる特定の理論にしばられるものではないが、Fおよび/またはLタンパク質のコーディング領域がRSVの弱毒化に特に重要である可能性がある。p17のプラーク純化された誘導体、p17 ppの弱毒化の解析によって、このウイルスは親p17株と同様に弱毒化されていることが示された(後段の実施例4参照)。
【0039】
表1は、Merck株287(MRK287)、p17、p17 ppおよび公表されている野生型種hRSV S2(NCBI GenBank Accession no. U39662; Tolley ら、 1996、 Vaccine 14:1637−1646)のNS1、NS2、G、FおよびL遺伝子のオープンリーディングフレームならびにコードされるタンパク質の配列番号を列挙する。
【表1】
【0040】
RSVは非分節型、マイナス一本鎖RNAゲノムである。そのため、遺伝子断片の再集合は起こらない。しかし、RNAポリメラーゼがRNA校正能および編集能を欠いているために、RSVゲノムは極めて変異しやすい。様々なRSV遺伝子の配列を研究することにより、ヒトRSVが2つの大きなグループ(AおよびB)に分けられることが確認されているが、各々のグループ内においても多くの変異体や系統が同定されている(例えばPeretら、 1998、 J Gen. Virol. 79:2221−2229参照)。抗原性が異なる2種類のヒトRSVサブグループの間では、アミノ酸配列の同一性は96%(Nタンパク質について)から53%(Gタンパク質について)の範囲にある(Johnson ら、 1987, Proc. Natl Acad. ScL USA 84:5625−5629)。グループA内とグループB内においては、Gタンパク質はそれぞれ20%未満と9%のアミノ酸多様性を示す。(Caneら、 1991、 J. Gen. Virol 72:649−357; Sullenderら、1991、 J. Virol 65:5425−5434)。
【0041】
この遺伝的不均一性の例として、図1、2、3および4において、各々Merck株287、p17およびhRSV S2由来のNS2、G、FおよびLタンパク質のアライメントが示される。図1中のNS2タンパク質のアライメントに示されるように、Merck株287と本明細書に記載されるp17継代株の間にはアミノ酸相違は存在しないが、Merck株287およびp17の両方と野生型hRSV S2株との間には2つのアミノ酸相違が存在する(図1において下線で示す)。しかし、Merck株287とhRSV S2はいずれも表現型は野生型であることに注目することが重要であり、したがってMerck株287およびp17の両方とhRSV S2との間に存在するアミノ酸相違はp17またはp17 ppの弱毒化を誘導するものでも、弱毒化に寄与するものでもない。
【0042】
同様に、G、FおよびLタンパク質配列内においてMerck株287とp17の両方と野生型hRSV S2株との間にアミノ酸相違が存在する(各々図2、3および4において下線1本で示されたアミノ酸参照)。しかし、Merck株287とp17のG、FおよびLタンパク質配列の間にもアミノ酸相違が存在する(各々図2、3および4において下線2本で示されたアミノ酸参照)。これらの下線2本で示されたアミノ酸相違のうち1つ以上がp17およびp17 ppに対して証明された弱毒表現型に関与していると考えられる。
【0043】
したがって、本発明は生弱毒化RSVに関するものであり、当該生弱毒化RSVは、Merck株287と比較してp17および/またはp17 ppにおいて記載されたヌクレオチド突然変異を1つ以上含み、および/または、本明細書でp17において記載されたアミノ酸突然変異を1つ以上コードする、改変されたウイルスゲノムを有している。1つの実施態様では、当該弱毒化RSVのウイルスゲノムは例えば、配列番号25で示されたMerck株287のゲノム配列またはその他の野生型の表現型を有するRSV株(例えばhRSV S2)に比較して、更なる相違ヌクレオチドを含むか、および/または、更なる相違アミノ酸をコードすることができ、ここで当該更なるヌクレオチドおよび/またはアミノ酸突然変異は実質的に弱毒表現型に関与しないものである。
【0044】
他の実施態様において、本発明の生弱毒化RSVは、弱毒化の既知遺伝子マーカー(例えばConnersら、 1995、 Virology、 208:478−484; Croweら、 1996、 Virus Genes 13:269−273; Firestoneら、1996、Virology 225:419−422; Whiteheadら、1998、J Virol. 72:4467−4471参照)における更なる突然変異に加えて、p17および/p17 ppにおいて記載されたヌクレオチドおよび/またはアミノ酸突然変異を1つ以上含んでいてもよい。
【0045】
II.種々の実施態様の例
第1の実施態様として、本発明は生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に関するものであり、当該ウイルスに含まれるウイルスゲノムは、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位のアラニン、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位のグリシン、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位のグリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位のリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位のグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位のアラニン、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位のフェニルアラニンからなる群より選択される1以上のアミノ酸を含むタンパク質をコードする。したがって、この実施態様において、本発明の生弱毒化RSVはこの段落に記載されているアミノ酸残基の1つ、全てまたは部分集団を含む。列挙されたアミノ酸残基の位置は、ウイルスゲノム内の遺伝子にコードされる特定のアミノ酸配列内におけるそれらの位置により示される。G、FおよびLタンパク質はそれぞれG、FおよびL遺伝子によってコードされる。
【0046】
更なる実施態様において、本発明の生弱毒化RSVは、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるアデニン、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるアデニン、G遺伝子のヌクレオチド610位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド668におけるグアニン位、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるグアニン、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるアデニン、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるグアニン、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるシトシン、およびL遺伝子のヌクレオチド6162位におけるチミンからなる群より選択される1つ以上のヌクレオチドを含むウイルスゲノムを含む。ウイルスゲノムはこれら特定のヌクレオチドの1つ、全てまたは部分集合を含むことができる。
【0047】
上記の特定されたアミノ酸残基および/またはヌクレオチドの1つ、全てまたは部分集合が本発明の生弱毒化RSV内に含まれ得る。上記のアミノ酸残基およびヌクレオチドは、本明細書に記載されるp17およびp17 pp内に存在する具体的なアミノ酸残基およびヌクレオチドの位置に対応している(後段の表5、6、8および9参照)。例えば、この実施態様に含まれる生弱毒化RSVは、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニン、およびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニンを含み得る。上述したように、本明細書において提示される結果は、FおよびLタンパク質内の指定されたアミノ酸残基が、p17およびp17 ppの弱毒化表現型に実質的に関与している。
【0048】
第二の実施態様において、本発明は生弱毒化RSVに関するものであり、当該ウイルスに含まれるウイルスゲノムは、非弱毒化RSVウイルスゲノムに比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含み、ここで1以上のヌクレオチド突然変異によって1以上のアミノ酸突然変異が生じ、この1以上のアミノ酸突然変異はG遺伝子にコードされる各タンパク質の204、205、211、213、221、223および232位、F遺伝子にコードされる各タンパク質の294および486位、L遺伝子にコードされる各タンパク質の148および2054位からなる群より選択されるアミノ酸位に位置している。非弱毒化RSV株は遺伝的および/または表現型の上で野生型であることができ、参照配列を提示する。アミノ酸突然変異の位置は、ウイルスゲノム内の遺伝子によってコードされる特定のアミノ酸配列の中における位置によって示される。G、FおよびLタンパク質は各々G、FおよびL遺伝子によってコードされる。上記のアミノ酸突然変異は、遺伝的に野生型であるRSV株(RSV S2株)および表現型の上で野生型であるRSV株(Merck株287)と比較した場合に本明細書に記載されるp17およびp17pp内に見出されるアミノ酸置換の位置に対応している(後段の表6および9参照)。
【0049】
更なる実施態様において、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異はアラニンへと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異はグリシンへと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異はグリシンへと変わる突然変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異はリシンへと変わる突然変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位のアミノ酸突然変異はグリシンへと変わる突然変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位のアミノ酸突然変異はアラニンへと変わる突然変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異はフェニルアラニンへと変わる突然変異である。
【0050】
更なる実施態様において、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異はLys204Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異はLys205Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異はThr211Alaであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異はLys213Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異はLys221Glyであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異はLys223Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異はGlu232Glyであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異はGlu294Lysであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるアミノ酸突然変異はAsp486Glyであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアミノ酸突然変異はAspl48Alaであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異はLeu2054Pheである。例として、Gタンパク質について使用される表示、Lys204Gluは、Gタンパク質のアミノ酸位204におけるリシン(Lys)アミノ酸残基がグルタミン酸(Glu)アミノ酸残基で置換されていることを示している。アミノ酸残基の略語は後段で示す。上述したアミノ酸突然変異は本明細書において記載するp17およびp17 pp内に存在するアミノ酸置換に対応している(後段の表6および表9参照)。
【0051】
他の実施態様において、ウイルスゲノムは上記アミノ酸突然変異の全てまたは部分集団のいずれかを生じるヌクレオチド突然変異を含む。例えば、本実施態様に含まれる弱毒化RSVのウイルスゲノムは、FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質内の提示されたアミノ酸位置の1つまたは全てにおいてアミノ酸突然変異を生じるヌクレオチド突然変異を含み得る。上述したように、本明細書において示される結果は、FおよびLタンパク質内の突然変異が実質的にp17およびp17 ppの弱毒表現型に寄与していることを示唆している。
【0052】
更なる実施態様において、上記の1以上のアミノ酸突然変異を生じる弱毒化RSVのウイルスゲノムに存在する1以上のヌクレオチド突然変異は、G遺伝子の610、613、631、637、639、661、662、667、668、695および696位、F遺伝子の880および1457位ならびにL遺伝子の443および6162位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置する。この実施態様において、アミノ酸置換を生じるためには、2つのヌクレオチド位が突然変異する必要のある場合がある。ヌクレオチド突然変異の位置は、ウイルスゲノム内に含まれる特定のORF内におけるそれらの位置によって示される。あるいは、ヌクレオチド突然変異の位置は、ウイルスゲノム自体の内部におけるそれらの位置によって示され得る。例えば、G遺伝子のヌクレオチド610位は、RSVゲノムのヌクレオチド5295位に対応している。本明細書に記載されているORF内の特定の位置における突然変異とそれに対応するRSVゲノム内における位置との関係は、後段の表6および表9に示される。
【0053】
更なる実施態様においては、ウイルスゲノムは、NS2遺伝子の327位、G遺伝子の630位、G遺伝子の654位、G遺伝子の666位およびG遺伝子の675位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置する1以上の非表現突然変異を更に含む。ウイルスゲノムは更にNS1遺伝子のヌクレオチド162位における非表現突然変異を更に含み得る。ウイルスゲノムは、これら非表現突然変異の全てまたは部分集団を含み得る。他の実施態様において、ウイルスゲノムは上述した(非表現および表現)ヌクレオチド突然変異の全てを含む。
【0054】
他の実施態様において、ウイルスゲノムは、非弱毒化あるいは不完全弱毒化RSV株のいずれかのウイルスゲノムに比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含み、この1以上の突然変異はNS1遺伝子の162位、NS2遺伝子の327位、G遺伝子の610、613、630、631、637、639、654、661、662、666、667、668、675、695および696位、F遺伝子の880および1457位ならびにL遺伝子の443および6162位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置している。上記の非弱毒化株は、遺伝的および/表現型の上から野生型RSVであり得る。更なる実施態様において、ウイルスゲノムは提示された全てのヌクレオチド位において突然変異を含む。
【0055】
更なる実施態様において、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるヌクレオチド突然変異はT260Aであり、NS2のヌクレオチド327位におけるヌクレオチド突然変異はG327Aであり、G遺伝子のヌクレオチド610位におけるヌクレオチド突然変異はA610Gであり、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるヌクレオチド突然変異はA613Gであり、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるヌクレオチド突然変異はA630Gであり、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるヌクレオチド突然変異はA631Gであり、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるヌクレオチド突然変異はA637Gであり、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるヌクレオチド突然変異はA639Gであり、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるヌクレオチド突然変異はA654Gであり、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるヌクレオチド突然変異はA661Gであり、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるヌクレオチド突然変異はA662Gであり、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるヌクレオチド突然変異はA666Gであり、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるヌクレオチド突然変異はA667Gであり、G遺伝子のヌクレオチド668位におけるヌクレオチド突然変異はA668Gであり、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるヌクレオチド突然変異はA675Gであり、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるヌクレオチド突然変異はA695Gであり、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるヌクレオチド突然変異はA696Gであり、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるヌクレオチド突然変異はG880Aであり、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるヌクレオチド突然変異はA1457Gであり、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるヌクレオチド突然変異はA443Cであり、L遺伝子のヌクレオチド6162位におけるヌクレオチド突然変異はG6162Tである。例として、用語「G327A」は、この実施態様における弱毒化RSVのNS2遺伝子の説明において用いられる場合には、この位置におけるグアニンヌクレオチドがアデニン(A)ヌクレオチドに突然変異したことを意味している。チミンおよびシトシンのヌクレオチド略称はそれぞれ「T」および「C」である。ウイルスゲノムは、提示されたヌクレオチド位の全てまたは部分集合においてヌクレオチド突然変異を含み得る。
【0056】
更なる実施態様において、本発明は生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に関するものであり、当該ウイルスに含まれるウイルスゲノムは、非弱毒化または不完全弱毒化RSV株のいずれかのウイルスゲノムに比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含み、ここで1以上のヌクレオチド突然変異はRSVゲノムの260、954、5295、5298、5315、5316、5322、5324、5339、5346、5347、5351、5352、5353、5360、5380、5381、6538、7115、8937および14656位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置している。上記の各ヌクレオチド突然変異は本明細書に記載されるRSV p17および/またはp17 pp株内に存在する。更なる実施態様において、この改変されたウイルスゲノムは記載された全てのヌクレオチド位において突然変異を有している。
【0057】
RSVタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム、RSVゲノム配列の全長またはRSVタンパク質のアミノ酸配列のいずれかの内部における特定の位置について記載する場合は、正確な位置は抗原性サブグループ(AおよびB)のグループ内および/またはグループ間ならびにウイルス種(例えばヒトウイルス対ウシウイルス)間でRSV株毎に若干の変動があることは当然に理解される。よって、複数の参照配列をアラインすることによるヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の比較分析を用いて、本明細書において記載される具体的な位置に対応する的確なヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の位置を特定することができる。したがって、具体的なアミノ酸またはヌクレオチドの位置を記す上記実施態様および以下の実施態様においては、参照配列の配列アライメントおよび分析ならびに参照配列との配列アライメントおよび分析によって決定される、それらの具体的に示された位置に対応する位置における1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸残基および/または1以上のヌクレオチド突然変異および/またはアミノ酸突然変異を含むウイルスゲノムを含む生弱毒化RSVが含まれる。
【0058】
第三の実施態様においては、本発明の弱毒化RSVは、野生型のNS1、NS2、G、Fおよび/またはLタンパク質(例えば、RSV S2 NS1、NS2、G、Fおよび/またはLタンパク質配列にそれぞれ対応する配列番号88、2、8、14および20)に関連付けられるNS1、NS2、G、Fおよび/Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、これらNS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子配列は具体的な遺伝子のp17および/またはp17 ppヌクレオチド配列と野生型ヌクレオチド配列との間で相違することが特定されているヌクレオチドまたはヌクレオチド突然変異を1つまたは組み合わせて含んでいる。ここで、当該関連付けられた配列は、異なったヌクレオチドまたはヌクレオチド突然変異の1つまたは組合せの外側領域内において当該野生型RSV遺伝子配列と少なくとも95%、好ましくは99%の配列同一性を有している。
【0059】
第四の実施態様においては、本発明に含まれる生弱毒化RSVのウイルスゲノムはG、Fおよび/またはLタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、当該タンパク質はそれぞれ配列番号12、配列番号18または配列番号93および配列番号24または配列番号95に記載されるアミノ酸配列からなる。配列番号12、18および24は本明細書に記載されるp17内のG、FおよびLタンパク質のアミノ酸配列を示す(図2、3および4参照)。FおよびLタンパク質内の多型は対応する記載配列(配列番号18および24)内において示される。したがって、更なる実施態様において、p17のFタンパク質(配列番号18)の294位はLys残基であり、および/またはp17のFタンパク質の486位はGly残基である。更なる実施態様において、p17のLタンパク質(配列番号24)の148位はAla残基であり、および/またはp17のLタンパク質の2054位はPhe残基である。配列番号93と配列番号95はそれぞれp17のプラーク純化した誘導体であるp17 pp内のFおよびLタンパク質のアミノ酸配列を示している。これら配列内の多型はプラーク純化されたウイルス内においては消失しており、配列番号93および95において示される。
【0060】
更なる実施態様において、生弱毒化RSVのウイルスゲノムはG、Fおよび/Lタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、これらタンパク質はそれぞれ配列番号12、配列番号18または配列番号93および配列番号24または配列番号95に記載されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列からなる。
【0061】
第五の実施態様においては、本明細書に記載される生弱毒化RSVのウイルスゲノムはNS1、NS2、G、Fおよび/またはLタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、これらオープンリーディングフレームの1以上はそれぞれ配列番号89または配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17または配列番号92および/または配列番号23または配列番号94に記載されるヌクレオチド配列からなる。配列番号89、5、11、17および23はそれぞれ本明細書に記載されるp17内のNS1、NS2、G、FおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列を示す。p17のFおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列は上述したヌクレオチド多型を含む。したがって、更なる実施態様において、p17のF遺伝子(配列番号17)の880位はアデニンヌクレオチドであり、および/またはp17のF遺伝子の1457位はグアニンヌクレオチドである。更なる実施態様において、p17のL遺伝子(配列番号23)の443位はシトシンヌクレオチドであり、および/またはp17のL遺伝子の6162位はチミンヌクレオチドである。配列番号90、5、11、92および94は、それぞれp17 pp内のNS1、NS2、G、FおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列を示す。p17のFおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列内の多型はプラーク純化したウイルス内において消失しており、配列番号92および94において示される。
【0062】
更なる実施態様において、生弱毒化RSVのウイルスゲノムは、NS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子に対応するオープンリーディングフレームを含み、これらはそれぞれ配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17もしくは配列番号92および/または配列番号23もしくは配列番号94に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であり、本明細書においてp17および/またはp17 ppと野生型ヌクレオチド配列の間で相違することが確認されたこれらNS1、NS2、G、Fおよび/L遺伝子内の特定のヌクレオチドのいずれか1つまたはそれらの組合せが存在している。
【0063】
第六の実施態様においては、上記各実施態様において記載された生弱毒化RSVのウイルスゲノムが更に、ウイルスゲノム内において15046位のシトシン、15046位の突然変異、15064位におけるシトシンへの突然変異またはA15046Cの突然変異のいずれかを含んでいる。ヌクレオチド15046位はRSVゲノムの5’非翻訳領域内に位置している。
【0064】
第七の実施態様においては、上記各実施態様において記載された生弱毒化RSVのウイルスゲノムが、RSVの弱毒化の既知遺伝子マーカーにおけるヌクレオチドおよび/またはアミノ酸突然変異またはRSV(好ましくはヒトRSV)に弱毒表現型を付与することが知られているヌクレオチドおよび/またはアミノ酸のいずれかを更に含む。本実施態様には、例えば化学的突然変異、冷順応または遺伝子組み換え(例えば部位特異的突然変異)によって更に弱毒化された上記実施態様に記載された生弱毒化RSVの誘導株の全てが含まれる。したがって、本明細書においてp17およびp17 ppの弱毒化に寄与していることが記載されているヌクレオチドおよび/またはアミノ酸を導入することにより、業界で既に知られている不完全な弱毒化RSV突変異株を更に弱毒化(例えばより完全な弱毒化)することができる。
第八の実施態様においては、上記各実施態様に記載された生弱毒化RSVはRSVの抗原性サブグループAまたはBのいずれかに属している。更なる実施態様においては、生弱毒化RSVはヒトRSVである。
【0065】
第九の実施態様においては、本発明の生弱毒化RSVのウイルスゲノムは、配列番号26または配列番号91に示されるヌクレオチド配列を含む。配列番号26は、本明細書に記載されるp17のウイルスゲノムのヌクレオチド配列を示している。配列番号26のヌクレオチド6538位、7115位、8937位および14656位は多型を含むことが見込まれる。したがって、配列番号26内のこれらの位置におけるヌクレオチドはGまたはA(6538位)、AまたはG(7115位)、AまたはC(8937位)およびGまたはT(14656位)のいずれか一方である。更なる実施態様において、6538位はアデニンヌクレオチドであり、7115位はグアニンヌクレオチドであり、8937位はシトシンヌクレオチドであり、および/または14656位はチミンヌクレオチドである。配列番号91は、本明細書に記すp17 ppのウイルスゲノムのヌクレオチド配列を示す。更なる実施態様において、生弱毒化RSVは配列番号26または配列番号91に示されるヌクレオチド配列に対して、ゲノム全体に亘って少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であり、本明細書においてp17および/またはp17 ppヌクレオチド配列と野生型ヌクレオチド配列の間で相違することが同定された特定のヌクレオチドのうちの1つまたはそれらの組合せが存在している。
【0066】
第十の実施態様において、本発明の生弱毒化RSVは、上記の各実施態様に記載された弱毒化RSVであって実質的にこの第10実施態様の生弱毒化RSVと同一の物理的/構造的特性および機能的特性の両方を有している対応ウイルスの内部に含まれるタンパク質および/または核酸配列と実質的に類似するこれら配列の変異体を含んでいる。1つの実施態様において、本生弱毒化RSVは、p17またはp17 ppウイルス内部に存在する改変されたタンパク質の1つ以上をコードする核酸分子の相補鎖とストリンジェントな条件化でハイブリダイズする核酸分子によってコードされる実質的に類似なタンパク質を含む。更なる実施態様において、当該生弱毒化RSVは、p17またはp17 ppウイルス内部に存在する改変された核酸分子または(コード領域が非コード領域のいずれかである)その領域の1つ以上とストリンジェントな条件化でハイブリダイズする核酸分子を含んでいる。
【0067】
第十一の実施態様において、上記の各実施態様において記載された生弱毒化RSVが生弱毒化RSVの個体群に含まれる。弱毒化RSVの個体群とは、当該ウイルスの個体群が必ずしも1種類のウイルスに対して相同ではないことを意味している。例えば、本明細書において記載するように、本明細書に記載するRSV株の継代後期において、多型の存在が見出されている。本明細書に記載されるp17ゲノム内には4つの多型部位が存在している。したがって、p17によって示されるようなウイルスの個体群は、本明細書に記される固定されたヌクレオチド突然変異(即ち非多型)に加えて、4つの多型部位、6538、7115、8937および14656位において2つの候補ヌクレオチドのうちの1つを含むゲノムを有する複数の弱毒化ウイルスから構成され得る。RSV個体群は、本明細書(後段の実施例1参照)に記載するように細胞培養中で非弱毒化または不完全弱毒化RSV株のいずれかを連続的に継代することによって作ることができ、この連続継代には配列番号25に示すウイルスゲノムを有するMerck株287の連続継代が含まれるがこれに限定されるものではない。ウイルス個体群は、適当な細胞型において継代するか、または1以上の一連のクローニング工程を実施することにより均一、あるいは実質的に均一にまで精製することができる。
【0068】
本発明の更なる実施態様には、上記各実施態様に記載される生弱毒化RSVまたはその個体群であって、本明細書において特定のウイルスタンパク質または遺伝子のp17またはp17 pp配列と野生型配列の間で相違することが見出された1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸が、遺伝子組み換え方法によって非弱毒化または不完全弱毒化RSV株に導入されることによって当該ウイルスが作られたものを含む。本発明の更なる実施態様において、上記各実施態様において記載されたような生弱毒化RSVまたはその個体群は、(配列番号25に示すゲノム配列を有する)Merck株287を後段の実施例1に記載する方法によって連続的に継代することを含む工程により作られる。したがって、当該実施態様には、配列番号25に記載されるウイルスゲノムを含む非弱毒化RSV株を(アフリカミドリザル腎臓細胞株、VeroCCL−81を含むがこれに限定されない)細胞株中において一定の感染多重度(MOI)(例えば1:100から1:1000の間)で継代することを含む。
【0069】
本発明の更なる実施態様には、特定のウイルス遺伝子またはタンパク質のp17またはp17 ppヌクレオチドまたはアミノ酸配列と野生型ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間で相違することが見出されている(前段または後段において詳述する)1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸を遺伝子組み換え方法により非弱毒化または不完全弱毒化RSV株に導入することを含むRSVの弱毒化方法が含まれる。本発明の更なる実施態様には、後段の実施例1において記載する方法によって(配列番号25に示すゲノム配列を有する)Merck株287を連続的に継代することを含むRSVの弱毒化方法が含まれる。
【0070】
本発明は、(a)(例えば人体の)治療、(b)薬、(c)RSV複製の阻害、(d)RSV感染の治療または予防、または(e)RSV関連疾患の治療、予防または発症もしくは進行の遅延について、(i)これらのために使用するか、(ii)これらのための医薬として使用するか、(iii)これらのための医薬の製造において使用するための、上記各実施態様に記載された1以上の生弱毒化RSV、その個体群または当該弱毒化ウイルスを含むワクチンをも含む。
【0071】
III.医薬組成物
本明細書に記載される生弱毒化RSVまたは当該生弱毒化RSVを含むウイルス個体群および医薬上許容される担体を含む医薬組成物も本発明によって提供される。
したがって、本明細書に記載される生弱毒化RSVは、生物学的活性の維持を補助し、また許容可能な温度範囲内での保存期間における安定性を向上させるために、医薬上許容可能な担体とともに製剤化することができる。本明細書で用いる場合、「医薬上許容可能な担体」との用語は、当業界で周知でありRemington’s Pharmaceutical Sciencesのような様々なテキストに記載されている適当な製剤用担体を含む。担体として使用可能なものには生理的平衡培養液、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルション(例えば油/水または水/油エマルション)、タンパク質、ペプチドもしくは加水分解物(例えばアルブミン、ゼラチン)等の安定化剤もしくは凍結保護用添加剤、糖(例えばラクトース、ソルビトール)、アミノ酸(例えばグルタミン酸ナトリウム)またはその他利用可能な薬品が含まれるが、これらに限定されない。得られた水溶液はそのまま使用するように容器に入れられるか、または凍結乾燥される。凍結乾燥された配合剤は無菌液と組み合わされて単回投与または複数回投与のいずれかで投与される。製剤化された組成物、特に液剤は、保存時における分解を防止または軽減するために、有効濃度(通常は1% w/v以下)のベンシルアルコール、フェノール、m−クレゾール、クロロブタノール、メチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンを含む(但しこれらに限定はされない)静菌薬を含んでいても良い。静菌薬はある種の患者には禁忌であり、したがって凍結乾燥された製剤は、これらの成分を含む溶液か含まない溶液のいずれかに溶かすことができる。
【0072】
この医薬組成物は、宿主の免疫応答を亢進させるためにアジュバントを含んでいても良い。適当なアジュバントは、例えば、toll様受容体アゴニスト、alum、AIPO4、アルハイドロゲル、Lipid−Aおよびそれらの誘導体または変異体、油エマルション、サポニン、中性リポソーム、当該ワクチンおよびサイトカインを含むリポソーム、非イオン性ブロック共重合体およびケモカインである。POE−POP−POEのようなポリオキシエチレン(POE)およびポリオキシプロピレン(POP)を含む非イオン性ブロック共重合体をアジュバントとして使用することができる(Newmanら、 1998、 Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 15:89−142)。これらのアジュバントは、非特異的に免疫系に対する刺激を促進し、その結果薬剤に対する免疫応答を亢進する点において好都合である。
【0073】
あるRSVサブグループまたは株由来の本明細書に記載する生弱毒化RSVは、別のサブグループまたは株由来の他の弱毒化RSVと組み合わせることが可能である。他のウイルスは、混合製剤中に含ませることができ、同時に、または別々に投与することができる。RSVの特定の株の間で干渉効果現象が起こることから、ある株による免疫によって、同じ、または異なったサブグループに属する複数の他のウイルス株に対する防御が可能である。したがって、本明細書に記載する単離された弱毒化RSVは、他の非−自然発生的RSVと組合せられるか、弱毒化RSVの個体群中に存在し得る。
【0074】
場合によっては、本明細書に記載される生弱毒化RSVまたはその組成物を、別の病原体、特に他の小児疾患の原因となる病原体に対して防御応答を誘発する他の医薬品(例えばワクチン)と組み合わせることが望ましい。例えば、本明細書に記載する弱毒化RSV組成物は、標的とする年齢群(例えば、生後約1から6ヶ月齢の乳児)に対して予防接種実施諮問委員会(ACIPhttp://www.cdc.gov/vaccines/recs/ACIP/default.htm)が推薦する他のワクチンと同時に(典型的には別々に)または連続的に投与することができる。これらの追加ワクチンには、他の非経口投与ワクチンが含まれるが、これに限定するものではない。したがって、本明細書に記載する生弱毒化RSV組成物は、例えばB型肝炎(HepB)、ジフテリア、破傷風および百日咳(DTaP)、肺炎球菌(PCV)、ヘモフィルス‐インフルエンザb型菌(Hib)、ポリオ、インフルエンザおよびロタウイルスに対するワクチンと同時または連続的に投与することができる。
【0075】
IV.使用方法
生弱毒化RSVまたは当該生弱毒化ウイルスを含むウイルス個体群を含む医薬組成物は、RSV感染およびそれに関連する疾患を治療することを目的として対象者に接種するために有用である。本発明の範囲は、母子免疫を含むことを意図している。
【0076】
したがって、本発明は更に、上記の医薬組成物の有効量を対象に投与することによって、RSVに感染しないよう対象に予防接種する方法を提供する。この対象は動物、例えばチンパンジーやヒトなどの哺乳動物を含む。本明細書に記載する生弱毒化RSVをRSVに感染しやすい人、あるいはRSV感染または(再感染を含む)RSV感染に関連する重篤な疾患の発症に対して危険性を有する人に投与して、対象者自身の免疫応答能を亢進させる。特に、新生児、血清反応陰性および陽性の乳児および小児ならびに高齢者においてRSV感染は潜在的に重大な影響を有することから、開示される生弱毒化RSV組成物による免疫はこのような人達にとって有益であろう。したがって、記載される医薬品による免疫に特に適した対象者は、乳児、子供、高齢者および免疫抑制治療を受けている成人である。血清反応陰性者とは、サブグループAまたはBのRSVにかつて感染したことを示す免疫学的痕跡を有さない者である。血清反応陽性者とは、母親から受動的に、あるいは過去におけるRSV感染の結果として、検出可能なRSV抗体を獲得した者である。
【0077】
本明細書に記載する生弱毒化RSVを含む医薬組成物は、対象者が後に野生型RSVに感染または再感染した場合に、肺炎や細気管支炎などの重篤な下気道疾患を防ぐ免疫応答の発現を誘導する。自然に循環しているウイルスは、依然として感染症、特に上気道における感染症の原因となり得るが、予防接種およびその後の野生型ウイルス感染によって生じる可能性がある抵抗性の増大により、鼻炎発症の可能性が大きく減少する。予防接種の後に、宿主は検出可能なレベルの血清抗体および分泌性抗体を産生し、これら抗体は(同じサブグループの)相同性野生型ウイルスをin vitroおよびin vivoで中和することができる。多くの場合、宿主抗体は異なった非ワクチンサブグループの野生型ウイルスをも中和するであろう。例えば別のサブグループの異種株に対してより高いレベルの干渉効果を得るために、サブグループAおよびBの両方の少なくとも1つの主要な株由来の本明細書に記載する生弱毒化RSVで予防接種することができる。したがって、本明細書に記載する生弱毒化RSVは抗原性サブグループAまたはBのいずれかに属することが可能であり、流行しているRSV感染に対してより広い適応範囲を得るために両サブグループ由来のウイルスをワクチン製剤において組み合わせることができる。本明細書に記載する生弱毒化ワクチンおよびその医薬組成物は、対象、好ましくはヒトにおいてRSVに対する効果的な免疫応答を誘導または亢進させるために有効な量で提供される。所望の免疫応答を得るために、有効投与量においてウイルスの増殖および拡散がある程度許容されるが、RSV関連症状あるいは疾患の原因とはならない。本明細書において示される指針に基づいて、当業者は容易に生ワクチンにおいて使用するウイルスの適切な量を決定することができるであろう。正確な量は、いくつかの要因、例えば対象者の健康状態および体重、投与方法、ウイルスの弱毒化程度、製剤の特性による影響を受け、また、対象者の免疫系が損傷しているか否かによって変動するであろう。1つの実施態様において、(ヒト対象1人あたり約104から約105プラーク形成単位(PFU)ウイルスを含め)ヒト対象1人あたり約103から約107PFU以上のウイルスである。
【0078】
投与は、防御免疫応答の誘導に有効であることが知られている形態であればよく、選択肢には非経口投与、静脈内投与、経口投与または局所的に粘膜表面へ塗付することが含まれる。大抵の場合、本明細書で記載される生弱毒化RSVは非経口投与される。
【0079】
本明細書に記載される生弱毒化RSVおよびその医薬組成物の単回または複数回投与が実施可能である。新生児および乳児においては、十分な免疫レベルを得るために複数回の投与が必要となり得る。天然の(野生型)RSV感染にたいして十分な防御レベルを維持する必要があることから、投与は生後一ヶ月以内に開示されて、小児期にわたって間をおいて繰り返し継続される。例えば、一ヶ月目に最初の投与を行い、その後二ヶ月、六ヶ月、一年および/または二年目に投与するスケジュールが可能である。予防接種の頻度は、他の併用ワクチンの最新のガイドラインと適合するように調整することができる。誘導免疫のレベルは中和分泌抗体および血清抗体の量を測定することによってモニターすることが可能であり、所望の防御レベルを維持するために、必要に応じて用量を調節し、またワクチン接種を反復して行う。
【0080】
いずれにせよ、ワクチン製剤、その効果的投与用および具体的な投与経路は、例えば補体結合アッセイ、プラーク中和アッセイおよび/または酵素免疫吸着測定法、その他の方法(例えば、モニタリング対象の応答を、上気道および下気道疾患の兆候および症状からの防御と関連付ける方法)によって測定できるような抗RSV免疫応答を、効果的に刺激し、誘導し、または増強するのに十分な量の本明細書に記載の生弱毒化RSVを提供するものでなければならない。
【0081】
V.生弱毒化RSVの生成
本明細書に記載される生弱毒化RSVは、生物学的に誘導するか、遺伝子組み換えによって産生される。「生物学的に誘導されたRSV」とは、組み換え技術によって産生されたものではないRSV(例えば継代培養によるRSV)を意味している。「遺伝子組み換えによって産生されたRSV」とは、ウイルスクローニング技術(例えばリバースジェネティクス法)によって産生されたRSVを意味している。生弱毒化RSVは参照RSV配列と比較するとゲノム変動を含んでおり、ここで参照RSV配列とは野生型または不完全に弱毒化されたRSVである。
【0082】
したがって、本明細書に記載された特定のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸残基が導入されたRSVゲノムは、遺伝的および/または表現型の上で野生型であるウイルスまたは既に部分的に弱毒化されたウイルスのような野生型ウイルスの誘導体を基に得られ、後者の場合には新たに導入されたヌクレオチドおよび/またはアミノ酸残基は(例えば哺乳動物宿主内では複製が制限され、一方ワクチン接種された対象内において防御を付与する十分な免疫原性を維持している所望のレベルまで)その株を更に弱毒化するように働く。生物学的に誘導されたか、または遺伝子組み換えによって産生されたいずれかのサブグループAまたはBのRSVは、例えば、冷却継代(cold−passaging)、化学的突然変異誘発または部位特異的変異誘導(site−directed mutagenesis)によって部分的に弱毒化することができる。冷却継代によるウイルスの弱毒化では、ウイルスを漸次低温化するような細胞培養中において継代する。例えば、野生型ウイルスは典型的には約34〜37℃で培養されるが、部分的に弱毒化されたウイルスは最適下限温度、例えば20〜26℃において細胞培養(例えばウシ腎臓細胞の初代培養)中において継代することによって産生することができる。化学的突然変異によるウイルスの弱毒化には、例えば、約10−3から10−5 M、好ましくは10−4 Mの5−フルオロウリジンまたは5−フルオロウラシル等の突然変異原の存在下でのウイルスの複製または約100μg/mlの濃度のニトロソグアニジンへのウイルスの暴露等の例えばGharpureら、 1969、 J.Virol. 3:414−421 およびRichardson ら、 1978、 J.Med.Virol.3:91−100に記載された一般的な手法による方法が含まれる。その他の化学的突然変異原も使用することができる。部分的に弱毒化されたRSVは、弱毒化突然変異(不完全な弱毒化突然変異であってもよい)を野生型RSVのゲノム内に導入することによって遺伝子組み換え的に作ることもできる。様々な選択技術を組み合わせて、部分的に弱毒化された突然変異体を非弱毒化サブグループAまたはB株から作ることが可能であり、この突然変異体は本明細書に記載されるような更なる誘導体を作るために有用である。
【0083】
本明細書に記載される生弱毒化RSVは、遺伝子組み換えによって、例えばcDNAから作製することができる。ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の変異は、単独あるいは組合せのいずれかの状態で野生型または部分的に弱毒化されたRSVのゲノム内に挿入することができる。これらの変異によって、後段の実施例に記載される生物学的に誘導された弱毒化RSVの所望の表現型特性が特定される。感染性RSVは、生弱毒化RSVのゲノムまたはアンチゲノムRNAをコードするcDNAを、随伴性のタンパク質およびゲノムRNAを含む転写、複製ヌクレオカプシドを産生するために必要なウイルスタンパク質とともに哺乳動物の細胞中で共発現させることによって作製することができる(例えば、Palese、 1995、 Trends in Microbiology、 3:123−125; Lawsonら、 1995、 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:4477−4481;Schnellら、 1994、 EMBO J. 13:4195−4203参照)。RSVアンチゲノムとは、単離されたマイナス鎖ポリヌクレオチド分子であって、子孫マイナス鎖RSVゲノムを合成するための鋳型として機能するものを意味している。したがって、1以上の単離されたポリヌクレオチド、例えば1以上のcDNA、由来の本明細書に記載される1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸を有する生弱毒化RSVを産生する方法も本発明に含まれる。
【0084】
周知技術によって、以上定義したヌクレオチド/アミノ酸残基を(単独または組み合わせて)感染性RSVクローンに導入することができる。「感染性クローン」との用語は、cDNAまたはその産物、合成物その他であって、感染性ウイルスまたはサブウイルス粒子のゲノムを作るための鋳型として機能し得るゲノムRNAまたはアンチゲノムRNAに転写され得るものを意味している。特定された突然変異を、従来技術(例えば部位特異的突然変異)によって、RSVゲノムまたはアンチゲノムのcDNAコピーに導入することができる。アンチゲノムまたはゲノムcDNAサブフラグメントを用いて完全なアンチゲノムまたはゲノムcDNAを構築する場合には、それぞれの領域を個別に処理し(小さなcDNAは大きなcDNAに比較して処理が簡単である)、その後容易に完全なcDNAを構築することができる点において有利である。例えば、突然変異されたサブフラグメントで、野生型または不完全に弱毒化されたRSVのゲノムまたはアンチゲノム配列由来の対応サブフラグメントを置換することができる。対応サブフラグメントは、選択された突然変異サブフラグメントと実質的に同一の配列を有している。したがって、完全なアンチゲノムもしくはゲノムcDNAまたはそれらのいずれかのサブフラグメントを、オリゴヌクレオチド指定突然変異のための鋳型として用いることができる。これは一本鎖ファージミド形態の中間体を経るものであってよく、例えば、Bio−Rad Laboratories (Richmond,Calif.)のMuta−gene(登録商標)キットを使用するものであったり、Stratagene(La Jolla,Calif.)のChameleon mutagenesisキット等の二本鎖プラスミドを直接鋳型として使用する方法、あるいは目的の突然変異を含むオリゴヌクレオチドプライマーまたは鋳型のいずれかを用いるポリメラーゼ連鎖反応によるものであってもよい。RSVゲノムまたはアンチゲノムは、例えばRSV mRNAまたはゲノムRNAの逆転写コピーのポリメラーゼ連鎖反応(本明細書において参考として援用するPCRプロトコル:A Gude to Methods and Applications, Innisら編集、 Academic Press, San Diego (1990))によるクローン化cDNAフラグメントを集合させて、集合体中に完全なアンチゲノムを復元することによって構築することもできる。あるいは、アンチゲノムまたはゲノムRNAはin vitroで合成することができる。
【0085】
cDNA発現ゲノムまたはアンチゲノムから感染性RSVを作るために、ゲノムまたはアンチゲノムを、(i)RNA複製が可能なヌクレオカプシドを産生し、(ii)子孫ヌクレオカプシド構成成分をRNA複製と転写のために提供するために必要なRSV補助的タンパク質と共に発現させる。ゲノムヌクレオカプシドによる転写によって、その他のRSVタンパク質が提供され、有効な感染が開始される。あるいは、有効な感染のために必要な他のRSVタンパク質が共発現によって供給される。
【0086】
例えば、本明細書に記載される生弱毒化ウイルスゲノムの感染性RSVクローンは最初にプラスミドベクター内に導入され得る。その後の感染および哺乳類宿主細胞内における転写に適したプラスミドベクターは市販されている。更にcDNAを含むプラスミドベクターはバクテリオファージT7 RNAポリメラーゼを発現する宿主細胞にトランスフェクションすることができる。RSV主要ヌクレオカプシド(N)タンパク質、ヌクレオカプシドリン(P)タンパク質、大(L)ポリメラーゼタンパク質を発現し、更に転写伸長因子M2 ORF1タンパク質を発現してもよい別のプラスミドベクターを宿主細胞中に同時トランスフェクションすることができる。cDNAは転写されて完全長のマイナス鎖(ゲノム)RNAを作る。N、LおよびPタンパク質の発現および任意のM2(ORF1)タンパク質の発現によって、子孫ウイルスの製造が促進される。続いてビリオンを単離する。この方法において、転写、複製ヌクレオカプシドの産生に必要なタンパク質をコードする相補配列(例えばN、P、LおよびM2(ORF1)タンパク質をコードする配列)のマイナス鎖転写体とハイブリダイズする可能性をできる限り小さくするために、cDNAは複製中間体RNAに対応するRSVゲノムのプラス鎖型として構築されることが好ましい。RSVミニゲノムシステムを用いる場合には、ゲノムおよびアンチゲノムは、RSVまたはプラスミドのいずれかによって補完され、レスキューにおいて共に活性であり、このことは、方法論またはその他の理由にしたがってゲノムまたはアンチゲノムのいずれかが使用できることを示している。
【0087】
N、P、Lおよび任意にM2(ORF1)タンパク質は、ゲノムまたはアンチゲノムをコードする発現ベクターと同じであっても異なっていてもよい1つ以上の発現ベクターおよびそれらの様々な組合せによってコードされ得る。所望により、新たな別のベクターまたはN、P、LあるいはM2(ORF1)タンパク質をコードするベクターまたは完全なゲノムまたはアンチゲノムをコードするベクターによってコードされる別のタンパク質が含まれていても良い。トランスフェクションされたプラスミドからのゲノムもしくはアンチゲノムおよびタンパク質は、例えば、T7 RNAポリメラーゼのプロモーターの制御下にあるそれぞれのcDNAによって発現が可能であり、T7 RNAポリメラーゼの発現系、例えばT7 RNAポリメラーゼを発現するワクシニアウイルスMVA株組換体で感染、トランスフェクションまたは形質転換することにより、T7 RNAポリメラーゼも同様に提供される(Wyattら、1995、Virology、210:202−205)。
【0088】
ゲノムもしくはアンチゲノムをコードする単離されたポリヌクレオチド(例えばcDNA)と、別にN、P、L(および任意にM2(PRF1))タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドは、トランスフェクション、エレクトロポレーション、機械的挿入(mechanical insertion)、形質導入等によって、増殖性RSV感染を補助し得る細胞、例えばHEp−2、FRhL−DBS2、MRCおよびVero細胞等に挿入することができる。単離されたポリヌクレオチド配列のトランスフェクションを、例えばリン酸カルシウム媒介トランスフェクション(Wiglerら、1978、Cell 14:725;Corsaro & Pearson、1981、Somatic Cell Genetics 7:603;Graham & Van der Eb、1973、Virology 52:456)、エレクトロポレーション(Neumannら、1982、EMBO J 1:841−845)、DEAE−dextran媒介トランスフェクション(Ausubelら、(編集) Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons, Inc. NY(1987))、陽イオン性脂質媒介トランスフェクション(Hawley−Nelsonら、1993、Focus 15:73−79)または市販されているトランスフェクション用試薬、例えばLipofectACE(登録商標)(Life Technologies)を用いて培養細胞に導入することができる。ウイルスタンパク質および/またはT7 RNAポリメラーゼを、形質転換した哺乳類細胞から得ることも、あるいは予め形成されたmRNAまたはタンパク質のトランスフェクションによって得ることもできる。
【0089】
本願発明の生弱毒化RSVが(例えば上記のクローニングおよびレスキュー実験によって)作製されれば、RSV増殖が可能な多数の細胞株内において弱毒化ウイルスを殖やすことができる。RSVは様々なヒトおよび動物細胞内において増殖する。この生弱毒化RSVの増殖に適した細胞株の例としてDBS−FRkL−2、MRC−5およびVero細胞が挙げられる。Vero細胞等の上皮細胞株において通常最も高いウイルス産生が得られる。典型的には、約0.001から約1.0以上の感染多重度で細胞にウイルスを植え付け、ウイルスの複製が可能な条件下、例えば約30〜37℃で約3〜5日間、またはウイルスが適当な力価に達するのに必要な限り培養する。ウイルスを細胞培養から回収し、典型的には遠心分離等の周知の浄化手法によって細胞成分から分離し、必要に応じて当業者に周知の手法を用いて更に精製する。
【0090】
本明細書において記載される弱毒化されたRSVは、in vivoおよび/またはin vitroモデルで試験を行い、適切な弱毒化、遺伝的安定性および免疫原性を確認することができる。遺伝的に改変されたRSVの弱毒化レベルは、例えば感染者の気道内に存在するウイルスの総量を測定し、表現型が野生型であるRSV(例えばRSV A2、Merck株287)による総量と比較することで決定し得る。弱毒化ウイルスは、Meignerら編集のAnimal Models of Respiratory Syncytial Virus Infection、Merieux Foundation Publication (1991)に記載され、概要が記されている様々なRSV感染の動物モデルで試験することができる。例えば、RSV感染のコットンラットモデルは、古くからヒトにおける弱毒化および有効性を予測させると認められている(米国特許第4800078号、Princeら1985、Virus Res. 3:193−206、Princeら、1987、J.Virol.61:1851−1854)。マウスを含む他のげっ歯類においてもRSV増幅が可能であり、これら動物はむしろヒトに近いコア体温を有することから、同様に有用である(Wightら、1970、J.Infect.Dis.122:501−512、ByrdおよびPrince、1997、Clin.Infect.Dis.25:1363−1368)。特に、霊長類モデルはRSV感染を試験する上で遺伝的、免疫原的に適切な宿主系である(McArthur−VaughanおよびGershwin、2002、J.Med.Primatol.31:61−73)。例えば、チンパンジーを用いたRSV感染の霊長類モデルは、ヒトにおける弱毒化および有効性を予測させる(Richardsonら、1978、J.Med.Virol.3:91−100;Wrightら、1992、Infect.Immun.37:397−400;Croweら、1993、J.Med.Virol.3:91−100;Wrightら、1982、Infect.Immun.37:397−400;Croweら1993、Vaccine11:1395−1404参照)。アフリカミドリザルもRSV感染のモデルとして使用されている(Chengら、2001、Virology283:59−68;Kakukら、1993、J.Infect.Dis.167:553−61;Weissら、2003、J.Med.Primatol.32:82−88)。更に、弱毒化のin vitro分析にはヒト気道上皮細胞におけるウイルス増殖の評価が含まれる(Wrightら、2005、J.Virol.79:8651−8654)。
【0091】
本明細書に記載される生弱毒化RSVは、サルやコットンラットなどの高感受性宿主の上気道および下気道の両方で、野生型ウイルスに比較してはるかに少ない程度の増幅、例えば1000分の1以下の増幅しか示さない。感染宿主の鼻咽頭内RSVレベルを測定する方法は文献によってよく知られている。簡単に説明すると、鼻咽頭分泌物を吸引または洗浄することによって標本が得られ、組織培養または他の実験手法によりウイルスが定量される。例えば、Belsheら、1977、J.Med.Virology 1:157−162;Friedewaldら、1968、J.Amer.Med.Assoc.204:690−694;Gharpureら、1969、J.Virol.3:414−421;および、Wrightら、1973、Arch.Ges.Virusforsch.41:238−247参照。
【0092】
生存能力、弱毒化および免疫原性の評価基準に加えて、本明細書に記載される生弱毒化RSVの特性は、所望の属性が維持されるように可能な限り安定でなければならない。理想的には、医薬製品(例えばワクチン)の成分として有用であるウイルスは、その生存能力、弱毒特性および(より低レベルではあるが)免疫された宿主内における複製能力を維持していなければならず、接種を受けた対象においてその後の野生型ウイルスの感染による重篤な疾患に対する防御を付与するのに十分な免疫応答の発生を効果的に誘導する能力を維持していなければならない。
【0093】
VI.組み換え核酸
本明細書に記載される弱毒化RSVゲノムもしくはアンチゲノムの全長または一部のいずれかを含む核酸分子、本明細書に記載される改変されたウイルスタンパク質もしくはその一部をコードするヌクレオチド配列、または本明細書に記載される改変されたウイルスゲノムもしくはその一部のヌクレオチド配列(上記II節における本願発明の生弱毒化RSV内に含まれる核酸の記載参照)も、本願発明の範囲内に含まれる。これらの核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)分子、相補性DNA分子(cDNA)またはリボ核酸(RNA)分子であり得る。
【0094】
4つの候補ヌクレオチド塩基のトリプレットコドンは、60以上の種類が存在し得る。これらのコドンは20種類の異なったアミノ酸(および転写開始および終止)のみのメッセージを提供するため、いつくかのアミノ酸は複数のコドンによってコードされることが可能であり、この現象はコドン重複性として知られている。したがって、遺伝子コドンのこの重複性によって、あるタンパク質をコードするために、多数の異なったコーディング核酸配列が使用できる。アミノ酸は以下のRNAコドンによってコードされる。
【0095】
A=Ala=アラニン:コドン GCA、 GCC、 GCG、 GCU
C=Cys=システイン: コドン UGC、 UGU
D=Asp=アスパラギン酸: コドン GAC、 GAU
E=Glu=グルタミン酸: コドン GAA、 GAG
F=Phe=フェニルアラニン: コドン UUC、 UUU
G=Gly=グリシン: コドン GGA、 GGC、 GGG、 GGU
H=His=ヒスチジン: コドン CAC、 CAU
I=Ile=イソロイシン: コドン AUA、 AUC、 AUU
K=Lys=ロイシン: コドン AAA、 AAG
L=Leu=ロイシン: コドン UUA、 UUG、 CUA、 CUC、 CUG、 CUU
M=Met=メチオニン: コドン AUG
N=Asn=アスパラギン: コドン AAC、 AAU
P=Pro=プロリン: コドン CCA、 CCC、 CCG、 CCU
Q=Gln=グルタミン: コドン CAA、 CAG
R=Arg=アルギニン: コドン AGA、 AGG、 CGA、 CGC、 CGG、 CGU
S=Ser=セリン: コドン AGC、 AGU、 UCA、 UCC、 UCG、 UCU
T=Thr=トレオニン: コドン ACA、 ACC、 ACG、 ACU
V=Val=バリン: コドン GUA、 GUC、 GUG、 GUU
W=Trp=トリプトファン: コドン UGG
Y=Tyr=チロシン: コドン UAC、 UAU
したがって、本願発明は、開示された核酸分子とは異なるが同じタンパク質配列をコードしている核酸を含む。
【0096】
本願発明のRSVの非コード配列(即ち非翻訳配列)を含む核酸分子も本願発明に包含される。これらの非コード領域には5’非コード領域、3’非コード領域、遺伝子間配列ならびに転写、翻訳およびその他の調節領域を含むがこれらに限定されないウイルスゲノムの他の非コード領域が含まれる。これらの核酸分子もDNA分子、cDNA分子またはRNA分子であり得る。
【0097】
本明細書に記載される生弱毒化RSVのNS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子を含む(但し、これらに限定されない)本願発明の生弱毒化RSVの1以上のタンパク質をコードする核酸分子と実質的に類似な核酸分子も本願発明に含まれる。上記NS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子は、RSVウイルスゲノムに取り込まれると、同等の弱毒表現型効果を奏する。本願発明は、最終的なウイルス産物の表現型を変えない非コード領域における変化を特徴とする実質的に類似の核酸分子をも含む。
【0098】
したがって、本願発明の範囲には、本明細書に記載される生弱毒化RSV内に含まれるタンパク質の変異体をコードするヌクレオチド配列または本明細書に記載される生弱毒化RSV内に含まれる非コードヌクレオチド配列の変異配列を含む核酸分子のいずれかを含む核酸分子が含まれる。
【0099】
1または複数の指定されたヌクレオチドを含む核酸分子であって、ストリンジェントな条件下で対象発明の核酸分子の相補体とハイブリダイズする核酸分子は本願発明の範囲に含まれる。非限定的な例示として、高ストリンジェントな条件下での手順を以下に記す。6x SSC、5xデンハルト溶液および100μg/mlの変性サケ精子DNAを含む緩衝液中において、DNAを含むフィルターのプレハイブリダイゼーションを約2時間から一晩の間行う。100μg/mlの変性サケ精子DNAと5−20x106cpmの32P標識プローブを含むプレハイブリダイゼーション混合液中において、フィルターを約12から48時間ハイブリダイズさせる。2xSSC、0.1%SDSを含む溶液中、37℃で約1時間フィルターを洗浄する。更に0.1xSSC、0.1%SDS中、50℃で45分間洗浄し、オートラジオグラフィーを行う。高ストリンジェントな条件を用いる他の手順には、5xSSC、5xデンハルト溶液、50%ホルムアミド中、約42℃で約12から48時間実施するハイブリダイゼーション工程または0.2xSSPE、0.2%SDS中、約65℃で約30から60分間実施する洗浄工程のいずれかが含まれる。上記の高ストリンジェントハイブリダイゼーションを実施する手順の中に記載される試薬は、当業界でよく知られたものである。これら試薬組成の詳細は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Plainview、NY(2001)に記載されている。上記に加えて、使用可能な他の高ストリンジェントな条件も当業界でよく知られている。
【0100】
本願発明の核酸分子は、作動可能にRNA転写のプロモーターおよび他の調節配列と結合されていてもよい。本明細書で用いる場合、「作動可能に結合した」とは、プロモーターが核酸分子のRNA転写を指示するような位置に置かれたことを意味している。プロモーターの例はT7プロモーターである。プロモーターおよび挿入された核酸部分がプロモーターと作動可能に結合されているクローニング部位の両方を含むベクターは当業界でよく知られている。これらのベクターはin vitroとin vovoで核酸を転写することができるものであり得る。これらのベクターの例には、(他の弱毒化サブタイプおよび野生型株の両方を含む)他のRSVタイプのウイルスゲノム由来の核酸を含むベクターが含まれ、このベクターは本明細書に記載される生弱毒化RSVのポリペプチドをコードする核酸領域および/または非コード領域を当該他のRSVタイプの核酸と置換することによって改変されている。更に、本願発明の核酸分子によってコードされる組み換えウイルスも提供される。
【0101】
本願発明の種々の特性を更に説明するために以下に実施例を示す。実施例は発明の実施に有用な方法も説明する。これら実施例は特許請求された発明を限定するものではない。
【0102】
実施例1
MRK RSV株287の継代
細胞およびウイルス
アフリカミドリザルの腎臓細胞株Vero CCL−81をウイルス増殖試験およびプラークアッセイの両方に用いてウイルス生産をモニターした。使用した親ウイルスは‐20℃で保存、凍結乾燥されていたMerck287株hRSVを用いた。親Merck287ウイルスはGMK細胞中において2回継代され、その後WI−38細胞(Bunyakら、1978、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.157:636−642:Bunyakら、1979、Proc.Soc.Exp.Biol.Med. 160:272−277;Belsheら、1982、J.Infect.Dis. 145:311−319)中において更に5回継代された。配列分析によって、弱毒化に関連する既知の全ての位置において野生型の遺伝子型が保持されていることが確認された。
【0103】
ウイルス継代およびウイルス保存調製物
親ウイルスを用いて、1週間目のコンフルエントなVero単層細胞に、32℃、1:100または1:1000MOIで1時間接触させて感染させ;ウィリアム培地E(Gibco)、1.6%組み換えヒトアルブミン(Delta biotechnologies)、2mM L−グルタミン(Gibco)および50μg/ml ネオマイシン(Sigma)からなる維持培地によって接触後に被覆した。90%以上の最大細胞変性効果(CPE)が認められまで培養を観察した後、回収し、CPEが上昇し過ぎて適切なウイルス産生ができなくなるまで栄養補給して24時間間隔で更に回収を行った。
【0104】
プラークアッセイ
回収したウイルスサンプルは、プラークアッセイによって連続10倍希釈における力価検定に供し、12穴アッセイフォーマット(Costar:100μl/well、連続10倍希釈の1希釈あたり3ウェル、1プレート当たり4希釈)中のコンフルエント(48〜78時間)VERO単層への接種に使用した。35℃±1℃、5.0%CO2の条件下で1時間プレートをインキュベートし、ウィリアム培地E(Gibco)、1.6%組み換えヒトアルブミン(Delta biotechnologies)、2mM L−グルタミン(Gibco)、50μg/ml ネオマイシン(Sigma)および最終濃度0.5% SeaPlaque(登録商標)アガロースからなる維持培地で被覆する。35℃±1℃、5.0%CO2の条件下、6〜8日でプラークが生じる。5mg/ml MTT(Thialzolyl Blue Tetrazolium Bromide(Sigma−Aldrich(登録商標))のPBS溶液)を1ウェル当たり250μl加え、細胞が染色剤を代謝するまで2〜6時間待ってプラークを可視化した。
【0105】
ウイルスの生成量をモニターするのみでなく、力価を正確に測定してウイルスの継代に適したMOIを得るための希釈倍率を算出するために、各継代の間に全ての回収サンプルについて力価を求めた。
【0106】
結果
Merck HRSV株287が、GMK細胞で最初に2回増幅した単離hRSV株から得られた。最初の増幅の後、このウイルスをヒトニ倍体細胞株WI−38中で更に5回継代した。この5回継代材料を、非経口投与経路によるワクチン用途のためのヒト臨床試験に使用した。Merck株287、hRSV A型、は配列分析およびin vivo動物排出実験(後記参照)のいずれにおいても野生型(WT)表現型を示した。Merck株287を一定の多重度でVERO−CCL−81単層中において連続して22回継代した(継代1(p1)〜継代22(p22))。継代の間において、ウイルス力価は一定に維持され、培養中のウイルスによる細胞変性効果も一定に維持されていた。ウイルス収量は106〜107 pfu/mlの範囲であった。
【0107】
実施例2
MRK RSV株287および継代された保存ウイルスの配列決定
RSVサンプル
材料は、感染VERO細胞から回収されたウイルス上清液の500〜1000μlアリコットとして供された。1)MRK RSV株287、2)MRK RSV株287、継代17(p17)、および3)MRK RSV株287、継代22(p22)について、完全長の配列が作製された。1)MRK RSV株287、継代5(p5)、2)MRK RSV株287、継代10(p10)、3)MRK RSV株287、継代15(p15)および4)MRK RSV株287、継代18(p18)について、(標的の)部分配列を作製した。
【0108】
RNA抽出
QiaAMP ウイルスRNA抽出キット(Qiagen、カタログ番号52904)をメーカー手順書に基づいて使用し、ウイルス培養上清からRNAを抽出した。簡単に説明すると、ウイルス培養上清140μlを溶解バッファーに加え、結合フィルター上にのせた後、洗浄し、RNaseを含まない水60μlで溶出させた。抽出されたRNAサンプルを−20℃で保存した。抽出されたRNAサンプルを鋳型として用いて、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によってゲノムを二本鎖DNA断片の形で増幅した。RT−PCR増幅のために十分な量の材料を得るために、各サンプルにおいて複数回の抽出を行った。
【0109】
RT−PCRによるRSVゲノムの増幅
Qiagen OneStep RT−PCRキット(Qiagenカタログ番号210212)を用いて、サンプルのRSVゲノムを二本鎖DNAの形で増幅した。完全長の配列(MRK RSV 287および継代p17およびp22)を決定するために、それぞれ約500塩基対(bp)で隣接する断片とオーバーラップする断片を用いて、1000bp断片の増幅を30回実施した。増幅反応は(プライマー対について)1から30まで付番し、以下に示す表のように実施した。部分長配列決定(MRK RSV287継代p5、p10、p15およびp18)のために、プライマー対2、10、11、13、14、18および29を用いて1000塩基対(bp)断片の増幅を7回実施した。増幅反応は下記表に示すように(プライマー対について)付番し、実施した。
【0110】
(反応ごとの)マスターミックス:10μl 5x QIAGEN OneStep RT−PCRバッファー;2μl dNTP混合液;3μlプライマーA(フォワードプライマー)−10μM保存液、最終600nM;3μlプライマーB(リバースプライマー)−10μM保存液、最終600nM;2μl QIAGEN OneStep RT−PCR酵素混合塩基;5μl RNA鋳型;25μl分子生物学用グレードの水。
【0111】
以下の条件を用いて、バイオメトラのサーマルサイクラー内で増幅反応を実施した。30分、50℃−逆転写工程;15分、95℃−PCR初期活性化工程(DNAポリメラーゼの活性化)3ステップサイクリング(合計40サイクル繰り返す);1分、94℃−変性;1分、55℃−アニーリング;1分、72℃−エクステンション;10分、72℃−最終エクステンション。
RT−PCR増幅に使用されたプライマーを表2および3に示す。
【表2】
【表3】
【0112】
QIAGEN QIAquick PCR Purification キット(QIAGENカタログ番号28104)をメーカー手順書にしたがって使用して、増幅されたRT−PCR産物を精製した。精製されたRT−PCR産物は(プライマー対に基づいて)1から30まで付番し、−20℃で保存し、配列決定のためにGeneWiz(South Plainfield、NJ)に送った。
【0113】
増幅されたRT−PCR産物の配列決定
精製されたRT−PCR産物を、ダイ−ターミネーション配列決定(dye−termination sequencing)のために、GeneWiz(South Plainfield、NJ)に提出した。RT−PCR産物と共に提出したRT−PCR増幅プライマーを用いて配列決定が行われた。それぞれのRT−PCR産物についてフォワードプライマーを使用した配列とリバースプライマーを使用した配列の2つの配列が作製された。
【0114】
RT−PCR産物配列分析およびRSVゲノムの構築
得られたRT−PCR断片の配列をSequencher(商標)配列分析ソフトウェア(GeneCodes、Ann Arbor、Michigan)にインポートし、「コンティグ」構築を実施して配列を構築した。この工程は、60のRT−PCR産物配列(30産物のそれぞれについて2配列)すべてをインポートし、500bpのオーバーラップ領域をスキャフォールドとして使用して完全長の配列を構築することから構成されている。無関係なピークあるいは欠失したピークについて、通常許容されている慣行に基づいて、配列を編集した。p5、p10、p15およびp18の目標とする配列の決定のために、完全長のゲノム構築ではなくむしろ個々の断片構築(即ち断片2、10、11等)を行った。最終的な配列をVectorNTI(商標)にインポートし、配列比較および分析を行った。
【0115】
結果
起源材料(MRK287)ならびに継代17(p17)および継代22(p22)から完全長のゲノム配列を作製した。その他の継代レベルの標的配列を継代5(p5)、10(p10)、15(p15)および18(p18)から得た。ウイルスRNAを培養上清サンプルから抽出し、逆転者酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって、このRNAからゲノムの二本鎖DNA断片を作製した。RT−PCR産物を精製し、配列を決定した。作製した配列を完全長ウイルスゲノム内に構築した。
【0116】
以下の比較および分析を行った。
【0117】
1)共通データベース(Genbank、EMBL)中の既知配列に対して、MRK RSV 287株配列のホモロジー「blast」分析を行い、MRK RSV 287の他のRSV配列に対する配列類似性を決定した。
【0118】
2)起源MRK RSV株287とp17との間における配列相違を決定するために、MRK RSV p17に対するMRK RSV株の配列アライメントを行った。
【0119】
3)起源MRK RSV株287とp17の間における核酸配列の相違に関連したアミノ酸配列の相違を決定するために、両者の間の配列相違についてアミノ酸分析を行った。
【0120】
4)ウイルスゲノム中の他の位置で点突然変異が更に生じていないか確認することを目的として、MRK RSV p22に対するMRK RSV 287株p17の配列アライメントを行いMRK RSV 株287 p17とp22の間における配列の相違を決定した。
【0121】
5)継代レベルが進むにつれて点突然変異が生じること、および可能性のある弱毒化のマーカーについて理解するために、MRK RSV株287とp5、p10、p15、p17、p18およびp22由来の遺伝子セグメント2、10、11、13、14、18および29を比較して、起源MRK RSV株287と関連する継代材料の間の配列相違を決定した。
【0122】
配列分析の結果を以下に要約する。
【0123】
1)MRK RSV株287配列分析
MRK RSV株287を既知のRSVの野生型および(表4に記載される)ワクチン株と比較した結果、MRK RSV287は既に弱毒化マーカーとして同定されている点突然変異を含まないことが示された(データ示さず)。MRK RSV株287から15205ヌクレオチドの配列が得られた。継代17および22から末端の5’終末が欠損した15000ヌクレオチドが得られた。MRK RSV株287は既知のRSVサブグループA株と類似し、95%以上の相同性スコアを有していた。
【表4】
【0124】
2)MRK RSV株287配列および継代17配列の比較
MRK RSV株287およびp17由来のゲノム配列を比較した結果、2つの配列の間において21の配列相違(点突然変異)が存在することが示された。配列相違の概要を表5に示す。
【表5】
【0125】
3)MRK RSV株287のアミノ酸配列と継代17のアミノ酸配列の比較
起源MRK RSV株287配列と比較してp17において同定された各点突然変異の遺伝子位置をマッピングし、点突然変異を含む各遺伝子についてアミノ酸配列を作成した。21の点突然変異のうち、1つは5’非翻訳領域(ウイルスL遺伝子に対して3’側)内にあり、20はオープンリーディングフレーム(ウイルス遺伝子)内にある。20のオープンリーディングフレーム(ORF)突然変異体のうち、5つは非表現突然変異であり、残りの15は3つの遺伝子内において11のアミノ酸に影響している。影響された3つのORFはGタンパク質(糖タンパク質)、Fタンパク質(融合タンパク質)およびLタンパク質(巨大タンパク質、RNA依存性RNAポリメラーゼ)をコードしている。1つの非表現突然変異はNS2遺伝子ORF内にあり、4つの非表現突然変異はG遺伝子ORF内にある。配列相違の概要を表6に示す。
【表6】
【0126】
4)MRK RSV p22に対するMRK RSV p17の配列アライメント
p17とp22の配列を比較することによって、両者の配列が同一であることが確認された。ヌクレオチド第14656番において多型レベルで相違する可能性があるが、定量的に確認されていない。
【0127】
5)MRK RSV株287ならびに継代5、10、15、17、18および22由来の遺伝子セグメント2、10、11、13、14、18および29の比較
MRK RSV株287継代p5、p10、p15およびp18の選択した遺伝子セグメントから配列を作成した。これらの配列をMRKRSV株287ならびにMRK
RSV株継代17および継代22と比較した。表7は、既に同定されているRSV p17点突然変異の位置においてこれら配列を比較した結果を示す。示されたデータから、非表現NS2突然変異は5回目の継代で生じ、一方G遺伝子突然変異は10回目の継代で生じたことが明らかである。FおよびL遺伝子中の突然変異は継代10から出現し始め、全点突然変異の証拠は継代17に存在する。14656位の多型は依然明白であるが、他の多型の存在には疑問がある。表7は分析した様々な継代レベルの比較の概要を示す。
【表7】
【0128】
実施例3
MRK RSV287継代株の弱毒化
アフリカミドリザル暴露試験
全ての動物を、血清中和抗体価について予めスクリーニングした。抗体価が4以下の動物のみこの試験に使用した。10mg/kgのケタミン筋肉注射によってサルを麻酔し、それぞれ105.5pfuのウイルスに2回暴露させた。鼻内及び気道内接種を組合せてウイルスを投与し、1回の投与あたりそれぞれの部位に1ml投与した。暴露の後、12日間連日それぞれのサルから鼻咽頭スワッブを採取し、気管支肺胞洗浄液を4、5、7および10日目に採取した。鼻咽頭サンプルは、Darconスワッブを用いて中咽頭領域の2、3箇所を穏やかにこすり、0.2Mスクロース、3.8mMKH2PO4、7.2mM K2PO4および4.4mMグルタミン酸ナトリウム(SPG)および0.1%ゼラチンを含むハンクス平衡塩溶液(HBSS)に先端を入れて採取した。気管支肺胞洗浄には、約5〜7mlのHBSSを直接肺内に吸入させ滅菌したフレンチカテーテルおよびシリンジで吸引した。回収したサンプルに1/10量の10xSPGと1/10量の1%ゼラチンを加え、一定量に小分けして直ちに−70℃で凍結保存した。
【0129】
ウイルス力価
Hep−2細胞を用いてウイルス力価を測定した。簡単に説明すると、試験サンプルを無菌的に希釈し、サンプルの0.1mlをコンフルエントなHep−2細胞を含む24穴プレートに加えた。37℃で1時間細胞をインキュベートした。インキュベーションの後、PBSで細胞を1度洗浄し、1ウェル当たり0.5mlの1%アガロース含有MEMで被覆し、37℃で4日間インキュベートした。インキュベーションの後、アガロース被覆を取り除き、クリスタルバイオレットで細胞を染色し、ウイルスプラークを計測した。ウイルス力価は組織1グラム当たりのプラーク形成単位(pfu)で表示した。
【0130】
ウイルス中和アッセイ
ウイルス中和アッセイのために、全ての血清を56℃で30分間非働化した。イーグル最小必須培地(EMEM)で試験血清を連続2倍希釈しインキュベートした。野生型A2ウイルスを標的ウイルスとして、103pfu/mlの最終力価までEMEM中に希釈した。同用量の血清とウイルスを混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションの後、0.1mlのウイルスを24穴プレートの1ウェルに移し、上記のウイルスプラークアッセイを行った。中和力価は、ウイルスプラークを50%以上抑制する最大希釈率で定義した。
【0131】
結果
1)MRK287 p17はコットンラットおよびアフリカミドリザルモデルにおいて高度に弱毒化されている。
【0132】
In vivo複製特性を評価するために、コットンラットおよびアフリカミドリザルモデルにおいてp17ウイルスとその親ウイルスであるp3ウイルスおよびwtA2株を比較した。コットンラットおよび非ヒト霊長類試験では、p17ウイルスが高度に弱毒化されていることが総じて示唆された。
【0133】
コットンラット試験では、1群当たり6匹のラットに105.5pfuの試験ウイルスを鼻内に接種し、ウイルス暴露の4日後に鼻および肺サンプルを採取し、ウイルス力価検定に使用した(図5)。p3親ウイルスは完全に複製能力を有し、鼻および肺両組織においておよそ5logのウイルスを生じることが認められた。鼻内の力価はwtA2株の力価に匹敵したが、肺内の力価は約1log低かった。これに対して、p17ウイルスの増幅は限定的であった。下方アッセイ検出限界、40pfu/g組織重量、に基づけば、鼻内においてウイルスは回収されず、肺ウイルスは4匹の動物のうち1匹において検出されたのみある。検出できた動物のウイルス力価も低く、200pfu/g組織重量であった。p3親ウイルスに比較して、p17は鼻内および肺内においてそれぞれ少なくとも4および2.5log低い力価を有していた。
【0134】
アフリカミドリザル試験においては、1群当たり4匹の動物に総量2x105.5pfuのウイルスを接種し、半分には鼻内接種し、残り半分には気道内接種した。ウイルス暴露後に、複数の時点で鼻咽頭スワブと肺洗浄液を採取し、ウイルス力価検定に使用した。結果を図6に示す。コットンラットの結果と同様に、p3親ウイルスは鼻および肺内において顕著なウイルス増幅を示し、ピーク力価は鼻および肺においてそれぞれ約104および105pfu/mlであった。更に、総合的なウイルス排出特性はむしろwtA2ウイルスに近いものであり、力価ピークは4〜7日の間で、10日間持続した。これに対して、p17ウイルスは散発的に検出されるだけで、その力価も低いものであった。例えば、鼻のウイルスは2日目に2匹のサル、8日目に1匹のサルで検出されただけであり、肺のウイルスもそれぞれ1、3日目および2、3、7日目に検出されただけである。全ての陽性サンプルの中で最も高い力価は2日目の鼻サンプルのうちの1つであり、400pfu/g組織重量であった。
【0135】
ウイルス継代とin vivo複製との関係をより理解するために、継代17以前の継代MRK287ウイルスについてもコットンラットモデルで試験を行った。1群当たり6匹の動物を105pfuのウイルスに暴露させ、4日後にサンプルを採取した。図7に示すように、継代5(p5)において既に複製の低下が始まり、継代10(p10)および15(p15)において更に進んだ複製の低下が示された。p15ウイルスは上記のp17と同様に弱毒化されていた(図5)。p17ウイルスは肺からは回収されず、鼻サンプルのみにおいて検出されたが、その力価はp3親ウイルスの力価よりも3log以上低い価であった。
【0136】
2)MRK287ワクチンウイルスによる筋肉内単回免疫によって、コットンラットおよびアフリカミドリザルにおいて強い血清中和(SN)抗体応答が誘導され、wtウイルス暴露に対して顕著な防御が得られた。
【0137】
免疫原性および防御試験をコットンラットおよびアフリカミドリザルの両方で実施した。弱毒化ワクチン株MRK287 p17による単回全身性免疫によって顕著なSN価を誘導することができ、この動物モデルにおいてwtウイルス暴露に対する防御を付与し得ることがデータによって示された。
【0138】
コットンラット試験では、1群当たり4匹の動物に104.5pfuのwtA2、MRK287 p3 またはMRK287 p17ウイルスを筋肉内投与することにより免疫した。wtA2ウイルスに対する血清中和(SN)抗体を測定するために、14、28および56日目に血液サンプルを採取した。56日目に免疫動物と未処置動物群の両方を、105.5pfuのwtA2ウイルスで鼻内暴露させ、暴露4日目に鼻と肺の組織を採取した。3種類の全てのウイルスは単回筋肉内免疫によって顕著なSN力価を誘導し、この価は28日目当たりでピークに達し、動物にウイルスを暴露した56日目まで持続した(図8)。A2ウイルス投与を受けた動物は、MRK287ウイルス投与を受けた動物に比較してより高いSN力価を示した。これは、A2株に対してSN力価を測定したことによると考えられた。p17ウイルスの投与を受けた動物はMRK287 p3親ウイルスの投与を受けた動物に比較して28日目と56日目においてより高いSN力価を誘導する傾向があったが、両者のSN力価は同程度のものであった。ウイルス暴露の後、3種類の免疫群全ての肺組織からはウイルスが検出されず(図9)、このことはワクチン接種により下気道において完全な防御が得られたことを示している。鼻サンプルについては、wtA2の投与を受けた動物からはウイルスが検出されず、MRK287 p3またはp17のいずれかの投与を受けた動物は非常に低い力価、即ち未処置動物の力価よりも約3log低い力価を示した。
【0139】
アフリカミドリザル試験では、それぞれ4匹の実験群と未処置対象群の2群を使用した。実験群では、0日目に105.5pfuのMRK287p17ウイルスで動物を筋肉内免疫した。いずれの群も28日目に2x105.5pfuのwtA2ウイルスを鼻内および気道内接種することによりウイルスに暴露させた。図10は28日目におけるSN力価を示している。ワクチン接種を受けた動物は約1:128(7log2)の平均SN力価を示した。ウイルス暴露の後、未処置の動物は7日目で鼻サンプルと肺サンプルにおいてそれぞれ3.5および5logpfu/mlのウイルスを有していた(図11)。ワクチン接種した動物は未処置の動物と比較して、鼻において約1log低いウイルス力価、肺において3log低い力価を示した。
【0140】
実施例4
プラーク精製されたp17
プラーク精製
継代17ウイルスの遺伝的に単一な(クローン)集団を得ることを目標として、それぞれのプラークを単離、回収することを目的に、p17ウイルス継代の力価を測定した。1ウェル当たり10個以下のプラークを目標に定めてウイルスの力価を測定した。ウイルスストックの出発力価は1.7x106pfu/mlであり、アッセイに用いるための最終希釈は1:10,000、1:20,000および1:40,000の範囲であった。接種後7日目に、単層上の単一のプラークについて、肉眼および顕微鏡下の両方でプレートを目視した。継代17ウイルスは2種類の異なったプラーク形態、即ち大形態(直径約2mm)と小形態(直径1mm以下)を形成した。最初の単離のために、10の小形態(#1−10)と10の大形態(#11−20)を単離した。滅菌した1mL血清ピペットをアガロースに差込み、単離するプラークの周辺に円を描くことで単離を行った。吸引しながら領域を引き上げて、試料を1mLのRSV維持培地に移し、分散させた後に5x200μLに分注した。プラーク#1と#11を選択して力価検定を行い、Vero組織培養プレート中で直ちに増幅した。分注試料の残りは液体窒素を用いて凍結し、−70℃で保存した。二回目の増幅では、Veroプレート中、1:20、1:200および1:2000でプラークの力価検定を行った。親プラークから第2集団のプラークを作製するために、何枚かのプレートにはアガロースを重層し、また、その後の配列分析のために親プラーク#1と#11のストックを作製するために他のプレートにはRSV維持液体培地を重層した。プラーク#1と#11の二回目のプラークアッセイの中から2つのプラークが単離された。これらのプラークは、プレート上で他のプラークから離れて位置していたこと(したがって、混合集団を得る可能性が減少する)、プラークの形態が親と類似していたことから選択された。プラーク#1−2を選択して力価検定を行い、3回目のプラーク精製において増幅し、1x200μlのプラーク#1−2をプラーク精製と増幅のために同時に力価検定して、親#1−2の追加のストックを作った。#1−2から単離されたプラークを#1−2.1、#1−2.2、#1−2.3、#1−2.4、#1−2.5および#1−2.6と標識した。#1−2.1の分析の後に休止させた単離体において配列分析を行った結果、クローン化された集団であることが示された。
【0141】
ウイルスストックのためのプラーク#1−2.1の増幅
ウイルスストックの培養は既に概要を記した標準手順にしたがった。200μlの初代プラークをVero細胞の12ウェル培養中に増幅した。最初の増幅で得られたストック(pp1)を使用してVeroT150培養に植え付け、回収した試料(pp2)を更に1回増幅して実験に使用するための大量(約1L)の材料を作製した。各スケールアップから得られた#1−2.1のアリコットを用いて配列分析を行った。pp3材料はコットンラット研究のために利用した。
【0142】
コットンラット暴露研究
4−8週齢の雌性コットンラット(Sigmodon hispidus)4匹に、イソフルラン麻酔下で、0.1ml容量のウイルス105pfuを0日目に鼻内接種した。肺(左肺)および鼻甲介を接種後4日に取り出し、氷上でSPG含有ハンクス平衡塩溶液(Walkersville、MD)の10倍量の中でホモジナイズした。サンプルを2000rpmで10分間遠心分離して浄化し、分注して直ちに−70℃で凍結保存した。上記ウイルスには(1)MRK287p22、(2)MRK287p17、(3)プラーク精製したMRK287p17、(4)MRK287p15、(5)MRK287p10、(6)MRK287p5、(7)MRK287p3、および(8)RSV
A2野生型が含まれる。鼻および肺ホモジネートをVero細胞中で力価検定し、組織1グラム当たりのプラーク形成単位(pfu)として示した。
【0143】
結果
MRK287継代17(p17)をクローン化集団("p17 pp")になるまでプラーク精製し、実施例2に記載したように配列決定した。プラーク精製されたウイルス中には、NS1タンパク質をコードする遺伝子内のヌクレオチド162位に該当するRSVゲノム内のヌクレオチド260位において、1つの新たなヌクレオチド突然変異が認められた。これは非表現突然変異(即ち、アミノ酸変異の原因とはならない変異)である。配列番号87は(例えばS2株の)NS1をコードする野生型遺伝子配列に該当する。配列番号89はMRK27とp17内のNS1をコードするヌクレオチド配列に該当する。配列番号90はp17 pp内のNS1をコードするヌクレオチド配列に該当する。表8および9は、MRK287p17およびプラーク精製したもの(p17 pp)における突然変異を比較した結果を示す。配列番号88は(wtS2ウイルス、MRK287、MRK287 p17およびMRK287 p17 ppにおいて同じである)NS1のアミノ酸配列に該当する。
【表8】
【表9】
【0144】
(1)MRK287 p22、(2)MRK287 p17、(3)プラーク精製されたMRK287 p17、(4)MRK287 p15、(5)MRK287 p10、(6)MRK287 p5、(7)MRK287 p3、または(8)RSV
A2野生型を接種されたそれぞれの動物について、コットンラット暴露研究における4匹の動物の平均力価ならびに下側および上側信頼区間(CI)を表10に示す。RSVA2野生型およびMRK287p3のウイルス力価は約4log pfu/g組織であった。MRK287 p5肺サンプルは依然約4logウイルスpfu/gであった。これに対して、継代10およびプラーク精製したMRK287 p17を含むそれ以降の継代ウイルスは、肺および鼻サンプルのいずれにおいても野生型株に比較して2logを超えた減少を示した。更に、これらのデータは、プラーク精製されたMRK287 p17がMRK287 p17と同様に弱毒化されていることを証明している。
【表10】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2008年11月5日に出願された米国仮出願第61/198,327号の利益を主張するものであり、この出願は本明細書に参照により取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
ヒト呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、マイナス一本鎖RNAウイルスであり、ニューモウイルス(Pneumoviras)属、パラミクソウイルス(Paramyxoviradae)科のウイルスである。RSVは1歳未満の乳児におけるウイルス性肺炎および細気管支炎の第一の原因であり、これら乳児における入院および致死性気道疾患の主要な原因である。ある種の基礎疾患(例えば免疫不全、先天性心疾患、気管支肺異形成症など)を有する小児においては、重篤な疾患も発症し得る。ほとんど全ての子供は2歳までに感染し、通常は年長児または成人になってから再感染する(Chanockら、 Viral Infections of Humans、 第3版、 A. S. Evans編、 Plenum Press、 N. Y. (1989))。健康な成人では、大抵の感染は無症状であり、一般には軽度の上気道疾患に限られる。しかし、高齢の患者や免疫不全者では、重篤で生命を危うくする可能性のある感染症になりやすい。
【0003】
RSVの2つの主要な抗原性サブグループAおよびBならびにそれぞれのサブグループにおける複数の遺伝子型が同定されている(Andersonら、 1985、 J Infect. Dis. 151 :626−633; Mufsonら、 1985、 J. Gen、 Virol. 66:2111−2124)。正逆交雑中和分析(reciprocal cross−neutralization analysis)によれば、2つの抗原性サブグループは抗原的におよそ25%関連している。温暖な気候において毎年秋の終わりから、冬、春にかけて起こる流行では、各サブグループの多様な異型が循環していることが確認されている(Andersonら、 1991、 J. Infect. Dis. 163:687−692)。2つの重要なESVサブグループのうちの一方に感染した子供は、同種サブグループによる再感染から保護され得ることを示す証拠がある(Mufsonら、1987、J.Clin.Microbiol.26:1595−1597)。感染を繰り返した後で防御免疫が蓄積することを示す証拠とあわせて、このことは、重篤な疾患および死亡を防御する十分な免疫が得られる乳児および小児へのRSVワクチンレジメント(vaccination regiment)の開発が可能であることを示唆している。
【0004】
天然のRSVゲノムは概してマイナス鎖ポリヌクレオチド分子からなり、このポリヌクレオチド分子は相補性ウイルスmRNAを介して11種類のウイルスタンパク質、即ち、非構造種NS1およびNS2、N、P、マトリックス(M)、小疎水性(SH)、糖タンパク質(G)、融合体(F)、M2(ORF1)、M2(ORF2)、およびLをコードしている。以上のことはMinkら、1991、 Virology 185:615−624; Stecら、 1991、 Virology 183:273−287; および Connorsら、 1995、 Virology. 208:478−484において詳細に記載されている。
【0005】
数十年の研究の後、近年ようやく免疫予防薬シナジス(登録商標)が、早産高リスク新生児におけるRSV関連疾患の予防のために市販されたが、RSV感染および関連疾患に対する安全でかつ有効なワクチンは未だにない。分泌型抗体は上気道の防御に最も重要であり、一方、高レベルの血清抗体は下気道におけるRSV感染への抵抗において重要な役割を担っていると考えられている。しかし、精製ヒト免疫グロブリン(Ig)製剤は、血液感染性ウイルスに感染する可能性が懸念され、一方、組み換えIg製剤は製造費用が高い。
【0006】
小児ワクチン接種の初期の試み(1966年)では、ホルマリン不活化RSVワクチンの非経口投与が用いられた。残念なことにいくつかの実地試験において、このワクチン投与がRSVへの自然感染後の非常に激しい発症に明らかに関連していることが示された(Kapikianら、 1968、 Am. J Epidemiol 89:405−421; Kimら、 1969、 Am. J Epidemiol. 89:422−434; Fulginitiら、 1969、 Am. J Epidemiol 89:435−448; Chinら; 1969、 Am, J Epidemiol 89:449−463)。このワクチンがRSV疾患を悪化させる原因は明らかではない。RSV抗原に対する暴露によって異常な、あるいは、バランスの崩れた免疫応答が誘発され、本来の疾患が免疫病理学的に増強されたことが示唆されている(Kimら、 1976、 Pediatr. Res.10:75−78; Princeら、 1986、 J Virol 57:721−728)。
【0007】
サブユニットあるいは不活化ウイルスワクチンに比較して、生弱毒化または生ベクターウイルスワクチンの利用には有利な点がいくつかある。生弱毒化ウイルスワクチンは天然のウイルス感染と類似した感染を再現し、効果的に宿主免疫系を作動させることができ、また、サブユニットあるいは不活化ワクチンに比べて液性要素および細胞性要素の両方を含む強力な免疫を付与しやすい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chanockら、 Viral Infections of Humans、 第3版、 A. S. Evans編、 Plenum Press、 N. Y. (1989)
【非特許文献2】Andersonら、 1985、 J Infect. Dis. 151 :626−633
【非特許文献3】Mufsonら、 1985、 J. Gen、 Virol. 66:2111−2124
【非特許文献4】Andersonら、 1991、 J. Infect. Dis. 163:687−692
【非特許文献5】Mufsonら、1987、J.Clin.Microbiol.26:1595−1597
【非特許文献6】Minkら、1991、 Virology 185:615−624
【非特許文献7】Stecら、 1991、 Virology 183:273−287
【非特許文献8】Connorsら、 1995、 Virology. 208:478−484
【非特許文献9】Kapikianら、 1968、 Am. J Epidemiol 89:405−421
【非特許文献10】Kimら、 1969、 Am. J Epidemiol. 89:422−434
【非特許文献11】Fulginitiら、 1969、 Am. J Epidemiol 89:435−448
【非特許文献12】Chinら、 1969、 Am, J Epidemiol 89:449−463
【非特許文献13】Kimら、 1976, Pediatr. Res.10:75−78
【非特許文献14】Princeら、 1986、 J Virol 57:721−728
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は野生型の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染に対して、対象(ヒトを含む)を免疫するために適したRSVの生株を開示する。RSV感染に関連した重篤な呼吸器疾患を防ぐ一方でその免疫自体に基づく呼吸器疾患をもたらすことがないような免疫応答を、ワクチン接種した対象において効果的に誘導するように適切に弱毒化された株が提供される。この弱毒株は、表現型としては野生型であるサブグループAのヒトRSV株を一定の多重度でVero細胞中において継代培養することによって得られた。継代培養過程で突然変異が誘導され、その結果として遺伝的に安定で、免疫原性および防御性を有し、かつ非病原性であるRSV株となったことが、配列分析によって示された。
【0010】
本発明の他の側面は、(1)本明細書において特定される1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の突然変異、(2)1以上のヌクレオチド突然変異を含み、さらに/または本明細書において開示される弱毒化RSV中において同定された1以上のアミノ酸突然変異をコードするウイルスゲノム、および/または(3)本明細書において記載される1以上のヌクレオチド突然変異を有するか、あるいは本明細書において記載される1以上のアミノ酸突然変異をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む生弱毒化RSVに関する。
【0011】
「突然変異」との記載は、それぞれタンパク質配列または遺伝子および/もしくはゲノム配列内の特定のアミノ酸またはヌクレオチドの位置において、参照配列あるいは野生型配列のアミノ酸またはヌクレオチドとは異なったアミノ酸またはヌクレオチドが存在することを意味している。示された突然変異が最終的に付与される限りにおいて、結果的な突然変異は参照配列または野生型配列に直接導入するか、あるいは参照配列または野生型配列とは異なる配列によって提供され得る。
【0012】
本発明の生弱毒化RSVは、RSV感染またはRSV感染に関連した重篤な呼吸器疾患の発症のいずれかに対して免疫原性および防御性を有する。好ましい具体例として、生弱毒化RSVはサブグループAおよび/またはBの野生型RSV感染に対する免疫に適したヒトRSVである。本明細書においては、当該生弱毒化RSVを含む医薬組成物および当該組成物を投与することによりRSV感染に対して対象、好ましくはヒトを治療する方法も記載される。
【0013】
本明細書に記載される1以上のアミノ酸突然変異をコードするか本明細書に記載される1以上のヌクレオチド突然変異を有する配列を含む核酸の例には、(1)特定の全長RSV参照配列に基づく全長RSVゲノム配列、(2)本明細書に記載される特定のRSV核酸配列に基づく種々のRSV核酸領域、(3)本明細書に記載される1以上の特定のRSV核酸配列を含む部分的ゲノム配列、(4)本明細書に記載される1以上の特定のRSV核酸配列を含む全長ゲノム配列が含まれる。
【0014】
用語「処置する」あるいは「処置」とは、感染または再感染の予防もしくは軽減、またはRSV感染に関連した症状、病気または状態の軽減もしくは除去を含む治療的および/または予防的処置を意味している。処置が必要なヒトには、RSVに感染した一般集団および/または患者が含まれる。処置が必要なヒトの例には、既にRSV関連疾患を発症したヒト、そのような疾患を発症しそうなヒト、および/またはそのような疾患を予防する必要があるヒトが含まれる。
【0015】
「疾患」とはその原因の全て、または一部がRSV感染である状態であり、肺炎および細気管支炎を含むがこれらに限定されるものではない。用語「疾患」には、哺乳動物を当疾患にかかりやすくする病理学的な状態を含む慢性および急性疾患および病気が含まれる。
【0016】
用語「防御する」または「防御」は、本発明の弱毒化ウイルスまたは治療方法と関連して使用される場合には、RSV感染、再感染、RSV感染に起因する疾患の可能性を軽減すること、および感染、再感染および/または当該感染に起因する疾患の重症度を軽減することを意味している。
【0017】
用語「有効量」とは、脊椎動物宿主、好ましくはヒト宿主の体内に導入された場合に、防御的免疫応答を生じる十分な量を意味している。当業者であれば、このレベルが多様であり得ることを理解している。
【0018】
本明細書に記載される生弱毒化RSVはいずれかのRSVサブグループ(AまたはB)または種族(例えばヒト、ウシ、マウス)から得られ、好ましくはヒトから得られる。防御免疫応答を誘導するために、このRSV株は免疫対象にとって内因性のものであってもよく、例えばヒトRSVがヒトを免疫するために使用される。
【0019】
RSV株の記載において、用語「野生型」または「wt」は、弱毒に関する既知マーカーにおいて野生型であるゲノム配列を有するウイルスおよび/または弱毒化のin vivoモデル(例えばヒトまたは他の適当な動物モデル)またはin vitroモデルのいずれかにおいて示されるような表現型における野生型(即ち非毒性)のウイルスの両方に及ぶ。RSVタンパク質または核酸(例えば遺伝子、ゲノム)配列に対する記載における用語「野生型」は、弱毒表現型に寄与することが知られているマーカーを含まない配列を意味する。
【0020】
本明細書に開示されるRSVの記載における「生弱毒化ウイルス」は、遺伝子型において野生型RSVと異なる(即ちゲノム配列に相違を含む)とともに表現型において野生型RSVと異なる(即ち弱毒表現型によって証明されるような)ウイルスを意味している。弱毒化ウイルスは生存能力がある(即ち「生きている」)が、減弱された毒性を示す点において表現型が異なり、したがって、複数のウイルスは異なった程度の弱毒性を示し得る。本発明のこれら生弱毒化RSVは弱毒化されており、そのために対象宿主において非病原性である。不完全に弱毒化されたウイルスは病原性の減弱を示すが、依然として対象宿主において病害応答を生じさせ得る。本願発明の生弱毒化RSVは(例えば野生型または不完全な弱毒化株の継代培養によって)自然に得られるか、または組み換え技術によって産生し得る。組み換え技術によって作られた場合には、組み換えRSVは、組み換え発現系から直接または間接的に得られたRSVもしくはRSV様ウイルスもしくはサブウイルス粒子、またはそれらより生成されたウイルスもしくはサブウイルス粒子から増幅されたものを意味する。
【0021】
「実質的に類似」とは、特定の核酸またはアミノ酸配列が、参照配列に対して、明細書に記載されているように、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%または少なくとも99%の同一性を有することを意味している。参照配列に対する配列同一性は、ある配列を参照配列とアライン(整列)させて、対応する領域内における同一のヌクレオチドまたはアミノ酸の数を特定することにより決定する。この数を参照配列の総アミノ酸数で割り、100倍してから小数点以下第1位で四捨五入して整数にする。配列同一性は、当技術分野において承認されている多数の配列比較アルゴリズムまたは目視検査によって決定することができる(Ausubel, F Mら、 Current Protocols in Molecular Biology、 4、 John Wiley & Sons, Inc.、 Brooklyn、 N.Y.、 A.1E.1−A.1F.11、 1996−2004を総合的に参照のこと)。本願発明の実質的に類似な核酸配列またはアミノ酸配列は、NS2、G、LまたはFタンパク質をコードするかまたはこれらから構成される場合には、後段で詳述するように、p17内において見出される1以上のヌクレオチドまたはアミノ酸突然変異を保持している。
【0022】
「単離された」との記載は、天然で認められるものとは異なった形態あるいは感染患者の鼻咽頭などの天然型ウイルスの本来の環境とは異なった環境中に存在する異なった形態を意味する。したがって単離されたウイルスは細胞培養その他の系の異種成分であり得る。例えば、当該異なった形態は、自然で認められるものとは異なった純度および/または自然で認められるのとは異なった構造であり得る。
【0023】
「含む」等の開放型の用語の記載は、付加的な要素または工程を許容するものである。場合により「1以上」等の句が、付加的な要素または工程の可能性を強調するために、開放型の用語を伴って、あるいは伴わずに使用される。
【0024】
明示しない限り、「a」、「an」および「the」等の語は単数に限らず、文脈から明らかに反しない限り複数を示す語をも含む。例えば、「細胞(a cell)」は、「複数の細胞(cells)」を排除するものではない。場合により、「1以上」等の句が、複数の存在の可能性を強調するために使用される。
【0025】
用語「哺乳動物」はヒトを含むあらゆる哺乳動物を意味する。
【0026】
略語「Kb」はキロベースを意味する。
【0027】
略語「pfu」はプラーク形成単位を意味する。
【0028】
略語「ORF」は遺伝子のオープンリーディングフレームを意味する。
【0029】
本発明の他の特徴や有利性は、種々の実施例を含む本明細書の他の記載から明らかである。提示される実施例は、本発明を実施する上で有用な種々の成分および手順を例示している。実施例は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものではない。本明細書の開示に基づいて、当業者は本発明を実施する上で有用な他の成分および手順を特定し、用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、野生型RSV株、hRSV S2由来のNS2タンパク質(配列番号2:NCBI GenBank Accession no. U39662; Tolley ら、 1996、 Vaccine 14:1637−1646参照)、Merck株287(配列番号4)およびp17(配列番号6)のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるNS2タンパク質の相違を示している。Merck株p17 ppのNS1アミノ酸配列は、p17のものと同じである(配列番号6)。
【図2】図2は、hRSV S2(配列番号8)、Merck株287(配列番号10)およびp17(配列番号12)由来のGタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるGタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。Merck株p17 ppのGアミノ酸配列は、p17のものと同じである(配列番号12)。
【図3A】図3Aは、hRSV S2(配列番号14)、Merck株287(配列番号16)およびp17(配列番号18)由来のFタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるFタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号18の第294位アミノ酸はGluかLys残基のいずれかを表示する「X」で示されている。配列番号18の第486位アミノ酸もAspかGly残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図3B】図3Bは、hRSV S2(配列番号14)、Merck株287(配列番号16)およびp17(配列番号18)由来のFタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるFタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号18の第294位アミノ酸はGluかLys残基のいずれかを表示する「X」で示されている。配列番号18の第486位アミノ酸もAspかGly残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4A】図4Aは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4B】図4Bは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4C】図4Cは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4D】図4Dは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4E】図4Eは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4F】図4Fは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図4G】図4Gは、hRSV S2(配列番号20)、Merck株287(配列番号22)およびp17(配列番号24)由来のLタンパク質のアミノ酸配列のアライメントを示す。下線1本で示されたアミノ酸はMerck287とp17株の両方とhRSV S2株との間におけるLタンパク質の相違を示している。下線2本で示されたアミノ酸はhRSV S2とMerck287株の両方とp17株との間における相違を示している。配列番号24の第148位アミノ酸はAspかAla残基のいずれかを表示する「X」で示されている。第2054位アミノ酸もLeuかPhe残基のいずれかを表示する「X」で示されている。
【図5】図5は、各ウイルスを鼻腔内に接種されたコットンラットから得られた鼻および肺標本の両方における、野生型hRSV A2株(HuangおよびWetz、 1982、 J. Virol. 43:150)、Merck株287の継代3(p3)およびMerck株287の継代17(p17)のウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図6】図6は、各ウイルスを鼻腔内経路および気管内経路の組合せで接種されたアフリカミドリザルから得られた鼻および肺標本の両方における、野生型hRSV A2株、Merck株287の継代3(p3)およびMerck株287の継代17(p17)のウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図7】図7は、各ウイルスを鼻腔内に接種されたコットンラットから得られた鼻および肺標本の両方における、Merck株287の継代3(p3)、継代5(p5)、継代10(p10)、継代15(p15)のウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図8】図8は、コットンラットにおける、wt hRSV A2、Merck株287の継代3(p3)またはMerck株287の継代17(p17)による免疫後14、28および56日目での、野生型hRSV A2に対する血清中和(SN)抗体価の比較を示す。ラットはこれらウイルスを筋肉内投与して免疫した。
【図9】図9は、最初に野生型hRSV A2、Merck株287p3またはMerck株287p17のいずれかで筋肉内免疫されたかあるいは免疫されず、その後にwtA2ウイルスの105.5pfuを鼻腔内暴露されたコットンラットの鼻および肺標本内におけるウイルス力価(pfu/g組織重量)の比較を示す。
【図10】図10は、Merck株287の継代17(p17)を免疫したかあるいは免疫しなかったアフリカミドリザルにおける、免疫28日後での野生型hRSV A2に対する鼻および肺内の血清中和(SN)抗体価の比較を示す。サルは、筋肉内免疫した。
【図11】図11は、最初にMerck株287p17で免疫するかあるいは免疫せずに、その後wt A2の105.5pfuを鼻腔内および気管内暴露されたアフリカミドリザルの鼻および肺標本内の平均ウイルス力価(pfu/ml)の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染および/またはRSV関連疾患の発症に対するワクチンとして使用するための生弱毒化RSVに関する。本明細書に開示されるウイルスは、対象、好ましくはヒト、に投与された場合に、非病原性であるが実質的に野生型RSVの抗原性および免疫原性特性を維持しているように弱毒化されている。したがって、本明細書に開示される弱毒化ウイルスは、接種された哺乳動物において野生型ウイルスによって起こる呼吸器の病的症状を誘発することなく防御免疫応答を刺激するために有用である。
【0032】
I.生弱毒化RSV
本明細書に記載される生弱毒化RSVウイルスはhRSV A型株(以後「Merck株287」、「株287」または「p0.」と称する)を連続して継代することによって同定された。Merck株287は、GMK細胞で最初に2回増幅されたRSV株に由来する。この最初の増幅の後、当該ウイルスはヒトニ倍体細胞株WI−38中において更に5回の継代を経ている。この5回継代材料は、Merck株287と命名され、配列が決定されて、弱毒化の既知遺伝子マーカーについて遺伝学的に野生型であり且つ表現型も野生型であることが示された(後段の実施例参照)。
【0033】
Merck株287はVeroCCL−81サル腎臓細胞内において一定の多重度で継代された。一連の継代をとおしてウイルス力価は一定であり、培養中のウイルスによる細胞変性効果も終始一定であった。継代されたウイルスの弱毒化は、in vivoげっ歯類モデルおよび霊長類モデルにおけるウイルス排出の減少を測定することによってモニターした。コットンラットモデルおよびアフリカミドリザルの両方において、継代3(p3)と継代17(p17)の間で顕著な弱毒化が認められ、ウイルス量において2〜4対数減少率を示した。p17ウイルス個体群と起源種のMerck株287から単離されたゲノムDNAの配列を比較した結果、p17ゲノム中に複数のヌクレオチド突然変異が確認され、それらの大半はG、FおよびLタンパク質をコードする遺伝子(以下各々G、FおよびL遺伝子と称する)の中に存在した。p17はMerck株287と比較して、総数21のヌクレオチドの相違と、11アミノ酸の相違を有している。p17由来のプラーク純化したウイルス(p17 pp)は、Merck株287と比較して更に1つのヌクレオチド突然変異を有している。継代5(p5)、継代10(p10)および継代15(p15)において配列分析を更に行い、継代過程をとおして遺伝子の変化をモニターするとともに、継代18(p18)および継代22(p22)において配列分析を行い、誘導された突然変異の遺伝的安定性を評価した。免疫原性および防護試験も行った。これらの試験結果は、本明細書において開示されるp17株が遺伝的に安定であり、免疫原性および防護性を有し、非病原性であることを示している。したがって、本発明の生弱毒化RSVはRSV感染に起因する疾患を防御するためのワクチンとして使用し得る。
【0034】
Merck株287(継代0またはp0)とその様々な継代株との間での配列比較の詳細な一覧が後段の実施例2および4に記される。簡単に説明すると、p0、p17およびp17 pp(p17由来のプラーク純化ウイルス)の全長ウイルスゲノムが配列決定、比較され、同様に継代5、10、15および18の標的配列についても配列決定、比較がなされた。Merck株287のゲノム配列を配列番号25として記す。p17およびp17 pp株のゲノム配列を、各々配列番号26よび配列番号91として記す。Merck株287とp17のウイルスゲノム間において相違する21ヌクレオチドの位置および具体的なヌクレオチド突然変異を表5(後段)に列挙する(例えば、5295位におけるアラニン(A)からグアニン(G)への突然変異)。p17 pp株のゲノム配列は、本明細書において配列番号91として記す。p17 ppのゲノム配列は、NS1タンパク質をコードする遺伝子内(NS1遺伝子のヌクレオチド162位)において更に非表現ヌクレオチド突然変異を有することを除けば、p17のゲノム配列と同じである。表8(後段)には、Merck株287、p17およびp17 pp間におけるヌクレオチドの相違が記されている。表6および/または表9(後段)には、p17とp17 ppゲノム配列内におけるヌクレオチド突然変異の位置が列挙されるとともに、RSV遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の対応する位置が示されている。例えば、p17ウイルスゲノム5295位の突然変異はG遺伝子ORFのヌクレオチド610位の突然変異に対応する。表6および表9は更に特定の点突然変異(あるいは点突然変異の組合せ)によってアミノ酸置換が生じるか否かと、当該置換アミノ酸の位置を記している。例えば、p17ウイルスゲノムのヌクレオチド5295位における突然変異によって、Gタンパク質のアミノ酸204位においてリシン(LYS)からグルタミン酸(GLU)へのアミノ酸置換が生じる。p17およびMerck株287の間における21のヌクレオチドの相違(およびp17 ppおよびMerck株287の間における22のヌクレオチドの相違)の中において、1つのヌクレオチドの相違がウイルスゲノムの非翻訳領域内(即ち、5’非翻訳領域内のヌクレオチド15046)に位置している。
【0035】
p17ウイルスゲノム内において同定された親p0株(Merck株287)に対する21ヌクレオチドの相違のうち、RSVウイルスゲノムのヌクレオチド6538位、7115位、8937位および14656位に位置する4つのヌクレオチドの相違が、継代17に含まれるウイルス個体群内において、多型を示し得る(後段の実施例2参照)。これらの位置は配列番号26において「n」で示される。6538位の「n」はGまたはAのいずれかでありえ、7115位の「n」はAまたはGのいずれかでありえ、8937位の「n」はAまたはCでありえ、14656位の「n」はGまたはTのいずれかでありえる。これらのヌクレオチド多型は、FおよびL遺伝子(各々配列番号17および23)に対応する遺伝子配列中においても「n」で示され、FおよびLタンパク質(各々配列番号18および24)に対応するタンパク質配列中においては「x」で示される。多型は2つ(またはそれ以上)の遺伝子の形態が1つの個体群の中に存在することを意味し、いずれの形態もあまりに多く存在するため、単に新規であるとの理由のみで重要でない突然変異と認識することはできない。これらの利用可能性がある多型のうちの2つがFタンパク質のコード領域内に位置し、他の2つがLタンパク質のコード領域内に位置している。これらの多型はシークエンシングクロマトグラムにおいてはっきりと表れており、少なくとも2つのヌクレオチドに対応する二重のピークによって示される。この多型の存在は、配列分析のためにDNAが抽出されたp17ウイルス集団の中にあるウイルスの個体群は、同一のウイルス個体から成る群ではないことを示している。これら4つのヌクレオチド多型はいずれもアミノ酸置換の原因となる(後段の実施例2参照)。
【0036】
p17RSV株はクローン集団、p17 ppになるまでプラーク純化し、配列を決定した(後段の実施例4参照)。p17 ppゲノム内のNS1タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド162における非表現突然変異の同定に加えて、p17のLおよびFタンパク質をコードする遺伝子内において見出された多型を解明した(後段の表8および9参照)。かくして、p17 ppウイルスのFおよびLタンパク質をコードする遺伝子が本明細書において各々配列番号92および配列番号94として記され、コードされるタンパク質が配列番号93および配列番号95として記される。
【0037】
(後段の実施例2の中にある)表7は、本明細書に記されるMerck株287の継代を経て誘導された突然変異の進行過程を示す。例えば、継代5(p5)ではRSVゲノムのヌクレオチド954位に位置する1つのヌクレオチド突然変異のみが認められる。継代が進むにしたがってヌクレオチド突然変異の数が増え、p17内の21ヌクレオチド突然変異のうち少なくとも20がp15までに存在することとなる。p17において見出された、5’非翻訳領域内のウイルスゲノムのヌクレオチド15046に位置する21番目のヌクレオチド相違はp15において存在するであろうが、p15ウイルスゲノムの当領域を含む遺伝子断片の配列決定は行わなかった。
【0038】
図7に示される結果は、p3、p5、p10およびp15のin vivo複製を比較することにより、ウイルス継代と弱毒化程度の関係を強調している(後段の実施例3も参照のこと)。継代5(p5)はp3に比較してすでに複製の減弱を示している。継代10(p10)および15(p15)は、複製の更なる減弱を示し、p10とp15の間で複製の顕著な減弱が示される。p15ウイルスは上記のp17ウイルスと同様に弱毒化されていると考えられる(図5参照)。p10とp15内に存在する突然変異の整列を比較すると、p15はFおよびLタンパク質のコーディング領域内に位置する2つの更なるヌクレオチド相違を有しているのみである。したがって、如何なる特定の理論にしばられるものではないが、Fおよび/またはLタンパク質のコーディング領域がRSVの弱毒化に特に重要である可能性がある。p17のプラーク純化された誘導体、p17 ppの弱毒化の解析によって、このウイルスは親p17株と同様に弱毒化されていることが示された(後段の実施例4参照)。
【0039】
表1は、Merck株287(MRK287)、p17、p17 ppおよび公表されている野生型種hRSV S2(NCBI GenBank Accession no. U39662; Tolley ら、 1996、 Vaccine 14:1637−1646)のNS1、NS2、G、FおよびL遺伝子のオープンリーディングフレームならびにコードされるタンパク質の配列番号を列挙する。
【表1】
【0040】
RSVは非分節型、マイナス一本鎖RNAゲノムである。そのため、遺伝子断片の再集合は起こらない。しかし、RNAポリメラーゼがRNA校正能および編集能を欠いているために、RSVゲノムは極めて変異しやすい。様々なRSV遺伝子の配列を研究することにより、ヒトRSVが2つの大きなグループ(AおよびB)に分けられることが確認されているが、各々のグループ内においても多くの変異体や系統が同定されている(例えばPeretら、 1998、 J Gen. Virol. 79:2221−2229参照)。抗原性が異なる2種類のヒトRSVサブグループの間では、アミノ酸配列の同一性は96%(Nタンパク質について)から53%(Gタンパク質について)の範囲にある(Johnson ら、 1987, Proc. Natl Acad. ScL USA 84:5625−5629)。グループA内とグループB内においては、Gタンパク質はそれぞれ20%未満と9%のアミノ酸多様性を示す。(Caneら、 1991、 J. Gen. Virol 72:649−357; Sullenderら、1991、 J. Virol 65:5425−5434)。
【0041】
この遺伝的不均一性の例として、図1、2、3および4において、各々Merck株287、p17およびhRSV S2由来のNS2、G、FおよびLタンパク質のアライメントが示される。図1中のNS2タンパク質のアライメントに示されるように、Merck株287と本明細書に記載されるp17継代株の間にはアミノ酸相違は存在しないが、Merck株287およびp17の両方と野生型hRSV S2株との間には2つのアミノ酸相違が存在する(図1において下線で示す)。しかし、Merck株287とhRSV S2はいずれも表現型は野生型であることに注目することが重要であり、したがってMerck株287およびp17の両方とhRSV S2との間に存在するアミノ酸相違はp17またはp17 ppの弱毒化を誘導するものでも、弱毒化に寄与するものでもない。
【0042】
同様に、G、FおよびLタンパク質配列内においてMerck株287とp17の両方と野生型hRSV S2株との間にアミノ酸相違が存在する(各々図2、3および4において下線1本で示されたアミノ酸参照)。しかし、Merck株287とp17のG、FおよびLタンパク質配列の間にもアミノ酸相違が存在する(各々図2、3および4において下線2本で示されたアミノ酸参照)。これらの下線2本で示されたアミノ酸相違のうち1つ以上がp17およびp17 ppに対して証明された弱毒表現型に関与していると考えられる。
【0043】
したがって、本発明は生弱毒化RSVに関するものであり、当該生弱毒化RSVは、Merck株287と比較してp17および/またはp17 ppにおいて記載されたヌクレオチド突然変異を1つ以上含み、および/または、本明細書でp17において記載されたアミノ酸突然変異を1つ以上コードする、改変されたウイルスゲノムを有している。1つの実施態様では、当該弱毒化RSVのウイルスゲノムは例えば、配列番号25で示されたMerck株287のゲノム配列またはその他の野生型の表現型を有するRSV株(例えばhRSV S2)に比較して、更なる相違ヌクレオチドを含むか、および/または、更なる相違アミノ酸をコードすることができ、ここで当該更なるヌクレオチドおよび/またはアミノ酸突然変異は実質的に弱毒表現型に関与しないものである。
【0044】
他の実施態様において、本発明の生弱毒化RSVは、弱毒化の既知遺伝子マーカー(例えばConnersら、 1995、 Virology、 208:478−484; Croweら、 1996、 Virus Genes 13:269−273; Firestoneら、1996、Virology 225:419−422; Whiteheadら、1998、J Virol. 72:4467−4471参照)における更なる突然変異に加えて、p17および/p17 ppにおいて記載されたヌクレオチドおよび/またはアミノ酸突然変異を1つ以上含んでいてもよい。
【0045】
II.種々の実施態様の例
第1の実施態様として、本発明は生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に関するものであり、当該ウイルスに含まれるウイルスゲノムは、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位のアラニン、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位のグリシン、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位のグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位のグリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位のリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位のグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位のアラニン、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位のフェニルアラニンからなる群より選択される1以上のアミノ酸を含むタンパク質をコードする。したがって、この実施態様において、本発明の生弱毒化RSVはこの段落に記載されているアミノ酸残基の1つ、全てまたは部分集団を含む。列挙されたアミノ酸残基の位置は、ウイルスゲノム内の遺伝子にコードされる特定のアミノ酸配列内におけるそれらの位置により示される。G、FおよびLタンパク質はそれぞれG、FおよびL遺伝子によってコードされる。
【0046】
更なる実施態様において、本発明の生弱毒化RSVは、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるアデニン、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるアデニン、G遺伝子のヌクレオチド610位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド668におけるグアニン位、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるグアニン、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるアデニン、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるグアニン、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるシトシン、およびL遺伝子のヌクレオチド6162位におけるチミンからなる群より選択される1つ以上のヌクレオチドを含むウイルスゲノムを含む。ウイルスゲノムはこれら特定のヌクレオチドの1つ、全てまたは部分集合を含むことができる。
【0047】
上記の特定されたアミノ酸残基および/またはヌクレオチドの1つ、全てまたは部分集合が本発明の生弱毒化RSV内に含まれ得る。上記のアミノ酸残基およびヌクレオチドは、本明細書に記載されるp17およびp17 pp内に存在する具体的なアミノ酸残基およびヌクレオチドの位置に対応している(後段の表5、6、8および9参照)。例えば、この実施態様に含まれる生弱毒化RSVは、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニン、およびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニンを含み得る。上述したように、本明細書において提示される結果は、FおよびLタンパク質内の指定されたアミノ酸残基が、p17およびp17 ppの弱毒化表現型に実質的に関与している。
【0048】
第二の実施態様において、本発明は生弱毒化RSVに関するものであり、当該ウイルスに含まれるウイルスゲノムは、非弱毒化RSVウイルスゲノムに比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含み、ここで1以上のヌクレオチド突然変異によって1以上のアミノ酸突然変異が生じ、この1以上のアミノ酸突然変異はG遺伝子にコードされる各タンパク質の204、205、211、213、221、223および232位、F遺伝子にコードされる各タンパク質の294および486位、L遺伝子にコードされる各タンパク質の148および2054位からなる群より選択されるアミノ酸位に位置している。非弱毒化RSV株は遺伝的および/または表現型の上で野生型であることができ、参照配列を提示する。アミノ酸突然変異の位置は、ウイルスゲノム内の遺伝子によってコードされる特定のアミノ酸配列の中における位置によって示される。G、FおよびLタンパク質は各々G、FおよびL遺伝子によってコードされる。上記のアミノ酸突然変異は、遺伝的に野生型であるRSV株(RSV S2株)および表現型の上で野生型であるRSV株(Merck株287)と比較した場合に本明細書に記載されるp17およびp17pp内に見出されるアミノ酸置換の位置に対応している(後段の表6および9参照)。
【0049】
更なる実施態様において、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異はアラニンへと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異はグリシンへと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異はグルタミン酸へと変わる突然変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異はグリシンへと変わる突然変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異はリシンへと変わる突然変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位のアミノ酸突然変異はグリシンへと変わる突然変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位のアミノ酸突然変異はアラニンへと変わる突然変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異はフェニルアラニンへと変わる突然変異である。
【0050】
更なる実施態様において、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異はLys204Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異はLys205Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異はThr211Alaであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異はLys213Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異はLys221Glyであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異はLys223Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異はGlu232Glyであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異はGlu294Lysであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるアミノ酸突然変異はAsp486Glyであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアミノ酸突然変異はAspl48Alaであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異はLeu2054Pheである。例として、Gタンパク質について使用される表示、Lys204Gluは、Gタンパク質のアミノ酸位204におけるリシン(Lys)アミノ酸残基がグルタミン酸(Glu)アミノ酸残基で置換されていることを示している。アミノ酸残基の略語は後段で示す。上述したアミノ酸突然変異は本明細書において記載するp17およびp17 pp内に存在するアミノ酸置換に対応している(後段の表6および表9参照)。
【0051】
他の実施態様において、ウイルスゲノムは上記アミノ酸突然変異の全てまたは部分集団のいずれかを生じるヌクレオチド突然変異を含む。例えば、本実施態様に含まれる弱毒化RSVのウイルスゲノムは、FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質内の提示されたアミノ酸位置の1つまたは全てにおいてアミノ酸突然変異を生じるヌクレオチド突然変異を含み得る。上述したように、本明細書において示される結果は、FおよびLタンパク質内の突然変異が実質的にp17およびp17 ppの弱毒表現型に寄与していることを示唆している。
【0052】
更なる実施態様において、上記の1以上のアミノ酸突然変異を生じる弱毒化RSVのウイルスゲノムに存在する1以上のヌクレオチド突然変異は、G遺伝子の610、613、631、637、639、661、662、667、668、695および696位、F遺伝子の880および1457位ならびにL遺伝子の443および6162位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置する。この実施態様において、アミノ酸置換を生じるためには、2つのヌクレオチド位が突然変異する必要のある場合がある。ヌクレオチド突然変異の位置は、ウイルスゲノム内に含まれる特定のORF内におけるそれらの位置によって示される。あるいは、ヌクレオチド突然変異の位置は、ウイルスゲノム自体の内部におけるそれらの位置によって示され得る。例えば、G遺伝子のヌクレオチド610位は、RSVゲノムのヌクレオチド5295位に対応している。本明細書に記載されているORF内の特定の位置における突然変異とそれに対応するRSVゲノム内における位置との関係は、後段の表6および表9に示される。
【0053】
更なる実施態様においては、ウイルスゲノムは、NS2遺伝子の327位、G遺伝子の630位、G遺伝子の654位、G遺伝子の666位およびG遺伝子の675位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置する1以上の非表現突然変異を更に含む。ウイルスゲノムは更にNS1遺伝子のヌクレオチド162位における非表現突然変異を更に含み得る。ウイルスゲノムは、これら非表現突然変異の全てまたは部分集団を含み得る。他の実施態様において、ウイルスゲノムは上述した(非表現および表現)ヌクレオチド突然変異の全てを含む。
【0054】
他の実施態様において、ウイルスゲノムは、非弱毒化あるいは不完全弱毒化RSV株のいずれかのウイルスゲノムに比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含み、この1以上の突然変異はNS1遺伝子の162位、NS2遺伝子の327位、G遺伝子の610、613、630、631、637、639、654、661、662、666、667、668、675、695および696位、F遺伝子の880および1457位ならびにL遺伝子の443および6162位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置している。上記の非弱毒化株は、遺伝的および/表現型の上から野生型RSVであり得る。更なる実施態様において、ウイルスゲノムは提示された全てのヌクレオチド位において突然変異を含む。
【0055】
更なる実施態様において、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるヌクレオチド突然変異はT260Aであり、NS2のヌクレオチド327位におけるヌクレオチド突然変異はG327Aであり、G遺伝子のヌクレオチド610位におけるヌクレオチド突然変異はA610Gであり、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるヌクレオチド突然変異はA613Gであり、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるヌクレオチド突然変異はA630Gであり、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるヌクレオチド突然変異はA631Gであり、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるヌクレオチド突然変異はA637Gであり、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるヌクレオチド突然変異はA639Gであり、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるヌクレオチド突然変異はA654Gであり、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるヌクレオチド突然変異はA661Gであり、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるヌクレオチド突然変異はA662Gであり、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるヌクレオチド突然変異はA666Gであり、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるヌクレオチド突然変異はA667Gであり、G遺伝子のヌクレオチド668位におけるヌクレオチド突然変異はA668Gであり、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるヌクレオチド突然変異はA675Gであり、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるヌクレオチド突然変異はA695Gであり、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるヌクレオチド突然変異はA696Gであり、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるヌクレオチド突然変異はG880Aであり、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるヌクレオチド突然変異はA1457Gであり、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるヌクレオチド突然変異はA443Cであり、L遺伝子のヌクレオチド6162位におけるヌクレオチド突然変異はG6162Tである。例として、用語「G327A」は、この実施態様における弱毒化RSVのNS2遺伝子の説明において用いられる場合には、この位置におけるグアニンヌクレオチドがアデニン(A)ヌクレオチドに突然変異したことを意味している。チミンおよびシトシンのヌクレオチド略称はそれぞれ「T」および「C」である。ウイルスゲノムは、提示されたヌクレオチド位の全てまたは部分集合においてヌクレオチド突然変異を含み得る。
【0056】
更なる実施態様において、本発明は生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に関するものであり、当該ウイルスに含まれるウイルスゲノムは、非弱毒化または不完全弱毒化RSV株のいずれかのウイルスゲノムに比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含み、ここで1以上のヌクレオチド突然変異はRSVゲノムの260、954、5295、5298、5315、5316、5322、5324、5339、5346、5347、5351、5352、5353、5360、5380、5381、6538、7115、8937および14656位からなる群より選択されるヌクレオチド位に位置している。上記の各ヌクレオチド突然変異は本明細書に記載されるRSV p17および/またはp17 pp株内に存在する。更なる実施態様において、この改変されたウイルスゲノムは記載された全てのヌクレオチド位において突然変異を有している。
【0057】
RSVタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム、RSVゲノム配列の全長またはRSVタンパク質のアミノ酸配列のいずれかの内部における特定の位置について記載する場合は、正確な位置は抗原性サブグループ(AおよびB)のグループ内および/またはグループ間ならびにウイルス種(例えばヒトウイルス対ウシウイルス)間でRSV株毎に若干の変動があることは当然に理解される。よって、複数の参照配列をアラインすることによるヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の比較分析を用いて、本明細書において記載される具体的な位置に対応する的確なヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の位置を特定することができる。したがって、具体的なアミノ酸またはヌクレオチドの位置を記す上記実施態様および以下の実施態様においては、参照配列の配列アライメントおよび分析ならびに参照配列との配列アライメントおよび分析によって決定される、それらの具体的に示された位置に対応する位置における1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸残基および/または1以上のヌクレオチド突然変異および/またはアミノ酸突然変異を含むウイルスゲノムを含む生弱毒化RSVが含まれる。
【0058】
第三の実施態様においては、本発明の弱毒化RSVは、野生型のNS1、NS2、G、Fおよび/またはLタンパク質(例えば、RSV S2 NS1、NS2、G、Fおよび/またはLタンパク質配列にそれぞれ対応する配列番号88、2、8、14および20)に関連付けられるNS1、NS2、G、Fおよび/Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、これらNS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子配列は具体的な遺伝子のp17および/またはp17 ppヌクレオチド配列と野生型ヌクレオチド配列との間で相違することが特定されているヌクレオチドまたはヌクレオチド突然変異を1つまたは組み合わせて含んでいる。ここで、当該関連付けられた配列は、異なったヌクレオチドまたはヌクレオチド突然変異の1つまたは組合せの外側領域内において当該野生型RSV遺伝子配列と少なくとも95%、好ましくは99%の配列同一性を有している。
【0059】
第四の実施態様においては、本発明に含まれる生弱毒化RSVのウイルスゲノムはG、Fおよび/またはLタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、当該タンパク質はそれぞれ配列番号12、配列番号18または配列番号93および配列番号24または配列番号95に記載されるアミノ酸配列からなる。配列番号12、18および24は本明細書に記載されるp17内のG、FおよびLタンパク質のアミノ酸配列を示す(図2、3および4参照)。FおよびLタンパク質内の多型は対応する記載配列(配列番号18および24)内において示される。したがって、更なる実施態様において、p17のFタンパク質(配列番号18)の294位はLys残基であり、および/またはp17のFタンパク質の486位はGly残基である。更なる実施態様において、p17のLタンパク質(配列番号24)の148位はAla残基であり、および/またはp17のLタンパク質の2054位はPhe残基である。配列番号93と配列番号95はそれぞれp17のプラーク純化した誘導体であるp17 pp内のFおよびLタンパク質のアミノ酸配列を示している。これら配列内の多型はプラーク純化されたウイルス内においては消失しており、配列番号93および95において示される。
【0060】
更なる実施態様において、生弱毒化RSVのウイルスゲノムはG、Fおよび/Lタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、これらタンパク質はそれぞれ配列番号12、配列番号18または配列番号93および配列番号24または配列番号95に記載されるアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列からなる。
【0061】
第五の実施態様においては、本明細書に記載される生弱毒化RSVのウイルスゲノムはNS1、NS2、G、Fおよび/またはLタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、これらオープンリーディングフレームの1以上はそれぞれ配列番号89または配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17または配列番号92および/または配列番号23または配列番号94に記載されるヌクレオチド配列からなる。配列番号89、5、11、17および23はそれぞれ本明細書に記載されるp17内のNS1、NS2、G、FおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列を示す。p17のFおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列は上述したヌクレオチド多型を含む。したがって、更なる実施態様において、p17のF遺伝子(配列番号17)の880位はアデニンヌクレオチドであり、および/またはp17のF遺伝子の1457位はグアニンヌクレオチドである。更なる実施態様において、p17のL遺伝子(配列番号23)の443位はシトシンヌクレオチドであり、および/またはp17のL遺伝子の6162位はチミンヌクレオチドである。配列番号90、5、11、92および94は、それぞれp17 pp内のNS1、NS2、G、FおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列を示す。p17のFおよびLタンパク質をコードするヌクレオチド配列内の多型はプラーク純化したウイルス内において消失しており、配列番号92および94において示される。
【0062】
更なる実施態様において、生弱毒化RSVのウイルスゲノムは、NS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子に対応するオープンリーディングフレームを含み、これらはそれぞれ配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17もしくは配列番号92および/または配列番号23もしくは配列番号94に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であり、本明細書においてp17および/またはp17 ppと野生型ヌクレオチド配列の間で相違することが確認されたこれらNS1、NS2、G、Fおよび/L遺伝子内の特定のヌクレオチドのいずれか1つまたはそれらの組合せが存在している。
【0063】
第六の実施態様においては、上記各実施態様において記載された生弱毒化RSVのウイルスゲノムが更に、ウイルスゲノム内において15046位のシトシン、15046位の突然変異、15064位におけるシトシンへの突然変異またはA15046Cの突然変異のいずれかを含んでいる。ヌクレオチド15046位はRSVゲノムの5’非翻訳領域内に位置している。
【0064】
第七の実施態様においては、上記各実施態様において記載された生弱毒化RSVのウイルスゲノムが、RSVの弱毒化の既知遺伝子マーカーにおけるヌクレオチドおよび/またはアミノ酸突然変異またはRSV(好ましくはヒトRSV)に弱毒表現型を付与することが知られているヌクレオチドおよび/またはアミノ酸のいずれかを更に含む。本実施態様には、例えば化学的突然変異、冷順応または遺伝子組み換え(例えば部位特異的突然変異)によって更に弱毒化された上記実施態様に記載された生弱毒化RSVの誘導株の全てが含まれる。したがって、本明細書においてp17およびp17 ppの弱毒化に寄与していることが記載されているヌクレオチドおよび/またはアミノ酸を導入することにより、業界で既に知られている不完全な弱毒化RSV突変異株を更に弱毒化(例えばより完全な弱毒化)することができる。
第八の実施態様においては、上記各実施態様に記載された生弱毒化RSVはRSVの抗原性サブグループAまたはBのいずれかに属している。更なる実施態様においては、生弱毒化RSVはヒトRSVである。
【0065】
第九の実施態様においては、本発明の生弱毒化RSVのウイルスゲノムは、配列番号26または配列番号91に示されるヌクレオチド配列を含む。配列番号26は、本明細書に記載されるp17のウイルスゲノムのヌクレオチド配列を示している。配列番号26のヌクレオチド6538位、7115位、8937位および14656位は多型を含むことが見込まれる。したがって、配列番号26内のこれらの位置におけるヌクレオチドはGまたはA(6538位)、AまたはG(7115位)、AまたはC(8937位)およびGまたはT(14656位)のいずれか一方である。更なる実施態様において、6538位はアデニンヌクレオチドであり、7115位はグアニンヌクレオチドであり、8937位はシトシンヌクレオチドであり、および/または14656位はチミンヌクレオチドである。配列番号91は、本明細書に記すp17 ppのウイルスゲノムのヌクレオチド配列を示す。更なる実施態様において、生弱毒化RSVは配列番号26または配列番号91に示されるヌクレオチド配列に対して、ゲノム全体に亘って少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%同一であり、本明細書においてp17および/またはp17 ppヌクレオチド配列と野生型ヌクレオチド配列の間で相違することが同定された特定のヌクレオチドのうちの1つまたはそれらの組合せが存在している。
【0066】
第十の実施態様において、本発明の生弱毒化RSVは、上記の各実施態様に記載された弱毒化RSVであって実質的にこの第10実施態様の生弱毒化RSVと同一の物理的/構造的特性および機能的特性の両方を有している対応ウイルスの内部に含まれるタンパク質および/または核酸配列と実質的に類似するこれら配列の変異体を含んでいる。1つの実施態様において、本生弱毒化RSVは、p17またはp17 ppウイルス内部に存在する改変されたタンパク質の1つ以上をコードする核酸分子の相補鎖とストリンジェントな条件化でハイブリダイズする核酸分子によってコードされる実質的に類似なタンパク質を含む。更なる実施態様において、当該生弱毒化RSVは、p17またはp17 ppウイルス内部に存在する改変された核酸分子または(コード領域が非コード領域のいずれかである)その領域の1つ以上とストリンジェントな条件化でハイブリダイズする核酸分子を含んでいる。
【0067】
第十一の実施態様において、上記の各実施態様において記載された生弱毒化RSVが生弱毒化RSVの個体群に含まれる。弱毒化RSVの個体群とは、当該ウイルスの個体群が必ずしも1種類のウイルスに対して相同ではないことを意味している。例えば、本明細書において記載するように、本明細書に記載するRSV株の継代後期において、多型の存在が見出されている。本明細書に記載されるp17ゲノム内には4つの多型部位が存在している。したがって、p17によって示されるようなウイルスの個体群は、本明細書に記される固定されたヌクレオチド突然変異(即ち非多型)に加えて、4つの多型部位、6538、7115、8937および14656位において2つの候補ヌクレオチドのうちの1つを含むゲノムを有する複数の弱毒化ウイルスから構成され得る。RSV個体群は、本明細書(後段の実施例1参照)に記載するように細胞培養中で非弱毒化または不完全弱毒化RSV株のいずれかを連続的に継代することによって作ることができ、この連続継代には配列番号25に示すウイルスゲノムを有するMerck株287の連続継代が含まれるがこれに限定されるものではない。ウイルス個体群は、適当な細胞型において継代するか、または1以上の一連のクローニング工程を実施することにより均一、あるいは実質的に均一にまで精製することができる。
【0068】
本発明の更なる実施態様には、上記各実施態様に記載される生弱毒化RSVまたはその個体群であって、本明細書において特定のウイルスタンパク質または遺伝子のp17またはp17 pp配列と野生型配列の間で相違することが見出された1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸が、遺伝子組み換え方法によって非弱毒化または不完全弱毒化RSV株に導入されることによって当該ウイルスが作られたものを含む。本発明の更なる実施態様において、上記各実施態様において記載されたような生弱毒化RSVまたはその個体群は、(配列番号25に示すゲノム配列を有する)Merck株287を後段の実施例1に記載する方法によって連続的に継代することを含む工程により作られる。したがって、当該実施態様には、配列番号25に記載されるウイルスゲノムを含む非弱毒化RSV株を(アフリカミドリザル腎臓細胞株、VeroCCL−81を含むがこれに限定されない)細胞株中において一定の感染多重度(MOI)(例えば1:100から1:1000の間)で継代することを含む。
【0069】
本発明の更なる実施態様には、特定のウイルス遺伝子またはタンパク質のp17またはp17 ppヌクレオチドまたはアミノ酸配列と野生型ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間で相違することが見出されている(前段または後段において詳述する)1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸を遺伝子組み換え方法により非弱毒化または不完全弱毒化RSV株に導入することを含むRSVの弱毒化方法が含まれる。本発明の更なる実施態様には、後段の実施例1において記載する方法によって(配列番号25に示すゲノム配列を有する)Merck株287を連続的に継代することを含むRSVの弱毒化方法が含まれる。
【0070】
本発明は、(a)(例えば人体の)治療、(b)薬、(c)RSV複製の阻害、(d)RSV感染の治療または予防、または(e)RSV関連疾患の治療、予防または発症もしくは進行の遅延について、(i)これらのために使用するか、(ii)これらのための医薬として使用するか、(iii)これらのための医薬の製造において使用するための、上記各実施態様に記載された1以上の生弱毒化RSV、その個体群または当該弱毒化ウイルスを含むワクチンをも含む。
【0071】
III.医薬組成物
本明細書に記載される生弱毒化RSVまたは当該生弱毒化RSVを含むウイルス個体群および医薬上許容される担体を含む医薬組成物も本発明によって提供される。
したがって、本明細書に記載される生弱毒化RSVは、生物学的活性の維持を補助し、また許容可能な温度範囲内での保存期間における安定性を向上させるために、医薬上許容可能な担体とともに製剤化することができる。本明細書で用いる場合、「医薬上許容可能な担体」との用語は、当業界で周知でありRemington’s Pharmaceutical Sciencesのような様々なテキストに記載されている適当な製剤用担体を含む。担体として使用可能なものには生理的平衡培養液、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルション(例えば油/水または水/油エマルション)、タンパク質、ペプチドもしくは加水分解物(例えばアルブミン、ゼラチン)等の安定化剤もしくは凍結保護用添加剤、糖(例えばラクトース、ソルビトール)、アミノ酸(例えばグルタミン酸ナトリウム)またはその他利用可能な薬品が含まれるが、これらに限定されない。得られた水溶液はそのまま使用するように容器に入れられるか、または凍結乾燥される。凍結乾燥された配合剤は無菌液と組み合わされて単回投与または複数回投与のいずれかで投与される。製剤化された組成物、特に液剤は、保存時における分解を防止または軽減するために、有効濃度(通常は1% w/v以下)のベンシルアルコール、フェノール、m−クレゾール、クロロブタノール、メチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンを含む(但しこれらに限定はされない)静菌薬を含んでいても良い。静菌薬はある種の患者には禁忌であり、したがって凍結乾燥された製剤は、これらの成分を含む溶液か含まない溶液のいずれかに溶かすことができる。
【0072】
この医薬組成物は、宿主の免疫応答を亢進させるためにアジュバントを含んでいても良い。適当なアジュバントは、例えば、toll様受容体アゴニスト、alum、AIPO4、アルハイドロゲル、Lipid−Aおよびそれらの誘導体または変異体、油エマルション、サポニン、中性リポソーム、当該ワクチンおよびサイトカインを含むリポソーム、非イオン性ブロック共重合体およびケモカインである。POE−POP−POEのようなポリオキシエチレン(POE)およびポリオキシプロピレン(POP)を含む非イオン性ブロック共重合体をアジュバントとして使用することができる(Newmanら、 1998、 Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 15:89−142)。これらのアジュバントは、非特異的に免疫系に対する刺激を促進し、その結果薬剤に対する免疫応答を亢進する点において好都合である。
【0073】
あるRSVサブグループまたは株由来の本明細書に記載する生弱毒化RSVは、別のサブグループまたは株由来の他の弱毒化RSVと組み合わせることが可能である。他のウイルスは、混合製剤中に含ませることができ、同時に、または別々に投与することができる。RSVの特定の株の間で干渉効果現象が起こることから、ある株による免疫によって、同じ、または異なったサブグループに属する複数の他のウイルス株に対する防御が可能である。したがって、本明細書に記載する単離された弱毒化RSVは、他の非−自然発生的RSVと組合せられるか、弱毒化RSVの個体群中に存在し得る。
【0074】
場合によっては、本明細書に記載される生弱毒化RSVまたはその組成物を、別の病原体、特に他の小児疾患の原因となる病原体に対して防御応答を誘発する他の医薬品(例えばワクチン)と組み合わせることが望ましい。例えば、本明細書に記載する弱毒化RSV組成物は、標的とする年齢群(例えば、生後約1から6ヶ月齢の乳児)に対して予防接種実施諮問委員会(ACIPhttp://www.cdc.gov/vaccines/recs/ACIP/default.htm)が推薦する他のワクチンと同時に(典型的には別々に)または連続的に投与することができる。これらの追加ワクチンには、他の非経口投与ワクチンが含まれるが、これに限定するものではない。したがって、本明細書に記載する生弱毒化RSV組成物は、例えばB型肝炎(HepB)、ジフテリア、破傷風および百日咳(DTaP)、肺炎球菌(PCV)、ヘモフィルス‐インフルエンザb型菌(Hib)、ポリオ、インフルエンザおよびロタウイルスに対するワクチンと同時または連続的に投与することができる。
【0075】
IV.使用方法
生弱毒化RSVまたは当該生弱毒化ウイルスを含むウイルス個体群を含む医薬組成物は、RSV感染およびそれに関連する疾患を治療することを目的として対象者に接種するために有用である。本発明の範囲は、母子免疫を含むことを意図している。
【0076】
したがって、本発明は更に、上記の医薬組成物の有効量を対象に投与することによって、RSVに感染しないよう対象に予防接種する方法を提供する。この対象は動物、例えばチンパンジーやヒトなどの哺乳動物を含む。本明細書に記載する生弱毒化RSVをRSVに感染しやすい人、あるいはRSV感染または(再感染を含む)RSV感染に関連する重篤な疾患の発症に対して危険性を有する人に投与して、対象者自身の免疫応答能を亢進させる。特に、新生児、血清反応陰性および陽性の乳児および小児ならびに高齢者においてRSV感染は潜在的に重大な影響を有することから、開示される生弱毒化RSV組成物による免疫はこのような人達にとって有益であろう。したがって、記載される医薬品による免疫に特に適した対象者は、乳児、子供、高齢者および免疫抑制治療を受けている成人である。血清反応陰性者とは、サブグループAまたはBのRSVにかつて感染したことを示す免疫学的痕跡を有さない者である。血清反応陽性者とは、母親から受動的に、あるいは過去におけるRSV感染の結果として、検出可能なRSV抗体を獲得した者である。
【0077】
本明細書に記載する生弱毒化RSVを含む医薬組成物は、対象者が後に野生型RSVに感染または再感染した場合に、肺炎や細気管支炎などの重篤な下気道疾患を防ぐ免疫応答の発現を誘導する。自然に循環しているウイルスは、依然として感染症、特に上気道における感染症の原因となり得るが、予防接種およびその後の野生型ウイルス感染によって生じる可能性がある抵抗性の増大により、鼻炎発症の可能性が大きく減少する。予防接種の後に、宿主は検出可能なレベルの血清抗体および分泌性抗体を産生し、これら抗体は(同じサブグループの)相同性野生型ウイルスをin vitroおよびin vivoで中和することができる。多くの場合、宿主抗体は異なった非ワクチンサブグループの野生型ウイルスをも中和するであろう。例えば別のサブグループの異種株に対してより高いレベルの干渉効果を得るために、サブグループAおよびBの両方の少なくとも1つの主要な株由来の本明細書に記載する生弱毒化RSVで予防接種することができる。したがって、本明細書に記載する生弱毒化RSVは抗原性サブグループAまたはBのいずれかに属することが可能であり、流行しているRSV感染に対してより広い適応範囲を得るために両サブグループ由来のウイルスをワクチン製剤において組み合わせることができる。本明細書に記載する生弱毒化ワクチンおよびその医薬組成物は、対象、好ましくはヒトにおいてRSVに対する効果的な免疫応答を誘導または亢進させるために有効な量で提供される。所望の免疫応答を得るために、有効投与量においてウイルスの増殖および拡散がある程度許容されるが、RSV関連症状あるいは疾患の原因とはならない。本明細書において示される指針に基づいて、当業者は容易に生ワクチンにおいて使用するウイルスの適切な量を決定することができるであろう。正確な量は、いくつかの要因、例えば対象者の健康状態および体重、投与方法、ウイルスの弱毒化程度、製剤の特性による影響を受け、また、対象者の免疫系が損傷しているか否かによって変動するであろう。1つの実施態様において、(ヒト対象1人あたり約104から約105プラーク形成単位(PFU)ウイルスを含め)ヒト対象1人あたり約103から約107PFU以上のウイルスである。
【0078】
投与は、防御免疫応答の誘導に有効であることが知られている形態であればよく、選択肢には非経口投与、静脈内投与、経口投与または局所的に粘膜表面へ塗付することが含まれる。大抵の場合、本明細書で記載される生弱毒化RSVは非経口投与される。
【0079】
本明細書に記載される生弱毒化RSVおよびその医薬組成物の単回または複数回投与が実施可能である。新生児および乳児においては、十分な免疫レベルを得るために複数回の投与が必要となり得る。天然の(野生型)RSV感染にたいして十分な防御レベルを維持する必要があることから、投与は生後一ヶ月以内に開示されて、小児期にわたって間をおいて繰り返し継続される。例えば、一ヶ月目に最初の投与を行い、その後二ヶ月、六ヶ月、一年および/または二年目に投与するスケジュールが可能である。予防接種の頻度は、他の併用ワクチンの最新のガイドラインと適合するように調整することができる。誘導免疫のレベルは中和分泌抗体および血清抗体の量を測定することによってモニターすることが可能であり、所望の防御レベルを維持するために、必要に応じて用量を調節し、またワクチン接種を反復して行う。
【0080】
いずれにせよ、ワクチン製剤、その効果的投与用および具体的な投与経路は、例えば補体結合アッセイ、プラーク中和アッセイおよび/または酵素免疫吸着測定法、その他の方法(例えば、モニタリング対象の応答を、上気道および下気道疾患の兆候および症状からの防御と関連付ける方法)によって測定できるような抗RSV免疫応答を、効果的に刺激し、誘導し、または増強するのに十分な量の本明細書に記載の生弱毒化RSVを提供するものでなければならない。
【0081】
V.生弱毒化RSVの生成
本明細書に記載される生弱毒化RSVは、生物学的に誘導するか、遺伝子組み換えによって産生される。「生物学的に誘導されたRSV」とは、組み換え技術によって産生されたものではないRSV(例えば継代培養によるRSV)を意味している。「遺伝子組み換えによって産生されたRSV」とは、ウイルスクローニング技術(例えばリバースジェネティクス法)によって産生されたRSVを意味している。生弱毒化RSVは参照RSV配列と比較するとゲノム変動を含んでおり、ここで参照RSV配列とは野生型または不完全に弱毒化されたRSVである。
【0082】
したがって、本明細書に記載された特定のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸残基が導入されたRSVゲノムは、遺伝的および/または表現型の上で野生型であるウイルスまたは既に部分的に弱毒化されたウイルスのような野生型ウイルスの誘導体を基に得られ、後者の場合には新たに導入されたヌクレオチドおよび/またはアミノ酸残基は(例えば哺乳動物宿主内では複製が制限され、一方ワクチン接種された対象内において防御を付与する十分な免疫原性を維持している所望のレベルまで)その株を更に弱毒化するように働く。生物学的に誘導されたか、または遺伝子組み換えによって産生されたいずれかのサブグループAまたはBのRSVは、例えば、冷却継代(cold−passaging)、化学的突然変異誘発または部位特異的変異誘導(site−directed mutagenesis)によって部分的に弱毒化することができる。冷却継代によるウイルスの弱毒化では、ウイルスを漸次低温化するような細胞培養中において継代する。例えば、野生型ウイルスは典型的には約34〜37℃で培養されるが、部分的に弱毒化されたウイルスは最適下限温度、例えば20〜26℃において細胞培養(例えばウシ腎臓細胞の初代培養)中において継代することによって産生することができる。化学的突然変異によるウイルスの弱毒化には、例えば、約10−3から10−5 M、好ましくは10−4 Mの5−フルオロウリジンまたは5−フルオロウラシル等の突然変異原の存在下でのウイルスの複製または約100μg/mlの濃度のニトロソグアニジンへのウイルスの暴露等の例えばGharpureら、 1969、 J.Virol. 3:414−421 およびRichardson ら、 1978、 J.Med.Virol.3:91−100に記載された一般的な手法による方法が含まれる。その他の化学的突然変異原も使用することができる。部分的に弱毒化されたRSVは、弱毒化突然変異(不完全な弱毒化突然変異であってもよい)を野生型RSVのゲノム内に導入することによって遺伝子組み換え的に作ることもできる。様々な選択技術を組み合わせて、部分的に弱毒化された突然変異体を非弱毒化サブグループAまたはB株から作ることが可能であり、この突然変異体は本明細書に記載されるような更なる誘導体を作るために有用である。
【0083】
本明細書に記載される生弱毒化RSVは、遺伝子組み換えによって、例えばcDNAから作製することができる。ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の変異は、単独あるいは組合せのいずれかの状態で野生型または部分的に弱毒化されたRSVのゲノム内に挿入することができる。これらの変異によって、後段の実施例に記載される生物学的に誘導された弱毒化RSVの所望の表現型特性が特定される。感染性RSVは、生弱毒化RSVのゲノムまたはアンチゲノムRNAをコードするcDNAを、随伴性のタンパク質およびゲノムRNAを含む転写、複製ヌクレオカプシドを産生するために必要なウイルスタンパク質とともに哺乳動物の細胞中で共発現させることによって作製することができる(例えば、Palese、 1995、 Trends in Microbiology、 3:123−125; Lawsonら、 1995、 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:4477−4481;Schnellら、 1994、 EMBO J. 13:4195−4203参照)。RSVアンチゲノムとは、単離されたマイナス鎖ポリヌクレオチド分子であって、子孫マイナス鎖RSVゲノムを合成するための鋳型として機能するものを意味している。したがって、1以上の単離されたポリヌクレオチド、例えば1以上のcDNA、由来の本明細書に記載される1以上のヌクレオチドおよび/またはアミノ酸を有する生弱毒化RSVを産生する方法も本発明に含まれる。
【0084】
周知技術によって、以上定義したヌクレオチド/アミノ酸残基を(単独または組み合わせて)感染性RSVクローンに導入することができる。「感染性クローン」との用語は、cDNAまたはその産物、合成物その他であって、感染性ウイルスまたはサブウイルス粒子のゲノムを作るための鋳型として機能し得るゲノムRNAまたはアンチゲノムRNAに転写され得るものを意味している。特定された突然変異を、従来技術(例えば部位特異的突然変異)によって、RSVゲノムまたはアンチゲノムのcDNAコピーに導入することができる。アンチゲノムまたはゲノムcDNAサブフラグメントを用いて完全なアンチゲノムまたはゲノムcDNAを構築する場合には、それぞれの領域を個別に処理し(小さなcDNAは大きなcDNAに比較して処理が簡単である)、その後容易に完全なcDNAを構築することができる点において有利である。例えば、突然変異されたサブフラグメントで、野生型または不完全に弱毒化されたRSVのゲノムまたはアンチゲノム配列由来の対応サブフラグメントを置換することができる。対応サブフラグメントは、選択された突然変異サブフラグメントと実質的に同一の配列を有している。したがって、完全なアンチゲノムもしくはゲノムcDNAまたはそれらのいずれかのサブフラグメントを、オリゴヌクレオチド指定突然変異のための鋳型として用いることができる。これは一本鎖ファージミド形態の中間体を経るものであってよく、例えば、Bio−Rad Laboratories (Richmond,Calif.)のMuta−gene(登録商標)キットを使用するものであったり、Stratagene(La Jolla,Calif.)のChameleon mutagenesisキット等の二本鎖プラスミドを直接鋳型として使用する方法、あるいは目的の突然変異を含むオリゴヌクレオチドプライマーまたは鋳型のいずれかを用いるポリメラーゼ連鎖反応によるものであってもよい。RSVゲノムまたはアンチゲノムは、例えばRSV mRNAまたはゲノムRNAの逆転写コピーのポリメラーゼ連鎖反応(本明細書において参考として援用するPCRプロトコル:A Gude to Methods and Applications, Innisら編集、 Academic Press, San Diego (1990))によるクローン化cDNAフラグメントを集合させて、集合体中に完全なアンチゲノムを復元することによって構築することもできる。あるいは、アンチゲノムまたはゲノムRNAはin vitroで合成することができる。
【0085】
cDNA発現ゲノムまたはアンチゲノムから感染性RSVを作るために、ゲノムまたはアンチゲノムを、(i)RNA複製が可能なヌクレオカプシドを産生し、(ii)子孫ヌクレオカプシド構成成分をRNA複製と転写のために提供するために必要なRSV補助的タンパク質と共に発現させる。ゲノムヌクレオカプシドによる転写によって、その他のRSVタンパク質が提供され、有効な感染が開始される。あるいは、有効な感染のために必要な他のRSVタンパク質が共発現によって供給される。
【0086】
例えば、本明細書に記載される生弱毒化ウイルスゲノムの感染性RSVクローンは最初にプラスミドベクター内に導入され得る。その後の感染および哺乳類宿主細胞内における転写に適したプラスミドベクターは市販されている。更にcDNAを含むプラスミドベクターはバクテリオファージT7 RNAポリメラーゼを発現する宿主細胞にトランスフェクションすることができる。RSV主要ヌクレオカプシド(N)タンパク質、ヌクレオカプシドリン(P)タンパク質、大(L)ポリメラーゼタンパク質を発現し、更に転写伸長因子M2 ORF1タンパク質を発現してもよい別のプラスミドベクターを宿主細胞中に同時トランスフェクションすることができる。cDNAは転写されて完全長のマイナス鎖(ゲノム)RNAを作る。N、LおよびPタンパク質の発現および任意のM2(ORF1)タンパク質の発現によって、子孫ウイルスの製造が促進される。続いてビリオンを単離する。この方法において、転写、複製ヌクレオカプシドの産生に必要なタンパク質をコードする相補配列(例えばN、P、LおよびM2(ORF1)タンパク質をコードする配列)のマイナス鎖転写体とハイブリダイズする可能性をできる限り小さくするために、cDNAは複製中間体RNAに対応するRSVゲノムのプラス鎖型として構築されることが好ましい。RSVミニゲノムシステムを用いる場合には、ゲノムおよびアンチゲノムは、RSVまたはプラスミドのいずれかによって補完され、レスキューにおいて共に活性であり、このことは、方法論またはその他の理由にしたがってゲノムまたはアンチゲノムのいずれかが使用できることを示している。
【0087】
N、P、Lおよび任意にM2(ORF1)タンパク質は、ゲノムまたはアンチゲノムをコードする発現ベクターと同じであっても異なっていてもよい1つ以上の発現ベクターおよびそれらの様々な組合せによってコードされ得る。所望により、新たな別のベクターまたはN、P、LあるいはM2(ORF1)タンパク質をコードするベクターまたは完全なゲノムまたはアンチゲノムをコードするベクターによってコードされる別のタンパク質が含まれていても良い。トランスフェクションされたプラスミドからのゲノムもしくはアンチゲノムおよびタンパク質は、例えば、T7 RNAポリメラーゼのプロモーターの制御下にあるそれぞれのcDNAによって発現が可能であり、T7 RNAポリメラーゼの発現系、例えばT7 RNAポリメラーゼを発現するワクシニアウイルスMVA株組換体で感染、トランスフェクションまたは形質転換することにより、T7 RNAポリメラーゼも同様に提供される(Wyattら、1995、Virology、210:202−205)。
【0088】
ゲノムもしくはアンチゲノムをコードする単離されたポリヌクレオチド(例えばcDNA)と、別にN、P、L(および任意にM2(PRF1))タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドは、トランスフェクション、エレクトロポレーション、機械的挿入(mechanical insertion)、形質導入等によって、増殖性RSV感染を補助し得る細胞、例えばHEp−2、FRhL−DBS2、MRCおよびVero細胞等に挿入することができる。単離されたポリヌクレオチド配列のトランスフェクションを、例えばリン酸カルシウム媒介トランスフェクション(Wiglerら、1978、Cell 14:725;Corsaro & Pearson、1981、Somatic Cell Genetics 7:603;Graham & Van der Eb、1973、Virology 52:456)、エレクトロポレーション(Neumannら、1982、EMBO J 1:841−845)、DEAE−dextran媒介トランスフェクション(Ausubelら、(編集) Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons, Inc. NY(1987))、陽イオン性脂質媒介トランスフェクション(Hawley−Nelsonら、1993、Focus 15:73−79)または市販されているトランスフェクション用試薬、例えばLipofectACE(登録商標)(Life Technologies)を用いて培養細胞に導入することができる。ウイルスタンパク質および/またはT7 RNAポリメラーゼを、形質転換した哺乳類細胞から得ることも、あるいは予め形成されたmRNAまたはタンパク質のトランスフェクションによって得ることもできる。
【0089】
本願発明の生弱毒化RSVが(例えば上記のクローニングおよびレスキュー実験によって)作製されれば、RSV増殖が可能な多数の細胞株内において弱毒化ウイルスを殖やすことができる。RSVは様々なヒトおよび動物細胞内において増殖する。この生弱毒化RSVの増殖に適した細胞株の例としてDBS−FRkL−2、MRC−5およびVero細胞が挙げられる。Vero細胞等の上皮細胞株において通常最も高いウイルス産生が得られる。典型的には、約0.001から約1.0以上の感染多重度で細胞にウイルスを植え付け、ウイルスの複製が可能な条件下、例えば約30〜37℃で約3〜5日間、またはウイルスが適当な力価に達するのに必要な限り培養する。ウイルスを細胞培養から回収し、典型的には遠心分離等の周知の浄化手法によって細胞成分から分離し、必要に応じて当業者に周知の手法を用いて更に精製する。
【0090】
本明細書において記載される弱毒化されたRSVは、in vivoおよび/またはin vitroモデルで試験を行い、適切な弱毒化、遺伝的安定性および免疫原性を確認することができる。遺伝的に改変されたRSVの弱毒化レベルは、例えば感染者の気道内に存在するウイルスの総量を測定し、表現型が野生型であるRSV(例えばRSV A2、Merck株287)による総量と比較することで決定し得る。弱毒化ウイルスは、Meignerら編集のAnimal Models of Respiratory Syncytial Virus Infection、Merieux Foundation Publication (1991)に記載され、概要が記されている様々なRSV感染の動物モデルで試験することができる。例えば、RSV感染のコットンラットモデルは、古くからヒトにおける弱毒化および有効性を予測させると認められている(米国特許第4800078号、Princeら1985、Virus Res. 3:193−206、Princeら、1987、J.Virol.61:1851−1854)。マウスを含む他のげっ歯類においてもRSV増幅が可能であり、これら動物はむしろヒトに近いコア体温を有することから、同様に有用である(Wightら、1970、J.Infect.Dis.122:501−512、ByrdおよびPrince、1997、Clin.Infect.Dis.25:1363−1368)。特に、霊長類モデルはRSV感染を試験する上で遺伝的、免疫原的に適切な宿主系である(McArthur−VaughanおよびGershwin、2002、J.Med.Primatol.31:61−73)。例えば、チンパンジーを用いたRSV感染の霊長類モデルは、ヒトにおける弱毒化および有効性を予測させる(Richardsonら、1978、J.Med.Virol.3:91−100;Wrightら、1992、Infect.Immun.37:397−400;Croweら、1993、J.Med.Virol.3:91−100;Wrightら、1982、Infect.Immun.37:397−400;Croweら1993、Vaccine11:1395−1404参照)。アフリカミドリザルもRSV感染のモデルとして使用されている(Chengら、2001、Virology283:59−68;Kakukら、1993、J.Infect.Dis.167:553−61;Weissら、2003、J.Med.Primatol.32:82−88)。更に、弱毒化のin vitro分析にはヒト気道上皮細胞におけるウイルス増殖の評価が含まれる(Wrightら、2005、J.Virol.79:8651−8654)。
【0091】
本明細書に記載される生弱毒化RSVは、サルやコットンラットなどの高感受性宿主の上気道および下気道の両方で、野生型ウイルスに比較してはるかに少ない程度の増幅、例えば1000分の1以下の増幅しか示さない。感染宿主の鼻咽頭内RSVレベルを測定する方法は文献によってよく知られている。簡単に説明すると、鼻咽頭分泌物を吸引または洗浄することによって標本が得られ、組織培養または他の実験手法によりウイルスが定量される。例えば、Belsheら、1977、J.Med.Virology 1:157−162;Friedewaldら、1968、J.Amer.Med.Assoc.204:690−694;Gharpureら、1969、J.Virol.3:414−421;および、Wrightら、1973、Arch.Ges.Virusforsch.41:238−247参照。
【0092】
生存能力、弱毒化および免疫原性の評価基準に加えて、本明細書に記載される生弱毒化RSVの特性は、所望の属性が維持されるように可能な限り安定でなければならない。理想的には、医薬製品(例えばワクチン)の成分として有用であるウイルスは、その生存能力、弱毒特性および(より低レベルではあるが)免疫された宿主内における複製能力を維持していなければならず、接種を受けた対象においてその後の野生型ウイルスの感染による重篤な疾患に対する防御を付与するのに十分な免疫応答の発生を効果的に誘導する能力を維持していなければならない。
【0093】
VI.組み換え核酸
本明細書に記載される弱毒化RSVゲノムもしくはアンチゲノムの全長または一部のいずれかを含む核酸分子、本明細書に記載される改変されたウイルスタンパク質もしくはその一部をコードするヌクレオチド配列、または本明細書に記載される改変されたウイルスゲノムもしくはその一部のヌクレオチド配列(上記II節における本願発明の生弱毒化RSV内に含まれる核酸の記載参照)も、本願発明の範囲内に含まれる。これらの核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)分子、相補性DNA分子(cDNA)またはリボ核酸(RNA)分子であり得る。
【0094】
4つの候補ヌクレオチド塩基のトリプレットコドンは、60以上の種類が存在し得る。これらのコドンは20種類の異なったアミノ酸(および転写開始および終止)のみのメッセージを提供するため、いつくかのアミノ酸は複数のコドンによってコードされることが可能であり、この現象はコドン重複性として知られている。したがって、遺伝子コドンのこの重複性によって、あるタンパク質をコードするために、多数の異なったコーディング核酸配列が使用できる。アミノ酸は以下のRNAコドンによってコードされる。
【0095】
A=Ala=アラニン:コドン GCA、 GCC、 GCG、 GCU
C=Cys=システイン: コドン UGC、 UGU
D=Asp=アスパラギン酸: コドン GAC、 GAU
E=Glu=グルタミン酸: コドン GAA、 GAG
F=Phe=フェニルアラニン: コドン UUC、 UUU
G=Gly=グリシン: コドン GGA、 GGC、 GGG、 GGU
H=His=ヒスチジン: コドン CAC、 CAU
I=Ile=イソロイシン: コドン AUA、 AUC、 AUU
K=Lys=ロイシン: コドン AAA、 AAG
L=Leu=ロイシン: コドン UUA、 UUG、 CUA、 CUC、 CUG、 CUU
M=Met=メチオニン: コドン AUG
N=Asn=アスパラギン: コドン AAC、 AAU
P=Pro=プロリン: コドン CCA、 CCC、 CCG、 CCU
Q=Gln=グルタミン: コドン CAA、 CAG
R=Arg=アルギニン: コドン AGA、 AGG、 CGA、 CGC、 CGG、 CGU
S=Ser=セリン: コドン AGC、 AGU、 UCA、 UCC、 UCG、 UCU
T=Thr=トレオニン: コドン ACA、 ACC、 ACG、 ACU
V=Val=バリン: コドン GUA、 GUC、 GUG、 GUU
W=Trp=トリプトファン: コドン UGG
Y=Tyr=チロシン: コドン UAC、 UAU
したがって、本願発明は、開示された核酸分子とは異なるが同じタンパク質配列をコードしている核酸を含む。
【0096】
本願発明のRSVの非コード配列(即ち非翻訳配列)を含む核酸分子も本願発明に包含される。これらの非コード領域には5’非コード領域、3’非コード領域、遺伝子間配列ならびに転写、翻訳およびその他の調節領域を含むがこれらに限定されないウイルスゲノムの他の非コード領域が含まれる。これらの核酸分子もDNA分子、cDNA分子またはRNA分子であり得る。
【0097】
本明細書に記載される生弱毒化RSVのNS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子を含む(但し、これらに限定されない)本願発明の生弱毒化RSVの1以上のタンパク質をコードする核酸分子と実質的に類似な核酸分子も本願発明に含まれる。上記NS1、NS2、G、Fおよび/またはL遺伝子は、RSVウイルスゲノムに取り込まれると、同等の弱毒表現型効果を奏する。本願発明は、最終的なウイルス産物の表現型を変えない非コード領域における変化を特徴とする実質的に類似の核酸分子をも含む。
【0098】
したがって、本願発明の範囲には、本明細書に記載される生弱毒化RSV内に含まれるタンパク質の変異体をコードするヌクレオチド配列または本明細書に記載される生弱毒化RSV内に含まれる非コードヌクレオチド配列の変異配列を含む核酸分子のいずれかを含む核酸分子が含まれる。
【0099】
1または複数の指定されたヌクレオチドを含む核酸分子であって、ストリンジェントな条件下で対象発明の核酸分子の相補体とハイブリダイズする核酸分子は本願発明の範囲に含まれる。非限定的な例示として、高ストリンジェントな条件下での手順を以下に記す。6x SSC、5xデンハルト溶液および100μg/mlの変性サケ精子DNAを含む緩衝液中において、DNAを含むフィルターのプレハイブリダイゼーションを約2時間から一晩の間行う。100μg/mlの変性サケ精子DNAと5−20x106cpmの32P標識プローブを含むプレハイブリダイゼーション混合液中において、フィルターを約12から48時間ハイブリダイズさせる。2xSSC、0.1%SDSを含む溶液中、37℃で約1時間フィルターを洗浄する。更に0.1xSSC、0.1%SDS中、50℃で45分間洗浄し、オートラジオグラフィーを行う。高ストリンジェントな条件を用いる他の手順には、5xSSC、5xデンハルト溶液、50%ホルムアミド中、約42℃で約12から48時間実施するハイブリダイゼーション工程または0.2xSSPE、0.2%SDS中、約65℃で約30から60分間実施する洗浄工程のいずれかが含まれる。上記の高ストリンジェントハイブリダイゼーションを実施する手順の中に記載される試薬は、当業界でよく知られたものである。これら試薬組成の詳細は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Plainview、NY(2001)に記載されている。上記に加えて、使用可能な他の高ストリンジェントな条件も当業界でよく知られている。
【0100】
本願発明の核酸分子は、作動可能にRNA転写のプロモーターおよび他の調節配列と結合されていてもよい。本明細書で用いる場合、「作動可能に結合した」とは、プロモーターが核酸分子のRNA転写を指示するような位置に置かれたことを意味している。プロモーターの例はT7プロモーターである。プロモーターおよび挿入された核酸部分がプロモーターと作動可能に結合されているクローニング部位の両方を含むベクターは当業界でよく知られている。これらのベクターはin vitroとin vovoで核酸を転写することができるものであり得る。これらのベクターの例には、(他の弱毒化サブタイプおよび野生型株の両方を含む)他のRSVタイプのウイルスゲノム由来の核酸を含むベクターが含まれ、このベクターは本明細書に記載される生弱毒化RSVのポリペプチドをコードする核酸領域および/または非コード領域を当該他のRSVタイプの核酸と置換することによって改変されている。更に、本願発明の核酸分子によってコードされる組み換えウイルスも提供される。
【0101】
本願発明の種々の特性を更に説明するために以下に実施例を示す。実施例は発明の実施に有用な方法も説明する。これら実施例は特許請求された発明を限定するものではない。
【0102】
実施例1
MRK RSV株287の継代
細胞およびウイルス
アフリカミドリザルの腎臓細胞株Vero CCL−81をウイルス増殖試験およびプラークアッセイの両方に用いてウイルス生産をモニターした。使用した親ウイルスは‐20℃で保存、凍結乾燥されていたMerck287株hRSVを用いた。親Merck287ウイルスはGMK細胞中において2回継代され、その後WI−38細胞(Bunyakら、1978、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.157:636−642:Bunyakら、1979、Proc.Soc.Exp.Biol.Med. 160:272−277;Belsheら、1982、J.Infect.Dis. 145:311−319)中において更に5回継代された。配列分析によって、弱毒化に関連する既知の全ての位置において野生型の遺伝子型が保持されていることが確認された。
【0103】
ウイルス継代およびウイルス保存調製物
親ウイルスを用いて、1週間目のコンフルエントなVero単層細胞に、32℃、1:100または1:1000MOIで1時間接触させて感染させ;ウィリアム培地E(Gibco)、1.6%組み換えヒトアルブミン(Delta biotechnologies)、2mM L−グルタミン(Gibco)および50μg/ml ネオマイシン(Sigma)からなる維持培地によって接触後に被覆した。90%以上の最大細胞変性効果(CPE)が認められまで培養を観察した後、回収し、CPEが上昇し過ぎて適切なウイルス産生ができなくなるまで栄養補給して24時間間隔で更に回収を行った。
【0104】
プラークアッセイ
回収したウイルスサンプルは、プラークアッセイによって連続10倍希釈における力価検定に供し、12穴アッセイフォーマット(Costar:100μl/well、連続10倍希釈の1希釈あたり3ウェル、1プレート当たり4希釈)中のコンフルエント(48〜78時間)VERO単層への接種に使用した。35℃±1℃、5.0%CO2の条件下で1時間プレートをインキュベートし、ウィリアム培地E(Gibco)、1.6%組み換えヒトアルブミン(Delta biotechnologies)、2mM L−グルタミン(Gibco)、50μg/ml ネオマイシン(Sigma)および最終濃度0.5% SeaPlaque(登録商標)アガロースからなる維持培地で被覆する。35℃±1℃、5.0%CO2の条件下、6〜8日でプラークが生じる。5mg/ml MTT(Thialzolyl Blue Tetrazolium Bromide(Sigma−Aldrich(登録商標))のPBS溶液)を1ウェル当たり250μl加え、細胞が染色剤を代謝するまで2〜6時間待ってプラークを可視化した。
【0105】
ウイルスの生成量をモニターするのみでなく、力価を正確に測定してウイルスの継代に適したMOIを得るための希釈倍率を算出するために、各継代の間に全ての回収サンプルについて力価を求めた。
【0106】
結果
Merck HRSV株287が、GMK細胞で最初に2回増幅した単離hRSV株から得られた。最初の増幅の後、このウイルスをヒトニ倍体細胞株WI−38中で更に5回継代した。この5回継代材料を、非経口投与経路によるワクチン用途のためのヒト臨床試験に使用した。Merck株287、hRSV A型、は配列分析およびin vivo動物排出実験(後記参照)のいずれにおいても野生型(WT)表現型を示した。Merck株287を一定の多重度でVERO−CCL−81単層中において連続して22回継代した(継代1(p1)〜継代22(p22))。継代の間において、ウイルス力価は一定に維持され、培養中のウイルスによる細胞変性効果も一定に維持されていた。ウイルス収量は106〜107 pfu/mlの範囲であった。
【0107】
実施例2
MRK RSV株287および継代された保存ウイルスの配列決定
RSVサンプル
材料は、感染VERO細胞から回収されたウイルス上清液の500〜1000μlアリコットとして供された。1)MRK RSV株287、2)MRK RSV株287、継代17(p17)、および3)MRK RSV株287、継代22(p22)について、完全長の配列が作製された。1)MRK RSV株287、継代5(p5)、2)MRK RSV株287、継代10(p10)、3)MRK RSV株287、継代15(p15)および4)MRK RSV株287、継代18(p18)について、(標的の)部分配列を作製した。
【0108】
RNA抽出
QiaAMP ウイルスRNA抽出キット(Qiagen、カタログ番号52904)をメーカー手順書に基づいて使用し、ウイルス培養上清からRNAを抽出した。簡単に説明すると、ウイルス培養上清140μlを溶解バッファーに加え、結合フィルター上にのせた後、洗浄し、RNaseを含まない水60μlで溶出させた。抽出されたRNAサンプルを−20℃で保存した。抽出されたRNAサンプルを鋳型として用いて、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によってゲノムを二本鎖DNA断片の形で増幅した。RT−PCR増幅のために十分な量の材料を得るために、各サンプルにおいて複数回の抽出を行った。
【0109】
RT−PCRによるRSVゲノムの増幅
Qiagen OneStep RT−PCRキット(Qiagenカタログ番号210212)を用いて、サンプルのRSVゲノムを二本鎖DNAの形で増幅した。完全長の配列(MRK RSV 287および継代p17およびp22)を決定するために、それぞれ約500塩基対(bp)で隣接する断片とオーバーラップする断片を用いて、1000bp断片の増幅を30回実施した。増幅反応は(プライマー対について)1から30まで付番し、以下に示す表のように実施した。部分長配列決定(MRK RSV287継代p5、p10、p15およびp18)のために、プライマー対2、10、11、13、14、18および29を用いて1000塩基対(bp)断片の増幅を7回実施した。増幅反応は下記表に示すように(プライマー対について)付番し、実施した。
【0110】
(反応ごとの)マスターミックス:10μl 5x QIAGEN OneStep RT−PCRバッファー;2μl dNTP混合液;3μlプライマーA(フォワードプライマー)−10μM保存液、最終600nM;3μlプライマーB(リバースプライマー)−10μM保存液、最終600nM;2μl QIAGEN OneStep RT−PCR酵素混合塩基;5μl RNA鋳型;25μl分子生物学用グレードの水。
【0111】
以下の条件を用いて、バイオメトラのサーマルサイクラー内で増幅反応を実施した。30分、50℃−逆転写工程;15分、95℃−PCR初期活性化工程(DNAポリメラーゼの活性化)3ステップサイクリング(合計40サイクル繰り返す);1分、94℃−変性;1分、55℃−アニーリング;1分、72℃−エクステンション;10分、72℃−最終エクステンション。
RT−PCR増幅に使用されたプライマーを表2および3に示す。
【表2】
【表3】
【0112】
QIAGEN QIAquick PCR Purification キット(QIAGENカタログ番号28104)をメーカー手順書にしたがって使用して、増幅されたRT−PCR産物を精製した。精製されたRT−PCR産物は(プライマー対に基づいて)1から30まで付番し、−20℃で保存し、配列決定のためにGeneWiz(South Plainfield、NJ)に送った。
【0113】
増幅されたRT−PCR産物の配列決定
精製されたRT−PCR産物を、ダイ−ターミネーション配列決定(dye−termination sequencing)のために、GeneWiz(South Plainfield、NJ)に提出した。RT−PCR産物と共に提出したRT−PCR増幅プライマーを用いて配列決定が行われた。それぞれのRT−PCR産物についてフォワードプライマーを使用した配列とリバースプライマーを使用した配列の2つの配列が作製された。
【0114】
RT−PCR産物配列分析およびRSVゲノムの構築
得られたRT−PCR断片の配列をSequencher(商標)配列分析ソフトウェア(GeneCodes、Ann Arbor、Michigan)にインポートし、「コンティグ」構築を実施して配列を構築した。この工程は、60のRT−PCR産物配列(30産物のそれぞれについて2配列)すべてをインポートし、500bpのオーバーラップ領域をスキャフォールドとして使用して完全長の配列を構築することから構成されている。無関係なピークあるいは欠失したピークについて、通常許容されている慣行に基づいて、配列を編集した。p5、p10、p15およびp18の目標とする配列の決定のために、完全長のゲノム構築ではなくむしろ個々の断片構築(即ち断片2、10、11等)を行った。最終的な配列をVectorNTI(商標)にインポートし、配列比較および分析を行った。
【0115】
結果
起源材料(MRK287)ならびに継代17(p17)および継代22(p22)から完全長のゲノム配列を作製した。その他の継代レベルの標的配列を継代5(p5)、10(p10)、15(p15)および18(p18)から得た。ウイルスRNAを培養上清サンプルから抽出し、逆転者酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって、このRNAからゲノムの二本鎖DNA断片を作製した。RT−PCR産物を精製し、配列を決定した。作製した配列を完全長ウイルスゲノム内に構築した。
【0116】
以下の比較および分析を行った。
【0117】
1)共通データベース(Genbank、EMBL)中の既知配列に対して、MRK RSV 287株配列のホモロジー「blast」分析を行い、MRK RSV 287の他のRSV配列に対する配列類似性を決定した。
【0118】
2)起源MRK RSV株287とp17との間における配列相違を決定するために、MRK RSV p17に対するMRK RSV株の配列アライメントを行った。
【0119】
3)起源MRK RSV株287とp17の間における核酸配列の相違に関連したアミノ酸配列の相違を決定するために、両者の間の配列相違についてアミノ酸分析を行った。
【0120】
4)ウイルスゲノム中の他の位置で点突然変異が更に生じていないか確認することを目的として、MRK RSV p22に対するMRK RSV 287株p17の配列アライメントを行いMRK RSV 株287 p17とp22の間における配列の相違を決定した。
【0121】
5)継代レベルが進むにつれて点突然変異が生じること、および可能性のある弱毒化のマーカーについて理解するために、MRK RSV株287とp5、p10、p15、p17、p18およびp22由来の遺伝子セグメント2、10、11、13、14、18および29を比較して、起源MRK RSV株287と関連する継代材料の間の配列相違を決定した。
【0122】
配列分析の結果を以下に要約する。
【0123】
1)MRK RSV株287配列分析
MRK RSV株287を既知のRSVの野生型および(表4に記載される)ワクチン株と比較した結果、MRK RSV287は既に弱毒化マーカーとして同定されている点突然変異を含まないことが示された(データ示さず)。MRK RSV株287から15205ヌクレオチドの配列が得られた。継代17および22から末端の5’終末が欠損した15000ヌクレオチドが得られた。MRK RSV株287は既知のRSVサブグループA株と類似し、95%以上の相同性スコアを有していた。
【表4】
【0124】
2)MRK RSV株287配列および継代17配列の比較
MRK RSV株287およびp17由来のゲノム配列を比較した結果、2つの配列の間において21の配列相違(点突然変異)が存在することが示された。配列相違の概要を表5に示す。
【表5】
【0125】
3)MRK RSV株287のアミノ酸配列と継代17のアミノ酸配列の比較
起源MRK RSV株287配列と比較してp17において同定された各点突然変異の遺伝子位置をマッピングし、点突然変異を含む各遺伝子についてアミノ酸配列を作成した。21の点突然変異のうち、1つは5’非翻訳領域(ウイルスL遺伝子に対して3’側)内にあり、20はオープンリーディングフレーム(ウイルス遺伝子)内にある。20のオープンリーディングフレーム(ORF)突然変異体のうち、5つは非表現突然変異であり、残りの15は3つの遺伝子内において11のアミノ酸に影響している。影響された3つのORFはGタンパク質(糖タンパク質)、Fタンパク質(融合タンパク質)およびLタンパク質(巨大タンパク質、RNA依存性RNAポリメラーゼ)をコードしている。1つの非表現突然変異はNS2遺伝子ORF内にあり、4つの非表現突然変異はG遺伝子ORF内にある。配列相違の概要を表6に示す。
【表6】
【0126】
4)MRK RSV p22に対するMRK RSV p17の配列アライメント
p17とp22の配列を比較することによって、両者の配列が同一であることが確認された。ヌクレオチド第14656番において多型レベルで相違する可能性があるが、定量的に確認されていない。
【0127】
5)MRK RSV株287ならびに継代5、10、15、17、18および22由来の遺伝子セグメント2、10、11、13、14、18および29の比較
MRK RSV株287継代p5、p10、p15およびp18の選択した遺伝子セグメントから配列を作成した。これらの配列をMRKRSV株287ならびにMRK
RSV株継代17および継代22と比較した。表7は、既に同定されているRSV p17点突然変異の位置においてこれら配列を比較した結果を示す。示されたデータから、非表現NS2突然変異は5回目の継代で生じ、一方G遺伝子突然変異は10回目の継代で生じたことが明らかである。FおよびL遺伝子中の突然変異は継代10から出現し始め、全点突然変異の証拠は継代17に存在する。14656位の多型は依然明白であるが、他の多型の存在には疑問がある。表7は分析した様々な継代レベルの比較の概要を示す。
【表7】
【0128】
実施例3
MRK RSV287継代株の弱毒化
アフリカミドリザル暴露試験
全ての動物を、血清中和抗体価について予めスクリーニングした。抗体価が4以下の動物のみこの試験に使用した。10mg/kgのケタミン筋肉注射によってサルを麻酔し、それぞれ105.5pfuのウイルスに2回暴露させた。鼻内及び気道内接種を組合せてウイルスを投与し、1回の投与あたりそれぞれの部位に1ml投与した。暴露の後、12日間連日それぞれのサルから鼻咽頭スワッブを採取し、気管支肺胞洗浄液を4、5、7および10日目に採取した。鼻咽頭サンプルは、Darconスワッブを用いて中咽頭領域の2、3箇所を穏やかにこすり、0.2Mスクロース、3.8mMKH2PO4、7.2mM K2PO4および4.4mMグルタミン酸ナトリウム(SPG)および0.1%ゼラチンを含むハンクス平衡塩溶液(HBSS)に先端を入れて採取した。気管支肺胞洗浄には、約5〜7mlのHBSSを直接肺内に吸入させ滅菌したフレンチカテーテルおよびシリンジで吸引した。回収したサンプルに1/10量の10xSPGと1/10量の1%ゼラチンを加え、一定量に小分けして直ちに−70℃で凍結保存した。
【0129】
ウイルス力価
Hep−2細胞を用いてウイルス力価を測定した。簡単に説明すると、試験サンプルを無菌的に希釈し、サンプルの0.1mlをコンフルエントなHep−2細胞を含む24穴プレートに加えた。37℃で1時間細胞をインキュベートした。インキュベーションの後、PBSで細胞を1度洗浄し、1ウェル当たり0.5mlの1%アガロース含有MEMで被覆し、37℃で4日間インキュベートした。インキュベーションの後、アガロース被覆を取り除き、クリスタルバイオレットで細胞を染色し、ウイルスプラークを計測した。ウイルス力価は組織1グラム当たりのプラーク形成単位(pfu)で表示した。
【0130】
ウイルス中和アッセイ
ウイルス中和アッセイのために、全ての血清を56℃で30分間非働化した。イーグル最小必須培地(EMEM)で試験血清を連続2倍希釈しインキュベートした。野生型A2ウイルスを標的ウイルスとして、103pfu/mlの最終力価までEMEM中に希釈した。同用量の血清とウイルスを混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションの後、0.1mlのウイルスを24穴プレートの1ウェルに移し、上記のウイルスプラークアッセイを行った。中和力価は、ウイルスプラークを50%以上抑制する最大希釈率で定義した。
【0131】
結果
1)MRK287 p17はコットンラットおよびアフリカミドリザルモデルにおいて高度に弱毒化されている。
【0132】
In vivo複製特性を評価するために、コットンラットおよびアフリカミドリザルモデルにおいてp17ウイルスとその親ウイルスであるp3ウイルスおよびwtA2株を比較した。コットンラットおよび非ヒト霊長類試験では、p17ウイルスが高度に弱毒化されていることが総じて示唆された。
【0133】
コットンラット試験では、1群当たり6匹のラットに105.5pfuの試験ウイルスを鼻内に接種し、ウイルス暴露の4日後に鼻および肺サンプルを採取し、ウイルス力価検定に使用した(図5)。p3親ウイルスは完全に複製能力を有し、鼻および肺両組織においておよそ5logのウイルスを生じることが認められた。鼻内の力価はwtA2株の力価に匹敵したが、肺内の力価は約1log低かった。これに対して、p17ウイルスの増幅は限定的であった。下方アッセイ検出限界、40pfu/g組織重量、に基づけば、鼻内においてウイルスは回収されず、肺ウイルスは4匹の動物のうち1匹において検出されたのみある。検出できた動物のウイルス力価も低く、200pfu/g組織重量であった。p3親ウイルスに比較して、p17は鼻内および肺内においてそれぞれ少なくとも4および2.5log低い力価を有していた。
【0134】
アフリカミドリザル試験においては、1群当たり4匹の動物に総量2x105.5pfuのウイルスを接種し、半分には鼻内接種し、残り半分には気道内接種した。ウイルス暴露後に、複数の時点で鼻咽頭スワブと肺洗浄液を採取し、ウイルス力価検定に使用した。結果を図6に示す。コットンラットの結果と同様に、p3親ウイルスは鼻および肺内において顕著なウイルス増幅を示し、ピーク力価は鼻および肺においてそれぞれ約104および105pfu/mlであった。更に、総合的なウイルス排出特性はむしろwtA2ウイルスに近いものであり、力価ピークは4〜7日の間で、10日間持続した。これに対して、p17ウイルスは散発的に検出されるだけで、その力価も低いものであった。例えば、鼻のウイルスは2日目に2匹のサル、8日目に1匹のサルで検出されただけであり、肺のウイルスもそれぞれ1、3日目および2、3、7日目に検出されただけである。全ての陽性サンプルの中で最も高い力価は2日目の鼻サンプルのうちの1つであり、400pfu/g組織重量であった。
【0135】
ウイルス継代とin vivo複製との関係をより理解するために、継代17以前の継代MRK287ウイルスについてもコットンラットモデルで試験を行った。1群当たり6匹の動物を105pfuのウイルスに暴露させ、4日後にサンプルを採取した。図7に示すように、継代5(p5)において既に複製の低下が始まり、継代10(p10)および15(p15)において更に進んだ複製の低下が示された。p15ウイルスは上記のp17と同様に弱毒化されていた(図5)。p17ウイルスは肺からは回収されず、鼻サンプルのみにおいて検出されたが、その力価はp3親ウイルスの力価よりも3log以上低い価であった。
【0136】
2)MRK287ワクチンウイルスによる筋肉内単回免疫によって、コットンラットおよびアフリカミドリザルにおいて強い血清中和(SN)抗体応答が誘導され、wtウイルス暴露に対して顕著な防御が得られた。
【0137】
免疫原性および防御試験をコットンラットおよびアフリカミドリザルの両方で実施した。弱毒化ワクチン株MRK287 p17による単回全身性免疫によって顕著なSN価を誘導することができ、この動物モデルにおいてwtウイルス暴露に対する防御を付与し得ることがデータによって示された。
【0138】
コットンラット試験では、1群当たり4匹の動物に104.5pfuのwtA2、MRK287 p3 またはMRK287 p17ウイルスを筋肉内投与することにより免疫した。wtA2ウイルスに対する血清中和(SN)抗体を測定するために、14、28および56日目に血液サンプルを採取した。56日目に免疫動物と未処置動物群の両方を、105.5pfuのwtA2ウイルスで鼻内暴露させ、暴露4日目に鼻と肺の組織を採取した。3種類の全てのウイルスは単回筋肉内免疫によって顕著なSN力価を誘導し、この価は28日目当たりでピークに達し、動物にウイルスを暴露した56日目まで持続した(図8)。A2ウイルス投与を受けた動物は、MRK287ウイルス投与を受けた動物に比較してより高いSN力価を示した。これは、A2株に対してSN力価を測定したことによると考えられた。p17ウイルスの投与を受けた動物はMRK287 p3親ウイルスの投与を受けた動物に比較して28日目と56日目においてより高いSN力価を誘導する傾向があったが、両者のSN力価は同程度のものであった。ウイルス暴露の後、3種類の免疫群全ての肺組織からはウイルスが検出されず(図9)、このことはワクチン接種により下気道において完全な防御が得られたことを示している。鼻サンプルについては、wtA2の投与を受けた動物からはウイルスが検出されず、MRK287 p3またはp17のいずれかの投与を受けた動物は非常に低い力価、即ち未処置動物の力価よりも約3log低い力価を示した。
【0139】
アフリカミドリザル試験では、それぞれ4匹の実験群と未処置対象群の2群を使用した。実験群では、0日目に105.5pfuのMRK287p17ウイルスで動物を筋肉内免疫した。いずれの群も28日目に2x105.5pfuのwtA2ウイルスを鼻内および気道内接種することによりウイルスに暴露させた。図10は28日目におけるSN力価を示している。ワクチン接種を受けた動物は約1:128(7log2)の平均SN力価を示した。ウイルス暴露の後、未処置の動物は7日目で鼻サンプルと肺サンプルにおいてそれぞれ3.5および5logpfu/mlのウイルスを有していた(図11)。ワクチン接種した動物は未処置の動物と比較して、鼻において約1log低いウイルス力価、肺において3log低い力価を示した。
【0140】
実施例4
プラーク精製されたp17
プラーク精製
継代17ウイルスの遺伝的に単一な(クローン)集団を得ることを目標として、それぞれのプラークを単離、回収することを目的に、p17ウイルス継代の力価を測定した。1ウェル当たり10個以下のプラークを目標に定めてウイルスの力価を測定した。ウイルスストックの出発力価は1.7x106pfu/mlであり、アッセイに用いるための最終希釈は1:10,000、1:20,000および1:40,000の範囲であった。接種後7日目に、単層上の単一のプラークについて、肉眼および顕微鏡下の両方でプレートを目視した。継代17ウイルスは2種類の異なったプラーク形態、即ち大形態(直径約2mm)と小形態(直径1mm以下)を形成した。最初の単離のために、10の小形態(#1−10)と10の大形態(#11−20)を単離した。滅菌した1mL血清ピペットをアガロースに差込み、単離するプラークの周辺に円を描くことで単離を行った。吸引しながら領域を引き上げて、試料を1mLのRSV維持培地に移し、分散させた後に5x200μLに分注した。プラーク#1と#11を選択して力価検定を行い、Vero組織培養プレート中で直ちに増幅した。分注試料の残りは液体窒素を用いて凍結し、−70℃で保存した。二回目の増幅では、Veroプレート中、1:20、1:200および1:2000でプラークの力価検定を行った。親プラークから第2集団のプラークを作製するために、何枚かのプレートにはアガロースを重層し、また、その後の配列分析のために親プラーク#1と#11のストックを作製するために他のプレートにはRSV維持液体培地を重層した。プラーク#1と#11の二回目のプラークアッセイの中から2つのプラークが単離された。これらのプラークは、プレート上で他のプラークから離れて位置していたこと(したがって、混合集団を得る可能性が減少する)、プラークの形態が親と類似していたことから選択された。プラーク#1−2を選択して力価検定を行い、3回目のプラーク精製において増幅し、1x200μlのプラーク#1−2をプラーク精製と増幅のために同時に力価検定して、親#1−2の追加のストックを作った。#1−2から単離されたプラークを#1−2.1、#1−2.2、#1−2.3、#1−2.4、#1−2.5および#1−2.6と標識した。#1−2.1の分析の後に休止させた単離体において配列分析を行った結果、クローン化された集団であることが示された。
【0141】
ウイルスストックのためのプラーク#1−2.1の増幅
ウイルスストックの培養は既に概要を記した標準手順にしたがった。200μlの初代プラークをVero細胞の12ウェル培養中に増幅した。最初の増幅で得られたストック(pp1)を使用してVeroT150培養に植え付け、回収した試料(pp2)を更に1回増幅して実験に使用するための大量(約1L)の材料を作製した。各スケールアップから得られた#1−2.1のアリコットを用いて配列分析を行った。pp3材料はコットンラット研究のために利用した。
【0142】
コットンラット暴露研究
4−8週齢の雌性コットンラット(Sigmodon hispidus)4匹に、イソフルラン麻酔下で、0.1ml容量のウイルス105pfuを0日目に鼻内接種した。肺(左肺)および鼻甲介を接種後4日に取り出し、氷上でSPG含有ハンクス平衡塩溶液(Walkersville、MD)の10倍量の中でホモジナイズした。サンプルを2000rpmで10分間遠心分離して浄化し、分注して直ちに−70℃で凍結保存した。上記ウイルスには(1)MRK287p22、(2)MRK287p17、(3)プラーク精製したMRK287p17、(4)MRK287p15、(5)MRK287p10、(6)MRK287p5、(7)MRK287p3、および(8)RSV
A2野生型が含まれる。鼻および肺ホモジネートをVero細胞中で力価検定し、組織1グラム当たりのプラーク形成単位(pfu)として示した。
【0143】
結果
MRK287継代17(p17)をクローン化集団("p17 pp")になるまでプラーク精製し、実施例2に記載したように配列決定した。プラーク精製されたウイルス中には、NS1タンパク質をコードする遺伝子内のヌクレオチド162位に該当するRSVゲノム内のヌクレオチド260位において、1つの新たなヌクレオチド突然変異が認められた。これは非表現突然変異(即ち、アミノ酸変異の原因とはならない変異)である。配列番号87は(例えばS2株の)NS1をコードする野生型遺伝子配列に該当する。配列番号89はMRK27とp17内のNS1をコードするヌクレオチド配列に該当する。配列番号90はp17 pp内のNS1をコードするヌクレオチド配列に該当する。表8および9は、MRK287p17およびプラーク精製したもの(p17 pp)における突然変異を比較した結果を示す。配列番号88は(wtS2ウイルス、MRK287、MRK287 p17およびMRK287 p17 ppにおいて同じである)NS1のアミノ酸配列に該当する。
【表8】
【表9】
【0144】
(1)MRK287 p22、(2)MRK287 p17、(3)プラーク精製されたMRK287 p17、(4)MRK287 p15、(5)MRK287 p10、(6)MRK287 p5、(7)MRK287 p3、または(8)RSV
A2野生型を接種されたそれぞれの動物について、コットンラット暴露研究における4匹の動物の平均力価ならびに下側および上側信頼区間(CI)を表10に示す。RSVA2野生型およびMRK287p3のウイルス力価は約4log pfu/g組織であった。MRK287 p5肺サンプルは依然約4logウイルスpfu/gであった。これに対して、継代10およびプラーク精製したMRK287 p17を含むそれ以降の継代ウイルスは、肺および鼻サンプルのいずれにおいても野生型株に比較して2logを超えた減少を示した。更に、これらのデータは、プラーク精製されたMRK287 p17がMRK287 p17と同様に弱毒化されていることを証明している。
【表10】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスゲノムを含む生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)であって、ウイルスゲノムが、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアラニン、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるグリシン、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるグリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニンおよびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニンから成る群より選択される1以上のアミノ酸を含むタンパク質をコードしている前記生弱毒化呼吸器抱合体ウイルス。
【請求項2】
ウイルスゲノムが、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニンおよびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニンを含む請求項1に記載の弱毒化RSV。
【請求項3】
FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む請求項2に記載の弱毒化RSV。
【請求項4】
FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列から成る請求項3に記載の弱毒化RSV。
【請求項5】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるFおよびL遺伝子を含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の弱毒化RSV。
【請求項6】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列から成るFおよびL遺伝子を含む請求項5に記載の弱毒化RSV。
【請求項7】
ウイルスゲノムが、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアラニン、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるグリシン、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるグリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニンおよびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニン含むタンパク質をコードしている請求項1に記載の弱毒化RSV。
【請求項8】
G、FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号12、配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む請求項7に記載の弱毒化RSV。
【請求項9】
G、FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号12、配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列から成る請求項8に記載の弱毒化RSV。
【請求項10】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるアデニン、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるアデニン、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるグアニンおよびG遺伝子のヌクレオチド675位におけるグアニンから成る群より選択させる1以上のヌクレオチドを更に含む請求項1乃至9のいずれかに記載の弱毒化RSV。
【請求項11】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるアデニン、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるアデニン、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるグアニンおよびG遺伝子のヌクレオチド675位におけるグアニンを含む請求項10に記載の弱毒化RSV。
【請求項12】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるNS1、NS2、G、FおよびL遺伝子を含む請求項11に記載の弱毒化RSV。
【請求項13】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列から成るNS1、NS2、G、FおよびL遺伝子を含む請求項12に記載の弱毒化RSV。
【請求項14】
非弱毒化RSVウイルスゲノムと比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含むウイルスゲノムを含む生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)であって、当該1以上のヌクレオチド突然変異によって1以上のアミノ酸突然変異が起こり、当該1以上のアミノ酸突然変異がG遺伝子にコードされるタンパク質の204位、205位、211位、213位、221位、223位および232位、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位および486位、およびL遺伝子にコードされるタンパク質の148位および2054位から成る群より選択されるアミノ酸位に位置している前記生弱毒化呼吸器抱合体ウイルス。
【請求項15】
G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異がアラニンへの変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異がグリシンへの変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異がグリシンへの変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異がリシンへの変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるアミノ酸突然変異がグリシンへの変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアミノ酸突然変異がアラニンへの変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異がフェニルアラニンへの変異である請求項14に記載の弱毒化RSV。
【請求項16】
G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異がLys204Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異がLys205Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異がThr211Alaであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異がLys213Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異がLys221Glyであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異がLys223Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異がGlu232Glyであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異がGlu294Lysであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるアミノ酸突然変異がAsp486Glyであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアミノ酸突然変異がAsp148Alaであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異がLeu2054Pheである請求項15に記載の弱毒化RSV。
【請求項17】
前記1以上のアミノ酸突然変異が、F遺伝子にコードされるタンパク質のGlu294Lys、F遺伝子にコードされるタンパク質のAsp486Gly、L遺伝子にコードされるタンパク質のAsp148AlaおよびL遺伝子にコードされるタンパク質のLeu2054Pheを含む請求項16に記載の弱毒化RSV。
【請求項18】
前記1以上のアミノ酸突然変異が、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys204Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys205Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のThr211Ala、G遺伝子にコードされるタンパク質Lys213Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys221Gly、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys223Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のGlu232Gly、F遺伝子にコードされるタンパク質のGlu294Lys、F遺伝子にコードされるタンパク質のAsp486Gly、L遺伝子にコードされるタンパク質のAsp148AlaおよびL遺伝子にコードされるタンパク質のLeu2054Pheを含む請求項17に記載の弱毒化RSV。
【請求項19】
1以上のアミノ酸突然変異の原因となる前記1以上のヌクレオチド突然変異が、G遺伝子の610位、613位、631位、637位、639位、661位、662位、667位、668位、695位および696位、F遺伝子の880位および1457位およびL遺伝子の443位および6162位から成る群より選択されるヌクレオチド位に位置する請求項4に記載の弱毒化RSV。
【請求項20】
G遺伝子のヌクレオチド610位におけるヌクレオチド突然変異がA610Gであり、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるヌクレオチド突然変異がA613Gであり、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるヌクレオチド突然変異がA631Gであり、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるヌクレオチド突然変異がA637Gであり、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるヌクレオチド突然変異がA639Gであり、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるヌクレオチド突然変異がA661Gであり、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるヌクレオチド突然変異がA662Gであり、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるヌクレオチド突然変異がA667Gであり、G遺伝子のヌクレオチド668位におけるヌクレオチド突然変異がA668Gであり、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるヌクレオチド突然変異がA695Gであり、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるヌクレオチド突然変異がA696Gであり、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるヌクレオチド突然変異がG880Aであり、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるヌクレオチド突然変異がA1457Gであり、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるヌクレオチド突然変異がA443Cであり、L遺伝子のヌクレオチド6162位におけるヌクレオチド突然変異がG6162Tである請求項19に記載の弱毒化RSV。
【請求項21】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子の162位、NS2遺伝子の327位、G遺伝子の630位、G遺伝子の654位、G遺伝子の666位およびG遺伝子の675位から成る群より選択されるヌクレオチド位における1以上の非表現ヌクレオチド突然変異を更に含む請求項20に記載の弱毒化RSV。
【請求項22】
NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるヌクレオチド突然変異がT162Aであり、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるヌクレオチド突然変異がG327Aであり、
G遺伝子のヌクレオチド630位におけるヌクレオチド突然変異がA630Gであり、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるヌクレオチド突然変異がA654Gであり、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるヌクレオチド突然変異がA666Gであり、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるヌクレオチド突然変異がA675Gである請求項22に記載の弱毒化RSV。
【請求項23】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるT167A、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるG327A、G遺伝子のヌクレオチド610位におけるA610G、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるA613G、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるA630G、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるA631G、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるA637G、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるA639G、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるA654G、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるA661G、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるA662G、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるA666G、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるA667G、G遺伝子のヌクレオチド668位におけるA668G、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるA675G、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるA695G、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるA696G、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるG880A、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるA1457G、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるA443CおよびL遺伝子のヌクレオチド6162位におけるG6162Tのヌクレオチド突然変異を含む請求項22に記載の弱毒化RSV。
【請求項24】
請求項1乃至23のいずれかに記載の生弱毒化RSVおよび医薬上許容される担体を含む免疫原性組成物。
【請求項25】
請求項1乃至23のいずれかに記載の生弱毒化RSVをコードするゲノム配列またはアンチゲノム配列を含む核酸分子。
【請求項26】
発現ベクターである請求項25に記載の核酸分子。
【請求項27】
請求項26の発現ベクターを含む組み換え細胞。
【請求項28】
請求項1乃至23のいずれかに記載の弱毒化RSVを含む弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)個体群。
【請求項29】
請求項28に記載の生弱毒化RSV個体群および医薬上許容される担体を含む免疫原性組成物。
【請求項30】
対象の体内においてRSV感染に対して防御免疫応答を誘導する方法であって、当該対象に免疫学上有効な量の(a)請求項1乃至23のいずれかに記載の弱毒化RSV、(b)請求項28に記載の弱毒化RSV個体群、(c)請求項24の記載の免疫原性組成物または(d)請求項29に記載の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数を投与する工程を含む前記方法。
【請求項31】
対象がヒトである請求項30に記載の方法。
【請求項32】
患者体内においてRSV感染に対する防御免疫応答を誘導するための医薬の製造における免疫学上有効な量の(a)請求項1乃至23のいずれかに記載の弱毒化RSV、(b)請求項28に記載の弱毒化RSV個体群、(c)請求項24の記載の免疫原性組成物または(d)請求項29に記載の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数の使用。
【請求項33】
患者がヒトである請求項32に記載の使用。
【請求項1】
ウイルスゲノムを含む生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)であって、ウイルスゲノムが、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアラニン、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるグリシン、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるグリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニンおよびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニンから成る群より選択される1以上のアミノ酸を含むタンパク質をコードしている前記生弱毒化呼吸器抱合体ウイルス。
【請求項2】
ウイルスゲノムが、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニンおよびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニンを含む請求項1に記載の弱毒化RSV。
【請求項3】
FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む請求項2に記載の弱毒化RSV。
【請求項4】
FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列から成る請求項3に記載の弱毒化RSV。
【請求項5】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるFおよびL遺伝子を含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の弱毒化RSV。
【請求項6】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列から成るFおよびL遺伝子を含む請求項5に記載の弱毒化RSV。
【請求項7】
ウイルスゲノムが、G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアラニン、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるグリシン、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるグルタミン酸、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるグリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるリシン、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるグリシン、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアラニンおよびL遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるフェニルアラニン含むタンパク質をコードしている請求項1に記載の弱毒化RSV。
【請求項8】
G、FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号12、配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む請求項7に記載の弱毒化RSV。
【請求項9】
G、FおよびL遺伝子にコードされるタンパク質が、それぞれ配列番号12、配列番号18および配列番号24のアミノ酸配列から成る請求項8に記載の弱毒化RSV。
【請求項10】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるアデニン、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるアデニン、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるグアニンおよびG遺伝子のヌクレオチド675位におけるグアニンから成る群より選択させる1以上のヌクレオチドを更に含む請求項1乃至9のいずれかに記載の弱毒化RSV。
【請求項11】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるアデニン、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるアデニン、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるグアニン、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるグアニンおよびG遺伝子のヌクレオチド675位におけるグアニンを含む請求項10に記載の弱毒化RSV。
【請求項12】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるNS1、NS2、G、FおよびL遺伝子を含む請求項11に記載の弱毒化RSV。
【請求項13】
ウイルスゲノムが、それぞれ配列番号90、配列番号5、配列番号11、配列番号17および配列番号23のヌクレオチド配列から成るNS1、NS2、G、FおよびL遺伝子を含む請求項12に記載の弱毒化RSV。
【請求項14】
非弱毒化RSVウイルスゲノムと比較して1以上のヌクレオチド突然変異を含むウイルスゲノムを含む生弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)であって、当該1以上のヌクレオチド突然変異によって1以上のアミノ酸突然変異が起こり、当該1以上のアミノ酸突然変異がG遺伝子にコードされるタンパク質の204位、205位、211位、213位、221位、223位および232位、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位および486位、およびL遺伝子にコードされるタンパク質の148位および2054位から成る群より選択されるアミノ酸位に位置している前記生弱毒化呼吸器抱合体ウイルス。
【請求項15】
G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異がアラニンへの変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異がグリシンへの変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異がグルタミン酸への変異であり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異がグリシンへの変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異がリシンへの変異であり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるアミノ酸突然変異がグリシンへの変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアミノ酸突然変異がアラニンへの変異であり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異がフェニルアラニンへの変異である請求項14に記載の弱毒化RSV。
【請求項16】
G遺伝子にコードされるタンパク質の204位におけるアミノ酸突然変異がLys204Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の205位におけるアミノ酸突然変異がLys205Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の211位におけるアミノ酸突然変異がThr211Alaであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の213位におけるアミノ酸突然変異がLys213Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の221位におけるアミノ酸突然変異がLys221Glyであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の223位におけるアミノ酸突然変異がLys223Gluであり、G遺伝子にコードされるタンパク質の232位におけるアミノ酸突然変異がGlu232Glyであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の294位におけるアミノ酸突然変異がGlu294Lysであり、F遺伝子にコードされるタンパク質の486位におけるアミノ酸突然変異がAsp486Glyであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の148位におけるアミノ酸突然変異がAsp148Alaであり、L遺伝子にコードされるタンパク質の2054位におけるアミノ酸突然変異がLeu2054Pheである請求項15に記載の弱毒化RSV。
【請求項17】
前記1以上のアミノ酸突然変異が、F遺伝子にコードされるタンパク質のGlu294Lys、F遺伝子にコードされるタンパク質のAsp486Gly、L遺伝子にコードされるタンパク質のAsp148AlaおよびL遺伝子にコードされるタンパク質のLeu2054Pheを含む請求項16に記載の弱毒化RSV。
【請求項18】
前記1以上のアミノ酸突然変異が、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys204Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys205Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のThr211Ala、G遺伝子にコードされるタンパク質Lys213Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys221Gly、G遺伝子にコードされるタンパク質のLys223Glu、G遺伝子にコードされるタンパク質のGlu232Gly、F遺伝子にコードされるタンパク質のGlu294Lys、F遺伝子にコードされるタンパク質のAsp486Gly、L遺伝子にコードされるタンパク質のAsp148AlaおよびL遺伝子にコードされるタンパク質のLeu2054Pheを含む請求項17に記載の弱毒化RSV。
【請求項19】
1以上のアミノ酸突然変異の原因となる前記1以上のヌクレオチド突然変異が、G遺伝子の610位、613位、631位、637位、639位、661位、662位、667位、668位、695位および696位、F遺伝子の880位および1457位およびL遺伝子の443位および6162位から成る群より選択されるヌクレオチド位に位置する請求項4に記載の弱毒化RSV。
【請求項20】
G遺伝子のヌクレオチド610位におけるヌクレオチド突然変異がA610Gであり、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるヌクレオチド突然変異がA613Gであり、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるヌクレオチド突然変異がA631Gであり、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるヌクレオチド突然変異がA637Gであり、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるヌクレオチド突然変異がA639Gであり、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるヌクレオチド突然変異がA661Gであり、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるヌクレオチド突然変異がA662Gであり、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるヌクレオチド突然変異がA667Gであり、G遺伝子のヌクレオチド668位におけるヌクレオチド突然変異がA668Gであり、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるヌクレオチド突然変異がA695Gであり、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるヌクレオチド突然変異がA696Gであり、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるヌクレオチド突然変異がG880Aであり、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるヌクレオチド突然変異がA1457Gであり、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるヌクレオチド突然変異がA443Cであり、L遺伝子のヌクレオチド6162位におけるヌクレオチド突然変異がG6162Tである請求項19に記載の弱毒化RSV。
【請求項21】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子の162位、NS2遺伝子の327位、G遺伝子の630位、G遺伝子の654位、G遺伝子の666位およびG遺伝子の675位から成る群より選択されるヌクレオチド位における1以上の非表現ヌクレオチド突然変異を更に含む請求項20に記載の弱毒化RSV。
【請求項22】
NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるヌクレオチド突然変異がT162Aであり、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるヌクレオチド突然変異がG327Aであり、
G遺伝子のヌクレオチド630位におけるヌクレオチド突然変異がA630Gであり、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるヌクレオチド突然変異がA654Gであり、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるヌクレオチド突然変異がA666Gであり、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるヌクレオチド突然変異がA675Gである請求項22に記載の弱毒化RSV。
【請求項23】
ウイルスゲノムが、NS1遺伝子のヌクレオチド162位におけるT167A、NS2遺伝子のヌクレオチド327位におけるG327A、G遺伝子のヌクレオチド610位におけるA610G、G遺伝子のヌクレオチド613位におけるA613G、G遺伝子のヌクレオチド630位におけるA630G、G遺伝子のヌクレオチド631位におけるA631G、G遺伝子のヌクレオチド637位におけるA637G、G遺伝子のヌクレオチド639位におけるA639G、G遺伝子のヌクレオチド654位におけるA654G、G遺伝子のヌクレオチド661位におけるA661G、G遺伝子のヌクレオチド662位におけるA662G、G遺伝子のヌクレオチド666位におけるA666G、G遺伝子のヌクレオチド667位におけるA667G、G遺伝子のヌクレオチド668位におけるA668G、G遺伝子のヌクレオチド675位におけるA675G、G遺伝子のヌクレオチド695位におけるA695G、G遺伝子のヌクレオチド696位におけるA696G、F遺伝子のヌクレオチド880位におけるG880A、F遺伝子のヌクレオチド1457位におけるA1457G、L遺伝子のヌクレオチド443位におけるA443CおよびL遺伝子のヌクレオチド6162位におけるG6162Tのヌクレオチド突然変異を含む請求項22に記載の弱毒化RSV。
【請求項24】
請求項1乃至23のいずれかに記載の生弱毒化RSVおよび医薬上許容される担体を含む免疫原性組成物。
【請求項25】
請求項1乃至23のいずれかに記載の生弱毒化RSVをコードするゲノム配列またはアンチゲノム配列を含む核酸分子。
【請求項26】
発現ベクターである請求項25に記載の核酸分子。
【請求項27】
請求項26の発現ベクターを含む組み換え細胞。
【請求項28】
請求項1乃至23のいずれかに記載の弱毒化RSVを含む弱毒化呼吸器合胞体ウイルス(RSV)個体群。
【請求項29】
請求項28に記載の生弱毒化RSV個体群および医薬上許容される担体を含む免疫原性組成物。
【請求項30】
対象の体内においてRSV感染に対して防御免疫応答を誘導する方法であって、当該対象に免疫学上有効な量の(a)請求項1乃至23のいずれかに記載の弱毒化RSV、(b)請求項28に記載の弱毒化RSV個体群、(c)請求項24の記載の免疫原性組成物または(d)請求項29に記載の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数を投与する工程を含む前記方法。
【請求項31】
対象がヒトである請求項30に記載の方法。
【請求項32】
患者体内においてRSV感染に対する防御免疫応答を誘導するための医薬の製造における免疫学上有効な量の(a)請求項1乃至23のいずれかに記載の弱毒化RSV、(b)請求項28に記載の弱毒化RSV個体群、(c)請求項24の記載の免疫原性組成物または(d)請求項29に記載の免疫原性組成物のうちの1つまたは複数の使用。
【請求項33】
患者がヒトである請求項32に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−507302(P2012−507302A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534864(P2011−534864)
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/063024
【国際公開番号】WO2010/053883
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/063024
【国際公開番号】WO2010/053883
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】
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