説明

生殖細胞のゲノム不安定性を検出するための方法及びキット

男性の生殖細胞系列におけるマイクロサテライト不安定性を検出する方法、精巣癌の発生リスクを評価する方法、推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍のマイクロサテライト安定性を評価する方法、変異原への曝露について生殖細胞を評価する方法、及び本発明の方法で使用するキットが開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(序論)
生殖細胞系列は、変異を生じる潜在能力を有する前変異原性変化(ミスマッチ修復(MMR)、組換えエラー及びDNA又はクロマチンのフラグメント化(特にDNA鎖の断裂)を含む)に起因する損傷に対して感受性を示す。前変異原性変化は、例えば不良アポトーシス経路で、自然の過程(例えばDNA鎖の断裂の誘導を伴う組換え及びパッケージング)における欠陥によって、及び酸化ストレスによって誘導され得る。一本鎖及び二本鎖DNAの断裂、異数性、ミトコンドリア変異、及び他のゲノム不安定性(GI)の指標は、低生殖能力男性から得られた精子から単離されたDNAで高い頻度で生じる。
DNAミスマッチ修復タンパク質の発現が破壊されたマウスは躯幹の腫瘍及び減数分裂停止を示す(J.S. Backer, Curr Genet 28:499-501, 1995;S.M. Baker et al. Cell 82:309-19, 1995)。Nudellらは、配列分析をもとに、減数分裂停止の不妊性男性の精巣組織由来のジヌクレオチドリピートD19S49のクローンは、対照と比べて変異の増加を示すことを報告した(D.M. Nudell & P.J. Turek, Curr Urol Rep 1:273-81, 2000)。ゲノム不安定性、ミスマッチ修復欠損及び雄性因子不妊性の間の関連性を支持するものとして、Martinらは、MSH2ミスマッチ修復遺伝子の変異についてヘテロ接合性である男性の精子で異数性の頻度が対照と比較して顕著に増加することを見出した(Martin et al. Am J Hum Genet 66:1149-52, 2000)。Maduroらは、セルトリ細胞のみ(SCO)で無精子症と診断された男性の精巣生検標本から大プールPCRによって増幅させたDNAは、分析された7つのモノヌクレオチド(BAT-26、BAT-40)、ジヌクレオチド(D2S123、D17S250、D18S58、D19S49)又はトリヌクレオチド(AR、アンドロゲンレセプターのエキソン1内)リピート遺伝子座のうちの2つ以上でマイクロサテライト不安定性出現率の増加を示すことを報告した(Maduro et al. Mol Hum Reprod 9:61-8, 2003)。対照的に、Maduroらは、成熟(減数分裂)停止又は低精子形成症の男性は顕著な不安定性頻度を示さないことを報告した。
当分野では、生殖細胞系列に特異的なゲノム不安定性を評価する改善方法が希求されている。ゲノム不安定性の検出は、精巣癌についてのリスクの評価、反応性酸素種(ROS)又は変異原への急性曝露の検出及び長期間曝露のモニターを可能にするであろう。当分野では、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の検出で使用される適切なマイクロサテライト遺伝子座の同定が希求されている。
【0002】
(発明の要旨)
ある特徴では、本発明は、生殖細胞から第一のDNAサンプルを得ることによって生殖細胞のゲノム不安定性を検出する方法を提供する。前記第一のDNAサンプルは、以下から成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含む:Y染色体マイクロサテライト遺伝子座;少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座;並びに、AAAAG、AAAAC及びAAAATから成る群から選択される反復ユニットを有するAに富む短いタンデムリピート。前記第一のDNAサンプルを続いて第一のプライマー及び第二のプライマーと接触させる。前記第一及び第二のプライマーはそれぞれ第一のDNA配列及び第二のDNA配列とハイブリダイズする。前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にして第一の増幅産物を形成する条件下で、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップする。前記第一の増幅産物のサイズを決定し、増幅産物の予想されるサイズと比較する。前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想サイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標である。増幅産物の予想サイズは、少なくとも1つの対照細胞由来の第二のDNAサンプルを得ることによって決定することができる。続いてこのDNAサンプルを上記と同じプライマーと接触させ、第二のDNAサンプルを増幅させ、前記第一のDNAサンプルと比較する。本方法は、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の検出に用いることができ、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性は不妊性の指標である。
【0003】
また別の特徴では、本発明は、精巣細胞から第一のDNAサンプルを得ることによってゲノム不安定性を検出する方法を提供する。前記第一のDNAサンプルは、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、D7S3070及びD7S1808から成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含む。続いて前記第一のDNAサンプルを上記に記載したように増幅させて第一の増幅産物を形成する。前記第一の増幅産物のサイズを決定し、増幅産物の予想されるサイズと比較する。前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想サイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標である。精巣細胞のゲノム不安定性は不妊性の指標である。
また別の特徴では、本発明は、精巣癌のリスクを評価する方法を提供する。前記方法は、生殖細胞由来のDNAを増幅することによって生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性を検出することを必要とする。前記DNAは、生殖細胞系列のゲノム不安定性に感受性を有する1つ以上のマイクロサテライト遺伝子座を含む。前記DNAを上記のように増幅し、前記増幅産物のサイズを予想される増幅産物のサイズと比較する。前記増幅産物のサイズと予想される増幅産物のサイズとの間の相違は生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の指標である。生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性は精巣癌のリスク増加の指標である。
また別の特徴では、本発明は、精巣細胞からDNAサンプルを得ることによって精巣癌のリスクを評価する方法を提供する。前記DNAサンプルは、以下から成る群から選択される1つ以上のマイクロサテライト遺伝子座を含む:Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、D7S3070及びD7S1808。続いて前記DNAサンプルを上記に記載したように増幅して第一の増幅産物を形成する。前記第一の増幅産物のサイズを決定し、増幅産物の予想されるサイズと比較する。前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想サイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標であり、さらにゲノム不安定性は精巣癌のリスク増加の指標である。
【0004】
さらに別の特徴では、本発明は、ゲノム不安定性及び生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性を検出するキットを提供する。本発明はまた、不妊性の評価及び精巣癌のリスク評価のためのキットを提供する。
また別の特徴では、本発明は、推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍のマイクロサテライト不安定性を検出する方法を提供し、前記方法は、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座の安定性を、前述の方法と同様な方法によって評価することを含む。推定的癌若しくは前癌細胞又は腫瘍の安定性は、正常細胞との比較によって評価することができる。さらにまた、本発明は、推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍のマイクロサテライト不安定性を検出するためのキットもまた提供する。
さらにまた、本発明は、培養多能性細胞株又は幹細胞株のゲノム安定性を、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含むDNAサンプルをこれら細胞から得ることによってモニターする方法もまた提供する。続いて前記DNAサンプルを上記に記載したように増幅して第一の増幅産物を形成する。前記第一の増幅産物のサイズを決定し、増幅産物の予想されるサイズと比較する。前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想サイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標である。さらに別の特徴では、本発明は、培養多能性細胞株又は幹細胞株のゲノム安定性を決定するためのキットを提供する。
【0005】
さらにまた別の特徴では、本発明は、生殖細胞のゲノム安定性を評価することによって、変異原又は潜在的変異原(反応性酸素種を含む)への曝露をモニターする方法を提供する。第一のDNAサンプルは少なくとも1つの生殖細胞から得られ、前記第一のDNAサンプルは、以下から成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含む:Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、PENTA C及びD7S3070。続いて前記DNAサンプルを上記に記載したように増幅して第一の増幅産物を形成する。前記第一の増幅産物のサイズを決定し、増幅産物の予想されるサイズと比較する。前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想サイズとの間の相違は変異原への曝露の指標である。
さらにまた別の特徴では、本発明は、生殖細胞のゲノム安定性を評価することによって、変異原又は潜在的変異原(反応性酸素種を含む)への曝露をモニターする方法を提供する。第一のDNAサンプルは少なくとも1つの生殖細胞から得られ、前記第一のDNAサンプルは、以下から成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含む:Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも38のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、PENTA C及びD7S3070。続いて前記DNAサンプルを上記に記載したように増幅して第一の増幅産物を形成する。第二のDNAサンプルは、第一のDNAサンプルを得る前に少なくとも1つの対照細胞から、又は適合する非曝露細胞から得られる。前記第二のDNAサンプルを上記のように増幅して第二の増幅産物を形成する。前記第一及び第二の増幅産物のサイズを決定し比較する。前記第一の増幅産物のサイズと第二の増幅産物のサイズとの間の相違は変異原への曝露の指標である。
さらにまた、本発明は、変異原又は潜在的変異原(反応性酸素種を含む)への曝露をモニターするためのキットを提供する。
【0006】
(発明の詳細な説明)
ヒトゲノムのほぼ1/3がDNAリピートで構成される。Y染色体は、反復エレメントの最大クラスターを収容する。前記反復エレメントにはタンデム及び点在リピート、並びに短いタンデムリピート(STR)、遺伝子及び配列タグ化部位(STS)を含むエレメントパリンドロームが含まれる。テロメアに隣接する偽常染色体ペアリング領域(PAR)を例外として、Y染色体は組換えを行わない。したがって、Y染色体の非組換え領域(NRY)内の変異は、ペアリングホモローグを有する他の染色体が非コード領域内の変異を修復するために用いるDNA修復メカニズムの多くに付されることはない。雄では、X染色体はペアリングホモローグを持たず、したがって、X染色体もまた組換えを行わず、他の染色体が非コード領域内の変異の修復のために利用するDNA修復メカニズムの利益を受けない。
精子形成に必要な遺伝子の多くはY染色体上でコードされる。以前の研究では、1.5Gy以上の放射線曝露は、おそらくは精子形成に必要な遺伝子を包み込むことができないために、しばしば持続的無精子症又は精子形成低下をもたらすことが示された(Birioukov et al. Arch Androl 1993, 30(2):99-104;Greiner Strahlenschutz Forsch Prax 1985, 26:114-121(前記文献は参照により本明細書に含まれる))。Y染色体上の短いタンデムリピートにおける生殖細胞系列の変異率は、常染色体で観察されるものと類似する(すなわち約1.6x10-3)(Bodowle et al. Forensic Science International 2005, 150(1):1-15(前記文献は参照によりその全体が本明細書に含まれる))。
【0007】
本発明はゲノム不安定性を検出する方法を提供する。ゲノム不安定性は、マイクロサテライト遺伝子座における長さの変動によって示される(長さの変動は変異が前記遺伝子座で生じたことを示す)。マイクロサテライト遺伝子座は、伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座および短いタンデムリピート、特にY染色体上の短いタンデムリピートを含む。本発明は、生殖細胞又は精巣細胞のモノヌクレオチドリピート鎖又は1〜6塩基対の反復ユニットを含むある種の短いタンデムリピートにおける対立遺伝子の長さの変動を、同じ個体の対照細胞と比較して観察することによって、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性及び不妊性を評価する方法を提供する。生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の評価はまた、精巣癌のリスク評価に用いることができる。本発明はまた、推定的癌若しくは前癌細胞、腫瘍細胞、多能性細胞又は培養幹細胞におけるマイクロサテライト不安定性を評価する方法を提供する。最後に、本発明は、生殖細胞でのマイクロサテライト安定性を評価することによって、変異原(例えばROS)への曝露をモニターする方法を提供する。
変異原に対する変異に感受性を示す反復DNA配列(又は“DNAリピート”)が同定された。マイクロサテライト遺伝子座はDNAリピートのクラスに属し、その各々は縦並びでくり返される1〜9の塩基対(bp)の配列を含む。10〜60bpのより長い繰り返しユニットを有する遺伝子座は、典型的にはミニサテライトと称される。マイクロサテライト及びミニサテライトは本質的に不安定で、非反復性DNA配列よりも数桁高い割合で変異する。この不安定性のために、マイクロサテライト及びミニサテライトが、変異原、フリーラジカル誘導物質、及びROSへの曝露後の変異率増加の評価に用いられた。
【0008】
本明細書で用いられる、“変異原”は、DNAにおける変化を引き起こす物質又は状態を指し、化学的又は生物学的物質、例えばフリーラジカル、反応性酸素種(ROS)、薬剤、化学物質、放射線照射及び正常な加齢プロセスが含まれるが、ただしこれらに限定されない。“曝露”とは、細胞若しくは生物を変異原と接触させること、又は、細胞若しくは生物と変異原との相互作用を生じる条件下で細胞若しくは生物を処理することを意味する。細胞又は生物を変異原に“曝露する”ことは必ずしも能動的な工程を必要としないことは理解されねばならない。むしろ、細胞又は生物の変異原への曝露は、変異原が発生する環境に細胞又は生物が存在することによりもたらされ得る。
簡単に記せば、本方法は、1つ以上のマイクロサテライト遺伝子座を含むDNAサンプルを、前記マイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップするDNA配列とハイブリダイズするプライマーを増幅反応(適切にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR))で用いて増幅することを必要とする。増幅されるべきDNA配列のサイズの上限は増幅方法の効率に左右されるであろう。前記DNA配列のサイズは、標的DNAサンプルの不完全な複写による長さの変動を少なくするように選択することができ、さらに高い忠実性をもつポリメラーゼを用いてPCRの人工産物発生の機会を減少させることができる。適切には、増幅されるDNA配列は、長さがせいぜい1000塩基対である。
下記実施例で述べるように、多数のマイクロサテライト遺伝子座が、電離放射線又はROSの増加によって惹起される酸化性ストレスに感受性を示すものと認められた。これら同じ遺伝子座は、正常な精子形成を示す個体と比較して、精子形成不全を示す個体で生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の増加を示す。特に、Y染色体上のマイクロサテライト遺伝子座(又はY染色体短タンデムリピート遺伝子座(YSTR))、伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座(少なくとも38ヌクレオチドを含むモノヌクレオチドリピート)、及びAに富むペンタヌクレオチドリピート遺伝子座は、ROS及び電離放射線に影響を受けやすく、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性を予測する。例えば、Aに富む常染色体ペンタヌクレオチドリピート遺伝子座ペンタC及びペンタD(前記はそれぞれ15及び17回くり返されたモチーフAAAGを含む)は、ROSに対して感受性を示すことが判明した。ペンタDは、ペンタCよりも不妊性男性の生殖細胞でより強い不安定性を示した。前記弁別的感受性はリピートの数の関数であり得る。ROS及び生殖細胞系列特異的変異に対するペンタヌクレオチドリピートの感受性は、ペンタヌクレオチドリピートがMMR欠損腫瘍で比較的安定であり、実際、前記はMMR欠損細胞のMSI検出に対照として用いられるという点で驚くべきことである。
【0009】
ROSに対する感受性又は生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性を示すものとして下記で例示するYSTR遺伝子座(すなわちDYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437)の他に、NYRの他のYSTR遺伝子座がROS曝露又は生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の検出に適切であろうということは合理的に予想される。前記他のYSTR遺伝子座には、DYS453、DYS456、DYS446、DYS455、DYS463、DYS435、DYS458、DYS449、DYS454、DYS434、DYS437、DYS435、DYS439、DYS488、DYS447、DYS436、DYS390、DYS460、DYS461、DYS462、DYS448、DYS452、DYS464a、DYS464b、DYS464c、DYS464d、DYS459a、及びDYS359bが含まれるが、ただしこれらに限定されない(表9参照)。これらのY染色体マイクロサテライト遺伝子座は入手可能な配列情報の検索で特定されたが、Y染色体のNRY上の他のいずれのモノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、又はペンタヌクレオチドリピートも本発明の方法で適切であろうと期待される。
下記の実施例では、いくつかの伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座がまた、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性及び/又は変異原(例えばROS)に対する感受性を示すことが明らかにされた(すなわち、hBAT-51d、hBAT-52a、hBAT-53c、hBAT59a、hBAT-60a、hBAT-60b、及hBAT-62)。他の伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座もROS曝露又は生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の検出に適切であろうということは合理的に期待される。前記遺伝子座には表3に列挙した遺伝子座が含まれるが、ただしこれらに限定されない。これら伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、入手可能な配列情報の検索で特定されたが、少なくとも38リピートを有する他のいずれの伸長モノヌクレオチドリピートも本発明の方法で使用するために適切であろう。適切には、前記伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、38〜200リピート、41〜200リピート、38〜90リピート、41〜90リピート、42〜90リピート又は42〜60リピートを含むであろう。
【0010】
マイクロサテライトリピート配列における長期にわたる変化の分析による変異負荷プロファイリングは、個体の累積的変異記録をモニターするための非侵襲的で普遍的アプローチである。このアプローチは、変異原に曝露される個体の健康に対するリスクを予想し、これを最小限にする場合に有用である。本発明の方法を用いて、薬剤による遺伝的損傷を実験的培養細胞又は全動物で測定することができる。
下記に示すように、反復DNA配列を含む多数の遺伝子座が、不妊性男性の生殖細胞系列で不安定であるが、対照の体細胞及び妊性男性の生殖細胞系列では安定であることが見出された。したがって、これらの遺伝子座は、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の評価で有用である。これらの遺伝子座における生殖細胞系列特異的不安定性の検出を、不妊治療を模索する個体又は精巣癌リスクの診断、治療若しくは予後で用いることができる。例えば、前記方法を胎外受精の成功の確率評価に、又は着床前診断検査で用いることができる。いくつかのマイクロサテライト遺伝子座は、ゲノム不安定性の評価に適していることが示された。これらの遺伝子座には、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、DYS437、BAT-40、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、BAT-26、D7S3070及びDS1808が含まれる。他のマイクロサテライト遺伝子座も本発明の方法で適切であろうと予想される。
本明細書で用いられるように、不妊性男性の生殖細胞系列で不安定である遺伝子座は、精子形成停止をもつ不妊性男性の少なくとも5%で不安定であり、さらに妊性男性の5%未満、適切には2%未満、1%未満又は0%で不安定である遺伝子座である。好ましくは、前記不安定な遺伝子座は、精子形成停止をもつ不妊性男性の少なくとも10%、15%、20%、25%、又は30%以上で不安定である。実施例では、ゲノム不安定性は、増幅産物のサイズを評価し、さらに、生殖細胞又は精巣細胞若しくは組織から得られる増幅産物のサイズを体細胞対照のそれと比較するか、又は増幅産物の予想サイズと比較することにより変異対立遺伝子の存在を推定することによって測定された。
【0011】
増幅産物の分析は、前記増幅産物のサイズをその増幅産物の予想されるサイズと比較することを必要とする。増幅産物の予想されるサイズは、対照細胞由来の増幅産物と比較することによって確立することができる。前記対照細胞は、生殖細胞と同じ個体の体細胞であっても、又は異なる時点(例えば早い時期)に採取された同じ個体の細胞であってもよい。対照細胞はまた、生物の同系交配集団に由来する対合細胞、組織培養細胞株、または一生物の非曝露部分であってもよい。マイクロサテライト遺伝子座が集団内で優勢な対立遺伝子を有するならば、増幅産物の予想されるサイズは、前記集団内の遺伝子座のサイズと比較することによって確立することができる。最後に、増幅産物の予想されるサイズは家系分析によって確立することができる。
実施例では、増幅産物のサイズは、キャピラリー電気泳動によって評価された。しかしながら、増幅産物のサイズは、任意の適切な手段(例えば対立遺伝子の配列決定)によって、又はDNAリピートに融合させたレポーター遺伝子を含むDNA構築物を収容する細胞内でのレポータータンパク質の発現の増減を観察することによって評価することができる。前記レポーター遺伝子は、米国特許出願 (“Methods and Kits for Detecting Mutations”(“変異を検出するための方法及びキット”)(2005年10月24日出願、前記文献は参照により本明細書に含まれる)に記載されているように、その長さの変化がフレームシフト及びレポーター遺伝子発現の消失又は獲得をもたらすように前記DNAリピート融合されてある。
遺伝子座の増幅によってゲノム不安定性を評価するとき、前記遺伝子座は個々に増幅及び分析するか、又は他の遺伝子座と一緒にパネルの部分として増幅及び分析してもよい。多数の遺伝子座をパネルとして一緒にすることによってパネルの感度が高まる。適切には、少なくとも4つの別個の遺伝子座がゲノム不安定性について評価される。好ましくは、少なくとも5つの遺伝子座がゲノム不安定性について評価される。多数の遺伝子座は別々に増幅してもよいが、便利には他の遺伝子座と一緒に多重反応によって増幅してもよい。
【0012】
適切には、1つ以上のY-連結モノマー、ダイマー、トリマー、テトラマー又はペンタマーリピートが、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の評価用パネルに含まれる。前記Y-連結リピートは、Y染色体の非組換え領域と適切に結合させることができる。常染色体ペンタヌクレオチドリピート遺伝子座もまた、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の検出に適している。伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座(好ましくはアデニンリピートを含む)もまた、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の検出に適している。本明細書で用いられる、伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、各リピートユニットに付き少なくとも38ヌクレオチドのモノヌクレオチドリピートを指す。伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、適切には38〜200ヌクレオチド、41〜200ヌクレオチド、38〜90ヌクレオチド、41〜90ヌクレオチド、42〜90ヌクレオチド、又は42〜60ヌクレオチドのリピートを有するであろう。
本発明の方法にしたがってリピート遺伝子座を増幅する際には、任意の適切なプライマー対、例えば下記で述べるもの、又は市場(例えばPowerPlex(商標)Y System, Promega Corporation, Madison WI)で入手できるものを用いることができる。また別には、増幅されるべき遺伝子座の各末端に隣接するか、又は前記各末端と部分的にオーバーラップする適切なプライマー対を、利用可能な配列情報及びオリゴヌクレオチドプライマー設計用ソフトウェア(例えばオリゴヌクレオチドプライマーアナリシスソフトウェア、ヴァージョン6.86(National Biosciences, Plymouth, MN))を用いて設計してもよい。
【0013】
生殖細胞は、任意の手段(射精液又は精細管及び/又は精巣上体の吸引物由来の精子の採集、精巣生検標本、卵子の採集、生物学的サンプルから単離された多能性細胞若しくは幹細胞、培養多能性細胞、又は培養幹細胞を含む)によって得ることができる。同様に、増幅されるDNAは任意の適切な手段によって単離することができる。増幅されるべきDNAは単一細胞、小プールDNA又は大プールDNAから得ることができる。単一細胞に由来するDNAは全ゲノム増幅によって増幅することができる。
マイクロサテライト不安定性の評価に続いて、不安定性を示す被検遺伝子座の百分率を規準にして被検個体をMSI分類に割り振る。高いMSI(遺伝子座の30%以上)を示すものはMSI-Hと、中等度のMSI(遺伝子座の20〜29%)を示すものはMSI-Iと、低いMSI(5〜19%)を示すものをMSI-Lと称し、MSIをもたないものをマイクロサテライト安定(microsatellite stable)としてMSSと称した。実施例で詳述するように、その生殖細胞のMSIが高いか又は中等度の不妊性男性で比較的高い百分率の者がその後精巣癌(セミノーマ)を発症した。したがって、精巣癌を発症するリスクがある生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性を有する男性の亜集団であるように思われる。本発明の方法を用いて、精巣癌についてモニターすることが要求され得る、MSI-H又はMSI-Iの個体を特定することが可能である。
歴史的には、精巣癌は精巣内の集塊が認識され続いて生検を実施した後で診断される。生殖細胞のある種の遺伝子座のマイクロサテライト不安定性における高レベル又は中等度レベルが精巣癌リスクの増加と相関するという発見は、このタイプの癌の早期検出(すなわち認識可能集塊の発生前の検出)を可能にするであろう。本発明の方法は、通常の組織生検に対して、非侵襲的手段によって得られるサンプル(例えば射精液精子細胞又は極細針穿刺吸引によって得られる精子細胞)で実施することができる。これらの要件は、早期検出及び治療をきわめて促進し、このことは予後を大いに改善する。
【0014】
実施例では、Y染色体マイクロサテライトマーカーを用いて、いくつかの異なる結腸癌サンプルをMSIについて評価した。以前の実験では、遺伝性非ポリポーシス結直腸癌(HNPCC)の個体(DNAミスマッチ修復遺伝子(MLH1及びMSH2を含む)で生殖細胞系列変異を保有する)では、モノヌクレオチドリピートはミスマッチ修復(MMR)欠損癌細胞でより頻繁に変異することが示された。これらの腫瘍細胞でマイクロサテライト不安定性の増加が検出されるということは、治療及び予後に関して重要な診断情報を提供する。実施例で例示されるように、いくつかのY-染色体マイクロサテライト遺伝子座は、ミスマッチ修復欠損腫瘍で変異するが、ミスマッチ修復実施腫瘍では変異を持たないことが示された。検査された遺伝子座には、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437が含まれる。ミスマッチ修復欠損及び修復実施腫瘍間を識別する能力は癌の診断及び治療で重要である。Y-STR遺伝子座の各々はY-染色体の非組換え領域と結合しているので、NRYの他のマイクロサテライト遺伝子座も、男性のミスマッチ修復欠損及び修復実施腫瘍間の識別で使用するために適切であり得ることは想定できる。前記他の遺伝子座には、DYS453、DYS456、DYS446、DYS455、DYS463、DYS435、DYS458、DYS449、DYS454、DYS434、DYS437、DYS435、DYS439、DYS488、DYS447、DYS436、DYS390、DYS460、DYS461、DYS462、DYS448、DYS452、DYS464a、DYS464b、DYS464c、DYS464d、DYS459a、及びDYS359bが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本発明の方法はまた、推定的癌若しくは前癌細胞又は腫瘍でマイクロサテライト不安定性を検出するために用いることができる。前記Y染色体マイクロサテライト遺伝子座は、マイクロサテライト安定細胞と不安定細胞との識別で使用するために適切であり得る。この識別は、推定的癌若しくは前癌細胞又は腫瘍の診断及び予後にとって極めて重要である。細胞が顕微鏡的、培養的に異形であるか、又はポリープ若しくは他の異常な集塊に含まれる場合は、細胞は推定的癌又は前癌状態であると考えられる。マイクロサテライト安定性は、これら細胞から得られる増幅産物を正常細胞由来の対応する増幅産物と比較することによって評価することができる。正常細胞はマイクロサテライト安定であり、前癌性の特徴を全く示さない細胞、例えば正常な血中リンパ球である。
本発明は本発明の方法を実施するためのキットを提供する。これらのキットは、1つ以上のプライマー若しくはプライマー対、DNA単離用若しくは増幅反応実施用緩衝液、及び/又は本発明の方法を実施するための指示を含むことができる。
以下の非限定的な実施例は純粋に例示を目的とする。
【実施例】
【0015】
A.照射処理した培養ヒト線維芽細胞及び細胞株における変異の検出
細胞培養及び照射:男性のヒト線維芽細胞株No.AG01522(Coriell Cell Repository)をMEMイーグル-アール(Eagle-Earle)BSS培養液(15%ウシ胎児血清並びに2x濃度の必須及び非必須アミノ酸及びビタミンを2mMのL-グルタミンとともに含む)で増殖させた。細胞培養は37℃、5%CO2で無菌的条件下で増殖させた。指数関数的に増殖した細胞をT-25組織培養フラスコに播種し、ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory)の交替勾配シンクロトロン(AGS)で0.5Gy/分の速度で加速した1GeV/nucleonの56Feイオンをシングルドース0.5、1又は3Gyで室温で照射した。照射後に、培養液を交換し、細胞を3日間増殖させてから採集し、DNA抽出まで−70℃で凍結した。
マイクロサテライトリピートの小プールPCR増幅:以下を含む遺伝子座の小プールPCR(SP-PCR)増幅を、各遺伝子座について蛍光標識プライマー対を用いて実施した:モノヌクレオチドリピートマーカーNR-21、NR-24、BAT-25、BAT-26及びMONO-27、常染色体上のテトラヌクレオチドリピートマーカー(D7S3070、D7S3046、D7S1808、D10S1426及びD3S2432)、Y染色体上のトリ-、テトラ-及びペンタ-ヌクレオチドリピート(DYS391、DYS389I、DYS389II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390及びDYS385)、ペンタヌクレオチドリピート、ペンタB、C、D及びE、並びに伸長ポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピート遺伝子座(hBAT-51d、hBAT-52a、hBAT-53c、hBAT59a、hBAT-60a、hBAT-60b及びhBAT-62)(表1)。PCR反応は、10μLの反応混合物中で6〜15pgの全ゲノムDNAを用いることによって実施した。前記反応混合物は、1μLのゴールドST*R 10x緩衝液(Promega, Madison, WI)、0.05μLのAmpliTaqゴールドDNAポリメラーゼ(5ユニット/μL;Perkin Elmer, Wellesley, MA)及び0.1〜10μMの各プライマーを含んでいた。PCRはPE9600サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Foster City, CA)で以下の周期条件を用いて実施した:初期変性95℃で11分;続いて96℃で1分の1サイクル、以下を10サイクル:94℃で30秒、68秒で58℃へ下降、30秒維持、50秒で70℃へ上昇、60秒維持、以下を25サイクル:90℃で30秒、60秒で62℃へ下降、30秒維持、50秒で70℃へ上昇、60秒維持、最終伸長を60℃で30分、さらに4℃で維持。SP-PCR産物を分離し、アプライドバイオシステム(Applied Biosystems)3100ジネティックアナライザーを用いてキャピラリー電気泳動で検出し、データはABジーンスキャン(AB GeneScan)及びジェノタイパー(Genotyper)ソフトウェアアナリシスパッケージを用いて解析し、マイクロサテライト変異の存在を特定した。
【0016】
【表1−1】

【0017】
【表1−2】

【0018】
【表1−3】

【0019】
変異の解析:0.5、1又は3Gyの鉄イオンを照射した細胞から単離したDNAのマイクロサテライトリピートにおいて検出された変異は表2にまとめられている。36bp未満のポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピートは、対照(コントロール)に対して変異率の増加をほとんど、又は全く示さなかった。同様に、MSIに対して感受性を示す常染色体のテトラヌクレオチドリピートは、照射誘導変異の証拠を全く示さなかった。対照的に、Aに富むペンタヌクレオチドリピート及びY染色体上のリピートは、照射細胞で統計的に有意な変異の増加を示した。図1は、種々の照射線量に曝露した照射ヒト細胞における、Y-STRパネルの遺伝子座及び伸長ポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピートの平均変異頻度を示す。ワンウェーANOVAは、擬似対照と比較したとき、ヒト線維芽細胞への3Gy及び1Gy曝露後にY-STRで、及び3GY曝露後にhBATで変異頻度の有意な増加を示した(p<0.001)。
【0020】
【表2】

【0021】
線量-応答曲線:直線の線量応答曲線がY染色体上の被検マイクロサテライトマーカーで観察された。正常なヒト線維芽細胞AG01522に0、0.5、1又は3Gyの鉄イオンを照射し、Y染色体上の13のマイクロサテライトマーカーの合計変異頻度をSP-PCRで決定し、線量の関数としてプロットした。直線状回帰線(R2=0.9835)に対して良好な一致が存在し、これらのマーカーは生物線量測定のために有用であり得ることを示している。
培養細胞のゲノム安定性に対する照射の影響に関する更なる詳細は、米国仮特許出願60/661,646(2005年3月14日出願)(前記文献は参照により本明細書に含まれる)で見出すことができる。
【0022】
B.酸化ストレスに曝露されたヒト培養細胞における変異の検出
細胞培養:男性のヒト線維芽細胞株#Ag01522(Coriell Cell Repository)をMEMイーグル-アールBSS、2x濃度の必須及び非必須アミノ酸並びに2mMのL-グルタミンを含むビタミン、並びに15%ウシ胎児血清中で培養した。細胞培養は37℃及び5%CO2で無菌的条件下で増殖させ、細胞がコンフルエントのときに、トリプシン-EDTA処理で細胞を遊離させることによって1:5の割合で分割した。PBS中に0.0mM、0.04mM、0.4mM、0.8mM、1.2mM及び4mMの濃度の過酸化水素で細胞を1時間、上記に記載した条件と同じ培養条件下で処理した。処理後、過酸化水素を含む培養液を新しい培養液と交換し、3日間回復させた。細胞をペレットにしてDNAを抽出した。
変異の検出:変異対立遺伝子は、上記に記載したようにマイクロサテライトマーカーを用いて小プールPCRによって特定した。前記マイクロサテライトマーカーは以下を含む:モノヌクレオチドリピートマーカー(NR-21、NR-24、BAT-25、BAT-26及びMONO-27)、常染色体上のテトラヌクレオチドリピートマーカー(D7S3070、D7S3046、D7S1808、D10S1426及びD3S2432)、Y染色体上のトリ-、テトラ-及びペンタ-ヌクレオチドリピート(DYS391、DYS389I、DYS389II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390及びDYS385)、ペンタヌクレオチドリピート、ペンタB、C、D及びE、並びに伸長ポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピート(hBAT-51d、hBAT-53c、hBAT-60A、hBAT-62、hBAT-52A及びhBAT59A)。変異は、過酸化水素に曝露された細胞から単離されたDNAの伸長ポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピート、Y-STR及びAに富むペンタヌクレオチドリピートで検出された。ROSへの曝露に続く、伸長ポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピート、Y-STR及びAに富むペンタヌクレオチドリピートの変異率もまた線量依存性である。
培養細胞のゲノム不安定性に対する酸化ストレスの影響に関する更なる詳細は、米国仮特許出願60/661,646(2005年3月14日出願)(前記文献は参照により本明細書に含まれる)で見出すことができる。
【0023】
C.ヒト生殖細胞系列のゲノム不安定性の検出
サンプルの入手:臨床的に選別した男性又は妊性男性のサンプルを標準的方法を用いて収集した。妊性群への振り分けはWHO規準又はクルーガーの厳密規準にしたがって実施した。臨床的に選別した参加者について、治療諮問センターによって管理される標準化質問表を用いてプロファイリングを実施した。精巣の表現型は、臨床的に精巣機能を診断するために用いられる標準的測定パラメーター、すなわち精子数、形態、運動性、精巣体積、及び生殖ホルモン(FSH、LH及びテストステロン)を用いて決定した。さらにまた、精巣の病理組織学は、無精子症又は高度乏精子症の個体について決定した。これらの規準にしたがって、不妊性個体を以下を含む5つの不妊性群の1つに分類し(非閉塞性無精子症の個体(群1a及び1b)、高度乏精子症の個体(群2)、中等度乏精子症の個体(群3)、軽度乏精子症の固体(群4)及び正常精子の個体(群5))、さらに妊性参加者を以下を含む2つの妊性群の1つに分類した(正常な妊性を示す正常精子の個体(妊性対照群1)及び閉塞性無精子症(妊性対照群2))。これら個体群の特徴は表7にまとめられている。この実験への参加の前に、各個体の核型を調べ、YqAZFのミクロ欠損について検査した。
閉塞性無精子症(対照群2)の妊性男性、及び無精子症又は高度乏精子症を示す不妊性男性(不妊性群1a及び1b並びに2)については、診断生検の残りの凍結又はパラフィン包埋精巣組織を、その後のPCR、及び蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による生殖細胞系列異数性決定のために用いた。いくつか事例では、診断目的及びICSIのために用いられた精巣上体又は精管の穿刺針吸引物の残りの生殖細胞をこの実験で使用するために保管した。
単一精子PEP産物由来のマイクロサテライトマーカーのPCR増幅:蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)による精子細胞又は対照リンパ球のフローソーティングによって単一細胞を得た。DNAは、前記ソーティング細胞のアルカリ溶解及び前記に続く中和によって得た。単一細胞のDNAの全ゲノム増幅は、プライマー伸長予備増幅(primer-extension pre-amplification(PEP))を用いて実施した。PEP DNAのマイクロサテライト遺伝子座をPCR増幅によって増幅し、前記増幅産物をABI PRISM(商標)310又は3100ジネティックアナライザー(Applied Biosystems)でキャピラリー電気泳動によって分離した。
マイクロサテライトマーカーの小プールPCR(SP-PCR)増幅:いくつかの実験については、DNAは全精液サンプルから精製し、一コピー数又は低コピー数に希釈し、続いてSP-PCRを実施した。SP-PCRのためのゲノムDNAは、組織及び毛髪抽出キット(カタログ番号DC6740, Promega Corp.)を用いてDNA IQ(商標)システム(カタログ番号DC6701及びDC6700, Promega Corp.)により50μLの精液から抽出し、さらにピコグリーン(PicoGreen)dsDNA定量キット(Molecular Probes, Eugene Oregon)を製造元のプロトコルにしたがって用いて定量した。精液ドナーに一致する血液サンプルをDNA-IQ(商標)システム(カタログ番号DC6701及びDC6700, Promega Corp.)を用いて精製した(前記システムは同時にDNAを定量し1ng/μLで100ngが得られた)。対応する精子及び血液サンプルのDNAを各PCR反応につき1〜10ゲノム等価物(6〜60pg)に希釈し、以下に記載するように蛍光標識プライマーのマルチプレックスセットを用いて増幅させた。
ゲノム等価物の凡その数は、10pg/μLのDNA希釈を合計10PCR反応で量を増加させながら(0.1〜1μL)増幅させ、続いてあるマーカーについて陽性及び陰性反応数をポアソン解析を実施することによって概算した。各変異解析のために、少なくとも1枚の96ウェルプレートを各遺伝子座(又はマルチプレックス)につき使用し、各PCRは10ゲノム等価物(60pg)のDNAを含んでいた。
【0024】
精巣組織由来のマイクロサテライトマーカーの大プール又は小プールPCR増幅:DNAは、臨床的に選別された非閉塞性無精子症又は閉塞性無精子症(対照)の男性のマイクロサージェリーによる精巣上体の精子吸引物又は切開精巣生検の残りの組織から、組織及び毛髪抽出キット(カタログ番号DC6740, Promega Corp. Madison, WI)によるDNA IQ(商標)システムを用い、大プール又は小プールPCR増幅を使用するその後のMSI分析のために製造元の指示にしたがって精製した。
PCR増幅及び解析:ジーンプリントパワープレックス(GenePrint PowerPlex(商標))16システム及びMSIアナリシスシステムの操作マニュアル(Promega Corp., Madison, WI)に記載された標準的プロトコルにしたがって、血液サンプル由来のDNAを、各PCR反応に付き1ngのDNAを用いて増幅した。単一精子分析のために、血液サンプルで用いたプロトコルと同じプロトコルにしたがい、少なくとも96サンプルから得たPEP DNAの1ngをマルチプレックスPCRによって増幅した。SP-PCR反応のためのDNAを6〜60pg/反応に希釈し、少なくとも30の別個のアリコット(小プール)を、分析しようとする各マイクロサテライトマルチプレックスについて35〜40サイクルを用いて増幅した。マイクロサテライトマーカーのためのプライマーは、リサーチジネティクスCHLC/ウェーバーヒトスクリーニングセット、ヴァージョン9.0(Research Genetics, Huntsville, AL)から得るか、又はオリゴプライマーアナリシスソフトウェア、ヴァージョン6.86(National Biosciences, Plymouth, MN)を用いて設計した。全てのPCRはABIジーンアンプ(ABI GeneAMP(商標))PCRシステム9660又は9700サーマルサイクラーで実施した。
増幅産物をABI PRISM(商標)310又は3100ジネティックアナライザーでキャピラリー電気泳動によって分離し、ILS-600TM 60-600bp(Promega Corp., Madison, WI)又はジーンスキャン(GeneScan)TM-2500 55-5117bp(Applied Biosystems, Foster City, CA)を内部レーン標準物として用いて対立遺伝子のサイズを決定した。対応する体細胞のDNAに存在しない新規な対立遺伝子の出現を変異として記録した。生殖細胞系列特異的マイクロサテライト不安定性は、同じ個体の正常な体細胞には存在しない精子DNAの新規な対立遺伝子を特定することによって決定した。対立遺伝子のサイズを決定することによって各サンプルの核型を決定し、種々の複製から得たデータをプールして、各遺伝子座について対立遺伝子の数および頻度を決定した。
マイクロサテライト不安定性の分類は、マイクロサテライト不安定性に関する国際ワークショップによって提唱されたガイドラインにしたがった。すなわち、パネルで6つ以上のマーカーが用いられた場合、30%以上の遺伝子座が変化した腫瘍サンプルは高MSI(MSI-H)に分類し、30%未満の遺伝子座が変化したサンプルは低MSI(MSI-L)に分類し、変化がないサンプルはマイクロサテライト安定(MSS)に分類した。MSI-H及びMSI安定の腫瘍サンプルにおけるMMRタンパク質発現を免疫組織化学検査によって評価した。
【0025】
無精子症又は部分的減数分裂停止を示す高度乏精子症男性のサンプルにおけるミクロサテライト又は伸長モノヌクレオチドリピートの不安定性の測定: 4人の妊性男性の精子由来DNAのマイクロサテライト不安定性と比べて、25人の不妊性男性(無精子症男性及び乏精子症男性を含む)から得た、プールされた精子細胞由来DNA及び/又は精巣生検由来のDNAにおけるマイクロサテライト不安定性の程度を決定するために、予備実験を実施した。DNAは蛍光標識プライマーセットを用いてマルチプレックス反応でPCR(35サイクル)によって増幅し、ABI 3100装置でキャピラリー電気泳動によって分析した。10%未満の細胞に存在する新規な対立遺伝子を検出するために、増幅の前に精子DNAをほぼ1〜10ゲノム等価物に希釈することによって小プールPCRを実施した。
以下を含む多数の異なるマイクロサテライトマーカーパネルを用いてマルチプレックスPCR反応の産物を解析することによって、プールした精子サンプルのMSIを決定した:
(1)MSIマルチプレックス-1、ミスマッチ修復欠損腫瘍でMSIを検出するために最適化したマーカーセット、前記は以下を含む:4つのモノヌクレオチドリピート(BAT-25、BAT-26、MONO-27及びBAT-40)及び5つのテトラヌクレオチドリピート(D3S2432、D7S3070、D7S3046、D7S1808及びD10S1426);
(2)MSIマルチプレックス-2(MSIアナリシスシステム、ヴァージョン1.1、カタログ番号MD1641及び1650、Promaga Corp., Madison, WI)、MMR欠損腫瘍の検出のために最適化したまた別のマーカーセット、前記は以下を含む:5つのモノヌクレオチドリピート(BAT-25、BAT-26、NR-21、NR-24、MONO-27)及び2つのペンタヌクレオチドリピートマーカー(ペンタC及びペンタD);
(3)パワープレックス(PowerPlex(商標))16システム(カタログ番号DC6531及びDC6530、Promega Corp., Madison, WI)、DNAタイピング用途での使用のために低変異率及びスタッター率(stutter rates)を有するマーカーを含むマルチプレックスセット、前記は以下を含む:13のテトラヌクレオチドリピート(D18S51、D21S11、THO1、D3S1358、FGA、D8S1179、CSF1PO、D16S539、D7S820、D13S317及びD5S818)、2つのペンタヌクレオチドリピート(ペンタD及びペンタE)及び性決定遺伝子座アメロゲニン;及び
(4)パワープレックス(PowerPlex(商標))システム(カタログ番号DC6761及びDC6760、Promega Corp., Madison, WI)、Y染色体の12のトリ-、テトラ-及びペンタヌクレオチドリピートのマルチプレックス(DYS391、DYS389I、DYS439、DYS389II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390及びDYS385a及びDYS385b)。
マイクロサテライト遺伝子座における不安定性の評価の他に、選択した、以下を含む伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座も不安定性について評価した:hBAT-51d、hBAT-53c、hBAT-60A、hBAT-62、hBAT-52A、hBAT-59A、hBAT-56a及びhBAT-56b。表3は、利用可能な配列情報の検索で特定された伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座の各々を列挙している。
【0026】
【表3−1】

【0027】
【表3−2】

【0028】
【表3−3】

【0029】
各遺伝子座について増幅産物の数およびサイズを決定することによって、電気泳動図を評価した。1つの遺伝子座に3つ以上の対立遺伝子が存在するときMSI(+)として記録した。
大プールPCR実験の結果は表現型とともに表4に提供され、予備実験に含まれた対象者についての詳細がまとめられている。不妊性男性由来の25の被検サンプルのうち、2つ(I-14及びI-30と称される)は、比較的高レベルのMSI(それぞれ29%及び47%)を示した。前記は、ミスマッチ修復で欠損を有する腫瘍組織で観察されるMSIに匹敵する。妊性男性に由来するサンプルのいずれも不安定性を示さなかった。
【0030】
【表4】

【0031】
MSI決定のためのNCIガイドラインは、MMR機能不全の診断を下すためにはマーカーの30%を超える変化を要求している。典型的には、結直腸腫瘍(前記はMSH2又はMLH1ミスマッチ修復タンパク質の発現を欠く)では、不安定性は、MSIマルチプレックスマーカーの70%以上で観察される。しかしながら、MMR欠損腫瘍では、高率のMSIはおそらく、リピートユニットの数におけるより大きな変化と合わせて、リピート遺伝子座における多くの変化の蓄積を可能にする腫瘍のクローン性進化によるものであろう。生殖細胞系列のゲノム不安定性が、MMR欠損体細胞腫瘍におけるMSIと類似するか否かを決定するためにNCIガイドラインを用いた。最初の実験で生殖細胞系列のGIにとってあまりにも厳しすぎる選別プロセスの利用を回避するために、生殖細胞系列サンプル全体で対立遺伝子の20%〜30%で変化を示すマイクロサテライトマーカーを、他のより感度の高い遺伝子座との比較のために遺伝子座パネルに残した。
多数の細胞を含むサンプル(すなわちプールしたDNA)の使用は、新規な対立遺伝子が全集団の10%未満で生じるときには隠されてしまうために新規な対立遺伝子が検出されないという欠点を有する。精子サンプルで、及び対照として低頻度のMSIを正確に検出するために、2つの方法を用いて単一細胞又は少数細胞の評価を可能にした。単一細胞分析のために精子をフローソーティングに付し、さらにNCIパネルマーカーD2S123、D5S346、D17S250及びMYCL1に関して増幅させた。さらにまた、フローソーティングを実施した精子のMSIをY染色体遺伝子座を用いて評価し、モノヌクレオチド及びジヌクレオチドリピートを選択した。リンパ球由来のDNAを対照としてマルチプレックス反応で増幅した。単一細胞の精子細胞について得られた結果を、対照の体細胞(リンパ球)について得られた結果と比較することによって、MSIの結果として生じる非構成的対立遺伝子を特定することができる。新規な対立遺伝子は、D5S346については28%の全体的頻度で生じ、D17S250については29%、D2S123については32%、MYCL1については39%の全体的頻度で生じた。これは、プールした全精子サンプル分析で観察されるものよりも顕著に高い頻度であった。
小プールPCRもまた、マルチプレックス-1、MSIマルチプレックス-2、及びパワープレックス(商標)Yマーカーを用い、不妊性男性由来サンプルでMSIの検出に用いられた(表5)。各サンプルについて、プールした精子DNAサンプルを1〜10ゲノム等価物に希釈し、続いてマルチプレックスPCRで増幅した。DNAフラグメントの1-bpの解像を提供する配列決定ポリマーを用い、キャピラリー電気泳動によってSP-PCR産物を解析した。SP-PCRデータは、不妊性サンプルの1つを除き全てで少なくとも1つの遺伝子座でMSIを示した(表5)。これら個体の対応する血液サンプルではMSIは全く観察されなかった。同様に、検査した妊性生殖細胞系列及び体細胞サンプルのいずれもMSIを示さず、不妊性サンプルで観察された変異はPCRの人工産物によるものではないことを示唆している。単一精子もSP-PCRも、標準的な大プールPCRでは通常は検出することができない隠れた変異及びMSIの存在を明らかにした。
【0032】
【表5】

【0033】
反復DNA配列が不妊性男性の精子細胞又は精巣で優先的に不安定であるか否か、さらに不安定性に対する個々の遺伝子座の感受性がそのDNA配列及びその染色体上の位置にしたがって変動するか否かをさらに評価するために、常染色体及びY染色体全体に分布する25遺伝子座を5つのマルチプレックス反応で合体させ、不妊性男性の2つの集団を評価した(すなわち、前記集団は精子形成停止を規準に選択された30人の男性、及び少なくとも1つの遺伝子座で生殖細胞系列MSIを有することを規準に選択された22人の男性である)。内部増幅対照として、STRマルチプレックスの2つを3つの遺伝子座の意図的な重複と一緒に構築した。このアプローチは反応を効率化し、アッセイの感度を改善した。遺伝子の分布及び変異率は図2に示されている。白色棒線は、精子形成停止を規準に臨床的に選択した男性の各遺伝子座のMSI頻度を示し、黒色の棒線は、少なくとも1つの遺伝子座で生殖細胞系列不安定性を有することを規準に選択された男性の各遺伝子座のMSI頻度を示す。
少なくとも1つの遺伝子座で生殖細胞系列不安定性を有する22人の不妊性男性由来の精子又は精巣生検標本及び血液のDNAから、マイクロサテライト遺伝子座を大プール反応及び/又は小プール反応で増幅し、各データ遺伝子座につき最小限16〜80の複製物を得た。各遺伝子座当りの生殖細胞系列及び体細胞の各プールの平均複製物は45であった。同様な数の血液サンプルの複製増幅物を各精子サンプルの対照として調べた。対照として、6人の妊性精子ドナー由来の精子サンプル及び血液サンプルのDNAを増幅した。不妊性及び妊性男性由来の体細胞では変異は全く観察されず、さらに妊性男性の精子でも変異は見出されなかった。不妊性男性の遺伝子座における変異率は図3にまとめられている。実線は、8つの遺伝子座のMSI率を示し、図2にまとめた結果と一致する最大の感度を示し(8つの遺伝子座は、すなわちDYS438、DYS389-II、DYS390、BAT-40、DYS439、DYS392、DYS385b及びMONO-27である)、点線は19遺伝子座セットのMSI率を示す(19遺伝子座は、すなわちDYS438、DYS389-II、DYS390、BAT-40、DYS439、DYS392、DYS385b、MONO-27、DYS19、DYS389-I、NR-24、DYS385a、DYS393、PENTA D、BAT-25、D7S3070、D7S1808、DYS437及びBAT-26である)。
【0034】
D.MMR欠損腫瘍におけるY染色体マイクロサテライト遺伝子座の感度の評価
12の選別Y染色体マイクロサテライトの安定性を、4つのMMR欠損結腸癌腫瘍及び15のMMR非欠損結腸癌腫瘍で大プールPCR実験で評価した。各腫瘍のMMRの状態はMMRに付随するタンパク質の免疫組織化学によって確認した。データは表6にまとめられている。被検Y染色体マーカーの1つを除いて全てが、ある程度のレベルの不安定性を1つ以上のMMR欠損腫瘍で示し、DNAミスマッチ修復の非存在下における変化に対するこれらのマーカーの感受性を示した。対照的に、Y-STRマーカーは、ミスマッチ修復非欠損腫瘍でほぼ安定である。このことは、これらのマーカーはミスマッチ修復欠損細胞で変異に対して感受性であることを示し、不妊性男性の精子サンプルにおけるこれらマーカーの高い不安定性レベルはミスマッチ修復の低下と関係があることを示唆している。
【0035】
【表6】

【0036】
E.精巣ミューテーター表現型の検出
いくつかのMMRタンパク質は減数分裂において、さらに体細胞ではDNA修復において機能するので、MSI及び染色体不安定性の両方が生殖細胞系列特異的ミューテーター表現型の特質であり得る。このことは腫瘍とは対照的であり、腫瘍はMSI又は染色体不安定性を示すが両方を示すことはない。終了点は、ゲノム全体から選択されたSTR遺伝子座(上記に定義)における変化及びFISHによる生殖細胞系列異数性の測定を含んでいた。
不妊性男性の生殖細胞系列特異的不安定性の検出:予備的実験では、上記に記載した生殖細胞系列GI感受性マイクロサテライト遺伝子座を用いて、不妊性男性(n=38)及び妊性(n=11)男性の拡大集団の生殖細胞系列及び体細胞の不安定性を、単一細胞PCRと平行して、フローソーティング実施細胞で小プールPCRを実施することによって測定した。前記不妊性集団を5群に分割し、妊性集団を2群に分割した(表7)。妊性集団では年齢は26歳〜59歳の範囲であり、不妊性集団では22歳〜71歳の範囲である。この実験に含まれる個体は広範囲の民族群に属し、コロンビア、パナマ、ニューヨーク及びウィスコンシンの不妊センターからもたらされた。小プール実験については、生殖細胞系列のために、及び体細胞のために80までの小プール複製物で40までのマーカーを用いた。DNAは各男性の生殖細胞系列及び体細胞からDNA IQ(Promega Corp., Madison, WI)を用いて精製した。成熟又は未成熟生殖細胞系列を含むサンプルのために、Tomahは均質な溶解のための洗剤としてピコグリーン(PicoGreen)を用いた。濃度は、ピコグリーンdsDNA定量キット(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて決定した。DNAを1〜2分子に希釈し、96ウェルプレートで16の陰性(ブランク)対照を用いて増幅し、増幅産物を分離し、アプライドバイオシステム(Applied Biosystems)3100ジネティックアナライザーを用いてキャピラリー電気泳動で検出した。全ての前増幅工程は無菌的層流フードで実施し、PCRの汚染を回避した。データはABジーンスキャン(AB GeneScan)及びジェノタイパー(Genotyper)ソフトウェアアナリシスパッケージを用いて解析し、マイクロサテライト変異の存在を特定した。新規な対立遺伝子及びMSIを引き起こす変異の計算には保存的アプローチを利用した。PCR人工産物、色素の緩衝又はスタッターを示すシグナルは記録されなかった。全ての対象者における生殖細胞系列ゲノム不安定性は、MMR欠損腫瘍におけるMSI診断のためにNCIによって採用されたプロトコルにしたがって記録した。データは表8にまとめられている。図4はMSI率(白棒)及び精子細胞濃度(黒棒)の分布を表し、高いMSI率の値が低精子濃度と一致することを示している。MSIと精子数との間の負の相関関係は有意である(p<0.05)。さらにまた、MSI率は、年齢及び異常な精子頭部形態の増加と相関し、さらに運動性と負の相関性を示す。
【0037】
【表7】

【0038】
【表8】

【0039】
臨床的に選別した不妊性男性では、4人(すなわちMS-24、I-20(不妊性群4)、JDP-22(不妊性群3)及びDL-010(不妊性群2))がMSI-H(MSIは30%以上)であった。興味深いことには、DL-010は、10年以上前に重篤なオリゴアステノ奇形精子症と診断され、2人の兄弟も同様な精巣表現型を有している。前記患者のただ1人の子供の受精は3年前にICSIによって促進され、そのとき数回の射精液及び穿刺針吸引物が収集され保存された。2004年に、DL-010はセミノーマを示し、治療が開始されている。DL-010の生殖細胞系列不安定性は、2001年に採集されたサンプルの43%の初期値から2004年に採集されたサンプルの71%へ増加した。体細胞の変異は、検査した男性のいずれにおいても検出されなかった。
NCIは中等度のMSI区分を示していないが、生殖細胞系列のGIが20〜29%である本実験の個体を中等度MSI(MSI-I)と称した。MSI-I群には11人の男性が含まれ、前記には群1aから1人、群1bから1人、群2から1人、群3から2人、群4から3人及び群5から3人が含まれる。群5のI-14の生殖細胞系列MSIは、初期実験の大プール及び小プール実験で検出された。気がかりなことは、この男性のもっとも初期の大プール実験での比較的高い不安定性であった。MSI-I群の2人の男性は、最近の数年間でICSI受精を達成したが、それ以来セミノーマと診断された。
不妊性群2〜5に分布する7人の男性は低MSI(MSI-L)に分類され、検査した遺伝子座の5%〜19%に生殖細胞系列の変異が存在する。調査した残りの不妊性男性は、不妊性男性及び妊性男性(MSIは0%)の両者の体細胞と同等の安定性を彼らの生殖細胞系列で示した。今日までに調査した妊性男性の生殖細胞系列は同様に安定であった。図5は、妊性群と比較した、5つの不妊性群の不妊性男性の精子及び精巣サンプルにおけるGIの分布のまとめである。
BAT53c、及びX又はY染色体のどちらかに存在する他のBAT、及び少なくとも38のAを有するか、又はROS感受性マーカーを有するBATもまた、セミノーマを発症するリスクがある不妊性男性の生殖細胞系列で不安定であることが判明するであろうと予想される。
【0040】
精子形成停止を示す、年齢階層化男性のFISHによる異数性の測定:染色体不安定性を評価するために、上記に記載したMSI実験と平行して、妊性群及び不妊性群の両方の選別個体について生殖細胞系列異数性をFISHによって決定した。今日までに、不妊性群1〜5の21人の男性及び妊性対照群1の1人の男性を評価した。吸引又は射精精子サンプルを必要に応じて融解し洗浄し、McInnesら(Hum Reprod 1998, 13:2787-2790)が記載した方法にしたがってスライドを調製した(前記文献は参照により本明細書に含まれる)。精子の核を脱凝縮させ(decondense)、洗浄し風乾した。染色体X、Y、18及び21に対する蛍光標識動原体プローブを、直接標識プローブのための推奨プロトコルにしたがって精子と一晩ハイブリダイズさせた(Vysis, Inc., Downers Grove, II)。ハイブリダイゼーション後洗浄の後で、スライドをDAPIで対比染色した。4つの染色体のうち少なくとも2つとハイブリダイズした精子のみを記録して、技術的失敗及び人工産物を回避した。精子を一倍体、ヌリソミー又は二染色体として記録した。この実験の結果は、染色体不安定性又はMSIに関連するGI又は生殖細胞系列のGI、おそらくはその両者間を識別するパラメーターの明確化で重要である。
ゲノム不安定性及びY染色体:機能的な遺伝子にフランキングする反復モチーフはゲノム全体を通して生じ、多様な疾患に関係する異常な組換え事象に関わる。Y染色体内組換え事象が機能的な重要性をもつ遺伝子を含む領域(例えばRBM及びDAZ)内で生じるならば、前記事象の結果は、全領域を含む欠失及びその後に続く精子形成及び受精能の低下であり得る。無精子症及び高度乏精子症の男性のパリンドロームに富むYqのAFZ領域における大きな欠失の頻度が比較的高いために、この実験に加える前に全てのサンプルについてYqの完全性を評価した。もっとも感受性の高いSTRのいくつかは、Yq、すなわち動原体の直ぐ下、AZFの微小欠失に最も一般的に含まれる領域の基部に連結されている。不妊性群1〜5の52人の男性のうち5人がDAZ遺伝子クラスター(AZFc)を除去する欠失を有し、一方、正常な精子形成を示す、妊性対照群1及び2の同様にスクリーニングした12人の男性ではYq欠失は検出されなかった。前記52人の不妊性男性の各々はまた、末梢血液リンパ球では正常な46、XYの核型が委託検査室によって示された。
精子クロマチン構造アッセイ及び生殖細胞系列特異的STR不安定性によって測定される鎖の断裂:28人の不妊性男性のクロマチン断裂を精子クロマチン構造アッセイ(SCSA)によって評価した。異常なSCSAはDNA鎖断裂の指標であり、高い生殖細胞系列異数性、受精の不成功及び流産の増加を伴う。データは全クロマチン断裂又はフラグメント化に対する百分率として表8にまとめられている。さらにまた、図6では、DFI(DNAフラグメント化インデックス)率の分布(白棒)が精子数(黒棒)に対して示されている。一般的に、MSIが上昇した個体は、SCSAによって測定したときもっともフラグメント化されたクロマチンを有する。残念ながら、精子数が約200万未満の男性ではSCSAを実施することはできない。これらの実験は、ピアソン相関係数を用いて、不妊性群4(p=0.03)においてのみ、フラグメント化精子クロマチン率の上昇、精子におけるGIのマーカー、及びMSI率の上昇間に正の相関関係があることを提唱している。調べた全ての不妊性群全体で、フラグメント化精子クロマチン率の上昇及び精子数又精子運動性(それぞれp=0.03及びp=0.004)の間に負の相関関係が存在していた。
【0041】
F.多能性細胞又は幹細胞におけるゲノム不安定性の検出
培養幹細胞又は多能性細胞は、培養で連続的に継代されている間に変異を蓄積することができる。変異の存在及び変異率は、疾患の治療又は緩和に有用であるこれらの細胞について評価する必要がある。本発明を用いて、培養中の変異の蓄積をマイクロサテライト不安定性を測定することによって評価することができる。
幹細胞又は多能性細胞を培養した後、又はこれらの細胞が培養中に分化した時、及びこれらの細胞の分析若しくは使用前に、マイクロサテライト安定性が評価される。DNAは、分化幹細胞若しくは多能性細胞又は培養幹細胞若しくは多能性細胞から標準的技術によって単離されるであろう。前記DNAは、以前に記載したように標準的なPCRプロトコルにしたがって増幅されるであろう。前記マイクロサテライトは以前の実施例に記載したプライマーセットを用いて増幅することができる。また別には、任意のマイクロサテライト遺伝子座に対するPCRプライマーは、利用可能な配列情報及びオリゴヌクレオチドプライマー設計用ソフトウェア(例えばオリゴヌクレオチドプライマーアナリシスソフトウェア、ヴァージョン6.86(National Biosciences, Plymouth, MN))を用いて設計してもよい。
増幅産物は、ABI PRISM(商標)310又は3100ジネティックアナライザーでキャピラリー電気泳動によって分離され、さらに対立遺伝子は、ILS-600TM 60-600bp(Promega)又はGenScanTM-2500 55-5117bp(Applied Biosystems)を内部レーン標準物として用いサイズによって分けられるであろう。前記増幅産物の予想されるサイズは、培養幹細胞若しくは多能性細胞から得た増幅産物を対応する対照DNAから得た増幅産物と比較することによって決定されるであろう。前記対照DNAは、in vitro継代を繰り返す前、又はin vitro分化前、又は培養肝細胞若しくは多能性細胞の治療前のより初期の又は最初のサンプルから得ることができる。前記増幅産物の予想サイズはまた、特定のマイクロサテライト遺伝子座が一形態性又は準一形態性である場合は、家系分析又は集団との比較によって決定することができる。
対照DNAサンプルに存在しないか、又は増幅産物の予想されるサイズと類似しない新規な対立遺伝子の出現は、変異として記録される。マイクロサテライト不安定性は、培養幹細胞又は多能性細胞DNAで予想されない新規な対立遺伝子を同定することによって決定されるであろう。
本発明の方法で使用に適する遺伝子座のリストは表9に提供される。各遺伝子座は、個々に又は他の遺伝子座と組み合わせて変異について評価することができる。本発明の方法を実施するために、表9に列挙した遺伝子座から個々の遺伝子座又は2〜81の遺伝子座のグループを適宜選択して増幅し、さらに本発明にしたがって変異について評価することができる。本発明の方法は開示した遺伝子座に限定されず、任意の他の伸長モノヌクレオチドリピート又はY染色体の短いタンデムリピート遺伝子座を用いて実施することができる。
【0042】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】照射細胞における、Y-STR遺伝子座及び伸長ポリA域をもつモノヌクレオチドリピートの平均変異頻度の比較である。
【図2】不妊性男性及び比較的高いマイクロサテライト不安定性を示す群内の亜集団における精子のそれぞれの被検遺伝子座についてのゲノム不安定性の頻度を示す。
【図3】不妊性男性における2つの異なる遺伝子座パネルについてのゲノム不安定性の百分率の比較である。
【図4】被検不妊性男性における、ゲノム不安定性率(白色棒線)及び精子濃度(百万/mL、黒色棒線)の分布を示す。
【図5】群1〜5の不妊性男性及び妊性対照群の男性における、高MSI、中等度MSI、低MSI又は安定MSIに分類される個体の分布を示す棒グラフである。
【図6】群2〜5の不妊性男性に由来するサンプルのDNAフラグメント化インデックス率及び精子細胞濃度(百万/mL)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生殖細胞のゲノム不安定性を検出する方法であって、
(a)少なくとも1つの生殖細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、並びに、AAAAG、AAAAC及びAAAATから成る群から選択される反復ユニットを有するAに富む短いタンデムリピートから成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅産物のサイズを増幅産物の予想されるサイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想されるサイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標である;
を含む前記方法。
【請求項2】
生殖細胞が精子細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
精子細胞が射精液から得られる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
精子細胞が精巣上体又は精巣の吸引物から得られる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の前に、単一の細胞に由来するDNAを全ゲノム増幅によって増幅する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
DNAが小プールポリメラーゼ連鎖反応によって増幅される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
DNAが2つ以上の生殖細胞から単離される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
各遺伝子座につき2つ以上の増幅産物がゲノム不安定性の指標となる、請求項5記載の方法。
【請求項9】
各遺伝子座につき3つ以上の増幅産物の生成がゲノム不安定性の指標となる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座を含み、MONO-27、NR-24、BAT-25、BAT-26、D7S3070及びD7S1808から成る群の少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、モノヌクレオチドリピート遺伝子座、ジヌクレオチドリピート遺伝子座、トリヌクレオチドリピート遺伝子座、テトラヌクレオチドリピート遺伝子座、及びペンタヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、及びDYS385bから成る群から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、さらにBAT-40、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、BAT-26、D7S3070、及びD7S1808の少なくとも1つを含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、BAT-40、及びMONO-27を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、表3に記載の伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT51d、BAT53b、BAT53c、及びBAT57から成る群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT49b、BAT50a、BAT50b、BAT51b、BAT51c、BAT51e、BAT51f、BAT52a、BAT52b、BAT54、BAT55、BAT56a、BAT56b、及びBAT68bから成る群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
ゲノム不安定性が不妊性の指標である、請求項1記載の方法。
【請求項21】
増幅産物の予想されるサイズが以下の工程を含む方法によって評価される、請求項1記載の方法:
(e)少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(f)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて第二の増幅産物を形成する工程;及び
(g)前記第二の増幅産物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅産物のサイズは工程(d)の増幅産物の予想されるサイズである。
【請求項22】
第一及び第二の増幅産物のサイズ間の相違が生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の指標である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ゲノム不安定性を検出することによって不妊性を評価する方法であって、
(a)少なくとも1つの生殖細胞又は精巣細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも38のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、並びに、AAAAG、AAAAC及びAAAATから成る群から選択される反復ユニットを有するAに富む短いタンデムリピートから成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーに、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅産物のサイズを増幅産物の予想されるサイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想されるサイズとの間の相違は、不妊性の指標であるゲノム不安定性の指標である;
を含む前記方法。
【請求項24】
増幅産物の予想されるサイズが以下の工程を含む方法によって評価される、請求項23記載の方法:
(e)少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(f)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて、第二の増幅産物を形成する工程;
(g)前記第二の増幅産物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅産物のサイズは工程(d)の増幅産物の予想されるサイズである。
【請求項25】
第一及び第二の増幅産物のサイズ間の相違が生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の指標である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
生殖細胞が精子細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項27】
精子細胞が射精液から得られる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
精子細胞が精巣上体又は精巣の吸引物から得られる、請求項26記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項23記載の方法。
【請求項30】
少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、及びDYS385bから成る群から選択される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、さらにBAT-40、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、BAT-26、D7S3070、及びD7S1808の少なくとも1つを含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT51d、BAT53b、BAT53c、及びBAT57から成る群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項33】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT49b、BAT50a、BAT50b、BAT51b、BAT51c、BAT51e、BAT51f、BAT52a、BAT52b、BAT54、BAT55、BAT56a、BAT56b、及びBAT68bから成る群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項34】
個体の精巣癌のリスクを評価する方法であって、
(a)対象者の少なくとも1つの生殖細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーに、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて、第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(d)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて第二の増幅産物を形成する工程;
(e)前記第一及び第二の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(f)前記第二の増幅産物のサイズを前記第一の増幅産物のサイズと比較する工程、ここで前記第一及び第二の増幅産物のサイズ間の相違は、精巣癌のリスクの増加の指標である生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の指標である;
を含む前記方法。
【請求項35】
生殖細胞が射精された精子細胞である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
生殖細胞が、精巣上体又は精巣の吸引物から得られる精子細胞である、請求項34記載の方法。
【請求項37】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、BAT-40、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、BAT-26、D7S3070、及びD7S1808から成る群から選択される、請求項34記載の方法。
【請求項38】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、モノヌクレオチドリピート遺伝子座、ジヌクレオチドリピート遺伝子座、トリヌクレオチドリピート遺伝子座、テトラヌクレオチドリピート遺伝子座、及びペンタヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項34記載の方法。
【請求項39】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項34記載の方法。
【請求項40】
個体のゲノム不安定性を検出する方法であって、
(a)少なくとも1つの精巣細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座は、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、D7S3070及びD7S1808から成る群から選択され;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーに、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて、第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅産物のサイズを増幅産物の予想されるサイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想されるサイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標である;
を含む前記方法。
【請求項41】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、モノヌクレオチドリピート遺伝子座、ジヌクレオチドリピート遺伝子座、トリヌクレオチドリピート遺伝子座、テトラヌクレオチドリピート遺伝子座、及びペンタヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択されるY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項40記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、及びDYS385bから成る群から選択される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、及びDYS385bを含む、請求項42記載の方法。
【請求項45】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、さらにBAT-40、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、BAT-26、D7S3070、及びD7S1808の少なくとも1つを含む、請求項42記載の方法。
【請求項46】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、さらにBAT-40及びMONO-27を含む、請求項44記載の方法。
【請求項47】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、表3に記載の伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される、請求項40記載の方法。
【請求項48】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT51d、BAT53b、BAT53c、及びBAT57から成る群から選択される、請求項40記載の方法。
【請求項49】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT49b、BAT50a、BAT50b、BAT51b、BAT51c、BAT51e、BAT51f、BAT52a、BAT52b、BAT54、BAT55、BAT56a、BAT56b、及びBAT68bから成る群から選択される、請求項40記載の方法。
【請求項50】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437を含む、請求項40記載の方法。
【請求項51】
生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性が不妊性の指標である、請求項40記載の方法。
【請求項52】
増幅産物の予想されるサイズが以下の工程を含む方法によって評価される、請求項40記載の方法:
(e)少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(f)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて第二の増幅産物を形成する工程;
(g)前記第二の増幅産物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅産物のサイズは工程(d)の増幅産物の予想されるサイズである。
【請求項53】
個体について精巣癌のリスクを評価する方法であって、
(a)対象者の少なくとも1つの精巣細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座は、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、D7S3070及びD7S1808から成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーに、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅産物のサイズを増幅産物の予想されるサイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと第一の増幅産物の予想されるサイズとの間の相違は、生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性の指標であり、ここで前記生殖細胞系列特異的ゲノム不安定性は精巣癌のリスク増加の指標である;
を含む前記方法。
【請求項54】
増幅産物の予想されるサイズが以下の工程を含む方法によって評価される、請求項53記載の方法:
(e)少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(f)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて、第二の増幅産物を形成する工程;
(g)前記第二の増幅産物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅産物のサイズは工程(d)の増幅産物の予想されるサイズである。
【請求項55】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、表3に記載の伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される、請求項53記載の方法。
【請求項56】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT51d、BAT53b、BAT53c、及びBAT57から成る群から選択される、請求項53記載の方法。
【請求項57】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT49b、BAT50a、BAT50b、BAT51b、BAT51c、BAT51e、BAT51f、BAT52a、BAT52b、BAT54、BAT55、BAT56a、BAT56b、及びBAT68bから成る群から選択される、請求項53記載の方法。
【請求項58】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437を含む、請求項53記載の方法。
【請求項59】
請求項1〜40のいずれか1項記載の方法にしたがってゲノム不安定性を検出するキットであって、前記マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、前記キット。
【請求項60】
キットが、少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、請求項59記載のキット。
【請求項61】
キットが、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、請求項59記載のキット。
【請求項62】
キットが、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、BAT-40、及びMONO-27を増幅するためのプライマー対を含む、請求項61記載のキット。
【請求項63】
推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍でマイクロサテライト不安定性を検出する方法であって、
(a)少なくとも1つの推定的癌若しくは前癌細胞又は腫瘍細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーに、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて、第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅産物のサイズを増幅産物の予想されるサイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと第一の増幅産物の予想されるサイズとの間の相違はマイクロサテライト不安定性の指標である;
を含む前記方法。
【請求項64】
増幅産物の予想されるサイズが以下の工程を含む方法によって評価される、請求項63記載の方法:
(e)少なくとも1つの正常細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(f)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて第二の増幅産物を形成する工程;
(g)前記第二の増幅産物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅産物のサイズは工程(d)の増幅産物の予想されるサイズである。
【請求項65】
少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される、請求項63記載の方法。
【請求項66】
培養多能性細胞又は幹細胞株のゲノム安定性をモニターする方法であって、
(a)少なくとも1つの幹細胞又は少なくとも1つの多能性細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーに、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて、第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅産物のサイズを増幅産物の予想されるサイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想されるサイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標である;
を含む前記方法。
【請求項67】
増幅産物の予想されるサイズが以下の工程を含む方法によって評価される、請求項66記載の方法:
(e)少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(f)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて、第二の増幅産物を形成する工程;
(g)前記第二の増幅産物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅産物のサイズは工程(d)の増幅産物の予想されるサイズである。
【請求項68】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、BAT-40、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、BAT-26、D7S3070、及びD7S1808から成る群から選択される、請求項66記載の方法。
【請求項69】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、モノヌクレオチドリピート遺伝子座、ジヌクレオチドリピート遺伝子座、トリヌクレオチドリピート遺伝子座、テトラヌクレオチドリピート遺伝子座、及びペンタヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含み、さらに胚性幹細胞がY染色体を含む、請求項40記載の方法。
【請求項70】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項68記載の方法。
【請求項71】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT-40、MONO-27、NR-24、PENTA D、BAT-25、BAT-26、D7S3070、及びD7S1808から成る群から選択される、請求項68記載の方法。
【請求項72】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、少なくとも1つの伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座を含む、請求項66記載の方法。
【請求項73】
少なくとも1つの伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座が、表3に記載の伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される、請求項72記載の方法。
【請求項74】
少なくとも1つの伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座が、少なくとも38のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される、請求項72記載の方法。
【請求項75】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT51d、BAT53b、BAT53c、及びBAT57から成る群から選択される、請求項66記載の方法。
【請求項76】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT49b、BAT50a、BAT50b、BAT51b、BAT51c、BAT51e、BAT51f、BAT52a、BAT52b、BAT54、BAT55、BAT56a、BAT56b、及びBAT68bから成る群から選択される、請求項66記載の方法。
【請求項77】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437を含む、請求項66記載の方法。
【請求項78】
変異原又は潜在的変異原への曝露をモニターする方法であって、
(a)少なくとも1つの生殖細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座は、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも41のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、PENTA C及びD7S3070から成る群から選択され;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーに、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて、第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅産物のサイズを増幅産物の予想されるサイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと増幅産物の予想されるサイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標であり、ここでゲノム不安定性は変異原又は潜在的変異原への曝露の指標である;
を含む前記方法。
【請求項79】
増幅産物の予想されるサイズが以下の工程を含む方法によって評価される、請求項78記載の方法:
(e)少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(f)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて第二の増幅産物を形成する工程;
(g)前記第二の増幅産物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅産物のサイズは工程(d)の増幅産物の予想されるサイズである。
【請求項80】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、モノヌクレオチドリピート遺伝子座、ジヌクレオチドリピート遺伝子座、トリヌクレオチドリピート遺伝子座、テトラヌクレオチドリピート遺伝子座、及びペンタヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項78記載の方法。
【請求項81】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項78記載の方法。
【請求項82】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、表3に記載の伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される、請求項78記載の方法。
【請求項83】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT51d、BAT53b、BAT53c、及びBAT57から成る群から選択される、請求項78記載の方法。
【請求項84】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT49b、BAT50a、BAT50b、BAT51b、BAT51c、BAT51e、BAT51f、BAT52a、BAT52b、BAT54、BAT55、BAT56a、BAT56b、及びBAT68bから成る群から選択される、請求項78記載の方法。
【請求項85】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437を含む、請求項78記載の方法。
【請求項86】
生殖細胞及び対照細胞が生物又は培養細胞から異なる時期に得られる、請求項78記載の方法。
【請求項87】
生殖細胞が変異原に曝露された生物又は培養細胞から得られ、対照細胞が変異原に曝露されていない生物又は培養細胞から得られる、請求項78記載の方法。
【請求項88】
変異原が、フリーラジカル若しくは反応性酸素種、又はフリーラジカル若しくは反応性酸素種を生成する物質、又はフリーラジカル若しくは反応性酸素種を誘導する環境条件である、請求項78記載の方法。
【請求項89】
変異原又は潜在的変異原への曝露をモニターする方法であって、
(a)少なくとも1つの生殖細胞から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座は、Y染色体マイクロサテライト遺伝子座、少なくとも38のリピートを有する伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座、MONO-27、PENTA C及びD7S3070から成る群から選択され;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅産物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座にフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)工程(a)の第一のDNAサンプルを得る前に、少なくとも1つの対照細胞から第二のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第二のDNAサンプルは少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座を含み;
(d)前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で、工程(b)の第一及び第二のプライマーと前記第二のDNAサンプルを接触させて第二の増幅産物を形成する工程;
(e)前記第一及び第二の増幅産物のサイズを決定する工程;及び
(f)前記第二の増幅産物のサイズと前記第一の増幅産物のサイズとを比較する工程、ここで前記第一の増幅産物のサイズと第二の増幅産物のサイズとの間の相違はゲノム不安定性の指標であり、ここでゲノム不安定性は変異原又は潜在的変異原への曝露の指標である;
を含む前記方法。
【請求項90】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、モノヌクレオチドリピート遺伝子座、ジヌクレオチドリピート遺伝子座、トリヌクレオチドリピート遺伝子座、テトラヌクレオチドリピート遺伝子座、及びペンタヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項89記載の方法。
【請求項91】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437から成る群から選択される少なくとも1つのY染色体マイクロサテライト遺伝子座を含む、請求項89記載の方法。
【請求項92】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、表3に記載の伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座から成る群から選択される、請求項89記載の方法。
【請求項93】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT51d、BAT53b、BAT53c、及びBAT57から成る群から選択される、請求項89記載の方法。
【請求項94】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、BAT49b、BAT50a、BAT50b、BAT51b、BAT51c、BAT51e、BAT51f、BAT52a、BAT52b、BAT54、BAT55、BAT56a、BAT56b、及びBAT68bから成る群から選択される、請求項89記載の方法。
【請求項95】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座が、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、及びDYS437を含む、請求項89記載の方法。
【請求項96】
生殖細胞が変異原に曝露された生物又は培養細胞から得られ、対照細胞が変異原に曝露されていない生物又は培養細胞から得られる、請求項89記載の方法。
【請求項97】
変異原が、フリーラジカル若しくは反応性酸素種、又はフリーラジカル若しくは反応性酸素種を生成する物質、又はフリーラジカル若しくは反応性酸素種を誘導する環境条件である、請求項89記載の方法。
【請求項98】
請求項34又は53記載の方法にしたがって精巣癌のリスクを評価するキットであって、前記マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、前記キット。
【請求項99】
請求項78又は89記載の方法にしたがって変異原又は潜在的変異原への曝露を評価するキットであって、前記マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、前記キット。
【請求項100】
請求項63記載の方法にしたがって推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍のマイクロサテライト不安定性を検出するキットであって、前記マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、前記キット。
【請求項101】
請求項66記載の方法にしたがって多能性細胞又は培養幹細胞のゲノム安定性をモニターするキットであって、前記マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、前記キット。
【請求項102】
請求項20、23又は51記載の方法にしたがって不妊性を評価するキットであって、前記マイクロサテライト遺伝子座を増幅するための少なくとも1つのプライマー対を含む、前記キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−517601(P2008−517601A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538129(P2007−538129)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/038179
【国際公開番号】WO2006/047412
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(593089149)プロメガ コーポレイション (57)
【氏名又は名称原語表記】Promega Corporation
【Fターム(参考)】