説明

生物付着抑制のための安定酸化臭素組成物、並びにこの製造方法および使用方法

本発明は、少なくとも一の酸化化学試薬と、少なくとも一の臭化物源と、少なくとも一の臭素又はハロゲン安定剤とから調整される少なくとも一の安定酸化臭素化合物を有しており、安定酸化臭素化合物に対する臭化物源のモル比は少なくとも2.1である、安定酸化臭素殺菌組成物、およびこの組成物の製造方法、並びに、この組成物を水系において殺生物剤として使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水系における生物付着抑制に用いられる製剤に関する。より詳しくは、本発明は、過剰の臭化物を有する、改良型安定酸化臭素殺菌組成物、並びにこの組成物の調整方法および工業用水系における該組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
元素液体臭素は効果的な殺生物剤ではあるものの、その低溶解度(<4g/水100g)、低沸点(54.3℃)、高蒸気圧(25℃で285hPa(214mmHg))および極度の腐食性が、工業的利用における殺生物剤としての用途を限定している。他の酸化臭素化合物である塩化臭素は、元素液体臭素よりも若干高い溶解度を有しているが、元素臭素より揮発性が高い。もう一つの酸化臭素化合物である臭素酸は、哺乳類にとって非常に有毒であり、発癌性物質であると疑われている。臭化物のような非酸化無機臭素化合物は、抗菌作用をほとんど又はまったく有さない。
【0003】
臭素水溶液および臭素安定剤の混合物は、殺生物剤として用いられる安定酸化臭素化合物を発生させるために使用されている。不安定臭素水溶液は強酸性であり、不安定でもあり、さらに臭素の強い刺激臭を発する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
臭化物を活性化して次亜臭素酸塩へ変換するために、次亜塩素酸塩のような酸化剤を添加することが提案されてきた。臭化物から次亜臭素酸塩への変換が終了した後、次亜臭素酸塩はスルファミン酸塩のようなハロゲン安定剤の添加により、安定化される。例えば、米国特許番号5,683,654、6,068,861、6,156,229、6,270,722、6,423,267、および6,669,904を参照されたい。これらは、安定濃縮酸化臭素殺菌組成物をもたらす改良型工程であるが、ハロゲン安定剤を過剰に使用すると、使用状況において、殺菌性能が低下する。
【0005】
それゆえに、高濃度の安定酸化臭素種を発生させ、且つこれを維持する方法、およびこれらの種の殺菌性能を改善する方法に対する継続的な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明者らは、追加の臭化物を水溶性安定酸化臭素殺菌組成物に添加することで、従来の安定臭素殺菌組成物と比較して、殺菌性能を増強させた組成物が得られることを発見した。
【0007】
したがって、本発明は、少なくとも一の酸化化学試薬と、少なくとも一の臭化物源と、少なくとも一の臭素又はハロゲン安定剤とから調整される少なくとも一の安定酸化臭素化合物を有しており、安定酸化臭素化合物に対する臭化物源のモル比は少なくとも2.1である、安定酸化臭素殺菌組成物により、上記課題を解決しようとするものである。
【0008】
本発明の酸化臭素殺菌組成物は、少なくとも一の酸化化学試薬と、少なくとも一の臭素又はハロゲン安定剤と、十分過剰な少なくとも一の臭化物源とを混合し、安定酸化臭素化合物に対する臭化物源のモル比は少なくとも2.1である組成物を得ることによって調整される。過剰の臭化物源は、この組成物の調整の初期段階において用いられてもよい。また、この他にも、過剰の臭化物源は、最終組成物又は従来の安定酸化臭化組成物で処理された系に添加されてもよい。
【0009】
本発明の好ましい態様において、臭素又はハロゲン安定剤は、式R−NH−Rで表される化合物からなる群から選択され、RおよびRは、RCO、RSO、RCF、RCHF、H、OHおよびPC(OH)で表される化合物又はこれらの塩からなる群から選択され、Rはアルキル基又は芳香族基、およびこれらの混合物である。
【0010】
その他の好ましい態様において、酸化化学試薬は、アルカリおよびアルカリ土類金属次亜臭素酸塩、アルカリ金属およびアルカリ土類金属臭素酸、塩素ガス、次亜塩素酸、アルカリおよびアルカリ土類金属次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、過酸化水素、過硫酸塩、過マンガン酸塩、過酢酸、臭素、塩化臭素、および臭素酸からなる群から選択される。
【0011】
その他の好ましい態様において、臭化物源は、臭素、アルカリおよびアルカリ土類金属臭化物、アルカリおよびアルカリ土類金属臭素酸、臭化水素酸、塩化臭素、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0012】
その他の好ましい態様において、安定酸化臭素化合物に対する臭化物源のモル比が、2.5から5である。
【0013】
その他の好ましい態様において、安定剤が、サッカリン、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、スルファミン酸有機塩、メラミンおよびアンモニアからなる群から選択される。
【0014】
その他の好ましい態様において、安定酸化臭素化合物に対する臭化物源のモル比は、2.5から3である。
【0015】
本発明の酸化臭素殺菌組成物を調整するために用いられる酸化剤、臭化物源、およびハロゲン安定剤は、当業分野において周知である。成分の比率、添加の順番、pH、温度およびその他の変数は、所望の特性を有する組成物が得られるように選択される。以下、いくつかの実施形態を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一の実施形態において、酸化臭素殺菌組成物は、アルカリ又はアルカリ土類金属臭化物と、アルカリ又はアルカリ土類金属臭素酸とを水中で混合して、水溶液を得、この水溶液を25℃未満、好ましくは20℃未満、さらに好ましくは10℃未満の温度になるまで冷却し、その後、ハロゲン安定剤をこの水溶液に添加することによって、調整される。
【0017】
本実施形態によれば、アルカリ又はアルカリ土類金属臭化物と、アルカリ又はアルカリ土類金属臭素酸は、モル比が少なくとも5.3:1のとき、好ましく添加されて、所望の過剰な臭化物源を有する組成物を得る。酸化臭素に対するハロゲン安定剤のモル比は、1に近いことが好ましい。
【0018】
本実施形態によれば、ハロゲン安定剤を添加する段階で、pHが2未満の水溶液ができる。
【0019】
本実施形態によれば、調整方法が、ハロゲン安定剤を添加した後、水溶液を5分間より長く撹拌することを有する。
【0020】
本実施形態によれば、もし製品が使用に先だって長期間保存される場合、この調整方法は、ハロゲン安定剤を添加した後、水溶液を、アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物の添加を介して、そのpHが13よりも大きくなるように調節すること、をさらに有する。
【0021】
その他の実施形態において、安定酸化臭素水溶液は、臭素源および安定剤を混合して混合物を得、その後、酸化剤をこの混合物に添加する方法によって調整される。もし、この組成物が長期間保存される場合、アルカリ金属源を添加して、この混合物のpHが少なくとも13となるように調節してもよい。
【0022】
本実施形態において好適な臭素源は、臭化水素酸、塩化臭素、および元素臭素、並びに、臭化ナトリウム、臭化カリウム、および臭化リチウムのようなアルカリ又はアルカリ土類金属臭化物を含む。
【0023】
本実施形態において好適な安定剤は、上記の通りである。スルファミン酸が好ましい。
【0024】
本実施形態において好適な酸化剤は、塩素ガス、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、元素臭素、塩化臭素、過酸化水素、過硫酸塩、過マンガン酸塩、および過酢酸、を含む。その他のペルオキシ化合物もまたこの実施形態に基づいて使用することができると考えられている。
【0025】
本実施形態において、アルカリ金属源は、アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物であることが好ましい。好適なアルカリ金属源は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、および水酸化カルシウムを含む。
【0026】
本実施形態において、反応は、温度が華氏80度未満、より好ましくは華氏40度から華氏70度の範囲内で、維持される。この実施形態は、一括処理で行われてもよいし、継続処理で行われてもよい。
【0027】
本実施形態において、酸化剤に対する臭素源のモル比は、所望の過剰臭化物源を有する組成物を得るために、少なくとも2.1であることが好ましい。酸化臭素に対するハロゲン安定剤のモル比は、1であることが好ましい。
【0028】
その他の実施形態において、安定臭素殺菌組成物は、
(a)アルカリ又はアルカリ土類金属次亜塩素酸の水溶液を、水溶性臭化物イオン源と混合することと、
(b)この臭化物イオン源とアルカリ又はアルカリ土類金属次亜塩素酸塩とが反応して、アルカリ又は不安定アルカリ土類金属次亜臭素酸の0.5質量%から30質量%の不安定水溶液を形成することを許容することと、
(c)アルカリ又はアルカリ土類金属次亜塩素酸塩に対して、アルカリ金属スルファミン酸のモル比0.5から6を与える量の、少なくとも50℃の温度を有するアルカリ土類金属スルファミン酸塩の水溶液を、このアルカリ又はアルカリ土類金属次亜臭素酸の不安定水溶液に添加することと、
(d)安定化されたアルカリ又はアルカリ土類金属次亜臭素酸水溶液を受容することと、
によって調整される。
【0029】
本実施例では、アルカリ又はアルカリ土類金属次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸リチウム、および次亜塩素酸カルシウム、からなる群から選択される。臭化物イオン源は、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、および臭化水素酸、からなる群から選択される。より好ましい実施形態として、アルカリ又はアルカリ土類金属次亜塩素酸塩には次亜塩素酸ナトリウムが、臭化物イオン源には臭化ナトリウムが、アルカリ又はアルカリ土類金属次亜塩素酸塩には次亜塩素酸ナトリウムが、挙げられる。
【0030】
本実施形態によれば、得られる安定酸化臭素組成物が所望の過剰な臭化物を有することを確保するために、アルカリ又はアルカリ土類金属次亜塩素酸に対する臭化物イオン源の比率は、2.1:1であることが好ましい。
【0031】
本実施形態では、アルカリ又はアルカリ土類金属次亜臭素酸の安定水溶液のpHは8から14であり、より好ましくは、11から14である。次亜臭素酸ナトリウムに対するアルカリ金属スルファミン酸塩のモル比は、好ましくは0.5から6、より好ましくは0.5から4、さらに好ましくは0.5から2である。
【0032】
その他の実施形態において、酸化臭素殺菌組成物は、(a)塩化臭素又は臭素と、(b)アルカリ金属スルファミン酸塩の水溶液(中でも、スルファミン酸ナトリウムが好ましく、水溶液のpHは、7から13.5、好ましくは7から12である。)と、を混合することによって調整される。(a)および(b)の使用量は、
(i)水溶液中の活性臭素の含有量が少なくとも100,000ppm(wt/wt)であり、(ii)(a)および(b)から得られる活性臭素に対する窒素のモル比が、臭素を使用するとき1を超え、塩化臭素を使用するとき0.93を超える値である。しかしながら、たとえ塩化臭素がその方法に用いられているときでも、(a)および(b)から得られる活性臭素に対する窒素のモル比が1を超えるものの使用が好まれる。好ましい実施形態において、使用されるアルカリ金属スルファミン酸塩の水溶液は、(i)スルファミン酸および/又はアルカリ金属スルファミン酸塩と、(ii)アルカリ金属ベースとを、アルカリ金属スルファミン酸塩の水溶液が少なくともpH7で形成されるような比率で水中において混合することにより、あらかじめ準備される。もし、スルファミン酸自体が出発物質として用いられるとき、スルファミン酸は、アルカリ金属ベースと混合される水中において、まずスラリーとして用いられる。
【0033】
塩化臭素又は臭素をアルカリ金属スルファミン酸塩の水溶液に導入するとき、例えば、アルカリ金属ベース水溶液の同時供給によって、追加のアルカリ金属ベースを水溶液に(連続的に又は断続的に、必要に応じて)導入することにより、得られる水溶液の所望のpHを7又は上記の値で維持することが望ましい。
【0034】
本実施形態によれば、アルカリ金属スルファミン酸塩に対する塩化臭素又は臭素のモル比は、1であることが好ましい。得られる安定酸化臭素組成物が所望の過剰臭化物を有することを確保するために、臭素から作製された安定酸化臭素に対してモル比が少なくとも0.1となるように、又は、臭素から作製された安定酸化臭素に対してモル比が少なくとも1.1となるように、アルカリ又はアルカリ土類金属臭化物が添加される。
【0035】
好ましい臭素源は、塩化臭素である。
【0036】
この他にも、過剰の臭化物が、例えば、米国特許番号5,683,654、6,068,861、6,156,229、6,270,722、6,423,267および6,669,904の記載の方法に基づいて調整された、従来の安定酸化臭素組成物で処理された系に添加されてもよい。過剰の臭化物源が処理された系に添加されるこれらの例において、系中で安定酸化臭素化合物に対する臭化物源のモル比が少なくとも25となるのに十分な量の臭化物源が添加される。
【0037】
したがって、他の実施形態によれば、本発明は、第一の酸化臭素殺菌組成物を形成するために、第一の臭化物源と、酸化剤と、ハロゲン安定剤とを反応させ、その後、処理された水性系中における安定酸化臭素化合物に対する全臭化物源のモル比が少なくとも25である酸化臭素殺菌組成物を形成するために十分過剰な第二の臭化物源を添加して調整される、少なくとも一の安定酸化臭素化合物を有している安定酸化臭素殺菌組成物である。
【0038】
好ましい実施形態によれば、この第二の臭化物源はアルカリ又はアルカリ土類金属臭化物である。
【0039】
他の好ましい実施形態によれば、安定酸化臭素化合物に対する全臭化物源のモル比は25から2,000である。
【0040】
ある一定の天然水は、上述の第一の酸化臭素殺菌組成物をこの天然水に添加することにより、所望の過剰な臭化物源を有する組成物を簡単に調整できるような、十分な濃度の一又は二以上の臭化物源を有していてもよい。例えば、海水は通常、60ppmから80ppmの臭化物を含有しており、この濃度は、安定酸化臭素化合物に対する全臭化物の所望の比率を得るには十分すぎるほどである。
【0041】
したがって、他の実施形態では、本発明は、第一の酸化臭素殺菌組成物を形成するために、第一の臭化物源と、酸化剤と、ハロゲン安定剤とを反応させることと、その後、安定酸化臭素化合物に対する全臭化物源のモル比が少なくとも25である酸化臭素殺菌組成物を形成するために、十分に過剰な第二の臭化物源を添加することと、を有する、安定酸化臭素殺菌組成物の調整方法である。
【0042】
本発明の好ましい実施形態は、水に海水を用いることである。
【0043】
本発明に基づいて調整された安定臭素水溶液は、幅広い商業的用途に用いることができる。これらの用途は、以下のものを含むが、安定臭素水溶液の用途はこれらに限定されない。
(1)汚れた衣類が洗剤および漂白剤を含む水性媒体中で洗浄される場合の、汚れた衣類の洗浄方法において、漂白剤として用いられる。(2)セルロース系繊維が漂白される場合のセルロース系材料の製造方法において、酸化剤として用いられる。(3)酸化剤および殺菌剤が生物付着物を抑制するために添加されるレクリエーション用水系中の生物付着物の抑制方法において、酸化剤および殺菌剤として用いられる。(4)酸化剤および殺菌剤が生物付着物抑制のために塗装面上に塗布されている場合の、酸化剤および殺菌剤として用いられる。(5)採取された油田水と接する装置の表面に発生する生物付着物の抑制方法において、(6)水系中の生物付着物の抑制方法において、(7)パルプ製造工程および製紙工程の水中および処理化学剤中の生物付着物の抑制方法において、さらに、(8)食品の輸送又は処理に用いられる水流中、並びに、該水流に接触する食品の表面上および装置の表面における、微生物の成長を抑制する方法において、用いられる。
【0044】
他の実施形態によれば、本発明は、本発明に基づく安定臭素水溶液を有効に生物付着物を抑制し得る量だけ添加することを有する、工業用水系に接する装置の表面に発生する生物付着物の抑制方法である。
【0045】
生物付着物の抑制のために安定臭素水溶液が用いられるであろう工業用水系の種類には、冷却水系、淡水系、ガス洗浄器系、空気洗浄器系、蒸発凝縮器、殺菌装置、製品消毒剤流、防火用水系、および伝熱管が含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
また、工業用水系に添加される安定臭素水溶液の量は、可能な臭素濃度に基づいて、0.1ppmから2000ppmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは、0.5ppmから500ppmである。この安定臭素水溶液は、他のいかなる従来の方法(例えば、スラグ滴下、断続的又は連続的方法)によっても、水系に添加することができる。
【0047】
上述の実施形態は、以下の実施例からよりよく理解されるであろう。これらは、説明の目的で示されているが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
抗菌観察は、1.9×10CFU/ml冷却水混合細菌を含有する合成冷却水(pH8.2)中で行われた。細菌性細胞培養は、0.1%トリプシン大豆培養液媒体中で一晩培養され、遠心分離機にかけられ、リン酸緩衝液(pH7.3)によって3回洗浄された。3つの安定化臭素製剤の投与量である(有効な塩素としての)1ppm、2ppm、および5ppmについて、余剰の追加臭素と共に、又は余剰の追加臭素なしで、個別に試験した。細菌計数は、好気性菌数プレートペトリフィルム(3M、ミネアポリス)を用いて行った。殺菌性能を、表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例2)
追加の細菌観察は、余剰の臭化物の効果を調べるために、スルファミン酸塩安定剤をサイクルアップ条件下で行われた。観察は、2.9×10CFU/ml冷却水混合細菌培養を含有する標準#13水中で行われた。試験結果を、表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
(実施例3)
リン酸緩衝液(pH7.5)中で、同様の実験が行われた。初期の細菌濃度は、4.2×10CFU/mlであった。その結果を、表3にまとめた。
【0053】
【表3】

【0054】
表1〜3で示されるデータは、追加の臭化物によって、安定化臭素製剤の殺菌速度を十分向上させることが可能であることを明示している。その効果は、細菌濃度が高いとき又はハロゲンの投与量が少ないときに、特に顕著である。
【0055】
さらに、余剰の臭化物の使用は、臭素の殺菌性能に余剰のスルファミン酸塩安定剤を付与するというマイナス効果をいくらか相殺する。これは、高い保持時間指数で高ハロゲン需要の系中を流れる安定化臭素製剤が、いかなる系中で使用されていても、安定剤のサイクルアップがハロゲン殺菌性能に悪影響を与えることができるので、重要である。
【0056】
(実施例4)
観察される殺菌性能の向上が臭化物の添加のみによって起こされたのではないことを明らかにするために、一式の抑制実験が実施された。表4に示される結果から、リン酸緩衝液への臭化物の添加レベルは、冷却水細菌培養に対する殺菌性とは関係を有するものではないことが分かる。すべてのプレートカウント中の違いは、検出限界内においてよく現れていた。それゆえに、実施例1〜3で見られる性能の向上が、臭化ナトリウムの濃度の上昇のみによって起こったわけではないことが分かった。
【0057】
【表4】

【0058】
要約すれば、安定化臭素の利用における余剰の臭化物を使用する主な利点は、安定化臭素製剤の殺菌性能、特に殺菌速度を顕著に向上させること、および、安定化臭素殺生物剤(残渣、有効性等)によって提供されるすべての安定利得を維持と共に、次亜臭素酸塩の臭素酸における不均衡化を顕著に抑制すること、を含んでいる。
【0059】
以上で説明した本発明の構成、操作、および処理方法は、本発明の請求の範囲から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で、変更することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一の酸化化学試薬と、少なくとも一の臭化物源と、少なくとも一の臭素又はハロゲン安定剤とから調整される少なくとも一の安定酸化臭素化合物を有しており、
前記安定酸化臭素化合物に対する前記臭化物源のモル比は少なくとも2.1である、安定酸化臭素殺菌組成物。
【請求項2】
臭素又はハロゲン安定剤は、式R−NH−Rで表される化合物からなる群から選択され、
RおよびRは、RCO、RSO、RCF、RCHF、H、OHおよびPC(OH)で表される化合物又はこれらの塩からなる群から選択され、
はアルキル基又は芳香族基、およびこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物。
【請求項3】
前記酸化化学試薬は、アルカリおよびアルカリ土類金属次亜臭素酸塩、アルカリ金属およびアルカリ土類金属臭素酸、塩素ガス、次亜塩素酸、アルカリおよびアルカリ土類金属次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、過酸化水素、過硫酸塩、過マンガン酸塩、過酢酸、臭素、塩化臭素、および臭素酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の酸化臭素殺菌組成物。
【請求項4】
前記臭化物源は、臭素、アルカリおよびアルカリ土類金属臭化物、アルカリおよびアルカリ土類金属臭素酸、臭化水素酸、塩化臭素、並びにこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の酸化臭素殺菌組成物。
【請求項5】
前記安定酸化臭素化合物に対する前記臭化物源のモル比が、2.5から5であることを特徴とする、請求項4に記載の酸化臭素殺菌組成物。
【請求項6】
前記安定剤が、サッカリン、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、スルファミン酸有機塩、メラミンおよびアンモニアからなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の酸化臭素殺菌組成物。
【請求項7】
前記安定酸化臭素化合物に対する前記臭化物源のモル比が、2.5から3であることを特徴とする、請求項6に記載の酸化臭素殺菌組成物。
【請求項8】
前記安定酸化臭素化合物に対する前記臭化物源のモル比が、少なくとも2.1である組成物を形成するために、酸化剤と、ハロゲン安定剤と、十分に過剰な臭化物源とを反応させることを有する、請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物の調整方法。
【請求項9】
少なくとも一の酸化化学試薬と、少なくとも一の臭化物源と、少なくとも一の臭素又はハロゲン安定剤とから調整される少なくとも一の安定酸化臭素化合物を有しており、前記安定酸化臭素化合物に対する前記臭化物源のモル比は少なくとも25である、安定酸化臭素殺菌組成物。
【請求項10】
第一の酸化臭素殺菌組成物を形成するために、第一の臭化物源と、酸化剤と、ハロゲン安定剤とを反応させることと、
その後、安定酸化臭素組成物に対する全臭化物源のモル比が、少なくとも25である酸化臭素殺菌組成物を形成するために、十分に過剰な第二の臭化物源を添加することと、
を有する、請求項9に記載の安定酸化臭素殺菌組成物の調整方法。
【請求項11】
前記第二の臭化物源は、アルカリ又はアルカリ土類金属臭化物であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
安定酸化臭素化合物に対する全臭化物源のモル比が、少なくとも25から2000であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第一の酸化臭素殺菌組成物を形成するために、第一の臭化物源と、酸化剤と、ハロゲン安定剤とを反応させることと、
その後、前記第一の酸化臭素殺菌組成物を、安定酸化臭素化合物に対する全臭化物源のモル比が、少なくとも25である酸化臭素殺菌組成物を形成するために、十分な濃度の第二の臭化物源を含有する水に添加することと、
を有する、請求項9に記載の安定酸化臭素殺菌組成物の調整方法。
【請求項14】
第一の酸化臭素殺菌組成物が、海水に添加されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
汚れた衣類が、洗剤および漂白剤を含む水性媒体中で洗浄される場合の汚れた衣類の洗浄方法において、
請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物を漂白剤として用いてなる改善策。
【請求項16】
セルロース系材料が酸化剤によって漂白される場合のセルロース系材料の製造方法において、
請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物を酸化剤として用いてなる改善策。
【請求項17】
酸化剤および殺菌剤が生物付着物を抑制するために添加されるレクリエーション用水系中の生物付着物の抑制方法において、
請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物を酸化剤および殺菌剤として用いてなる改善策。
【請求項18】
酸化剤および殺菌剤が生物付着物抑制のために塗装面上に塗布されている場合の塗装面上の生物付着物の抑制方法において、
請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物を酸化剤および殺菌剤として用いてなる改善策。
【請求項19】
採取された油田水と接する装置の表面に発生する生物付着物の抑制方法において、
請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物を、有効に生物付着物を抑制し得る量だけ前記油田水に添加してなる改善策。
【請求項20】
請求項1に記載の酸化臭素殺菌組成物を、有効に生物付着物を抑制し得る量だけ水系に添加してなる、水系中の生物付着物の抑制方法。
【請求項21】
前記工業用水系は、冷却水系、淡水系、ガス洗浄器系、空気洗浄器系、蒸発凝縮器、殺菌装置、製品消毒剤流、防火用水系、および伝熱管、からなる群から選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記酸化臭素殺菌組成物が、25ppmから200ppmの臭化物を前記工業用水系中で維持するのに十分な量だけ添加されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記酸化臭素殺菌組成物が、35ppmから150ppmの臭化物を前記工業用水系中で維持するのに十分な量だけ添加されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記酸化臭素殺菌組成物が、50ppmから100ppmの臭化物を前記工業用水系中で維持するのに十分な量だけ添加されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。

【公表番号】特表2008−505083(P2008−505083A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519327(P2007−519327)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/022692
【国際公開番号】WO2006/004643
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(503270032)ナルコ カンパニー (22)
【氏名又は名称原語表記】NALCO COMPANY
【住所又は居所原語表記】1601 W.Diehl Road,Naperville,IL 60563−1198,United States of America
【Fターム(参考)】