説明

生物医学的使用のためのハイドロゲルフィラメント

本明細書には、遅延制御した膨脹速度を有する放射不透過ハイドロゲルフィラメントを用いて構造物および機能不全部を閉塞する装置、組成物、システム、および関連する方法が記載されている。ハイドロゲルフィラメントは、構造物または機能不全部の中に入るとデバイスの位置を変えることができるようになる。2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、および放射不透過成分を含む、動物における移植のためのデバイスがさらに記載されている。ここで、前記デバイスは支持部材を含まない。そのようなデバイスを形成させる方法も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2007年12月21日に出願された米国仮特許出願第61/016,342号の利益を主張し、この出願の全開示は本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、全体として医療装置および方法に関し、より詳しくは蛍光X線透視法および磁気共鳴法において見ることができるハイドロゲルフィラメント、および生物医学的治療におけるそのような材料の使用のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
現在、脳血管疾患および/または末梢血管疾患の患者に対して、介入的神経放射線医/神経外科医には3つの主要な塞栓デバイスの選択肢、すなわち白金コイル、ハイドロゲル/白金コイル、または分解性高分子/白金コイルがある。3種類のコイルはすべて動脈瘤の中に留置され、それぞれに固有の利点および弱点がある。白金コイルは標準的なマイクロカテーテルを通して留置しやすく、広い範囲の柔らかさのものが手に入り、サイズが小さいかまたはくびれのある動脈瘤に最も適している。ハイドロゲル/白金コイルも標準的なマイクロカテーテルを通して留置しやすい。ハイドロゲル/白金コイルは白金コイルと比べると固く、動脈瘤の内部に留置するのが困難なことがあるが、より広い範囲の嚢およびくびれサイズの場合に満足な結果が得られる。分解性高分子/白金コイルは容易に移動し、動脈瘤嚢の中に留置されるが、サイズが小さいかまたはくびれのある動脈瘤の場合にしか満足な結果が得られない。
【0004】
これら3つのコイル変化形があるものの、動脈瘤嚢の中に容易に留置され(白金コイルのように)、広範囲の動脈瘤サイズにおいて耐久性のある閉塞を行う結果となる(ハイドロゲル/白金コイルのように)塞栓デバイスへの臨床上の求めは満たされていない。本記載の装置および方法の利点の中に、白金コイルより少ない摩擦でマイクロカテーテルの中を移動し、市場にある最も軟らかな白金コイルのように動脈瘤嚢の中に留置され、ハイドロゲル/白金コイルのように膨脹し、耐久性のある動脈瘤嚢の閉塞を提供する一方、介入的神経放射線医/脳神経外科医、または外科医が標準的なマイクロカテーテルおよび他の関連装置を用いることが可能になるデバイスがある。
【0005】
ハイドロゲル/白金コイルの向上した耐久性は、動脈瘤嚢の体積充填率の増加と、それによって得られるコイル全体の安定性の増加との結果であると思われる。現行型のハイドロゲル/白金コイルは、ハイドロゲルの膨脹を制限するオーバーコイルを有する。前臨床モデルでは、現行のオーバーコイル型ハイドロゲル/白金コイルが白金コイルより良好な結果を提供するが、オーバーコイルのないハイドロゲルデバイスの方が現行のオーバーコイル型より硬さが低くなるであろうと考えられる。本記載は、白金コイルとオーバーコイル型ハイドロゲル/白金コイルとのどちらよりも大きくなった体積充填率を提供することができ、オーバーコイル型ハイドロゲル/白金コイルより硬さが低下した塞栓デバイスを提供する。
【0006】
大きな動脈瘤や巨大な動脈瘤ではおそらく大量の血栓形成および組織化によって炎症性合併症が起こり得る。ハイドロゲルによって提供される動脈瘤嚢の体積充填率の増加によって血栓形成および組織化の低下が起こり、結果としておそらく炎症性合併症が少なくなると考えられる。本記載は、炎症性合併症を軽減することができる塞栓デバイスを提供する。
【0007】
コイルがコイル自体の巻き線の内部でからみ合うと、まれではあるが可能性として危険な合併症が起こる。この場合、動脈瘤部位の中でこのデバイスを変化させずにコイルを押すことも引くこともできない。唯一の選択肢は、コイルを動脈瘤部位から鼠径部に引き戻し、ほどくことである。可能性として危険な結果は伸ばされたコイルである。伸縮抵抗性コイルが開発されているが、この合併症は皆無ではなく、依然として患者への危険な脅威となっている。本記載のデバイスはこの合併症を完全になくすと考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書には、遅延制御した膨脹速度を有するハイドロゲルフィラメントを用いて身体の内腔中の構造物および機能不全部を閉塞する装置、組成物、システムおよび関連する方法が記載されている。ハイドロゲルフィラメントは、構造物または機能不全部の内部に入るとデバイスの位置を変えることができるようになる1つ以上の可視化剤を含んでいる。構造物および機能不全部は、任意の数の脳疾患および/または末梢疾患の結果のことがある。一般に、制御された膨脹速度はイオン化可能な官能基(例えばアミン、カルボン酸)を有するエチレン系不飽和モノマーの組み込みによって付与される。例えば、架橋された高分子ネットワークの中にアクリル酸を組み込む場合、ハイドロゲルを低pH溶液中でインキュベーションしてカルボン酸をプロトン化する。過剰の低pH溶液をすすいで除去し、ハイドロゲルを脱水した後、生理pHの血液または食塩水を満たしたマイクロカテーテルを通してハイドロゲルを導入することができる。ハイドロゲルは、カルボン酸基が脱プロトンするまで膨脹することができず、膨脹しない。反対に、架橋ネットワークの中にアミン含有モノマーを組み込む場合、ハイドロゲルを高pH溶液中でインキュベーションしてアミンを脱プロトンする。過剰の高pH溶液をすすいで除去し、ハイドロゲルを脱水した後、生理pHの血液または食塩水を満たしたマイクロカテーテルを通してハイドロゲルを導入することができる。ハイドロゲルは、アミン基がプロトン化するまで膨脹することができず、膨脹しない。
【0009】
一実施態様では、2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、および可視化剤を含む移植のためのデバイスが本明細書に記載されている。デバイスは支持部材を含まない。一実施態様では、支持部材は金属である。
【0010】
一実施態様では、マクロマーは約100グラム/モルから約5000グラム/モルの分子量を有する。別の実施態様では、ハイドロゲルは環境応答性である。さらに別の実施態様では、エチレン系不飽和モノマーは1つ以上のイオン化可能な官能基を含む。
【0011】
一実施態様では、マクロマーはポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。別の実施態様では、エチレン系不飽和モノマーはN,N’−メチレンビスアクリルアミド、N−ビニルピロリジノン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。
【0012】
一実施態様では、可視化剤は単一の不飽和点および少なくとも1つのヨウ素原子を有する芳香環、タンタル、バリウム、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む放射不透過成分を含む。一実施態様では、単一の不飽和点および2つのヨウ素原子を有する可視化剤芳香族環。一実施態様では、可視化剤は酸化ガドリニウムまたは酸化鉄を含み、磁気共鳴画像化法において可視性を付与する。
【0013】
一実施態様では、エチレン系不飽和モノマーおよび可視化剤は2,4,6−トリヨードフェニルペンタ−4−エノエート、5−アクリルアミド−2,4,6−トリヨード−n,n’−ビス−(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミド、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。
【0014】
一実施態様では、マクロマーとモノマーとの重合をN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせによって開始させる。
【0015】
一実施態様では、イオン化可能な官能基は、酸性基または塩基性基を含む。一実施態様では、塩基性基はアミン基、その誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。別の実施態様では、酸性基はカルボン酸、その誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。
【0016】
一実施態様では、ハイドロゲルは実質的にアクリルアミドを含まない。別の実施態様では、ハイドロゲルは実質的に非生体再吸収性である。別の実施態様では、ハイドロゲルは生体再吸収性である。
【0017】
本明細書に記載される一実施態様は動物における移植のためのデバイスを調製するための方法であり、この方法は、a)2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、可視化剤、および溶媒を一緒にしてプレポリマ溶液を調製するステップ、b)プレポリマ溶液を処理して生理条件下で膨脹可能なハイドロゲルを調製するステップを含む。
【0018】
本方法の一実施態様では、溶媒は水、ジクロロメタン、アセトン、イソプロピルアルコール、エタノール、またはそれらの組み合わせを含む。別の実施態様では、2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマーは約100グラム/モルから約5000グラム/モルの分子量を有する。さらに別の実施態様では、エチレン系不飽和モノマーはイオン化可能な官能基を含む。
【0019】
本方法の一実施態様では、溶媒はプレポリマ溶液の約20%重量/重量から約80%重量/重量を構成する。別の実施態様では、モノマーは重量でプレポリマ溶液の約40%から約80%を構成する。
【0020】
一実施態様では、本方法はプレポリマ溶液に第2のエチレン系不飽和モノマーを加えるステップをさらに含む。
【0021】
本方法の一実施態様では、イオン化可能な官能基は塩基性基を含み、処理するステップはpKaより大きなpHで塩基性基を脱プロトンすることまたは塩基性基のpKaより小さなpHで塩基性基をプロトン化することを含む。本方法の別の実施態様では、イオン化可能な官能基は酸性基を含み、処理するステップはpKaより小さなpHで酸性基をプロトン化することまたは前記酸性基のpKaより大きなpHで酸性基を脱プロトンすることを含む。
【0022】
別の実施態様では、移植のためのデバイスが記載され、このデバイスは、約100グラム/モルから約5000グラム/モルの分子量を有する2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、および可視化剤を含む。デバイスは金属支持部材を含まない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本明細書には、1つ以上の脳血管疾患および/または末梢血管疾患の結果として生じる構造物および機能不全部を閉塞するための装置、組成物、システム、および関連する方法が記載されている。遅延制御された膨脹速度を有する1つ以上の可視化剤を含むハイドロゲルフィラメントを用いてこれらの構造物および機能不全部を処置し、それによって構造物または機能不全部の内部に入ったデバイスの位置の移動を可能にする。さらに、1つ以上の可視化剤、例えば制御された膨脹速度を有する放射不透過成分または充填材を含むハイドロゲルフィラメントによって、フィラメントを適切に配置するのに十分な時間が外科医にもたらされ、フィラメントが直ぐに膨脹するせいで急ぐ必要がなくなる。
【0024】
一般に、制御されたハイドロゲルフィラメントの膨脹速度は、イオン化可能な官能基(例えば酸性基または塩基性基)を有するエチレン系不飽和モノマーの組み込みによって得られる。例えば、架橋された高分子ネットワークの中にアクリル酸を組み込む場合、ハイドロゲルを低pH溶液中でインキュベーションして酸性のカルボン酸をプロトン化する。過剰の低pH溶液をすすいで除き、ハイドロゲルを脱水した後、生理pHの血液または食塩水で満たしたマイクロカテーテルを通してハイドロゲルを導入することができる。ハイドロゲルはカルボン酸基が脱プロトンするまで膨脹することができず、膨脹しない。反対に、架橋されたネットワークの中に塩基性のアミン含有モノマーを組み込む場合、ハイドロゲルを高pH溶液中でインキュベーションしてアミンを脱プロトンする。過剰の高pH溶液をすすいで除き、ハイドロゲルを脱水した後、生理pHの血液または食塩水で満たしたマイクロカテーテルを通してハイドロゲルを導入することができる。ハイドロゲルはアミン基がプロトン化するまで膨脹することができず、膨脹しない。
【0025】
一実施態様では、本記載によってモノマー化学種上で酸性基を利用しようが塩基性基を利用しようが、本明細書に記載されているデバイスは生理条件において膨脹可能である。本明細書中で用いられている生理条件とは、ヒトの体の内部または表面で見いだされる少なくとも1つの環境特性を有する条件を意味する。そのような特性は、等張環境、pH緩衝環境、水性環境、約7のpH、またはそれらの組み合わせを含み、例えば等張液、水、血液、髄液、血漿、血清、ガラス体液、または尿中に見いだされ得る。
【0026】
一実施態様では、一般に、2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、および可視化成分を含む移植のためのデバイスが本明細書に記載されている。デバイスは支持部材を含まない。一実施態様では、デバイスは1つ以上の支持部材を含むが、それらの支持部材は金属ではない。非金属支持部材は高分子であってよい。一実施態様では、デバイスは1つ以上の非放射不透過性または可視化性の支持部材を有する。実施態様によっては、支持部材は、本明細書に記載されるデバイスにおいてハイドロゲルの膨脹を制御するために必要でなく、従って本明細書に記載されている装置およびシステムに組み込まれない。
【0027】
さらに、本明細書に記載されるデバイスに金属支持部材がないと、さまざまな画像化手順における解像度の向上が可能になる。例えば、金属支持部材は金属支持部材由来のフレアまたは反射を画像内に発生させることによってデバイスの画像形成を歪めることがある。従って、金属支持部材を持たないが本明細書中で教示される放射不透過成分または充填材などの1つ以上の可視化剤を含むデバイスを提供すれば、当業者は移植時と移植後との両方においてより精密で正確なデバイスの画像を実現することができる。金属支持部材を持たないそのようなデバイスは、画像化技法では見ることができない支持部材、例えば高分子支持部材を含んでよい。
【0028】
別の実施態様では、動物における移植のためのデバイスを調製するための方法が本明細書に記載されている。この方法は、2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、可視化成分、および溶媒を一緒にしてプレポリマ溶液を調製するステップ、およびプレポリマ溶液を処理して生理条件において膨脹可能であるハイドロゲルを調製するステップを含む。
【0029】
一般に、プレポリマ溶液は溶媒、2官能低分子量エチレン形不飽和マクロマー、1つ以上の可視化剤を有するエチレン系不飽和モノマー、イオン化可能なエチレン系不飽和モノマー、放射不透過性があってもよくなくてもよい可視化剤を有する1つ以上の任意選択のエチレン系不飽和モノマー、および任意選択のポロシゲンで構成される。あるいは、プレポリマ溶液は溶媒、2官能エチレン系不飽和マクロマー、任意選択の単数または複数のエチレン系不飽和モノマー、任意選択の架橋剤、およびバリウム、タンタル、白金、および金を含むがそれらに限定されない放射不透過成分または充填材などの1つ以上の可視化剤で構成される。
【0030】
プレポリマ溶液中の溶媒は、すべてのマクロマーおよびモノマーをプレポリマ溶液中に完全に溶かす役目を有する。液体モノマー(例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート)を用いる場合には溶媒が必要でないこともある。溶媒は、必要なら、マクロマーおよびモノマーの溶解度にもとづいて選ばれる。好ましい溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA、イソプロパノール)、エタノール、水、ジクロロメタン、およびアセトンである。しかし、複数の他の溶媒が利用可能であり、当業者に知られている。好ましい溶媒濃度はプレポリマ溶液の約20%重量/重量から約80%重量/重量、より好ましくは約40%重量/重量から約60%重量/重量の範囲である。好ましい一実施態様では、溶媒濃度はプレポリマ溶液の約33%重量/重量である。
【0031】
2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマーは重合時に高分子鎖を架橋し、得られる高分子に可撓性を付与する役目を有する。そのようなマクロマーは少なくとも1つのエチレン系不飽和基および2つの官能部位を含む。一実施態様では、少なくとも1つのエチレン系不飽和基が官能部位の1つであってもよく両方の官能部位であってもよい。一実施態様では、本明細書に記載されるマクロマーは低分子量を有する。本明細書に記載されるマクロマーは約100g/モルから約5,000g/モル、または約200g/モルから約2,500g/モル、より好ましくは約400g/モルから約1,000g/モルの範囲の分子量を有する。好ましいマクロマーは、その生体適合性および多彩な溶媒中の溶解度を理由としてポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミドである。得られる高分子の分解が望まれるなら、好ましいマクロマーはポリ(エチレングリコール)ジアクリレートである。あるいは、より疎水性のマクロマー、例えばポリ(プロピレングリコール)およびポリ(テトラメチレンオキシド)といったポリエーテル、またはポリオレフィンの誘導体、例えばポリ(エチレン)が適している。他の適当なマクロマーは、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートを含む。
【0032】
一般に、本明細書中で用いられる「エチレン系不飽和」は、ビニル、アクリレート、メタクリレート、またはアクリルアミド基などであるがそれらに限定されない基を有する化合物を記述し、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。
【0033】
「成形性」マクロマーは、マクロマーの相対的な剛直さ、および特定の形状を保持するその能力を記述するために本明細書中で用いられる。例えば、本記載による成形性マクロマーは、マンドレルなどのデバイスを用いて成形することができ、得られた移植のための形状を保持することができる。
【0034】
1つ以上の可視化剤を有するエチレン系不飽和モノマーは、得られる高分子の適切な可視化方法において可視化を付与する役目を有する。一実施態様では、エチレン系不飽和モノマーは得られる高分子に放射不透過性を付与する役目を有する単数または複数の放射不透過成分だけを含んでいる。単一の不飽和結合および1つ以上のヨウ素原子を有する芳香環が放射不透過成分を有する好ましいエチレン系不飽和モノマーである。例は2,4,6−トリヨードフェニルペンタ−4−エノエートおよび5−アクリルアミド−2,4,6−トリヨード−n,n’−ビス−(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミドを含む。放射不透過成分を有する不飽和モノマーの好ましい濃度はプレポリマ溶液の約40%重量/重量から約80%重量/重量、より好ましくはプレポリマ溶液の約40%重量/重量から約60%重量/重量の範囲である。あるいは、これらの放射不透過成分の代わりに、またはこれらの放射不透過成分に加えてタンタル、バリウム、またはそれらの塩などの放射不透過成分または充填材をプレポリマ溶液に組み込んでもよい。放射不透過充填材の充填率は、得られる高分子の約40%重量/重量から約60%重量/重量の範囲である。
【0035】
本明細書中で用いられる「可視化剤」は、本明細書に記載されるデバイスに加えられるかまたは内部に含まれ、移植時または移植後のいずれかにおいてデバイスを可視化する手段を付与する任意の成分を指す。可視化の方法は、X線、超音波、蛍光法、赤外放射、紫外線法、磁気共鳴、およびそれらの組み合わせを含むがそれらに限定されない。一実施態様では、可視化剤は本明細書に記載されるデバイスに放射不透過性を付与する1つ以上の放射不透過成分または充填材であってよい。別の実施態様では、可視化剤は、酸化ガドリニウムまたは酸化鉄などの非放射不透過成分または充填材であってよい。そのような非放射不透過成分または充填材は本明細書に記載されるデバイスに放射不透過性を付与せず、例えば磁気共鳴によって画像化することができる。
【0036】
本明細書中で用いられる「放射不透過の」は本明細書に記載されるデバイスに放射不透過性を付与し、X線、超音波、蛍光法、赤外、紫外、およびそれらの組み合わせなどの電気分析放射によって検出することができる上記に記載の成分または充填材を指す。一実施態様では、本明細書に記載される放射不透過成分はX線または蛍光X線法を用いて検出することができる。
【0037】
イオン化可能なエチレン系不飽和モノマーはハイドロゲルフィラメントの膨脹を遅れさせ、それによって制御された膨脹速度を確立する役目を有する。一実施態様では、モノマー溶液の少なくとも一部分、好ましくは約5%から約50%重量/重量、より好ましくは選ばれたモノマーのプレポリマ溶液の約5%から約25%重量/重量がイオン化可能である。好ましいイオン化可能なモノマーは、アクリル酸またはメタクリル酸であってよい。両方の酸の誘導体および塩も適当なイオン化可能成分である。あるいは、一実施態様では、イオン化可能なエチレン系不飽和モノマーを利用しない。
【0038】
一実施態様では、重合プロセスを支援するために、デバイスに放射不透過性を付与するかまたは付与しない可視化剤を有する任意選択のエチレン系不飽和モノマーが用いられ、任意のモノまたは多官能エチレン系不飽和化合物であってよい。一実施態様では、放射不透過性のない可視化剤を有し、分子量の低いエチレン系不飽和モノマーが好ましい。ヒドロキシエチルメタクリレート(例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ヒドロキシエチルアクリレート、N−ビニルピロリジノン、およびN,N’−メチレンビスアクリルアミドが好ましい放射不透過性のないエチレン系不飽和モノマー可視化剤である。放射不透過性のないエチレン系不飽和モノマー可視化剤の好ましい濃度はプレポリマ溶液の約5%重量/重量未満、より好ましくは約1%重量/重量未満である。
【0039】
一実施態様では、本明細書に記載されるハイドロゲルおよびデバイスは、磁気共鳴画像化におけるデバイスの可視性を付与するために、放射不透過成分に加えて酸化ガドリニウムまたは酸化鉄などの可視化剤をさらに含む。他の実施態様では、放射不透過成分の代わりにまたは放射不透過成分に代えて酸化ガドリニウムまたは酸化鉄を用いる。
【0040】
任意選択のポロシゲンは、得られる高分子中に細孔を付与する役目を有する。ハイドロゲル材料の多孔性はプレポリマ溶液中のポロシゲンの過飽和懸濁物の結果として付与される。プレポリマ溶液に溶けないが洗浄溶液に溶けるポロシゲンも用いることができる。一実施態様では、塩化ナトリウムが好ましいポロシゲンである。他の実施態様では、氷、スクロース、および重炭酸ナトリウムもポロシゲンとして用いることができる。ポロシゲンの粒子サイズは約25ミクロン未満、より好ましくは約10ミクロン未満であることが好ましい。小さな粒子サイズは溶媒中のポロシゲンの懸濁の助けとなる。ポロシゲンの好ましい濃度はプレポリマ溶液の約50%重量/重量未満、より好ましくは約20%重量/重量未満である。本記載によるいくつかの実施態様では、ポロシゲンを利用しない。
【0041】
プレポリマ溶液は、還元−酸化、放射、熱、または当分野で既知の任意の他の方法によって架橋することができる。プレポリマ溶液の放射架橋は、適当な開始剤とともに紫外線または可視光によって、または開始剤を用いないでイオン化放射(例えば電子ビームまたはガンマ線)によって実現することができる。架橋は、加熱ウェルなどの熱源を用いて溶液を通常の方法で加熱するかまたはプレポリマ溶液への赤外光の照射のどちらかによって熱を加えて実現することができる。
【0042】
好ましい実施態様では、架橋方法はアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)または別の水溶性AIBN誘導体(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩)を利用する。本記載によると有用な他の架橋剤はN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル、およびアゾビスイソブチロニトリル類を含むそれらの組み合わせを含む。一実施態様では、AIBNまたはその誘導体を高温で用いる。AIBNの添加後、プレポリマ溶液を0.012インチから0.075インチの範囲の内径を有するポリ(エチレン)管中に注入し、80℃で数時間インキュベーションする。ポリ(エチレン)管を選ぶことでマイクロカテーテルまたはカテーテルとの互換性が得られる。マイクロカテーテルを通す送達については約0.012インチから約0.025インチのポリ(エチレン)管直径が好ましい。フレンチサイズ(Fr)5のカテーテルを通す送達については約0.030インチから約0.050インチのポリ(エチレン)管直径が好ましい。あるいは、同じ直径のHYTREL(登録商標)(DuPont,Wilmington,DE)管を利用することができる。HYTREL(登録商標)管は溶媒に溶かすことができ、管からの高分子の除去を容易にすることができる。
【0043】
プレポリマ溶液の重合の前にマンドレルの周りをポリ(エチレン)管で包むと、主としてプレポリマ溶液中の成形性マクロマーの結果として、得られる高分子はポリ(エチレン)またはHYTREL(登録商標)管の形を保つ。この技法を用いて高分子にらせん、渦巻き、および複雑な形状を付与することができる。付与される形状の記憶はマクロマー選択の影響を強く受ける。より疎水性のマクロマーは付与された形状をより親水性のマクロマーより良く保つ。この実施態様では、エチレン系不飽和成形性マクロマーを用いることが好ましい。
【0044】
一実施態様では、本明細書に記載されるデバイスは環境応答性である。本明細書中で用いられる環境応答性とは、デバイスが周囲の環境に応じて何らかの変化を行うことを意味する。一実施態様では、周囲の環境へのこの応答は制御された膨脹速度の形である。本明細書に記載されるハイドロゲルの制御された膨脹速度は、ハイドロゲルネットワークの内部または表面に存在するイオン化可能な官能基のプロトン化/脱プロトン化によって実現される。ハイドロゲルを調製し、取り込まれていないマクロマー、モノマーおよびオリゴマを洗浄して除くと、膨脹速度を制御するステップを実行することができる。
【0045】
カルボン酸基を有するモノマーをハイドロゲルネットワークの中に組み込む場合、ハイドロゲルを低pH溶液中でインキュベーションする。溶液中の遊離プロトンがハイドロゲルネットワーク内のカルボン酸基をプロトン化する。インキュベーションの長さ、インキュベーションの間の温度、および溶液のpHが膨脹速度に対する制御の大きさに影響を及ぼす。一般に、インキュベーションの長さおよび温度は膨脹制御の大きさに正比例し、溶液pHは反比例する。驚くべきことに、処理溶液の水分量も膨脹制御に影響を及ぼすことが見いだされた。水分量が増加するにつれてハイドロゲルは処理溶液中でより膨脹することができ、より多くの数のカルボン酸基をプロトン化に利用することができると考えられる。膨脹速度の制御を最大にするために水分量およびpHの最適化が必要なことがある。インキュベーションを終了した後、過剰の処理溶液を洗浄して除き、ハイドロゲル材料を脱水する。低pH溶液で処理したハイドロゲルは未処理のハイドロゲルより小さな寸法に脱水されることが観察された。一実施態様では、より小さな寸法のハイドロゲルを利用する。マイクロカテーテルを通すこれらのハイドロゲル材料の送達が望ましいからである。
【0046】
これに対して、ハイドロゲルネットワークの内部または表面にアミン基を有するpH感作性モノマーを組み込む場合、ハイドロゲルを高pH溶液中でインキュベーションする。高いpHにおいてハイドロゲルネットワークのアミン基で脱プロトン化が起こる。インキュベーションの長さ、インキュベーションの間の温度、および溶液のpHが膨脹速度に対する制御の大きさに影響を及ぼす。一般に、インキュベーションの長さおよび温度ならびに溶液pHは膨脹制御の大きさに正比例する。インキュベーションを終了した後、過剰の処理溶液を洗浄して除き、ハイドロゲル材料を脱水する。
【0047】
本記載によるいくつかの実施態様では、非水溶媒を利用する。そのような実施態様では、プロトン化したカルボン酸を有するモノマー(例えばアクリル酸またはメタクリル酸)を対応する塩(例えばアクリル酸ナトリウムまたはメタクリル酸ナトリウム)の代わりに用いることができる。非水溶媒中でこれらのモノマーを用いると、低pH溶液中の次の処理が必要でなくなる。
【0048】
架橋ハイドロゲルを洗浄した後に脱水し、脱水したハイドロゲルフィラメントを製造する。長さは約0.5cmから約100cmの範囲であってよく、直径は約0.010インチから約0.100インチの範囲であってよい。実施態様によっては、押すことができる塞栓デバイスが必要とされる。これらの場合には、脱水ハイドロゲルフィラメントを導入管の中に充填し、包装し、殺菌する。納品後、外科医は脱水ハイドロゲルフィラメントをワイヤまたは他の押し具を用いてマイクロカテーテルまたはカテーテルに押し込む。次に、脱水ハイドロゲルフィラメントをマイクロカテーテルまたはカテーテルで塞栓部位に進ませる。
【0049】
一実施態様では、本明細書に記載されるハイドロゲルは、実質的にアクリルアミドを含まない。従って、実質的にアクリルアミドを含まないハイドロゲルは、ハイドロゲル全体あたり約1%(重量/重量%)未満のアクリルアミドを有する。他の実施態様では、アクリルアミドはハイドロゲル全体の約0.5%未満または約0.01%未満である。
【0050】
他の実施態様では、ハイドロゲルは非生体再吸収性または実質的に非生体再吸収性である。本明細書中で用いられる「非生体再吸収性」ハイドロゲルは生物適合性であり、通常の生化学経路の作用によるインビボ分解を受けない。一実施態様では、ハイドロゲルは実質的に非生体再吸収性であり、移植の1年後に95%超が変化していない。他の実施態様では、実質的に非生体再吸収性のハイドロゲルは1年後に90%強が変化していない。
【0051】
さらに別の実施態様では、ハイドロゲルは生体再吸収性である。これは、ハイドロゲルが生物適合性であり、通常の生化学経路の作用によってインビボで分解することを意味する。一実施態様では、ハイドロゲルは生体再吸収性であり、移植の1年後に5%未満が変化しないで残っている。他の実施態様では、ハイドロゲルは生体再吸収性であり、移植の2年後に5%未満が変化しないで残っている。他の実施態様では、ハイドロゲルは生体再吸収性であり、移植の5年後に5%未満が変化しないで残っている。
【0052】
本記載による別の実施態様では、回収可能な塞栓デバイスが必要とされる。これらの場合には、接着法、かしめ法、または当分野で既知の他の手段によって脱水ハイドロゲルフィラメントにカプラを取り付ける。カプラによって送達押し具への取り付けが可能になる。送達押し具に取り付けた後、脱水ハイドロゲルフィラメント/送達押し具構築物を包装し、殺菌する。納品後、外科医はデバイスをマイクロカテーテルまたはカテーテルの中に導入し、塞栓部位まで進ませる。外科医は、適切に配置されるまでデバイスを押し引きすることができる。このとき、外科医は脱水ハイドロゲルフィラメントを送達押し具から脱着し、送達押し具をマイクロカテーテルまたはカテーテルから取り外すことができる。
【0053】
別の実施態様では、流体支援注入可能塞栓デバイスを用いる。この場合、脱水ハイドロゲルフィラメントを導入器に充填し、包装し、殺菌する。納品後、外科医は食塩水または他の生理溶液で満たした注射器を用いて乾燥ハイドロゲルフィラメントをマイクロカテーテルまたはカテーテルの中に注入する。ハイドロゲルフィラメントを水和させることに加えてハイドロゲルフィラメントをカテーテルの中で進ませる上で助けとなるように食塩水または他の生理溶液を用いる。次に、続く注入によって脱水ハイドロゲルフィラメントをマイクロカテーテルまたはカテーテルで塞栓部位まで進ませる。
【実施例】
【0054】
以下は、本明細書に記載されている可視化剤を有するハイドロゲルの生物医学的利用のいくつかの非限定的な実施例である。しかし、この材料が本明細書に示されている特定の実施例に加えて多くの他の医療および非医療用途を有することは自明である。
【0055】
(実施例1)
PEG1000ジアクリルアミドの調製
最初に、200mLのトルエンとの共沸蒸留によって18gのポリエチレングリコール(PEG)1000を脱水した。次に、7.0mLのトリエチルアミンを4.6mLのメシルクロリドとともに加えて4時間撹拌した。次に、この溶液をろ過して塩を除去し、溶媒を蒸発させた。得られた生成物を150mLの25%アンモニア水酸化物に加え、2日間撹拌した。水を取り除き、トルエンとの共沸蒸留によって生成物を脱水した。得られた無水PEGジアミンを20mLのジクロロメタンおよび50mLのトルエンに溶かした。次に、7.0mLのトリエチルアミンおよび4.9mLのアクリロイルクロリドを加え、撹拌しながら4時間反応させた。得られた溶液をろ過し、溶媒を除去してPEG1000ジアクリルアミドを得た。
【0056】
(実施例2)
放射不透過モノマーの調製
最初に、9gのトリヨードフェノールをアルゴン下150mLのジクロロメタンに溶かした。次に、撹拌しながら3.15mLのペンテノイルクロリドを加えた。次に、トリエチルアミンをゆっくり加え、4時間撹拌した。この溶液を100mLの水で洗浄し、蒸発乾固させて2,4,6−トリヨードフェニルペンタ−4−エノエートを得た。
【0057】
(実施例3)
クロロホルム中の放射不透過ハイドロゲルフィラメントの調製
有機溶媒中の放射不透過ハイドロゲルを調製するために、2gの2,4,6−トリヨードフェニルペンタ−4−エノエート、0.67gのアクリル酸、1.2gのPEGジアクリルアミド400、24mgのN,N−メチレンビスアクリルアミド、および75mgのアゾビス(2−メチルプロピオニトリル)を2.5mLのクロロホルムに溶かした。次に、溶液にアルゴンを10分間吹き込んだ後、3ccの注射器を用いて0.020インチのポリエチレン管の中に注入した。チューブの両端を熱で封止し、80℃のオーブンの中に一夜置いて溶液を重合させた。
【0058】
(実施例4)
バリウム充填放射不透過ハイドロゲルフィラメントの調製
有機溶媒中のバリウム充填放射不透過ハイドロゲルを調製するために、7gの硫酸バリウム、0.5gのアクリル酸、5gのポリ(テトラメチレンオキシド)ジアクリルアミド1000、1.25gの2−ヒドロキシエチルメタクリレート、212mgのN,N−メチレンビスアクリルアミド、および100mgのアゾビス(2−メチルプロピオニトリル)を3.5mLのイソプロピルアルコールに溶かした。次に、溶液にアルゴンを10分間吹き込んだ後、3ccの注射器を用いて4mmのマンドレルの周りにかぶせた0.010インチのHYTREL(登録商標)管の中に注入した。チューブの両端を熱で封止し、100℃の湯浴中に1時間、次に80℃のオーブン中に一夜置いて溶液を重合させた。
【0059】
(実施例5)
水中の放射不透過ハイドロゲルフィラメントの調製
水中の放射不透過ハイドロゲルを調製するために、5gの2,5−アクリルアミド−2,4,6−トリヨード−n,n’−ビス−(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミド、1.33gのアクリル酸、2.5gのPEGジアクリルアミド400、50mgのn−ビニル−2−ピロリジノン、および100mgの2,2’アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩を10mLの水に溶かした。次に、この溶液にアルゴンを10分間吹き込んだ後、3ccの注射器を用いて0.020インチのポリエチレン管の中に注入した。チューブの両端を熱で封止し、80℃のオーブンの中に一夜置いて溶液を重合させた。
【0060】
(実施例6)
放射不透過ハイドロゲルフィラメントの洗浄および酸処理
実施例3に従って重合したハイドロゲルの場合には管を3インチ区画に切り、アセトン中に1時間置いた。アセトン中でハイドロゲルはチューブの端を越えて膨脹し、チューブから取り出すことができた。ハイドロゲルをアセトン中で2時間洗浄した。2時間後にアセトンを取り替え、ハイドロゲルをさらに2時間洗浄した。アセトンを除去し、ハイドロゲルを真空オーブン中50℃で2時間乾燥した。
【0061】
実施例4によって重合したハイドロゲルの場合には、管をクロロホルム中20%フェノールの溶液に溶かすことによってハイドロゲルを取り出した。管が溶けた後、フェノール溶液をクロロホルムに取り替え、1時間洗浄した。1時間後、クロロホルムを取り替え、ハイドロゲルをさらに1時間洗浄した。クロロホルムを取り除き、ハイドロゲルを真空オーブン中50℃で2時間乾燥させた。未反応のモノマーをすべて除去するためにハイドロゲルをエタノールの中に12時間置いた。12時間後にエタノールを取り替え、2時間洗浄した。2時間後にエタノールを取り替え、ハイドロゲルをさらに2時間洗浄した。エタノールを除去し、ハイドロゲルを真空オーブン中で12時間乾燥させた。
【0062】
実施例5によって重合したハイドロゲルの場合には、管を3インチ区画に切り、真空オーブン中に50℃で6時間置いた。ハイドロゲルは脱水されるとマンドレルを用いて管から押し出すことができる。ハイドロゲルを水中で2時間洗浄した。2時間後に水を取り替え、ハイドロゲルをさらに2時間洗浄した。水を取り除き、ハイドロゲルを真空オーブン中50℃で2時間脱水した。
【0063】
ハイドロゲルの酸処理は1N塩酸(HCl)中37℃で4時間インキュベーションすることからなっていた。4時間後に酸をデカンテーションして取り除いた。ハイドロゲルを99%イソプロピルアルコール中で1時間インキュベーションして残っていた酸をすべて除去した。ハイドロゲルを真空オーブン中50℃で1時間乾燥して残留イソプロピルアルコールを除去した。
【0064】
(実施例7)
放射不透過ハイドロゲルフィラメントの押し具への取り付け
放射不透過ハイドロゲルフィラメントは、V−TRAK(登録商標)(MicroVention Terumo Inc.,Aliso Viejo,CA)または油圧押し具に取り付けることができる。ハイドロゲルをV−TRACK(登録商標)押し具に取り付けるために0.0022インチのポリ(エチレン)管縫合糸をカプラの中に通した。カプラは、一端を中空にしたチタン円筒体と貫通孔とからなっていた。ポリ(エチレン)管縫合糸が引き抜かれてしまわないように結び目をつくった。接着剤を用いてハイドロゲルを結び目の上でカプラに接着した。ポリ(エチレン)管糸の他方の端をV−TRAK(登録商標)押し具の中に通し、結んだ。
【0065】
ハイドロゲルを油圧押し具に取り付けるためにブリット(bullet)カプラを用いた。接着剤を用いてゲルをカプラの中に接着し、熱収縮性PET管を用いて油圧押し具に取り付けた。
【0066】
(実施例8)
座屈力の測定
動脈瘤嚢の内部に留置する実施例6の放射不透過ハイドロゲルフィラメントの能力を他の現在市販されているコイルと比較するために、さまざまなデバイスの座屈力を測定した。この試験では、大体1インチのデバイスのピースをロウ付けまたはポリ(エチレン)収縮管のどちらかによって約15インチのハイポ管のピースに取り付けた。構成物のハイポ管の端を材料の力のデータを測定するために用いたシステムであるInstron 5543 Single Column Testing Systemに取り付けた。構成物をポリ(カーボネート)ブロックの中の行き止まりのチャネルの中に進ませた。デバイスがチャネルの底に達したら、座屈するように力を加え、対応する力を測定した。
【0067】
【表1】

3種類の現在市販されているコイルシステムを試験し、実施例6の放射不透過ハイドロゲルフィラメントと比較した。試験した第1のコイルはHYPERSOFT(登録商標)白金コイルであった。HYPERSOFT(登録商標)白金コイルは0.012インチの外径および0.002インチの原線維サイズを有する軟白金仕上げコイルである。試験した第2のコイルはMICROPLEX(登録商標)白金コイルである。MICROPLEX(登録商標)白金コイルは0.010インチの外径および0.002インチの原線維サイズを有する白金充填コイルである。HYPERSOFT(登録商標)白金コイルおよびMICROPLEX(登録商標)白金コイルは膨脹可能なハイドロゲルを持たない軟白金らせんコイルである。試験した第3のコイルは、HYDROCOIL(登録商標)10システムであった。HYDROCOIL(登録商標)10システムは0.008インチの外径および0.002インチの原線維サイズを有する白金コイルであり、膨脹可能なポリ(アクリルアミド−co−アクリル酸)ハイドロゲルのジャケットを有し、延伸された白金コイルをオーバーコイルとして有する。
【0068】
放射不透過ハイドロゲルフィラメントと極めて軟らかな白金コイルであるHYPERSOFT(登録商標)白金コイルとの座屈力には統計的に有意な差が観測されなかった。この実験は、放射不透過ハイドロゲルフィラメントが塞栓デバイスに適している軟らかな留置特性を有することを実証した。
【0069】
(実施例9)
曲げ抵抗の測定
測定ベインに取り付けた5gのおもりを有するGurley 4171ET管状試料硬さ試験機を用いて、膨脹していないハイドロゲル試料の曲げ抵抗および注入可能な白金マイクロコイルの曲げ抵抗を得た。試料の長さは1インチであった。3回の繰り返しの平均をそれぞれ以下の表にまとめた。
【0070】
【表2】

結果は、放射不透過ハイドロゲルフィラメントと白金マイクロコイルとの間に相対硬さの差がほとんどないことを例示している。結果は、放射不透過ハイドロゲルフィラメントによって注入可能な白金コイルの可撓性を実現することができることを実証している。
【0071】
(実施例10)
注入可能な放射不透過ハイドロゲルフィラメントの評価
バリウム充填放射不透過ハイドロゲル調合物から構成したデバイスを、屈曲血管に合わせた流れモデルの中で評価した。流れ誘導マイクロカテーテル(Boston Scientific Spinnaker 1.5F)を血管の中に配置した。3ccの注射器を用いてマイクロカテーテルの中に5cmから30cmの範囲の長さのデバイスを注入した。導入、移動、留置、および充填についてデバイスを評価した。導入、移動、および留置について合格を実現するために、インプラントは3ccの注射器を用いて支障なく導入、移動、および留置しなければならない。充填について合格を実現するために、インプラントは0.008インチ白金コイルと同様に屈曲血管の中に充填しなければならない。
【0072】
【表3】

結果は、放射不透過ハイドロゲルフィラメントが模擬使用屈曲路の中に留置することができ、白金コイルなどの他の塞栓デバイスと同様な性能を発揮することができることを例示している。
【0073】
(実施例11)
実験動脈瘤中の放射不透過高分子ハイドロゲルの評価
放射不透過高分子フィラメントによって3つのウサギエラスターゼ動脈瘤を塞栓した。動脈瘤の幅、長さ、およびくびれ部はそれぞれ2.4から3.6mm、4.7から8.8mm、および2.4から4.2mmの範囲であった。マイクロカテーテル(Cordis RAPIDTRANSIT(登録商標),Cordis Corporation,Miami Lake,FL)を動脈瘤嚢の内部に配置した。動脈瘤嚢の中に1つから3つの放射不透過ハイドロゲルフィラメントを留置した。血管造影法は、塞栓の結果として3つの動脈瘤すべての完全な閉塞を示した。塞栓後6週の時点で血管造影法によって3つの動脈瘤すべての完全な閉塞を示した。動脈瘤を回収し、組織学的に処理した。切片は、放射不透過ハイドロゲルフィラメントによる動脈瘤嚢の完全な充填、放射不透過ハイドロゲルフィラメント間の隙間における組織化中/組織化済み線維組織、ならびにマクロファージおよびいくつかの巨大細胞からなる炎症性応答を示した。これらの結果は、放射不透過ハイドロゲルフィラメントを実験動脈瘤の中に留置し、他の塞栓デバイスと同様な異物応答を誘発することができることを示した。
【0074】
特に明記しない限り、本明細書および請求項中で用いられる成分の量、分子量などの特性、反応条件等を表すすべての数は、すべての場合に用語「約」によって修飾されていると理解するべきである。従って、異なる意味を示さない限り、本明細書および添付の請求項中に示される数値パラメータは、本発明によって得られることを追求される所望の特性に応じて変化することがある近似値である。少なくとも、そして、均等物の原理の適用を請求項の範囲に限定する試みとしてではなく、少なくともそれぞれの数値パラメータは、報告される有効数字の桁数を考慮し、通常の丸め技法を適用することによって解釈するべきである。本発明の広義の範囲を示している数値範囲およびパラメータ設定値は近似値であるとはいえ、特定の実施例中に示される数値はできるだけ精密に報告されている。しかし、いかなる数値もそれぞれの試験測定において見いだされる標準偏差の結果として必然的に生じる特定の誤差を固有に含んでいる。
【0075】
本発明を記載する状況で(特に以下の請求項の状況で)用いられる用語「a」、「an」、「the」および類似の指示詞は、本明細書中で特に明記するか状況によって明らかに矛盾しない限り、単数および複数を包含すると解釈するべきである。本明細書中の値の範囲の列挙は、その範囲内に属するそれぞれの個々の値を個別に指す速記法としての役目を有するものでしかない。特に本明細書中に明記しない限り、それぞれの個別の値は、本明細書中に個別に列挙されたかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書に特に明記するかまたは状況によって明らかに矛盾しない限り、いかなる適当な順序で実行することもできる。本明細書中に提示されるあらゆる実施例または例示用文言(例えば「などの」)の使用は、本発明を明瞭にするものでしかなく、別に請求されている本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる文言も本発明の実施に欠かせないいかなる非請求要素を示すものとして解釈するべきではない。
【0076】
本明細書に開示される本発明の代替要素または実施態様のグループ分けは、限定として解釈するべきではない。それぞれのグループの構成員は個別に、あるいは本明細書に見いだされる群の他の構成員または他の要素との任意の組み合せで参照され、請求されることがある。簡便さおよび/または特許化可能性の理由によって群の1つ以上の構成員が群の中に含まれるかまたは群から削除されることがあると予想される。そのような取り込みまたは削除が行われるとき、本明細書は、修飾され、添付の請求項中で用いられるすべてのMarkush群の書面記載を満たしている群を含むとみなされる。
【0077】
本発明を実行するにあたって本発明者が知っている最良の形態を含む本発明の特定の実施例が本明細書に記載されている。もちろん、これらの記載された実施態様に関する変化形は、前述の記載を読めば当業者には自明となる。本発明者は、当業者がそのような変化形を適切なものとして使用すると予測し、本発明者らは、本発明が本明細書に詳しく記載されているものと異なって実施されることを意図している。従って、本発明は、本明細書に添付されている請求項中に列挙されている主題のすべての変更形および均等物を適用可能な法律によって認められているものとして含む。さらに、本明細書中に特に明記するかまたは状況によって明らかに矛盾することが示されない限り、上記に記載の要素のいかなる組み合わせもそのすべての可能な変化形で本発明に包含される。
【0078】
さらに、本明細書全体にわたって特許および印刷刊行物への多数の参照が行われた。上記に引用した参考文献および印刷刊行物のそれぞれは、参照によってそれらの全体が本明細書中に個別に組み込まれる。
【0079】
最後に、本明細書に開示されている本発明の実施態様は本発明の原理を例示するものであることを理解するべきである。使用されることがある他の変更形は本発明の範囲内にある。従って、例としてではあるが限定としてではなく、本明細書の教示に従って本発明の代替構成を利用してよい。従って、本発明は、示され記載されたものに厳密に限定されるものではない。
【0080】
本明細書に開示されている特定の実施態様は、からなる、またはおよび基本的にからなるという文言を用いて請求項中でさらに限定されることがある。請求項中で用いられるとき、出願されたものであろうと補正によって追加されたものであろうと、移行語「からなる」は、請求項中に特定されていない要素、ステップ、または成分をすべて除外する。移行語「基本的にからなる」は、請求項の範囲を特定された材料またはステップ、および基本的および新規な特性(単数または複数)に有意に影響を及ぼさない材料またはステップに限定する。そのように請求される本発明の実施態様は、本明細書中に固有のものとしてまたは明示的に記載され、効力を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、
エチレン系不飽和モノマー、および
可視化剤
を含む移植のためのデバイスであって、支持部材を含まないデバイス。
【請求項2】
前記マクロマーは、約100グラム/モルから約5000グラム/モルの分子量を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ハイドロゲルは、環境応答性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記マクロマーは、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記エチレン系不飽和モノマーは、1つ以上のイオン化可能な官能基を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記エチレン系不飽和モノマーは、N、N’−メチレンビスアクリルアミド、N−ビニルピロリジノン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記可視化剤は、単一の不飽和点および少なくとも1つのヨウ素原子を有する芳香環を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記可視化剤は、酸化ガドリニウムまたは酸化鉄を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記エチレン系不飽和モノマーおよび前記可視化成分は、2,4,6−トリヨードフェニルペンタ−4−エノエート、5−アクリルアミド−2,4,6−トリヨード−n,n’−ビス−(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミド、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記マクロマーおよび前記モノマーは、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、それらの誘導体、またはそれらの組み合わせを用いて架橋される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記イオン化可能な官能基は、塩基性基または酸性基を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記イオン化可能な官能基は、アミン基、その誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記酸性基は、カルボン酸、その誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記ハイドロゲルは、実質的にアクリルアミドを含まない、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記ハイドロゲルは、実質的に非生体再吸収性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記ハイドロゲルは、生体再吸収性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
a)2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、可視化剤、および溶媒を一緒にしてプレポリマ溶液を調製するステップ、および
b)前記プレポリマ溶液を処理して生理条件下で膨脹可能なハイドロゲルを調製するステップ
を含む動物における移植のためのデバイスを調製するための方法。
【請求項18】
前記溶媒は、水、ジクロロメタン、アセトン、イソプロピルアルコール、エタノール、またはそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマーは、約100グラム/モルから約5000グラム/モルの分子量を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記エチレン系不飽和モノマーは、イオン化可能な官能基を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記溶媒は、前記プレポリマ溶液の約20%重量/重量から約80%重量/重量を構成する、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記モノマーは、重量で前記プレポリマ溶液の約40%から約80%を構成する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記プレポリマ溶液に第2のエチレン系不飽和モノマーを加えるステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記イオン化可能な官能基は塩基性基を含み、前記処理するステップはpKaより大きなpHにおいて前記塩基性基を脱プロトンすることまたは前記塩基性基のpKaより小さなpHにおいて前記塩基性基をプロトン化することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記イオン化可能な官能基は酸性基を含み、前記処理するステップは前記pKaより小さなpHにおいて前記酸性基をプロトン化することまたは前記酸性基の前記pKaより大きなpHにおいて前記酸性基を脱プロトンすることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
約100グラム/モルから約5000グラム/モルの分子量を有する2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー、
エチレン系不飽和モノマー、および
可視化剤
を含む動物における移植のためのデバイスであって、金属支持部材を含まないデバイス。

【公表番号】特表2011−507637(P2011−507637A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539913(P2010−539913)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/087846
【国際公開番号】WO2009/086208
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(308016264)マイクロベンション, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】