生物学的な高速解析および高速識別のための、PCRを使用しない試料調製および検出システム
【解決手段】 本明細書では、生体試料調製および分析システムを提供しており、この生体試料調製および分析システムは、生物脅威に対する多重検出のための高速で携帯型の頑健な検出システムであり、劣悪な環境での操作用に耐久性を高めることが可能である。組み合わせプローブ分析(Combinatorial Probe Analysis:CPA)と呼ばれる新しい検出方法が当該システムに組み込まれており、この検出方法により検出信頼度は指数関数的に向上する。このタイプの分析は、偽陽性率および偽陰性率を大幅に低減し、また再使用が可能で、特殊な保管要件がない。核酸検出用のハイブリダイゼーションアッセイ最適化において特異度を高める技術的進歩として、多孔質高分子モノリス(porous polymer monolith:PPM)上で行うものも開示している。超高温可溶化プロトコルによる、ウイルス、植物、細菌、および細菌胞子の高速および完全な可溶化の実施についても説明する。本明細書で提供するシステムでは、細菌、ウイルス、およびタンパク質毒素を含む種々の生物剤に対し、高速で高度に多重化された分析を行う能力をもたらす。本明細書で説明するシステムおよびアッセイでは、5分間以下の時間枠で完全に自動化された試料の調製および分析を行える。当該アッセイの単純な設計により、個人用保護具を着用した利用者でも、当該システムを容易に操作することができる。本明細書で開示するシステムは、頑健で、使い方も単純であり、第一対応者コミュニティの目標に対応したものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2006年5月16日付けで出願されたWestらによる米国仮特許出願第60/747,415号「BioPhalanx,A Fully Automated Field Portable Microarray Detection System」(完全自動の携帯型マイクロアレイ検出システムBioPhalanx)に対しても優先権の利益を主張するものである。また、本特許出願は、2006年10月11日付けで出願されたHukariらによる米国仮特許出願第60/829,079号「Disposable Sample Preparation Cards,Methods And Systems Thereof」(試料調製用使い捨てカードとその方法およびシステム)に対しても優先権の利益を主張するものである。さらに、本特許出願は、2007年3月2日付けで出願された国際特許出願第PCT/US07/63229号「Cooperative Probes and Methods of Using Them」(協調プローブおよびそれらを使った方法)に対しても優先権の利益を主張するものである。これらの特許出願の各々については、その全体を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0002】
本研究の一部は、Arcxis Biotechnologiesに付与された米国中小企業革新研究プログラム助成金、契約第NBCHC060031号に基づき、米国国土安全保障省により資金提供されたものである。
【0003】
本発明は、伝染病その他の生物剤などの生物学的実体を検出および識別するための、マイクロ流体システムと、核酸および他の生体分子を処理する方法との分野に関する。
【背景技術】
【0004】
生物剤の検出および識別は、これまで中央研究室での分析用途向けに大幅な進歩を遂げてきた。しかし、現在、劣悪な環境で使用できる費用効果の高い技術は、存在してもほんのわずかである。劣悪な環境としては、第一対応者のいる環境などがある。非常時に対応者が生物剤を検出する状況で最も一般に使用される手段は、pHやタンパク質の有無など、試料の大まかな特性しか判断できないアッセイまたは装置に限られている。そのため、生物学的に脅威となる複数の生物剤を高速(5分未満)、高特異度(偽陽性率が低い)、及び高感度で(フェムトモル(fM))識別するシステム、特に携帯型システムが必要とされている。また、労力のかかる配設を必要とせずに、開梱から動作まで5分未満で迅速に構築および配備できる適切なシステムも必要とされている。さらに、そのシステムは、特殊な保管措置(冷却など)を必要としないことが望ましい。
【0005】
複雑な背景において、生物剤を検出および識別する能力は容易く実現できるものではない。生物学的解析の性質上、複数の工程を使用しなければならない(Broussard 2001。Drosten、Kummererら 2003)。現在、信頼性の高い解析および識別に必要な工程は、高度な訓練を受けた専門家が行わなければならない。生体物質の標準的な卓上分析には、通常、生物剤溶解(溶菌)(当該物質に細胞生物が含まれる場合)、巨大分子(DNAまたはタンパク質)の抽出または増幅、(汚染)除去、および誘導体化が伴い、そのすべての後で解析的分析および付加的なデータ処理が行われる。これらの各工程は、試料の劣化および/またはデータ損失を抑えるため、高度に制御された一連の作業を必要とする。残念ながら、現行ではこれら各作業は長時間を要し、またコスト高である。第一対応者に関しては、意図的な若しくは意図的でない有害生体物質の放出により負傷者が増えないよう、事件現場におけるリアルタイムの分析が非常に重要である。可搬型(携帯型)検出装置はこれまでも開発されてきたが、これらの装置の多くは、依然として複雑な生化学システム(すなわちPCR)に依存しており、劣悪な事件現場環境で使用するには不安定である(Emanuel,Bellら、2003)。そのため、偽陽性識別率を抑えるため必要な複雑な工程セットを組み込んだ生物剤分析システムが必要とされている。望ましいシステムは、落下試験に耐える使いやすいものでもある。
【0006】
このため、頑健で使いやすく、複雑な機能的要件の組み合わせを実現できる(特異度、汚れた試料の取り扱い、自動、高感度、広範囲な多重能力など)システムが必要とされている。適切なシステムには、(1)信頼性の高い生物剤識別のための頑健で新規性のあるアッセイ、(2)技術的に優れた試料取り扱い・検出プラットフォーム、という少なくとも2つの基本的な構成要素が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、ハイスループットで低容量のマイクロ流体蛍光検出プラットフォームに伴う問題を克服するため、多重アッセイを実施することができる。本発明では、一体化された種々の構成要素を含むシステムを提供し、このシステムには、溶解機器と、一連のポンプおよびバルブを有する流体操作構成要素と、熱制御領域を備えたキャピラリーと、光子を提供する照明器と、前記キャピラリーと光学的に通信可能な検出器とが含まれる。本発明では、一体化した試料調製および離散モノリシックマイクロアレイ装置を使って、生物学的に脅威となる生物剤を実質的に瞬時に検出することができる。
【0008】
本発明は、蛍光に基づいたハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析システムを提供し、当該試料調製および分析システムは、生体試料を受容可能な試料収集チャンバーと、前記試料収集チャンバーと液体流通可能な溶解(溶菌)チャンバーと、前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイと、前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイとの間にあり、双方と液体流通可能な、任意に選択される導管と、前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせと液体流通可能な試料調製モジュールであって、前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせの温度を制御できるものである、前記試料調製モジュールと、前記直線状のマイクロ流体アレイと光学的に通信可能な光学的励起および検出システムとを有する。前記試料収集チャンバー、前記溶解チャンバー、および前記任意に選択される導管は、カードタイプの装置に一体化することができる。また、前記直線状のマイクロ流体アレイは、前記カードタイプの装置に設けられた流体吐出ポートに押し嵌めできるカートリッジ上に配置できる。いくつかの実施形態において、前記直線状のマイクロ流体アレイは、核酸プローブを結合させる基板として、多孔質高分子媒体を有することができる。他の実施形態において、前記直線状のマイクロ流体アレイは、約250ミクロンより幅狭の直線状の流路を有することができる。また、前記核酸プローブは、1若しくはそれ以上の触手プローブを有することができる。さらに、前記任意に選択される導管は、蛇行した流路を有してもよい。前記直線状のマイクロ流体アレイは、複数の生物有機体に対し特異的な複数の触手プローブを有することができる。同様に、前記光学的励起および検出システムは、励起光子源により前記マイクロアレイを走査(スキャン)して前記直線状のマイクロアレイ上の個々の検出プローブを空間分解できるスキャナを有することができる。前記スキャナは、直線状のマイクロアレイ面積1平方ミクロンあたり約0.05色素分子〜約1色素分子を適切に分解(分離)することができる。
【0009】
本発明では、1若しくはそれ以上の標的生物有機体を識別する方法も提供し、この方法は、熱溶解チャンバー内の1若しくはそれ以上の生物有機体から1若しくはそれ以上の細胞または胞子を溶解して溶解物を生じさせる工程であって、当該溶解により前記1若しくはそれ以上の生物有機体から核酸を生させる、前記生じさせる工程と、前記溶解物から前記核酸をフィルタリングする工程と、前記核酸を直線状の多孔質マイクロアレイに輸送する工程であって、当該直線状の多孔質マイクロアレイは前記標的生物有機体各々からの核酸の少なくとも一部をハイブリダイズすることが可能な、空間配置された複数のプローブを有するものである、前記輸送する工程と、前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸を前記プローブのうち少なくとも1つにハイブリダイズさせる工程と、前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸にハイブリダイズした前記プローブを励起する工程と、前記直線状のマイクロアレイ上の前記励起されたプローブのうち少なくとも1つの空間位置を検出する工程と、前記直線状のマイクロアレイ上における前記励起されたプローブの空間位置と、前記細胞または前記胞子の少なくとも1つの識別結果とを相関させる工程とを有する。一部の実施形態において、前記直線状のマイクロ流体マイクロアレイは、標的被検出物の検出のために空間分解される区別可能な(異なる)プローブを少なくとも2つ有する。他の実施形態において、前記直線状のマイクロアレイは多孔質媒体を有し、これにより前記1若しくはそれ以上の標的生物有機体からの核酸の拡散時間は短縮され、当該核酸は前記プローブとハイブリダイズされるものである。また、試料中の複数の被検出物を試験するための空間配置された複数の検出プローブも提供される。
【0010】
本発明では、ハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析カードも提供し、この試料調製および分析カードは、生物試料を受容可能な溶解チャンバーと、前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイであって、多孔質媒体に結合した1若しくはそれ以上の触手プローブを有するものである、前記直線状のマイクロ流体アレイと、前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイとの間にあり、双方と液体流通可能な任意に選択される導管とを有する。前記直線状のマイクロ流体アレイは、着脱可能なカートリッジ内に設けられていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以上の要約および以降の詳細な説明は、添付の図面を参照することで、さらに明確に理解される。本発明を例示する目的で本発明の例示的な実施形態を図面に示すが、本発明は、開示している具体的な方法、組成、および装置に限定されるものではない。
【図1】図1は、本発明の試料調製および分析システムの一実施形態の上面斜視図である。
【図2】図2は、本発明の試料調製および分析システムの一実施形態の上面斜視図であり、当該一実施形態の内部構成要素のレイアウトを示したものである。
【図3】図3は、試料収集および溶解チャンバーの一実施形態の斜視図である。
【図4】図4は、種々の超音波処理出力で細菌胞子を破壊する能力を実証したものである。
【図5】図5は、胞子溶解の最適条件を示したチャートである。
【図6】図6は、manothermosonication(圧力・熱・超音波処理)後の溶解物のDNA断片サイズの最適化を強調表示したスラブゲルである。
【図7】図7は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態の上面斜視図である。
【図8】図8は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態の側面斜視図であり、当該一実施形態の励起および検出モジュールを詳しく示したものである。
【図9】図9は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態の斜視図であり、当該一実施形態のマイクロ流体チップと、マイクロアレイチップおよびライザーを組み合わせた別の実施形態とを詳しく示したものである。
【図10】図10は、本発明の試料調製および分析システムに使用するマイクロ流体チップ内で、プローブ付着に使用される多孔質高分子モノリスの製作に関した本発明の一実施形態である。
【図11】図11は、本発明の試料調製および分析システムで使用するよう開発されたアッセイの1つに関する本発明の組み立て済み一実施形態である。
【図12A】図12は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態であり、一体化されたラップトップコンピュータを取り外した未完全な状態および取り付けた完全な状態の双方を示している。
【図12B】図12は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態であり、一体化されたラップトップコンピュータを取り外した未完全な状態および取り付けた完全な状態の双方を示している。
【図13】図13は、本発明の試料調製および分析システムを制御できるコマンド制御ソフトウェアシステムの組み立て済み一実施形態である。
【図14】図14は、本発明の試料調製および分析システムを制御できる適切なコマンド制御ソフトウェアシステムの組み立て済み一実施形態を示した図である。
【図15A】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15B】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15C】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15D】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15E】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図16】図16は、直線状の多孔質マイクロアレイ上にある前記プローブを励起する上で適した光学システムを示した図である。活性化したプローブからの蛍光の検出も示している。
【図17A】図17A〜Cは、直線状の多孔質マイクロアレイを有した分子捕捉カートリッジの正面図、斜視図、および側面図である。
【図17B】図17A〜Cは、直線状の多孔質マイクロアレイを有した分子捕捉カートリッジの正面図、斜視図、および側面図である。
【図17C】図17A〜Cは、直線状の多孔質マイクロアレイを有した分子捕捉カートリッジの正面図、斜視図、および側面図である。
【図18】図18は、前記直線状の多孔質マイクロアレイに結合した蛍光プローブの位置を走査および検出するよう前記光学システムを連結する上で適した単一軸スキャナの一実施形態を示した図である。
【図19】図19は、キャピラリー体積分のmRNAを1回注入したのち、捕獲および放出を行った結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ハイスループットの生物学的分析を行うには、マイクロ流体を扱う構成要素および方法が使用される。現在必要とされている改善されたシステムおよび方法は、高速、高特異度、および高感度のアッセイ方式を、前段階の頑健な試料調製と、厳しい環境での使用に適した最終段階の検出とを行うプラットフォームに統合したものである。不使用状態で時に数か月待機でき、必要時には5分以下で稼働状態にできるシステムが必要とされている。例えば、(1)試料収集、(2)充填、および(3)開始の3つの工程段階で、作業者が分析を行えるようにする試料調製および分析システムが必要とされている。また、報告された情報(測定値)に基づいて、結果を大きく左右する重大な意思決定を行わなければならないため、当該システムのアッセイの高特異度および高信頼性に対する要求は厳しい。これらの技術的要件は、例外的に頑健なアッセイおよびシステムでも望まれる。そのため、以下の特徴を備えることのできるシステムおよびアッセイ方法を開発することが必要とされている。
【0013】
隣人からの脅威を高い信頼性で識別する能力。
【0014】
複雑な若しくは汚れた試料からの試料を分析する能力。
【0015】
外部の試料調製工程なしで分析を行う能力。
【0016】
ウイルス、細菌、タンパク毒素を含む10以上の生物剤に対する多重アッセイ。
【0017】
特殊な保管要件がないアッセイおよびプラットフォームの開発。
【0018】
特定の有機体を高い信頼性で検出および識別する能力は、選択するアッセイに応じて異なる。高速検出アッセイプラットフォームでは、従来、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)による方法論が使用されてきた。しかしながら、第一対応者シナリオでのPCR使用には、大きな欠点がいくつかある。第1に、PCRアッセイの特異度は選択するプローブに応じて異なる。すなわち、すべての有機体のDNAがマップされるまで、単一プローブを完全に信頼することはできない。偽陽性率を低減するため複数のプローブを使用することが多いが、これは単に真の陽性率(感度)を向上させるだけである。第2に、PCRアッセイは酵素に依存するため、正確な結果を得るには試料の汚れを取り除く必要があり、試料が汚れていると酵素反応が抑制され、代償の大きい偽陰性結果につながるおそれがある。第3に、PCRアッセイに使用される試薬は再使用できず、特殊な保管条件を要するため、アッセイの維持管理には労力およびコストがかかる。PCRアッセイの上記制限に対処するには、当該システムは、偽陽性率を低減するため統計的に実証する必要があり、汚れた試料を扱えなければならず、また使用および維持が安価でなければならない。しかし、適切なシステムおよびアッセイに、必ずしもPCRを使用する必要はない。
【0019】
隣人からの脅威を高い信頼性で識別する能力
本明細書において組み合わせプローブ分析(Combinatorial Probe Analysis:CPA)と呼ぶ新しい検出方法は、本願発明者らの少なくとも一部により開発されたもので、Westらによる2007年3月2日付けで出願された「Cooperative Probes and Methods of Using Them」(協調プローブおよびそれらを使った方法)国際特許出願第PCT/US07/63229号(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)で開示されている。これらの方法では、同じ有機体用に複数のプローブを使って同じ標的DNAを調べ、統計的感度を指数関数的に向上させることができる。前記アッセイでは、超高速ハイブリダイゼーション率が保たれ、組み合わせプローブ、または単に複数プローブの均一な混合物を調製する点で、マイクロアレイなどの従来のプラットフォームと異なる。このアッセイでは、単一の遺伝子または核酸を検出するよう設計された複数の捕捉プローブを使用する。これらのプローブは、多孔質高分子モノリシック(porous polymer monolithic:PPM)材料を含んだマイクロチャネル(マイクロ流路)の離散領域に配設できる。核酸プローブの配列および構成により、選択的な配列について特異度および信頼性の高い探査が可能になる。この構成では、溶液中でハイブリダイズして単一の核酸配列になる最低2つの核酸配列が提供される(図11)。プローブ同士が近接していることにより、異なるヌクレオチド配列をそれぞれスクリーニングする複数のプローブに、単一のポリヌクレオチドが結合可能である。この構成を使うと、ハイブリダイゼーション率と、良好に結合するヌクレオチド数とが増加する(偽陰性率が低下するなど)。最も重要なことは、偽陽性率が統計的に低下する点である。CPAの利点は、同じ標的DNAについて2若しくはそれ以上の合致が必要であるため、偽陽性率をほぼ排除できることである。この能力は、試料調製および分析システムの2つの技術的特徴から生じるものである。
【0020】
偽陽性率を低減する特徴の1つは、離散(不連続な)マイクロ流体領域に検出プローブを位置付けた結果生じる。この構成では、捕捉プローブ同士の近接性により、偽陽性検出が劇的に減少する。偽陽性率の低減では、特にコンピュータシミュレーションによるランダマー(randomer)生成を使った統計モデルを導入して、偽陽性率を決定する。このモデルは、2項分布の確率質量関数を適切に使って、真にランダムな(無作為の)配列を導入するもので、各塩基対には25%の存在確率が与えられる。このモデルでは、統計設定に単一のヌクレオチドミスマッチ(不一致)を導入できるほか、使用するプローブおよびDNA標的の長さ、ランダマーの数、およびプローブの数を制御することができる。このモデルでは、次に、従来の分析方法(分析領域あたり単一プローブ)と、我々が提案する特定位置での組み合わせプローブ方法とを比較する。このモデルでは、20bpのプローブを、最大1塩基対のミスマッチを許可して使用した。このモデルにより、2つのプローブを使うと、前記CPA方法と比べ、前記従来の方法で偽陽性を見つける確率が590,000倍高まることが実証された。前記2つの方法をさらに比較すると、CPAを使用する各プローブについて、従来のアッセイでは、同じ偽陽性率低下を実現するのに18の異なるプローブが必要である。
【0021】
偽陽性率を低減する第2の技術的特徴は、標的とプローブの熱力学的相互作用に対する近接プローブの効果である。簡潔に言えば、組み合わせプローブの結合部位間の距離を制御すると、ハイブリダイゼーションの融解温度が上昇して、非特異的な標的−プローブ相互作用が減少する。ヌクレオチド配列が長いほど、ギブスの自由エネルギーに大きな変化が生じ、融解温度が上がる。例えば、20bp配列の場合、ΔGは25kcal/molであるのに対し、40bp配列の場合は約55kcal/molになる。一実施形態では、単一の塩基対により40bp配列が中間部で分離されて、55kcal/molに近いΔGが生じる。特定の作用理論に制限されるわけではないが、この自由エネルギーの変化は、反応から生じる実際のエネルギー量のほか、当該反応が起こる確率にもよる。これと対照的に自由溶液中のヌクレオチド配列の場合、正しい配向およびエネルギーを伴ったプローブに当たる確率は比較的小さい。しかし、一度ヌクレオチド配列がプローブに結合すると、残りの配列は0.34nm/塩基対にほぼ等しい既知の距離で繋留されて、反応球に制限が生じる(HoldenおよびCremer、2005)。組み合わせプローブは、標的ヌクレオチド濃度を効果的に上昇させ、エントロピー作用を弱める。すなわち、組み合わせプローブを離散マイクロ流体領域の結合サイトに配置すると、その近傍でDNAが当該プローブと反応する確率が高まる。これによりΔGは増加し、その結果、融解温度も高まる。100bpの標的配列を分離する場合、第2の結合事象に関する半球形の反応体積は半径34nmと推定される。これにより被検出物の濃度が効果的に5桁増加し、結果的に融解温度が約10℃変化する。CPAを使うと、制御可能な温度に基づいたヌクレオチド配列の弁別が可能になり、偽陽性および偽陰性の検出事象が大幅に減少する。
【0022】
核酸検出のためのハイブリダイゼーションアッセイ最適化では、これまで特異度を高める技術的進歩が見られている(West,Hukariら、2004)。これらのハイブリダイゼーションアッセイでは、マイクロ流体チップやガラスキャピラリーなど、マイクロチャネル内で形成された新規性のある多孔質高分子モノリシック(PPM)材料を使用している。単一のハイブリダイゼーションに最高14時間を要する標準的なマイクロアレイプラットフォームと比べ(Li,Guら2002)、Arcxis Biotechnologiesチームが開発したマイクロチャネルベースのPPMアッセイは、同じハイブリダイゼーションをわずか2秒間で行う。これは、プローブの表面積を増やし、拡散距離を縮めることにより実現できる。また、希釈配列は核酸およびタンパク質のバックグラウンドが高い状態から精製されるため、核酸の単離は特異度が高いと見られる。これらの能力を使うと、前記アッセイプラットフォームは、アッセイ速度、感度、および特異度など、現在のアッセイプラットフォームに重要な進展をもたらす。例示的なアッセイプラットフォームは、偽陽性の検出事象を低減できるものである。
【0023】
要約すると、前記CPAハイブリダイゼーションアッセイには、他の分子診断アッセイと比べ、いくつかの著しい利点がある。それらの利点には、以下が含まれる。
【0024】
当該アッセイの実施形態は、酵素反応(PCR)を必要としない。PCRでは環境試料または血液試料から酵素阻害物質を除去することが非常に重要であるが、当該アッセイでは、そのような時間と労力を要する試料の汚染除去が不要である。
【0025】
当該アッセイの実施形態は、偽陽性率が低い。前記CPAアプローチを利用し、この検出戦略をモデル化することにより、偽陽性率は、標準的な免疫アッセイ、PCR、および他のマイクロアレイプラットフォームに現在使用されている単一プローブ構成よりほぼ4桁低下した。このCPA法では、さらに、二重結合プローブに伴う自由エネルギーのシフトにより非特異的結合事象を変性させる能力が可能になる。
【0026】
当該アッセイの実施形態は、極めて高速である。多孔質高分子モノリスで実証されたハイブリダイゼーションアッセイの実施に必要な時間は、わずか2秒間以下である(図3)。これと同様な反応速度論は、前記組み合わせアッセイアプローチでも可能になる。
【0027】
当該アッセイの実施形態は、高感度である。本発明の試料調製および分析システムを使用することにより、多孔質高分子モノリス(porous polymer monolith:PPM)の特定領域でわずか1〜10pgの核酸が検出された。このレベルの感度は、卓上用に設計された他の標準アッセイプラットフォームに匹敵するものである。また、当該アッセイは、貫流モードで動作でき、1つの位置で検出可能なレベルまで濃縮を行う能力を備えている。
【0028】
複雑な若しくは汚れた試料からの試料を分析する能力
携帯型(可搬型)センサープラットフォームの開発における課題の1つは、実地での前段階作業を可能にすることである。前段階で遭遇する技術上の課題は、分析プラットフォームへの試料導入である。近年、飲料水中のタンパク質の自律的検出用に携帯型センサーが開発および配備された(West,Harlodsenら、2005)。このシステムの試料収集装置では、関心のある被検出物を直接分析プラットフォームに導入できるが、大きな粒子の導入が制限される。1か月余りにわたる実験室外での実地試験の結果により、当該システムでは、試料収集プローブの障害なく試料を収集および分析できることが明らかになった。(本明細書で)提案するシステムの技術的課題は、同様なものである。しかし、(従来システムとの)大きな違いの1つは、(本開示で)提案する装置の試料収集システムは、有害な環境で必要とされる個人用保護具により作業者が巧みに手作業を行えない場合も操作が可能な点である。このシステムでは、利用者が収集バイアルに試料を入れ、その試料バイアルを分析系統に挿入できるよう、試料収集システムを設計することができる。前記試料バイアルには、試料の調製および分析用の緩衝液など、必要な試薬をすべて含めてよい。利用者は、単に前記バイアルで試料をすくって激しく振盪し、試料収集ユニットに含まれる試薬と内容物を混合するだけである。前記バイアルは、当該分析システムへの粒子導入を制限する膜を含むことにより、携帯型分析プラットフォームに一般的な故障モードである、泥土や砂その他5μmを超える物質など大きな粒子による試料調製分析系統の目詰まりを克服することができる。この試料収集システムを使うと、利用者は、乾燥した試料または液状の試料を試料バイアルで収集および混合し、これを分析系統に挿入することができる。これにより完全に自動化された態様で、前記バイアルから試料を取得し、ろ過した試料を分析用に調製することが可能になる。
【0029】
外部の試料調製工程なしで分析を行う能力
本発明のシステムの一実施形態は、操作が単純で、利用者は5工程未満で分析を実施することができる。これらの工程には、試料をバイアルに入れ、前記バイアルを充填したのち、ボタンを一度押すだけで分析を行うなどの操作が含まれる。次に、利用者は、既存のバイアルを取り出してリセットを行い、またはパージ機能を実施して、次の分析を開始する。例示的なシステム(図1)では、充填シリンジ内に試料を引き入れたのち、前記試料をマイクロ流体チップ上に移動させて分析する。前記マイクロ流体チップには、ライザー領域およびPPM領域を含めることができる。このマイクロ流体チップは、10〜15回の分析に相当する耐用期間を有することができ、これは1回の実地調査で必要な分析回数にほぼ等しい。当該システムでは、単純な2段階工程で前記チップ構成要素を交換することができる。
【0030】
前記試料収集バイアルの挿入後に分析を行うには、収集した試料を前記充填シリンジ内に引き入れ、そこで当該試料を分析用に調製する。試料は、まず細胞内の巨大分子を分析用に遊離させるための熱溶解(thermal lysis)を経る。この熱溶解プラットフォームでは、最も頑健な種である細菌胞子を含む種々の有機体を溶解(溶菌)および可溶化することができる。生物剤の熱溶解は、加圧溶液を超高温加熱することにより行われる。試料は、前記PPMによる流量制限により、本プラットフォーム内で加圧される。この試料調製技術は、タンパク質およびDNAの双方を含む種々の分析に使用することができる。細胞内DNAの断片化サイズは、これらの方法で制御できる。この態様で、前記ライザーは、生物剤溶解を行うだけでなく、細胞内核酸の変性/断片化およびタンパク質の可溶化も行う。生物剤溶解を行うと、細胞内の巨大分子はPPMに即適用可能になり、前記CPAプラットフォームを使ってハイブリダイズできる。このハイブリダイゼーション工程中、前記PPMの温度を制御すると、結合動力学作用の最適化を促進できる。ハイブリダイズさせた試料は、試料内の核酸がCPAアッセイのプローブ2と相互作用すると検出される(図1)。標的核酸のプローブ2とのハイブリダイゼーションにより、蛍光を使ったカラムの探査が可能になる。試料は、この分子指標(分子ビーコン)構造を使って検出でき、緩衝液以外の試料の前処理(共有結合標識工程など)は使用してもよいが必要ではない。これにより、利用者は、外部プローブでの標識化など分析プラットフォーム外での調製工程を行うことなく、分析プラットフォームに試料を直接導入する能力を有することができる。
【0031】
ウイルス、細菌、タンパク毒素を含む複数の生物剤に対する多重アッセイ
当該システムに望まれる仕様は、DNAおよびタンパク質の双方を利用して、複数の生物剤を対象として含むよう分析を多重化する能力である。これらの方法およびシステムを使うと、少なくとも2、5、10、20、50、または場合により少なくとも100の生物剤が分析可能になる。多重分析は、前記PPM材料の上にCPA検出領域のアレイを作製することにより実現できる(図1)。前記材料は、その後グリシジルおよびアミンの結合反応を使って官能基化できる(図1および2)。このPPM材料には、例えばオリゴヌクレオチドおよびタンパク質の双方など、種々の検出プローブ分子を配置(成膜)可能である。脅威となる生物剤を対象として高度に多重化した分析を行うには、高密度アッセイが提供される。単一の個別装置内にプローブアレイを選択的に配置(成膜)する工程も提供される。この工程では、捕捉プローブおよび検出プローブのフォトリソグラフィ技術による選択的成膜を使い、この工程により、単一の離散1.0cmマイクロチャネル上に(1000CPAプローブセットを超える)高密度の多重アッセイをもたらすことができる。この工程では、CPAアッセイを使って、密接に関係した有機体グループ間の弁別を行う。このプラットフォームは、Bacillus subtilis(枯草菌)、Bacillus thuringiensis(バチルスチューリンゲンシス)、Bacillus atrophaeus(B.globigii)を含むバシラス属の細菌胞子を区別することができる。病原性および毒素産生性の強い病原体を検出する場合は、各種検出プローブのいずれかを生成することにより、例えば2007年3月2日付け出願済みPCT/US07/63229(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)に開示されている、A、B、およびCの全カテゴリーの病原体について複数のプローブライブラリをコンパイルすることができる。適切なプローブは、非病原性の細菌胞子、病原性の胞子、さらに他の生物剤についても生成することができる。脅威となる生きた生物剤を検出および識別するため、プローブセットを提供することもできる。
【0032】
組み合わせプローブは、タンパク質分析用に提供することもできる。タンパク質結合は、ポリヌクレオチドと同様、前記第2の結合事象について、より高いΔGを呈する。タンパク質用のデュアルプローブ(2プローブ)結合アッセイの場合は、ΔGの増加が2倍を超えることもある。空間的次元を3次元から2次元に変更すると、特定の位置でタンパク質の有効濃度が増加するため、前記第2の結合事象の自由エネルギー変化は、第1の結合事象より著しく大きくなる。この能力により、タンパク質およびDNAのアッセイが同じ装置上に組み込み可能になるため、細菌、ウイルス、およびタンパク質毒素を含む任意数の生物学的脅威について、試料を探査する能力が得られる。
【0033】
特殊な保管要件がないアッセイおよびプラットフォームの開発
携帯型(可搬型)装置について技術上考慮すべき点の1つは、分析に使用する試薬の安定性である。本明細書で説明するCPAハイブリダイゼーションアッセイの方法論は、より優れた試薬安定性をもたらす。生体分子の検出で最も一般に使用される試薬は、本質的に不安定である(熱安定性のある酵素および抗体)。(本開示で)提案するプラットフォームは必ずしも活性酵素の使用または熱的に敏感な試薬を必要とするものではなく、当該CPAでは、むしろ精製された複数のプローブを表面に付着させて使用する。種々の核酸に適したPPM材料は、室温で(約6か月を超えるなど)有効期間の長い装置をもたらす。さらに、カラム内の試薬は、乾燥した状態で保管することで検出プローブの劣化を防ぐことができる。この乾燥形態で保管されたこれらの材料は、使用するまで乾燥した状態で室温で数か月保管でき、極めて頑健である。当該プローブ構造は複雑であるため、その試薬はより変化しやすいと考えられる。そのため、試験を行って最適な保管条件を決定することができる。この方法で、最適な検出特性を維持する頑健な試薬を開発することができる。有効期間を延ばすため、使用前の試薬は、直射日光の届かない場所に保管することが望ましい。
【0034】
本明細書に開示する方法およびシステムは、単一の核酸に対し超高速で高感度の検出能力を有する。当該方法では、複数の生物剤に対し、単一の個別装置で高性能で偽陽性率の低い検出が可能になる。本明細書で提供する方法およびシステムは、デュアルプローブ構成に基づいた新規性のあるアッセイを導入するものである。適切なデュアルプローブでは、前述した試料を分析する前に、時間と労力を要する調製(準備)を行う必要がなくなる。次いで、この新規性のあるアッセイを1若しくはそれ以上の本明細書のシステムに組み込むと、頑健な現場使用が可能になる。
【0035】
例示的な実施形態についての詳細な説明
本発明は、本開示の一部を形成する添付の図面および例と併せて以下の発明の詳細な説明を参照することで、より容易に理解されるであろう。本発明は本明細書に説明し示す具体的な装置、方法、条件、またはパラメータに限定されないこと、また本明細書で使用する用語は単に例をとって特定の実施形態を説明するためものであり特許請求の範囲に記載された本発明を限定することを意図したものではないことを理解すべきである。また、添付の請求項を含む本明細書において単数形扱いしている名称は、別段の断りがない限り、複数形も包含し、特定の数値に言及している場合は、別段の断わりがない限り、少なくともその特定の値が包含されることを示す。すべての範囲は、包括的で組み合わせ自在である。そのような範囲で値を表現している場合、異なる別の実施形態は、特定の1つの値から、および/または他の特定の値までを包含する。同様に、直前に「約」、「ほぼ」、「おおよそ」などを伴う近似値として値を表している場合、特定の値は、本発明の範囲内で別の実施形態を形成することが理解されるであろう。
【0036】
マイクロ流体の経路(マイクロチャネル)またはアッセイキャピラリーは、水性試料または気体試料を輸送することができる。通常、それらの流路またはアッセイキャピラリーの内径は、5〜1000ミクロンである。好適な実施形態では、キャピラリーを、照明器および検出器の光学系統に近接させて配置できる。当該キャピラリーは、磁気素子で生成した圧力により定位置に保つことができる。適切な圧力源としては、機械力、加重による力、またはこれらの任意の組み合わせなどがある。
【0037】
前記アッセイキャピラリーまたは流体から発せられた光子の光通信は、当該アッセイキャピラリーと検出器との間の光結合を使って実現できる。適切な光結合としては、光導波路、レンズまたは一連のレンズ、光ファイバーバンドル、透明な(ガラスやプラスチックなどの)ロッド、ファイバープレート、開口部、フィルターセット、またはこれらの任意の組み合わせなどがある。本発明の特定の好適な実施形態では、前記光結合に、一連のフィルターを含んだ一連のレンズが含まれる。適切なレンズでは、1倍〜100倍の光学的倍率が得られ、最も好ましくは10倍〜40倍の光学的倍率が得られる。適切なフィルターでは、励起光の全部または一部をブロック(遮光)し、放射光の全部または一部を通過させることができる。前記照明器および検出の光経路は、ダイクロイック(二色性)フィルターとアッセイキャピラリーとの間で適切に適合される。
【0038】
適切な照明器を、アッセイキャピラリーに隣接させて固定すると、前記アッセイキャピラリー中の被検出物の分子に励起源を提供することができる。一般的な照明系統には、光源、開口部、フィルターセット、および集光部品のうち1若しくはそれ以上が含まれる。適切な光源はフィルターブロックに固定でき、光は開口部で修正できる。適切な光源には、一般に、発光ダイオード(LED)、レーザー、白熱光源、蛍光光源、エレクトロルミネッセンス光源、プラズマ光源、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。本発明の特定の好適な実施形態では、前記照明器にLEDまたはレーザーが含まれる。適切なLEDまたはレーザーでは、いかなる光波長も放射可能である。2若しくはそれ以上の任意タイプ光源を組み合せて付加的な波長分布を提供し、色を混合することもできる。例えば、分割光ファイバーバンドルを2つのLED、2つのレーザー、またはこれらの任意の組み合わせに接続して使うと、光源を組み合せることができる。
【0039】
前記キャピラリーおよび内部試薬を励起光源で照らしたのち、すべての発光が検出される。適切な検出器は、一般に、前記キャピラリーに隣接し若しくは光学的に接続されている。一般的な検出系統には、(被検出物または分子からの)励起光源、開口部、フィルターセット、光収集部品、および適切な光子検出器が含まれる。使用する光子検出器は、検出タイプに応じて選択できる。適切な光子検出器の例には、光電子増倍管(photomultiplier tube:PMT)、アバランシェフォトダイオード(avalanche photodiode:APD)、および電荷結合素子(charge coupled device:CCD)が含まれる。
【0040】
検出の熱制御。システムを熱制御すると、標準的なアッセイ方法だけでなく、新しいアッセイ調査および新規性のあるアッセイ調査の性能を改善することができる。検出前および検出中に前記キャピラリーの温度を制御するには、温度コントローラを含める。前記温度コントローラは、物理的に直接または間接に前記キャピラリーと接触してよく、または前記キャピラリーと放射熱的に接触
してよい。本明細書における「間接的な接触」とは、前記温度コントローラと前記キャピラリーとの間に、プレートやフィルムなど他の材料(物質)が少なくとも1つ介在することを意味する。温度制御は、熱電冷却器(thermoelectric cooler:TEC)、抵抗加熱、気化冷却(蒸発冷却)、熱伝導流体(伝熱流体)、または他の冷却システムなど種々の方法(これに限定されるものではないが)により達成できる。好適な温度制御方法は、TECを使用するものである。温度を精確に制御するには、短時間で加熱または冷却できるよう、TECを前記アッセイキャピラリーに密着させることが好ましい。最も一般には、前記コントローラは前記キャピラリーの温度を約−25℃〜150℃の範囲で調整できる。前記キャピラリーの温度制御は、通常、キャピラリー分離部の温度を下げ、核酸の相互作用およびハイブリダイゼーション中に精確に熱制御を行うため使用される。
【0041】
前記アッセイキャピラリー内の区別可能な(異なる)領域で温度を制御すると、化学反応の実施および最適化に役立つ。この能力により、前記アッセイキャピラリー内の1〜1000の区別可能な領域が個別に制御可能である。より一般には、温度制御領域の数は、約1〜約10の範囲である。好適な実施形態では、別個の温度制御領域が2つある。各TECは、独自の制御盤を有し、加熱および冷却の双方を設定できる。各領域における温度制御は、電圧変化で温度を測定するサーミスタを使って実現できる。
【0042】
本発明の特定の実施形態では、前記アッセイキャピラリーの圧力制御がシステムにさらに含まれる。適切な圧力コントローラには、シリンジポンプ、(界面動電現象を利用した)電気浸透流ポンプ、流量圧力制限、またはこれらの任意の組み合わせを含めることができる。この圧力制御は、前記キャピラリーに直接接続してよい。また一部の場合には、区別可能な領域を熱制御して圧力を制御できる。最も一般には、この圧力制御により0〜32大気圧または0〜300psiの圧力調整が可能である。
【0043】
本発明の種々の実施形態では、本発明のシステムを提供する工程と、マイクロ流体キャピラリーを熱制御する工程と、少なくとも1つの蛍光分子を検出する工程とを含む方法も提供される。
【0044】
本発明の検出システムでは、温度を制御する必要がないだけでなく、圧力、動的流量、および単一プローブでの緩衝液組み合わせなど他の可変量の制御も不要である。上記のとおり、温度はハイブリダイゼーション中に制御されるが、その他の因子も、ハイブリダイゼーションの動力学作用を最適化するよう調整される。当業者であれば、試薬使用量を最小限に抑えるための付加的な最適化が可能であろう。マイクロ流体システムで作業すると、標準的な平ガラスアレイおよびPCRアッセイと比べ、使用する試薬の量を削減する上で役立つ。本発明の装置および方法では、最適な条件でプローブを順次スクリーニング、捕捉、および検出できるようになる。
【0045】
アッセイのタイプ
核酸ハイブリダイゼーション
効率的な核酸ハイブリダイゼーションでは、流体を精確に熱制御する。核酸(nucleic acid:NA)試料は、まず変性させてストランド(鎖)を開き、ハイブリダイゼーションの準備をする。厳密な温度制御、例えば10℃の変化を利用して非特異的なハイブリダイゼーションを防ぐと、20塩基プローブでのミスマッチがわずか1塩基にできる。検出プローブを長くすると、ミスマッチに関する温度差が減少し、非特異的なハイブリダイゼーションの確率が上がる。
【0046】
本発明の検出システムの用途の1つは、核酸(NA)分析である。NAハイブリダイゼーションは、プローブおよび試料により行える。そのプローブは、設定された長さのオリゴヌクレオチドまたはNA塩基鎖であってよい。通常、プローブ長は15〜1000塩基長である。通常、生物剤検出には最大1000のプローブが使用される。試料は、ウイルス、細菌、組織、血液、動物細胞、および植物を含む(これに限定されるものではないが)生体試料から採取される。試料NAの長さは、通常、厳密に制御され、単一塩基対から遺伝子配列全長まで場合により異なる。試料調製により若干のNA制御が可能で、これは20〜10,000基部の範囲であることが多い。試料が500塩基長より長い場合は、ハイブリダイゼーション前に試料を変性させる上で95℃の融解温度が必要になる。プローブが500塩基より短い場合は、非特異的結合の確率が高まる。探査中の試料より短いプローブを使うと、試料NAの複数の無傷部分を探査することができる。
【0047】
プローブは2つの方法で使用することが可能で、その第1の方法では、溶液中でプローブを拡散させて試料NAと相互作用させて使用し、当該プローブは試料全体にわたり分散される。第2の方法では、プローブを固定面に付着させ、そこで試料NAがプローブと接触可能になる。いずれの場合でも、溶液中のプローブおよび試料NAの温度は、非常に特異度の高いハイブリダイゼーション用に注意深く制御される。本発明の進歩性のあるシステムを使用すると、固定されたプローブまたは浮遊するプローブを最適化できる。異なるプローブは、各プローブに伴う塩基とそのプローブに結合した部分とに応じて(固定面または蛍光プローブへの結合の化学的性質などにより)、異なる温度で開く。適切なハイブリダイゼーションを行う温度は、決定されることが好ましい。
【0048】
結合分析用に試料NAを調製する第1の工程は、NAを変性させることである。それより低い温度では、前記NAのヘリックスが、二本鎖、ヘアピン構造、またはスーパーコイル(超らせん)を形成してしまうため、相補的プローブ対と相互作用できない。標準的な卓上手順では、試料を95℃で5分間加熱して変性を行うことができる。これにより、本質的にすべてのNAを確実に変性させ、それぞれの相補対から分離させることができる。別の臨界温度は、プローブの融解温度である。この温度を超えると、特異度の高いハイブリダイゼーション事象は起こらない。すなわち、前記融解温度を超えると、プローブとのハイブリダイゼーションは起こらない。
【0049】
キャピラリー電気泳動
キャピラリー電気泳動は、マイクロチャネルまたはキャピラリーに接続された陽極から陰極へ電圧を印加し若しくは電流を流すことにより行うことができる。この電位により、帯電した種またはコロイド粒子が遊走し、これにより前記流路内をイオンが移動する。遊走すなわち分離の速度は、分離流路に流れる電流に応じて異なる。電流を増やすと、分離にかかる時間は短くなる。分離速度を制限する要因は、大きな電流により生じるジュール加熱である。前記キャピラリー内で熱が生じるに伴い、高温で気泡が形成される。その気泡が誘電体として作用し、電流はより狭い経路を強制的に通過させられるため、さらに高温になる。このサイクルは、前記キャピラリーの密閉部で終了し、分離を終了させる。分離流路を冷却すると分離中に生じた熱を取り除くことができるため、より高電圧を使用できるようになり、結果的に分離もより高速になる。
【0050】
また、冷却したキャピラリーでは、分離の分解能も上がる。試料の分解能は、試料の拡散により制限される。自然の作用により、試料は流路内で拡散する。分離中に試料の拡散を制限する方法は、2つある。その第1の方法は、分離をより短時間で完了して、拡散が起こる時間を短縮するものである。第2の方法は、試料の温度を下げて、拡散を効果的に低速化するものである。電気泳動分離の温度を下げ、制御すると、より高い電圧を使うことが可能になり、また拡散も制限できる。
【0051】
また電気泳動の温度制御により、代替ふるい材料、特に温度変動に影響される材料が使用可能になる。また、区別可能な領域ごとに固有の制御を行うと、分離流路内で行うべき若干の試料調製ができるようになる。例えば、DNA分離では、ふるいマトリックスに入る直前に試料を変性させることができる。本発明の検出システムでは、分離技術で新技術および新規性のある技術を使用することができる。
【0052】
キャピラリー電気クロマトグラフィーは、ふるいマトリックスとして充填材を使って適切に実施できる電気泳動の一種である。特定の作用理論に制限されるわけではないが、表面のゼータ電位および壁の電荷を使って、試料のNA核酸要素を分離する。空間の大部分は充填床で占められるため、充填床では電圧がさらに低下する。熱制御されたシステムでは、分離時間を大幅に短縮し、気泡形成を軽減することができる。
【0053】
進歩性のある当該方法に組み込める他の電位アッセイとしては、キャピラリーゾーン電気泳動(試料および流体が異なる方向へ流れる)、フィールドフローフラクショネーション、等電点電気泳動、プロテオーム結合事象、および他の化学反応を利用したものなどがある。
【0054】
また、界面動電現象を利用した電気浸透流ポンプは、種々の分子輸送方式で使用することができる。流体に充填床を通過させるため強い電場が印加されるが、気泡形成の問題は依然として解決されない。充填床の効率は、その表面のゼータ電位により向上する。このゼータ電位は、温度または圧力により修正することができる。
【0055】
例および他の例示的な実施形態
図1は、本発明の核酸検出システム(1)の実施形態を例示したもので、このシステムには、試料のNA溶解、調製、および熱制御を実施する際の制御に必要なハードウェアおよび電子機器がすべて含まれる。この検出システムの実施形態は、図11に例示した。当該ボックス内部の構成要素には、当該筐体のふたを開くとアクセスできる。図1および11からわかるように、制御手段は、すべてこの筐体内にある。熱制御および検出点の接続性は、図2および8にさらに詳しく示している。
【0056】
図2は、システムの一実施形態の概略図を示したものである。TECの熱制御は、内部カード(5)により電気的に制御される熱コントローラにより達成される。光学部品モジュールは、軸ステージの1つを介してエンドプレートに接続され、円柱形のレール(7)に沿ってラスタ走査(ラスタスキャン)される。これにより、直線状マイクロアレイ装置の走査(スキャン)が可能になる。
【0057】
図3は、本発明の検出システムの一実施形態で使用する試料溶解システムの図面である。試料を収容するとともに試料溶解を行うため、使い捨て収集バイアルが設けられている。このバイアルは、試料を加温するため温度制御された挿入部材に挿入できる。このバイアルは、熱制御ウェルに挿入すると穴が開けられ加圧されるため、試料処理が可能になる。前記バイアルは、加圧および加温された状態で、当該バイアル底部に超音波を適用することにより、またはホーンの先端を溶液に直接挿入することにより、短時間超音波処理される。この向きでは、超音波処理プローブおよびバイアルとのインターフェース(図示せず)が、試料収集インターフェースの底端に位置する。現在の温度ランプ時間は、超音波処理なしで約3分間である。現在、溶解手順中に温度を監視する溶解システムを一体化した実験が進行中である。
【0058】
図4以降の図は、Arcxis超音波処理装置の実際の使用を示している。各試料のバイアルは、約100PSIに加圧し、95℃に加熱したのち、超音波パルス(10〜3秒周期)を出力増加させながら適用する。パネルA〜EはBacillus Atrophaeus胞子の代表的な画像であり、パネルF〜JはBacillus Thurengensis溶解の代表的な画像である。パネルAおよびFは、対照試料である破壊されていない胞子に対応している。パネルBおよびGは、同じ胞子溶液を加圧し、加熱し、また約5.5ワットで超音波処理した結果を示したものである。各試料の合計サイクルタイムは、1分間であった。図BおよびGからわかるように、胞子は、互いに合わさり、クラスターを形成しているように見られる。これは、Bでより顕著である。Atrophaeusの胞子は、5.5ワット出力設定のものである。この出力設定を16.5ワットに上昇させたものがパネルCおよびHであり、前記クラスタリングが続いている。この出力設定で、B. Atrophaeusの数が減少したように見られ、B. Thurengenesis胞子のクラスタリングは増加したように見られる。前記出力をさらに33ワットに増加させると(パネルDおよびI)、胞子数に劇的な減少が明られた。これは、当該試験の最高設定49.5ワットでも明白で、その場合、現時点では特定できない線状構造が見られた。すべての胞子は、Olympus BX41顕微鏡およびOlympusのミニスポットカメラを使って対物倍率40倍で撮像された。
【0059】
図5では、上記試料の一定分量を取り除き、Beckman分光光度計で分析した。濃度を調べるための波長260nm、DNA完全性を調べるための波長280nmを使って、DNAを定量化した。このデータにより、DNAは、超音波処理出力を上昇させると胞子から放出されることが明らかになった。DNA総量および260/280比の双方を測定することにより、胞子から細胞内巨大分子を放出させる上で最適な範囲を定義した。また、16.5ワットの出力で最大量のDNAがB. Atropheaus胞子から放出されたことがわかった(そして、DNA完全性がこの出力設定でピークになることも示された)。それに比べると、B. Thurengensis (BT)胞子の結果は定義しづらかった。超音波処理が、対照試料(0出力)で見られたDNAをより多く放出させるように見られる一方、前記260/280比は、全試料について良好ではなかった。これらの出力設定で放出されたDNAの断片長を定義することが、次の1段階である。これにより、統合解析用に核酸をカスタマイズできるようにする。
【0060】
図6では、種々の胞子の溶解物のDNA断片サイズを分析している。前記超音波処理装置の最適出力は、約5.5〜約16.5Wの中央にした。実験結果からは、これら溶解物中の試料に、100〜500塩基対のDNA断片が存在することが示された。細菌胞子溶解用の標準的なプロトコルを比較した。この標準手順では、1時間を越える卓上工程が必要で、100〜10000塩基対の断片が生成された。これと対照的に、本開示が提供する進歩性のあるシステムでは、所要時間わずか60秒未満で、PCRにもマイクロアレイ用途にも最適な断片長範囲の検出可能なDNAが生成された。この範囲の断片サイズは、リアルタイムのPCR分析を使ったバシラス属胞子の検出に最適である。
【0061】
図7は、収集バイアル(図示せず)から(ポンプ702を使って)試料を引き入れたのち、バルブ(708)を通じて検出プラットフォーム706へ試料を向かわせるよう設計されたポンプおよびバルブシステム700を示したものである。このシステム700では、まず(ポンプ710を使って)プレハイブリダイゼーション緩衝液を検出カラム712に導入し、試料を受容するよう当該システムの準備を行う。前記プレハイブリダイゼーション緩衝液には、前記検出プラットフォームの適切な操作を確実に行うため、適切な標準緩衝液を含めることができる。標的プローブハイブリダイゼーションが完了した時点で、第3のポンプ714で非特異的に結合した物質を溶出させ、当該検出工程が完了した後、カラムを溶出させて次の分析に備える。
【0062】
図8は、検出モジュール800を詳細に例示したものである。基部802は溝804を有し、この溝804にキャピラリー806が静置されて頂部808により定位置に保たれる。前記キャピラリー806は、シリコンロッド810により強固に保持され、また断熱されて、高温に耐える。加熱部812は、2つ別個にある。試料814は左から右へ流れ、まず、一実施形態において95℃に制御された部分を流れて、そのDNAが変性する。この部分の温度は、前記基部802に直接接触して定位置に保たれているTEC 816により下から制御できる。検出部の温度制御は、検出TEC 818により上から制御される。この検出TECは、???により定位置に保たれる。上記2つのTEC(816、818)は分離されているため、各部分に別個の温度が必要な場合にクロストークを軽減する上で役立つ。当該検出モジュール800は、回転駆動機構820を使って検出キャピラリー(A)全体にわたり走査を行うよう設計されており、前記回転駆動機構820は、小型化された光子計数検出モジュール(B)を使って励起光を収集する。デュアル光ファイバーシステム882を使うと、特別形状の収集ファイバー824を使って、照らされたキャピラリーの部分826から発せられた光の大半を収集することができる。当該システムは、前記光子計数検出モジュールと別個に組み立てることも、または前記光子計数検出モジュールと併せて組み立てることもできる。光モジュール(D)は、熱電冷却器(TEC)830を使った2つのステージ温度を備えて完成し、前記熱電冷却器(TEC)830は、前記キャピラリー806の温度を制御し、(注意して観察するとわかるが)635nmのレーザーダイオード832により照らされる。
【0063】
図9(A)は、本発明の一実施形態に使用されるマイクロ流体チップ902の一実施形態の製作を示している。マイクロ流体チップ904は、Borofloatガラスから製作される。これらのチップは、開放された流路内で検出プローブの成膜(沈着)を受容するよう設計されている。次に、これらの開放流路は、光硬化性の接着剤で高分子膜を使って密閉される。これらの流路は、当該装置内では長さ2.54cm、幅500μm、深さ30μmである。図9(B)の第2のパネルは、ライザー領域および多孔質高分子モノリスを1つの装置で一体的に含むマイクロ流体チップの一実施形態を示したものである。この構成では、同じ消耗装置で溶解およびハイブリダイゼーションの双方が行われる。適切な装置は消耗品(使い捨て)である。この構成により、迅速な試料処理とともに極めて高感度の検出が可能になる。
【0064】
図10は、核酸配列の選択的な検出用に多孔質高分子モノリシック(PPM)材料を使った一実施形態を示したものである。PPMは、適切に小塊を有する大表面積材料(A)であり、製造後に官能基化して高速ハイブリダイゼーションアッセイ用の特異度の高いリガンドを含めることができる。この図では、橙色の蛍光画像として示されたカラム(B)に、DNAおよびRNAの混合物を導入する。次に、当該PPMを洗浄して非結合物質(この場合、緑色に標識化されたDNA)を除去し、赤色の蛍光色素で標識化されたRNAを残す。最後に、前記カラムを(95℃で)溶出させて選択的に結合させたRNAを除去する。その反応は高速で(E)、2秒以内に最大強度に達する。これは、わずか1.0ngのRNAを1μgのDNAで希釈した核酸配列を濃縮する能力を実証している。このキャピラリーの200μm部分(B中の灰色のボックス)は赤く標識化したRNA、1.0pg分の検出に対応するため、当該アッセイは極めて高感度な能力を有すことができる。
【0065】
図11は、本発明の試料調製および検出システムに使用するため開発されたアッセイの一実施形態である。前記CPAアッセイの検出プローブの結果では、相補的DNAが存在する場合、蛍光シグナル(蛍光信号)に著しいシフトが示された。(A)において、プローブBA 1.1およびプローブBA 2.1は、B.Anthracisを検出するよう設計された。プローブBAT 1.1およびプローブBAT 2.1は、Bacillus Atrophaeus(globigii)を検出するよう設計された。プローブBA 1.1およびプローブBA 2.1については、B.Anthracis (特異的)およびB.Atrophaeus (非特異的)の双方のDNA配列で試験した。プローブBAT 1.1およびプローブBAT 2.1についても、B.Anthracis(非特異的)およびB.Atrophaeus(特異的)で試験した。それらの応答データは、それに伴う背景信号を減算して補正した。図からわかるように、プローブBA 1.1、BA 2.1、およびBAT 1.1は、標的である相補的DNAに対して非常に特異的に応答し、非相補的DNAに対する有意な応答は生じなかった。このシグナル(信号)シフトは大きく、背景に対し、平均50:1を超える信号対雑音比が示された。非相補的DNAの結合も、若干観測された。これらの実験では、前記非相補的DNAが前記標的DNAより50倍多かった。例えば、プローブBA 2.1の場合、非特異的DNAは濃度20μMで、標的B.AnthracisのDNAは濃度400nMであった。この特異的に結合したプローブから生じた信号は、それより大幅に濃度の高かった、非特異的に結合したプローブの信号より13.2倍高かった。前記検出プローブの高い選択性が実証されたことから、我々は、これらのアッセイに具備する協調的捕捉プローブを設計した。図(c)では、より高濃度の標的DNAに対する当該CPA検出プローブの応答を実証している。この場合、応答は500倍より大きかった。これらの実験について特筆すべき重要事項は、前記プローブ自体から生じる背景信号のレベルであった。我々は、100nMおよび2.5μM、どちらのプローブ濃度でも同じレベルの背景信号が生じたことに注目した。これは、背景信号が当該プローブ自体のアーチファクトなのではなく、別の背景源から生じることを意味している。この蛍光背景源を決定して排除すれば、より著しく高感度な検出限界値を実現できることが期待できるであろう。
【0066】
図10の底部の表では、クリーンな(雑音の少ない)背景および混入物質背景が存在する場合のプローブの精度について報告している。その混入物質背景は、AnthracisプローブについてはBacillus Atropheaus DNA、またAtropheausプローブについてはAnthracis DNAであった。
【0067】
図12は、本発明のシステム1200の組み立て済み一実施形態を示したものである。当該システムには、プラグでDC電力を接続している(図示せず)。データは、コンピュータ1202へのUSB接続部を通じて取得された。上記の加熱モジュール/キャピラリー保持部は、分解して示している。当該試料調製および検出システムの構成要素は、組み立てた状態で示している。当該システムは、厳しい現場使用に備え、16"×24"×8"の硬化プラスチックケース1204に収納されている。このシステムの機能により、生物剤溶解、緩衝液追加、試料注入、システム汚染除去、マイクロアレイ検出、および収集されたデータの解釈など、現場で生物剤検出を行うための基本工程段階が少なくとも提供される。電源(図示せず)などの構成要素は、当該装置ケースの右上隅に一体化でき、同様に必要に応じて超音波処理モジュールも、さらに光子計数検出装置も一体化できる。このシステムでは、前記検出モジュールによるラスタ走査(ラスタスキャン)前に2段階の試料温度制御を提供できる。これにより、ハイブリダイゼーションの直前に試料を完全に変性させることができる。これらの段階は、超高速核酸ハイブリダイゼーションを実現する上で役立つ。
【0068】
当該システム1200の重量は、組み立てられた状態で50ポンド未満であった。これは、当業者が当該システムのサイズおよび重量を削減する能力の範囲内である。当該システムは、その利用者(ユーザー)に見えるのが、注入アーム、バイアル保持部、試薬パックモジュール、およびユーザーインターフェース装置(コンピュータ)だけであるよう設計できる。当該システム1200におけるチップ交換では、利用者が前記ラップトップコンピュータ1202を取り外すことが必要な場合もあるが、これを容易に交換可能な構成要素にする追加実施形態は、当業者の技術範囲内である。一体型の試料調製および検出システムにより、身体の動きに制約の多い個人用保護具の着用時にも操作可能な、使いやすいプラットフォームが実現できる。また一部の実施形態では、漂白剤などの消毒用化学物質を含んだ溶液に当該装置を浸漬することにより、当該システムを完全に汚染除去することができる。
【0069】
図13は、本発明の組み立て済み一実施形態の制御用ソフトウェアを示したものである。このソフトウェアプラットフォームは、カスタム分析条件のスクリプト作成も、ボタンを1回押すだけの操作も行えるよう設計できる。前記ソフトウェアのボタン(右側の列)は、利用者がラップトップコンピュータのキーボードを使う代わりに、タッチスクリーンで当該システムを操作できるよう大きく作成できる。このシステムを使って生成されるデータストリームは、キャピラリーマイクロアレイ装置での空間位置に基づいた強度プロットとして表示できる。当該システムでは、空間位置走査およびデータ解釈による完全な試料分析を、10分以内で行うことができる。個別機能としての当該アッセイは、わずか2秒間で行える。試料調製、試料提供、生物剤検出、および解釈を含めた工程段階を完全に一体化した場合は、10分以内で試料分析を行う能力がもたらされる。適切なソフトウェアプラットフォームとしては、National Instruments製のLabViewなどがある。付加的なソフトウェアプラットフォームを設計し、プログラムし、またC++でコンパイルすることも可能である。これにより、装置操作を合理化し、それを硬化型タッチスクリーンコンピュータに適合させて、現場での作業と積極的な汚染除去とを可能にすることができる。
【0070】
図14は、本発明の試料検出および分析システムを制御する上で使用される適切なオペレーティングソフトウェアの一体型サブコンポーネント(下位構成要素)の一部を例示したものである。
【0071】
以下、試料調製および分析システムの使用例を示す。
【実施例1】
【0072】
例I
本発明の試料調製および分析システムの使用例は、図に示したとおりである。一体型の検出機器は、様々な試料マトリックスで使用でき、試料調製、ハイブリダイゼーション、および試料被検出物の検出を完全に自動化して行うことができる。ハイブリダイゼーションは、直線状の多孔質マイクロアレイシステムを使って達成され、これにより、拡散距離が劇的に短縮され、試料被検出物を瞬時に捕捉および検出できるようになる。被検出物の検出は、2007年3月2日付け出願済みPCT/US07/63229「Cooperative Probes and Methods of Using Them(協調的プローブおよびそれらを使用する方法)」(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)に説明されている触手プローブ(Tentacle probes)などを使用し(これに限定されるものではないが)、一体型の蛍光検出プラットフォームを、核酸およびタンパク質の検出プローブと併用して行われる。他の捕捉プローブを追加して、より高次の触手プローブを作成することもできる。これらの検出プローブは、すべてアプタマーまたは抗体の技術で置換して検出タンパク質用に使用することもできる。また、これらの検出プローブは、いずれも前記直線状マイクロアレイ表面への接続を必要とすることなく、溶液中で使用することもできる。
【実施例2】
【0073】
例II―試料調製−細胞懸濁液
当該試料調製および分析システムを使うと、試料調製の所要時間が劇的に短縮される。この試料調製および分析システムのプラットフォームには、使い捨てカード機器を利用して種々の試料マトリックスを適用することができる。そのような一例では、懸濁液中で細胞を使用する。試料調製および分析システムカードを使った分析用には、各種タイプの細胞懸濁液を調製できる。そのタイプとしては、細菌細胞、ウイルス、真核細胞、植物細胞のものが含まれる。そのような例の1つでは、懸濁液中の肝細胞を遠心分離して、無傷の細胞を沈殿させる。沈殿させた細胞は、緩衝水(pH7.4)中に洗浄剤(Triton−X100)および塩(NaPO4、TMAC、NaCL)を含有した緩衝液で再懸濁する。細胞懸濁液を溶解緩衝液に入れたら、図15A〜C(本発明の消耗品カードの一実施形態の正面図、分解図、および背面図)に例示した消耗品カード(使い捨てカード機器)頂部の前記試料バイアルに入れる。当該消耗品カードは、溶解チャンバーと、直線状の多孔質マイクロアレイに押し嵌め可能な蛇行した冷却経路とを含む。次に前記バイアルにふたをし、当該カードを試料調製および分析システム器材に挿入する。前記器材に前記カードを挿入すると、自動スクリプトによりいくつかのポンプが作動して、試料は前記溶解チャンバーへ押し出され、そこで50〜110℃の温度範囲まで加熱される。この工程中に、無傷の細胞が溶解を経る。溶解が完了した時点で、試料は、フィルター(細孔径0.1〜2.0μm)を通過して押し出される。この手順により、試料の被検出物(RNA/DNA/可溶性タンパク質)は、前記フィルターを通過して被検出物捕獲領域へ移動できる。生体分子を操作するための前記試料調製消耗品カードおよび流体ポンプ装置に関するより詳しい情報は、Hukariらにより2006年10月11日付け出願済み米国仮特許出願第60/829,079号「Disposable Sample Preparation Cards, Methods And Systems Thereof」(使い捨て試料調製カードおよびその方法およびシステム)に見られる(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)。
【実施例3】
【0074】
例III―試料調製−組織生検
別の例では、組織生検(生体組織診断)に使用する。試料調製および分析システムカードを使った分析用には、各種タイプの組織生検を準備できる。そのような一例では、生検用の肝細胞を含んだ試料を調製および分析する。生検用肝細胞は、緩衝水(pH7.4)中に洗浄剤(Triton−X100)および塩(NaPO4、TMAC、NaCL)を含有した緩衝液で再懸濁する。組織懸濁液を溶解緩衝液に入れた後、これをPolytronホモジナイザーで均質化する。次に、均質化した試料を、図15A〜Bに示したような消耗品カード頂部の前記試料バイアルに入れる。次に前記バイアルにふたをし、当該カードを試料調製および分析システム器材に挿入する。前記器材に前記カードを挿入すると、自動スクリプトによりいくつかのポンプが作動して、試料は前記溶解チャンバーへ運ばれ、そこで50〜110℃の温度範囲まで加熱される。この工程中、無傷の細胞は溶解を経て、試料物質は、天然状態(ネイティブ状態)に変性し、前記消耗品カードの底部にある前記直線状の多孔質マイクロアレイでただちに分析可能になる。溶解が完了した時点で、試料は、フィルター(細孔径0.1〜2.0μm)を通過して押し出され、流れ出る。この手順により、試料の被検出物(RNA/DNA/可溶性タンパク質)は、大きな粒子および不溶性物質を保った状態で、前記フィルターを通過して被検出物捕獲領域へ移動できる。
【実施例4】
【0075】
例IV―試料調製−血液
別の例では、全血または血液分画に使用する。試料調製および分析システムカードを使った分析用には、各種タイプの血液を調製できる。そのような一例では、緩衝水(pH7.4)中に洗浄剤(Triton−X100)および塩(NaPO4、TMAC、NaCL)を含有した緩衝液で、全血を再懸濁する。血液懸濁液を溶解緩衝液に入れた後、これをPolytronホモジナイザーで均質化する。次に、均質化した試料を前記消耗品カード頂部の前記試料バイアルに入れる。次に前記バイアルにふたをし、当該カードを試料調製および分析システム器材に挿入する。前記器材に前記カードを挿入すると、自動スクリプトによりいくつかのポンプが作動して、試料は前記溶解チャンバー内へ押し出され、そこで50〜110℃の温度範囲まで加熱される。この工程中、無傷の細胞は溶解を経て、試料物質は、天然状態(ネイティブ状態)に変性し、前記消耗品カードの底部にある前記直線状の多孔質マイクロアレイでただちに分析可能になる。溶解が完了した時点で、試料は、フィルター(細孔径0.1〜2.0μm)を通過して押し出される。この手順により、試料の被検出物(RNA/DNA/可溶性タンパク質)は、大きな粒子および不溶性物質を保った状態で、前記フィルターを通過して被検出物捕獲領域へ移動できる。別の例では、特定の血液分画を分析することができる。これらの場合、まず全血を遠心分離して、血漿、軟膜、および不溶性血小板を通常含む血液分画を作る。上述の分画は、いずれも血液分画から除去し、溶解緩衝液に懸濁したのち、前記試料調製および分析システムの消耗品カードに入れて、上述のように処理することができる。
【実施例5】
【0076】
例V―直線状の多孔質マイクロアレイの構成
直線状の多孔質マイクロアレイは、試料被検出物の高速探査を容易にするよう構成されている。図17A、図17B、および図17Cを参照すると、メタクリル酸塩高分子を重合させて形成した前記直線状の多孔質マイクロアレイの例が示されている。多孔質高分子媒体(porous polymer media:PPM)を調製するための重合化学反応に関するより詳しい情報は、Shepoddに付与された米国特許第6,472,443号「Porous Polymer Media」(多孔質高分子媒体)に見られる(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)。溶液に含まれるメタクリル酸塩単量体(モノマー)には、メタクリル酸グリシジル(glycidyl methacrylate:GMA)およびエチレングリコールジメタクリレート(ジメタクリル酸エチレングリコール)(ethylene glycol dimethacrylate:GDMA)が含まれる。これらの単量体は、重合反応中、多孔質高分子のネットワークマトリックスを形成して、アミン基を末端に有するオリゴヌクレオチドの直接的な共有結合を可能にする。この単量体混合物は、12.5% v/v 10mMのNaH2PO4と、pH 7.2、12.5%の酢酸エチルと、40%のメタノールと、10.5%のGMAと、24.5%のEGDMAとを含み、また2.5mgのIrgacure(イルガキュア)(Ciba Specialty Chemicals、米国アラバマ州McIntosh)も含むものであった。この溶液を、前記開始剤が可溶化するまでボルテックスした。前記開放された流路を充填し、UV架橋結合用オーブン(Spectronics Corporation、米国ニューヨーク州Westbury)を使って365nmで10分間光重合させた。高分子が形成されたら、その高分子マトリックスに、アミンを含んだ分子を加える。その反応性高分子を一級アミンで官能基化し、5’NH3−C6リンカーでオリゴヌクレオチドを生成した。前記官能基化は、10mMのリン酸緩衝液、500mMのNaCl、および0.05〜0.1%のSDSを含んだ緩衝液に、オリゴヌクレオチド(500μM)を溶解して行った。前記オリゴヌクレオチドを、天然PPM(ネイティブPPM)への導入前に変性させた。図17A、図17B、および図17Cにおけるオリゴヌクレオチド1702の共有結合は、ロボットスポッターを使って縞状パターンで形成された。前記共有結合は、培養温度60℃、90℃、および120℃、培養時間30分間、60分間、および120分間で、一連の結合実験を行い、最適化された。その最適条件は、温度90℃で60分間の培養と考えられた。蛍光誘導体化したカラムを撮像することにより、前記オリゴヌクレオチドの付着が確認された。オリゴヌクレオチド付着の確認後、前記多孔質高分子の基板を含む基部の基板に取り付けられたふたで当該流路を密閉した。
【実施例6】
【0077】
例VI―直線状の多孔質マイクロアレイを使った試料ハイブリダイゼーション
試料のハイブリダイゼーション。前記溶解チャンバーから試料を充填する前に、図17Bに示した直線状の多孔質マイクロアレイ1712をオリゴヌクレオチド(図示せず)で官能基化し、180mM NaClおよび0.1% SDS中の100μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、120℃で30秒間ブロックした。消耗品カード1500底部の流体注入ポート1504から、溶液をポンプで送り出した(図15Aを参照)。前記直線状の多孔質マイクロアレイ1712をブロックした後、溶解チャンバー1512(図15Bを参照)からの試料を、蛇行した流路1516(図15Dを参照)経由で前記直線状の多孔質マイクロアレイ1712へポンプで送った。この蛇行した流路は、被検出物を含んだ試料が直線状の多孔質マイクロアレイカートリッジ1716に入る前に、当該試料を約45℃まで冷却するよう機能する。前記直線状の多孔質マイクロアレイを試料が通過するに伴い、多孔質高分子媒体1714上で、当該試料の被検出物を、共有結合的にリンクしたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせた。このハイブリダイゼーションが完了した時点で、付加的な洗浄工程を行って非特異的に結合したプローブを除去した。この洗浄工程は、180mM NaCl中の30μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、45℃で、充填率と同等の率で行った。前記洗液が完了した時点で、蛍光撮像システムを使って前記試料を検出した。
【0078】
前記蛍光撮像システムで使用する適切な光収集および励起光学システムは、図16に例示しており、この図では、直線状の多孔質マイクロアレイ上にあるプローブを励起し活性化されたプローブからの蛍光を検出する上で適した光学システムを示している。
【実施例7】
【0079】
例VII―触手プローブを使用する直線状の多孔質マイクロアレイを使った試料ハイブリダイゼーション
この例では、生体試料からの核酸をハイブリダイズさせるための、直線状の多孔質マイクロアレイ表面上での触手プローブ使用について説明している。触手プローブには、フルオロフォア(蛍光色素分子)およびクエンチャーの双方が含まれている。このハイブリダイゼーション工程中、試料被検出物が前記触手プローブに結合するに伴い、前記フルオロフォアおよびクエンチャーは空間的に分離する。これにより検出可能な蛍光が増加し、一体型の光学アセンブリを使って検出される。前記溶解チャンバーから試料を充填する前に、触手プローブで官能基化した直線状の多孔質マイクロアレイを、180mM NaClおよび0.1% SDS中の100μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、120℃で30秒間ブロックした。前記直線状の多孔質マイクロアレイと液体流通可能な溶解チャンバーを有した消耗品カードの底部にある流体注入ポートから、溶液をポンプで送った。前記直線状の多孔質マイクロアレイをブロックした後、前記溶解チャンバーからの試料を、前記蛇行した流路経由で前記直線状の多孔質マイクロアレイへポンプで送った。前記蛇行した流路は、その内部に試料が滞留する時間を長引かせるよう機能するため、被検出物を含んだ試料は、前記直線状の多孔質マイクロアレイに入る前に約45℃まで冷却される。前記直線状の多孔質マイクロアレイを試料が通過するに伴い、当該試料の被検出物を、高分子を共有結合的にリンクしたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせた。このハイブリダイゼーションが完了した時点で、付加的な洗浄工程を行って非特異的に結合したプローブを除去した。この洗浄工程は、180mM NaCl中の30μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、45℃で、充填率と同等の率で行った。前記洗液が完了した時点で、蛍光撮像システムを使って前記試料を検出した。
【実施例8】
【0080】
例VIII―オリゴヌクレオチドおよび触手プローブの組み合わせを使用する直線状の多孔質マイクロアレイを使った試料ハイブリダイゼーション
その一例としては、前記直線状の多孔質マイクロアレイおよび触手プローブの表面に結合されたオリゴヌクレオチドを使って、二次的なサンドイッチタイプのアッセイを行うものがある。この構成では、ハイブリダイゼーション(水素結合など)により、前記オリゴヌクレオチドが、試料被検出物を前記表面に固定する捕捉プローブとして作用する。次いで前記触手プローブを使って、特定の試料被検出物の存在の有無を検出する。このアッセイの実施には、次の工程を使用した。前記溶解チャンバーから試料を充填する前に、オリゴヌクレオチドで官能基化した直線状の多孔質マイクロアレイを、180mM NaClおよび0.1% SDS中の100μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、120℃で30秒間ブロックした。前記直線状の多孔質マイクロアレイと液体流通可能な溶解チャンバーを有した消耗品カード底部にある流体注入ポートから、溶液をポンプで送った。前記直線状の多孔質マイクロアレイをブロックした後、前記溶解チャンバーからの試料を、前記蛇行した流路経由で前記直線状の多孔質マイクロアレイへポンプで送った。この機能により、被検出物を含んだ試料が前記直線状の多孔質マイクロアレイに入る前に、当該試料を約45℃まで冷却することができる。前記直線状の多孔質マイクロアレイを試料が通過するに伴い、当該試料の被検出物を、高分子を共有結合的にリンクしたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせた。試料のハイブリダイゼーション後、まず180mM NaCl中の30μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、45℃で、充填率と同等の率で、カラムを洗浄した。前記洗液が完了した時点で、第2のハイブリダイゼーションを行った。この第2のハイブリダイゼーション緩衝液は、多重分析を行うよう設計された触手プローブ分子のセットを含むものであった。触手プローブには、フルオロフォアおよびクエンチャーの双方が含まれていた。この第2のハイブリダイゼーション工程中、試料被検出物がハイブリダイズするとともに、高分子に結合した前記オリゴヌクレオチドが、前記触手プローブとの第2の結合反応を経た。この第2の結合反応が起こるに伴い、前記フルオロフォアおよび前記クエンチャーが空間的に分離した。これにより検出可能な蛍光が増加し、上記の一体型の光学アセンブリを使って検出される。この第2のハイブリダイゼーションが完了した時点で、付加的な洗浄工程を行って非特異的に結合したプローブを除去した。次に、前記一体型の蛍光光学アセンブリを使って結合複合体を検出した。
【実施例9】
【0081】
例IX―消耗品カード上でハイブリダイズさせた複合体の検出
結合された複合体は、一体型の蛍光光学アセンブリを使って検出された。このアセンブリは、蛍光背景(環境光)を著しく増大し検出感度に影響を及ぼす迷光を排除することにより、ダイクロイックミラーの必要性をなくすよう設計された。ハイブリダイゼーションが完了したのち、光学検出機器が、レーザーダイオードを使って前記直線状の多孔質マイクロアレイを照らし、その光は両面プリズムを使って対物レンズへ方向付けられる。これにより、ダイクロイックミラーを通過させる必要なく、励起レーザー光を前記直線状の多孔質マイクロアレイまで送達することができる。次に、前記励起光が、前記直線状の多孔質マイクロアレイ上のフルオロフォアを励起する。前記フルオロフォアが発光するに伴い、発せられた光は、開口部で終端する光収集管を通じて送られる。次いで光検出機器全体が前記直線状のマイクロアレイの一端から他端までラスタ走査して、空間分解された標的である結合複合体からの光を収集する。適切な走査システムを図18に例示した。
【実施例10】
【0082】
例X―結合した複合体の溶出
本発明の試料調製および分析システムの例示的な機能は、前記直線状の多孔質マイクロアレイの表面上で結合し複合体化した被検出物の融解曲線解析を行う能力である。試料被検出物およびプローブの解析は非破壊的であるため、当該被検出物を光学的に一体化しつつ、これに融解曲線解析を適用することもできる。これにより、利用者は、アッセイの結果を確認(追認)するための事後分析(解析)を行うことができる。また、非破壊解析では、利用者が試料被検出物を収集し、それに代替方法および二次的な方法論を適用して試料被検出物が何であるか特定することもできる。これは、法医学的用途で重要になることが多い。
【実施例11】
【0083】
例XI
オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション実施では、まず、5〜10mMトリス緩衝液(pH9.0、0.05〜0.1%SDS、0.1mM BSAおよびエタノールアミン)を含んだブロック緩衝液を使って、非特異的な結合を防ぐブロック工程を行った。ブロック完了後、マイクロ流体Tへの試薬混合で見られる濃度勾配をなくすため、試料を含んだ0.5〜1.0μLのmRNAをキャピラリーを通じてポンプで送った。
【0084】
充填中には、ハイブリダイゼーションの理論的融解温度を十分に超える温度に前記キャピラリーを保ち、mRNAのアニーリングを回避した。mRNAの充填後、2〜600秒範囲の時間、前記キャピラリーの加熱を停止した。この室温での培養後、前記モノリスを5μLの洗液緩衝液でフラッシングし、蛍光スキャナを使って撮像した。前記キャピラリー長全体の平均蛍光強度を、各ハイブリダイゼーションにつき記録した。各試験の相対効率は、式(W−C)/(L−C)を使って計算した。ここで、Wは洗浄し捕獲したmRNAの蛍光強度、Lは充填時の強度、CはmRNAなしの対照試料の強度である。次に、前記キャピラリーを加熱ブロック上に直接配置して、結合したmRNAを<5μLの緩衝液で2分間90℃で溶出させた。
【0085】
これらの研究の主な目的は、特異的なヌクレオチド配列を捕獲、濃縮、および選択する能力を実証することであった。次に、最適に官能基化したモノリスを使って、前記カラムが試料のmRNAを捕獲および放出する能力を試験した。実験構成は、実験条件を再現できるよう、マイクロ流体接合部およびシリンジポンプを使って設定した。T字状の接合部は、2つの注入部と1つの排出部を有するものであった。この構成で、接続部の一方はmRNA試料を充填するため使用し、試料緩衝液だけを含んだ他方は、充填した試料を洗浄し溶出させるため使用した。第3の接続部には、オリゴヌクレオチドで官能基化したキャピラリーを挿入した。このマイクロ流体設定により、充填工程、洗浄工程、および溶出工程の間の時間長を精確に制御することができた。加熱ブロックは、熱電対により90℃であることを確認し、前記キャピラリーの加熱をほぼ瞬時に実施および停止できるよう容易にアクセスできる場所に配置した。図19は、キャピラリー体積分のmRNAを1回注入したのち、捕獲および放出を行った結果を示したものである。前記キャピラリーに標識化したAlexa Fluor 647 mRNAを充填する前、当該キャピラリーを撮像した(図19A)。標識化したmRNAの不在下では、蛍光は検出されなかった。ゲインおよびコントラストは、対照試料がほぼ見えず残りの画像について一定に保たれるよう設定した。
【0086】
結合条件を最適化し、精製したmRNAを洗液および溶出したのちは、反応速度作用の決定および最適化に専念した。我々の実験から、ハイブリダイゼーション効率に経時的な変化は見られないことがわかった。実際、10分間のハイブリダイゼーションにわたり捕獲効率は同じであったように見られたが、可能性としては、2秒間の培養時の捕獲効率よりわずかに減少したとも考えられる。ハイブリダイゼーション時間を5、10、15、30、60、および120秒間にした他の試験と、上述の2回の試験とでは、傾きのない直線的なパターン(2〜120秒間で、係数の有意性p=0.962)が平均効率33%前後に散在して形成されたように見られた。経時的な効率上昇が見られなかったということは、測定初期の2秒間でハイブリダイゼーションが完了したことを示している。
【0087】
同じ手順を使い、40merのオリゴヌクレオチドについて効率を試験および測定した。40merでも、傾きの見られない直線的な効率パターンが示された(2〜120秒間での係数有意性p=0.867)。それと対照的に、30merのオリゴヌクレオチドの場合、散布図は効率50%の周囲にプロットされた。平均効率の比較により、40merの官能基化したモノリスは、30merで特徴付けられるモノリスの1.5倍の効率で結合することが示された。特定の作用理論に制限されるわけではないが、上記の結果は、40merでは、30merの場合より、相補的RNAとのハイブリダイゼーションによる自由エネルギーの変化が大きかったためと考える。
【0088】
本発明は、単一点の検出値に限定されるものではない。また、アレイまたは複数のキャピラリー用に拡張した流路を監視するよう、修正が可能である。前記検出プラットフォームは、2つの平面(XおよびY)方向でラスタ走査して前記マイクロ流路中の特定の位置に関する空間分解能(解像度)を提供するよう修正できる。
【0089】
以上、本発明の特定の態様について、上記の変形形態および例と関連付けて開示してきたが、当業者であれば付加的な変形形態が明確に理解されるであろう。本発明は、具体的に言及し若しくは現時点で好適である上記の変形形態および例に限定されることを意図したものではなく、そのため、本発明の要旨を評価するには、本発明の独占権を主張した添付の請求項を参照すべきである。
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2006年5月16日付けで出願されたWestらによる米国仮特許出願第60/747,415号「BioPhalanx,A Fully Automated Field Portable Microarray Detection System」(完全自動の携帯型マイクロアレイ検出システムBioPhalanx)に対しても優先権の利益を主張するものである。また、本特許出願は、2006年10月11日付けで出願されたHukariらによる米国仮特許出願第60/829,079号「Disposable Sample Preparation Cards,Methods And Systems Thereof」(試料調製用使い捨てカードとその方法およびシステム)に対しても優先権の利益を主張するものである。さらに、本特許出願は、2007年3月2日付けで出願された国際特許出願第PCT/US07/63229号「Cooperative Probes and Methods of Using Them」(協調プローブおよびそれらを使った方法)に対しても優先権の利益を主張するものである。これらの特許出願の各々については、その全体を参照により本明細書に組み込むものとする。
【0002】
本研究の一部は、Arcxis Biotechnologiesに付与された米国中小企業革新研究プログラム助成金、契約第NBCHC060031号に基づき、米国国土安全保障省により資金提供されたものである。
【0003】
本発明は、伝染病その他の生物剤などの生物学的実体を検出および識別するための、マイクロ流体システムと、核酸および他の生体分子を処理する方法との分野に関する。
【背景技術】
【0004】
生物剤の検出および識別は、これまで中央研究室での分析用途向けに大幅な進歩を遂げてきた。しかし、現在、劣悪な環境で使用できる費用効果の高い技術は、存在してもほんのわずかである。劣悪な環境としては、第一対応者のいる環境などがある。非常時に対応者が生物剤を検出する状況で最も一般に使用される手段は、pHやタンパク質の有無など、試料の大まかな特性しか判断できないアッセイまたは装置に限られている。そのため、生物学的に脅威となる複数の生物剤を高速(5分未満)、高特異度(偽陽性率が低い)、及び高感度で(フェムトモル(fM))識別するシステム、特に携帯型システムが必要とされている。また、労力のかかる配設を必要とせずに、開梱から動作まで5分未満で迅速に構築および配備できる適切なシステムも必要とされている。さらに、そのシステムは、特殊な保管措置(冷却など)を必要としないことが望ましい。
【0005】
複雑な背景において、生物剤を検出および識別する能力は容易く実現できるものではない。生物学的解析の性質上、複数の工程を使用しなければならない(Broussard 2001。Drosten、Kummererら 2003)。現在、信頼性の高い解析および識別に必要な工程は、高度な訓練を受けた専門家が行わなければならない。生体物質の標準的な卓上分析には、通常、生物剤溶解(溶菌)(当該物質に細胞生物が含まれる場合)、巨大分子(DNAまたはタンパク質)の抽出または増幅、(汚染)除去、および誘導体化が伴い、そのすべての後で解析的分析および付加的なデータ処理が行われる。これらの各工程は、試料の劣化および/またはデータ損失を抑えるため、高度に制御された一連の作業を必要とする。残念ながら、現行ではこれら各作業は長時間を要し、またコスト高である。第一対応者に関しては、意図的な若しくは意図的でない有害生体物質の放出により負傷者が増えないよう、事件現場におけるリアルタイムの分析が非常に重要である。可搬型(携帯型)検出装置はこれまでも開発されてきたが、これらの装置の多くは、依然として複雑な生化学システム(すなわちPCR)に依存しており、劣悪な事件現場環境で使用するには不安定である(Emanuel,Bellら、2003)。そのため、偽陽性識別率を抑えるため必要な複雑な工程セットを組み込んだ生物剤分析システムが必要とされている。望ましいシステムは、落下試験に耐える使いやすいものでもある。
【0006】
このため、頑健で使いやすく、複雑な機能的要件の組み合わせを実現できる(特異度、汚れた試料の取り扱い、自動、高感度、広範囲な多重能力など)システムが必要とされている。適切なシステムには、(1)信頼性の高い生物剤識別のための頑健で新規性のあるアッセイ、(2)技術的に優れた試料取り扱い・検出プラットフォーム、という少なくとも2つの基本的な構成要素が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、ハイスループットで低容量のマイクロ流体蛍光検出プラットフォームに伴う問題を克服するため、多重アッセイを実施することができる。本発明では、一体化された種々の構成要素を含むシステムを提供し、このシステムには、溶解機器と、一連のポンプおよびバルブを有する流体操作構成要素と、熱制御領域を備えたキャピラリーと、光子を提供する照明器と、前記キャピラリーと光学的に通信可能な検出器とが含まれる。本発明では、一体化した試料調製および離散モノリシックマイクロアレイ装置を使って、生物学的に脅威となる生物剤を実質的に瞬時に検出することができる。
【0008】
本発明は、蛍光に基づいたハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析システムを提供し、当該試料調製および分析システムは、生体試料を受容可能な試料収集チャンバーと、前記試料収集チャンバーと液体流通可能な溶解(溶菌)チャンバーと、前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイと、前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイとの間にあり、双方と液体流通可能な、任意に選択される導管と、前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせと液体流通可能な試料調製モジュールであって、前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせの温度を制御できるものである、前記試料調製モジュールと、前記直線状のマイクロ流体アレイと光学的に通信可能な光学的励起および検出システムとを有する。前記試料収集チャンバー、前記溶解チャンバー、および前記任意に選択される導管は、カードタイプの装置に一体化することができる。また、前記直線状のマイクロ流体アレイは、前記カードタイプの装置に設けられた流体吐出ポートに押し嵌めできるカートリッジ上に配置できる。いくつかの実施形態において、前記直線状のマイクロ流体アレイは、核酸プローブを結合させる基板として、多孔質高分子媒体を有することができる。他の実施形態において、前記直線状のマイクロ流体アレイは、約250ミクロンより幅狭の直線状の流路を有することができる。また、前記核酸プローブは、1若しくはそれ以上の触手プローブを有することができる。さらに、前記任意に選択される導管は、蛇行した流路を有してもよい。前記直線状のマイクロ流体アレイは、複数の生物有機体に対し特異的な複数の触手プローブを有することができる。同様に、前記光学的励起および検出システムは、励起光子源により前記マイクロアレイを走査(スキャン)して前記直線状のマイクロアレイ上の個々の検出プローブを空間分解できるスキャナを有することができる。前記スキャナは、直線状のマイクロアレイ面積1平方ミクロンあたり約0.05色素分子〜約1色素分子を適切に分解(分離)することができる。
【0009】
本発明では、1若しくはそれ以上の標的生物有機体を識別する方法も提供し、この方法は、熱溶解チャンバー内の1若しくはそれ以上の生物有機体から1若しくはそれ以上の細胞または胞子を溶解して溶解物を生じさせる工程であって、当該溶解により前記1若しくはそれ以上の生物有機体から核酸を生させる、前記生じさせる工程と、前記溶解物から前記核酸をフィルタリングする工程と、前記核酸を直線状の多孔質マイクロアレイに輸送する工程であって、当該直線状の多孔質マイクロアレイは前記標的生物有機体各々からの核酸の少なくとも一部をハイブリダイズすることが可能な、空間配置された複数のプローブを有するものである、前記輸送する工程と、前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸を前記プローブのうち少なくとも1つにハイブリダイズさせる工程と、前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸にハイブリダイズした前記プローブを励起する工程と、前記直線状のマイクロアレイ上の前記励起されたプローブのうち少なくとも1つの空間位置を検出する工程と、前記直線状のマイクロアレイ上における前記励起されたプローブの空間位置と、前記細胞または前記胞子の少なくとも1つの識別結果とを相関させる工程とを有する。一部の実施形態において、前記直線状のマイクロ流体マイクロアレイは、標的被検出物の検出のために空間分解される区別可能な(異なる)プローブを少なくとも2つ有する。他の実施形態において、前記直線状のマイクロアレイは多孔質媒体を有し、これにより前記1若しくはそれ以上の標的生物有機体からの核酸の拡散時間は短縮され、当該核酸は前記プローブとハイブリダイズされるものである。また、試料中の複数の被検出物を試験するための空間配置された複数の検出プローブも提供される。
【0010】
本発明では、ハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析カードも提供し、この試料調製および分析カードは、生物試料を受容可能な溶解チャンバーと、前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイであって、多孔質媒体に結合した1若しくはそれ以上の触手プローブを有するものである、前記直線状のマイクロ流体アレイと、前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイとの間にあり、双方と液体流通可能な任意に選択される導管とを有する。前記直線状のマイクロ流体アレイは、着脱可能なカートリッジ内に設けられていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以上の要約および以降の詳細な説明は、添付の図面を参照することで、さらに明確に理解される。本発明を例示する目的で本発明の例示的な実施形態を図面に示すが、本発明は、開示している具体的な方法、組成、および装置に限定されるものではない。
【図1】図1は、本発明の試料調製および分析システムの一実施形態の上面斜視図である。
【図2】図2は、本発明の試料調製および分析システムの一実施形態の上面斜視図であり、当該一実施形態の内部構成要素のレイアウトを示したものである。
【図3】図3は、試料収集および溶解チャンバーの一実施形態の斜視図である。
【図4】図4は、種々の超音波処理出力で細菌胞子を破壊する能力を実証したものである。
【図5】図5は、胞子溶解の最適条件を示したチャートである。
【図6】図6は、manothermosonication(圧力・熱・超音波処理)後の溶解物のDNA断片サイズの最適化を強調表示したスラブゲルである。
【図7】図7は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態の上面斜視図である。
【図8】図8は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態の側面斜視図であり、当該一実施形態の励起および検出モジュールを詳しく示したものである。
【図9】図9は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態の斜視図であり、当該一実施形態のマイクロ流体チップと、マイクロアレイチップおよびライザーを組み合わせた別の実施形態とを詳しく示したものである。
【図10】図10は、本発明の試料調製および分析システムに使用するマイクロ流体チップ内で、プローブ付着に使用される多孔質高分子モノリスの製作に関した本発明の一実施形態である。
【図11】図11は、本発明の試料調製および分析システムで使用するよう開発されたアッセイの1つに関する本発明の組み立て済み一実施形態である。
【図12A】図12は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態であり、一体化されたラップトップコンピュータを取り外した未完全な状態および取り付けた完全な状態の双方を示している。
【図12B】図12は、本発明の試料調製および分析システムの組み立て済み一実施形態であり、一体化されたラップトップコンピュータを取り外した未完全な状態および取り付けた完全な状態の双方を示している。
【図13】図13は、本発明の試料調製および分析システムを制御できるコマンド制御ソフトウェアシステムの組み立て済み一実施形態である。
【図14】図14は、本発明の試料調製および分析システムを制御できる適切なコマンド制御ソフトウェアシステムの組み立て済み一実施形態を示した図である。
【図15A】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15B】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15C】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15D】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図15E】図15A〜Eは、本発明の消耗品カードの一実施形態を種々の表現方法で示した図であり、当該消耗品カードは、溶解チャンバーと蛇行した冷却経路とを含み、直線状の多孔質マイクロアレイを有するカートリッジに押し嵌めできる。A―前記消耗品カードを組み立てた状態の正面図。B―前記カードの基部、フィルター、試料キャップ、流体密閉キャップ、およびマイクロアレイカートリッジの分解図。C―前記流体密閉キャップの正面図。D―前記流体密閉キャップの内部図。E―前記消耗品カードを組み立てた状態の背面図。
【図16】図16は、直線状の多孔質マイクロアレイ上にある前記プローブを励起する上で適した光学システムを示した図である。活性化したプローブからの蛍光の検出も示している。
【図17A】図17A〜Cは、直線状の多孔質マイクロアレイを有した分子捕捉カートリッジの正面図、斜視図、および側面図である。
【図17B】図17A〜Cは、直線状の多孔質マイクロアレイを有した分子捕捉カートリッジの正面図、斜視図、および側面図である。
【図17C】図17A〜Cは、直線状の多孔質マイクロアレイを有した分子捕捉カートリッジの正面図、斜視図、および側面図である。
【図18】図18は、前記直線状の多孔質マイクロアレイに結合した蛍光プローブの位置を走査および検出するよう前記光学システムを連結する上で適した単一軸スキャナの一実施形態を示した図である。
【図19】図19は、キャピラリー体積分のmRNAを1回注入したのち、捕獲および放出を行った結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ハイスループットの生物学的分析を行うには、マイクロ流体を扱う構成要素および方法が使用される。現在必要とされている改善されたシステムおよび方法は、高速、高特異度、および高感度のアッセイ方式を、前段階の頑健な試料調製と、厳しい環境での使用に適した最終段階の検出とを行うプラットフォームに統合したものである。不使用状態で時に数か月待機でき、必要時には5分以下で稼働状態にできるシステムが必要とされている。例えば、(1)試料収集、(2)充填、および(3)開始の3つの工程段階で、作業者が分析を行えるようにする試料調製および分析システムが必要とされている。また、報告された情報(測定値)に基づいて、結果を大きく左右する重大な意思決定を行わなければならないため、当該システムのアッセイの高特異度および高信頼性に対する要求は厳しい。これらの技術的要件は、例外的に頑健なアッセイおよびシステムでも望まれる。そのため、以下の特徴を備えることのできるシステムおよびアッセイ方法を開発することが必要とされている。
【0013】
隣人からの脅威を高い信頼性で識別する能力。
【0014】
複雑な若しくは汚れた試料からの試料を分析する能力。
【0015】
外部の試料調製工程なしで分析を行う能力。
【0016】
ウイルス、細菌、タンパク毒素を含む10以上の生物剤に対する多重アッセイ。
【0017】
特殊な保管要件がないアッセイおよびプラットフォームの開発。
【0018】
特定の有機体を高い信頼性で検出および識別する能力は、選択するアッセイに応じて異なる。高速検出アッセイプラットフォームでは、従来、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)による方法論が使用されてきた。しかしながら、第一対応者シナリオでのPCR使用には、大きな欠点がいくつかある。第1に、PCRアッセイの特異度は選択するプローブに応じて異なる。すなわち、すべての有機体のDNAがマップされるまで、単一プローブを完全に信頼することはできない。偽陽性率を低減するため複数のプローブを使用することが多いが、これは単に真の陽性率(感度)を向上させるだけである。第2に、PCRアッセイは酵素に依存するため、正確な結果を得るには試料の汚れを取り除く必要があり、試料が汚れていると酵素反応が抑制され、代償の大きい偽陰性結果につながるおそれがある。第3に、PCRアッセイに使用される試薬は再使用できず、特殊な保管条件を要するため、アッセイの維持管理には労力およびコストがかかる。PCRアッセイの上記制限に対処するには、当該システムは、偽陽性率を低減するため統計的に実証する必要があり、汚れた試料を扱えなければならず、また使用および維持が安価でなければならない。しかし、適切なシステムおよびアッセイに、必ずしもPCRを使用する必要はない。
【0019】
隣人からの脅威を高い信頼性で識別する能力
本明細書において組み合わせプローブ分析(Combinatorial Probe Analysis:CPA)と呼ぶ新しい検出方法は、本願発明者らの少なくとも一部により開発されたもので、Westらによる2007年3月2日付けで出願された「Cooperative Probes and Methods of Using Them」(協調プローブおよびそれらを使った方法)国際特許出願第PCT/US07/63229号(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)で開示されている。これらの方法では、同じ有機体用に複数のプローブを使って同じ標的DNAを調べ、統計的感度を指数関数的に向上させることができる。前記アッセイでは、超高速ハイブリダイゼーション率が保たれ、組み合わせプローブ、または単に複数プローブの均一な混合物を調製する点で、マイクロアレイなどの従来のプラットフォームと異なる。このアッセイでは、単一の遺伝子または核酸を検出するよう設計された複数の捕捉プローブを使用する。これらのプローブは、多孔質高分子モノリシック(porous polymer monolithic:PPM)材料を含んだマイクロチャネル(マイクロ流路)の離散領域に配設できる。核酸プローブの配列および構成により、選択的な配列について特異度および信頼性の高い探査が可能になる。この構成では、溶液中でハイブリダイズして単一の核酸配列になる最低2つの核酸配列が提供される(図11)。プローブ同士が近接していることにより、異なるヌクレオチド配列をそれぞれスクリーニングする複数のプローブに、単一のポリヌクレオチドが結合可能である。この構成を使うと、ハイブリダイゼーション率と、良好に結合するヌクレオチド数とが増加する(偽陰性率が低下するなど)。最も重要なことは、偽陽性率が統計的に低下する点である。CPAの利点は、同じ標的DNAについて2若しくはそれ以上の合致が必要であるため、偽陽性率をほぼ排除できることである。この能力は、試料調製および分析システムの2つの技術的特徴から生じるものである。
【0020】
偽陽性率を低減する特徴の1つは、離散(不連続な)マイクロ流体領域に検出プローブを位置付けた結果生じる。この構成では、捕捉プローブ同士の近接性により、偽陽性検出が劇的に減少する。偽陽性率の低減では、特にコンピュータシミュレーションによるランダマー(randomer)生成を使った統計モデルを導入して、偽陽性率を決定する。このモデルは、2項分布の確率質量関数を適切に使って、真にランダムな(無作為の)配列を導入するもので、各塩基対には25%の存在確率が与えられる。このモデルでは、統計設定に単一のヌクレオチドミスマッチ(不一致)を導入できるほか、使用するプローブおよびDNA標的の長さ、ランダマーの数、およびプローブの数を制御することができる。このモデルでは、次に、従来の分析方法(分析領域あたり単一プローブ)と、我々が提案する特定位置での組み合わせプローブ方法とを比較する。このモデルでは、20bpのプローブを、最大1塩基対のミスマッチを許可して使用した。このモデルにより、2つのプローブを使うと、前記CPA方法と比べ、前記従来の方法で偽陽性を見つける確率が590,000倍高まることが実証された。前記2つの方法をさらに比較すると、CPAを使用する各プローブについて、従来のアッセイでは、同じ偽陽性率低下を実現するのに18の異なるプローブが必要である。
【0021】
偽陽性率を低減する第2の技術的特徴は、標的とプローブの熱力学的相互作用に対する近接プローブの効果である。簡潔に言えば、組み合わせプローブの結合部位間の距離を制御すると、ハイブリダイゼーションの融解温度が上昇して、非特異的な標的−プローブ相互作用が減少する。ヌクレオチド配列が長いほど、ギブスの自由エネルギーに大きな変化が生じ、融解温度が上がる。例えば、20bp配列の場合、ΔGは25kcal/molであるのに対し、40bp配列の場合は約55kcal/molになる。一実施形態では、単一の塩基対により40bp配列が中間部で分離されて、55kcal/molに近いΔGが生じる。特定の作用理論に制限されるわけではないが、この自由エネルギーの変化は、反応から生じる実際のエネルギー量のほか、当該反応が起こる確率にもよる。これと対照的に自由溶液中のヌクレオチド配列の場合、正しい配向およびエネルギーを伴ったプローブに当たる確率は比較的小さい。しかし、一度ヌクレオチド配列がプローブに結合すると、残りの配列は0.34nm/塩基対にほぼ等しい既知の距離で繋留されて、反応球に制限が生じる(HoldenおよびCremer、2005)。組み合わせプローブは、標的ヌクレオチド濃度を効果的に上昇させ、エントロピー作用を弱める。すなわち、組み合わせプローブを離散マイクロ流体領域の結合サイトに配置すると、その近傍でDNAが当該プローブと反応する確率が高まる。これによりΔGは増加し、その結果、融解温度も高まる。100bpの標的配列を分離する場合、第2の結合事象に関する半球形の反応体積は半径34nmと推定される。これにより被検出物の濃度が効果的に5桁増加し、結果的に融解温度が約10℃変化する。CPAを使うと、制御可能な温度に基づいたヌクレオチド配列の弁別が可能になり、偽陽性および偽陰性の検出事象が大幅に減少する。
【0022】
核酸検出のためのハイブリダイゼーションアッセイ最適化では、これまで特異度を高める技術的進歩が見られている(West,Hukariら、2004)。これらのハイブリダイゼーションアッセイでは、マイクロ流体チップやガラスキャピラリーなど、マイクロチャネル内で形成された新規性のある多孔質高分子モノリシック(PPM)材料を使用している。単一のハイブリダイゼーションに最高14時間を要する標準的なマイクロアレイプラットフォームと比べ(Li,Guら2002)、Arcxis Biotechnologiesチームが開発したマイクロチャネルベースのPPMアッセイは、同じハイブリダイゼーションをわずか2秒間で行う。これは、プローブの表面積を増やし、拡散距離を縮めることにより実現できる。また、希釈配列は核酸およびタンパク質のバックグラウンドが高い状態から精製されるため、核酸の単離は特異度が高いと見られる。これらの能力を使うと、前記アッセイプラットフォームは、アッセイ速度、感度、および特異度など、現在のアッセイプラットフォームに重要な進展をもたらす。例示的なアッセイプラットフォームは、偽陽性の検出事象を低減できるものである。
【0023】
要約すると、前記CPAハイブリダイゼーションアッセイには、他の分子診断アッセイと比べ、いくつかの著しい利点がある。それらの利点には、以下が含まれる。
【0024】
当該アッセイの実施形態は、酵素反応(PCR)を必要としない。PCRでは環境試料または血液試料から酵素阻害物質を除去することが非常に重要であるが、当該アッセイでは、そのような時間と労力を要する試料の汚染除去が不要である。
【0025】
当該アッセイの実施形態は、偽陽性率が低い。前記CPAアプローチを利用し、この検出戦略をモデル化することにより、偽陽性率は、標準的な免疫アッセイ、PCR、および他のマイクロアレイプラットフォームに現在使用されている単一プローブ構成よりほぼ4桁低下した。このCPA法では、さらに、二重結合プローブに伴う自由エネルギーのシフトにより非特異的結合事象を変性させる能力が可能になる。
【0026】
当該アッセイの実施形態は、極めて高速である。多孔質高分子モノリスで実証されたハイブリダイゼーションアッセイの実施に必要な時間は、わずか2秒間以下である(図3)。これと同様な反応速度論は、前記組み合わせアッセイアプローチでも可能になる。
【0027】
当該アッセイの実施形態は、高感度である。本発明の試料調製および分析システムを使用することにより、多孔質高分子モノリス(porous polymer monolith:PPM)の特定領域でわずか1〜10pgの核酸が検出された。このレベルの感度は、卓上用に設計された他の標準アッセイプラットフォームに匹敵するものである。また、当該アッセイは、貫流モードで動作でき、1つの位置で検出可能なレベルまで濃縮を行う能力を備えている。
【0028】
複雑な若しくは汚れた試料からの試料を分析する能力
携帯型(可搬型)センサープラットフォームの開発における課題の1つは、実地での前段階作業を可能にすることである。前段階で遭遇する技術上の課題は、分析プラットフォームへの試料導入である。近年、飲料水中のタンパク質の自律的検出用に携帯型センサーが開発および配備された(West,Harlodsenら、2005)。このシステムの試料収集装置では、関心のある被検出物を直接分析プラットフォームに導入できるが、大きな粒子の導入が制限される。1か月余りにわたる実験室外での実地試験の結果により、当該システムでは、試料収集プローブの障害なく試料を収集および分析できることが明らかになった。(本明細書で)提案するシステムの技術的課題は、同様なものである。しかし、(従来システムとの)大きな違いの1つは、(本開示で)提案する装置の試料収集システムは、有害な環境で必要とされる個人用保護具により作業者が巧みに手作業を行えない場合も操作が可能な点である。このシステムでは、利用者が収集バイアルに試料を入れ、その試料バイアルを分析系統に挿入できるよう、試料収集システムを設計することができる。前記試料バイアルには、試料の調製および分析用の緩衝液など、必要な試薬をすべて含めてよい。利用者は、単に前記バイアルで試料をすくって激しく振盪し、試料収集ユニットに含まれる試薬と内容物を混合するだけである。前記バイアルは、当該分析システムへの粒子導入を制限する膜を含むことにより、携帯型分析プラットフォームに一般的な故障モードである、泥土や砂その他5μmを超える物質など大きな粒子による試料調製分析系統の目詰まりを克服することができる。この試料収集システムを使うと、利用者は、乾燥した試料または液状の試料を試料バイアルで収集および混合し、これを分析系統に挿入することができる。これにより完全に自動化された態様で、前記バイアルから試料を取得し、ろ過した試料を分析用に調製することが可能になる。
【0029】
外部の試料調製工程なしで分析を行う能力
本発明のシステムの一実施形態は、操作が単純で、利用者は5工程未満で分析を実施することができる。これらの工程には、試料をバイアルに入れ、前記バイアルを充填したのち、ボタンを一度押すだけで分析を行うなどの操作が含まれる。次に、利用者は、既存のバイアルを取り出してリセットを行い、またはパージ機能を実施して、次の分析を開始する。例示的なシステム(図1)では、充填シリンジ内に試料を引き入れたのち、前記試料をマイクロ流体チップ上に移動させて分析する。前記マイクロ流体チップには、ライザー領域およびPPM領域を含めることができる。このマイクロ流体チップは、10〜15回の分析に相当する耐用期間を有することができ、これは1回の実地調査で必要な分析回数にほぼ等しい。当該システムでは、単純な2段階工程で前記チップ構成要素を交換することができる。
【0030】
前記試料収集バイアルの挿入後に分析を行うには、収集した試料を前記充填シリンジ内に引き入れ、そこで当該試料を分析用に調製する。試料は、まず細胞内の巨大分子を分析用に遊離させるための熱溶解(thermal lysis)を経る。この熱溶解プラットフォームでは、最も頑健な種である細菌胞子を含む種々の有機体を溶解(溶菌)および可溶化することができる。生物剤の熱溶解は、加圧溶液を超高温加熱することにより行われる。試料は、前記PPMによる流量制限により、本プラットフォーム内で加圧される。この試料調製技術は、タンパク質およびDNAの双方を含む種々の分析に使用することができる。細胞内DNAの断片化サイズは、これらの方法で制御できる。この態様で、前記ライザーは、生物剤溶解を行うだけでなく、細胞内核酸の変性/断片化およびタンパク質の可溶化も行う。生物剤溶解を行うと、細胞内の巨大分子はPPMに即適用可能になり、前記CPAプラットフォームを使ってハイブリダイズできる。このハイブリダイゼーション工程中、前記PPMの温度を制御すると、結合動力学作用の最適化を促進できる。ハイブリダイズさせた試料は、試料内の核酸がCPAアッセイのプローブ2と相互作用すると検出される(図1)。標的核酸のプローブ2とのハイブリダイゼーションにより、蛍光を使ったカラムの探査が可能になる。試料は、この分子指標(分子ビーコン)構造を使って検出でき、緩衝液以外の試料の前処理(共有結合標識工程など)は使用してもよいが必要ではない。これにより、利用者は、外部プローブでの標識化など分析プラットフォーム外での調製工程を行うことなく、分析プラットフォームに試料を直接導入する能力を有することができる。
【0031】
ウイルス、細菌、タンパク毒素を含む複数の生物剤に対する多重アッセイ
当該システムに望まれる仕様は、DNAおよびタンパク質の双方を利用して、複数の生物剤を対象として含むよう分析を多重化する能力である。これらの方法およびシステムを使うと、少なくとも2、5、10、20、50、または場合により少なくとも100の生物剤が分析可能になる。多重分析は、前記PPM材料の上にCPA検出領域のアレイを作製することにより実現できる(図1)。前記材料は、その後グリシジルおよびアミンの結合反応を使って官能基化できる(図1および2)。このPPM材料には、例えばオリゴヌクレオチドおよびタンパク質の双方など、種々の検出プローブ分子を配置(成膜)可能である。脅威となる生物剤を対象として高度に多重化した分析を行うには、高密度アッセイが提供される。単一の個別装置内にプローブアレイを選択的に配置(成膜)する工程も提供される。この工程では、捕捉プローブおよび検出プローブのフォトリソグラフィ技術による選択的成膜を使い、この工程により、単一の離散1.0cmマイクロチャネル上に(1000CPAプローブセットを超える)高密度の多重アッセイをもたらすことができる。この工程では、CPAアッセイを使って、密接に関係した有機体グループ間の弁別を行う。このプラットフォームは、Bacillus subtilis(枯草菌)、Bacillus thuringiensis(バチルスチューリンゲンシス)、Bacillus atrophaeus(B.globigii)を含むバシラス属の細菌胞子を区別することができる。病原性および毒素産生性の強い病原体を検出する場合は、各種検出プローブのいずれかを生成することにより、例えば2007年3月2日付け出願済みPCT/US07/63229(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)に開示されている、A、B、およびCの全カテゴリーの病原体について複数のプローブライブラリをコンパイルすることができる。適切なプローブは、非病原性の細菌胞子、病原性の胞子、さらに他の生物剤についても生成することができる。脅威となる生きた生物剤を検出および識別するため、プローブセットを提供することもできる。
【0032】
組み合わせプローブは、タンパク質分析用に提供することもできる。タンパク質結合は、ポリヌクレオチドと同様、前記第2の結合事象について、より高いΔGを呈する。タンパク質用のデュアルプローブ(2プローブ)結合アッセイの場合は、ΔGの増加が2倍を超えることもある。空間的次元を3次元から2次元に変更すると、特定の位置でタンパク質の有効濃度が増加するため、前記第2の結合事象の自由エネルギー変化は、第1の結合事象より著しく大きくなる。この能力により、タンパク質およびDNAのアッセイが同じ装置上に組み込み可能になるため、細菌、ウイルス、およびタンパク質毒素を含む任意数の生物学的脅威について、試料を探査する能力が得られる。
【0033】
特殊な保管要件がないアッセイおよびプラットフォームの開発
携帯型(可搬型)装置について技術上考慮すべき点の1つは、分析に使用する試薬の安定性である。本明細書で説明するCPAハイブリダイゼーションアッセイの方法論は、より優れた試薬安定性をもたらす。生体分子の検出で最も一般に使用される試薬は、本質的に不安定である(熱安定性のある酵素および抗体)。(本開示で)提案するプラットフォームは必ずしも活性酵素の使用または熱的に敏感な試薬を必要とするものではなく、当該CPAでは、むしろ精製された複数のプローブを表面に付着させて使用する。種々の核酸に適したPPM材料は、室温で(約6か月を超えるなど)有効期間の長い装置をもたらす。さらに、カラム内の試薬は、乾燥した状態で保管することで検出プローブの劣化を防ぐことができる。この乾燥形態で保管されたこれらの材料は、使用するまで乾燥した状態で室温で数か月保管でき、極めて頑健である。当該プローブ構造は複雑であるため、その試薬はより変化しやすいと考えられる。そのため、試験を行って最適な保管条件を決定することができる。この方法で、最適な検出特性を維持する頑健な試薬を開発することができる。有効期間を延ばすため、使用前の試薬は、直射日光の届かない場所に保管することが望ましい。
【0034】
本明細書に開示する方法およびシステムは、単一の核酸に対し超高速で高感度の検出能力を有する。当該方法では、複数の生物剤に対し、単一の個別装置で高性能で偽陽性率の低い検出が可能になる。本明細書で提供する方法およびシステムは、デュアルプローブ構成に基づいた新規性のあるアッセイを導入するものである。適切なデュアルプローブでは、前述した試料を分析する前に、時間と労力を要する調製(準備)を行う必要がなくなる。次いで、この新規性のあるアッセイを1若しくはそれ以上の本明細書のシステムに組み込むと、頑健な現場使用が可能になる。
【0035】
例示的な実施形態についての詳細な説明
本発明は、本開示の一部を形成する添付の図面および例と併せて以下の発明の詳細な説明を参照することで、より容易に理解されるであろう。本発明は本明細書に説明し示す具体的な装置、方法、条件、またはパラメータに限定されないこと、また本明細書で使用する用語は単に例をとって特定の実施形態を説明するためものであり特許請求の範囲に記載された本発明を限定することを意図したものではないことを理解すべきである。また、添付の請求項を含む本明細書において単数形扱いしている名称は、別段の断りがない限り、複数形も包含し、特定の数値に言及している場合は、別段の断わりがない限り、少なくともその特定の値が包含されることを示す。すべての範囲は、包括的で組み合わせ自在である。そのような範囲で値を表現している場合、異なる別の実施形態は、特定の1つの値から、および/または他の特定の値までを包含する。同様に、直前に「約」、「ほぼ」、「おおよそ」などを伴う近似値として値を表している場合、特定の値は、本発明の範囲内で別の実施形態を形成することが理解されるであろう。
【0036】
マイクロ流体の経路(マイクロチャネル)またはアッセイキャピラリーは、水性試料または気体試料を輸送することができる。通常、それらの流路またはアッセイキャピラリーの内径は、5〜1000ミクロンである。好適な実施形態では、キャピラリーを、照明器および検出器の光学系統に近接させて配置できる。当該キャピラリーは、磁気素子で生成した圧力により定位置に保つことができる。適切な圧力源としては、機械力、加重による力、またはこれらの任意の組み合わせなどがある。
【0037】
前記アッセイキャピラリーまたは流体から発せられた光子の光通信は、当該アッセイキャピラリーと検出器との間の光結合を使って実現できる。適切な光結合としては、光導波路、レンズまたは一連のレンズ、光ファイバーバンドル、透明な(ガラスやプラスチックなどの)ロッド、ファイバープレート、開口部、フィルターセット、またはこれらの任意の組み合わせなどがある。本発明の特定の好適な実施形態では、前記光結合に、一連のフィルターを含んだ一連のレンズが含まれる。適切なレンズでは、1倍〜100倍の光学的倍率が得られ、最も好ましくは10倍〜40倍の光学的倍率が得られる。適切なフィルターでは、励起光の全部または一部をブロック(遮光)し、放射光の全部または一部を通過させることができる。前記照明器および検出の光経路は、ダイクロイック(二色性)フィルターとアッセイキャピラリーとの間で適切に適合される。
【0038】
適切な照明器を、アッセイキャピラリーに隣接させて固定すると、前記アッセイキャピラリー中の被検出物の分子に励起源を提供することができる。一般的な照明系統には、光源、開口部、フィルターセット、および集光部品のうち1若しくはそれ以上が含まれる。適切な光源はフィルターブロックに固定でき、光は開口部で修正できる。適切な光源には、一般に、発光ダイオード(LED)、レーザー、白熱光源、蛍光光源、エレクトロルミネッセンス光源、プラズマ光源、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。本発明の特定の好適な実施形態では、前記照明器にLEDまたはレーザーが含まれる。適切なLEDまたはレーザーでは、いかなる光波長も放射可能である。2若しくはそれ以上の任意タイプ光源を組み合せて付加的な波長分布を提供し、色を混合することもできる。例えば、分割光ファイバーバンドルを2つのLED、2つのレーザー、またはこれらの任意の組み合わせに接続して使うと、光源を組み合せることができる。
【0039】
前記キャピラリーおよび内部試薬を励起光源で照らしたのち、すべての発光が検出される。適切な検出器は、一般に、前記キャピラリーに隣接し若しくは光学的に接続されている。一般的な検出系統には、(被検出物または分子からの)励起光源、開口部、フィルターセット、光収集部品、および適切な光子検出器が含まれる。使用する光子検出器は、検出タイプに応じて選択できる。適切な光子検出器の例には、光電子増倍管(photomultiplier tube:PMT)、アバランシェフォトダイオード(avalanche photodiode:APD)、および電荷結合素子(charge coupled device:CCD)が含まれる。
【0040】
検出の熱制御。システムを熱制御すると、標準的なアッセイ方法だけでなく、新しいアッセイ調査および新規性のあるアッセイ調査の性能を改善することができる。検出前および検出中に前記キャピラリーの温度を制御するには、温度コントローラを含める。前記温度コントローラは、物理的に直接または間接に前記キャピラリーと接触してよく、または前記キャピラリーと放射熱的に接触
してよい。本明細書における「間接的な接触」とは、前記温度コントローラと前記キャピラリーとの間に、プレートやフィルムなど他の材料(物質)が少なくとも1つ介在することを意味する。温度制御は、熱電冷却器(thermoelectric cooler:TEC)、抵抗加熱、気化冷却(蒸発冷却)、熱伝導流体(伝熱流体)、または他の冷却システムなど種々の方法(これに限定されるものではないが)により達成できる。好適な温度制御方法は、TECを使用するものである。温度を精確に制御するには、短時間で加熱または冷却できるよう、TECを前記アッセイキャピラリーに密着させることが好ましい。最も一般には、前記コントローラは前記キャピラリーの温度を約−25℃〜150℃の範囲で調整できる。前記キャピラリーの温度制御は、通常、キャピラリー分離部の温度を下げ、核酸の相互作用およびハイブリダイゼーション中に精確に熱制御を行うため使用される。
【0041】
前記アッセイキャピラリー内の区別可能な(異なる)領域で温度を制御すると、化学反応の実施および最適化に役立つ。この能力により、前記アッセイキャピラリー内の1〜1000の区別可能な領域が個別に制御可能である。より一般には、温度制御領域の数は、約1〜約10の範囲である。好適な実施形態では、別個の温度制御領域が2つある。各TECは、独自の制御盤を有し、加熱および冷却の双方を設定できる。各領域における温度制御は、電圧変化で温度を測定するサーミスタを使って実現できる。
【0042】
本発明の特定の実施形態では、前記アッセイキャピラリーの圧力制御がシステムにさらに含まれる。適切な圧力コントローラには、シリンジポンプ、(界面動電現象を利用した)電気浸透流ポンプ、流量圧力制限、またはこれらの任意の組み合わせを含めることができる。この圧力制御は、前記キャピラリーに直接接続してよい。また一部の場合には、区別可能な領域を熱制御して圧力を制御できる。最も一般には、この圧力制御により0〜32大気圧または0〜300psiの圧力調整が可能である。
【0043】
本発明の種々の実施形態では、本発明のシステムを提供する工程と、マイクロ流体キャピラリーを熱制御する工程と、少なくとも1つの蛍光分子を検出する工程とを含む方法も提供される。
【0044】
本発明の検出システムでは、温度を制御する必要がないだけでなく、圧力、動的流量、および単一プローブでの緩衝液組み合わせなど他の可変量の制御も不要である。上記のとおり、温度はハイブリダイゼーション中に制御されるが、その他の因子も、ハイブリダイゼーションの動力学作用を最適化するよう調整される。当業者であれば、試薬使用量を最小限に抑えるための付加的な最適化が可能であろう。マイクロ流体システムで作業すると、標準的な平ガラスアレイおよびPCRアッセイと比べ、使用する試薬の量を削減する上で役立つ。本発明の装置および方法では、最適な条件でプローブを順次スクリーニング、捕捉、および検出できるようになる。
【0045】
アッセイのタイプ
核酸ハイブリダイゼーション
効率的な核酸ハイブリダイゼーションでは、流体を精確に熱制御する。核酸(nucleic acid:NA)試料は、まず変性させてストランド(鎖)を開き、ハイブリダイゼーションの準備をする。厳密な温度制御、例えば10℃の変化を利用して非特異的なハイブリダイゼーションを防ぐと、20塩基プローブでのミスマッチがわずか1塩基にできる。検出プローブを長くすると、ミスマッチに関する温度差が減少し、非特異的なハイブリダイゼーションの確率が上がる。
【0046】
本発明の検出システムの用途の1つは、核酸(NA)分析である。NAハイブリダイゼーションは、プローブおよび試料により行える。そのプローブは、設定された長さのオリゴヌクレオチドまたはNA塩基鎖であってよい。通常、プローブ長は15〜1000塩基長である。通常、生物剤検出には最大1000のプローブが使用される。試料は、ウイルス、細菌、組織、血液、動物細胞、および植物を含む(これに限定されるものではないが)生体試料から採取される。試料NAの長さは、通常、厳密に制御され、単一塩基対から遺伝子配列全長まで場合により異なる。試料調製により若干のNA制御が可能で、これは20〜10,000基部の範囲であることが多い。試料が500塩基長より長い場合は、ハイブリダイゼーション前に試料を変性させる上で95℃の融解温度が必要になる。プローブが500塩基より短い場合は、非特異的結合の確率が高まる。探査中の試料より短いプローブを使うと、試料NAの複数の無傷部分を探査することができる。
【0047】
プローブは2つの方法で使用することが可能で、その第1の方法では、溶液中でプローブを拡散させて試料NAと相互作用させて使用し、当該プローブは試料全体にわたり分散される。第2の方法では、プローブを固定面に付着させ、そこで試料NAがプローブと接触可能になる。いずれの場合でも、溶液中のプローブおよび試料NAの温度は、非常に特異度の高いハイブリダイゼーション用に注意深く制御される。本発明の進歩性のあるシステムを使用すると、固定されたプローブまたは浮遊するプローブを最適化できる。異なるプローブは、各プローブに伴う塩基とそのプローブに結合した部分とに応じて(固定面または蛍光プローブへの結合の化学的性質などにより)、異なる温度で開く。適切なハイブリダイゼーションを行う温度は、決定されることが好ましい。
【0048】
結合分析用に試料NAを調製する第1の工程は、NAを変性させることである。それより低い温度では、前記NAのヘリックスが、二本鎖、ヘアピン構造、またはスーパーコイル(超らせん)を形成してしまうため、相補的プローブ対と相互作用できない。標準的な卓上手順では、試料を95℃で5分間加熱して変性を行うことができる。これにより、本質的にすべてのNAを確実に変性させ、それぞれの相補対から分離させることができる。別の臨界温度は、プローブの融解温度である。この温度を超えると、特異度の高いハイブリダイゼーション事象は起こらない。すなわち、前記融解温度を超えると、プローブとのハイブリダイゼーションは起こらない。
【0049】
キャピラリー電気泳動
キャピラリー電気泳動は、マイクロチャネルまたはキャピラリーに接続された陽極から陰極へ電圧を印加し若しくは電流を流すことにより行うことができる。この電位により、帯電した種またはコロイド粒子が遊走し、これにより前記流路内をイオンが移動する。遊走すなわち分離の速度は、分離流路に流れる電流に応じて異なる。電流を増やすと、分離にかかる時間は短くなる。分離速度を制限する要因は、大きな電流により生じるジュール加熱である。前記キャピラリー内で熱が生じるに伴い、高温で気泡が形成される。その気泡が誘電体として作用し、電流はより狭い経路を強制的に通過させられるため、さらに高温になる。このサイクルは、前記キャピラリーの密閉部で終了し、分離を終了させる。分離流路を冷却すると分離中に生じた熱を取り除くことができるため、より高電圧を使用できるようになり、結果的に分離もより高速になる。
【0050】
また、冷却したキャピラリーでは、分離の分解能も上がる。試料の分解能は、試料の拡散により制限される。自然の作用により、試料は流路内で拡散する。分離中に試料の拡散を制限する方法は、2つある。その第1の方法は、分離をより短時間で完了して、拡散が起こる時間を短縮するものである。第2の方法は、試料の温度を下げて、拡散を効果的に低速化するものである。電気泳動分離の温度を下げ、制御すると、より高い電圧を使うことが可能になり、また拡散も制限できる。
【0051】
また電気泳動の温度制御により、代替ふるい材料、特に温度変動に影響される材料が使用可能になる。また、区別可能な領域ごとに固有の制御を行うと、分離流路内で行うべき若干の試料調製ができるようになる。例えば、DNA分離では、ふるいマトリックスに入る直前に試料を変性させることができる。本発明の検出システムでは、分離技術で新技術および新規性のある技術を使用することができる。
【0052】
キャピラリー電気クロマトグラフィーは、ふるいマトリックスとして充填材を使って適切に実施できる電気泳動の一種である。特定の作用理論に制限されるわけではないが、表面のゼータ電位および壁の電荷を使って、試料のNA核酸要素を分離する。空間の大部分は充填床で占められるため、充填床では電圧がさらに低下する。熱制御されたシステムでは、分離時間を大幅に短縮し、気泡形成を軽減することができる。
【0053】
進歩性のある当該方法に組み込める他の電位アッセイとしては、キャピラリーゾーン電気泳動(試料および流体が異なる方向へ流れる)、フィールドフローフラクショネーション、等電点電気泳動、プロテオーム結合事象、および他の化学反応を利用したものなどがある。
【0054】
また、界面動電現象を利用した電気浸透流ポンプは、種々の分子輸送方式で使用することができる。流体に充填床を通過させるため強い電場が印加されるが、気泡形成の問題は依然として解決されない。充填床の効率は、その表面のゼータ電位により向上する。このゼータ電位は、温度または圧力により修正することができる。
【0055】
例および他の例示的な実施形態
図1は、本発明の核酸検出システム(1)の実施形態を例示したもので、このシステムには、試料のNA溶解、調製、および熱制御を実施する際の制御に必要なハードウェアおよび電子機器がすべて含まれる。この検出システムの実施形態は、図11に例示した。当該ボックス内部の構成要素には、当該筐体のふたを開くとアクセスできる。図1および11からわかるように、制御手段は、すべてこの筐体内にある。熱制御および検出点の接続性は、図2および8にさらに詳しく示している。
【0056】
図2は、システムの一実施形態の概略図を示したものである。TECの熱制御は、内部カード(5)により電気的に制御される熱コントローラにより達成される。光学部品モジュールは、軸ステージの1つを介してエンドプレートに接続され、円柱形のレール(7)に沿ってラスタ走査(ラスタスキャン)される。これにより、直線状マイクロアレイ装置の走査(スキャン)が可能になる。
【0057】
図3は、本発明の検出システムの一実施形態で使用する試料溶解システムの図面である。試料を収容するとともに試料溶解を行うため、使い捨て収集バイアルが設けられている。このバイアルは、試料を加温するため温度制御された挿入部材に挿入できる。このバイアルは、熱制御ウェルに挿入すると穴が開けられ加圧されるため、試料処理が可能になる。前記バイアルは、加圧および加温された状態で、当該バイアル底部に超音波を適用することにより、またはホーンの先端を溶液に直接挿入することにより、短時間超音波処理される。この向きでは、超音波処理プローブおよびバイアルとのインターフェース(図示せず)が、試料収集インターフェースの底端に位置する。現在の温度ランプ時間は、超音波処理なしで約3分間である。現在、溶解手順中に温度を監視する溶解システムを一体化した実験が進行中である。
【0058】
図4以降の図は、Arcxis超音波処理装置の実際の使用を示している。各試料のバイアルは、約100PSIに加圧し、95℃に加熱したのち、超音波パルス(10〜3秒周期)を出力増加させながら適用する。パネルA〜EはBacillus Atrophaeus胞子の代表的な画像であり、パネルF〜JはBacillus Thurengensis溶解の代表的な画像である。パネルAおよびFは、対照試料である破壊されていない胞子に対応している。パネルBおよびGは、同じ胞子溶液を加圧し、加熱し、また約5.5ワットで超音波処理した結果を示したものである。各試料の合計サイクルタイムは、1分間であった。図BおよびGからわかるように、胞子は、互いに合わさり、クラスターを形成しているように見られる。これは、Bでより顕著である。Atrophaeusの胞子は、5.5ワット出力設定のものである。この出力設定を16.5ワットに上昇させたものがパネルCおよびHであり、前記クラスタリングが続いている。この出力設定で、B. Atrophaeusの数が減少したように見られ、B. Thurengenesis胞子のクラスタリングは増加したように見られる。前記出力をさらに33ワットに増加させると(パネルDおよびI)、胞子数に劇的な減少が明られた。これは、当該試験の最高設定49.5ワットでも明白で、その場合、現時点では特定できない線状構造が見られた。すべての胞子は、Olympus BX41顕微鏡およびOlympusのミニスポットカメラを使って対物倍率40倍で撮像された。
【0059】
図5では、上記試料の一定分量を取り除き、Beckman分光光度計で分析した。濃度を調べるための波長260nm、DNA完全性を調べるための波長280nmを使って、DNAを定量化した。このデータにより、DNAは、超音波処理出力を上昇させると胞子から放出されることが明らかになった。DNA総量および260/280比の双方を測定することにより、胞子から細胞内巨大分子を放出させる上で最適な範囲を定義した。また、16.5ワットの出力で最大量のDNAがB. Atropheaus胞子から放出されたことがわかった(そして、DNA完全性がこの出力設定でピークになることも示された)。それに比べると、B. Thurengensis (BT)胞子の結果は定義しづらかった。超音波処理が、対照試料(0出力)で見られたDNAをより多く放出させるように見られる一方、前記260/280比は、全試料について良好ではなかった。これらの出力設定で放出されたDNAの断片長を定義することが、次の1段階である。これにより、統合解析用に核酸をカスタマイズできるようにする。
【0060】
図6では、種々の胞子の溶解物のDNA断片サイズを分析している。前記超音波処理装置の最適出力は、約5.5〜約16.5Wの中央にした。実験結果からは、これら溶解物中の試料に、100〜500塩基対のDNA断片が存在することが示された。細菌胞子溶解用の標準的なプロトコルを比較した。この標準手順では、1時間を越える卓上工程が必要で、100〜10000塩基対の断片が生成された。これと対照的に、本開示が提供する進歩性のあるシステムでは、所要時間わずか60秒未満で、PCRにもマイクロアレイ用途にも最適な断片長範囲の検出可能なDNAが生成された。この範囲の断片サイズは、リアルタイムのPCR分析を使ったバシラス属胞子の検出に最適である。
【0061】
図7は、収集バイアル(図示せず)から(ポンプ702を使って)試料を引き入れたのち、バルブ(708)を通じて検出プラットフォーム706へ試料を向かわせるよう設計されたポンプおよびバルブシステム700を示したものである。このシステム700では、まず(ポンプ710を使って)プレハイブリダイゼーション緩衝液を検出カラム712に導入し、試料を受容するよう当該システムの準備を行う。前記プレハイブリダイゼーション緩衝液には、前記検出プラットフォームの適切な操作を確実に行うため、適切な標準緩衝液を含めることができる。標的プローブハイブリダイゼーションが完了した時点で、第3のポンプ714で非特異的に結合した物質を溶出させ、当該検出工程が完了した後、カラムを溶出させて次の分析に備える。
【0062】
図8は、検出モジュール800を詳細に例示したものである。基部802は溝804を有し、この溝804にキャピラリー806が静置されて頂部808により定位置に保たれる。前記キャピラリー806は、シリコンロッド810により強固に保持され、また断熱されて、高温に耐える。加熱部812は、2つ別個にある。試料814は左から右へ流れ、まず、一実施形態において95℃に制御された部分を流れて、そのDNAが変性する。この部分の温度は、前記基部802に直接接触して定位置に保たれているTEC 816により下から制御できる。検出部の温度制御は、検出TEC 818により上から制御される。この検出TECは、???により定位置に保たれる。上記2つのTEC(816、818)は分離されているため、各部分に別個の温度が必要な場合にクロストークを軽減する上で役立つ。当該検出モジュール800は、回転駆動機構820を使って検出キャピラリー(A)全体にわたり走査を行うよう設計されており、前記回転駆動機構820は、小型化された光子計数検出モジュール(B)を使って励起光を収集する。デュアル光ファイバーシステム882を使うと、特別形状の収集ファイバー824を使って、照らされたキャピラリーの部分826から発せられた光の大半を収集することができる。当該システムは、前記光子計数検出モジュールと別個に組み立てることも、または前記光子計数検出モジュールと併せて組み立てることもできる。光モジュール(D)は、熱電冷却器(TEC)830を使った2つのステージ温度を備えて完成し、前記熱電冷却器(TEC)830は、前記キャピラリー806の温度を制御し、(注意して観察するとわかるが)635nmのレーザーダイオード832により照らされる。
【0063】
図9(A)は、本発明の一実施形態に使用されるマイクロ流体チップ902の一実施形態の製作を示している。マイクロ流体チップ904は、Borofloatガラスから製作される。これらのチップは、開放された流路内で検出プローブの成膜(沈着)を受容するよう設計されている。次に、これらの開放流路は、光硬化性の接着剤で高分子膜を使って密閉される。これらの流路は、当該装置内では長さ2.54cm、幅500μm、深さ30μmである。図9(B)の第2のパネルは、ライザー領域および多孔質高分子モノリスを1つの装置で一体的に含むマイクロ流体チップの一実施形態を示したものである。この構成では、同じ消耗装置で溶解およびハイブリダイゼーションの双方が行われる。適切な装置は消耗品(使い捨て)である。この構成により、迅速な試料処理とともに極めて高感度の検出が可能になる。
【0064】
図10は、核酸配列の選択的な検出用に多孔質高分子モノリシック(PPM)材料を使った一実施形態を示したものである。PPMは、適切に小塊を有する大表面積材料(A)であり、製造後に官能基化して高速ハイブリダイゼーションアッセイ用の特異度の高いリガンドを含めることができる。この図では、橙色の蛍光画像として示されたカラム(B)に、DNAおよびRNAの混合物を導入する。次に、当該PPMを洗浄して非結合物質(この場合、緑色に標識化されたDNA)を除去し、赤色の蛍光色素で標識化されたRNAを残す。最後に、前記カラムを(95℃で)溶出させて選択的に結合させたRNAを除去する。その反応は高速で(E)、2秒以内に最大強度に達する。これは、わずか1.0ngのRNAを1μgのDNAで希釈した核酸配列を濃縮する能力を実証している。このキャピラリーの200μm部分(B中の灰色のボックス)は赤く標識化したRNA、1.0pg分の検出に対応するため、当該アッセイは極めて高感度な能力を有すことができる。
【0065】
図11は、本発明の試料調製および検出システムに使用するため開発されたアッセイの一実施形態である。前記CPAアッセイの検出プローブの結果では、相補的DNAが存在する場合、蛍光シグナル(蛍光信号)に著しいシフトが示された。(A)において、プローブBA 1.1およびプローブBA 2.1は、B.Anthracisを検出するよう設計された。プローブBAT 1.1およびプローブBAT 2.1は、Bacillus Atrophaeus(globigii)を検出するよう設計された。プローブBA 1.1およびプローブBA 2.1については、B.Anthracis (特異的)およびB.Atrophaeus (非特異的)の双方のDNA配列で試験した。プローブBAT 1.1およびプローブBAT 2.1についても、B.Anthracis(非特異的)およびB.Atrophaeus(特異的)で試験した。それらの応答データは、それに伴う背景信号を減算して補正した。図からわかるように、プローブBA 1.1、BA 2.1、およびBAT 1.1は、標的である相補的DNAに対して非常に特異的に応答し、非相補的DNAに対する有意な応答は生じなかった。このシグナル(信号)シフトは大きく、背景に対し、平均50:1を超える信号対雑音比が示された。非相補的DNAの結合も、若干観測された。これらの実験では、前記非相補的DNAが前記標的DNAより50倍多かった。例えば、プローブBA 2.1の場合、非特異的DNAは濃度20μMで、標的B.AnthracisのDNAは濃度400nMであった。この特異的に結合したプローブから生じた信号は、それより大幅に濃度の高かった、非特異的に結合したプローブの信号より13.2倍高かった。前記検出プローブの高い選択性が実証されたことから、我々は、これらのアッセイに具備する協調的捕捉プローブを設計した。図(c)では、より高濃度の標的DNAに対する当該CPA検出プローブの応答を実証している。この場合、応答は500倍より大きかった。これらの実験について特筆すべき重要事項は、前記プローブ自体から生じる背景信号のレベルであった。我々は、100nMおよび2.5μM、どちらのプローブ濃度でも同じレベルの背景信号が生じたことに注目した。これは、背景信号が当該プローブ自体のアーチファクトなのではなく、別の背景源から生じることを意味している。この蛍光背景源を決定して排除すれば、より著しく高感度な検出限界値を実現できることが期待できるであろう。
【0066】
図10の底部の表では、クリーンな(雑音の少ない)背景および混入物質背景が存在する場合のプローブの精度について報告している。その混入物質背景は、AnthracisプローブについてはBacillus Atropheaus DNA、またAtropheausプローブについてはAnthracis DNAであった。
【0067】
図12は、本発明のシステム1200の組み立て済み一実施形態を示したものである。当該システムには、プラグでDC電力を接続している(図示せず)。データは、コンピュータ1202へのUSB接続部を通じて取得された。上記の加熱モジュール/キャピラリー保持部は、分解して示している。当該試料調製および検出システムの構成要素は、組み立てた状態で示している。当該システムは、厳しい現場使用に備え、16"×24"×8"の硬化プラスチックケース1204に収納されている。このシステムの機能により、生物剤溶解、緩衝液追加、試料注入、システム汚染除去、マイクロアレイ検出、および収集されたデータの解釈など、現場で生物剤検出を行うための基本工程段階が少なくとも提供される。電源(図示せず)などの構成要素は、当該装置ケースの右上隅に一体化でき、同様に必要に応じて超音波処理モジュールも、さらに光子計数検出装置も一体化できる。このシステムでは、前記検出モジュールによるラスタ走査(ラスタスキャン)前に2段階の試料温度制御を提供できる。これにより、ハイブリダイゼーションの直前に試料を完全に変性させることができる。これらの段階は、超高速核酸ハイブリダイゼーションを実現する上で役立つ。
【0068】
当該システム1200の重量は、組み立てられた状態で50ポンド未満であった。これは、当業者が当該システムのサイズおよび重量を削減する能力の範囲内である。当該システムは、その利用者(ユーザー)に見えるのが、注入アーム、バイアル保持部、試薬パックモジュール、およびユーザーインターフェース装置(コンピュータ)だけであるよう設計できる。当該システム1200におけるチップ交換では、利用者が前記ラップトップコンピュータ1202を取り外すことが必要な場合もあるが、これを容易に交換可能な構成要素にする追加実施形態は、当業者の技術範囲内である。一体型の試料調製および検出システムにより、身体の動きに制約の多い個人用保護具の着用時にも操作可能な、使いやすいプラットフォームが実現できる。また一部の実施形態では、漂白剤などの消毒用化学物質を含んだ溶液に当該装置を浸漬することにより、当該システムを完全に汚染除去することができる。
【0069】
図13は、本発明の組み立て済み一実施形態の制御用ソフトウェアを示したものである。このソフトウェアプラットフォームは、カスタム分析条件のスクリプト作成も、ボタンを1回押すだけの操作も行えるよう設計できる。前記ソフトウェアのボタン(右側の列)は、利用者がラップトップコンピュータのキーボードを使う代わりに、タッチスクリーンで当該システムを操作できるよう大きく作成できる。このシステムを使って生成されるデータストリームは、キャピラリーマイクロアレイ装置での空間位置に基づいた強度プロットとして表示できる。当該システムでは、空間位置走査およびデータ解釈による完全な試料分析を、10分以内で行うことができる。個別機能としての当該アッセイは、わずか2秒間で行える。試料調製、試料提供、生物剤検出、および解釈を含めた工程段階を完全に一体化した場合は、10分以内で試料分析を行う能力がもたらされる。適切なソフトウェアプラットフォームとしては、National Instruments製のLabViewなどがある。付加的なソフトウェアプラットフォームを設計し、プログラムし、またC++でコンパイルすることも可能である。これにより、装置操作を合理化し、それを硬化型タッチスクリーンコンピュータに適合させて、現場での作業と積極的な汚染除去とを可能にすることができる。
【0070】
図14は、本発明の試料検出および分析システムを制御する上で使用される適切なオペレーティングソフトウェアの一体型サブコンポーネント(下位構成要素)の一部を例示したものである。
【0071】
以下、試料調製および分析システムの使用例を示す。
【実施例1】
【0072】
例I
本発明の試料調製および分析システムの使用例は、図に示したとおりである。一体型の検出機器は、様々な試料マトリックスで使用でき、試料調製、ハイブリダイゼーション、および試料被検出物の検出を完全に自動化して行うことができる。ハイブリダイゼーションは、直線状の多孔質マイクロアレイシステムを使って達成され、これにより、拡散距離が劇的に短縮され、試料被検出物を瞬時に捕捉および検出できるようになる。被検出物の検出は、2007年3月2日付け出願済みPCT/US07/63229「Cooperative Probes and Methods of Using Them(協調的プローブおよびそれらを使用する方法)」(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)に説明されている触手プローブ(Tentacle probes)などを使用し(これに限定されるものではないが)、一体型の蛍光検出プラットフォームを、核酸およびタンパク質の検出プローブと併用して行われる。他の捕捉プローブを追加して、より高次の触手プローブを作成することもできる。これらの検出プローブは、すべてアプタマーまたは抗体の技術で置換して検出タンパク質用に使用することもできる。また、これらの検出プローブは、いずれも前記直線状マイクロアレイ表面への接続を必要とすることなく、溶液中で使用することもできる。
【実施例2】
【0073】
例II―試料調製−細胞懸濁液
当該試料調製および分析システムを使うと、試料調製の所要時間が劇的に短縮される。この試料調製および分析システムのプラットフォームには、使い捨てカード機器を利用して種々の試料マトリックスを適用することができる。そのような一例では、懸濁液中で細胞を使用する。試料調製および分析システムカードを使った分析用には、各種タイプの細胞懸濁液を調製できる。そのタイプとしては、細菌細胞、ウイルス、真核細胞、植物細胞のものが含まれる。そのような例の1つでは、懸濁液中の肝細胞を遠心分離して、無傷の細胞を沈殿させる。沈殿させた細胞は、緩衝水(pH7.4)中に洗浄剤(Triton−X100)および塩(NaPO4、TMAC、NaCL)を含有した緩衝液で再懸濁する。細胞懸濁液を溶解緩衝液に入れたら、図15A〜C(本発明の消耗品カードの一実施形態の正面図、分解図、および背面図)に例示した消耗品カード(使い捨てカード機器)頂部の前記試料バイアルに入れる。当該消耗品カードは、溶解チャンバーと、直線状の多孔質マイクロアレイに押し嵌め可能な蛇行した冷却経路とを含む。次に前記バイアルにふたをし、当該カードを試料調製および分析システム器材に挿入する。前記器材に前記カードを挿入すると、自動スクリプトによりいくつかのポンプが作動して、試料は前記溶解チャンバーへ押し出され、そこで50〜110℃の温度範囲まで加熱される。この工程中に、無傷の細胞が溶解を経る。溶解が完了した時点で、試料は、フィルター(細孔径0.1〜2.0μm)を通過して押し出される。この手順により、試料の被検出物(RNA/DNA/可溶性タンパク質)は、前記フィルターを通過して被検出物捕獲領域へ移動できる。生体分子を操作するための前記試料調製消耗品カードおよび流体ポンプ装置に関するより詳しい情報は、Hukariらにより2006年10月11日付け出願済み米国仮特許出願第60/829,079号「Disposable Sample Preparation Cards, Methods And Systems Thereof」(使い捨て試料調製カードおよびその方法およびシステム)に見られる(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)。
【実施例3】
【0074】
例III―試料調製−組織生検
別の例では、組織生検(生体組織診断)に使用する。試料調製および分析システムカードを使った分析用には、各種タイプの組織生検を準備できる。そのような一例では、生検用の肝細胞を含んだ試料を調製および分析する。生検用肝細胞は、緩衝水(pH7.4)中に洗浄剤(Triton−X100)および塩(NaPO4、TMAC、NaCL)を含有した緩衝液で再懸濁する。組織懸濁液を溶解緩衝液に入れた後、これをPolytronホモジナイザーで均質化する。次に、均質化した試料を、図15A〜Bに示したような消耗品カード頂部の前記試料バイアルに入れる。次に前記バイアルにふたをし、当該カードを試料調製および分析システム器材に挿入する。前記器材に前記カードを挿入すると、自動スクリプトによりいくつかのポンプが作動して、試料は前記溶解チャンバーへ運ばれ、そこで50〜110℃の温度範囲まで加熱される。この工程中、無傷の細胞は溶解を経て、試料物質は、天然状態(ネイティブ状態)に変性し、前記消耗品カードの底部にある前記直線状の多孔質マイクロアレイでただちに分析可能になる。溶解が完了した時点で、試料は、フィルター(細孔径0.1〜2.0μm)を通過して押し出され、流れ出る。この手順により、試料の被検出物(RNA/DNA/可溶性タンパク質)は、大きな粒子および不溶性物質を保った状態で、前記フィルターを通過して被検出物捕獲領域へ移動できる。
【実施例4】
【0075】
例IV―試料調製−血液
別の例では、全血または血液分画に使用する。試料調製および分析システムカードを使った分析用には、各種タイプの血液を調製できる。そのような一例では、緩衝水(pH7.4)中に洗浄剤(Triton−X100)および塩(NaPO4、TMAC、NaCL)を含有した緩衝液で、全血を再懸濁する。血液懸濁液を溶解緩衝液に入れた後、これをPolytronホモジナイザーで均質化する。次に、均質化した試料を前記消耗品カード頂部の前記試料バイアルに入れる。次に前記バイアルにふたをし、当該カードを試料調製および分析システム器材に挿入する。前記器材に前記カードを挿入すると、自動スクリプトによりいくつかのポンプが作動して、試料は前記溶解チャンバー内へ押し出され、そこで50〜110℃の温度範囲まで加熱される。この工程中、無傷の細胞は溶解を経て、試料物質は、天然状態(ネイティブ状態)に変性し、前記消耗品カードの底部にある前記直線状の多孔質マイクロアレイでただちに分析可能になる。溶解が完了した時点で、試料は、フィルター(細孔径0.1〜2.0μm)を通過して押し出される。この手順により、試料の被検出物(RNA/DNA/可溶性タンパク質)は、大きな粒子および不溶性物質を保った状態で、前記フィルターを通過して被検出物捕獲領域へ移動できる。別の例では、特定の血液分画を分析することができる。これらの場合、まず全血を遠心分離して、血漿、軟膜、および不溶性血小板を通常含む血液分画を作る。上述の分画は、いずれも血液分画から除去し、溶解緩衝液に懸濁したのち、前記試料調製および分析システムの消耗品カードに入れて、上述のように処理することができる。
【実施例5】
【0076】
例V―直線状の多孔質マイクロアレイの構成
直線状の多孔質マイクロアレイは、試料被検出物の高速探査を容易にするよう構成されている。図17A、図17B、および図17Cを参照すると、メタクリル酸塩高分子を重合させて形成した前記直線状の多孔質マイクロアレイの例が示されている。多孔質高分子媒体(porous polymer media:PPM)を調製するための重合化学反応に関するより詳しい情報は、Shepoddに付与された米国特許第6,472,443号「Porous Polymer Media」(多孔質高分子媒体)に見られる(参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする)。溶液に含まれるメタクリル酸塩単量体(モノマー)には、メタクリル酸グリシジル(glycidyl methacrylate:GMA)およびエチレングリコールジメタクリレート(ジメタクリル酸エチレングリコール)(ethylene glycol dimethacrylate:GDMA)が含まれる。これらの単量体は、重合反応中、多孔質高分子のネットワークマトリックスを形成して、アミン基を末端に有するオリゴヌクレオチドの直接的な共有結合を可能にする。この単量体混合物は、12.5% v/v 10mMのNaH2PO4と、pH 7.2、12.5%の酢酸エチルと、40%のメタノールと、10.5%のGMAと、24.5%のEGDMAとを含み、また2.5mgのIrgacure(イルガキュア)(Ciba Specialty Chemicals、米国アラバマ州McIntosh)も含むものであった。この溶液を、前記開始剤が可溶化するまでボルテックスした。前記開放された流路を充填し、UV架橋結合用オーブン(Spectronics Corporation、米国ニューヨーク州Westbury)を使って365nmで10分間光重合させた。高分子が形成されたら、その高分子マトリックスに、アミンを含んだ分子を加える。その反応性高分子を一級アミンで官能基化し、5’NH3−C6リンカーでオリゴヌクレオチドを生成した。前記官能基化は、10mMのリン酸緩衝液、500mMのNaCl、および0.05〜0.1%のSDSを含んだ緩衝液に、オリゴヌクレオチド(500μM)を溶解して行った。前記オリゴヌクレオチドを、天然PPM(ネイティブPPM)への導入前に変性させた。図17A、図17B、および図17Cにおけるオリゴヌクレオチド1702の共有結合は、ロボットスポッターを使って縞状パターンで形成された。前記共有結合は、培養温度60℃、90℃、および120℃、培養時間30分間、60分間、および120分間で、一連の結合実験を行い、最適化された。その最適条件は、温度90℃で60分間の培養と考えられた。蛍光誘導体化したカラムを撮像することにより、前記オリゴヌクレオチドの付着が確認された。オリゴヌクレオチド付着の確認後、前記多孔質高分子の基板を含む基部の基板に取り付けられたふたで当該流路を密閉した。
【実施例6】
【0077】
例VI―直線状の多孔質マイクロアレイを使った試料ハイブリダイゼーション
試料のハイブリダイゼーション。前記溶解チャンバーから試料を充填する前に、図17Bに示した直線状の多孔質マイクロアレイ1712をオリゴヌクレオチド(図示せず)で官能基化し、180mM NaClおよび0.1% SDS中の100μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、120℃で30秒間ブロックした。消耗品カード1500底部の流体注入ポート1504から、溶液をポンプで送り出した(図15Aを参照)。前記直線状の多孔質マイクロアレイ1712をブロックした後、溶解チャンバー1512(図15Bを参照)からの試料を、蛇行した流路1516(図15Dを参照)経由で前記直線状の多孔質マイクロアレイ1712へポンプで送った。この蛇行した流路は、被検出物を含んだ試料が直線状の多孔質マイクロアレイカートリッジ1716に入る前に、当該試料を約45℃まで冷却するよう機能する。前記直線状の多孔質マイクロアレイを試料が通過するに伴い、多孔質高分子媒体1714上で、当該試料の被検出物を、共有結合的にリンクしたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせた。このハイブリダイゼーションが完了した時点で、付加的な洗浄工程を行って非特異的に結合したプローブを除去した。この洗浄工程は、180mM NaCl中の30μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、45℃で、充填率と同等の率で行った。前記洗液が完了した時点で、蛍光撮像システムを使って前記試料を検出した。
【0078】
前記蛍光撮像システムで使用する適切な光収集および励起光学システムは、図16に例示しており、この図では、直線状の多孔質マイクロアレイ上にあるプローブを励起し活性化されたプローブからの蛍光を検出する上で適した光学システムを示している。
【実施例7】
【0079】
例VII―触手プローブを使用する直線状の多孔質マイクロアレイを使った試料ハイブリダイゼーション
この例では、生体試料からの核酸をハイブリダイズさせるための、直線状の多孔質マイクロアレイ表面上での触手プローブ使用について説明している。触手プローブには、フルオロフォア(蛍光色素分子)およびクエンチャーの双方が含まれている。このハイブリダイゼーション工程中、試料被検出物が前記触手プローブに結合するに伴い、前記フルオロフォアおよびクエンチャーは空間的に分離する。これにより検出可能な蛍光が増加し、一体型の光学アセンブリを使って検出される。前記溶解チャンバーから試料を充填する前に、触手プローブで官能基化した直線状の多孔質マイクロアレイを、180mM NaClおよび0.1% SDS中の100μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、120℃で30秒間ブロックした。前記直線状の多孔質マイクロアレイと液体流通可能な溶解チャンバーを有した消耗品カードの底部にある流体注入ポートから、溶液をポンプで送った。前記直線状の多孔質マイクロアレイをブロックした後、前記溶解チャンバーからの試料を、前記蛇行した流路経由で前記直線状の多孔質マイクロアレイへポンプで送った。前記蛇行した流路は、その内部に試料が滞留する時間を長引かせるよう機能するため、被検出物を含んだ試料は、前記直線状の多孔質マイクロアレイに入る前に約45℃まで冷却される。前記直線状の多孔質マイクロアレイを試料が通過するに伴い、当該試料の被検出物を、高分子を共有結合的にリンクしたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせた。このハイブリダイゼーションが完了した時点で、付加的な洗浄工程を行って非特異的に結合したプローブを除去した。この洗浄工程は、180mM NaCl中の30μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、45℃で、充填率と同等の率で行った。前記洗液が完了した時点で、蛍光撮像システムを使って前記試料を検出した。
【実施例8】
【0080】
例VIII―オリゴヌクレオチドおよび触手プローブの組み合わせを使用する直線状の多孔質マイクロアレイを使った試料ハイブリダイゼーション
その一例としては、前記直線状の多孔質マイクロアレイおよび触手プローブの表面に結合されたオリゴヌクレオチドを使って、二次的なサンドイッチタイプのアッセイを行うものがある。この構成では、ハイブリダイゼーション(水素結合など)により、前記オリゴヌクレオチドが、試料被検出物を前記表面に固定する捕捉プローブとして作用する。次いで前記触手プローブを使って、特定の試料被検出物の存在の有無を検出する。このアッセイの実施には、次の工程を使用した。前記溶解チャンバーから試料を充填する前に、オリゴヌクレオチドで官能基化した直線状の多孔質マイクロアレイを、180mM NaClおよび0.1% SDS中の100μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、120℃で30秒間ブロックした。前記直線状の多孔質マイクロアレイと液体流通可能な溶解チャンバーを有した消耗品カード底部にある流体注入ポートから、溶液をポンプで送った。前記直線状の多孔質マイクロアレイをブロックした後、前記溶解チャンバーからの試料を、前記蛇行した流路経由で前記直線状の多孔質マイクロアレイへポンプで送った。この機能により、被検出物を含んだ試料が前記直線状の多孔質マイクロアレイに入る前に、当該試料を約45℃まで冷却することができる。前記直線状の多孔質マイクロアレイを試料が通過するに伴い、当該試料の被検出物を、高分子を共有結合的にリンクしたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせた。試料のハイブリダイゼーション後、まず180mM NaCl中の30μL 10mM トリス−HCl緩衝液により、45℃で、充填率と同等の率で、カラムを洗浄した。前記洗液が完了した時点で、第2のハイブリダイゼーションを行った。この第2のハイブリダイゼーション緩衝液は、多重分析を行うよう設計された触手プローブ分子のセットを含むものであった。触手プローブには、フルオロフォアおよびクエンチャーの双方が含まれていた。この第2のハイブリダイゼーション工程中、試料被検出物がハイブリダイズするとともに、高分子に結合した前記オリゴヌクレオチドが、前記触手プローブとの第2の結合反応を経た。この第2の結合反応が起こるに伴い、前記フルオロフォアおよび前記クエンチャーが空間的に分離した。これにより検出可能な蛍光が増加し、上記の一体型の光学アセンブリを使って検出される。この第2のハイブリダイゼーションが完了した時点で、付加的な洗浄工程を行って非特異的に結合したプローブを除去した。次に、前記一体型の蛍光光学アセンブリを使って結合複合体を検出した。
【実施例9】
【0081】
例IX―消耗品カード上でハイブリダイズさせた複合体の検出
結合された複合体は、一体型の蛍光光学アセンブリを使って検出された。このアセンブリは、蛍光背景(環境光)を著しく増大し検出感度に影響を及ぼす迷光を排除することにより、ダイクロイックミラーの必要性をなくすよう設計された。ハイブリダイゼーションが完了したのち、光学検出機器が、レーザーダイオードを使って前記直線状の多孔質マイクロアレイを照らし、その光は両面プリズムを使って対物レンズへ方向付けられる。これにより、ダイクロイックミラーを通過させる必要なく、励起レーザー光を前記直線状の多孔質マイクロアレイまで送達することができる。次に、前記励起光が、前記直線状の多孔質マイクロアレイ上のフルオロフォアを励起する。前記フルオロフォアが発光するに伴い、発せられた光は、開口部で終端する光収集管を通じて送られる。次いで光検出機器全体が前記直線状のマイクロアレイの一端から他端までラスタ走査して、空間分解された標的である結合複合体からの光を収集する。適切な走査システムを図18に例示した。
【実施例10】
【0082】
例X―結合した複合体の溶出
本発明の試料調製および分析システムの例示的な機能は、前記直線状の多孔質マイクロアレイの表面上で結合し複合体化した被検出物の融解曲線解析を行う能力である。試料被検出物およびプローブの解析は非破壊的であるため、当該被検出物を光学的に一体化しつつ、これに融解曲線解析を適用することもできる。これにより、利用者は、アッセイの結果を確認(追認)するための事後分析(解析)を行うことができる。また、非破壊解析では、利用者が試料被検出物を収集し、それに代替方法および二次的な方法論を適用して試料被検出物が何であるか特定することもできる。これは、法医学的用途で重要になることが多い。
【実施例11】
【0083】
例XI
オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション実施では、まず、5〜10mMトリス緩衝液(pH9.0、0.05〜0.1%SDS、0.1mM BSAおよびエタノールアミン)を含んだブロック緩衝液を使って、非特異的な結合を防ぐブロック工程を行った。ブロック完了後、マイクロ流体Tへの試薬混合で見られる濃度勾配をなくすため、試料を含んだ0.5〜1.0μLのmRNAをキャピラリーを通じてポンプで送った。
【0084】
充填中には、ハイブリダイゼーションの理論的融解温度を十分に超える温度に前記キャピラリーを保ち、mRNAのアニーリングを回避した。mRNAの充填後、2〜600秒範囲の時間、前記キャピラリーの加熱を停止した。この室温での培養後、前記モノリスを5μLの洗液緩衝液でフラッシングし、蛍光スキャナを使って撮像した。前記キャピラリー長全体の平均蛍光強度を、各ハイブリダイゼーションにつき記録した。各試験の相対効率は、式(W−C)/(L−C)を使って計算した。ここで、Wは洗浄し捕獲したmRNAの蛍光強度、Lは充填時の強度、CはmRNAなしの対照試料の強度である。次に、前記キャピラリーを加熱ブロック上に直接配置して、結合したmRNAを<5μLの緩衝液で2分間90℃で溶出させた。
【0085】
これらの研究の主な目的は、特異的なヌクレオチド配列を捕獲、濃縮、および選択する能力を実証することであった。次に、最適に官能基化したモノリスを使って、前記カラムが試料のmRNAを捕獲および放出する能力を試験した。実験構成は、実験条件を再現できるよう、マイクロ流体接合部およびシリンジポンプを使って設定した。T字状の接合部は、2つの注入部と1つの排出部を有するものであった。この構成で、接続部の一方はmRNA試料を充填するため使用し、試料緩衝液だけを含んだ他方は、充填した試料を洗浄し溶出させるため使用した。第3の接続部には、オリゴヌクレオチドで官能基化したキャピラリーを挿入した。このマイクロ流体設定により、充填工程、洗浄工程、および溶出工程の間の時間長を精確に制御することができた。加熱ブロックは、熱電対により90℃であることを確認し、前記キャピラリーの加熱をほぼ瞬時に実施および停止できるよう容易にアクセスできる場所に配置した。図19は、キャピラリー体積分のmRNAを1回注入したのち、捕獲および放出を行った結果を示したものである。前記キャピラリーに標識化したAlexa Fluor 647 mRNAを充填する前、当該キャピラリーを撮像した(図19A)。標識化したmRNAの不在下では、蛍光は検出されなかった。ゲインおよびコントラストは、対照試料がほぼ見えず残りの画像について一定に保たれるよう設定した。
【0086】
結合条件を最適化し、精製したmRNAを洗液および溶出したのちは、反応速度作用の決定および最適化に専念した。我々の実験から、ハイブリダイゼーション効率に経時的な変化は見られないことがわかった。実際、10分間のハイブリダイゼーションにわたり捕獲効率は同じであったように見られたが、可能性としては、2秒間の培養時の捕獲効率よりわずかに減少したとも考えられる。ハイブリダイゼーション時間を5、10、15、30、60、および120秒間にした他の試験と、上述の2回の試験とでは、傾きのない直線的なパターン(2〜120秒間で、係数の有意性p=0.962)が平均効率33%前後に散在して形成されたように見られた。経時的な効率上昇が見られなかったということは、測定初期の2秒間でハイブリダイゼーションが完了したことを示している。
【0087】
同じ手順を使い、40merのオリゴヌクレオチドについて効率を試験および測定した。40merでも、傾きの見られない直線的な効率パターンが示された(2〜120秒間での係数有意性p=0.867)。それと対照的に、30merのオリゴヌクレオチドの場合、散布図は効率50%の周囲にプロットされた。平均効率の比較により、40merの官能基化したモノリスは、30merで特徴付けられるモノリスの1.5倍の効率で結合することが示された。特定の作用理論に制限されるわけではないが、上記の結果は、40merでは、30merの場合より、相補的RNAとのハイブリダイゼーションによる自由エネルギーの変化が大きかったためと考える。
【0088】
本発明は、単一点の検出値に限定されるものではない。また、アレイまたは複数のキャピラリー用に拡張した流路を監視するよう、修正が可能である。前記検出プラットフォームは、2つの平面(XおよびY)方向でラスタ走査して前記マイクロ流路中の特定の位置に関する空間分解能(解像度)を提供するよう修正できる。
【0089】
以上、本発明の特定の態様について、上記の変形形態および例と関連付けて開示してきたが、当業者であれば付加的な変形形態が明確に理解されるであろう。本発明は、具体的に言及し若しくは現時点で好適である上記の変形形態および例に限定されることを意図したものではなく、そのため、本発明の要旨を評価するには、本発明の独占権を主張した添付の請求項を参照すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光に基づいたハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析システムであって、
生体試料を受容可能な試料収集チャンバーと、
前記試料収集チャンバーと液体流通可能な溶解(溶菌)チャンバーと、
前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイと、
前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイとの間にあり、双方と液体流通可能な任意に選択される導管と、
前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせと液体流通可能な試料調製モジュールであって、前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせの温度を制御できるものである、前記試料調製モジュールと、
前記直線状のマイクロ流体アレイと光学的に通信可能な光学的励起および検出システムと
を有する試料調製および分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記試料収集チャンバー、前記溶解チャンバー、および前記任意に選択される導管は、カードタイプの装置に一体化されるものである。
【請求項3】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、前記カードタイプの装置に設けられた流体吐出ポートに押し嵌めできるカートリッジ上に配置されるものである。
【請求項4】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、核酸プローブを結合させる基板として、多孔質高分子媒体を有するものである。
【請求項5】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、約250ミクロンより幅狭の直線状の流路を有するものである。
【請求項6】
請求項4記載の試料調製および分析システムにおいて、前記核酸プローブは、1若しくはそれ以上の触手プローブを有するものである。
【請求項7】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記任意に選択される導管は、蛇行した流路を有するものである。
【請求項8】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、複数の生物有機体に対し特異的な複数の触手プローブを有するものである。
【請求項9】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記光学的励起および検出システムは、励起光子源により前記マイクロアレイを走査(スキャン)して前記直線状のマイクロアレイ上の個々の検出プローブを空間分解できるスキャナを有するものである。
【請求項10】
請求項9記載の試料調製および分析システムにおいて、前記スキャナは、直線状のマイクロアレイ面積1平方ミクロンあたり約0.05色素分子〜約1色素分子を分解(分離)できるものである。
【請求項11】
請求項10記載の試料調製および分析システムにおいて、前記スキャナは、結合された標的/プローブ複合体を検出するものである。
【請求項12】
1若しくはそれ以上の標的生物有機体を識別する方法であって、
熱溶解チャンバー内の1若しくはそれ以上の生物有機体から1若しくはそれ以上の細胞または胞子を溶解して溶解物を生じさせる工程であって、当該溶解により、前記1若しくはそれ以上の生物有機体から核酸を生じさせるものである、前記生じさせる工程と、
前記溶解物から前記核酸をフィルタリングする工程と、
前記核酸を直線状の多孔質マイクロアレイに輸送する工程であって、当該直線状の多孔質マイクロアレイは前記標的生物有機体各々からの核酸の少なくとも一部をハイブリダイズすることが可能な、空間配置された複数のプローブを有するものである、前記輸送する工程と、
前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸を前記プローブのうち少なくとも1つにハイブリダイズさせる工程と、
前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸にハイブリダイズした前記プローブを励起する工程と、
前記直線状のマイクロアレイ上の前記励起されたプローブのうち少なくとも1つの空間位置を検出する工程と、
前記直線状のマイクロアレイ上における前記励起されたプローブの空間位置と、前記細胞または前記胞子の少なくとも1つの識別結果とを相関させる工程と
を有する方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記直線状のマイクロ流体マイクロアレイは、標的被検出物の検出のために空間分解される区別可能な(異なる)プローブを少なくとも2つ有するものである。
【請求項14】
請求項12記載の方法において、前記直線状のマイクロアレイは多孔質媒体を有し、これにより前記1若しくはそれ以上の標的生物有機体からの核酸の拡散時間は短縮され、当該核酸は前記プローブとハイブリダイズされるものである。
【請求項15】
請求項12記載の方法において、この方法は、
試料中の複数の被検出物を試験するための空間配置された複数の検出プローブを有するものである。
【請求項16】
ハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析カードであって、
生体試料を受容可能な溶解チャンバーと、
前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイであって、多孔質媒体に結合した1若しくはそれ以上の触手プローブを有するものである、前記直線状のマイクロ流体アレイと、
前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイのとの間にあり、双方と液体流通可能な任意に選択される導管と
を有する試料調製および分析カード。
【請求項17】
請求項16記載の試料調製および分析カードにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、着脱可能なカートリッジ内に設けられているものである。
【請求項1】
蛍光に基づいたハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析システムであって、
生体試料を受容可能な試料収集チャンバーと、
前記試料収集チャンバーと液体流通可能な溶解(溶菌)チャンバーと、
前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイと、
前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイとの間にあり、双方と液体流通可能な任意に選択される導管と、
前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせと液体流通可能な試料調製モジュールであって、前記溶解チャンバー、前記直線状のマイクロ流体アレイ、前記任意に選択される導管、またはこれらの任意の組み合わせの温度を制御できるものである、前記試料調製モジュールと、
前記直線状のマイクロ流体アレイと光学的に通信可能な光学的励起および検出システムと
を有する試料調製および分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記試料収集チャンバー、前記溶解チャンバー、および前記任意に選択される導管は、カードタイプの装置に一体化されるものである。
【請求項3】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、前記カードタイプの装置に設けられた流体吐出ポートに押し嵌めできるカートリッジ上に配置されるものである。
【請求項4】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、核酸プローブを結合させる基板として、多孔質高分子媒体を有するものである。
【請求項5】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、約250ミクロンより幅狭の直線状の流路を有するものである。
【請求項6】
請求項4記載の試料調製および分析システムにおいて、前記核酸プローブは、1若しくはそれ以上の触手プローブを有するものである。
【請求項7】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記任意に選択される導管は、蛇行した流路を有するものである。
【請求項8】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、複数の生物有機体に対し特異的な複数の触手プローブを有するものである。
【請求項9】
請求項1記載の試料調製および分析システムにおいて、前記光学的励起および検出システムは、励起光子源により前記マイクロアレイを走査(スキャン)して前記直線状のマイクロアレイ上の個々の検出プローブを空間分解できるスキャナを有するものである。
【請求項10】
請求項9記載の試料調製および分析システムにおいて、前記スキャナは、直線状のマイクロアレイ面積1平方ミクロンあたり約0.05色素分子〜約1色素分子を分解(分離)できるものである。
【請求項11】
請求項10記載の試料調製および分析システムにおいて、前記スキャナは、結合された標的/プローブ複合体を検出するものである。
【請求項12】
1若しくはそれ以上の標的生物有機体を識別する方法であって、
熱溶解チャンバー内の1若しくはそれ以上の生物有機体から1若しくはそれ以上の細胞または胞子を溶解して溶解物を生じさせる工程であって、当該溶解により、前記1若しくはそれ以上の生物有機体から核酸を生じさせるものである、前記生じさせる工程と、
前記溶解物から前記核酸をフィルタリングする工程と、
前記核酸を直線状の多孔質マイクロアレイに輸送する工程であって、当該直線状の多孔質マイクロアレイは前記標的生物有機体各々からの核酸の少なくとも一部をハイブリダイズすることが可能な、空間配置された複数のプローブを有するものである、前記輸送する工程と、
前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸を前記プローブのうち少なくとも1つにハイブリダイズさせる工程と、
前記標的生物有機体のうち少なくとも1つからの少なくとも1つの核酸にハイブリダイズした前記プローブを励起する工程と、
前記直線状のマイクロアレイ上の前記励起されたプローブのうち少なくとも1つの空間位置を検出する工程と、
前記直線状のマイクロアレイ上における前記励起されたプローブの空間位置と、前記細胞または前記胞子の少なくとも1つの識別結果とを相関させる工程と
を有する方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、前記直線状のマイクロ流体マイクロアレイは、標的被検出物の検出のために空間分解される区別可能な(異なる)プローブを少なくとも2つ有するものである。
【請求項14】
請求項12記載の方法において、前記直線状のマイクロアレイは多孔質媒体を有し、これにより前記1若しくはそれ以上の標的生物有機体からの核酸の拡散時間は短縮され、当該核酸は前記プローブとハイブリダイズされるものである。
【請求項15】
請求項12記載の方法において、この方法は、
試料中の複数の被検出物を試験するための空間配置された複数の検出プローブを有するものである。
【請求項16】
ハイブリダイゼーションアッセイを実施する上で適した試料調製および分析カードであって、
生体試料を受容可能な溶解チャンバーと、
前記溶解チャンバーと液体流通可能な直線状のマイクロ流体アレイであって、多孔質媒体に結合した1若しくはそれ以上の触手プローブを有するものである、前記直線状のマイクロ流体アレイと、
前記溶解チャンバーと前記直線状のマイクロ流体アレイのとの間にあり、双方と液体流通可能な任意に選択される導管と
を有する試料調製および分析カード。
【請求項17】
請求項16記載の試料調製および分析カードにおいて、前記直線状のマイクロ流体アレイは、着脱可能なカートリッジ内に設けられているものである。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図15E】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図15E】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2010−505387(P2010−505387A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511070(P2009−511070)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/011853
【国際公開番号】WO2007/136715
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508340499)アークシス バイオテクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/011853
【国際公開番号】WO2007/136715
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508340499)アークシス バイオテクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】
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