説明

生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的変化の検知方法及び生物学的材料の分析方法

マイクロ共鳴体の少なくとも一部を生物学的材料中に配置する工程;及び、マイクロ共鳴体の該一部を生物学的材料中に配置する前、その間、又は後に、該マイクロ共鳴体の一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの分析により、生物学的材料の変化を検知する工程を含んでなる生物学的材料の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的変化の検知及び生物学的材料の分析の為の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学的キャビティモードセンサーは、以下の文献中に開示されている。
【0003】
ジルストラ等(P. Zijlstra et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.) 90巻 (Vol. 90)」 pp. 161101/1-3, 2007年及びパン等(S. Pang et al.)著 「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.) 92巻 (Vol. 92)」 pp. 221108/1-3, 2008年は、液体環境における屈折率センサーとして、蛍光PSビーズの使用を記述している。該センサーの遠隔可能性については指摘されているが、細胞の近傍又は内部における検知への応用は何ら述べられていない。10μmおよびそれ以上の粒子サイズでは、これら2つの研究において使用されたビーズは、それらの(生)細胞への取込みには典型的には大きすぎる(例えば、ヘラント等(M. Herant et al.)著「ジャーナル オブ セル サイエンス(J. Cell Sci.)118巻 (Vol. 118)」pp. 1789-1797, 2005年のFig.5(C)右側及び後に詳述する本願の図11参照)。
【0004】
WO 2005116615は、バイオセンシングの為の蛍光半導体量子ドットにて修飾された球状粒子におけるウィスパリング・ギャラリー・モード(Whispering Gallery Mode)の使用を記述している。これらのセンサーの細胞への内在化は述べられていない。
【0005】
ウェラー等(A. Weller et al.)著「アプライド フィジックス B(Appl. Phys. B)90巻(Vol. 90)」pp. 561-567, 2008年は、直径数ミクロンの蛍光PS粒子を用いたバイオセンシングを報告している。しかしながら、この研究は実験的状況下での検知に関してのみ報告している。イン−ビトロ検知の可能性について触れられているが、細胞内部での検知については全く検討されていない。
【0006】
フランソワ 及び ヒンメルハウス(A. Francois & M. Himmelhaus)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)92巻 (Vol. 92)」 pp. 141107/1-3, 2008年は、水性環境におけるその場でのバイオセンシングのために、マイクロ共鳴体クラスターにおけるウィスパリング・ギャラリー・モード(WGM)励起を使用した。該クラスターは表面結合であって、細胞中に移入することはできなかった。細胞内部的検知の概念は、この文献では全く触れていない。
【0007】
US 2007114477は、センサーの誘電性高指数の表面被覆導入により、誘電体材料から作成されたウィスパリング・ギャラリー・モードセンサーの感度の上昇方法を記述している。
【0008】
US 2002/0097401A1、WO 02/13337A1、WO 02/01147A1及びUS 2003/0206693A1は、光学的導波器、ファイバー、又はプリズム結合器とマイクロキャビティとの間のエバネセント場結合を介して生成されるWGMの手段による、検知的応用のための光学的マイクロキャビティの使用を記述している。WGMの励起のためには、典型的には僅かに数百ナノメーターであるエバネセント場の小さな拡張の為、エバネセント場結合器とマイクロキャビティとの間の距離は、ナノメーターの精度を以って制御されなければならない。更に、又取り分け重大なことに、検知的応用の為に変換器機構として典型的には使用される結合器の存在は、WGMの正確な共鳴位置に影響を与え、而して結合器とマイクロキャビティとの間の間隔におけるどのような変化も共鳴位置の変化をもたらし、結果として測定結果を誤らせることがあり得る。明らかに、外部的結合器を用いたこの結合の必要性は、(キャビティモードの励起及びそれらの読み取りの為に)輻射によってのみ制御される遠隔センサーとしての、センサーの適用を危うくする。特には、数ミクロンのスケールでの細胞内部の検知は、この方法論では到達できるものではない。
【0009】
US 2005/022153A1及びWO 2004/038349A1は、伸長されたキャピラリーカラムにおける共鳴モードの励起を記述している。その大きさからして、カラムは細胞内部での検知には使用できない。
【0010】
WO 02/07113A1、WO 01/15288A1、US 2004/0150818A1及びUS 2003/0218744A1は、金属粒子、金属粒子凝集体、及び濾過閾値に近い半連続的金属フィルムの使用を記述しており、それらは場合によってマイクロキャビティの近傍に位置してもよく、即ちマイクロキャビティ内部に埋設されてもよい。金属粒子/フィルムは、更にドープされた物質を有してもよい。例えば、WO 2007129682に記述されたような連続的金属殻の使用は触れられていない。更に、バイオセンシングは示されているが、細胞内検知についてはどこにも述べられていない。生細胞における生物力学的力が、ヘラント及び共同研究者らにより吸引技術を用いて測定されている(ヘラント等(M. Herant et al.)著「ジャーナル オブ セル サイエンス(J. Cell Sci.)119巻 (Vol. 119)」pp. 1903-1913, 2006年; ヘラント等(M. Herant et al.)著「ジャーナル オブ セル サイエンス(J. Cell Sci.)118巻 (Vol. 118)」pp. 1789-1797, 2005年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した関連技術において起こり得る問題を解決するためになされた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの側面は、マイクロ共鳴体の少なくとも一部を生物学的材料中に配置し;及び、マイクロ共鳴体の少なくとも一部を生物学的材料中に配置する前、その間、又は後に、マイクロ共鳴体の一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの分析により、生物学的材料の変化を検知する工程を含んでなる生物学的材料の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法である。
【0013】
本発明の別の側面は、マイクロ共鳴体の少なくとも一部を隣接する生物学的材料間の空間に配置する工程;及び、マイクロ共鳴体の一部を該空間に配置する前、その間、又は後に、マイクロ共鳴体の一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの分析により、生物学的材料の変化を検知する工程を含んでなる生物学的材料の分析方法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、場合によりマイクロ共鳴体、又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターにおける光学的キャビティモードの励起のための蛍光物質を含む、マイクロ共鳴体、又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体の凝集体としてのクラスターを示し;(a)殻を有さない単一の光学的キャビティ;(b)所望の光学的性質を達成するための殻を伴う単一のマイクロキャビティ;(c)殻を有さない光学的キャビティの凝集体としてのクラスター;(d)それぞれのコアが個々に被覆されるように被覆が施されたマイクロ共鳴体の凝集体としてのクラスター;及び(e)隣接するコアが互いに光学的に接触するように被覆された光学的キャビティの凝集体としてのクラスターである;
【図2】図2は、マイクロ共鳴体、または光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターにおける光学的キャビティモードの励起及び検出の為の光学的装置の例を示し:スキーム(I)においては励起及び検出が別個の光路にてなされ;スキーム(II)においては、マイクロ共鳴体、または光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターのキャビティモードの励起及び検出の為に同じレンズを使用している;
【図3】図3は、空気中及び水中における10μmの蛍光PSビーズのウィスパリング・ギャラリー・モードを示し;
【図4】図4は、球状キャビティの弾性的圧縮のモードスペクトルに対する効果の略図を示し;(a)圧縮が無い場合に、キャビティの任意の極角にて励起され得る同じモード数mの全ての2m+1モードが縮重しており、即ち、同じ波長位置を有しており;(b)2本の力線にて示されるように圧縮した場合に、球体は変形し、而して球体の対称性の破れからモード分離を生じ;
【図5】図5は、ビーズの内包化を示す蛍光対照実験の概略図を示し:(I)細胞に取入れられたビオチン化ビーズは、蛍光的に標識されたストレプトアビジンに結合せず;(II)細胞に完全には取り込まれていないビオチン化ビーズは、正に蛍光的に標識されたストレプトアビジンに結合し;
【図6】図6は、6μmの直径のビオチン化ビーズ及びヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を使用し、サイトカラシンDを(a/b)については添加し、(c/d)については無添加である、ビーズ内在化実験の共焦点蛍光及び伝達イメージを示し:(a)サイトカラシン処理HUVECへのストレプトアビジン標識ビーズの暴露後の蛍光イメージ;(b)(a)の伝達イメージ;(c)サイトカラシン非処理HUVECへのストレプトアビジン標識ビーズの暴露後の蛍光イメージ;及び(d)(c)の伝達イメージであり;
【図7】図7は、直径7.8μmの蛍光ビーズの、周囲からHUVEC内部への細胞膜を通した移入の間に記録されたウィスパリング・ギャラリー・モードのスペクトルを示し;
【図8】図8は、直径約6.7μmのPSビーズのHUVECによる取込み前(左側)及び取込み後(右側)の共焦点伝達イメージを示し;
【図9】図9は、細胞内へのビーズの移入の概略図を示し:(I)ビーズが細胞表面の外部に接触する;(II)ビーズが細胞膜への侵入を開始する;(III)及びビーズが完全に細胞により内在化されることを示し;
【図10】図10は、図7に示すスペクトルの一つのモードの共鳴位置についての時間的進展を示し;
【図11】図11は、直径約10μmのPSビーズの生HUVECによる取込みの試みの間に記録されたウィスパリング・ギャラリー・モードスペクトルを示し;並びに
【図12】図12は、実施例5に詳細を述べる図7のスペクトルの定量的評価結果を示し:(a)細胞への侵入過程においてビーズが経験した平均屈折率;(b)WGM分析により得られた時間経過における変形されたビーズの平均、最小及び最大全半径(ビーズ半径+吸着層);(c)最小及び最大半径に対応する即ち、WGMバンドの下側フランク(IIw)及び上側フランク(Iup)に合わせたローレンツプロフィルの強度比IIw / Iup、(示されるのは、一つのスペクトルについての比を、全てに渡って平均した、即ち5つのWGMバンドの全てに渡るもので、これにより示されるように統計的な標準偏差が得られる)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の例示的態様が、添付の図面を参照しつつ、以下に詳細に説明される。
【0016】
用語の定義
この明細書において使用される略号及び用語は次の通り定義される。
HUVEC: ヒト臍静脈内皮細胞
BSA:牛血清アルブミン
C6G:クマリン6レーザー級
PAA:ポリ(アクリル酸)
PAH:ポリ(アリルアミン塩酸塩)
PBS:リン酸緩衝食塩水
PE:多価電解質
PS:ポリスチレン
PSS:ポリ(4−スチレン硫酸ナトリウム)
TIR:全内部反射
TE:横軸電気的光学モード
TM:横軸磁気的光学モード
【0017】
表面における反射及び伝搬: 一般的に、物質の表面は、あたった光の一部分をその周囲に反射する一方で他の部分を物質中に伝播する能力を有し、それは進行の過程において吸収されるであろう。以下において、入射光に対する反射光の強度比を、周囲/物質界面(又は物質/周囲界面)の“反射能”又は“反射率”Rと称する。而して、入射光に対する伝播光の強度比を、この界面の“伝播率”Tと称する。R及びTは、共に該界面の性質、即ちそれらの値が物質及びその周囲の両方の光学的性質に依存することに注意されたい。更に、それらは、該界面に入射する光の入射角及び偏光に依存する。R及びTの両者は、反射及び伝播のフレネル方程式によって、計算され得る。
【0018】
光学的キャビティ: 光学的キャビティは、閉じた境界領域(キャビティ“表面”)により制限された閉じた体積であり、これは、電磁スペクトルの紫外(UV)、可視(vis)及び/又は赤外(IR)領域における光に対して反射的である。その波長依存性に加えて、この境界領域の反射率は、該局所表面法線に対して該境界領域に入射する光の入射角にも依存的である。更に、反射率は、局所的部位、即ち光が入射する境界領域の位置にも依存し得る。光学的キャビティの内部体積は、真空、空気、又はUV、可視及び/又は赤外において高度に伝播性を示す何れかの物質からなっていてよい。特には、伝播性はキャビティの表面が高い反射率を示す表面について、該電磁スペクトルの領域の少なくとも一部について高くなければならない。光学的キャビティは、該光学的キャビティを形成する物質とは異なる物質により被覆されていてよい。被覆に使用される該物質は、例えば異なった屈折率または吸光係数等の異なった光学的性質を有してよい。更に、それは光学的キャビティの物質とは異なった物理的、化学的又は生物化学的性質、例えば異なった機械的強度、化学的不活性又は反応性、及び/又は抗汚濁又は他の生物学的官能性等を含んでもよい。以下において、光学的被覆を“殻”と称し、一方で光学的キャビティを“コア”と称する。更に、全システム、即ちコアと殻を一緒にして、“(光学的)マイクロ共鳴体”と称する。後者の用語は、殻の物質が適用されない場合の全システムを記述するためにも使用される。ここにおいて検討した殻に加えて、マイクロ共鳴体の表面の一部は、例えば、特異的結合事象の検出のための適当な生物学的機能性インターフェイスを与えるための検知器の一部として、あるいは標的分子がマイクロ共鳴体表面又はその一部に吸着した場合の検知工程において、付加的な層(例えば、殻の最上部)により被覆されてもよい。
【0019】
光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)は、2つのパラメータにより特徴付けられる:
第1にはその自由スペクトル範囲δλ(あるいは別法として、光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の大きさ及び幾何学形状に関する体積V)、及び第2にはクォリティ因子Qである。以下において、“光学的キャビティ”(“マイクロ共鳴体”)なる用語は、クォリティ因子Q>1を有するこれらの光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)を指す。
使用される殻の物質に依存して、マイクロ共鳴体内に蓄積される光は、例えば高反射性の金属殻を使用した場合に、光学的キャビティ内にのみ蓄積されるか、あるいは例えば誘電性又は半導体殻を使用した場合に、殻にも滲み出し得る。
従って、何れの用語(光学的キャビティのFSR、(若しくは体積)及びQ−因子又はマイクロ共鳴体のそれら)が、マイクロ共鳴体の得られる光学的性質を特徴付けるためにより適切であるかは、考慮される特定のシステムに依存する。
【0020】
自由スペクトル範囲(FSR): 光学系の自由スペクトル範囲δλは、その光学的モード間の空間的間隔を指す。光学的キャビティについては、FSRはモード間隔δλ=λ−λm+1として定義され、ここにおいてmは、モード数であり、またλ>λm+1である。FSRは、考慮する光学的キャビティモードに依存しうる。例えば、それは振動数、伝播の方向及び/又は偏光に依存し得る。同様にして、干渉計については、FSRは強度最大値(または各々、最小値)の隣接する順位の間隔である。
【0021】
クォリティ因子: 光学的キャビティのクォリティ因子(又は“Q−因子”)は、そのキャビティ内部に光子を補足する可能性の尺度である。それは次のように定義され、
【0022】
【数1】

【0023】
ここにおいて、ω及びλは、それぞれモード数mのキャビティモードの周波数及び(真空)波長であり、Δω及びΔλは、対応するバンド幅である。後者の二つの等式は、Q−因子をキャビティ内の光学的モードの位置及びバンド幅に結び付ける。明らかに、キャビティの蓄積能力は、その表面の反射率に依存する。従って、Q−因子は、波長、偏光及び伝播の方向等のキャビティモードの特性に依存し得る。
【0024】
光学的キャビティの体積: 光学的キャビティの体積は、キャビティ表面、即ち反射的な境界領域により閉じ込められる、内部的な幾何学的体積として定義される。
【0025】
光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の周囲(環境): 光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の“周囲”又は“環境”は、光学的キャビティ、あるいはその光学的殻(マイクロ共鳴体の場合)のいずれの一部分でもないキャビティ(マイクロ共鳴体)を包み込む体積である。特には、光学的キャビティ(またはマイクロ共鳴体)の高度に反射的な表面は、その周囲の一部分ではない。実際的には、光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の高度に反射的な表面は、周囲の一部分ではない有限の厚みを有していることに注意しなければならない。同様のことが、やはり有限の厚さを持ちマイクロ共鳴体の周囲には属さない選択的な殻についてもいえる。光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の周囲又は環境は、キャビティ(マイクロ共鳴体)の物理的及び化学的性質とは全く異なる性質を有し、特には異なった光学的、機械的、電気的、及び(生物−)化学的性質を有しうる。例えば、それは、光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)が稼働される電磁的領域において強く吸収しうる。周囲は、不均質であってもよい。包み込む体積が周囲として考慮される程度は、応用に依存する。マイクロ流体装置に導入されるマイクロ共鳴体(マイクロレーザー)の場合、それはマイクロ流体チャネルであろう。典型的には、周囲は、例えばその性質、励起及び/又は検出の視点でキャビティ(マイクロ共鳴体)の光学的キャビティモードに対しての効果について、光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の稼動に関連する光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の包み込み体積である。
【0026】
光学的キャビティモード: 光学的キャビティモード、あるいは単に“キャビティモード”は、与えられた光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体についての電磁場方程式(マクスウェル方程式)の波動解である。異なるキャビティモードは、該光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の幾何学及び光学的性質に依存して、伝搬の異なる方向、異なる偏光、異なる周波数を有してよい。これらのモードは、光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体により課せられる制限的な境界条件の為に、離散的(即ち、計数可能)であり、例えば整数を以って番号付けが可能である。従って、光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の存在下での電磁スペクトルは、許容及び禁止帯に分割され得る。波動解は、不均質、即ち異なる局所にて異なる反射率を与える等の異なった光学的性質を示すような境界領域、即ちキャビティ表面の反射率に加えて、キャビティの形状及び体積に依存する。
【0027】
所定の光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)についてのマクスウェル方程式の完全解は、その周囲の場を含む。外部の場について、即ち、光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の周囲において、2種類の解が区別されなければならない:それらは、周囲を自由に伝播する波を記述する解の種類と、エバネセント場を記述する解の種類とである。後者は、周囲における伝搬が、例えば光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の表面における全内部反射のために禁止される波について存在するようになる。周囲におけるエバネセント場を含んだ光学的キャビティモードについての一つの例は、WGMである。他の例は、殻として金属被覆を持ったマイクロ共鳴体に関する。これらの場合において、金属/周囲界面において表面プラズモンが励起され得、これも周囲に広がるエバネセント場を示すであろう。これらの全ての場合において、エバネセント場は、典型的には大まかに言えば、周囲にむけてエバネセント場を生成する光の波長(例えば、光の波、又は電荷密度の振動)の程度の距離を以って広がる。
【0028】
実際的には、エバネセント場もいくらかの漏れ、即ちエバネセント場の外部から光学的キャビティの離れた場に向けて、換言すれば周囲へのエバネセント場の拡張を超えての光子の伝搬を示し得ることに注意しなければならない。そのような波は、例えば光子の欠陥での散乱または他の種類の要因での散乱により生じ、これは典型的には後者は平滑な境界面及び境界層を仮定しているために理論的記述においては普通には説明されない。このような迷い出た光子の効果は、以下のように考慮されず、即ち、理想的なエバネセント場のエバネセント場特性を妨げない。同様に、プリズム、導波器、又は近接場プローブ等の波の伝搬を許容するナノメーターのサイズの間隙を超えてのエバネセント場の媒体中へのトンネリングは、エバネセント場のエバネセント場特性を妨げない。
【0029】
球体状キャビティについては、波長依存性が容易に評価できる2つのタイプの解が存在し、それぞれ、一つは半径方向の光の伝播についてであり、また、一つは球体の外周に沿っての光の伝播についての解である。以下において、我々は半径方向におけるモードを、ファブリペロー干渉計との類似に従って“ファブリペローモード”(FPM)と称する。球体の周囲に沿って形成されるモードを、音響学的発見との類似において、“ウィスパリング・ギャラリー・モード”(WGM)と称する。これらのモードの波長依存性の簡単な数学的記述のために、我々は次のような定常波の境界条件を使用する:FPMについては、
【0030】
【数2】

【0031】
これはキャビティ表面における電場が、金属表面又は殻を有するキャビティの場合のように常に消滅することを述べている。WGMについては、境界条件は、
【0032】
【数3】

【0033】
をもたらし、これは基本的に波が全周伝播後に位相が揃って戻らなければならないことを述べている。両方の式において、“m”は整数であり、モードに番号付けするため、即ちモード番号としても使用され、Rは球体の半径であり、またncavはキャビティ内部の屈折率である。簡略とするために、以下において“キャビティモードm”なる用語が“モード番号mを有するキャビティモード”と同義語的に使用されるであろう。
【0034】
式(2)及び(3)から、球体キャビティのFPM及びWGMのFSRδλのそれぞれは、次のように計算され得る。
【0035】
【数4】

【0036】
モード結合: 我々は、モード結合を、互いに接触するか、あるいは光学的な接触を許容するように近接して配置される2個以上の光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のキャビティモード間の相互作用として定義する。この現象は、一連のマイクロ球体を通してのモード導波のシミュレーションを行ったデン等 (S. Deng et al.) 著「オプティクス エクスプレス(Opt. Express)12巻 (Vol. 12)」pp. 6468-6480, 2004年によって指摘された。同じ現象は、非蛍光マイクロ球体の鎖を導波器とし、単一の蛍光性マイクロ球体を鎖中に光を結合させるためにマイクロ球体導波器の一端部に配置して使用したアストラトフ等(V. N. Astratov et al.)著「アプライド フィジックス レターズ(Appl. Phys. Lett.)83巻 (Vol. 83)」 pp. 5508-5510, 2004年によって実験的に示された。彼等は、励起下の蛍光マイクロ球体により生成されたキャビティモードが、非蛍光マイクロ球体の鎖に沿って伝播し得ることを示し、このことは光が一つの球体から他に結合し得ることを意味する。著者等は、この一つのマイクロ球体から他への結合を、“強く結合した分子モード又は結晶バンド構造の形成”に関連付けている。
【0037】
ムカイヤマ等 (T. Mukaiyama et al.) 著「フィジックス レビュー レターズ(Phys. Rev. Lett.)82巻 (Vol. 82) 」 pp. 4623-4626, 1999年は、2個のマイクロ球体間のキャビティモード結合を、マイクロ球体間の半径の不一致の関数として研究した。彼等は、得られた2−球体系のキャビティモードスペクトルが、2個の球体の半径不一致に高度に依存することを見出した。より最近には、シャシャンカ等 (P. Shashanka et al.) 著「オプティクス エクスプレス(Opt. Express)14巻 (Vol. 14)」pp. 9460-9466, 2006年は、2個のマイクロ球体において生じたキャビティモードの光学的結合が、大きな半径の不一致(8及び5μm)にもかかわらず起こり得ることを示した。彼等は、結合効率が2個のマイクロ球体間の離間に強く依存することを示し、そして結果として、共鳴波長の位置がマイクロ球体の離間にも依存することを示した。
【0038】
更に、互いに密に近接する光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の光学的キャビティモードは、隣接する光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の存在によって相互的に変化され得て、例えばその近隣物がない場合の単離された光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体に比較して、異なった振動数、バンド幅、及び/又は異なった伝播を示す。このことは、例えば光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体が、それらのエバネセント場を共有するほどに互いに接近した場合に起こり得る。そのような場合、それらはそれぞれの光学的キャビティモードの相応の変化によって互いに感知しうる。単純化の為に、以下においてはこの効果も“モード結合”の用語に含められるであろう。
【0039】
光学的接触: 2つの光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体は、光が一方の共鳴体から他の一つに移動することができる場合に、“光学的接触”を有するといわれる。この意味において、光学的接触は、上記の定義における2個の光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体間でモード結合の可能性を許容する。従って、光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体は、それが基材と光を交換しうる場合に、基材と光学的接触を持つ。
【0040】
クラスター: クラスターは、1−、2−又は3次元的態様の何れを形成してもよく、マイクロ共鳴体及び/又は任意的並びに選択的に異なった幾何及び形状を持った光学的キャビティの集合体として定義される。個々のマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティは、隣接するマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティが互いに接触するか、あるいは光学的キャビティモードスペクトル及び/又はモード結合の重ね合せを促進するように密に隣接して配置されうる。接触するマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティは、物理的な接触、即ち互いに触れ合っているか、あるいは、例えば上述の定義のように光学的に接触してもよい。
互いに密に近接するマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティは、典型的にはそれらの表面から周囲に向けて数百ナノメータの範囲であるようなそれらのエバネセント場の重ね合せに十分な程度に近接するか、あるいは集合的励起及び/又はそれらのキャビティモードスペクトルの検出(そのような集合的励起及び/又は検出のタイミングとは独立して)の為に十分近接しうる。
【0041】
代わりに、マイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティのクラスターは、マイクロ共鳴体の任意の幾何及び形状の集合体、並びに/又は任意的及び選択的に異なった幾何及び形状の光学的キャビティの集合体であり、これは、例えば光学的キャビティモードが集合的に励起され、及び/又は集合的に検出されるように集合的に操作される。しかしながら、“集合的”なる用語は、励起及び/又は検出の時期には依存しないことを意味し、これは併行的な様式(例えば、検出器アレイ又はCCDカメラ等の併行的に操作される(複数チャンネル)検出器により光学的キャビティモードスペクトルの励起輻射及び/又は検出に、クラスター全体が同時に曝されることによる)において、あるいは、所望のスペクトル範囲について、光源及び/又は検出器のいずれかで走査することにより連続的な方法において遂行され得る。これらの並行的及び連続的スキームの組合せも、より複雑な時間的序列に加えて適用可能である。この意味において、マイクロ共鳴体及び/又は光学キャビティのクラスターは、マイクロ共鳴体の任意の幾何及び形状の集合体及び/又は任意的かつ選択的に異なった幾何及び形状の光学的キャビティの集合体としてみることが出来、これは、適切な条件下で精査された場合に(時期及び/又は他の関連する条件に関わらず)、特徴的なスペクトル的指紋を示す。更には、クラスターを構成するマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティが、異なった光学的、物理的、化学的及び/又は生物学的機能を有してもよく、また異なった機能の異なった種類の殻を持ってもよいことに注意されたい。例えば、それらは異なった光学的機構(例えば、エバネセント場結合を介して、又は1種若しくは異なる種類の蛍光物質の励起による)によって励起されうる光学的キャビティモードスペクトルの異なった種(例えば、FPM又はWGM)を示し得る。既に上述したように、その組成とは独立して、唯一の極めて重要な基準は、クラスターが適切な条件下で精査され、分析された場合に特徴的なスペクトル的指紋を示すことである。
【0042】
クラスターの幾つかの例が、図1に示される。
個々の光学的キャビティは、上述したように、それぞれのキャビティが個々に被覆されるか(図1(d))、又はクラスター内の隣接するキャビティが、互いに光学的に接触する(図1(e))様な、いずれかの方法にて被覆され得る。クラスターは、無作為的に形成されてもよく、あるいは、例えばマイクロ操作技術及び/又はマイクロパターン形成及び/又は自己集合を使用して秩序を持った形態で形成されてもよい。図1に示す全てのスキームの組合せも利用可能である。これによって、光学結晶が形成されてもよい。更に、クラスターは、例えば生細胞等またはその一部の媒体の内部において、所望の物理的、化学的、生化学的及び/又は生物力学的性質の検知を促進するために、光学的キャビティ(マイクロ共鳴体)の媒体への(部分的)侵入後に、検知工程の過程で形成されてもよい。簡略化のために、“光学的キャビティ及び/又はマイクロ共鳴体のクラスター”なる用語は、以下において“光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のクラスター”と称する。
【0043】
レーザー閾値: “レーザー閾値”とも称されるマイクロ共鳴体(光学的キャビティ)の刺激放射のための閾値は、刺激放射による光増幅が、マイクロ共鳴体内を対応する光線が伝播する間に起こる損失をちょうど補うマイクロ共鳴体の(例えば光学的、電気的または電磁的)励起力として定義される。キャビティモード内で伝達する光線の損失は、キャビティモードに合致しない光線についてよりも小さため、キャビティモードは、マイクロ共鳴体の全ての起こりうる光学的励起のうちで、典型的には最も低いレーザー閾値(これはそれぞれのモードの実際の損失に依存して互いに異なるものであるが)を示す。実際的には、レーザー閾値は、マイクロ共鳴体(たとえば特定の光学的キャビティについて)の光学的出力を、マイクロ共鳴体の蛍光物質(レーザー物理にて“活性媒体”とも称される)を刺激するために使用する励起力の関数として監視することにより決定されうる。典型的には、この依存性の傾きは、レーザー閾値がそれを上回る場合の方が下回る場合よりも(顕著に)高く、レーザー閾値はこれら2つの依存性の交点から決定され得る。“光学的マイクロ共鳴体のレーザー閾値”に関して述べる場合、典型的には観測されたスペクトル範囲内の最も低い閾値を有する光学的キャビティモードのレーザー閾値を指している。類似的に、マイクロ共鳴体のクラスターのレーザー閾値は、所定の条件下での最も低い閾値を持ったクラスター内の光学的キャビティモードのレーザー閾値を指す。
【0044】
干渉測定法: 干渉測定法は、前述した波の性質を検査するための、2つ又はそれ以上の波の重ね合せにより生じる干渉パターンを使用する技術である。波を一緒にして干渉させるための装置は、“干渉計”と称される。観測の平面において、干渉計は、重ね合わされた波の干渉により生じる変化する強度のパターンを生成させる。典型的には、パターンは円形の対象性を示し、輝く(及び暗い)リングにより取巻かれた中心スポットからなる。以下においては、従って“フリンジパターン”と称されるであろう。中心スポットは、“中心フリンジ”と称されるであろう。
【0045】
光学的キャビティモードの分析: 上記定義に従えば、光学的キャビティモードは、それらが生成される光学キャビティ又はマイクロ共鳴体について、キャビティ又はマイクロ共鳴体の幾何学(例えば、それらの振動数、バンド幅、偏光、伝搬の方向及び性質、場の強度、位相、強度等に関して、一般的にFSR、モード間隔及びモードの性質として表わされる)、ある波長及び/又は偏光についての光学的捕捉の可能性(例えば、それぞれについてのQ−因子として表わされる)、並びにキャビティ又はマイクロ共鳴体の物理的条件、その(それらの)周囲及び/又はその(それらの)周囲との相互作用(例えば、キャビティモードの出現、消滅、場の強さ又は強度における増大若しくは減少、位相または偏光の変化、拡大、シフト、及び/又は分離として表わされる)等に関する情報を提供する。
【0046】
この情報は全て、モード位置(振動数)、モード間隔、モードの出現、場の強度、位相、強度、バンド幅、Q−因子、偏光、方向及び伝播の性質、並びに/又はそれらの変化の測定に関する光学的キャビティモードの分析により明らかにされ得る。下記において簡略の為に使用されるであろう“光学的キャビティモードの分析”なる用語は、これらのモードの性質又はそれらの変化のひとつ以上の決定を許容する測定の全ての種類を含んでいる。
【0047】
移入(transmigration): 以下において、“移入”なる用語は、単一及び/又は複数の光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のクラスターが、細胞膜又は細胞全体等の境界を通過する工程を記述する。文献においては、“移入”なる用語は、しばしば後者のみ、即ち、エンドサイトーシス及び(後続の)エクソサイトーシスの工程の連続として粒子又は物質の細胞を通しての移動を指す。我々の定義は、例えば、エンドサイトーシスにより細胞膜に交差する粒子の内在化の場合も視点として反映される。
【0048】
実施態様の記述
(生)細胞における生物力学的及び生物化学的変化の包括的理解は、細胞機能に関する我々の理解を更に進めるために最も重要であり、また癌治療、組織工学、標的薬剤送達及び関連技術等の種々の生物医学的応用に対する影響を与えるであろう。(生)細胞の検査及び検知の推進の要求から、細胞レベルでの生物力学及び生物化学変化の研究の為に、多数の異なる技術が開発され、それらは、例えば、細胞の近接部分に加えて細胞内部の単一の生物学的分子を標的として開発された標識技術であり、例えば細胞外マトリクス;細胞力学及びそれらの細胞粘着、増殖、生育等への影響の研究のために使用されたレオロジー的方法;並びに標的薬剤送達及び検知のために設計されたナノキャリアー等である。本願の実施態様は、(部分的に)細胞に侵入する光学的キャビティモードセンサーの手段による力学的及び/又は生物化学的細胞特性又は機能のリアルタイムかつその場での検知の方法を記述する。この方法は、幾つかの視点から、研究の多くの異なった技術及び分野に関わる。以下において、最も重要な応用が要約される。
【0049】
細胞力学: 細胞膜に加わる力、又は細胞が吸着する基質の力学的性質等の力学的刺激は、生物学的機能の本質的な因子として知られており、また力学的刺激は生物化学的なものと同様に重要であり得る(ジャンメイ及びワイツ(P. A. Janmey & D. A. Weitz)著「トレンズ イン バイオケミカル サイエンス (Trends Biochem. Sci.) 29巻 (Vol. 29)」 pp. 364-370, 2004年)。従って、細胞の力学的挙動、力の測定及び関連するレオロジー的性質に関する研究は、極めて興味深く、また以下に簡単に要約されるように種々の技術によって実施されてきた。
【0050】
細胞外力の測定のために、レオロジー的技術(メルシエ−ボニン等(M. Mercier-Bonin et al.)著 「ジャーナル オブ コロイド アンド インターフェース サイエンス(J. Coll. Interf. Sci.)271巻 (Vol. 271)」pp. 342-350, 2004年)、カンチレバー(ガルブレイス及びシーズ(C. G. Galbraith & M. P. Sheetz)著「 米国科学アカデミー紀要(Proc. Natl. Acad. Sci.)94巻 (Vol. 94)」pp. 9114-9118, 1997年)、軸受(タン等(J. L. Tan et al.)著「 米国科学アカデミー紀要(Proc. Natl. Acad. Sci.)100巻 (Vol. 100)」pp. 1484-1489, 2003年)、原子間力顕微鏡(AFM; ラドマシェル等(M. Radmacher et al.)著 「バイオフィジカル ジャーナル(Biophys. J.)70巻 (Vol. 70)」 pp. 556-567, 1996年)、並びに磁気的ピンセット(ボーシュ等(A. Bausch et al.)著「バイオフィジカル ジャーナル(Biophys. J.)75巻 (Vol. 75)」pp. 2038-2049, 1998年)及び光学的ピンセット(クライン等(J. D. Klein et al.)著「ジャーナル オブ コロイド アンド インターフェース サイエンス(J. Coll. Interf. Sci.)261巻 (Vol. 261)」pp 379-385, 2003年)等の種々の技術が応用されてきた。
【0051】
細胞内の力は、利用することがより困難である。ここにおいては、典型的には小さいプローブ粒子は、外力(ホス(B. G. Hosu)著「レビュー オブ サイエンティフィック インストラメンツ (Rev. Sci. Instr.)74巻 (Vol. 74)」pp. 4158-4163, 2003年)又はそれらの熱的運動(クロッカー等(John C. Crocker et al.)著 「フィジックス レビュー レターズ(Phys. Rev. Lett.)85巻 (Vol. 85)」pp. 888-891 , 2000年)の何れについても関係することなく追跡される。該粒子は、外部から細胞中に持ち込まれるか、あるいは内生的となる(上述のジャンメイ及びワイツ参照)。代替方法は、細胞内の固有の歪のゆらぎについて優位点を有し、例えば差分干渉コントラスト顕微鏡(ロウ等(A. W. C. Lau et al.)著「フィジックス レビュー レターズ (Phys. Rev. Lett.)91巻 (Vol. 91)」pp. 198101/1-4, 2003年)又は蛍光スペクル顕微鏡(ジ等(L. Ji et al.)著 「セル メカニクス(Cell Mechanics)83巻 (Vol. 83)」pp. 199, 2007年)によってそれらを可視化する。後者の方法の優位点は、その存在によって細胞のレオロジーを変えるであろう外部粒子の細胞中への導入を必要としないことにある。実際に、ブラウン運動によって動的に動かされるかあるいは移動される粒子を追跡することによって測定された切断率の顕著な差異が見出され、而して、適用される測定方法に依存して細胞内部の粘弾性の歪が示された(ロウ等参照)。従って、細胞のレオロジーに対するプローブ粒子の影響を最小化する一般的な傾向がある。
【0052】
細胞内検知: 機械的力およびレオロジー的性質に加えて、細胞内検知の他の側面は、細胞内の生物化学的機能及び変化の利用に関する。ここにおいては、方法の全体を展開する。最も顕著には、種々の蛍光技術が単一分子の追跡及び検出(ビアレ及びヴォ−ディン(P. M. Viallet & T. Vo-Dinh)著「カレント プロテイン アンド ペプチド サイエンス (Curr. Prot. Pept. Sci.)4巻 (Vol. 4)」pp. 375-388, 2003年)、遠隔測定(ミヤワキ(A. Miyawaki)著「ディべロップメンタル セル (Developmental Cell)4巻 (Vol. 4)」pp. 295-305, 2003年)、及びアッベ限界未満の光学的解像度達成(ヘル(S. Hell)著「サイエンス (Science)316巻 (Vol. 316)」pp. 1153-1158)の為に展開されてきた。蛍光標識としては、別法として半導体量子ドット又は金ナノ粒子等のプラズモン的ナノ粒子が使用可能である(クマール等(S. Kumar et al.)著「ナノ レターズ (Nano Lett.)7巻 (Vol. 7)」pp. 1338-1343, 2007年)。更に、複合的多成分粒子が合成され、標識への特異性の改善がなされた(クラーク等(H. A. Clark et al.)著「センサーズ アンド アクチュエーターズ B(Sensors Actuat. B)51巻 (Vol. 51)」pp. 12-16, 1998年)。
【0053】
これら全ての方法は、特定の結合事象の提示、分析対象物の存在、又はそれらの可視化の為の標識として利用できる点で一般的である。分析対象物の濃度に関しての定量的測定は、主として低い信号−雑音(S/N)比、適切な対照測定を導入することの困難性、並びにプローブの未知の生物化学的及び物理学的環境の為に達成することが容易ではない。従って、典型的には得られた結果は定量的であるよりむしろ定性的である。
【0054】
粒子の取込み: 粒子は、検知及びイメージ化の応用の為のみならず、薬剤送達(ポートニー及びオズカン(N. G. Portney & M. Ozkan)著「アナル. バイオアナル. ケム. (Anal. Bioanal. Chem.)384巻 (Vol. 384)」pp. 620-630, 2006年)、及び癌細胞の放射誘導熱処置による癌治療(ガオ等(L. Gao et al.)著「ネイチャー ナノテクノロジー (Nature Nanotechnol.)2巻 (Vol. 2)」pp. 577-583, 2007年;ジャイン等 (P. K. Jain et al.)著「プラズモニクス (Plasmonics)2巻 (Vol. 2)」pp. 107-118, 2007年)の為にも生細胞に取り入れられている。
【0055】
モエウォルド(Moehwald)及び共同研究者らは、標的薬剤送達を目的として中空マイクロカプセル及びナノカプセルを使用した(スクホルコフ及びモエウォルド(G. B. Sukhorukov & H. Moehwald)著「トレンズ イン バイオテクノロジー (Trends Biotechnol.)25巻 (Vol. 25)」 pp. 93-98, 2007年)。最近の研究は、動きの誘導の為の光学的、磁気的又は超音波的制御の手法を目的としている。
【0056】
移入: 粒子の取込みは、内皮細胞を通しての白血球の移入等、自然の工程の研究にも使用され得る(ヴァンブール等(J. D. van Buul et al.)著「アーテリオスクローシス、スラムボーシス、アンド ヴァスキュラー バイオロジー (Arterioscler. Thromb. Vase. Biol.)27巻(Vol. 27)」 pp. 1870-1876, 2007年)。この工程は、体の炎症性応答に関与し、移入する白血球の活性化について、多くの信号生成事象を誘導するものと考えられている。これらの詳細な機構は、しかしながらこれまでのところあまり理解されていない。この意味において、白血球を真似た挙動をする粒子、及び内皮細胞によるそれらの取込みの研究は、重要なアプローチである。
【0057】
イウロット等(R. Wiewrodt et al.)は、80nm乃至5μmの粒子のサイズ範囲において、HUVECによる生物官能化ポリスチレン(PS)ビーズの取込みの研究を行った。彼等は、500nmを超える粒子サイズについて、粒子取込みの上限値を見出した(イウロット等著「へモスタシス、スラムボーシス、アンド ヴァスキュラー バイオロジー (Hemostas. Thrombos. Vascul. Biol.)99巻 (Vol. 99)」 pp. 912-922, 2002年)。これらの知見は、やはり500nmまでの大きさの蛍光PS粒子の取り込みを観察したホークストラ(D. Hoekstra)及び共同研究者の後の研究(レジュマン等(J. Rejman et al.)著「バイオケミカル ジャーナル (Biochem. J.)377巻 (Vol. 377)」 pp. 159-169, 2004年)によって裏付けられている。
【0058】
貪食作用: 生細胞中への粒子取り込みの他の側面は、固体粒子を細胞膜にて飲み込み内部的食胞を形成する細胞工程である、貪食作用に関連する。貪食作用は、ある種の細胞の栄養取得及び免疫系に関連し、病原及び細胞残渣の除去に用いられる主要な機構である(アデレム及びアンダーヒル(A. Aderem and D. M. Underhill)著「アニュアル レビュー イミュノロジー (Annu. Rev. Immunol. )17巻(Vol. 17)」pp. 593-623, 1999年)。インビトロにおける好中球によるPSビーズの取込みが、実験的及び理論的に細胞の機械的な性質の視点にて研究されている(ヘラント等(M. Herant et al.)著「ジャーナル オブ セル サイエンス (J. Cell Sci.)119巻 (Vol. 119)」pp. 1903-1913, 2006年)。カーチス(Curtis)及び共同研究者等(コラディ等(V. K. Koladi et al.)著「ソフト マター (Soft Matter)3巻 (Vol. 3)」pp. 337-348, 2007年)は、6μmまでのサイズのPSビーズを線維芽細胞中に取入れ、それらをコロイド状結晶にまとめた。これらの文献及び関連する文献においては、このような粒子取込みは、細胞中の物理的環境の探索等の細胞の性質及び機能の研究の為、あるいは細胞骨格再構成、細胞骨格力及び歪の研究の為の新規な道具として使用されている一方で、活性光学センサーとしての使用の為の取込み粒子の更なる条件付け又は調製に関しては述べられていない。特には、染料を加えた細胞の蛍光輻射の側面に対する、粒子の存在の可能性ある影響に関しては全く検討されていない。
【0059】
これら全ての異なった技術及び発展にも関わらず、単一細胞の研究に適用可能なほとんどの技術は、生物力学及び生物化学的量の定量的決定に要求されるダイナミックレンジ及びS/N比を提供することが出来ない為、今日においても細胞レベルでの生物力学及び生物化学的工程に関する定量的な情報を得ることは、なおも主要な挑戦である。例えば、蛍光標識は典型的には“オン/オフ型”の二元的システムとして作用し、而してそれは標的分子の存在又は非存在、あるいは生物力学又は生物化学的工程の発生/非発生の情報のみを与え得る。ある程度においては、このことは多数の標識にわたる平均をとることで補い得るが、それでも限られたS/N比及びブリーチング、多光子効果、非輻射的崩壊、及び輻射体−輻射体相互作用等の副次効果の為に、結果の精度には限界がある。
【0060】
これらの欠点の理由は、これまでのところ細胞内光学的検知に適用されるすべての方法が、蛍光標識又はプラズモン的ナノ粒子から放射される光の強度等、強度の情報の評価に依存していることにある。定量的測定の為の強度変化の追跡は、しかしながら実験の安定性及び再現性に対して厳しい要求を課し、また更に、十分な精度を以っての背景シグナルの決定を要求する。これらの要求は、単一細胞水準においてなおも満足させることが困難である。
【0061】
最先端の方法で単一細胞の定量的研究に関与する問題点を克服する為に、本願の実施態様の発明者は、相−感受性の測定原理を導入し、これは強度ゆらぎに対する依存性がより小さく、従って、細胞内部及びそれらの近接部位の分子検知に加えて、生物力学的及び生物化学的変化の定量的研究についてより好ましい。驚くべきことに発明者等は、我々の方法が、細胞外から膜を経て細胞内へのセンサーの移入の間においてさえ検知が可能であることを見出し、これによってこれまで利用困難であった転移範囲への利用が切り開かれる。
【0062】
相−感受性の測定原理の導入の為に、発明者等は、顕微鏡的粒子の光学的キャビティモード励起を使用した。マイクロ共鳴体を含む粒子は球体である必要はないが、マイクロ球体は、細胞内又は膜中の歪及び関連する生物力学的性質の測定の為に有利であろう。更には、マイクロ球体は、商業的に入手可能であり、かつ処理が容易である。しかしながら原理的には、マイクロ共鳴体又は光学的キャビティもしくはマイクロ共鳴体のクラスターの任意のものが、細胞中に取込み可能であり、キャビティモード励起を与える限りにおいて、同様な、又は類似した目的に使用され得る。
【0063】
図2にマイクロ球体(1)と共に例として示される光学的キャビティは、非金属的であり、光学的キャビティモードの励起の為に蛍光物質を含んでいる。更に、それは所望の光学的性質を達成する為に選択的な殻を有するであろう。例えば、金属殻は境界における反射率を変化させ、而して光学的キャビティの共鳴条件を変化させ、また、例えば、金属殻/周囲界面における表面プラズモンの励起をもたらすが(ヒンメルハウス(M. Himmelhaus)著 「SPIE プロシーディングス(SPIE Proc.)6862巻 (Vol. 6862)」pp. 68620U/1-8, 2008年)、一方において、例えば感度の増強の為(テラオカ及びアーノルド(I. Teraoka and S. Arnold)著「ジャーナル オブ ザ オプティカル ソサエティ アメリカ B (J. Opt. Soc. Am. B)23巻 (Vol. 23)」pp. 1434-1441, 2006年)、又は光学的キャビティモードの増幅の為(WO 2005116615)に、非金属殻を使用してもよい。上記に既に定義したように、我々は、全体のシステム、即ち非金属蛍光光学的キャビティ及び選択的殻を、“マイクロ共鳴体”(1)と称するであろう。マイクロ共鳴体は、例えば適切な付加又は被覆により導入される更なる生物力学的及び/又は生物化学的機能を保持してもよく、これはマイクロ共鳴体が定量的な様式で所望の変化又は分子の検知を可能とする。図2は、更にマイクロキャビティにおける光学的キャビティモードの励起及び検出に好適な光学的装置の例を示している。図2(I)において、励起及び検知は、別個の光路を通して行われる。即ち、光学的被覆2により被覆された蛍光マイクロ共鳴体1が、基体3上に配置される。光学的被覆2を有する蛍光マイクロ共鳴体1は、マイクロ流体的流れの環境4中に位置する。光源5は、励起光ビーム6を該蛍光マイクロ共鳴体1に向けて輻射する。光ビーム6により励起された蛍光輻射15は、レンズ7により集光され、光学フィルター9を介して光ファイバー8を通して光学的キャビティモードの分析に好適な検出系10に伝達され、ここにおいて同検出系は、例えばモノクロメータ、並びに/又は干渉計及び光検知器(例えば、CCD、光ダイオードアレイ、又は他の種の光感受性装置)が適用されうる。図2(II)においては、同じレンズ7がキャビティモードの励起及び検出に使用される。即ち、光源5からの光ビーム6は、ビームスプリッター11にて反射され、レンズ7を通して蛍光マイクロ共鳴体1に輻射される。光ビーム6により励起された蛍光輻射15は同じレンズ7に集められ、ビームスプリッター11及び鏡により案内される検出経路12により検出系10に導かれる。(図2(II)において、マイクロ共鳴体1の蛍光輻射15は、検出に最も関与する方向のみが示され、散乱及び/又は反射による寄与が無視される。)
【0064】
これら2つのスキームは単なる例である。他の構成もまた可能である。また、スキーム(I)の幾つかの部分は、交換されるか又は組み合わされてもよい。例えば、またスキーム(I)は、鏡により案内される検出経路12を使用することが出来、及びスキーム(II)は信号伝播の為に光ファイバー(8)を使用することが出来る。信号伝播及び変換の他の手段も同様に利用可能である。
【0065】
測定原理の例として、図3は、空気中及び脱イオン水中における10μmの公称直径のクマリン6GドープしたPSビーズにて励起された光学的キャビティモードを示す。空気中においては多数のモードが励起されうる一方で(ウェラー等(A. Weller et al.)著「アプライド フィジックス B (Appl. Phys. B)」2008年参照)、水中においてはいわゆる一次のキャビティモードのみが観察されうる。狭いバンド幅を有するこれらのモードは、染料の自然な輻射スペクトルを劇的に変調及び変化させ、これによって、粒子又はその周囲の何れかの機械的又は化学的変化について高感度の測定を与える。例えば、図4に例示されるように、別の状況では球体のキャビティの機械的な変形の場合には、方向及び変形誘導力の法線のそれぞれにおける光学的経路長の差異の為に、モードが正に分離される。同様な様式で、ビーズ表面への分子の吸着は、粒子サイズの有効な増大をもたらし、而して共鳴モードの赤方偏移をもたらす。光学的性質及びとりわけこれらのシステムの検知能力の更なる詳細については、文献を引用する(フランソワ及びヒンメルハウス(A. Francois & M. Himmelhaus)著「センサーズ (Sensors)9巻 (Vol. 9)」pp. 6836-6852, 2009年; フランソワ及びヒンメルハウス(A. Francois & M. Himmelhaus)著「アプライド フィジックス レターズ(Appl. Phys. Lett.)92巻 (Vol. 92)」pp. 141107/1-3, 2008年; フランソワ等(A. Francois et al.)著「SPIE プロシーディングス (SPIE Proc.)6862巻 (Vol. 6862)」pp. 686211/1-8, 2008年; ヴォルマー及びアーノルド(F. Vollmer and S. Arnold)著 「ネイチャー メソッズ(Nature Methods )5巻(Vol. 5)」pp. 591 - 596, 2008年)。
【0066】
直径約8μmまでの蛍光PSビーズをHUVEC生育培地に懸濁して表面吸着細胞に曝すと、発明者等は、驚くべきことにビーズが細胞に取込まれ、かつ光学的キャビティモードが膜移入の全工程に渡り、またしかも細胞内部からも観察されることを見出した。検知情報は、それらの絶対強度よりもむしろキャビティモードの位置に含まれる為、細胞の内部又はそれらの近接部位の分子の検知に加えて、生物力学的及び生物化学的事象の検知について非常に強固で精密な道具が見出された。粒子が事実として取込まれていることの独立した証拠として、発明者等は例1に詳細を示すように膜標識技術を使用した。簡単には、ビーズはビオチン標識により官能化されている。図5に例示されるように、生細胞13への暴露の後に基材3上に配置されたビーズ1、即ち全システム(生育培地中のビーズ1及び細胞13)が、蛍光的に標識されたストレプトアビジン14に暴露され、これはビーズ表面が受け入れ可能である場合にビーズ1のビオチン標識16に対して高い親和性を以って結合する(図5(II))。しかしながら、ビーズ1が完全に細胞13中に取り込まれた場合、細胞膜がそれをストレプトアビジンから遮蔽する(図5(I))。従って、取込まれたビーズ1は、非蛍光として見出される。このことを証明する為に、共焦点蛍光顕微鏡を使用した。観察の例が、図6の共焦点イメージに表わされている。伝達イメージが、イメージのある位置のビーズの存在を証明する一方で、同時に取得された蛍光イメージはビーズが蛍光的であるか否かを示している。対照として、ビーズ取込み実験に先立って、細胞骨格を不活性化する為に、HUVECをサイトカラシンDに曝した。このような場合、ビーズ取込みは抑制された。このことは、対応する蛍光及び伝達イメージを示す図6(a)及び6(b)から見られる。明らかに全てのビーズが蛍光的であり、而してそれらが細胞膜の外部にとどまることを示している。対照的に、細胞の骨格が活性である場合には、図6(c)及び6(d)に見られるようにビーズは蛍光的ではない。ここにおいて蛍光的ビーズは、明らかに細胞と接触しておらず、これにより蛍光検出の適切な設定が選択されたことの証拠を与える。これらの観察をより定量的な規模にて設定する為に、蛍光及び非蛍光ビーズをそれぞれの場合について対比するべく計数した。実施例1に詳細を示すように、結果は、サイトカラシンDがビーズ取込み抑制の極めて有効な薬剤であることを示し、一方で細胞に接触した全てのビーズが、該薬剤がない場合には細胞に取込まれることが示された。実験に選択されたHUVECが、〜8μmまでの大きさのビーズを取込むことが出来、一方で、より大きいサイズ(〜10μm)のビーズは完全な細胞中への合体にほとんど成功しないことが見出された。
【0067】
文献がこれまでに報告しているHUVECによる粒子取込みの上限値が約500nmであることからして(イウロット等(R. Wiewrodt et al.)著「へモスタシス、スラムボーシス、アンド ヴァスキュラー バイオロジー (Hemostas. Thrombos. Vascul. Biol.)99巻 (Vol. 99)」pp. 912-922, 2002年; レジュマン等(J. Rejman et al.)著 「バイオケミカル ジャーナル(Biochem. J.)377巻 (Vol. 377)」pp. 159-169, 2004年)、直径数マイクロメータのPSビーズがなおも生HUVECにより取込まれることは驚きである。内皮細胞は血流と局所的組織との界面に含まれ、而してこれらの異なる生物学的系の間で媒介する能力に関し、集中的に研究されてきたことからして、HUVEC等の内皮細胞への粒子取込みの研究は、とりわけ興味深い。例えば、白血球の内皮細胞層を通しての移入は、内皮細胞表面により促進されることが知られている。移入の過程において、内皮細胞は更に炎症性及び免疫的応答の為に白血球細胞の条件を整えるものと考えられている(ヴァンブール等(J. D. van Buul et al.)著「アーテリオスクローシス、スラムボーシス、アンド ヴァスキュラー バイオロジー (Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.)27巻 (Vol. 27)」 pp. 1870-1876, 2007年)。内皮による粒子取込みは、従って、ホルモン濃度及び/又は他の溶解物濃度、(標的)薬剤及び/又はエネルギー放出及び/又は投入等の、監視及び検知などの種々の生物医学的応用のために有用である。
【0068】
これらの及び他の目的の為の細胞中への粒子取り込みに関する他の側面は、貪食作用であり、これは細胞膜により固体粒子を飲み込み、内部的食胞を形成する細胞過程である。通常、食胞は、細胞構成要素の破壊に関連し、食胞を融合する小器官であるリソソームに送達される。内容物は、引き続いて分解され、エキソサイトーシスにより細胞外に放出されるか、あるいは更なる処理を経るために細胞内に放出される。貪食作用は、ある種の細胞の栄養取得及び免疫系に関連し、病原及び細胞残渣の除去に用いられる主要な機構である。細菌、死滅組織細胞及び小さい無機質粒子は、何れも貪食作用を受けうる対象物の例である。而して、貪食作用は種々の細胞により使用されている粒子取り込みのための自然の機構であり、これは本実施態様にも使用され得る。また、リソソーム融合等の粒子内在化に典型的に引続く生物化学的工程も有利に使用され得る。リソソーム融合は、例えば、融合時のpH値における対応する変化、又はリソソームにより分配されるある種の酵素の到着を介して、検知のトリガー、又は(制御された)薬剤及び/若しくはエネルギー放出等の他の事象の為に使用され得るであろう。
【0069】
本実施態様のこのような応用は、種々の細胞が貪食作用の能力を示すことから興味深い。いわゆる“専門食細胞”は、免疫系の一部であるマクロファージ、多形核顆粒球(PMN)及び単球等、それらの機能を満たす貪食作用の機構が要求されるものである。内皮細胞及び線維芽細胞等の他の細胞は、時間的なスケール及び取込み得る最大粒子サイズに関して、場合により効果が低いが、やはり貪食作用を示す(ラビノヴィッチ(M. Rabinovitch)著「トレンズ イン セル バイオロジー (Trends Cell Biol.)5巻 (Vol. 5)」pp. 85-87, 1995年)。
【0070】
上述の知見及び展望に基づき、生HUVECによる6−10μmの蛍光PSビーズの取り込みは、ビーズの光学的キャビティモードの記録に引き継がれる。ビーズは、何らの特別な被覆なしで誘電的であるため、ウィスパリング・ギャラリー・モードが図7の結果に示されるように観察された。例示の為に、図7のスペクトルの記録の間に起こったものと同様なビーズの取込みが、図8に示される。図8の2つのイメージを得る間の時間間隔は、約1時間である。図8の左側イメージに示されるように、図7に示されるスペクトルの取得は、ビーズが細胞と接触した際に開始した。ビーズが既に接触していることは、図7の最初のスペクトル(t=0)の僅かに非対称的なモードプロフィールから知ることが出来る。5分後に取得した次のスペクトルは、高度に非対称的であり、而してビーズが高い非対称環境を経験していることの証拠を与える。図9に例示されるように、おそらく基材3上のビーズ1は、細胞13に部分的にのみ侵入し、不均質な誘電的環境を生じ、また更に膜及び/又は細胞質によりもたらされる機械的歪の為にある種の変形を経験する。後の段階においてスペクトルはより対称的に見える一方で、モードにおける僅かなショルダーが、最初のスペクトル後の90分間までは見られる。106分後に取得された最後のスペクトルのみ、対称的モードを示している。この最後のスペクトルの見かけからして、我々は、ビーズが移入の間に損傷を受けることなく、またそれが球体形状のままであることを結論づける。新たなモード位置から、細胞内の局所的屈折率は、適切な計算によるか(フランソワ及びヒンメルハウス(A. Francois & M. Himmelhaus)著「センサーズ (Sensors)9巻 (Vol. 9)」pp. 6836-6852, 2009年; ジルストラ等(P. Zijlstra et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)90巻 (Vol. 90)」pp. 161101/1-3, 2007年)、あるいは実施例4に例示される対照測定との比較によって、容易に得ることが出来る。モード分離が可逆的であることから、弾性変形及び/又は不均質的環境のいずれかがこのような捩れをもたらしたものと思われる。しかしながら、不均質的環境の場合、ビーズがより高い率の媒質に侵入することから(t=106分の最後のスペクトルにより示されるように)、モードは赤方偏移を示すものと期待される。モード分離の挙動及び実施例2に詳細が示される挙動の最初のアイディアを得るために、502nm付近のモードを、スペクトルの一連全体について2種類のロレンツ共鳴の手法によりフィッティングし、それぞれのモード位置を図10に示すように時間の関数としてプロットした。明らかに、90分後にはモードは対称的であり、単一の共鳴のみが描かれうる。
【0071】
しかしながら、それ以前には共鳴の一方がブルーシフトを示して、モードが明らかな分離を示し、このことは水性媒体が細胞内部よりも低い率を有することから不均質誘電的環境によっては説明されえない。従って、我々は観測されたモード分離は、実施例3にて更に分析されるように、ビーズの機械的変形に起因するものと結論付け、このことはビーズの細胞による取込みの間にビーズに及ぼされる最大変形作用の計算を与える。
【0072】
加えて、参考として、まだ取込まれていないビーズの495nm付近のモードの発展が示される。この場合のビーズ取込みを回避する為に、ビーズへの暴露に先立ってHUVECがサイトカラシンDにより処理された。明らかに、モード位置は全実験に渡って一定であり、これによって上記実施例にて観察された分離が、水性相中のビーズの不十分な安定性等の他の理由によるものではないことが示されている。
【0073】
ビーズサイズが大きくなりすぎる場合、即ち本ケースにおいて8μmの大きさを超える場合には、細胞はもはやビーズを取込むことが出来ない。図11は、HUVECによる直径約10μmのビーズ取り込みの試みにおけるWGMスペクトルを表わす。スペクトルの進展から見ることが出来るように、モードはより長波長に向けてシフトをし始め、また分離をし始めて、細胞膜への侵入を示す。しかしながら35−40分後、工程は逆転するように見え、即ち分離が消滅し、ピークがそれらの前の位置に戻り、而してビーズは細胞を離れて取込みが成功しなかったことを示している。この観察は、実施例1の対照実験と一致して、8μmを超えるサイズのビーズがHUVEC細胞中に内在化する可能性がほとんどないことを示す。しかしながら、ここにおける興味深い観察は、細胞がいずれにしてもそのような取込みを試みるように見えることである。
【0074】
別法としての実施例5に詳細が示される図7のWGMスペクトルのより洗練された評価スキームにおいて、細胞中への取り込みの異なった段階における、ビーズの平均ビーズ直径及び周囲の平均屈折率が、図12に示されるように同時に得られた。第2の工程において、これらの平均値から、細胞により変形されたビーズ(図4b参照)の最大及び最小半径が得られ(図12b/c)、次いでこれは、細胞骨格によりビーズに付与された力の計算に使用された。該改良されたWGM分析に加えて、ビーズ変形の力学的モデルが、PEフィルムと密着したビーズ表面の薄い吸着層の弾性特性、及び、次いで吸着した内皮細胞生育培地の血清蛋白質を考慮することにより洗練された。薄層の厚さは、別途の実験により決定された。このような方法で、実施例3に示された単純化された評価スキームの結果の一つの矛盾が解消され得た:実施例3における歪計算は、平面内及び平面外の寄与について負の値を与え、これはビーズがすべての方向から圧縮されることを意味する。しかしながら、このような場合、ビーズが細胞内に侵入することは起こり難く、そのような場合を受け入れずに除外した。この矛盾の理由は、多分に実施例3にて使用した力学的モデルが、その小さいE−係数の為に、粒子のコアよりもより強く圧縮されると考えられる薄い吸着層を説明していないことによるものと思われる(詳細については実施例5参照)。従って、ビーズのコアが、零でないポアソン比の為に平面外方向に、即ち細胞膜に直角の方向に拡張している場合にも、全マイクロ共鳴体サイズ即ちビーズと吸着層の和は、減少する。従って、実施例5の結果は、平面外方向への正の圧力、かつ平面内方向への負の圧力のみを与え、このことはビーズが細胞骨格機構により細胞内に引き込まれ、一方でそれが細胞膜の平面にて圧縮されることを意味する。このような細胞の引き込み−圧縮作用は、圧縮がビーズの細胞膜平面での断面積を減少させ、而してビーズを取込もうとする細胞の努力を促すであろうことから、起こり難いものである。この意味において、実施例5にて適用した力学的モデルは、全体の工程の記述によりよく適合し、一方で実施例3は単純方法の限界を指摘するものと思われる。
【0075】
上記に示した実施例は、個々の細胞及びそれらの近接部分の研究及び分析に焦点を当てた。しかしながら、ここに示した技術は、より一般的なレベルで凝集細胞及び組織等の生物学的材料の研究にも使用され得ることが明らかとなった。例えば細胞中への移入に代えて、マイクロ共鳴体又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスター(簡略化のために、マイクロ共鳴体又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターを以下においては“センサー”と称する)は、例えば細胞の粘着強度及び/又は信号の存在、又は他の分子種に応答する為に、細胞結合等の隣接する細胞間の空間に、上述した個々の細胞と同様な様式で、即ち変形により、センサー又は周囲の誘電性の変化により、あるいはまた、センサーに吸着する種の個数、種類、及び/又は密度によって、侵入してもよい。このようなセンサーの移動の位置は、細胞外マトリクス及び/又は一般的に組織の一部であってよい。研究下の生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的性質(又はそれらの変化)の検知方法は、基本的には上述したと同様である。例えば、光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のクラスターは、細胞間の検知工程の過程において、細胞内検知について上述した様式と同様にして、一般的に細胞外マトリクス及び/又は組織にて単一のマイクロ共鳴体から形成することも出来る。他の実施態様において、該センサーは、唾液、血液、リンパ、尿、又は他の体液等の生物学的液体中に自由に浮遊してもよく、次いで適切なシグナル分子及び/又は所望の生物学的材料に対する受容体を介して結合してもよく、ここにおいて、これ(これら)は、生物化学的及び/又は生物力学的性質又は変化の検知の為に使用される。また、ここにおいて、クラスターは変化の過程において単一のマイクロ共鳴体又はより小さいクラスターから形成してもよい。柔軟なセンサー、即ち適切なE−係数を有するセンサーは、例えば捩れ又は欠陥を検出する為に、例えば血管内等の液体の流れの中でのレオロジー的力の研究の為にも適用され得る。上述したように他の実施態様は、然るべく記述される。
【0076】
本実施態様の一つの重要な側面は、適用されるセンサーが本質的に自由に移動すること、即ちそれらが遠隔センサーであることであり、このことはそれらが生物学的組織、生物学的液体及び/又は生物学的細胞等の生物学的材料中への侵入を可能とする。この特定の性質を説明する為に、我々は、“生物学的材料への侵入”又は“生物学的材料への配置”なる用語を使用し、それは、原理的に、即ちそれらの稼動のモードの為に、研究下の生物学的材料により完全に取込まれてもよい。このことは、しかしながらそのような完全な飲み込みが常に起こることを意味するものではない。完全及び不完全な取り込みの例は、実施例3及び5に、図7及び11と共に与えられており、ここにおいて球状マイクロ共鳴体が生内皮細胞により、ビーズの直径が8μmを超えない場合に取込まれ得ることが示されている。不完全な取り込みは、対照的にビーズの直径がより大きい場合、例えば本実施例にあるように約10μmの場合に起こる。この意味において、本実施態様のセンサーは、例えば、それらが基材に支持され、あるいは稼動の為に光学的結合が適用され、而して基本的な視点から完全に飲み込まれ得ない為に、遠隔的に稼動されなくともよいような全てのセンサー類とは異なる。別の視点において、遠隔センサーは、作動する位置、即ち自然な環境において検知すべき生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的変化の位置に、移動又は移るもので、一方において他のセンサーは、それらの標的が自然の環境からセンサーが固定された位置に移動してくるのを待つものということが出来る。この意味において、生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的変化は、センサーの検知工程の過程で起こる可能性がある生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的変化とは区別されなければならない。例えば、センサーは特異的結合相互作用を促進する為に分子により官能化されてもよい。このような場合、分子とそれらの標的との相互作用は、分析されるべき生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的変化の部分ではなく、生物学的材料の研究の単なる補助的道具として働く。より一般的に言えば、本実施態様の目的物であるところの生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的変化は、基本的にセンサーがない場合にも起こるであろう。このことは、しかしながらセンサーが、その任務の過程で、例えば特定の官能化及び条件の為にそのような変化を誘導あるいは促進し得ないことを意味するものではない。更に、“変化”なる用語は、研究下の生物学的材料の状態又は条件を包含する。例えば、2個の粘着性細胞間の細胞間粘着力は、2個の細胞間の界面領域を通して、センサーが侵入する工程によって測定されうる。とはいっても、静止する静的粘着力もなお、このような工程の分析から得られうる。
【0077】
遠隔検知のこの特徴は、特にはそれらの光学的キャビティモードの励起の視点から、センサーの稼動方法に対する影響を有する。光ファイバー、導波器、又はプリズム等の光学的結合器の手段によるエバネセント場結合は、典型的には顕微鏡的大きさではない結合器の大きさのためのみならず、結合器/センサー距離が一定に保たれる必要がある高い精度の為に利用できないものと思われる。グオ等(Z. Guo et al.)著「ジャーナル オブ フィジックス D(J. Phys. D)39巻 (Vol. 39)」5133-5136, 2006年により指摘されたように、結合器とセンサーとの間のナノメータスケールの間隙における僅かな変化は、センサー信号に影響を及ぼしうる。特に、生物力学的力の検知、又は組織への侵入の際には、間隙の大きさにおける僅かな変化は、間隙が固体材料からなる場合においてさえも後者の弾性の為に排除することが出来ない(ルッティ等(J. Lutti et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)93巻 (Vol. 93)」pp. 151103/1-3, 2008年)。従って、エバネセント場結合器に基づく光学的キャビティモードセンサーは、本願実施態様に提供するにはふさわしくない。一つの例外は、焦点化した自由に伝播する光ビームを介した(即ち、物理的結合器を使用しない)結合に関連しえて、ここにおいては、焦点中心から指数的に崩壊する電磁場が、上述した物理的結合器のエバネセント場と同様な様式で、光学的キャビティモードの励起の為に使用され得る。しかしながら、該センサーの近接部における物理的対象物を欠くことにより、光学的キャビティモードは、焦点とセンサーとの距離の変化により、影響をより受けなくなる。ほとんどの場合、結合効率は、そのような不安定性の為に悩まされるであろう。共焦点顕微鏡、ラマン顕微鏡及びプレートリーダー等の細胞及び組織検査の為の多くの現代的機器は、焦点レーザービームを使用している為、励起には利用可能かつ便利であり得る。唯一の問題は、共焦点レーザー等の励起光源を、光学的キャビティモードに適合させることであろう。しかしながら、このことは、励起の為に、数乃至数十ナノメーターの顕著な輻射バンド幅を示しうる単パルスレーザーを使用することにより達成されうる。別法として、LED又は熱源等の広域バンドの他の光源が適用されてもよい。
【0078】
それにもかかわらず、遠隔センサーにおいて光学的キャビティモードの励起の最も直接的で単純な方法は、多くの種類の適切な光源により励起され得、次いで基本的には励起方法には関わりなく、異なった波長又は異なった波長領域にて輻射する蛍光物質を適用することであり、これは、所望の領域の光学的キャビティモード励起がカバーされ、かつ所望の方法において(例えば、センサーのレーザー閾値より低いか又は超えて)稼動されるように蛍光物質を選択することにより作成され得る。
【0079】
幾名かの著者等が、検知応用の為のマイクロディスクにおけるウィスパリング・ギャラリー・モードの蛍光励起を報告している(ザング等(Z. Zhang et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)90巻 (Vol. 90)」pp. 111119/1-3, 2007年; ファング等(W. Fang et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.) 85巻(Vol. 85)」pp. 3666-3668, 2004年)。このような構造は、基本的には光学的キャビティモードの遠隔的励起及び検出を使用するものであるが、それらは共鳴体の固体支持体への固定を要するディスク形状のキャビティであることから、本願実施態様の意味からすれば、本質的には遠隔センサーではない。その好ましくない表面対体積比、及びそれによる表面相互作用の優勢性のために、媒体中を自由に浮遊するマイクロディスクは、2つの大きな円形表面の一方で、それが接触する何らかの表面に付着する可能性が極めて高く、次いで予想される大きな表面の粘着及び摩擦力の為に固定化される。しかしながら、このことは上記に定義した生物学的材料に侵入する遠隔センサーとしてディスクを応用することの妨げとなる。
【0080】
以下に提供される実施例において、蛍光物質が該センサーのコア中に取入れられる。このことは、基本的に任意の位置にて該センサーを使用する可能性の為に、基本的に便利であり、かつ研究下の生細胞を蛍光物質の起こり得る影響から保護する為である。しかしながら、蛍光物質は、該センサーの表面に位置してもよく、またその殻の内部に取込まれるか表面にあってもよく、あるいは該センサーに任意の種類の被覆をしてもよいことに注意しなければならない。それは、検知工程の過程においても、これらの何れの位置に移動するかあるいは侵入してもよい。更に、蛍光物質は該センサーを標的にするのではなく、研究下の生物学的材料、例えば、細胞、細胞膜、細胞内対象物、細胞外マトリクス、組織、及び/又は体液等に蓄積され、次いで一旦それがセンサーの近接部に至った場合にセンサーの光学的キャビティモードを励起することも出来る。例えば、蛍光的に標識された抗体は、細胞内又は細胞外蛋白質を標的としてもよく、而してその蛋白質の高濃度を示す位置に蓄積されてもよい。そのような場合、蛍光標識が適切な方法で刺激され(かつ蛍光標識及び/又はセンサーが、適切に選択され)るならば、その位置に接近するセンサーは、キャビティモード励起を経験するであろう。次いで該センサーは、標識蛋白質の高濃度位置に近接する、生物学的材料の適切な生物化学的及び/又は生物力学的変化の検知に使用され得る。該センサーの周囲における蛍光励起が、光学的キャビティモードの励起に十分であることの証拠は、フジワラ(Fujiwara)及びササキ(Sasaki)(「ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジックス(Jpn. J. Appl. Phys.)38巻 (Vol. 38)」pp. 5101-5104, 1999年)により与えられ、彼等は、有機染料含有水性溶液に囲まれた非蛍光標識マイクロ共鳴体における光学的キャビティモードレーザー生成を例示した。
【0081】
材料の部
本実施態様のマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のクラスターは、一般に入手可能な材料を使用して製造可能である。材料の以下の説明は、本願明細書の記述にしたがって、当業者がマイクロ共鳴体及び/又は光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のクラスターを構築することを補助すべく提供される。
【0082】
キャビティ(コア)物質: キャビティ(コア)の製造のために選択され得る物質は、該キャビティが稼動される電磁気的スペクトルの部分において低い吸収を示すものである。例えば、キャビティモードの蛍光励起のためには、これはキャビティの稼働のために選択される蛍光物質の放射スペクトルの領域である。典型的な物質は、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリメラミン等のポリマーラテックス、及びガラス、シリカ、チタニア、塩類、半導体等の異なった種類の無機物質である。また、コア−殻構造及び有機/無機または無機/有機、有機/有機、及び無機/無機等の異なった物質の組合せも可能である。光学的キャビティまたはマイクロ共鳴体のクラスター、又は1個以上のマイクロ共鳴体が実験に使用される場合には、関与する異なった光学的キャビティ(クラスターを構成するか、あるいは異なった個々のマイクロ共鳴体)は、異なる物質から調製されてよく、また、例えば選択的励起を許容すべく異なる蛍光物質が選択的にドープされてもよい。また、キャビティは、異種的物質から成っていてもよい。一つの態様において、キャビティはInGaP/InGaAlP量子井戸構造等の半導体量子井戸構造から調製され、これは、キャビティ物質として、及び適当な放射により励起される場合の蛍光物質として同時に使用され得る。約3以上の半導体量子井戸構造の典型的に高い屈折率は、対応する真空中波長に比べて半導体内での波長短縮のために、更にキャビティの小型化を可能とする。一般的に、キャビティの小型化を促すために、半導体等の高い屈折率のキャビティ物質を選択することは有利である。フォトニック結晶をキャビティ物質として選択し、結晶の外表面を蛍光物質にて被覆するか、あるいは蛍光物質を結晶中に均質的又は不均質的に埋設することも出来る。フォトニック結晶は、励起可能なキャビティモードの数を制限し、許容されるモードの集団を強制し、かつ許容されるモードの偏光を定義することが出来る。フォトニック結晶を介しての蛍光物質の分布の種類は、更に所望のモードのみを励起することを助け、一方で望ましくないモードは不適切な光学的励起により抑制されうる。
【0083】
ある周波数範囲、いわゆるフォトニック結晶の“バンドギャップ”の光の伝播を許容しない、2又は3次元非金属の周期的構造からなるフォトニック結晶の例は、ヤブロノヴィッチ(E. Yablonovitch)により示されている(「サイエンティフィック アメリカン(Scientific American)12月号 (Dec. issue)」pp.47-55, 2001年)。光は、周期的非金属構造において分布するブラッグ回折により伝播を妨げられ、これは異なって散乱される光子の破壊的干渉を招く。例えば、全体の周期構造中の一つの失われた散乱中心等の点欠陥により、フォトニック結晶の周期性が損なわれた場合には、ドープされた半導体のバンドギャップ内で起こる局在化した電子的エネルギーレベルのものと同様な、バンドギャップ内の空間的に閉じ込められた許容される光学的モードが起こりうる。
【0084】
本実施態様において、示される光学的キャビティは球体形状を有する。そのような球体形状は極めて有用なものであるが、基本的にはキャビティは、先行技術に示されるようにキャビティモードを維持することが出来る限り、偏球形状、円柱又は多角形形状等、何れの形状を有してもよい。形状は、また、キャビティ体積内の単一又は計数可能な数の平面中にモードの励起を制限する。
【0085】
蛍光材料: 蛍光物質として、励起波長λexcの光を吸収し、続いて輻射波長λem≠λexcの光を再放射する物質の何れかのタイプのものが使用されうる。これによって、放射波長範囲の少なくとも一部は、その励起の為に蛍光物質が使用されるキャビティのモードスペクトル内に位置しなければならない。実際的には、蛍光染料、半導体(例えば、ZnO)、半導体量子ドット、半導体量子井戸構造、カーボンナノチューブ(クロシェット等(J. Crochet et al.)著「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサエティ 129(Journal of the American Chemical Society129)」pp. 8058-9, 2007年)、ラマン放射体等が使用されうる。ラマン放射体は、吸収した光子エネルギーを部分的に内部振動モードの励起に使用し、励起光よりも大きい波長の光を再放射する物質である。振動が既に励起されている場合、放射される光は入射励起光よりも小さい波長を持ち得、これによって振動を消滅させる(反ストローク放射)。いずれの場合においても、励起波長を適切に選択することにより、多くの非金属物質がラマン放射を示し得、上述したキャビティ物質は、特定の蛍光物質を添加しなくともラマン放射に使用されうる。
【0086】
本実施態様において使用されうる蛍光染料の例が、それぞれのピーク放射波長(単位:nm)と共に示される: PTP (343)、DMQ (360)、ブチル−PBD (363)、RDC 360 (360)、RDC 360-NEU (355)、RDC 370 (370)、RDC 376 (376)、RDC 388 (388)、RDC 389 (389)、RDC 390 (390)、QUI (390)、BBD (378)、PBBO (390)、スチルベン(Stilbene)3 (428)、 クマリン 2 (451)、クマリン 102 (480)、RDC 480 (480/470)、クマリン 307 (500)、クマリン 334 (528)、クマリン 153 (544)、RDC 550 (550)、ローダミン 6G (580)、ローダミン B (503/610)、ローダミン 101 (620)、DCM (655/640)、RDC 650 (665)、ピリジン1 (712/695)、ピリジン2 (740/720)、ローダミン 800 (810/798)、及びスチリル 9 (850/830)。これら全ての染料は、例えば銀被覆マイクロ共鳴体(例えばWO 2007129682参照)を稼動するために、UV(例えば、320nmにて)において励起され、320nm以上、例えば約450を放射し得る。
【0087】
しかしながら、銀の殻によって被覆されていないマイクロ共鳴体については、UV−NIR領域で稼動する任意の他の染料が使用され得る。そのような蛍光染料の例が示される: DMQ、QUI、TBS、DMT、p−ターフェニル、TMQ、BPBD-365、PBD、PPO、p−クォーターフェニル、エクサライト(Exalite)377E、エクサライト 392E、エクサライト 400E、エクサライト 348、エクサライト 351、エクサライト 360、エクサライト 376、エクサライト 384、エクサライト 389、エクサライト 392A、エクサライト 398、 エクサライト 404、エクサライト 411、エクサライト 416、エクサライト 417、エクサライト 428、BBO、LD 390、α−NPO、PBBO、DPS、POPOP、ビス−MSB、スチルベン420、LD 423、LD 425、カルボスチリル165、クマリン 440、クマリン 445、 クマリン 450、クマリン 456、クマリン 460、クマリン 461、LD 466、LD 473、クマリン 478、クマリン 480、クマリン 481、クマリン 485、クマリン 487、LD 489、クマリン 490、LD 490、クマリン 498、クマリン 500、クマリン 503、クマリン 504 (クマリン 314)、クマリン 504T (クマリン 314T)、クマリン 510、クマリン 515、クマリン 519、クマリン 521、クマリン 521T、クマリン 522B、クマリン 523、クマリン 525、クマリン 535、クマリン 540、 クマリン 6、クマリン 6レーザー級、クマリン 540A、クマリン 545、ピロロメテン 546、ピロロメテン 556、ピロロメテン 567、ピロロメテン 567A、ピロロメテン 580、ピロロメテン 597、ピロロメテン 597-8C9、ピロロメテン 605、ピロロメテン 650、フルオレセイン(Fluorescein)548、二ナトリウムフルオレセイン、フルオロール(Fluorol) 555、 ローダミン 3B パークロレート、 ローダミン 560 クロライド、 ローダミン 560 パークロレート、 ローダミン 575、ローダミン 19 パークロレート、ローダミン 590 クロライド、ローダミン 590テトラフルオロボレート、ローダミン 590 パークロレート、ローダミン 610 クロライド、ローダミン 610 テトラフルオロボレート、ローダミン 610 パークロレート、キトンレッド(Kiton Red) 620、 ローダミン 640 パークロレート、スルホローダミン 640、 DODC アイオダイド、DCM、DCM スペシャル、LD 688、LDS 698、LDS 720、LDS 722、LDS 730、LDS 750、LDS 751、LDS 759、LDS 765、LDS 798、LDS 821、LDS 867、スチリル 15、LDS 925、LDS 950、フェノキサゾン(Phenoxazone)660、クレシルバイオレット(Cresyl Violet) 670 パークロレート、ナイルブルー(Nile Blue) 690 パークロレート、ナイルレッド(Nile red)、 LD 690 パークロレート、LD 700 パークロレート、オキサジン(Oxazine) 720 パークロレート、オキサジン 725 パークロレート、HIDC アイオダイド、オキサジン 750 パークロレート、LD 800、DOTC アイオダイド、DOTC パークロレート、HITC パークロレート、HITC アイオダイド、DTTC アイオダイド、IR- 144、IR- 125、IR-143、IR-140、IR-26、DNTPC パークロレート、DNDTPC パークロレート、DNXTPC パークロレート、DMOTC、PTP、ブチル-PBD、エクサライト 398、RDC 387、BiBuQ スチルベン3、クマリン 120、クマリン 47、クマリン 102、クマリン 307、クマリン 152、クマリン 153、フルオレセイン27、ローダミン 6G、ローダミン B、スルホローダミン B、DCM/ピリジン1、RDC 650、ピリジン1、ピリジン2、スチリル 7、スチリル 8、スチリル 9、アレクサフルオル(Alexa Fluor) 350 染料、アレクサフルオル 405 染料、アレクサフルオル 430 染料、アレクサフルオル 488 染料、アレクサフルオル 500及びアレクサフルオル 514 染料、アレクサフルオル 532 染料、アレクサフルオル 546 染料、アレクサフルオル 555 染料、アレクサフルオル 568 染料、アレクサフルオル 594 染料、アレクサフルオル 610 染料、アレクサフルオル 633 染料、アレクサフルオル 647 染料、アレクサフルオル 660 染料、アレクサフルオル 680 染料、アレクサフルオル 700 染料、及びアレクサフルオル 750 染料。
【0088】
例えば、光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の稼働波長領域を拡大、適合させるか、又はシフトさせるために、例えば少なくとも部分的に重複する放射及び励起領域を有する異なる染料の組合せを使用してもよい。
【0089】
ほとんどのレーザー染料等の水不溶性染料は、光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体に取り入れるために特に有用であり、一方インビトロジェン コーポレーション(Invitrogen Corp.)(カリフォルニア州カールスバッド)から入手可能な染料等の水溶性染料は、細胞若しくは一般的な生物学的材料若しくは光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の周囲を染色するために特に有用である。
【0090】
マイクロ共鳴体にドープするための蛍光物質として使用されうる半導体量子ドットは、ウォゴン(Woggon)及び共同研究者らにより記述されている(アルテムイェフ及びウォゴン(M. V. Artemyev & U. Woggon)著「アプライド フィジックス レターズ (Applied Physics Letters)76」pp. 1353-1355, 2000年; アルテムイェフ等(M. V. Artemyev et al.)著「ナノ レターズ 1 (Nano Letters 1)」 pp. 309-314, 2001年)。それによって、量子ドット(例えばCdSe、CdSe/ZnS、CdS、CdTe)は、染料分子の蛍光放射がマイクロ共鳴体のキャビティモードの集団のために使用し得ることを示したクワタ−ゴノカミ等(M. Kuwata-Gonokami et al.)著「ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジックス (Jpn. J. Appl. Phys.)31巻 (Vol. 31)」 pp. L99-Ll0l, 1992年)によって記述されるのと同様な方法にて本実施態様に適用され得る。染料分子に対する量子ドットの主たる優位点は、退色等の減成に対して安定性がより高いことである。同様な議論が、例えばInGaP/InGaAIPから生成される半導体量子井戸構造にも当てはまり、これは退色に対して高い安定性を示し、また蛍光物質として使用できるのみならず、キャビティ物質としても使用できる。また、半導体の粒子、フィルム、被覆及び/又は殻(ファング等(W. Fang et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)85巻 (Vol. 85)」pp. 3666-3668, 2004年)等の他の形態は、マイクロ共鳴体のコア及び/又は殻の適切な箇所に蛍光物質として適用され得る。
【0091】
蛍光物質の励起波長λexcは、所定のエネルギーを有する2個以上の光子が物質に吸収され、2倍以上のエネルギーの光子が放射される多光子工程が想定できるため、その放射波長λemより小さい、即ちλexc<λemである必要はない。この種の工程は、2次調和、3次調和又はより高い調和生成等、2光子(又は多光子)吸収又は非線形光学工程でありうる。又、上述したように、ラマン非ストローク工程が同様な目的で使用され得るであろう。
【0092】
上記に例示したような異なった蛍光物質の組合せは、例えば光学的キャビティ(若しくは複数のキャビティ)又はマイクロ共鳴体の稼働波長の領域を広げ、適合させ、又はシフトさせるために使用され得る。このことは、例えば適用される異なった蛍光物質の励起及び輻射波長領域の適切な組合せにより達成され得る。一般的に、蛍光物質は、キャビティ物質中に組み込まれ得るか、あるいは表面に吸着され、あるいは光学的キャビティの選択的殻に埋設されるか若しくは吸着され、及び/又は一般的に細胞若しくは生物学的材料等、周囲に持ち込まれ得る。分布は、励起されるキャビティモードのタイプを選択するために利用可能である。例えば、蛍光物質が適切な光学的キャビティの表面近傍に濃縮される場合、ウィスパリング・ギャラリー・モードがファブリペローモードよりも励起されやすい。蛍光物質が光学的キャビティの中心に濃縮される場合には、ファブリペローモードがより励起されやすい(ウェラー及びヒンメルハウス(A. Weller & M. Himmelhaus)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)89巻 (Vol. 89)」pp. 241105/1-3, 2006年)。不均一的分布の他の例は、蛍光物質が秩序を持った様式で分布されるもの、即ち蛍光物質の高い濃度を持った体積の規則的な2次元又は3次元的パターンの視点での規則性を持つものである。そのような場合、回折効果が起こり得て、それは、例えば分配フィードバックレーザーに見出されるのと同様に、キャビティを異なった方向、偏光及び/又はモードにおいて励起させる。
【0093】
: 光学的キャビティ及び/又は光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のクラスターは、均質的な厚さ及び/又は組成を有するか、あるいはそうではないであろう殻に組み込まれ得る。殻は、コアの蛍光物質の励起波長λexcについて、十分な透過性を示す任意の物質(金属、誘電性物質、半導体)からなってよい。また、殻は、例えばマイクロ共鳴体及び/又はマイクロ共鳴体のクラスターの表面を、所望の部位及び/又は領域のみ透明にするため、蛍光物質を保持するため、あるいは他の例をあげれば選択的な(生物学的−)官能化を容易にするため、所望の性質を有する異なった物質からなってもよい。例えば、殻の物質として半導体を適用する場合には、励起波長が考慮される半導体のバンドギャップに対応する波長よりも高いと、殻は透明となる。金属については、例えば、典型的にはそれを超えると金属の伝導電子が電磁輻射の吸収にもはや寄与しないような、金属のプラズマ周波数を利用することにより高い透明性が達成されうる。有用な金属の内には、アルミニウム、及び銀、金、チタン、クロム、コバルト等の遷移金属がある。殻は、例えば蒸着又はスパッタリングにより作成されるように連続的であるか、あるいはしばしばコロイド金属粒子の沈着と後続の無電解メッキにより達成されるように連続的であってよい(ブラウン及びナタン(Braun & Natan)著「ラングミュア 14(Langmuir 14)」pp. 726-728, 1998年; ジ等 (Ji et al.)著「アドバンスト マテリアルズ 13 (Advanced Materials 13)」 pp. 1253-1256, 2001年; カルテンポス等 (Kaltenpoth et al.)著「アドバンスト マテリアルズ 15 (Advanced Materials 15)」pp. 1113-1118, 2003年)。また、殻の厚さは数ナノメーターから数百ナノメーターまで変化しうる。この唯一の厳密な要求は、殻の反射率が、Q>1の値を持つQ−因子を可能とする所望のスペクトル範囲において十分に高いことである。球体キャビティにおけるFPMについては、Q−因子は殻4の反射率から(又はその逆も可)次式により計算されうる。
【0094】
【数5】

【0095】
ここにおいて、Rshは、殻の反射率であり、λは、キャビティモードmの波長である。
【0096】
生物学的官能性被覆: マイクロ共鳴体又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターは、(生物学的−)力学及び/又は(生物学的−)化学機能を容易にする(生物学的−)官能性被覆により被覆されてもよい。例えば、それらは所望の細胞又は一般的な生物学的材料の応答を開始させる為、あるいは生物学的力学及び/又は生化学的検知を容易にする為に、特異的分析対象物を以って官能化されてもよい。簡略にするために、マイクロ共鳴体又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターを、以下において“センサー”と称する。
【0097】
該センサーに特異的分析対象物についての選択性を持たせるために、蛋白質、ペプチド及び核酸等の分析対象物を(好ましくは可逆的に)結合することが出来る結合剤により、センサー表面を被覆することが好ましい。結合剤を共役させる方法は、ポリマー、無機物質(例えばシリカ、ガラス、チタン)及び金属表面等の種々の表面について当業者には周知であり、また本実施態様のセンサー表面を誘導するために同様に好適である。例えば、遷移金属被覆(例えば、金、銀、銅及び/又はそれらの合金及び/又は組成物)の場合、本実施態様のセンサーは、チオール化学を使用することにより化学的に修飾され得る。例えば金属被覆された非金属コアは、センサー表面をアミノ基にて修飾するために、アミノエタンチオール等のアミノ基を有するチオール分子の溶液に懸濁されうる。次いで、pH7−9の緩衝溶液に懸濁されたN−ヒドロキシスクシンイミドにより修飾されたビオチンが、EDCにより活性化され、あらかじめアミノ基により修飾されたセンサー懸濁物に添加される。結果として、アミド結合が形成されて、金属被覆された非金属コアがビオチンにより修飾される。次いで、4つの結合部位を含むアビジンまたはストレプトアビジンが、ビオチンに結合されうる。次いで、蛋白質、ペプチド、DNAまたは他の任意のリガンド等の任意のビオチン−誘導生物学的分子が、アビジン−修飾金属被覆非金属コアの表面に結合されうる。
【0098】
別法として、アミノ−末端化表面は、水性グルタルジアルデヒド溶液と反応させてもよい。センサー懸濁物を水にて洗浄後、蛋白質またはペプチドの水溶液に曝し、それらのアミノ基を介しての生物学的分子の共有的結合を促す(ダヒント等(R. Dahint et al.)著「アナル.ケム.(Anal. Chem.)」1994年,66巻 (Vol. 66) pp. 2888-2892)。センサーが、最初に例えばメルカプトウンデカン酸のエタノール性溶液に曝すことによりカルボキシ末端化された場合には、末端官能基はEDC及びN−ヒドロキシスクシンイミドの水溶液を用いて活性化され得る。最終的に、蛋白質またはペプチドは、水溶液からそれらのアミノ基を介して活性化表面に共有的に結合される(ヘルワース等(Herrwerth et al.)著「ラングミュア (Langmuir)」 2003年 19巻 (Vol. 19)pp. 1880-1887)。
【0099】
同様な様式において、非金属センサーも特異的に官能化され得る。例えば、PPS、PAA及びPAH等の多電解質(PE)は、文献に記載されるように使用され得て(デシェル(G. Decher)著「サイエンス (Science)277巻 (Vol. 277)」pp. 1232ff., 1997年; ロッシュ等(M. Losche et al.)著「マクロモル. (Macromol.)31巻 (Vol. 31)」pp. 8893ff., 1998年)、アミノ(PAH)またはカルボキシル(PAA)基等の化学的官能基の高い密度を有するセンサー表面を達成する(この技術は、金属被覆センサーにも適用可能である)。次いで、例えば上述した方法と同じ結合化学がPE被覆センサーに適用され得る。別法として、また金属表面の官能化について上述したチオール化学との類似において、アミノ−、メルカプト−、ヒドロキシ−、又はカルボキシ−末端化シロキサン、リン酸、アミン、カルボン酸又はヒドロキサム酸等の適当な種の結合剤が、センサー表面の化学的官能化のために使用され得て、これに基づいて、次いで生物学的分子の結合が、上述の例に記述したように達成され得る。適当な表面化学が、文献に見出され得る(例えば、ウルマン(A. Ulman)著「ケミカル レビューズ (Chem. Rev.)96巻 (Vol. 96)」pp. 1533-1554, 1996年参照)。
【0100】
表面及び粒子における生物学的特異的相互作用の制御及び同定についての一般的問題は、非特異的吸着である。この障害を抑える一般的技術は、非特異的吸着部位をブロックするために、官能化表面を他の強く付着する生物学的分子(例えばBSA)に曝すことに基づく。しかしながら、この方法の効率は、研究対象の生物学的システムに依存し、また交換プロセスが、解離及び表面結合分子種間で起こり得る。更には、非特異的吸着した生物学的分子の除去には多くの洗浄工程が要求され、而して低い親和性によって特異的結合事象の同定を阻害する。
【0101】
この問題の解決法は、ポリ−(PEG)及びオリゴ(エチレングリコール)(OEG)の被覆のような、結合剤の不活性物質への組込みである。生物学的特異的認識要素をOEG−末端化被覆に組み込むための最も一般的技術は、蛋白質抵抗性EG分子及び結合剤の結合に好適な(又は結合剤自体を含む)第2の官能化分子種からなる2元溶液からの共吸着に基づく。別法として、結合剤の表面−移植化末端−官能化PEG分子への直接結合も報告されている。
【0102】
最近、COOH−官能化ポリ(エチレングリコール)アルカンチオールが合成され、これは金表面に密充填単一層を形成する。生物学的特異性レセプターの共有的結合の後、被覆は効果的に非特異的相互作用を抑制し、一方で高い特異的認識を示す(ヘルワース等(Herrwerth et al.)著「ラングミュア (Langmuir)」2003年 19巻(Vol. 19)pp. 1880-1887)。
【0103】
表面に不動化された結合物は、抗体等の蛋白質、(オリゴ−)ペプチド、オリゴヌクレオチド及び/又はDNA切片であってよい(これらは、例えば、一ヌクレオチド多形(SNP)を含み得る遺伝子の特定の配列範囲である特異的標的オリゴヌクレオチド又はDNAにハイブリダイズするものや、あるいは炭水化物であってよい)。非特異的相互作用を低減するために、結合物は好ましくは不活性マトリクス材料中に組み込まれるであろう。
【0104】
位置制御機能: 本実施態様のセンサーは、リモートセンサーであり、従って、例えば一般的には選択されたセル又は生物学的材料の一部とのそれらの接触及び/又は相互作用を制御するために、それらの位置及び/又は移動の外的手段による制御が必要とされ得る。そのような制御は、異なった手段により行われてよい。例えば、センサーに磁性が付与され、磁気的又は電磁気的力が直接にセンサーに適用されてよい(リウ等(C. Liu et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)90巻 (Vol. 90)」pp. 184109/1-3, 2007年)。例えば、鉄化合物等の磁気的物質を含む常磁性及び強常磁性ポリマーラテックス粒子が、異なる供給者から商業的に入手可能である(例えば、ダイナビーズ(DynaBeads)、インビトロジェン コーポレーション(Invitrogen Corp.)又はBioMag/ProMagマイクロ球体、ポリサイエンス(Polysciences)(ペンシルバニア州ワリントン))。磁気的物質が、典型的にはポリスチレンからなるポリマー性マトリクス物質中に組み込まれていることから、このような粒子は、下記の実施例に記述される非磁気的PSビーズとしての光学的キャビティモードセンサーと同様又は類似した方法にて使用されてよい。別法として、あるいは付加的には、磁気的物質/機能は、マイクロ共鳴体の殻及び/又はそれらの(生物学的−)官能性被覆に負わせてもよい。
【0105】
更に、位置制御は、光学的ピンセットの手段により行われてもよい(モフィット等(J. R. Moffitt et al.)著「アニュアル レビュー オブ バイオケミストリー (Annu. Rev. Biochem.)77巻 (Vol. 77)」pp. 205-228, 2008年)。そのような場合において、光学的ピンセットのレーザー波長は、センサーを稼動するために使用される蛍光物質の励起及び/又は放射波長範囲に一致するか、又はしないように選択されてよい。例えば、蛍光物質(の一つ)の(選択的)励起用でもあるような、光学的ピンセットの稼動波長を使用することが好ましいであろう。磁気的ピンセットに対する光学的ピンセットの一つの優位点は、多くの異なるセンサーが、同時に個別的に制御され得ることである(ミオ等(C. Mio et al.)著「レビュー オブ サイエンティフィック インストラメンツ(Rev. Sci. Instr.)71巻 (Vol. 71)」pp. 2196-2200, 2000年)。
【0106】
他のスキームにおいて、センサーの位置及び/又は動きは、音波(タン等(M. K. Tan et al.)著「ラブ チップ (Lab Chip)7巻 (Vol. 7)」pp. 618-625, 2007年)、(2次元)電気泳動(ダクヒン及びデルジャグイン(S. S. Dukhin and B. V. Derjaguin)著「エレクトロキネティック フェノメナ (Electrokinetic Phenomena)」、ジョン ワイリー及びソンズ (John Wiley & Sons)著「ニューヨーク(New York)」 1974年; モーガン及びグリーン(H. Morgan and N. Green)著「AC エレクトロキネティクス:コロイズ アンド ナノパーティクルズ (AC Electrokinetics: colloids and nanoparticles)」リサーチ スタディーズ プレス(Research Studies Press)バルドック (Baldock) 2003年; ポール(H. A. Pohl)著「ジャーナル オブ アプライド フィジックス (J. Appl. Phys.)22巻(Vol. 22)」pp. 869-671, 1951年)、電気的湿潤法(ザオ及びチョ(Y. Zhao and S. Cho)著「ラブ チップ (Lab Chip)6巻 (Vol. 6)」pp. 137-144, 2006年)によって、並びに/又は所望の大きさ及び/若しくは機能の粒子及び/若しくは細胞の並べ替え/取り出しが可能であるようなマイクロ流体装置によって制御されてもよい(ハート(S. Hardt)、ションフェルド(F. Schonfeld)、eds. 「マイクロフルイディック テクノロジーズ フォー ミニチュアライズト アナリシス システムズ(Microfluidic Technologies for Miniaturized Analysis Systems)」(ニューヨーク州スプリンガー)2007年)。
【0107】
また、例えば圧力差の適用によって粒子を固定及び放出可能なマイクロキャピラリーを使用することにより、センサーの位置制御のために機械的ピンセットも使用され得る(ヘラント等(M. Herant et al.)著「ジャーナル オブ セル サイエンス (J. Cell Sci.)118巻 (Vol. 118)」pp. 1789-1797, 2005年)。この方法の利点は、センサー及び細胞又は一般的に生物学的試料が、同じ装置を用いて操作されうることである(ヘラント等参照)。上述した2種以上のスキームの組合せも、センサー及び/又は細胞又は生物学的試料の位置制御のために好適であろう。
【0108】
励起光源: 光学的キャビティモード励起のための光源の選択は、適用される励起スキームに依存する。光学カップラー又は焦点光ビームによるエバネセント場結合を介した励起(例えば、オラエブスキー(Oraevsky)著「クアント.エレクトロン. (Quant. Electron.)32巻 (Vol. 32)」pp. 377-400, 2002年参照)については、輻射波長範囲がキャビティ稼働の所望のスペクトル領域に合致しなければならない。上述した蛍光物質によるマイクロ共鳴体又はマイクロ共鳴体のクラスターの励起については、光源はその輻射が蛍光物質の励起周波数範囲ωexcに相当する(又は部分的に重なる)ように選択されなければならない。蛍光物質の励起の為に、多数光子吸収又は調和生成等の多光子過程を使用する場合には、光源の輻射周波数範囲は、所望の多光子過程が蛍光物質の励起周波数範囲ωexcに入る(又は部分的に重なるように、適切に選択され得る。輻射出力は、マイクロ共鳴体の励起の過程において起こり得る損失(放射損失、減衰、吸収、散乱)を上回って補充し得るものでなければならない。励起スキームに関わらず好適な光源は、タングステン又は水銀ランプ等の熱的光源、ガスレーザー、固体レーザー、レーザーダイオード、DFBレーザー、及び発光ダイオード(LED)等の非熱的光源である。
【0109】
より狭い輻射形状を有するレーザー又は発光ダイオードは、試料及び環境の加熱を最小とするために好適に適用される。同じ目的の為に、短及びウルトラ短パルス光源が利用されうる。後者は、励起及び検出実験、又は光学的キャビティモード検知及び分析の為のロックイン技術と共に使用することも可能とするであろう。このような短パルス光源は、上述した何れの光源であってもよいが、ここにおいては、パルス発熱ランプ、パルスLED、若しくはレーザーダイオード、又はパルスレーザー等の一時的に変調された輻射強度態様を持つものである。更には、光源の低い出力においても、パルス内のピーク出力(強度)は、レーザー閾値を越えうることから、パルス光源は、マイクロ共鳴体、又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターにおけるレーザー発生を達成する為に有利に使用され得る(例えば、フランソワ及びヒンメルハウス(A. Francois & M. Himmelhaus)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)94巻 (Vol. 94)」pp. 031101/1-3, 2009年参照)。
【0110】
数ナノメーター又はそれ以上にわたるスペクトル的輻射を有する広域光源は、焦点光ビームによるマイクロ共鳴体へのエバネセント場結合の為に特に有用であり得る(例えば、オラエブスキー(Oraevsky)著「クアント.エレクトロン. (Quant. Electron.)32巻 (Vol. 32)」pp. 377-400, 2002年参照)。そのような場合、光源の広いスペクトルは、各々のマイクロ共鳴体の単一光学的キャビティモード以上の同時的励起を可能としうる。このような広域光源は、パルス光源であってもよく、例えば、光学的キャビティモードのロックイン検出と組み合わせ得る。
【0111】
数種の蛍光物質が適切に選択されて使用された場合、例えば非重複、励起周波数範囲、一個以上の光源、又は切替可能な輻射波長範囲を持った単一光源等は、例えば、更に読み取り工程を容易にする為、又は参照測定の為に、個々のマイクロ共鳴体又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターが選択的に向けられるように、選択されてよい。更に、少なくとも1つの光源の励起出力は、使用される少なくとも一つのマイクロ共鳴体又はマイクロ共鳴体のクラスターが、−少なくとも一時的に−励起される少なくとも一つの光学的キャビティモードのレーザー閾値を越えて稼動されるように(それぞれの条件下において)選択される。このような場合、稼動キャビティモードのバンド幅は更に狭く、而してそれらのクォリティ因子を改善する(クワタ−ゴノカミ等(M. Kuwata-Gonokami et al.)著「ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジックス (パート2)(Jpn. J. Appl. Phys. (Part 2))31巻 (Vol. 31)」pp. L99-101, 1992年)。この種の操作は、従って、センサーの感度及び信頼性を更に改善するであろう。
【0112】
光学的キャビティモードの分析(検出系): マイクロ共鳴体又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体から散乱される光を集めるためには、当業者に既知の任意の種類の適当な集光光学系が使用され得る。例えば、輻射は、適切な数値の開口部を有する顕微鏡対物レンズ、及び/又は光ファイバー、導波構造、集積光学装置、近接場光学顕微鏡(SNOM)の開口部、若しくはそれらの何れかの適切な組合せによる任意の種類の適当な遠隔場光学系によって集光されうる。特に、集光光学系は、例えばエバネセント場結合を適用することにより、遠隔場、及び/又は近接場の信号収集を使用しうる。次いで、集光は、分散及び/又は干渉計要素若しくはそれらの組み合わせを適用して任意の種類の顕微鏡的装置により分析されうる。簡略の為に、集光光学系及び顕微鏡的装置を含む光学的キャビティモードの分析の為の全体システムを、以下においては“検出系”と称し、また実在する光学的、光学機械的及び/又は光学電子的な適当な部品も含む。検出系の最も重要な特徴は、それぞれの目的に十分なように正確な周波数、バンド幅、伝播の方向及び性質、偏光、場の強さ、位相、及び/又は強度あるいはそれらの変化等、光学的キャビティモードの所望の性質の決定を可能とすることである。二つ以上のマイクロ共鳴体又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターの並行的操作の場合、二つ以上の検出系が使用されてもよい。別法として、単一のマイクロ共鳴体のみならず光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスターの輻射を同時的に又は(高速で)連続して処理可能な検出系が適用されてもよい。例えば、共焦点顕微鏡は、高値絞りを持って蛍光輻射の集光器とレーザー光による蛍光励起とを組み合わせ、次いで蛍光輻射のフィルター及びスペクトル分析が行われる。そのような装置は細胞研究においてしばしば使用されるため、それらは本実施態様の装置のために、便利な道具として提供されうる。他の便利な装置は、例えば、レーザー励起源及び微小な光源からの光信号の高値絞り集光とスペクトル分析とを組合わせる、ラマン顕微鏡である。更に、両種の装置は、マイクロ共鳴体−標的(細胞又は一般的に生物学的材料)の相互作用の追跡を容易にする、同時的なスペクトル分析及び像生成を可能とする。そのような像生成の必要がない場合に、蛍光プレートリーダー等の他の種の装置も適用可能である。
【0113】
実施態様
実施態様1:細胞検知のための単一のマイクロ共鳴体に基づく光学的センサー
上記定義の意味における単一のマイクロ共鳴体を含む光学的バイオセンサーを細胞に曝した。細胞によるマイクロ共鳴体の(部分的)取込みの前、その間及び後において、キャビティモードについて、上記に詳述した方法にて頻繁に情報を送らせ記録した。例えばそれらの取り込み前の位置及びバンド幅に関するキャビティモードの分析により、細胞の生物学力学的及び/又は生物化学的条件又は変化についての情報が得られうる。更に、マイクロ共鳴体は、その取込みの容易化の為、及び/又は所望の細胞応答を誘導する為、並びに/又は細胞近傍、細胞膜の内部若しくは近傍、及び/若しくは細胞内部における生物学的分子又は生物化学的変化の検知を可能とする為に、生物化学的被覆を行ってもよい。該マイクロ共鳴体は、例えば検知の促進(例えば、感度又は時間取得に関して)の為、又は細胞近傍、細胞膜の内部若しくは近傍、及び/若しくは細胞内部における生物力学的及び/又は生物化学的事象をトリガーする為に、稼動可能な光学的キャビティモードの少なくともひとつのレーザー閾値を、少なくとも一時的に、越えて稼動することも出来る。
【0114】
光学的キャビティモード励起は、例えば、焦点を合わせた光ビーム及び/又は蛍光物質の適用等、何れかの好適な手段により達成されうる。蛍光物質は、バイオセンサー又は研究対象の細胞のいずれかに持たせてもよい。また、検知工程においてバイオセンサー又は細胞に、又はそれらからの何れか(例えばバイオセンサー又は細胞の環境から)移動することも出来る。光学的キャビティモードの分析は、典型的にはバイオセンサーから散乱された光の収集、及び後続の適当な検出系による分析により達成される。
【0115】
実施態様2:細胞検知のための二つ以上のマイクロ共鳴体に基づく光学的センサー
本実施態様における他の態様において、二つ以上のマイクロ共鳴体が細胞検知のために使用され得る。例えば、異なる大きさ、形状、コア及び任意の殻の材料、蛍光励起及び/若しくは輻射領域、並びに/又は生物化学的被覆を有するマイクロ共鳴体が、上記に詳述した手段により細胞の生物力学的及び/又は生物化学的条件に関する情報を得るために使用され得る。これによって、個々の機能に応じて、マイクロ共鳴体の幾らかが内在化を受け、一方で他のものは細胞外に留まるであろう。また、光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のいくらかは、時間経過において細胞の外部又は内部にてクラスターを形成しうる。光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体の少なくとも一つは、少なくとも一時的に、稼動的な光学的キャビティモードの少なくとも一つがレーザー閾値を超えて稼動されてもよい。
【0116】
光学的キャビティモード励起は、例えば、焦点を合わせた光ビーム及び/又は蛍光物質の適用等、何れかの好適な手段により達成されうる。異なるマイクロ共鳴体は、それらの光学的キャビティモ−ドの励起及び分析について、異なる様式にて稼動されてよく、特にはそれらは電磁スペクトルの異なる領域にて稼動されうる。蛍光物質は、バイオセンサー又は研究対象の細胞のいずれかに持たせてもよい。また、検知工程においてバイオセンサー又は細胞に、又はそれらからの何れか(例えばバイオセンサー又は細胞の環境から)移動することも出来る。光学的キャビティモードの分析は、典型的にはバイオセンサーから散乱された光の収集、及び後続の適当な検出系による分析により達成される。
【0117】
実施態様3:細胞検知のためのマイクロ共鳴体クラスターに基づく光学的センサー
他の実施態様において、図1に例示されるマイクロ共鳴体の一つ以上のクラスターが、使用され得る。これによって、大きさ、形状、コア及び任意の殻の材料、蛍光励起及び/若しくは輻射領域、並びに/又は生物化学的被覆に関して同一又は異なった型のマイクロ共鳴体からなってよい。個々の機能に応じて、クラスターの幾らかが内在化を受け、一方で他のものは細胞外に留まるであろう。単一のマイクロ共鳴体及びクラスターは、所望の順に従って、同時的又は連続して調整された方法にて使用され得る。更に、クラスターは、検知工程において細胞の内部又は外部にて単一のマイクロ共鳴体又はより小さいクラスターから形成されてもよい。マイクロ共鳴体又はクラスター又は構成するマイクロ共鳴体の少なくとも一つは、単一のマイクロ共鳴体に関して実施態様1及び2に詳述したように、少なくとも一時的に、光学的キャビティモードの少なくとも一つがレーザー閾値を超えて稼動されてもよい。
【0118】
光学的キャビティモード励起は、例えば、焦点を合わせた光ビーム及び/又は蛍光物質の適用等、何れかの好適な手段により達成されうる。蛍光物質は、マイクロ共鳴体若しくはクラスター、又は研究対象の細胞のいずれかに持たせてもよい。また、検知工程においてマイクロ共鳴体若しくはクラスター、又は細胞に、又はそれらからの何れか(例えばマイクロ共鳴体若しくはクラスター、又は細胞の環境から)移動することも出来る。光学的キャビティモードの分析は、典型的にはバイオセンサーから散乱された光の収集、及び後続の適当な検出系による分析により達成される。
【0119】
実施態様4:光−誘導事象のトリガーの為の単一マイクロ共鳴体、マイクロ共鳴体の組合せ、又はマイクロ共鳴体のクラスター
光学的検知に加えて、マイクロ共鳴体、光学的キャビティ又はマイクロ共鳴体のクラスターは、例えば、光学的キャビティモード励起を介しての光化学的工程の開始により、又はマイクロ共鳴体の励起及び/又は輻射過程における熱移動により、光学的に誘導される事象のトリガーの為にも使用され得る。このような目的の為に、マイクロ共鳴体、マイクロ共鳴体のクラスター、又はマイクロ共鳴体のクラスターの構成物の少なくともひとつを、例えばトリガーを誘導する為に稼動可能な光学的キャビティモードのひとつをレーザー閾値を越えて稼動することが望まれるであろう。このような光学的に誘導される事象のトリガーは、他の応用に加えて、薬剤放出、生物力学的若しくは生物化学的変化及び/又は細胞の刺激の管理又は開始、組織処理及び修復、及び/又は例えば癌治療における細胞死の管理の為に使用され得る。
【0120】
光学的キャビティモード励起は、例えば、焦点を合わせた光ビーム及び/又は蛍光物質の適用等、何れかの好適な手段により達成されうる。蛍光物質は、マイクロ共鳴体若しくはクラスター、又は研究対象の細胞のいずれかに持たせてもよい。また、検知工程においてマイクロ共鳴体若しくはクラスター、又は生物学的材料に、又はそれらからの何れか(例えば各々の環境から)移動することも出来る。光学的キャビティモードの分析は、典型的にはバイオセンサーから散乱された光の収集、及び後続の適当な検出系による分析により達成される。
【0121】
実施態様5:一般的な生物学的材料の分析及び処理の為の単一マイクロ共鳴体、マイクロ共鳴体の組合せ、又はマイクロ共鳴体のクラスター
単一マイクロ共鳴体、又は光学的キャビティ若しくはマイクロ共鳴体のクラスター、又はいずれかの種類の複数のそれらからなってよい光学的バイオセンサーは、その(それらの)光学的キャビティモードの分析により、研究対象とする生物学的材料の生物化学的及び/又は生物力学的性質あるいは変化の何れかを検出する為に、細胞、細胞膜、細胞内対象物、細胞外マトリクス及び/又は体液等の生物学的材料の少なくとも一部に侵入する。光学的キャビティモード励起は、例えば、焦点を合わせた光ビーム及び/又は蛍光物質の適用等、何れかの好適な手段により達成されうる。蛍光物質は、マイクロ共鳴体若しくはクラスター、又は研究対象の細胞のいずれかに持たせてもよい。光学的キャビティモードの分析は、典型的にはバイオセンサーから散乱された光の収集、及び後続の適当な検出系による分析により達成される。
【0122】
実施例
実施例1:蛍光標識を介したヒト臍静脈内皮細胞によるビーズ取込みの証拠
この実施例の目的は、約8μmまでの直径のビーズがHUVEC中に完全に取込まれ得ることの証明、及びウィスパリング・ギャラリー・モードの光学検知の手段による標識無しにて行われた細胞検知実験の対照を与えることである。
【0123】
実験は、6−10μmの公称直径のPSビーズを最初にビオチンにて標識し、次いでプラズマ処理細胞培養皿にて生育したHUVECの層に曝すことによって行われた。細胞及びビーズは、ビーズの取込みを許容するに十分な時間である一晩(O/N)放置された。次いで、培養物を、下記の実験の部に詳述するように蛍光的に標識されたストレプトアビジンに曝した。図5に例示されるように、HUVEC13に完全には取込まれていないビーズは、ビーズ表面のビオチン16へのストレプトアビジン14の特異的結合により標識され、一方で細胞13に取込まれたビーズ1は、細胞膜によるストレプトアビジン14の非特異的反発によってシールドされる。対照実験において、細胞骨格は、サイトカラシンDによって麻痺させられ、ビーズの取込みが抑制される。このような場合、ビーズは細胞中に侵入することが出来ず、多数の蛍光ビーズが予想される。非蛍光ビーズに対する蛍光ビーズの比率の決定の為に、試料を共焦点蛍光顕微鏡により分析した。
【0124】
実験
ビオチンによるビーズの標識: 数滴の6μm(#17141、ポリサイエンス インコーポレーティッド(Polysciences, Inc.)ペンシルバニア州ワリントン)及び10μm(#18133、ポリサイエンス)のカルボキシル化マイクロ球体を、エッペンドルフ中のPBS、1%BSAに添加し、1時間振とうを続けた。ビーズを10,000gにて10分間、遠心し(KUBOTA 3740, 株式会社クボタ、日本、東京)、溶液を廃棄し、ペレットを1mlのPBSにより洗浄した。350mlのビーズを別に分けて単純にBSAにて標識化した。残った650mlのビーズを、アミン結合によってビオチン(B4501-500MG, シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、日本、東京)にて標識化した。これは、アミン結合キット(BR-1000-50、ビアコア株式会社、日本、東京);1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC):n−ヒドロキシスクシンイミド(NHS):ビオチン1mg/mlの1:1:1溶液、395mlを使用して行われた。ビーズをピペットにて吸上げ、吐出し、20分間振とうさせた。この時間経過後、ビーズを10,000gにて10分間遠心し、上清を除去し、ビーズを1.0Mエタノールアミン−HCl、pH8.5に再懸濁させることにより反応物を中和し、振とう機に10分間かけた。このビーズを、再度10,000gにて10分間遠心し、上清を除去し、1mlのPBSに再懸濁させた。この最終工程は、一回反復した。
【0125】
ヒト臍静脈内皮細胞培養物: ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)(200−05n、 セル アプリケーションズ インコーポレーテッド(Cell Applications, Inc.)カリフォルニア州サンディエゴ)を、別途述べない限り37℃に維持した。HUVECを、セル アプリケーションズのプロトコールにしたがって、5%COを用いて上皮細胞培養培地(ECGM)(211500、セル アプリケーションズ インコーポレーテッド)中で培養した。
【0126】
ヒト臍静脈内皮細胞によるビーズ取込みの監視: HUVECの第2から第4継体物を、2.5mlのECGM中の5x10細胞/ウエルにて6ウエルの細胞培養プレート(Falcon 353046、べクトン、ディキンソン アンド カンパニー(BD)、ニュージャージー州フランクリン レイクス)に入れた。細胞を、その層がほとんど重なり合うまで、1日1回ECGMを交換して静置した。各ウエルの2mlのECGM中の細胞に、25μlのサイトカラシンD(C8273−1MG、シグマ(Sigma))1mg/mlを入れるか、あるいは何も添加しないかの何れかにて処理し、2時間放置した。この時間経過後に、5μlの6−10μmビオチン標識ビーズを添加し、一晩(O/N)放置した。翌日に、13μlのストレプトアビジン−ローダミンB(SRB)(PBS中に1mg/ml)(S871、インビトロジェン ジャパン(Invitrogen Japan)、日本、東京)を、ウエルの半数に直接添加し、1時間放置した。残る半数のウエルは、細胞スクレーパーを用いてかきとり、細胞懸濁物を集めて30分間超音波処理し、その後、該懸濁物を清浄な6ウエルプレートに添加し、SRBを上述と同様に添加した(“超音波処理細胞”)。培地を除去し、2mlのECGMを全てのウエルに洗浄液として添加したのち廃棄し、次いで更なる3mlのECGMを添加した。次いで、細胞を共焦点顕微鏡(Olympus Fluoview 1000、オリンパス株式会社、日本、東京)にて、50x対物レンズ及び緑HeNeレーザー(543nm)を用いて観察した。ここではビーズは、それらがそれぞれ蛍光を表わすか否かに依存して、暗いか否かとして決定される。
【0127】
結果
実験は、再現性を保証する為に、2回の独立して生育されたHUVEC培養物を用いて2回実施された。実験1は、2種類の異なったビーズサイズ、即ち6μm及び10μmの直径を用い、実験2は、6μmビーズを使用した場合の何らかの副次効果を排除する為に、多数回の対照実験を伴って行った。結果を表1に示す。試料は、共焦点蛍光顕微鏡により研究された。像内の全てのビーズが、計数され、それらがHUVECに近接しているか否かに関わらず、評価された。表1中の“*”により示される実験は、弱いか、又は均質な蛍光の背景のみを示すが、他の蛍光球体の特徴を示さない。
【0128】
【表1】

【0129】
結果は、HUVECの細胞骨格が、大きい粒子の取り込みの為に再構成されていることをよく示している。更に、細胞骨格を麻痺させる阻害剤が存在しない場合、高い割合のビーズが細胞中に侵入する。ビーズ及び細胞が媒体中に無作為に分散されている為、この百分率における変動は、有意なものではない。従って、全てのビーズが細胞の近傍にあるわけではない為、それらの全てがHUVECと相互作用し得るのではない。しかしながら実験の評価において、取得したイメージ枠内の全てのビーズが適切な統計処理の為に評価された。従って、明らかに細胞近傍にないものも計数されており、而して蛍光ビーズの百分率を引き上げている。これらのビーズは、しかしながら蛍光ビーズの可視化の為に取得パラメータが適切に選択されたことを表わしている。例として、図6は、ビーズ及び細胞の同時に取得された共焦点蛍光及び透過イメージを表わし、図6(a)及び(b)は、阻害剤を使用した場合、図6(c)及び(d)は、阻害剤を使用しない場合である。細胞に対して相対的なビーズの位置は、透過イメージから見ることが出来る。阻害剤を用いた場合(図6(a)及び(b))、全てのビーズはそれらの位置に関わらず、蛍光を示し、一方で阻害剤を用いない場合(図6(c)及び(d))には1個のみのビーズがイメージの下部に見られ、これは明らかに細胞とは密に接触することなく蛍光を示している。このことから、我々はそのイメージ中の全ての他のビーズが全体としてHUVEC中に移入されたことを結論する。
【0130】
実施例2: HUVEC細胞膜を通してのビーズの移入のウィスパリング・ギャラリー・モード検知
この実験は、マイクロ球体の生細胞中への移入および取り込みの間における、マイクロ球体のウィスパリング・ギャラリー・モード励起の手段による、リアルタイムでの光学的検知の可能性評価の為に実施された。
【0131】
実験
全ての実験は、ポリジメチルシロキサン(PDMS; Sylgard 184, ダウ コーニング コーポレーション(Dow Corning Co.)、ミシガン州ミッドランド)中に入口及び出口を含めたチャネルを成型し、カバーグラス片(松浪硝子工業株式会社、日本、岸和田)により底部を塞ぐことにより作成したマイクロ流体フローセルにて行われた。一旦フローセルを封止した後、細胞粘着を改善する為にチャネルをフィブロネクチン(シグマ アルドリッチ; 1.5 mg/ml in PBS)にて被覆した。HUVECは実施例1と同様に育成した。HUVEC懸濁物にて満たしたフローセルを、前述の条件下で実験に先立って2時間保存し、チャネル内部にHUVECを分散させた。公称直径6及び10μmのPSビーズに当業者に既知の方法によりクマリン6Gをドープした。次いで、該ビーズを水性懸濁物からHUVEC生育培地に、反復する遠心、上清の除去、及び生育培地の損失体積の置換えにより移した。このように処理したビーズのWGMスペクトルは、おそらくは生育培地成分のビーズ表面への吸着の為、1時間程度安定ではないことが見出された。1時間後、スペクトルは安定であり、ビーズは検知実験に使用することが出来た。次いで、PSビーズ懸濁物をフローセル中に注入し、細胞と接触するように位置した好適なビーズが見出され次第に、単一粒子のWGMスペクトルの取得を開始した。該WGMスペクトルの取得は、経時的に細胞によるビーズの取込みを監視する為に反復的に行われた。
【0132】
結果
図8は、伝送モードでの共焦点顕微鏡を用いて得られたHUVEC中へのビーズ侵入の動画の2つのイメージフレームを示す。イメージ(a)においてはビーズは細胞の周囲にちょうど接触している。イメージ(b)においてはそれは内在化している。ビーズ内在化のこのような工程のWGMスペクトルは、リアルタイムにて記録された。図7は、示された時間間隔後に撮られた一連のWGMスペクトルを示す。スペクトルは、ビーズ内在化の間の球形対称性の破れによる異なるモードの分離を示す(図4及び9参照)。この非対称性は、細胞膜及び/又は細胞質によりビーズに付与される該ビーズの環境及び/又は機械的圧力の、異方性の光学的性質に起因しうる。
【0133】
この場合においてはビーズの内在化は成功しているが、図11は不成功の侵入の試みの例を示す。この場合、ビーズの大きさは約10μmであった。最初に、モードは小さな分離を示し、これはビーズの球体形状からの僅かな変位により生じたものであろう。時間経過において、モードのシフトおよび分離は、ビーズ取り込みの間の対称性の破れにより変化する。しかしながらある瞬間から、ピークはそれらの元の位置に戻り、而してビーズが細胞を離れた証拠を与える。最も起こり得ることには、ビーズがHUVEC中に成功裏に侵入するには大きすぎたことである。
【0134】
実施例3: HUVECの細胞膜を通してのビーズ移入の間の機械的圧力の計算
図7に示されるようにビーズ移入の間に観察されたモード分離は、侵入の間に細胞によりビーズに付与された機械的圧力の計算に使用され得る。モード分離の最初の定量化の為に、497nm近傍の共鳴が2つのロレンツプロフィールに当てはめられ、分離モードの位置を与える。これは、異なったWGMが広いバンドに分離し、このため2つのみのロレンツプロフィールとの当てはめのみではこれらのバンドの最も端部をうまく記述できない5分のスペクトルを除いて、合理的によく機能した。それにもかかわらず、この場合にも得られた何らかの平均位置は、ビーズ侵入の一般的挙動の最初の検討の為には十分に良好であった。
【0135】
図10に示されるように、モード分離は測定開始から約5分間の侵入工程の初期段階で最も大きい。原理的には分離は機械的圧力及びビーズの異方的環境の両者により起こりえるが、一つのモードがより低波長にシフトしている事実は、分離の主な寄与が機械的圧力によることを示している。このことは、細胞の内部が細胞の環境よりもより高い屈折率を有するものと推定されることによる。従って、増大する屈折率に起因するWGMの赤方偏移が予想される。これがそのようであることは、明確な赤方偏移を示す図7(106分後)に示されている一連の最後のスペクトルから知ることが出来、而して生育培地に比較して細胞内部のより高い率という推定を裏付けている。ブルーシフトの他の一つの説明は、膜侵入の工程間で、ビーズがその生育倍地中での条件調整間に吸着した物質の幾らかを失うことである。しかしながら、この場合ビーズの形状はその内在化の後にも非対称性を維持していることが予想される。再度、図7の一連の最後のスペクトルから分かるように、そのような非対称性は、分離についての何らの証拠もなく、最後のスペクトルが全て対称性であるからして観測されない。
【0136】
細胞によりビーズに付与された最大圧力を決定する為に、t=5分後に得られたスペクトルをより詳細に観察し、最初のスペクトルt=0分と比較した。t=5分において、1次のTE及びTMモード励起に対応する全ての元々ほとんど対称的であったモードは、約2nmの伸長をもたらすバンドを表わしていた。この挙動は、図4に略図を示すようにビーズの回転楕円体への変形により説明されうる。なぜならば、回転楕円体形状の場合、最大及び最小直径の間の全ての大きさが存在しえて、式3に従って、モードの広いバンドをもたらす。回転楕円体の最大及び最小直径のみがそれぞれのモード励起の平面にて対称的であるために、これら二つの極値は、低い損失、従って高いクォリティ因子を示し、このことはスペクトルt=5分において、高い強度即ちモードバンドの境界に存在するピークの形態で観測されうる。これに基づいて、ビーズの変形は、t=5分のスペクトルから異なるモードバンドの2つの極値の当てはめにより決定することが出来、よって回転楕円体の最小及び最大半径Rmin及びRmaxのそれぞれを、
【0137】
【数6】

【0138】
に適用することにより得、これはm(Rmax)=m(Rmin)についての式3から導かれる。非変形ビーズのモード数m及び初期半径Rは、t=0分の最初のスペクトから決定されうる。次いで、最大圧縮の平面における歪εin−plainは、εin−plain=(Rmin−R)/Rと計算され、また、回転楕円体の主対称軸に沿っての歪(図4参照)は、εout−plain=(Rmax−R)/Rと計算される。
【0139】
小さい弾性変形の場合は、歪と負荷された圧力との関係は、一般化フックの法則により取り扱われうる(例えば、キース サイモン(Keith Symon)著「メカニックス アディソン ウェズリー リーディング(Mechanics. Addison-Wesley, Reading)」マサチューセッツ, 1971年参照):
【0140】
【数7】

【0141】
ここにおいてσは、ヤング率Eにより媒介される歪εを誘導する圧力である。平面内(in-plane)歪(付加される負荷の方向)に対する平面外(out-of-plane)歪(付加される負荷に直角)の比ν、
【0142】
【数8】

【0143】
は、“ポアソン係数”又は“ポアソン比”と称され、これは各物質の性質である。これは、基本的には一つの方向に誘導された歪は、直角方向の歪も生じることを述べており、これにより異なったテンソル要素の結合をもたらす。
【0144】
我々は、ビーズの変形が細胞膜の平面において対称的であること、及びそれがこの平面であり、回転楕円体の最小直径に関連し、即ちεin−plain=ε22=ε33であり、ここにおいてこの平面に直角方向の歪は、εout−plain=ε11であり、従って、σ22=σ33=σin−plain(ビーズに負荷された細胞による圧力)、σ11=σout−plain(座標系の定義及びin−plain/out−plainの方向については図4参照)であることを仮定する。これらの仮定を以って、式6は次のように書き直され、
【0145】
【数9】

【0146】
以って、取り込みの間にビーズに対して細胞により与えられる圧力成分σout−plain及びσin−plainが得られる。
【0147】
以下の表2は、モード数、最小及び最大モード位置、半径に生じた変化、及びそれらの相対的重みを含む、t=5分のスペクトルの評価結果を要約している。
【0148】
【表2】

【0149】
非捩れビーズの半径Rは、R=(3654.05±25.27)nmと決定され、ここにおいて誤差は、異なるモードから得られたRの結果の変動から計算された。表2に示される歪の結果について平均をとり、εin−plain=(3.22±0.044)x10−3及びεout−plain=(4.07±0.43)x10−4を得、ここにおいて誤差は統計的変動の標準偏差である。
【0150】
これらの結果及び式7を用いることにより、細胞によってビーズに負荷される圧力が計算され、σin−plain=(−23.6±0.035)MPa及びσout−plain=(−15.0±0.031)MPaを得、ここにおいてPSのE−率及びポアソン係数をそれぞれE=3.2GPa及びν=0.345を仮定し、これら両値はポリスチレンの文献に見出されるデータから計算した平均値である。
【0151】
数十MPaのオーダーの膜圧力は、例えば分子力学的シミュレーションにより決定されており(マーシュ(D. Marsh)著「バイオフィジカル ジャーナル (Biophys. J.)93巻 (Vol. 93)」pp. 3884 - 3899, 2007年; ガリングスラッド及びシュルテン(J. Gullingsrud and K. Schulten)著「バイオフィジカル ジャーナル (Biophys. J.)86巻 (Vol. 86)」 pp. 3496 - 3509, 2004年; リンダール及びエドホルム(E. Lindahl and O. Edholm)「ジャーナル オブ ケミカル フィジックス (J. Chem. Phys.)13巻 (Vol. 13)」pp. 3882 - 3893, 2000年)、而して我々の結果が確認され、これは実際のところ付着する細胞によりミクロンサイズの粒子に付与される圧力を直接的に測定した最初の例である。興味深いことに、ビーズは全ての方向について圧縮されており、膜の平面のみではない。実施例3の結果を2008年11月5日付の米国仮出願番号61/111369中に含めた際、発明者等は、全ての方向からのビーズの圧縮を示している結果が、おそらくその様な大きい粒子を取り込む細胞質の抵抗の為であり、このことは更に、全ての抵抗に対抗してビーズを細胞内に引き込む能動的機構が存在しなければならないことを示すものと考えた。しかしながら、以下に示す実施例5を完了した後には、実施例3の結果は、実際には実施例3に適用された機械的モデルの単純化した方法論の限界によるもので、また、実施例5に適用された別のモデルは貪食作用の上記説明にて触れたように全体の工程の記述としてより良く適合することが明らかとなった。
【0152】
実施例4: 生細胞内部の屈折率の決定
実施例2に詳述されるビーズの内在化後の細胞内部の屈折率は、次のように決定されうる。図7から、t=0及びt=106nmのスペクトル間のモード位置のシフトは、それぞれTMについてΔλTM=(1.36±0.07)nm、及びTEモードについてΔλTE=(1.03±0.04)nmとしてピークを選択することにより決定されうる。モード位置におけるこれらの平均シフトは、次いで、既知組成の水/グリセロール混合物についての対照実験及び既知の屈折率により、対応する埋設媒質の屈折率に関連付けられる(例えば、フォリー等(Foley et al.)著「プロシーディングス 第7回インターナショナルコンフェレンス オン ミニチュアライズト ケミカル アンド バイオケミカル アナリシス システム(Proc. 7th Conf. Miniat. Chem. & Biochem. Anal. Syst.)」2003年10月5〜9日、米国カリフォルニア州スコーバレー 参照)。異なった水/グリセロール混合物(5%から40%のグリセロール体積分画)について、実施例2にて使用したのと同様な直径のビーズにてそれぞれTM及びTEモードシフトを測定することは、ビーズ環境の屈折率に依存する以下の線形関係を与える(このような測定に関しては、フランソワ及びヒンメルハウス(A. Francois and M. Himmelhaus)著「センサーズ (Sensors)9巻 (Vol. 9)」pp. 6836-6852, 2009年参照):
【0153】
【数10】

【0154】
ここにおいて、nmedは、ビーズを埋設する媒質の屈折率である。式8を逆転させ、上記の図7の評価にて決定したモードシフトを代入することにより、我々は最終的にTMモードシフトからnmed=1.3668を得、そしてこれに優れてよく一致して、TEモードシフトからn=1.3689を得る。これらの値は、細胞内屈折率として1.36から1.38を報告している文献とよく一致する(ビュータン等(J. Beuthan et al.)著「フィジックス イン メディスン アンド バイオロジー (Phys. Med. Biol.)41巻 (Vol. 41)」pp. 369-382, 1996年; カール等(C. L. Curl et al.)著「サイトメトリー パートA(Cytometry Part A)65巻 (Vol. 65)」pp. 88-92, 2005年; ラパズ等(B. Rappaz et al.)著「オプティクス エクスプレス (Opt. Express)13巻 (Vol. 13)」pp. 9361-9373, 2005年)。
【0155】
実施例5: ビーズ移入の間の屈折率及び細胞により誘導される機械的圧力同時測定
別の評価スキームにおいて、実施例3及び4にて得たパラメータを同時に決定することが可能である。この場合、WGMの一連の評価は4つの工程にて進められた。第一には個々のWGMピークが多数のロレンツプロフィールに当てはめられ、それらの正確な波長位置及び幅を決定する。次いで、結果は、ビーズ取込みの異なる段階においてセンサーが経験した平均ビーズ半径及び平均屈折率への当てはめに使用された。次いで平均半径及び率を使用して、平面内及び平面外半径を決定し、引き続き歪及び圧力計算に使用された。該方法は、以下に略述されるように適用される。
【0156】
WGM当てはめ: 測定されたスペクトルの数値解析を可能とするために、精度良いピーク位置を知らなければならない。しかしながらそれらの決定は、WGMが、エンドサイトーシスの過程で顕著な非対称性とブロードニングを示し、それらの極性配向に関してモードの縮重を引き上げることを示すという事実により妨害される(図4参照)。平均ピーク位置の決定に加えて最も重要なことには、モードのこの全範囲が、取込みの対応する段階における最小及び最大ビーズ半径の計算を可能とし、而してビーズに対して細胞皮層により与えられる機械的圧力に関する情報を含むことから、各ピークへの最短及び最長波長の寄与を知らなければならない。従って、図7及び11に示す異なるスペクトルの個々のWGMが、原点7.5Proのピーク当てはめモジュールを使用して多くのロレンツプロフィールにより当てはめられる。而して答えるべき最も重要な質問は、どれほど多くの個々のロレンツプロフィールが単一モード内に合理的に区別し得るかということである。理論的な視点からは、モード数mのWGMの縮重の引き上げは、2m+1の異なるモードを与える。以下に示されるように図7に示されるスペクトルについては、mは70と決定され、而して単一ピーク中に合計141の個々のプロフィールを生じ、これは実際的な観点からは実行可能とは思われない。合理的な記述を見出す為に、我々は以下のように進めた。単一WGM内の個々のプロフィールのバンド幅に関する何らかの情報は、その側面の勾配から得られうる。対称性を理由として、最低及び最高のピーク位置のプロフィールは、同様なバンド幅を有さなければならない(図4参照)。従って、バンドの急峻な側面をよく記述するまで、同じスペクトル内の個々のWGMが、増大する個数のロレンツプロフィールに当てはめられた。この数は、個々の各スペクトルについて固定され、このスペクトル内の全てのWGMについて一定に保たれた。
【0157】
ビーズパラメータの決定: ピーク当てはめにより得られた結果から、平均屈折率並びに平均の最小および最大ビーズ半径は、次のように決定された。最初の工程において、スペクトルの各モードiの平均位置は、
【0158】
【数11】

【0159】
により重み付けされた平均値として計算され、ここにおいて、cは、モードiにあわせる為に使用したピーク位置λのロレンツプロフィールjの強度である。これらの平均モード位置は、次いで平均モード位置についてのWGMエアリー(Airy)近似の当てはめにより、平均ビーズ半径及びビーズ環境の平均屈折率の同時決定に使用された。誘電性環境での粒子のエアリー近似の有用な記述は、最近誘導されている(パン等(Pang et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)92巻 (Vol. 92)」pp. 221108/1-3, 2008年)。matlab R2007aにプログラムされている当てはめの為に、
【0160】
【数12】

【0161】
として与えられる、測定された及び計算されたモード位置の間の全偏差を、モード数、ビーズ半径、及び屈折率等、全ての関連するパラメータの変動について、十分な精度に達するまで(半径については小数点以下3位、屈折率については小数点以下5位)最小化した。式9において、λは、エアリー近似により計算されたモード位置を示し、pはその偏光状態であり(p=TE又はTM)、q及びmは、それぞれWGMモード次数及びモード数、あり、Rは、ビーズ半径であり、nは、その屈折率であり(染料ドープポリスチレンについてn=1.5590、詳細についてはフランソワ及びヒンメルハウス(Francois and Himmelhaus)著「センサーズ (Sensors)9巻 (Vol. 9)」pp. 6836- 6852, 2009年参照)、及びnは、ビーズ環境の屈折率である。
【0162】
引き続いて、こうして決定された屈折率を固定し、楕円の主対称軸に対応する最小及び最大ビーズ半径を、対応する最小及び最大モード位置からそれぞれ計算した。これらは、図12に示される結果である。図11に示されるスペクトルも類似的に処理された。
【0163】
この手法において導入される唯一の不確かさは、我々は、スペクトル中のWGMがTMに対応し、またTEモードを含むという推測を決断しなければならなかったことである。更に、我々は観測された全てのモードが1次、即ちq=1であることを仮定した。これらの仮定の両者は、文献(ジルストラ等(Zijlstra et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett)90巻 (Vol. 90)」pp. 161101/1-3, 2007年; パン等(Pang et al.)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)92巻 (Vol. 92)」pp. 221108/1-3, 2008年; フランソワ及びヒンメルハウス(Francois and Himmelhaus)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)92巻 (Vol. 92)」pp. 141107/1-3, 2008年)、及び異なる環境的屈折率にエアリー近似を適用することによる観測に基づいてなされたものである。この基礎に立って、我々は図7のスペクトルが3つのTM及び2つのTEモードを示すことを見出し、これらのモード数は、上述した当てはめ手法を適用することにより決定されなければならない。従って、式9は書き直され、
【0164】
【数13】

【0165】
この為実験的に決定されたWGM位置λ<λi+1を用いた。
【0166】
機械的圧力の計算: 実施例3に先に述べたように、式6及び7に示すフックの一般化法則が、細胞により負荷される機械的圧力のビーズ変形からの計算の為に適用された。しかしながら、一つの複雑さは、式7が、PE被覆から生じるビーズ上の薄い表面層の存在、及びPE上にECGM中での安定化相の間に吸着した付加的層の存在を考慮していないことである。このような層は、相当に小さいヤング率を有するものと思われ、而してビーズ取込みの間により大きい圧縮を示すであろうことから重大である。実際に我々は、圧力成分計算の為の式7の直接の適用が、両方向、即ち平面内及び平面外において負の圧力を導くことを見出した(実施例3の結果参照)。しかしながら、このような場合、ビーズは細胞内に引き込まれず、力はそれを排出するであろう。このことは明らかに観測と矛盾し、これは以下に示すように薄い吸着層を考慮した場合に解決される。
【0167】
先行する研究(フランソワ及びヒンメルハウス(Francois and Himmelhaus)著「アプライド フィジックス レターズ (Appl. Phys. Lett.)92巻 (Vol. 92)」pp. 141107/1-3, 2008年)及び独立したSPR研究(フランソワ及びヒンメルハウス(Himmelhaus and Francois)著「バイオセンサーズ アンド バイオエレクトロニクス(Biosens. and Bioelectron.)25巻 (Vol. 25)」pp. 418-427, 2009年)に基づいて、我々は、PE層の厚さ(5.7±0.82)nm及び生育培地から生じる厚さ(2.3±0.10)nmを決定し、全厚さd=(8.0±1.0)nmを得た。ECGM層の組成は未知であるが、ECGM補給剤に存在する蛋白質から生じるものと思われる。血清アルブミン等の問題の蛋白質は、PE層(メルムット等(Mermut et al.)著「2003 マクロモリキュールズ 36 (2003. Macromolecules 36)」8819.8824)よりも顕著に高いヤング率(アールワリア等(Ahluwalia et al.)著「1996 ラングミュア 12 (1996. Langmuir 12)」 416.422; ブラウンジー等(Brownsey et al.)著「2003 バイオフィジカル ジャーナル 85(2003. Biophys. J. 85)」 3943.3950)を示すことから、我々は、吸着層を、最悪に評価してもPEフィルムの弾性を有する単一層として扱うこととした。
【0168】
柔軟な吸着層の厚さは、ビーズ半径より相当に小さい即ち、d<<Rであり、従ってこの層の平面内及び平面外成分の間の結合は予想されない。従って、我々は2つの方向を互いに独立的に扱うことが出来、それらの圧力−歪の関係について等方的フックの法則、
【0169】
【数14】

【0170】
が使用でき、ここにおいてσ及びσは、それぞれ平面内及び平面外の方向において層に負荷される圧力であり、Eは、層のヤング率であり、ε及びεは、それぞれの歪成分である。2つの主要方向におけるビーズ及び吸着層により経験される圧力は、同じでなければならず、即ち、
【0171】
【数15】

【0172】
更に、WGM変換機構の手段により測定された変形は、ビーズ及び吸着層の全変形として解釈せねばならず、従って、
【0173】
【数16】

【0174】
であり、ここにおいて、添え字無しの変数は、ビーズ取込み前の初期状態、即ち圧力無しの状態を指し、添え字“i”は平面内変数および添え字“o”は平面外変数に割り当てられ、並びに変数rは、測定された全半径、Rはビーズ半径及びdは対応する層厚さを指す。
【0175】
最終的に、WGM変換原理により測定されたビーズ変形の平面内及び平面外歪成分は、
【0176】
【数17】

【0177】
として与えられ、ここにおいて添え字は上記で使用されたと同様である。式7及び11を式12に代入し、式13及び14を適用することにより、式7は、測定された量、即ちR、d及び物質定数のみの関数として、RおよびRについて解くことが出来る。次いで、dおよびdは、式13を介して決定されうる。これらは、表3の上段の第3セクションに与えられた結果である。
【0178】
必要な物質定数は、以下のものを使用した:
ポリスチレンの屈折率(フランソワ及びヒンメルハウス(Francois and Himmelhaus)著「センサーズ (Sensors)9巻 (Vol. 9)」pp. 6836-6852, 2009年): 1.5590
ポリスチレンのヤング率(ハイム等(Heim et al.)著「2002 ジャーナル オブ アドヒージョン サイエンス アンド テクノロジー 16(2002. J. Adhes. Sci. Technol. 16)」 829.843):2.55 GPa
ポリスチレンのポアソン比(セイツ等(Seitz et al.)著「1993 ジャーナル オブ ポリマード サイエンス 49(1993. J. Appl. Polym. Sci. 49)」 1331.1351):0.354
PE層のヤング率(マーマット等(Mermut et al.)著「2003 マクロモリキュールズ36(2003. Macromolecules 36)」 8819.8824):pH 7において(1.8 + 1) MPa
【0179】
詳細な誤差の検討については、次の文献を参照した(ヒンメルハウス及びフランソワ(Himmelhaus and Francois)著「バイオセンサーズ アンド バイオエレクトロン (Biosens. and Bioelectron.)25巻 (Vol. 25)」pp. 418-427, 2009年)。
【0180】
結果: 図12は、上記に概要を記した手続きに従って、図7のスペクトルの評価により得た、取り込みの間にビーズが経験した平均屈折率、ビーズ半径(最小、平均、最大)、及び上側モード強度に対する下側の強度の比を表わしている。屈折率は連続的な上昇を示して、進行するビーズ飲み込みを示し、また、1.36−1.38の範囲(カール等(Curl et al.)著「2005 サイトメトリー A 65(2005. Cytometry A65)」 88.92; ラッパズ等(Rappaz et al.)著「2005 オプティクス エクスプレス 13(2005. Opt. Express13)」 9361.9373)である細胞内屈折率の文献値とよく一致して、約1.36にて飽和する。5分における値のみが単調な挙動において例外であり、而してビーズ変形に関連するものと思われる第2の機構が、ここでは支配的であることを示している。図12cは、図7のスペクトルについての上側バンド位置に対する下側の強度比を描いている。明らかに比は、5分のスペクトルを除いて小さく、これによってそれがビーズ変形、即ち細胞により負荷される機械的力により主として影響を受けることの証拠を与える。この圧縮は、更に図12bに示され、これはビーズ半径の展開を表わしている。明らかに、5分の場合ビーズサイズは他の場合より小さい。
【0181】
これらの観測に基づいて、細胞により負荷される圧力は、ビーズが回転楕円体に変形される、即ち細胞膜の平面内の圧力が均一であって、σ=σ22=σ33であることを仮定して計算された。このモデルはHerant及び共同研究者らの好中球貪食作用に関する研究(ヘラント等(Herant et al.)著「2006 ジャーナル オブ セル サイエンス 119(2006. J. Cell Sci. 119)」 1903.1913)と一致し、これはビーズの平面外の軸に沿っての中心引き込み力の証拠を与える。式14、薄い吸着層についての独立して決定された平均値、及び物質定数の文献値を適用することにより、平面内及び平面外圧力が決定された。表3は結果を掲載する。誤差は、スペクトル評価、即ちWGMセンサー自体に起因するものと、有機層の厚さ及び組成に関する不十分な知見に起因するものとに分離される。
【0182】
【表3】

【0183】
表3に与えられた誤差は、効果の希薄さ、及び精度に関する現行の制限が主としてビーズの被覆に関する不十分な知見に基づくことにもかかわらず、適用された干渉に基づく変換機構が満足しうる正確さを達成していることを示している。しかしながら、後者の影響は、この探求的研究の焦点ではない。更に、本願の結果でさえも貪食作用の機構についての有用な洞察を与えている。平面内及び平面外圧力の両者は、受動的皮質張力のみから予想されるものより顕著に大きい。5nmの採用膜厚を仮定すると(ネルソン等(Nelson et al.)著「2005 レーニンジャー プリンシプルズ オブ バイオケミストリー 第4版(2005. Lehninger. Principles of Biochemistry 4th ed.)」W.H.フリーマン アンド カンパニー (W. H. Freeman and Co)ニューヨーク p. 369 (図 11-1))、1mN/mの最大皮質張力は、200kPaの伸長圧力に変換され、これは明らかに我々の結果の全体誤差の範囲外であって、能動的力の存在を示している。平面内圧力が受動的及び能動的成分の重ね合わせに起因することが期待される一方で、平面外圧力は引き込み力にのみ寄与するであろう。平均直径7.8μmについて、平面外方向における投影ビーズ面積への全体的力は、40.2μNである。この大きい値は、Herant及び共同研究者により主張される(ヘラント等(Herant et al.)著「2006 ジャーナル オブ セル サイエンス 119(2006. J. Cell Sci. 119)」1903.1913)表面分子モーターの存在によってのみでは説明できない。表面分子モーターの密度についてはほとんど知られていないが、実験的証拠(ヘラント等(Herant et al.)著「2006 ジャーナル オブ セル サイエンス 119(2006. J. Cell Sci. 119)」1903.1913)及び単純な立体的考察からは、〜1000モーター/μmと思われる。1pNのモーター当たりの最大力(ミクレット等(Micoulet et al.)著「2005 ケム.フィス.ケム.6(2005. Chem. Phys. Chem. 6)」663.670)を仮定すると、95nNの全体的力を生じる。従って、〜420の疑わしい数字によって我々の圧力評価が誤りであるか、あるいは力の発生の他の方法が存在するかのいずれかであろう。誤差の議論は上記に示した。別の機構として、異なった種類のフィラメント及び分子モーターの密なネットワークを有するビーズ近傍の細胞骨格の主要部分が、全体としてビーズに作用することを着想した。このような“全体的”皮質作用の詳細は、更なる解明が必要であるが、我々はこのような大きい力が一般的に細胞の力のバランスに従ったものであるかを少なくとも評価しうる。研究された7.8μmのビーズは、細胞によって106分間で外側から内側に〜10μmの距離を動かされる。従って、細胞により行われる仕事は、〜400pJ、力の消費は〜63fWの量となり、1.6x10ATP/sの消費率をもたらす(ミクレット等(Micoulet et al.)著「2005 ケム.フィス.ケム.6(2005. Chem. Phys. Chem. 6)」6, 663.670)。細胞内の全ATP産生速度は、約1010ATP/sであり(ミクレット等(Micoulet et al.)著「2005 ケム.フィス.ケム.6(2005. Chem. Phys. Chem. 6)」663.670)、従って、ビーズの内在化は、細胞の力のバランスの僅かに0.016%の小部分を要求する。
【0184】
全体的皮質作用の更なる証拠は、HUVECと接触する10.1μmの直径のビーズを示す図11のスペクトルからも得られうる。この場合、ビーズは貪食作用に対しては大きすぎる。ビーズが細胞に接近することを示す最初のピークシフトの後に、モードの拡大が、図7と同様に観測される(大きいビーズの小さい自由スペクトル範囲、即ちより小さい空間の為に、観測されるスペクトルシフトは、ビーズの環境における同様な変化についてより小さいことに注意されたい)。しかしながら、この時点ではそれは30分に亘って継続する。次いで、最初の値に向けてのWGMのブルーシフトから明らかなように、細胞はビーズを解放すものと思われる。圧力計算は、最初のビーズ(表1)に比べて、5−6倍小さい圧力を与える。このことは、より大きいビーズはより広い表面積を有することから、力が表面結合分子機械からのみ生じるとすると、直感に反する。しかしながら、全体的皮質により与えられる力については、より低い程度で皮質に侵入するビーズが、より小さい力、即ち皮質が完全にはビーズをつかむことが出来ない状態を経験するということは合理的である。このことは、引っ張り及び圧搾の同時的な“ペンチ動作”の一種と理解され、なぜならば、平面内及び平面外圧力成分の両者が、大まかに数百kPaの最大受動圧力成分のオーダーの差異の範囲内で、同程度の強度であるからである。細胞はその努力を最小にすべく、ビーズ直径を低減しようとするであろうから、皮質装置のその様な組み合わせた作用は怪しいものと思われる。
【0185】
実施例3及び4に適用されたより単純な評価スキームは、実施例4及び5の両方で見出された1.36の細胞内屈折率に対して、良好な一致を与える。この良好な一致とは対照的に、実施例3に与えられるような機械的圧力の計算は、ここにおいて得られた値からは明らかに逸脱する。この矛盾の主な理由は、実施例3においては、ビーズ表面に形成された薄い吸着層の機械的性質が考慮されなかったことにあると思われる。
【0186】
付加的な優位点及び変更は、当業者には容易に行われるであろう。従って、より広い側面における発明は、ここにおいて示し、記述した特定の詳細及びそれぞれの実施態様に限定されることがない。従って、種々の変更は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物により定義される一般的な発明の概念の精神又は範囲から離れることなくなされるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ共鳴体の少なくとも一部を生物学的材料中に配置する工程;及び、マイクロ共鳴体の該一部を生物学的材料中に配置する前、その間、又は後に、該マイクロ共鳴体の一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの分析により、該生物学的材料の変化を検知する工程を含んでなる生物学的材料の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項2】
該生物学的材料が生物学的組織である、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項3】
該生物学的材料が生物学的液体である、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項4】
該生物学的材料が生物学的細胞である、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項5】
一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの該分析が、該マイクロ共鳴体への光源のエバネセント場結合を適用する、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項6】
一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの該分析が、蛍光物質を適用する、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項7】
一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの該分析が、該マイクロ共鳴体及び該蛍光物質への光源のエバネセント場結合を適用する、請求項6に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項8】
該マイクロ共鳴体の少なくとも一部を該生物学的材料中に配置する前、その間、又は後に、該マイクロ共鳴体及び/又は該生物学的材料に、該蛍光物質を適用する、請求項6に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項9】
複数のマイクロ共鳴体が該生物学的材料に配置される、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項10】
該生物学的細胞が生細胞である、請求項4に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項11】
該マイクロ共鳴体を、該生細胞が該マイクロ共鳴体を生物学的に取り込み得る範囲内に配置することにより該マイクロ共鳴体を該生細胞に配置する、請求項10に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項12】
該マイクロ共鳴体を該生細胞に配置する前に、該生細胞の活性を阻害するための材料に該生細胞を暴露することを含んでなる、請求項11に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項13】
複数の該マイクロ共鳴体が、該生物学的材料に配置される、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項14】
該マイクロ共鳴体の少なくとも一つが、その大きさ、形状、コア及び任意の殻の材質、蛍光励起及び/若しくは輻射の領域、並びに/又は生物化学的被覆において、他の該マイクロ共鳴体と異なる、請求項13に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項15】
該マイクロ共鳴体の少なくとも一つが、他の該マイクロ共鳴体が該生物学的材料に配置された後に該生物学的材料に配置され、及び該他の該マイクロ共鳴体と相互作用する該生物学的材料の変化が検知される、請求項14に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項16】
複数の該マイクロ共鳴体がクラスターを形成する、請求項13に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項17】
該マイクロ共鳴体の少なくとも一つが、その大きさ、形状、コア及び任意の殻の材質、蛍光励起及び/若しくは輻射の領域、並びに/又は生物化学的被覆において、他の該マイクロ共鳴体と異なる、請求項16に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項18】
互いに離間された複数の該マイクロ共鳴体が、該生物学的材料に配置され、而してクラスターを形成する、請求項16に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項19】
該細胞が光学的キャビティモードセンサーからのスペクトルを取得することによって観察される、請求項4に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項20】
該細胞の変化の分析に使用される該光学的キャビティモードが、対称的または非対称的であるかを決定することにより、該細胞が観察される、請求項4に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項21】
光学的誘発事象が、該生物学的材料の変化の検知前、その間、又は後に開始される、請求項1に記載の生物化学及び/又は生物力学的変化の検知方法。
【請求項22】
マイクロ共鳴体の少なくとも一部を隣接する生物学的材料間の空間に配置する工程;及び、該マイクロ共鳴体の該一部を該空間中に配置する前、その間、又は後に、該マイクロ共鳴体の一つ又はそれ以上の光学的キャビティモードの分析により、該生物学的材料の変化を検知する工程を含んでなる生物学的材料の分析方法。
【請求項23】
複数の該マイクロ共鳴体が該空間に配置される、請求項22に記載の生物学的材料の分析方法。
【請求項24】
該マイクロ共鳴体の少なくとも一つが、その大きさ、形状、コア及び任意の殻の材質、蛍光励起及び/若しくは輻射の領域、並びに/又は生物化学的被覆において、他の該マイクロ共鳴体と異なる、請求項23に記載の生物学的材料の分析方法。
【請求項25】
複数の該マイクロ共鳴体がクラスターを形成する、請求項23に記載の生物学的材料の分析方法。
【請求項26】
該マイクロ共鳴体の少なくとも一つが、その大きさ、形状、コア及び任意の殻の材質、蛍光励起及び/若しくは輻射の領域、並びに/又は生物化学的被覆において、他の該マイクロ共鳴体と異なる、請求項25に記載の生物学的材料の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−507706(P2012−507706A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534027(P2011−534027)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際出願番号】PCT/JP2009/069236
【国際公開番号】WO2010/053209
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】