生物学的液体中のナトリウム利尿ペプチドのサンプリングのための方法、組成物、および装置
【課題】サンプリングされた生物学的液体のタンパク分解または改質を相乗的に妨げる組成物が開示されている。
【解決手段】この組成物は、高濃度フッ化スルホニル族プロテアーゼ阻害物質を、異なるタイプの少なくとも1つの追加のプロテアーゼ阻害物質、好ましくは広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質、およびキレート剤と併用して用いる。好ましい実施形態は、10mMのAEBSF、20mMのベンザミジン、およびキレート剤としてのEDTAを使用する。開示された組成物は、例えば、酸性プロテアーゼを追加で標的にするために、その特異性をさらに調節するために、その他のプロテアーゼ阻害物質と併用されてもよい。追加のプロテアーゼ阻害物質、還元剤、安定剤、および緩衝剤が、興味の対象であるペプチドのレベルについて生物学的液体をサンプリングもしくはテストするための装置、またはそのための方法において、開示された組成物と併用されてもよい。
【解決手段】この組成物は、高濃度フッ化スルホニル族プロテアーゼ阻害物質を、異なるタイプの少なくとも1つの追加のプロテアーゼ阻害物質、好ましくは広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質、およびキレート剤と併用して用いる。好ましい実施形態は、10mMのAEBSF、20mMのベンザミジン、およびキレート剤としてのEDTAを使用する。開示された組成物は、例えば、酸性プロテアーゼを追加で標的にするために、その特異性をさらに調節するために、その他のプロテアーゼ阻害物質と併用されてもよい。追加のプロテアーゼ阻害物質、還元剤、安定剤、および緩衝剤が、興味の対象であるペプチドのレベルについて生物学的液体をサンプリングもしくはテストするための装置、またはそのための方法において、開示された組成物と併用されてもよい。
【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔開示の背景〕
本開示は、全般的に、血液、尿などのような生物学的液体中のナトリウム利尿性およびその他のペプチドをサンプリングすることに関する。より詳しくは、本開示は、分析のために、サンプリングされた生物学的液体中の興味の対象であるタンパク質およびペプチドのプロフィールを保護することに関する。というのも、そのようなペプチドおよびタンパク質の続くタンパク分解または改質が、後の分析を疑わしいものにすることがあるためである。本開示はまた、うっ血性心不全(「CHF」)の患者の診断および病期の決定(staging)のために使用されるBNPテスト法および生化学的マーカーの性能のモニタリングのためにも有用である。
【0002】
心不全(「HF」)は、心臓の機能不全が原因で心室の収縮もしくは弛緩の機能、またはその両方を損なう。このことは、心臓が、身体の必要性に適応する十分に酸素が豊富な血液をポンピングすることができないことをもたらす。CHFはさらに、肺中の液体の貯留、および息切れ(呼吸困難)を含む。心臓は、CHFおよびHFの肺中の液体の貯留ならびにその他の影響と戦うのを助けるナトリウム利尿ペプチドを分泌することにより液体ホメオスタシスのこの乱れに反応する。
【0003】
ナトリウム利尿ペプチドは、血圧、電解質バランス、および液体容量を調節するホルモンの分類である。ナトリウム利尿ペプチドの二次構造は、図1の心房性ナトリウム利尿ペプチド(「ANP」)およびB型ナトリウム利尿ペプチド(元々は、「脳性ナトリウム利尿ペプチド」(「BNP」)と称されていた)については、示されているように2つのシステイン残基の間の内部のジスルフィド結合により形成されるループを含む。興味の対象であるその他のナトリウム利尿ペプチドは、C型ナトリウム利尿ペプチド(「CNP」)およびデンドロアスピスナトリウム利尿ペプチド(Dendroaspis natriuretic peptide)(「DNP」)である。後者は、元々は、マンバのヘビ毒から単離されていた。例えば、米国特許出願公開第20020082219号を参照のこと。CNPは主に、脳下部構造(brain substructures)および内皮により分泌される。CNPは主に、脳および脳脊髄液で見られ、たとえあったとしても僅かにだが心臓にも存在する。
【0004】
ナトリウム利尿ペプチドの構造、機能、およびプロセシングは、種にわたって保存される。既知である全てのナトリウム利尿ペプチドは、ジスルフィド結合により形成される内部ループを有するようである。DNPはさらに、ANP、BNP、およびCNP、ならびにDNPにいくつかのヒトエピトープを標識させるための抗体との類似性を示す。DNPは、ANPおよびBNPと同様の作用を有しており(例えば、Circulation Res.におけるSinghら(2006年6月15日にオンライン公開されたDOI:10.1161/01.RES0000232322.06633.d3)を参照のこと)、また、外観上は、ANPおよびBNPと比較して、より長い半減期を有する。例えば、Lisyらの(2001) Hypertension 37, pp.1089-1094を参照のこと。事実、ヒトナトリウム利尿ペプチドの推定上の相同体は、ヤツメウナギおよびメクラウナギを含めた魚類と同じくらい遠い種において単離されてきた。例えば、Kawakoshiらの(2006) General and Comparative Endocrinology 148, pp.41-47を参照のこと。これらの遠く関連するペプチドは、保存されたプロセシングおよび開裂部位、ならびに図1に示されたループ構造を示す。
【0005】
ANPは、心臓の心房から生じる28−アミノ酸ホルモンである。筋細胞内では、ANPは、プレプロ−ANP(151−アミノ酸ペプチド)として合成され、このプレプロ−ANPは、プロ−ANP(126−アミノ酸ペプチド)を得るために開裂される。プロ−ANPはさらに、プロテアーゼCorinにより処理される(例えば、Wuらの(2005) Biochimica and Biophysica Acta. 1751:1, pp.82-94を参照のこと)。プロ−ANPはまた、28−アミノ酸活性ANPペプチドを得るために、少なくともインビトロではプロテアーゼFurinによっても処理されることができ、カリクレインおよびトロンビンのような血清プロテアーゼによっても処理されることができる。例えば、Gibsonらの(1987) Endocrinology 120, pp.764-772を参照のこと。28−アミノ酸ANPペプチドはさらに、中性エンドペプチダーゼ(EC 3.4.24.11)により分解される。例えば、上方のWuらを参照のこと。
【0006】
BNPは、壁の伸展および容量の過負荷の増加に反応して、室中の筋細胞および線維芽細胞により分泌される32−アミノ酸ペプチドである。筋細胞内では、BNPがプレプロBNP(134−アミノ酸ペプチド)として合成され、このプレプロBNPは、分泌されたプロBNP(108−アミノ酸ペプチド)を得るために開裂される。プロBNPはさらに、これから決定的な同定がなされるプロテアーゼにより32−アミノ酸活性BNPペプチドを得るために処理される。インビトロでは、Corin(例えば、上方のWuらを参照のこと)およびFurin(例えば、Sawadaらの(1997) J. Biol. Chem. 272:33 pp 20545-20554を参照のこと)のようなプロテアーゼは、プレプロBNPを処理することができる。32−アミノ酸BNPペプチドはさらに、30−アミノ酸活性ナトリウム利尿ペプチドを得るためにジペプチジル−ペプチダーゼIVのようなエンド−ペプチダーゼにより開裂されることができる。このことは、インビトロで観察されてきた。インビボでは、30−アミノ酸ペプチドが、数種のペプチドを生成するためにタンパク分解に供される。プロ−BNPの複数のペプチド断片が、血漿中で検出されてきた。例えば、Clinica Acta. (2002) 316, pp.129-135におけるShimizuらを参照のこと。32−アミノ酸BNPペプチドは、循環している血液中のプロテアーゼによっても生成され得る。例えば、Huntらの(1997) Peptides 18, pp.1475-1481を参照のこと。
【0007】
一般に、血漿レベルのナトリウム利尿ペプチドは、プロペプチドの分泌、タンパク分解プロセシング、およびそれらのクリアランスの間にバランスをもたらす。BNPは、タンパク分解のほかに、レセプター媒介性クリアランスおよび腎臓によるろ過によっても不活性化される。
【0008】
血漿のBNP濃度は、うっ血性心不全の最も敏感で特異的な指標のひとつである。血漿のBNPに関連するペプチドの濃度は、CHFの患者において鋭く上昇する。結果として、救急室に到着する呼吸困難の患者において、多くの場合、BNPに関連するペプチドが調べられる。現在、プロ−BNPのアミノ部分についてのいくつかのアッセイでは、プロ−BNPとプロ−BNPの開裂したN末端部であるNt−プロBNPとの両方を検出する。結果として、このアッセイは、プロ−BNPレベルを正確に評価することができない。同様の考え方が、その他のアッセイにも適用される。
【0009】
Nt−プロBNPおよびBNPのレベルは、臨床的重症度および左心室の駆出率の信頼できる指標またはマーカーであるだけでなく、罹患率および死亡率の信頼できる指標またはマーカーでもある。近年、Nt−プロBNPおよびBNPは、CHFの重症度を診断し、分類するために使用されてきた。New York Heart Association(「NYHA」)により採用されたCHF分類によれば、BNPの平均濃度は、ステージI〜IVまで進行性で増加する。例えば、71pg/mL、204pg/mL、349pg/mL、および1022pg/mLの平均BNP濃度は、それぞれCHFステージIからIVまでに対応していた。CHFのステージIVは、不快感無しにいかなる身体的な活動をも行うことができないことにつながる、心臓病の最も高い重症度を表している。かかる病気のこのステージにある患者は、心臓病または冠状動脈症候群の症状を有することがあり、何らかの身体的な活動を試みると、休息しても不快感が増加する。
【0010】
CHFを被っている患者内の循環における検出可能なBNPの多くが、BNPの比較的不活性な前駆物質または断片の形態にあるようである。(現在使用されているアッセイにより)検出不可能な多くのさらなるBNPの断片が、未知の生物学的影響を伴って循環していることだろう。例えば、Heubleinらの(2007) Hypertension 49, pp.1114-1119を参照のこと。BNPに関連するペプチド断片の続くプロセシングが原因であるサンプリング誤差は、被験者によるBNP生産を評価することにおける不確定度を増す。
【0011】
全BNPであるBNP1−32は、報告されているところによれば、エンドペプチダーゼ ジペプチジル−ペプチダーゼIV(DPP IV)に対する基質であり(例えば、Brandtらの(2006) Clinical Chemistry 52, pp.82-87を参照のこと)、ジペプチジル−ペプチダーゼIVは、2つのN−末端残基を除去することによりBNP1−32を短くしてBNP3−32を生成するものであり、BNP3−32もまた生物学的に活性である。BNP3ー32はさらに、その他のプロテアーゼ(例えば、2007年9月6日にDOI:10.1161/CIRCRESAHA.107.153585でオンライン公開されたCirculation Res.におけるPankowらを参照のこと)により分解され、さらなるペプチドを生成する。トロンビン、プラスミンなどのようなプロテアーゼもまた、少なくともインビトロでプロ−BNPを開裂することができる。例えば、上方のHuntらを参照のこと。そのようなタンパク分解は、サンプリングされたBNPの続くタンパク分解が原因であるサンプリング誤差を増すと予期される。BNPは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix Metalloproteinases)をも含む。例えば、Tsurudaらの(2002) Circulation Res. 91, pp.1127を参照のこと。いくつかのメタロプロテイナーゼが、BNPをさらにタンパク分解するとして知られている(例えば、上方のPankowを参照のこと)。このように、非常に多くのプロテアーゼが、サンプリング誤差の潜在的な源である。
【0012】
結果として、患者からの血液または他の生物学的液体のサンプリングは、典型的には、診断上の適用およびその他の使用に対して重要であるBNPに関連するペプチドの情報の不正確な表示を提供する。例えば、Daniel L. Driesの(2007) Hypertension 49, pp.971-973,を参照のこと。この鮮明性の欠如は、BNPに関連するペプチドが続いて、BNPまたはサンプリング自体の行為により誘導されるプロテイナーゼによるタンパク分解を含めたサンプリング後のタンパク分解に供される可能性があることが原因である。
【0013】
そのような進行中のタンパク分解により導入される人為産物を削減または排除するためのサンプリングおよびプロセシング方法を利用する多くの試みがなされて来た。多くのセリンプロテアーゼが、BNP、そのタンパク分解生成物、またはその前駆物質上で作用するとして知られている。液体ではない組織については、水中での煮沸が、プロテアーゼを不活性化すると考えられている。例えば、Peptides (1997) 18, pp.1475-1481におけるHuntらを参照のこと。組織からBNPを精製する研究者は、BNPタンパク分解を妨げるために、アプロチニン、またはアプロチニンとベンザミジン(benzamidine)との組み合わせのようなセリンプロテアーゼ阻害物質を使用することを報告して来た。例えば、Clin. Chem. (1994) 40, pp.672-3におけるTsujiらを参照のこと。サンプリングの行為によるプロテアーゼの導入を制御するための多くの提案の中には、プラスチック管の使用がある。プロテアーゼ阻害物質を収容する血液採集管もまた利用可能である。一例は、BD P100 v1.1血液採集真空管(Becton, Dickinson, and Company catalog no. 8013142)である。CalbiochemからのPPACK I、PPACK II、およびプロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(Protease inhibitor cocktail set III)のようなプロテアーゼ阻害物質は、広域スペクトルプロテアーゼ阻害を提供する。しかしながら、これらの阻害物質は、技術的な限界およびそれらのコスト(下方を参照のこと)の両方が原因で、ナトリウム利尿ペプチド、およびそれらの断片または前駆物質のサンプリングのような適用に対しては、全く好適ではない。血液をサンプリングする場合、比較的低濃度でのタンパク分解を抑止するために、一部では、サンプリングされたタンパク質の共有結合性の改質を回避するために、AEBSFおよびベンザミジンのようなプロテアーゼ阻害物質が使用されて来た。
【0014】
多くの有効性が不十分なアプローチが、BNPおよびその他のペプチドのタンパク分解を削減するために採用されてきた。これらの方法は、プラスチック管を使用すること、または、採集されたサンプルもしくは広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質 ROCHE(商標)が提供するAEBSF(4−(2−アミノエチル)塩酸フッ化ベンゼンスルホニル(4-(2-Aminoethyl) benzenesulfonyl fluoride hydrochloride))(商品名PEFABLOC SC(商標)で分子量が239.5Da(3.977×10−22g)の水溶性セリンプロテアーゼ阻害物質)にEDTAを加えることを含む。AEBSFは、キモトリプシン、カリクレイン、プラスミン、トロンビン、およびトリプシンのようなプロテアーゼを阻害する。典型的な使用濃度は、100mMの原液で、0.1〜1.0mMの範囲である。
【0015】
AEBSFに関しては、ROCHE(商標)が、高濃度では、AEBSFがタンパク質およびペプチドとの共有結合性付加体を形成することが認められると示している。このように、そのような阻害物質は、推奨される濃度範囲の付近で使用される(例えば、米国特許公報第2006/0183681号(下方で考察される)ではAEBSFが0.125mMで使用されると開示されていることを参照のこと)。しかしながら、ROCHE(商標)は、阻害物質と共にパッケージ入りの商標つきの組成物、例えば、PEFABLOC SCPLUS(商標)(またはPEFABLOC SC PLUS(商標))の販売もしている。血液および血漿のような液体のサンプリングについての興味の対象である濃度で、付加体の形成が適切に妨げられるかどうかは知られていない。さらに、上述したように、セリンプロテアーゼに加えてプロテアーゼは、AEBSFにより効果的には阻害されないが、血漿中のBNPおよび関連するペプチドに反応することができ、またこれらを分解することができる。
【0016】
例証となる例、米国特許公報第2006/0183681号(「‘681公報」)は、BNPのさらなる加水分解を妨げるよく知られたプロテアーゼ阻害物質を記述している。‘681公報は、例えば、‘681公報の第42段落目を参照すると、サンプリングされた血液の血漿を貯め、そこから繊維素を除いて、続いてこれを脱脂(delipidizing)し、そして、総タンパク質濃度を調整して、続いてプロテアーゼ阻害物質であるベンザミジンおよびAEBSFを最終濃度がそれぞれ9.5mMおよび0.125mMとなるように追加し、そして、これを予め定められた量のBNPに追加強化(spiking)することにより、血清を基とする標準液を調製することを教示している。この血清を基とする調製は、−20℃で数日間は安定である。この公報は、血漿が得られるプロセス、または内在性のBNPおよびこれに関連するペプチドのレベルに対するサンプリングされた血漿の処理にかかる長時間の影響について、記述していない。事実、生物学的液体をサンプリングすることには向けられておらず、また、そのようなサンプリングに独特の問題が認識されていないか、あるいはいかなる解決法も提案されていない。
【0017】
米国特許公報第2004/0067889号(「‘889公報」)は、サンプリングされた生物学的液体中のBNPを保護するための組成物を開示している。‘889公報は、プロテアーゼ阻害物質PPACKおよびPPRACKが、サンプリングされた血液または血漿中のBNPのタンパク分解を抑止するのに最も効果的であることを開示している。さらに、これらの阻害物質は、単独でも、AEBSF、ロイペプチン、およびアンチパイン、ならびにベンザミジンと組み合わせても効果的である。‘889公報は、プロテアーゼ阻害物質とBNPの領域との構造上の類似性が、BNPの安定化におけるプロテアーゼ阻害物質の有効性の原因であると断定している。
【0018】
‘889公報は、組成物であって、生物学的液体をサンプリングしてその中のペプチドのプロフィールをこの組成物の2つまたはそれ以上の成分の相互間の相乗作用に基づいて保護するための効果的で効率的な組成物を開示していない。さらに、‘889公報は、サンプリングされたペプチドまたはタンパク質との付加体の形成が原因である人為産物を示さない、効率的で効果的なプロテアーゼ阻害物質組成物を開示していない。事実、PPACKおよびPPACK IIは、高価なプロテアーゼ阻害物質であり、事実、AEBSFよりも有意により高価である。したがって、サンプリング後のタンパク分解を妨げるための効率的な方法が、当業者に開示されていない。
【0019】
BNPについての多数のポイント・オブ・ケア診断テスト(point-of-care diagnostic tests)が、利用可能である。ABBOTT AxSYM(商標)、BAYER ADVIA CENTAUR(商標)、およびBIOSITE TRIAGE(商標)BNPアッセイは、BNPの決定のための最も広く使用されている定量的なテスト方法の一部である。ABBOTT AxSYM(商標)アッセイは、Microparticle Enzyme Immunoassay(MEIA)テクノロジーを利用しており、このテクノロジーは、ヒトBNP抗原と結合する抗BNP単クローン抗体で被覆された微小粒子を使用する。微小粒子上のこれらの抗原−抗体複合体は、蛍光生成物を得ることができる単クローン抗BNPアルカリホスファターゼ複合物と結合する。蛍光強度は、BNPレベルを決定するために使用される。BIOSITE TRIAGE(商標)BNPアッセイは、免疫蛍光定量的アッセイ(immunofluorometric assay)である。このアッセイでは、ウサギの組換え型多クローン抗体が、蛍光標識に結合され、また、BNPのジスルフィド結合で媒介されたリング構造に対抗するマウスの単クローン抗体が、固相に結合される。このアッセイでは、血漿が、蛍光性抗体複合物で処理され、BNPおよび蛍光性抗体複合物の複合体が、検出レーン上に捕獲される。検体中のBNPの濃度は、結合された複合体からの蛍光に比例する。BAYER ADVIA CENTAUR(商標)アッセイは、アクリジニウムエステルで標識された単クローンマウス抗ヒトBNP(BNP上のリング構造に特異的である)を第1の抗体とし、ビオチン標識された単クローンマウス抗ヒト抗体(BNPのC末端部に特異的である)を第2の抗体(固相)とする、2部位サンドイッチ免疫測定法(two-site sandwich immunoassay)である。複合体はさらに、ストレプトアビジン磁性粒子に結合する。ABBOTT AxSYM(商標)、BIOSITE TRIAGE(商標)、およびBAYER ADVIA CENTAUR(商標)BNPアッセイについての低い方の検出限界は、それぞれ、15pg/mL、5pg/mL、および2pg/mLである。
【0020】
BNPおよび類似のペプチドは、血清または血漿における安定性に乏しい。BNPは、特異的な細胞レセプターおよびエンドペプチダーゼを含めたプロテアーゼにより循環から除去される。BNPが安定性に乏しいのは、血漿または血清中の複数の天然のプロテアーゼによるタンパク分解によることに加えて、腎臓による排出、およびナトリウム利尿ペプチドレセプターC(NPR−C)を介した取り込みによるクリアランスが原因であり、NPR−Cは、腎臓において有足細胞領域に主に分布されている。NPR−Cは、潜在的に、BNPレベルを下方制御するメカニズムを提供する。結果として、インビボでのBNPの半減期(t1/2)は、ほぼ20分ほどのオーダーである。
【0021】
上述した難点にもかかわらず、血漿BNP濃度は、心臓の機能、および急性心筋梗塞の診断および予後のための好ましいマーカーである。血漿のBNPの濃度は、心臓の機能が低下すると、増加する。潜在的に、BNPは、さらなる心臓の研究および/または処置のために患者を予備スクリーニング(pre-screening)するための好ましい生化学的マーカーとして役立つことができる。しかしながら、サンプリングされたBNPの制限された安定性が、このことを困難にする。インビトロでは、BNPは、急速に、例えば、全血から血漿を分離して24時間以内に、タンパク分解される。例えば、Clinica Chimica Acta (2004) 340, 163-172におけるBelenkyらを参照のこと。冷蔵された貯蔵の間の進行性の分解は、BNPの正確な測定を難しくしている。
【0022】
このように、BNPについての現行で使用されている定量的なテストは、サンプリング後のプロBNPおよびBNP断片の続くタンパク分解が原因である回避可能な誤差を含む可能性がある。そのような誤差は、循環するBNPに関連するペプチド種の過大評価または過小評価のいずれかにつながり得る。
【0023】
サンプリング技術自体が、ナトリウム利尿ペプチド以外のペプチドの場合でさえも、一般的に興味の対象であるペプチドのレベルを測定するために重要になっている。
【0024】
したがって、引き続きのアッセイのために生物学的液体中のBNPおよびその他のペプチドを正確にサンプリングすることを可能にする、サンプリング方法、装置、および組成物の必要性がある。
【0025】
〔開示の概要〕
生物学的液体中のペプチドを分析するためのその生物学的液体のサンプリングの根底にある問題、およびその解決方法の両方が、本明細書中に開示されている。より詳細には、サンプリングされた生物学的液体中のペプチドのタンパク分解を相乗的に妨げる組成物が開示されており、この組成物は、高濃度のフッ化スルホニル族プロテアーゼ阻害物質を、少なくとも1つの異なるタイプの追加のプロテアーゼ阻害物質、好ましくは、広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質、およびキレート剤と併用して用いる。好ましい実施形態では、10mMのAEBSF、20mMのベンザミジン、およびエチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)を使用する。他の好ましい実施形態では、ベンザミジンが、ロイペプチン、リソソームプロテアーゼの阻害物質に置き換えられることができる。開示されている組成物は、その特異性をさらに調節するためにその他のプロテアーゼ阻害物質、例えば、追加の標的酸性プロテアーゼと併用されてもよい。
【0026】
開示されている好ましい組成物は、フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質を、フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質の最終濃度が約2.5mM以上であることが原因である付加体の形成を本質的に排除する比率にある他のプテアーゼ阻害物質、およびキレート剤と併用する。フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質は、種々の高濃度で、例えば、他の好ましい実施形態では10mMで使用される。追加のプロテアーゼ阻害物質、還元剤、安定剤、および緩衝剤が、好ましい組成物と併用されてもよい。
【0027】
開示されている組成物は、サンプリングされた生物学的液体中に存在するプロテアーゼによるタンパク分解を相乗的に妨げるだけでなく、タンパク分解の阻害の範囲を広幅化し、血液の凝固を妨げながら、フッ化スルホニルを基とするプロテアーゼ阻害物質を使用するのによく起こる問題である興味の対象であるタンパク質およびペプチド上での付加体の形成を抑止する。開示されている組成物を使用して、例えば、この組成物が取り込まれている装置において採集されたサンプルは、数時間、室温で貯蔵されるか、あるいは数ヵ月後でされあり得る後の分析のために凍結されることがある。最も詳細には、この組成物は、BNPのようなナトリウム利尿ペプチドをサンプリングし、そのレベルを決定するために有用である。
【0028】
興味の対象であるペプチドとしては、ナトリウム利尿ペプチド(天然の、合成の、または組換え型の)を含む。ペプチドのプロフィールは、投与された、あるいは誘導されたナトリウム利尿ペプチドのレベルがモニターされる場合も含めて、合成のナトリウム利尿ペプチドからの寄与を含んでもよい。好ましくは、サンプリングされたペプチドまたはタンパク質のプロフィールは、自然に発生するナトリウム利尿ペプチドのプロフィールである。好ましくは、投与された、または誘導されたナトリウム利尿ペプチドは、ANPおよびBNPからなる組から選択される。より詳細には、本開示は、ヒトを含めた哺乳類の血漿または血清、特には、ヒト血漿またはヒト血清、より特別には、処理されたヒト血漿をサンプリングすることを含む。さらにより詳細には、引き続きの分析のためにペプチドプロフィールを保護することにおける、1つまたはそれ以上の任意で置換されたアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質、ならびに、ベンザミジンまたは他の広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質またはリソソームプロテアーゼ阻害物質の有効性が開示されている。
【0029】
したがって、本明細書中には、興味の対象である生物学的液体中のタンパク質プロフィールをサンプリングするための、問題になっている組成物が開示されていて、この組成物は、有効量の第1のアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質、ならびに、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質であって、追加の広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質は、セリンプロテアーゼを阻害するものである、第2のプロテアーゼ阻害物質、ならびに、有効量のキレート剤を含む。この組み合わせはまた、血液がサンプリングされる生物学的液体である場合には、血液の凝固を妨げる。
【0030】
特に、フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質の存在により、サンプリングされたタンパク質プロフィール中に付加体は本質的には形成されない。キレート剤とプロテアーゼ阻害物質とのこの組み合わせは、経済的で製造が容易であり、サンプルが室温で2時間および/または摂氏マイナス70度(seventy degrees centigrade below zero)に6ヶ月間貯蔵されたときでさえも、サンプリングされた生物学的液体を付加体の形成による改質が本質的に無いままにする。
【0031】
好ましい実施形態において、開示されている組成物は、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸を含有する。好ましい実施形態において、開示されている組成物は、第1のプロテアーゼ阻害物質としてAEBSFを含む。好ましい実施形態において、開示されている組成物は、第2のプロテアーゼ阻害物質としてベンザミジンを含む。代替的に、第2のプロテアーゼ阻害物質は、ロイペプチンであるように選択されてもよい。
【0032】
第1のプロテアーゼ阻害物質としてAEBSFを選ぶことに代わるものとして、フッ化スルホニルが、(2−アミノエチル)−フッ化ベンゼンスルホニル、フッ化フェニルメタンスルホニル、4−アミジノフェニル−フッ化メタンスルホニル、3−フッ化アセチルベンゼンスルホニル、2−フッ化アミノベンゼンスルホニル、3−(3−クロロフェノキシアセトアミド)フッ化ベンゼンスルホニル、およびペプチドアミノベンゼンフッ化スルホニルから選択される。
【0033】
また、興味の対象である生物学的液体中のタンパク質プロフィールをサンプリングするために有用な装置も開示されており、この装置は、生物学的液体の液体画分を受け入れるためのコンポーネントを具備しており、このコンポーネントは、有効量の第1のアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルセリンプロテアーゼ阻害物質と、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルセリンプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質とを含んでおり、ここで、サンプリングされたタンパク質プロフィールは、室温で少なくとも4時間にわたるインキュベーションによっても、プロテアーゼ阻害物質により、付加体の形成によって改質されない。プロテアーゼ阻害物質−キレート剤の組成物は、凍結乾燥の形態を含めた固体の形態で存在してもよく、あるいは、液体として存在してもよい。この組み合わせは、経済的で、製造が容易であり、サンプルが室温で4時間および/または摂氏マイナス70度で6ヶ月間にわたって貯蔵されたときでさえも、サンプリングされた生物学的液体を、付加体の形成による改質が本質的に無いままにする。
【0034】
また、有効量の金属キレート剤を生物学的液体のサンプリング時に加えることと、有効量の第1のアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルセリンプロテアーゼ阻害物質を加えることと、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルセリンプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質を加えることにより、生物学的液体をサンプリングするための方法も開示されている。この組み合わせは、経済的で、製造が容易であり、サンプルが室温で4時間および/または摂氏マイナス70度で6ヶ月間にわたって貯蔵されたときでさえも、サンプリングされた生物学的液体を、付加体の形成による改質が本質的に無いままにする。
【0035】
これらの特徴およびその他の特徴が、次に説明される例証となる図面およびチャートに援助されながら記述される。
【0036】
〔詳細な説明〕
本開示は、例えば、ANP、BNP、CNP、およびDNPといったナトリウム利尿ペプチドのレベルまたは有効性をモニターするために、生物学的液体のサンプリングでその生物学的液体の中のペプチドのプロフィールを保護することを可能にする。サンプルは、ナトリウム利尿ペプチド以外のペプチドについてアッセイするためにも有用である。
【0037】
本明細書中で使用されている用語「ナトリウム利尿ペプチド(natriuretic peptide)」および「ナトリウム利尿ペプチド(natriuretic peptides)」は、一般的なペプチド、特には、ANP、BNP、CNP、およびDNPだけでなく、プロ−ペプチドおよびプレプロ−ペプチド、例えば、上述したプロBNPおよびプレプロBNPのような、そのようなペプチドの前駆物質をも含む。この用語は、そのような物質を、外因性または内在性のいずれにせよ、天然に存在するものであろうと、または合成されるものであろうと、あるいは、組換えDNA技術を用いて調製されるものであろうと、含む。
【0038】
本明細書中で使用される「有効量」は、本開示および当技術分野の現行の状況の観点から、不適当な実験法を用いることなく決定されることができる物質の量である。プロテアーゼ阻害物質またはキレート剤の有効量は、プロテアーゼ阻害物質またはキレート剤の濃度が、有効な濃度であるか、またはそれよりも多いことを確実にするように、サンプリングされた生物学的液体の予期される容量に加えられる重量または容量である。サンプリングされた生物学的液体のそのような容量は、有効容量と称されることもある。
【0039】
1つまたはそれ以上のリソソームプロテアーゼ阻害物質ロイペプチンと組み合わせたセリンプロテアーゼ阻害活性を示すフッ化スルホニル、およびベンザミジンのような広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質は、開示されている組成物において使用するのに好適である。特に、好ましいプロテアーゼ阻害物質は、セリンプロテアーゼの活動を阻害し、セリンプロテアーゼの触媒作用部位にあるセリン残基と共有結合的に反応することができる。
【0040】
本開示の組成物、キット、および方法において使用するのに好適なフッ化スルホニルは、任意で置換されたアルキルおよびアリールフッ化スルホニルを含み、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、プラスミン、トロンビン、またはカリクレインのタンパク分解活性を(標識されたカゼインまたはその他の好適なペプチド基質のような基質を用いて)阻害する。
【0041】
本明細書中で使用される用語「アルキル」は、直鎖もしくは分岐した鎖、または非芳香族環式(non-aromatic cyclical)、炭化水素基、あるいはこれらの組み合わせを、任意で置換された変種を含めて、意味している。許容できる置換基は、そのような部分について一般的に見付かっているものを含むが、ただし、それらは、問題の化合物のプロテアーゼ阻害活性に有意に干渉しないものとする。
【0042】
本明細書中で使用されている「アリール」は、多価不飽和の、典型的には芳香族の、炭化水素置換基を、任意で置換された変種を含めて、指している。
【0043】
本開示は、サンプリング装置、組成物、または方法における成分としてのアルキルおよびアリールフッ化スルホニルの適合性を、一部では、本開示において記述されているように、ナトリウム利尿ペプチドを迅速に開裂する、ヒト血清または血漿のような、サンプリングされた生物学的液体において遭遇されたプロテアーゼの点から見て、サンプル保護のために広域スペクトルプロテアーゼ阻害を提供しながら、付加体の形成を克服するという開示されている組み合わせ物の能力に基づかせる。
【0044】
フッ化スルホニル類における好ましいプロテアーゼ阻害物質は、(2−アミノエチル)−フッ化ベンゼンスルホニル(AEBSF、化学式:C8H10NO2SF.HCl、分子量:239.7)である。これは、弱塩基性(pH8〜9)の条件下で遅い加水分解による広い阻害活性を示し、水溶性である。その他の候補のフッ化スルホニルとしては、例えば、フッ化メタンスルホニル、フッ化フェニルメタンスルホニル(PMSF)を含む。
【0045】
好ましい実施態様においてフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質に付け加えられる有用なものは、ベンザミジン(化学式:C6H5C(NH)NH2HCl、分子量:156.6)であり、これは、セリンプロテアーゼも阻害する広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質である。
【0046】
好ましい実施形態においてフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質に付け加えられる有用なものは、ロイペプチンであり、これは、セリンプロテアーゼも阻害する広域スペクトルリソソームプロテアーゼ阻害物質である。
【0047】
2つまたはそれ以上のプロテアーゼ阻害物質の組み合わせを含有するフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質に付け加えられる有用なものは、キレート剤である。好ましい実施態様において、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)である。
【0048】
2つまたはそれ以上のプロテアーゼ阻害物質であって、そのうちの少なくとも1つはフッ化スルホニルである、プロテアーゼ阻害物質、およびキレート剤の開示されている組成物に付け加えられる有用なさらなるものは、追加のプロテアーゼ阻害物質およびそれらの混合物である。
【0049】
全般に、ナトリウム利尿ペプチドに満足のいく安定性を提供するために、フッ化スルホニルおよびベンザミジンプロテアーゼ阻害物質は、適正な量で利用される。たとえば、サンプリング装置、組成物、および方法は、約5.0mM〜約100mM、好ましくは約10mM〜約50mMのフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質を、約5.0mM〜約100mM、好ましくは約10mM〜約50mM、最も好ましくは約20mMのベンザミジンプロテアーゼ阻害物質と組み合わせて使用する。代替の実施形態において、ロイペプチンのような広域スペクトルリソソームプロテアーゼ阻害物質が、ベンザミジンの代わりに、あるいはベンザミジンに加えて、使用されてもよい。ロイペプチンの濃度は、好ましくは約2.5mM以上、より好ましくは約5.0mM以上、最も好ましくは少なくとも約10mMである。プロテアーゼ阻害物質のそのような濃度は、それらが、好ましくはEDTAのようなキレート化剤と組み合わせて、広域スペクトルプロテアーゼ阻害を強化しながら、フッ化スルホニルの使用により付加体の形成を実質的に妨げるので、本明細書中では「有効量」と称される。
【0050】
下記の例および説明は、本明細書中に開示されている組成物を取り込んでいる組成物および実施形態を例証する。
【0051】
ナトリウム利尿ペプチドの様々な種のレベルを測定するのに望ましいことは、BNP、および心不全(HF)の診断/予後、および液体ホメオスタシス中の乱れに関連して、(上方で)論述されてきた。付加体の形成が原因である化学的改質、あるいは続くタンパク分解が無い状態で、サンプリングされたペプチドプロフィールを保護することがさらに望ましい。
【0052】
ナトリウム利尿ペプチドは、心不全、およびその他の乱れた関与する液体ホメオスタシスの重要なマーカーであるだけでなく、それらは、治療上の設定における意義でもある。多くの臨床的治験および患者の研究は、結果として、その後の分析、またはその他の患者および標準液のサンプルとの比較のために、生物学的液体サンプルを保護することが必要になる。このことは、サンプルが採集された時点で存在するペプチドプロフィールの慎重な保護を必要とする。開示されている組成物は、この問題に対する解決法を提供する。
【0053】
単純なプロ−BNPプロセシング模式図が、2循環するプロ−BNP誘導されたペプチドを提案しており、これらは、商業的に利用可能なBNPまたはNT−プロ−BNPアッセイにより検出されると考えられる。しかしながら、BNP−32がさらなる加水分解を起こし、DPP IVの作用が原因で、2つのN−末端アミノ酸残基が無いBNP形態(BNP3−32またはプロBNP79−108)を生成するため、BNPのさらなる形態が、循環、または生物学的液体の中に存在するという証拠がある。遭遇したタンパク分解の程度が、特に時間が経過した後の、データの解釈および評価を困難にする。さらには、冷蔵への即時のアクセスを必要としない頑強なポイント・オブ・ケア装置が、タンパク分解により複雑にされる。このタンパク分解はさらに、例1および表1で説明される。
【0054】
<例1>
BNP加水分解生成物を観察し、特性を表し、同定するために、質量分析免疫測定法(MSIA)を開発し、BNPの分析において利用した。この技術は、例えば、Nelsonらの(1995) Anal. Chem. 67, 1153-1158;Tubbsらの(2001) Anal. Biochem. 289, 26-35;Kiernanらの(2002) Anal. Biochem. 301, 49-56;Niederkoflerらの(2003) J. Lipid Res. 44, 630-639、ならびに、米国特許第6,783,672号;同第6,974,704号;同第7,083,723号;同第7,083,724号;同第7,087,163号;同第7,087,164号;同第7,087,165号;および同第7,087,163号に広く記載されている。基本の方法論は、BNPに関連して記載されているが、この技術は、ANPおよびその他の興味の対象であるペプチドにも適用可能である。
【0055】
手短には、BNP加水分解の生成物を観察し、同定するために、MSIAは、質量分析検出のためにBNPおよび多くのその加水分解生成物を抽出するのに、親和性の捕獲を使用することを必要とする。したがって、合成されたBNP1ー32を(ヘパリン処置された血液採集管に採集された血液からの)室温の血漿に加えた。血漿中にBNP1ー32を数回、追加強化(spiking)した後、追加強化された血漿の一定分量をBNP1ー32加水分解の進行をモニターするために分析した。100ng/mLのBNP1ー32の追加後、6時間に至るまで毎時、除去し、分析した一定分量における一連の分析の実施の結果を、図2に示す。ゼロ時での分析が、(BNP1−32の理論質量(theoretical mass)3465.08に一致して)3465.8m/zでのピークの出現により示されるように、BNP1−32に対応する大きく優位なピークだけでなく、BNP3−32、BNP1−30、およびBNP1−29またはBNP4−31の質量に対応する3280m/z、3171m/z、および3015m/zでのピークの提示により示されるBNP加水分解の生成物を示している。最後の2つの種は、類似のアミノ酸組成物が原因でこのチャートでは区別できない。各々の同定されたBNP加水分解ペプチドについての分子量を、以下の表1に示す。
【表1】
【0056】
BNP1−32を室温で、血漿中でインキュベートすると、BNP1−32が加水分解し続け、既に観察されたのよりもさらに多くの加水分解生成物を生み出すだけでなく、より小さいものすらも生み出す。室温の血漿に対するBNP1−32の追加後、4時間で、BNP3−32、BNP1−25、およびBNP5−29(最後の2つはそれらの類似のアミノ酸組成物が原因で互いに区別することができない)が優位な種であることから、BNP1−32の全てがより小さいペプチドへと処理されたように見える。
【0057】
時間にわたる総量に関するそれぞれの種の割合をプロットすると、1つのペプチドが生成され、そしてより小さいペプチドへと処理される速度が、図3に示されるように図示することができる。このタイプのプロットは、BNP加水分解、およびBNP1−32加水分解を妨げることにおけるプロテアーゼ阻害物質の効率をモニタリングするために有用である。
【0058】
<例2>
BNP1−32加水分解を妨げることができるプロテアーゼ阻害物質を同定するための研究を、スクリーニングで始めた。最初にテストしたのは、Becton Dikinson採集管(BD P100 v.1.1 tubes)で使用されているプロテアーゼ阻害物質反応混液であった。
【0059】
BD P100 v1.1血液採集真空管(Becton, Dickinson, and Company catalog no. 8013142)において商業的に利用可能なプロテアーゼ阻害物質反応混液を、BNPの加水分解を抑止することについてテストした。図4に示されているのは、BD P100 v1.1を使用して採集され、BNP1−32で追加強化された血液から提供された血漿からのサンプルを経時的に分析した例証的な結果である。質量スペクトルのそれぞれで観察されたのは、BNPの2つの種、BNP1−32そのままの形態とBNP1−32の加水分解が原因であるBNP3−32の切断されたBNP形態である。時間にわたるBNP種の割合のプロットは、たった30分後にBNP1−32の半分がBNP3−32に転化されたことを示し、BD P100により提供されたプロテアーゼ阻害物質がBNP1−32の加水分解を妨げることができないことを証明している。
【0060】
<例3>
テストした商業的に利用可能なプロテアーゼ阻害物質の他の反応混液は、EMD(catalog no. 535140)により提供されたプロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(血漿中1〜10に希釈された)であった。もう一度、ヘパリン血漿を、このプロテアーゼ阻害物質反応混液セットで処理し、続いて、BNP1−32を加え、室温でインキュベーションした。一定分量を、30〜60分毎に採集し、BNP加水分解についてテストした。この一定分量の質量スペクトル分析の結果を、時間にわたるBNP種の割合のプロットと共に、図5に示す。プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIIIがBNP1−32の加水分解を妨げるか、遅くすることが観察されたが、BNPの加水分解を妨げることに加えて、プロテアーゼ阻害物質反応混液は付加体の形成につながり、この付加体は、BNP1−32よりも僅かにより高い質量に位置するピークにより示されている。付加体の形成の程度は、インキュベーション時間に従い有意に増加している。
【0061】
プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIIIは、100mMの塩酸AEBSF(Calbiochem catalog no. 101500)、80μMのアプロチニン(Calbiochem catalog no. 616371)、5mMのベスタチン(Calbiochem catalog no. 200484)、1.5mMのE−64(Calbiochem catalog no. 324890)、2mMのヘミ硫酸ロイペプチン(Leupeptin hemisulfate)(Calbiochem catalog no. 108975)、リソソームプロテアーゼ阻害物質、および1mMの酸プロテアーゼ阻害物質であるペプスタチンA(Calbiochem catalog no. 516482)からなる。
【0062】
それにもかかわらず、ペプチド、および興味の対象、この場合にはBNPの断片のプロフィールを正確に保護することができないため、反応混液セットIIIは満足いくものではない。
【0063】
<例4>
次に、プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(EMD)に含まれているものの中のいくつかを含めて、個々のプロテアーゼ阻害物質を、上方に記載されているプロトコルを用いてテストした。手短には、ヘパリン血漿の一定分量を、プロテアーゼ阻害物質の各1つで処理した。血漿の各一定分量に対して、BNP1−32を10ng/mLで加え、室温でインキュベートした。一定分量を経時的に除去し、BNP加水分解について分析した。
【0064】
ペプスタチンAは0.1mMでは、図6に図示されているように、認め得るほどにはBNPの加水分解を妨げなかった。
【0065】
E64は、1mMでは、図7に図示されているように、認め得るほどにはBNPの加水分解を妨げなかった。
【0066】
ベスタチンは、0.5mMでは、図8に図示されているように、認め得るほどにはBNPの加水分解を妨げなかった。
【0067】
<例5>
さらなるテストにより、ロイペプチンおよびAEBSFをいくらかの阻害活性を持つと同定した。手短には、ヘパリン血漿の一定分量を、それらのプロテアーゼ阻害物質の各1つで処理した。血漿の各一定分量に対して、BNP1−32を10ng/mLで加え、室温でインキュベートした。一定分量を経時的に除去し、BNP加水分解について分析した。
【0068】
ロイペプチンは、0.1mMで、図9に図示されているように、BNPの加水分解を遅くした。
【0069】
AEBSFは、1mMで、図10に図示されているように、BNPの加水分解を遅くした。
【0070】
2.5mMおよび5mMのより高い濃度では、AEBSFは図11に図示されているようにほとんど完全にBNPの加水分解を阻害したが、同時に、AEBSFは図11に図示されている付加体の形成を引き起こした。
【0071】
<例6>
さらなるテストにより、塩酸ベンザミジン(Calbiochem catalog no. 199001)で生じる付加体を回避することにおいて、AEBSFと組み合わせて有効な安価なプロテアーゼ阻害物質のリストを追加した。塩酸ベンザミジンは、独自に阻害活性を持つ。手短には、ヘパリン血漿の一定分量をプロテアーゼ阻害物質で処理した。血漿の各一定分量に対して、BNP1−32を10ng/mLで加え、室温でインキュベートした。一定分量を経時的に除去し、BNP加水分解について分析した。
【0072】
加えて、二塩化水素PPACK I(Calbiochem catalog no. 520222)およびPPACK IIトリフルオロ酢酸塩(Calbiochem catalog no. 520219)も、各々1mMの濃度でテストした。PPACK I、およびPPACK IIは、それぞれ図12および図13に図示されているようにBNP加水分解の速度を遅くした。
【0073】
塩酸ベンザミジンは、1mMで、図14に示されているようにBNPの加水分解を遅くし、さらにPPACK I、およびPPACK IIよりも優れていたが、AEBSFほど有効ではなかった。
【0074】
<例7>
個々のプロテアーゼ阻害物質を適正な濃度で対にすることで、有意な程度まで付加体の形成を回避した。極めて優れた活性(complimentary activity)を有することが観察されたプロテアーゼ阻害物質が、対にすることで相乗的になる組み合わせの阻害活性をさらに改善した。対にしたプロテアーゼ阻害物質を、(i)BNP1−32から特定の加水分解生成物(例えば、BNP3−32)へのBNPの加水分解を妨げる点、あるいは、代替的に、(ii)BNPの加水分解を全面的に削減する点におけるそれらの有効性について評価した。
【0075】
AEBSFおよびロイペプチンがいずれも2.5mMの濃度の反応混液は、図15に図示されているように検出可能なBNP加水分解をほとんど排除すると言ってもよい程度までBNP加水分解を有意に遅くした。示されているように、より高い濃度のロイペプチンを使用すると、AEBSFの濃度をより低くすることができるが、その濃度は、ROCHE(商標)(上方を参照のこと)により推奨される範囲を上回っているままであった。付加体の形成も、AEBSFよりも約10倍の高さの濃度でベンザミジンを使用することにより排除された。
【0076】
<例8>
全血は比較的容易に得られ、原理的には価値ある情報を提供することができるにもかかわらず、信頼のおける迅速な診断アッセイにおける使用について、全血を取り扱うことにおける問題により全血の使用は制限されている。例えば、診断アッセイが比色作用に基づく場合、赤血球の溶血が誤差を導入する。読みが溶血によりもたらされる色により影響を受けることが無い場合でも、細胞の溶解産物の存在そのものが、結果として回収された液体画分の容量中の変種になるため、誤差の源となる。したがって、全血の細胞性成分を再現可能(reproducibly)に分離し、下流の適用およびテストのために安定な液体画分を生成することが望ましい。
【0077】
キレート剤は、抗凝血剤(blood anti-coagulants)として好ましい選択である。単一の個体からの血液を、ヘパリンおよびEDTAの両方の血液採集管に採集した。採集した血液を、細胞性成分を取り除くために遠心分離し、上澄み(血漿)を採集した。EDTAおよびヘパリン血漿に対して、BNP1−32を加え、1時間と2時間とでBNP加水分解の分析のために一定分量を取り除き、室温でインキュベートした。図16に示されたBNP加水分解は、抗凝結剤(anti-coagulant agent)としてEDTAまたはヘパリンを選択した結果を図示している。ヘパリンは、BNPタンパク分解を妨げるのに比較的、有効ではない。EDTAの存在下で、BNP加水分解は、BNP3−32の形成で止まる。
【0078】
サンプル採集時の加水分解BNPを妨げる必要に加えて、血液採集の間の赤血球の溶解を妨げることも重要である。さもなくば、より多くの量の細胞性タンパク質/プロテアーゼを放出するであろう。したがって、細胞の溶解が最小であり、たとえあったにしても凝固が少ない血液採集は、サンプリングの行為そのものによりプロテアーゼを活性化することを回避するのに好ましい。
【0079】
プロテアーゼ阻害物質をも含む採集管におけるEDTAまたはヘパリンの使用の例証的な結果は、図17ではBNPの加水分解の中に反映されるものとして示されている。BNPは、血液がEDTAおよびプロテアーゼ阻害物質AEBSFおよびベンザミジンを含む管を用いて採集された場合に、室温で少なくとも2時間にわたって安定性がとどまる。
【0080】
さらに、EDTAが入っている管でサンプリングし、続いてプロテアーゼ阻害物質を加えた血液からの血漿サンプルは、図18に図示されているように、−70℃で貯蔵した場合にも、少なくとも6ヶ月にわたって、BNPの加水分解により測定すると、安定である。プロテアーゼ阻害物質を加える前の制限されたタンパク分解は、サンプルにおいて保護された。サンプリングされた血漿を、採集の日およびその6ヶ月後にBNP断片の存在についてアッセイした。分るように、BNP3−32とBNP1−32との比率は実質的には変化せず、数ヶ月の期間にわたってサンプリングされたペプチドプロフィールの安定性を実証している。ヘパリン血漿におけるBNP加水分解は、図16において示されるように、BNP3−32よりも小さいBNP加水分解生成物の生産にむかって進行していることが観察され、これに対して、EDTA血漿中では、図19において示されているように、BNP3−32の形成で加水分解が止まっている。このことは、ヘパリン処置された血液中のメタロプロテイナーゼの存在をもたらし得る。
【0081】
このため、BNP分析のための血漿サンプルの採集のために使用される好ましい血液採集管は、約10mMのAEBSF、および20mMのベンザミジンを含むEDTA血液採集管である。
【0082】
<例9>
開示されているアプローチによりサンプリングされた興味の対象であるプロフィールを保護することにおける有効性は、BNP断片において起こりうるプロテアーゼの影響を調べることにより実証される。BNPの加水分解の原因であるプロテアーゼが採集されたサンプルの中にある可能性があるにもかかわらず、キレート剤およびプロテアーゼ阻害物質の開示された組成物を含む管に採集されたサンプルは、さらなるタンパク分解についてBNP断片を調べることにより分るように、さらなるタンパク分解を起こし続けない。
【0083】
したがって、開示されている方法、組成物、および装置は、インビボで作製されたBNP種のさらなる加水分解を妨げ、これにより、血液採集された時点でのサンプリングされたプロフィールをそのまま止める(freezing)。このことは、BNP加水分解生成物のいくらかに対する影響を研究することにより実証される。
【0084】
この調査に対して、BNP1−32の加水分解の結果生じる生成物として予め同定されたものに対応するBNPペプチドを合成し、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンで処理したEDTA血漿に加えた。サンプルの一定分量を、血漿に対してペプチドを加えた後すぐに加えたBNPペプチドについて分析し、血漿の残りを−70℃で7週間貯蔵した。貯蔵の7週間後、血漿を冷凍器から取り出し、解凍し、加えたBNPペプチドの存在について分析した。2つのサンプルからのBNP種のプロフィールの比較である図20は、BNPペプチドの相互間の比率が7週間の期間にわたって同じままであることを示している。
【0085】
<例10>
BNP加水分解を防ぎ、血液採集の時点でのサンプルを保護するために、開発された採集プロトコルの能力をさらに確認すること。
【0086】
血液を二人の同意した個体から採集した。そのうちの一方は、NYHAクラスIV心不全と診断された人であり、もう一方の個体は、HFを示さないと決定された者であった。それぞれからの血液サンプルを、全血中それぞれ10mMおよび20mMの濃度を提供するのに十分に高いレベルでAEBSFおよびベンザミジンを含む開示されているキレート剤−プロテアーゼ阻害物質血液採集管を用いて採集した。また、内部標準を提供することによる定量化を助けるように、規定量のビオチン標識されたBNPを加えた。
【0087】
両方の個体からの血漿を、BNPに関連するペプチドについて分析した。この分析から得られた例証的結果が、図21に示されている。2つの質量スペクトルの比較によると、内部基準(ビオチン標識されたBNPであるbBNP)の有意な率、またはそれ以上の強度を有する優位なピークに基づく上側のスペクトルにおけるBNP種の存在を容易に同定することができる。質量に基づいて、ピークを、BNP1−32、BNP3−32、BNP2−31、およびBNP5−32に対応するものと同定した。
【0088】
特には、今現在、BNP1−32から分離した種々のBNPに関連するペプチドを検出するための既知の方法がこれまでなかった。このことは、血液採集の時点での興味の対象であるタンパク質プロフィールをサンプリングするための開示されているサンプリング方法、組成物、および装置の有用性の証拠を提供している。好ましくは、プロフィールは、ナトリウム利尿ペプチドに関連するペプチドのものである。
【0089】
血液および血漿のサンプリングを改善するために、多数の装置またはその改良も、本明細書中に開示されている。これは、興味の対象であるペプチドについてテストを行うポイント・オブ・ケア装置を設計し、配備することにおいて、特に興味のあるものである。好ましくは、ペプチドは、ナトリウム利尿ペプチドまたはこれに関連する前駆体もしくは断片、例えば、BNP、プロ−BNP、またはBNP1−76である。
【0090】
自然に生まれる、または合成である、生理学的に活性な物質の広い多様性を測定する能力が、診断および治療の両方の補助として重要性を増していくと考えられてきた。大部分のそのようなアッセイは、臨床的な実験室での決定を必要とするが、ポイント・オブ・ケア装置または家でさえも行えるテストについての需要が高まっている。図22に描写されているのは、血液の採集、液体画分の調製のための、あるいは、興味の対象である物質のための一体となったアッセイのための、いくつかの装置の模式的表現である。
【0091】
図22に模式的に示されているのは、ポイント・オブ・ケア装置/コンポーネント2200であり、これは、血液または他の生物学的液体を受け入れるためのポート2205を有している。提供された液体は、開示されている組成物またはその変異体が含浸されている層2210を通してろ過される。液体画分は、矢印2215で示されるように部分2220に向かって流れ、これは、装置2200の分析用の側であってもよいし、あるいは、分離された液体のための貯蔵部であってもよい。この構造は、マイクロ流体装置(microfluidics device)の中に組み込まれてもよい。その他の変形例は、液体形態にある開示されている組成物を使用すること、および洗浄またはその他のステップのために提供するように装置2200における追加のポートを使用することを含む。
【0092】
装置2225は、キャップ2230により封止された排気されたチューブ2235であり、キャップ2230は、生物学的液体を導入するために穴あけされる。代替的に、装置2225は、ただのキャップ2230付きのチューブであってもよい。装置2225は、好ましくは固体形態にある、開示されている組成物2240により、本明細書中で説明されているようにタンパク分解が抑止された生物学的液体を保持することができる。開示されている組成物2240は、安定剤および緩衝用物質を含んでもよい。装置2225は、サンプリングされた液体のタンパク質プロフィールを保護することに加えて、グルコース、代謝産物、または規制薬物のようなその他の物質のためのテストを含む後の実験室での分析のために好適である。
【0093】
本明細書中に開示されている装置は、普遍性を失うことなく、追加のプロテアーゼ阻害物質を開示されている組成物に組み合わせて含んでもよいことを注意しなければならない。組成物は、推奨されている最終濃度で使用されるためのものであり、従って、装置2225に類似する装置において最終液体レベルのためのしるしが提供されてもよい。さらに、装置2225における組成物2240は、液体、粉末、または凍結乾燥された配合物であってもよい。開示されている組成物を使用することにより改良された装置のいくつかの追加の非徹底的な説明が、以下に続く。
【0094】
他の好ましい実施形態において、開示されている組成物は、乾燥化学作用層またはそれより前の受け入れ層のコンポーネントの中である。開示されている組成物を乾燥化学作用層またはそれより前の層に含めることにより、タンパク分解または付加体の形成が原因であるタンパク質プロフィールにおける変化を起こすことなく、液体画分を収集することができる。乾燥化学作用層は、接合抗体(conjugated antibodies)のような分析物を含んでもよい。EPOCAL(商標)により開発されたある一つの装置では、サンプルが、検出ゾーンに保持される複合体を形成するためにサンプル受け入れ層に与えられる。検出は、ワン・ステップ免疫測定生成物プラットフォーム(one-step immunoassay product platform)または免疫クロマトグラフィーストリップ(immunochromatographic strip)中の保持された複合体の酵素活性に基づく。
【0095】
手順があまり複雑ではないか、あるいは全く複雑ではなく、早く、再現性があり、使用が簡単な装置が、高く望まれている。さらに、装置は、判読するのが用意で、正確な結果を生み出さなければならず、装置自体が、一個あたりの単価が低い質量数(mass quantities at a low per unit cost)で製造されることができなければならない。
【0096】
全血を直接使用するための迅速な診断を開発する試みがなされてきた。例えば、試験紙に接触するサンプルのより大きな成分の接触を妨げるための半透膜で覆われた試験紙が、開発されてきた(例えば、米国特許第3092465号を参照のこと)。他の例は、血液の溶解した成分だけが透過できて、赤血球は透過できない膨潤可能なフィルムを使用することである(例えば、Federal Republic of Germany Patent Specification No. 15 98 153を参照のこと)。この開示によれば、そのような装置は、紙およびゲルのような関連性のあるマトリックス中に開示されたプロテアーゼ阻害物質およびキレート剤組成物を追加することで改良されるべきである。
【0097】
赤血球から液体画分を分離する従来の方法は、遠心分離である。しかしながら、特に少量のサンプル、例えば50マイクロリットル、または数マイクロリットル未満でさえもあるサンプルを使用する場合には、このことが、上澄みと沈殿した細胞性成分との分離の問題を生じさせる。さらに、従来の方法は、医者、看護師、技術者、または検査員によるより多くの手扱い時間を必要とする。そのようなさらなる取り扱いは、一般的に、効率的にも、衛生学的理由でも望ましくない。その上、いくつかのポイント・オブ・ケアの状況では、遠心分離は、利用可能ではないこともある。
【0098】
サンプリングされた血液中の血球から液体画分を分離するためのいくつかのセパレータが、本技術分野で知られている。例えば、米国特許第4,477,575号、および同第4,816,224号を参照のこと。これらの特許文献は、血液から液体画分を分離するために、0.2〜5ミクロンの平均繊維直径を備え、0.1〜0.5gm./mLの密度を有するガラス繊維を使用することを開示している。事実、今や、数十マイクロリットルのオーダーの血液サンプルからの液体サンプルをアッセイすることが可能である。
【0099】
米国特許第5,135,719号に記載されている血液分離装置は、全血の液体画分から、細胞性成分、例えば赤血球を分離するための凝集素を備えたガラスマイクロ繊維フィルターまたは複数のフィルターを含んでいる。凝集素は、血球の凝集を促進し、これにより、ろ過処理を改善する。フィルターから下流の適用への血漿の移動のための駆動力は、管状キャピラリーにより提供されるキャピラリー力である。
【0100】
理論に縛られることを意図するものではないが、本明細書中に開示されている結果の観点から、興味の対象、特には、BNPに関連するもののようなナトリウム利尿ペプチドのペプチドプロフィールをより良く保護するために、本明細書中で開示されているキレート剤−プロテアーゼ阻害物質組成物を含浸すること、または別の方法で加えることのいずれかが望ましいと考えられる。
【0101】
ガラス繊維フィルターに加えて、ポリスルホン樹脂およびその他の繊維が、血液セパレータにおいて利用されてもよい。ポリスルホン樹脂は、化学的に非常に耐性があり、いくつかの望ましい機械的特性をも有する。しかしながら、ポリスルホン樹脂は、興味の対象、特には、BNPに関連するもののようなナトリウム利尿ペプチドのペプチドプロフィールをより良く保護するために、本明細書中で開示されているキレート剤−プロテアーゼ阻害物質組成物が含浸される(または、その他の方法で補充される)ことができる、シート素材の形態または繊維としてのいずれかで、微孔構造に変換されなければならない。
【0102】
水疱の液体のような生物学的液体は、根底にある血漿組成物をもたらし、このため、多くの場合、興味の対象であるペプチドプロフィールについてアッセイするために好適である。加えて、唾液および涙だけでなく、脳脊髄液、精液、リンパ液、血液、血清、汗、水疱の液体、肺の液体、唾液、涙腺分泌物、または尿などが、興味の対象であるペプチドの存在およびレベルについてアッセイされることができる。唾液および涙の場合には、好ましい実施形態では、新たに誘導された分泌物がサンプリングされる。新たな分泌物は、血漿組成物をもたらし、汚染物を含まない可能性がより高いだけでなく、容認できる再現性を示す。例としては、好ましい実施形態においては、クエン酸またはクエン酸塩が、適時に唾液分泌物を誘導するように使用される。同様に、多くの既知の薬剤が、被験者に対して過度の不快感を引き起こすことなく、涙腺から涙分泌物を誘導することができる。さらには、好ましい実施形態では生物学的液体として血清は利用されないが、メタロプロテイナーゼの特異的な阻害物質の使用、および好ましくはかなりの細胞の溶解の無い、血清液体画分の迅速な調製のように、タンパク分解に対する保護を備えた血清は使用することができることに注意しなければならない。
【0103】
そのように得られた各液体画分のペプチドおよびタンパク質のレベルは、液体が身体において分泌または形成された方法に依存する。ほとんどの場合では、生物学的液体の組成物は、タンパク質のろ過、液体へのタンパク質の分泌、およびイオン性組成物を制御するための活発な輸送が原因である改質を備えた血漿に関連している。血漿の広範に改質された変種の一例は、尿である。尿は、最初にタンパク質およびその他の大きい血液成分がろ過除去され、排泄されることが必要になる最終生成物が高く濃縮された尿を形成するように、ほとんどの水が再吸収され、その後イオンと共に、グルコースおよび僅かなその他の成分が再吸収されることにより、腎臓で形成される。
【0104】
ひとたび液体画分が得られると、比較的迅速にアッセイされるか、または引き続くアッセイのために貯蔵されることができる。そのようなアッセイは、抗体を備える液体画分からの最初の分離により興味の対象であるペプチド断片を検出し、続いて、分離された断片の質量または移動度についてアッセイすることを含むことができる。興味の対象であるいくつかの技術は、電気泳動法、等電点分離法、質量分析などである。
【0105】
加えて、サンドイッチアッセイにより断片の特性を表すことが可能であり、このアッセイでは、他の抗体もしくは分子、または現在比較的に精製された分子との親和性を備えた複合体が、興味の対象である特異的なペプチド(複数のペプチド)を検出するのに使用される。検出のいくつかの方法は、磁性音響学的検出(magneto-acoustic detection)のような技術を含んでもよく、この技術では、結合質量(bound mass)における変化が原因である振動数の変化が、精製ステップを検出ステップに組み合わせるシステムで検出される。代替的に、化学発光、蛍光、または酵素の最終産物(end results)が、マイクロ流体実行(microfluidic implementation)におけるものも含めて、興味の対象であるペプチドを定量化するために使用されてもよい。
【0106】
本明細書中に開示されているのは、興味の対象である生物学的液体中のタンパク質プロフィールをサンプリングするための方法でもある。そのような方法では、いくつかの好ましいステップが、有効量の金属キレート剤を生物学的液体のサンプルに加えると共に、セリンプロテアーゼを不活化するのに好適な有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質を加えることと、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルセリンプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質を加えることとを含み、これにより、サンプリングされたタンパク質プロフィールが、付加体の形成により本質的に改質されない。
【0107】
そのようなサンプルは、摂氏マイナス70℃で少なくとも6ヶ月間、または室温で少なくとも2時間にわたって貯蔵されてもよい。
【0108】
この方法はさらに、開示されている組成物で、診断および血液/液体サンプリング装置を改良することを含んでもよい。この方法はさらに、腎臓組織からのもののような組織診からのものを含めた、組織サンプルについてアッセイするのに開示されている組成物を使用することを含んでもよい。BNPのようなナトリウム利尿ペプチドと関連して、腎臓組織診が、cGMPのレベルを評価するために使用されてもよく、cGMPは、循環するANPまたはBNPの作用が原因で、細胞内で生成されるものである。加えて、ナトリウム利尿ペプチド、従ってレセプターの局所的なレベルが評価されることができ、腎臓の機能をより良く理解するために、ナトリウム利尿ペプチドに対する応答性もまた評価されることができる。
【0109】
本明細書中に記載されている、例および実施形態は、単なる例証の目的のためのものであること、また、これを考慮に入れた種々の改良または変更が、当業者により提案されるであろうこと、そして本出願の精神および視野、ならびに添付の請求項の範囲内に含まれるべきであることが理解される。
【0110】
本明細書中に引用されている全ての公報、特許、および特許出願は、全ての目的のためにそれら全体が参照として本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、ANPおよびBNPのアミノ酸配列および二次元構造を示している。
【図2】図2は、質量分析(「MSIA」)により明らかにされたBNP1ー32の時間経過を描写している。BNP1ー32を100ng/mLでヘパリン血漿に加え、引き続き、室温で6時間インキュベーションした。一定分量を取り除き、BNPタンパク分解の進行をモニターするために毎時MSIAで分析した。
【図3】図3は、BNPタンパク分解の間の総BNP種の率(fraction)としての、BNP種の時間経過を示している。各々のBNP種は、図2の質量スペクトルでのピークの強度から評価される。
【図4】図4は、BD P100血液採集管を用いて採集された血液中のBNPタンパク分解を示している。この時間経過は、BD P100中のプロテアーゼ阻害物質が、BNP3ー32の形成を越えて加水分解が進むのを妨げることを示している。
【図5】図5は、プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(EMD catalog no. 535140)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。この時間経過は、プロテアーゼ阻害物質がBNP加水分解を削減し、時間にわたって共有結合性付加体の生成を引き起こすことも示している(より高いm/zでのピークにより示されている)。
【図6】図6は、プロテアーゼ阻害物質ペプスタチンA(Calbiochem catalog no. 516482)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、BNPタンパク分解に対してほとんど効果がないこと、または全く効果がないことを示している。
【図7】図7は、プロテアーゼ阻害物質E64(Calbiochem catalog no. 324890)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、BNPタンパク分解に対してほとんど効果がないこと、または全く効果がないことを示している。
【図8】図8は、プロテアーゼ阻害物質ベスタチン(Calbiochem catalog no. 200484)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、0.5mMのベスタチンが、BNPタンパク分解に対してほとんど効果がないか、または全く効果がないことを示している。
【図9】図9は、プロテアーゼ阻害物質ロイペプチン(Calbiochem catalog no. 108975)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、0.1mMのロイペプチンのBNPタンパク分解を遅くする能力を示している。
【図10】図10は、3時間までの間、1mMのプロテアーゼ阻害物質AEBSFで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図11】図11は、2.5mMまたは5mMのプロテアーゼ阻害物質AEBSFで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図12】図12は、プロテアーゼ阻害物質PPACK Iで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図13】図13は、プロテアーゼ阻害物質PPACK IIで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図14】図14は、1mMのプロテアーゼ阻害物質ベンザミジンで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図15】図15は、2.5mMのAEBSFおよび2.5mMのロイペプチンからなるプロテアーゼ阻害物質の反応混液で処理された血漿中での、BNPタンパク分解のほとんど完全な阻害を示している。
【図16】図16は、ヘパリン血液採集管(左側のスペクトルの組)またはEDTA血液採集管(右側のスペクトルの組)に採集された血液からの血漿中でのBNPタンパク分解を示している。EDTAを備える採集管は、BNP3ー32の形成を引き起こすBNP加水分解を削減している。
【図17】図17は、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンを含むEDTA管において採集された血液からの血漿中のBNPタンパク分解の妨害を示している。質量スペクトルは、BNP1ー32をインキュベーションしている間の2時間にわたってBNPプロフィールにおけるわずかな変化を実証している。
【図18】図18は、EDTA管を用いて採集された血液からの血漿中での6ヶ月間にわたるBNP安定性を示している。EDTA管における血液の採集に引き続いて、血液中のBNP1ー32の短期の分解の後で、プロテアーゼ阻害物質(10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジン)を加えた。全血の遠心沈降から回収した血漿を、−70℃で貯蔵した。貯蔵した血漿の一定分量を、採集した日、および6ヵ月後にテストした。ビオチン標識されたBNP(bBNP)を、6ヵ月後にテストした一定分量中の内部基準(internal reference)として役立てるために加えた。BNP1ー32とBNP3ー32との間の割合が、大きくは変化していない。
【図19】図19は、EDTAを含む管において採集された血液からの血漿中での6ヶ月間にわたるBNP安定性を示している。血液の採集に引き続いてBNP1ー32を加え、全血の遠心沈降から回収した血漿を−70℃で貯蔵した。貯蔵した血漿の一定分量を、採集した日、および6ヵ月後にテストした。添加したビオチン標識されたBNP(bBNP)を、6ヵ月後にテストした一定分量中の内部基準として役立てた。BNP3−32に対するBNP1−32のピーク強度の割合の比較が、BNP3ー32の形成を引き起こすBNP1−32のタンパク分解を実証している。
【図20】図20は、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンを含むEDTA採集管におけるBNP加水分解の妨害を示している。血液をEDTA管において採集し、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンで処理した。そして、合成したBNPペプチド、BNP1ー32、BNP3ー32、BNP2ー31、BNP5ー32、BNP5ー31、BNP4ー30、およびBNP4ー27を血漿の調製の前に採集した血液に加えた。貯蔵の前、および−70℃で7週間にわたる血漿の貯蔵の後でBNPペプチドの安定性について一定分量をテストした。7週間の貯蔵の後に対する貯蔵の前のBNPペプチドの間の割合の比較により、EDTA、10mMのAEBSF、および20mMのベンザミジンの存在中でのBNPペプチドの安定性の証拠が示されている。
【図21】図21は、サンプル採集のために開発されたプロトコルを用いて、健康な個体からの血漿(下側)に対するHF患者からの血漿(上側)におけるBNP安定性の比較を示している。プロテアーゼ阻害物質AEBSFおよびベンザミジンを含むEDTA真空容器を用いて健康体およびHF患者の両方から血液を採集した。血液サンプルから採集した血漿を、BNP特異的MSIAを用いてBNPについて調査した。
【図22】図22は、サンプリングされたタンパク質プロフィールの改質を削減または排除するために開示されている組成物の援助を受けて液体をサンプリングするための2つの装置を示している。
【開示の内容】
【0001】
〔開示の背景〕
本開示は、全般的に、血液、尿などのような生物学的液体中のナトリウム利尿性およびその他のペプチドをサンプリングすることに関する。より詳しくは、本開示は、分析のために、サンプリングされた生物学的液体中の興味の対象であるタンパク質およびペプチドのプロフィールを保護することに関する。というのも、そのようなペプチドおよびタンパク質の続くタンパク分解または改質が、後の分析を疑わしいものにすることがあるためである。本開示はまた、うっ血性心不全(「CHF」)の患者の診断および病期の決定(staging)のために使用されるBNPテスト法および生化学的マーカーの性能のモニタリングのためにも有用である。
【0002】
心不全(「HF」)は、心臓の機能不全が原因で心室の収縮もしくは弛緩の機能、またはその両方を損なう。このことは、心臓が、身体の必要性に適応する十分に酸素が豊富な血液をポンピングすることができないことをもたらす。CHFはさらに、肺中の液体の貯留、および息切れ(呼吸困難)を含む。心臓は、CHFおよびHFの肺中の液体の貯留ならびにその他の影響と戦うのを助けるナトリウム利尿ペプチドを分泌することにより液体ホメオスタシスのこの乱れに反応する。
【0003】
ナトリウム利尿ペプチドは、血圧、電解質バランス、および液体容量を調節するホルモンの分類である。ナトリウム利尿ペプチドの二次構造は、図1の心房性ナトリウム利尿ペプチド(「ANP」)およびB型ナトリウム利尿ペプチド(元々は、「脳性ナトリウム利尿ペプチド」(「BNP」)と称されていた)については、示されているように2つのシステイン残基の間の内部のジスルフィド結合により形成されるループを含む。興味の対象であるその他のナトリウム利尿ペプチドは、C型ナトリウム利尿ペプチド(「CNP」)およびデンドロアスピスナトリウム利尿ペプチド(Dendroaspis natriuretic peptide)(「DNP」)である。後者は、元々は、マンバのヘビ毒から単離されていた。例えば、米国特許出願公開第20020082219号を参照のこと。CNPは主に、脳下部構造(brain substructures)および内皮により分泌される。CNPは主に、脳および脳脊髄液で見られ、たとえあったとしても僅かにだが心臓にも存在する。
【0004】
ナトリウム利尿ペプチドの構造、機能、およびプロセシングは、種にわたって保存される。既知である全てのナトリウム利尿ペプチドは、ジスルフィド結合により形成される内部ループを有するようである。DNPはさらに、ANP、BNP、およびCNP、ならびにDNPにいくつかのヒトエピトープを標識させるための抗体との類似性を示す。DNPは、ANPおよびBNPと同様の作用を有しており(例えば、Circulation Res.におけるSinghら(2006年6月15日にオンライン公開されたDOI:10.1161/01.RES0000232322.06633.d3)を参照のこと)、また、外観上は、ANPおよびBNPと比較して、より長い半減期を有する。例えば、Lisyらの(2001) Hypertension 37, pp.1089-1094を参照のこと。事実、ヒトナトリウム利尿ペプチドの推定上の相同体は、ヤツメウナギおよびメクラウナギを含めた魚類と同じくらい遠い種において単離されてきた。例えば、Kawakoshiらの(2006) General and Comparative Endocrinology 148, pp.41-47を参照のこと。これらの遠く関連するペプチドは、保存されたプロセシングおよび開裂部位、ならびに図1に示されたループ構造を示す。
【0005】
ANPは、心臓の心房から生じる28−アミノ酸ホルモンである。筋細胞内では、ANPは、プレプロ−ANP(151−アミノ酸ペプチド)として合成され、このプレプロ−ANPは、プロ−ANP(126−アミノ酸ペプチド)を得るために開裂される。プロ−ANPはさらに、プロテアーゼCorinにより処理される(例えば、Wuらの(2005) Biochimica and Biophysica Acta. 1751:1, pp.82-94を参照のこと)。プロ−ANPはまた、28−アミノ酸活性ANPペプチドを得るために、少なくともインビトロではプロテアーゼFurinによっても処理されることができ、カリクレインおよびトロンビンのような血清プロテアーゼによっても処理されることができる。例えば、Gibsonらの(1987) Endocrinology 120, pp.764-772を参照のこと。28−アミノ酸ANPペプチドはさらに、中性エンドペプチダーゼ(EC 3.4.24.11)により分解される。例えば、上方のWuらを参照のこと。
【0006】
BNPは、壁の伸展および容量の過負荷の増加に反応して、室中の筋細胞および線維芽細胞により分泌される32−アミノ酸ペプチドである。筋細胞内では、BNPがプレプロBNP(134−アミノ酸ペプチド)として合成され、このプレプロBNPは、分泌されたプロBNP(108−アミノ酸ペプチド)を得るために開裂される。プロBNPはさらに、これから決定的な同定がなされるプロテアーゼにより32−アミノ酸活性BNPペプチドを得るために処理される。インビトロでは、Corin(例えば、上方のWuらを参照のこと)およびFurin(例えば、Sawadaらの(1997) J. Biol. Chem. 272:33 pp 20545-20554を参照のこと)のようなプロテアーゼは、プレプロBNPを処理することができる。32−アミノ酸BNPペプチドはさらに、30−アミノ酸活性ナトリウム利尿ペプチドを得るためにジペプチジル−ペプチダーゼIVのようなエンド−ペプチダーゼにより開裂されることができる。このことは、インビトロで観察されてきた。インビボでは、30−アミノ酸ペプチドが、数種のペプチドを生成するためにタンパク分解に供される。プロ−BNPの複数のペプチド断片が、血漿中で検出されてきた。例えば、Clinica Acta. (2002) 316, pp.129-135におけるShimizuらを参照のこと。32−アミノ酸BNPペプチドは、循環している血液中のプロテアーゼによっても生成され得る。例えば、Huntらの(1997) Peptides 18, pp.1475-1481を参照のこと。
【0007】
一般に、血漿レベルのナトリウム利尿ペプチドは、プロペプチドの分泌、タンパク分解プロセシング、およびそれらのクリアランスの間にバランスをもたらす。BNPは、タンパク分解のほかに、レセプター媒介性クリアランスおよび腎臓によるろ過によっても不活性化される。
【0008】
血漿のBNP濃度は、うっ血性心不全の最も敏感で特異的な指標のひとつである。血漿のBNPに関連するペプチドの濃度は、CHFの患者において鋭く上昇する。結果として、救急室に到着する呼吸困難の患者において、多くの場合、BNPに関連するペプチドが調べられる。現在、プロ−BNPのアミノ部分についてのいくつかのアッセイでは、プロ−BNPとプロ−BNPの開裂したN末端部であるNt−プロBNPとの両方を検出する。結果として、このアッセイは、プロ−BNPレベルを正確に評価することができない。同様の考え方が、その他のアッセイにも適用される。
【0009】
Nt−プロBNPおよびBNPのレベルは、臨床的重症度および左心室の駆出率の信頼できる指標またはマーカーであるだけでなく、罹患率および死亡率の信頼できる指標またはマーカーでもある。近年、Nt−プロBNPおよびBNPは、CHFの重症度を診断し、分類するために使用されてきた。New York Heart Association(「NYHA」)により採用されたCHF分類によれば、BNPの平均濃度は、ステージI〜IVまで進行性で増加する。例えば、71pg/mL、204pg/mL、349pg/mL、および1022pg/mLの平均BNP濃度は、それぞれCHFステージIからIVまでに対応していた。CHFのステージIVは、不快感無しにいかなる身体的な活動をも行うことができないことにつながる、心臓病の最も高い重症度を表している。かかる病気のこのステージにある患者は、心臓病または冠状動脈症候群の症状を有することがあり、何らかの身体的な活動を試みると、休息しても不快感が増加する。
【0010】
CHFを被っている患者内の循環における検出可能なBNPの多くが、BNPの比較的不活性な前駆物質または断片の形態にあるようである。(現在使用されているアッセイにより)検出不可能な多くのさらなるBNPの断片が、未知の生物学的影響を伴って循環していることだろう。例えば、Heubleinらの(2007) Hypertension 49, pp.1114-1119を参照のこと。BNPに関連するペプチド断片の続くプロセシングが原因であるサンプリング誤差は、被験者によるBNP生産を評価することにおける不確定度を増す。
【0011】
全BNPであるBNP1−32は、報告されているところによれば、エンドペプチダーゼ ジペプチジル−ペプチダーゼIV(DPP IV)に対する基質であり(例えば、Brandtらの(2006) Clinical Chemistry 52, pp.82-87を参照のこと)、ジペプチジル−ペプチダーゼIVは、2つのN−末端残基を除去することによりBNP1−32を短くしてBNP3−32を生成するものであり、BNP3−32もまた生物学的に活性である。BNP3ー32はさらに、その他のプロテアーゼ(例えば、2007年9月6日にDOI:10.1161/CIRCRESAHA.107.153585でオンライン公開されたCirculation Res.におけるPankowらを参照のこと)により分解され、さらなるペプチドを生成する。トロンビン、プラスミンなどのようなプロテアーゼもまた、少なくともインビトロでプロ−BNPを開裂することができる。例えば、上方のHuntらを参照のこと。そのようなタンパク分解は、サンプリングされたBNPの続くタンパク分解が原因であるサンプリング誤差を増すと予期される。BNPは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(Matrix Metalloproteinases)をも含む。例えば、Tsurudaらの(2002) Circulation Res. 91, pp.1127を参照のこと。いくつかのメタロプロテイナーゼが、BNPをさらにタンパク分解するとして知られている(例えば、上方のPankowを参照のこと)。このように、非常に多くのプロテアーゼが、サンプリング誤差の潜在的な源である。
【0012】
結果として、患者からの血液または他の生物学的液体のサンプリングは、典型的には、診断上の適用およびその他の使用に対して重要であるBNPに関連するペプチドの情報の不正確な表示を提供する。例えば、Daniel L. Driesの(2007) Hypertension 49, pp.971-973,を参照のこと。この鮮明性の欠如は、BNPに関連するペプチドが続いて、BNPまたはサンプリング自体の行為により誘導されるプロテイナーゼによるタンパク分解を含めたサンプリング後のタンパク分解に供される可能性があることが原因である。
【0013】
そのような進行中のタンパク分解により導入される人為産物を削減または排除するためのサンプリングおよびプロセシング方法を利用する多くの試みがなされて来た。多くのセリンプロテアーゼが、BNP、そのタンパク分解生成物、またはその前駆物質上で作用するとして知られている。液体ではない組織については、水中での煮沸が、プロテアーゼを不活性化すると考えられている。例えば、Peptides (1997) 18, pp.1475-1481におけるHuntらを参照のこと。組織からBNPを精製する研究者は、BNPタンパク分解を妨げるために、アプロチニン、またはアプロチニンとベンザミジン(benzamidine)との組み合わせのようなセリンプロテアーゼ阻害物質を使用することを報告して来た。例えば、Clin. Chem. (1994) 40, pp.672-3におけるTsujiらを参照のこと。サンプリングの行為によるプロテアーゼの導入を制御するための多くの提案の中には、プラスチック管の使用がある。プロテアーゼ阻害物質を収容する血液採集管もまた利用可能である。一例は、BD P100 v1.1血液採集真空管(Becton, Dickinson, and Company catalog no. 8013142)である。CalbiochemからのPPACK I、PPACK II、およびプロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(Protease inhibitor cocktail set III)のようなプロテアーゼ阻害物質は、広域スペクトルプロテアーゼ阻害を提供する。しかしながら、これらの阻害物質は、技術的な限界およびそれらのコスト(下方を参照のこと)の両方が原因で、ナトリウム利尿ペプチド、およびそれらの断片または前駆物質のサンプリングのような適用に対しては、全く好適ではない。血液をサンプリングする場合、比較的低濃度でのタンパク分解を抑止するために、一部では、サンプリングされたタンパク質の共有結合性の改質を回避するために、AEBSFおよびベンザミジンのようなプロテアーゼ阻害物質が使用されて来た。
【0014】
多くの有効性が不十分なアプローチが、BNPおよびその他のペプチドのタンパク分解を削減するために採用されてきた。これらの方法は、プラスチック管を使用すること、または、採集されたサンプルもしくは広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質 ROCHE(商標)が提供するAEBSF(4−(2−アミノエチル)塩酸フッ化ベンゼンスルホニル(4-(2-Aminoethyl) benzenesulfonyl fluoride hydrochloride))(商品名PEFABLOC SC(商標)で分子量が239.5Da(3.977×10−22g)の水溶性セリンプロテアーゼ阻害物質)にEDTAを加えることを含む。AEBSFは、キモトリプシン、カリクレイン、プラスミン、トロンビン、およびトリプシンのようなプロテアーゼを阻害する。典型的な使用濃度は、100mMの原液で、0.1〜1.0mMの範囲である。
【0015】
AEBSFに関しては、ROCHE(商標)が、高濃度では、AEBSFがタンパク質およびペプチドとの共有結合性付加体を形成することが認められると示している。このように、そのような阻害物質は、推奨される濃度範囲の付近で使用される(例えば、米国特許公報第2006/0183681号(下方で考察される)ではAEBSFが0.125mMで使用されると開示されていることを参照のこと)。しかしながら、ROCHE(商標)は、阻害物質と共にパッケージ入りの商標つきの組成物、例えば、PEFABLOC SCPLUS(商標)(またはPEFABLOC SC PLUS(商標))の販売もしている。血液および血漿のような液体のサンプリングについての興味の対象である濃度で、付加体の形成が適切に妨げられるかどうかは知られていない。さらに、上述したように、セリンプロテアーゼに加えてプロテアーゼは、AEBSFにより効果的には阻害されないが、血漿中のBNPおよび関連するペプチドに反応することができ、またこれらを分解することができる。
【0016】
例証となる例、米国特許公報第2006/0183681号(「‘681公報」)は、BNPのさらなる加水分解を妨げるよく知られたプロテアーゼ阻害物質を記述している。‘681公報は、例えば、‘681公報の第42段落目を参照すると、サンプリングされた血液の血漿を貯め、そこから繊維素を除いて、続いてこれを脱脂(delipidizing)し、そして、総タンパク質濃度を調整して、続いてプロテアーゼ阻害物質であるベンザミジンおよびAEBSFを最終濃度がそれぞれ9.5mMおよび0.125mMとなるように追加し、そして、これを予め定められた量のBNPに追加強化(spiking)することにより、血清を基とする標準液を調製することを教示している。この血清を基とする調製は、−20℃で数日間は安定である。この公報は、血漿が得られるプロセス、または内在性のBNPおよびこれに関連するペプチドのレベルに対するサンプリングされた血漿の処理にかかる長時間の影響について、記述していない。事実、生物学的液体をサンプリングすることには向けられておらず、また、そのようなサンプリングに独特の問題が認識されていないか、あるいはいかなる解決法も提案されていない。
【0017】
米国特許公報第2004/0067889号(「‘889公報」)は、サンプリングされた生物学的液体中のBNPを保護するための組成物を開示している。‘889公報は、プロテアーゼ阻害物質PPACKおよびPPRACKが、サンプリングされた血液または血漿中のBNPのタンパク分解を抑止するのに最も効果的であることを開示している。さらに、これらの阻害物質は、単独でも、AEBSF、ロイペプチン、およびアンチパイン、ならびにベンザミジンと組み合わせても効果的である。‘889公報は、プロテアーゼ阻害物質とBNPの領域との構造上の類似性が、BNPの安定化におけるプロテアーゼ阻害物質の有効性の原因であると断定している。
【0018】
‘889公報は、組成物であって、生物学的液体をサンプリングしてその中のペプチドのプロフィールをこの組成物の2つまたはそれ以上の成分の相互間の相乗作用に基づいて保護するための効果的で効率的な組成物を開示していない。さらに、‘889公報は、サンプリングされたペプチドまたはタンパク質との付加体の形成が原因である人為産物を示さない、効率的で効果的なプロテアーゼ阻害物質組成物を開示していない。事実、PPACKおよびPPACK IIは、高価なプロテアーゼ阻害物質であり、事実、AEBSFよりも有意により高価である。したがって、サンプリング後のタンパク分解を妨げるための効率的な方法が、当業者に開示されていない。
【0019】
BNPについての多数のポイント・オブ・ケア診断テスト(point-of-care diagnostic tests)が、利用可能である。ABBOTT AxSYM(商標)、BAYER ADVIA CENTAUR(商標)、およびBIOSITE TRIAGE(商標)BNPアッセイは、BNPの決定のための最も広く使用されている定量的なテスト方法の一部である。ABBOTT AxSYM(商標)アッセイは、Microparticle Enzyme Immunoassay(MEIA)テクノロジーを利用しており、このテクノロジーは、ヒトBNP抗原と結合する抗BNP単クローン抗体で被覆された微小粒子を使用する。微小粒子上のこれらの抗原−抗体複合体は、蛍光生成物を得ることができる単クローン抗BNPアルカリホスファターゼ複合物と結合する。蛍光強度は、BNPレベルを決定するために使用される。BIOSITE TRIAGE(商標)BNPアッセイは、免疫蛍光定量的アッセイ(immunofluorometric assay)である。このアッセイでは、ウサギの組換え型多クローン抗体が、蛍光標識に結合され、また、BNPのジスルフィド結合で媒介されたリング構造に対抗するマウスの単クローン抗体が、固相に結合される。このアッセイでは、血漿が、蛍光性抗体複合物で処理され、BNPおよび蛍光性抗体複合物の複合体が、検出レーン上に捕獲される。検体中のBNPの濃度は、結合された複合体からの蛍光に比例する。BAYER ADVIA CENTAUR(商標)アッセイは、アクリジニウムエステルで標識された単クローンマウス抗ヒトBNP(BNP上のリング構造に特異的である)を第1の抗体とし、ビオチン標識された単クローンマウス抗ヒト抗体(BNPのC末端部に特異的である)を第2の抗体(固相)とする、2部位サンドイッチ免疫測定法(two-site sandwich immunoassay)である。複合体はさらに、ストレプトアビジン磁性粒子に結合する。ABBOTT AxSYM(商標)、BIOSITE TRIAGE(商標)、およびBAYER ADVIA CENTAUR(商標)BNPアッセイについての低い方の検出限界は、それぞれ、15pg/mL、5pg/mL、および2pg/mLである。
【0020】
BNPおよび類似のペプチドは、血清または血漿における安定性に乏しい。BNPは、特異的な細胞レセプターおよびエンドペプチダーゼを含めたプロテアーゼにより循環から除去される。BNPが安定性に乏しいのは、血漿または血清中の複数の天然のプロテアーゼによるタンパク分解によることに加えて、腎臓による排出、およびナトリウム利尿ペプチドレセプターC(NPR−C)を介した取り込みによるクリアランスが原因であり、NPR−Cは、腎臓において有足細胞領域に主に分布されている。NPR−Cは、潜在的に、BNPレベルを下方制御するメカニズムを提供する。結果として、インビボでのBNPの半減期(t1/2)は、ほぼ20分ほどのオーダーである。
【0021】
上述した難点にもかかわらず、血漿BNP濃度は、心臓の機能、および急性心筋梗塞の診断および予後のための好ましいマーカーである。血漿のBNPの濃度は、心臓の機能が低下すると、増加する。潜在的に、BNPは、さらなる心臓の研究および/または処置のために患者を予備スクリーニング(pre-screening)するための好ましい生化学的マーカーとして役立つことができる。しかしながら、サンプリングされたBNPの制限された安定性が、このことを困難にする。インビトロでは、BNPは、急速に、例えば、全血から血漿を分離して24時間以内に、タンパク分解される。例えば、Clinica Chimica Acta (2004) 340, 163-172におけるBelenkyらを参照のこと。冷蔵された貯蔵の間の進行性の分解は、BNPの正確な測定を難しくしている。
【0022】
このように、BNPについての現行で使用されている定量的なテストは、サンプリング後のプロBNPおよびBNP断片の続くタンパク分解が原因である回避可能な誤差を含む可能性がある。そのような誤差は、循環するBNPに関連するペプチド種の過大評価または過小評価のいずれかにつながり得る。
【0023】
サンプリング技術自体が、ナトリウム利尿ペプチド以外のペプチドの場合でさえも、一般的に興味の対象であるペプチドのレベルを測定するために重要になっている。
【0024】
したがって、引き続きのアッセイのために生物学的液体中のBNPおよびその他のペプチドを正確にサンプリングすることを可能にする、サンプリング方法、装置、および組成物の必要性がある。
【0025】
〔開示の概要〕
生物学的液体中のペプチドを分析するためのその生物学的液体のサンプリングの根底にある問題、およびその解決方法の両方が、本明細書中に開示されている。より詳細には、サンプリングされた生物学的液体中のペプチドのタンパク分解を相乗的に妨げる組成物が開示されており、この組成物は、高濃度のフッ化スルホニル族プロテアーゼ阻害物質を、少なくとも1つの異なるタイプの追加のプロテアーゼ阻害物質、好ましくは、広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質、およびキレート剤と併用して用いる。好ましい実施形態では、10mMのAEBSF、20mMのベンザミジン、およびエチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)を使用する。他の好ましい実施形態では、ベンザミジンが、ロイペプチン、リソソームプロテアーゼの阻害物質に置き換えられることができる。開示されている組成物は、その特異性をさらに調節するためにその他のプロテアーゼ阻害物質、例えば、追加の標的酸性プロテアーゼと併用されてもよい。
【0026】
開示されている好ましい組成物は、フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質を、フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質の最終濃度が約2.5mM以上であることが原因である付加体の形成を本質的に排除する比率にある他のプテアーゼ阻害物質、およびキレート剤と併用する。フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質は、種々の高濃度で、例えば、他の好ましい実施形態では10mMで使用される。追加のプロテアーゼ阻害物質、還元剤、安定剤、および緩衝剤が、好ましい組成物と併用されてもよい。
【0027】
開示されている組成物は、サンプリングされた生物学的液体中に存在するプロテアーゼによるタンパク分解を相乗的に妨げるだけでなく、タンパク分解の阻害の範囲を広幅化し、血液の凝固を妨げながら、フッ化スルホニルを基とするプロテアーゼ阻害物質を使用するのによく起こる問題である興味の対象であるタンパク質およびペプチド上での付加体の形成を抑止する。開示されている組成物を使用して、例えば、この組成物が取り込まれている装置において採集されたサンプルは、数時間、室温で貯蔵されるか、あるいは数ヵ月後でされあり得る後の分析のために凍結されることがある。最も詳細には、この組成物は、BNPのようなナトリウム利尿ペプチドをサンプリングし、そのレベルを決定するために有用である。
【0028】
興味の対象であるペプチドとしては、ナトリウム利尿ペプチド(天然の、合成の、または組換え型の)を含む。ペプチドのプロフィールは、投与された、あるいは誘導されたナトリウム利尿ペプチドのレベルがモニターされる場合も含めて、合成のナトリウム利尿ペプチドからの寄与を含んでもよい。好ましくは、サンプリングされたペプチドまたはタンパク質のプロフィールは、自然に発生するナトリウム利尿ペプチドのプロフィールである。好ましくは、投与された、または誘導されたナトリウム利尿ペプチドは、ANPおよびBNPからなる組から選択される。より詳細には、本開示は、ヒトを含めた哺乳類の血漿または血清、特には、ヒト血漿またはヒト血清、より特別には、処理されたヒト血漿をサンプリングすることを含む。さらにより詳細には、引き続きの分析のためにペプチドプロフィールを保護することにおける、1つまたはそれ以上の任意で置換されたアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質、ならびに、ベンザミジンまたは他の広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質またはリソソームプロテアーゼ阻害物質の有効性が開示されている。
【0029】
したがって、本明細書中には、興味の対象である生物学的液体中のタンパク質プロフィールをサンプリングするための、問題になっている組成物が開示されていて、この組成物は、有効量の第1のアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質、ならびに、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質であって、追加の広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質は、セリンプロテアーゼを阻害するものである、第2のプロテアーゼ阻害物質、ならびに、有効量のキレート剤を含む。この組み合わせはまた、血液がサンプリングされる生物学的液体である場合には、血液の凝固を妨げる。
【0030】
特に、フッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質の存在により、サンプリングされたタンパク質プロフィール中に付加体は本質的には形成されない。キレート剤とプロテアーゼ阻害物質とのこの組み合わせは、経済的で製造が容易であり、サンプルが室温で2時間および/または摂氏マイナス70度(seventy degrees centigrade below zero)に6ヶ月間貯蔵されたときでさえも、サンプリングされた生物学的液体を付加体の形成による改質が本質的に無いままにする。
【0031】
好ましい実施形態において、開示されている組成物は、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸を含有する。好ましい実施形態において、開示されている組成物は、第1のプロテアーゼ阻害物質としてAEBSFを含む。好ましい実施形態において、開示されている組成物は、第2のプロテアーゼ阻害物質としてベンザミジンを含む。代替的に、第2のプロテアーゼ阻害物質は、ロイペプチンであるように選択されてもよい。
【0032】
第1のプロテアーゼ阻害物質としてAEBSFを選ぶことに代わるものとして、フッ化スルホニルが、(2−アミノエチル)−フッ化ベンゼンスルホニル、フッ化フェニルメタンスルホニル、4−アミジノフェニル−フッ化メタンスルホニル、3−フッ化アセチルベンゼンスルホニル、2−フッ化アミノベンゼンスルホニル、3−(3−クロロフェノキシアセトアミド)フッ化ベンゼンスルホニル、およびペプチドアミノベンゼンフッ化スルホニルから選択される。
【0033】
また、興味の対象である生物学的液体中のタンパク質プロフィールをサンプリングするために有用な装置も開示されており、この装置は、生物学的液体の液体画分を受け入れるためのコンポーネントを具備しており、このコンポーネントは、有効量の第1のアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルセリンプロテアーゼ阻害物質と、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルセリンプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質とを含んでおり、ここで、サンプリングされたタンパク質プロフィールは、室温で少なくとも4時間にわたるインキュベーションによっても、プロテアーゼ阻害物質により、付加体の形成によって改質されない。プロテアーゼ阻害物質−キレート剤の組成物は、凍結乾燥の形態を含めた固体の形態で存在してもよく、あるいは、液体として存在してもよい。この組み合わせは、経済的で、製造が容易であり、サンプルが室温で4時間および/または摂氏マイナス70度で6ヶ月間にわたって貯蔵されたときでさえも、サンプリングされた生物学的液体を、付加体の形成による改質が本質的に無いままにする。
【0034】
また、有効量の金属キレート剤を生物学的液体のサンプリング時に加えることと、有効量の第1のアルキルもしくはアリールフッ化スルホニルセリンプロテアーゼ阻害物質を加えることと、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルセリンプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質を加えることにより、生物学的液体をサンプリングするための方法も開示されている。この組み合わせは、経済的で、製造が容易であり、サンプルが室温で4時間および/または摂氏マイナス70度で6ヶ月間にわたって貯蔵されたときでさえも、サンプリングされた生物学的液体を、付加体の形成による改質が本質的に無いままにする。
【0035】
これらの特徴およびその他の特徴が、次に説明される例証となる図面およびチャートに援助されながら記述される。
【0036】
〔詳細な説明〕
本開示は、例えば、ANP、BNP、CNP、およびDNPといったナトリウム利尿ペプチドのレベルまたは有効性をモニターするために、生物学的液体のサンプリングでその生物学的液体の中のペプチドのプロフィールを保護することを可能にする。サンプルは、ナトリウム利尿ペプチド以外のペプチドについてアッセイするためにも有用である。
【0037】
本明細書中で使用されている用語「ナトリウム利尿ペプチド(natriuretic peptide)」および「ナトリウム利尿ペプチド(natriuretic peptides)」は、一般的なペプチド、特には、ANP、BNP、CNP、およびDNPだけでなく、プロ−ペプチドおよびプレプロ−ペプチド、例えば、上述したプロBNPおよびプレプロBNPのような、そのようなペプチドの前駆物質をも含む。この用語は、そのような物質を、外因性または内在性のいずれにせよ、天然に存在するものであろうと、または合成されるものであろうと、あるいは、組換えDNA技術を用いて調製されるものであろうと、含む。
【0038】
本明細書中で使用される「有効量」は、本開示および当技術分野の現行の状況の観点から、不適当な実験法を用いることなく決定されることができる物質の量である。プロテアーゼ阻害物質またはキレート剤の有効量は、プロテアーゼ阻害物質またはキレート剤の濃度が、有効な濃度であるか、またはそれよりも多いことを確実にするように、サンプリングされた生物学的液体の予期される容量に加えられる重量または容量である。サンプリングされた生物学的液体のそのような容量は、有効容量と称されることもある。
【0039】
1つまたはそれ以上のリソソームプロテアーゼ阻害物質ロイペプチンと組み合わせたセリンプロテアーゼ阻害活性を示すフッ化スルホニル、およびベンザミジンのような広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質は、開示されている組成物において使用するのに好適である。特に、好ましいプロテアーゼ阻害物質は、セリンプロテアーゼの活動を阻害し、セリンプロテアーゼの触媒作用部位にあるセリン残基と共有結合的に反応することができる。
【0040】
本開示の組成物、キット、および方法において使用するのに好適なフッ化スルホニルは、任意で置換されたアルキルおよびアリールフッ化スルホニルを含み、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、プラスミン、トロンビン、またはカリクレインのタンパク分解活性を(標識されたカゼインまたはその他の好適なペプチド基質のような基質を用いて)阻害する。
【0041】
本明細書中で使用される用語「アルキル」は、直鎖もしくは分岐した鎖、または非芳香族環式(non-aromatic cyclical)、炭化水素基、あるいはこれらの組み合わせを、任意で置換された変種を含めて、意味している。許容できる置換基は、そのような部分について一般的に見付かっているものを含むが、ただし、それらは、問題の化合物のプロテアーゼ阻害活性に有意に干渉しないものとする。
【0042】
本明細書中で使用されている「アリール」は、多価不飽和の、典型的には芳香族の、炭化水素置換基を、任意で置換された変種を含めて、指している。
【0043】
本開示は、サンプリング装置、組成物、または方法における成分としてのアルキルおよびアリールフッ化スルホニルの適合性を、一部では、本開示において記述されているように、ナトリウム利尿ペプチドを迅速に開裂する、ヒト血清または血漿のような、サンプリングされた生物学的液体において遭遇されたプロテアーゼの点から見て、サンプル保護のために広域スペクトルプロテアーゼ阻害を提供しながら、付加体の形成を克服するという開示されている組み合わせ物の能力に基づかせる。
【0044】
フッ化スルホニル類における好ましいプロテアーゼ阻害物質は、(2−アミノエチル)−フッ化ベンゼンスルホニル(AEBSF、化学式:C8H10NO2SF.HCl、分子量:239.7)である。これは、弱塩基性(pH8〜9)の条件下で遅い加水分解による広い阻害活性を示し、水溶性である。その他の候補のフッ化スルホニルとしては、例えば、フッ化メタンスルホニル、フッ化フェニルメタンスルホニル(PMSF)を含む。
【0045】
好ましい実施態様においてフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質に付け加えられる有用なものは、ベンザミジン(化学式:C6H5C(NH)NH2HCl、分子量:156.6)であり、これは、セリンプロテアーゼも阻害する広域スペクトルプロテアーゼ阻害物質である。
【0046】
好ましい実施形態においてフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質に付け加えられる有用なものは、ロイペプチンであり、これは、セリンプロテアーゼも阻害する広域スペクトルリソソームプロテアーゼ阻害物質である。
【0047】
2つまたはそれ以上のプロテアーゼ阻害物質の組み合わせを含有するフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質に付け加えられる有用なものは、キレート剤である。好ましい実施態様において、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)である。
【0048】
2つまたはそれ以上のプロテアーゼ阻害物質であって、そのうちの少なくとも1つはフッ化スルホニルである、プロテアーゼ阻害物質、およびキレート剤の開示されている組成物に付け加えられる有用なさらなるものは、追加のプロテアーゼ阻害物質およびそれらの混合物である。
【0049】
全般に、ナトリウム利尿ペプチドに満足のいく安定性を提供するために、フッ化スルホニルおよびベンザミジンプロテアーゼ阻害物質は、適正な量で利用される。たとえば、サンプリング装置、組成物、および方法は、約5.0mM〜約100mM、好ましくは約10mM〜約50mMのフッ化スルホニルプロテアーゼ阻害物質を、約5.0mM〜約100mM、好ましくは約10mM〜約50mM、最も好ましくは約20mMのベンザミジンプロテアーゼ阻害物質と組み合わせて使用する。代替の実施形態において、ロイペプチンのような広域スペクトルリソソームプロテアーゼ阻害物質が、ベンザミジンの代わりに、あるいはベンザミジンに加えて、使用されてもよい。ロイペプチンの濃度は、好ましくは約2.5mM以上、より好ましくは約5.0mM以上、最も好ましくは少なくとも約10mMである。プロテアーゼ阻害物質のそのような濃度は、それらが、好ましくはEDTAのようなキレート化剤と組み合わせて、広域スペクトルプロテアーゼ阻害を強化しながら、フッ化スルホニルの使用により付加体の形成を実質的に妨げるので、本明細書中では「有効量」と称される。
【0050】
下記の例および説明は、本明細書中に開示されている組成物を取り込んでいる組成物および実施形態を例証する。
【0051】
ナトリウム利尿ペプチドの様々な種のレベルを測定するのに望ましいことは、BNP、および心不全(HF)の診断/予後、および液体ホメオスタシス中の乱れに関連して、(上方で)論述されてきた。付加体の形成が原因である化学的改質、あるいは続くタンパク分解が無い状態で、サンプリングされたペプチドプロフィールを保護することがさらに望ましい。
【0052】
ナトリウム利尿ペプチドは、心不全、およびその他の乱れた関与する液体ホメオスタシスの重要なマーカーであるだけでなく、それらは、治療上の設定における意義でもある。多くの臨床的治験および患者の研究は、結果として、その後の分析、またはその他の患者および標準液のサンプルとの比較のために、生物学的液体サンプルを保護することが必要になる。このことは、サンプルが採集された時点で存在するペプチドプロフィールの慎重な保護を必要とする。開示されている組成物は、この問題に対する解決法を提供する。
【0053】
単純なプロ−BNPプロセシング模式図が、2循環するプロ−BNP誘導されたペプチドを提案しており、これらは、商業的に利用可能なBNPまたはNT−プロ−BNPアッセイにより検出されると考えられる。しかしながら、BNP−32がさらなる加水分解を起こし、DPP IVの作用が原因で、2つのN−末端アミノ酸残基が無いBNP形態(BNP3−32またはプロBNP79−108)を生成するため、BNPのさらなる形態が、循環、または生物学的液体の中に存在するという証拠がある。遭遇したタンパク分解の程度が、特に時間が経過した後の、データの解釈および評価を困難にする。さらには、冷蔵への即時のアクセスを必要としない頑強なポイント・オブ・ケア装置が、タンパク分解により複雑にされる。このタンパク分解はさらに、例1および表1で説明される。
【0054】
<例1>
BNP加水分解生成物を観察し、特性を表し、同定するために、質量分析免疫測定法(MSIA)を開発し、BNPの分析において利用した。この技術は、例えば、Nelsonらの(1995) Anal. Chem. 67, 1153-1158;Tubbsらの(2001) Anal. Biochem. 289, 26-35;Kiernanらの(2002) Anal. Biochem. 301, 49-56;Niederkoflerらの(2003) J. Lipid Res. 44, 630-639、ならびに、米国特許第6,783,672号;同第6,974,704号;同第7,083,723号;同第7,083,724号;同第7,087,163号;同第7,087,164号;同第7,087,165号;および同第7,087,163号に広く記載されている。基本の方法論は、BNPに関連して記載されているが、この技術は、ANPおよびその他の興味の対象であるペプチドにも適用可能である。
【0055】
手短には、BNP加水分解の生成物を観察し、同定するために、MSIAは、質量分析検出のためにBNPおよび多くのその加水分解生成物を抽出するのに、親和性の捕獲を使用することを必要とする。したがって、合成されたBNP1ー32を(ヘパリン処置された血液採集管に採集された血液からの)室温の血漿に加えた。血漿中にBNP1ー32を数回、追加強化(spiking)した後、追加強化された血漿の一定分量をBNP1ー32加水分解の進行をモニターするために分析した。100ng/mLのBNP1ー32の追加後、6時間に至るまで毎時、除去し、分析した一定分量における一連の分析の実施の結果を、図2に示す。ゼロ時での分析が、(BNP1−32の理論質量(theoretical mass)3465.08に一致して)3465.8m/zでのピークの出現により示されるように、BNP1−32に対応する大きく優位なピークだけでなく、BNP3−32、BNP1−30、およびBNP1−29またはBNP4−31の質量に対応する3280m/z、3171m/z、および3015m/zでのピークの提示により示されるBNP加水分解の生成物を示している。最後の2つの種は、類似のアミノ酸組成物が原因でこのチャートでは区別できない。各々の同定されたBNP加水分解ペプチドについての分子量を、以下の表1に示す。
【表1】
【0056】
BNP1−32を室温で、血漿中でインキュベートすると、BNP1−32が加水分解し続け、既に観察されたのよりもさらに多くの加水分解生成物を生み出すだけでなく、より小さいものすらも生み出す。室温の血漿に対するBNP1−32の追加後、4時間で、BNP3−32、BNP1−25、およびBNP5−29(最後の2つはそれらの類似のアミノ酸組成物が原因で互いに区別することができない)が優位な種であることから、BNP1−32の全てがより小さいペプチドへと処理されたように見える。
【0057】
時間にわたる総量に関するそれぞれの種の割合をプロットすると、1つのペプチドが生成され、そしてより小さいペプチドへと処理される速度が、図3に示されるように図示することができる。このタイプのプロットは、BNP加水分解、およびBNP1−32加水分解を妨げることにおけるプロテアーゼ阻害物質の効率をモニタリングするために有用である。
【0058】
<例2>
BNP1−32加水分解を妨げることができるプロテアーゼ阻害物質を同定するための研究を、スクリーニングで始めた。最初にテストしたのは、Becton Dikinson採集管(BD P100 v.1.1 tubes)で使用されているプロテアーゼ阻害物質反応混液であった。
【0059】
BD P100 v1.1血液採集真空管(Becton, Dickinson, and Company catalog no. 8013142)において商業的に利用可能なプロテアーゼ阻害物質反応混液を、BNPの加水分解を抑止することについてテストした。図4に示されているのは、BD P100 v1.1を使用して採集され、BNP1−32で追加強化された血液から提供された血漿からのサンプルを経時的に分析した例証的な結果である。質量スペクトルのそれぞれで観察されたのは、BNPの2つの種、BNP1−32そのままの形態とBNP1−32の加水分解が原因であるBNP3−32の切断されたBNP形態である。時間にわたるBNP種の割合のプロットは、たった30分後にBNP1−32の半分がBNP3−32に転化されたことを示し、BD P100により提供されたプロテアーゼ阻害物質がBNP1−32の加水分解を妨げることができないことを証明している。
【0060】
<例3>
テストした商業的に利用可能なプロテアーゼ阻害物質の他の反応混液は、EMD(catalog no. 535140)により提供されたプロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(血漿中1〜10に希釈された)であった。もう一度、ヘパリン血漿を、このプロテアーゼ阻害物質反応混液セットで処理し、続いて、BNP1−32を加え、室温でインキュベーションした。一定分量を、30〜60分毎に採集し、BNP加水分解についてテストした。この一定分量の質量スペクトル分析の結果を、時間にわたるBNP種の割合のプロットと共に、図5に示す。プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIIIがBNP1−32の加水分解を妨げるか、遅くすることが観察されたが、BNPの加水分解を妨げることに加えて、プロテアーゼ阻害物質反応混液は付加体の形成につながり、この付加体は、BNP1−32よりも僅かにより高い質量に位置するピークにより示されている。付加体の形成の程度は、インキュベーション時間に従い有意に増加している。
【0061】
プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIIIは、100mMの塩酸AEBSF(Calbiochem catalog no. 101500)、80μMのアプロチニン(Calbiochem catalog no. 616371)、5mMのベスタチン(Calbiochem catalog no. 200484)、1.5mMのE−64(Calbiochem catalog no. 324890)、2mMのヘミ硫酸ロイペプチン(Leupeptin hemisulfate)(Calbiochem catalog no. 108975)、リソソームプロテアーゼ阻害物質、および1mMの酸プロテアーゼ阻害物質であるペプスタチンA(Calbiochem catalog no. 516482)からなる。
【0062】
それにもかかわらず、ペプチド、および興味の対象、この場合にはBNPの断片のプロフィールを正確に保護することができないため、反応混液セットIIIは満足いくものではない。
【0063】
<例4>
次に、プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(EMD)に含まれているものの中のいくつかを含めて、個々のプロテアーゼ阻害物質を、上方に記載されているプロトコルを用いてテストした。手短には、ヘパリン血漿の一定分量を、プロテアーゼ阻害物質の各1つで処理した。血漿の各一定分量に対して、BNP1−32を10ng/mLで加え、室温でインキュベートした。一定分量を経時的に除去し、BNP加水分解について分析した。
【0064】
ペプスタチンAは0.1mMでは、図6に図示されているように、認め得るほどにはBNPの加水分解を妨げなかった。
【0065】
E64は、1mMでは、図7に図示されているように、認め得るほどにはBNPの加水分解を妨げなかった。
【0066】
ベスタチンは、0.5mMでは、図8に図示されているように、認め得るほどにはBNPの加水分解を妨げなかった。
【0067】
<例5>
さらなるテストにより、ロイペプチンおよびAEBSFをいくらかの阻害活性を持つと同定した。手短には、ヘパリン血漿の一定分量を、それらのプロテアーゼ阻害物質の各1つで処理した。血漿の各一定分量に対して、BNP1−32を10ng/mLで加え、室温でインキュベートした。一定分量を経時的に除去し、BNP加水分解について分析した。
【0068】
ロイペプチンは、0.1mMで、図9に図示されているように、BNPの加水分解を遅くした。
【0069】
AEBSFは、1mMで、図10に図示されているように、BNPの加水分解を遅くした。
【0070】
2.5mMおよび5mMのより高い濃度では、AEBSFは図11に図示されているようにほとんど完全にBNPの加水分解を阻害したが、同時に、AEBSFは図11に図示されている付加体の形成を引き起こした。
【0071】
<例6>
さらなるテストにより、塩酸ベンザミジン(Calbiochem catalog no. 199001)で生じる付加体を回避することにおいて、AEBSFと組み合わせて有効な安価なプロテアーゼ阻害物質のリストを追加した。塩酸ベンザミジンは、独自に阻害活性を持つ。手短には、ヘパリン血漿の一定分量をプロテアーゼ阻害物質で処理した。血漿の各一定分量に対して、BNP1−32を10ng/mLで加え、室温でインキュベートした。一定分量を経時的に除去し、BNP加水分解について分析した。
【0072】
加えて、二塩化水素PPACK I(Calbiochem catalog no. 520222)およびPPACK IIトリフルオロ酢酸塩(Calbiochem catalog no. 520219)も、各々1mMの濃度でテストした。PPACK I、およびPPACK IIは、それぞれ図12および図13に図示されているようにBNP加水分解の速度を遅くした。
【0073】
塩酸ベンザミジンは、1mMで、図14に示されているようにBNPの加水分解を遅くし、さらにPPACK I、およびPPACK IIよりも優れていたが、AEBSFほど有効ではなかった。
【0074】
<例7>
個々のプロテアーゼ阻害物質を適正な濃度で対にすることで、有意な程度まで付加体の形成を回避した。極めて優れた活性(complimentary activity)を有することが観察されたプロテアーゼ阻害物質が、対にすることで相乗的になる組み合わせの阻害活性をさらに改善した。対にしたプロテアーゼ阻害物質を、(i)BNP1−32から特定の加水分解生成物(例えば、BNP3−32)へのBNPの加水分解を妨げる点、あるいは、代替的に、(ii)BNPの加水分解を全面的に削減する点におけるそれらの有効性について評価した。
【0075】
AEBSFおよびロイペプチンがいずれも2.5mMの濃度の反応混液は、図15に図示されているように検出可能なBNP加水分解をほとんど排除すると言ってもよい程度までBNP加水分解を有意に遅くした。示されているように、より高い濃度のロイペプチンを使用すると、AEBSFの濃度をより低くすることができるが、その濃度は、ROCHE(商標)(上方を参照のこと)により推奨される範囲を上回っているままであった。付加体の形成も、AEBSFよりも約10倍の高さの濃度でベンザミジンを使用することにより排除された。
【0076】
<例8>
全血は比較的容易に得られ、原理的には価値ある情報を提供することができるにもかかわらず、信頼のおける迅速な診断アッセイにおける使用について、全血を取り扱うことにおける問題により全血の使用は制限されている。例えば、診断アッセイが比色作用に基づく場合、赤血球の溶血が誤差を導入する。読みが溶血によりもたらされる色により影響を受けることが無い場合でも、細胞の溶解産物の存在そのものが、結果として回収された液体画分の容量中の変種になるため、誤差の源となる。したがって、全血の細胞性成分を再現可能(reproducibly)に分離し、下流の適用およびテストのために安定な液体画分を生成することが望ましい。
【0077】
キレート剤は、抗凝血剤(blood anti-coagulants)として好ましい選択である。単一の個体からの血液を、ヘパリンおよびEDTAの両方の血液採集管に採集した。採集した血液を、細胞性成分を取り除くために遠心分離し、上澄み(血漿)を採集した。EDTAおよびヘパリン血漿に対して、BNP1−32を加え、1時間と2時間とでBNP加水分解の分析のために一定分量を取り除き、室温でインキュベートした。図16に示されたBNP加水分解は、抗凝結剤(anti-coagulant agent)としてEDTAまたはヘパリンを選択した結果を図示している。ヘパリンは、BNPタンパク分解を妨げるのに比較的、有効ではない。EDTAの存在下で、BNP加水分解は、BNP3−32の形成で止まる。
【0078】
サンプル採集時の加水分解BNPを妨げる必要に加えて、血液採集の間の赤血球の溶解を妨げることも重要である。さもなくば、より多くの量の細胞性タンパク質/プロテアーゼを放出するであろう。したがって、細胞の溶解が最小であり、たとえあったにしても凝固が少ない血液採集は、サンプリングの行為そのものによりプロテアーゼを活性化することを回避するのに好ましい。
【0079】
プロテアーゼ阻害物質をも含む採集管におけるEDTAまたはヘパリンの使用の例証的な結果は、図17ではBNPの加水分解の中に反映されるものとして示されている。BNPは、血液がEDTAおよびプロテアーゼ阻害物質AEBSFおよびベンザミジンを含む管を用いて採集された場合に、室温で少なくとも2時間にわたって安定性がとどまる。
【0080】
さらに、EDTAが入っている管でサンプリングし、続いてプロテアーゼ阻害物質を加えた血液からの血漿サンプルは、図18に図示されているように、−70℃で貯蔵した場合にも、少なくとも6ヶ月にわたって、BNPの加水分解により測定すると、安定である。プロテアーゼ阻害物質を加える前の制限されたタンパク分解は、サンプルにおいて保護された。サンプリングされた血漿を、採集の日およびその6ヶ月後にBNP断片の存在についてアッセイした。分るように、BNP3−32とBNP1−32との比率は実質的には変化せず、数ヶ月の期間にわたってサンプリングされたペプチドプロフィールの安定性を実証している。ヘパリン血漿におけるBNP加水分解は、図16において示されるように、BNP3−32よりも小さいBNP加水分解生成物の生産にむかって進行していることが観察され、これに対して、EDTA血漿中では、図19において示されているように、BNP3−32の形成で加水分解が止まっている。このことは、ヘパリン処置された血液中のメタロプロテイナーゼの存在をもたらし得る。
【0081】
このため、BNP分析のための血漿サンプルの採集のために使用される好ましい血液採集管は、約10mMのAEBSF、および20mMのベンザミジンを含むEDTA血液採集管である。
【0082】
<例9>
開示されているアプローチによりサンプリングされた興味の対象であるプロフィールを保護することにおける有効性は、BNP断片において起こりうるプロテアーゼの影響を調べることにより実証される。BNPの加水分解の原因であるプロテアーゼが採集されたサンプルの中にある可能性があるにもかかわらず、キレート剤およびプロテアーゼ阻害物質の開示された組成物を含む管に採集されたサンプルは、さらなるタンパク分解についてBNP断片を調べることにより分るように、さらなるタンパク分解を起こし続けない。
【0083】
したがって、開示されている方法、組成物、および装置は、インビボで作製されたBNP種のさらなる加水分解を妨げ、これにより、血液採集された時点でのサンプリングされたプロフィールをそのまま止める(freezing)。このことは、BNP加水分解生成物のいくらかに対する影響を研究することにより実証される。
【0084】
この調査に対して、BNP1−32の加水分解の結果生じる生成物として予め同定されたものに対応するBNPペプチドを合成し、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンで処理したEDTA血漿に加えた。サンプルの一定分量を、血漿に対してペプチドを加えた後すぐに加えたBNPペプチドについて分析し、血漿の残りを−70℃で7週間貯蔵した。貯蔵の7週間後、血漿を冷凍器から取り出し、解凍し、加えたBNPペプチドの存在について分析した。2つのサンプルからのBNP種のプロフィールの比較である図20は、BNPペプチドの相互間の比率が7週間の期間にわたって同じままであることを示している。
【0085】
<例10>
BNP加水分解を防ぎ、血液採集の時点でのサンプルを保護するために、開発された採集プロトコルの能力をさらに確認すること。
【0086】
血液を二人の同意した個体から採集した。そのうちの一方は、NYHAクラスIV心不全と診断された人であり、もう一方の個体は、HFを示さないと決定された者であった。それぞれからの血液サンプルを、全血中それぞれ10mMおよび20mMの濃度を提供するのに十分に高いレベルでAEBSFおよびベンザミジンを含む開示されているキレート剤−プロテアーゼ阻害物質血液採集管を用いて採集した。また、内部標準を提供することによる定量化を助けるように、規定量のビオチン標識されたBNPを加えた。
【0087】
両方の個体からの血漿を、BNPに関連するペプチドについて分析した。この分析から得られた例証的結果が、図21に示されている。2つの質量スペクトルの比較によると、内部基準(ビオチン標識されたBNPであるbBNP)の有意な率、またはそれ以上の強度を有する優位なピークに基づく上側のスペクトルにおけるBNP種の存在を容易に同定することができる。質量に基づいて、ピークを、BNP1−32、BNP3−32、BNP2−31、およびBNP5−32に対応するものと同定した。
【0088】
特には、今現在、BNP1−32から分離した種々のBNPに関連するペプチドを検出するための既知の方法がこれまでなかった。このことは、血液採集の時点での興味の対象であるタンパク質プロフィールをサンプリングするための開示されているサンプリング方法、組成物、および装置の有用性の証拠を提供している。好ましくは、プロフィールは、ナトリウム利尿ペプチドに関連するペプチドのものである。
【0089】
血液および血漿のサンプリングを改善するために、多数の装置またはその改良も、本明細書中に開示されている。これは、興味の対象であるペプチドについてテストを行うポイント・オブ・ケア装置を設計し、配備することにおいて、特に興味のあるものである。好ましくは、ペプチドは、ナトリウム利尿ペプチドまたはこれに関連する前駆体もしくは断片、例えば、BNP、プロ−BNP、またはBNP1−76である。
【0090】
自然に生まれる、または合成である、生理学的に活性な物質の広い多様性を測定する能力が、診断および治療の両方の補助として重要性を増していくと考えられてきた。大部分のそのようなアッセイは、臨床的な実験室での決定を必要とするが、ポイント・オブ・ケア装置または家でさえも行えるテストについての需要が高まっている。図22に描写されているのは、血液の採集、液体画分の調製のための、あるいは、興味の対象である物質のための一体となったアッセイのための、いくつかの装置の模式的表現である。
【0091】
図22に模式的に示されているのは、ポイント・オブ・ケア装置/コンポーネント2200であり、これは、血液または他の生物学的液体を受け入れるためのポート2205を有している。提供された液体は、開示されている組成物またはその変異体が含浸されている層2210を通してろ過される。液体画分は、矢印2215で示されるように部分2220に向かって流れ、これは、装置2200の分析用の側であってもよいし、あるいは、分離された液体のための貯蔵部であってもよい。この構造は、マイクロ流体装置(microfluidics device)の中に組み込まれてもよい。その他の変形例は、液体形態にある開示されている組成物を使用すること、および洗浄またはその他のステップのために提供するように装置2200における追加のポートを使用することを含む。
【0092】
装置2225は、キャップ2230により封止された排気されたチューブ2235であり、キャップ2230は、生物学的液体を導入するために穴あけされる。代替的に、装置2225は、ただのキャップ2230付きのチューブであってもよい。装置2225は、好ましくは固体形態にある、開示されている組成物2240により、本明細書中で説明されているようにタンパク分解が抑止された生物学的液体を保持することができる。開示されている組成物2240は、安定剤および緩衝用物質を含んでもよい。装置2225は、サンプリングされた液体のタンパク質プロフィールを保護することに加えて、グルコース、代謝産物、または規制薬物のようなその他の物質のためのテストを含む後の実験室での分析のために好適である。
【0093】
本明細書中に開示されている装置は、普遍性を失うことなく、追加のプロテアーゼ阻害物質を開示されている組成物に組み合わせて含んでもよいことを注意しなければならない。組成物は、推奨されている最終濃度で使用されるためのものであり、従って、装置2225に類似する装置において最終液体レベルのためのしるしが提供されてもよい。さらに、装置2225における組成物2240は、液体、粉末、または凍結乾燥された配合物であってもよい。開示されている組成物を使用することにより改良された装置のいくつかの追加の非徹底的な説明が、以下に続く。
【0094】
他の好ましい実施形態において、開示されている組成物は、乾燥化学作用層またはそれより前の受け入れ層のコンポーネントの中である。開示されている組成物を乾燥化学作用層またはそれより前の層に含めることにより、タンパク分解または付加体の形成が原因であるタンパク質プロフィールにおける変化を起こすことなく、液体画分を収集することができる。乾燥化学作用層は、接合抗体(conjugated antibodies)のような分析物を含んでもよい。EPOCAL(商標)により開発されたある一つの装置では、サンプルが、検出ゾーンに保持される複合体を形成するためにサンプル受け入れ層に与えられる。検出は、ワン・ステップ免疫測定生成物プラットフォーム(one-step immunoassay product platform)または免疫クロマトグラフィーストリップ(immunochromatographic strip)中の保持された複合体の酵素活性に基づく。
【0095】
手順があまり複雑ではないか、あるいは全く複雑ではなく、早く、再現性があり、使用が簡単な装置が、高く望まれている。さらに、装置は、判読するのが用意で、正確な結果を生み出さなければならず、装置自体が、一個あたりの単価が低い質量数(mass quantities at a low per unit cost)で製造されることができなければならない。
【0096】
全血を直接使用するための迅速な診断を開発する試みがなされてきた。例えば、試験紙に接触するサンプルのより大きな成分の接触を妨げるための半透膜で覆われた試験紙が、開発されてきた(例えば、米国特許第3092465号を参照のこと)。他の例は、血液の溶解した成分だけが透過できて、赤血球は透過できない膨潤可能なフィルムを使用することである(例えば、Federal Republic of Germany Patent Specification No. 15 98 153を参照のこと)。この開示によれば、そのような装置は、紙およびゲルのような関連性のあるマトリックス中に開示されたプロテアーゼ阻害物質およびキレート剤組成物を追加することで改良されるべきである。
【0097】
赤血球から液体画分を分離する従来の方法は、遠心分離である。しかしながら、特に少量のサンプル、例えば50マイクロリットル、または数マイクロリットル未満でさえもあるサンプルを使用する場合には、このことが、上澄みと沈殿した細胞性成分との分離の問題を生じさせる。さらに、従来の方法は、医者、看護師、技術者、または検査員によるより多くの手扱い時間を必要とする。そのようなさらなる取り扱いは、一般的に、効率的にも、衛生学的理由でも望ましくない。その上、いくつかのポイント・オブ・ケアの状況では、遠心分離は、利用可能ではないこともある。
【0098】
サンプリングされた血液中の血球から液体画分を分離するためのいくつかのセパレータが、本技術分野で知られている。例えば、米国特許第4,477,575号、および同第4,816,224号を参照のこと。これらの特許文献は、血液から液体画分を分離するために、0.2〜5ミクロンの平均繊維直径を備え、0.1〜0.5gm./mLの密度を有するガラス繊維を使用することを開示している。事実、今や、数十マイクロリットルのオーダーの血液サンプルからの液体サンプルをアッセイすることが可能である。
【0099】
米国特許第5,135,719号に記載されている血液分離装置は、全血の液体画分から、細胞性成分、例えば赤血球を分離するための凝集素を備えたガラスマイクロ繊維フィルターまたは複数のフィルターを含んでいる。凝集素は、血球の凝集を促進し、これにより、ろ過処理を改善する。フィルターから下流の適用への血漿の移動のための駆動力は、管状キャピラリーにより提供されるキャピラリー力である。
【0100】
理論に縛られることを意図するものではないが、本明細書中に開示されている結果の観点から、興味の対象、特には、BNPに関連するもののようなナトリウム利尿ペプチドのペプチドプロフィールをより良く保護するために、本明細書中で開示されているキレート剤−プロテアーゼ阻害物質組成物を含浸すること、または別の方法で加えることのいずれかが望ましいと考えられる。
【0101】
ガラス繊維フィルターに加えて、ポリスルホン樹脂およびその他の繊維が、血液セパレータにおいて利用されてもよい。ポリスルホン樹脂は、化学的に非常に耐性があり、いくつかの望ましい機械的特性をも有する。しかしながら、ポリスルホン樹脂は、興味の対象、特には、BNPに関連するもののようなナトリウム利尿ペプチドのペプチドプロフィールをより良く保護するために、本明細書中で開示されているキレート剤−プロテアーゼ阻害物質組成物が含浸される(または、その他の方法で補充される)ことができる、シート素材の形態または繊維としてのいずれかで、微孔構造に変換されなければならない。
【0102】
水疱の液体のような生物学的液体は、根底にある血漿組成物をもたらし、このため、多くの場合、興味の対象であるペプチドプロフィールについてアッセイするために好適である。加えて、唾液および涙だけでなく、脳脊髄液、精液、リンパ液、血液、血清、汗、水疱の液体、肺の液体、唾液、涙腺分泌物、または尿などが、興味の対象であるペプチドの存在およびレベルについてアッセイされることができる。唾液および涙の場合には、好ましい実施形態では、新たに誘導された分泌物がサンプリングされる。新たな分泌物は、血漿組成物をもたらし、汚染物を含まない可能性がより高いだけでなく、容認できる再現性を示す。例としては、好ましい実施形態においては、クエン酸またはクエン酸塩が、適時に唾液分泌物を誘導するように使用される。同様に、多くの既知の薬剤が、被験者に対して過度の不快感を引き起こすことなく、涙腺から涙分泌物を誘導することができる。さらには、好ましい実施形態では生物学的液体として血清は利用されないが、メタロプロテイナーゼの特異的な阻害物質の使用、および好ましくはかなりの細胞の溶解の無い、血清液体画分の迅速な調製のように、タンパク分解に対する保護を備えた血清は使用することができることに注意しなければならない。
【0103】
そのように得られた各液体画分のペプチドおよびタンパク質のレベルは、液体が身体において分泌または形成された方法に依存する。ほとんどの場合では、生物学的液体の組成物は、タンパク質のろ過、液体へのタンパク質の分泌、およびイオン性組成物を制御するための活発な輸送が原因である改質を備えた血漿に関連している。血漿の広範に改質された変種の一例は、尿である。尿は、最初にタンパク質およびその他の大きい血液成分がろ過除去され、排泄されることが必要になる最終生成物が高く濃縮された尿を形成するように、ほとんどの水が再吸収され、その後イオンと共に、グルコースおよび僅かなその他の成分が再吸収されることにより、腎臓で形成される。
【0104】
ひとたび液体画分が得られると、比較的迅速にアッセイされるか、または引き続くアッセイのために貯蔵されることができる。そのようなアッセイは、抗体を備える液体画分からの最初の分離により興味の対象であるペプチド断片を検出し、続いて、分離された断片の質量または移動度についてアッセイすることを含むことができる。興味の対象であるいくつかの技術は、電気泳動法、等電点分離法、質量分析などである。
【0105】
加えて、サンドイッチアッセイにより断片の特性を表すことが可能であり、このアッセイでは、他の抗体もしくは分子、または現在比較的に精製された分子との親和性を備えた複合体が、興味の対象である特異的なペプチド(複数のペプチド)を検出するのに使用される。検出のいくつかの方法は、磁性音響学的検出(magneto-acoustic detection)のような技術を含んでもよく、この技術では、結合質量(bound mass)における変化が原因である振動数の変化が、精製ステップを検出ステップに組み合わせるシステムで検出される。代替的に、化学発光、蛍光、または酵素の最終産物(end results)が、マイクロ流体実行(microfluidic implementation)におけるものも含めて、興味の対象であるペプチドを定量化するために使用されてもよい。
【0106】
本明細書中に開示されているのは、興味の対象である生物学的液体中のタンパク質プロフィールをサンプリングするための方法でもある。そのような方法では、いくつかの好ましいステップが、有効量の金属キレート剤を生物学的液体のサンプルに加えると共に、セリンプロテアーゼを不活化するのに好適な有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質を加えることと、リソソームプロテアーゼ阻害物質および追加の広域スペクトルセリンプロテアーゼ阻害物質からなる群より選択される有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質を加えることとを含み、これにより、サンプリングされたタンパク質プロフィールが、付加体の形成により本質的に改質されない。
【0107】
そのようなサンプルは、摂氏マイナス70℃で少なくとも6ヶ月間、または室温で少なくとも2時間にわたって貯蔵されてもよい。
【0108】
この方法はさらに、開示されている組成物で、診断および血液/液体サンプリング装置を改良することを含んでもよい。この方法はさらに、腎臓組織からのもののような組織診からのものを含めた、組織サンプルについてアッセイするのに開示されている組成物を使用することを含んでもよい。BNPのようなナトリウム利尿ペプチドと関連して、腎臓組織診が、cGMPのレベルを評価するために使用されてもよく、cGMPは、循環するANPまたはBNPの作用が原因で、細胞内で生成されるものである。加えて、ナトリウム利尿ペプチド、従ってレセプターの局所的なレベルが評価されることができ、腎臓の機能をより良く理解するために、ナトリウム利尿ペプチドに対する応答性もまた評価されることができる。
【0109】
本明細書中に記載されている、例および実施形態は、単なる例証の目的のためのものであること、また、これを考慮に入れた種々の改良または変更が、当業者により提案されるであろうこと、そして本出願の精神および視野、ならびに添付の請求項の範囲内に含まれるべきであることが理解される。
【0110】
本明細書中に引用されている全ての公報、特許、および特許出願は、全ての目的のためにそれら全体が参照として本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、ANPおよびBNPのアミノ酸配列および二次元構造を示している。
【図2】図2は、質量分析(「MSIA」)により明らかにされたBNP1ー32の時間経過を描写している。BNP1ー32を100ng/mLでヘパリン血漿に加え、引き続き、室温で6時間インキュベーションした。一定分量を取り除き、BNPタンパク分解の進行をモニターするために毎時MSIAで分析した。
【図3】図3は、BNPタンパク分解の間の総BNP種の率(fraction)としての、BNP種の時間経過を示している。各々のBNP種は、図2の質量スペクトルでのピークの強度から評価される。
【図4】図4は、BD P100血液採集管を用いて採集された血液中のBNPタンパク分解を示している。この時間経過は、BD P100中のプロテアーゼ阻害物質が、BNP3ー32の形成を越えて加水分解が進むのを妨げることを示している。
【図5】図5は、プロテアーゼ阻害物質反応混液セットIII(EMD catalog no. 535140)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。この時間経過は、プロテアーゼ阻害物質がBNP加水分解を削減し、時間にわたって共有結合性付加体の生成を引き起こすことも示している(より高いm/zでのピークにより示されている)。
【図6】図6は、プロテアーゼ阻害物質ペプスタチンA(Calbiochem catalog no. 516482)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、BNPタンパク分解に対してほとんど効果がないこと、または全く効果がないことを示している。
【図7】図7は、プロテアーゼ阻害物質E64(Calbiochem catalog no. 324890)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、BNPタンパク分解に対してほとんど効果がないこと、または全く効果がないことを示している。
【図8】図8は、プロテアーゼ阻害物質ベスタチン(Calbiochem catalog no. 200484)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、0.5mMのベスタチンが、BNPタンパク分解に対してほとんど効果がないか、または全く効果がないことを示している。
【図9】図9は、プロテアーゼ阻害物質ロイペプチン(Calbiochem catalog no. 108975)で処理された血漿中のBNPタンパク分解を示している。質量スペクトルおよびBNPの組成物の両方の時間経過が、0.1mMのロイペプチンのBNPタンパク分解を遅くする能力を示している。
【図10】図10は、3時間までの間、1mMのプロテアーゼ阻害物質AEBSFで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図11】図11は、2.5mMまたは5mMのプロテアーゼ阻害物質AEBSFで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図12】図12は、プロテアーゼ阻害物質PPACK Iで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図13】図13は、プロテアーゼ阻害物質PPACK IIで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図14】図14は、1mMのプロテアーゼ阻害物質ベンザミジンで処理された血漿中での、削減されたBNPタンパク分解を示している。
【図15】図15は、2.5mMのAEBSFおよび2.5mMのロイペプチンからなるプロテアーゼ阻害物質の反応混液で処理された血漿中での、BNPタンパク分解のほとんど完全な阻害を示している。
【図16】図16は、ヘパリン血液採集管(左側のスペクトルの組)またはEDTA血液採集管(右側のスペクトルの組)に採集された血液からの血漿中でのBNPタンパク分解を示している。EDTAを備える採集管は、BNP3ー32の形成を引き起こすBNP加水分解を削減している。
【図17】図17は、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンを含むEDTA管において採集された血液からの血漿中のBNPタンパク分解の妨害を示している。質量スペクトルは、BNP1ー32をインキュベーションしている間の2時間にわたってBNPプロフィールにおけるわずかな変化を実証している。
【図18】図18は、EDTA管を用いて採集された血液からの血漿中での6ヶ月間にわたるBNP安定性を示している。EDTA管における血液の採集に引き続いて、血液中のBNP1ー32の短期の分解の後で、プロテアーゼ阻害物質(10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジン)を加えた。全血の遠心沈降から回収した血漿を、−70℃で貯蔵した。貯蔵した血漿の一定分量を、採集した日、および6ヵ月後にテストした。ビオチン標識されたBNP(bBNP)を、6ヵ月後にテストした一定分量中の内部基準(internal reference)として役立てるために加えた。BNP1ー32とBNP3ー32との間の割合が、大きくは変化していない。
【図19】図19は、EDTAを含む管において採集された血液からの血漿中での6ヶ月間にわたるBNP安定性を示している。血液の採集に引き続いてBNP1ー32を加え、全血の遠心沈降から回収した血漿を−70℃で貯蔵した。貯蔵した血漿の一定分量を、採集した日、および6ヵ月後にテストした。添加したビオチン標識されたBNP(bBNP)を、6ヵ月後にテストした一定分量中の内部基準として役立てた。BNP3−32に対するBNP1−32のピーク強度の割合の比較が、BNP3ー32の形成を引き起こすBNP1−32のタンパク分解を実証している。
【図20】図20は、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンを含むEDTA採集管におけるBNP加水分解の妨害を示している。血液をEDTA管において採集し、10mMのAEBSFおよび20mMのベンザミジンで処理した。そして、合成したBNPペプチド、BNP1ー32、BNP3ー32、BNP2ー31、BNP5ー32、BNP5ー31、BNP4ー30、およびBNP4ー27を血漿の調製の前に採集した血液に加えた。貯蔵の前、および−70℃で7週間にわたる血漿の貯蔵の後でBNPペプチドの安定性について一定分量をテストした。7週間の貯蔵の後に対する貯蔵の前のBNPペプチドの間の割合の比較により、EDTA、10mMのAEBSF、および20mMのベンザミジンの存在中でのBNPペプチドの安定性の証拠が示されている。
【図21】図21は、サンプル採集のために開発されたプロトコルを用いて、健康な個体からの血漿(下側)に対するHF患者からの血漿(上側)におけるBNP安定性の比較を示している。プロテアーゼ阻害物質AEBSFおよびベンザミジンを含むEDTA真空容器を用いて健康体およびHF患者の両方から血液を採集した。血液サンプルから採集した血漿を、BNP特異的MSIAを用いてBNPについて調査した。
【図22】図22は、サンプリングされたタンパク質プロフィールの改質を削減または排除するために開示されている組成物の援助を受けて液体をサンプリングするための2つの装置を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
興味の対象である生物学的液体におけるタンパク質プロフィールをサンプリングするために問題になる組成物において、
ロイペプチンおよびベンザミジンからなる群より選択される、有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質と、
有効量のキレート剤と、
フッ化スルホニル官能基を含む、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質であって、前記第2のプロテアーゼ阻害物質の前記有効量は、前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記キレート剤の非存在下でタンパク質付加体の形成につながる、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質と、
を含み、
これにより、前記問題になる組成物により、前記サンプリングされたタンパク質プロフィールにおいて付加体が本質的に形成されない、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、
前記タンパク質プロフィールは、ANP、BNP、およびCNPからなる組より選択されるナトリウム利尿ペプチドのものである、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、
前記ナトリウム利尿ペプチドは、合成ナトリウム利尿ペプチドである、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物において、
前記組成物が、(i)室温で2時間、および(ii)摂氏マイナス70度で少なくとも6ヶ月間のうちの少なくとも一方にわたって、サンプリングされたタンパク質プロフィールを保護するのに好適である、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物において、
前記生物学的液体、
をさらに含む、組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物において、
前記生物学的液体は、血液、汗、水疱の液体、肺の液体、唾液、涙腺分泌物、脳脊髄液、精液、リンパ液、または尿に由来する、組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物において、
前記キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸であり、
前記第1のプロテアーゼ阻害物質は、ベンザミジンであり、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質は、AEBSFである、組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物において、
AEBSFは、約10mMで存在し、
ベンザミジンは、約20mMで存在し、
エチレンジアミン四酢酸は、少なくとも約1mMで存在する、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物において、
前記第1のプロテアーゼ阻害物質は、約2.5mMのロイペプチンである、組成物。
【請求項10】
興味の対象である生物学的液体におけるタンパク質プロフィールをサンプリングするために有用な装置において、
前記生物学的液体の液体画分を受け入れるためのコンポーネントであって、
前記コンポーネントは、
ロイペプチンおよびベンザミジンからなる群より選択される、有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質と、
フッ化スルホニルを基とし、セリンプロテアーゼを不活化するのに好適である、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質と、
を含み、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質の前記有効量は、前記第1のプロテアーゼ阻害物質の非存在下でタンパク質付加体の形成につながるものであり、
前記サンプリングされたタンパク質プロフィールは、組み合わせられた前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記第2のプロテアーゼ阻害物質により、付加体の形成によって実質的に改質されない、
コンポーネント、
を具備する、装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置において、
前記サンプリングされたタンパク質プロフィールは、(i)室温で2時間、および(ii)摂氏マイナス70度で少なくとも6ヶ月間のうちの少なくとも一方にわたって安定である、装置。
【請求項12】
請求項10に記載の装置において、
前記装置が、血液、汗、水疱の液体、肺の液体、唾液、涙腺分泌物、脳脊髄液、精液、リンパ液、または尿からなる群からの生物学的液体の形態にあるサンプルを採集するように構成されている、装置。
【請求項13】
請求項10に記載の装置において、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質が、約10mMの濃度で存在するAEBSFであり、かつベンザミジンが、前記サンプリングされた生物学的液体中約20mMの濃度にあるか、または、
AEBSFが、約2.5mMの濃度にあり、かつ前記第2のプロテアーゼ阻害物質としてのロイペプチンが、約2.5mMの濃度にある、装置。
【請求項14】
請求項10に記載の装置において、
前記生物学的液体の前記液体画分は、キレート剤を含み、
前記生物学的液体は、血液または尿である、装置。
【請求項15】
興味の対象である生物学的液体におけるタンパク質プロフィールをサンプリングする方法において、
前記生物学的液体のサンプルに対して有効量のキレート剤を加えることと、
ロイペプチンおよびベンザミジンからなる群より選択される、有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質を加えることと、
フッ化スルホニルを基とし、セリンプロテアーゼを不活化するのに好適である、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質を加えることと、
を含み、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質の前記有効量は、前記第1のプロテアーゼ阻害物質の非存在下でタンパク質付加体の形成につながるものであり、
前記サンプリングされたタンパク質プロフィールは、組み合わせられた前記有効量の前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記有効量の前記第2のプロテアーゼ阻害物質の組み合わせにより、付加体の形成によって実質的に改質されない、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、
前記サンプリングされた生物学的液体の液体画分は、摂氏マイナス70度、摂氏ゼロ度未満、摂氏2〜4度、および室温のうちの1つまたはそれ以上で貯蔵される、方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法において、
前記生物学的液体は、前記キレート剤を加え、続いて、前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記第2のプロテアーゼ阻害物質の一方または両方を加えることにより、サンプリングされる、方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法において、
前記生物学的液体は、血液または尿である、方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法において、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質は、AEBSFである、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
AEBSFが、約10mMの濃度にあり、かつベンザミジンが、サンプリングされた生物学的液体中約20mMの濃度にあるか、または、
AEBSFが、約2.5mMの濃度にあり、かつロイペプチンが、約2.5mMの濃度にある、方法。
【請求項1】
興味の対象である生物学的液体におけるタンパク質プロフィールをサンプリングするために問題になる組成物において、
ロイペプチンおよびベンザミジンからなる群より選択される、有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質と、
有効量のキレート剤と、
フッ化スルホニル官能基を含む、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質であって、前記第2のプロテアーゼ阻害物質の前記有効量は、前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記キレート剤の非存在下でタンパク質付加体の形成につながる、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質と、
を含み、
これにより、前記問題になる組成物により、前記サンプリングされたタンパク質プロフィールにおいて付加体が本質的に形成されない、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、
前記タンパク質プロフィールは、ANP、BNP、およびCNPからなる組より選択されるナトリウム利尿ペプチドのものである、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、
前記ナトリウム利尿ペプチドは、合成ナトリウム利尿ペプチドである、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物において、
前記組成物が、(i)室温で2時間、および(ii)摂氏マイナス70度で少なくとも6ヶ月間のうちの少なくとも一方にわたって、サンプリングされたタンパク質プロフィールを保護するのに好適である、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物において、
前記生物学的液体、
をさらに含む、組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物において、
前記生物学的液体は、血液、汗、水疱の液体、肺の液体、唾液、涙腺分泌物、脳脊髄液、精液、リンパ液、または尿に由来する、組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物において、
前記キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸であり、
前記第1のプロテアーゼ阻害物質は、ベンザミジンであり、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質は、AEBSFである、組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物において、
AEBSFは、約10mMで存在し、
ベンザミジンは、約20mMで存在し、
エチレンジアミン四酢酸は、少なくとも約1mMで存在する、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物において、
前記第1のプロテアーゼ阻害物質は、約2.5mMのロイペプチンである、組成物。
【請求項10】
興味の対象である生物学的液体におけるタンパク質プロフィールをサンプリングするために有用な装置において、
前記生物学的液体の液体画分を受け入れるためのコンポーネントであって、
前記コンポーネントは、
ロイペプチンおよびベンザミジンからなる群より選択される、有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質と、
フッ化スルホニルを基とし、セリンプロテアーゼを不活化するのに好適である、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質と、
を含み、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質の前記有効量は、前記第1のプロテアーゼ阻害物質の非存在下でタンパク質付加体の形成につながるものであり、
前記サンプリングされたタンパク質プロフィールは、組み合わせられた前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記第2のプロテアーゼ阻害物質により、付加体の形成によって実質的に改質されない、
コンポーネント、
を具備する、装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置において、
前記サンプリングされたタンパク質プロフィールは、(i)室温で2時間、および(ii)摂氏マイナス70度で少なくとも6ヶ月間のうちの少なくとも一方にわたって安定である、装置。
【請求項12】
請求項10に記載の装置において、
前記装置が、血液、汗、水疱の液体、肺の液体、唾液、涙腺分泌物、脳脊髄液、精液、リンパ液、または尿からなる群からの生物学的液体の形態にあるサンプルを採集するように構成されている、装置。
【請求項13】
請求項10に記載の装置において、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質が、約10mMの濃度で存在するAEBSFであり、かつベンザミジンが、前記サンプリングされた生物学的液体中約20mMの濃度にあるか、または、
AEBSFが、約2.5mMの濃度にあり、かつ前記第2のプロテアーゼ阻害物質としてのロイペプチンが、約2.5mMの濃度にある、装置。
【請求項14】
請求項10に記載の装置において、
前記生物学的液体の前記液体画分は、キレート剤を含み、
前記生物学的液体は、血液または尿である、装置。
【請求項15】
興味の対象である生物学的液体におけるタンパク質プロフィールをサンプリングする方法において、
前記生物学的液体のサンプルに対して有効量のキレート剤を加えることと、
ロイペプチンおよびベンザミジンからなる群より選択される、有効量の第1のプロテアーゼ阻害物質を加えることと、
フッ化スルホニルを基とし、セリンプロテアーゼを不活化するのに好適である、有効量の第2のプロテアーゼ阻害物質を加えることと、
を含み、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質の前記有効量は、前記第1のプロテアーゼ阻害物質の非存在下でタンパク質付加体の形成につながるものであり、
前記サンプリングされたタンパク質プロフィールは、組み合わせられた前記有効量の前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記有効量の前記第2のプロテアーゼ阻害物質の組み合わせにより、付加体の形成によって実質的に改質されない、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、
前記サンプリングされた生物学的液体の液体画分は、摂氏マイナス70度、摂氏ゼロ度未満、摂氏2〜4度、および室温のうちの1つまたはそれ以上で貯蔵される、方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法において、
前記生物学的液体は、前記キレート剤を加え、続いて、前記第1のプロテアーゼ阻害物質および前記第2のプロテアーゼ阻害物質の一方または両方を加えることにより、サンプリングされる、方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法において、
前記生物学的液体は、血液または尿である、方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法において、
前記第2のプロテアーゼ阻害物質は、AEBSFである、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
AEBSFが、約10mMの濃度にあり、かつベンザミジンが、サンプリングされた生物学的液体中約20mMの濃度にあるか、または、
AEBSFが、約2.5mMの濃度にあり、かつロイペプチンが、約2.5mMの濃度にある、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−204612(P2009−204612A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−43650(P2009−43650)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(509056467)サイオス・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Scios,Inc.
【住所又は居所原語表記】1010 Joaquin Road, Mountain View, CA 94043, United States of America
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43650(P2009−43650)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(509056467)サイオス・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Scios,Inc.
【住所又は居所原語表記】1010 Joaquin Road, Mountain View, CA 94043, United States of America
【Fターム(参考)】
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