説明

生物学的試料中の低量RNA種の特異的検出方法

本発明は、生物学的試料中の低量RNA種の検出のための方法およびキット、ならびに生物学的試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための方法およびキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、生物学的試料中の低量RNA種の検出のための方法およびキット、ならびに生物学的試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
数あるなかでも、最も広く行きわたり、成功したRNA分子検出および分析方法は、いわゆるRT/PCR(逆転写/ポリメラーゼ連鎖反応)である。該方法において、RNA分子は、逆転写酵素(RT)によってcDNA分子に転写され、次いで、PCRに基づく方法によって検出および/または分析される。
【0003】
当該分野における初期の研究者らは、トリの骨髄芽球症ウイルスRTまたはモロニー(Moloney)ネズミ白血病ウイルスRTを逆転写に用いた。しかしながら、cDNA合成の鋳型としてRNAを用いることにおける重要な問題は、これらの中等温度好性のウイルス性RTが安定なRNA二次構造によってcDNAを合成することができないことであった。該問題を迂回するために、逆転写は、二次的RNA構造を解くことができ、さらに、プライマー伸長の特異性を増加させることのできる高い反応温度で実施することができる。これは、70℃の最適温度で活性があるサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)DNAポリメラーゼ(Tth pol)のような、逆転写のための熱安定性酵素の使用を必要とする。
【0004】
しかしながら、熱安定性逆転写酵素の使用は、新たな問題も引き起こす。特に、生物学的試料中の低量のRNA種を検出および/または分析しようとする場合、熱安定性逆転写酵素は、次のRT/PCR工程の間に、非特異的反応産物の生成を触媒することができる。これは、特に、全RNAの大きいバックグラウンドを有する試料中の場合であり、例えば生物医薬品の品質管理において、必要なレベルより遙かに高いレベルへの、標的RNAの検出限界の実質的な増加をもたらす。該問題を回避するために、全ての取扱および逆転写後のRT/PCR工程を高温にて、ホットスタート条件下で実施しなければならない。しかしながら、このことは、しばしば、特に工業規模で作業する場合、非現実的であり、かつ、不利益である。
【0005】
しばしば全RNAの大きいバックグラウンドにおいて、低量のRNA種の高感度検出が特に適当である応用は、生物学的試料中のマイコプラズマ汚染の検出である。
【0006】
マイコプラズマは、自己複製することができる最も小さい既知ゲノムのうちの一つを有する細菌である。ほとんどのマイコプラズマは、天然には無害の共生生物であるが、そのいくつかは天然宿主に感染することができ、様々な重篤度の疾患の原因となる。マイコプラズマ、特にマイコプラズマ(Mycoplasma)およびアコレプラズマ(Acholeplasma)属の種は、また、初代および連続細胞系統の汚染の原因となることが多く、細胞由来の生物学的および医薬的生産物の開発および生産に関与する研究および工業的研究室にとって深刻な問題の典型を示す。かくして、細胞系統繁殖および取扱の工程において通常使用される全ての予防的手段にも拘わらず、マイコプラズマ汚染は引き続き、頻繁に起こる問題である。
【0007】
細胞系統および細胞由来の生物学的生産物のマイコプラズマ試験のために推奨される分析プロトコールは、ブロス/寒天培養の使用および指標細胞系統試験を包含する。ブロス/寒天培養方法は、培養可能なマイコプラズマ物質の検出を目的とするが、指標細胞系統は、培養条件が面倒で培養できないマイコプラズマ種を検出するために使用される。これら2つの方法の組合せは、有効なマイコプラズマ検出を可能にするが、試験手法全体は高価であり、冗長で、かつ時間がかかる(最短で28日)。さらに、該アプローチに反応しない多くの培養できないマイコプラズマ種が存在する。
【0008】
核酸、特にマイコプラズ由来のマリボソームRNAの核酸の増幅に基づく新規なマイコプラズマ試験法が近年開発されている。これらの方法は、コスト、分析感度、簡便性および時間に関し、ある種の利益を有する。しかしながら、現在利用可能な方法の検出限界は、特に全RNAまたは他の巨大分子の大きいバックグラウンドを有する試料で作業する場合、まだ生物医薬品の品質管理に必要なレベルよりも上回る。
【0009】
したがって、当該分野において、生物学的試料中の低量のRNA種の検出限界の改善を可能にするように現行のRT/PCR法を改善する必要性が存在する。
【0010】
上記の問題の解決は、本願の特許請求の範囲において特徴付けられた具体例によって達成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の概要
本発明の目的は、生物学的試料中の低量のRNA種の検出のための改善された方法を提供することにある。特に、本発明は、該方法および生物学的試料中の低量のRNA種の検出のためのキットに関する。さらに、本発明の別の目的は、試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための改善された方法およびキットを提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な記載
一の態様において、本発明は、生物学的試料中の低量の標的RNA種の検出のための方法であって、
(a)逆転写酵素(RT)を用いてRNAをcDNAに逆転写する工程、
(b)該RTを不活性化する工程、および
(c)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって標的cDNAを検出する工程
を含む方法に関する。
【0013】
本明細書中で使用される場合、「生物学的試料」なる語は、生物学的に関連する巨大分子を含有する、または含有する疑いのあるいずれかの試料、例えば、生物医薬品、例えば、ワクチンまたは組み換えタンパク質の製造過程の種々の段階に由来する試料、細胞培養上清、細胞ライゼート、細胞抽出物、食物または環境試料、ヒトまたは動物の体に由来する試料、例えば、全血、血清、血漿、尿、分泌液または塗沫、生物学的起源のいずれか他の試料およびRNAを含有するか、または含有する疑いのあるいずれか他の組成物に関する。
【0014】
本発明の好ましい具体例において、生物学的試料は、細胞成分の大きいバックグラウンドを有する。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「細胞成分」なる語は、細胞小器官、タンパク質、ペプチド、膜、脂質、核酸、特に非標的RNA種、およびその組合せまたはフラグメントに関する。
【0016】
本発明の別の好ましい具体例において、生物学的試料は、全RNAの大きいバックグラウンドを有する。
【0017】
本明細書中で使用される場合、「全RNAの大きいバックグラウンド」なる語は、標的RNAが10全RNA分子中において1分子未満、好ましくは10全RNA分子中において1分子未満、より好ましくは10全RNA分子中において1分子未満、最も好ましくは1010全RNA分子中において1分子未満で存在する状況に関する。
【0018】
本発明の好ましい具体例において、標的RNAは、試料1mlにつき10000コピー未満、好ましくは試料1mlにつき1000コピー未満、より好ましくは試料1mlにつき100コピー未満、最も好ましくは試料1mlにつき10コピー未満の量で存在する。
【0019】
本発明の好ましい具体例によると、本発明の方法にしたがうRTを用いるRNAのcDNAへの逆転写は、ホットスタート条件下で実施される。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「ホットスタート条件」なる語は、プライマー伸長に関与する酵素の添加前に、反応混合物がプライマー/核酸複合体の融点に、または該融点よりも高温に加熱されるいずれかの条件、またはプライマー伸長に関与する酵素が周囲温度で不活性であり、プライマー/核酸複合体の融点にて、または該融点よりも高温にて実施される高温活性化工程によって活性化されるいずれかの条件に関する。
【0021】
本発明の好ましい具体例において、本発明の方法は、さらに、RTを用いるRNAのcDNAへの逆転写後に、同じRTを用いて標的cDNAを増幅する工程を含む。該さらなる工程は、「プライムPCR」と呼ばれ、好ましくは、ホットスタート条件下で5〜15サイクル、より好ましくはホットスタート条件下で5〜11サイクル、最も好ましくはホットスタート条件下で5〜10サイクル実施される。
【0022】
したがって、別の態様において、本発明は、生物学的試料中の低量の標的RNA種の検出のための方法であって、
(a)逆転写酵素(RT)を用いてRNAをcDNAに逆転写する工程、
(b)工程(a)のRTを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、cDNAを増幅する工程
(c)該RTを不活性化する工程、および
(d)PCRによって標的cDNAを検出する工程
を含む方法に関する。
【0023】
RT(すなわち、RNA依存性DNAポリメラーゼ)およびDNAポリメラーゼ(すなわち、DNA依存性DNAポリメラーゼ)の両方の活性を有する酵素は、当該分野でよく知られており、例えば、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)DNAポリメラーゼ(Tth pol)を包含する。ある特定の酵素がある特定の活性を示す条件もまた、当該分野でよく知られている。Tth polの場合、逆転写活性は、Mn2+イオンによって促進され、DNAポリメラーゼ活性は、Mg2+イオンによって促進される。
【0024】
本発明の好ましい具体例において、本発明の方法において使用されるRTは、サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth pol)である。さらに好ましい具体例において、Tth polは、組み換え生産される(rTh pol)。
【0025】
本発明の別の好ましい具体例において、RTは、本発明の方法において、好ましくは、熱処理、フェノールでの処理、プロテイナーゼKでの処理、およびカオトロピック剤での処理からなる群から選択される方法によって、不活性化される。
【0026】
本発明にしたがう熱処理は、RTを含有する反応混合物を80〜100℃、好ましくは90〜100℃、より好ましくは95℃に加熱することを含む。熱処理の期間は、15〜90分、好ましくは30〜75分、より好ましくは60分である。特に好ましい具体例において、熱処理は、RTを含有する反応混合物を95℃に60分間加熱することを含む。
【0027】
本発明にしたがうプロテイナーゼKでの処理は、1〜10単位のプロテイナーゼK、より好ましくは2〜5単位のプロテイナーゼK、最も好ましくは5単位のプロテイナーゼKを反応混合物に添加することを含む。プロテイナーゼK処理の期間は、30〜90分、好ましくは45〜75分、最も好ましくは60分である。特に好ましい具体例において、プロテイナーゼKでの処理は、5単位のプロテイナーゼKの60分間の添加を含む。
【0028】
本発明の好ましい具体例において、RTは、本発明の方法において、カオトロピック剤での処理によって不活性化される。本発明にしたがうカオトロピック剤での処理は、RTを含有する反応混合物に、RTを不活性化するのに十分な量および時間でカオトロピック剤を添加することを含む。特定のカオトロピック剤の量および時間は、当該分野でよく知られている。本発明のより好ましい具体例において、カオトロピック剤は、尿素、過塩素酸リチウムおよびグアニジニウム塩からなら群から選択される。最も好ましい具体例において、カオトロピック剤は、グアニジニウム塩である。
【0029】
本発明のさらに好ましい具体例において、本発明の方法は、さらに、カオトロピック剤を用いるRTの不活性化後に、該カオトロピック剤を反応混合物から除去する工程を含む。反応混合物からカオトロピック剤を除去するための方法は、当該分野でよく知られており、例えば、DNA結合スピンカラムを用いる反応混合物中に含有される核酸の精製を包含する。
【0030】
PCRによる標的cDNAの検出は、「ブーストPCR」とも呼ばれる。本発明の好ましい具体例において、本発明の方法におけるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、リアルタイムPCRである。
【0031】
本明細書中で使用される場合、「リアルタイムPCR」なる語は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づき、標的のDNA分子を増幅させ、同時に定量化することが可能ないずれかの方法に関する。
【0032】
本発明の好ましい具体例において、標的RNAは、マイコプラズマから由来する。本明細書中で使用される場合、「マイコプラズマ」なる語は、マイコプラズマ(Mycoplasma)、ウレアプラズマ(Ureaplasma)、メソプラズマ(Mesoplasma)、エントモプラズマ(Entomoplasma)、スピロプラズマ(Spiroplasma)、アコレプラズマ(Acholeplasma)、アステロプラズマ(Asteroleplasma)、およびサーモプラズマ(Thermoplasma)属を包含するモリクテス(Mollicutes)クラスのいずれかのメンバーに関する。本発明のより好ましい具体例において、マイコプラズマは、アコレプラズマ・ライドラウィ(Acholeplasma laidlawii)、マイコプラズマ・ガリセプティカム(Mycoplasma gallisepticum)、マイコプラズマ・ヒオリニス(Mycoplasma hyorhinis)、マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)、マイコプラズマ・フェルメンタンス(Mycoplasma fermentans)、マイコプラズマ・シノヴィエ(Mycoplasma synoviae)およびマイコプラズマ・オラーレ(Mycoplasma orale)からなる群から選択される。
【0033】
本発明のさらに好ましい具体例において、標的RNAは、16SリボソームRNA(16S rRNA)である。
【0034】
別の態様において、本発明は、生物学的試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための方法であって、
(a)該試料から全RNAを抽出する工程、
(b)逆転写酵素(RT)を用いてRNAをcDNAに逆転写する工程、
(c)工程(b)のRTを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、マイコプラズマ16SリボソームRNA(16S rRNA)由来のcDNAを増幅する工程、
(d)カオトロピック剤の添加によって、RTを不活性化する工程、
(e)反応混合物からカオトロピック剤を除去する工程、および
(f)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、マイコプラズマ16S rRNA由来のcDNAを検出する工程
を含む方法に関する。
【0035】
試料から全RNAを抽出するための手段は、当該分野でよく知られており、フェノール/クロロホルムでの抽出およびイソプロパノールでの沈澱を包含する。
【0036】
本発明の好ましい具体例において、検出されるべきマイコプラズマ汚染は、試料中における約10cfu/ml以下のマイコプラズマの汚染である。
【0037】
マイコプラズマ16S rRNAの逆転写のためのプライマー、ならびにPCRによるマイコプラズマ16S rRNA由来のcDNAの増幅のためのプライマーは、当該分野でよく知られている。
【0038】
本発明の好ましい具体例において、試料中におけるマイコプラズマ汚染の検出のための方法のRTを用いるRNAのcDNAへの逆転写は、ホットスタート条件下で実施される。
【0039】
本発明の別の好ましい具体例において、試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための方法において使用されるRTは、サーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(Tth pol)である。さらに好ましい具体例において、Tth polは、組み換え生産される(rTth−pol)。
【0040】
本発明のさらに好ましい具体例において、試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための方法において使用されるカオトロピック剤は、尿素、過塩素酸リチウムおよびグアニジニウム塩からなら群から選択される。最も好ましい具体例において、カオトロピック剤は、グアニジニウム塩である。
【0041】
本発明の一のさらに好ましい具体例において、試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための方法におけるPCRは、リアルタイムPCRである。
【0042】
別の態様において、本発明は、生物学的試料中の低量の標的RNA種の検出のためのキットであって、少なくとも、RTおよび該RTの不活性化のための手段を含むキットに関する。RTの不活性化のための手段は、プロテイナーゼKまたはカオトロピック剤であってもよい。該キットは、さらに、例えば、逆転写のためのプライマー、特定のcDNAの検出のためのプライマー、キャリヤーRNA、カリブレーターRNA、カリブレーターDNA、適当な酵素、バッファー、試薬、反応容器および消耗品を含んでいてもよい。
【0043】
さらなる態様において、本発明は、生物学的試料中のマイコプラズマ汚染の検出のためキットであって、少なくとも、組み換えサーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(rTth−pol)、マイコプラズマ16S rRNAの逆転写のための適当なプライマー、マイコプラズマ16S rRNA由来のcDNAの増幅のための適当なプライマー、rTth−polの不活性化のためのカオトロピック剤、反応混合物から該カオトロピック剤を除去するための手段、およびPCRによる、例えばリアルタイムPCRによるマイコプラズマ16S rRNA由来のcDNAの検出のためのプライマーを含むキットに関する。カオトロピック剤を除去するための手段は、DNA結合スピンカラムであってもよい。該キットは、さらに、例えば、試料から全RNAを抽出するための手段、キャリヤーRNA、カリブレーターRNA、カリブレーターDNA、適当な酵素、バッファー、試薬、反応容器および/または消耗品を含んでいてもよい。全RNAを抽出するための手段は、フェノール、クロロホルムおよびイソプロパノール、またはそれらを含むバッファーであってもよい。
本発明は、さらに、下記の実施例において説明されるが、それらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
一般的手法:
該方法は、目的の生物学的試料の遠心分離から開始し、次いで、該試料ペレットから全RNAを抽出する。次いで、Mn2+の存在下、ホットスタート条件下で、組み換えサーマス・サーモフィルスDNAポリメラーゼ(rTth−pol)を用いて、RNAをcDNAに逆転写する。Mn2+のキレート化およびMg2+の添加後、rTth−polがホットスタート条件下でPCR増幅を5サイクルまたは10サイクル実施する(プライムPCR)。次いで、該PCR反応物をグアニジン含有バッファーに移して、rTth−polを不活性化する。スピンカラムに基づくキットを用いる精製により、該プライムPCRの精製されたPCR産物がもたらされ、次いでそれを、二重リアルタイムPCRにおいてDNA標準(カリブレーターDNA)と共に増幅させる(ブーストPCR)。別法では、RNA標準(カリブレーターRNA)をRNA抽出の最初に添加して、開始時からその手法を標準化し、調節することができる。
【0045】
実験手法:
RNA抽出。全ての工程を2mlの反応チューブ中で行った。2mlの試料を1000rpmにて、4℃で10分間遠心分離した。ペレットを1ml RNA−BeeTM(登録商標)(Tel−Test Inc.,TX)中に再懸濁し、5μlの1mg/ml酵母tRNAを加え、試料を遠心機中、70℃および1000rpmにて20分間インキュベートした。その後、110μlのクロロホルムを加え、13000rpmで5分間の遠心分離によって相を分離した。得られた上相に500μlのイソプロパノールを添加することによって、RNAを沈澱させ、試料をドライアイス上で5分間維持した。RNAペレットを13000rpmにて15分間の遠心分離によって収集し、500μlの70%EtOHで洗浄し、試料を13000rpmにて10分間遠心分離した。上清を捨て、RNAペレットを250μlの二重蒸留水(bidest.HO)(bdHO)中に溶解した。
【0046】
逆転写。6μlのRTミックス(1μlの10x逆転写バッファー(Applied Biosystems, Austria)、1μlの10mM MnCl、0.5μlの10μM逆方向プライマー、0.8μlの2.5mMの各dNTP、2.2μl(5.5U)のrTth−polおよび0.5μlのbdHO)を4μlのRNA抽出物に加えた。80℃で2分間、62℃で5分間、70℃で10分間および80℃で2分間、逆転写を行った。
【0047】
プライムPCR。予め85℃±5℃に加熱した40μlのPCRミックス(4μlの10xキレートバッファー(Applied Biosystems, Austria)、5μlの25mM MgCl、2.5μlの10μM順方向プライマー、2μlの10μM逆方向プライマーおよび26.5μlのbdHO)を逆転写から得られた反応混合物に加えた。下記のプロトコールにしたがって、PCRを実施した。80℃で2分、95℃で2分、5x(95℃で10秒、62℃で30秒、72℃で30秒)。
【0048】
RTの不活性化。プライムPCR後、50μlのまだ熱い反応混合物を253μlの不活性化バッファー(3μlのキャリヤーRNA(1μg/μlの酵母tRNA)、250μlのバッファーPBI(Qiaquick PCR Purification Kit; Qiagen, Germany))に加え、混合した。該試料を2mlのコレクションチューブ中においてQiaquickミニスピンカラム(Qiagen, Germany)にアプライし、13000rpmで1分間遠心分離した。該コレクションチューブを廃棄し、新しいコレクションチューブ中に該スピンカラムを置き、750μlのバッファーPE(Qiaquick PCR Purification Kit; Qiagen, Germany)を加え、試料を13000rpmで1分間遠心分離した。該コレクションチューブを再び廃棄し、新しいコレクションチューブ中、13000rpmで1分間、該スピンカラムを遠心分離した。次いで、該スピンカラムを新しい1.5mlの反応チューブ中に置き、50μlの10mM Tris(pH8.0)を加え、13000rpmで1分間の遠心分離により、DNAを溶出した。
【0049】
ブーストPCR。10μlの溶出したDNAをオプティカルチューブ中に置き、対照として5μlのカリブレーターDNAおよび35μlのTMPCRミックス(1x TaqManバッファーA(Applied Biosystems, Austria)、5mMのMgCl、200nMの各プライマー、100nMの各プローブ、200μMの各dNTP、9%グリセロール(wt/vol)、0.05%のゼラチン(wt/vol)、0.01%のTween20(wt/vol)、2.5UのAmpliTaq Goldポリメラーゼ(Applied Biosystems, Austria))を加えた。リアルタイムPCRを下記のプロトコールにしたがって実施した。95℃で10分、40x(95℃で15秒、62℃で1分)。
【0050】
実施例1:ワクチンの製造過程に由来する試料中のマイコプラズマ・シノヴィエの検出
ワクチンの製造過程に由来する試料を種々の量のマイコプラズマ・シノヴィエでスパイクし、上記の実験手法にしたがって処理した。RT不活性化(試料1〜6)の有利な効果を明らかにするために、RTが不活性化されていない(試料7〜12)、またはRTが全く加えられていない(試料13〜18)対照試料を含めた。RNA抽出、逆転写、プライムPCRおよびRT不活性化の後、リアルタイムPCRによって、cDNAの存在について試料を分析した。該ブーストPCRの前に、所定量のカリブレーターDNAを反応混合物に加えた。異なるプライマーセットを用いて、該カリブレーターDNAを標的核酸と一緒に増幅した。異なる標識プローブを用いることによって、カリブレーターおよび標的DNA由来のシグナルを区別した。プライムおよびブーストPCRのためのプライマーは、マイコプラズマ16S rRNAに特異的であった。表1にまとめた結果は、リアルタイムPCR由来のCt値、すなわち、特異的PCR産物を検出するために必要とされたサイクル数を示す。より低いCt値は、より迅速な検出を意味し、一方、Ct値40は、リアルタイムPCRのラン全体にわたって検出可能な生産物がなかったことを示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果は、明らかに、活性なRTの存在(試料7〜12)は、100cfu/mlのマイコプラズマ・シノヴィエであっても検出不可能にするが、RTの不活性化は、たった10cfu/mlであっても検出可能にすることを示す。RT不活性化を伴わない試料におけるカリブレーターDNAについてのCt値増加は、不活性化なしに、RTが、ブーストPCRの間にカリブレーターおよび標的DNAの特異的産物の生成に干渉する非特異的反応産物を導く反応を触媒することができることを示す。該解釈は、RTが全く加えられなかった試料(試料13〜18)中でカリブレーターDNAについてのCt値が、RTが不活性化した試料(試料1〜6)中と再び同じレベルにあるという事実により支持される。
【0053】
実施例2:ワクチンの製造過程に由来する試料中のマイコプラズマ・フェルメンタンスの検出
実施例1における試料と同じ試料を種々の量のマイコプラズマ・フェルメンタンスでスパイクし、上記の実験手法にしたがって処理した。RT不活性化(試料1〜6)の有利な効果を明らかにするために、RTが不活性化されていない対照試料(試料7〜12)を含めた。RNA抽出、逆転写、プライムPCRおよびRT不活性化の後、リアルタイムPCRによって、cDNAの存在について試料を分析した。該ブーストPCRの前に、所定量のカリブレーターDNAを反応混合物に加えた。プライムおよびブーストPCRのためのプライマーは、また、マイコプラズマ16S rRNAに特異的であった。表2にまとめた結果は、リアルタイムPCR由来のCt値を示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2の結果は、活性なRTの存在(試料7〜12)は、100cfu/mlのマイコプラズマ・フェルメンタンスであっても検出不可能にするが、RTの不活性化は、たった10cfu/mlであっても検出可能にすることを確認する。さらに、RT不活性化を伴わない試料におけるカリブレーターDNAについてのCt値増加は、不活性化なしに、RTが、ブーストPCRの間にカリブレーターおよび標的DNAの特異的産物の生成に干渉する非特異的反応産物を導く反応を触媒することができることを確認する。
【0056】
実施例3:組み換えタンパク質の製造過程に由来する試料中のマイコプラズマ・フェルメンタンスの検出
組み換えタンパク質の製造過程に由来する試料を種々の量のマイコプラズマ・フェルメンタンスでスパイクし、上記の実験手法にしたがって処理した。RT不活性化の有利な効果を表3、試料1〜6に示す。ワクチンの製造過程由来の試料に関しては、該手法は、また、組み換えタンパク質を製造するために使用された細胞懸濁中へスパイクされたわずか10cfu/mlのマイコプラズマ・フェルメンタンスの検出をも可能にする。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料中の低量の標的RNA種の検出のための方法であって、
(a)逆転写酵素(RT)を用いてRNAをcDNAに逆転写する工程、
(b)該RTを不活性化する工程、および
(c)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって標的cDNAを検出する工程
を含む方法。
【請求項2】
生物学的試料が細胞成分の大きいバックグラウンドを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
生物学的試料が全RNAの大きいバックグラウンドを有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程(a)がホットスタート条件下で実施される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
さらに、工程(a)の後、工程(a)のRTを用いて標的cDNAを増幅する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
RTが組み換えサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)DNAポリメラーゼ(rTth−pol)である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
熱処理、フェノールでの処理、プロテイナーゼKでの処理、およびカオトロピック剤での処理からなる群から選択される方法によって、工程(b)でRTが不活性化される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
カオトロピック剤での処理によってRTが不活性化される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
さらに、工程(b)の後、反応混合物からカオトロピック剤を除去する工程を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
カオトロピック剤が尿素、過塩素酸リチウムおよびグアニジニウム塩からなら群から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
カオトロピック剤がグアニジニウム塩である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
工程(c)のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)がリアルタイムPCRである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
標的RNAがマイコプラズマに由来する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
マイコプラズマがアコレプラズマ・ライドラウィ(Acholeplasma laidlawii)、マイコプラズマ・ガリセプティカム(Mycoplasma gallisepticum)、マイコプラズマ・ヒオリニス(Mycoplasma hyorhinis)、マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)、マイコプラズマ・フェルメンタンス(Mycoplasma fermentans)、マイコプラズマ・シノヴィエ(Mycoplasma synoviae)およびマイコプラズマ・オラーレ(Mycoplasma orale)からなる群から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
標的RNAが16SリボソームRNAである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
生物学的試料中のマイコプラズマ汚染の検出のための方法であって、
(a)生物学的試料から全RNAを抽出する工程、
(b)逆転写酵素(RT)を用いてRNAをcDNAに逆転写する工程、
(c)工程(b)のRTを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、マイコプラズマ16SリボソームRNA(16S rRNA)由来のcDNAを増幅する工程、
(d)カオトロピック剤の添加によって、RTを不活性化する工程、
(e)反応混合物からカオトロピック剤を除去する工程、および
(f)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、マイコプラズマ16S rRNA由来のcDNAを検出する工程
を含む方法。
【請求項17】
工程(b)がホットスタート条件下で実施される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
RTが組み換えサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)DNAポリメラーゼ(rTth−pol)である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
カオトロピック剤が尿素、過塩素酸リチウムおよびグアニジニウム塩からなら群から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
カオトロピック剤がグアニジニウム塩である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
工程(f)のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)がリアルタイムPCRである、請求項16記載の方法。
【請求項22】
少なくとも、逆転写酵素(RT)およびRTの不活性化のための手段を含む、全RNAの大きいバックグラウンドにおける低量の標的RNA種の検出のためのキット。
【請求項23】
少なくとも、組み換えサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)DNAポリメラーゼ(rTth−pol)、マイコプラズマ16S rRNAの逆転写に適当なプライマー、マイコプラズマ16SリボソームRNA(16S rRNA)由来のcDNAの増幅に適当なプライマー、rTth−polの不活性化のためのカオトロピック剤、反応混合物から該カオトロピック剤を除去するための手段、およびリアルタイムPCRによるマイコプラズマ16S rRNA由来のcDNAの検出のためのプライマーを含む、生物学的試料中のマイコプラズマ汚染の検出のためのキット。

【公表番号】特表2012−508567(P2012−508567A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535919(P2011−535919)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008071
【国際公開番号】WO2010/054819
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(301043225)バクスター・ヘルスケア・ソシエテ・アノニム (9)
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【Fターム(参考)】