説明

生物忌避性複合体およびそれの製造方法

【課題】 徐放性および安定性に優れ、樹脂や溶媒等に均一に分散でき、分散された材料の機械的強度等を低下させない、生物忌避性複合体およびそれの製造方法を提供する。
【解決手段】 生物忌避剤を陰イオン化し、次いで、陰イオン化された生物忌避剤を含む溶液と層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液とを混合することによって、層状複水酸化物と該層状複水酸化物にインターカレートしてなる生物忌避剤とを含んでなる生物忌避性複合体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物忌避性複合体およびそれの製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、徐放性および安定性に優れ、樹脂や溶媒等に均一に分散でき、分散された樹脂等の機械的強度を低下させない、生物忌避性複合体およびそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害生物の付着を防ぐ忌避剤が様々なところで使用されている。例えば、フジツボや牡蠣などの有害生物の付着を防ぐ忌避剤を含む塗料が船体に使用されている。また、海中標識、魚網など;原子力発電所などの取水管、防波堤、堰などにも有害生物の付着を防ぐ忌避剤が使用されている。また、容器、衣類、家具、建物などに、アリ、ノミ、ダニ、シロアリなどの害虫の付着を防止するためにも忌避剤が使用されている。さらに、電灯ケーブル、電話ケーブル、LANケーブルなどの電線をネズミ等がかじって漏電、配線切断などの被害が生じないようにするためにも忌避剤が使用されている。
【0003】
このような忌避剤は、樹脂や溶剤(塗料)等に分散させて使用される場合が多い。ところが、該忌避剤は樹脂や塗料への分散性に乏しいものが多い。忌避剤を樹脂や塗料に分散させると、樹脂材料や塗膜の機械的強度を低下させてしまうことがある。そのため、樹脂や溶媒等に均一に分散でき、分散された樹脂等の機械的強度を低下させない忌避製剤が求められる。さらに、忌避製剤は、有害生物の忌避効果が長く持続するような、適度な徐放性が求められる。また忌避剤原末は人体に対して強い刺激を与えるので樹脂や塗料等に添加する際の作業性の向上した忌避製剤が求められている。
【0004】
このような要望に応えるために忌避製剤として様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、害虫忌避剤を無水珪酸多孔質微粒子に担持させ、それを合成樹脂微粒子と一緒に溶媒に添加して均一に混合して成る忌避剤組成物が開示されている。該忌避剤組成物では害虫忌避剤が無水珪酸多孔質微粒子の細孔内に充填される。
【0005】
特許文献2および特許文献3には、層間支柱を有するイオン交換性層状無機物質の層間隙間に、抗菌性有機化合物をゲスト化合物として含む層状無機物質複合体が記載されている。該層間支柱には有機第四アンモニウムイオンなどの陽イオンが使用されている。イオン交換性層状無機物質としては、陽イオン交換能を有する層状粘土、例えば、モンモリロナイト、スクメタイト、ヘクトライト、サポナイト、バーミキュライト、タルク、パイロフィライト、ハイデライト、雲母などが開示されている。ところが、特許文献3は、陰イオン交換能を有する層状物質、例えば、ハイドロタルサイト様層状物質は前記の複合体に用いることができないことを教示している。
【0006】
ところで、抗菌性有機化合物としてカプサイシンが知られている。特許文献4には、生物忌避剤の一つであるカプサイシンが、フジツボ等の貝類の付着防止剤として効果を示すことが記載されている。特許文献4の実施例にはカプサイシンとして中国産天鷹唐辛子粉末又はメキシコ産ハバネロ粉末を用い、船舶用防具塗料に対してそれぞれ30重量%又は15重量%混合したものをFRP板に塗布した試供品によってフジツボの忌避効果が評価されている。
【0007】
特許文献5には、テトラメチルアンモニウムを層間支柱としたモンモリロナイト(TMA−Mnt)の細孔に抗菌性有機化合物としてカプサイシンを吸着させた例(実施例3)が記述されている。この例によると吸着量の大きさを示す比表面積の変化は非常に小さく、TMA−Mntに吸着しているカプサイシンは僅かであると推察され、もっと多量のカプサイシンの吸着・貯蔵が望まれる。
【0008】
特許文献6には、マイクロカプセル化したカプサイシン類を含有してなる水中防汚材の記載がある。特許文献6のマイクロカプセル皮膜剤はメラミン樹脂などのアミノ系樹脂である。特許文献6の実施例5には、防汚成分としてカプサイシンと亜酸化銅の混合成分をマイクロカプセル化し、このマイクロカプセルを含有する防汚塗料を用いた場合のフジツボの防汚効果が記載されている。特許文献6の比較例3には亜酸化銅単独でもフジツボの防汚効果があることが示されており、マイクロカプセル化されたカプサイシンの効果は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−63201号公報
【特許文献2】特開2005−200612号公報
【特許文献3】特開2004−18661号公報
【特許文献4】特開2008−75060号公報
【特許文献5】特開2006−282462号公報
【特許文献6】特開2006−282571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、徐放性および安定性に優れ、樹脂や溶媒等に均一に分散でき、分散された樹脂等の機械的強度を低下させない、生物忌避性複合体およびそれの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、生物忌避剤を陰イオン化し、次いで、陰イオン化された生物忌避剤を含む溶液と層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液とを混合することによって得られる、層状複水酸化物と該層状複水酸化物にインターカレートしてなる生物忌避剤とを含んでなる生物忌避性複合体は、徐放性および安定性に優れ、樹脂や溶媒等に均一に分散でき、分散された樹脂等の機械的強度をほとんど低下させないことを見出した。本発明は、この知見に基づいて、さらに検討し完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1)層状複水酸化物と、該層状複水酸化物にインターカレートしてなる生物忌避剤とを含んでなる生物忌避性複合体。
(2)層状複水酸化物が、
[M2+1-x3+x(OH)2][An-x/n・yH2O] ・・ 式(I)
(式(I)中、M2+は、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の2価金属イオンを表し、M3+はAl、Cr、Fe、Co、およびInからなる群から選ばれる少なくとも1種の3価金属イオンを表し、An-は、NO3-、Cl-、およびCO32-からなる群から選ばれる少なくとも1種のn価陰イオンを表す。xは0超過1未満の数を表し、nは陰イオンの価数を表し、yは水和水の数を表す。)で表される不定比化合物である、前記(1)に記載の生物忌避性複合体。
(3)X線回折スペクトルにおいて、前記層状複水酸化物の各層の間隔に対応するピークトップが、前記層状複水酸化物のみからなり前記生物忌避剤がインターカレートされていない層状複水酸化物のピークトップの位置に対し、その位置に存在しない、もしくはその位置より低2θ側に存在する、前記(1)または(2)に記載の生物忌避性複合体。
(4)生物忌避剤がカプサイシンである、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体。
【0013】
(5)生物忌避剤を陰イオン化し、次いで、陰イオン化された生物忌避剤を含む溶液と層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液とを混合することを含む、生物忌避性複合体の製造方法。
(6)層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液と、前記金属イオンと反応し沈殿物を生成させることができる陰イオンを含む溶液とを混合して、層状複水酸化物を得、 次いで、該層状複水酸化物と生物忌避剤とを液中にて接触させることを含む、生物忌避性複合体の製造方法。
(7)層状複水酸化物を構成する金属イオンが、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の2価金属イオンと、Al、Cr、Fe、Co、およびInからなる群から選ばれる少なくとも1種の3価金属イオンとの組み合わせからなる、前記(5)または(6)に記載の生物忌避性複合体の製造方法。
(8)生物忌避剤がカプサイシンである、前記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体の製造方法。
【0014】
(9)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体を含有する塗料。
(10)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体を含有する樹脂材。
(11)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体を含有する貝類または甲殻類の付着防止剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の生物忌避性複合体を用いることによって、生物忌避剤の樹脂に対する分散性の改良ができる。該複合体を樹脂に添加しても樹脂材料の強度の低下が抑えられる。また、溶剤(塗料)に対する分散性の改良ができるので、該複合体を添加した塗料は、相分離などを起しにくく、乾燥塗膜の強度、密着性に優れたものとなることが期待される。また、本発明の生物忌避性複合体を用いると生物忌避剤の徐放性および安定性が改良されるので、有害生物を忌避する効果が長期間持続可能になる。
本発明の生物忌避性複合体は、本発明の製造方法、すなわち、共沈法、再構築法またはイオン交換法によって容易に製造することができる。特に共沈法によれば、層状複水酸化物にインターカレートする生物忌避剤の量を多くすることができる。
本発明の生物忌避性複合体を用いると、貝類または甲殻類が船体、護岸、水路などに付着するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、層状複水酸化物(LDH)とのX線回折スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、層状複水酸化物(LDH)と、生物忌避剤(Capsaicin)とのFT−IRスペクトルを示す図である。
【図3】本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、カプサイシン(Capsaicin)との熱分解ガスクロマトグラムを示す図である。
【図4】本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、カプサイシン(Capsaicin)との熱分解ガスのマススペクトルを示す図である。
【図5】本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、層状複水酸化物(LDH)との熱重量分析の結果を示す図である。
【図6】本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末による生物忌避効果を示す図である。
【図7】本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末を含有するシリコン樹脂シートによる生物忌避効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の生物忌避性複合体は層状複水酸化物と生物忌避剤とを含んでなるものである。
【0018】
本発明に用いられる層状複水酸化物(layered Double Hydroxide:LDH)は、陰イオン交換能をもつ層状無機化合物である。陰イオン性粘土(anionic clay)とか、ハイドロタルサイト様化合物とも呼ばれる物質である。層状複水酸化物は、モンモリロナイトなどの層状粘土とはその構造が異なるものである。
層状複水酸化物は、[Maa+1-xMbb+x(OH)2][An-z・yH2O]で表される不定比化合物である。Ma+およびMb+はa価金属イオンおよびb価金属イオンを表す。An-は陰イオンを表す。Ma+とMb+との組み合わせには、M2+とM3+、M1+とM3+、M2+とM4+ などの組み合わせがあるが、M2+とM3+の組み合わせが好ましい。なお、Mの上付き数字は金属イオンの価数を表す。層状複水酸化物は、[Ma+1-xb+x(OH)2]の部分からなる基本層と、[An-z・yH2O]の部分からなる中間層とが交互に積層した構造を有している。なお、後述する生物忌避剤が層状複水酸化物にインターカレートされると、中間層の陰イオンが該生物忌避剤と交換されると考えられる。
【0019】
好適な層状複水酸化物としては、式(I)で表される不定比化合物が挙げられる。
[M2+1-x3+x(OH)2][An-x/n・yH2O] ・・ 式(I)
式(I)中、M2+は、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の2価金属イオンを表し、M3+はAl、Cr、Fe、Co、およびInからなる群から選ばれる少なくとも1種の3価金属イオンを表し、An-は、NO3-、Cl-、およびCO32-からなる群から選ばれる少なくとも1種のn価陰イオンを表す。xは0超過1未満の数、好ましくは0.2以上0.33以下の数を表し、nは陰イオンの価数を表し、yは水和水の数を表す。なお、陰イオンがNO3-のものを硝酸型層状複水酸化物、陰イオンがCl-のものを塩化物型層状複水酸化物、陰イオンがCO32-のものを炭酸型層状複水酸化物と呼ぶことがある。
【0020】
2+とM3+の組み合わせの具体例としては、Mg2+とAl3+、Zn2+とAl3+、Mg2+とCr3+、Mg2+とFe3+、Mg2+Fe2+とAl3+、Ca2+とAl3+、Fe2+とFe3+、Ni2+とAl3+、Ni2+とFe3+、Zn2+Ni2+とAl3+、などの組合せが挙げられる。これらのうち、製造の容易さ等の点から、Mg2+とAl3+、Zn2+とAl3+が好ましい。
【0021】
本発明に用いられる生物忌避剤としては、ヒノキチオール、サフロール、リモネン、リナロール、メントール、1,8−シネオール、シトラール、オイゲノール、カプサイシン、樟脳、バニリン、α−ピネン、β−ピネン、アネトール、アニスアルデヒド、アンゲリカ酸、アセトフェノン、シンナミルアルコール、青葉アルコール、ゲラニオール、ナフタリン、ジエチルトルアミド、レモングラスオイル、レモングラス、合成ムスク、シンナミックアルデヒド、パインオイル、ターピネオール、木酢、アセトキシフェニルブタン、ヘキサノール、蟻酸ゲラール、γ−ラクトン、アンゲリカ、環状テルペンアルコール、N,N−ジエチル−m−トルアミド、エチルオメトン、イソチオネート、クレゾール、バニラ、ノニルラリタン、リナロール、2−ブトキシエタノール、ビスエーテル、シクロヘキサン、イソホロン、スペアミントオイル、桂皮アルコール、メチルノニルケトン、メチルフェニルケトン、ユーカリプトール、アリルイソチアネート、シクロヘキシミド、ヒバ油、スペアミント油、オレンジ油、レモン油、マンダリン油、ライム油、サッサフラス油、樟脳油、カッシア油、リナロエ油、ハッカ油、チョウジ油、ピメント油、ベイ油、テレビン油、ダイウイキョウ油、アニス油、ウイキョウ油、ソゴウ香、などが挙げられる。
【0022】
また、コショウ、トウガラシ、ハッカ、シソ、チョウジ、バニラ、タイム、タンジー、ローズマリー、スイートバジル、レモングラス、ハマナス、ブロンズフェンネル、ホースラディッシュ、ボリジ、ディル、メドースイート、グラックマロー、ローズゼラニウム、ルバーブ、イタリアンパセリ、ベルガモット、ワイルドストローベリー、ロケットサラダ、ジンジャーミント、オーデコロンミント、ペパーミント、コテージピンク、モスカールドパセリ、サラダバーネット、チャイブ、マジョラム、オリーブ、カールドン、パイナップルセージ、レモンタイム、パープルバジル、レモンバーム、ガーデンセージ、ローマンカモマイル、スイートフェンネル、イングリッシュラベンダー、レモンベルガモット、ハートシーズ、ヒソップ、パイナップルミント、ペニーロイヤル、クリーンピングタイム、ガーデンセージ、ワイルドリーク、スペアミント、ベイ、グリークオレガノ、リブワート、などのハーブや香辛料から抽出されるエキスを例示することができる。
これら生物忌避剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に用いられる生物忌避剤としては、特にカプサイシンが好ましい。
【0023】
本発明の生物忌避性複合体は、該層状複水酸化物に生物忌避剤がインターカレート、すなわち、該層状複水酸化物の層間に生物忌避剤が取り込まれている。このインターカレートは、単なる吸着よりも、多量に生物忌避剤を複合体に含ませることができ、さらに生物忌避剤の徐放性が期待できるようになる。
本発明の生物忌避性複合体は、X線回折スペクトルにおいて、前記層状複水酸化物の各層の間隔に対応するピークトップが、前記層状複水酸化物のみからなり前記生物忌避剤がインターカレートされていない層状複水酸化物のピークトップの位置に対し、その位置に存在しない、もしくはその位置より低2θ側に存在することが好ましい。例えば、図1に示すように、層間隔d=0.88nmの層状複水酸化物(LDH)に生物忌避剤(カプサイシン)がインターカレートされた生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は、d=0.88nmのピークが存在せず、それよりも低2θ側のd=1.51nmにピークが在る。
【0024】
該層状複水酸化物にインターカレートされた生物忌避剤の量は、特に限定されないが、インターカレート量が少なすぎると忌避効果が期待できない。上限は層状複水酸化物の層間の大きさ等と生物忌避剤の大きさ等に応じて決まる。
【0025】
本発明の生物忌避性複合体は、その製法によって特に制限されないが、例えば、共沈法、イオン交換法、または再構築法によって得ることができる。これらのうち、共沈法が、生物忌避剤のインターカレート量を多くできるので好ましい。
【0026】
共沈法は、生物忌避剤を陰イオン化し、次いで、陰イオン化された生物忌避剤を含む溶液と層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液とを混合することを含む方法である。
例えば、生物忌避剤を含む溶液にNaOHなどを加えて生物忌避剤を陰イオン化し、これに2価金属イオンと3価金属イオンを含む溶液をpH調整しながら加える。これによって層状複水酸化物の沈殿生成と伴に、生物忌避剤を直接に層状複水酸化物の層間に取り込むことができる。
生物忌避剤の陰イオン化の手法としては、前述したようなアルカリ性水溶液による方法;カルボン酸メチル、カルボン酸エチル、スルホン酸プロピル、ヘキサ硫酸などで生物忌避剤を修飾する方法;陰イオン界面活性剤でミセル化する方法;などが挙げられる。
【0027】
イオン交換法は、層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液と、前記金属イオンと反応し沈殿物を生成させることができる陰イオンを含む溶液とを混合して、層状複水酸化物を得、次いで、該層状複水酸化物と生物忌避剤とを液中にて接触させることを含む方法である。
例えば、NO3-やCl-のような電荷密度の低い陰イオンを含む溶液と2価金属イオンと3価金属イオンを含む溶液とを混合して層状複水酸化物を調製し、次いで、これを目的の陰イオン化された生物忌避剤を含む溶液に添加する。これにより陰イオン交換を行い、生物忌避剤を取り込むことができる。
負の電荷密度が大きい陰イオンほど層状複水酸化物に取り込まれやすいので、生物忌避剤の陰イオン化には、層状複水酸化物を製造するときに使用した陰イオンより負の電荷密度が大きい陰イオンを用いることが好ましい。負の電荷密度の大きさは、例えば、OH-=F->Cl->Br->NO3->I-の順になることが知られている。
【0028】
再構築法は,炭酸型層状複水酸化物に特有な熱分解−再水和反応を利用するものである。まず炭酸型層状複水酸化物を熱分解して層間水の脱離とCO32-の分解・脱CO2ならびに水酸化物基本層の縮合脱水を行い、酸化物固溶体(前駆体)を得る。次いで,これを目的の陰イオン化された生物忌避剤を含む溶液に添加する。これによって再水和反応と伴に層状複水酸化物構造を再生し、その際に生物忌避剤を層間に取り込むことができる。再構築法では生物忌避剤を陰イオン化しない場合でも複合体を得ることができる。生物忌避剤の中には陰イオン化によって忌避効果が低下するものがあるので、陰イオン化をせずに複合体を得ることができる再構築法はこのような場合に好適である。
【0029】
本発明の生物忌避性複合体は、そのままでも使用できるし、製剤化することもできる。例えば、本発明の生物忌避性複合体に、溶剤、保留剤、可溶化剤、保湿剤、香料、徐放剤、湿潤剤、界面活性剤、担体などの公知の添加剤を加え、水和剤、粒剤、粉剤、乳剤、水溶剤、懸濁剤、顆粒水和剤などに製剤化することができる。また、本発明の生物忌避性複合体を樹脂や塗料等に含有させて、生物忌避性塗料や生物忌避性樹脂材等として使用することができる。本発明の生物忌避性複合体を塗料に含有させる方法は特に制限されない。例えば、本発明の生物忌避性複合体を塗料に添加し均一に分散させる方法などが挙げられる。また、本発明の生物忌避性複合体を樹脂に含有させる方法は特に制限されない。例えば、本発明の生物忌避性複合体を樹脂に練り込んで樹脂マトリック中に分散させる方法、前記方法等で得られた生物忌避性塗料を樹脂基材の表面に塗布する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これら実施例は説明のための単なる例示であって、本発明はこれら実施例に何等制限されるものではない。
【0031】
実施例で得られた生成物の物性を下記の方法で測定した。
(1)X線回折法によるカプサイシンのインターカレーションの確認
結晶構造の解析をX線回折法により行った。すなわち、粉末X線回折法を用いて、X線と平面のなす角θを求めることにより、層状複水酸化物の層間の距離dをブラッグの式から求めた。なお、X線回折装置として、理学電気(株)製のRINT2100を使用した。
層状複水酸化物の層間の距離dは、ブラッグの条件により次式から算出した。
2d sinθ = nλ
n:任意の整数
λ:X線の波長
【0032】
(2)IRスペクトルによる層状複水酸化物へのカプサイシンのインターカレーションの確認
生成物のIRスペクトルを測定した。IRの測定は、島津製作所社製のフーリエ変換赤外分光光度計FTIR−8400Sを使用し、KBr錠剤法で行った。
【0033】
(3)熱分解GC−MSによる層状複水酸化物へのカプサイシンのインターカレーションの確認
生成物の熱分解GC−MSを測定した。熱分解GC−MSの測定には、フロンティア・ラボ社製のダブルショット・パイロライザーPY−2020Dを取り付けた島津製作所社製の熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP2010を使用した。
【0034】
(4)熱重量減少による層状複水酸化物へのカプサイシンのインターカレーションの確認
生成物の熱重量減少を島津製作所社製の熱重量分析計TGA−50によって測定した。
【0035】
(5)インターカレートされたカプサイシンの固定化量の算出
カプサイシンの固定化量は元素分析により求めた炭素元素の含有率から算出した。元素分析には、パーキンエルマー社製の有機微量元素分析装置2400II (CHNS/O分析)を使用した。
【0036】
(製造例1) 層状複水酸化物(LDH)の合成
スターラーバーを入れた500mL三口フラスコに、水酸化ナトリウム0.4g(0.01mol)を入れ、これに蒸留水300mLを加え、マグネチックスターラーで激しく撹拌させて、溶液を得た。この溶液に、硝酸アルミニウム・九水和物3.75g(0.01mol)及び硝酸マグネシウム・六水和物5.12g(0.02mol)を蒸留水50mLに溶解してなる混合溶液をゆっくり滴下した。滴下中、反応溶液のpHが10±0.3になるように1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて調節した。その後、60℃で24時間静置した。生成物をイオン交換水で中性になるまで繰り返し洗浄した。生成物(層状複水酸化物(LDH))を分離し50℃で減圧乾燥した。
【0037】
(製造例2) カプサイシンの陰イオン化
スターラーバーを入れた試験管に、カプサイシン0.15gを入れ、これに0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10mLを加えた。その溶液をマグネチックスターラーで撹拌しながら、40℃で24時間反応させ、陰イオン化されたカプサイシンを得た。
【0038】
(実施例1) 共沈法による層状複水酸化物へのカプサイシンのインターカレーション
スターラーバーを入れた200mL三口フラスコに、製造例2で得られた陰イオン化されたカプサイシン溶液10mL及び蒸留水50mLを入れ、マグネチックスターラーで激しく撹拌させた。その溶液に、硝酸アルミニウム・九水和物0.2g(0.5mmol)及び硝酸マグネシウム・六水和物0.26g(1.0mmol)を蒸留水20mLに溶解してなる混合溶液をゆっくり滴下した。滴下中、反応溶液のpHが7付近になるように1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて調節した。滴下終了後、この反応溶液をさらに1時間pHが7付近になるように調節しながら撹拌した。次いで30℃で24時間静置した。生成物をイオン交換水で中性になるまで繰り返し洗浄した。生成物(LDH-Capsaicin)を分離し50℃で減圧乾燥した。
【0039】
(実施例2) イオン交換法による層状複水酸化物へのカプサイシンのインターカレーション
スターラーバーを入れた200mL三口フラスコに、製造例2で得られた陰イオン化されたカプサイシン溶液10mL及び蒸留水50mLを入れ、マグネチックスターラーで激しく撹拌させた。その溶液に、製造例1で合成した層状複水酸化物を蒸留水20mLに溶解してなる液をゆっくり滴下した。滴下中、反応溶液のpHが7付近になるように1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて調節した。滴下終了後、この反応溶液をさらに1時間pHが7付近になるように調節しながら撹拌した。次いで30℃で24時間静置した。生成物をイオン交換水で中性になるまで繰り返し洗浄した。生成物(LDH-Capsaicin)を分離し50℃で減圧乾燥した。
【0040】
実施例1で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、製造例1で得られた層状複水酸化物(LDH)とのX線回折スペクトルは、図1に示すとおりである。ブラッグの式より、層状複水酸化物(LDH)の層間はd=0.88nm、生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)の層間はd=1.51nmであることが分かった。この結果から、カプサイシンがインターカレートされ、層状複水酸化物(LDH)の層間が広がったことが確認された。
実施例2で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)では、層状複水酸化物に63重量%のカプサイシンがインターカレートされた。層状複水酸化物の層間の硝酸イオンとカプサイシンアニオンのイオン交換の割合、すなわち、インターカレート量を調整するために、溶液のpH、陰イオン種などを調節することができる。
【0041】
実施例1で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、製造例1で得られた層状複水酸化物(LDH)と、生物忌避剤(Capsaicin)とのFT−IRスペクトルは、図2に示すとおりである。
カプサイシンは、2900cm-1付近のメチル基に由来する吸収ピークと、1680cm-1付近のアミド結合に由来する吸収ピークが特徴的に認められた。
製造例1で得られた層状複水酸化物(LDH)は、1380cm-1付近の硝酸イオンに由来する吸収ピークが認められた。
一方、実施例1で得られた生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は、カプサイシンと同じ、2900cm-1付近のメチル基に由来する吸収ピークと、1680cm-1付近のアミド結合に由来する吸収ピークが認められたが、1380cm-1付近の硝酸イオンに由来する吸収ピークが認めらなかった。
この結果から、層状複水酸化物(LDH)の層間にあった硝酸イオンがカプサイシンアニオンと交換され、カプサイシンが層間にインターカレートされていることが確認できた。
【0042】
実施例1で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、カプサイシン(Capsaicin)との熱分解ガスクロマトグラムを図3に示す。両者とも保持時間4.3分において同様の熱分解ガスが検出された。実施例1で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、カプサイシン(Capsaicin)との保持時間4.3分の熱分解ガスのマススペクトルを図4に示す。両者はよく一致していた。以上の結果から、層状複水酸化物の層間へカプサイシンがインターカレートされたことが示唆された。
【0043】
実施例1で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)と、製造例1で得られた層状複水酸化物(LDH)との熱重量分析の結果を図5に示す。
生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は200〜300℃で急激に重量が減少することが分かった。層状複水酸化物(LDH)は400℃付近で重量が減少した。カプサイシンの熱分解温度は170℃であることから、この200〜300℃における重量減少は生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)の層間にインターカレートされたカプサイシンの分解によるものと考えられる。したがって、層状複水酸化物(LDH)の層間へカプサイシンがインターカレートされたことが示唆された。
【0044】
実施例1で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)を元素分析した結果、層状複水酸化物(LDH)1gあたりカプサイシン1.2mmolが固定化されていることが分かった。これより、シリカ粒子への担持で固定化できる量にくらべると、層状複水酸化物(LDH)で固定化できるカプサイシン量は大幅に多いことが分かった。実施例1で得られた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)には、インターカレートによってカプサイシンの流出速度が抑えられ、徐放性があることが確認できた。
【0045】
(試験例1)刺激性試験
本発明の生物忌避性複合体の刺激性を評価するために、モルモットの腸管を用いてマグヌス試験を行った。
その結果、未処理の層状複水酸化物では腸管の収縮はほとんど起こらなかった。これに対して、実施例1で得られた生物忌避性複合体では、腸管の収縮率が28.8%であった。実施例1でインターカレートされた量と等量のカプサイシンを用いたところ、腸管の収縮率が28.9%であった。
以上の結果から、層状複水酸化物にインターカレートされたカプサイシンが、純粋なカプサイシンと比較してほぼ同程度の活性を維持していることがわかった。
【0046】
(試験例2)生物忌避効果の検討1―生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末の添加によるキプリス幼生の忌避試験―
実施例1と同様の共沈法によって、層状複水酸化物(LDH)にカプサイシン58重量%がインターカレートされた本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末を製造した。このLDH-Capsaicin粉末をろ過海水に添加して均一に分散させ、LDH-Capsaicin粉末の添加濃度がそれぞれ、0μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、100μg/ml、及び1mg/ml、となる海水を作成した。この各々の海水2mlをそれぞれの試験容器に入れた。これにタテジマフジツボのキプリス幼生を10個体ずつ加えた。キプリス幼生の状態を7日間観察した。
キプリス幼生は、正常(忌避効果なし)であれば「遊泳」→「探索・一次付着」→「変態」→「幼フジツボ」という行動をとるが、適当な基盤がない(忌避効果あり)と体内に蓄えたエネルギーを使い果たして、「横転・胸肢運動」→「胸肢突出・無反応」→「死亡・組織崩壊」へと進む。
【0047】
LDH-Capsaicin粉末の添加によるキプリス幼生の忌避試験の結果を図6に示す。図6に示した様に、LDH-Capsaicin粉末の添加濃度が、100μg/ml、及び1mg/mlの海水では、1日目において既に全てのキプリス幼生が横転・胸肢運動の状態となり、キプリス幼生に対する高い忌避効果を示した。7日目には85%以上のキプリス幼生が胸肢突出・無反応の状態となり、LDH-Capsaicin粉末によるキプリス幼生の忌避効果は顕著であった。其れに対してLDH-Capsaicin粉末を含有しない海水(0μg/ml)では、7日目においてもキプリス幼生の90〜95%が幼フジツボに変態し試験容器に付着しておりキプリス幼生の忌避効果は認められなかった。以上の結果から本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末は、海水への添加濃度が10μg/mlを超えるとキプリス幼生の忌避効果が認められ、100μg/ml以上になるとキプリス幼生の忌避効果が顕著になることが分かった。
【0048】
(試験例3)生物忌避効果の検討2―生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末を含有するシリコン樹脂シートへのキプリス幼生の忌避試験―
実施例1と同一の本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末を、信越化学社製シリコン樹脂に添加して均一分散させ、LDH-Capsaicin粉末の添加濃度がそれぞれ、0重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.2重量%、0.5重量%、1.0重量%、及び5.0重量%、含有するシリコン樹脂組成物を作成した。そして、それら組成物を2.5cm×5cmのシートに成形した。このシートをろ過海水150mlが入った340mlの抗菌タッパウエアー(キプリス幼生は着床しない、)にそれぞれ浸漬し、これにタテジマフジツボのキプリス幼生を40〜60個体づつ加えた。キプリス幼生の状態を19日間観察した。
【0049】
LDH-Capsaicin粉末含有シリコーン樹脂シートによるキプリス幼生の忌避試験の結果を図7に示す。図7に示した様に、LDH-Capsaicin粉末の添加濃度が0.05重量%のシリコン樹脂シートにおいても、19日目には半分以上(55%)のキプリス幼生が、横転・胸肢運動の状態乃至胸肢突出・無反応の状態である忌避効果を示し、0.1重量%のシリコン樹脂シートでは、19日目の横転・胸肢運動の状態乃至胸肢突出・無反応の状態である忌避効果を示すキプリス幼生が78%に急増した。LDH-Capsaicin粉末の添加濃度が0.2重量%以上のシリコン樹脂シートでは、全てのキプリス幼生が8日目には既に横転・胸肢運動の状態乃至胸肢突出・無反応の状態である忌避効果を示した。それに対してLDH-Capsaicin粉末を含有していない(0重量%)シリコン樹脂シートでは、19日目においても、横転・胸肢運動の状態乃至胸肢突出・無反応の状態である忌避効果を示すキプリス幼生は2%と低い値であり、キプリス幼生の忌避効果は認められなかった。以上の結果から本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末含有シリコン樹脂シートは、LDH-Capsaicin粉末の添加濃度が0.1%以上という微量な生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)粉末が含有した樹脂シートでも生物忌避効果が顕著であることが分かった。
【0050】
(試験例4)食塩水中での溶出試験
LDH-Capsaicinを1重量%添加したシリコーンゴムを海水と同じ濃度3.5%の食塩水中に30℃で浸漬した。食塩水へのカプサイシンの溶出率の経時変化を測定した。その結果、24時間経過時の溶出率が約21%で、48時間経過時の溶出率が約24%であった。シリコーンゴムからのカプサイシンの溶出速度は、初期において若干速めであったが、徐々に溶出速度が緩やかになった。したがって、本発明の複合体は、海水(食塩水)中への溶出において徐放性を示すことが確認できた。
【0051】
以上の実施例の結果から、本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は、次の様な優れた効果を有していることが分かる。(1)本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は、共沈法やイオン交換法等によって簡単で大量に製造することができると共に層状複水酸化物(LDH)にカプサイシンを大量に安定してインターカレートさせることができる。(2)本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は塗料にあるいはシリコン樹脂などの樹脂に混合分散させて使用することができる。(3)本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は、カプサイシン原末と同様の生物忌避効果を示す。(4)本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)は図5からも解る様に、210〜220℃で分解が始まり、170℃で分解するカプサイシン原末よりも耐熱性に優れている。そのため、多くの樹脂に混合して溶融成形することが可能である。(5)樹脂との混合が容易、安定、かつ均一に行うことができる。(6)樹脂に混合する本発明の生物忌避性複合体(LDH-Capsaicin)の量が少なくても忌避効果が十分にあるので、樹脂本来の性能を損なうおそれが無い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物と、
該層状複水酸化物にインターカレートしてなる生物忌避剤と
を含んでなる生物忌避性複合体。
【請求項2】
層状複水酸化物が、
[M2+1-x3+x(OH)2][An-x/n・yH2O] ・・ 式(I)
(式(I)中、M2+は、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の2価金属イオンを表し、M3+はAl、Cr、Fe、Co、およびInからなる群から選ばれる少なくとも1種の3価金属イオンを表し、An-は、NO3-、Cl-、およびCO32-からなる群から選ばれる少なくとも1種のn価陰イオンを表す。xは0超過1未満の数を表し、nは陰イオンの価数を表し、yは水和水の数を表す。)で表される不定比化合物である、請求項1に記載の生物忌避性複合体。
【請求項3】
X線回折スペクトルにおいて、前記層状複水酸化物の各層の間隔に対応するピークトップが、前記層状複水酸化物のみからなり前記生物忌避剤がインターカレートされていない層状複水酸化物のピークトップの位置に対し、その位置に存在しない、もしくはその位置より低2θ側に存在する、請求項1または2に記載の生物忌避性複合体。
【請求項4】
生物忌避剤がカプサイシンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体。
【請求項5】
生物忌避剤を陰イオン化し、次いで、陰イオン化された生物忌避剤を含む溶液と層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液とを混合することを含む、生物忌避性複合体の製造方法。
【請求項6】
層状複水酸化物を構成する金属イオンを含む溶液と、前記金属イオンと反応し沈殿物を生成させることができる陰イオンを含む溶液とを混合して、層状複水酸化物を得、
次いで、該層状複水酸化物と生物忌避剤とを液中にて接触させることを含む、生物忌避性複合体の製造方法。
【請求項7】
層状複水酸化物を構成する金属イオンが、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の2価金属イオンと、Al、Cr、Fe、Co、およびInからなる群から選ばれる少なくとも1種の3価金属イオンとの組み合わせからなる、請求項5または6に記載の生物忌避性複合体の製造方法。
【請求項8】
生物忌避剤がカプサイシンである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体を含有する塗料。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体を含有する樹脂材。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生物忌避性複合体を含有する貝類または甲殻類の付着防止剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−280655(P2010−280655A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100995(P2010−100995)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504283585)株式会社 双葉テクニカ (6)
【出願人】(508207882)株式会社 ナフタック (5)
【Fターム(参考)】