説明

生物材料中の細菌のインビトロ検出及び/又は定量及び/又は同定の方法

生物材料を構成する液状媒体M内に存在する細菌の検出及び/又は定量及び/又は同定のためのインビトロの方法であって、マイクロビーズの液状懸濁媒体中懸濁液を調製し、前記マイクロビーズにβ2GPIタンパク質を導入し、前記導入された前記マイクロビーズを酸化金属イオンの不在下で液状媒体Mと接触させることにより、前記β2GPIタンパク質に細菌を結合させ、前記により調製されたマイクロビーズを懸濁媒体から分離して残渣を得、前記残渣から細菌を検出及び/又は定量及び/又は同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物材料中の細菌のインビトロ検出及び/又は定量及び/又は同定の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において「生物材料」とは、細菌を含んでいてもよい、天然又は非天然の生物組織、生物組織に由来する調製物若しくは抽出物、液体若しくは固体、又は媒体、例えば果実及び野菜を洗うための流水若しくは水などを意味する。このような材料は、先に規定された材料の少なくとも2種の混合物であってもよい。よってこれらは、特に疾患に罹患した患者の組織、臓器、糞便若しくは体液から調製されたものでも、又は「インビトロ」培養から得られたものでもよい。かかる生物材料は、血清、血漿、尿、脳脊髄液、滑液、腹水、胸膜液、精液又は酢酸液(acetic fluid)であってもよい。
【0003】
血漿糖タンパク質の一種であるβ2−糖タンパク質I、略称「β2GPI」は既報である。このヒト糖タンパク質の配列は、特に、J. LOZIERらの論文、Proc. Natl. Acad. Sci. ISA, 81, 3640-3644 (1984年7月)、及びT. KRISTENSENらの論文、FEBS Letters, 289, 183-186 (1991)に記載される。このβ2GPIタンパク質は多型を示す。本明細書ではβ2GPIという名称を、全ての型の総称として解する。
【0004】
国際出願WO94/18569は、特定の種の(特にタンパク質性の)感染性化合物が、仏国特許第2701263号に開示のβ2GPI型に結合することを指摘する。文献WO94/18569はウイルス性化合物の検出及び/又はアッセイの方法を提示し、本方法では感染性ウイルス性化合物が、使用されるβ2GPIの型に結合される。従ってこのβ2GPI型は、生物材料中に含まれる感染性ウイルス性化合物に添加され、その後こうして捕捉されたウイルス性化合物を検出及び/又はアッセイするべく分離する。欧州特許第EP775315号には、感染性化合物、特にタンパク質性化合物と任意のβ2GPI型との複合体の形成が開示されている。この感染性化合物は、特に細菌であることができる。これらの文献から、β2GPIは、マイクロタイトレーションプレートのウェルの底のような、平坦な固形支持体に結合することが可能であること、及びこうしてこの平坦な固形支持体へ接着しているβ2GPIは、非常に低濃度で臨床試料、生物学的試料又は環境的試料の中に存在する細菌に結合することが可能であることは明らかである。更にそのような試料は、病原体の検出を少なくとも部分的に阻害する物質、結果的に検出の感度を低下し得る物質を含有することができることは公知である。従ってそれらの検出を阻害する物質を排除するために、これらの病原体を捕捉しかつ濃縮することができることは重要である。
【0005】
本出願人の会社(Applicant company)の研究は、タイトレーションプレートのウェルの底へのβ2GPIの結合は、β2GPIの特定の高次構造によって起こり、この高次構造はその後のβ2GPIの感染性化合物との複合体の形成を可能にすることを示す。この文献は更に、このβ2GPIの高次構造は、固体表面へのその結合部位で変動することを報告している(Matsuuraら、J. Exp. Med. 179, 457-462 (1994))。それにウイルスが接着するスルホン化された磁気マイクロビーズを使用する、ウイルスの濃縮の方法が、既に説明されており(A. IWATAら、Biol. Pharm. Bull. 26(8), 1065-1069 (2003))、このウイルスの濃縮は、これらのマイクロビーズには磁性があり、磁界の作用により感染性媒体から分離されることに基づき得られた。残念なことに、この技術の結果は、本質的にはマイクロビーズへのウイルスの接着機能であった。この文献は、ある種のエンベロープを持たないウイルスは、ポリエチレン−イミンで製造されたビーズには結合しないこと、及びある種のウイルスを濃縮するためには、スルホン化されたマイクロビーズを使用することは必須であることを詳細に説明している。更にある種のウイルスに関しては、二価のカチオンを添加することが必要であった。この知見から、マイクロビーズを構成するポリマーは、ウイルスの性質に応じ、グラフトされるか又はされないか異ならなければならないこと、及び二価のイオンは必要であるか又は不要であることが導かれ;そのためこれらのビーズは、濃縮されるべきウイルスに応じその場その場で(ad hoc)調製されなければならない。同じ知見が、E. UCHIDAらの論文(Journal of Virological Methods, 143, 95-103 (2007))から明らかになっており、この論文はヒトA型、B型及びC型肝炎ウイルスの濃縮に関連している。検出されるべき未同定のウイルスを含む試料の存在下で、どの種のマイクロビーズが、関心対象のウイルスの接着を生じる得るかを決定するのは不可能である。
【0006】
結論として、ウイルスのマイクロビーズへの結合に関する既存の欠点を考慮すると、当業者は、細菌のマイクロビーズへの結合を研究しようとは思わないであろう。しかし本出願人である当社は、この不利な先入観に挑戦するべく、本発明に従って、マイクロビーズとその上に結合される細菌との間にβ2GPI分子を介在させることを提唱する。先端技術により、β2GPIを良好に接着し得る固形支持体の性質が決定される。次に、β2GPIのマイクロビーズへの結合が、マイクロビーズのポリマーを用いることなく実施される。かかるポリマーは、その後に結合される細菌に応じて修飾する必要があった。更に注目すべき点であるが、β2GPIのマイクロビーズへの結合は、細菌のβ2GPIへの接着を損なわなかった。マイクロビーズに結合されるβ2GPIの高次構造からは、病原性物質の前記糖タンパク質への接着を可能にすることは予見できなかったので、この最後の点は完全に予想外であった。補足すると、β2GPIが自己重合傾向を有するという公知事実から、本発明の想到に対する阻害事由が生じる(Thrombosis Research, 108, 175-180 (2003)参照)。自己重合によって、β2GPIを担持するマイクロビーズの凝集が生じる虞がある。かかる凝集ゆえに、当然ではあるが、病原性物質のβ2GPI分子への結合は検討に値しないものと見られていた。
【発明の概要】
【0007】
従って本発明の主題は、生物材料を構成する液状媒体M内に存在する細菌の検出及び/又は定量及び/又は同定のためのインビトロの方法であって、この方法は、公知の手法で液状懸濁媒体中のマイクロビーズの懸濁液が調製され、前記マイクロビーズは、タンパク質を結合可能な固体ポリマー物質により構成された外表面により境界画定されており、下記の段階
a)適切な緩衝液中、懸濁液中のマイクロビーズに対するβ2GPIタンパク質の導入が、懸濁媒体中で受動的な又は公知の化学結合プロトコールの使用のいずれかによる、十分量のβ2GPIタンパク質とのカップリングにより達成される段階;
b)酸化金属イオンの不在下で、細菌のマイクロビーズにより担持されたβ2GPIタンパク質への十分な結合を達成するために、容器内で、β2GPIタンパク質が導入された前記マイクロビーズが、適切な条件下で、液状媒体Mと接触される段階;
c)前記により調製されたマイクロビーズが、懸濁媒体から分離され、高濃度の細菌を含む残渣を得るために、前記懸濁媒体が容器から取り除かれる段階;
d)並びに、前記により得られた濃縮された残渣から出発して、細菌が検出及び/又は定量及び/又は同定される段階を含むことにより特徴づけられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】マイクロビーズ量に対するOD600nmのグラフである。
【図1A】時間に対するOD600nmのグラフである。
【図2】マイクロビーズ量に対するOD600nmのグラフである。
【図3】細胞内ANの変化を表すグラフである。
【図4】ATP及びANの測定結果を表すグラフである。
【図5】ATP測定結果を表すグラフである。
【図6】PCRのゲル泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
先に規定された方法が実行され、かつ高濃度の細菌を含む残渣を構成するマイクロビーズが洗浄される場合、マイクロビーズにより捕捉された細菌は、それらの増殖能を維持したことが指摘され、これは極めて驚くべき事であった。従って有利な実施方法において、本発明の方法は、残渣を構成するマイクロビーズが、洗浄され、それらの増殖をもたらすことが可能な培養媒体と接触され、並びに公知の手法で、細菌が前記培養媒体から出発し、検出及び/又は定量及び/又は同定されることにより特徴づけられる。マイクロビーズに結合された媒体Mの細菌の増殖を可能にするために、これらは、培養媒体上、好気性又は嫌気性の条件下で、好適な期間及び好適な温度でインキュベーションされ、かつその培養結果が得られ、前記細菌の存在及び/又は定量及び/又は同定が推定される。この液状媒体Mは、特に血培養液(haemoculture)であることができ、かつこの場合、高濃度の細菌を含む残渣を得た後、及びこれを洗浄した後、これらのマイクロビーズは、培養ブロス、例えば「TSB」と称されるトリプチカーゼ(trypticase)大豆ブロス中に再懸濁されることができ、かつこのブロスは、血液の培養媒体、例えば「Columbia」ヒツジ血液媒体に適用されることができる。
【0010】
本細菌は、グラム染色によるか、及び/又は選択媒体若しくは非選択媒体上での継代培養により、同定されることができ;細菌は、光学密度の読み取りによるか、ATP−測定によるか、又はPCRにより、定量されることができる。
【0011】
前述のマイクロビーズの外表面を構成する固体材料は、好ましくはプラスチック及びエラストマーにより形成された群から選択され、前記材料は、β2GPIタンパク質への化学結合を達成するために、マイクロビーズの外表面にグラフトされた反応基を保持するか又は保持せず;このマイクロビーズは有利なことに、実質的に球状及び1〜100,000nmに含まれる平均直径を有する。第一の変形により、本マイクロビーズは、懸濁媒体から遠心分離により分離されるが;第二の好ましい変形により、磁界を使用した懸濁媒体からのマイクロビーズの分離を可能にするために、1又は2以上の磁性物質の粒子により形成されたコアを有するマイクロビーズが選択される。そのような磁気マイクロビーズは、市販されており:例えばこれらは、ポリスチレンで製造されたポリマーマトリックスにより被覆された磁気コアにより構成される。マイクロビーズの懸濁媒体からの分離を可能にする磁界は、本発明の方法の段階c)を実行するために、その容器に近づくように移動される単純な永久磁石により作製することができる。
【0012】
本マイクロビーズを構成する材料の選択は、β2GPIにカップリングするその能力によってのみ制限され:例えば、MERCK社により、商標名「Estapor(登録商標)超常磁性ミクロスフェア」で販売される磁気マイクロビーズを使用することは可能である。先に指摘されたように、β2GPIの本マイクロビーズへのカップリングは、受動的に又は公知の化学結合プロトコールの使用のいずれかにより、実行され得る。前述の「Estapor(登録商標)」マイクロビーズとの受動的カップリングを実現するためには、このマイクロビーズは、3.5〜10.5、より良くは5.5〜9.5に含まれるpHのβ2GPIを含有する緩衝液中に、懸濁状態で配置される。使用される緩衝液は、生物学において通常使用される緩衝液のいずれかであり、特に酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液又はトリス緩衝液であることができる。このマイクロビーズ/β2GPI混合物は、4℃〜40℃に含まれる温度で、10分〜24時間に含まれる期間、攪拌しながら、好ましくは定速で緩やかに水平に攪拌しながら、インキュベーションされる。このマイクロビーズは、引き続き磁気的に分離されるか又は遠心され、上清が除去される。このマイクロビーズを含有するペレットは、保存緩衝液中に懸濁状態で静置され、これは引き続きのカップリングで使用されるものと同じであることが好ましく、この緩衝液は6〜9に含まれるpHを有する。好ましくは、マイクロビーズへのβ2GPIタンパク質の導入は、水溶液中にマイクロビーズ乾燥重量1g当たりβ2GPIを10-6〜100mg含有する液状懸濁媒体中に、それらを配置し、結果この媒体中のβ2GPIの濃度は10-5〜10μg/μlに含まれ、かつこうして構成された懸濁液を30〜45℃に含まれる温度で、15〜60分間攪拌することにより実行される。
【0013】
病原体を含有する試料は、導入されたマイクロビーズと、直接接触されるか、又は5〜9、好ましくは5.6〜8に含まれるpHの緩衝液中にそれを希釈した後に、接触される。β2GPIと病原体の間で形成された複合体は引き続き、5分〜24時間、好ましくは30分〜2時間に含まれる期間、4℃〜40℃に含まれる温度、好ましくは約37℃でインキュベーションされる。インキュベーション後、マイクロビーズに結合されたβ2GPIと反応しなかった試料は、遠心分離によるか、又はマイクロビーズの磁化により、除去される。こうして単離されたマイクロビーズは、病原体の検出及び/又は定量及び/又は同定に使用することができる。β2GPIにより本支持体に結合された病原体の分離及び/又はアッセイ及び/又は定量は、感染度、特異的酵素反応、蛍光又は放射標識されたトレーサー、標識されたプローブとのハイブリダイゼーションによる特異的核酸の検出、ポリメラーゼ連鎖反応(いわゆる「PCR」)、アッセイ、カウント、可視化、光学的方法、電子顕微鏡又は非電子顕微鏡のような、任意の公知の手段により実行されることができる。
【0014】
本発明の主題のより良い理解を提供するために、純粋に例証的でありかつ非限定的な例として、ここでいくつかの実施方法を説明する。
【実施例】
【0015】
実施例1:β2GPIが導入されたマイクロビーズへの細菌の結合
使用される細菌は、Centre de conservation de produits agricoles(CPA)により供給されたエシェリキア・コリ(大腸菌)株である。予備培養は、下記組成を有するLB(ルリア・ベルターニ)媒体内で、37℃で16時間インキュベーションした。
バクトトリプトン 10g
酵母抽出物 5g
NaCl 10g
pH 7.5
水 1,000gとする
この予備培養物は、直ちに使用するか、又は4.5℃で貯蔵する。
【0016】
本実施例において使用する細菌を結合することが意図されたマイクロビーズは、MERCK社により「Estapor(登録商標)超常磁性ミクロスフェア」の名称で販売される磁気マイクロビーズであり、これは0.300〜0.500μmに含まれる直径を有する。
【0017】
これらのマイクロビーズを、β2GPIを含有するpH6.0の酢酸緩衝液中に懸濁状態で配置する。このカップリング緩衝液中のβ2GPIの濃度は、100μg/mlであり;このマイクロビーズを、定速で緩やかに攪拌しながら、この緩衝液中で、温度25℃で3時間インキュベーションする。その後マイクロビーズを、1,500rpmで遠心し、その上清を除去し;その遠心分離したペレットを、β2GPIのカップリングに使用した緩衝液と同じ緩衝液中に懸濁状態で配置し、これは試験されるべきβ2GPIが導入されたマイクロビーズの懸濁液を形成する。
【0018】
試験されるべき細菌の培養物を、それらのチューブに応じて様々な量のマイクロビーズが入った、1ml溶血チューブ内に配置する。マイクロビーズを完全に混合するために、これらのチューブを、水平攪拌状態に配置し、かつ各チューブを、37℃又は外界温度(AT=22℃)でインキュベーションし;このインキュベーション時間は、実行される実験によって変更可能である。次に各チューブ内で、マイクロビーズを、チューブの壁に対し外側に配置された磁石プレース(magnet place)を使用し、液相から分離し、かつこの上清の600nmでの光学密度(OD)を、「Eppendorf」社分光光度計を用いて測定する。
【0019】
マイクロビーズの不在下では、本実験開始時のODは0.2と等しく、かつこれは通常の細菌増殖に従い、経時的に上昇し;マイクロビーズの存在下では、ODは約1時間ほぼ安定し続け、その後マイクロビーズの不在下のように増加する(図1A参照)。このことは、細菌はマイクロビーズに結合し、これが通常の細菌増殖を遅延させたことを示唆している。図1は、同量のマイクロビーズ及び同じインキュベーション時間で、インキュベーション温度が高い方が、ODがより大きいことを示し、このことはその最適増殖が37℃近傍である哺乳類の消化管の細菌について一般的である。この同じ図面において、同じインキュベーション温度について、インキュベーション時間がより長くなると、ODがより大きくなることも注目されるであろう。最後に、所与の期間及び温度のインキュベーションに関して、マイクロビーズの量が増加する場合に、ODは減少することも図1において指摘されるであろう。
【0020】
これらのマイクロビーズは同じく、大腸菌の緩衝培養物と一緒に、1時間30分、攪拌しながらインキュベーションした。前述のように、マイクロビーズは、磁気的に分離し、その上清を除去し;これらのマイクロビーズを、「新鮮」なLB培養媒体及び下記処方に相当するPBS溶液により洗浄した。
【0021】
NaCl 80g
KCl 74.562g
KH2PO2 2.4g
Na2HPO4/2H2O 29g
水 1,000gとする
【0022】
この培養媒体を、37℃又は20℃で一晩インキュベーションするために放置し、そのODを測定した。結果は、大腸菌培養物へ最初に導入されたマイクロビーズの量の関数として図2に提供している。ODは、20℃でインキュベーション後、マイクロビーズの量の関数としてほとんど変化しないのに対し、37℃でインキュベーションした場合のマイクロビーズの量は増加することが指摘される。
【0023】
これらのマイクロビーズにより捕捉された細菌の生理的状態も試験した。この細菌のATP(アデノシン三リン酸)及び細胞内アデニルヌクレオチド(AN)のアッセイを実行した。細胞死の後、ATPはATPaseにより非常に迅速にADP(アデノシン二リン酸)及びAMP(アデノシン一リン酸)に分解されるので、ATPは、生存細胞に特異的なインジケーターであることはわかっている。更に、ATP+ADP+AMPの合計は一定であり続け、かつ細胞増殖時のANと等しいこともわかっている(2004年10月19日に出願された仏国特許出願第04−11084号)。大腸菌と接触後にマイクロビーズ上に存在するATP及びANの量を、バイオルミネセンスにより測定した。
【0024】
これらの測定を実行するために、溶血チューブを使用し、その中にβ2GPIが導入されたマイクロビーズ10μlを入れ、これを細菌の予備培養物1mlと一緒に、様々なインキュベーション時間、温度37℃でインキュベーションした。その後、上清を回収し、次に新鮮な媒体で洗浄するために、ビーズを磁化(すなわち、チューブの外側の永久磁石による引きつけ)により分離した。新たな磁化プロセスの後、抽出剤200μl及び緩衝液1mlを各チューブに添加し、これら2種の試薬はControl Life Technologies社により供給された。この抽出剤は、
−ヌクレオチドを放出するべく、細菌のエンベロープの破壊を引き起こすこと;
−特にATPaseによる酵素反応を迅速に阻害すること;又は
−ANに対する破壊作用を最小にすること、
を目的として、10分間反応するように放置した。
【0025】
各試料は、4つの100μl部に分け、これらを4本の小型のRHチューブ(rhesus tube)に入れ、そのうちの2本は、凍結乾燥された酵素、すなわちホスホエノールピルビン酸、アデニル酸キナーゼ及びピルビン酸キナーゼの溶液5μlを含有し;これらの酵素の入ったチューブ内では、AMP及びADPは、ATPに転換された。従って酵素作用を受けない2本の(SE)チューブ、及び酵素作用を受ける2本の(E)チューブを得た。ATPの発光検出剤(ルシフェリン/ルシフェラーゼ)5μlを、4本のチューブへ添加し、1本の(E)チューブ及び1本の(SE)チューブを、ルミノメーター(Control Life 300)を通過させ、そこで発光を5秒間測定した(結果は相対光単位(RLU)で示す)。2本の残りのチューブは、標準ATP5μl(10pmol/μl)の各チューブへの添加後に、2回目の測定を行い:この2回目の測定は、1回目の測定をピコモルへ変換させることが可能であることがわかっているので、この結果を、なんらかの発光の阻害に起因した誤差を補正するために使用した。
【0026】
この結果を、図3及び4に示す。
図3は、時間の関数としての、マイクロビーズ上に存在する細胞内ANの増加、並びにマイクロビーズと細菌の初回培養物の間の接触時間約80分間からの、マイクロビーズのANによる飽和を示す。マイクロビーズ上に存在するATPの量は、マイクロビーズ/培養物の接触時間と共に増大し;飽和は、マイクロビーズによる細菌の捕捉は、使用されるマイクロビーズの表面によって決まることに相当することは指摘され;更に、細胞のATP含量がその活性を表しているならば、このことから、マイクロビーズは、細菌を捕捉し、かつ最も活動的な細菌に結合することを推定することもできる。
【0027】
更に、チューブ内のATP及びANの測定は、チューブ内で使用されるマイクロビーズの量の関数として実行され、細菌の捕捉のためのインキュベーションは、全てのチューブについて、37℃で1時間30分攪拌しながら実行した。その結果を、図4に示す。ATP及び細胞内ANの増加は、マイクロビーズの量が増加する場合に指摘される。これは、マイクロビーズは、媒体内に存在する細菌を捕捉することを確認している。
【0028】
細菌の場合(D. CHAMPIATの文献, Biochimie luminescence et biotechnologie, Technoscope、No. 51, Biofutur No. 110、並びにCHAMPIAT D.及びLARPENT JP.の文献, Biochimie lunimescence: Principes et applications, Edition Masson 1993参照)、ATP/ANエネルギー変化が0.5〜0.75に含まれる場合、この細菌は増殖相にあることがわかっている。下記表Iは、図4に対応する実験値を用いてまとめており、かつ37℃で実行されたマイクロビーズ/細菌の接触に関するATP/AN比は、0.5〜0.7に含まれることを示す。
【0029】
【表1】

【0030】
従ってマイクロビーズは、増殖中の細菌、すなわち完全な代謝活性中にある細菌に結合する。結果的にマイクロビーズ上の大腸菌の捕捉は、細菌の代謝を阻害しない。図2に関して先に既に指摘されたように、マイクロビーズに結合した細菌は、好適な媒体上及び好適な温度で培養物を生成し、そのODはマイクロビーズの濃度の関数として増加し、このことはマイクロビーズによるそれらの捕捉にもかかわらず、細菌は増殖し続けることを意味する。
【0031】
この一連の結果は、細菌は、使用されるβ2GPIが導入されたマイクロビーズの量による飽和まで、マイクロビーズにより捕捉されることを示す。これらのマイクロビーズは、細菌の増殖を阻害せず、かつ捕捉された細菌の死滅につながらない。
【0032】
同様の試験を、細菌シュードモナス・アエルギノサ、ストレプトコッカス・ニューモニアエ及びスタフィロコッカス・アウレウスについても実行し、同様の結果を生じた。
【0033】
実施例2: β2GPIのヒト血液中に存在する細菌との相互作用
使用したマイクロビーズは、その調製を実施例1において詳細に説明したものと同じである。
【0034】
臨床検体に由来する、2系列の血培養液を使用した(血培養液Iは5検体を、及び血培養液IIは35検体を含んだ)。これらの血培養液は、BacT/ALERT(登録商標)3D型の好気ボトル及び嫌気ボトル内に静脈血検体(約10ml)を配置することにより実行した。その後これらのボトルを、自動装置において、35℃で少なくとも5日間インキュベーションした。これらのボトルは、各ボトルの底に配置されたセンサーを使用する比色検出システムを装備していた。増殖時に細菌により産生された二酸化炭素は、センサーの色の変化を引き起こし;この色の変化は、自動装置により検出され、かつ細菌増殖が存在することを指摘しており:これらの血培養液は、陽性と称される。BacT/ALERT(登録商標)3Dボトル内には、患者の血液中に潜在的に存在する抗生物質を阻害する活性炭素粒子が入っており、その結果前記微生物の検出が改善される。自動装置において陽性と明らかにされた血培養液中の細菌の存在を確認するために、病院は、ブラッドアガー上での培養を実施した。従って病院から得られた結果のセットは、以下を同定することを可能にしている:
―陽性血培養液(自動装置において陽性及び培養において陽性)、
―陰性血培養液(自動装置において陰性)、
−並びに、偽陽性血培養液(自動装置において陽性及び培養において陰性)。
【0035】
β2GPIが導入されたマイクロビーズの血液中に存在する細菌との相互作用を試験するために、血培養液1mlを、各検体から採取し、15mlチューブに入れた。様々な量のβ2GPIが導入されたマイクロビーズを添加し、各チューブを、水平攪拌しながら、37℃でインキュベーションした。次にこれらの検体を、2mlシリコーンチューブにデカンテーションした。これらのチューブを、壁上にマイクロビーズを保持するような磁界に配置し、その上清を除去した。次にマイクロビーズを、先に実施例1において示されたものと同じ組成の滅菌PBSで2回洗浄し;次にマイクロビーズを、下記処方を有するTSB(トリプチカーゼ大豆ブロス)培養媒体150μl中に再懸濁した:
カゼインペプトン 17.0g
大豆粉ペプトン 3.0g
D(+)−グルコース 2.5g
塩化ナトリウム 5.0g
リン酸二カリウム 2.5g
水 1,000gとする
このTSB培養媒体は、使用前にこれを滅菌するために、沸騰させ、その後オートクレーブにかけた。
【0036】
前記により得られたマイクロビーズの懸濁液50μlを取り出し、かつペトリ皿内で、「ブラッドアガー」と称される「Columbia」ヒツジ血液媒体(Laboratoires BioMerieux)上に配置し;このアガーは、色が鮮やかな赤色であり、赤血球細胞を含み:これは、医学上関心のある細菌のほとんどの増殖が可能である、リッチな非選択媒体を構成する。これらのペトリ皿を、オーブン内で37℃で24時間インキュベーションした。本プロトコールは、前記マイクロビーズにより、血培養液中に存在する細菌を検出することを可能にしている。前記マイクロビーズにより捕捉された細菌の検出のために3種の方法を使用した:ATP−測定、ブラッドアガー上での培養、及びそれに配列決定が続く又は続かないPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)。
【0037】
A)血培養液I
a)ATP−測定
使用されるATP−測定の方法は、実施例1において使用されるものと同じである。試料1、2、6、7及び8の各々に関して、1mlを3回採取し、かつ15mlチューブに入れ、3つの副試料を作製した。これらの15種の副試料を37℃で、同じ試料の3つの副試料について30、60又は90分間のインキュベーション時間で、インキュベーションした。
【0038】
試料1、2及び7において、マイクロビーズの量又はインキュベーション時間とは関わりなく、細菌は検出されなかった。他方で、試料6及び8においては細菌が検出され、これらの結果は、図5に示す。これら5種の試料に関連しているこれらの結果は、自動装置により得られた結果に対応している。下記表IIは、図5の結果に関連しているエネルギー導入計算に対応する結果を示しており:血培養液6及び8中に存在する細菌は、増殖相にあることは指摘される。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例2A)の最初の部分は、β2GPIが導入されたマイクロビーズは、血培養液中に存在する細菌を捕捉することを確立している。
【0041】
b)培養
先のa)に記されたように、試料1、2、6、7及び8中の、様々な濃度のマイクロビーズに結合した細菌を、ブラッドアガー上で培養した。37℃で24時間のインキュベーション後にこれらの試料について得られた結果を、下記表IIIに提示す。血培養液6及び8について、本培養は、病院において個別に認められた結果を確認し、これはマイクロビーズは、チューブ内に存在する細菌を実際に捕捉することを明示す。
【0042】
【表3】

【0043】
これらの細菌コロニーを同定するために、グラム染色及び継代培養を、様々な選択媒体又は非選択媒体において実行した。血培養液7に関して、病院での同定は、陰性結果を生じたのに対し、マイクロビーズを用いると、コロニーが得られた。グラム染色を実行し:その結果は、グラム陽性球桿菌(coccobacillus)が関与することを示しており;この球桿菌は、桿菌(bacillus)と球菌(cocci)の間の中間型であり、これを下記の媒体に播種した:MacConkey媒体、チャップマン媒体、TS媒体、セトリミド媒体。これらの媒体は、下記の処方に対応している:
【0044】
【表4】

【0045】
これらの結果は、この細菌系統は、全ての媒体上で増殖したことを示した。
【0046】
c)PCR及び配列決定法
その後PCRを実行し、引き続き16S rDNAの配列決定を実行した。
細菌DNAは、マイクロビーズにより捕捉された細菌から抽出し;これらの細菌は、マイクロビーズへの「Chelex 30%」100μlの添加により、溶解した。この混合物を、95℃で10分間インキュベーションし;その後遠心分離を10,000rpmで10分間実行した。DNAを含有する上清を、−20℃で貯蔵した。
【0047】
この抽出されたDNAの3μlに、増幅溶液(AquaPure Genomic DNA分離キット)47μlを添加し;その最終濃度は下記のようであった:
・5μl:200mM dXTP
・10μl:緩衝液5X
・5μl:2mM MgCl2
・各プライマー1μl:200mLに希釈したプライマー:
27 f: GTGCTGCAGAGAGTTTGATCCTGGCTCAG
1492 r: CACGGATCCTACGGGTACCTTGTTACGACTT
・1μl:Taqポリメラーゼ、5u/μL
・注射用水(WFI)で、50μLとする
【0048】
ホモジナイゼーション後、この反応混合物を、「Eppendorf社」サーモサイクラー内に配置し、下記のプログラムを施した:
94℃:1分間
60℃:1分間
72℃:2分間 以上3つを35サイクル
72℃:10分間
【0049】
その後これらのDNAを、10℃で維持した。泳動(migration)は、2%アガロースゲル上、臭化エチジウムを含有するPBE緩衝液0.5×中で行った。その後ゲルをUV光下で観察した。
【0050】
このPCRの結果は、細菌の存在を明確に示した。強力な陽性シグナルが指摘された(図6参照)。その後この細菌の同定を、公知の手法で配列決定することにより実行することができる。
【0051】
従って、本発明の方法は、β2GPIが導入されたマイクロビーズの使用により、ヒト血液中の細菌を検出及び同定することが可能であるのに対し、病院で実行される標準方法は、これを行うことができないことは注目される。
【0052】
B)血培養液II
実施例2の最初に規定された技術を実行した:血培養液1mlを、15mlチューブ内に入れ、β2GPIが導入されたマイクロビーズのある量(ここでは25又は50μl)を添加し、媒体内でインキュベーションするように放置した。次にマイクロビーズを、磁気的に分離し、洗浄し、かつ滅菌緩衝液中に再懸濁した。この懸濁液を、ペトリ皿内のブラッドアガー上に配置し、37℃で24時間インキュベーションした。試験した血培養液のセットは、下記表Vに対応している:
【0053】
【表5】

【0054】
これらの陽性血培養液に関して、本マイクロビーズは、自動装置により得られた結果、及び病院における培養により得られた結果を確認することを可能にしている。従って本マイクロビーズは実際に、血培養液中に存在する細菌を捕捉する。
【0055】
マイクロビーズ25μl及び50μlを伴うある種の試料に関して、本結果は、病院では検出されなかった第二の型の細菌の存在を示唆している。同定後、これはブドウ球菌(グラム陽性球菌)であることが指摘された。同一人物から得られたスタフィロコッカス・ホミニス(S.hominis)を含有する試料5054及びプロテウス・ミラビス(P.mirabilis)を含む試料5060の場合、両方の細菌が、病院において得られた結果とは対照的に、これら2つの試料の各々においてブラッドアガー上において検出された。
【0056】
陰性血培養液に関して、マイクロビーズがグラム陽性球菌型の細菌(スタフィロコッカス)を明らかにした血培養液2081を除いて、前記ビーズは、病院において認められた結果を確認することを可能にした。偽陽性の場合、前記マイクロビーズは、試験した9種の血培養液中の2つの場合において、グラム陽性球菌型の細菌を検出することも可能にした。病院において陰性であると判明した血培養液の中で、1つの血培養液は、マイクロビーズがブラッドアガー上で培養される場合に、陽性であることを証明していることも注目され、このことは、本発明は、検出の感度を改善することを可能にすることを示す。
【0057】
下記表VA、VB、VC及びVDは、認められた結果をまとめている:
【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
【表8】

【0061】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物材料を構成する液状媒体M内に存在する細菌の検出及び/又は定量及び/又は同定のためのインビトロの方法であって、公知の手法により、マイクロビーズの液状懸濁媒体中懸濁液が調製され、前記マイクロビーズは、タンパク質を結合可能な固体ポリマー物質により構成された外表面により境界画定されるとともに、前記方法は:
a)適切な緩衝液中、懸濁液中のマイクロビーズに対するβ2GPIタンパク質の導入を、十分量のβ2GPIタンパク質とのカップリングにより、懸濁媒体中で受動的に、又は公知の化学結合プロトコールを用いて達成する段階;
b)酸化金属イオンの不在下で、マイクロビーズにより担持されたβ2GPIタンパク質に対する細菌の十分な結合を達成するべく、容器内で、β2GPIタンパク質が導入された前記マイクロビーズを、適切な条件下で液状媒体Mと接触させる段階;
c)前記により調製されたマイクロビーズをその懸濁媒体から分離し、高濃度の細菌を含む残渣を得るべく前記懸濁媒体を容器から排出する段階;
d)並びに、前記により得られた濃縮された残渣から細菌を検出及び/又は定量及び/又は同定する段階
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記残渣を構成するマイクロビーズを洗浄し、細菌を増殖させることが可能な培養媒体と接触させ、並びに公知の手法で細菌を前記培養媒体から定量及び/又は同定することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
マイクロビーズに結合された媒体Mの細菌の増殖を可能とするべく、培養媒体中で好適な期間及び好適な温度で確実にインキュベーションすることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
液状媒体Mが血培養液であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
高濃度の細菌を含む残渣を得た後、マイクロビーズをTSBブロス中に再懸濁し、このブロスを「Columbia」ヒツジ血液の培養媒体に適用することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細菌を、グラム染色により、及び/又は、選択媒体若しくは非選択媒体上での継代培養により同定することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
細菌を、光学密度の読み取りにより、ATP−測定により、又は溶菌液のPCRにより定量することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
マイクロビーズの外表面を構成する固体材料が、プラスチック及びエラストマーからなる群より選択され、前記材料は、β2GPIタンパク質への化学結合を達成するべくマイクロビーズの外表面にグラフトされた反応基を保持するか、又は保持しないことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
実質的に球状及び平均直径1〜100,000nmのマイクロビーズを選択することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
磁界を使用した懸濁媒体からのマイクロビーズの分離を可能にするべく、1又は2以上の磁性物質の粒子により形成されたコアを有するマイクロビーズを選択することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
マイクロビーズを懸濁媒体から遠心分離により分離することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
マイクロビーズへのβ2GPIタンパク質の導入を、水溶液中にマイクロビーズ乾燥重量1g当たりβ2GPIを10−6〜100mg含有する液状懸濁媒体中にマイクロビーズを加え、媒体中のβ2GPIの濃度を10−5〜10μg/μlとし、前記構成の懸濁液を温度30〜45℃で15〜60分間攪拌することにより実行することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−510648(P2011−510648A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544756(P2010−544756)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000105
【国際公開番号】WO2009/112702
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(510207254)アポー テクノロジー ソシエテ アノニム (2)
【Fターム(参考)】