説明

生物活性多タンパク質複合体を得て、かつ使用するための方法および組成物

生物活性である多タンパク質複合体を単離かつ使用する方法が提供される。その複合体は、1種または複数種の対象タンパク質(例えば、受容体、イオンチャネル等)と、ホスファターゼ、キナーゼおよびシナプス後密度成分などの関連する足場タンパク質とを含有する。変性剤を含有せず、多タンパク質複合体を単離するために使用することができるバッファー、生物活性多タンパク質複合体を含有するタンパク質アレイも提供される。このタンパク質アレイは、例えばハイスループットスクリーニングアッセイに使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、生物活性である多タンパク質複合体を単離かつ使用する方法に関する。特に、本発明は、生物活性状態の多タンパク質複合体を単離するために使用されるバッファー、およびかかるバッファーを使用して単離される生物活性多タンパク質複合体を含有するタンパク質アレイ、ならびにハイスループットスクリーニングアッセイでのその使用方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジー会社は、治療能力を有するリード化合物を同定するために、スクリーニング方法および技術を益々頼りにしている。かかる方法は一般に、核酸およびタンパク質などの生物学的に関連性のある固定化分子の使用を要する。核酸を操作する技術は、一部、DNAおよびRNA分子の相対的な単純性およびそれらが受けるハイブリダイゼーション反応のためにかなり開発されている。それと対照的に、タンパク質アレイの開発は、タンパク質−リガンド相互作用が複雑であるため、はるかに難しい。
【0003】
いくつかの因子がこの複雑性の一因となっている。タンパク質を構成する20種(共通)のアミノ酸はそれぞれ固有であり、大きく異なる化学的性質を有する。したがって、それぞれがその特有のアミノ酸組成を有する個々のタンパク質も、互いに大きく異なり、大きく異なる生物活性を示す。さらに、直線一次構造に加えて、天然「折り畳み」タンパク質は、適切な機能に必要である、特有の二次(時に三次および四次)立体構造要素を有する。この天然構造の維持は一部、周囲の環境(例えば、pH、温度、培地の親水性/疎水性等)に依存する。さらに、その特有の活性を発揮するために、タンパク質は、他の生体分子と接触していなければならない場合が多い。例えば、多くのタンパク質には、活性であるために、種々の補助因子、活性化因子、および/または他のタンパク質(例えば、足場タンパク質)の存在が必要である。したがって、適切なタンパク質の機能に必要な、生体内と同様な条件の生体外での再現は、非常に難しい。
【0004】
それにもかかわらず、ある範囲の用途用の多くのタンパク質アレイをベースとする製品が売り出されている。多くのタンパク質(またはポリペプチドまたはペプチド)が表面上に固定され、かつ可溶性タンパク質との特異的相互作用(例えば、生体試験試料において)が検出される、いわゆる相互作用タンパク質アレイの開発において、進歩が遂げられている。固定化タンパク質と可溶性タンパク質とのかかる相互作用は、生体内で細胞または生物体液中で起こる生化学的現象を模倣するように意図される。しかしながら、かかるバイオチップで得られたデータの生理学的関連性は疑わしい。細胞環境において、生化学反応は、反応物が適切に並列している(例えば、細胞内コンパートメントにおいて、細胞表面上で、等)場合のみ起こる。バイオチップの表面上に集合する生体分子は実際に、生体内で共局在する場合もあるし、しない場合もあり、逆に生体内で集合する生体分子は、バイオチップの表面で適切に結合する場合もあるし、しない場合もある。
【0005】
細胞シグナル伝達に関与するものなど、大型多タンパク質複合体を扱う場合、この問題は特に重大である。大型多タンパク質複合体となる、受容体およびシグナル伝達タンパク質のアセンブリは、細胞シグナル伝達の一般的なメカニズム(review, Pawson and Scott, 1997参照)、およびリン酸化、グリコシル化などのプロセスとして明らかになっており、タンパク質間相互作用は、受容体機能の主要な制御因子であるとみなされる。多くの細胞プロセスにおけるその重要性から、かかる複合体を単離かつ使用する方法は、大変必要とされている。残念ながら、かかるタンパク質複合体の免疫沈降に通常使用されるバッファーは一般に、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、デオキシコール酸ナトリウム、および/または受容体自体の活性、もしくは受容体の周囲にあり、かつ生体内で受容体と相互作用するタンパク質、例えばキナーゼおよびホスファターゼなどの活性を変化させることができる他の洗剤を含有する。
【0006】
今まで、先行技術では、生物活性状態で多タンパク質複合体を確実に単離する方法を提供することは不成功に終わっていた。今まで、先行技術では、複合体におけるタンパク質間の生体内での結合が維持される、固定化された生物活性多タンパク質複合体のアレイを提供することも不成功に終わっていた。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は、機能性生物活性多タンパク質複合体の抽出、単離、および使用の方法を提供する。かかる多タンパク質複合体は、その足場または支持タンパク質(例えば、ホスファターゼ、キナーゼ、シナプス後密度構成成分、アンカータンパク質、シャペロンおよびアダプタータンパク質等)と共に、対象の少なくとも1種類の主要なタンパク質(例えば、イオンチャネル、受容体等)の両方を含む。本明細書において説明されるように、本発明の方法により単離される生物活性多タンパク質複合体は、生体外でうまく固定化することができ、診断および試験に使用することができる。重要なことには、単離された固定化多タンパク質複合体で起こる生化学的現象が、脳スライスおよび心臓組織で起こる現象を忠実に模倣することが証明された。かかる固定化複合体は、タンパク質およびハイスループットスクリーニング(HTS)アレイ、研究および創薬の他の手段を構築するために使用することができる。
【0008】
その生物活性を保持する状態で生体外で単離多タンパク質複合体を提供することが本発明の目的である。この複合体は、1種または複数種の対象タンパク質および1種または複数種の足場タンパク質を含む。一実施形態において、対象タンパク質は多量体であり、対象タンパク質は、例えば受容体またはイオンチャネルであることができる。足場タンパク質は、例えば、ホスファターゼ、キナーゼ、およびシナプス後密度構成成分であることができる。一実施形態において、対象タンパク質は、N−メチル−D−アスパラギン酸受容体である。他の実施形態において、対象タンパク質は、γ−アミノ酪酸受容体である。他の実施形態において、対象タンパク質は、α−7ニコチン性アセチルコリン受容体である。さらに他の実施形態において、対象タンパク質は、環状ヌクレオチド作動性イオンチャネル−HCN4である。
【0009】
本発明は、基体;基体と結合した1種または複数種の単離多タンパク質複合体;を含むアレイも提供する。その1種または複数種の単離多タンパク質複合体は、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含み、かつその1種または複数種の単離多タンパク質複合体は生物活性である。本発明の一実施形態において、1種または複数種の単離多タンパク質複合体は、基体に結合した抗体によって基体上に固定化され、その抗体は、複合体の構成成分、例えば対象タンパク質のサブユニットに対して特異的である(またはそれに選択的に結合する)。一実施形態において、対象タンパク質は多量体であり、対象タンパク質は、例えば受容体またはイオンチャネルであることができる。足場タンパク質は、例えば、ホスファターゼ、キナーゼ、およびシナプス後密度構成成分であることができる。一実施形態において、対象タンパク質は、N−メチル−D−アスパラギン酸受容体である。他の実施形態において、対象タンパク質は、γ−アミノ酪酸受容体である。他の実施形態において、対象タンパク質は、α−7ニコチン性アセチルコリン受容体である。さらに他の実施形態において、対象タンパク質は、環状ヌクレオチド作動性イオンチャネル−HCN4である。一実施形態において、アレイはマルチウェルプレートである。さらに他の実施形態において、単離多タンパク質複合体は、ハイスループットスクリーニングに適した手法で基体と結合される。
【0010】
本発明はさらに、生物活性または化学反応性をアッセイする方法を提供する。この方法は:1)生物活性を保持する状態で生体外で単離多タンパク質複合体を提供する段階であって、その多タンパク質複合体が、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含む段階;2)その単離多タンパク質複合体を1種または複数種の物質にさらす段階;3)その1種または複数種の物質に対する、多タンパク質複合体の生物活性または化学反応性の有無を検出する段階;を含む。一実施形態において、その提供段階は、溶液または懸濁液中の単離多タンパク質複合体で行われる。他の実施形態において、提供段階は、基体と結合された単離多タンパク質複合体で行われる。単離多タンパク質複合体は、ハイスループットスクリーニングに適した手法で基体と結合されることができる。検出段階では、以下の:化学発光、表面プラズモン共鳴、リン光、蛍光、および紫外・可視(UV/Vis)特性のうちの少なくとも1つにおける変化が検出される。一実施形態において、生物活性は、リン酸化における変化である。他の実施形態において、生物活性は、タンパク質間相互作用における変化である。
【0011】
本発明はさらに、生物活性または化学反応性のアッセイを準備する方法を提供する。この方法は、多タンパク質複合体がその生物活性を保持する状態で生体外で存在するように、生体試料から多タンパク質複合体を単離する段階を含む。多タンパク質複合体は、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含む。本発明の一実施形態において、単離段階では、1種または複数種の非変性洗剤、1種または複数種の還元剤、1種または複数種の緩衝剤、1種または複数種のキレート剤、および1種または複数種のプロテアーゼ阻害剤を含む組成物が用いられる。一実施形態において、その組成物は、0.1% Triton X−100、0.2% β−メルカプトエタノール、50mM トリス−HCl、5mM EDTA、5mM EGTA、および1mM フッ化フェニルメチルスルホニルを含み、pH約7.5を有する。
【0012】
本発明はさらに、1)その生物活性を保持する状態の生体外での単離多タンパク質複合体であって、その単離多タンパク質複合体が、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含み、単離多タンパク質複合体が非変性バッファー中に存在する、単離多タンパク質複合体;2)反応バッファー;3)ブロッキングバッファー;4)使用説明書;を含むキットを提供する。その単離多タンパク質複合体は、基体上に固定化されてもよいし、または溶解状態であってもよい。一実施形態において、このキットはさらに、受容体サブユニットのリン酸化残基、受容体サブユニット自体、および/または複合体における他のタンパク質を検出するための抗体を含む。その抗体は、蛍光色素などの検出可能な標識に結合される。代替方法としては、キットの最終使用者によって抗体に結合される、検出可能な標識を提供することができる。
【0013】
本発明の好ましい実施例の詳細な説明
本発明は、機能性、生物活性多タンパク質複合体を抽出および単離する方法、ならびにそれを生体外で使用する方法を提供する。このような生体外での使用中、複合体は、その天然状態(native)を保ち、足場タンパク質との生体内での結合を保つ条件下で、単離および維持されることから、その生物活性を保持する。したがって、このように単離されたタンパク質複合体の状態は、生体内でのタンパク質複合体の状態によく似ている。かかる多タンパク質複合体は一般に、生体内で対象タンパク質と結合される1種または複数種の足場または支持タンパク質と共に、少なくとも1種類の主要なまたは主な対象タンパク質を含む。対象タンパク質は、単一または複数のサブユニット(複数のサブユニットは同一または異なり得る)で構成され、同一または異なり得る1種または複数種の足場タンパク質と結合することができる。以下にさらに詳細に説明されるように、タンパク質アレイは、複合体を固定化することによって作製することができ、かかるアレイは、様々な目的に、例えばHTS、診断、研究等に使用される。
【0014】
過去には、タンパク質の可溶化/免疫沈降に使用されるバッファーは、特に膜と結合されたタンパク質に使用されるバッファーは一般に、SDS、デオキシコール酸ナトリウムまたは他の洗剤、およびキナーゼおよびホスファターゼの阻害剤も含有した。かかる洗剤は、対象タンパク質および対象タンパク質を囲むいわゆる足場タンパク質(例えば、キナーゼ、ホスファターゼ、構造支持タンパク質、シナプス後密度構成成分等)を変性させ、かつ/またはそれらの活性を変化させ得る。対照的に、本発明の方法で使用される可溶化/免疫沈降バッファーは特に、対象タンパク質およびそれが結合した足場タンパク質を解離、変性および/または不活性化することなく可溶化するように配合される。その結果として、その生体内での特性を保持するインタクトな多タンパク質複合体が得られる。かかる複合体は、活性化、不活性化、リン酸化/脱リン酸化、グリコシル化/脱グリコシル化、タンパク質間相互作用、リガンド結合、複合体内での相互作用等の生理学的に関連する特性を示す。一般に、対象タンパク質(1種または複数種)は完全長タンパク質である。
【0015】
本発明の新規な可溶化/免疫沈降バッファーについて、重要な特徴は、1)このバッファーは、変性剤を含有しない、つまり実質的に非変性のバッファーであること;2)複合体の構成成分である、キナーゼおよびホスファターゼがその活性を保持するように、キナーゼおよびホスファターゼ阻害を防ぐ作用物質(agent)を含有することである。「実質的に非変性」という用語は、バッファーが、複合体に存在するタンパク質または酵素の機能活性を不可逆的に実質的に低下させないことを意味する。すなわち、バッファー中のタンパク質の可溶化は、機能活性の約75%を超える、または好ましくは約50%を超える、またはさらに好ましくは約40、30、20、10%を超える、または5%でさえも超える不可逆的低下を引き起こさない。最も好ましくは、バッファーにタンパク質を曝露することによって、機能活性の低下は全く起こらない。
【0016】
実質的に非変性の可溶化/免疫沈降バッファーの一般的な組成は、以下の通りである:
1.全(合計)重量/体積%約0.001%〜約10%、好ましくは約0.5%〜約5%、最も好ましくは約0.1〜約1%(約0.1%が好ましい濃度である)の1種または複数種の非変性洗剤。
【0017】
バッファーで使用される代表的な非変性洗剤としては、限定されないが、Triton X−100および他のPluronic洗剤(エチレンオキシドとプロピレンオキシドのトリブロックコポリマー);TritonX−114(Triton−Xファミリー)、Triton−N、Triton−CF、Lubrol WX、Brij35、Brij96およびBrij98(Brijファミリー)、コール酸塩、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート(CHAPSO)、n−ドデシル−β−D−マルトサイド、オクチルβ−グルコシド、オクチルβ−チオグルコピラノシド、Nonidet(登録商標)P40、Tween、n−ドデシルa−D−マルトサイド、チロキサポール、トリエチレングリコールモノオクチルエーテルおよびファミリー、テトラエチレンペンタミンペンタヒドロクロリドおよびファミリー、Tergitol(登録商標)、スクロース、モノラウリン酸スクロース、モノデカン酸スクロース、Span(登録商標)、サポニン、Pril(登録商標)、Cremophor(登録商標)、N−オクタノイル−N−メチルグルカミンおよびファミリー、Igepal(登録商標)エチレングリコールモノオクチルエーテルおよびファミリー、ジギトニン、およびabrf.org/ ABRFNews/1997/December 1997/dec97detergentのウェブサイトで参照される洗剤等の様々な非イオン洗剤/界面活性剤が挙げられる。
【0018】
2.全重量体積%約0.05〜5%、好ましくは約0.5〜約2.5%、最も好ましくは約1%の1種または複数種の還元剤。
【0019】
バッファーで使用される代表的な還元剤としては、限定されないが、β−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)トリス(2−カルボキシエチル)−ホスフィン(TCEP)、L−システイン、グルタチオン等が挙げられる。
【0020】
3.範囲約6.5〜約8.5、好ましくは約7〜約8、最も好ましくは約7.5のpHを維持する1種または複数種の緩衝剤。緩衝剤の総(合計)濃度は一般に、約1〜500mM、好ましくは約5〜約100mM、さらに好ましくは約10〜約75mMの範囲であり、約10、20、30、40および50mMが最も好ましい濃度である。
【0021】
バッファーで使用される代表的な緩衝剤としては、限定されないが、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン);PIPES(ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸));HEPES(N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸);様々なリン酸含有バッファー;RIPA(ラジオイムノ沈降アッセイ)、TBS(トリス緩衝生理食塩水)、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、MES(4−モルホリンエタンスルホン酸)、2−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシル3−アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、2−(N−シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)、種々の糖(例えば、複合体をインタクトに維持するのを助けるためにショ糖が使用される)等が挙げられる。
【0022】
4.それぞれが、濃度約0.1〜50mM、好ましくは約1〜約10mM、最も好ましくは約5mMで存在する、1種または複数種のキレート剤。
バッファーで使用される代表的なキレート剤としては、限定されないが、EDTA(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩)、EGTA(エチレングリコール−O,O’−ビス(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸)、HEDTA(N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸三ナトリウム塩)、NTA(ニトリロ三酢酸)、2,2’−ビピリジル、ジメルカプトプロパノール、サリチル酸、TEA(トリエタノールアミン)等が挙げられる。
【0023】
5.範囲約0.1〜約100mg/ml、好ましくは約1〜約50mg/ml、さらに好ましくは約5〜約25mg/ml、最も好ましくは約10mg/mlの量で存在する、プロテアーゼ阻害剤、例えばプロテアーゼ阻害剤の「カクテル」。任意に、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)などの特異的なプロテアーゼ阻害剤も、一般に濃度約0.1〜10mM、好ましくは約0.5〜約5mM、最も好ましくは約1mMの成分であることができる。
【0024】
バッファーで使用される代表的なプロテアーゼ阻害剤としては、限定されないが、市販されているもの(例えば、BD Biosciences Pharmingen社、BioVision社、Calbiochem社から市販のプロテアーゼ阻害剤カクテル(セットI〜VIII)、G Biosciences社から市販のProteCEASETM等)など、プロテアーゼ阻害剤の「カクテル」が挙げられる。さらに、個々のプロテアーゼ阻害剤もまた含まれる。その例としては、限定されないが、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、アマスタチン、E−64、アンチパイン、エラスタチナール、ロイペプチン、ベスタチン、ペプスタチン、ベンズアミジン、1,10‐フェナントロリン、キモスタチン、ホスホラミドン、3,4−ジクロロイソクマリン、TLCK(N−α−トシル−L−リシル−クロロメチルケトン)、DFP(ジイソプロピルフルオロリン酸)、TPCK(N−トシル−L−フェニルアラニル−クロロメチルケトン)等が挙げられる。
【0025】
例示的な1つの非変性可溶化/免疫沈降バッファーの組成は以下の通りである:
0.1% TritonX−100
0.2% β−メルカプトエタノール、
50mM トリス−HCl(pH7.5)
5mM EDTA、
5mM EGTA
プロテアーゼ阻害剤カクテル10mg/ml
1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(プロテアーゼ阻害剤)
【0026】
本発明のバッファーを使用して、多種多様なタンパク質を単離することができる。「単離」とは、生体内位置または環境からヒトの介入によって除去されていること、つまり、生体源(biological source)から除去されていること、かつ本明細書に記載の手順で使用される生体外状態へと、臨床技術を用いて操作されていることを意味する。場合によっては、生体源/環境は、自然な環境(native mileau)、例えば、タンパク質複合体が自然発生する部位(例えば、生物の組織、血清、血液、尿、卵子等)であるだろう。クローン化または遺伝子操作された多タンパク質複合体については、その源は、複合体を産生する組換え生物または細胞である。さらに他の場合には、タンパク質複合体の源は、遺伝子操作されている、またはされていない培養細胞である。正確な生体源または起源の環境にかかわらず、生物活性多タンパク質複合体は、源から分離、除去または採取され、本明細書に記載のように操作かつ使用される。単離多タンパク質複合体は、複合体の活性またはその使用目的を損なうことなく、様々な他の物質(例えば、塩、イオン、バッファー成分、外来細胞物質等)を含有し得る。
【0027】
かかるタンパク質は、単一のサブユニット(モノマー、単量体)または複数のサブユニット(マルチマー、多量体)のいずれかで構成される。本発明は特に、多量体タンパク質、さらに特には、生体膜に存在する多量体タンパク質、最も特には、その生物活性を発揮するために足場タンパク質に依存する多量体タンパク質の単離に有用である。本発明の方法によって単離することができるタンパク質のカテゴリーの例としては、限定されないが、膜貫通型受容体タンパク質(例えば、アセチルコリン受容体、アデノシン受容体、アドレナリン作動性受容体、GABA B受容体、アンギオテンシン受容体、カンナビノイド受容体、コレシストキニン受容体、ドーパミン受容体、グルカゴン受容体、代謝調節型グルタミン酸受容体、ヒスタミン受容体、嗅覚受容体、オピオイド受容体、ロドプシン(光受容体)、セクレチン受容体、3型を除くセロトニン受容体、ソマトスタチン受容体、カルシウム感受受容体、ケモカイン受容体等のGタンパク質共役受容体;エリスロポエチン受容体、インスリン受容体、Eph受容体、インスリン様成長因子−1(IGF−1)受容体等の受容体型チロシンキナーゼ;GC−A & GC−B、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の受容体等のグアニリルシクラーゼ受容体;ステロイドホルモン受容体、甲状腺ホルモン受容体、レチノイド受容体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、IP3受容体等の細胞内受容体;ニコチン性アセチルコリン受容体、グリシン受容体、GABA−A、GABA−C受容体(GABA=γ−アミノ酪酸)、N−メチル−D−アスパラギン酸受容体(NMDA)受容体、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソオキサゾール−4−プロピオン酸受容体(AMPA受容体、AMPAR、またはキスカル酸受容体としても知られる)、カイニン酸受容体、5−ヒドロキシトリプタミン(5−HT3)受容体等のイオンチャネルタンパク質;が挙げられる。様々なリンタンパク質、つまり、チロシン、セリンもしくはトレオニン、またはその3つのいずれかの組み合わせであることができる、少なくとも1つの残基が潜在的にリン酸化され得るポリペプチドもまた含まれる。リン酸化は、構成的に起こる、または誘導される。
【0028】
「足場タンパク質」とは、対象タンパク質と結合し、かつ対象タンパク質がその生体内生物活性を発揮するために必要とされる、様々な支持タンパク質を意味する。かかる足場タンパク質がなくともタンパク質はその生物活性をある程度まで発揮することができるが、一般に、その活性は減弱され、タンパク質の実際の生理学的に関連する活性を正確に反映しない。足場タンパク質は、多種多様な機能を果たし、かつ/またはタンパク質の役割を支える。例えば、足場タンパク質は、構造上の支えを提供し、例えばその活性部位のタンパク質を隔離し、タンパク質はその立体コンフォメーション等を達成および/または維持することができる。その代わりとして、足場タンパク質は、タンパク質の化学修飾、例えば、そのタンパク質の性質に応じて、タンパク質を活性化または不活性化し得る、リン酸化/脱リン酸化および/またはグリコシル化/脱グリコシル化反応を触媒することによって、タンパク質の生物活性を調整することができる。かかる足場タンパク質の例としては、限定されないが、様々なホスファターゼ、キナーゼ、シナプス後密度構成成分、シャペロニンなどのシャペロンタンパク質、アンカータンパク質、アダプタータンパク質、タンパク質モジュール、ドッキングタンパク質等が挙げられる。足場タンパク質の更なる例としては、限定されないが、Sterile 5(Ste 5)およびAKAP79アンカータンパク質、アダプタータンパク質の14−3−3ファミリー、アクチン等が挙げられる。足場タンパク質は、共有結合または非共有結合(例えば、水素またはイオン結合による)などのいくつかの手段によって、対象タンパク質と(または対象タンパク質の1つまたは複数のサブユニットと)直接結合することができる。その代わりとして、足場タンパク質は、そのタンパク質と直接接触する、1つまたは複数の他の足場タンパク質を介して間接的に結合することができる。
【0029】
本発明の一部の実施形態において、プロテインキナーゼおよびプロテインホスファターゼが、足場タンパク質として特に興味深い。
【0030】
プロテインキナーゼは、他のタンパク質を修飾する酵素である。キナーゼの化学的活性は、ATPからリン酸基を除去し、遊離ヒドロキシル基を有する3つのアミノ酸のうちの1つにそれを共有結合することを要する。大部分のキナーゼはセリンとトレオニンの両方に作用し、他のキナーゼはチロシンに作用し、いくつか(二重特異性キナーゼ)は3つすべてに作用する。
【0031】
セリン/トレオニン特異的プロテインキナーゼは、リン酸供与体としてATPまたは他のヌクレオチドを用いる、タンパク質のセリンまたはトレオニン残基のリン酸化を触媒する酵素のグループである。セリン/トレオニンプロテインキナーゼは、セリンまたはトレオニン(同様な側鎖を有する)のOH基をリン酸化する。セリン/トレオニンプロテインキナーゼの例としては、限定されないが、Akt1/PKBa、アクチビン様キナーゼ受容体−4(ALK4)、ARK5、アポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK1)、Aurora、BrSK1、カルモジュリン、CaMキナーゼ、カゼインキナーゼ、cdk、Cot1、細胞死関連プロテインキナーゼ(death associated protein kinase)(DAPK)、ダブルコルチンおよびCaMキナーゼ様2(DCAMKL2)、筋緊張性ジストロフィープロテインキナーゼ(DMPK)、DAPキナーゼ関連アポトーシス誘導プロテインキナーゼ(DRAK)、EF−2キナーゼ、Gタンパク質共役受容体キナーゼ(GRK)、ホメオドメイン相互作用プロテインキナーゼ(HIPK)、熱ショックタンパク質(HSP)、HSP27、IBキナーゼまたはIKK、IL−1受容体関連Ser/Thrキナーゼ(IRAK)、インスリン関連受容体(IRR)、c−Jun N−末端キナーゼ/ストレス活性化プロテインキナーゼ(JNK/SAPK)、LIMキナーゼ、LKB1、リンパ球指向キナーゼ(lymphocyte oriented kinase)(LOK)、マイトジェン活性化タンパク質(MAP)、リナーゼ/Erk、微小管親和性調節キナーゼ(microtube affinity regulating kinase)(MARK)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)、マイトジェン活性化プロテイン/ERKキナーゼキナーゼ(MEKK)、母体−胎芽(maternal embryonic)ロイシンジッパーキナーゼ(MELK)、misshapen/NIK関連キナーゼ(MINK)、MAPキナーゼキナーゼ(MKK)、混合系統(mixed lineage)キナーゼ(MLK)、Mnk2、筋緊張性ジストロフィーキナーゼ関連Cdc42結合キナーゼ(MRCK)、マイトジェンおよびストレス活性化プロテインキナーゼ(MSK)、筋特異的セリンキナーゼ(MSSK)、哺乳類Ste20様プロテインキナーゼ(MST)、NIMA関連キナーゼ(NEK)、nemo様キナーゼ(NLK)、p38/sストレス活性化プロテインキナーゼ(SAPK)、PAK、PAR、PASドメイン含有セリン/トレオニンキナーゼ(PASK)、3−ホスホイノシチド依存性キナーゼ(PDK)、ホスホリラーゼキナーゼ、Pim、PKA、PKC、PKD、PKG、PKR、PKRアガロースなどのプロテインキナーゼ(PK)、活性、p38関連/活性化プロテインキナーゼ(PRAK)、プロテインキナーゼX(PRKX)、受容体相互作用セリン/トレオニンキナーゼ(RIPK)、Rho関連キナーゼ(ROK/ROCK)、S6キナーゼ、塩誘導性キナーゼ(SIK)、セリン・アルギニンプロテインキナーゼ(SRPK)、(TGFβ)活性化キナーゼ(TAK1)、無数アミノ酸プロテインキナーゼ(Thousand and One Amino Acid Protein Kinase)(TAO)、TANK結合キナーゼ1(TBK1)、精巣特異的セリンキナーゼ−1(TSSK1)、Weel、ZIPK等が挙げられる。
【0032】
チロシン特異的プロテインキナーゼは、チロシンアミノ酸残基をリン酸化し、かつシグナル伝達に使用される。チロシン特異的プロテインキナーゼは、主に成長因子受容体として、かつ成長因子からの下流シグナル伝達において作用する。チロシン特異的プロテインキナーゼの例としては、限定されないが、Ab1、未分化リンパ腫キナーゼ、A1k、活性、Arg、Axl、Blk、Bmx、Brk、Csk、Ddr、DYRK、上皮成長因子(EGF)およびEGF受容体、Eph、erbB/HER、Fer、Fes/Fps、線維芽細胞成長因子(FGF)およびFGF受容体、Fgr、Flt、Fms/コロニー刺激因子(CSF)−1受容体、Fyn、Hck、ホメオドメイン相互作用プロテインキナーゼ(HIPK)、インスリン様成長因子(IGF)およびIGF受容体、インスリンおよびインスリン受容体、Itk、JAK受容体、Kit(V654A)、T細胞活性化に関連するリンカー(LAT)、Lck、Lyn、Mer、Met、MuSK、血小板由来成長因子(PDGF)およびPDGF受容体、PTK5、Pyk2、Ret、Ron、Ros、Rse、Src、Syk、Tie/TEK、Trk、血管内皮成長因子(VEGF)およびVEGF受容体、KDR、Yes、ZAP−70等が挙げられる。
【0033】
二重特異性プロテインキナーゼは、チロシン、セリンおよびトレオニンのアミノ酸残基をリン酸化し、一般にシグナル伝達で使用される。二重特異性プロテインキナーゼの例としては、限定されないが、CLK3、DYRK、MEK等が挙げられる。
【0034】
タンパク質ホスファターゼは、その基質を脱リン酸化する酵素であり;つまり、リン酸モノエステルをリン酸イオンおよび遊離ヒドロキシル基を有する分子に加水分解する。ホスファターゼは、その基質特異性に基づいて細分することができる。チロシン特異的ホスファターゼとしては、タンパク質チロシンホスファターゼ1B(PTP1B)、phosphacan、SHP/SHPTP、および線条体強化(striatum enriched)ホスファターゼ(STEP)が挙げられる。セリン/トレオニン特異的ホスファターゼとしては、PP1(α、β、γl、γ2)、PP2A、PP2B(AKAカルシニューリン)、PP2C、PPP、およびPP5が挙げられる。
【0035】
二重特異性ホスファターゼは、チロシン残基およびセリン/トレオニン残基の両方を脱リン酸化する能力を有する。二重特異性ホスファターゼの例としては、ワクシニアH1関連(VHR)ホスファターゼが挙げられる。
【0036】
本発明の方法は一般に、対象タンパク質の生体源を同定することによって行われる。生体源は、タンパク質の適切な源、例えば、組織、細胞、血液、血清、酵母または細菌、真菌などの微生物、植物、ラン藻類等である。さらに、タンパク質複合体は、遺伝子操作され、かつ細胞、酵母等において発現された複合体であることができる。本発明のバッファーおよび方法を使用し、当業者に公知の標準タンパク質単離技術を用いて、タンパク質複合体を単離、濃縮、免疫沈降、かつ/または「プルダウン」および精製する。本明細書において「抽出」、「単離」および「精製」という用語は、区別なく使用され、生体外での使用に適している状態でタンパク質複合体を得ることに関わる段階を意味する。用いられる技術は、タンパク質を含有する組織、細胞等を得る段階、その組織/細胞を本発明のバッファーでホモジナイズする段階、および例えば、遠心分離、濾過、硫酸ナトリウム沈殿によって、サイズ排除クロマトグラフィー(つまり、ゲル濾過またはゲル浸透クロマトグラフィー)等によって複合体を一部精製する段階などのかかる段階を含み得る。代替方法としては、リガンドに差次的に結合させることによって、例えば非特異的または特異的に対象タンパク質に結合する様々な実体(entity)にさらすことによって、対象タンパク質を精製(またはさらに精製)することができる。かかる実体としては、限定されないが、抗体(モノクローナルとポリクローナル両方)、基質、阻害剤、補助因子、金属、種々の荷電基(例えば、陰イオンおよび陽イオンクロマトグラフィー)等が挙げられる。かかる方法は、当業者には公知であり、複合体の生物活性を保つために本発明の保護バッファーが使用される限り、本発明の生物活性多タンパク質複合体の単離において、あらゆる適切な方法または方法の組み合わせを使用することができる。本発明の好ましい実施形態において、複合体は、対象タンパク質の一部に特異的な抗体を使用して、免疫沈降によって単離される。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルのいずれかであることができ、タンパク質のいずれかの部分に特異的である。例えば、マルチサブユニットタンパク質の場合には、抗体は、サブユニットのいずれかに、または複数のサブユニットにでさえ向けられる。さらに、複数のタイプの抗体を用いることができ、例えば、異なるサブユニットに特異的な抗体の混合物を使用することができる。共免疫沈降とは、対象タンパク質をその足場タンパク質と共に免疫沈降させること、例えば受容体またはイオンチャネルタンパク質をそのキナーゼおよび/またはホスファターゼと共に免疫沈降させることを説明するために使用される用語である。
【0037】
一旦、抽出および単離されたら、生物活性多タンパク質複合体は様々な方法で使用することができる。一般に、複合体は、診断およびスクリーニングアッセイに用いられるだろう。この技術は、基礎分子生物学および生化学研究、血清プロファイリング、タンパク質存在量の決定、疾患バイオマーカーの同定、免疫および毒物応答プロファイリング、および創薬標的スクリーニングに関して大きな可能性を持っている。複合体の状態は、その生物活性が維持される状態である。例えば、複合体は、溶解状態で使用することができるし、または基体に結合させることができる。本発明の好ましい実施形態において、複合体は、基体表面に結合された抗体を使用した免疫沈降反応によって、基体表面上に固定化される。この実施形態において、この抗体は、複合体の精製およびその固定化の両方をもたらす役割を果たす。
【0038】
図1A−Dは、対象タンパク質が、細胞膜中に存在する四量体イオンチャネルである、本発明の実施形態を図示する。図1Aは、ホスファターゼ、プロテインキナーゼ、および他の足場タンパク質と結合した膜内に包埋されたイオンチャネルタンパク質を示す。図1Bは、本発明のバッファーを使用した組織または細胞の可溶化を示す。図1Cの最下部のパネルは、溶解状態の多タンパク質複合体を表し;精製のこの段階では、組織の他のタンパク質および成分が存在するだろう。図1Cの最上部のパネルは、対象タンパク質の受容体サブユニットに特異的な抗体が結合される、基体の表面を示す。複合体を含有する溶液を固定化された抗体と接触させると、サブユニットを介して抗体は複合体を捕捉し、多タンパク質複合体全体(すべてのサブユニットを有する対象タンパク質+足場タンパク質)が基体上に固定化される。
【0039】
図1は、平らな基体上への複合体の固定化を図示する(そうである必要はない)。基体(「固体担体」または「担体」とも呼ばれる)とは、不溶性マトリックスを意味し、硬質または半硬質表面を任意に有し得る。かかる基体は、いずれかの有用な形状、例えばビーズ、ペレット、ディスク、チップ、皿、マルチウェルプレート、ウエハー、ワイヤー、フィラメント、チューブ、可撓性ストリップ、糸状構造、またはこれらのいずれかの組み合わせ等の形状であることができ、適切な材料、例えばガラス、プラスチック、種々のポリマー、金属(例えば、金、白金、銀、銅、アルミニウム)、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化タンタル、酸化チタン、インジウム酸化スズ、酸化マグネシウム、石英、シリカおよびその組み合わせ等で構成される。さらに、その表面は、より大きな構築物の部分であり、例えば、平らな表面は、当技術分野で公知の96、384または1536ウェルプレートなどのマルチウェルプレートのウェルまたはへこみの底面である。さらに、複合体の固定化は、図示されるものよりもさらに複雑であってもよく、例えば、ビオチン−ストレプトアビジン、二次抗体、磁気機能(magnetic feature)等が、固定化方法の一部を形成し得る。複合体が基体上に保持される限り、かつ保持手段が認め得るほど複合体の生物活性を妨げない限り、多タンパク質複合体を固定化する方法を用いることができる。本発明で用いることができる固定化用基体としては、限定されないが、ガラス、スライド、ビーズ、膜(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびニトロセルロース)の表面、種々のポリマーの表面、シリコン表面等が挙げられる。
【0040】
固定化されていようと、溶解状態で遊離していようと、本発明の単離多タンパク質複合体は、生理学的に関連するその特有の生物活性を保持する、または示す。「その生物活性を保持する」とは、タンパク質複合体によって示される活性のレベルが、生体内にある場合の多タンパク質複合体の生物活性の少なくとも約50〜100%(またはそれ以上)、好ましくは約75〜100%(またはそれ以上)であることを意味する。生体内活性のレベルが分からない複合体については、それらが、公知の方法によって検出可能なレベルで、生体内で行う生化学反応を生体外で行うことができるという点から、単に「生物活性」と述べられる。その代わりとして、反応性の標準測定値が当技術分野で確立されているが、今まで複合体において測定されていなかったタンパク質については、本発明の多タンパク質複合体は一般に、以前に確立された標準活性の約50〜100%、または好ましくは75〜100%、またはさらには100%を超える活性を示すであろうが、場合によって、複合体の活性レベルは実際には、それより低いことがある。これは、本明細書に記載の多タンパク質複合体の活性が、それらがその天然状態、生体内環境にある場合の複合体の活性にさらによく似ているからである。当業者は、タンパク質活性の測定の開発および標準化に精通している。
【0041】
固定化された、または溶解状態で遊離している、本発明の多タンパク質複合体の活性は、当業者に公知の多種多様な技術のいずれかによって測定することができる。その例としては、限定されないが、蛍光、化学発光、放射能、比色分析、質量分析、表面プラズモン共鳴、レポーター酵素、親和性リガンド、複合体の異なる状態に選択的に結合するモノクローナルまたはポリクローナル抗体(例えば、リン酸化残基またはリン酸化されていない残基に選択的に結合する抗体)、ラジオイムノアッセイ、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、質量分析による検出と組み合わされた二次元電気泳動ゲル分離(2−DPAGE)、質量分析による検出と組み合わされた液体クロマトグラフィー分離等が挙げられる。その開示内容全体が参照により組み込まれる、Bandaraらによる米国特許第6,875,618号には、これらのおよび他の方法のいくつかが記述されている。特に、蛍光検出は現在、創薬およびハイスループットスクリーニングで使用される大部分のアッセイの基礎である(Lakowicz, 1999; Asian et al., 2005)。近年、蛍光を基礎とする検出技術および自動化技術の進歩によって、96ウェルから384および1536ウェルHTSアッセイへのアッセイの小型化が促進されている。このように、本発明の好ましい実施形態において、免疫蛍光法が検出方法として使用される。かかる技術は、例えばタンパク質のリン酸化状態の変化、または高次構造変化、またはリガンドの結合から生じる変化を検出するために使用される。
【0042】
次に、本発明の好ましい実施形態は、生物活性多タンパク質複合体が、ハイスループットスクリーニングアッセイに適した基体上に固定化される、タンパク質アレイである。「ハイスループット」とは、所定のプロセス、方法またはアッセイ等において大量の試料を処理する能力を意味する。好ましい実施形態において、ハイスループットプロセスは、コンピューターソフトウェアによって、または手動で、または両方によって任意に制御される、自動化された機械で行われる。かかるアレイは、1種類の多タンパク質複合体を収容することができ、例えば、すべての複合体は、特定のイオンチャネルなど1種類の対象タンパク質を含む。その代わりとして、複数種の複合体が固定化される、混合またはハイブリッド・アレイもまた企図される。さらに、他の種類の分子も混合アレイに含まれることができる。多タンパク質複合体が生物活性が損なわれない限り、有用な分子のあらゆる組み合わせがアレイ上に存在することができる。かかるアッセイは、何百または何千の多タンパク質複合体を含み得る。
【0043】
かかるアレイは、複合体の候補修飾因子、例えば受容体複合体の翻訳後修飾の修飾因子の小規模または大規模な検出に使用することができる。「翻訳後修飾」とは、その最初の翻訳後に天然ポリペプチド配列に加えられる、いずれかの変化/修飾を意味する。その例としては、限定されないが、リン酸化/脱リン酸化、グリコシル化/脱グリコシル化、プレニル化、ミリストイル化、パルミトイル化、限定消化、不可逆的なコンフォメーション変化、メチル化、アセチル化、アミノ酸側鎖またはアミノまたはカルボキシ末端の修飾、酸化の変化、ジスルフィド結合の形成、種々のタンパク質間相互作用等が挙げられる。候補修飾因子(例えば、活性化因子または阻害因子)の作用は、例えばセリン、トレオニンおよび/またはチロシンリン酸化のレベルの変化、および/または受容体サブユニット間のタンパク質間相互作用および/または受容体サブユニットと他のタンパク質とのタンパク質間相互作用のレベルの変化を測定することによって、検出することができる。本発明を用いて、この結合が受容体活性の変化を生じるかどうかにかかわらず、サブユニットまたは複合体の他のタンパク質に結合する作用物質についてスクリーニングすることもできる;かかる作用物質は、分子、ペプチド、ポリペプチド、脂質、DNA、RNA、または他のリガンド等である。かかるアッセイは、創薬ツールとして、かつ受容体複合体調節の複雑なメカニズムにおける各足場タンパク質の役割を理解するための、かつ多タンパク質複合体内の受容体調節のための新規な標的を同定するための研究ツールとしても有用である。かかるアッセイを行う間、多タンパク質複合体の生物活性をその成分が減弱しない限り、適切な緩衝系を使用することができる。
したがって、複合体を用いて、対象タンパク質の生物活性または化学活性の多種多様な候補修飾因子のいずれもスクリーニングすることができ、例えばタンパク質の結合部位に合うように設計された小分子、タンパク質の潜在的な活性化因子または阻害因子(可逆または不可逆のいずれか)、他のタンパク質;他のタンパク質複合体;ポリペプチドおよびペプチド;核酸;脂質;多糖;化学物質;種々の天然物;種々の補助因子;酵素基質等を含み得る、種々の特異的および非特異的リガンドをスクリーニングすることができる。本発明の生物活性多タンパク質複合体を用いて、いずれの対象化合物もスクリーニングすることができる。検出される例示的な活性としては、限定されないが、キナーゼ活性、プロテアーゼ活性、ホスファターゼ活性、グリコシダーゼ活性、アセチラーゼ活性、化学基移動酵素活性、コンフォメーションおよび/または折りたたみの変化;種々の翻訳後修飾等が挙げられる。
【0044】
さらに、活性以外の複合体の特性もまた対象であることができ、様々な公知の技術、例えば円偏光二色性、示差走査熱量測定、等温滴定熱量測定、核磁気共鳴、種々の分光技術等を用いて測定される。これらの場合には、複合体はおそらく、固定化状態ではなく溶解状態で維持されると思われる。
【0045】
本発明は、本明細書に記載の方法を行うためのキット(1つまたは複数)も提供する。かかるキットは、非変性可溶化/免疫沈降バッファー中の単離タンパク質複合体を含む。タンパク質は、固定化されていてもよいし、または溶解状態で遊離していてもよい。キットは、反応およびブロッキングバッファーなどの他のバッファーも含み得る。複合体に選択的に結合するモノクローナルまたはポリクローナル抗体、例えば、それがリン酸化されている場合に複合体におけるタンパク質に選択的に結合する抗体、それがリン酸化されていない場合でさえ、タンパク質自体に選択的に結合する抗体もまた含まれ得る。抗体に結合させることができる蛍光色素などの検出可能な標識もまた、キットに備えられる。その代わりとして、抗体は、かかる検出可能な標識に既に結合した状態で提供されることができる。キットの使用説明書もまた含まれる。
【0046】
本発明の実施は、次の実施例でさらに説明される。
【実施例】
【0047】
実施例1.生物活性N−メチル−D−アスパラギン酸受容体タンパク質複合体の単離および固定化
略語:NMDAR,N−メチル−D−アスパラギン酸受容体;PKA,プロテインキナーゼA;SOV,オルトバナジン酸ナトリウム;PKC,プロテインキナーゼC;PTK,タンパク質チロシンキナーゼ;PTP,タンパク質チロシンホスファターゼ;SFK,srcファミリーキナーゼ,PSD−95,シナプス後密度95;PP,セリン/トレオニンホスファターゼ
材料および方法:
抗体および化学物質:
【0048】
免疫沈降には、ポリクローナルNMDAζ1抗体(Santa Cruz Biotechnology社,米国カリフォルニア州サンタクルーズ)を使用した。抗ホスホチロシン(抗pTyr)4G10クローンをプローブとするために、Ser896での抗phosphoNR1(抗pSer896)、Ser897での抗phosphoNR1(抗pSer897)および抗PSD−95(Upstate Biotechnology社,米国ニューヨーク州レークプラシッド);抗NR1(B.D.Pharmingen社,米国カリフォルニア州サンディエゴ)、抗NR2A、抗NR2Bおよび抗NR2A/B(NR2AおよびNR2Bサブユニットの両方を認識する)抗体(Chemicon社、米国カリフォルニア州テメキュラ)を使用した。Alexa色素およびZenon IgG標識キット(Molecular Probes社,カリフォルニア州カールズバッド)を蛍光の調査に使用した。薬物をSigma Aldrich社(米国カリフォルニア州セントルイス)またはCalbiochem−Novabiochem社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。黒色または無色のプレコートされたタンパク質A/GマルチウェルプレートをPierce社(米国イリノイ州ロックフォード)から購入した。
【0049】
プレコート96ウェルプレート上への多タンパク質複合体の抽出および固定化:
3週齡SDラットから得た皮質組織で実験を行った。動物実験に関する指針(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)を厳格に遵守してすべての手順を行った。シリンジを用いて、0.1% TritonX−100、0.2% β−メルカプトエタノール、50mM トリス−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、5mM EGTA、Sigmaプロテアーゼ阻害剤カクテル10mg/ml、1mM フッ化フェニルメチルスルホニルを含有する可溶化/免疫沈降バッファー中に、21日齡のラットから得た皮質組織を可溶化した。組織ホモジネートを遠心分離し(15,000g,4℃で10分間)、不溶性材料を除去した。上清を40℃に維持し、後に免疫沈降に使用した。活性NMDA受容体複合体の免疫沈降に、タンパク質A/Gプレコート96ウェルプレート(Pierce Biotechnology社,イリノイ州ロックフォード)を使用した。プレートを可溶化/免疫沈降バッファーで洗浄し、抽出用バッファー100μL中の抗NRl抗体(20μg)を各ウェルに添加した。室温で2時間インキュベートした後、ウェルを可溶化/免疫沈降バッファーで3回すすぎ、上清100μLを各ウェルに添加した。4℃で4時間インキュベートした後、0.2% β−メルカプトエタノール、25mM トリス−HCl(pH7.5)、30mM MgCl、20mM MnCl、0.5mM DTTを含有する反応バッファーでウェルを3回洗浄した。
【0050】
活性試験:
反応バッファー50μL、ATP500μMおよび試験される作用物質(agent)を各ウェルに添加した。対照ウェルは、反応バッファー50μLのみを、または500μM ATPの存在下にて含有した。すべての試料を30℃で1時間インキュベートした。0.5% DOC、1% NP−40、0.1% SDSおよび50mM トリス−HCl(pH8.0)中の150mM NaCl、5mM EDTA、5mM EGTA、プロテアーゼ阻害剤カクテル10mg/ml、1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(プロテアーゼ阻害剤)、5mM NaVO、50mM NaF、10mM NaPP、25mM グリセロリン酸ナトリウムおよび2μM ミクロシスチン−LRを40℃で含有するブロッキングバッファーをすべての試料に添加することによって、反応を停止させた。試料をブロッキングバッファーで3回すすぎ、ウエスタンブロット法または免疫蛍光法による検出にかけた。
【0051】
蛍光検出:
蛍光検出実験については、黒色96ウェルプレートを使用して、蛍光が溢れ出るのを防いだ。薬物処理後、ウェル中の試料をブロックし、ブロッキングバッファーですすぎ、4%パラホルムアルデヒド/4%ショ糖(PFS)中で5分間固定化し、BSAで10分間ブロックし、すすぎ、室温にて1時間(希釈度1:100〜1:500で)一次抗体(1度に3つ)に曝露した。使用前に、Zenon IgG標識キット(Molecular Probes社)を使用して、Alexa Fluors 488(ex/em,495/519)、568(ex/em578/603)および647(ex/em650/668)と一次抗体を結合させた。インキュベートした後、プレートをPBSで3回すすいだ。適切なフィルターを使用して、Cytofluor 2350蛍光プレートリーダーでマルチウェルプレートを読み取った。Cytofluor 2300は、多重化読取り能力を持たないため、各抗体に関してプレートをスキャンした。スキャン中の色素の光退色が結果に影響しないようにするために、各実験に対して異なる順序でプレートをスキャンした。
【0052】
ウエスタンブロット法
薬物処理後、タンパク質複合体を2×ローディングバッファー(200mMトリス−HCl(pH6.8)、4%SDS、20%グリセロール、0.02%ブロモフェノールブルー、および4%β−メルカプトエタノール)50μl中で変性させた。すべての試料をマイクロ遠心チューブに移し、5分間沸騰させ、1分間遠心し、各試料40μlを7.5%SDSポリアクリルアミドゲルにロードした。ロードされたゲルを電気泳動し、Bio−Rad社(米国カリフォルニア州ハーキューリーズ)から市販のニトロセルロース膜に移す。そのニトロセルロース膜を5%ミルクでブロックし、洗浄し、以下の抗体:抗pTyr(4G10)、抗NR2A/B、抗NR1、抗PSD−95のうちの1つと共に希釈度1:1000で一晩インキュベートした。洗浄後、次いで膜を適切なホースラディッシュペルオキシダーゼ結合二次抗体と共にインキュベートし、Kodak Digital Science 4400CF Imagerを使用して、NEN RenaissanceTM(NEN Life Sciences社)からの化学発光試薬によって発光させた。同一のバンドを認識する抗体とのインキュベーションの間、62.5mMトリス(pH6.8)、2%SDSおよび0.7%β−メルカプトエタノール中で、膜を一度ストリッピングした。
【0053】
バッファーの組成:
新規な可溶化/免疫沈降バッファーの組成:
0.1%TritonX−100
0.2%β−メルカプトエタノール
50mMトリス−HCl(pH7.5)
5mM EDTA
5mM EGTA
プロテアーゼ阻害剤カクテル10mg/ml
1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(プロテアーゼ阻害剤)
反応バッファーの組成:
0.2%β−メルカプトエタノール、
25mMトリス−HCl(pH7.5)
30mM MgCl
20mM MnCl
0.5mM DTT
ブロッキングバッファーの組成:
0.05%DOC
0.1%SDS
l%Nonidet P−40
50mMトリス−HCl(pH8)
150mM NaCl
5mM EDTA
5mM EGTA
プロテアーゼ阻害剤カクテル10mg/ml
1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(プロテアーゼ阻害剤)
5mM NaVO
50mM NaF
10mM NaPP
25mMグリセロリン酸ナトリウム
2μMミクロシスチン−LR
【0054】
N−メチル−D−アスパラギン酸受容体(NMDAR)複合体は、いくつかの神経変性疾患に関与する。実際には、NMDAR、グルタミン酸受容体のサブタイプの不適切な活性化によって、過剰なカルシウム流入が生じ、興奮毒性神経細胞死が起こり得る。したがって、NMDARの遮断は、動物モデルにおいて神経保護的であり(Lee et al., 1999)、中枢神経系におけるNMDA関連障害を治療するのに適している。これらの障害としては、限定されないが、虚血、疼痛、アルツハイマー病、パーキンソン病、精神分裂病、癲癇、鬱病、片頭痛、炎症および他の神経変性疾患が挙げられる。臨床試験(参照)においてニューロプロテクター(neuroprotector)としてNMDARアンタゴニストが期待外れだったため、この分野で新しい治療薬が大変必要とされている。NMDAR単独と異なり、その関連タンパク質およびキナーゼおよびホスファターゼなどの酵素でのNMDAR複合体の薬理学的操作は、NMDARアンタゴニストの副作用を示すことなくNMDARを調節することができる新規な治療薬を提供することができる。この実施例に示される予備的結果から、免疫蛍光に基づくHTSアッセイとしての96−ウェルプレート上での機能複合体の単離は実行可能であることが示唆されている。このように、標的としてNMDAR複合体を使用した、神経保護薬を発見するためのハイスループットスクリーニングツールは、製薬産業に重要なツールである。
【0055】
NMDARの背景:
NMDARは、複数のサブユニットで構成されるヘテロメリックなアセンブリである;これらは、NR1サブユニット、4つの異なるNR2サブユニット(A、B、CおよびD)のファミリーおよび2つのNR3サブユニット(1およびs)(Dingledine et al, 1999; Das et al., 1998)を含む。NMDARは、シナプス後密度タンパク質(PSD−95)を含む、シグナル伝達に関与する70種を超えるタンパク質と相互作用することが報告されている(Husi et al., 2000)。これらの受容体の機能は、プロテインキナーゼおよびタンパク質ホスファターゼによってそれぞれ仲介される一連のリン酸化プロセスおよび脱リン酸化プロセスによって調節される(Wang and Salter, 1994; Smart, 1997)。NR1内では、プロテインキナーゼC(PKC)およびcAMP依存性ロテインキナーゼ(PKA)によるリン酸化が、890および896番目のセリン残基(Ser890およびSer896)、および897番目のセリン(Ser897)で起こる(Tingley et al., 1993)。NR2サブユニットは、CaMキナーゼII(Gardoni et al., 1998)、PKA、PKC(Leonard and Hell, 1997; Tingley et al., 1993)、およびタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)(Lau and Huganir, 1995)によってリン酸化される。タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)活性は、NMDARと共免疫沈降することが証明されており(AIi and Salter, 2001)、内因性PTPがNMDAR複合体に固有であることが示されている。最近、PTK SrcおよびFyn、PKC、PKAおよび受容体PTPαなど、これらのタンパク質のいくつかが、NMDAR調節のための標的として同定されている(Wenthold et al., 2003)。さらに、本発明者らは、NMDARをダウンレギュレートし(Coussens et al., 2000)、かつ神経保護特性を示す(Kawano et al., 2001; Lu et al., 2002)ことが証明されている、PTP阻害剤などの化合物が、NMDARサブユニットの分解を誘導する(Ferrani-Kile and Leslie, 2005)ことを報告している。したがって、NMDARリン酸化における変化およびサブユニットおよび/または足場タンパク質の間のタンパク質間相互作用における変化によって、この受容体の機能が調節される。
【0056】
ラットNMDAR対ヒトNMDAR:
この実施例において96ウェルプレート上に固定化された最終タンパク質複合体は、ラット脳組織に由来する複合体であった。したがって、ヒトとげっ歯類のNMDAR生物学およびシグナル伝達特性の比較が提供される。NMDA受容体チャネルは、ヒトの脳に豊富にあり(Huntley et al. 1994; Scherzer et al. 1998)、グルタミン酸作動性シナプス伝達に関与すると思われる(Urban et al. 1990; Isokawa & Levesque, 1991 ;Masukawa et al. 1991; Hwa & Avoli, 1992; Isokawa et al. 1997)。クローン化ヒトNR1サブユニットは、ラットにおいて発見されるサブユニットと、そのアミノ酸938個のうち7個だけ異なる(Karp et al. 1993)。したがって、アフリカツメガエル卵母細胞において発現されるホモメリックなヒトNR1チャネルの一般的な特徴としては、Ca2+透過性、Mg2+による電位依存性ブロック、Zn2+による拮抗作用および他の競合的および非競合的アンタゴニスト(Karp et al. 1993; Planells-Cases et al. 1993)が挙げられる。ヒトNMDAチャネルの生化学的研究では、ポリアミンによるチャネル活性の調節におけるげっ歯類の受容体との類似性(Subramaniam et al. 1994)が説明されており、マウス線維芽細胞に永久的にトランスフェクトされた、ヒトNR1a/NR2AおよびNR1a/NR2Bサブユニットを含むチャネルは、げっ歯類のその相当物に匹敵する電気生理学的特性を有する。さらに、成人中枢ニューロンにおけるNMDAチャネルのコンダクタンスは、他の多くの動物種のコンダクタンスと類似している。開口および閉鎖の分布、およびその分布における指数成分の数は、同一方法で作製されたラット神経細胞で観察され、かつ同様な条件下で記録されたものに著しく匹敵する(Kohr et al. 1993; Lieberman & Mody, 1994)。さらに、シナプスおよびシナプス外NMDA受容体の単一チャネル特性が、比較に値すると思われる(Lester et al. 1990; Clark et al. 1997)。したがって、げっ歯類のNMDAR生物学およびシグナル伝達特性は、ヒトの特性と非常に似ていると思われ、ラット脳組織由来のアレイは、ヒトに使用される薬物の発見に大変有用であるだろう。その代わりとして、NMDARをホモサピエンスから単離し、同じ手法で使用することができる。
【0057】
上述のようにタンパク質A/Gプレコート96ウェルプレート上で固定化された未処理の脳組織から、NMDAR複合体を抽出した。SOVの作用を以下のとおり試験した:固定化された複合体をすすぎ、可溶化/免疫沈降バッファーを反応バッファーと取り替えた。この反応バッファーをすべてのウェルに添加した。対照ウェルは、反応バッファーのみ、または反応バッファーおよびATPのみを含有した。5mM SOVをウェルの残りに添加し、30℃で1時間インキュベートした。免疫ブロット分析では、反応をブロッキングバッファーで停止し、試料をすすぎ、抗pTyr、抗NR2A/B、抗NR1および抗PSD95抗体を用いて、ウエスタンブロット法にかけた。免疫ブロット法および免疫蛍光法による検出方法を用いて、NMDARリン酸化の変化、ならびに受容体サブユニット間かつ/または受容体サブユニットと複合体に存在するタンパク質との間のタンパク質間相互作用の変化を評価した。蛍光分析では、阻害剤と共にインキュベートした後、その反応をブロッキングバッファーで停止し、ウェル中の試料をすすぎ、パラホルムアルデヒドで固定し、異なるem/ex波長を有するAlexa結合一次抗体(抗pTyr、抗NR1および抗NR2A/B)と共にインキュベートし、Cytofluor 2300マルチプレート蛍光リーダーで読み取った。
【0058】
その結果を図2(免疫ブロット法)および図3(免疫蛍光法)に示す。図から分かるように、両方の分析方法によると、SOVは、NR2A/Bサブユニットのチロシンリン酸化を増加し、受容体におけるNR2A/BおよびPSD−95の量を減少させた。これらの結果は、in situで皮質スライスを使用する同様な実験を行ったFerrani-Kile & Leslie (2005)の実験結果と一致する。これらの結果から、本発明の方法により単離かつ固定化されたMDAR複合体は生物活性であり、かつ修飾因子(阻害因子および活性化因子)に対するその応答が、NMDARがin situの脳スライスにおいて試験された場合に観察される応答に類似しており、かつ免疫ブロット法および蛍光法によって検出することができることが実証されている。
【0059】
実施例2:γ−アミノ酪酸受容体(GABAA)複合体
GABAは、中枢神経系における抑制性神経伝達物質であり、それは、3つの異なる受容体サブタイプ:GABA、GABA、およびGABAに結合する。GABA受容体は、脳における高速抑制性(fast inhibitory)シナプス伝達の大部分を担う(Sivilotti and Nistri, 1991;Mody et al., 1994)。GABA受容体は、ヘテロ五量体構造であると考えられ、相同サブユニットで形成される。このように、分子クローニングによって、異なる5つのクラス:α(1−6)、β(1−4)、γ(1−3)、δ、およびρ(1−2)に分けられる、異なるGABA受容体サブユニットの多重性がかなり明らかとなっている(Macdonald and Olsen, 1994; Smith and Olsen, 1995)。天然GABA受容体の正確なサブユニット組成および化学量論は現在不明であるが、哺乳動物の脳における天然GABA受容体の最も豊富な集団(population)は、α1β2γ2サブユニットの組み合わせであると考えられている(Benke et al., 1991; McKernan and Whiting, 1996)。GABA受容体サブユニットのそれぞれが、膜貫通領域を含有する。第3膜貫通領域と第4膜貫通領域の間の推定細胞内ドメインは、種々のプロテインキナーゼによるタンパク質のリン酸化のための非常に多くの潜在的コンセンサス部位を含有する(Macdonaldand Olsen, 1994; McKernan and Whiting, 1996)。以前の研究によって、セリン/トレオニン特異的リン酸化がGABA受容体を調節することが証明されている(Browning et al., 1993; Raymond et al., 1993; Levitan, 1994)。さらに、CNS神経細胞におけるin situでのチロシン特異的リン酸化によるGABAA受容体の調節が、Qi Wan et al, (1997)によって研究されている。この研究によって、内因性PTKは、βサブユニットのチロシンリン酸化を介してGABA受容体活性を変化させることができるという証拠が提供された。多くの脳機能および機能不全の仲介におけるGABA受容体の顕著な役割を仮定すると、GABA受容体複合体を含有するタンパク質アレイは、広範囲の生理学的および病理学的プロセスの研究に重要である。
【0060】
単離されたGABA受容体複合体に対するPTP阻害剤SOVの作用を試験するために、海馬組織を切除し、上述の可溶化/免疫沈降でホモジナイズした。実施例1に記載のように、抗β2/β3抗体(Upstate Biotechnology社,米国ニューヨーク州レークプラシッド)を使用して、GABA受容体複合体を免疫沈降させた。固定化複合体をすすぎ、可溶化/免疫沈降バッファーを反応バッファーと取り替えた。反応バッファーをすべてのウェルに添加した。対照ウェルは、反応バッファーのみ、または反応バッファーおよびATPのみを含有した。5mM SOVをウェルの残りに添加し、30℃で1時間インキュベートした。反応をブロッキングバッファーで停止し、試料をすすぎ、抗pTyrおよび抗β2/β3抗体でウエスタンブロット法にかけた。
【0061】
その結果を図4A〜Bに示す。図から分かるように、SOVは、受容体におけるβ2/β3サブユニットのチロシンリン酸化を増加した。これらの結果は、培養神経細胞において内因性PTKおよび外来性PTK pp60c−srcによって、GABA β2/β3サブユニットのチロシン残基をリン酸化することができることを示す実験を行った、Qi Wan et al, (1997)の実験結果と一致する。
これらの結果から、本発明の方法により単離かつ固定されたGABA受容体複合体は生物活性であり、修飾因子(阻害因子および活性化因子)に対するその応答は生物学的に関連しており、実験室的標準方法を用いて検出することができることが実証されている。
【0062】
実施例3:α−7ニコチン性アセチルコリン受容体複合体
ニコチン性アセチルコリン受容体は、中枢神経系、骨格筋の末梢神経系および神経筋接合部に存在する。ニコチニコイド(nicotinicoid)受容体ファミリー(Cascio, 2004)内にすべて分類される、GABA受容体、グリシン受容体、およびセロトニン受容体3型と同様に、ニコチン性受容体は、中央の孔周囲に対称に配置された、5つの受容体サブユニットによって形成される。17のnAChRサブユニットが同定されており、これらは、筋型および神経細胞型サブユニットに分けられる。17のこれらのサブユニットのうち、α2−α7およびβ2−β4は、ヒトにおいてクローン化されている。筋肉においては、nAChRは、2つのαサブユニット、β、δおよびγまたはεのいずれかから構成され(Siegel et al., 1999)、神経系においては、nAChRは、広範囲のサブユニットの組み合わせを有して、より異種性(heterogeneous)である。α−7nAChRは、リン酸化などの様々な細胞メカニズムによって制御される。カルモジュリン(CaM)キナーゼII阻害が、これらの受容体の使用依存性ランダウンを減弱することができるという知見(Liu and Berg, 1999)によって、細胞セリン/トレオニンリン酸化の直接的な役割が実証された。最近、チロシンリン酸化によって受容体機能をかなり迅速に調節することができることが明らかとなっている(Davis et al., 2001 and Cho et al., 2005)。以下の実験では、PTP阻害剤SOVが、単離され、かつ生物活性のα−7nAChRに対して作用を及ぼすかどうかを評価した。
【0063】
単離α−7nACh受容体複合体に対するPTP阻害剤SOVの作用を試験するために、海馬組織を脳から切除し、いくつか修正を加えて、上述の可溶化/免疫沈降バッファーでホモジナイズした。可溶化バッファーは、実施例1で使用された0.1%TritonX−100の代わりに0.05%TritonX−100を含有した。固定化された複合体をすすぎ、可溶化/免疫沈降バッファーを反応バッファーと取り替えた。この反応バッファーをすべてのウェルに添加した。対照ウェルは、反応バッファーのみ、または反応バッファーおよびATPのみを含有した。5mM SOVをウェルの残りに添加し、30℃で1時間インキュベートした。反応をブロッキングバッファーで停止し、試料をすすぎ、抗pTyr、抗α7抗体でウエスタンブロット法にかけた。
【0064】
その結果を図5A〜Bに示す。図から分かるように、SOVは、受容体におけるβ2/β3サブユニットのチロシンリン酸化を増加した。これらの結果は、α−7nACh受容体を制御するチロシンリン酸化が、SH−SY5Y神経芽腫細胞においてゲニステインおよびペルバナデート(pervanadate)によって調節されることを示す実験を行った、Charpentier et al., (2005)の実験結果と一致する。
【0065】
これらの結果から、本発明の方法により単離かつ固定されたnAChR受容体複合体は生物活性であり、修飾因子(阻害因子および活性化因子)に対するその応答は生物学的に関連しており、実験室的標準方法を用いて検出することができることが実証されている。
【0066】
実施例4.環状ヌクレオチド作動性イオンチャネル−HCN4
環状ヌクレオチド作動性イオンチャネルはリガンド作動性であり、リガンド作動性ファミリーよりも、電位作動性イオンチャネルのファミリーと構造が似ている。環状ヌクレオチド作動性チャネルは、哺乳類の嗅覚および視覚システムにおいて特に重要であるが、心臓にも見出される。視覚システムにおいて、cGMP(環状グアノシン一リン酸)作動性チャネルは、網膜光受容体細胞の外膜に見出される。高レベルのcGMPに応じて、チャネルが開き、正に荷電したイオンが細胞内に流入し、脱分極が起こる。最近、Arinsburgnら(2005)によって、過分極活性化環状ヌクレオチド作動性(HCN)チャネルによって生成される場合には、心臓ペースメーカー電流は、HEK293細胞およびラット心室筋細胞においてHCN4のリン酸化を介してSrcチロシンキナーゼによって制御されることが報告されている。
【0067】
PTP阻害剤SOVの作用を試験するために、ラット心室を切除し、可溶化/免疫沈降バッファー中でホモジナイズし、実施例1に記載のように抗HCN4ポリクローナル抗体(Alpha Diagnostic International社,テキサス州サンアントニオ)と共にインキュベートすることによって共免疫沈降にかけた。固定化された複合体をすすぎ、可溶化/免疫沈降バッファーを反応バッファーと取り替えた。この反応バッファーをすべてのウェルに添加した。対照ウェルは、反応バッファーのみ、または反応バッファーおよびATPのみを含有した。5mM SOVをウェルの残りに添加し、30℃で1時間インキュベートした。反応をブロッキングバッファーで停止し、試料をすすぎ、抗pTyrおよび抗HCN4抗体を使用して、ウエスタンブロット法および蛍光分析にかけた。
【0068】
その結果を図6A〜Bに示す。図から分かるように、SOVは、受容体におけるHCN4サブユニットのチロシンリン酸化を増加した。これらの結果は、HEK293細胞およびラット心室筋細胞においてHCN4のチロシンリン酸化を誘導するために、Srcチロシンキナーゼを使用する実験を行った、Arinsburgn et al. (2005)の実験結果と一致する。
【0069】
これらの結果から、本発明の方法により単離かつ固定化されたHCN4イオンチャネル複合体は生物活性であり、修飾因子(阻害因子および活性化因子)に対するその応答は生物学的に関連しており、実験室的標準方法を用いて検出することができることが実証されている。
【0070】
概要
これらの研究から、本発明に従って多タンパク質複合体を作製することによって、HTSアッセイで使用されるタンパク質アレイの開発の実現性が実証されている。生物活性多タンパク質複合体は単離することができ、単離された複合体のリン酸化およびサブユニット相互作用の変化は容易に検出することができる。このことは、かかる調節が起こるのに必要な、キナーゼおよびホスファターゼなどの内因性足場タンパク質が、単離および固定化の間にわたって多タンパク質複合体と結合したままであることを強く示唆している。最後に、生物活性、固定化多タンパク質複合体のリン酸化の変化は、蛍光を使用して、ハイスループットスクリーニング(HTS)分野で広く使用されている形式で検出することができる。
【0071】
実施例5.ドーパミン受容体の単離および固定化
ドーパミン受容体は、その内因性リガンドとしての神経伝達物質ドーパミンと結合する、代謝調節型Gタンパク質共役受容体の一種である。5種類のドーパミン受容体、D1−D5が存在する。D1およびD5受容体は、ドーパミン受容体のD1様ファミリーのメンバーであるのに対して、D2、D3およびD4受容体は、D2様ファミリーのメンバーである。これらの受容体は、リン酸化およびタンパク質間相互作用によって制御される。
【0072】
実施例1に記載の方法を用いて、ドーパミン受容体多タンパク質複合体を抽出し、固定化し、分析する。
【0073】
実施例6.ヒスタミン受容体の単離および固定化
様々な種に存在するH3のいくつかのスプライスバリアントと共に、4種類の既知のヒスタミン受容体、H1、H2、H3、およびH4が存在する。その受容体のすべてが7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体であるが、H1およびH2は、その活性がH3およびH4とかなり異なる。H1は、ホスホイノシトール加水分解を増加し、H2は胃酸の分泌を促し、H3はヒスタミンのフィードバック阻害を仲介する。これらの受容体も、リン酸化およびタンパク質間相互作用によって制御される。
【0074】
実施例1に記載の方法を用いて、ヒスタミン受容体多タンパク質複合体を抽出し、固定化し、分析する。
【0075】
参考文献
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【0076】
本発明は、その好ましい実施形態に関して説明されているが、当業者であれば、添付の請求項の範囲および精神内で修正を加えて本発明を実施することができることは理解されよう。したがって、本発明は、上述の実施形態に制限されないが、本明細書に記載の記述の精神および範囲内のそのすべての修正形態および等価物をさらに包含する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1A】、
【図1B】、
【図1C】、
【図1D】一例としてイオンチャネル受容体複合体を使用した、本発明の単離方法の概略図である。A,細胞膜におけるインタクトな多タンパク質複合体;B,特別に配合された本発明のバッファー中でのタンパク質複合体の可溶化;C,最下部のパネル:免疫沈降バッファー中で可溶化された受容体複合体;最上部のパネル:表面に結合された抗サブユニット抗体を有する基体;D,抗体を介して固定化されたインタクトな多タンパク質複合体を有する基体。PP=プロテインホスファターゼ;PK=プロテインキナーゼ;SP=足場タンパク質;RS=受容体サブユニット。
【図2A】、
【図2B】、
【図2C】、
【図2D】単離NMDAR複合体の生物活性の免疫ブロット法による検出:固定化複合体に対するPTP阻害剤SOVの作用。A,免疫ブロット。B〜Dは、pTyr対NR2A/B(B)、NR2A/B対NR1(C)またはPSD−95対NR1(D)の比として表される免疫ブロットの結果の定量化を示す。これらの結果は、4通りの別々の実験を表す。データは、対照に対する平均(SEM)%である(,P<0.05,**,P<0.01対照対SOV)。
【図3A】、
【図3B】固定化NMDAR複合体の生物活性の免疫蛍光法による検出:固定化複合体に対するPTP阻害剤SOVの作用。この結果は、pTyr対NR2A/B(A)およびNR2A/B対NR1(B)の比として表される。各値は、4通りの別々の実験を表す。データは、対照に対する平均(SEM)%である(**,P<0.01対照対SOV)。
【図4A】、
【図4B】単離GABAR複合体におけるチロシンリン酸化の刺激:単離GABA受容体複合体に対するPTP阻害剤SOVの作用。A,免疫ブロット;B,免疫ブロットデータの定量化。この結果は、pTyr対β2/β3の比として表される。ブロットは、4通りの別々の実験を表す。データは、平均(SEM)正味強度(Net intensity)(,P<0.05対照対SOV)。
【図5A】、
【図5B】単離α−7nAChR複合体におけるチロシンリン酸化の刺激:固定化複合体に対するPTP阻害剤SOVの作用。A,免疫ブロット;B,免疫ブロットデータの定量化。この結果は、pTyr対α−7の比として表される。ブロットは、4通りの別々の実験を表す。データは、平均(SEM)正味強度(,P<0.05対照対SOV)。
【図6A】、
【図6B】単離HCN4R複合体におけるチロシンリン酸化の刺激:PTP阻害剤SOVの作用。A,免疫ブロット;B,免疫ブロットデータの定量化。この結果は、pTyr対HCN4の比として表される。ブロットは、4通りの別々の実験を表す。データは、対照に対する平均(SEM)%である(,P<0.05対照対SOV)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数種の対象タンパク質と、
1種または複数種の足場タンパク質と、
を含む、生物活性を維持する状態の生体外の単離多タンパク質複合体。
【請求項2】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、多量体である、請求項1に記載の単離多タンパク質複合体。
【請求項3】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、受容体およびイオンチャネルからなる群から選択される、請求項1に記載の単離多タンパク質複合体。
【請求項4】
前記の1種または複数種の足場タンパク質が、ホスファターゼ、キナーゼ、およびシナプス後密度構成成分からなる群から選択される、請求項1に記載の単離多タンパク質複合体。
【請求項5】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、N−メチル−D−アスパラギン酸受容体である、請求項1に記載の単離多タンパク質複合体。
【請求項6】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、γ−アミノ酪酸受容体である、請求項1に記載の単離多タンパク質複合体。
【請求項7】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、α−7ニコチン性アセチルコリン受容体である、請求項1に記載の単離多タンパク質複合体。
【請求項8】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、環状ヌクレオチド作動性イオンチャネル−HCN4である、請求項1に記載の単離多タンパク質複合体。
【請求項9】
基体;
前記基体と結合された1種または複数種の単離多タンパク質複合体;
を含むアレイであって、
前記の1種または複数種の単離多タンパク質複合体が、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含み、かつ前記の1種または複数種の単離多タンパク質複合体が生物活性である、アレイ。
【請求項10】
前記の1種または複数種の単離多タンパク質複合体が、前記基体に結合された抗体を介して前記基体上に固定化され、前記抗体が、前記の1種または複数種の対象タンパク質に特異的である、請求項9に記載のアレイ。
【請求項11】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、多量体である、請求項9に記載のアレイ。
【請求項12】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、受容体およびイオンチャネルからなる群から選択される、請求項9に記載のアレイ。
【請求項13】
前記の1種または複数種の足場タンパク質が、ホスファターゼ、キナーゼ、およびシナプス後密度構成成分からなる群から選択される、請求項9に記載のアレイ。
【請求項14】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、N−メチル−D−アスパラギン酸受容体である、請求項9に記載のアレイ。
【請求項15】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、γ−アミノ酪酸受容体である、請求項9に記載のアレイ。
【請求項16】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、α−7ニコチン性アセチルコリン受容体である、請求項9に記載のアレイ。
【請求項17】
前記の1種または複数種の対象タンパク質が、環状ヌクレオチド作動性イオンチャネル−HCN4である、請求項9に記載のアレイ。
【請求項18】
前記基体が、マルチウェルプレートである、請求項9に記載のアレイ。
【請求項19】
前記単離多タンパク質複合体が、ハイスループットスクリーニングに適した手法で前記基体と結合される、請求項9に記載のアレイ。
【請求項20】
生物活性を維持する状態で生体外で単離多タンパク質複合体を提供する段階であって、前記多タンパク質複合体が、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含む段階;
前記単離多タンパク質複合体を1種または複数種の物質にさらす段階;
前記の1種または複数種の物質に対する、前記多タンパク質複合体の生物活性または化学反応性の有無を検出する段階;
を含む、生物活性または化学反応性をアッセイする方法。
【請求項21】
前記提供段階が、溶液または懸濁液中の前記単離多タンパク質複合体で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記提供段階が、基体と結合された前記単離多タンパク質複合体で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記単離多タンパク質複合体が、ハイスループットスクリーニングに適した手法で前記基体と結合される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記検出段階によって、以下の:化学発光、表面プラズモン共鳴、リン光、蛍光、および紫外・可視(UV/Vis)特性のうちの少なくとも1つの変化が検出される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記生物活性が、リン酸化の変化およびタンパク質間相互作用の変化からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
多タンパク質複合体が生物活性を維持する状態で生体外で存在するように、生体試料から多タンパク質複合体を単離する段階;
を含む、生物活性または化学反応性のアッセイを準備する方法であって、前記多タンパク質複合体が、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含む、方法。
【請求項27】
前記単離段階で、
1種または複数種の非変性洗剤、
1種または複数種の還元剤、
1種または複数種の緩衝剤、
1種または複数種のキレート剤、
1種または複数種のプロテアーゼ阻害剤、
を含む組成物が用いられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が、0.1%TritonX−100、0.2%β−メルカプトエタノール、50mMトリス−HCl、5mM EDTA、5mM EGTA、および1mMフッ化フェニルメチルスルホニルを含み、かつpH約7.5を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
生物活性を保持する状態の生体外の単離多タンパク質複合体であって、前記単離多タンパク質複合体が、1種または複数種の対象タンパク質と、1種または複数種の足場タンパク質とを含み、前記単離多タンパク質複合体が非変性バッファー中に存在する、単離多タンパク質複合体;
反応バッファー;
ブロッキングバッファー;
使用説明書;
を含むキット。
【請求項30】
前記単離多タンパク質複合体が、基体上に固定化される、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記単離多タンパク質複合体が、溶解状態である、請求項29に記載のキット。
【請求項32】
前記単離多タンパク質複合体に選択的に結合する抗体をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記抗体が、検出可能な標識に結合される、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
前記の検出可能な標識が、蛍光色素である、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記抗体に結合するための検出可能な標識をさらに含む、請求項32に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2009−532680(P2009−532680A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503300(P2009−503300)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/065611
【国際公開番号】WO2007/115151
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508293645)
【氏名又は名称原語表記】FERRANI−KILE,Karima
【Fターム(参考)】