説明

生物種を同定する方法。

生物種の同定方法
本発明は、関連する全ての生物に存在する細胞質ベータ−アクチンタンパク質の標的領域をコードする核酸セグメントの選択的増幅を通して、生物学的試料における種および亜種を同定する方法を提供する。該方法は、DNAを試料から抽出する段階;細胞質ベータ−アクチン遺伝子セグメントを、種および亜種の間で進化的に高い保存性を有する領域のプライマーを用いる、PCRまたは同等の技術により増幅する段階;および増幅したセグメントを予め定めた標準の大きさとその塩基対での大きさで比較する、および/またはDNA塩基配列決定ならびに得られた配列のコンピューターデータベース上に存在する各種または亜種の特定配列との比較により増幅セグメントを同定することにより同定する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進化的に高く保存されているタンパク質のDNA配列を使用することに基づく、生物学的試料の分類学的解析の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の分類学的解析は、産業および活動の広い領域に適用することができる。分類学的解析の3つの主な適用領域は以下のとおりである。
【0003】
食品の解析および食品連鎖のモニタリング
英国における牛海綿状脳症の疫学的発生により引き起こされた食料危機、および異なる分類学的起源の食肉を最終製品に適宜表示することなく不正に混合する傾向の増加のために、生物学的試料または食品の分類学的な由来のトレーサビリティを提供する試験に対する需要が増加している。例えば、ウシ由来の食肉が世界中からオランダに輸入された鶏肉製品に体系的に添加され、その後ヨーロッパ中に流通されていることが明らかにされている。その他の形態の不純化(adulteration)もまた報告されており、こういった慣行はこの領域内の産業において広範囲に及んでいると考えられている。しかし、これはDNA解析に基づく発達した先進技術なしには検出することは困難である。
【0004】
食品の安全試験は通常、政府研究所、食品加工工場およびこれらの産業に関連するサービス企業で実施されている。近年、消費者の需要の増加に反応して、ますますこの領域の利用者は管理方法を探し求めている。これに関連して、あるスーパーマーケットチェーンは、遺伝子工学を用いて食肉製品の分類学的な由来をつき止める方法を開発するために技術的企業と提携した。
【0005】
関連する用途においては、動物飼料の解析が、特に動物飼料に関する「狂牛病」危機後、欧州農業政策(the European Agricultural Agenda)の優先事項の1つとなっている。食品の解析が高く望まれており、近い将来には強制的なものとなるかもしれない。モニタリングの方法は一般に履歴を保存することに基づくが、これは世界各地で無差別に実施されている不正な不純化または希釈化(dilutions)の慣行に対しては及ばない。
【0006】
生物学的多様性のモニタリングおよび調査
生物学的多様性は、地球上の生命の系統発生的歴史と進化の過程との間の相互作用の結果である。前記のように、生物学的多様性は地球上の全ての生命の集約であり、遺伝的および機能的多様性、および種の多様性を含んでいる。
【0007】
生物学的多様性のモニタリング計画における第一段階のうちの1つは、動物、植物および微生物を含む一定の生態系における全ての分類群およびそれらの分類学を特定する、分類学的な一覧表の編集である。これらの一覧表により、全ての生物学的多様性のモニタリングおよび保存計画の基礎が提供される。地球上における生物学的多様性は非常に膨大である:これまでに報告されている52,629の異なる種の脊椎動物、463万種の無脊椎動物および265,876種の植物および真菌(レッドリスト中の図による)。
【0008】
DNAは生物学的多様性のモニタリングの手段としてますます認められてきている。例えば、2002年にカナダの森林で発見された毛皮から採取されたDNAは、五大湖の領域に今もなお野生のリンクスが存在するを確認するために使用された。
【0009】
絶滅危惧種のモニタリングおよび調査
現在、絶滅危惧種の公式リスト上には約8,000の動物および植物種があり、この数は年を追って増加している。この傾向は、生物学的試料の分類学的な由来を同定するために、確実に、「広く(universally)」使用できる試験の必要性を指摘するものである。
【0010】
絶滅危惧種から作られる製品の取引は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)により規制されており、この不法取引を監視するためにこの機構の援助の下でDNA試験が現在開発されている。毛皮のようなそれらの同定にDNA試験を必要としない動物由来の未加工品よりもさらに、食品または化粧品のような加工された動物製品または植物製品を検出できることが特に重要である。この例としては、種の生存が危機状態にあることが宣言されているにもかかわらず、広く伝統薬として使用されている粉末化されたトラの牙の使用が挙げられる。DNA試験は、増幅したDNAにおけるシトクロムbの遺伝子配列に基づいてトラ由来物質を同定するために使用されており、外見上は「適法な」鯨肉を含む加工製品中において保護対象群由来の鯨肉を見つけるための同様の試験が開示されている。同様のアプローチが、ヒトが消費するための製品中において、保護対象であるラン、ヘビおよびクロコダイル、および保護対象であるチョウザメ由来のキャビアの由来等に対しても適用されている。絶滅危惧種をモニタリングするためのこのタイプの技術の使用は、近い将来においてさらに普及するものと考えられる。
【0011】
試料の分類学的解析に適用される技術
生物学的試料の動物の由来を決定するために使用される方法は、主として食品産業および食肉製品領域に由来する。タンパク質の電気泳動および/または免疫化学的解析に基づく伝統的な方法から、製品の性質を明確に同定するための食品試料の含有DNAの解析へと技術は進歩している。これらの方法は、特異的プローブの特異的な種へのハイブリダイゼーションおよび/またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる標的配列の選択的増幅を通して核酸を同定する。
【0012】
該増幅は、ミトコンドリアDNAの断片を標的としてきた(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。この方法は、2つのまたは異種の分類学的な由来を有する試料の測定には適していない。前記増幅はまた、核DNAも標的としてきた(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。最も重要なタンパク質としては、II型DNAトポイソメラーゼ(特許文献1)およびα-心臓アクチン(α-cardiac actin)(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)が挙げられる。
【0013】
いくつかの方法は、1つのオリゴヌクレオチドプライマーが包括的なものであり、他方が同定される種に依存するPCRに基づいており、広く消費される食肉の種の同定において使用されることがある(非特許文献12)。その他の方法は、生物学的試料において、ブタ(非特許文献13)、ウシ、ダチョウおよびエミューの種(非特許文献14)に由来するDNAの存在を確認するように設計されているが、その存在が確認できない場合に、この技術では解析した試料の分類学的な同定に関するデータが提供されないので問題が生じる。
【0014】
本発明に最も近い文献は特許文献1であり、これは試料中の1つまたはそれ以上の生物由来のDNA断片を、II型DNAトポイソメラーゼの遺伝子配列を使用することにより、選択的に増幅する方法を開示している。
【0015】
しかし、最近では試料が生物の混合物を含む場合には、これら全ての方法は限定的に使用されている。これらは既知のまたは疑われる生物の存在を確認するのみであり、試料中に存在するそれぞれの生物を同定することができるわけではない。
【0016】
多数のプローブ(multiple probes)を使用する必要がなく、そして存在するかもしれない生物を予め認識する必要がない、単一の試料中における多数の生物を同定する方法を見出すことが切望されている。改良されるべきもう1つの側面は、非常に類似のまたは相互関係にある種を区別する能力である。
【0017】
(定義)
本明細書の目的のために以下の定義が用いられる。
【0018】
偏在タンパク質(Ubiquitous protein):多くのまたは全ての生物に存在する、類似の構造および機能を有するタンパク質。これらの特性を有するタンパク質は、その他の種の等価なタンパク質と同じである。
【0019】
保存されたセグメント(segment):アミノ酸セグメントおよびヌクレオチドセグメントを表すのに使用される。「高い」保存の程度とは、いくつかの種が共通して有するセグメントの割合が高いことを表す。これはコンセンサス配列として表される。
【0020】
相違するセグメント:アミノ酸セグメントおよびヌクレオチドセグメントの両方を表すのに使用する。表されるセグメントは異なる種間において実質的に相違する。本明細書において、「標的」という語句はまたこれらの配列を表すためにも使用される。
【特許文献1】米国特許第5645994号明細書
【非特許文献1】Bartlett et al. BioTechniques 1992 vol.12 pp.408-411
【非特許文献2】Unseld et al. Genome Research 1995 vol.4 pp.241-243
【非特許文献3】Palumbi et al. J. Hered. 1998 vol.89 pp.459-464
【非特許文献4】Wolf et al. J. Agricult and Food Chem. 1999 vol.47 pp.1350-1355
【非特許文献5】Partis et al. Meat Science 2000 vol.54 pp.369-376
【非特許文献6】Janssen et al. J. Ind. Microbiol. and Biotech. 1998 vol.21 pp.115-120
【非特許文献7】Matsunaga et al. Meat Science 1999 vol.51 pp.143-148
【非特許文献8】Wolf and Luethy Meat Science 2001 vol.57 pp.161-168
【非特許文献9】Bartlett et al. Meat Science 1998 vol.50 pp.105-114
【非特許文献10】Fairbrother et al. Animal Biotech. 1998 vol.9 pp.89-100
【非特許文献11】Lockley and Bardsley Meat Science 2002 vol.61 pp.163-168
【非特許文献12】Matsunaga et al. Meat Science 1999 vol.51 pp.143-148
【非特許文献13】Montiel-Sosa et al. J. Agric. Food Chem. 2000 vol.48 pp.2829-2832
【非特許文献14】Colombo et al. Meat Science 2000 vol.56 pp.15-17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明により、上述の制限の多くを克服することができる。これに関連して、本発明により驚くべきことに、細胞質ベータ−アクチンタンパク質をコードする遺伝子およびその生成産物を、単一の種、または種および/または亜種の異種混合物に由来する生物学的材料の試料を用いる分類学的同定に使用することができることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、関連する全ての生物に存在する巨大分子の標的領域をコードする核酸セグメントの選択的増幅の手段により、単一の種、または種および/または亜種の異種混合物に由来する生物学的試料において、種および亜種を同定する方法を提供し、その第一の態様において、本発明の目的は、DNAを試料から抽出する段階;細胞質ベータ−アクチン遺伝子セグメントをPCRまたは同等の技術により増幅する段階;および増幅したセグメントを、予め定めた標準の大きさとその塩基対での大きさで比較する、および/またはDNA塩基配列決定ならびに得られた配列のコンピューターデータベース上に存在する各々の種または亜種の特定配列との比較により増幅セグメントを同定することにより同定する段階を含む方法である。
【0023】
開始DNAを増幅する段階は、PCRの使用に限定されず;現在利用することができる手段を用いる当業者に公知のいずれの同等の技術も使用することができる。同様に、例えばPCRの結果の視覚化はアガロースゲルでの電気泳動の使用に限定されず;キャピラリー電気泳動、自動化された電気泳動、または実験を無事行うのに十分な最低限の分解能を有する同等の技術も使用することができる。
【0024】
好ましくは増幅される領域は、種および亜種間で進化的に高く保存されたDNA配列を有する細胞質ベータ−アクチン遺伝子由来の、相違する遺伝子セグメントである。そしてさらに具体的には、増幅される領域は、イントロン配列全体および外側に位置するエキソン配列の一部分を含む、上流のエキソンの3’配列と下流のエキソンの5’配列との間に位置する領域である。
【0025】
この方法の1つの特定の実施態様において、増幅される領域は、1130〜1473番目、1452〜2063番目、2438〜2680番目および/または2642〜2960番目に位置する領域である(そしてこの番号は、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277(Genebank)のDNA配列に関連して付けられている)。特に、試料は、動物組織、より具体的にはウマ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、チンパンジー、ヒトおよび/またはヒグマの組織からなる。
【0026】
この方法のもう1つの具体的な実施態様において、前記増幅されたセグメント(または複数のセグメント)は同定段階において、ヒト配列M10277と、および/またはコンピューターデータベース上に含まれる種のこれらと同一の遺伝子領域の配列と比較される。増幅セグメントは、各増幅セグメントの末端では保存範囲を示し、そして大部分が遺伝子のイントロン領域に相当する中央領域においては相違を示す。
【0027】
本発明は、単一の試料における多数の生物を、試料中に存在するであろうそれぞれの種および亜種に特異的な多数のプローブを使用することなく同定する手段を提供する。この方法は、存在するかもしれない生物を事前に認識することなく、試料中に存在する種または亜種のいずれも同定するのに有効なユニバーサルプライマーを使用する。本発明においては、ユニバーサルプライマーの組成物が使用され、これは、細胞質ベータ−アクチン遺伝子の保存領域と、好ましくは1130〜1191番目と1453〜1473番目との間; 1453〜1473番目と2041〜2065番目との間; 2433〜2459番目と2643〜2680番目との間、および/または2643〜2680番目と2940〜2960番目との間に位置する配列とハイブリダイズする(そしてこの番号は、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277のDNA配列に関連して付けられている)。使用したユニバーサルプライマーの特定のペアは、P1 (1132-1151)
5'TCCGGCATGTGCAAGGCCGG3'およびP2 (1474-1454)
5'CTCCATGTCGTCCCAGTTGG3';P3 (1453-1484)
5’ACCAACTGGGACGACATGGAGAAGATCTGGC3’およびP4 (2063-2034)
5’TACATGGCNGGGGTGTTAAAGGTCTCAAAC3’、P5 (2434-2463)
5’TGCCCTGAGGCCCTCTTCCAGCCTTCCTTC3’およびP6 (2681-2643)
5’GGGTACATGGTGGTGCCGCCAGACAGCACNGTGTTGGC3’;およびP7 (2643-2681)
5’GCCAACACNGTGCTGTCTGGCGGCACCACCATGTACCC3’およびP8 (2952-2932)
5’TCGTACTCCTGCTTGCTGATCCACATCTG3’である。
【0028】
第二の態様において、本発明のもう1つの目的は、単一の種由来の、または種および/または亜種の異種混合物由来の生物学的試料における細胞質ベータ−アクチン遺伝子のDNA配列を、該試料が属する生物種を同定するために使用することにある。
【0029】
細胞質ベータ−アクチンタンパク質は、正確な同定を達成するための多くの基準を満たす。これは関連の全ての生物における偏在タンパク質である。細胞質ベータ−アクチンは、これまでに同定されたアクチンの6つの異なるアイソフォームのうちの1つである。具体的には、細胞質ベータ−アクチンは2つの非筋肉性細胞骨格アクチンのうちの1つである。その機能は、移動性を持たせること、および細胞に細胞収縮装置の主要な要素である構造および統合性を提供することである。こういった理由により、これは細胞の生存に重要なタンパク質であり、このことはエキソンセグメントが種間において進化的に高い保存性を示すことを意味する。種間でのアミノ酸配列における同一性の程度は98%〜100%であり、これは、高い保存性を有するセグメントであるが、お互いに非常に近縁である種間を正しく区別するために遺伝子の非コード部分においては相違するセグメントが存在するのに十分である。例えば、調査される種のイントロンB(1216〜1347 bp、そしてこの番号は、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277のDNA配列に関連して付けられている)に相当するヌクレオチドの相違は25%以下である。異なる種および亜種の間で高く保存されているセグメントは、全ての種および亜種に共通のプライマーを使用することができるが、相違するセグメントが前記プライマーを用いる増幅の目的であり、それぞれの種および亜種に対して異なる増幅パターンが得られる
未知試料に存在する種を定性的に同定することに加えて、本発明の1つの態様は、存在する種の定量的な解析に関する。この特性は、例えば、その他の種由来の材料による試料への混入のレベルを測定するのに重要である。多くの場合に、定性的な結果で十分であるが(例えば、鶏肉にウシ製品が混ぜられていないか?)、その他の場合には、定量的な反応が必須となる(どれくらいのウシ製品が鶏肉に添加されているか?)。これは一定の添加剤が特定の範囲内で許容される場合に重要である。
【0030】
本明細書および請求項において、「含む(comprise)」という語句およびそのバリエーションは、その他の技術的な特徴、付加、要素または段階を排除することを意図するものではない。本出願の要約は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0031】
本発明のその他の目的、利点および特性は、詳細な説明および本発明が実施例にある場合には実施例から当業者には明らかである。本発明を以下の実施例および図により説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0032】
<図面の簡単な説明>
図1は、ヒト細胞質ベータ−アクチン遺伝子構造の概略図を示す。ボックスはエキソン(エキソン1〜6)を示し、連続的な黒い線はイントロンを示す(I、イントロンA〜E)。領域W、X、YおよびZは、それぞれプライマー対P1およびP2の間、P3およびP4の間、P5およびP6の間、およびP7およびP8の間の領域に相当する。これらの断片(W、X、YおよびZ)は、異なる生物種の間で相違するDNA配列を含み、図2に示すようなプライマーP1〜P8を使用するPCRを用いて増幅することができる。
【0033】
図2は、図1に示されるオリゴヌクレオチドプライマーの詳細を示す。番号は、ヒトベータ−アクチン遺伝子(Genebankのアクセッション番号:M10277;遺伝子座:HUMACCYBB)のゲノム配列上におけるそれらの位置に相当する。A:アデニン、C:シトシン、G:グアニン、T:チミン。N;ヌクレオチドの縮重を有する位置。
【0034】
図3 図の上部は、3つの異なる種、Homo sapiens(ヒト)、Mus musculus(マウス)およびCaenorhabditis elegans(線虫)の細胞質ベータ−アクチンタンパク質の部分的なアミノ酸配列を示す。これらの配列間のアライメントにより、種間における細胞質ベータ−アクチンタンパク質の保存程度の高さが示される。星印は、比較した種の間で100%同等である位置を示す。番号は、GeneBankにおける参照配列(参照配列:Hs: X00351、Mm: NM_007393.1、Ce: NM_073416.1)に従って示される最後のアミノ酸に相当する。図の中間部は、前記の種におけるイントロンB(W領域)の外側に位置するエキソン2およびエキソン3の末端のヌクレオチド配列を示す。該エキソンは、3つの種において比較され対応するコドンに分割されたヌクレオチド配列を示し、そしてそれらがコードするアミノ酸残基を下に示す。星印は、比較した種間で100%保存されているヌクレオチドの位置に相当する。図の下部は、本発明における種の同定に使用される相違について例証するために、比較した3つの種におけるイントロンB(相違するW領域)の完全なヌクレオチド配列を表す。
【0035】
図4は、生物学的に異種のものからなる混合物を用いる本発明において提示される、分類学的同定の過程を例証する概略図を示す。生物学的試料はDNA抽出処理を施され、PCRによる増幅に付される。ここに例証されるような場合には、プライマーP1およびP2を有するW領域が増幅される。PCRの結果は、標準的なアガロースゲル電気泳動(電気泳動ゲル参照、左側レーン:分子量マーカー、100 bpラダー。右側レーン:バンド(生物学的試料のPCRにより得られ、塩基対bpで表されるおよその分子量を有するAおよびB))を用いて確認される。該バンドは、ゲルから単離され、DNA塩基配列決定の実施に先がけて標準的な方法により精製される。各バンドから得られたDNA塩基配列は、各生物種のW領域の配列を含むコンピューターデータベースによる検索に使用される。データベース上に存在する配列を用いて得られる配列の比較により、初めの生物学的試料に含まれる種(または複数の種)の同定結果が得られる。
【0036】
図5は、解析において生物学的試料に含まれる種を同定するコンピューターの過程を例証するフローチャートを示す。図4に示される実験においてW領域の2つの断片から得られるDNA配列は、一定の種におけるW領域のDNA配列のデータベースによる検索に使用される。この場合に示されるデータベースが要約されており、これは例として11個の異なる種を含む。(配列3:Cf、イヌ(Canis familiaris)。配列4:Us、クマ(Ursus species)。配列5:Oa、ヤギ(Oa, Ovis aries)。配列6:Fc、ネコ(Felis catus)。配列7:Hs、ヒト(Homo sapiens)。配列8:Ec、ウマ(Equus caballus)。配列9:Oc、ウサギ(Oryctolagus cuniculus)。配列10:Rn、ラット(Rattus norvegicus)。配列11:Mm、マウス(Mus musculus)。配列12:Dm、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)。配列13:Ce、線虫(Caenorhabditis elegans)。)1:5および2:8の場合のように100%同等であるという比較結果により、データベース上に含まれる配列との同一性が示され、初めの生物学的試料がヤギおよびウマの混合物に由来するということが確認される。
【0037】
図6は、データベース上に含まれるいくつかの生物種のW領域の分子量におけるおよびヌクレオチド配列における相違を示す。Us、クマ(Ursus species)。Oa、ヤギ(Oa, Ovis aries)。Cf、イヌ(Canis familiaris)。Hs、ヒト(Homo sapiens)。Ec、ウマ(Equus caballus)。Oc、ウサギ(Oryctolagus cuniculus)。Rn、ラット(Rattus norvegicus)。Mm、マウス(Mus musculus)。
【0038】
図7は、8つの異なる動物種由来の末梢血の、プライマーP1とP2との間にあるW領域のPCRによる、10個のそれぞれの増幅産物に相当するアガロースゲル電気泳動の実施例を示す。それぞれのすぐそばにある数字は、各増幅においてW領域に対して得られた概算の分子量を表し、塩基対(bp)で表される。含まれる動物種間において、この領域の分子量の相違が観察される。Oc:ウサギ(Oryctolagus cuniculus)。Cf:イヌ(Canis familiaris)。Fc:ネコ(Felis catus)。Us:クマ(Ursus species)。Ec:ウマ(Equus caballus)。Pt:チンパンジー(Pan troglodytes)。Oa:ヤギ(Ovis aries)。Hs:ヒト(Homo sapiens)。ゲルの左側のレーンは100 bpラダー分子量標準(Invitrogen社)である。この標準において、最も下のバンドが100 bpに相当し、各バンドは上に行くに従って直下のバンドよりも100 bpだけ大きくなる。
【実施例】
【0039】
均一の/異種の生物学的試料を用いた種の同定
未知の組成の生物学的に異種なものからなる試料の分類学的同定のために開発された工程を、以下に記載する。通常、それ自体における多数で様々な種および/または亜種の存在、または分類学的性質に関しては全くわからないと推定されるので、方法は均一な試料に対してと同一である。
【0040】
試料の処理
200μlのEDTAにおける静脈全血試料から、迅速なDNAの抽出、それに続くPCRによる増幅のための市販のキットに適合するゲノムDNAを抽出した。
【0041】
その後、得られたゲノムDNAをPCRにより増幅した。W領域(図1)を、ヒトの配列M10277における1132〜1151番目(P1、フォワードプライマー、 5’TCCGGCATGTGCAAGGCCGG3’)および1474〜1454番目(P2、リバースプライマー、5’CTCCATGTCGTCCCAGTTGG3’)のヌクレオチド位置に対して設計されたプライマーで増幅した。PCRの条件は以下:標準的な試薬、94℃で3分間の初期変性段階、それに続くそれぞれ94℃で10秒間および68℃で2分間の2つの段階を35サイクル、のとおりであった。
【0042】
第一の推定:分子量による同定
PCRの結果を、TBE緩衝液における標準的な水平型の3%アガロースゲル電気泳動により確認した。得られたバンドをInvitrogen社の100 bpラダーマーカー分子量標準と比較した。図4に得られた結果を示す。分子量マーカーを用いたゲルにおける、増幅された断片の移動度の比較により、およそ371および304塩基対の分子量が示される。得られたバンドの分子量を分子サイズのデータベースと比較して推測が得られた場合に、開始試料に存在する種の同定に関して第一の推定を行うことができる。図7は、8つの異なる動物種由来の末梢血の、プライマーP1とP2との間にあるW領域のPCRによる、10個のそれぞれの増幅産物のプールを示す。含まれている動物種の間で、この領域の分子量における差異を観察することができる。Oc:ウサギ(Oryctolagus cuniculus)。Cf:イヌ(Canis familiaris)。Fc:ネコ(Felis catus)。Us:クマ(Ursus species)。Ec:ウマ(Equus caballus)。Pt:チンパンジー(Pan troglodytes)。Oa:ヤギ(Ovis aries)。Hs:ヒト(Homo sapiens)。ゲルの左側のレーンは100 bpラダー分子量標準(Invitrogen社)である。この分子量のデータベースとの比較による第一の推定では、図4において得られるバンドは、ヤギ(371 bpのバンド)およびウマ(304 bpのバンド)に相当する。
【0043】
第二の推定:DNA塩基配列決定による同定
続いて第二の推定では、得られた2つのバンドをそれらのDNAの塩基配列を決定することにより同定する。該バンドは、引き続きそのDNAの塩基配列決定ができるようにLife Technologies社のConcert Rapid PCR Purification Systemキットを用いて精製した。塩基配列決定は、Applied Biosystems社のABI-Prism 310自動塩基配列決定システムのプロトコールおよび試薬に従って、最初のPCRにおいて使用したものと同一のプライマーを用いて両方向に対して繰り返し実施した。得られた2つの配列を、EMBLの欧州バイオインフォマティックス研究所(www.ebi.ac.uk)により開発されたClustalWプログラムまたはインターネット上で利用できる同等のプログラムを用いる、いくつかの種の細胞質ベータ−アクチン遺伝子のW領域のDNA塩基配列のデータベースにおける検索のために使用した(図5)。比較の結果、この場合には1:5および2:8が100%同等であり、ヤギおよびウマの混合物である初めの生物学的試料の由来が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、ヒト細胞質ベータ−アクチン遺伝子構造の概略図を示す。
【図2】図2は、図1に示されるオリゴヌクレオチドプライマーの詳細を示す。
【図3】図3は、3つの異なる種、Homo sapiens(ヒト)、Mus musculus(マウス)およびCaenorhabditis elegans(線虫)の細胞質ベータ−アクチンタンパク質の部分的なアミノ酸配列、前記の種におけるイントロンB(W領域)の外側に位置するエキソン2およびエキソン3の末端のヌクレオチド配列、および比較した3つの種におけるイントロンB(相違するW領域)の完全なヌクレオチド配列を示す。
【図4】図4は、生物学的に異種のものからなる混合物を用いる本発明において提示される、分類学的同定の過程を例証する概略図を示す。
【図5】図5は、解析において生物学的試料に含まれる種を同定するコンピューターの過程を例証するフローチャートを示す。
【図6】図6は、データベース上に含まれるいくつかの生物種のW領域の分子量におけるおよびヌクレオチド配列における相違を示す。
【図7】図7は、8つの異なる動物種由来の末梢血の、プライマーP1とP2との間にあるW領域のPCRによる、10個のそれぞれの増幅産物に相当するアガロースゲル電気泳動の実施例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)試料からのDNAの抽出;(B)細胞質ベータ−アクチン遺伝子セグメントのPCRまたは同等の技術による増幅;(C)予め定めた標準の大きさとの塩基対の大きさでの比較による増幅したセグメントの同定、および/またはDNA塩基配列決定ならびに得られた配列のコンピューターデータベース上に存在するそれぞれの種または亜種の特定配列との比較による増幅セグメントの同定、
を含むことを特徴とする、単一の種、または種および/または亜種の異種混合物に由来する生物学的材料の試料を用いる生物種の同定方法。
【請求項2】
PCRまたは同等の技術を用いる増幅段階において、細胞質ベータ−アクチン遺伝子セグメントのいずれも増幅されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
PCRまたは同等の技術を用いる増幅段階において、細胞質ベータ−アクチン遺伝子の相違する領域の遺伝子セグメントが、種および亜種の間で進化的に高い保存性を有するDNA配列を用いて増幅されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
PCRまたは同等の技術を用いる増幅段階において、増幅されるセグメントが、イントロン配列全体および外側に位置するエキソン配列の一部分を含む、上流のエキソンの3’配列と下流のエキソンの5’配列との間に位置するセグメントであることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項5】
増幅される領域が、1130〜1473番目、1452〜2063番目、2438〜2680番目および2642〜2960番目に位置する領域からなる群から選択され、そしてこの番号が、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277のDNA配列に関連して付けられていることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項6】
細胞質ベータ−アクチン遺伝子の最も高く保存されているヌクレオチド領域とハイブリダイズするユニバーサルプライマーの組成物を使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
ユニバーサルプライマーが1130〜1191番目および1453〜1473番目の間に位置する配列とハイブリダイズし、そしてこの番号が、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277のDNA配列に関連して付けられていることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ユニバーサルプライマーが1453〜1473番目および2041〜2065番目の間に位置する配列とハイブリダイズし、そしてこの番号が、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277のDNA配列に関連して付けられていることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項9】
ユニバーサルプライマーが2433〜2459番目および2643〜2680番目の間に位置する配列とハイブリダイズし、そしてこの番号が、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277のDNA配列に関連して付けられていることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項10】
ユニバーサルプライマーが2643〜2680番目および2940〜2960番目の間に位置する配列とハイブリダイズし、そしてこの番号が、ヒト遺伝子座HUMACCYBBのアクセッション番号M10277のDNA配列に関連して付けられていることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項11】
ユニバーサルプライマーが、以下:P1 (1132-1151)
5’TCCGGCATGTGCAAGGCCGG3’、P2 (1474-1454)
5’CTCCATGTCGTCCCAGTTGG3’、P3 (1453-1484)
5’ACCAACTGGGACGACATGGAGAAGATCTGGC3’、P4 (2063-2034)
5’TACATGGCNGGGGTGTTAAAGGTCTCAAAC3’、P5 (2434-2463)
5’TGCCCTGAGGCCCTCTTCCAGCCTTCCTTC3’、P6 (2681-2643)
5’GGGTACATGGTGGTGCCGCCAGACAGCACNGTGTTGGC3’、P7 (2643-2681)
5’GCCAACACNGTGCTGTCTGGCGGCACCACCATGTACCC3’およびP8 (2952-2932)
5’TCGTACTCCTGCTTGCTGATCCACATCTG3’、
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項12】
試料が生物学的な起源であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
試料がウマ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、チンパンジー、ヒトおよび/またはヒグマの組織から採取されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
同定段階において、増幅されたセグメント(または複数のセグメント)が、コンピューターデータベース上に含まれる種におけるこれらと同一の遺伝子領域の配列と比較されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
試料が属する生物種を同定するために、単一の種、または種および/または亜種の異種混合物に由来する生物学的試料における細胞質ベータ−アクチン遺伝子のDNA配列を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−514401(P2007−514401A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509818(P2005−509818)
【出願日】平成15年10月27日(2003.10.27)
【国際出願番号】PCT/ES2003/000547
【国際公開番号】WO2005/040423
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(506143942)ラボラトリオス・ドクトル・エフェ・エチェバルネ・アナリシス・ソシエダッド・アノニマ (1)
【Fターム(参考)】