説明

生物脱臭プラントの前処理ユニット

【課題】硫化水素のような硫黄化合物とエタノールのような有機物とを臭気成分として含む臭気ガスが生物脱臭塔の前段に設けられた前処理装置の充填層を閉塞させることを防止する。
【解決手段】生物脱臭塔60の前に設けられる前処理ユニット10の気液接触塔11内に散水手段21を設ける。散水手段21からは、気液接触塔11内部の吸収室12に設けられた充填層13に対して、酸性の液体が散水される。ガス導入管32から気液接触塔11内に導入され、硫化水素のような硫黄化合物とエタノールのような有機物とを臭気成分として含む臭気ガスは、吸収室12を上昇する過程で酸性液と接触する。酸性液は、臭気ガス中の臭気成分を吸収するが、酸性を示すため、充填層13での活性汚泥の増殖が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素のような硫黄化合物とアルコール、有機酸、アルデヒドのような有機物とを含む臭気ガスの脱臭設備に関する。特に、本発明は臭気ガスを生物脱臭する生物脱臭搭の前に設けられる前処理ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
臭気ガスの処理技術として、吸着法、薬液洗浄法および生物脱臭法等が知られている。生物脱臭法による脱臭設備としては、臭気成分を分解する微生物が内部に保持された生物脱臭搭を備える設備がある。生物脱臭搭内には微生物を保持する充填材が充填され、臭気ガスは通常、塔下部から塔内に導入される。塔内に導入された臭気ガスは塔内を上昇し、塔内に形成された充填層を通過することで、充填材に保持された微生物の働きにより臭気ガスに含まれる臭気成分が分解され、臭気成分が除去された処理ガスが塔上部から取出される。
【0003】
臭気ガスに含まれる臭気成分としては、硫黄化合物、窒素化合物、および有機物等がある。具体的には、硫黄化合物としては硫化水素、メチルメルカプタン、および硫化メチル等が挙げられ、窒素化合物にはアンモニア、有機物にはメタノール、エタノール、アセトアルデヒド、および酢酸等の脂肪族酸素化合物等がある。
【0004】
上記臭気成分は、その種類に応じて異なった微生物により分解される。例えば、硫黄化合物は硫黄酸化菌や硫化水素酸化菌等により分解され、窒素化合物はアンモニア酸化菌や亜硝酸酸化菌等により分解される。一方、有機物は「活性汚泥」と総称される微生物群により分解される。活性汚泥は、有機性排水を生物処理する際に利用され、硫黄化合物や窒素化合物を分解する微生物に比べて増殖速度が大きい。このため、有機物を含む臭気ガスを生物脱臭搭に導入すると、塔内で活性汚泥が増殖して充填層が閉塞する。
【0005】
生物脱臭塔内の充填層が閉塞すると、圧力損失が上昇して塔内を移動するガスの移動が妨げられ、安定した処理が行なえなくなる。かかる問題を解決するため、生物脱臭搭の前に前処理ユニットを設けて、有機系の臭気成分を除去した臭気ガスを生物脱臭搭へ導入する処理法が採用されている。前処理ユニットとしては、生物脱臭搭と同様に密閉可能な塔の内部に充填材を入れて充填層を形成するとともに、充填層の上部から散水する散水手段を設けた気液接触塔を有するものが一般に使用されている。
【0006】
気液接触塔には、充填層が充填され散水が行われることから、生物脱臭搭と同様に活性汚泥の増殖による充填層の閉塞が生じる。この問題の解決を図る技術として、特許文献1に開示された前処理ユニットがある。特許文献1に開示された前処理ユニットでは、気液接触塔に臭気ガスを導入する導入管の内部に散水手段を設けた上、気液接触塔内の充填材を高圧水で洗浄する洗浄装置を設けている
【特許文献1】特開平10−33934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された前処理ユニットでは、気液接触塔内のみならず導入管でも散水を行うため、使用水量が多くなる。また、導入管への散水により除去される有機物の量は多くはないので、気液接触塔に導入されるガスには依然として有機物が多く含まれる。このため、気液接触塔ではガス中の有機物を基質として活性汚泥が増殖する。そこで、特許文献1の前処理ユニットでは、充填層を洗浄するために高圧水を供給する洗浄装置を気液接触塔内部に設けている。
【0008】
しかし、導入管内に散水手段を設けること、および気液接触塔内に洗浄装置を設けることは、装置構成を複雑化させる。さらに、充填層の内部まで洗浄できるようにするためには充填層の目を粗くする必要があり、充填層の厚みも薄くせざるを得ない。充填層の目を粗くすること、または充填層の厚みを薄くすることは、ガスが充填材と接触する面積を減少させ、ガスが充填層を通過することによる臭気成分の除去効果を低下させる。さらに、高圧水を充填層に供給するためには高圧ポンプを使用する必要があるため、高圧ポンプを動かす動力費を要する。
【0009】
このように特許文献1に記載の技術では、臭気ガスに有機物が含まれることによる気液接触塔の充填層の閉塞を十分に防止できない。さらに、特許文献1に記載の技術には、装置の複雑化、動力費の増大、および臭気成分除去効果の低下といった問題もある。かかる従来技術に対し、本発明は気液接触塔の充填層での活性汚泥の増殖を有効に抑制して、上記問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、充填層が形成された気液接触塔の内部に、酸性の液体を散水して充填層を活性汚泥の増殖に適さない環境とすることで、活性汚泥の増殖を抑制し、上記課題を解決する。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0011】
(1)硫黄酸化菌が保持された生物脱臭搭の前段に配置される前処理ユニットであって、硫黄化合物と有機物とを含む臭気ガスが導入される吸収室を有する気液接触塔と、前記吸収室内に酸性液を散水する散水手段と、を含む生物脱臭プラントの前処理ユニット。
(2)前記酸性液を保持する酸液槽と、前記気液接触塔と前記酸液槽とに接続された返送液路、および前記酸液槽と前記散水手段とに接続された酸液供給路を有し、前記吸収室に散水された前記酸性液を前記気液接触塔から取出し前記散水手段に循環させる循環手段と、前記生物脱臭搭から排出された硫酸を含むドレインを前記酸液槽に送るドレイン供給路と、をさらに含む(1)に記載の生物脱臭プラントの前処理ユニット。
(3)前記酸液槽と前記気液接触塔とに接続された洗浄液路、該洗浄液路を介して前記気液接触塔に前記酸液槽内の液を供給する送液手段、および前記気液接触塔内を曝気する曝気手段を有する洗浄装置と、前記臭気ガスが導入され前記気液接触塔に接続されたガス導入管、前記ガス導入管から分岐して前記生物脱臭搭に接続されたバイパス管、および前記臭気ガスが該ガス導入管または該バイパス管のどちらか一方を流れるようにするガス流路切り替え手段と、をさらに含む(2)に記載の生物脱臭プラントの前処理ユニット。
(4)前記酸性液を保持する酸液槽と、前記気液接触塔と前記酸液槽とに接続された返送液路、および前記酸液槽と前記散水手段とに接続された酸液供給路を有し、前記吸収室に散水された前記酸性液を前記気液接触塔から取出し前記散水手段に循環させる循環手段と、前記吸収室に散水された前記酸性液を排出することで前記酸性液の有機物濃度が20,000mg/L以下に維持するドレイン管をさらに有する(1)から(3)のいずれかに記載の生物脱臭プラントの前処理ユニット。
(5)硫黄化合物と有機物とを含む臭気ガスの生物脱臭方法であって、前記臭気ガスを気液接触塔に導入して酸性液を散水して前記有機物を該酸性液に吸収させた後、硫黄酸化菌が保持された生物脱臭搭に導入する臭気ガスの生物脱臭方法。
【0012】
本発明に係る前処理ユニットは、硫化水素を主体とする臭気成分を除去する生物脱臭塔の前に設けられる。前処理ユニットに導入される臭気ガスは、少なくとも硫化水素を含む硫黄化合物と、「活性汚泥」と総称される好気性の微生物群により分解される有機物とを含み、これら以外にアンモニア等の窒素化合物等を含んでもよい。本発明により好適に処理される臭気ガスは、臭気成分として硫黄化合物を5〜2,000容積ppm程度、有機物を10〜500容積ppm程度含むガスである。具体的には、有機性汚泥や産業廃棄物から発生するガス、あるいはこれらをメタン発酵する際に発生するガスが挙げられる。
【0013】
本明細書では「有機物」とは、廃棄物が発生する際、またはその処理に際して発生する悪臭に含まれる臭気成分を意味することとする。特に、脂肪族酸素化合物は活性汚泥に資化されやすく、有機物として脂肪族酸素化合物を10容積ppm以上含む臭気ガスは、本発明の好適な処理対象である。脂肪族酸素化合物としては、エタノールおよびメタノール等のアルコール類、アルデヒド類、並びに酢酸およびプロピオン酸等の有機酸類等が挙げられる。
【0014】
前処理ユニットは、少なくとも硫黄酸化菌を保持する生物脱臭塔と接続し、前処理ユニットから取出されたガス(前処理ガス)は生物脱臭塔に導入するように構成する。生物脱臭塔内でも散水が行われ、散水された液体に硫黄化合物が吸収されるとともに生物脱臭塔内に保持された硫黄酸化菌を含む微生物群により酸化される。
【0015】
特に、生物脱臭塔に導入されるガスに1.0容積ppm以上の硫化水素が含まれる場合、硫黄酸化菌による硫化水素の酸化により硫酸イオンが生成される。このため、生物脱臭塔内に散水され生物脱臭塔から排出される排水(ドレイン)は、100〜10,000mg/L程度の硫酸を含み、pHが1〜3程度となる。このような場合は、(2)に記載するように、硫酸を含むドレインを前処理ユニットの気液接触塔内に散水する酸性水の調製に用いるとよい。
【0016】
本発明では、気液接触塔内を活性汚泥の増殖に適さない環境とすることで、活性汚泥の増殖を抑制する。しかし、気液接触塔内での微生物(活性汚泥)の増殖速度は、生物脱臭塔内での微生物(硫黄酸化菌等)の増殖速度に比べて早い。そこで、(3)記載のように気液接触塔内の充填層を洗浄可能なように構成するとともに、気液接触塔の洗浄中に臭気ガスを直接、生物脱臭塔に導入できるように構成するとよい。これにより、気液接触塔の充填層の閉塞および気液接触塔の洗浄に伴う生物脱臭プラント全体の停止を回避できる。
【0017】
酸循環手段を用いて気液接触塔と酸液槽との間で酸性液を循環させれば、酸性液の調製に要する補給用水および酸の使用量を減らすことができる。ただし、酸性液は気液接触塔内で有機物を含む臭気ガスを吸収して有機物を含むようになるため、(4)記載のように適宜、気液接触塔から排出される有機物を含む酸性液を排出するドレイン管を設けるとよい。ドレイン管の接続位置は限定されず、気液接触塔に接続してもよく、循環手段を構成する部材(例えば返送液路や酸液槽)に接続してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、有機物を含む臭気ガスが導入される前処理ユニットの内部に酸性の液体を散水することで、活性汚泥の活性を弱めてその増殖を抑制する。このため、本発明によれば前処理ユニットに設ける散水手段を増やすことなく活性汚泥の増殖を効果的に抑制し、充填層の閉塞を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明について詳細に説明する。以下、同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。図1は、本発明の第1実施態様に係る生物脱臭プラント1の模式図である。生物脱臭プラント1は、生物脱臭搭60と、この生物脱臭搭60の前段に設けられた前処理ユニット10Aとを含む。
【0020】
前処理ユニット10Aは、内部空間が形成され密閉可能な塔で構成された気液接触塔11を中心に構成され、散水手段21、酸液槽22、および酸液を気液接触塔11と酸液槽22との間で循環させる循環手段40を含む。図1では、気液接触塔11と生物脱臭搭60は内部構成を示すために垂直方向での断面模式図で表している。
【0021】
気液接触塔11の内部は、充填材13Sが充填されてなる充填層13が形成された空間となっている。気液接触塔11の下部にはガス導入管32の出口端が接続され、上部にはガス送り管33の入口端が接続されている。気液接触塔11内のガス導入管32からガス送り管33までの空間は吸収室12を構成する。臭気ガスは、ガス導入管32の入口端から管内に導入され気液接触塔11に入り、吸収室12を上昇してガス送り管33から取出される。
【0022】
散水手段21は、吸収室12内の上方、具体的には充填層13の上端より上に配置されている。散水手段21はスプレーノズルで構成され、散水用の液体を供給する酸液供給路42の出口端と接続されている。なお、散水手段21はスプレーノズルに限定されず、散水板、またはシャワーノズル等であってもよい。
【0023】
酸供給路42の入口端は、酸液槽22に接続されている。酸液槽22には、酸を供給する酸補給路43および補給水路44のそれぞれ出口端も接続されている。酸補給路43からは酸が供給され、補給水路44から供給される水と混合され、酸性液が調製される。酸性液は、pH4以下であることが好ましく、特にpH2以上3以下程度であることが好ましい。
【0024】
酸性液を調製するために用いる酸の種類は特に限定されないが、活性汚泥に資化される有機酸は活性汚泥を増殖させるため、鉱酸を使用することが好ましい。具体的には、塩酸、硫酸、およびクエン酸等を使用するとよい。また、補給水路44から供給する水としては、有機物濃度が少ない(例えば水道水程度以下)水を用いることが好ましいが、後述するドレインを再生して酸液槽22補給水とすることは除外されない。ただし、酸性液に活性汚泥が含まれることは好ましくない。そこで、ドレインを曝気槽で活性汚泥処理して再生して補給水とする場合は、曝気槽から流出し活性汚泥を含む水を固液分離して活性汚泥を分離した処理水を用いるとよい。
【0025】
酸性液は、散水手段21から充填層13上端に散水される。酸性液は、充填層13を下降しながら充填層13を上昇する臭気ガスと向流接触することで臭気成分を吸収して気液接触塔11下部に溜まる。充填層13を通過する過程で、酸性液は、エタノール、メタノール、および有機酸等の有機物を吸収する。酸性液中では、至適pHが6〜7程度の活性汚泥の活性が阻害される。このため、散水手段21から酸性液を散水することにより、気液接触塔11の充填層13において活性汚泥の増殖を抑制できる。
【0026】
気液接触塔11には、ガス導入管32が接続された位置より低い位置に返送液路41の入口端および前段ドレイン管47が接続されている。臭気成分を吸収して気液接触塔11下部に溜まった酸性液(以下、吸収酸液)は、返送液路41から取出される。返送液路41の出口端は酸液槽22に接続されており、吸収酸液は返送液路41を介して気液接触塔11から取出されて酸液槽22に返送される。酸性液の有機物濃度が高いと活性汚泥の増殖抑制効果が低下するため、酸性液の有機物濃度が1,000〜20,000mg/L程度以内となるよう、吸収酸液は適宜、前段ドレイン管47から排出する。
【0027】
酸液槽22には必要に応じて補給水路44から補給水を供給し、上述したpH4以下、好ましくはpH2〜3となるように酸補給路43から酸を添加する。酸液供給路42の途中には循環用の循環ポンプPが設けられている。これにより、返送液路41、酸液供給路42、および循環ポンプPを含む循環手段40が構成され、酸性液が気液接触塔11から抜き出された後、再調製されて散水手段21に供給される循環が行われる。
【0028】
気液接触塔11に導入された臭気ガスは、充填層13を通過することで有機物の大部分(例えば70〜99%程度)が酸性液に吸収され、硫黄化合物の一部(例えば50〜90%程度)も吸収される。よって、気液接触塔11から取出される臭気ガス(以下、前処理ガス)に含まれる臭気成分は硫黄化合物が主体となる。前処理ガスは、気液接触塔11上部に接続されたガス送り管33から取出す。ガス送り管33の出口端は生物脱臭搭60の下部に接続されている。
【0029】
生物脱臭搭60は気液接触塔11と同様の構成で、充填材13Sが充填された充填層63が形成された反応室62を内部に有する密閉可能な塔である。生物脱臭搭60に導入される前処理ガスには、活性汚泥を増殖させる成分、すなわち有機物が少ない(例えば10容積ppm以下)。このため、充填層63には硫黄酸化菌等の硫黄化合物を分解する微生物が保持される。具体的には、充填層63は例えば、下部に硫化水素を酸化して硫酸を生成する微生物、上部にメチルメルカプタンを分解する微生物、上部と下部の間には硫化メチルや二硫化メチルを分解する微生物を保持するような構成となる。
【0030】
生物脱臭搭60内には、充填層63の上端より上に散水手段64が設けられている。散水手段64は、補給水路44と接続され、散水手段64から供給される水が充填層63上端に散水される。散水された水は充填層63を下降して充填層63を上昇する前処理ガスと接触する。充填層63には硫黄化合物を分解する微生物が保持されており、水に吸収された硫黄化合物は微生物に分解される。これにより、前処理ガスからは硫黄化合物が除去されるとともに、前処理ガスに含まれる他の臭気成分、例えば前処理ユニット10Aで除去されなかった有機物や窒素化合物等も除去される。よって、生物脱臭搭60上部に取り付けられた処理ガス管34からは、臭気成分が除去された処理ガスが取出される。
【0031】
気液接触塔11と生物脱臭搭60とに充填する充填材13Sとしては、同じ物を用いてもよいが、別の物を用いてもよい。別の物を用いる場合は、気液接触塔11に充填する充填材としては微生物を保持しがたい物(例えば、疎水性のプラスチック製円筒)を用いる一方、生物脱臭搭60に充填する充填材としては微生物の保持能力に優れた物(例えばピート、合成繊維成形物)を用いるとよい。特に、耐圧密性の観点からは合成繊維成形物を好適に使用できる。充填材は、吸収室(反応室)の50〜100%の高さとなるように充填されるが、図では充填層13、63に充填されている充填材13Sは一部しか図示していない。
【0032】
充填層63を下降して生物脱臭搭60下部に溜まった水(ドレイン)には、前処理ガスとの接触で吸収された臭気成分のうち、微生物分解されなかった成分や微生物分解の過程で生じた分解副生物等が含まれる。生物脱臭搭60には、ガス送り管33が接続された位置より低い位置に後段ドレイン管48が接続され、ドレインを排出する。後段ドレイン管48から取出されたドレインは、前段ドレイン管47から適宜排出される吸収酸液とともに活性汚泥が保持された曝気槽(図示せず)等に導いて処理する。
【0033】
生物脱臭搭60には、ドレインを散水手段64に循環させる循環手段を設けてもよい。また、前処理ガスに1容積ppm程度以上の硫化水素が含まれる場合は、ドレインは分解副生物としての硫酸を100〜10,000mg/L程度以上含み、pH1〜3程度を示す。このため、ドレインを前処理ユニット10Aに送り、酸性液として利用することもできる。
【0034】
図2は、本発明の第2実施態様に係る生物脱臭プラント2の模式図である。生物脱臭プラント2は、後段ドレイン管48から分岐したドレイン供給管(ドレイン供給路)45が酸液槽22に接続されている点で第1実施態様の第1実施態様に係る生物脱臭プラント1と異なる。生物脱臭プラント2では、1〜100容積ppm程度の硫化水素を含む前処理ガスを生物脱臭搭60に導入することで、硫酸を含みpH1〜3程度のドレインを得、このドレインを酸液槽22に供給する。
【0035】
酸液槽22では酸性液を調製するが、硫酸を含むドレインを酸性液調製に使用するため、酸液槽22に供給する水および酸の使用量を減らすことができる。したがって、前段ドレイン管47および後段ドレイン管48から取出して処理する排水発生量も減らすことができる。
【0036】
ドレインには生物脱臭搭60の充填層63に保持されていた硫黄酸化菌が含まれ、気液接触塔11内に散水するドレイン含有酸性液(生物脱臭搭60からのドレインを含む酸性液)は硫黄酸化菌を含む。このため、ドレイン含有酸性液の散水に伴い気液接触塔11内に供給された硫黄酸化菌により、気液接触塔11内でも硫黄化合物の分解が進む。よって前処理ユニット10Bから取出される前処理ガスの硫黄化合物含有量をより低下させ、生物脱臭搭60の負荷を低くして、生物脱臭搭60を小型化することができる。
【0037】
図3は、本発明の第3実施態様に係る生物脱臭プラント3の模式図である。生物脱臭プラント3では、前処理ユニット10Cに洗浄装置24とガス流路切り替え手段を設けている点で図2の生物脱臭プラント2と異なる。洗浄装置24は、酸液槽22と気液接触塔とに接続された洗浄液路24、送液手段としての洗浄用ポンプP、および曝気手段26で構成されている。洗浄液路24は、気液接触塔11の下部、具体的にはガス導入管32の接続位置より下に接続され、洗浄液路24の途中に洗浄用ポンプPが設けられている。洗浄用の液体は、洗浄用ポンプPの働きにより酸液槽22から取出されて気液接触塔11下部に供給される。
【0038】
気液接触塔11の下部には、散気ノズル27が設けられている。散気ノズル27は、ブロアBと接続されている。第3実施態様の生物脱臭プラント3においては、前処理ユニット10Cの充填層13が閉塞して圧力損失が上昇した場合、酸液槽22内の液を洗浄用液として気液接触塔11に供給し、充填層13を浸漬させる。充填層13を液に浸漬させた後、ブロアBから送風を行なうことにより、散気ノズル27から気泡が発生し、充填層13を曝気洗浄する。なお、充填層13の浸漬は、充填層13の曝気洗浄効果を高めるために行なうものであり、補給水44を供給して浸漬させてもよい。
【0039】
生物脱臭プラント3では充填層13を液に浸漬させて曝気するため、充填層13を液に浸漬させない場合に比して、充填層13に付着した汚泥の剥離が容易である。このため、洗浄用液を高圧で充填層13に吹き付ける必要がなく、必ずしも洗浄用液を加圧送液する高圧ポンプを設ける必要はない。
【0040】
また、生物脱臭プラント3ではガス導入管32からバイパス管35が分岐している。バイパス管35はガス送り管33と接続されている。ガス導入管32の途中であってバイパス管35の分岐位置より出口側には第1弁Vが設けられ、バイパス管35の途中には第2弁Vが設けられている。第1弁Vおよび第2弁Vは開閉可能であり、第1弁Vを閉じて第2弁Vを開くことにより、ガス導入管32に導入された臭気ガスは気液接触塔11を通ることなく、バイパス管35を介して生物脱臭搭60に導入される。
【0041】
これにより、生物脱臭プラント3では気液接触塔11内を洗浄している間、バイパス管35を介して臭気ガスを生物脱臭搭60に直接導入できるため、気液接触塔11を洗浄している間も臭気ガスの処理を継続できる。気液接触塔11の洗浄中に開放した第2弁Vは、洗浄終了後に閉じて第1弁Vを開くことにより、通常の処理を再開する。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
実施例1では、図1の生物処理設備1を模した実験装置を用いて汚泥貯留槽から発生した臭気ガスを処理した。臭気ガスは、有機物としてエタノールを含み、硫黄化合物としては、硫化水素、硫化メチル、メチルメルカプタン等を含み、その他にアンモニアを含んでいた。装置仕様および臭気ガス成分は以下の通りであった。
〈気液接触塔〉
塔容積 :10L
塔の垂直方向高さ :2.0m
吸収室の垂直方向高さ :1.5m
充填層の垂直方向高さ :1.0m
充填材 :東洋ゴム工業株式会社製、35mmの筒型と鞍型との合成形状
〈生物脱臭塔〉
塔容積 :10L
塔の垂直方向高さ :2.0m
吸収室の垂直方向高さ :1.5m
充填層の垂直方向高さ :1.0m
充填材 :栗田工業株式会社製、100mm×100mm×1000mmの繊維成形物
〈臭気ガス成分〉
エタノール濃度 :140容積ppm
その他の有機物濃度 :5容積ppm
硫化水素濃度 :200容積ppm
硫化メチル濃度 :0.2容積ppm
メチルメルカプタン濃度 :1.5容積ppm
その他の硫黄化合物濃度 :2.0容積ppm
アンモニア濃度 :0.5容積ppm
【0043】
気液接触塔には、上記臭気ガスを通気量20L/hr、空間速度(SV)150hr−1で通気した。散水手段からは酸性液を散水した。酸性液は、循環水量75Lで循環利用し、補給水として水道水(pH6.8)、酸として塩酸(70%)を適宜、酸液槽に添加してpH2.0〜3.0、全有機物濃度1,000mg/Lとなるように調製した。
【0044】
気液接触塔から取りだされた前処理ガスは、有機物全体の濃度4容積ppm、硫黄化合物全体の濃度82.5容積ppmであった。前処理ガスは、生物脱臭塔に導入して、通気量20L/hr、空間速度(SV)300hr−1、線速度(LV)90m/minの条件で通気した。生物脱臭塔では、補給水供給路から分取した水道水を散水手段から散水した。
【0045】
実施例1で生物脱臭塔から取出された処理ガスは、有機物全体の濃度0.1容積ppm、硫黄化合物全体の濃度0.13容積ppmであった。結果を表1に示す。なお、表の値はいずれも試験期間中の平均値であり、記号「ND」は検出限界以下であったことを意味する。
【0046】
【表1】

【0047】
また、表2に40日間の試験期間中の気液接触塔および生物脱臭塔それぞれにおける圧力損失を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表1および表2に示すように、試験開始から40日間は、気液接触塔および生物脱臭塔における圧力損失は生じず、臭気ガス中の臭気成分も良好に除去できた。
【0050】
[実施例2]
実施例2では、図2の生物処理設備2を模した実験装置を用い、生物脱臭塔を小型化した以外は実施例1と同じ条件で実施例1の臭気ガスを処理した。生物脱臭塔の仕様を以下に示す。
〈生物脱臭塔〉
塔容積 :5L
塔の垂直方向高さ :2.0m
吸収室の垂直方向高さ :1.5m
充填層の垂直方向高さ :0.5m
充填材 :栗田工業株式会社製、100mm×100mm×500mmの繊維成形物
【0051】
実施例2において気液接触塔から取りだされた前処理ガスは、有機物全体の濃度3.5容積ppm、硫黄化合物全体の濃度約50容積ppmであった。また、生物脱臭塔から取出された処理ガスは、有機物全体の濃度0.1容積ppm、硫黄化合物全体の濃度0.14容積ppmであった。結果を表3に示す。また、表4に60日間の試験期間中の気液接触塔および生物脱臭塔それぞれにおける圧力損失を示す。
【0052】
表3および表4に示すように、試験開始から60日間は、気液接触塔および生物脱臭塔における圧力損失は生じず、臭気ガス中の臭気成分も良好に除去できた。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
表3および表4に示すように、実施例2では、実施例1と同様に試験開始から60日間、気液接触塔および生物脱臭塔における圧力損失は生じず、臭気ガス中の臭気成分も良好に除去できた。また実施例2では、散水用の水使用量、酸添加量、および生物処理設備からの排水発生量が実施例1より少なく、さらに、実施例1に比べて生物脱臭塔を小型化できた。
【0056】
[実施例3]
実施例3では、図3の生物処理設備3を模した実験装置を用い、実施例2と同様の条件で試験を行った。実施例3においては、気液接触塔の圧力損失が2000Pa以上となった時点で酸液槽から槽内の液を気液接触塔に供給して曝気洗浄を行った点が実施例2と異なる。結果を表5および表6に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
表5および表6に示すように、実施例3では実施例2と同様の効果が得られ、さらに、試験開始から90日間以上、気液接触塔および生物脱臭塔における圧力損失は生じず、臭気ガスの処理を継続できた。
【0060】
[比較例1]
比較例1として、酸液槽への酸の補給を停止することで、酸性液に代えてpH6.8の水道水を気液接触塔に散水する試験を行った。比較例1では酸性液に代えて中性の水道水を散水した以外は実施例1と同様の条件で試験を行った。結果を表7および表8に示す。
【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
比較例1では、試験開始から20日経過後に、気液接触塔の圧力損失が2000Paを超え、試験開始から30日後には試験の継続が困難となった。このため、試験期間中の処理ガスの臭気成分濃度も試験開始から20日経過後から悪化した。
【0064】
以上に示すように、本発明によれば有機物と硫黄化合物とを臭気成分として含む臭気ガスの生物脱臭プラントにおける前処理ユニットの閉塞を長期に渡り効果的に防止できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
汚泥処理施設等で発生するメタンガス等の生物脱臭プラントに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態に係る生物脱臭プラントの模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る生物脱臭プラントの模式図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る生物脱臭プラントの模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1〜3 生物脱臭プラント
10A〜C 前処理ユニット
11 気液接触塔
12 吸収室
13、63 充填層
13S 充填材
21、64 散水手段
22 酸液槽
32 ガス導入管
33 ガス送り管
34 処理ガス管
40 循環手段
42 酸液供給路
43 酸補給路
44 補給水路
60 生物脱臭塔
62 反応室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄酸化菌が保持された生物脱臭搭の前段に配置される前処理ユニットであって、
硫黄化合物と有機物とを含む臭気ガスが導入される吸収室を有する気液接触塔と、
前記吸収室内に酸性液を散水する散水手段と、を含む生物脱臭プラントの前処理ユニット。
【請求項2】
前記酸性液を保持する酸液槽と、
前記気液接触塔と前記酸液槽とに接続された返送液路、および前記酸液槽と前記散水手段とに接続された酸液供給路を有し、前記吸収室に散水された前記酸性液を前記気液接触塔から取出し前記散水手段に循環させる循環手段と、
前記生物脱臭搭から排出された硫酸を含むドレインを前記酸液槽に送るドレイン供給路と、をさらに含む請求項1に記載の生物脱臭プラントの前処理ユニット。
【請求項3】
前記酸液槽と前記気液接触塔とに接続された洗浄液路、該洗浄液路を介して前記気液接触塔に前記酸液槽内の液を供給する送液手段、および前記気液接触塔内を曝気する曝気手段を有する洗浄装置と、
前記臭気ガスが導入され前記気液接触塔に接続されたガス導入管、前記ガス導入管から分岐して前記生物脱臭搭に接続されたバイパス管、および前記臭気ガスが該ガス導入管または該バイパス管のどちらか一方を流れるようにするガス流路切り替え手段と、をさらに含む請求項2に記載の生物脱臭プラントの前処理ユニット。
【請求項4】
前記酸性液を保持する酸液槽と、
前記気液接触塔と前記酸液槽とに接続された返送液路、および前記酸液槽と前記散水手段とに接続された酸液供給路を有し、前記吸収室に散水された前記酸性液を前記気液接触塔から取出し前記散水手段に循環させる循環手段と、
前記吸収室に散水された前記酸性液を排出することで前記酸性液の有機物濃度が20,000mg/L以下に維持するドレイン管をさらに有する請求項1から3のいずれかに記載の生物脱臭プラントの前処理ユニット。
【請求項5】
硫黄化合物と有機物とを含む臭気ガスの生物脱臭方法であって、
前記臭気ガスを気液接触塔に導入して酸性液を散水して前記有機物を該酸性液に吸収させた後、硫黄酸化菌が保持された生物脱臭搭に導入する臭気ガスの生物脱臭方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−238118(P2008−238118A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85574(P2007−85574)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(392032100)キリンエンジニアリング株式会社 (54)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】