生理活性組成物、高血圧予防食品及び薬剤、並びにそれらの製造方法
【課題】間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実を活用して、特有の生理活性を持つ成分を含む新規な生理活性組成物、及び当該生理活性組成物を用いた食品や薬剤を提供する。
【解決手段】西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出することにより、未成熟果実由来のアンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む生理活性組成物を得るものとし、得られた生理活性組成物を用いて食品や薬剤を製造する。
【解決手段】西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出することにより、未成熟果実由来のアンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む生理活性組成物を得るものとし、得られた生理活性組成物を用いて食品や薬剤を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間引き西瓜等の未成熟西瓜に含まれる成分を含む、高血圧予防に有用な生理活性組成物、当該生理活性組成物を用いた高血圧予防食品及び薬剤、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
西瓜の生産過程においては、間引き等によって、西瓜の未成熟果実が大量に得られる。西瓜の未成熟果実は、例えば、皮の部分に苦みや渋みの成分であるポリフェノール類が多く含まれていることが知られている。また、成熟果実の可食部にカロテノイド色素やリコピン、シトルリン等のアミノ酸が豊富に含まれていること(特許文献1、非特許文献1)を鑑みると、未成熟果実には、種々のアミノ酸の前駆体が豊富に含まれていると考えられ、特有の生理活性を持つ成分が存在する可能性もある。このように、西瓜の未成熟果実は、何らかの有効成分を含むと考えられるものの、有効利用には至らず、そのほとんどが廃棄されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3843298号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Guoyao Wu et al, Dietary Supplementation with Watermelon Pomace Juice Enhances Arginine Availability and Ameliorates the Metabolic Syndrome in Zucker Diabetic Fatty Rats, J. Nutr. 137: 2680-2685, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実を活用して、特有の生理活性を持つ成分を含む新規な生理活性組成物、及び当該生理活性組成物を用いた食品や薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、西瓜の未成熟果実に含まれる成分について、各種酵素阻害作用や抗酸化能の有無を調べたところ、以下の知見を得た。
(1)西瓜の未成熟果実には、アンジオテンシン変換酵素阻害作用(ACE阻害作用)を持つ成分(以下、「ACE阻害成分」という場合がある。)が存在する。
(2)西瓜の未成熟果実に含まれるACE阻害成分は、水抽出により果実から適切に抽出可能である。また、果実中の水分を利用し、圧搾によってACE阻害成分を流出させることによっても得ることができる。
(3)西瓜の未成熟果実のうち、小型のもの(好ましくは200g以下、最も好ましくは100g以下)から得られる組成物のほうが、ACE阻害作用が強い。
(4)西瓜の未成熟果実には、抗酸化能(DPPHラジカル捕捉活性)を有する成分(以下、「抗酸化成分」という場合がある。)が存在する。こちらについても、小型の未成熟果実(好ましくは200g以下、最も好ましくは100g以下)から得られる組成物のほうが、抗酸化能が強い。
(5)西瓜の未成熟果実から得られた組成物は、乾燥後であってもACE阻害活性を保持可能である。
【0007】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明の第1の態様は、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出して得られる、当該未成熟果実由来のアンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む、生理活性組成物である。
【0008】
本発明において、「西瓜」とは、一般的な西瓜を意味し、ウリ科スイカ属のスイカを意味する。「西瓜の未成熟果実」とは、果実内部に可食部或いは種子が存在しない、西瓜の未成熟な果実を意味する。可食部が存在しないとは、果実の中身において、一般に食されている有色部分が存在しないことをいう。「圧搾又は水抽出して得られる…阻害成分を含む」とは、圧搾によって果実に含まれる水分とともに得られる、或いは、水を溶媒とし、ここに果実を浸漬することによって抽出される、果実に含まれるACE阻害成分を含むことを意味する。ここで、水とは、純水のみならず、50質量%以上、好ましくは90質量%以上の水を含有する溶媒であればよく、例えば、一部に水以外の極性溶媒を含む、水を主成分とする混合溶媒であってもよい。
【0009】
本発明の第1の態様において、西瓜の未成熟果実が200g以下の果実であることが好ましい。より高活性に上記ACE阻害作用を奏するものとすることが可能だからである。また、200g以下の未成熟果実には抗酸化成分も多量に含まれているため、多機能な生理活性組成物とすることができる。
【0010】
本発明において、アンジオテンシン変換酵素阻害成分は、分子量3000以下の成分である。
【0011】
本発明の第1の態様に係る生理活性組成物は、乾燥により固体状とされていてもよい。
【0012】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る生理活性組成物を含む、高血圧予防食品である。
【0013】
本発明の第2の態様において、固体状の生理活性組成物を含む場合は、当該生理活性組成物とともにさらに基材を含んでいてもよい。「基材」とは、デキストリンや炭酸カルシウム、セルロース等、食品の固形維持等に寄与する物質をいう。特に、基材を含ませることによって食品の潮解を防止することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る生理活性組成物を含む、薬剤である。
【0015】
本発明の第3の態様においても、固体状の生理活性組成物を含む場合は、当該生理活性組成物とともにさらに基材を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の第4の態様は、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出する工程を備える、アンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む生理活性組成物の製造方法である。
【0017】
本発明の第4の態様において、西瓜の未成熟果実として200g以下の果実を用いることが好ましい。これにより、より高活性にACE阻害作用を奏する生理活性組成物を得ることができる。また、200g以下の未成熟果実には抗酸化成分も多量に含まれているため、多機能な生理活性組成物を得ることができる。
【0018】
本発明の第4の態様において、分子量3000以下の成分を濃縮する工程をさらに備えるとよい。ACE阻害成分を適切に濃縮できるためである。
【0019】
本発明の第4の態様において、圧搾又は水抽出の後、さらに組成物を乾燥させる工程を備えていてもよい。
【0020】
本発明の第5の態様は、本発明の第4の態様に係る製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、高血圧予防食品の製造方法である。
【0021】
本発明の第5の態様において、固体状の生理活性組成物を用いる場合、当該生理活性組成物と基材とを混合する工程をさらに備えていてもよい。
【0022】
本発明の第6の態様は、本発明の第4の態様に係る製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、薬剤の製造方法である。
【0023】
本発明の第6の態様において、固体状の生理活性組成物を用いる場合、当該生理活性組成物と基材とを混合する工程をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る生理活性組成物は、西瓜の未成熟果実由来のACE阻害成分を含んでいる。ACE阻害成分は生体内にて血圧上昇ホルモンであるアンジオテンシンIIの産生を抑制する効果を奏する。すなわち、本発明によれば、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実を活用して、特有の生理活性を持つ成分を含む新規な生理活性組成物、及び当該生理活性組成物を用いた食品や薬剤を提供することができる。
【0025】
尚、西瓜の未成熟果実には通常シトルリンも含まれており、シトルリンは生体内でアルギニンに代謝される。アルギニンは血管内皮細胞で一酸化窒素(NO)の産生の基質となる。そしてNOは血管平滑筋弛緩作用を有するホルモンとして作用する。よってシトルリンを摂取することで血圧を低下させることができると言える。本発明に係る生理活性組成物は、基本的に、シトルリンとACE阻害成分とを双方含有することとなるため、これにより生体内において相乗的に高血圧抑制作用に寄与することが可能と言える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る生理活性組成物(西瓜の未成熟果実抽出物)のACE阻害活性を示す図である。
【図2】本発明に係る生理活性組成物(西瓜の未成熟果実抽出物)の抗酸化能を示す図である。
【図3】本発明に係る生理活性組成物(水抽出物、熱水抽出物)のACE阻害活性の抽出物濃度依存性を示す図である。
【図4】シトルリン関連物質のACE阻害活性を示す図である。
【図5】未成熟果実の重量を種々変化させた場合における、本発明に係る生理活性組成物(未成熟果実の水抽出物)のACE阻害活性の濃度依存性を示す図である。
【図6】本発明に係る生理活性組成物(水抽出物)を、限外濾過フィルターによって分子量3000で分画した場合における、上相側成分及び下相側成分それぞれについて、ACE阻害活性の濃度依存性を示す図である。
【図7】下相成分を逆相カラムで複数に分離した場合における、それぞれの分離成分に係るACE阻害活性の濃度依存性を示す図である。
【図8】間引き西瓜抽出物の投与が高血圧自然発生ラットに及ぼす影響を示す図である。
【図9】小型間引き西瓜の水抽出物の投与がSDラットに及ぼす影響を示す図である。
【図10】小型間引き西瓜水抽出物のアミノ酸の含有量を示す図である。
【図11】小型間引き西瓜水抽出物のアミノ酸及び関連物質の含有量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.生理活性組成物
本発明に係る生理活性組成物について説明する。本発明に係る生理活性組成物は、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実由来の成分を含むものであり、より具体的には、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出して得られ、当該未成熟果実由来のACE阻害成分を含むものである。本発明に係る生理活性組成物は、ACE阻害成分以外にその他成分が含まれていてもよい。例えば、果実に本来含まれるアミノ酸や水分、或いは、水抽出に用いた水分、さらには、ポリフェノール類、糖質、カロテノイド色素等がそのまま残っていてもよい。
【0028】
本発明においては、西瓜の未成熟果実とは可食部或いは種子の存在しないもの(すなわち、中身に有色部がない果実、或いは、種が未だ出来ていない果実)をいう。西瓜の未成熟果実は、好ましくは300g以下の果実、より好ましくは200g以下の果実、最も好ましくは100g以下の果実である。果実重量の下限については特に限定されるものではない。特に、このような小型の未成熟果実において、ACE阻害成分が多量に含まれている。また、このような小型の未成熟果実には抗酸化成分も多量に含まれており、生理活性組成物の多機能化に寄与する。
【0029】
本発明に係る生理活性組成物には、西瓜の未成熟果実由来のACE阻害成分が含まれている。当該ACE阻害成分は、未成熟果実の水分をそのまま利用して、圧搾することにより得ることができる。或いは、未成熟果実を溶媒中に浸漬する等して、ACE阻害成分を溶媒中に抽出して得てもよい。食品や薬剤として適用すること、さらにはコスト増大を防ぐこと等を鑑みると、溶媒としては水を用いればよい。尚、本発明において、圧搾又は水抽出により得られたACE阻害成分は、分子量が3000以下である。
【0030】
本発明に係る生理活性組成物は、生理活性を適切に保持させる観点から、組成物に含まれる水分(1ml)に対して、水以外の成分が0.1mg以上含まれていることが好ましく、0.5mg以上含まれていることがより好ましい。本発明に係る生理活性組成物は希薄な濃度であっても十分なACE阻害作用を発揮するが、あまりに薄すぎるとその作用が失われてしまう虞がある。
【0031】
本発明に係る生理活性組成物は、乾燥されたものであってもよい。乾燥方法としては、自然乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥、さらには減圧乾固或いはスプレードライヤーによる乾燥等、種々の方法が採用できる。本発明に係る生理活性組成物は、乾燥後であってもACE阻害作用が失われない。
【0032】
このように、本発明に係る生理活性組成物は、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実由来の特有のACE阻害成分を含んでおり、当該ACE阻害成分は生体内にて血圧上昇ホルモンの産生を抑制する効果を奏する。また、西瓜の未成熟果実中にはシトルリンが含まれているため、本発明に係る生理活性組成物は、シトルリンとACE阻害成分との相乗効果によって血圧降下作用に強く寄与するものと考えられる。
【0033】
2.高血圧予防食品、薬剤
本発明に係る上記生理活性組成物は、例えば高血圧予防食品や薬剤に適用することができる。
【0034】
本発明に係る高血圧予防食品は、上記生理活性組成物を濃縮してエキスとする等、生理活性組成物そのもののみを食品とする形態の他、上記生理活性組成物以外に、その他成分を含むような形態であってもよい。例えば、デキストリンや炭酸カルシウム、セルロース等を含ませることができる。特に、本発明に係る生理活性組成物は乾燥により固体状とした場合、その後、湿気によって潮解する虞がある。デキストリンや炭酸カルシウム、セルロース等を基材として含ませることにより、食品の潮解を防ぐことができる。また、本発明に係る上記生理活性組成物は、通常の飲食物に混ぜることによっても、高血圧予防効果が期待できる。
【0035】
本発明に係る生理活性組成物を薬剤としても適用する場合も、上記生理活性組成物を濃縮してエキスとする等、生理活性組成物そのもののみを薬剤として用いる形態の他、上記生理活性組成物以外に、その他成分を含むような形態であってもよい。すなわち、液状の薬剤や錠剤、カプセル剤等、一般的な薬剤と同様の形状とすることができる。
【0036】
3.生理活性組成物の製造方法
本発明に係る生理活性組成物は、例えば、下記のような製造方法によって製造可能である。すなわち、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出する工程を備える製造方法によって、適切に製造することができる。
【0037】
上述したように、西瓜の未成熟果実由来のACE阻害成分を得る際は、果実を圧搾することで、圧搾液中にACE阻害成分を濃縮することができる。或いは、溶媒として水を用意し、水抽出によってACE阻害成分を抽出してもよい。水抽出の場合は、常温の水を用いればよい。本発明のように西瓜の未成熟果実を用いる場合、熱水(例えば100℃の水)よりも、常温の水を用いたほうが、ACE阻害活性の高い生理活性組成物を得ることができる。
【0038】
尚、本発明では、アルコール等の有機溶媒を用いて抽出を行うことは好適でない。有機溶媒を用いた場合、製造コストが増大することに加え、生体摂取に適さなくなる虞がある。また、実施例にて詳述するように、有機溶媒を用いて抽出を行うよりも、水を用いて抽出を行うほうが、未成熟果実からACE阻害成分を多量に抽出させることができる。
【0039】
本発明に係る生理活性組成物の製造方法においては、圧搾又は水抽出して得られた組成物について、濾過等によって分子量3000以下のものに濃縮することが好ましい。濃縮の際は限外濾過フィルター等を用いた公知の方法を採用すればよい。これにより、ACE阻害成分をより適切に濃縮することができる。
【0040】
本発明に係る生理活性組成物の製造方法においては、圧搾又は水抽出して得られた組成物をさらに乾燥する工程が備えられていてもよい。乾燥方法としては、上述したように自然乾燥、加熱乾燥や凍結乾燥等を採用できる。また、減圧乾固或いはスプレードライヤーによる乾燥を採用してもよい。これにより、ACE阻害活性を失わせることなく、固体状の生理活性組成物を得ることができる。
【0041】
このように、本発明に係る生理活性組成物の製造方法によれば、西瓜の未成熟果実からACE阻害活性を有する組成物を容易に得ることができる。本発明に係る製造方法においては、アルコール等の有機溶媒を用いず、また、複雑な処理操作も要しないため、コストを抑えることができ、且つ、得られた生理活性組成物を食品の用途に供することにも問題がない。
【0042】
4.高血圧予防食品の製造方法、薬剤の製造方法
本発明に係る高血圧予防食品や薬剤は、例えば、上記生理活性組成物の製造方法によって得られた生理活性組成物を濃縮することにより、或いは、得られた固体状の生理活性組成物に基材を混合することにより、適切に製造することができる。濃縮方法は特に限定されるものではない。例えば、溶媒(水分)を揮発させて濃縮すればよい。また、混合方法についても、公知の混合手段を用いて行えばよい。
【0043】
以上のように、本発明によれば、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実を活用して、ACE阻害作用といった特有の生理活性を持つ成分を含む、新規な生理活性組成物、及び当該生理活性組成物を用いた食品や薬剤を提供することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて、本発明に係る生理活性組成物についてさらに詳述する。
【0045】
<1.間引き西瓜抽出物の生理機能の探索>
(1)間引き西瓜抽出物の作成
果実の中身に種子が出来ていない未成熟果実(A:873g、B:231g、C:74.3g)を用意し、所定の溶媒(熱水(100℃)、70%エタノール、100%メタノール)に浸漬して抽出操作を行い、抽出物が1mg/(ml−溶媒)の濃度となるように抽出液を調整した。尚、本実施例において「抽出物」とは、抽出液において、抽出溶媒等の液分を除く固形物を意味する。すなわち、「抽出液」とは、抽出物と果実水分と溶媒とからなるものである。抽出物濃度1mg/(ml−溶媒)とは、果実水分を除く溶媒1mlに対する抽出物固形分重量が1mgであることを意味する。
【0046】
(2)抽出物の生理機能の探索
得られた抽出液について、各種酵素阻害作用の有無と抗酸化能を調べたところ、抽出液はACE阻害活性を有するとともに、抗酸化能を有することが分かった。具体的な結果を図1、2に示す。図1に示すように、抽出液のACE阻害作用は、大きさと抽出溶媒とによって異なり、特に小型(西瓜C)で、熱水にて抽出したものが最もACE阻害作用が大きかった。また、図2に示すように抗酸化能については抽出溶媒による差はほとんどなかったが、小型(西瓜C)が最も抗酸化能が強く、大型になるにつれて抗酸化能は減少することが分かった。
【0047】
<2.水抽出物と熱水抽出物との比較>
(1)間引き西瓜抽出物の作成
果実の中身に種子が出来ていない未成熟果実(150g)を用意し、水(20〜25℃)又は熱水(100℃)を用いて抽出操作を行った。抽出液の濃度は、0〜1mg/(ml−溶媒)と変化させた。
【0048】
(2)ACE阻害作用の濃度依存性
水抽出物と熱水抽出物とについて、抽出液濃度毎にそれぞれ蛍光法にてACE測定を行った。結果を図3に示す。図3から明らかなように、いずれの濃度においても、熱水抽出液よりも水抽出液の方が、ACE阻害作用が大きかった。
【0049】
<3.果実の保存状態がACE阻害活性に及ぼす影響>
西瓜の未成熟果実を60℃で乾燥させた場合、及び、未成熟果実を風乾させた場合の双方について、乾燥後の果実から上記と同様の方法にて水抽出物を得た。得られた水抽出物についてACE測定を行ったところ、乾燥後はACE活性が低下することが分かった。すなわち、西瓜の未成熟果実としては、生のものをそのまま圧搾や水抽出に供するか、或いは、冷凍保存したものを圧搾、水抽出に供することが好ましいことが分かった。
【0050】
<4.シトルリン関連物質がACE阻害活性に及ぼす影響>
シトルリン関連物質がACE阻害活性に及ぼす影響を調べるために、シトルリン関連物質のACE測定を蛍光法で行った。尚、シトルリン関連物質の調製はHEPESバッファーで行った。シトルリン関連物質の添加濃度は0.1mg/(ml−溶媒)とした。結果を図4に示す。図4から明らかなように、シトルリン関連物質は、純物質として0.1mg/(ml−溶媒)という高濃度(具体的には、図1や図3に係る抽出物において含まれているシトルリン関連物質濃度の10倍以上の濃度)で添加しても、あまりACE阻害効果がないことが分かった。すなわち、シトルリン関連物質は、本発明に係るACE阻害活性成分には該当しないと言える。
【0051】
<5.間引き西瓜の果実サイズによるACE阻害作用の詳細>
間引き西瓜を下記表1のように質量に従って規格を分類し、水抽出物のACE阻害作用を調べた。結果を図5に示す。図5に示すように、200g以下の果実について、強いACE阻害作用が観察された。また、成熟しつつある大型の間引き西瓜では、ACE阻害作用はほとんど観察されなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
<6.ACE阻害成分の特性>
100g以下の小型の間引き西瓜水抽出物を、限外濾過フィルター(Amicon, Millipore社製)により分子量3000で分画し、上相成分(分子量3000超)、下相成分(分子量3000以下)とで、ACE阻害活性を比較した。結果を図6に示す。図6に示すように分子量3000以下の下相成分の方がACE阻害作用が大きかった。すなわち、ACE阻害成分の分子量は3000以下であることが分かった。
【0054】
下相成分を、逆相カラム(ダイアイオンHP−20、三菱化学社製)により精製し、ACE阻害活性を調べた。結果を図7に示す。図7に示すように、水で溶出されるFraction 1にACE阻害成分が特に濃縮されていることが分かる。尚、各Fractionを溶出させた溶媒は以下の通りである。尚、「%」は「容量%」を意味する。
Fraction 1:0%メタノール(100%水)
Fraction 2:10%メタノール(90%水)
Fraction 3:20%メタノール(80%水)
Fraction 4:30%メタノール(70%水)
Fraction 5:50%メタノール(50%水)
Fraction 6:100%メタノール(0%水)
Fraction 7:100%クロロホルム
【0055】
<7.間引き西瓜抽出物の投与が高血圧自然発生ラットに及ぼす影響>
間引き西瓜の熱水抽出物を、雄性高血圧自然発生ラットSHR(Spontaneously Hypertensive Rats、330g〜356g、日本SLC社)に、200mg/kg腹腔内投与し、収縮期血圧の経時変化を測定した。結果を図8に示す。図8に示すように、熱水抽出物を投与したいずれの場合においても、投与後48時間に亘って統計的に有意な血圧低下が観察された。すなわち、間引き西瓜の熱水抽出物は、投与後に持続的に血圧を低下させる作用があることが明らかとなった。
【0056】
<8.小型間引き西瓜の水抽出物の投与がSDラットに及ぼす影響>
100g以下の小型の間引き西瓜の水抽出物(H2O小)(0.2g/ml)をSDラットに200mg/kgで腹腔内投与し、収縮期血圧の経時変化を観察した。比較対象として、ACE阻害薬として一般的に知られているカプトプリルをSDラットに50mg/kgで腹腔内投与した場合についても同様の観察を行った。結果を図9に示す。図9に示すように、間引き西瓜の水抽出物は、カプトプリルと同等以上のACE阻害活性を備えていることが分かった。
尚、ラットへ腹腔内投与5時間後の血清アミノ酸及び関連物質の組成を測定したが、間引き西瓜水抽出物の投与による血清物質の濃度変化はほとんど観察されなかった。
【0057】
<9.小型間引き西瓜水抽出物のアミノ酸及び関連物質の含有量>
100g以下の小型の間引き西瓜の水抽出物について、アミノ酸及び関連物質の含有量を測定した。結果を図10に示す。図10に示すように、アミノ酸ではアルギニン(Arg)とグルタミン(Gln)の含有量が高かった。一方、シトルリンの含有量も測定したところ、これらの10倍程度存在し、最も高濃度であった(図11)。
【0058】
以上のように、本発明に係る生理活性組成物はACE阻害成分を含み、生体に投与した場合に血圧降下作用を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る生理活性組成物は、食品産業や製薬産業等、種々の産業に利用可能である。本発明に係る生理活性組成物によれば、ACE阻害作用によって生体の血圧を適切に降下せしめることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、間引き西瓜等の未成熟西瓜に含まれる成分を含む、高血圧予防に有用な生理活性組成物、当該生理活性組成物を用いた高血圧予防食品及び薬剤、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
西瓜の生産過程においては、間引き等によって、西瓜の未成熟果実が大量に得られる。西瓜の未成熟果実は、例えば、皮の部分に苦みや渋みの成分であるポリフェノール類が多く含まれていることが知られている。また、成熟果実の可食部にカロテノイド色素やリコピン、シトルリン等のアミノ酸が豊富に含まれていること(特許文献1、非特許文献1)を鑑みると、未成熟果実には、種々のアミノ酸の前駆体が豊富に含まれていると考えられ、特有の生理活性を持つ成分が存在する可能性もある。このように、西瓜の未成熟果実は、何らかの有効成分を含むと考えられるものの、有効利用には至らず、そのほとんどが廃棄されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3843298号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Guoyao Wu et al, Dietary Supplementation with Watermelon Pomace Juice Enhances Arginine Availability and Ameliorates the Metabolic Syndrome in Zucker Diabetic Fatty Rats, J. Nutr. 137: 2680-2685, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実を活用して、特有の生理活性を持つ成分を含む新規な生理活性組成物、及び当該生理活性組成物を用いた食品や薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、西瓜の未成熟果実に含まれる成分について、各種酵素阻害作用や抗酸化能の有無を調べたところ、以下の知見を得た。
(1)西瓜の未成熟果実には、アンジオテンシン変換酵素阻害作用(ACE阻害作用)を持つ成分(以下、「ACE阻害成分」という場合がある。)が存在する。
(2)西瓜の未成熟果実に含まれるACE阻害成分は、水抽出により果実から適切に抽出可能である。また、果実中の水分を利用し、圧搾によってACE阻害成分を流出させることによっても得ることができる。
(3)西瓜の未成熟果実のうち、小型のもの(好ましくは200g以下、最も好ましくは100g以下)から得られる組成物のほうが、ACE阻害作用が強い。
(4)西瓜の未成熟果実には、抗酸化能(DPPHラジカル捕捉活性)を有する成分(以下、「抗酸化成分」という場合がある。)が存在する。こちらについても、小型の未成熟果実(好ましくは200g以下、最も好ましくは100g以下)から得られる組成物のほうが、抗酸化能が強い。
(5)西瓜の未成熟果実から得られた組成物は、乾燥後であってもACE阻害活性を保持可能である。
【0007】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明の第1の態様は、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出して得られる、当該未成熟果実由来のアンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む、生理活性組成物である。
【0008】
本発明において、「西瓜」とは、一般的な西瓜を意味し、ウリ科スイカ属のスイカを意味する。「西瓜の未成熟果実」とは、果実内部に可食部或いは種子が存在しない、西瓜の未成熟な果実を意味する。可食部が存在しないとは、果実の中身において、一般に食されている有色部分が存在しないことをいう。「圧搾又は水抽出して得られる…阻害成分を含む」とは、圧搾によって果実に含まれる水分とともに得られる、或いは、水を溶媒とし、ここに果実を浸漬することによって抽出される、果実に含まれるACE阻害成分を含むことを意味する。ここで、水とは、純水のみならず、50質量%以上、好ましくは90質量%以上の水を含有する溶媒であればよく、例えば、一部に水以外の極性溶媒を含む、水を主成分とする混合溶媒であってもよい。
【0009】
本発明の第1の態様において、西瓜の未成熟果実が200g以下の果実であることが好ましい。より高活性に上記ACE阻害作用を奏するものとすることが可能だからである。また、200g以下の未成熟果実には抗酸化成分も多量に含まれているため、多機能な生理活性組成物とすることができる。
【0010】
本発明において、アンジオテンシン変換酵素阻害成分は、分子量3000以下の成分である。
【0011】
本発明の第1の態様に係る生理活性組成物は、乾燥により固体状とされていてもよい。
【0012】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る生理活性組成物を含む、高血圧予防食品である。
【0013】
本発明の第2の態様において、固体状の生理活性組成物を含む場合は、当該生理活性組成物とともにさらに基材を含んでいてもよい。「基材」とは、デキストリンや炭酸カルシウム、セルロース等、食品の固形維持等に寄与する物質をいう。特に、基材を含ませることによって食品の潮解を防止することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る生理活性組成物を含む、薬剤である。
【0015】
本発明の第3の態様においても、固体状の生理活性組成物を含む場合は、当該生理活性組成物とともにさらに基材を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の第4の態様は、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出する工程を備える、アンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む生理活性組成物の製造方法である。
【0017】
本発明の第4の態様において、西瓜の未成熟果実として200g以下の果実を用いることが好ましい。これにより、より高活性にACE阻害作用を奏する生理活性組成物を得ることができる。また、200g以下の未成熟果実には抗酸化成分も多量に含まれているため、多機能な生理活性組成物を得ることができる。
【0018】
本発明の第4の態様において、分子量3000以下の成分を濃縮する工程をさらに備えるとよい。ACE阻害成分を適切に濃縮できるためである。
【0019】
本発明の第4の態様において、圧搾又は水抽出の後、さらに組成物を乾燥させる工程を備えていてもよい。
【0020】
本発明の第5の態様は、本発明の第4の態様に係る製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、高血圧予防食品の製造方法である。
【0021】
本発明の第5の態様において、固体状の生理活性組成物を用いる場合、当該生理活性組成物と基材とを混合する工程をさらに備えていてもよい。
【0022】
本発明の第6の態様は、本発明の第4の態様に係る製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、薬剤の製造方法である。
【0023】
本発明の第6の態様において、固体状の生理活性組成物を用いる場合、当該生理活性組成物と基材とを混合する工程をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る生理活性組成物は、西瓜の未成熟果実由来のACE阻害成分を含んでいる。ACE阻害成分は生体内にて血圧上昇ホルモンであるアンジオテンシンIIの産生を抑制する効果を奏する。すなわち、本発明によれば、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実を活用して、特有の生理活性を持つ成分を含む新規な生理活性組成物、及び当該生理活性組成物を用いた食品や薬剤を提供することができる。
【0025】
尚、西瓜の未成熟果実には通常シトルリンも含まれており、シトルリンは生体内でアルギニンに代謝される。アルギニンは血管内皮細胞で一酸化窒素(NO)の産生の基質となる。そしてNOは血管平滑筋弛緩作用を有するホルモンとして作用する。よってシトルリンを摂取することで血圧を低下させることができると言える。本発明に係る生理活性組成物は、基本的に、シトルリンとACE阻害成分とを双方含有することとなるため、これにより生体内において相乗的に高血圧抑制作用に寄与することが可能と言える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る生理活性組成物(西瓜の未成熟果実抽出物)のACE阻害活性を示す図である。
【図2】本発明に係る生理活性組成物(西瓜の未成熟果実抽出物)の抗酸化能を示す図である。
【図3】本発明に係る生理活性組成物(水抽出物、熱水抽出物)のACE阻害活性の抽出物濃度依存性を示す図である。
【図4】シトルリン関連物質のACE阻害活性を示す図である。
【図5】未成熟果実の重量を種々変化させた場合における、本発明に係る生理活性組成物(未成熟果実の水抽出物)のACE阻害活性の濃度依存性を示す図である。
【図6】本発明に係る生理活性組成物(水抽出物)を、限外濾過フィルターによって分子量3000で分画した場合における、上相側成分及び下相側成分それぞれについて、ACE阻害活性の濃度依存性を示す図である。
【図7】下相成分を逆相カラムで複数に分離した場合における、それぞれの分離成分に係るACE阻害活性の濃度依存性を示す図である。
【図8】間引き西瓜抽出物の投与が高血圧自然発生ラットに及ぼす影響を示す図である。
【図9】小型間引き西瓜の水抽出物の投与がSDラットに及ぼす影響を示す図である。
【図10】小型間引き西瓜水抽出物のアミノ酸の含有量を示す図である。
【図11】小型間引き西瓜水抽出物のアミノ酸及び関連物質の含有量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.生理活性組成物
本発明に係る生理活性組成物について説明する。本発明に係る生理活性組成物は、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実由来の成分を含むものであり、より具体的には、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出して得られ、当該未成熟果実由来のACE阻害成分を含むものである。本発明に係る生理活性組成物は、ACE阻害成分以外にその他成分が含まれていてもよい。例えば、果実に本来含まれるアミノ酸や水分、或いは、水抽出に用いた水分、さらには、ポリフェノール類、糖質、カロテノイド色素等がそのまま残っていてもよい。
【0028】
本発明においては、西瓜の未成熟果実とは可食部或いは種子の存在しないもの(すなわち、中身に有色部がない果実、或いは、種が未だ出来ていない果実)をいう。西瓜の未成熟果実は、好ましくは300g以下の果実、より好ましくは200g以下の果実、最も好ましくは100g以下の果実である。果実重量の下限については特に限定されるものではない。特に、このような小型の未成熟果実において、ACE阻害成分が多量に含まれている。また、このような小型の未成熟果実には抗酸化成分も多量に含まれており、生理活性組成物の多機能化に寄与する。
【0029】
本発明に係る生理活性組成物には、西瓜の未成熟果実由来のACE阻害成分が含まれている。当該ACE阻害成分は、未成熟果実の水分をそのまま利用して、圧搾することにより得ることができる。或いは、未成熟果実を溶媒中に浸漬する等して、ACE阻害成分を溶媒中に抽出して得てもよい。食品や薬剤として適用すること、さらにはコスト増大を防ぐこと等を鑑みると、溶媒としては水を用いればよい。尚、本発明において、圧搾又は水抽出により得られたACE阻害成分は、分子量が3000以下である。
【0030】
本発明に係る生理活性組成物は、生理活性を適切に保持させる観点から、組成物に含まれる水分(1ml)に対して、水以外の成分が0.1mg以上含まれていることが好ましく、0.5mg以上含まれていることがより好ましい。本発明に係る生理活性組成物は希薄な濃度であっても十分なACE阻害作用を発揮するが、あまりに薄すぎるとその作用が失われてしまう虞がある。
【0031】
本発明に係る生理活性組成物は、乾燥されたものであってもよい。乾燥方法としては、自然乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥、さらには減圧乾固或いはスプレードライヤーによる乾燥等、種々の方法が採用できる。本発明に係る生理活性組成物は、乾燥後であってもACE阻害作用が失われない。
【0032】
このように、本発明に係る生理活性組成物は、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実由来の特有のACE阻害成分を含んでおり、当該ACE阻害成分は生体内にて血圧上昇ホルモンの産生を抑制する効果を奏する。また、西瓜の未成熟果実中にはシトルリンが含まれているため、本発明に係る生理活性組成物は、シトルリンとACE阻害成分との相乗効果によって血圧降下作用に強く寄与するものと考えられる。
【0033】
2.高血圧予防食品、薬剤
本発明に係る上記生理活性組成物は、例えば高血圧予防食品や薬剤に適用することができる。
【0034】
本発明に係る高血圧予防食品は、上記生理活性組成物を濃縮してエキスとする等、生理活性組成物そのもののみを食品とする形態の他、上記生理活性組成物以外に、その他成分を含むような形態であってもよい。例えば、デキストリンや炭酸カルシウム、セルロース等を含ませることができる。特に、本発明に係る生理活性組成物は乾燥により固体状とした場合、その後、湿気によって潮解する虞がある。デキストリンや炭酸カルシウム、セルロース等を基材として含ませることにより、食品の潮解を防ぐことができる。また、本発明に係る上記生理活性組成物は、通常の飲食物に混ぜることによっても、高血圧予防効果が期待できる。
【0035】
本発明に係る生理活性組成物を薬剤としても適用する場合も、上記生理活性組成物を濃縮してエキスとする等、生理活性組成物そのもののみを薬剤として用いる形態の他、上記生理活性組成物以外に、その他成分を含むような形態であってもよい。すなわち、液状の薬剤や錠剤、カプセル剤等、一般的な薬剤と同様の形状とすることができる。
【0036】
3.生理活性組成物の製造方法
本発明に係る生理活性組成物は、例えば、下記のような製造方法によって製造可能である。すなわち、西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出する工程を備える製造方法によって、適切に製造することができる。
【0037】
上述したように、西瓜の未成熟果実由来のACE阻害成分を得る際は、果実を圧搾することで、圧搾液中にACE阻害成分を濃縮することができる。或いは、溶媒として水を用意し、水抽出によってACE阻害成分を抽出してもよい。水抽出の場合は、常温の水を用いればよい。本発明のように西瓜の未成熟果実を用いる場合、熱水(例えば100℃の水)よりも、常温の水を用いたほうが、ACE阻害活性の高い生理活性組成物を得ることができる。
【0038】
尚、本発明では、アルコール等の有機溶媒を用いて抽出を行うことは好適でない。有機溶媒を用いた場合、製造コストが増大することに加え、生体摂取に適さなくなる虞がある。また、実施例にて詳述するように、有機溶媒を用いて抽出を行うよりも、水を用いて抽出を行うほうが、未成熟果実からACE阻害成分を多量に抽出させることができる。
【0039】
本発明に係る生理活性組成物の製造方法においては、圧搾又は水抽出して得られた組成物について、濾過等によって分子量3000以下のものに濃縮することが好ましい。濃縮の際は限外濾過フィルター等を用いた公知の方法を採用すればよい。これにより、ACE阻害成分をより適切に濃縮することができる。
【0040】
本発明に係る生理活性組成物の製造方法においては、圧搾又は水抽出して得られた組成物をさらに乾燥する工程が備えられていてもよい。乾燥方法としては、上述したように自然乾燥、加熱乾燥や凍結乾燥等を採用できる。また、減圧乾固或いはスプレードライヤーによる乾燥を採用してもよい。これにより、ACE阻害活性を失わせることなく、固体状の生理活性組成物を得ることができる。
【0041】
このように、本発明に係る生理活性組成物の製造方法によれば、西瓜の未成熟果実からACE阻害活性を有する組成物を容易に得ることができる。本発明に係る製造方法においては、アルコール等の有機溶媒を用いず、また、複雑な処理操作も要しないため、コストを抑えることができ、且つ、得られた生理活性組成物を食品の用途に供することにも問題がない。
【0042】
4.高血圧予防食品の製造方法、薬剤の製造方法
本発明に係る高血圧予防食品や薬剤は、例えば、上記生理活性組成物の製造方法によって得られた生理活性組成物を濃縮することにより、或いは、得られた固体状の生理活性組成物に基材を混合することにより、適切に製造することができる。濃縮方法は特に限定されるものではない。例えば、溶媒(水分)を揮発させて濃縮すればよい。また、混合方法についても、公知の混合手段を用いて行えばよい。
【0043】
以上のように、本発明によれば、間引き西瓜等の西瓜の未成熟果実を活用して、ACE阻害作用といった特有の生理活性を持つ成分を含む、新規な生理活性組成物、及び当該生理活性組成物を用いた食品や薬剤を提供することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて、本発明に係る生理活性組成物についてさらに詳述する。
【0045】
<1.間引き西瓜抽出物の生理機能の探索>
(1)間引き西瓜抽出物の作成
果実の中身に種子が出来ていない未成熟果実(A:873g、B:231g、C:74.3g)を用意し、所定の溶媒(熱水(100℃)、70%エタノール、100%メタノール)に浸漬して抽出操作を行い、抽出物が1mg/(ml−溶媒)の濃度となるように抽出液を調整した。尚、本実施例において「抽出物」とは、抽出液において、抽出溶媒等の液分を除く固形物を意味する。すなわち、「抽出液」とは、抽出物と果実水分と溶媒とからなるものである。抽出物濃度1mg/(ml−溶媒)とは、果実水分を除く溶媒1mlに対する抽出物固形分重量が1mgであることを意味する。
【0046】
(2)抽出物の生理機能の探索
得られた抽出液について、各種酵素阻害作用の有無と抗酸化能を調べたところ、抽出液はACE阻害活性を有するとともに、抗酸化能を有することが分かった。具体的な結果を図1、2に示す。図1に示すように、抽出液のACE阻害作用は、大きさと抽出溶媒とによって異なり、特に小型(西瓜C)で、熱水にて抽出したものが最もACE阻害作用が大きかった。また、図2に示すように抗酸化能については抽出溶媒による差はほとんどなかったが、小型(西瓜C)が最も抗酸化能が強く、大型になるにつれて抗酸化能は減少することが分かった。
【0047】
<2.水抽出物と熱水抽出物との比較>
(1)間引き西瓜抽出物の作成
果実の中身に種子が出来ていない未成熟果実(150g)を用意し、水(20〜25℃)又は熱水(100℃)を用いて抽出操作を行った。抽出液の濃度は、0〜1mg/(ml−溶媒)と変化させた。
【0048】
(2)ACE阻害作用の濃度依存性
水抽出物と熱水抽出物とについて、抽出液濃度毎にそれぞれ蛍光法にてACE測定を行った。結果を図3に示す。図3から明らかなように、いずれの濃度においても、熱水抽出液よりも水抽出液の方が、ACE阻害作用が大きかった。
【0049】
<3.果実の保存状態がACE阻害活性に及ぼす影響>
西瓜の未成熟果実を60℃で乾燥させた場合、及び、未成熟果実を風乾させた場合の双方について、乾燥後の果実から上記と同様の方法にて水抽出物を得た。得られた水抽出物についてACE測定を行ったところ、乾燥後はACE活性が低下することが分かった。すなわち、西瓜の未成熟果実としては、生のものをそのまま圧搾や水抽出に供するか、或いは、冷凍保存したものを圧搾、水抽出に供することが好ましいことが分かった。
【0050】
<4.シトルリン関連物質がACE阻害活性に及ぼす影響>
シトルリン関連物質がACE阻害活性に及ぼす影響を調べるために、シトルリン関連物質のACE測定を蛍光法で行った。尚、シトルリン関連物質の調製はHEPESバッファーで行った。シトルリン関連物質の添加濃度は0.1mg/(ml−溶媒)とした。結果を図4に示す。図4から明らかなように、シトルリン関連物質は、純物質として0.1mg/(ml−溶媒)という高濃度(具体的には、図1や図3に係る抽出物において含まれているシトルリン関連物質濃度の10倍以上の濃度)で添加しても、あまりACE阻害効果がないことが分かった。すなわち、シトルリン関連物質は、本発明に係るACE阻害活性成分には該当しないと言える。
【0051】
<5.間引き西瓜の果実サイズによるACE阻害作用の詳細>
間引き西瓜を下記表1のように質量に従って規格を分類し、水抽出物のACE阻害作用を調べた。結果を図5に示す。図5に示すように、200g以下の果実について、強いACE阻害作用が観察された。また、成熟しつつある大型の間引き西瓜では、ACE阻害作用はほとんど観察されなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
<6.ACE阻害成分の特性>
100g以下の小型の間引き西瓜水抽出物を、限外濾過フィルター(Amicon, Millipore社製)により分子量3000で分画し、上相成分(分子量3000超)、下相成分(分子量3000以下)とで、ACE阻害活性を比較した。結果を図6に示す。図6に示すように分子量3000以下の下相成分の方がACE阻害作用が大きかった。すなわち、ACE阻害成分の分子量は3000以下であることが分かった。
【0054】
下相成分を、逆相カラム(ダイアイオンHP−20、三菱化学社製)により精製し、ACE阻害活性を調べた。結果を図7に示す。図7に示すように、水で溶出されるFraction 1にACE阻害成分が特に濃縮されていることが分かる。尚、各Fractionを溶出させた溶媒は以下の通りである。尚、「%」は「容量%」を意味する。
Fraction 1:0%メタノール(100%水)
Fraction 2:10%メタノール(90%水)
Fraction 3:20%メタノール(80%水)
Fraction 4:30%メタノール(70%水)
Fraction 5:50%メタノール(50%水)
Fraction 6:100%メタノール(0%水)
Fraction 7:100%クロロホルム
【0055】
<7.間引き西瓜抽出物の投与が高血圧自然発生ラットに及ぼす影響>
間引き西瓜の熱水抽出物を、雄性高血圧自然発生ラットSHR(Spontaneously Hypertensive Rats、330g〜356g、日本SLC社)に、200mg/kg腹腔内投与し、収縮期血圧の経時変化を測定した。結果を図8に示す。図8に示すように、熱水抽出物を投与したいずれの場合においても、投与後48時間に亘って統計的に有意な血圧低下が観察された。すなわち、間引き西瓜の熱水抽出物は、投与後に持続的に血圧を低下させる作用があることが明らかとなった。
【0056】
<8.小型間引き西瓜の水抽出物の投与がSDラットに及ぼす影響>
100g以下の小型の間引き西瓜の水抽出物(H2O小)(0.2g/ml)をSDラットに200mg/kgで腹腔内投与し、収縮期血圧の経時変化を観察した。比較対象として、ACE阻害薬として一般的に知られているカプトプリルをSDラットに50mg/kgで腹腔内投与した場合についても同様の観察を行った。結果を図9に示す。図9に示すように、間引き西瓜の水抽出物は、カプトプリルと同等以上のACE阻害活性を備えていることが分かった。
尚、ラットへ腹腔内投与5時間後の血清アミノ酸及び関連物質の組成を測定したが、間引き西瓜水抽出物の投与による血清物質の濃度変化はほとんど観察されなかった。
【0057】
<9.小型間引き西瓜水抽出物のアミノ酸及び関連物質の含有量>
100g以下の小型の間引き西瓜の水抽出物について、アミノ酸及び関連物質の含有量を測定した。結果を図10に示す。図10に示すように、アミノ酸ではアルギニン(Arg)とグルタミン(Gln)の含有量が高かった。一方、シトルリンの含有量も測定したところ、これらの10倍程度存在し、最も高濃度であった(図11)。
【0058】
以上のように、本発明に係る生理活性組成物はACE阻害成分を含み、生体に投与した場合に血圧降下作用を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る生理活性組成物は、食品産業や製薬産業等、種々の産業に利用可能である。本発明に係る生理活性組成物によれば、ACE阻害作用によって生体の血圧を適切に降下せしめることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出して得られ、該未成熟果実由来のアンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む、生理活性組成物。
【請求項2】
前記西瓜の未成熟果実が200g以下の果実である、請求項1に記載の生理活性組成物。
【請求項3】
前記アンジオテンシン変換酵素阻害成分の分子量が3000以下である、請求項1又は2に記載の生理活性組成物。
【請求項4】
乾燥により固体状とされている、請求項1〜3のいずれかに記載の生理活性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の生理活性組成物を含む、高血圧予防食品。
【請求項6】
請求項4に記載の生理活性組成物と基材とを含む、高血圧予防食品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の生理活性組成物を含む、薬剤。
【請求項8】
請求項4に記載の生理活性組成物と基材とを含む、薬剤。
【請求項9】
西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出する工程を備える、アンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む生理活性組成物の製造方法。
【請求項10】
前記西瓜の未成熟果実として200g以下の果実を用いる、請求項9に記載の生理活性組成物の製造方法。
【請求項11】
分子量3000以下の成分を濃縮する工程をさらに備える、請求項9又は10に記載の生理活性組成物の製造方法。
【請求項12】
前記圧搾又は水抽出の後、さらに組成物を乾燥させる工程を備える、請求項9〜11のいずれかに記載の生理活性組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれかに記載の製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、高血圧予防食品の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の製造方法により得られた生理活性組成物と、基材とを混合する工程を備える、高血圧予防食品の製造方法。
【請求項15】
請求項9〜11のいずれかに記載の製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、薬剤の製造方法。
【請求項16】
請求項12に記載の製造方法により得られた生理活性組成物と、基材とを混合する工程を備える、薬剤の製造方法。
【請求項1】
西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出して得られ、該未成熟果実由来のアンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む、生理活性組成物。
【請求項2】
前記西瓜の未成熟果実が200g以下の果実である、請求項1に記載の生理活性組成物。
【請求項3】
前記アンジオテンシン変換酵素阻害成分の分子量が3000以下である、請求項1又は2に記載の生理活性組成物。
【請求項4】
乾燥により固体状とされている、請求項1〜3のいずれかに記載の生理活性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の生理活性組成物を含む、高血圧予防食品。
【請求項6】
請求項4に記載の生理活性組成物と基材とを含む、高血圧予防食品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の生理活性組成物を含む、薬剤。
【請求項8】
請求項4に記載の生理活性組成物と基材とを含む、薬剤。
【請求項9】
西瓜の未成熟果実を圧搾又は水抽出する工程を備える、アンジオテンシン変換酵素阻害成分を含む生理活性組成物の製造方法。
【請求項10】
前記西瓜の未成熟果実として200g以下の果実を用いる、請求項9に記載の生理活性組成物の製造方法。
【請求項11】
分子量3000以下の成分を濃縮する工程をさらに備える、請求項9又は10に記載の生理活性組成物の製造方法。
【請求項12】
前記圧搾又は水抽出の後、さらに組成物を乾燥させる工程を備える、請求項9〜11のいずれかに記載の生理活性組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれかに記載の製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、高血圧予防食品の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の製造方法により得られた生理活性組成物と、基材とを混合する工程を備える、高血圧予防食品の製造方法。
【請求項15】
請求項9〜11のいずれかに記載の製造方法により得られた生理活性組成物を濃縮する工程を備える、薬剤の製造方法。
【請求項16】
請求項12に記載の製造方法により得られた生理活性組成物と、基材とを混合する工程を備える、薬剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−106955(P2012−106955A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257900(P2010−257900)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(503092401)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(503092401)
【Fターム(参考)】
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