説明

生理活性部分の酵素的抱合

本発明は、生理活性部分のポリマーまたは重合性化合物への選択的抱合方法に関する。さらに具体的には、本方法は、生理活性部分のペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基への選択的抱合方法であって、ペンダント基は、ポリマーまたは重合性化合物の一部分であり、ポリマーまたは重合性化合物と加水分解酵素を接触させて、生理活性部分とペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基との抱合を触媒するステップを含む方法に関する。生理活性部分の抱合は、重合性化合物の重合の前、最中、または後に行われてもよい。抱合は、ポリマーに形が与えられた後に行われてもよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、生理活性部分のポリマーまたは重合性化合物への選択的抱合方法に関する。
【0002】
生理活性部分を抱合しているポリマー、またはモノマー、マクロマーもしくはプレポリマーなどの重合性化合物は、生物医学的用途において広範囲にわたって使用される。例えば、生理活性部分は、ポリマーまたは重合性化合物の一部分である官能基、例えばカルボン酸を介して抱合され得る。しかし、抱合生成物の調製におけるある段階で、特定の工程段階が効率的に行われること、および/または遊離(すなわち、保護されていない)カルボン酸基の存在による望ましくない副反応を回避することを可能にするために、カルボン酸基は保護されていることがしばしば望ましく、または必要でさえある。しばしば、カルボン酸は、エステル化により炭化水素で保護されている。
【0003】
保護されたカルボン酸に生理活性部分を化学的に抱合させることができるが、それより前に、脱保護ステップが必要である。しかし、このような脱保護は、特にポリマーまたは重合性化合物が、保護されたカルボン酸基以外に別のエステル基またはチオエステル基などの1つまたは複数の他の加水分解性基を含む場合に、問題となる可能性がある。
【0004】
エステル基またはチオエステル基などの加水分解性基は、通常、水性の環境で酸または塩基によって加水分解される。しかし、こうした加水分解は選択的でないことが知られている。場合によっては、特に例えばポリマーまたは重合性化合物が、1つまたは複数の他の加水分解性基、例えば複数のエステル基を含む場合には、選択的加水分解が必要とされる。例えば、t−ブチルエステルが一部の他のエステル基またはチオエステル基より選択的に加水分解されることは、例えば乾燥有機溶媒中でトリフルオロ酢酸(TFA)を用いた化学的プロセスにおいて優先的に実現され得ることが知られている。しかし、いくつかの欠点がこのプロセスには伴う。エステルを効率的に脱保護するには、一般に大過剰のTFA(>10当量)を使用することが必要である。このような形の脱保護は、高酸性条件により、強酸性条件で安定でない化合物には不適なものとなる。TFAが媒介する脱保護において、微量の水があれば、通常、分子中の他の加水分解性基、特に他のエステル官能基またはチオエステル官能基の広範な加水分解を引き起こすのに十分であるので、反応は乾燥溶媒中で実施される。特に、官能基、例えば生理活性部分の一部分である官能基が、カルボン酸にカップリングすることになっている場合に、カップリングステップにおいてTFAの存在は抱合反応に有害であり得るので、TFAの完全またはほぼ完全な除去は労力を要する(かつ高価である)が、極めて重要である。
【0005】
生理活性部分のポリマーまたは重合性化合物への化学的抱合の場合に、生理活性部分は、副反応を回避するために、反応性基を化学カップリング剤で少なくとも部分保護するべきである。
【0006】
化学カップリング剤は、しかも高価であり、再生利用することはできず、環境に優しくない。
【0007】
保護された生理活性部分が使用されると、抱合反応の後に1つまたは複数の別の脱保護ステップがさらに必要になり、難題となる恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、上記のようなものなどの1つまたは複数の欠点を克服することである。
【0009】
本発明の別の目的は、生理活性部分をポリマーまたは重合性化合物に効率的に抱合させる新規方法を提供することである。
【0010】
さらに、本発明の別の目的は、ポリマーまたは重合性化合物中に存在するカルボン酸基の脱保護ステップを必要としない方法を提供することである。
【0011】
さらに、本発明の別の目的は、高価なカップリング試薬、または抱合プロセスにおいて複数のステップを必要としない方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、抱合の前に、生理活性部分が、その反応性官能基に保護基をあまりまたは全く必要としない方法を提供することである。
【0013】
今回、生理活性部分をポリマーまたは重合性化合物に選択的に抱合させることが可能であることが判明した。
【0014】
したがって、本発明は、生理活性部分のペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基への選択的抱合方法であって、ペンダント基は、ポリマーまたは重合性化合物の一部分であり、ポリマーまたは重合性化合物と加水分解酵素を接触させて、生理活性部分とペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基との抱合を触媒するステップを含む方法に関する。
【0015】
驚くべきことに、生理活性部分を、ポリマーまたは重合性化合物中に存在するペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基に、ポリマーまたは重合性化合物の主鎖中に存在する可能性がある1つまたは複数の他の基、例えば他のエステル基、チオエステル基、ウレタン基、または尿素基に比べて高選択度で抱合させることが可能であることが判明した。
【0016】
本発明の方法の利点は、本発明による酵素的プロセスが、化学的抱合プロセスに比べて環境に優しいことである。
【0017】
別の利点は、触媒量の安価でかつ再生利用できる酵素によって、生理活性部分を立体的に大きいポリマーまたは重合性化合物に選択的に抱合させることができることである。
【0018】
さらに別の利点は、抱合の前に、生理活性部分の反応性官能基は部分保護しか必要がなく、または全く保護する必要がないことである。
【0019】
さらに、生理活性部分を、保護されたカルボン酸基および保護されていないカルボン酸基に選択的に抱合させることができ、保護されている場合、例えばエステル基またはチオエステル基の場合に、脱保護ステップが必要でないことは別の利点である。
【0020】
生理活性部分が結合しているポリマーまたは重合性化合物が光学活性中心を有する場合、抱合反応中に、ポリマーまたは重合性化合物のラセミ化が全くまたはあまり起こらないことは別の利点である。
【0021】
本明細書では、「ポリマー」という用語は、相対分子質量の小さい分子に実質的または概念的に由来する単位の多数回の繰返しを本質的に含む構造を表す。このようなポリマーとして、架橋ネットワーク、樹状および超分岐ポリマー、ならびに線状ポリマーを挙げることができる。オリゴマーは、1種のポリマー、すなわち相対分子質量の小さい分子に実質的または概念的に由来する単位の繰返し回数が比較的少ないポリマーとみなされる。
【0022】
ポリマーは、分子量が200Da以上、400Da以上、800Da以上、1000Da以上、2000Da以上、4000Da以上、8000Da以上、10000Da以上、100000Da以上、または1000000Da以上であってもよい。比較的低い質量、例えば8000Da以下、具体的には4000Da以下、さらに具体的には1000Da以下のポリマーをオリゴマーと呼ぶことができる。
【0023】
ペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステルは、ポリマー主鎖中に存在しない、または次の重合ステップにおいて得られるポリマー主鎖中に存在しないカルボン酸、エステル、またはチオエステル基を意味する。
【0024】
本発明が、生理活性部分と、ポリマーもしくはオリゴマーなどの化合物、または大きい重合性化合物、例えば1つを超える重合性部分を含む化合物中の立体的に近づき難いペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基との選択的抱合を可能にすることは特に驚くべきことである。
【0025】
具体的には、本発明は、ペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基が、(a)少なくとも2つの重合性部分と(b)少なくとも1つのアミノ酸残基とを含むポリマーまたは重合性化合物の一部分である方法に関する。
【0026】
本発明による方法は、生理活性部分をポリマーまたは重合性化合物のペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基と選択的に抱合させるのに特に有用であるが、ポリマーまたは重合性化合物は、(a)少なくとも2つの重合性部分と(b)少なくとも2つのアミン基を含むアミノ酸の少なくとも1つのアミノ酸残基とを含み、少なくとも2つのアミン基は、尿素基、チオ尿素基、ウレタン基、またはチオウレタン基を形成している。
【0027】
したがって、本発明は、市販品として容易に入手可能なまたは容易に合成可能な出発化合物から得ることができるポリマーまたは重合性化合物中のペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基の選択的抱合を可能にする。例えば、ウレタンは、ジアミノ酸から調製することができるが、そのカルボン酸基は、第一級アルキルエステル、例えばL−リシンメチルエステルなどのメチルエステルで保護されている。
【0028】
さらに、生理活性部分との高選択的抱合が、化学量論量の高価でかつ環境に優しくないカップリング剤を必要とすることなく実現できることは有利である。
【0029】
ポリマーまたは重合性化合物は、ペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基以外に、尿素基、チオ尿素基、ウレタン基、チオウレタン基、他のエステル基、アミド基、糖ペプチド基、カーボネート基、スルホン、および炭水化物基から選択される部分を含んでもよい。
【0030】
本発明による方法は、さらに具体的には、生理活性部分を、式Iで表わされるポリマーまたは重合性化合物:
【化1】



に選択的に抱合させるのに有用であり、
−Gは、少なくともn個の官能基を有する多官能性化合物の残基または部分Xであり、
−Xは、重合性基を含む部分を表し、
−G=Xである場合、式Iは重合性化合物を表し、
−GがXと異なる場合、式Iはポリマーまたはオリゴマーを表し、
−Yはそれぞれ独立に、O、S、またはNRを表し、
−Wはそれぞれ独立に、OまたはSを表し、
−Qは、OまたはSを表し、
−Rはそれぞれ独立に、水素、あるいは1つまたは複数のヘテロ原子を場合によっては含む置換および非置換炭化水素から選択される基を表し、
−Lは、1つまたは複数のヘテロ原子を場合によっては含む置換または非置換炭化水素基を表し、
−nは、少なくとも1の値を有する整数であり、
−Zは、H、あるいは置換または非置換炭化水素基である。
【0031】
原則として、Gは、−OH、−NH、−RNH、または−SHで場合によっては官能化されている多官能性ポリマーまたはオリゴマーであり、反応して、式Iを生じる基は、−OH、第一級アミン、第二級アミン、または−SHである。GがXでない場合、Gは、ポリエステル、ポリチオエステル、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリチオエーテル、およびポリエーテルから選択されてもよい。
【0032】
特に、Gは、ポリ乳酸(PLA);ポリグリコリド(PGA);ポリ酸無水物;ポリトリメチレンカーボネート;ポリオルトエステル;ポリジオキサノン;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL);ポリウレタン;ポリビニルアルコール(PVA);ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール(PEG);好ましくはポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドから選択されるポリアルキレンオキシド;ポリエーテル;ポロキサミン;ポリヒドロキシ酸;ポリカーボネート;ポリアミノカーボネート;ポリビニルピロリドン;ポリエチルオキサゾリン;カルボキシメチルセルロース;ヒドロキシエチルセルロースやメチルヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキル化セルロース;ポリペプチド、多糖および炭水化物(ポリスクロース、ヒアルラニックアシッド、デキストランおよびその誘導体、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、アルギネートなど)、ならびにタンパク質(ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、またはオバルブミンなど)などの天然ポリマー;ならびにこれらの部分のいずれかを含むそれらのコオリゴマー、コポリマー、およびブレンドから選択されてもよい。
【0033】
部分Gは、その生物学的安定性および/または生分解性に基づいて選択されてもよい。生物学的安定性の高い化合物またはポリマーまたは物品を提供するには、ポリエーテル、ポリチオエーテル、芳香族ポリエステル、芳香族チオエステルが、一般に特に適している。生分解性を付与するオリゴマーおよびポリマーの好ましい例としては、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリチオエステル、脂肪族ポリアミド、および脂肪族ポリペプチドが挙げられる。
【0034】
好ましくは、Gは、ポリエステル、ポリチオエステル、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリチオエーテル、およびポリエーテルから選択される。特に、ポリエーテル、具体的にはポリアルキレングリコール、さらに具体的にはポリエチレングリコール(PEG)で、良好な結果が実現した。
【0035】
疎水性ポリマーの場合、Gは、好適にはポリブチレンオキシドまたはポリテトラメチレングリコール(PTGL)などの疎水性ポリエーテルから選択されてもよい。
【0036】
PEGなどのポリアルキレングリコールは、生成物が、タンパク質を含有する体液、例えば血液、血漿、血清、または細胞外マトリックスと接触している可能性がある用途において有利である。特に、汚損する傾向が少なく(非特異的タンパク質吸収が低い)、かつ/または生体組織の接着に有利な影響を及ぼすことがある。シグナル伝達ペプチドまたは生体分子が、細胞とコミュニケーションするのに必要であるとき、低汚損が望ましい。この場合、シグナル伝達ペプチドまたは生体分子が、非特異的タンパク質吸着によって隠蔽されることも覆われることもないことは重要である。
【0037】
部分Gの数平均分子量(Mn)は、通常少なくとも200g/mol、特に少なくとも500g/molである。機械的特性の改善には、Mnは好ましくは少なくとも2000g/molである。部分Gの数平均分子量は、通常100000g/molまでである。数平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で求められる。
【0038】
炭化水素基Zは、原則として、N、S、O、Cl、F、Br、およびIの群から選択される1つまたは複数のヘテロ原子など、1つまたは複数のヘテロ原子を場合によっては含む任意の置換または非置換アルキルまたはアリール基であってもよい。通常、C原子の数は、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜6個である。炭化水素は、直鎖状、分枝状、または環状であってもよい。アルキル基が保護基として極めて適しているので、最も好ましいのはアルキル基である。アルキル基は、非置換アルキル基でも、置換アルキル基、例えばヒドロキシアルキル基でもよい。
【0039】
好ましくは、アルキル基は、メチル、エチル、またはn−プロピルとすることができる。最も好ましくは、アルキル基はメチル基である。
【0040】
原則として、重合性化合物中の重合性部分(式Iにおいて、「X」など)は、ポリマーの生成を可能にする部分であればいずれでもよい。特に、付加反応によって重合可能な部分から選択してもよい。このようなタイプの反応は、容易であり、うまく制御できることが判明した。さらに、重合反応は、脱離基から生成された生成物など、望ましくない副生物を生成することなく実施することができる。
【0041】
好ましくは、重合性部分によって、ラジカル重合が可能になる。これは、熱開始重合反応の代わりに、光開始剤の存在下、UV、可視光、マイクロ波、近IR、γ線などの電磁放射線、または電子線により重合を開始することが可能になるので有利であることが判明した。これにより、ポリマーまたは重合性化合物(の一部分)の熱変性もしくは分解のリスクが全くなく、または少なくとも低下して、急速な重合が可能になる。熱重合は、特に生物学的部分、または熱が加われば影響を受けるはずの部分が存在しない場合に使用してもよい。例えば、熱重合は、1つまたは複数のオリゴペプチドおよび/またはタンパク質が、生理活性部分を形成し、またはその一部分であり、その活性部位が、高温での重合に必要とされる高温の影響を受けないとき使用してもよい。
【0042】
重合性部分(式Iにおいて、「X」)の好ましい例としては、C=C結合(特に、ビニル基)またはC≡C基(特に、アセチレン基)などの不飽和炭素−炭素結合を含む基、チオール基、エポキシド、オキセタン、ヒドロキシル基、エーテル、チオエーテル、HS−、HN−、−COOH、HS−(C=O)−、またはそれらの組合せ、特にチオールとC=C基の組合せが挙げられる。
【0043】
特に好ましいのは、ヒドロキシル(メタ)アクリレートを含めて、アクリレート;ヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレートを含めて、アルキル(メタ)アクリレート;ビニルエーテル;アルキルエーテル;不飽和ジエステルおよび不飽和二酸もしくはその塩(フマル酸塩など);ならびにビニルスルホン、ビニルホスフェート、アルケン、不飽和エステル、フマレート、マレエート、またはそれらの組合せからなる群から選択される重合性部分である。より好ましいのは、アクリレート、メタクリレート、イタコネート、ビニルエーテル、プロペニルエーテル、アルキルアクリレート、およびアルキルメタクリレートから選択される部分である。最も好ましいのは、(メタ)アクリレートおよびアルキル(メタ)アクリレート、特にヒドロキシアルキルメタアクリレートおよびヒドロキシアルキルアクリレートから選択される部分である。このような部分は、容易に入手可能な出発材料から出発して、本発明の重合性化合物に導入することができ、良好な生体適合性を示し、インビボまたは他の医学的用途に特に有用となる。
【0044】
特に、X−Y部分がヒドロキシエチルアクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリレートを表す重合性化合物で、良好な結果が実現した。
【0045】
さらに好ましい実施形態において、重合性部分Xは、式−RC=CHで表わされ、式中、Rは、エステル部分、エーテル部分、チオエステル部分、チオエーテル部分、ウレタン部分、チオウレタン部分、アミド部分、ならびに1つまたは複数のヘテロ原子、特にS、O、P、およびNから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含む他の部分からなる群から選択される1つまたは複数の部分を場合によっては含む置換および非置換の脂肪族、脂環式、および芳香族炭化水素基の群から選択される。Rは、直鎖状でも、分枝状でもよい。特に、Rは、1〜20個の炭素原子を含んでもよく、さらに具体的には置換または非置換のC〜C20アルキレン、さらに具体的には置換または非置換のC〜C14アルキレンであってもよい。Rは、水素、ならびに置換および非置換アルキル基の群から選択されるが、アルキル基は、1つまたは複数のヘテロ原子、特にP、S、O、およびNから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を場合によっては含む。Rは、直鎖状でも、分枝状でもよい。特に、Rは、水素、または置換または非置換のC〜Cアルキル、特に置換または非置換のC〜Cアルキルであってもよい。
【0046】
アミノ酸部分(式Iにおいて、「L」)は、N、S、P、および/またはOなど、ヘテロ原子を含有してもよい置換または非置換炭化水素である。
【0047】
アミノ酸部分Lは、アミノ酸のD型異性体に基づいても、L型異性体に基づいてもよい。好ましくは、LはC1〜C20炭化水素であり、より好ましくは、Lは直鎖状または分枝状C1〜C20アルキレン、さらにより好ましくはC2〜C12アルキレン、最も好ましくはC3〜C8アルキレンであり、アルキレンは、置換されていなくても、置換されていてもよく、かつ/または1つまたは複数のヘテロ原子を場合によっては含む。炭素原子の数は、8個以下など、好ましくは比較的少ない。
【0048】
ポリマーまたは重合性化合物が医学的用途で使用されるよう意図されている場合、さらに具体的にはインビボで使用されるよう意図されている場合、アミノ酸部分は天然アミノ酸に基づくことが好ましい。これは、化合物またはポリマーが生分解性である場合に特に望ましい。それを考慮して、好ましいアミノ酸部分は、L型またはD型立体配置の、あるいはD型異性体もしくはL型異性体のラセミ化合物としてのまたは任意の混合物としてのリシン、ヒドロキシリシン、メチル化リシン、アルギニン、アスパラギン、ジアミノブタン酸、およびグルタミンの部分である。好ましくは、アミノ酸部分はL型立体配置である。特に、L−リシンで、良好な結果が実現した。
【0049】
さらに具体的には、本発明は、重合性化合物が式Iで表わされる方法であって、式中、
−GはXであり、
−Yはそれぞれ、Oであり、かつXはそれぞれ、ヒドロキシアルキレン、ヒドロキシエチルアクリレート、またはヒドロキシエチルメタクリレートを含む部分を表し、
−Rはそれぞれ、水素を表し、
−Lは、アミノ酸部分を表し、
−n=1であり、
−WはOであり、
−QはOであり、
−Zは、H、または1〜6個のC原子を有するアルキル基である
方法に関する。
【0050】
さらにより好ましくは、本発明は、重合性化合物が式Iで表わされる方法であって、式中、
−GはXであり、
−Xはそれぞれ、ヒドロキシエチルアクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリレートを含む部分を表し、
−Yはそれぞれ、Oを表し、
−Rはそれぞれ、水素を表し、
−Lは、アミノ酸部分を表し、
−n=1であり、
−WはOであり、
−QはOであり、
−Zは、メチル、エチル、またはn−プロピル基である
方法に関する。
【0051】
生理活性部分は、例えば薬剤、安定化剤、抗血栓性部分、親水性を増加させる部分、または疎水性を増加させる部分から選択される。
【0052】
例えば、生理活性部分は、細胞シグナル伝達部分、化合物、ポリマーまたは物品への細胞接着を改善することができる部分、細胞増殖(増殖の刺激または抑制など)を制御することができる部分、抗血栓性部分、創傷治癒を改善することができる部分、神経系に影響を及ぼすことができる部分、特定の組織または細胞の種類に対して選択的親和性を有する部分、および抗菌性部分から選択されてもよい。部分は、化合物、ポリマー、もしくは物品の残部に結合しているとき、および/またはそれから遊離するとき、活性を発揮することができる。抱合させることができる生理活性部分の例としては、パーフルオロアルカン、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド(親水性を増加させ、かつおよび/または汚損を低減するため);ポリオキサゾリン;アミノ酸;環式ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、糖ペプチドを含めてペプチド、および糖タンパク質を含めてタンパク質;モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドを含めてヌクレオチド;ならびに炭水化物が挙げられる。好ましくは、アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質が抱合される。
【0053】
創傷治癒を刺激するため、アミノ酸(アルギニン、グルタミン)を、または神経系の機能を調節するのにアミノ酸(アスパラギン)を抱合させてもよい。
【0054】
ペプチドは、生物学的応答(例えば、細胞の成長増殖または細胞接着の増強)を増強または抑制することができるエピトープであり得る。例えば、抗体結合の増強が必要とされる場合、エピトープが最も明白な選択である。
【0055】
ペプチドの例は、アミノ酸から構成される、表Iに記載されるような配列を含み、その略語は当業者に周知である。
【0056】
【表1】



【0057】
環式ペプチドの好ましい例は、抗菌剤であるグラマシジンSである。
【0058】
適当なペプチドの別の例としては、特に血管内皮増殖因子(VEGF)、形質転換成長因子β(TGF−β)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、上皮成長因子(EGF)、骨形成タンパク質(OP)、単球走化性タンパク質(MCP 1)、腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。特に、本発明の化合物の一部分を形成してもよいタンパク質の例としては、成長因子、ケモカイン、サイトカイン、細胞外マトリックスタンパク質、グリコサミノグリカン、アンジオポエチン、エフリン、および抗体が挙げられる。
【0059】
好ましい炭水化物は、抗血栓性であるヘパリンである。
【0060】
ヌクレオチドは、特に遺伝子療法用ヌクレオチドなど治療用ヌクレオチド、および好ましくは高い選択性および/または親和性を有して細胞性またはウイルス性タンパク質に結合することができるヌクレオチドから選択されてもよい。
【0061】
好ましいヌクレオチドとしては、アプタマーが挙げられる。DNAベースとRNAベースの両方のアプタマーの例は、Nimjeeら、Annu. Rev. Med. 2005,56,555−583に記載されている。ウイルス性TATタンパク質または細胞性タンパク質サイクリンT1に結合して、HIV複製を抑制するRNAリガンドTAR(トランス活性化応答)は、アプタマーの一例である。さらに、好ましいヌクレオチドとしては、VA−RNA、および細胞増殖を調節する転写因子E2Fが挙げられる。
【0062】
加水分解酵素は、好ましくはカルボン酸エステル加水分解酵素(E.C. 3.1.1)、チオエステル加水分解酵素(E.C.3.1.2)、またはペプチダーゼ(E.C. 3.4)の群から選択される。
【0063】
好ましくは、加水分解酵素は、セリン型カルボキシペプチダーゼ(E.C. 3.4.16)、メタロカルボキシペプチダーゼ(E.C. 3.4.17)、システイン型カルボキシペプチダーゼ(E.C. 3.4.18)、セリンエンドペプチダーゼ(E.C. 3.4.21)、システインエンドペプチダーゼ(E.C. 3.4.22)、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ(E.C. 3.4.23)、またはメタロエンドペプチダーゼ(E.C. 3.4.24)の群から選択されるペプチダーゼである。最も好ましい酵素は、サブチリシン(E.C. 3.4.21.62)などのセリンエンドペプチダーゼ、好ましくはサブチリシン・カールスバーグ(subtilisin Carlsberg)、またはパパイン(E.C. 3.4.22.2)などのシステインエンドペプチダーゼである。酵素は、好ましくはカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼB(CALB)、リポザイム(lypozyme)RM、ピカンターゼ(Piccantase)A(登録商標)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ、熱安定エステラーゼまたはリリパーゼ(lilipase)から選択されるカルボン酸エステル加水分解酵素から選択されてもよい。
【0064】
加水分解酵素は、任意の有機体、特に動物、植物、細菌、カビ、酵母、または真菌から得るまたは誘導することができる。特定の供給源からの酵素について述べられているとき、第1有機体を起源とするが、実際には(遺伝子組換え)第2有機体において産生された組換え酵素は、具体的にはその第1有機体に由来する酵素として包含されるよう意図されている。
【0065】
加水分解酵素を固定化し、具体的には例えばアクリル酸担体などの担体にロードし、またはその保持されていない、すなわち遊離の形で使用してもよい。適当な固定化技法は、一般に当技術分野で周知である。
【0066】
ペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステルを抱合し、さらに具体的にはペンダント型メチルエステルを抱合するために、特にペプチダーゼ、特にエンドペプチダーゼ、より好ましくはパパインまたはサブチリシンで、良好な結果が実現した。
【0067】
本プロセスにおいて存在または使用する酵素の量を絶対値(例えば、グラム)で決定するのは、その純度が低い場合が多く、かつ一部分が不活性または部分活性な状態である可能性があるので困難である。より関連したパラメータは、酵素調製物の活性および任意の汚染酵素の活性である。これらの活性は、通常標準条件下で1分間当たり1マイクロモルの基質の変化を触媒する量と定義される活性単位(U)で表して測定される。典型的には、これは、純酵素の場合10−6〜10−11kg、および工業用酵素調製物の場合10−4〜10−7kgを表す。ポリマーまたは重合性化合物1グラム当たりの加水分解酵素の量は、原理的にはクリティカルではなく、例えばペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基の反応性および酵素の費用価格に依存する可能性がある。酵素の典型的な量は、重合性化合物のポリマー1グラム当たり0.01〜1000Uである。好ましくは、0.1〜100U/gが使用され、最も好ましくは1〜10U/gが使用される。
【0068】
生理活性部分のポリマーまたは重合性化合物への抱合は、一般に穏やかな条件および/または環境に優しい条件下で実施し得る。例えば、ポリマーまたは重合性化合物中に存在するいずれの加水分解性基も加水分解するはずである高酸性またはアルカリ性条件は必要とされない。通常、抱合は、ほぼ中性のpH、わずかにアルカリ性またはわずかに酸性のpH、例えば4〜10のpHで実施してもよい。ポリマーまたは重合性化合物、酵素、および反応条件に依存する特定のpHは、当業者が容易に決定することができる。
【0069】
特に酵素が十分に選択的な活性を示す場合、よりアルカリ性または酸性のpHも原理的には使用してもよい。好ましいpHは、pHの関数として既知のまたは実験的に決定可能な酵素活性曲線、および本明細書に開示する情報に基づいて選択することができる。
【0070】
本発明による方法は、水、水と1つもしくは複数の水混和性有機溶媒の混合物、水と1つもしくは複数の水不混和性有機溶媒の混合物、または1つまたは複数の有機溶媒中で実施することができる。1つまたは複数の有機溶媒が使用される場合、低級アルコールの群、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、およびヘキサノールから選択されてもよい。アルコールは、第一級アルコールでも、第二級アルコールでも、第三級アルコールでもよい。特に好ましいのは、t−ブタノールまたはt−アミルアルコールなど第三級アルコールである。有機溶媒は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、ジオキサン、アセトン、酢酸エチル、メチル−tert−ブチルエーテル(MBTE)からも選択してもよい。
【0071】
含水率は、ポリマーまたは重合性化合物、酵素、および反応条件に依存する。
【0072】
酵素的抱合反応の温度は、温度の関数としての酵素活性や特定の温度における酵素の安定性などの因子を考慮して、通常広い制限内で選択することができる。通常、温度は少なくとも0℃、特に少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも15℃である。通常、温度は80℃まで、より好ましくは60℃までである。
【0073】
生理活性部分の抱合は、重合性化合物の場合、重合の前、最中、または後に行われてもよい。抱合は、ポリマーに形が与えられた後でさえ行われてもよい。形は、例えばコーティング、皮膜、多孔質足場、ミセル、マイクロスフェア、ナノ粒子、リポソーム、繊維、ゲル、ロッド、またはポリメロソームであってもよい。
【0074】
生理活性部分を抱合しているポリマーは、ポリマー−薬物コンジュゲートが化学療法で、また生物製剤を制御および標的薬物送達するために使用されている製薬部門においてだけでなく、ポリマー−ペプチドまたは抗体コンジュゲートを標的薬物送達するために使用する際にも広く使用されている。さらに、ポリマー−ペプチドコンジュゲートは、組織工学用の材料としても使用されている。
【0075】
次に、下記の実施例で本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0076】
方法および材料
HPLC法
HP1090液体クロマトグラフで、Inertsil ODS−3(長さ150mm、内径4.6mm)カラムを40℃で使用して、分析用HPLC図を記録した。UV検出は、UVVIS204Linear分光計を使用し220nmで実施した。グラジエントプログラムは、0〜25分の直線グラジエントランプで緩衝液B5%→98%、25.1〜30分から緩衝液B5%まで(緩衝液A:HO中0.5ml/L メタンスルホン酸(MSA)、緩衝液B:アセトニトリル中0.5ml/L MSA)である。流速は、0〜25.1分では1mL/分、および25.2〜29.8分では2ml/分であり、次いで30分に終了するまで1ml/分に戻した。注入量は20μLであった。アジレント1100シリーズシステムで、分析HPLCの場合と同じカラムおよび同一の流速条件を用いて、HPLC−MS図を記録した。
【0077】
保持時間:
LDI−(HEMA)−OMe:17.02分
LDI−(HEMA)−OH:15.10分
LDI−(HEMA)−Gly−NH:13.56分
LDI−(HEMA)−Gly−Gly:13.61分
LDI−(HEMA)−Gly−Phe:16.24分
LDI−(HEMA)−Gly−Phe−NH:15.70分
LDI−(HEMA)−Ser−Trp:15.46分
LDI−(HEMA)−Gly−Arg:10.41分
LDI−(HEMA)−Gly−Ala−Gly:13.15分
LDI−(HEMA)Gly−Arg−Gly−Asp−Ser:9.81分
LDI−(HEMA)−Gly−Arg−(Pmc)−Gly−Asp−(OBu)−Ser−(OBu):23.82分
LDI−(HEMA)−Leu−NH:15.7分
LDI−(HEMA)−Leu−OBu:21.5分
LDI−(HEMA)−Val−NH:14.8分
LDI−(HEMA)−Leu−Phe:18.3分
LDI−(HEMA)−Leu−Pro−Pro:15.9分
LDI−(HEMA)−Ile−Pro−Pro:15.8分
LDI−(4−ペンテン)−OMe:20.5分
LDI−(4−ペンテン)−OH:17.4分
LDI−(4−ペンテン)−Gly−Arg−Gly−Asp−Ser:10.9分
LDI−(4−ペンテン)−Gly−Arg−(Pmc)−Gly−Asp−(OBu)−Ser−(OBu):25.0分
LDI−(4−ペンテン)−Leu−Leu−OBu:23.8分
LDI−(4−ペンテン)−Leu−Pro−Pro:18.2分
LDI−(4−ペンテン)−Ser−Trp:18.4分
LDI−(4−ペンテン)−Gly−NH:14.74分
【0078】
材料
I. LDI−(HEMA)_OMeの合成(図1)
α,Nε−ジ−(2−メタクリルオキシ−エトキシカルボニル)−L−リシンメチルエステル(LDI−(HEMA)_OMe)を、以下の通り調製した。
【0079】
L−リシン−ジイソシアネートメチルエステル(251mmol)、スズ(II)−エチルヘキサノエート(0.120g)、およびイルガノックス(Irganox)1035(150mg)に、乾燥空気下、制御温度(<5℃)で2−ヒドロキシエチル−メタクリレート(HEMA、502mmol)を滴下した。反応混合物を40℃で18時間撹拌した。この間に、IRのν=2260cm−1におけるNCO伸縮振動が消失していた。溶媒を真空で蒸発させて、生成物をオイルとして得た。
【0080】
H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ 6.13−6.10(m,2H),5.57(q,J=1.5Hz,2H),5.36(d,J=8.0Hz,1H),4.85(bs,1H),4.35−4.27(m,9H),3.73(s,3H),3.16(q,J=6.4Hz,2H),1.93(s,6H),1.88−1.76(m,1H),1.74−1.61(m,1H),1.55−1.44(m,2H),1.42−1.30(m,2H).
【化2】



【0081】
II. LDI−(4−ペンテン)_OMeの合成(図2)
α,Nε−ジ−(4−ペンテン−1−オキシカルボニル)−L−リシンメチルエステル(LDI−(4−ペンテン)_OMe)(図2)を、以下の通り調製した。
【0082】
L−リシン−ジイソシアネート−メチルエステル(5.3g、25mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(30mL)に溶解した。得られた溶液に、2−エチルヘキサン酸スズ(II)(25mg、0.061mmol)を添加し、溶液を0℃に冷却し、4−ペンテノール(4.3g、50mmol)を30分かけて滴下した。反応をIR分光法(2260cm−1、−N=C=O)で観測した。2時間後、37.5mgの2−エチルヘキサン酸スズ(II)(0.092mmol)を添加した。反応を0℃でさらに1時間維持し、次いで室温で18時間撹拌した。最後に、有機溶媒を真空で除去して、無色オイルとして表題化合物を9.6g(25mmol、収率100%)得た。
【0083】
H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.80−5.66(m,2H,−CH=CH);5.16(m,1H,−NH−CH);4.95−5.02(m,4H,−CH=CH);4.62(m,1H,−CH−);4.26(m,1H,−NHCH−);4.0(m,4H,−(C=O)OCH−);3.69(s,3H,−CH);3.10(m,2H,−CHCHNH−);2.05(m,4H,CH=CHCH−);1.82−1.41(m,10H,CH=CHCHCH−,−NHCHCHCHCH−).
【化3】



【0084】
[実施例1]
サブチリシン−AによるLDI−(HEMA)_OMeおよびLDI−(4−ペンテン)−OMeへのペプチドカップリング(図3)
1.5mLのアセトニトリル中110μmolのLDI−(HEMA)_OMeまたはLDI−(4−ペンテン)−OMeの溶液を撹拌して、表IIおよびIIIに示すように2.6mLのDMFに2〜4当量のアミノ酸またはペプチド誘導体および2〜4当量のピペリジンを溶解した溶液を添加した。続いて、0.2mLの蒸留HOに溶解した22mgのサブチリシン−A(バッチ番号8356056、1mg当たりの活性単位7〜15単位、Novozyme製)を添加し、反応混合物を周囲温度で撹拌した。反応をHPLC分析で観測した。
【0085】
反応混合物から、一定の時間間隔で10μLずつ試料を採取した。10μLの試料を0.5mLのアセトニトリルまたはメタノールで希釈し、シリンジフィルタ(アジレントテクノロジーズ(Agilent Technologies)、再生セルロースのメンブラン、孔径0.45μm、直径13mm)で濾過し、HPLCで分析した。
【0086】
生成物の同定は、未精製反応混合物を使用してHPLC−MSにより、またはそのHPLC図と化学的に合成された基準化合物のHPLC図との比較により行った。アジレント1100シリーズシステムで、分析HPLCの場合と同じカラムおよび同一の流速条件を用いて、HPLC−MS図を記録した。結果を表IIおよびIIIに示す。
【化4】



【0087】
反応中に、LDI−(HEMA)2−OMe出発材料は、ペプチド(またはアミノ酸)求核試薬と酵素カップリングすることによって所望の生成物であるLDI−(HEMA)2−ペプチドに変換される。選択される酵素の加水分解活性のため、LDI−(HEMA)−OMeは、(水が存在する場合)対応するLDI−(HEMA)−OHに部分加水分解される。
【0088】
典型的な最終反応混合物中に存在する化合物は、出発材料LDI−(HEMA)2−OMe、ペプチド(またはアミノ酸)、生成物LDI−(HEMA)2−ペプチド(またはLDI−(HEMA)2−アミノ酸)、および加水分解されたLDI−(HEMA)2−OHである。
【0089】
LDI−(4−ペンテン)−OMeのカップリングについても、同じ反応スキームが当てはまる。
【0090】
[実施例2]
パパインによるLDI−(HEMA)−OMeおよびLDI−(4−ペンテン)−OMeへのペプチドカップリング
1.2mLのアセトニトリル中110μmolのLDI−(HEMA)−OMeまたはLDI−(4−ペンテン)−OMeの撹拌した溶液に、2〜8当量のアミノ酸またはペプチド誘導体の溶液を添加した。HCl塩として使用されたアミノ酸またはペプチド誘導体の場合、同じ当量のトリエチルアミンを添加した(表IIを参照のこと)。続いて、表IIおよびIIIに示すように10mgのジチオスレイトール(DTT)、100mgのパパイン(メルク(Merck)製、カリカ・パパイア(Carica Papaya)由来、30000USP−U/mg、art. 7144、バッチ番号333 F677044)、および0.8mLの100mM緩衝液を添加し、反応混合物を37℃で撹拌した。
【0091】
反応をHPLC分析で観測した。反応混合物から、一定の時間間隔で10μLずつ試料を採取した。10μLの試料を0.5mLのアセトニトリルで希釈し、シリンジフィルタ(アジレントテクノロジーズ、再生セルロースのメンブラン、孔径0.45μm、直径13mm)で濾過し、HPLCで分析した。
【0092】
生成物の同定は、未精製反応混合物を使用してHPLC−MSにより、またはそのHPLC図と化学的に合成された基準化合物のHPLC図との比較により行った。アジレント1100シリーズシステムで、分析HPLCの場合と同じカラムおよび同一の流速条件を用いて、HPLC−MS図を記録した。
【0093】
結果を表IIおよびIIIに示す。
【0094】
【表2】



【0095】
反応収率は、HPLC分析で面積百分率として、以下の通り定義して決定した。
【数1】



【0096】
ペプチドまたはアミノ酸がPmc基を含む場合、反応収率は、HPLC分析で面積百分率として、以下の通り定義して決定した。
【数2】



【0097】
表IIおよびIIIに記載された反応時間は、所望の生成物への最大変換率と相関する。
【0098】
【表3】



【0099】
反応収率は、HPLC分析で面積百分率として、以下の通り定義して決定した。
【数3】



【0100】
ペプチドまたはアミノ酸がPmc基を含む場合、反応収率は、HPLC分析で面積百分率として、以下の通り定義して決定した。
【数4】



【0101】
表IIおよびIIIから、アミノ酸またはペプチド求核試薬がN末端にGlyを有する場合、サブチリシンを使用することが好ましいことが明らかである。N末端に別のアミノ酸またはペプチド求核試薬が使用されている場合、パパインを使用することが好ましい。
【0102】
[実施例3]
Cal−BによるLDI−(4−ペンテン)−OMeへのペプチドカップリング
2.0mLのアセトニトリル中0.5mmolのLDI−(4−ペンテン)−OMeの撹拌した溶液に、4当量のH−Gly−NH.HCl(220mg)および4当量のピペリジン(0.20mL)を添加した。続いて、220mgのCal−B(Novozyme製、カンジダ・アンタルクチカ(Candida Antarctica)由来のリパーゼNovozym 435、バッチ番号LC200204)を添加し、反応混合物を50℃で撹拌した。3日後、出発材料の15%が、生成物のLDI−(4−ペンテン)−Gly−NH)に変換されていた。
【0103】
生成物の同定は、未精製反応混合物を使用してHPLC−MSにより、かつそのHPLC図と化学的に合成された参照化合物のHPLC図との比較により行った。アジレント1100シリーズシステムで、分析HPLCの場合と同じカラムおよび同一の流速条件を用いて、HPLC−MS図を記録した。
【0104】
データはHPLC面積百分率である。
【数5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性部分のペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基への選択的抱合方法であって、ペンダント基は、ポリマーまたは重合性化合物の一部分であり、ポリマーまたは重合性化合物と加水分解酵素を接触させて、生理活性部分とペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基との抱合を触媒するステップを含む方法。
【請求項2】
ペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基が、(a)少なくとも2つの重合性部分と(b)少なくとも1つのアミノ酸残基とを含むポリマーまたは重合性化合物の一部分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリマーまたは重合性化合物が、ペンダント型カルボン酸、エステル、またはチオエステル基以外に、尿素基、チオ尿素基、ウレタン基、チオウレタン基、エステル基、アミド基、糖ペプチド基、カーボネート基、スルホン、または炭水化物基から選択される部分を含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
重合性化合物が式Iで表わされ、
【化1】



式中、
−Gは、少なくともn個の官能基を有する多官能性化合物の残基または部分Xであり、
−Xはそれぞれ独立に、重合性基を含む部分を表し、
−Yはそれぞれ独立に、O、S、またはNRを表し、
−Rはそれぞれ独立に、水素、または1つまたは複数のヘテロ原子を場合によっては含む置換および非置換炭化水素から選択される基を表し、
−Lは、1つまたは複数のヘテロ原子を場合によっては含む置換または非置換の炭化水素基を表し、
−nは、少なくとも1の値を有する整数であり、
−WはOまたはSであり、
−QはOまたはSであり、
−Zは、H、あるいは置換または非置換の炭化水素基である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
−GはXであり、
−それぞれY=Oであり、かつXはそれぞれ、ヒドロキシアルキレン、ヒドロキシエチルアクリレート、またはヒドロキシエチルメタクリレートを含む部分を表し、
−Rはそれぞれ、水素を表し、
−Lは、アミノ酸部分を表し、
−n=1であり、
−WはOであり、
−QはOであり、
−Zは、H、または1〜6個のC原子を有するアルキル基である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸部分が、リシン部分、ジアミノプロピオン酸部分、ヒドロキシルリシン部分、N−α−メチル化リシン部分、またはジアミノブタン酸部分から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸残基がL型立体配置である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
ポリマーが、請求項5〜7のいずれか一項に記載の化合物から構成されるポリマーである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ポリマーまたは重合性化合物が、1つまたは複数のリシン−メチルエステル部分を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
加水分解酵素が、カルボン酸エステル加水分解酵素、チオエステル加水分解酵素、またはペプチダーゼの群から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
加水分解酵素が、セリン型カルボキシペプチダーゼ、メタロカルボキシペプチダーゼ、システイン型カルボキシペプチダーゼ、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドペプチダーゼ、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ、およびメタロエンドペプチダーゼの群から選択されるペプチダーゼである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
酵素がセリンエンドペプチダーゼである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
酵素がサブチリシンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
酵素がサブチリシン・カールスバーグ(subtilisin Carlsberg)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
酵素がシステインエンドペプチダーゼである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
酵素がパパインである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
酵素が、カンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼB(CALB)、リポザイム(lypozyme)RM、ピカンターゼ(Piccantase)A(登録商標)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ、熱安定エステラーゼまたはリリパーゼ(lilipase)から選択されるカルボン酸エステル加水分解酵素である、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
生理活性部分の抱合が、重合性化合物の重合の前、最中、または後に行われてもよい、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
生理活性部分の抱合が、ポリマーに形が与えられた後に行われる、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
生理活性部分が、アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質から選択される、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−511829(P2011−511829A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546351(P2010−546351)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051714
【国際公開番号】WO2009/101178
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】