説明

生産管理システム

【課題】電子デバイスの製造に関して、製造工程フローの各工程は常に一定以上のスループットで処理を実施することのできる生産管理システムが必要である。
【解決手段】製造工程フロー中の各処理条件の平均回数と設備処理能力から、複数の異なる処理条件の工程を有する工程共用設備の各処理条件への能力割り当て比率下限値Xminを算出して、この値と能力割り当て比率実績値Xactualから能力割り当て達成率Xachieve= Xactual/ Xminを算出をして、それに基づいて工程共用設備に紐付く工程でのロット処理優先順を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイスの製造工程管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体メモリ等の電子デバイスを製造する従来の製造ラインでは、単一製品を大量に生産する大量少品種生産が主流であった。このような製造ラインでは、各加工設備は工程専用化されており特定の工程のみを処理をすればよい。
【0003】
これに対して、システムLSI等の電子デバイスを製造する近年の製造ラインでは、製品の市場要求に合わせて製造工程の異なる複数の製品を少量ずつ生産する少量多品種生産が主流である。このような製造ラインでは、従来のように加工設備が特定の工程のみを処理すると設備台数が増えまた設備に稼動ロスが発生するため、各加工設備は複数の処理条件の異なる工程を処理する必要がある。
【0004】
このように複雑化した生産ラインの加工設備では、処理ロットの処理優先順や処理の割り当て(以降これをディスパッチとする)によって設備の生産能力の低下やロットのリードタイム長期化、およびロット間のリードタイムばらつきが発生する。
【0005】
この課題を解決するために、特許文献1では複数の処理条件を処理する加工設備に関して各処理条件毎に在庫量の許容量Nmaxを設定して、その許容量Nmaxを超えた処理条件のロットから処理を実施することで、その加工設備における各処理条件間でのリードタイムの均等化、あるいはバランス化を実現している。
【特許文献1】特開2003-22119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子デバイスを製造する製造ラインでは、製造装置の価格が非常に高価であることから、設備の余剰能力はコスト低減の目的でできる限り持たないことが一般的である。そのためなんらかの理由で設備に稼動ロスが発生するとその分製造ラインの処理能力が低下するか、あるいは製品のリードタイムが大幅に長期化する。設備の稼動ロスは、設備故障などの計画外の設備停止によるロス、熱処理設備の温度条件変更などの処理条件変更によるロス、製造工程フロー内での在庫分布ばらつきに起因する加工設備の在庫不足による処理機会損失によるロスなどがある。
【0007】
このうち設備の処理機会損失によるリードタイム長期化を防止するために、理想的には製造工程フローの各工程は常に一定以上のスループットで処理を実施することが望ましい。
【0008】
上記特許文献1の生産管理手法は、複数の処理条件の異なる工程を有する加工設備に関して、在庫量がNmaxに達した処理条件のロットから処理を実施するようになっている。この方法によると、複数の処理条件のうちある特定の処理条件の在庫量のみが大きくなった場合、その処理条件の工程のロットのみを優先的に処理を実施し、それ以外の処理条件の工程のロットが処理されないことになる。そのため処理されない工程の製造工程フロー下流へのロットのスループットが減少して工程間でスループットの差異が発生することで、製造工程フロー下流工程の加工設備において処理機会損失による稼動ロスが発生するという課題がある。
【0009】
本発明は上記の課題を上記課題を解決するために提案されたものであって、電子デバイスの製造ラインにおける加工設備において、設備の処理機会損失による稼動ロスの発生を抑制して、生産ラインの生産能力の確保、リードタイム短縮およびロット間のリードタイムばらつきを抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために以下の手段を採用している。
【0011】
すなわち、本発明は、製造工程フロー中の各処理条件の平均回数(以下これを平均繰り返し回数とする)と設備処理能力から、複数の異なる処理条件の工程を有する工程共用設備の各処理条件への能力割り当て比率下限値Xminを決定する割り当て比率演算部を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
この生産管理システムによれば、工程共用設備の各処理条件への能力割り当て比率下限値Xminを演算する能力割り当て比率演算部と、能力割り当て比率実績値Xactualを演算する実績能力割り当て比率演算部、及び上記能力割り当て比率下限値Xmin、能力割り当て比率実績値Xactualから能力割り当て達成率Xachieveを算出してこれに基づき工程共用設備におけるロット処理計画を立案する処理計画立案部を備えており、処理計画立案部がXachieve<1の処理条件のロットを優先してロット処理計画を立案することで製造工程ラインの全工程が常に一定以上のスループットを維持することができ、それにより設備の稼動ロスを削減するという効果が得られる。
【0013】
本発明は、更に、繰り返し回数演算部を備え、工程共用設備の平均繰り返し回数を一定周期あるいはリアルタイムに算出し、当該繰り返し回数演算部の出力に基づいて共用設備の各処理条件への能力割り当て比率下限値Xminをリアルタイムに決定・修正する構成とすることもできる。
【0014】
この生産管理システムによれば、Xminを変動する工程共用設備の平均繰り返し回数に合わせて演算することができ、それにより実績に即したより正確なXachieveを演算することができることから、処理計画立案部がXachieve<1の処理条件のロットを優先してロット処理計画を立案することで製造工程ラインの全工程がより高精度に一定以上のスループットを維持することができ、それにより設備の稼動ロスを削減するという効果が得られる。
【0015】
更に、本発明は、工程共用設備の処理能力を一定周期あるいはリアルタイムに集計する設備処理能力演算部を備え、当該設備処理能力演算部の出力に基づいて上記割り当て比率演算部が共用設備の各処理条件への能力割り当て比率下限値Xminをリアルタイムに決定・修正する構成としてもよい。
【0016】
この生産管理システムによれば、Xminを変動する工程共用設備の処理能力に合わせて演算することができ、それにより実績に即したより正確なXachieveを演算することができることから、処理計画立案部がXachieve<1の処理条件のロットを優先してロット処理計画を立案することで製造工程ラインの全工程がより高精度に一定以上のスループットを維持することができ、それにより設備の稼動ロスを削減するという効果が得られる。
【0017】
上記構成に加え、更に、ディスパッチング部を備え、規定した各処理条件への能力割り当て比率下限値Xmin及び実績の能力割り当て比率Xactualに基づいてロットの処理計画を決定し実行する構成としてもよい。
【0018】
この生産管理システムによれば、処理計画立案部が立案したロット処理計画どおりのロット処理が実現することができ、それにより設備の稼動ロスを削減するという効果が得られる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明の生産管理システムによると、電子デバイスの製造に関して製造工程フローの各工程のスループットを常に一定以上に保つことが可能であり、それにより設備の処理機会損失による稼動ロスの発生を抑制して、生産ラインの生産能力の確保、リードタイム短縮およびロット間のリードタイムばらつきを抑制することが可能となるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の生産管理システムにおける生産管理に関して、以下に図面を参照して説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の生産管理システムの第1の実施の形態に係る一実施例におけるハードウェアの構成を示すブロック図である。
【0022】
図1において、処理実績収集部1は、工程1から工程xまで含む生産ライン10から各設備毎の処理ロット、処理条件、在庫ロット、処理開始終了日時及び稼働状況などの生産ラインデータを常時収集する。当該処理実績収集部1から得られた生産ラインデータは、実績処理データベース部2に蓄積される。更に、入力端末5からは、各設備毎または各処理条件毎または各設備の各処理条件毎の処理能力Th、製造工程フロー中の各処理条件の平均回数ni及び生産ラインの必要生産量Pが入力できるようになっている。
【0023】
能力割り当て比率演算部3は、上記、実績処理データベース部2に蓄積された生産ラインデータと入力端末5より入力された情報に基づいて、複数の処理条件の異なる工程を有する工程共有設備の各処理条件への処理能力割り当て下限値Xminを算出する。また、実績能力割り当て比率演算部4は実績処理データベース部2に蓄積された生産ラインデータに基づいて、複数の処理条件の異なる工程を有する工程共有設備の各処理条件への処理能力割り当て比率実績値Xactualを算出するようになっている。更に、処理計画立案部6は上記処理能力割り当て演算部3及び実績処理能力割り当て演算部4より得られた情報に基づいて、能力割り当て達成率Xachieveを算出して、これに基づき工程共用設備におけるロット処理計画を立案するようになっている。
【0024】
図5は本発明の生産管理システムの第1の実施の形態に係る一実施例におけるロット処理優先処理条件の決定方法を示すフローチャートである。能力割り当て比率演算部3では入力端末5より入力された生産ラインの必要生産量P(wafer/month)から製造工程フローの各工程の要求スループットF(wafer/hr)を式(数1)により算出する。
【0025】
【数1】

【0026】
なお、ここで、wafer/hrという単位は1時間当たりの基板(wafer)の処理枚数のことである。
【0027】
能力割り当て比率演算部3は、対象の工程共用設備の各工程がこの要求スループットFを満たすために必要な各処理条件への処理能力の割り当て下限値Xminを式(数2)により算出する。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、対象となる工程共用設備はi個の処理条件の異なる工程とTh(wafer/hr)の処理能力を持つ。また処理条件iの製造工程フロー中の平均処理回数はniであり、その工程専用設備は処理能力Thi(wafer/hr)を持つ。
【0030】
一方で実績能力割り当て比率演算部4では、対象の工程共用設備の各処理条件への能力割り当て比率の実績値Xactualを実績処理データベース部2に蓄積された生産ラインデータに基づいて、式(数3)により算出する。
【0031】
【数3】

【0032】
ここで、対象となる工程共用設備はある期間中に稼動時間PT(hr)を持ち、そのうち処理条件iを処理した稼動時間PTi(hr)を持つ。ここで稼動時間とは、加工設備がロットを処理している時間と定義する。
【0033】
処理計画立案部6は、能力割り当て比率演算部3からの能力の割り当て下限値Xmin及び実績能力割り当て比率演算部4からの処理能力割り当て比率実績値Xactualに基づいて、各処理条件毎に能力割り当て達成率Xachieveを式(数4)により算出して、能力割り当て達成率Xachieve<1の処理条件がある場合にはその処理条件のロットから優先的に処理を実施できるようにロットの処理優先順位を決定する。能力割り当て達成率Xachieve<1の処理条件が複数存在する場合には、能力割り当て達成率Xachieveが最も小さい処理条件のロットから優先的に処理を実施できるようにロットの処理優先順位を決定する。能力割り当て達成率Xachieve<1の処理条件がない場合には任意の方法でロットの処理優先順位を決定する。この処理優先順位に基づいてロット処理を実施することで、製造工程フローの各工程のスループットを常に一定以上に保つことが可能であり、それにより設備の処理機会損失による稼動ロスの発生を抑制して、生産ラインの生産能力の確保、リードタイム短縮およびロット間のリードタイムばらつきを抑制することが可能となる。
【0034】
【数4】

【0035】
能力割り当て比率演算部3、実績能力割り当て比率演算部4及び処理計画立案部6はこのXmin、Xactual及びXachieveの演算を一定周期またはリアルタイムで実行し、特に電子デバイスの生産ラインにおいては、1〜1440分程度の周期で実行されることが好適である。
【0036】
次に、本実施形態に係る生産管理手法をシミュレーションにより効果検証を実施した結果について説明する。
【0037】
シミュレーション条件は以下のとおりである。
【0038】
月産1000(wafer/month)以上の生産規模を持ち、2以上の異なる製造工程フローからなり、それぞれの製造工程フローは200以上の工程からなり、実績に則した設備停止設定を伴う100機種以上の生産設備が紐付いており、特にそのうち対象とする工程共用設備は平均繰り返し回数=1.0の洗浄工程と平均繰り返し回数=3.5のエッチング工程からなるウェット処理設備であり、それぞれの処理条件の処理能力は洗浄工程=11.7(wafer/hr)、エッチング工程=16.7(wafer/hr)であり、これとは別に洗浄工程=24.1(wafer/hr)の処理能力を持つ洗浄工程専用設備がそれぞれ1台ずつ存在しており、生産ラインのボトルネック設備、生産ライン中最も余剰能力を有していない設備は工程回数=1でその工程は対象とする工程共用設備のエッチング工程と洗浄工程の間に存在しており計画生産数量に対して余剰能力を5%以下しか有していない。
【0039】
このモデルにて360日間シミュレーションを実施して、開始から180日間のデータを初期状態として集計から削除して、後半180日間を観測期間とした。能力割り当て比率実績値Xactual、能力割り当て達成率Xachieveの演算及びそれに基づくロットの処理優先順位の決定周期は1440分とした。なお本発明の活用範囲はこの検証条件に制限されるものではない。
【0040】
この条件にて、本実施の形態の生産管理方法、及び特許文献1の生産管理方法の2つの生産管理方法にてシミュレーションを実施した。
【0041】
図6に両生産管理手法により処理を完了したロットの進捗実績の平均を図示する。図中にて横軸は製造工程フロー、縦軸はリードタイムを示し、Aは本実施形態の生産管理方法により得られた平均ロット進捗実績でありLTAはその結果得られた製造工程フロー全体のロットリードタイムであり、Bは特許文献1記載の生産管理方法により得られた平均ロット進捗実績でありLTBはその結果得られた製造工程フロー全体のロットリードタイムであり、aは工程共用設備のエッチング処理に紐付く工程であり、b1、b2、b3、b4、b5は工程共用設備の洗浄処理に紐付く工程であり、cはボトルネック工程である。
【0042】
特許文献1の生産管理方法は、工程共用設備のエッチング工程a及びボトルネック工程cにてリードタイム長期化が発生している。一方、本実施形態の生産管理方法では工程共用設備の洗浄工程b1、b2、b3、b4、b5にて特許文献1の結果以上のリードタイム長期化が発生しているが、一方で工程共用設備のエッチング工程a及びボトルネック工程cでのリードタイム長期化量は特許文献1の結果に比べ小さく、これらを総合した製造工程フロー全体のリードタイムではLTA>LTBであり本実施形態の結果の方が製造工程フロー全体ではリードタイムが短くなっていることがわかる。
【0043】
設備メンテナンスや設備故障などの要因により設備停止が発生すると余剰能力の小さなボトルネック設備では必ず滞留ロットが発生する。そのため、ボトルネック工程から見てフロー下流に存在する工程共用設備の洗浄工程bはその影響を受けて滞留ロットが発生し易くリードタイムが長期化し易い。洗浄工程bに大量の滞留ロットが発生した場合、特許文献1記載の生産管理方法では工程間のリードタイムのバランスを維持するために、工程共用設備は処理能力Thの全てを洗浄工程b1、b2、b3、b4、b5の滞留ロットの処理に活用するためエッチング工程aの滞留ロットは処理されない。そのためエッチング工程aから見て下流に存在するボトルネック工程cにロットが存在しなくなり、ボトルネック設備に稼動ロスが発生する。一方、本実施形態の生産管理方法では製造工程フローの全工程のスループットがF以上になるように制御するため、工程共用設備は処理能力Th(wafer/hr)のうち処理能力Th×Ximin(wafer/hr)をエッチング工程aの処理に活用して、それ以外の処理能力Th(1-Ximin) (wafer/hr)を洗浄工程bの処理に活用する。そのため洗浄工程bのリードタイムは前述の特許文献1のリードタイムに比べ長期化するが、一方でエッチング工程aから見て下流に存在するボトルネック工程cに稼動ロスが発生しなくなるためボトルネック工程cではリードタイムが短縮され、製造工程フロー全体ではロットリードタイムは短縮できる。
【0044】
主にシステムLSIなどの電子デバイスを製造する製造ラインでは、商品サイクルの短命化や製造プロセスの微細化・ウェハの大口径化によるウェハ当りの製品取れ数の増大に伴い1品種当りのウェハ製造枚数は減少傾向にあり今後更なる少量多品種化が促進されることが予想され、それに伴い今後前述に示したような工程共用設備が生産ラインに多数存在することが予想される。このような理由により従来では機能した特許文献1の生産管理方法よりも、本実施形態の生産管理方法の方が優れている。
【0045】
(第2の実施形態)
図2は本発明の生産管理システムの第2の実施の形態に係る一実施例におけるハードウェアの構成を示すブロック図である。前述第1の実施形態に対して、設備処理能力演算部7を備えている。
【0046】
設備処理能力演算部7は実績処理データベース部2に蓄積された生産ラインデータに基づいて、各設備の処理能力Th'(wafer/hr)を一定周期毎あるいはリアルタイムに算出する。能力割り当て比率演算部3は、入力端末5から入力された処理能力Th(wafer/hr)に代わり設備処理能力演算部7で計算された処理能力Th'(wafer/hr)に基づいて処理能力の割り当て下限値Xminを式(数5)により算出する。
【0047】
【数5】

【0048】
本実施形態に係る生産管理手法の効果として、処理条件iの専用工程設備の処理能力が設備故障などの要因により一時的に10%低下した場合を想定する。この場合、工程共用設備の処理条件iへの能力割り当て比率下限値Ximin'は式(数6)で表される。
【0049】
【数6】

【0050】
処理条件iの専用工程設備が通常稼動している場合の能力割り当て比率下限値Ximinと10%能力が低下した場合の能力割り当て比率下限値Ximin'の差分は式(数7)で表される。
【0051】
【数7】

【0052】
上記式(数7)から、本発明は処理条件iの専用工程設備の能力低下時には、その能力低下分を工程共用設備が補うことで製造工程フローの各工程が要求スループットF(wafer/hr)を満たすように作用することが分かる。
【0053】
本発明の効果を第1の実施形態で示したシミュレーション条件に加え、シミュレーション開始から180日後以降の洗浄工程専用設備の処理能力を24.1(wafer/hr)から26.5(wafer/hr)に変更するとした条件を加えた生産ラインを想定して検証を実施した。この条件にて、第1の実施形態で示した生産管理方法、及び本実施形態の生産管理方法の2つの生産管理方法にてシミュレーションを実施した。その結果として第1の実施形態の生産管理方法に比べ本実施形態の生産管理方法の方が製造工程フロー全体のリードタイムを約4%短縮できることを確認した。
【0054】
通常、設備の処理能力は、設備の稼動状況、設備を構成する各コンポーネントの稼動状況、設備の経時劣化、処理条件の変更などの要因による経時変動を持つ。この処理能力の経時変動を随時反映して能力割り当て下限値Xminを算出することで工程共用設備の能力割り当てをより高精度で実現して製造工程フローの各工程が要求スループットF(wafer/hr)を満たすように作用することで、設備の処理機会損失による稼動ロスの発生を抑制して、生産ラインの生産能力の確保、リードタイム短縮およびロット間のリードタイムばらつきを抑制することが可能となる。
【0055】
(第3の実施形態)
図3は本発明の生産管理システムの第3の実施の形態に係る一実施例におけるハードウェアの構成を示すブロック図である。前述第1の実施形態に対して、繰り返し回数演算部8を備えている。
【0056】
繰り返し回数演算部8は実績処理データベース部2に蓄積された生産ラインデータに基づいて、工程共用設備の各処理条件の平均繰り返し回数niを式(数8)により、一定周期毎あるいはリアルタイムに算出する。
【0057】
【数8】

【0058】
ここで製造ライン中にはM個のロットが存在し、そのうちn番目のロットは処理条件iの繰り返し回数Ninを持つ。
【0059】
本実施形態に係る生産管理手法の効果として、処理条件iの専用工程設備の平均繰り返し回数niが生産ラインの品種構成の変動などの要因により一時的に10%増加した場合を想定する。この場合、工程共用設備の処理条件iへの能力割り当て比率下限値Ximin'は式(数9)で表される。
【0060】
【数9】

【0061】
処理条件iの繰り返し回数が増加していない場合の能力割り当て比率下限値Ximinと10%繰り返し回数が増加した場合の能力割り当て比率下限値Ximin'の差分は式(数10)で表される。
【0062】
【数10】

【0063】
式(数10)から、本発明は処理条件iの平均繰り返し回数の増加時には、その増加分を工程共用設備が補うことで製造工程フローの各工程が要求スループットF(wafer/hr)を満たすように作用することが分かる。
【0064】
本発明の効果を第1の実施形態で示したシミュレーション条件に加え、シミュレーション開始から180日後以降の工程共用設備の洗浄工程の平均繰り返し回数を3.1回から3.4回に変更するとした条件を加えた生産ラインを想定して検証を実施した。この条件にて、第1の実施形態の生産管理方法、及び本実施形態の生産管理方法の2つの生産管理方法にてシミュレーションを実施した。その結果として第1の実施形態の生産管理方法に比べ本実施形態の生産管理方法の方が製造工程フロー全体のリードタイムを約2%短縮できることを確認した。
【0065】
通常、処理条件の平均繰り返し回数niは、生産ラインの品種構成の変動や製造工程フローの変更などの要因による経時変動を持つ。この繰り返し回数の経時変動を随時反映して能力割り当て下限値Xminを算出することで工程共用設備の能力割り当てをより高精度で実現して製造工程フローの各工程が要求スループットF(wafer/hr)を満たすように作用することで、設備の処理機会損失による稼動ロスの発生を抑制して、生産ラインの生産能力の確保、リードタイム短縮およびロット間のリードタイムばらつきを抑制することが可能となる。
【0066】
(第4の実施形態)
図4は本発明の生産管理システムの第4の実施の形態に係る一実施例におけるハードウェアの構成を示すブロック図である。前述第3の実施形態に対して、ディスパッチング部9を備えている。ディスパッチング部9は、処理計画立案部6の立案した処理計画に基づいて、ロットを加工設備へ配膳する。これにより工程共用設備の能力割り当てをより高精度で実現して製造工程フローの各工程が要求スループットF(wafer/hr)を満たすように作用することで、設備の処理機会損失による稼動ロスの発生を抑制して、生産ラインの生産能力の確保、リードタイム短縮およびロット間のリードタイムばらつきを抑制することが可能となる。このようなディスパッチング部9は、第1または第2の実施形態で説明した生産管理システムが備えてもよい。
【0067】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、種々の変形および応用が可能である。例えば、上記の各実施形態で説明した構成は適宜組み合わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の生産管理システムの第1の実施の形態における一実施例のハードウェアの構成を示すブロック図
【図2】本発明の生産管理システムの第2の実施の形態における一実施例のハードウェアの構成を示すブロック図
【図3】本発明の生産管理システムの第3の実施の形態における一実施例のハードウェアの構成を示すブロック図
【図4】本発明の生産管理システムの第4の実施の形態における一実施例のハードウェアの構成を示すブロック図
【図5】本発明の生産管理システムの第1の実施の形態における一実施例のロット処理順決定についてのフローチャート
【図6】シミュレーションによる実施結果を示すロット進捗グラフ
【符号の説明】
【0069】
1 処理実績収集部
2 処理実績データベース部
3 能力割り当て比率演算部
4 実績能力割り当て比率演算部
5 入力端末
6 処理計画立案部
7 設備処理能力演算部
8 繰り返し回数演算部
9 ディスパッチング部
10 生産ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイスの製造工程管理システムにおいて、
製造工程フロー中の各処理条件の平均処理回数と設備処理能力から、複数の異なる処理条件の工程を有する工程共用設備の各処理条件への能力割り当て比率の下限値Xminを決定する割り当て比率演算部と、
能力割り当て比率実績値Xactualを演算する実績能力割り当て比率演算部と、
上記能力割り当て比率下限値Xminと能力割り当て比率実績値Xactualに基づいて能力割り当て達成率Xachieveを算出し、これに基づいて工程共用設備におけるロット処理計画を立案する処理計画立案部と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の生産管理システム。
【請求項2】
工程共用設備の平均繰り返し回数を一定周期あるいはリアルタイムに算出する繰り返し回数演算部を備え、前記割り当て比率演算部は、前記繰り返し回数演算部が算出した平均繰り返し回数に基づいて共用設備の各処理条件への能力割り当て比率下限値Xminをリアルタイムに決定・修正する請求項1に記載の半導体装置の生産管理システム。
【請求項3】
工程共用設備の処理能力を一定周期あるいはリアルタイムに集計する設備処理能力演算部を更に備え、前記割り当て比率演算部は、前記設備処理能力演算部が算出した工程共用設備の処理能力に基づいて共用設備の各処理条件への能力割り当て比率下限値Xminをリアルタイムに決定・修正する請求項1または2に記載の半導体装置の生産管理システム。
【請求項4】
規定した各処理条件への能力割り当て比率下限値Xmin及び能力割り当て比率実績値Xactualに基づいてロットの処理計画を決定し実行するディスパッチング部を備えた請求項1から3のいずれかに記載の半導体装置の生産管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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