説明

生石灰の製造方法

【課題】結晶質石灰石を工業用石灰焼成炉で焼成し、生石灰を製造する。
【解決手段】結晶の大きさが62.5μm以上の石灰石を粉砕し、次いで、水およびコーンスターチを添加しそして混合し、次いで、造粒成形し、次いで、加熱乾燥する。そして、このように加工した材料を焼成炉で焼成する。加工により材料の硬度が大きくなり、焼成時の摩擦による剥離、焼成炉に投入する際の落下、焼成炉における圧縮作用による破壊等による粉化の発生が防止され、製造効率の悪化や燃費の増加が防止され、歩留まり向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石灰石から生石灰を製造する方法に関し、特に、結晶径が大きく工業用石灰焼成炉で製造することに適さない結晶質石灰石を前記焼成炉によって焼成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業的に製造される生石灰は、一般に石灰石を焼成炉に適した大きさに粉砕し、分級し、これを工業用石灰焼成炉によって焼成することにより製造される。工業用石灰焼成炉として、ベッケンバッハ炉、メルツ炉、コマ式炉等の竪型炉、あるいは、ロータリーキルン等が用いられている。
【0003】
結晶質石灰石は、一般的に酸化カルシウム(CaO)の純度が高く、不純物が少ないため、生石灰とした場合は、活性が良く反応性が良いもの(工業的に良いもの)が得られる。しかしながら、生石灰の材料となる石灰石、特に、結晶の大きさが62.5μm以上の結晶質石灰石は、結晶径が大きく、焼成工程における投入の際の落下、原石の堆積流下および焼成炉との摩擦等により粉化しやすい問題がある。このため製造効率の悪化や燃費の増加を招くため、焼成を避けて他の用途に向けられている。このように、焼成炉により結晶質石灰石から生石灰を製造するにあたり、従来、製造効率を向上する方法は開発されていない。
【0004】
結晶の大きさ(結晶径)については、結晶の大きさ別の呼称がWentworthによって提唱されていることが非特許文献1に記載されており、表1に示すように、石灰石は、結晶径が62.5μm以上の顕晶質とそれ未満のち密質または微晶質とに分けられる。
【0005】
【表1】

【0006】
結晶質の石灰石を焼成する方法として特許文献1が提案されている。結晶の大きさが平均で64μm以上である石灰石を粉砕、成形し、焼成する工程を備える石灰焼結体の製造方法である。この方法によれば、焼成時における表面の剥離を抑えて低粉化により生石灰の製造が可能であると記載されている。
【0007】
【非特許文献1】石灰ハンドブック、日本石灰協会、1992年8月31日発行、p.6
【特許文献1】特許第3121916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼成工程における石灰または生石灰の粉の発生、すなわち、粉化は、材料(原石)の摩擦による表面剥離だけでなく、焼成炉に投入する際の落下による破壊や、材料の焼成炉内での堆積による圧縮作用による破壊などが原因で起こる。このため発明者らは、材料に上記の剥離や破壊に対抗できる硬度を保持させることが必要であることを知見した。
【0009】
本発明の目的は、上述の課題を解決し、結晶径が大きい結晶質石灰石から生石灰を製造するにあたり、材料に十分な硬度を保持させて、焼成時における摩擦による剥離、焼成炉に投入する際の落下、焼成炉における圧縮作用による破壊等による粉化の発生を防止し、製造効率の悪化および燃費の増大を防止することができる生石灰の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記に述べた課題を解決するために、以下の特徴を有する。
【0011】
[1] 石灰石を粉砕し、次いで、水およびバインダーとしてα化澱粉を添加しそして混合し、次いで、造粒成形し、次いで、加熱乾燥し、次いで、焼成することを特徴とする生石灰の製造方法。
【0012】
[2] 結晶の大きさが62.5μm以上の石灰石を粉砕し、次いで、水およびバインダーとしてα化澱粉を添加しそして混合し、次いで、造粒成形し、次いで、加熱乾燥し、次いで、焼成することを特徴とする生石灰の製造方法。
【0013】
[3] 前記α化澱粉として、コーンスターチを用いる前記[1]または[2]に記載の生石灰の製造方法。
【0014】
[4] 前記バインダーとして、前記α化澱粉の代わりにPVAを用いる前記[1]または[2]に記載の生石灰の製造方法。
【0015】
[5] 前記バインダーとして、前記α化澱粉の代わりにCMCを用いる前記[1]または2に記載の生石灰の製造方法。
【0016】
[6] 前記造粒成形の造粒手段として圧縮造粒を用い、5mm以上50mm以下の粒径に造粒する前記[1]から[5]のうちの何れか1に記載の生石灰の製造方法。
【0017】
[7] 前記焼成の手段としてコマ式炉を用いる前記[1]から[6]のうちの何れか1に記載の生石灰の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
石灰石、特に、結晶質石灰石、すなわち結晶の大きさが62.5μm以上の石灰石を粉砕し、粉砕後、水および所定のバインダー(バインダーとして、コーンスターチ等のα化澱粉、PVAまたはCMCを用いる)を添加しそして混合し、次いで、造粒成形し、次いで、加熱乾燥することにより、材料の硬度が大きくなり(割裂引張強度および落下強さが向上し)、焼成時の摩擦による剥離、焼成炉に投入する際の落下、焼成炉における圧縮作用による破壊等による粉化の発生を防止することができ、製造効率の悪化および燃費の増加が防止される。
【0019】
焼成工程以前の工程によって材料の硬度を大きくすることにより、焼成時の粉化の発生が防止され、焼成炉による効率のよい焼成が可能となる。そして、材料の硬度の増加によって、堆積層が厚い竪型炉によっても効率のよい焼成が可能となり、硬度の増加でロータリーキルンでも効率のよい焼成が可能である。特に、落下高さが低く、堆積層厚が薄いコマ式炉に適用することにより製造効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、石灰石、特に、結晶の大きさが62.5μm以上と結晶径の大きい結晶質石灰石を粉砕し、次いで、水および所定のバインダーを添加しそして混合し、次いで、造粒成形し、次いで、加熱乾燥し、このようして材料の硬度を増加し、しかる後に、焼成する工程を備えている。
【0021】
結晶の大きさが62.5μm以上と結晶径の大きい結晶質石灰石を用いても、焼成炉投入時の材料の硬度(割裂引張強度および落下強さ)を大きくすることができるため、ベッケンバッハ炉、メルツ炉、コマ式炉等の竪型炉、および、ロータリーキルン等の工業用石灰焼成炉によって焼成しても材料の粉化が防止され、高歩留り、高効率で生石灰を製造することができる。
【0022】
本発明においては、石灰石を粉砕した後、水とともにバインダーを添加し混合すべきである。バインダーは、生石灰としたときの品質(化学成分、活性度等)に影響を及ぼさないものを使用する。バインダーを添加することにより、材料の結合力、強度および硬度が増大する。バインダーとして、α化澱粉、PVA(ポリビニルアルコール)、CMC(カルボキシメチルセルロース)が挙げられる。α化澱粉としては、コーンスターチが挙げられる。
【0023】
次いで、材料は、造粒成形すべきである。造粒手段として、圧縮造粒を用いることが好ましい。圧縮造粒により5mm以上50mm以下の粒径に造粒することが好ましい。粒径が5mm未満では、細かすぎて焼成工程において焼成されにくい。50mm超では、質量が大きいため壊れやすい。また、焼成時には、サイズが大きいために焼成不足(生焼け)が生じてしまう。圧縮造粒として、ブリケット方式を用いることが好ましい。
【0024】
造粒成形により所望の粒径に造粒した材料は、加熱乾燥すべきである。加熱乾燥することにより、材料の硬度が増加する。加熱乾燥手段として、乾燥状態(含水率0%の状態)になるように乾燥する方法を用いる。バインダーは、いわゆる、糊や接着剤であり、乾燥により、石灰石粉末がくっつくことにより強度、硬度が増大する。加熱乾燥により、次工程の焼成における材料(原石)の、焼成炉投入の際の落下、堆積流下、堆積圧縮、焼成炉との摩擦による粉化などに耐え得る硬度を確保することができる。
【0025】
焼成は、従来から工業用石灰焼成炉(ベッケンバッハ炉、メルツ炉、コマ式炉等の竪型炉、あるいは、ロータリーキルン等)によって行われているが、それによる焼成条件を用いることができる。例えば、コマ式炉においては、最大生産能力75t/日のコマ式炉で、最高温度1100℃、滞留時間16時間の方法である。ただし、この条件に限定されない。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
【0027】
本発明の生石灰の製造方法を用いて材料を加工した。すなわち、結晶質石灰石を粉砕し、粉砕後の石灰石に水およびコーンスターチを添加し混合した。次いで、圧縮造粒により造粒成形した。次いで、成形した材料を加熱乾燥した。そして、加熱乾燥を行った後の材料(焼成を行う前の材料)について下記に示す調査を行った。加工条件は下記の通りであった。
【0028】
まず、結晶の大きさが62.5μm以上の結晶質石灰石として、結晶の大きさの平均値が550μmの石灰石(以下、「炭カル」という)を粉砕し粉末とした。次いで、前記の炭カルを89.1%、水道水を9.9%、バインダーとしてコーンスターチ(α化澱粉)を1.0%の割合で用い、小型ミキサーを用いて各材料を混合した。
【0029】
次いで、材料を造粒成形した。図1に示す所定厚さ(高さ)の円筒状の造粒物1を調製した。造粒物の諸元は、直径35mm、高さ15mm、密度が2.20g/cm3であった。次いで、造粒物に対して、熱風循環乾燥機により110℃の温度で12時間の加熱乾燥を行った。かくして、本発明供試体1を調製した。比較のため、造粒物に対して加熱乾燥を行わず、その代わりに、20℃の温度で乾燥した。かくして、比較用供試体1を調製した。
【0030】
バインダーとしてコーンスターチの代わりにPVAを用いる以外は、上記の本発明供試体1と同様の方法により同一寸法の造粒物を調製した。混合割合は、炭カルが89.1%、水道水が9.9%、PVAが1.0%であった。そして、該造粒物に対して、熱風循環乾燥機により110℃の温度により12時間の加熱乾燥を行った。かくして、本発明供試体2を調製した。比較のため、該造粒物に対して加熱乾燥を行わず、その代わりに、20℃の温度で乾燥した。かくして、比較用供試体2を調製した。
【0031】
更に、バインダーとしてコーンスターチの代わりにCMCを用いる以外は、上記の本発明供試体1と同様の方法により同一寸法の造粒物を調製した。混合割合は、炭カルが89.1%、水道水が9.9%、CMCが1.0%であった。そして、該造粒物に対して、熱風循環乾燥機により110℃の温度により12時間の加熱乾燥を行った。かくして、本発明供試体3を調製した。比較のため、該造粒物に対して加熱乾燥を行わず、その代わりに、20℃の温度で乾燥した。かくして、比較用供試体3を調製した。
【0032】
比較のため、上記炭カルと水道水とを混合(炭カルを89.1%、残り水道水)するが、バインダーを混合しないで、本発明供試体1の造粒物と同様の方法により同寸法の造粒物を調製した(「ブランク」という)。該造粒物に対しては、加熱乾燥を行わず、その代わりに、20℃の温度で乾燥した。かくして、比較用供試体4を調製した。
【0033】
更に、比較のため、上記炭カルと水道水とを混合(炭カルを89.1%、残り水道水)するが、バインダーを混合しないで、本発明供試体1の造粒物と同様の方法により同寸法の造粒物を調製した(ブランク)。そして、該造粒物に対しては、熱風循環乾燥機により110℃の温度により12時間の加熱乾燥を行った。かくして、比較用供試体5を調製した。
【0034】
そして、各供試体に対して、その硬度を測定すべく割裂引張強度試験および落下試験を行った。
【0035】
1.割裂引張強度試験
割裂引張強度は、竪型炉内での堆積、サイロなどでの堆積による圧縮作用による破壊に対する評価とした。試験方法は、コンクリートの割裂引張強度試験方法(JISA1113)に準拠した。図2は、試験方法を説明する斜視図である。図2に示すように供試体2を立てて、上下から加圧手段3により圧力を加えて圧縮試験をし、その際の最大荷重値を調べそれを用いた。
【0036】
図3は、その結果を示すグラフである。割裂引張強度が、本発明供試体1(図中符号a)は、1.144N/mm2、本発明供試体2(図中符号b)は1.049N/mm2、本発明供試体3(図中符号c)は1.374N/mm2であった。
【0037】
一方、比較用供試体1(図中符号d)は、0.045N/mm2、比較用供試体2(図中符号e)は、0.038N/mm2、比較用供試体3(図中符号f)は、0.068N/mm2であり、加熱乾燥が必須であることが分かる。また、比較用供試体5(図中符号h)は、0.211N/mm2であり、バインダーの添加が必須であることが分かる。更に、加熱乾燥およびバインダーの添加の双方がない比較用供試体4(図中符号g)は、0.047N/mm2であった。
【0038】
以上より、バインダーの添加および加熱乾燥の双方の工程を備える本発明供試体1、2および3は、割裂引張強度に優れることが分かる。
【0039】
2.落下試験
焼成炉投入時の落下による破壊を評価した。本発明供試体1、2および3を、3mの高さから鉄板へ自由落下させ、そのときの粒度を測定した。20mm以上の質量比を残留率、1.2mm以下の質量比を粉化率と定義した。その結果を、図4、図5に示す。
【0040】
比較のため、比較用供試体4および5に対して、本発明供試体1、2および3と同条件で落下試験を行った。その結果を、図4、図5に併せて示す。
【0041】
図4に示すように、本発明供試体1(図中符号a)および本発明供試体2(図中符号b)は、いずれも残留率が99.4%、本発明供試体3(図中符号c)は残留率が99.8%であった。
【0042】
一方、比較用供試体4(図中符号g)は、残留率が33.0%、比較用供試体5(図中符号h)は、残留率が23.2%であった。
【0043】
図5に示すように、本発明供試体1(図中符号a)は、粉化率が0.2%、本発明供試体2(図中符号b)および本発明供試体3(図中符号c)は、粉化率が0.1%であった。
【0044】
一方、比較用供試体4(図中符号g)は、粉化率が4.2%、比較用供試体5(図中符号h)は、粉化率が5.8%であった。
【0045】
以上より、バインダーの添加および加熱乾燥の双方の工程を備える本発明供試体1、2および3は、落下試験において優れた結果を示すことが分かる。
【0046】
3.焼成
割裂引張強度試験および落下試験の結果から、バインダーの添加および加熱乾燥の双方の工程を備える本発明方法により加工された材料は、十分な硬度(割裂引張強度および落下強さ)を備えていることが分かる。本発明材料(本発明供試体1、本発明供試体2、本発明供試体3)を用い、最大生産能力75t/日のコマ式炉により、最高温度1100℃、滞留時間16時間という焼成条件によって生石灰を製造した。試験として、10tを投入したところ、その間に運転に支障はなく、製品として回収することができた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例に係る造粒物を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係る割裂引張強度試験を説明する斜視図である。
【図3】本発明の実施例に係る割裂引張強度試験の結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例に係る落下試験における残留率を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例に係る落下試験における粉化率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 造粒物
2 供試体
3 加圧手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石を粉砕し、次いで、水およびバインダーとしてα化澱粉を添加しそして混合し、次いで、造粒成形し、次いで、加熱乾燥し、次いで、焼成することを特徴とする生石灰の製造方法。
【請求項2】
結晶の大きさが62.5μm以上の石灰石を粉砕し、次いで、水およびバインダーとしてα化澱粉を添加しそして混合し、次いで、造粒成形し、次いで、加熱乾燥し、次いで、焼成することを特徴とする生石灰の製造方法。
【請求項3】
前記α化澱粉として、コーンスターチを用いる請求項1または2記載の生石灰の製造方法。
【請求項4】
前記バインダーとして、前記α化澱粉の代わりにPVAを用いる請求項1または2に記載の生石灰の製造方法。
【請求項5】
前記バインダーとして、前記α化澱粉の代わりにCMCを用いる請求項1または2に記載の生石灰の製造方法。
【請求項6】
前記造粒成形の造粒手段として圧縮造粒を用い、5mm以上50mm以下の粒径に造粒する請求項1から5のうちの何れか1に記載の生石灰の製造方法。
【請求項7】
前記焼成の手段としてコマ式炉を用いる請求項1から6のうちの何れか1に記載の生石灰の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−286671(P2009−286671A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142960(P2008−142960)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(390020167)奥多摩工業株式会社 (26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】