説明

生細胞における細胞周期の検出および視覚化

本発明は、増殖細胞核抗原(PCNA)に特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸分子に関し、前記核酸分子は、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の1から28、38から52、63から98および115から123の位置の1個または複数のアミノ酸の保存的置換により配列番号2と異なるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。本発明はまた、本発明の核酸分子を含むベクター、本発明の核酸分子または本発明のベクターの核酸分子を含む宿主細胞および生細胞内のPCNAの量および/または位置を検出する方法、細胞周期に対して効果を有する化合物のスクリーニング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増殖細胞核抗原(PCNA)に特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸分子に関し、前記核酸分子は配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の1から28、38から52、63から98および115から123の位置の1個または複数のアミノ酸の保存的置換により配列番号2と異なるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。本発明はまた、本発明の核酸分子を含むベクター、本発明の核酸分子または本発明のベクターの核酸分子を含む宿主細胞および生細胞内のPCNAの量および/または位置を検出する方法、ならびに細胞周期に対して効果を有する化合物のスクリーニング方法に関する。
【0002】
本明細書では、特許出願および製造元のマニュアルを含むいくつかの文献を引用する。これらの文献の開示は、本発明の特許性に関係しないと考えられるが、全体を本明細書に参考として組み込む。より具体的には、参照した全文献は全て、それぞれ個々の文献が具体的かつ個別に参考として組み込まれることが示されたのと同じように、参考として組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
抗体は、細胞構造を同定し、視覚化するための有益なツールである。しかし、細胞内抗原を検出するために、天然に生じる抗体を適用するには、細胞を透過すること(および多くの場合は固定すること)が必要である。さらに、無傷細胞内で抗体をベースにして抗原を検出することは、抗体は天然では酸化された(細胞外)環境において機能するように設計されているという事実があるため、本質的に妨害され、細胞質内の還元された環境では、ジスルフィド結合の形成障害が引き起こされ、可変軽鎖および重鎖のエピトープ認識部分の会合が非効率的になる(Bioccaら、(1990);Cattaneoら(1999))。2、3の場合においてのみ、インビボにおいてタンパク質機能に影響を与えるために細胞内抗体(ICAb)が使用されているが、生細胞におけるそれらの特性については依然としてほとんど知られていない(Bioccaら(1993);Bioccaら(1990);Marascoら(1998);Cardinaleら(1998);Kontermann(2004))。
【0004】
無傷細胞の細胞質における抗体の適用に関連した問題を回避しようとして、これまでは、GFPなどの蛍光タンパク質に目的とするタンパク質を融合させることによって(「GFPタグ付け」)、タンパク質発現は研究されてきた。蛍光タンパク質によるタンパク質のタグ付けは、タンパク質の細胞内移動を研究するための非常に一般的な方法となり、蛍光退色技術と組み合わせて、生細胞内におけるタンパク質動態に関して特有の情報をもたらす。しかし、測定できるのはキメラタンパク質の動態のみであり、本来のタンパク質、翻訳後修飾物ならびに細胞の非タンパク質性成分は、この利用可能な方法で評価することはできない。さらに、これらのアプローチのほとんどでは、細胞内において、すなわち、タンパク質の天然の位置および/または発現に対応しない位置および/または発現において、融合タンパク質の凝集が引き起こされる(ChalfieおよびKain、2005;Leonhardtら、1998)。
【0005】
近年、細胞周期および細胞周期に関与するプロセスの探究にますます興味が持たれるようになってきた。細胞周期の研究に通常適用される方法には、光学顕微鏡を使用した細胞周期の様々な期の視覚的な検出の他に、染色体の染色が含まれるが、これは細胞の固定およびDAPIなどの蛍光色素による核の染色を含み、細胞周期に関連した特異的タンパク質を追跡するには有用ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの限界を克服するために、天然に生じる抗体の問題および制限を回避する検出可能なタンパク質結合剤を作製し、好ましくは細胞プロセスを妨害せずに生細胞内における適用を確立することが望ましいだろう。これらの結合剤は、細胞周期の様々な段階および特異的タンパク質を追跡するために有用であることが好ましいだろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、増殖細胞核抗原(PCNA)に特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸分子に関し、前記核酸分子は配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の1から28、38から52、63から98および115から123の位置の1個または複数のアミノ酸の保存的置換により配列番号2と異なるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。1個または2個のフレームワーク領域に1個または複数のアミノ酸の保存的置換を含むこのようなポリペプチドの例は、配列番号16および18によって表される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ファージディスプレー選択後のPCNAに対するVHHのアラインメント報告(CH.EMBnet.org Clustal Wによる)の図である。(*)は同一のアミノ酸を示し、(:)は保存されたアミノ酸置換を示し、(.)は半保存されたアミノ酸置換を示す。
【図2】F2Hアッセイを使用した細胞内の機能的PCNA−Chromobodyの選択の図である。(A)限定された細胞構造でのGFP−PCNAの固定化(核内におけるLacIフォーカス(focus))。赤い蛍光で標識したPCNA−Chromobodyの同時発現。抗原検出は、限定された細胞構造での緑(抗原)および赤(chromobody)蛍光の共存によって視覚化する。(B)限定された細胞構造でのGFPに融合したPCNA−Chromobodyの固定化。RFP−PCNAの同時発現を実施した。抗原検出は、限定された細胞構造での赤(抗原)および緑(chromobody)蛍光の共存によって視覚化する。抗原が結合したPCNA−Chromobodyのコーディング領域は、DNA配列決定によって決定した。
【図3】PCNA−ChromobodyによるS期の視覚化および検出の図である。Chromobody PCNA3p16−GFPを発現する細胞の代表的画像を示す。(A)PCNA−ChromobodyとDNA複製部位に共存するその他の蛍光S期マーカー(RFP−PCNA、HcRed−リガーゼ)との同時発現。(B)S期の異なる段階を視覚化するPCNA−Chromobodyを単独で発現する細胞の共焦点画像。
【図4】S期の進行は、Chromobody PCNA3p16−GFPの発現によって阻害されないことを示す図である。(A)抗PCNA抗体(16D10)を使用した抗体染色(免疫蛍光法)によるPCNA−Chromobodyの正確な局在の構造。PCNA−3p16−GFPの蛍光シグナル(緑)は、抗PCNA(16D10)抗体−アレクサ568(赤)で標識した内在性PCNAと共存している。(B)DNA複製部位は、BrdUを5分間パルスして組み込ませることによって標識し、抗BrdU抗体−アレクサ555(aBrdU−A555;赤)によって検出した。その後30分間追跡する間に、PCNA3p16−GFPが隣接する複製中心に進入した(緑)。(C)生細胞内で過剰発現した後、GFP−PCNAが誤った場所に局在する典型的な例を示す。BrdUに対する抗体(aBrdU−A555)による複製中心の検出。
【図5】Chromobody PCNA3p16−GFPを発現する細胞のタイムラプス(time lapse)分析の代表的画像である。G1から開始して後期G2までの細胞周期の様々な段階にわたる、PCNA3p16−GFP chromobodyを発現する細胞の進行を示す。
【図6】タンパク質レベルの測定の図である。内在性PCNAと比較した、一時的に発現したGFP−PCNAのタンパク質量のイムノブロッティング分析。タンパク質は、抗PCNA抗体(16D10)を使用して検出した。タンパク質の相対的量は、ImageJの濃度測定分析を使用して定量した。
【図7】FRAP(蛍光退色後回復測定、FRAP)分析によるGFP−PCNA対PCNA−Chromobodyの細胞移動性の比較の図である。(A)Chromobody PCNA3p16−GFPまたはGFP−PCNAのいずれかを発現するHeLa細胞の半核FRAPの代表的画像。(B)FRAP分析の評価。PCNA−Chromobody(PCNA3p16−GFP)は、非常に迅速な回復速度を示し(約35秒)、生細胞内におけるPCNA3p16−GFPと内在性PCNAの間の一時的相互作用を示す。
【図8】GFPチャンネルで示されたPCNA−Chromobody(PCNA3p16−GFP)を安定的に発現するHeLa細胞株の様々なクローン(#5.1、#9.1、#9.6)の画像(A)および様々な細胞株を試験した増殖アッセイの評価(B)の図である。3種類のPCNA3p16−GFP細胞株は全て均一な発現レベルを示し、内在性複製中心を視覚化し、GFP−PCNAを発現する安定な細胞株と同程度の増殖速度を有する。このことから、本発明者らは、PCNA−Chromobodyは、細胞毒性を示さず、したがって、他の研究によく適していると結論づけた。
【図9】配列番号2によって表されたポリペプチドとアミノ酸の保存的置換を含むポリペプチド(配列番号16および18)のアラインメントの図である。配列番号16および18の両方に存在する2個の保存的置換は、フレームワーク1領域内にあり、配列番号18に存在する1個の保存的置換はフレームワーク2領域内にある。
【図10】配列番号2を表すPCNA−Chromobody(3p16)を発現する細胞(上段)または配列番号16を表すPCNA−Chromobodyもしくは配列番号18を表すPCNA−Chromobodyを表すアミノ酸の保存的置換を含むポリペプチドを発現する細胞の代表的画像である。S期初期(上段)、S期中期(中段)またはS期後期(下段)の細胞の核を示す。
【図11】Chromobody PCNA3p16−GFPを安定的に発現するHeLa細胞株(クローン9.6)の有糸分裂アッセイの図である。(A)未処理細胞(左)およびコルセミド0.1μg/ml添加後(右)のタイムラプスイメージング。有糸分裂細胞は、PCNA−Chromobody(PCNA 3p16)で視覚化する。コルセミド添加前および添加後(13時間)の処理細胞および未処理細胞の選択された画像を示す。有糸分裂中の細胞は、矢印で示す。(B)自動画像撮影およびコンピュータパターン認識による定量的評価。細胞(n約1500)の形態学的変化を30分間隔でモニターした。コルセミドで13時間処理した後の有糸分裂中の細胞の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によれば、「核酸分子」という用語は、「ポリヌクレオチド」という用語と同義に使用され、DNA、例えば、cDNAまたはゲノムDNA、およびRNA、例えば、mRNAが含まれる。細胞内に導入され、発現することができるのであれば、当技術分野で知られる核酸模倣分子、例えば、DNAまたはRNAの合成もしくは半合成誘導体および混合ポリマーがさらに含まれる。当業者には容易に理解されるように、核酸分子はさらに、非天然または誘導体化されたヌクレオチド塩基を含有していてもよい。
【0010】
本発明によれば、「特異的に結合する」という用語は、本発明のポリペプチドが特異的なタンパク質、すなわち、標的タンパク質に親和性を有し、該親和性が、標的タンパク質に無関連なタンパク質に対する親和性と比較して少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも1000倍、最も好ましくは少なくとも10000倍である特性を意味する。本発明のポリペプチドの標的タンパク質は、PCNAである。
【0011】
「保存的置換」という用語は、1個または複数のアミノ酸を、大きさおよび電荷などの化学的および物理的特性が類似の別のアミノ酸で置換することに関する。この用語は当技術分野ではよく知られており、本明細書でも同じ意味で使用される。保存的置換の例は、バリンのロイシンによる置換、システインのセリンによる置換、グルタミンのアスパラギンによる置換またはアスパラギン酸のグルタミン酸による置換またはその逆である。本発明に関連して、保存的置換は、本発明のポリペプチドの特性、例えば、真核細胞内でのその結合特性および/または挙動を変化させないか、または本質的に変化させない。PCNAに対する結合活性の例では、「本質的」という用語は、アミノ酸置換を含まない本発明のポリペプチドの結合活性と比較して、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%および最も好ましくは少なくとも95%の結合活性を意味する。真核細胞内でのポリペプチドの挙動の例において、「本質的」という用語は、例えば、細胞内での発現および/または分布が、アミノ酸置換を含まない本発明のポリペプチドの発現および/または分布と同程度であることを意味する。
【0012】
配列番号2の1から28、38から52、63から98および115から123の位置のアミノ酸は、本発明のポリペプチドのフレームワーク領域を形成する。例において、PCNAの結合に関与するフレームワーク領域ならびにCDR領域が決定された(図1参照)。アミノ酸置換は、本発明のポリペプチドのPCNAへの結合を妨害しないだけでなく、ポリペプチドの正確な折り畳みを妨害せず、フレームワークの3次元構造を変化させず、したがって、PCNAへの結合はもはやできないように、選択するべきである。
【0013】
本出願で開示した情報および当業者における通常の知識から、当業者はどのアミノ酸を置換することができるかを理解し、1個または複数のアミノ酸置換を含むポリペプチドの特性をいかなるアミノ酸置換も含まない本発明のポリペプチドの特性と比較するための方法がわかるだろう。例となる方法には、溶解性の研究、凝集体形成アッセイ、分布の分析、結合アッセイおよび真核生細胞における発現研究が含まれる。
【0014】
1個または2個のフレームワーク領域に1個または複数の保存的置換を有するポリペプチドをコードする本発明の核酸の例は、配列番号16および18のポリペプチドをコードする配列番号15および17の核酸である(図9参照)。
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、生細胞におけるPCNAの存在および/または位置の検出のために、PCNA結合ポリペプチドを前記細胞において適用することができることを発見した。本発明のポリペプチドは、ラクダ科抗体から得られ、その一般的な組換え生成およびその選択手法は当技術分野ではよく知られており(例えば、ファージディスプレー技術および組換え技術によるもの、例えば、Hoogenboomら(1998);Pluckthun(1994);Vermaら(1998)参照)、ラクダ科の重鎖抗体のVHHドメインを含む。添付の実施例から明らかなように、ファージディスプレーおよび/またはPCT/EP2009/000067で開示されたF2Hアッセイを使用して得られた8種類のPCNA結合ポリペプチドのうちの1つのみが、生細胞で適用するために必要な優位な特性を提供することができた。
【0016】
PCNAに特異的に結合する抗体は当技術分野では知られている(Rottachら、2008)。しかし、今まで、前記抗体の機能を決定的に損なうことなく、生細胞内でPCNAを検出することができる抗体を生成することはできなかった。さらに、今まで利用された別の方法は、蛍光ポリペプチドのPCNAへの融合およびこの融合タンパク質の細胞への導入を利用する。この方法にはいくつかの重大な欠点がある。とりわけ、融合タンパク質の過剰発現は、蛍光ポリペプチドに融合していないPCNAの量または位置に対応しない、望ましくない非特異的凝集を引き起こす。したがって、本発明は、この方法の欠点を克服するだけでなく、PCNAの細胞内における正常な代謝回転またはDNA複製に関与する酵素にとって必須のローティングプラットフォームとしてのPCNAの機能(Bravo R.ら、1987)を妨害することなく、生細胞内でPCNAを検出するための手段を初めて提供する。
【0017】
好ましい実施形態では、この核酸分子は(a)配列番号1、15もしくは17の核酸配列、または(b)(a)の核酸配列に関して縮重した核酸配列を含むか、またはそれらからなる。
【0018】
本発明によれば、「縮重」という用語は、遺伝子コードの縮重を意味する。塩基のトリプレットコードは、20個のアミノ酸および終止コドンを意味する。遺伝子情報をコードするために利用される塩基は4種類存在するので、トリプレットコドンは、少なくとも21個の異なるコードで形成される必要がある。塩基のトリプレットで可能な43が実現すると、64個のコドンを生じることができ、いくつかの縮重が存在しなければならないことを意味する。結果として、いくつかのアミノ酸が、複数のトリプレット、すなわち、6個までのトリプレットによってコードされる。縮重の大部分は、トリプレットの3番目の位置の変化から生じる。このことは、前記で指定した配列とは異なる配列を有するが、それでも同じポリペプチドをコードする核酸分子が本発明の範囲内にあることを意味している。
【0019】
好ましい別の実施形態では、核酸分子はさらに、視覚的に検出可能なペプチド性またはタンパク質性マーカーをコードする核酸配列を含む。
【0020】
「視覚的に検出可能な」という用語は、視覚手段を用いた検出を可能にするマーカーの物理的または化学的特性に関する。通常、視覚的に検出可能なマーカーは、蛍光、ルミネセンス、リン光または放射線などの照射を放射するので、検出することができる。
【0021】
この実施形態では、本発明の核酸は、本発明によるPCNAに特異的に結合するポリペプチド(第1ポリペプチド成分)、視覚的に検出可能なペプチド性またはタンパク質性マーカー(第2のポリペプチドまたはペプチド性成分)、例えば、蛍光ポリペプチドおよびリンカーを含むポリペプチドをコードする。この構造のポリペプチドはまた、本発明に関連して、「融合タンパク質」と称される。別の言葉では、本発明による融合タンパク質は、2個のポリペプチド成分または1個のポリペプチドおよび1個のペプチド性またはタンパク質性成分およびリンカーを含む。
【0022】
より好ましい実施形態では、前記の視覚的に検出可能なペプチド性またはタンパク質性マーカーは蛍光ポリペプチドであり、前記蛍光ポリペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸残基のリンカーによってPCNAに特異的に結合する前記ポリペプチドと離れている。
【0023】
本明細書で「ポリペプチド」という用語は、「タンパク質」という用語と同義に使用され、30個を上回るアミノ酸を含有するアミノ酸の直鎖状の分子鎖を示す。本発明によるポリペプチド、特に蛍光ポリペプチドを含む融合タンパク質は、オリゴマーを形成しないことが好ましい。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語はまた、天然に修飾されたポリペプチド/タンパク質を意味し、この修飾は、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化および当技術分野でよく知られる類似の修飾によって実施される。
【0024】
「蛍光ポリペプチド」または「蛍光タンパク質」という用語は、特定の波長で励起されると蛍光を放射するポリペプチドのことを意味する。本発明では様々な蛍光タンパク質が使用することができる。このような蛍光タンパク質の1群には、オワンクラゲ(Aequorea victoria)から単離された緑色蛍光タンパク質(GFP)、ならびにいくつかのGFP変種、例えば、シアン蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質などが含まれる(Zhangら、2002;Zimmer、2002)。通常、これらの変種またはそれらをコードする核酸は、配列番号4のアミノ酸配列または配列番号3の核酸配列それぞれと約80%以上の配列同一性を共有する。色の変化したGFP変異体は、青から黄緑の色を発し、明るさおよび光安定性が増加している(Tsien、1998)。高感度黄色蛍光タンパク質(eYFP)(Tsien、1998)と呼ばれるこのようなGFP変異体の1つは、529nmで最大放射を表す。YFPは、例えば、配列番号8のアミノ酸配列を有するか、または配列番号7の核酸配列によってコードされるものでよい。改変された励起スペクトルおよび放射スペクトルを有する他のGFPをベースにした変種(Tsienら、米国特許出願第200201231 13A1号)は、蛍光強度および熱耐性が高まっており(Thastrupら、米国特許出願第20020107362A1号;Bjornら、米国特許出願第20020177189A1号)、低酸素レベル下での発色団の形成(Fisher、米国特許第6,414,119号)も記載されている。
【0025】
別の群の蛍光タンパク質には、限定されないが、サンゴのDiscosoma種から単離された赤色蛍光タンパク質、DsRed(Matzら、1999)(例えば、受入番号AF168419を参照)を含む、花虫綱から単離された蛍光タンパク質が含まれる。DsRedおよびその他の花虫綱蛍光タンパク質は、オワンクラゲ由来の野生型GFPと約26〜30%のアミノ酸配列同一性を共有するのみであるが、重要なモチーフは全て保存されており、GFPに特徴的な11本のベータ−バレル構造が形成していることを示す。DsRedの結晶構造も解明されており、GFPの11本のベータ−バレル構造の保存を示す(MMDB Id:5742)。
【0026】
波長がより長い赤色蛍光タンパク質DsRedのいくつかの変異体も記載されており、同様に、蛍光(ポリ)ペプチドを含む本発明の融合タンパク質の生成に使用することができる。例えば、赤色にさらに変化した放射スペクトルを有する最近記載されたDsRed変異体は、本発明の実施で使用することができる(Bairdら、2000;Terskikhら、2000;Wiehlerら、2001)。
【0027】
DsRedの単量体バージョンは、例えば、mRFP、mCherry(例えば、配列番号6のアミノ酸配列を有するか、または配列番号5の核酸配列によってコードされる)、mRFP1(Campbellら、2002)、mOrangeまたはmPlum(Shanerら、2004)またはTagRFP(Merzlyakら、2007)である。
【0028】
ごく最近、花虫綱ウミシイタケ(Renilla reniformis)およびRenilla kollikeriから得られたGFPが記載され(Wardら、米国特許出願第20030013849号)、いずれも本発明に従って使用することができる。
【0029】
いくつかの海洋生命体から得られたその他の蛍光タンパク質が近年続々と多数記載されており、タンパク質データバンクに最近いくつかのGFPおよびGFP変異体結晶構造、ならびに様々なGFP類似体の結晶構造が記載されている。サンゴ、ウミエラ、ホヤおよびイソギンチャク由来のGFPに類似していると推測される構造を有する関連蛍光タンパク質が記載されており、本発明の融合タンパク質の生成に使用することができる(総論としては、Zhangら、2002;Zimmer、2002を参照)。
【0030】
Anemonia majano、Zoanthus種、Discosoma striata、Discosoma種およびClavularia種由来の蛍光タンパク質も報告されている(Matzら、1999)。イシサンゴ種、Trachyphyllia geoffroyiからクローニングされた蛍光タンパク質は、緑色、黄色および赤色の光を放射し、UV光に曝露されると放射される光が緑色から赤色に変化することが報告されている(Andoら、2002)。イソギンチャク由来の最近記載された蛍光タンパク質には、Anemonia sulcataからクローニングされた緑色およびオレンジ色の蛍光タンパク質(Wiedenmannら、2000)、Heteractis magnificaの触手からクローニングされた天然の高感度緑色蛍光タンパク質(Tuら、2003)、Heteractis crispa由来の色素タンパク質hcriCPをベースにした非オリゴマー化赤色蛍光タンパク質(Gurskayaら、2001;Fradkovら、2002)、Anemonia sulcataからクローニングされた弱い赤色蛍光を表す通常は非蛍光の紫色の色素タンパク質および近赤外シフト放射スペクトル(595nm)を表すそれらの変異体(Lukyanovら、2000)が含まれる。
【0031】
さらに、発色団特性および蛍光特性を有するGFP関連タンパク質の別の種類が記載されている。サンゴ由来のタンパク質のこのような1群、ポシロポリン(pocilloporin)は、広範囲のスペクトルおよび蛍光特性を示す(DoveおよびHoegh−Guldberg、1999、PCT出願WO00146233;Doveら、2001)。近年、造礁サンゴMontipora efflorescensからポシロポリンRtms5を精製し、結晶化したことが記載された(Beddoeら、2003)。Rtms5の色は濃青色であり、その上弱い蛍光を発する。しかし、Rtms5ならびにRtms5と配列相同性を示すその他の色素タンパク質は、1個のアミノ酸置換によって近赤外蛍光タンパク質に相互変換され得ることが報告されている(Beddoeら、2003;Bulinaら、2002;Lukyanovら、2000)。
【0032】
ポシロポリンに密接に関連した様々なその他のサンゴ由来色素タンパク質も知られている(例えば、Gurskayaら、2001;Lukyanovら、2000参照)。蛍光タンパク質の他の例は、ウミシイタケ由来のGFP、ヒラタクサビライシ(Fungia concinna)由来のmKO、アザミサンゴ(Galaxeidae)由来のアザミグリーンまたはムラサキハナギンチャク(Cerianthus)由来のcOFPである。
【0033】
Kredelら(2009)は、サンゴイソギンチャク(Entacmaea quadricolor)由来の蛍光タンパク質mRubyについて記載している。細菌由来の蛍光タンパク質の一例は、Shuら(2009)によって記載されている。
【0034】
既知の蛍光タンパク質の概論は、Shanerら、2007に見出すことができる。
【0035】
蛍光もしくは発色団タンパク質またはそれらの蛍光もしくは発色団断片はいずれも、本発明の教示に従って使用することができる。
【0036】
「リンカー」という用語は、ポリペプチド成分の間、またはポリペプチドと本発明の融合タンパク質のペプチド性またはタンパク質性成分との間の連結を意味する。本発明によるリンカーは、言及したポリペプチド成分の間、またはポリペプチドと融合タンパク質のペプチド性成分またはタンパク質性成分との間に位置する少なくとも1個のアミノ酸残基を含むアミノ酸から構成される。このようなリンカーは、例えば、本発明の融合タンパク質の個々のポリペプチド成分の別々の折り畳みを改善するため、または融合タンパク質の安定性を改変するために、場合によっては有用であり得る。さらに、このようなリンカー残基は、輸送のためのシグナル、プロテアーゼ認識配列または2次修飾のためのシグナルを含有してもよい。リンカーは、1個のアミノ酸残基と同じ短さ、または2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40もしくは50個までの残基の短さであってもよい。特定の場合では、リンカーはさらに、100個または150個までの残基を含んでいてもよい。リンカーは、好ましくは18個〜30個のアミノ酸、より好ましくは20個〜25個のアミノ酸、最も好ましくは22個〜24個のアミノ酸、例えば、23個のアミノ酸を含む。
【0037】
特に好ましいリンカーは、配列番号13または14のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる。
【0038】
より好ましい実施形態では、蛍光ポリペプチドは、好ましくは、配列番号3、5もしくは7の核酸配列によってコードされるか、または配列番号4、6もしくは8のアミノ酸配列を有するGFP、RFPもしくはYFP、またはそれらの蛍光変異体もしくは断片である。
【0039】
本発明による「蛍光変異体」とは、好ましくは前記のGFP、RFPまたはYFP配列から得られた任意の蛍光タンパク質を意味する。蛍光変異体は、蛍光特性を保持するか、または本質的に保持しながら、好ましくは、前記GFP、RFPまたはYFPと少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも85%、例えば少なくとも90%、少なくとも95%または100%の配列同一性を有する。
【0040】
本発明による「蛍光断片」は、配列は短いが、まだ蛍光特性を保持しているか、または本質的に保持している前記GFP、RFPもしくはYFPの一部もしくは断片またはそれらの蛍光変異体に関する。
【0041】
本発明に関連して、「本質的に保持する」という用語は、本発明による蛍光変異体または蛍光断片の蛍光特性を意味する。これに関して、本発明の文脈における本質的な蛍光特性は、原理上は吸収スペクトルまたは放射スペクトルも意味するが、元の蛍光ポリペプチドと比較した蛍光変異体または蛍光断片の明るさに関連する。したがって、「本質的に保持する」という用語は、蛍光変異体または蛍光断片が、元の蛍光ポリペプチドの明るさの少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%を有することを意味する。
【0042】
別のより好ましい実施形態では、PCNAに特異的に結合するポリペプチドは、前記蛍光ポリペプチドのN末端に位置する。
【0043】
PCNAに特異的に結合するポリペプチドは、原理上は前記蛍光ポリペプチドのC末端にも位置していてもよいが、添付の実施例は、蛍光ポリペプチドのN末端に位置するPCNAに特異的に結合するポリペプチドで実施した。この配置の機能性を示す。
【0044】
さらに好ましい実施形態では、この核酸分子は配列番号9、11、19または21の核酸配列を含むかまたはそれらからなり、あるいは配列番号10、12、20または22を含むか、またはそれらからなるアミノ酸配列をコードする。
【0045】
添付の実施例から明らかなように、GFPまたはRFPに融合したとき、PCNAに特異的に結合する本発明のポリペプチドは、PCNAに対して所望する結合活性を発揮するだけでなく、PCNAが関与する細胞プロセスを妨害することなく、細胞内で発現させることもできる。これによって、生細胞内におけるPCNAの存在および/または位置の信頼できる検出が可能である。
【0046】
別の態様では、本発明は、本発明の核酸分子を含む(発現)ベクターに関する。
【0047】
好ましくは、このベクターは、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージまたは通常は、例えば、遺伝子操作で使用される別のベクターである。
【0048】
本発明の核酸分子は、いくつかの市販のベクターに挿入することができる。非限定的な例には、原核細胞プラスミドベクター、例えば、pUC系、pBluescript(Stratagene)、pET系の発現ベクター(Novagen)またはpCRTOPO(Invitrogen)、lambda gt11、pJOE、pBBR1−MCS系、pJB861、pBSMuL、pBC2、pUCPKS、pTACT1、ならびにpREP(Invitrogen)、pCEP4(Invitrogen)、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO−pSV2neo、pBPV−1、pdBPVMMTneo、pRSVgpt、pRSVneo、pSV2−dhfr、pIZD35、Okayama−Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(Invitrogene)、pSPORT1(GIBCO BRL)、pGEMHE(Promega)、pLXIN、pSIR(Clontech)、pIRES−EGFP(Clontech)、pEAK−10(Edge Biosystems)pTriEx−Hygro(Novagen)およびpCINeo(Promega)のような酵母または哺乳類細胞などの真核細胞での発現に適合したベクターが含まれる。酵母ピキア パストリス(Pichia pastoris)に適したプラスミドベクターの例には、例えば、プラスミドpAO815、pPIC9KおよびpPIC3.5K(いずれもInvitrogen)が含まれる。
【0049】
前述の本発明の核酸分子はまた、(さらに)別の核酸分子との翻訳による融合を生じるように、ベクターに挿入することができる。その他の核酸分子は、例えば、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質の溶解度を増加させ、かつ/または精製を容易にすることができるタンパク質をコードしていてもよい。非限定的な例には、pET32、pET41、pET43が含まれる。ベクターはまた、正確なタンパク質の折り畳みを容易にする1個または複数のシャペロンをコードする別の発現可能なポリヌクレオチドを含有していてもよい。適切な細菌発現宿主には、例えば、BL21(例えば、BL21(DE3)、BL21(DE3)PlysS、BL21(DE3)RIL、BL21(DE3)PRARE)から得られた種またはRosetta(登録商標)が含まれる。
【0050】
ベクター改変技術については、SambrookおよびRussel、2001を参照のこと。
【0051】
一般的に、ベクターは、1個または複数の複製開始点(ori)およびクローニングまたは発現のための遺伝システム、宿主において選択するための1個または複数のマーカー、例えば、抗生物質耐性、ならびに1個または複数の発現カセットを含有することができる。適切な複製開始点には、例えば、Col E1、SV40ウイルスおよびM13複製開始点が含まれる。
【0052】
ベクターに挿入された本発明によるコーディング配列は、例えば、標準的方法によって合成するか、または天然の材料から単離することができる。転写調節エレメントおよび/またはその他のアミノ酸をコードする配列へのコーディング配列の連結は、確立された方法を使用して実施することができる。原核細胞または真核細胞での発現を確実にする転写調節エレメント(発現カセットの一部)は当業者にはよく知られている。これらのエレメントには、転写の開始を確実にする調節配列(例えば、翻訳開始コドン、プロモーター、エンハンサーおよび/またはインスレータ−)、配列内リボソーム進入部位(IRES)(Owensら、2001)および所望により転写物の転写終結および安定化を確実にするポリ−Aシグナルが含まれる。他の調節エレメントには、転写ならびに翻訳エンハンサー、および/または天然に関連した、または天然では異種であるプロモーター領域を含めることができる。好ましくは、本発明の核酸分子は、原核細胞または真核細胞での発現を可能にするこのような発現調節配列に操作可能に連結される。ベクターはさらに、他の調節エレメントとして分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。このような配列は、当業者にはよく知られている。さらに、使用する発現系に応じて、発現したポリペプチドを細胞画分に方向付けることができるリーダー配列を、本発明の核酸分子のコーディング配列に付加することができる。このようなリーダー配列は、当技術分野ではよく知られている。特別に設計されたベクターは、異なる宿主間、例えば、細菌−真菌細胞または細菌−動物細胞の間のDNAの往復を可能にする。
【0053】
本発明による発現ベクターは、複製、ならびに本発明の核酸分子の発現およびそれによってコードされるポリペプチドを対象とすることができる。
【0054】
本明細書で前述したような本発明の核酸分子は、細胞への直接導入のため、またはリポソーム、ファージベクターもしくはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)による導入のために設計することができる。さらに、バキュロウイルス系またはワクシニアウイルスもしくはセムリキ森林ウイルスをベースにした系を、本発明の核酸分子のための真核細胞発現系においてベクターとして使用することができる。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスまたはウシパピローマウイルスなどのウイルス由来の発現ベクターを、標的とした細胞集団へのポリヌクレオチドまたはベクターの輸送のために使用することができる。当業者によく知られる方法は、組換えウイルスベクターを構築するために使用することができ、例えば、Sambrook、2001およびAusubel、2001に記載された技術を参照のこと。
【0055】
典型的な哺乳類発現ベクターは、mRNAの転写開始を媒介するプロモーターエレメント、タンパク質コーディング配列ならびに転写の終結および転写物のポリアデニル化に必要なシグナルを含有する。さらに、複製開始点、薬剤耐性遺伝子、調節エレメント(誘導性プロモーターの一部)などの要素も含めることができる。他の要素には、エンハンサー、Kozak配列およびドナーに隣接した介在配列およびRNAスプライシングの受容部位が含められるだろう。効率の高い転写は、SV40の初期プロモーターおよび後期プロモーター、レトロウイルス、例えば、RSV、HTLVI、HIVIの末端反復配列(LTR)ならびにサイトメガロウイルス(CMV)の初期プロモーターによって実現することができる。しかし、細胞性エレメントも使用することができる(例えば、ヒトアクチンプロモーター)。真核宿主細胞での発現を可能にする調節因子のその他の例(より好ましい実施形態)は、酵母におけるAOX1もしくはGAL1プロモーターまたはトリベータ−アクチンプロモーター、CAG−プロモーター(トリベータ−アクチンプロモーターおよびサイトメガロウイルス前初期エンハンサーの組合せ)、gai10プロモーター、ヒト伸長因子1α−プロモーター、CMVエンハンサー、CaM−キナーゼプロモーター、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcMNPV)多角体プロモーターまたは哺乳類およびその他の動物細胞におけるグロビンイントロンである。転写開始を担う因子の他に、このような調節因子にはまた、ポリヌクレオチドの下流の、転写終結シグナル、例えば、SV40−ポリA部位またはtk−ポリA部位またはSV40、lacZおよびAcMNPV多角体ポリアデニル化シグナルを含めることができる。
【0056】
選択的マーカー、例えば、dhfr、gpt、ネオマイシン、ハイグロマイシンを同時形質移入することによって、形質移入された細胞の同定および単離が可能である。形質移入された核酸はまた、コードされる(ポリ)ペプチドを大量に発現するために増幅することができる。dhfr(ジヒドロ葉酸還元酵素)マーカーは、目的とする遺伝子の数百または数千ものコピーを有する細胞株を開発するために有用である。別の有用な選択マーカーは、グルタミン合成酵素(GS)である(Murphyら、1991;Bebbingtonら、1992)。これらのマーカーを使用して、哺乳類細胞を選択培地で増殖させ、最も高い耐性を有する細胞を選択する。その他の選択的マーカーには、真核細胞培養用のG418またはネオマイシン耐性が含まれる。
【0057】
ショウジョウバエのために適した発現ベクターは、ショウジョウバエメタロチオネイン(MT)プロモーターを使用するpMT DES系(Invitrogen)(Bunchら、1988)またはショウジョウバエのアクチン5Cプロモーターを使用するpAC5.1に属するベクターである。GAL4誘導性USAプロモーターを使用するベクターは、pUASTである。酵母ベクターは、pYEpベクター(Gal10プロモーターを使用する)、pYX142(単一コピーベクター)またはpYX232(TPIトリオースリン酸異性化酵素プロモーターを使用する2μプラスミド(いずれもNovagen))である。
【0058】
原核宿主細胞での発現を可能にする有力な調節因子には、例えば、E.coliにおけるlac、trpもしくはtacプロモーター、lacUV5もしくはtrpプロモーターが含まれる。原核細胞における適切な選択的マーカーは、E.coliおよびその他の細菌で培養するためのテトラサイクリン、カナマイシンまたはアンピシリン耐性遺伝子である。
【0059】
別の態様では、本発明は、本発明の核酸分子またはベクターを含む宿主細胞に関する。
【0060】
本発明による宿主は、単一細胞または非ヒトの多細胞生物であってもよい。
【0061】
適切な原核細胞宿主には、例えば、Escherichia、Streptomyces、SalmonellaまたはBacillus種の細菌が含まれる。適切な真核宿主細胞は、例えば、Saccharomyces cerevisiaeまたはPichia pastorisなどの酵母である。発現に適切な昆虫細胞は、例えば、Drosophila S2またはSpodoptera Sf9細胞である。
【0062】
使用できる哺乳類宿主細胞には、ヒトHela、HEK293、H9およびジャーカット細胞、マウスNIH3T3およびC127細胞、COS1、COS7およびCV1、ウズラQC1−3細胞、マウスL細胞、Bowes黒色腫細胞およびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が含まれる。本発明の範囲内にはまた、初代哺乳類細胞または細胞株がある。初代細胞は、生物から直接得られた細胞である。適切な初代細胞は、例えば、マウス胚線維芽細胞(MEF)、マウス初代肝細胞、心筋細胞および神経細胞ならびにマウス筋肉幹細胞(サテライト細胞)およびそれらから得られた安定な不死化細胞株である。あるいは、本発明の核酸分子は、本発明の核酸分子、好ましくは染色体に組み込まれた本発明のベクターを含有する安定な細胞株で発現させることができる。
【0063】
前述の宿主細胞のために適切な培地および培養条件は、当技術分野で知られている。
【0064】
本発明の核酸分子で形質移入し、かつ/または本発明の核酸分子を発現する宿主としてのトランスジェニック非ヒト動物はまた、本発明の範囲内にある。好ましい実施形態では、トランスジェニック動物は、哺乳類、例えば、ハムスター、マウス、ラット、ウシ、ネコ、ブタ、イヌ、ウマ、ウサギまたはサルである。
【0065】
非ヒトトランスジェニック動物、例えば、トランスジェニックマウスの作製方法には、本発明の核酸分子またはターゲッティングベクターの生殖細胞、胚細胞、幹細胞または卵またはそれらから得られた細胞への導入が含まれる。非ヒト動物は、本発明によって、例えば、本明細書で以下に記載した化合物の同定方法において、使用することができる。トランスジェニック胚の作製およびそれらのスクリーニングは、例えば、Joyner(1993)によって記載されたように実施することができる。胚の胚膜のDNAは、例えば、サザンブロットで適切なプローブを使用して分析することができる、上記参照。非ヒトトランスジェニック動物の一般的な作製方法は、当技術分野で記載されており、例えば、WO94/24274を参照のこと。非ヒトトランスジェニック生物(相同性ターゲッティングされた非ヒト動物を含む)を作成するためには、胚性幹細胞(ES細胞)が好ましい。本質的に記載(Robertson、E.J.(1987)in Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:A Practical Approach、p.71〜112)の通り、有糸分裂が不活性なSNL76/7支持細胞層で増殖したAB−1系(McMahon and Bradley、Cell 62:1073〜1085(1990))などのマウスES細胞を相同性遺伝子ターゲッティングのために使用してもよい。その他の適切なES系には、限定されないが、E14系(Hooperら、(1987)、D3系(Doetschmanら、(1985)、CCE系(Robertsonら、(1986)、AK−7系(Zhuangら、(1994)が含まれる。特定のターゲッティングされた変異を有するES細胞からのマウス系の生成の成功は、ES細胞の多能性(すなわち、宿主の発生中の胚、例えば、胚盤胞もしくは桑実胚に一旦注射されると、胚形成に関与し、得られた動物の生殖細胞に寄与する能力)に左右される。注射されたES細胞を含有する胚盤胞は、偽妊娠非ヒト雌の子宮内で発達させ、例えば、キメラマウスとして出産させる。得られたトランスジェニックマウスは、リコンビナーゼまたはレポーター遺伝子座のいずれかを有する細胞のキメラであり、戻し交配を行い、リコンビナーゼまたはレポーター遺伝子座/遺伝子座(複数)のいずれかについてヘテロ接合性であるトランスジェニックマウスを同定するために、正確にターゲッティングされた導入遺伝子(複数可)の存在について、これらのトランスジェニックマウスを、出生児の尾部生検DNAのPCRまたはサザンブロット分析によってスクリーニングする。
【0066】
本発明の核酸分子で形質移入し、かつ/または本発明の核酸分子を発現する宿主としてのトランスジェニック植物はまた、本発明の範囲内にある。
【0067】
本発明はまた、適切な条件下で本発明の宿主細胞を培養し、生成されたポリペプチドを単離することを含む、ポリペプチドを生成する方法に関する。
【0068】
前記宿主細胞は、前述のようにPCNAに特異的に結合する本発明のポリペプチドを発現するか、または過剰発現する。したがって、本発明の前記ポリペプチドは、宿主細胞内で生成し、宿主細胞から単離される。
【0069】
原核細胞宿主または真核細胞宿主を培養するために適切な条件は、当業者にはよく知られている。例えば、細菌を培養するために適切な条件は、Luria Bertani(LB)培地中で通気して細菌を増殖させることである。発現生成物の収率および溶解性を増加させるために、培地は、両方を高めるか、または容易にすることが知られている適切な添加物によって緩衝化するか、または補給することができる。E.coliは、4℃から約37℃で培養することができ、正確な温度または一連の温度は、過剰発現させる分子に左右される。一般的に、当業者はまた、これらの条件は、宿主の要求および発現させるポリペプチドの必要性に適合させる必要があり得ることがわかるであろう。誘導性プロモーターが宿主細胞内に存在するベクターにおいて本発明の核酸を制御する場合、ポリペプチドの発現は適切な誘導剤を添加することによって誘導することができる。適切な発現手順および計画は、当業者には知られている。
【0070】
細胞の種類およびその特異的な必要性に応じて、ポリペプチドを生成するための好ましい実施形態である哺乳類細胞の培養は、例えば、10%(v/v)FCS、L−グルタミン2mMおよびペニシリン/ストレプトマイシン100U/mlを含有するRPMIまたはDMEM培地中で実施することができる。細胞は、5%CO2、水分の飽和した雰囲気中で37℃で維持することができる。
【0071】
真核細胞のための適切な発現手順は、当業者にはよく知られており、例えば、Sambrook、2001から検索することができる。
【0072】
昆虫細胞培養のために適した培地は、例えば、TNM+10%FCSまたはSF900培地である。昆虫細胞は通常、付着培養または懸濁培養として27℃で増殖させる。
【0073】
生成されたポリペプチドの単離方法は当技術分野ではよく知られており、限定されないが、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー)、アフィニティークロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、ディスクゲル電気泳動または免疫沈降法などの方法段階が含まれ、例えば、Sambrook、2001を参照のこと。
【0074】
別の態様では、本発明は、本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドまたは本発明によるポリペプチドを生成する方法によって生成されたポリペプチドに関する。好ましくは、この核酸分子は、配列番号1、15または17の核酸配列あるいは配列番号1、15または17に関して縮重である核酸配列を含むか、またはそれらからなる。
【0075】
好ましい実施形態では、本発明のポリペプチドはさらに、放射活性標識を含む。
【0076】
前記放射活性標識は、(組換え)発現中または発現後にポリペプチドに付着させることができる。本発明のポリペプチドに含まれた放射活性標識は、生細胞内の前記ポリペプチドの量および/または位置の迅速な即時検出を可能にする。
【0077】
本発明はまた、好ましくは、配列番号1、15または17の核酸配列あるいは配列番号1、15または17に関して縮重であり、蛍光色素が結合した核酸配列を含むか、またはそれらからなる、本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドに関する。
【0078】
本発明による蛍光色素は、励起した際に蛍光を放射する非タンパク質性化合物である。蛍光色素の例は、励起および放射スペクトルが可視スペクトルを包含し、赤外にも及ぶアレクサファミリー(例えば、アレクサフルオル350、405、430、488、500、514、532、546、555、568、594、610、633、647、660、680、700および750)、HiLyte Fluors(AnaSpec)、DyLight fluors(Pierce)、ATTO Dyeシリーズ(ATTO−TECおよびSigma−Aldrich)の色素、さらにローダミンおよびフルオレセインなどの明るさが弱い色素である。
【0079】
蛍光色素は、例えば、タンパク質のアミノ酸、例えば、リシンの1級アミノ基にN−ヒドロキシスクシニミド(NHS)エステルを形成して共有結合することができる。
【0080】
蛍光色素で標識した本発明のポリペプチドは、例えば、免疫蛍光法およびイムノブロッティングの適用においてPCNAを検出するために使用することができる。さらに、蛍光色素で標識した本発明のポリペプチドは、生細胞に、様々な技術、例えば、タンパク質形質導入(Schwarzeら、2000)または、例えば、カチオン性脂質を用いたタンパク質輸送(プロテオフェクション)(Dalkaraら、2004)を使用して、また、核酸に関して以下にさらに記載するように導入することができる。
【0081】
別の態様では、本発明は、本発明の核酸またはベクターを導入することを含む、本発明の核酸を含有する細胞を生成する方法に関する。
【0082】
「核酸を導入する」という用語は、核酸の細胞への適用、ならびにその後の前記細胞の核への、好ましくは遺伝子情報またはエピソームの形態での取り込みおよび組み込みを意味する。この定義はまた、特定の核酸であるベクターにも適用することができる。
【0083】
動物細胞については、核酸の導入プロセスは通常、形質移入、形質転換または形質導入と呼ばれる。ウイルスを使用する場合、このプロセスは感染または形質導入と呼ばれる。動物細胞の形質移入には通常、細胞原形質膜に一時的に孔もしくは「穴」を開け、物質の取り込みを可能にすることが必要である。エレクトロポレーションに加えて、形質移入は、外来DNAを細胞に導入する様々な方法によって実施することができる。
【0084】
1つの方法は、リン酸カルシウムによる形質移入である(例えば、Nature Methods2(2005)、319〜320を参照)。リン酸イオンを含有するHEPES緩衝生理食塩水溶液(HeBS)を、形質移入すべきDNAを含有する塩化カルシウム溶液と一緒にする。両溶液を一緒にすると、正に荷電したカルシウムおよび負に荷電したリン酸の細かい沈殿が形成し、その表面に形質移入すべきDNAが結合する。その後、この沈殿懸濁液を形質移入すべき細胞(通常、単層で増殖した培養細胞)に添加する。多くの物質、中でも(カチオン性)ポリマー、リポソームおよびナノ粒子が形質移入のための担体として使用されている(例えば、米国特許第5948878号、Felgnerら、1987;Martienら、2008を参照)。このような方法は、DNAを結合するために、例えば、高度に枝分かれした有機化合物、いわゆるデンドリマーを使用する。非常に効率のよい方法は、形質移入すべきDNAを、細胞膜と融合し、細胞内へDNAを放出させることができるリポソームに封入することである。真核細胞については、細胞がより敏感なので、脂質−カチオンをベースにした形質移入がより一般的に使用される。別の方法は、DEAE−デキストランまたはポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーを使用することである。負に荷電したDNAは、ポリカチオンに結合し、この複合体はエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれる。遺伝物質の形質移入はまた、エレクトロポレーションによって実施することができる(Neumann,E.ら、1982、EMBO Journal、1(7)、841〜845;Potter,H.ら、1984,PNAS、81(22)、7161〜7165)。
【0085】
その他の形質移入方法には、ヌクレオフェクション、熱ショック、マグネトフェクションおよび形質移入試薬、例えば、リポフェクタミン(商標)、Dojindo HilyMax、Fugene、jetPEI(商標)、EffecteneまたはDreamFect(商標)が含まれる。
【0086】
核酸の導入は安定であること、すなわち、核内で安定に存在することが好ましい。導入された核酸が、細胞の増殖培地中に存在する特定の除草剤、毒素または抗生物質に対する耐性などの選択上の利点を細胞にもたらす選択的マーカーをそれ自体コードしない場合、また導入した核酸が核に安定的に組み込まれない場合、このような選択的マーカーをコードする別の核酸と同時形質転換することによって組み込みを促進することができる。
【0087】
他の態様では、本発明は、(a)真核細胞において、蛍光ポリペプチドおよび少なくとも1個のアミノ酸のリンカーをさらにコードする本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドを発現させ、そして(b)励起した際に細胞内で前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射を検出することを含み、細胞内での前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射の位置はPCNAの存在の指標である、生細胞内のPCNAの量および/または位置を検出する方法に関する。
【0088】
「真核細胞における発現」という用語は、選択された細胞において機能する適切な発現制御要素を使用して、蛍光ポリペプチドおよび少なくとも1個のアミノ酸のリンカー、すなわち本発明の融合タンパク質をさらにコードする本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドを転写し、翻訳することに関する。この様式では、本発明による個々の融合タンパク質の結合特性は、細胞発現系で試験することができる。このために、融合タンパク質をコードする核酸分子は、前述したような適切な発現ベクターにクローニングすることができる。このために、および本発明の以下の態様のために、発現系は、真核生物、好ましくは哺乳類である。
【0089】
この方法は、目立った細胞周期マーカーPCNAの存在、特に位置を検出するための効率のよい、使用しやすい手段を提供することによって、細胞周期に関する基礎研究をやりやすくする。それによって、例えば、異なる環境条件、例えば、温度、培地中の添加物、細胞周期に対する照射および任意の化合物ならびに異なる細胞種の増殖挙動の影響を解明することができる。その上、さらに以下に記載するように、本発明のポリペプチドのインビボでの適用性は、細胞周期に影響を有する薬剤のスクリーニングに有用である。特に、リアルタイムで細胞周期の進行を測定し、様々な細胞周期段階でのPCNAの特徴的な分布を分析することによって、薬剤の阻害ならびに刺激効果を研究することが可能である。本発明のポリペプチドを用いて、別個の細胞周期段階(G1期、S期、G2期または有糸分裂)は、特定の細胞周期段階におけるPCNAの分布を反映するポリペプチドの細胞分布を分析することによって、区別することもできる。
【0090】
本発明はまた、細胞周期に対して効果を有する化合物のスクリーニング方法であって、(a)蛍光ポリペプチドをコードする核酸配列をさらに含む本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドを真核細胞内で発現させ、ここで、前記蛍光ポリペプチドは少なくとも1個のアミノ酸残基のリンカーによってPCNAに特異的に結合する前記ポリペプチドから離れており、(b)細胞を試験化合物と接触させ、(c)励起した際に前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射を検出することを含み、細胞内における前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射の量および/または位置が、蛍光ポリペプチドをコードする核酸配列をさらに含む本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドを発現しかつ試験化合物と接触していない参照真核細胞内で認められた蛍光放射の量および/または位置と比較して変化することは、化合物が細胞周期に対して効果を有することの指標であることを特徴とする方法に関する。
【0091】
試験化合物は、核酸、ポリペプチド、ペプチド(アミノ酸30個までのアミノ酸配列)、ペプチドアプタマー、核酸をベースにしたアプタマー、リボザイム、小分子または抗体またはそれらの断片の種類に属する化合物であってもよいが、これらに限定されない。試験化合物は、任意の化合物であることができる。
【0092】
リボザイム(リボ核酸酵素由来、RNA酵素または触媒的RNAとも呼ばれる)は、化学反応を触媒するRNA分子である。多くの天然リボザイムが、それ自体の切断またはその他のRNAの切断を触媒するが、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性を触媒することも見出されている。
【0093】
よく特徴付けられた小さな自己切断RNAの例は、ハンマーヘッド、ヘアピン、デルタ型肝炎ウイルスおよびインビトロで選択された鉛依存性リボザイムである。これらの小さな触媒物質の構成は、大きなリボザイム、例えば、グループIイントロンの構成と対照的である。
【0094】
アプタマーは、特定の標的分子に結合するオリゴ核酸またはペプチド分子である。アプタマーは通常、大きなランダム配列プールから選択することによって生成されるが、天然のアプタマーもリボスイッチ内に存在する。アプタマーは、高分子薬剤として、基礎研究目的および臨床目的の両方に使用することができる。アプタマーはリボザイムと一緒になり、標的分子の存在下で、自己切断することができる。これらの化合物分子は他の研究、産業および臨床に応用される。より具体的には、アプタマーは、DNAまたはRNAアプタマーまたはペプチドアプタマーに分類することができる。前者は(通常は短い)オリゴヌクレオチド鎖からなるが、後者は、両端がタンパク質骨格に付着した短い可変的なペプチドドメインからなる。
【0095】
核酸アプタマーは、小分子、タンパク質、核酸などの様々な分子標的ならびに細胞、組織および生物までも結合するように、インビトロ選択または同等のSELEX(試験管内進化法)を繰り返し行うことによって操作された核酸種である。
【0096】
ペプチドアプタマーは、細胞内でのその他のタンパク質の相互作用を妨害するように設計された(ポリ)ペプチドである。これらは、タンパク質骨格の両端に付着した可変性のペプチドループからなる。この二重の構造的制約によって、抗体の結合親和性に匹敵するレベル(ナノモルの範囲)までペプチドアプタマーの結合親和性は著しく増加する。可変性のループの長さには通常、アミノ酸10個から20個が含まれ、骨格は任意のタンパク質であってもよく、良好な溶解特性を有する。
【0097】
最近、細菌性タンパク質、チオレドキシン−Aが最も頻繁に使用される骨格タンパク質であり、可変性のループが還元活性部位内に挿入されており、野生型タンパク質では−Cys−Gly−Pro−Cys−ループとなっており、外側の2個のシステイン鎖はジスルフィド架橋を形成することができる。ペプチドアプタマーの選択は、異なる系を使用して行うことができるが、最近最も頻繁に使用されるのは、酵母のツーハイブリッドシステムである。
【0098】
抗体は、例えば、ポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。「抗体」という用語にはまた、結合特異性をまだ保持しているそれらの誘導体が含まれる。抗体を生成するための技術は、当技術分野ではよく知られており、例えば、HarlowおよびLane「Antibodies, A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988ならびにHarlowおよびLane「Using Antibodies:A Laboratory Manual」Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999に記載されている。
【0099】
「抗体」という用語はまた、キメラ、1本鎖およびヒト化抗体を含む。試験化合物として適用できる抗体断片には、Fab断片、F(ab’)2、FvまたはscFv断片が含まれる、例えば、HarlowおよびLane(1988)ならびに(1999)、上記引用参照。
【0100】
本発明による小分子は、有機分子または無機分子であることができ、分子量は最高2000ダルトン、好ましくは1000ダルトン以下、最も好ましくは800ダルトン以下である。
【0101】
好ましい実施形態では、検出は、蛍光顕微鏡を使用して実施する。
【0102】
蛍光顕微鏡は、反射および吸収の代わりに、またはそれに加えて、蛍光およびリン光の現象を使用して有機物質または無機物質の特性を研究するために使用される光学顕微鏡である。蛍光色素によって吸収される特定の波長(または波長類)の光を標本に照射し、(吸収した光とは異なる色の)より長い波長の光を放射させる。照射光は、放射フィルターを使用することによって、非常に弱い放射蛍光から分離する。蛍光顕微鏡の典型的な構成部分は、光源(キセノンまたは水銀アーク放電ランプ)、励起フィルター、ダイクロイックミラー(またはダイクロマティックビームスプリッター)および放射フィルターである。このようなフィルターおよびダイクロイックミラーは、標本を標識するために使用される蛍光色素のスペクトル励起および放射特性に合致するように選択する。使用される蛍光顕微鏡のほとんどは、落射蛍光(epi−fluorescence)顕微鏡である(すなわち、蛍光の励起および観察を標本の上部(epi)から行う)。これらの顕微鏡は、生物学分野において重要な部分となってきており、より進歩した顕微鏡、例えば、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)および全反射照明蛍光顕微鏡(TIRF)の設計への道を開く。これらの技術は、当業者にはよく知られている。
【0103】
この方法で同定された化合物は、リード化合物とも呼ばれ、例えば、医薬組成物で使用することができる化合物になるように最適化することができる。スクリーニングで同定した化合物の薬理学的特性を最適化するため方法は、当技術分野では知られており、(i)作用部位、活性の範囲、臓器特異性の改変、および/または(ii)効力の改善、および/または(iii)毒性の減少(治療指数の改善)、および/または(iv)副作用の減少、および/または(v)治療作用の開始、効果の期間の改変、および/または(vi)薬物動態パラメータ(再吸収、分配、代謝および排泄)の改変、および/または(vii)物理化学的パラメータ(溶解性、吸湿性、色、味、臭い、安定性、状態)の改変、および/または(viii)全般的特異性、器官/組織特異性の改善、および/または(ix)適用形態および適用経路の最適化を実現するために、(i)カルボキシル基のエステル化、または(ii)カルボン酸によるヒドロキシル基のエステル化、または(iii)ヒドロキシル基の、例えば、リン酸、ピロリン酸もしくは硫酸もしくはヘミコハク酸へのエステル化、または(iv)薬学的に許容される塩の形成、または(v)薬学的に許容される複合体の形成、または(vi)薬理学的に活性のあるポリマーの合成、または(vii)親水性部分の導入、または(viii)芳香族(aromate)もしくは側鎖上の置換基の導入/交換、置換パターンの変化、または(ix)等価もしくは生物学的等価部分の導入による改変、または(x)相同化合物の合成、または(xi)枝分かれ側鎖の導入、または(xii)アルキル置換基の環式類似体への変換、または(xiii)ヒドロキシル基のケタール、アセタールへの誘導体化、または(xiv)アミド、フェニルカルバメートへのN−アセチル化、または(xv)マンニッヒ塩基、イミンの合成、もしくは(xvi)ケトンもしくはアルデヒドのシッフ塩基、オキシム、アセタール、ケタール、エノールエステル、オキサゾリジン、チアゾリジンもしくはそれらの組合せへの転換によって、リード化合物として同定された化合物を改変する方法を含む。
【0104】
前記で引用した様々な工程は、全般的に当技術分野では知られている。様々な工程には、定量的構造活性相関(QSAR)分析(Kubinyi、「Hausch−Analysis and Related Approaches」VCH Verlag、Weinheim、1992)、コンビナトリアル生化学、古典的化学およびその他(例えば、Holzgrabe and Bechtold,Deutsche Apotheker Zeitung 2000、140(8):813参照)が含まれるか、またはそれらを利用する。
【0105】
別の態様では、本発明は、生物医学的研究もしくは薬剤スクリーニングにおける本発明の核酸、本発明のベクター、本発明の宿主細胞、本発明のポリペプチドまたは本発明の方法によって生成されたポリペプチドの使用に関する。
【0106】
これに関して、前述のような細胞周期に対して効果を有する化合物の本発明によるスクリーニング方法について記載した実施形態は、本発明による使用に同様に適用される。
【0107】
例えば、薬剤スクリーニングは、薬剤となり得る試験化合物で処理した後、本発明のポリペプチドを発現する細胞においてS期、G1期、G2期または有糸分裂のような別箇の細胞周期段階の検出を利用する。化合物は、例えば、核酸、(ポリ)ペプチド、ペプチドアプタマー、核酸をベースにしたアプタマー、小分子または抗体またはそれらの断片の種類に属する化合物であってもよいが、これらに限定されない。化合物は、任意の化合物であることができる。
【0108】
生物医学的研究または薬剤スクリーニングは、好ましくは、細胞がS期に入るのを阻止するか、またはS期の進行を妨害する化合物のスクリーニング/同定を含み、例えば、前述のような細胞周期に対して効果を有する化合物のスクリーニング方法を使用して実施することができる。これは、ゲノム複製を阻害することができ、したがって、細胞分裂を阻止することによって癌治療に直接影響を及ぼすことができる有望な薬剤を同定するために、特に興味深い。
【0109】
スクリーニング方法の例には、例えば、マルチウェル形式(96ウェル、384ウェルまたはその他の形式)で、本発明のポリペプチドを発現する細胞を試験化合物と接触させ、その後、前述のように蛍光生細胞顕微鏡および蛍光検出を行うことが含まれる。生細胞イメージングおよび蛍光検出を使用して、本発明のポリペプチドは、PCNAに結合した後で、細胞の核内で視覚化することができる。それによって、内在性PCNAは、初期複製遺伝子(S期初期)からS期後期の後期複製クロマチンに至る複製部位から得られた特徴的な構造で検出することができる。さらに、核内における本発明のポリペプチドの分布から、細胞がG1期、G2期または有糸分裂のいずれであるかを結論づけることができる。
【0110】
細胞周期に影響を及ぼす特定の化合物を同定するために、本発明のポリペプチドの分布および動的パターンは、試験化合物と接触していない参照細胞における本発明のポリペプチドの分布と直接関連づけることができる。
【0111】
実施例では、本発明を例示する。
【実施例1】
【0112】
PCNAに結合する抗体の生成
アルパカの免疫
1頭のラマアルパカ(Lamos pacos)を、GErbuアジュバントに入れた精製した組換えPCNAにより、以下の計画に従って免疫した。0日目、PCNA500μg、7、14、21、35、49および103日目、PCNA125μg。110日目に、血液100mlを採取した。
【0113】
ファージディスプレーライブラリーの作製
末梢性Bリンパ球を全部で2×107個、血液から単離した(Lymphoprep(商標)、製造元の指示に従う)。mRNAを単離し、cDNAを合成した後、アルパカの重鎖抗体(VHH)の可変ドメインをPCRで増幅し、pHEN4cベクターに連結した(Conrathら、2001)。連結物をTG1細胞に形質転換することによって、1.5×105コロニーのライブラリーが生じた。
【0114】
ファージディスプレーライブラリーのパニング
ファージディスプレーされたPCNAに結合するVHHを選択するために、精製された組換えPCNAに対して3回パニングを実施した。PCNAに結合するVHHを含む陽性ファージクローンは、固相ELISAで検出した。さらに特徴付けるために、陽性クローンを配列決定し、それぞれのタンパク質配列をF2Hスクリーニングから選択したVHHドメインのDNA配列から得られた陽性タンパク質配列と整列させた(図1参照)。
【0115】
1回および3回パニングした後、F2Hアッセイによって同定した陽性クローンの選択
陽性の細胞内機能的PCNA Chromobodyは、PCT/EP2009/000067で開示されたF2Hアッセイを使用して選択した。それらの結果の例を図2に示す。ELISAおよびF2Hから得られた陽性クローンのDNA配列を整列させた(図1)。整列によって、両方のスクリーニングに独立して表れた3個の特有のタンパク質配列が濃縮されていることが示された。
【0116】
PCNA1pD5−mRFP(F2H)およびPCNA3pC8−GFP(F2H)の配列は、PCNA1p15(ELISA)の配列と同一であり、PCNA3pA4−mRFP(F2H)はPCNA3p10(ELISA)およびPCNA3p2(ELISA)の配列と同一であった。しかし、その後のインビボ分析により、PCNA1pD5−mRFPおよびPCNA3pC8−GFPは、HeLa細胞において内在性PCNAを認識しなかった。対照的に、PCNA3pF6−GFPは内在性PCNAに結合することができ(データは示さず)、したがって、さらに特徴付けするために選択された。以下において、このクレームしたクローンは、Chromobodyとして使用するときに、組換えVHHドメインおよびPCNA3p16−GFP(配列番号10のアミノ酸配列を有する)として適用される場合、PCNA3p16(配列番号1のアミノ酸配列を有する)と称する。
【実施例2】
【0117】
PCNA3p16−GFPはHeLa細胞の複製部位に位置するので、S期の進行は妨害されない
F2HおよびELISAアッセイでChromobody PCNA3p16−GFPを同定した後、ChromobodyのPCNAへの結合をさらに分析し、特徴付ける必要があった。まず、一時的に発現したPCNA3p16−GFPがRFP−PCNAまたは別のS期マーカーであるHcRedリガーゼと共存するかどうかを調べた。調べるために、HeLa細胞をカバーガラスに接種し、RFP−PCNAまたはHcRedリガーゼをコードする発現ベクターおよびPCNA−Chromobody PCNA3p16−GFPをコードするベクターで一時的に2重形質移入した。形質移入して24時間後、細胞を4%PFAで室温で15分間固定し、PBSに溶かした0.2%Triton−X−100で透過処理し、DNAをDAPIで対比染色した。スライドをVectaShieldに載せ、DAPI(D360_40X/HQ460_40M)、GFP(HQ480_40X/HQ535_50M)および赤色蛍光タンパク質(HQ565_30X/HQ620_60M)に適したフィルターセットならびに63X/1.3NA Plan Apo油浸対物レンズを備えた落射蛍光顕微鏡でさらに分析した。予測通り、RFP−PCNAならびにHcRed−リガーゼは、細胞の核のDNA複製部位に局在した。いずれの場合も、RFP−PCNAおよびHcRed−リガーゼとChromobody PCNA3p16−GFPの共存が検出された(図3A)。この結果は、PCNA−Chromobodyが細胞の複製中心に正確に局在することを示唆している。PCNA3p16−GFPの正確な局在が、その他の複製タンパク質の同時発現に左右されないようにするために、HeLa細胞をPCNA3p16−GFP単独で形質移入した。再度、PCNA3p16−GFPの複製部位への局在が認められ、実際に、PCNA3p16−GFPが複製部位で内在性PCNAに結合できることを示している(図3B)。
【0118】
PCNA3p16−GFPが活性DNA複製部位に局在する内在性PCNAを認識することを確認するために、PCNAに対する抗体染色およびBrdUパルス追跡実験を実施した。従来の抗体で内在性PCNAを検出するために、細胞を前述のように固定し、100%氷冷メタノールで5分間透過処理した。抗PCNA1次抗体(クローン16D10)(1:400)は、蛍光色素アレクサ568を結合させた2次抗体によって検出した。
【0119】
活性複製部位を視覚化するために、BrdUを増殖細胞の培地に添加した。このヌクレオチド類似体は、細胞によって取り込まれ、S期の間に新たに合成されたDNAに組み込まれる。5分後、BrdUを含有する培地を新鮮な培地と交換する。細胞を30分間インキュベートし、その後、4%PFAで15分間室温で固定する。細胞をTritonで透過処理した後、組み込まれたBrdUは、マウス抗BrdU1次抗体(1:500)および蛍光色素アレクサ555を結合した抗マウス2次抗体を含むBrdU検出キットを使用して視覚化した。細胞の顕微鏡分析(前述の通り)によって、Chromobody PCNA3p16−GFP(緑)は、抗PCNA抗体(16D10)(赤)によって検出された内在性PCNAタンパク質と完全に共存していることが明らかになった(図4A)。この結果は、PCNA3p16−GFPが内在性PCNAに結合するという以前の結果を裏付けている。
【0120】
前述のように、BrdUは新たに合成されたDNAに組み込まれ、それによって細胞内の活性のあるDNA複製部位を標識する(赤)。30分間追跡した後、蛍光BrdUパターンおよびPCNA3p16−GFPパターン(緑)はわずかにずれたことを見ることができた。この観察によって、内在性PCNAは隣接する複製中心に進入することが示唆された。これは、内在性PCNAにPCNA3p16−GFPが結合してもS期の進行を妨害しないことを示す(図4B)。並行して、BrdU標識を、GFP−PCNAを一時的に過剰発現する細胞において実施した。PCNA3p16−GFPを発現する細胞と同じように、S期の進行はGFP−PCNAを発現する細胞でも阻害されなかった。しかし、GFP−PCNAの過剰発現は、BrdU染色によって示されたように、細胞がS期でなくても、複製パターンと類似の蛍光パターンを時々生じることが観察された。
【実施例3】
【0121】
PCNA3p16−GFPを発現するHeLa細胞の生細胞連続撮影
PCNA3p16−GFPを発現するHeLa細胞のS期の間の正常な進行を確認するため、生細胞の連続撮影を実施した。HeLa細胞をibidi社製μスライド生細胞チャンバーに接種し、Chromobody PCNA3p16−GFPをコードする発現ベクターで形質移入した。細胞形質移入の12時間後、温度制御された生細胞キャビネットおよびZeiss 63X/1.4NA Plan Apo油浸対物レンズを装着したPerkinElmer社製スピニングディスク共焦点顕微鏡を使用して、生細胞連続撮影を24時間行い、15分毎に画像を撮影した。GFPは、488nmレーザーで励起した。生細胞連続撮影によって、S期の間の細胞の進行が示される(図5)。
【実施例4】
【0122】
HeLa細胞における内在性PCNAタンパク質レベルと比較したGFP−PCNAの過剰発現
過剰発現したGFP−PCNAのレベルを内在性PCNAレベルと比較するために、GFP−PCNAをコードするプラスミドでHeLa細胞3×105個を一時的に形質移入した。形質移入して20時間後、形質移入効率を測定し、細胞溶解物を調製した。細胞溶解物はSDS−PAGEで分離し、抗PCNA抗体(16D10)を用いたイムノブロットによってさらに分析した。ImageJによるイムノブロットシグナルの定量化によって、GFP−PCNAが、内在性PCNAレベルと比較して15倍過剰発現していることが明らかになった。しかし、形質移入された細胞は25%だけだったので、定量された値を4倍し、GFP−PCNAのタンパク質レベルは60倍となった(図6)。
【実施例5】
【0123】
PCNA3p16−GFPのFRAP測定によって、PCNA−Chromobodyの複製中心への一時的ではあるが明確な結合が明らかである
Chromobody PCNA3p16−GFPの内在性PCNAへの結合親和性を特徴付けるために、FRAP(蛍光退色後回復測定)分析を実施した。ibidi社製μ−スライド中で細胞を増殖させ、指示した発現構築物で形質移入した。FRAP分析のため、63X/1.4NA Plan Apo油浸対物レンズを装着したLeica SP5共焦点顕微鏡を使用した。10枚の退色前の画像を1.3秒の間隔で撮影した。その後、最大強度のレーザーパルス(488nm)を当て、矩形ROI(対象領域、通常は核の領域の半分)を退色させた。退色した領域の蛍光回復をモニターするために、1.3秒の間隔で70枚の画像を、その後5秒の間隔で10枚の画像を撮影した。
【0124】
図7Aは、Chromobody PCNA3p16−GFP(PCNA−cb−GFP)またはGFP−PCNAのいずれかを発現するHeLa細胞の半核FRAPの代表的画像を示す。いくつかの細胞のFRAP測定の統計学的評価によって、GFP−PCNAと比較してChromobody PCNA3p16−GFPの有意に速い回復速度(約35秒)が示された。このことは、生細胞内におけるPCNA−Chromobodyと内在性PCNAとの間の一時的な相互作用を示している。この相互作用の一時的な性質が、内在性PCNAの機能がPCNA3p16−GFPの結合によって邪魔されたり、妨害されたりしない理由である可能性が最も高い。しかし、この結合は、生細胞内においてS期を通じて複製中心にある内在性PCNAタンパク質の可視化を可能にするには依然として十分に特異的である(図7B)。
【実施例6】
【0125】
PCNA3p16−GFPを発現する安定な3種類のHeLa細胞株の生成および増殖分析
細胞内におけるタンパク質の一時的な過剰発現は、不均一な発現レベルを生じることが多い。したがって、PCNA3p16−GFPを安定的に発現するHeLa細胞株を生成した。HeLa細胞を非常に低い密度(1%コンフルエンス)で接種し、PCNA3p16−GFP発現ベクターで形質移入した。形質移入して2日後、G418を含有する培地で細胞を培養して、形質移入した細胞を選択した。数日後、PCNA3p16−GFPを発現する細胞がコロニーを形成するのを観察した。複製パターンを検出するために適した均一な発現レベル(すなわち、PCNA3p16−GFPの検出および局所的構造の空間的解明の両方を可能にする発現レベル)を備えたコロニーをさらにサブクローニングするために選択した。最終的に、3個のクローン、5.1、9.1および9.6を選択した(図8A)。
【0126】
3種類の安定な細胞株全ての増殖挙動は、増殖アッセイで分析して、GFP−PCNAを安定的に発現する細胞の増殖と比較した。細胞を6ウェルプレートに接種し、1、2および3日後に10X/0.45 NA Plan Apo乾燥系対物レンズ(air objective)を装着したINCell Analyzer 1000(GE Healthcare)を使用して画像を撮影した。細胞は、INCellワークステーション、自動画像評価および定量プログラムによって計数した。PCNA3p16−GFPを安定的に発現するクローン5.1および9.6の増殖速度は、GFP−PCNAを安定的に発現するHeLa細胞株に非常に類似していた。クローン9.1の細胞は、GFP−PCNAを発現する細胞よりも約50%遅く増殖した(図8B)。しかし、3種類のPCNA3p16−GFP細胞株は全て、均一な発現レベルを示し、内在性複製中心を視覚化する。したがって、それらは、さらなる研究によく適している。
【実施例7】
【0127】
フレームワーク領域内の保存的置換は、ポリペプチドの機能性を妨害しない
PCNA特異的Chromobody PCNA3p16−GFP(配列番号2)を同定した後、PCNA−Chromobodyライブラリーの配列データ分析をさらに実施して、フレームワーク領域内にはあるが、抗原結合に関与することが知られている相補性決定領域(CDR)内にはない保存的置換を含む結合配列を得るためにスクリーニングした。2種類の結合配列(アミノ酸配列番号16および配列番号18、図9参照)を選択して、生細胞内におけるPCNA結合を試験した。
【0128】
その実施のために、HeLa細胞をカバーガラスに接種し、配列番号16のPCNA−Chromobody変種および融合したGFPまたは配列番号18のPCNA−Chromobody変種および融合したGFPをコードする発現ベクターで一時的に形質移入した。形質移入して24時間後、細胞を4%PFAで室温で15分間固定し、PBSに溶かした0.2%Triton−X−100で透過処理し、DNAをDAPIで対比染色した。スライドをVectaShieldに載せ、DAPI(D360_40X/HQ460_40M)およびGFP(HQ480_40X/HQ535_50M)に適したフィルターセットならびに63X/1.3NA Plan Apo油浸対物レンズを備えた落射蛍光顕微鏡でさらに分析した。
【0129】
両ChromobodyはPCNAを認識し、細胞内の複製中心に正確に局在する(図10参照)。このことから、フレームワーク内の保存的変異は、対応するchromobodyの抗原結合能力を妨害しないことを結論づけることができる。
【実施例8】
【0130】
有糸分裂誘導因子コルセミドの例に対する本発明の核酸を使用した薬剤スクリーニング
PCNA3p16−GFPを安定的に発現するHeLa細胞株(クローン9.6;GFPに融合した配列番号2のアミノ酸配列)を、生細胞イメージングチャンバー内で50%コンフルエンスで接種した(ibidi社製μスライド8ウェル)。一晩インキュベートした後、正常な増殖培地(DMEM+10%FCS)をCO2適応生細胞用培地(フェノールレッドを含まないDMEM+10%FCS+ヘペス緩衝液25mM)と交換した。その後、イメージングスライドを37℃および5%CO2に調節した環境制御チャンバーを備えたINCell Analyzer 1000(GE Healthcare)ハイコンテント(high content)顕微鏡上に載せた。画像は、蛍光タンパク質GFPに適したフィルターセット(HQ480_40X/HQ535_50M)を使用した20X/0.45 NA乾燥系対物レンズで、750msの曝露時間で撮影した。生細胞イメージングのために、ウェル当たり15視野を選択し、30分の間隔で13時間の連続撮影を開始した。最初の時点の後、コルセミド0.1μg/mlを1ウェルの培地に直接添加し、対照細胞は未処理のままとした(図11A)。コルセミドは、コルヒチンなどの有糸分裂阻害剤で、微小管を脱重合し、微小管形成を制限し(紡錘糸形成を不活性化し)、したがって、細胞を分裂中期で停止させる。
【0131】
撮影したデータセットを自動画像評価および定量プログラムINCellワークステーションで分析した。そのために、細胞、核を同定し、静止期と分裂中期の細胞の間を区別するために、特殊な手順を設計して開発した。時点当たりの有糸分裂細胞の量を計数し、評価した。図11Bでプロットした図は、コルセミド処理細胞集団における有糸分裂細胞の予測される増加を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖細胞核抗原(PCNA)に特異的に結合するポリペプチドをコードする核酸分子であって、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の1から28、38から52、63から98および115から123の位置の1個または複数のアミノ酸の保存的置換により配列番号2と異なるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸分子。
【請求項2】
(a)配列番号1、15もしくは17の核酸配列、または
(b)(a)の核酸配列に関して縮重した核酸配列
を含むか、またはそれらからなる、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
視覚的に検出可能なペプチド性またはタンパク質性マーカーをコードする核酸配列をさらに含む、請求項1または2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記視覚的に検出可能なペプチド性またはタンパク質性マーカーが蛍光ポリペプチドであり、前記蛍光ポリペプチドが、少なくとも1個のアミノ酸残基のリンカーによってPCNAに特異的に結合する前記ポリペプチドと離れている、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記蛍光ポリペプチドがGFP、RFPまたはYFPである、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
PCNAに特異的に結合するポリペプチドが、前記蛍光ポリペプチドのN末端に位置する、請求項4または5に記載の核酸分子。
【請求項7】
配列番号9、11、19もしくは21の核酸配列を含むかもしくはそれらからなり、または配列番号10、12、20もしくは22を含むか、もしくはそれらからなるアミノ酸配列をコードする、請求項1から6のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項8に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか1項に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリペプチドを生成する方法であって、適切な条件下で請求項9に記載の宿主細胞を培養し、生成されたポリペプチドを単離することを含む方法。
【請求項12】
(a)蛍光色素を結合した請求項1または2のいずれか1項に記載の核酸分子によってコードされるか、または
(b)請求項11に記載の方法によって生成された
ポリペプチド。
【請求項13】
真核生細胞内におけるPCNAの量および/または位置を検出する方法であって、
a.請求項3から7のいずれか1項に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチドを前記細胞内で発現させ、
b.励起した際の細胞内における前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射を検出する、
の各工程を含み、細胞内における前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射の位置がPCNAの存在の指標である方法。
【請求項14】
細胞周期に対して効果を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
a.請求項3から7のいずれか1項に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチドを真核細胞内で発現させ、
b.細胞を試験化合物と接触させ、
c.励起した際の前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射を検出する、
の各工程を含み、細胞内における前記ポリペプチドの蛍光部分の蛍光放射の量および/または位置が、請求項3から7のいずれか1項に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチドを発現しかつ試験化合物と接触していない参照真核細胞内で認められた蛍光放射の量および/または位置と比較して変化することは、化合物が細胞周期に対して効果を有することの指標であることを特徴とする方法。
【請求項15】
生物医学的研究または薬剤スクリーニングにおける、請求項1から7のいずれか1項に記載の核酸、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の宿主細胞、請求項11もしくは12に記載のポリペプチド、または請求項10に記載の方法によって生成されたポリペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−531921(P2012−531921A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518963(P2012−518963)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059622
【国際公開番号】WO2011/003896
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(510184704)
【Fターム(参考)】