説明

生肉保存用抗菌剤

本発明は、グリシンおよび/またはグリシン誘導体を抗菌剤として生肉に使用する方法に関する。エシェリヒア・コリ菌、サルモネラ菌およびカンピロバクター菌に対する生肉の保存に、本発明はとりわけ適している。好ましくは、グリシンおよび/またはその誘導体は、生肉に唯一の抗菌剤として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生肉の保存用の抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
慣用的に、pH調整、水活性度制御、冷蔵、高品質保存剤、たとえば亜硝酸塩の添加によって、および/または各種の処理技術、たとえば熱処理、照射処理若しくは高圧処理を使用して、食物および飲料用途品中の細菌の成長は抑制されおよび/または防止される。
【0003】
しかし、生肉の保存について要求されるものは高い。一つには、これは、人々が保存処理されていない肉の(風味および食感(テクスチャ)の両方に関しての)品質に慣れており、したがって全ての保存方法は生肉の品質を保つべきであるとのことの故である。殆どの慣用の保存方法によっては、このことは保証されない。たとえば、製品中の水活性度を抑制することは、たとえば塩添加によって可能である。しかし、塩添加によって製品中の細菌の成長を抑制または防止することは、高塩濃度を要求する。この高濃度は、しばしば風味の喪失をもたらす。何故ならば、該製品が塩からくなり過ぎるからである。さらに、たとえば心臓病および血管病または高血圧のような健康問題に関連しても、塩の高すぎる施与量は望ましくない。とりわけ、生肉(これは魚肉および家禽肉を包含する。)のようなタンパク質含有製品では、当該高塩濃度は該製品の食感の悪化をもたらすことがある。
【0004】
また、細菌成長を抑制する手段としてのそのpHのpH調整は、生肉の風味の喪失および/または食感の喪失を引き起こしかねない。
【0005】
保存処理された肉用途品に、製品品質を保つ目的で、亜硝酸塩が添加される。亜硝酸塩は、あるタイプの細菌、たとえばクロストリジウム(Clostridium)菌の細菌成長を止める能力がある。ある場合には、肉製品のある色を維持するための着色剤として、亜硝酸塩は添加される。生肉には、通常、亜硝酸塩は添加されない。現在、食品用途品への亜硝酸塩の使用を最小化するように法制化が意図されている。製品の保存方法としてのさらなる処理技術、たとえば照射処理または高圧処理が生肉に使用されているが、これらは費用がかかり、時間がかかり、またしばしば消費者に好まれない。
【0006】
他方、生肉の汚染の危険は無視できない。と畜解体、骨抜きおよび肉挽きの間に、腸内に多量に存在する食品病原菌および食品腐敗細菌が生肉と接触するかも知れない。生肉は、多くのタンパク質および脂肪を有し、かつおおよそ中性のpHを有する豊かな媒質であるので、当該食品病原菌および食品腐敗細菌の成長のための天国である。
【0007】
普通、生肉は、調理および/または消費前に冷蔵される。食中毒の最も重要な原因の一つは、食品の不適切な取扱いの故の汚染であることが知られている。さらに、製品はしばしば不適切な状態で貯蔵される。温度の誤用(たとえば、偶発的な高温貯蔵)は、製品中に既に存在していたが抑制されていた細菌が再び成長し、病原性細菌による食中毒をもたらす原因となりうる。とりわけ、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)菌(大腸菌)、サルモネラ(Salmonella)菌およびカンピロバクター(Campylobacter)菌のような食品病原菌は、生肉中の悪名高い危険な存在である。本発明は、生肉の保存、とりわけ食中毒を防ぐ保存における上述の問題が解決される生肉の保存方法を提供し、さらに、たとえば不適切な取り扱いおよび/または不適切な調理の故の、たとえば温度の誤用および/または汚染の故の病原性細菌による生肉の食中毒と戦う手段を提供する。
【0008】
調理された肉および他の食品の食品腐敗に対するグリシンの抗菌効果を記載する種々の刊行物が存在する。すなわち、特開2000−224976号は、乳酸カルシウムおよびグリシンを有機酸塩、たとえばクエン酸塩、酢酸塩またはグルコン酸塩と併用する食品用保存剤を記載する。
【0009】
特開2001−245644号は、少なくとも乳酸塩および酢酸塩を使用することによって、加工食品、たとえば加工肉または食品惣菜の保存可能期間を改良する方法を記載する。グリシンが必要により添加されてもよい。
【0010】
英国特許第1510942号は、和菓子、ジャム、ゼリー、冷たくして供されるデザート、乳製品および砂糖漬け果物のような食品の腐敗を防ぐためにマルトースおよびグリシンを同時使用する方法を記載する。
【0011】
「普通の調理または熱処理操作に耐える耐熱性の現地産または天然の細菌叢」による食品の損傷に対して、グリシンが使用されることができることを、米国特許第2711976号は記載する。
【0012】
特開平08−154640号は、抗菌剤を食品に使用して日持ちを改良することを開示し、当該抗菌剤は、好ましくはグリシン1〜30重量%および好ましくは焼成カルシウム0.05〜1重量%とともに酢酸1〜30重量%を含有する。餃子(肉団子)および春巻(細かく刻まれた野菜、肉等の回りに小ロール状に巻かれ、油脂で揚げられた卵入り生地)が、当該抗菌剤が使用される食品用途として開示されている。
【0013】
特開平03−290174号は、非加熱または低温熱処理食品にグリシンおよびさらにpH5.5以下に調整された酢酸のような有機酸を加え、該食品がそこで容器に入れられて、殺菌のための水性圧力媒体による高圧処理に付される方法を記載する。
【0014】
国際食品情報、非特許文献第002315132号、Hozovaら著、「非伝統的保存方法による食品の貯蔵寿命の延長」、スロバキア工科大、チェコスロバキア、1989年。保存処理された製品の貯蔵寿命の延長へ及ぼすグリシンの効果を、この論文は記載する。ポークグーラッシュが試験用の製品として使用された。全てのサンプルは、熱処理によって処理された。生豚肉であって、その後熱処理され低温殺菌された豚肉の中に存在する真菌および酵母菌の成長に対してグリシンの添加が効果を有することを、その結果は示す。大腸菌(Coliform)および嫌気性有芽胞菌を包含する微生物の一部は、グリシンの存在によって有意には影響を受けない。
【特許文献1】特開2000−224976号公報
【特許文献2】特開2001−245644号公報
【特許文献3】英国特許第1510942号公報
【特許文献4】米国特許第2711976号公報
【特許文献5】特開平08−154640号公報
【特許文献6】特開平03−290174号公報
【非特許文献1】国際食品情報、非特許文献第002315132号、Hozovaら著、「非伝統的保存方法による食品の貯蔵寿命の延長」、スロバキア工科大、チェコスロバキア、1989年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、グリシンおよび/またはグリシン誘導体が生肉に添加される、生肉の保存方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
グリシン誘導体とは、グリシンおよびグリシネートを含んでいる任意の化合物を意味する。好適なグリシン誘導体の例は、グリシンのアルカリ(土類)金属塩、グリシン酸アンモニウム、グリシンを含んでいるジおよびトリペプチド並びにグリシンとC1〜C8アルコールとのエステルである。グリシンとC1〜C8アルコールとのエステルとは、グリシンと1〜8の炭素原子を有するアルコールとのエステルを意味する。当該炭素原子鎖は、分岐していても直鎖であってもよい。グリシン酸アルカリ金属の例は、グリシン酸ナトリウムおよびグリシン酸カリウムであり、グリシン酸アルカリ土類金属の例は、グリシン酸マグネシウムおよびグリシン酸カルシウムであり、C1〜C8アルコールのグリシン酸エステルの例は、グリシン酸メチル、グリシン酸エチル、グリシン酸ブチルおよびグリシン酸ヘキシルである。
【0017】
酸のような添加剤、保存剤(たとえばソルビン酸塩)等が液体培地に添加された実験が、実際の食物および飲料製品へのその効果の予測としてしばしば使用されるけれども、液体培地中のグリシンの効果は、生肉中のその効果の何の指標にもならないことを、本発明者らは発見した。生肉中に存在する媒質はタンパク質および脂肪を含み、媒質中に存在する液体には特有の移動性があるので、食品中へのグリシンの吸着または取り込みが生じうる。理論に拘束されるわけではないが、グリシンがアミノ酸、したがって生肉の本来の構成ブロックであり、かつ、食品成分中に豊富に存在する事実は、グリシンが実際の食物および飲料製品へどちらかというと予測できない様式で介入する原因となると考えられる。
【発明の効果】
【0018】
グリシンおよび/またはその誘導体が食中毒の防止に特に適していることを、本発明者らは発見した。食中毒は、グラム陰性病原菌、たとえばエシェリヒア・コリ菌、サルモネラ菌およびカンピロバクター菌によって引き起こされる。当該病原菌は、毒素を生成しおよび/または感染を引き起こす。細胞壁の存在、したがって完全に異なった化学的および物理的特性の故に、一般に、グラム陰性病原菌はグラム陽性菌よりもそれを相手に戦うのが困難である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
たとえば風味および食感に関連する品質に悪い影響を与えることなく、生肉中の依然として許容される濃度で、グリシンおよび/またはその誘導体が唯一の抗菌剤として有効に使用されることができることを、本発明者らは発見した。保存目的のために、およびさらに温度の誤用および/または汚染の故の病原菌による食中毒としての生肉の汚染の結末を防止するために、グリシンおよび/またはその誘導体が、単独の抗菌剤として使用されることができることを、本発明者らは発見した。所望の保存効果を達成するために、補助抗菌剤を添加する必要はない。これは、より低い原材料コストだけでなく、より高い製品品質をももたらす。製品の品質および貯蔵寿命を維持し、改良しさえしながら、より少ない補助成分が添加された当該製品が得られる。さらに、食物および飲料用途品への添加剤の使用の最小化を目指している法制化に、これは沿っている。さらにまた、温度の誤用または汚染の結末からも、得られる製品は保護される。
【0020】
生肉は通常、冷蔵される。これは普通、4〜7℃で、時折12℃までの最高点を持つ温度である。冷蔵された製品中のサルモネラ菌を抑制するのに、グリシンおよびその誘導体の使用は非常に適している。何故ならば、サルモネラ菌は冷凍食品中に長時間生存しており、かつ、生き残りは貯蔵温度が増加するに従って高められることが十分に認められているからである。さらに、他の冷蔵製品と同じように生肉は、製品の不適切な取り扱いの故の温度の誤用および/または汚染にとりわけ感受性がある。温度の誤用は、供給業者から商店への製品の輸送(たとえば、トラックコンテナの不適切な冷却)の間に生じうるが、商店から家庭への製品の輸送の間にもしばしば生じる。生肉の偶発的な温度増加の場合においてさえも、グリシンおよび/またはその誘導体が施与されると、食品の安全は確保される。
【0021】
生肉とは、「本当の」生肉と生魚肉および生家禽肉との両方を意味する。生肉の例は、牛肉、ビーフステーキ肉、牛の尾肉、牛の頸肉、ショートリブ(牛の脇肉)、牛のロースト肉、シチュー肉、牛の胸肉、豚肉、豚肉の骨付き切身、豚のステーキ肉、カツレツ肉、豚のロースト肉、子羊肉、食肉用子牛肉、闘山羊肉(game goat)、アメリケーンヒレ肉(filet americain)、タルタルステーキ肉、またはカルパッチョ肉である。生家禽肉の例は、鶏肉、シチメンチョウ肉、カモ肉および他の家禽肉、たとえばコーニッシュヘン(cornish hen)肉、ハト肉、ウズラ肉およびキジ肉を含む。生魚肉の例は、ヒレ魚肉(切身肉、アンチョビ肉、バラクーダ肉、コイ肉、ナマズ肉、タラ肉、クローカー肉、ウナギ肉、ヒラメ/カレイ肉、コダラ肉、ニシン肉、サバ肉、ボラ肉、メヌケ肉、カワカマス肉、コバンアジ肉、クロダイ肉、エイ肉、サケ肉、イワシ肉、スズキ肉、サメ肉、スメルト肉、チョウザメ肉、メカジキ肉、マス肉、マグロ肉、ホワイティング肉)、甲殻類(アワビ肉、ハナグリ肉、ホラガイ肉、カニ肉、ザリガニ肉、伊勢エビ肉、イガイ肉、カキ肉、ホタテ肉、エビ肉およびカタツムリ肉)の両方並びに他の魚介食品、たとえばクラゲ肉、タコ肉、魚卵、イカ肉、カメ肉、カエルの足肉を含む。
【0022】
これらの生肉用途のあるものは、生で消費されることになり、一方、たとえばミディアムに焼かれたステーキ用として意図的に加えられた、または食品の不適切な調理または不適切な取り扱いの故に意図的でなく加えられた部分的熱処理のみの施与後に、他のものは消費される。
【0023】
グラム陰性病原菌であるサルモネラ属菌、エシェリヒア・コリ菌、エンテロバクター・サカザキイ(Enterobacter sakazakii)菌およびカンピロバクター属菌、とりわけサルモネラ・チフィムリウム菌、サルモネラ・エンテリディティス菌、エシェリヒア・コリO157:H7菌およびカンピロバクター・ジェジュニ(Camphylobacter jejuni)菌が、しばしば生肉中に見出される。グリシンおよび/またはその誘導体を抗菌剤として生肉に使用することが、風味の喪失なしに、かつ、食感の喪失なしに当該細菌に対して有効であることが発見された。グリシンおよび/またはその誘導体を使用すると、部分的熱処理の場合においてさえ食品の安全が確保される。
【0024】
抗菌活性は、さらなる細菌の成長を防止する静菌活性を包含するだけでなく、ある細菌については細菌数を実際に低減する殺菌活性をも包含する。
【0025】
製品の全重量当たりグリシン濃度0.5〜3重量%がエシェリヒア・コリ菌のための抗菌剤として有効であることが発見され、製品の全重量当たりグリシン濃度0.5〜1.5重量%が該製品の風味を確保するのに適していることが発見された。
【0026】
製品の全重量当たりグリシン濃度0.2〜3重量%が、サルモネラ属菌、とりわけサルモネラ・チフィムリウム菌およびサルモネラ・エンテリディティス菌に対して抗菌活性を示す。製品の全重量当たりグリシン濃度0.2〜1.5重量%が該製品の風味を確保するのに適していることが発見された。
【0027】
製品の全重量当たりグリシン濃度1.5重量%超は、該製品に甘味を与える。製品のタイプに応じて、この甘味は許容され、または許容されない。したがって、味に悪影響しない点から最大に許容されるグリシン濃度は、製品の全重量当たりグリシン約1.5重量%超の濃度まで増加されることができる。
【0028】
本発明に従うグリシンおよび/またはその誘導体の抗菌剤としての生肉への使用は、1以上の有機酸および/または1以上のそれらの塩、たとえば安息香酸、アスコルビン酸、乳酸、クエン酸、酢酸と併用されてもよい。該有機酸および/またはその塩は、本発明に従うグリシンおよび/または誘導体とともに単独で施与されてもよいし、または本発明に従うグリシンおよび/またはその誘導体と併用されて有機酸および/または1以上のそれらの塩の混合物で、たとえば乳酸カリウムとジ酢酸ナトリウムとの混合物で施与されてもよい。
【0029】
本発明に従う、たとえば乳酸および/若しくはその誘導体の当該組み合わせ並びに/または混合物は、抗菌活性に加えて各種の機能特性を有する抗菌剤をもたらす。これらの付加された機能特性の例は、香気の改良、色の保存およびpH調整である。乳酸塩の例は、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、乳酸カリウム、乳酸第一鉄、乳酸亜鉛、乳酸マグネシウムである。
【0030】
グリシンおよび/またはその誘導体の抗菌剤としての生肉への使用は、当該食物および飲料当たり0.2〜3重量%の濃度の乳酸および/またはその塩と併用されることができることが発見された。
【0031】
ある場合には、本発明に従うグリシンおよび/またはその誘導体の使用を1以上の前述の保存用処理技術、たとえば照射処理および/または高圧処理と併用することが有利である。
【0032】
本発明は、さらにグリシンおよび/またはその誘導体を含んでいる生肉に関する。
【0033】
本発明は以下の実施例によってさらに例示され、該実施例は限定的であると解釈されてはならない。
【実施例1】
【0034】
冷凍された牛挽き肉が解凍され、各1.7kgの数小分け分へと分けられ、小分け肉分の全重量当たり0.5重量%、1.0重量%および1.5重量%の種々の濃度のグリシンと混合された。その後、該肉は、殺菌された肉挽き機中で6mm孔板を通して1回ミンチされた。
【0035】
各小分け分(1.5kg)が、エシェリヒア・コリO157:H7菌(ATCC 43895)の懸濁物で生成物g当たり約10cfuの最終レベルまで植菌された。植菌前に、傾斜培地上に培養されていたエシェリヒア・コリO157:H7菌の培養物は、30℃で24時間、脳心臓浸出液(BHI、Oxoid(商標) CM225)中で2回予備培養された。十分に成長した培養物は、生理的ペプトン塩水(PPS)で希釈されて、所望レベルの植菌を含有した。植菌された肉は3mm孔板を通して2回ミンチされ、その後該牛挽き肉は、O 70%およびCO 30%からなり約120mlのガス体積を持つ調整気相中の各80gの数小分け分に包装(MAP)された。全ての包装物は12℃で12日間貯蔵された。実験の間の温度はデータロガーを使用して記録された。
【0036】
牛挽き肉の各小分け分のサンプルが、適当な時間間隔で細菌学的分析のために正副2個ずつ取られた。各小分け分から20gのサンプルが、感染しないように取られた。該サンプルは生理的ペプトン塩水(PPS)で10倍に希釈され、ストマッカー中で1分間均質化された。追加の続きの希釈がPPSで行われた。エシェリヒア・コリO157:H7菌の数が、NEN−ISO 16649−2:2001年に挙げられたソルビトールマッコンキー(MacConkey)寒天培地(SMAC、Oxoid(商標)CM813)を使用して測定された。該平板培地は42℃で1日間、温置された。
【0037】
エシェリヒア・コリO157:H7菌を植菌され、12℃におけるMAP貯蔵の間、3の異なった濃度のグリシンを添加されていた、牛挽き肉の細菌学的分析の(正副2通りの)結果を、表1は示す。
【表1】

【0038】
生成物全重量当たりグリシン濃度0.5重量%が、エシェリヒア・コリO157:H7菌に対して抗菌活性を有することを、この結果は示す。生成物全重量当たりグリシン濃度1.0重量%は、エシェリヒア・コリO157:H7菌に対して明らかな殺菌活性を示し、7日間の貯蔵で生成物g当たりcfuの対数4から2へと細菌数を低減しさえする。
【実施例2】
【0039】
エシェリヒア・コリO157:H7菌(ATCC:700728)の培養物が、BHI液体培地(脳心臓浸出液、Oxoid(商標) CM225)中で予備培養され、30℃で24時間温置された。該培養物はペプトン生理的食塩水(PPS)で50倍に希釈された。
【0040】
照射処理された牛挽き肉300gが3サンプルに分けられ、グリシンと完全に混合されて、それぞれグリシン0、1.0、および1.5重量%を有するサンプルが調製された。その後、各サンプルは各25グラムの小分け分30個へと分けられた。該小分け分は、滅菌袋(Interscience社製BagFilter(商標)、400ml、型式P)中へ入れられ、該希釈された培養物の液体培地で約10cfu/生成物グラム(培養物250μl/PPS)の最終レベルまで植菌された。該培養物とサンプルは手によって完全に混合された。該袋は、その後直ちに好気性条件下に密封された。最後に該サンプルは8℃で温置された。
【0041】
適当な時間間隔で、各濃度の小分け分はPPSで2倍に希釈され、そしてストマッカー(Lab Blender(商標)400)中で1分間均質化された。追加の続きの希釈がPPSで行われた。
【0042】
該希釈物が「バイレットレッド胆汁グルコース寒天培地」(Oxoid(商標)CM485)上に載せられ、30℃で24時間温置された。
【0043】
エシェリヒア・コリO157:H7菌を植菌され、8℃における貯蔵の間、3の異なった濃度のグリシンを添加されていた、照射処理された牛挽き肉の細菌学的分析の結果が、表2にまとめられている。
【表2】

【0044】
グリシン1.0%の添加で僅かの阻害効果が見られ、一方、グリシン1.5%の添加は殺菌効果を示した。
【実施例3】
【0045】
新鮮な豚肩肉が殺菌された肉挽き機中で12mm孔板を通して1回ミンチされ、手で均質化された。該豚肉は各2.5kgの小分け分7個へと分けられ、小分け肉分の全重量当たり0.5重量%、1.0重量%および1.5重量%の種々の濃度のグリシンを混合された。
【0046】
その後、該肉は6mm孔板を通して1回ミンチされた。各バッチ(2.3kg)はエシェリヒア・コリO157:H7菌(ATCC 43895)の懸濁物10mlで、生成物g当たり約10cfuの最終レベルまで植菌された。植菌前に、傾斜培地上に培養されていた該培養物は、30℃で24時間、脳心臓浸出液(BHI、Oxoid(商標) CM225)中で2回予備培養された。十分に成長した培養物は、生理的ペプトン塩水(PPS)で希釈されて、所望のレベルが得られた。
【0047】
植菌された肉は3mm孔板を通して再度2回ミンチされ、その後該豚挽き肉は、O 80%およびCO 20%からなり約120mlのガス体積を持つ調整気相(MAP)中の各80gの小分け分24個に包装された。その後、包装物9個は12℃で12日までの間貯蔵された。実験の間、温度はデータロガーを使用して記録された。
【0048】
適当な時間間隔で、各バッチの豚挽き肉のサンプルが、細菌学的分析のために正副2個ずつ取られた。各1個の包装物から20gのサンプルが感染しないように取られ、(PPS)で10倍に希釈され、そしてストマッカー中で1分間均質化された。追加の続きの希釈がPPSで行われた。エシェリヒア・コリO157:H7菌の数が、NEN−ISO 16649−2:2001年に挙げられたCT−SMAC(ソルビトールマッコンキー寒天培地、Oxoid(商標)CM813およびセフィキシム−テルライトサプリメント、Oxoid(商標)SR172)を使用して測定された。該平板培地は42℃で1日間温置された。
【0049】
エシェリヒア・コリO157:H7菌を植菌され、12℃における貯蔵の間、3の異なった濃度のグリシンを添加されていた、豚挽き肉の細菌学的分析の(正副2通りの)結果を、表3は示す。
【表3】

【0050】
12℃における5日間の貯蔵後、豚挽き肉の外観の小差が認められた。7日間後、添加剤を有さないおよびより少量のグリシンを有する豚挽き肉サンプルは灰色を示した。10日間後、全ての生成物は灰色であると判定された。
【実施例4】
【0051】
照射処理された鶏挽き肉を有する、各約1500gの真空包装物2個からなるバッチが、抗菌剤としてグリシンそれぞれ0.0、0.5、1.0、および1.5重量%とともに調製された。該鶏挽き肉のバッチは、さらなる試験まで0℃で1日間貯蔵された。
【0052】
鶏挽き肉の各バッチは、サルモネラ・チフィムリウム菌(M90003246/0550)を植菌された。冷蔵庫中の傾斜培地上に培養されていた該培養物は植菌前に、30℃で24時間、脳心臓浸出液液体培地(BHI、Oxoid(商標) CM225)中で2回予備培養された。十分に成長した培養物は、生理的ペプトン塩水(PPS)で希釈されて、所望のレベルの懸濁物が得られた。
【0053】
各組成の鶏挽き肉のある量(約1000g)が、殺菌されたトレーに置かれ、サルモネラ・チフィムリウム菌懸濁物10mlで、生成物g当たり約10cfuの最終レベルまで植菌された。植菌後、該鶏挽き肉は手で均質化された。その後、該生成物は各50gの数小分け分へと分けられ、プラスチック袋(16×11×1.5cm、約250ml)中に好気性条件下に包装された。得られた該包装物は、30℃で24時間までの間および7℃で30日までの間貯蔵された。実験の間、包装物中の温度が記録された。
【0054】
適当な時間間隔で、各バッチの鶏挽き肉のサンプルが、細菌学的分析のために正副2個ずつ取られた。各1個の包装物から20gのサンプルが感染しないように取られ、PPSで10倍に希釈され、そしてストマッカー中で1分間均質化された。
【0055】
追加の続きの希釈がPPSで行われた。サルモネラ・チフィムリウム菌の数が、ISO 5552:1997年に挙げられたバイレットレッド胆汁グルコース寒天培地(VRBGA、Oxoid(商標)CM485)を使用して測定された。該平板培地は37℃で1日間温置された。
【0056】
好気性条件下に包装された7℃における貯蔵の間、種々の量のグリシンを添加されていた鶏挽き肉の細菌学的分析の結果が表4に示される。
【表4】

【0057】
7℃における貯蔵の間、0.5%の量のグリシンを含有する鶏挽き肉中のサルモネラ・チフィムリウム菌の成長は、30日間の全貯蔵期間にわたって阻害された。1〜1.5%の量のグリシンを含有する鶏挽き肉では、その期間にサルモネラ・チフィムリウム菌の対数で2の低減が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシンおよび/またはその誘導体が生肉に添加される、生肉の保存方法。
【請求項2】
グリシンまたはその誘導体が、唯一の抗菌剤として生肉に添加される、請求項1に従う方法。
【請求項3】
1以上の有機酸および/または1以上のそれらの塩が生肉に添加される、請求項1または2に従う方法。
【請求項4】
乳酸および/または乳酸塩が生肉に添加される、請求項1〜3のいずれか1項に従う方法。
【請求項5】
グリシンまたはその誘導体が生肉に添加されて、当該生肉の重量当たり0.5〜3重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%の濃度に達する、請求項1〜4のいずれか1項に従う方法。
【請求項6】
1以上の有機酸および/または1以上のそれらの塩が生肉に添加されて、該生肉の全重量当たり0.5〜3重量%の濃度に達する、請求項5に従う方法。
【請求項7】
乳酸および/またはその塩が生肉に添加されて、該生肉の全重量当たり0.5〜3重量%の濃度に達する、請求項6に従う方法。
【請求項8】
グリシンおよび/またはその誘導体を含んでいる生肉。
【請求項9】
グリシンおよび/またはその誘導体を唯一の抗菌剤として含んでいる、請求項11に従う生肉。
【請求項10】
グリシンおよび/またはその誘導体をエシェリヒア・コリ菌、サルモネラ菌、およびカンピロバクター菌に対する抗菌剤として生肉に使用する方法。
【請求項11】
グリシンおよび/またはその誘導体をサルモネラ属細菌に対する、好ましくはサルモネラ・チフィムリウム菌および/またはサルモネラ・エンテリディティス菌に対する抗菌剤として生肉に使用する方法。
【請求項12】
グリシンおよび/またはその誘導体をエシェリヒア・コリ細菌に対する、好ましくはエシェリヒア・コリO157:H7菌に対する抗菌剤として生肉に使用する方法。

【公表番号】特表2008−510478(P2008−510478A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528869(P2007−528869)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054239
【国際公開番号】WO2006/021588
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】