説明

生麺類の製造方法

【課題】液卵類を多量に含有する手打ち風の生麺類を簡単かつ効率よく工業的規模で製造し得る生麺類の製造方法を提供すること。
【解決手段】小麦粉100質量部に対して液卵類30〜60質量部を含む麺原料を、容器の底部に沿って回転する攪拌体を備えたミキサーを用いて混合攪拌する。好ましくは、前記ミキサーとして、容器の両側において回転軸を回転自在に支持し、該回転軸より放射方向に一対の腕部を平行に、かつ該回転軸に対して垂直に取り付け、前記腕部間に攪拌棒を該腕部の上下端に互いに平行に、かつ前記回転軸を中心にして反対位置に連結した、前記両腕部間において前記回転軸のないます口型の攪拌体を前記容器内に備え、該攪拌体の前記攪拌棒を前記容器の底部に沿って回転させて麺生地を製造する麺用ミキサーにおいて、前記回転軸から一方の前記攪拌棒までの距離と他方の前記攪拌棒までの距離を異ならせた麺用ミキサーを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液卵類を多量に含有する手打ち風の生麺類を簡単かつ効率よく工業的規模で製造し得る生麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、麺類の食味、食感などを改良するために、全卵、卵黄、卵白などの卵類を液状のまま、または粉末化して麺原料に配合することが行われている。
例えば、特許文献1には、食感、風味、外観の優れた麺類を得るために、卵黄100質量部に対し卵白を50〜100質量部含む麺類用卵組成物を、穀粉100質量部に対し10〜20質量部添加する麺類の製造方法が記載されている。
しかし、麺原料に卵類を配合すると、ミキシング工程において、卵類が麺用ミキサーにへばりついて麺生地の作製が困難となったり、麺生地の粘度が上昇してミキシングが困難となり攪拌ムラが発生しやすいなどの問題がある。
そのため、従来、卵類の配合量は、特許文献1に記載されているように、穀粉100質量部に対し多くても20質量部程度である。
【0003】
ミキシング工程で用いられる麺用ミキサーは、容器内に攪拌体などを回転自在に備え、容器内に入れた麺原料に徐々に水分を加えながら攪拌体で練り上げ、麺生地を製造するミキサーである。この麺用ミキサーとしては、麺原料供給部を上部に有する容器内に、螺旋状の位相をもって全方位に突設した棒状攪拌羽根を設けた回転軸を1本(一軸ミキサー)または平行に2本(二軸ミキサー)配設したミキサー、麺原料供給部を上部に有する容器内に、略口の字状の攪拌体を回転自在に配設したミキサー(横軸ミキサー)などが用いられている。
【0004】
また、特許文献2には、多加水麺生地を製造する麺用ミキサーとして、容器の両側において回転軸を回転自在に支持し、該回転軸より放射方向に一対の腕部を平行に、かつ該回転軸に対して垂直に取り付け、前記腕部間に攪拌棒を該腕部の上下端に互いに平行に、かつ前記回転軸を中心にして反対位置に連結した、前記両腕部間において前記回転軸のないます口型の攪拌体を前記容器内に備え、該攪拌体の前記攪拌棒を前記容器の底部に沿って回転させて麺生地を製造する麺用ミキサーにおいて、前記回転軸から一方の前記攪拌棒までの距離と他方の前記攪拌棒までの距離を異ならせ、前記回転軸を中心として前記攪拌棒までの距離の長い方の腕部から該攪拌体の回転方向逆向きに計測した他方の腕部とのなす角度を135°〜160°の範囲とした麺用ミキサーが記載されている。特許文献2には、この麺用ミキサーによれば、麺生地と攪拌棒の接触する時間が長くなり、効率よく麺生地を混練できることが記載されているが、卵類を多量に配合した麺原料のミキシングについては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4128175号公報
【特許文献2】特許第3753816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液卵類を多量に含有する手打ち風の生麺類を簡単かつ効率よく工業的規模で製造し得る生麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、特定のミキサーを用いることにより、麺原料に多量の液卵類を配合しても、ミキシング工程において、液卵類が麺用ミキサーにへばりついて麺生地の作製が困難となったり、麺生地の粘度が上昇してミキシングが困難となり攪拌ムラが発生する問題などを生じることなく、液卵類を多量に含有する生麺類を簡単かつ効率よく製造できることを知見した。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、小麦粉100質量部に対して液卵類30〜60質量部を含む麺原料を、容器の底部に沿って回転する攪拌体を備えたミキサーを用いて混合攪拌することを特徴とする生麺類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の生麺類の製造方法によれば、液卵類を多量に含有する手打ち風の生麺類を簡単かつ効率よく工業的規模で製造することができる。
また、本発明の生麺類の製造方法により得られる液卵類を多量に含有する生麺類は、従来にない食感、食味、風味、外観などを有し、また茹で時間が長くても煮崩れすることがないので、茹で時間を厳密に管理する必要がない。そのため、本発明の生麺類の製造方法は、特に生パスタの製造方法として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の生麺類の製造方法が適用される生麺類としては、特に制限されるものではなく、例えば、生パスタ、生中華麺、生日本そばなどのいずれにも適用することができるが、特に、生パスタの製造に適用するのが好ましい。
【0011】
本発明で使用されるミキサーは、容器の底部に沿って回転する攪拌体を備えたミキサーである。
本発明で使用される好ましいミキサーとして、前記特許文献2(特許第3753816号公報)に記載されている麺用ミキサーが挙げられる。
この麺用ミキサーは、容器の両側において回転軸を回転自在に支持し、該回転軸より放射方向に一対の腕部を平行に、かつ該回転軸に対して垂直に取り付け、前記腕部間に攪拌棒を該腕部の上下端に互いに平行に、かつ前記回転軸を中心にして反対位置に連結した、前記両腕部間において前記回転軸のないます口型の攪拌体を前記容器内に備え、該攪拌体の前記攪拌棒を前記容器の底部に沿って回転させて麺生地を製造する麺用ミキサーにおいて、前記回転軸から一方の前記攪拌棒までの距離と他方の前記攪拌棒までの距離を異ならせたものが好ましい。
また、本発明では、上記ミキサーとして、一軸横型ミキサーを用いることもできる。この一軸横型ミキサーは、例えば、原料供給部を有する容器の底部に沿って回転するとともに、この容器内に、螺旋状の位相をもって全方位に突設した棒状攪拌羽根を設けた回転軸を1本配設してなる攪拌体を備える、構造を有するものがあげられる。
【0012】
本発明で使用される小麦粉としては、その種類および等級などに制限されるものではなく、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉など、いずれも使用することができ、目的とする生麺類の種類、食味などに応じて適宜選択することができる。
上記小麦粉としては、通常、デュラム小麦粉を20〜80質量%、特に30〜70質量%含有することが好ましく、特に、生パスタを製造する場合には、デュラム小麦粉を30〜70質量%とすることが好ましい。
小麦粉中に上記範囲内の量のデュラム小麦粉を含有させることにより、特有の黄色い外観、パスタらしい風味と食感を得ることができる。
【0013】
本発明で使用される液卵類としては、特に、特有の黄色い外観、パスタらしい風味と食感を得ることができる点から、全卵液、卵黄液または卵白液などの卵液が好ましく、全卵液および卵黄液の混合物であることがより好ましい。
また、上記液卵類は、生の全卵、卵黄または卵白でも、冷凍卵でもよく、また加塩卵、加糖卵、酵素処理卵、殺菌処理卵でもよい。
【0014】
上記液卵類の配合量は、上記小麦粉100質量部に対して30〜60質量部、好ましくは40〜60質量部である。液卵類の配合量が60質量部を超えると、生地がべとつき、作業性に劣る場合がある。また液卵類の配合量が30質量部より少ないと、特有の黄色い外観、卵由来の風味と食感を充分に得ることができない場合がある。
【0015】
本発明で使用される麺原料には、上記の小麦粉および卵類の他に、目的とする生麺類の種類、食味などに応じて、必要により、そば粉、澱粉類(タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘薯澱粉、およびそれらの化工澱粉等)、米粉、山芋粉、大麦粉、ライ麦粉などの穀粉類、小麦蛋白、大豆蛋白、乳類、食塩、糖類、かん水
(かん粉)、酵素、乳化剤、増粘剤、防腐剤、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、油脂類、調味料、香辛料、着色料などを適宜配合することができる。
【0016】
上記ミキサーによる上記麺原料の混合攪拌は、例えば、上記ミキサーとして前記特許文献2(特許第3753816号公報)に記載されている麺用ミキサーを用いる場合、次のようにして行うことが好ましい。
麺用ミキサーの容器内に所定量の麺原料を投入し、攪拌体を回転させて、麺原料を混練する。この際の攪拌体の回転速度は、麺原料の配合成分などによっても異なるが、通常、高速(80〜120rpm程度)とするのが好ましい。
混練時間は、通常、3〜15分間程度とするとよい。
具体的には、生パスタを製造する場合には、例えば、攪拌体を、回転速度80〜120rpmで1〜2分間、回転速度80〜120rpmで0.5〜3分間、回転速度20〜40rpmで1〜12分間の順で回転させて麺原料を混練するのが好ましい。
また、上記ミキサーとして、一軸横型ミキサーを用いる場合は、一般に、下記の条件下で混合攪拌を行うことが好ましい。
攪拌軸の回転数を、20〜150rpm、好ましくは50〜100rpmとし、ミキシング時間を、5〜20分間、好ましくは7〜15分間とする。
【0017】
麺原料には水を添加する必要はないが、目的とする生麺類の種類や麺原料の配合成分などによって水を適宜添加することができる。水を添加する場合は、通常、麺原料100質量部に対し、液卵類の水分を含めた水の量を30〜60質量部程度とするとよく、例えば、生パスタの場合は、麺原料100質量部に対し、液卵類の水分を含めた水の量を30〜60質量部が好ましく、35〜50質量部がより好ましい。
【0018】
このように上記麺原料の混合攪拌を上記ミキサーを用いて行うことにより、麺原料に多量の液卵類が配合されているにもかかわらず、麺原料の混合攪拌中に、卵類がミキサーにへばりついて麺生地の作製が困難となったり、麺生地の粘度が上昇して混練が困難となり攪拌ムラが発生する問題などを生じることなく、麺生地を簡単かつ効率よく製造することができる。
【0019】
上記のようにして製造された麺生地は、麺帯の調製および麺線への切り出しを行うことにより、生麺類を得ることができる。
麺帯の調製および麺線への切り出しは、麺の種類に応じた常法により行うことができる。例えば、麺帯の調製は、圧延ロールを用いるロール圧延製麺法、押出機を用いる押出製麺法などにより行うことができる。
【0020】
本発明の生麺類の製造方法により製造された生麺類は、従来の生麺類と同様の方法および条件により、保存、流通、喫食することができる。
【実施例】
【0021】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1(生パスタの製造)
麺用ミキサーとして、前記特許文献2(特許第3753816号公報)に記載されている麺用ミキサーである(株)ムロフシ社製のグルデールミキサーを用いた。
下記処方の麺原料を上記麺用ミキサーの容器内に投入し、下記の混合攪拌条件および加水条件下で混練し、麺生地を製造した。この際、麺原料の混合攪拌中に、液卵類がミキサーにへばりついて麺生地の作製が困難となったり、麺生地の粘度が上昇して混練が困難となり攪拌ムラが発生する問題などを生じることなく、通常の麺生地の製造と同様に作業性よく麺生地を製造することができた。
上記麺生地を常法により麺帯の調製および麺線への切り出しを行い、生パスタを得た。得られた生パスタは、外観が特有の黄色いものであり、1分間茹でて喫食したところ、特有のコシと粘弾性を有する麺であり、従来にない食感、食味、風味を有していた。また、茹で時間を5分間としても、煮崩れすることがなく、卵に由来するものと思われる、特有の弾力ある食感が保持されていた。
【0023】
麺原料の処方
強力粉 30質量部
デュラム小麦粉 70質量部
全卵液 30質量部
卵黄液 20質量部
【0024】
混合攪拌条件
下記(1)〜(4)の順で混合攪拌した。
(1)攪拌体の回転速度 100rpmで2分間
(2)攪拌体の回転速度 80rpmで2分間
(3)攪拌体の回転速度 0rpm(回転を止める)で8分間
(4)攪拌体の回転速度 20rpmで2分間
【0025】
比較例1
麺用ミキサーとして、容器の底部に沿って回転する攪拌体を備えたミキサーではない、従来汎用されている一軸縦型ミキサーを用い、下記の混合攪拌条件下で、実施例1と同一処方の麺原料を混合攪拌したところ、そぼろ状となり、麺生地の作製が困難となった。
混合攪拌条件
攪拌軸の回転数 50rpm
ミキシング時間 15分間
【0026】
実施例2
麺用ミキサーとして、トーキョーメンキ社製の一軸横型ミキサーを用い、下記の混合攪拌条件下で、実施例1と同一処方の麺原料を混合攪拌し、麺生地を製造した。この一軸横型ミキサーは、原料供給部を上部に有する容器の底部に沿って回転するとともに、この容器内に、螺旋状の位相をもって全方位に突設した棒状攪拌羽根を設けた回転軸を1本配設してなる攪拌体を備えるミキサーであった。この際、グルデールミキサーを用いた実施例1の場合と比較すると、生地を捏ねる力やグルテンの出し方の点でやや劣るものの、麺生地の作製が困難となったり、攪拌ムラの発生などの問題を生じることなく、通常の麺生地の製造と同様に作業性よく麺生地を製造することができた。
上記麺生地を常法により麺帯の調製および麺線への切り出しを行い、生パスタを得た。得られた生パスタは、外観が特有の黄色いものであり、1分間茹でて喫食したところ、特有のコシと粘弾性を有する麺であり、従来にない食感、食味、風味を有していた。また、茹で時間を5分間としても、煮崩れすることがなく、卵に由来するものと思われる、特有の弾力ある食感が保持されていた。
混合攪拌条件
下記(1)及び(2)の順で混合攪拌した。
(1)攪拌軸の回転数 100rpm ミキシング時間 5分間
(2)攪拌軸の回転数 50rpm ミキシング時間 10分間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉100質量部に対して液卵類30〜60質量部を含む麺原料を、容器の底部に沿って回転する攪拌体を備えたミキサーを用いて混合攪拌することを特徴とする生麺類の製造方法。
【請求項2】
前記ミキサーが、容器の両側において回転軸を回転自在に支持し、該回転軸より放射方向に一対の腕部を平行に、かつ該回転軸に対して垂直に取り付け、前記腕部間に攪拌棒を該腕部の上下端に互いに平行に、かつ前記回転軸を中心にして反対位置に連結した、前記両腕部間において前記回転軸のないます口型の攪拌体を前記容器内に備え、該攪拌体の前記攪拌棒を前記容器の底部に沿って回転させて麺生地を製造する麺用ミキサーにおいて、前記回転軸から一方の前記攪拌棒までの距離と他方の前記攪拌棒までの距離を異ならせた、麺用ミキサーである請求項1記載の生麺類の製造方法。
【請求項3】
前記ミキサーが、一軸横型ミキサーである請求項1記載の生麺類の製造方法。
【請求項4】
前記液卵類が、全卵液および卵黄液の混合物である請求項1〜3のいずれかに記載の生麺類の製造方法。
【請求項5】
前記生麺類が、生パスタである請求項1〜4のいずれかに記載の生麺類の製造方法。