説明

田植機搭載型農薬散布装置

【課題】薬剤を雨に濡らすことなく供給することが可能な田植機搭載型農薬散布装置を提供する。
【解決手段】田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、上部に設けられた薬剤投入口10bを通じて農薬を収納する収納部10と、薬剤投入口10bに被着されかつ一部を収納部10に軸支された蓋体10aと、収納部10から供給される農薬を散布する散布機構1とを備え、蓋体10aが、軸支される一部から薬剤投入口10bを越えて離間する方向に延出されている田植機搭載型農薬散布装置を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機に搭載され、田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
しろかきを終えて水を導入した水田に除草を目的として散布される薬剤は、田植えを行う数日前後に散布されるのが通常であったが、近年では成分の改良がなされ、田植えと同時に散布することが可能になっている。
【0003】
このような薬剤には液状のものと粒状のものがあり、それぞれについて散布装置が用意されている。液状薬剤用の散布装置は、苗の掻き取り爪の回転運動を利用して薬剤を間欠的に送り出し、所定時間をあけて薬剤を微量ずつ滴下するしくみになっており、田植えを行う田植機の走行中に作動させることで水田に薬剤を散布する。
【0004】
粒状薬剤用の散布装置は、田植機に装着され、掻き取り爪の運動を利用して駆動されるもので、薬剤の収納部から間欠的に薬剤を流下させ、さらに流下させた薬剤を別の電源によって駆動されるファンによって弾き飛ばすしくみになっており、田植えを行う田植機の走行中に作動させることで水田に薬剤を散布する。
【特許文献1】特開平8−252050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、田植えは屋外で行われるので、上記粒状薬剤用の散布装置に薬剤を供給する作業も屋外で行われることになる。しかしながら、田植え作業が必ずしも好天に恵まれているとは限らず、雨の降る中で作業を行うこともある。このとき、薬剤が雨に濡れてしまうと、粒どうしが固まって塊になり、散布が行い難くなることがあった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、薬剤を雨に濡らすことなく供給することが可能な田植機搭載型農薬散布装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、次のような構成を有する農薬散布装置の開発が進められている。すなわち、本発明の田植機搭載型農薬散布装置は、田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、上部に設けられた開口部を通じて前記農薬を収納する収納部と、前記開口部に被着されかつ一部を前記収納部に軸支された蓋体と、前記収納部から供給される農薬を散布する散布機構とを備え、前記蓋体が、軸支された一部から前記開口部を越えて離間する方向に延出されていることを特徴としている。
【0008】
この田植機搭載型農薬散布装置においては、蓋体が、軸支された一部から開口部を越えて離間する方向に延出されており、蓋体を開いて収納部を開放しても、鉛直方向から見て蓋体が開口部のすべてを覆った状態が確保される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の田植機搭載型農薬散布装置によれば、蓋体が、軸支された一部から開口部を越えて離間する方向に延出されており、蓋体を開いて収納部を開放しても、鉛直方向から見て蓋体が開口部のすべてを覆った状態が確保されるので、降雨時において収納部に農薬を投入する場合でも、農薬が雨に濡れることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の田植機搭載型農薬散布装置の実施形態を図1ないし図6に示して説明する。図1に示す田植機搭載型農薬散布装置(以下では単に散布装置と呼ぶ)は、田植機の後部に位置する苗床台Sのさらに後方に設置され田植作業と並行して農薬を散布する散布機構1と、田植機に具備される苗床台Sの往復動作を利用して作動されて散布機構1による農薬散布を田植作業に同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構2と、散布機構1を作動させるための電力を供給する電源機構4とを備えている。各機構に繋がるコード類はセンターボックス5に集められており、センターボックス5には散布装置の作動を大元で断続する主スイッチ5aが設けられている。
【0011】
散布機構1は、田植機の農薬が収納される収納部10と、収納部10の下部に取付けられたパイプ部11を通じて供給される農薬を噴出するノズル部12とを備え、苗床台Sの後方に立設された門型の支持フレーム13に固定されている。
【0012】
収納部10は、縦長の箱形でその上面には着脱可能な蓋体10aが取り付けられており、この蓋体10aを外して内部に農薬を収納するようになっている。収納部10の上面に設けられた薬剤投入口(開口部)10bに被着される蓋体10aは、周縁の一部を収納部10に軸支されて開閉可能に取り付けられている。さらに、蓋体10aは、軸支された部位から薬剤投入口10bを越えて離間する方向に延出されており、その延出部10cは蓋体10aが薬剤投入口10bに被着された状態で薬剤投入口10bの縁よりも前方に突出している。また、蓋体10aの両側には下方に垂れ下がる側板部10dが設けられている。側板部10dは、蓋体10aを開いた状態でも収納部10の側面に届く長さとなっている。パイプ部11は、すり鉢状に形成された収納部10の内底に連通し、下方に向けて延出された先端にノズル部12が取付けられている。
【0013】
図2に示すように、収納部10を除くパイプ部11とこれに通じるノズル部12とは、防水ケース41に収納されている。防水ケース41はプラスチック等の樹脂製で、噴出口12fの前方に位置して散布口41aが設けられている。散布口41aは、後述する噴出口12fから噴出される農薬の飛散を妨げないように、噴出口12fの幅方向に長い矩形状に形成されている。
【0014】
散布口41aの幅方向の両側には、噴出口12fから噴出する農薬の散布幅および散布方向を規制するための整流板42a,42bが、散布口41a側に傾倒可能に支持されている。整流板42a,42bは前記の目的だけでなく、内側に重なるように倒されることで散布口41aを塞ぐ閉塞体としての働きを備えている。また、整流板42aは、その先端を散布口41aの幅方向外方に反らせて円弧状に湾曲した形状となっている。
【0015】
散布量調節機構43として、収納部10の側面に回動可能に取り付けられたダイヤル45には、後述するスリーブ30が、歯車機構44を介して連結されている。ダイヤル45には針部45aが設けられており、収納部10の側面に刻まれた目盛に針部45aを合わせることで農薬の散布量を任意に調節できるようになっている。
【0016】
ノズル部12は、図3に示すように、パイプ部11と連結される連結部12a、遮蔽弁28が内蔵される遮蔽弁ケース12b、上ケース12c、下ケース12d、さらにインペラ17を覆うカバー12eとが組み合わされて構成されている。
【0017】
ノズル部12の先端には、農薬を噴出する噴出口12fが下ケース12dとカバー12eとの間に設けられている。噴出口12fは、パイプ部11をやや下げた状態で散布機構1を固定したときに地面に対して平行となるように開設されている。
【0018】
上ケース12cと下ケース12dとの間にはモータ18が設置されている。モータ18の回転軸は下ケース12dの下方に突出しており、この回転軸にインペラ17が取り付けられている。
【0019】
インペラ17は、モータ18の回転軸に中心を固定された円板17a上に2枚の羽根部17bが立設されたもので、噴出口12fの幅方向に面方向を一致させてノズル部12の内部に配置されている。ノズル部12の内部には、収納部10からパイプ部11を通じて供給される農薬を円板17a上に供給する供給管19が設けられている。供給管19はノズル部12の内部でパイプ部11と連通しており、インペラ17に向けて農薬を落下させるようになっている。
【0020】
インペラ17は、モータ18を駆動させることによって一方向に回転し、収納部10からパイプ部11を通じて円板17a上に供給される農薬を、円板17aとともに回転する羽根部17bによって弾き飛ばすようになっている。
【0021】
ノズル部12には、スイッチ25が接続されたときに作動するソレノイド26が付設されている。ソレノイド26は、図4に示すように、パイプ部11とノズル部12との間に挟み込まれて固定されたソレノイド固定座27に、駆動軸26aをノズル部12に向けて固定されている。駆動軸26aには、パイプ部11を仕切りソレノイド26の作動によってパイプ部11を開いてインペラ17に向けて農薬を供給する遮蔽弁28が固定されている。
【0022】
遮蔽弁28は、ノズル部12の内部に設けられた隔壁20に沿って往復移動可能に支持されており、隔壁20に設けられた流通口20aを、その往復移動に伴って開閉するようになっている。
【0023】
遮蔽弁28は、流通口20aと合致する形状とされているものの、遮蔽弁28が流通口20aを閉じた状態のときに遮蔽弁28と流通口20aとの間には、農薬の粒が容易に通過しないように農薬の粒径にほぼ等しい程度の僅かな隙間が設けられている。また、流通口20aに臨む遮蔽弁28の端面は、農薬の流通方向前方に向けて傾斜した状態に形成されている。
【0024】
散布動作制御機構2には、ソレノイド26により作動される遮蔽弁28の1回あたりの開閉動作につき、流通口20aを通過する農薬の量を調節し、これによってノズル部12から噴出される農薬の量を調節する散布量調節機構6が設けられている。
【0025】
散布量調節機構6には、ソレノイド26の駆動軸26aを軸線方向に貫通された円柱状の移動体29が設けられている。移動体29は、駆動軸26aまわりの回転を規制されつつ駆動軸26aに沿って移動可能となっている。
【0026】
移動体29の周面には、駆動軸26aの長さ方向に向けて雄ネジ部29aが形成されており、この雄ネジ部29aには内側に雌ネジ部30aが形成されたスリーブ30が螺合されている。スリーブ30は、ノズル部12の内部で駆動軸26aの長さ方向への移動を規制されつつ駆動軸26aまわりに回転可能に支持されている。
【0027】
また、図5に示すように、散布動作制御機構2として、苗床台Sの裏面側には苗床台Sとともに往復移動するバー51が取り付けられている。バー51は、苗床台Sの裏面に苗床台Sの移動方向と平行に取り付けられている。
【0028】
バー51は断面コ字型のいわゆるチャネル形状を有し、中央の溝部51aを前方に向けた状態で梁部S等にファスニングベルト51bを用いて固定されている。溝部51aの底面にあたる部分には、複数の金属製のボルト51cが取り付けられている。ボルト51cは苗床台Sの移動幅よりもやや狭い範囲に等間隔に配列されている。
【0029】
バー51には、その長さ方向に移動自在に近接スイッチ52が取り付けられている。近接スイッチ52は、苗床台Sの往復動作に伴って移動するボルト51cの接近を磁力線の作用により検出する機構を有しており、バー51に沿って移動可能に取り付けられた台車53に対し検出部52aを溝部51aの底面に向けて固定されている。台車53は、両側に車輪53aを2個ずつ取り付けられており、これら車輪53aをバー51に設けられたレール部51dに転動可能に噛み合わせることでバー51の長さ方向に移動自在となっている。
【0030】
近接スイッチ52は、台車53とともにバー51に沿って移動させると、検出部52aがボルト51cに接近する度ごとにその接近を検出して出力を得るようになっている(実際には苗床台Sに取り付けられたバー51が移動してスイッチングされる)。
【0031】
近接スイッチ52は、台車53に形成された取付孔53bに、断面矩形の棒状部35cの先端を挿入した状態とされ、これによって常に所定の位置に留まるようになっている。
【0032】
電源機構4は、実際の電力供給源として田植機に搭載されているバッテリーが兼用されている。センターボックス5は、運転席に搭乗する作業者から手の届く位置に設置されている。
【0033】
また、センターボックス5には、近接スイッチ52の出力を得て散布機構1を作動させる制御部54が内蔵されている。散布機構1では、近接スイッチ52によってボルト51bの接近が検知されたことを契機としてソレノイド26が作動され、遮蔽弁28の開閉動作が1回、行われるように設定されている。本実施形態においては、センターボックス5に設けられた主スイッチ5aをオン状態にすることによってモータ18を作動するとともにソレノイド26への電力供給が行える状態とする。
【0034】
上記のように構成された散布装置は次のようにして使用される。まず、育苗箱で育てた苗の束を苗床台Sに搭載し、水田に乗り入れた田植機について、主スイッチ5aを接続すると、モータ18が作動してインペラ17が回転を開始する。
【0035】
植え付け動作が開始されると、苗床台Sは、掻き取り爪による苗の掻き取り動作に同調して側方に往復移動を開始する。苗床台Sの往復移動に伴いローラ21が回転すると、ローラ21の回転に従って車輪25aが端面21a上を走行し、突起部21cを乗り越えて上下する度ごとにスイッチ25が間欠的にスイッチングされる。
【0036】
スイッチ25がスイッチングされるとその度にソレノイド26が作動し、遮蔽弁28が隔壁20に沿って往復移動して流通口20aが開閉される。流通口20aが開閉されると、これに伴って流通口20aを通過した農薬が供給管19を通ってインペラ17上に落下する。インペラ17上に落下した農薬は、継続的に回転するインペラ17に弾かれ、噴出口12fおよび散布口41aを通じて田植機の後方に向けて噴出される。
【0037】
苗床台Sは田植機の植え付け動作に同調して作動し、植え付け動作が減速されると苗床台Sの移動速度も減少し、植え付け動作が増速されると苗床台Sの移動速度も増加するので、所定の植え付け面積に散布される農薬の散布量は田植機の植え付け速度に関わらず一定となる。
【0038】
上記のように構成された散布装置の場合、田植機の植え付け動作が開始されて苗床台Sが側方に往復動作を開始すると、苗床台Sとともにバー51が往復移動し、バー51に取り付けられた複数のボルト51bが近接スイッチ52の検出部52aの上を次々に通過する度ごとに近接スイッチ52がスイッチングされる。
【0039】
上記のように構成された散布装置によれば、蓋体10aには延出部10cが設けられており、図6に示すように、蓋体10aを開いて収納部10を開放しても、鉛直方向から見て蓋体10aが薬剤投入口10bのすべてを覆った状態が確保されるので、降雨時に収納部10に農薬を投入する場合でも、農薬が雨に濡れ難くなる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された事項によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、上部に設けられた開口部を通じて前記農薬を収納する収納部と、前記開口部に被着されかつ一部を前記収納部に軸支された蓋体と、前記収納部から供給される農薬を散布する散布機構とを備え、前記蓋体が、軸支された一部から前記開口部を越えて離間する方向に延出されている田植機搭載型農薬散布装置に関する。
この田植機搭載型農薬散布装置によれば、薬剤を雨に濡らすことなく供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の田植機搭載型農薬散布装置の実施形態を示す図であって、田植機搭載型農薬散布装置の構造を示す概略図である。
【図2】田植機搭載型農薬散布装置を構成する散布機構を示す斜視図である。
【図3】散布機構の内部構造を示す分解斜視図である。
【図4】散布機構の内部構造を示す断面図である。
【図5】田植機搭載型農薬散布装置を構成する散布動作制御機構を示す斜視図である。
【図6】収納部の蓋体を開いた状態、および蓋体を閉じた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1…散布機構、10…収納部、10a…蓋体、10b…薬剤投入口、10d…側板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、上部に設けられた開口部を通じて前記農薬を収納する収納部と、前記開口部に被着されかつ一部を前記収納部に軸支された蓋体と、前記収納部から供給される農薬を散布する散布機構とを備え、前記蓋体が、軸支される前記一部から前記開口部を越えて離間する方向に延出されていることを特徴とする田植機搭載型農薬散布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−320339(P2006−320339A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243333(P2006−243333)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【分割の表示】特願平11−32050の分割
【原出願日】平成11年2月9日(1999.2.9)
【出願人】(000114938)ヤマト農磁株式会社 (12)
【Fターム(参考)】