説明

田植機搭載型農薬散布装置

【課題】機種を問わず既存の田植機のほとんどのものに対して装着可能であるとともに構造が単純で安価に製造可能であり、一般消費者にも簡単に入手可能な田植機搭載型農薬散布装置を実現すること。
【解決手段】田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、前記農薬を散布する散布機構1と、前記田植機の植え付け動作を利用して作動され、散布機構1による農薬散布を、前記田植機に具備される苗床パッドPから苗を離脱する押し出しロッドRの反復動作と同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構60とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機に搭載され、田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
しろかきを終えて水を導入した水田に除草を目的として散布される薬剤は、田植えを行う数日前後に散布されるのが通常であったが、近年では成分の改良がなされ、田植えと同時に散布することが可能になっている。
【0003】
このような薬剤には液状のものと粒状のものがあり、それぞれについて散布装置が用意されている。液状薬剤用の散布装置は、苗の掻き取り爪の回転運動を利用して薬剤を間欠的に送り出し、所定時間をあけて薬剤を微量ずつ滴下するしくみになっており、田植えを行う田植機の走行中に作動させることで水田に薬剤を散布する。
【0004】
粒状薬剤用の散布装置は、田植機に装着され、掻き取り爪の運動を利用して駆動されるもので、薬剤の収納部から間欠的に薬剤を流下させ、さらに流下させた薬剤を別の電源によって駆動されるファンによって弾き飛ばすしくみになっており、田植えを行う田植機の走行中に作動させることで水田に薬剤を散布する。
【特許文献1】特開平8−252050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記粒状薬剤用の散布装置は特定の田植機専用に開発されたものであり、特定の機種にしか装着できないためにこの粒状薬剤散布装置を使用するには田植機そのものを購入する必要があった。また、この粒状薬剤用の散布装置が装着可能な田植機を所有していたとしても、散布装置自体が大型で高価であるために一般消費者には手のでにくいものであった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、機種を問わず既存の田植機のほとんどのものに対して装着可能であるとともに構造が単純で安価に製造可能であり、一般消費者にも簡単に入手可能な田植機搭載型農薬散布装置を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、次のような構成を有する農薬散布装置の開発が進められている。すなわち、本発明に係る請求項1記載の田植機搭載型農薬散布装置は、田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、前記農薬を散布する散布機構と、前記田植機の植え付け動作を利用して作動され、前記散布機構による農薬散布を、前記田植機に具備される苗床パッドから苗を離脱する櫛状体の反復動作と同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構とを備えることを特徴としている。
【0008】
この田植機搭載型農薬散布装置においては、散布動作制御機構が、苗床パッドから苗を離脱する櫛状体を備える田植機について、この櫛状体の反復動作を利用して作動される。また、苗床パッドは田植機の植え付け動作に同調して作動し、植え付け動作が減速されると苗床パッドの移動速度も減少し、植え付け動作が増速されると苗床パッドの移動速度も増加するので、所定の植え付け面積に散布される農薬の散布量が田植機の植え付け速度に関わらず一定となる。
【0009】
請求項2記載の田植機搭載型農薬散布装置は、請求項1記載の田植機搭載型農薬散布装置において、前記散布動作制御機構が、前記櫛状体に取り付けられ、該櫛状体とともに反復移動して前記散布機構の作動の契機となる作動契機部と、前記櫛状体に向けて田植機本体に取り付けられ、前記櫛状体の反復動作に伴って移動する作動契機部の接近を検出する近接スイッチと、前記作動契機部を検出した近接スイッチの出力を契機として前記散布機構を作動させる制御部とを備えることを特徴としている。
【0010】
この田植機搭載型農薬散布装置においては、櫛状体とともに作動契機部が反復移動する過程で近接スイッチが作動契機部の接近を検出し、近接スイッチが作動契機部の接近を検出する度にその出力を契機として散布機構が作動する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明に係る請求項1記載の田植機搭載型農薬散布装置によれば、散布動作制御機構が、苗床パッドから苗を離脱する櫛状体を備える田植機について、この櫛状体の反復動作を利用して作動されるので、機種を問わず苗床パッドを備える既存の田植機に装着することができる。また、構造が簡単純で製造コストを安価に抑えることができる。さらに、苗床パッドは田植機の植え付け動作に同調して作動し、植え付け動作が減速されると苗床パッドの移動速度も減少し、植え付け動作が増速されると苗床パッドの移動速度も増加するので、所定の植え付け面積に散布される農薬の散布量が田植機の植え付け速度に関わらず一定となる。これにより、農薬散布の基準に従って農薬を正確に散布することができる。
【0012】
請求項2記載の田植機搭載型農薬散布装置によれば、櫛状体とともに作動契機部が反復移動する過程で近接スイッチが作動契機部の接近を検出し、近接スイッチが作動契機部の接近を検出する度にその出力を契機として散布機構が作動するので、農薬の散布を田植機の植え付け動作に同調させて間欠的に行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の田植機搭載型農薬散布装置の実施形態を図1ないし図6に示して説明する。図1に示す田植機搭載型農薬散布装置(以下では単に散布装置と呼ぶ)は、往復移動可能な苗床台を備える田植機とは異なり、苗が一株ごとに分けて植え付けられた苗床パッドPから櫛状の押し出しロッド(本発明の櫛状体に相当)Rで一度に複数株の苗を押し出し、苗床パッドPから押し出された複数株の苗をベルトコンベヤで植え付け爪に向けて搬送し、この植え付け爪で苗を一株ずつ捕らえて田圃に植え付けるようになっている。この散布装置は、田植機の後部に設置され田植作業と並行して農薬を散布する散布機構1と、田植機に具備される押し出しロッドRの押し出し動作を利用して作動されて散布機構1による農薬散布を田植作業に同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構60と、散布機構1を作動させるための電力を供給する電源機構4とを備えている。各機構に繋がるコード類はセンターボックス5に集められており、センターボックス5には散布装置の作動を大元で断続する主スイッチ5aが設けられている。
【0014】
散布機構1は、田植機の農薬が収納される収納部10と、収納部10の下部に取付けられたパイプ部11を通じて供給される農薬を噴出するノズル部12とを備え、運転席下のフレームに固定されたステー63に取り付けられている。ステー63の先端には車体の幅方向に断面矩形の棒状部64が設けられており、散布機構1は、防水ケース41に設けられたフック部16aをこの棒状部64に引っ掛けた状態で固定用ネジ(図示略)を締め込むことにより棒状部64に固定されている。
【0015】
収納部10は、図2に示すように、縦長の箱形でその上面には着脱可能な蓋体10aが取り付けられており、この蓋体10aを外して内部に農薬を収納するようになっている。パイプ部11は、すり鉢状に形成された収納部10の内底に連通し、下方に向けて延出された先端にノズル部12が取付けられている。
【0016】
収納部10を除くパイプ部11とこれに通じるノズル部12とは、防水ケース41に収納されている。防水ケース41はプラスチック等の樹脂製で、噴出口12fの前方に位置して散布口41aが設けられている。散布口41aは、後述する噴出口12fから噴出される農薬の飛散を妨げないように、噴出口12fの幅方向に長い矩形状に形成されている。
【0017】
散布口41aの幅方向の両側には、噴出口12fから噴出する農薬の散布幅および散布方向を規制するための整流板42a,42bが、散布口41a側に傾倒可能に支持されている。整流板42a,42bは前記の目的だけでなく、内側に重なるように倒されることで散布口41aを塞ぐ閉塞体としての働きを備えている。
【0018】
散布量調節機構43として、収納部10の側面に回動可能に取り付けられたダイヤル45には、後述するスリーブ30が、歯車機構44を介して連結されている。ダイヤル45には針部45aが設けられており、防水ケース41の側面に刻まれた目盛に針部45aを合わせることで農薬の散布量を任意に調節できるようになっている。
【0019】
ノズル部12は、図3に示すように、パイプ部11と連結される連結部12a、遮蔽弁28が内蔵される遮蔽弁ケース12b、上ケース12c、下ケース12d、さらにインペラ17を覆うカバー12eとが組み合わされて構成されている。
【0020】
ノズル部12の先端には、農薬を噴出する噴出口12fが下ケース12dとカバー12eとの間に設けられている。噴出口12fは、パイプ部11をやや下げた状態で散布機構1を固定したときに地面に対して平行となるように開設されている。
【0021】
上ケース12cと下ケース12dとの間にはモータ18が設置されている。モータ18の回転軸は下ケース12dの下方に突出しており、この回転軸にインペラ17が取り付けられている。
【0022】
インペラ17は、モータ18の回転軸に中心を固定された円板17a上に2枚の羽根部17bが立設されたもので、噴出口12fの幅方向に面方向を一致させてノズル部12の内部に配置されている。ノズル部12の内部には、収納部10からパイプ部11を通じて供給される農薬を円板17a上に供給する供給管19が設けられている。供給管19はノズル部12の内部でパイプ部11と連通しており、インペラ17に向けて農薬を落下させるようになっている。
【0023】
インペラ17は、モータ18を駆動させることによって一方向に回転し、収納部10からパイプ部11を通じて円板17a上に供給される農薬を、円板17aとともに回転する羽根部17bによって弾き飛ばすようになっている。
【0024】
ノズル部12には、スイッチ25が接続されたときに作動するソレノイド26が付設されている。ソレノイド26は、図4に示すように、パイプ部11とノズル部12との間に挟み込まれて固定されたソレノイド固定座27に、駆動軸26aをノズル部12に向けて固定されている。駆動軸26aには、パイプ部11を仕切りソレノイド26の作動によってパイプ部11を開いてインペラ17に向けて農薬を供給する遮蔽弁28が固定されている。
【0025】
遮蔽弁28は、ノズル部12の内部に設けられた隔壁20に沿って往復移動可能に支持されており、隔壁20に設けられた流通口20aを、その往復移動に伴って開閉するようになっている。
【0026】
遮蔽弁28は、流通口20aと合致する形状とされているものの、遮蔽弁28が流通口20aを閉じた状態のときに遮蔽弁28と流通口20aとの間には、農薬の粒が容易に通過しないように農薬の粒径にほぼ等しい程度の僅かな隙間が設けられている。また、流通口20aに臨む遮蔽弁28の端面は、農薬の流通方向前方に向けて傾斜した状態に形成されている。
【0027】
散布動作制御機構60には、ソレノイド26により作動される遮蔽弁28の1回あたりの開閉動作につき、流通口20aを通過する農薬の量を調節し、これによってノズル部12から噴出される農薬の量を調節する散布量調節機構6が設けられている。
【0028】
散布量調節機構6には、ソレノイド26の駆動軸26aを軸線方向に貫通された円柱状の移動体29が設けられている。移動体29は、駆動軸26aまわりの回転を規制されつつ駆動軸26aに沿って移動可能となっている。
【0029】
移動体29の周面には、駆動軸26aの長さ方向に向けて雄ネジ部29aが形成されており、この雄ネジ部29aには内側に雌ネジ部30aが形成されたスリーブ30が螺合されている。スリーブ30は、ノズル部12の内部で駆動軸26aの長さ方向への移動を規制されつつ駆動軸26aまわりに回転可能に支持されている。
【0030】
また、図5に示すように、この田植機には、散布動作制御機構60として、押し出しロッドRの近傍に近接スイッチ61が取り付けられている。押し出しロッドRは田植機の植え付け動作に同調して間欠的に押し出し(反復)動作を行い、植え付け動作が減速されると押し出し動作を行う間隔が長くなり、植え付け動作が増速されるとその間隔も短くなるので、この押し出しロッドRの動作をスイッチングの契機として利用するようになっているのである。
【0031】
近接スイッチ61は、検出部61aを押し出しロッドRの後部に向けて田植機のフレームに固定されたステー(図示せず)に取り付けられている。なお、押し出しロッドRの後部には金属製の作動契機部62が取り付けられる必要があるが、押し出しロッドRが金属製で作動契機部として機能する場合はこれを省略する場合がある。
【0032】
電源機構4は、実際の電力供給源として田植機に搭載されているバッテリーが兼用されている。センターボックス5は、運転席に搭乗する作業者から手の届く位置に設置されている。
【0033】
また、センターボックス5には、近接スイッチ61の出力を得て散布機構1を作動させる制御部54が内蔵されている。散布機構1では、近接スイッチ61によって押し出しロッドR(もしくは押し出しロッドRに取り付けられた作動契機部62)の接近が検知されたことを契機としてソレノイド26が作動され、遮蔽弁28の開閉動作が1回、行われるように設定されている。本実施形態においては、センターボックス5に設けられた主スイッチ5aをオン状態にすることによってモータ18を作動するとともにソレノイド26への電力供給が行える状態とする。
【0034】
上記のように構成された散布装置は次のようにして使用される。まず、苗床パッドPで育てた苗の株を苗床パッドPごと田植機に搭載し、水田に乗り入れた田植機について、主スイッチ5aを接続すると、モータ18が作動してインペラ17が回転を開始する。
【0035】
田植機の植え付け動作が開始されると、押し出しロッドRが前後に押し出し動作を行う度ごとに近接スイッチ61がスイッチングされる。近接スイッチ61がスイッチングされるとその度にソレノイド26が作動し、遮蔽弁28が隔壁20に沿って往復移動して流通口20aが開閉される。流通口20aが開閉されると、これに伴って流通口20aを通過した農薬が供給管19を通ってインペラ17上に落下する。インペラ17上に落下した農薬は、継続的に回転するインペラ17に弾かれ、噴出口12fおよび散布口41aを通じて田植機の後方に向けて噴出される。
【0036】
押し出しロッドRは田植機の植え付け動作に同調して作動し、植え付け動作が減速されると押し出しロッドRの作動速度も減少し、植え付け動作が増速されると押し出しロッドRの作動速度も増加するので、所定の植え付け面積に散布される農薬の散布量は田植機の植え付け速度に関わらず一定となる。
【0037】
上記のように構成された散布装置によれば、押し出しロッドRの押し出し動作からより正確にスイッチングの契機を掴み、田植機の植え付け動作に同調して散布機構を作動させることができる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された事項によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、田田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、前記農薬を散布する散布機構と、前記田植機の植え付け動作を利用して作動され、前記散布機構による農薬散布を、前記田植機に具備される苗床パッドから苗を離脱する櫛状体の反復動作と同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構とを備える田植機搭載型農薬散布装置に関する。
この田植機搭載型農薬散布装置は、機種を問わず苗床パッドを備える既存の田植機に装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の田植機搭載型農薬散布装置の実施形態を示す図であって、田植機搭載型農薬散布装置の構造を示す概略図である。
【図2】田植機搭載型農薬散布装置を構成する散布機構を示す斜視図である。
【図3】散布機構の内部構造を示す分解斜視図である。
【図4】散布機構の内部構造を示す断面図である。
【図5】近接スイッチを採用した散布動作制御機構を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1…散布機構,60…散布動作制御機構,61…近接スイッチ,62…作動契機部,R…押し出しロッド(櫛状体),P…苗床パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
田植え作業と並行して粒状の農薬を散布する田植機搭載型農薬散布装置であって、前記農薬を散布する散布機構と、前記田植機の植え付け動作を利用して作動され、前記散布機構による農薬散布を、前記田植機に具備される苗床パッドから苗を離脱する櫛状体の反復動作と同調して間欠的に行わせる散布動作制御機構とを備える田植機搭載型農薬散布装置。
【請求項2】
前記散布動作制御機構が、前記櫛状体に取り付けられ、該櫛状体とともに反復移動して前記散布機構の作動の契機となる作動契機部と、前記櫛状体に向けて田植機本体に取り付けられ、前記櫛状体の反復動作に伴って移動する作動契機部の接近を検出する近接スイッチと、該近接スイッチによる前記作動契機部の検出を契機として前記散布機構を作動させる制御部とを備えることを特徴とする請求項1記載の田植機搭載型農薬散布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−151559(P2007−151559A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32596(P2007−32596)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【分割の表示】特願平11−32050の分割
【原出願日】平成11年2月9日(1999.2.9)
【出願人】(000114938)ヤマト農磁株式会社 (12)
【Fターム(参考)】