説明

画像処理方法及びX線コンピュータ断層撮影装置

【課題】並列計算にも適用可能なTV最小化反復再構成アルゴリズムを実現する画像処理方法及びX線コンピュータ断層撮影装置を提供すること。
【解決手段】データ収集回路104は、投影データを収集する。再構成部114は、投影データに基づいて画像ボリュームを再構成する。再構成部114は、投影データを各々が複数のビューを含む複数のサブセットに区分する。再構成部114は、画像ボリュームを更新するために複数のサブセットの各々について、複数のビューにOS−SARTを並列的に実行する。再構成部114は、OS−SARTの完了後において、所定の規則に従って勾配ステップ幅を決定する。再構成部114は、勾配ステップ幅を利用して全変動を適応的に最小化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、画像処理方法及びX線コンピュータ断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボリューム画像再構成に関して、以下の3つの例に示すような様々なグループによって反復アルゴリズムが開発されている。パン(Pan)博士らによるシカゴ大学グループは、疎ビュー(sparse view)X線CT再構成と角度制限X線CT再構成とに対する適用についての全変動(TV:total variation)最小化反復再構成アルゴリズムを提案した。ワン(Wang)博士らによるバージニアテクノロジー(Virginia technology)グループは、2009年に、多ビューにおいて切り捨てられた投影データを有する関心領域(ROl)再構成を目的としたTV最小化アルゴリズムを発表した(すなわち、内部再構成問題)。最後に、ウィスコンシン大学マディソン校(Chen博士ら)は、先行画像拘束圧縮検出(PICCS:prior image constrained compressed sensing)方法を提案した。これら3つの先行技術においてTVは、同一画像上の画像ノイズを平滑化しエッジを維持するために利用される。従って、TVは、画像処理における上記の効果を最適化するために最小化される。
【0003】
以下の擬似コードは、非特許文献1に開示されたような1つの実施態様を示す。
【表1】

【0004】
先行技術の取り組みにもかかわらず、幾つかの問題が未解決のままであり、改善が必要とされる。例えば、シカゴ大学グループの技術は、凸射影法(POCS:projection on convex set)が用いられるので、画像処理を並列計算で実行することができない。この制約は、計算を終えるのに長時間かかるので、アルゴリズムを多ビューに関する3次元コーンビーム投影データに適用する場合において重要である。
【0005】
シカゴ大学の手法は、正値性制限(positivity constraint)と計算集中的プロセスとを必要とする。実際に、この手法は、各レイについて画像ボリュームを更新する。例えば、ビュー毎に100本のレイを有する90個のビューの場合、シカゴ大学の手法は、第1の勾配降下ステップを実行する前に画像を9000回(90×100)更新する。さらに、このTV最小化ステップにおいて、固定のステップ幅(step size)と目的関数の正規化された勾配とが探索方向について利用される。典型的には、ステップ幅が極めて小さい値に固定されるので、TV最小化ステップは、多数の反復を必要とする。シカゴ大学グループの技術は、実測の投影データが負データである場合において、直接的に適用できないという正値性制限の追加の制限を有する。
【0006】
一方、バージニアテクノロジーグループは、内部断層撮影法での多ビューからの投影データを利用する並列計算における画像処理を実施した(非特許文献2)。並列計算は、オーダードサブセット―同時代数的再構成法(OS−SART:ordered subset simultaneous algebraic reconstruction technique)に基づく。SARTと画像更新ステップとは、各サブセットについて反復される。すなわち、SARTが第1のサブセットにおいてのみ実行された後、画像は、直ちに更新される。これら2つの連続したステップは、各サブセットについて反復される。より詳細には、このSARTステップにおいて、先行技術は、システムマトリクスの行列要素をキャッシュ(記憶)する必要がある。
【0007】
以下の擬似コードは、非特許文献3で開示された1つの実施態様を示す。
【表2】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sidky and Pan, Phys. Med. Biol., Vol.53. pp.4777-4807. 2008
【非特許文献2】Ge Wang and Ming Jiang, J of X-Ray Science and Technology. Pp 169-177,12 (2004)
【非特許文献3】Heugyong Yu and Ge Wang, Phys. Med. Biol. Pp.2791-2805, 54 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
2009年のバージニアテクノロジーの手法は、内部再構成問題を目的としている。しかしながら、この問題に厳密な解決策がないことが示されている。従って、この手法は、内部問題の近似解であると考えられる。また、2009年のバージニアテクノロジーの手法は、高コントラストの対象に対する一時しのぎの解決策であり、さらに低コントラストの対象の撮像では多くの問題を有すると考えられる。さらに、2009年のバージニアテクノロジーの手法は、TV最小化アルゴリズムの本来の長所である疎ビュー再構成問題に適用できないと考えられる。
【0010】
ウィスコンシン大学のグループによる手法は、不都合に限定されている。この手法は、多くの場合において利用可能でない1組の先行画像を必要とする。さらに、この手法は、本質的にPOCSに基づいているので、並列計算を実行することができない。
【0011】
以上の事情を考慮して、並列計算にも適用可能なTV最小化反復再構成アルゴリズムを実施するための実用的な解決策が望まれている。
【0012】
目的は、並列計算にも適用可能なTV最小化反復再構成アルゴリズムを実現する画像処理方法及びX線コンピュータ断層撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態に係る画像処理方法は、データ収集回路からの投影データを複数のサブセットに区分し、前記複数のサブセットの各々は複数のビューを含み、前記投影データに基づく画像ボリュームを更新するために、前記複数のサブセットの各々について前記複数のビューにOS−SARTを並列的に実行し、前記OS−SARTの実行後、所定の規則に従って勾配ステップ幅を決定し、前記決定された勾配ステップ幅を利用して全変動を適応的に最小化する、ことを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図。
【図2】本実施形態に係る全変動反復再構成(TV−IR)の処理の典型的な流れを示す図。
【図3】図2のオーダードサブセット同時代数的再構成(OS−SART)の処理の典型的な流れを示す図。
【図4】図2の直線探索法の処理の典型的な流れを示す図。
【図5】本実施形態に係るTV−IRに関する擬似コードのリストの一例を示す図。
【図6】本実施形態に係るOS−SARTに関する疑似コードのリストの一例を示す図。
【図7】本実施形態に係る直線探索法に関する擬似コードのリストの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる画像処理方法及びX線コンピュータ断層撮影装置(X線CT装置)を説明する。図1は、本実施形態に係るX線CT装置の構成を示す図である。図1に示すように、X線CT装置は、マルチスライス型である。X線CT装置は、ガントリ100を含む。図1に示されるガントリ100は、側面から示されている。ガントリ100は、X線管101、環状形状を有するフレーム102、及び多列又は2次元アレイ型のX線検出器103を含む。X線管101とX線検出器103とは、フレーム102上の被検体Sを横切る対角線上に搭載され、回転軸RAに回転可能に支持されている。回転部107は、フレーム102を0.4秒/回転等の高速で回転させる。被検体Sは、回転軸RAに沿って、図1の紙面に対する奥行き方向又は手前方向に移動される。
【0016】
X線CT装置は、さらに、高電圧発生部109を含む。高電圧発生部109は、X線管101にX線を発生させるために、スリップリング108を介して管電圧をX線管101に印加する。X線は、被検体Sに向けて照射される。被検体Sの断面領域は、円で表わされている。X線検出器103は、被検体Sを透過したX線を検出するために、被検体Sを挟んでX線管101に対向する位置に配置される。
【0017】
図1に示すように、X線CT装置は、さらに、X線検出器103からの検出信号を処理するための他の構成要素を含む。データ収集回路(DAS:data acquisition system)104は、X線検出器103から出力された検出信号をチャネル毎に電圧信号に変換し、増幅し、デジタルデータに変換する。データ収集回路により発生されたデジタルデータは、生データとも呼ばれている。X線検出器103とDAS104とは、最大で900TPPR(1回転当たりの総投影数:total number of projections per rotation)、900TPPR〜1800TPPR、及び900TPPR〜3600TPPRで既定のTPPRを処理するように構成される。
【0018】
デジタルデータは、非接触データ伝送部105によって、ガントリ100の外部に設けられたコンソール内の前処理部106に供給される。前処理部106は、デジタルデータに感度補正等の前処理を施す。前処理が施されたデジタルデータは、投影データと呼ばれている。記憶部112は、再構成処理の前段階において、投影データを記憶する。記憶部112は、データ/制御バスを介してシステム制御部110に接続されている。また、記憶部112は、データ/制御バスを介して再構成部114、表示部116、入力部115、及びスキャン計画支援部200に接続されている。スキャン計画支援部200は、技術者がスキャン計画をたてるのを支援するための機能を有する。
【0019】
再構成部114は、投影データに基づいて画像ボリュームを再構成する。再構成部114は、種々のソフトウェア構成要素とハードウェア構成要素とを含む。再構成部114は、並列計算に適切な反復再構成技法を利用してTVを最小化することに優れている。本実施形態に係る再構成部114は、全ボリューム反復再構成(TVIR:total volume iterative reconstruction)アルゴリズムを実行する。TVIRアルゴリズムは、投影データにOS−SARTステップとTV最小化ステップとを実行する。2つのステップは、反復数が予め設定されているメインループにおいて連続して実行される。
【0020】
TV最小化ステップの前段階において投影データは、OS−SARTに供される。投影データは、N個のサブセットに区分される。各サブセットは、特定数のビューを有する。なおNは、予め設定される。OS−SARTにおいて各サブセットは、連続して処理されてもよい。あるいは、多重の中央処理装置(CPU)やグラフィック処理装置(GPU)などの特定のマイクロプロセッサを利用することによって、複数のサブセットは、並列的に処理されてもよい。
【0021】
OS−SARTにおいて再構成部114は、2つの主要な処理を実行する。すなわち、再構成部114は、N個のサブセットの各々について、画像ボリュームを再投影して計算上の投影データを生成する。次に再構成部114は、生成された計算上の投影データと実測の投影データとの正規化された差分を逆投影(バックプロジェクション)して更新画像ボリュームを再構成する。より詳細には、再構成部114は、レイトレーシング法を利用することによって画像ボリュームを再投影する。レイトレーシング法においてシステムマトリクスの行列要素は、キャッシュ(記憶)されない。再構成部114は、サブセット内の全てのレイを同時に再投影する。この処理は、必要に応じて並列的に実行される。逆投影において、再構成部114は、ピクセルドリブン(pixel - driven)技術を利用して、サブセット内の全ての正規化された差分投影データを逆投影して、所望の更新画像ボリュームを生成する。再構成部114がサブセット内の全てのレイサム(すなわち、差分投影データ)を逆投影して画像ボリュームを生成するので、この処理は、必要に応じて並列的に実行される。これらの処理は、単一のOS−SARTステップを完了するためにN個全てのサブセットについて施される。
【0022】
TV最小化ステップにおいて再構成部114は、現在の画像ボリュームの目的関数が過去の画像ボリュームより小さくなるように、直線探索手法を利用して正のステップ幅を探索する。この手法において、再構成部114は、従来技術による固定のステップ幅に比して、TV最小化ステップにおいて可変のステップ幅を生成する。また、先行技術のパンの手法において探索手順は、負の正規化された勾配である。しかしながら、本実施形態において探索手順は、必要に応じて正規化されなくてもよい。
【0023】
再構成部114は、分解能とノイズとを釣り合わせるために「TVステップ」と呼ばれるパラメータを調整する。この調整処理は、TV最小化ステップにおいて実行される。再構成部114は、TV最小化ステップをX回だけ反復する。なおXは、ある程度の分解能を犠牲にしながらノイズを抑制するために予め定められたパラメータである。再構成部114は、分解能とこのパラメータのノイズレベルとの間に成立するトレードオフを決定するのに優れている。
【0024】
次に図2を参照しながら、本実施形態に係るTV−IRの処理の典型的な流れを説明する。図2に示される処理は、2つのループを含む。各ループにおいて特定のステップが反復される。第1のループ(以下、外側ループと呼ぶことにする。)は、ステップS20、S30、及びS40を含む。第2のループ(以下、内側ループと呼ぶことにする。)は、ステップS30及びS40を含む。これらのループは、ある特定の条件が満たされるまで反復されるのではなく、所定の回数だけ反復される。ステップS20及びS30は、内側ループにおいて、ステップS10で所定のTVステップ数が初期化されるように第1の所定数だけ反復される。内側ループが終了した時、ステップS20、S30、及びS40は、外側ループにおいて、ステップS10で所定の反復数が初期化されるように第2の所定数だけ反復される。
【0025】
初期化ステップS10において画像X0は、0に初期化される。また、ステップS10においてTVステップ数は、第1の所定数に初期化され、反復数は、第2の所定数に初期化される。より詳細には、これらの所定数は、典型的には、経験的手法により決定される。ステップS20においてOS−SARTは、TV−IRの処理過程中、実測の投影データに対して実行される。ステップS20において、中間画像X1が出力される。OS−SARTの詳細は、後で図3を参照しながら説明する。ステップS30において、所定のTVステップ数に基づいてTVを最小にするように、直線探索法が繰り返し実行される。ステップS30が終了すると、ステップS20における中間画像X1から画像X2が生成される。ステップS30において生成された画像は、外側ループが再びステップS20から繰り返される前にステップS40において中間画像ホルダに記憶される。または、ステップS30において生成された画像は、ステップS50において画像X2が出力される前に、ステップS40において変数X1に置き換えられる。
【0026】
図3に示すフローチャートは、図2のステップ20におけるOS−SARTの処理の典型的な流れを示す。図示されたOS−SARTの処理は、特定のステップが反復して実行される1つのループを含む。ループは、ステップS23、S24、及びS25を含み、ある特定の条件が満たされるまで反復されるのではなく、所定数Nに従って反復される。ループが終了した場合、OS−SARTは、中間画像として変数X1を出力する。
【0027】
図3に示すように、ステップS21において、図2のステップS20に示される画像X0と実測の投影データpとが取り込まれる。ステップS22において、実測の投影データpは、サブセットと呼ばれるNsets個のグループに区分される。N個のサブセットは、Nsubrays=Nrays/Nsets個のレイサムをそれぞれ含む。N個サブセットの各々について、ステップS23において、画像X0は再投影され計算上の投影データが生成される。ステップS24において、実測の投影データと計算上の投影データとの間の正規化差分は、逆投影される。より詳細には、ステップS23において、システムマトリクスの行列要素がキャッシュされないレイトレーシング(光線追跡)技術が利用されることによって、画像ボリュームが再投影される。さらに、ステップS23において、サブセット内の全てのレイが同時に再投影される。この処理は、必要に応じて並列的に実行される。ステップS24において、ピクセルドリブン技術を利用して、サブセット内の全ての正規化差分投影データが逆投影され、所望の更新画像ボリュームが生成される。ステップS24において、サブセット内の全てのレイサム、すなわち正規化差分投影データが逆投影されることによって画像ボリュームが生成される。従って、この処理は、必要に応じて並列的に実行される。これらの処理がN個全てのサブセットに適用されることによって、単一のOS−SARTステップが完了する。最後に、ステップS25は、ステップS24からの逆投影画像を画像X0に追加することによって画像X0を更新する。ステップS25において生成された画像は、ステップS23に進むことによりループが繰り返される前に中間画像ホルダに記憶される、又はステップS26において画像X1が出力される前にX1に置き換えられる。
【0028】
図4に示すフローチャートは、図2のステップS30における直線探索法の処理の典型的な流れを示す。この直線探索法は、TV−IRの処理過程において実行される。図示された直線探索法に関するフローチャートは、特定のステップが反復して実行される1つのループを含む。このループは、ステップS32、S33、及びS34を含む。このループは、ある特定の停止条件が満たされるまでではなく、所定回数だけ反復される。ループが終了した時、直線探索法は、変数X2として画像を出力し、ステップ幅として変数aを出力する。
【0029】
図4に示すように、ステップS31において画像X1は、図2のステップS30を介してステップS20から取り込まれる。さらにステップS31においてステップ幅変数aは、1.0等の所定値に初期化される。ステップS32において画像X2は、式(X1−a*grad(TV(X1)))に従って計算される。ここで、aはステップ幅変数であり、grad(・)は所定の勾配演算子であり、TV(・)は所定の全変動演算子(TV演算子)である。同様にステップS32において、画像変数X2が新しく割り当てられた後、TV(X2)が計算される。ここで、TV(・)は、同一の所定のTV演算子である。ステップS33において、TV(X2)の値とTV(X1)の値とが比較される。TV(X2)<TV(X1)が真でない場合、ステップS34において現行のステップ幅値が半分にされる。ステップS34が終了するとステップS32へ進む。一方、TV(X2)<TV(X1)が真の場合、ステップS35において現行のステップ幅値aと画像X2とが出力される。換言すれば、前述のステップS32、S33、及びS34は、TV(X2)<TV(X1)が真になるまで繰り返される。
【0030】
図5は、本実施形態に係るTVIRに関する擬似コードのリストの一例を示す。メインのプロシージャ(procedure)は、画像の外観に影響する、第3行〜第10行の反復数と第5行〜第8行のTVステップ数とを決定する2つのパラメータを有する。ノイズレベルを抑制するために、所定数だけ反復されるTVステップが利用される。擬似コードにおいて、反復数はNiterで示され、TVステップ数はNTVで示される。Niterは、ビュー数に反比例し、NTVはノイズレベルに比例する。プログラムを終了するための明確な収束判断基準が定義されないことに注意されたい。その代わりに、プログラムは、ある特定の所定回数だけ繰り返された後で停止する。
【0031】
本実施形態においては、例えば、ビュー数が900以上であり、投影データがほぼノイズを含まない場合、例えば、Niterは20に設定され、NTVは1に設定される。一方、投影データが多くのノイズを含む場合、NTVは、例えば、3〜9の何れかに設定される。実際には、NTVは9を超える値に設定される場合もある。NTVが大きいほど再構成画像が滑らかになるが、空間分解能が低下する。
【0032】
図5の擬似コードにおいて、以下の表記法を用いることにする。画像fは、以下の(1)式において、システムマトリクスAと列ベクトルpによって示される投影データとによって表される。
【0033】
p=Af (1)
画像fは、2次元においてYDIM×XDIM次元を有し、3次元においてZDIM×YDIM×XDIM次元を有する。従って、画像は、2次元において2次元行列fYDIM,XDIMにより表され、3次元において3次元行列fZDIM,YDIM,XDIMにより表される。順投影プロシージャにおいて、画像fは、2次元ではYDIM×XDIMを有する列ベクトルに再配列され、3次元ではZDIM×YDIM×XDIMを有する列ベクトルに再配列される。Npixelsは、画像内の総画素数を表す。すなわち、2次元においてNpixels=YDIM×XDIMであり、3次元においてNpixels=ZDIM×YDIM×XDIMである。
【0034】
投影データpは、投影ビュー数VIEWSを有する。投影データは、2次元データの場合、チャンネル数(CHANNELS)に対応する数のレイを有する。3次元の場合、投影データは、CHANNELS×セグメント数(SEGMENTS)に対応する数のレイを有する。SEGMENTSは、追加の次元を示す。従って、総レイ数が、Nraysによって示される場合、2次元投影データは、Nrays=ビュー数(VIEWS)×CHANNELSを有し、3次元投影データは、Nrays=VIEWS×SEGMENTS×CHANNELSを有する。投影データは、Nrays個の要素を有する列ベクトルpによって示される。列ベクトルpのi番目の要素は、i番目のレイサムであるpiによって示される。
【0035】
システムマトリクスAの次元は、Nrays×Npixelsである。その行列要素は、ai,jによって示される。従って、i番目のレイサムは、(2)式で以下のように表わせる。
【数1】

【0036】
システムマトリクスA内の全ての行列要素を記憶することは、その膨大な次元数のために膨大なコストがかかる。例えば、各ビューの896個のチャネルにおいて900個のビューが測定され、サイズ512×512の画像行列が再構成される場合、システムマトリクスAは、806,400×262,144次元を有する。システムマトリクスAは疎であるが、全ての行列要素を記憶するにはコストが高い。システムマトリクスAを記憶しないようにする1つの方法は、転置を必要としない場合において、行列要素をその場で計算することである。1つの先行技術の手法において、1つのレイの行列要素だけが計算され記憶され、レイ毎に画像ボリュームが更新される。本実施形態においてシステムマトリクスAは記憶されないが、その転置を逆投影演算子であると解釈する。
【0037】
目的関数(費用関数)は、以下に示すように、2次元の場合に(3)式で規定され、3次元の場合に(4)式で規定されるようなTVである。変数εは、後述の探索方向の式によりシグマ内の各u(・)項が分割されるので、各u(・)項がゼロになることを防止するための微小量である。(3)式と(4)式とは、一連の離散勾配のllノルムを表わす。
【数2】

【0038】
【数3】

【0039】
図6は、図2のステップS20に関する擬似コードのリストの一例を示す。この擬似コードが示す処理は、本実施形態に係るTV−IRにおけるOS−SARTに含まれる。よく研究されたOS―SARTを検討してきたが、本実施形態に係るOS−SARTの例示的な実施態様は、先行技術で示されたようなPOCSの変形である。本実施形態は、ある特定のOS−SARTが適正なPOCS処理であることを証明するものではない。OS−SARTの利点は、必要に応じて並列で実施されることである。本実施形態に係るOS−SARTにおいてシステムマトリクスAは、キャッシュされない。
【0040】
図6に示すように、OS−SARTにおいて投影データpは、Nsets個のサブセットに区分される。t番目のサブセットは、Nsubrays=Nrays/Nsetsのレイサムを含むStによって示される。数学的には、OS−SARTの更新式は、以下の(5)式によって示される。
【数4】

【0041】
ここで、システムマトリクスAの行列要素と投影データpとは、サブセットS内のレイに対応する。前述の式においてシステムマトリクスAの転置が必要とされるが、本実施形態においては、システムマトリクスAの行列要素を記憶せず、転置処理を逆投影演算子により実行する。(5)式中の3つの項は、以下の(5a)式、(5b)式、(5c)式のようにそれぞれ表される。
【数5】

【0042】
第1項は、画像f(k,t)の再投影である。
【数6】

【0043】
第2項は、l番目のレイの長さである。
【数7】

【0044】
第3項は、j番目の画素が逆投影された回数として表されてもよい。
【0045】
図7は、図2のステップS30に関する擬似コードのリストの一例を示す。この擬似コードが示す処理は、本実施形態に係るTV−IRにおける直線探索法に関する処理に含まれる。直線探索法は、ステップ幅αを求めるために利用される。ステップ幅αは、以下の(6)式又は図5の擬似コードの7.1行に示される更新式で利用される。
【数8】

【0046】
その結果、UTV(f(k+l))≦UTV(f(k))+μαdTsearch▽UTV(f(k))となる。ここで、μは、0<μ<1を満たすスカラである。例えば、μ=0.001に設定される。
【0047】
探索方向は、(3)式と(4)式とに示したような目的関数を最小化するために、勾配降下法において利用される。探索方向dsearchは、以下の(7)式のように規定される。
【数9】

【0048】
(7)式は、Npixels個の要素の列ベクトルとして表わされる。これは、2次元の場合(8)式により、3次元の場合(9)式により示される。
【数10】

【0049】
【数11】

【0050】
2次元の場合、(3)式の3つの項、すなわちu(k−1,l)、u(k,l−1)、及びu(k,l)だけが変数fk,lを含む。これらの項は、(8)式を得るために、fk,lについてのみ微分される。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0052】
100…ガントリ、101…X線管、102…フレーム、103…X線検出器、104…データ取得回路(DAS)、105…非接触データ伝送部、106…前処理部、107…回転部、108…スリップリング、109…高電圧発生部、110…システム制御部、112…記憶部、114…再構成部、115…入力部、116…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ収集回路からの投影データを複数のサブセットに区分し、前記複数のサブセットの各々は複数のビューを含み、
前記投影データに基づく画像ボリュームを更新するために、前記複数のサブセットの各々について前記複数のビューにOS−SARTを並列的に実行し、
前記OS−SARTの実行後、所定の規則に従って勾配ステップ幅を決定し、
前記決定された勾配ステップ幅を利用して全変動を適応的に最小化する、
ことを具備する画像処理方法。
【請求項2】
前記投影データは、多ビューを有する、請求項1記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記投影データは、疎ビューを有する、請求項1記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記画像ボリュームは、正規再構成により発生される、請求項2又は3記載の画像処理方法。
【請求項5】
前記画像ボリュームは、内部再構成により発生される、請求項2又は3記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記勾配ステップ幅は、直線探索法に基づいて決定される、請求項1記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記勾配ステップ幅は、反復して更新される前記画像ボリュームのうちの現在の画像ボリュームの目的関数が過去の画像ボリュームの目的関数よりも小さいことを保証する、請求項6記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記OS−SARTは、グラフィック処理装置によって実行される、請求項1記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記OS−SARTは、中央処理装置によって実行される、請求項1記載の画像処理方法。
【請求項10】
前記OS−SARTを実行することにおいて、
前記複数のサブセットの各々について、前記画像ボリュームを再投影して計算上の投影データを生成し、
前記計算上の投影データと実測の投影データとの間の正規化差分を逆投影して、更新後の前記画像ボリュームを再構成する、
請求項1記載の画像処理方法。
【請求項11】
投影データを収集する収集部と、
前記投影データに基づいて画像ボリュームを再構成する再構成部と、を具備するX線コンピュータ断層撮影装置であって、
前記再構成部は、前記投影データを各々が複数のビューを含む複数のサブセットに区分し、前記画像ボリュームを更新するために前記複数のサブセットの各々について前記複数のビューにOS−SARTを並列的に実行し、前記OS−SARTの完了後において所定の規則に従って勾配ステップ幅を決定し、前記勾配ステップ幅を利用して全変動を適応的に最小化する、
ことを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項12】
前記収集部は、前記投影データを多ビューで収集する、ことを特徴とする請求項11記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項13】
前記収集部は、前記投影データを疎ビューで収集する、ことを特徴とする請求項11記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項14】
前記収集部は、前記投影データを正規再構成のために収集する、ことを特徴とする請求項12又は13記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項15】
前記収集部は、前記投影データを内部再構成のために収集する、ことを特徴とする請求項12又は13記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項16】
前記再構成部は、前記勾配ステップ幅を直線探索法に基づいて決定する、ことを特徴とする請求項11記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項17】
前記再構成部は、現在の画像ボリュームの目的関数が過去の画像ボリュームの目的関数より小さくなるように前記勾配ステップ幅を設定する、ことを特徴とする請求項16記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項18】
前記再構成部は、グラフィック処理装置(GPU)により構成される、ことを特徴とする請求項11記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項19】
前記再構成部は、中央処理装置(CPU)により構成される、ことを特徴とする請求項11記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項20】
前記再構成部は、前記複数のサブセットの各々について、前記画像ボリュームを再投影して計算上の投影データを生成し、前記計算上の投影データと実測の投影データとの間の正規化差分を逆投影し、更新後の前記画像ボリュームを再構成する、ことを特徴とする請求項11記載のX線コンピュータ断層撮影装置。
【請求項21】
データ収集回路で収集された投影データを複数のサブセットに区分するステップであって、前記複数のサブセットの各々は、複数のビューを含む区分ステップと、
前記複数のサブセットのうちの1つのサブセットの前記複数のビューにOS―SARTを並列的に実行するOS―SARTステップと、
前記OS―SARTステップにおける画像ボリュームを更新する更新ステップと
前記複数のサブセットに前記OS―SARTステップと前記更新ステップとを反復実行する反復ステップと、
前記反復ステップの完了後、所定の規則に従って勾配ステップ幅を決定する決定ステップと、
前記決定された勾配ステップ幅を利用して全変動を適応的に最小化する最小化ステップと、
を具備する画像処理装置。
【請求項22】
投影データを収集する収集部と、
前記投影データに基づいて画像ボリュームを再構成する再構成部と、を具備するX線コンピュータ断層撮影装置であって、
前記再構成部は、前記投影データを各々が複数のビューを含む複数のサブセットに区分し、前記複数のサブセットのうちの1つのサブセットの前記複数のビューにOS―SARTを並列的に実行し、前記OS―SARTの完了後において画像ボリュームを更新し、前記複数のサブセットに前記OS―SARTと前記更新とを反復実行し、反復実行の完了後、所定の規則に従って勾配ステップ幅を決定し、前記決定された勾配ステップ幅を利用して全変動を適応的に最小化する、
ことを特徴とするX線コンピュータ断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−139894(P2011−139894A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257688(P2010−257688)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】