説明

画像処理装置、画像処理方法並びに画像処理プログラム

【課題】グリッド像を含む放射線画像が記録された蓄積性蛍光体シートを読み取って画像信号を生成する画像信号生成方法および装置において、グリッド像の空間周波数成分に起因する折り返し歪成分などの周期的パターンを抑制すると共に被写体成分を維持した高品質な画像を生成する。
【解決手段】入力された周期的パターンに対応する空間周波数成分を、画像信号にフィルタリング処理を施すことにより抽出した第1処理済信号Shを抽出し、抽出された第1処理済信号から第1処理済信号に含まれる画像の被写体成分Scを抽出し、画像信号Sdに対して、第1処理済信号Shを減算するとともに抽出された被写体成分Scを加算する処理を施して第2処理済信号Spを抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像信号における周期的パターンに応じた空間周波数成分を抑制する周期的パターン抑制処理方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を照射するとこの放射線エネルギーの一部が蓄積され、その後、可視光やレーザ光などの励起光を照射すると、蓄積された放射線エネルギーに応じて輝尽発光光が発光される蓄積性蛍光体(輝尽性蛍光体)を利用して、例えば支持体上にこの蓄積性蛍光体を積層した蓄積性蛍光体シートに人体などの被写体を透過した放射線を照射することにより、放射線画像情報を一旦蓄積記録し、この蓄積性蛍光体シートにレーザ光などの励起光を照射して、輝尽発光光を生じさせ、この輝尽発光光を光電変換して画像信号を得る放射線画像読取装置がCR(Computed Radiography)として、広く実用に供されている。
【0003】
ここで、上述した蓄積性蛍光体シートなどに被写体の放射線画像を撮影記録する際に、被写体により散乱された放射線がシートに照射されないように4本/mm程度の細かなピッチで放射線の透過しない鉛等と透過しやすいアルミニウムや木材等とが交互に配置されたグリッドを被写体とシートとの間に配置して撮影を行うことがある。グリッドを用いて撮影を行うと被写体により散乱された放射線がシートに照射されにくくなるため、被写体の放射線画像のコントラストを向上させることができるが、このグリッド像が含まれた画像を拡大縮小すると、拡大縮小率に応じて折り返しによるエリアジングが生じる。さらに、エリアジングがグリッド像等の空間周波数と重なると、細かな縞模様(モアレ)が生じ、再生画像が見難いものとなってしまう。
【0004】
特許文献1には、このような周期的パターンを画像から除去する方法として、グリッド像の縞模様の並び方向に一次元ハイパスフィルタ処理を施し、更にグリッド像の縞模様と平行な方向に一次元ローパスフィルタ処理を施してグリッド像に応じた空間周波数成分を原画像から抽出し、抽出された空間周波数成分を原画像から差し引くグリッド像除去方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2のように、被写体からの散乱放射線を除去するためのグリッドを使用した放射線撮影により得られた被写体の放射線画像データを処理する放射線画像処理において、グリッド成分を含む被写体の放射線画像データから第1の画像成分すなわちグリッド成分を表すデータ(帯域成分)をまず抽出し、この第1の画像成分データに基づいて、上記放射線画像データに含まれるグリッドに起因する第2の画像成分のデータを生成し、この生成された第2の画像成分データすなわちグリッドに起因する成分のデータをもとの放射線画像データすなわちグリッド成分を含む全体画像から除去して、グリッドによるアーチファクトを効果的に除去した画像を得る方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3のように、グリッド像として除去しきれなかったグリッド像のとれ残りを元画像から減算するために、原画像からバンドパスフィルタにより抽出したバンドパスグリッド画像及びハイパスフィルタにより抽出したハイパスグリッド画像を取得し、両グリッド画像の差分をとった差分画像に対してグリッドパターンと平行な方向に低域通過処理を行った差分グリッド画像(バンドパスで抽出しきれてないグリッド周波数成分)を取得し、差分グリッド画像とバンドパスグリッド画像を加算した画像を原画像から差し引くグリッド除去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−150954号公報
【特許文献2】特許3445258号公報
【特許文献3】特開2010−240259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、画像診断に適した高品質な画像を得るためには、被写体を表す成分をできるだけ除去しないで、モアレ等の周期的パターンを除去したいという要求がある。しかし、特許文献1乃至3に記載された方法では、検出された周期的パターンに対応する所定の帯域の空間周波数成分を画像から除去する場合、所定の帯域に含まれる被写体を表す被写体成分も一緒に除去されてしまうという問題があった。特に、被写体を表す被写体成分を多く含む低い空間周波数帯域にグリッドに起因するモアレ成分が存在する場合、特許文献1乃至3に記載された方法では画像の品質の劣化が著しかった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、周期的パターンに対応する周波数成分のうち被写体成分を抽出して現画像に還元することができる画像処理装置および画像処理方法ならびに画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による画像処理装置は、画像に含まれる周期的パターンに対応する空間周波数成分を抑制する画像処理装置であって、入力された前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を、前記画像信号にフィルタリング処理を施すことにより抽出した第1処理済信号を抽出する第1処理済信号抽出手段と、前記抽出された第1処理済信号から該第1処理済信号に含まれる前記画像の被写体成分を抽出する被写体成分抽出手段と、前記画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するとともに前記抽出された前記被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出する第2処理済信号抽出手段を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明による画像処理方法は、画像に含まれる周期的パターンに対応する空間周波数成分を抑制する画像処理方法であって、入力された前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を、前記画像信号にフィルタリング処理を施すことにより抽出した第1処理済信号を抽出し、前記画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するとともに前記抽出された前記被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出することを特徴とするものである。
【0012】
本発明による画像処理プログラムは、画像に含まれる周期的パターンに対応する空間周波数成分を抑制する画像処理プログラムであって、コンピュータを、入力された前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を、前記画像信号にフィルタリング処理を施すことにより抽出した第1処理済信号を抽出する第1処理済信号抽出手段と、前記抽出された第1処理済信号から該第1処理済信号に含まれる前記画像の被写体成分を抽出する被写体成分抽出手段と、前記画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するとともに前記抽出された前記被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出する第2処理済信号抽出手段として機能させることを特徴とするものである。
【0013】
上記「周期的パターン」とは、原画像が含む周期的なパターンを持ったノイズを意味する。例えば、上記グリッドを利用して放射線画像を蓄積性蛍光体シートに撮影したときに原画像に含まれるグリッド像やモアレ等を意味する。
【0014】
また、上記「入力された」周期的パターンに対応する空間周波数成分には、周期的パターンに対応する空間周波数成分がいかなる方法で入力されたものも含む。例えば、既知の周期的パターンに対応する空間周波数成分がユーザのマニュアル入力に基づいて入力されたものであってもよいし、前記画像処理装置が、前記画像信号から前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を検出して前記第1処理済信号抽出手段に入力する周期的パターン検出手段をさらに備え、かかる周期的パターン検出手段により検出された周期的パターンに対応する空間周波数成分が入力されたものであってもよい。
【0015】
本画像処理装置における前記被写体成分抽出手段は、前記第1処理済信号から所定のしきい値を超える高コントラスト成分を前記被写体成分として抽出するものであることが好ましい。
【0016】
ここで、コントラストは、画像の濃度値よって表される明るい部分と暗い部分との濃度値の差のことを意味し、高コントラストとは周辺画素との濃度値の差の絶対値が所定のしきい値より大きいことを意味する。
【0017】
また、前記しきい値は、前記画像の撮影部位や撮影条件に応じて異なるものであってもよい。なお、画像の撮影部位や撮影条件は、原画像の撮影装置において指定される上記撮影条件や撮影部位の情報などの撮影メニューを利用して取得してもよく、ユーザのマニュアル操作により入力された被写体の臓器や病変などの撮影部位情報を利用してもよい。また、本発明による画像処理装置は、前記画像から該画像の撮影部位を抽出する部位抽出手段をさらに備え、抽出された撮影部位情報を利用してもよい。例えば、本出願人により提案されている、特開2002−109548号公報、特開2003−6661号公報に記載された基準となる平均的な心胸郭の輪郭と略相似形のテンプレートを用いてテンプレートマッチング処理を行なって胸郭を自動検出する方法を用いてもよい。
【0018】
本画像処理装置における第2処理済信号抽出手段は、画像信号に対して、最終的に第1処理済信号を減算するとともに被写体成分を加算した第2処理済信号を抽出できるものであれば、任意の順番で画像信号から第1処理済信号の減算および被写体成分の加算を行ってよい。例えば、画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するのちに前記抽出された前記被写体成分を加算して第2処理済信号を抽出するものであってもよい。また、第2処理済信号抽出手段は、前記第1処理済信号から前記抽出された前記被写体成分を減算し、該減算して得られた信号を前記画像信号から減算して第2処理済信号を抽出するものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムによれば、入力された周期的パターンに対応する空間周波数成分を、画像信号にフィルタリング処理を施すことにより第1処理済信号を抽出し、抽出された第1処理済信号から第1処理済信号に含まれる画像の被写体成分を抽出し、画像信号に対して、第1処理済信号を減算するとともに抽出された被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出するため、周期的パターンに対応する周波数成分のうち被写体成分を抽出して現画像に還元することができ、診断に重要な情報である被写体を表す成分を維持しつつ、モアレ等の周期的パターンのみを除去することができる。この結果、第2処理画像として画像診断に適した高品質な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】放射線画像撮影装置の概略を示した図
【図2】グリッド撮影により得られた放射線画像を示す図
【図3】放射線画像読取装置の一例を示す斜視図
【図4】走査方向と読取画像との関係を示した図
【図5】本発明による画像処理装置の第1の実施の形態の概略構成図
【図6】第1処理済画像から高コントラスト成分を抽出するルックアップテーブルの例
【図7】第1の実施形態の変形例による画像処理装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。尚、以下の実施の形態では、本発明における周期的パターン抑制処理装置を放射線画像読取装置に用いた場合について説明するが、デジタルカメラ等を用いた通常撮影において網戸やブラインド等を介して撮影した際に撮影画像に含まれる周期的パターンを抑制するための画像処理装置等に用いられてもよい。尚、放射線画像読取装置は、蓄積性蛍光体シートに記録された人体の放射線画像をレーザビーム走査によりデジタル画像信号として読み取るものである。
【0022】
図1は放射線画像撮影装置の概略図である。放射線源1から放射された放射線2は、被写体3を透過して静止グリッド(以下、単に「グリッド」と表記する)4に到達する。グリッド4は放射線2を吸収する鉛4aと、放射線2を透過するアルミニウム4bとが例えば4本/mm程度のピッチで交互に配置されているものである。また、放射線2がアルミニウム4bを透過して蓄積性蛍光体シート11に入射するように鉛4aは位置に応じて多少傾きを変化させて設置されている。
【0023】
従って、被写体3を透過した放射線2は、鉛4aに吸収されて蓄積性蛍光体シート11への到達を遮られる一方で、アルミニウム4bを透過して蓄積性蛍光体シート11に到達する。蓄積性蛍光体シート11には被写体像と共に4本/mmの縞模様状のグリッド像が記録される。一方、被写体3内で散乱された散乱放射線2aは、位置に応じて傾きを持って設置された鉛4aによって吸収され、又はグリッド4の表面で反射するため、蓄積性蛍光体シート11には到達しない。従って、蓄積性蛍光体シート11は散乱放射線2aの照射の少ない鮮明な放射線画像を記録することができる。図2は、図1に示した放射線画像撮影装置を用いて撮影した際に蓄積性蛍光体シート11に蓄積記録された被写体像5とグリッド像6の放射線画像の一例である。
【0024】
図3は、放射線画像読取装置の斜視図と機能ブロック図を組み合わせた図である。読取部10の所定位置にセットされた蓄積性蛍光体シート11は、駆動手段(不図示)によって駆動されるエンドレスベルト等のシート搬送手段15によって、例えば走査ピッチ10本/mmで矢印Y方向に搬送(副走査)される。一方、レーザ光源16から発せられた光ビーム17は、モータ24により駆動され矢印方向に高速回転する回転多面鏡18によってfθレンズ等の集束レンズ19に向けて反射される。光ビーム17は集束レンズ19を通過した後、ミラー20によって蓄積性蛍光体シート11に向けて反射される。蓄積性蛍光体シート11は光ビーム17によって副走査方向(矢印Y方向)と略直角な矢印X方向に主走査される。
【0025】
蓄積性蛍光体シート11において光ビーム17が照射された箇所からは蓄積記録されている放射線画像情報に応じた光量の輝尽発光光21が発散される。輝尽発光光21は光ガイド22の入射端面22aから入射し、光ガイド22内の内部を全反射を繰り返して出射端面22bから出射する。出射された輝尽発光光22はフォトマルチプライヤ23によって受光されて光電変換され、アナログ画像信号Saに変換される。
【0026】
アナログ画像信号Saはログアンプ26によって対数的に増幅された後、A/D変換器28において空間周波数fs=10cycle/mmに対応するサンプリング間隔でサンプリングされてデジタル化され、デジタル画像信号Sd(以下、単に「画像信号Sd」と表記する)を出力する。この画像信号Sdは、図4に示すように、蓄積性蛍光体シート11に対して主走査方向(横方向)に光ビーム17を走査させながら蓄積性蛍光体シート11を副走査方向(縦方向)に移動させることにより蓄積性蛍光体シート11を2次元走査して得られた放射線画像情報を示す。尚、このようにして得られた画像信号Sdには、被写体3に対応する放射線画像5の情報の他に、グリッド4に対応するグリッド像6の情報も含まれている。
【0027】
画像信号Sdは一旦記憶部29に記憶された後、画像信号処理部30に入力される。画像信号処理部30は本発明における画像処理方法を実行するための画像処理装置40を備えている。
【0028】
図5は第1の実施の形態の画像処理装置40の概略構成を表すブロック図である。図6は本実施形態による被写体成分抽出処理を説明する図であり、図7は本実施形態の変形例の画像処理装置40の概略構成を表すブロック図である。図5乃至7を用いて、本実施形態による画像処理装置40について以下説明する。
【0029】
本実施形態の画像処理装置40は、画像に含まれる周期的パターンに対応する空間周波数成分を抑制する画像処理装置であって、画像信号から周期的パターンに対応する空間周波数成分を検出する周期的パターン検出手段41と、画像信号にフィルタリング処理を施して、検出された周期的パターンに対応する空間周波数成分を抽出した第1処理済信号を抽出する第1処理済信号抽出手段42と、抽出された第1処理済信号から第1処理済信号に含まれる画像の被写体成分を抽出する被写体成分抽出手段43と、画像信号に対して、第1処理済信号を減算するとともに抽出された被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出する第2処理済信号抽出手段44、45とを備えるものである。
【0030】
本実施形態における画像処理プログラムと画像処理プログラムが参照するデータは、インストール時に記憶部29に記憶され、起動時に記憶部29に含まれるメモリにロードされる。画像処理プログラムは、画像処理装置40を構成する画像処理部30の中央処理装置に実行させる処理として、周期的パターン検出処理と、第1処理済信号抽出処理と、被写体成分抽出処理と、第2処理済信号抽出とを規定している。そして、プログラムの規定にしたがって、中央処理装置が上記各処理を実行することにより、画像処理部30の中央処理装置は、周期的パターン検出手段41、第1処理済信号抽出手段42、被写体成分抽出手段43、第2処理済信号抽出手段44、45として機能する。
【0031】
図5に示すように、周期的パターン検出手段41は、記憶部29から画像信号Sdを読出して、本出願人の出願である特許文献1または特開2003−233818号公報に記載されたような周知の方法により周期的パターンに対応する空間周波数を検出する。第1処理済信号抽出手段42は、空間周波数帯域を除去するハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタから構成され、検出された周期的パターンに対応する空間周波数帯域を通過させるフィルタリング処理を行う。ここでは、第1処理済信号抽出手段42は、記憶部29から画像信号Sdに対し画像水平方向および垂直方向の両方に1次元ハイパスフィルタ(HPF)処理を施すことにより第1処理済信号Shを抽出する。なお、第1処理済信号抽出手段42は、画像信号Sdに対し周期的パターンに対応する空間周波数帯域を通過させるフィルタリング処理を行い第1処理済信号Shを抽出するものであれば、いかなるフィルタを用いてもよく、1次元フィルタによりフィルタリング処理を施してもよく、2次元フィルタによりフィルタリング処理を施してもよい。
【0032】
被写体成分抽出手段43は第1処理済信号Shから所定のしきい値を超える高コントラスト成分を前記被写体成分として抽出するものであり、後述するように、第1処理済信号Shを取得し、第1処理済信号Shのコントラストscに基づいてルックアップテーブルfs[sc]を参照して、被写体成分として高コントラスト成分を表す信号Scを第1処理済信号から抽出する。
【0033】
図6を用いて、被写体成分抽出手段43が、被写体成分として第1処理済信号に含まれる高コントラスト成分を抽出する処理を以下に説明する。
【0034】
被写体成分抽出手段43は、第1処理済信号Shのコントラストを解析し、第1処理済信号Shのコントラストに応じてルックアップテーブルfs[sc]に基づく関数処理を施す。図6上図は、第1処理済信号Shのコントラストを表すヒストグラムであり、図6下図は、被写体成分抽出手段43によって用いられる関数のグラフである。同下図に示すグラフは、横軸が入力sc(即ち、第1処理済信号Shのコントラスト)であり、縦軸が出力(即ち、fs[sc])となっている。fs[sc]は、ε1≦sc≦ε2の場合、出力=0とし、sc>ε2、及びsc<ε1の場合、出力は信号Shに比例して増減するグラフとなっている。つまり、図6上図のε1より小さい成分およびε2より小さい成分のみが高コントラスト成分として抽出される。また、本実施形態においては、図6下図に示したルックアップテーブルfsに示されるように、第1処理済信号Shのコントラストscが大きいほど、出力fs[sc])の絶対値が大きくなる。
【0035】
図6下図に対応する式は以下の通りとなる。
【数1】

尚、本実施例における図6下図の示すルックアップテーブルfs[sc]は、コントラストscとしきい値ε1の差分またはコントラストscとε2の差分を出力するものとしたが、かかる入力信号と出力信号の対応付けは周知の方法により任意に設定でき、例えば、入力信号をそのまま出力信号としてもよく、出力信号をコントラストscに対して適宜重み付けしたものとしてもよい。
【0036】
本実施形態における第2処理済信号抽出手段は、減算器44と加算器45により構成される。減算器44は、画像信号Sdから第1処理済信号Shを減算し、その後、加算器45は高コントラスト成分を表す信号Scを加算して、周期的パターンを抑制した画像である、第2処理済信号Spを抽出する。なお、第2処理済信号Sp=(画像信号Sd−第1処理済信号Sh+第1処理済信号のうち被写体成分に対応する信号Sc)である。そして、この第2処理済信号Spに対応する画像がモニタ等の表示手段(不図示)に表示され、又はプリンタ等の出力手段(不図示)に出力される。
【0037】
本実施形態によれば、周期的パターンに対応する周波数成分のうち被写体成分を抽出して現画像に還元することができ、モアレ等の周期的パターンの周波数帯域に含まれる被写体を表す成分を維持しつつ、モアレ等の周期的パターンのみを除去することができる。この結果、第2処理画像として画像診断に適した高品質な画像を得ることができる。
【0038】
従来の特許文献1乃至3には、高周波成分として抽出されるグリッド像の除去が開示されているが、これらの方法を低周波成分として検出されるモアレに対して適用した場合には、低周波成分に多く含まれる被写体成分をモアレ成分とともに取り除いてしまい、処理後の画像の被写体成分が劣化して画像診断に好適な画像品質を保つことが難しかった。しかしながら、本実施形態の画像処理方法を低周波成分として検出されたモアレに適用した場合には、モアレ等の周期的パターンの周波数帯域に含まれる被写体を表す成分を加算した第2処理済画像を生成できるため、従来技術に比べて低周波成分に多く含まれる被写体成分を維持しつつモアレ成分のみを好適に除去できる。
【0039】
また、本発明者の鋭意検討により、実際に撮像して得られた被写体に対して、グリッドの周期的パターンの折り返し歪みとして発生するモアレは相対的に低コントラストなものとなるという傾向が分かってきた。このため、本実施形態によれば、被写体成分として高コントラスト成分を用いることにより、折り返し歪みであるモアレ縞のように、周期的パターンに対応する周波数成分のうち低コントラスト成分のみを集中的に除去することができる。このことにより、好適に被写体成分を維持した高品質な画像を得ることができる。
【0040】
なお、本実施形態の変形例について以下に記す。
【0041】
なお、本実施形態において、第2処理済信号Sp=(画像信号Sd−第1処理済信号Sh+第1処理済信号のうち被写体成分に対応する信号Sc)で表される信号Spが得られるものであれば、上記のような減算器44による減算処理と加算器45による加算処理はどちらが先に実行されてもよく、いかなる方法で第1処理済信号のうち被写体成分に対応する信号Scを第2処理済信号Spに還元するものであってよい。例えば、上記実施形態のように、第2処理済信号抽出手段が、画像信号に対して、第1処理済信号を減算するのちに抽出された被写体成分を加算して第2処理済信号を抽出するものであってもよく、例えば、図7に示すように、第2処理済信号抽出手段が、減算器46および減算器47から構成されるものであってもよい。この場合、減算器46が第1処理済信号Shから抽出された被写体成分を表す信号Scを減算し、減算して得られた信号Siを減算器47が画像信号Sdから減算して第2処理済信号Spを抽出することが考えられる。
【0042】
なお、上記実施形態におけるルックアップテーブルfsにおいて、撮影部位や撮影条件等に応じて、しきい値ε1および/またはε2の値を任意の値に設定してよい。例えば、図6上図のヒストグラムの上位(下位)N%(N=3,5,など)を抽出するようにε1、ε2を設定してもよい。また、同ヒストグラムの標準偏差σを算出し、ε1=ε2=±Nxσ(N=1.5,2.0,など)と設定してもよい。例えば、記憶部29に、撮影部位や撮影条件ごとにしきい値を対応付けた対応付けテーブルを予め記憶しておき、被写体成分抽出手段が、かかる対応付けテーブルに基づいて処理対象である画像の撮影部位や撮影条件に対応付けられたしきい値条件を特定し、特定されたしきい値条件を用いて高コントラスト成分を抽出することが考えられる。
【0043】
上記場合には、撮影部位や撮影条件に応じたしきい値条件に応じて適切に被写体成分を抽出することができるため、好適に第2処理済信号を抽出することができる。結果として、より高品質な処理済画像を生成することができる。
【0044】
また、上記実施形態におけるルックアップテーブルfsにおいて、撮影部位や撮影条件等に応じて、ルックアップテーブルfsを異ならせてもよい。例えば、撮影部位や撮影条件等に応じて、ルックアップテーブルfsを複数の関数(例えば、関数fs、関数fs1、関数fs2等)から選択可能にしてもよい。この場合に、画像の撮影部位や撮影条件は、原画像の撮影装置において指定される上記撮影条件や撮影部位の情報などの撮影メニューを利用して取得してもよく、ユーザのマニュアル操作により入力された被写体の臓器や病変などの撮影部位情報を利用してもよい。撮影部位や撮影条件に応じたルックアップテーブルにより適切に被写体成分を抽出することができるため、好適に第2処理済信号を抽出することができる。結果として、より高品質な処理済画像を生成することができる。
【0045】
また、上記画像処理装置40は、図7に示すように画像の撮影部位を抽出する部位抽出手段48をさらに備え、抽出された撮影部位情報を利用してもよい。撮影部位情報の抽出方法として、部位又は病変などが抽出できるものであればいかなる方法を適用してもよい。例えば、本出願人により提案されている、特開2002−109548号公報、特開2003−6661号公報に記載された基準となる平均的な心胸郭の輪郭と略相似形のテンプレートを用いてテンプレートマッチング処理を行なって胸郭を自動検出する方法を用いてもよい。
【0046】
なお、かかる場合には、被写体成分抽出手段43は、ユーザによる撮影部位の入力操作を必要とせず、自動抽出された結果に基づいて撮影部位を抽出でき、抽出された撮影部位に基づいて適切に被写体成分を抽出することができる。このため、ユーザは容易に撮影部位に応じた高品質な処理済画像を生成することができる。また、被写体成分抽出手段43が撮影メニューから撮影部位または撮影条件を自動抽出して、自動抽出された結果に基づいて被写体成分を抽出した場合にも同じ効果が得られる。
【0047】
本実施形態において被写体成分は、被写体の成分を表すものであれば、高コントラスト成分以外のいかなる成分を用いてもよい。
【0048】
また、本実施形態において、絶縁基板上に夫々が画素に対応する複数個の光電変換素子を2次元状に形成した放射線画像読取装置であって、この放射線画像読取装置上に形成された画像情報を担持する放射線が照射されると照射された放射線を可視光に変換する蛍光体層(シンチレータ)を積層して成る放射線固体検出器(以下、「光変換方式」の放射線固体検出器という)を用いた放射線画像読取装置に本発明を適用した例について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず種々のタイプの放射線固体検出器を用いた放射線画像読取装置に適用可能である。例えば、絶縁基板上に夫々が画素に対応する複数個の電荷収集電極を2次元状に形成した放射線画像読取装置であって、この2次元画像読取装置上に形成された、画像情報を担持する放射線が照射されると前記画像情報を担持する電荷を発生する放射線導電体とを積層して成る放射線固体検出器(以下、「直接変換方式」の放射線固体検出器という)を用いた放射線画像撮影装置に適用してもよい。
【0049】
また、光変換方式の放射線固体検出器としては、例えば特開昭59-211263 号、特開平2-164067号、PCT国際公開番号WO92/06501号、Signal,noise,and read out considerations in the development of amorphous silicon photodiode arrays for radiotherapy and diagnostic x-ray imaging,L.E.Antonuk et.al ,University of Michigan,R.A.Street Xerox,PARC,SPIE Vol.1443 Medical Imaging V;Image Physics(1991) ,p.108-119 等に記載された放射線固体検出器が適用できる。
【0050】
一方、直接変換方式の放射線固体検出器としては、例えば、(i) 放射線の透過方向の厚さが通常のものより10倍程度厚く設定された放射線固体検出器(MATERIAL PARAMETERS IN THICK HYDROGENATED AMORPHOUS SILICON RADIATION DETECTORS,Lawrence Berkeley Laboratory.University of California,Berkeley.CA 94720 XeroxParc.Palo Alto.CA 94304)、あるいは(ii)放射線の透過方向に、金属板を介して2つ以上積層された放射線固体検出器(Metal/Amorphous Silicon Multilayer Radiation Detectors,IEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE.VOL.36.NO.2.APRIL 1989) 、あるいは(iii) CdTe等を使用した放射線固体検出器(特開平1-216290号)等に記載された放射線固体検出器が適用できる。
【0051】
上記の各実施形態はあくまでも例示であり、上記のすべての説明が本発明の技術的範囲を限定的に解釈するために利用されるべきものではない。この他、上記の実施形態におけるシステム構成、ハードウェア構成、処理フロー、モジュール構成や具体的処理内容等に対して、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な改変を行ったものも、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 放射線源
2 放射線
3 被写体
4 グリッド
5 被写体像
6 グリッド線
10 読取部
29 記憶部
30 画像処理部
40 画像処理装置
41 周期的パターン検出手段
42 第1処理済画像生成手段
43 被写体成分抽出手段
44、46、47 減算器(第2処理済画像生成手段)
45 加算器(第2処理済画像生成手段)
48 撮影部位抽出手段
fs ルックアップテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像に含まれる周期的パターンに対応する空間周波数成分を抑制する画像処理装置であって、
入力された前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を、前記画像信号にフィルタリング処理を施すことにより抽出した第1処理済信号を抽出する第1処理済信号抽出手段と、
前記抽出された第1処理済信号から該第1処理済信号に含まれる前記画像の被写体成分を抽出する被写体成分抽出手段と、
前記画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するとともに前記抽出された前記被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出する第2処理済信号抽出手段を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記被写体成分抽出手段が前記第1処理済信号から所定のしきい値を超える高コントラスト成分を前記被写体成分として抽出するものであることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記しきい値は、前記画像の撮影部位や撮影条件に応じて異なるものであることを特徴とする請求項1または2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画像から該画像の撮影部位を抽出する部位抽出手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像信号から前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を検出して前記第1処理済信号抽出手段に入力する周期的パターン検出手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第2処理済信号抽出手段は、前記画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するのちに前記抽出された前記被写体成分を加算して第2処理済信号を抽出するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記第2処理済信号抽出手段は、前記第1処理済信号から前記抽出された前記被写体成分を減算し、該減算して得られた信号を前記画像信号から減算して第2処理済信号を抽出するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項8】
画像に含まれる周期的パターンに対応する空間周波数成分を抑制する画像処理方法であって、
入力された前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を、前記画像信号にフィルタリング処理を施すことにより抽出した第1処理済信号を抽出し、
前記抽出された第1処理済信号から該第1処理済信号に含まれる前記画像の被写体成分を抽出し、
前記画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するとともに前記抽出された前記被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
画像に含まれる周期的パターンに対応する空間周波数成分を抑制する画像処理プログラムであって、
コンピュータを、
入力された前記周期的パターンに対応する空間周波数成分を、前記画像信号にフィルタリング処理を施すことにより抽出した第1処理済信号を抽出する第1処理済信号抽出手段と、
前記抽出された第1処理済信号から該第1処理済信号に含まれる前記画像の被写体成分を抽出する被写体成分抽出手段と、
前記画像信号に対して、前記第1処理済信号を減算するとともに前記抽出された前記被写体成分を加算する処理を施して第2処理済信号を抽出する第2処理済信号抽出手段として機能させることを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−203504(P2012−203504A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65511(P2011−65511)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】