説明

画像処理装置

【課題】特徴抽出に用いる領域に含まれる画素値の全範囲において、各画素値の変化をデジタル値に反映させ、特徴抽出を精度よく行うことを可能にする。
【解決手段】前置処理手段10は、撮像装置2により撮像した画像内の画素の画素値を変換テーブル12に従って規定範囲のデジタル値に変換した画像を出力する。主処理手段20は、前置処理手段10から出力された画像を用いて撮像装置2により撮像された所定の空間領域に関する特徴抽出を行う。範囲指定手段40は、モニタ装置3の画面に表示される前置処理手段10の出力画像のうち少なくとも主処理手段20が特徴抽出に用いる領域について画素値の範囲を指定する。テーブル生成手段50は、範囲指定手段40により指定された画素値の範囲の上限値と下限値とを前置処理手段10から出力するデジタル値の規定範囲に対応付けた変換テーブル12を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置により撮像した空間領域の画像から特徴抽出を行う画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、外観検査や空間監視などの目的において、撮像装置により撮像した空間領域の画像に対してデジタル信号処理による画像処理を行い、空間領域に関する特徴を抽出する技術が種々提案されている。撮像装置により撮像した画像の画像処理は、プログラムに従ってデジタル信号処理を行うプロセッサを備えた画像処理装置により行われる。
【0003】
ところで、撮像装置が撮像した画像に含まれる画素ごとの画素値の最大値と最小値との差は、撮像装置により撮像した空間領域の状況に応じて変化する。空間領域からの受光強度が撮像装置のダイナミックレンジの範囲内であれば、撮像装置が撮像した画像内に空間領域の細部の情報が含まれるが、受光強度がダイナミックレンジの範囲を逸脱していると空間領域の細部の情報が失われることになる。
【0004】
たとえば、モノクロの濃淡画像であれば、撮像装置による受光強度の大きい領域では飽和して白色(いわゆる、白とび)になり、受光強度の小さい領域は感度不足により黒色(いわゆる、黒つぶれ)になる可能性がある。このような事象が生じている領域では、空間領域の情報が失われるから、画像において特徴抽出を行う領域に、このような事象が生じていると特徴抽出が行えなくなるという問題が生じる。
【0005】
この種の問題を解決する基本的な技術としては、絞りを用いて撮像装置の受光強度を調節する技術、シャッタ(機械式、電子式)を用いて撮像装置の受光光量を調節する技術、撮像装置の出力に対する増幅度を調節する技術がある(たとえば、特許文献1参照)。増幅度の調節は、撮像装置に設けた撮像素子での飽和や感度不足が生じていない範囲で有効である。また、撮像装置により撮像する空間領域の全体で受光強度が高い場合には飽和を抑制するためにニュートラルフィルタ(NDフィルタ)を用いて減光する場合もある。
【0006】
上述した技術を採用すれば、撮像装置の受光強度に対する撮像装置の出力側でのダイナミックレンジを調節し、画像全体について出力を調節することが可能である。すなわち、受光強度(受光光量)をxとし出力をyとすると、飽和などがなく出力が受光強度(受光光量)に対して単調に変化する領域では、y=A・f(x)+Bと表すことができる。関数f(x)による変換は、撮像装置に用いる撮像素子における光電変換に対応する。また、A、Bは上述した技術を用いて調節される値である。ここで、上述した技術を用いると、A、Bの両値が連動して変化する。すなわち、感度を調節すると、受光強度(受光光量)の下限と上限との両方が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−165121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、画像処理装置では画像を扱うビット数に制限がある。たとえば、モノクロ画像では階調数を8ビット(256段階)に設定されている場合があり、カラー画像であればRGBの1色ごとに階調数が8ビット(256段階)に設定されていることがある。ここで、8ビットという数値は例示であって、12ビットや16ビットなどに設定することも可能である。ただし、物品検査や空間監視などの目的では、一般に8ビット程度の階調数があれば十分である。画像処理装置としては不必要に階調数を増加させるとコスト増につながるから、多くの場合、階調数として8ビットが採用されている。
【0009】
上述のように、画像処理装置が扱うデジタル値のビット数には制限があるから、撮像装置において上述の技術を用いて感度を調節した場合に、特徴抽出に用いるデジタル値の上限側や下限側において細部の情報が失われる場合がある。たとえば、撮像装置から出力された画像のダイナミックレンジが、画像処理装置のダイナミックレンジよりも大きいときには、ダイナミックレンジの不足によって飽和などが生じ、デジタル値では撮像装置の出力の変化を反映できなくなる場合がある。このような場合には、画像処理装置における特徴抽出の精度が低下する可能性がある。
【0010】
さらに、外観検査や空間監視などの目的で使用する画像は、特徴抽出が可能な画像であればよく、画像内において特徴抽出の対象となる領域について、明度の大小関係や色相・彩度の相対的関係が維持されていればよいと考えられる。言い換えると、撮像装置により撮像した空間領域の全体が特徴抽出の対象となる場合を除けば、通常は、画像内の一部領域について出力を調節することができればよい。しかしながら、上述した技術は、画像の全体の感度を調節するものであるから、特徴抽出に必要な範囲のみの感度の調節はできない。
【0011】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、撮像装置により撮像した画像内で特徴抽出に用いる領域に含まれる画素値の全範囲において、各画素値の変化をデジタル値に反映させることを可能にし、結果的に特徴抽出を精度よく行うことを可能にした画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、撮像装置により撮像した画像内の画素の画素値を変換テーブルに従って規定範囲のデジタル値に変換した画像を出力する前置処理手段と、前置処理手段から出力された画像を用いて撮像装置により撮像された所定の空間領域に関する特徴抽出を行う主処理手段と、前置処理手段から出力された画像をモニタ装置の画面に表示させる画像表示手段と、モニタ装置の画面に表示される画像のうち少なくとも主処理手段が特徴抽出に用いる領域について画素値の範囲を指定する範囲指定手段と、範囲指定手段により指定された画素値の範囲の上限値と下限値とを前置処理手段から出力するデジタル値の規定範囲に対応付けた変換テーブルを生成するテーブル生成手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
前置処理手段から出力される変換後の画像の階調数は、撮像装置から出力される画像の階調数よりも小さくてもよい。
【0014】
範囲指定手段は、モニタ装置に表示されている画像内において2領域を指定し、テーブル生成手段は、範囲指定手段により指定された2領域の各画素値を画素値の範囲の上限値および下限値としてデジタル値を対応付けるのが望ましい。
【0015】
範囲指定手段は、撮像装置により撮像した画像から画素値の度数分布を求め、画素値の上限側と下限側とにおいて度数が規定の閾値以下である画素値を除いて画素値の上限値と下限値とを自動的に決定してもよい。
【0016】
前置処理手段は、撮像装置のカメラゲインの調節および撮像装置から出力される画素値のオフセットの設定を行うカメラ制御手段を備え、カメラ制御手段は、撮像装置から出力された画像内において、範囲指定手段により指定された範囲の画素値の上限値に対応付けるデジタル値がデジタル値の上限値を超えているときにカメラゲインを規定値だけ低減させた後にオフセットを設定する処理を、画素値の上限値に対応付けるデジタル値がデジタル値の上限値以下になるまで繰り返すことが望ましい。
【0017】
画素値は明度であることが望ましい。
【0018】
撮像装置がカラー画像を出力する場合は、テーブル生成手段は、色相および彩度を変化させることなく明度の上限値と下限値とをデジタル値に対応付けることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の構成によれば、撮像装置により撮像した画像内で特徴抽出に用いる領域に含まれる画素値の全範囲において、各画素値の変化をデジタル値に反映させるように画素値とデジタル値とを対応付けることが可能になり、そのデジタル値を用いた主処理手段での特徴抽出を精度よく行うことが可能になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上に用いる変換テーブルの設定例を示す図である。
【図3】同上に用いる上下限指定手段の使用例を示す図である。
【図4】実施形態2におけるカメラ制御手段の動作説明図である。
【図5】同上に用いる変換テーブルの設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態1)
図1に示すように、画像処理装置1には撮像装置2が接続される。撮像装置2は、CCDイメージセンサあるいはCMOSイメージセンサからなる撮像素子(図示せず)を内蔵し、レンズを備える受光光学系(図示せず)を通して所望の空間領域を撮像する。また、撮像装置2は、画像処理装置1からの指示を受けて、電子式シャッタのシャッタ速度を調節することにより感度を調節する。撮像装置2は、撮像素子の出力を増幅する増幅器(図示せず)を内蔵し、画像処理装置1からは増幅器の増幅度を指示することが可能になっている。撮像装置2としては、絞り(アイリス)を備える構成を採用してもよく、絞りを備える撮像装置2では、画像処理装置1からの指示を受けて、絞りの開口径を変化させることにより感度を調節する。
【0022】
本実施形態では、説明を簡単にするために、撮像装置2がモノクロ画像(濃淡画像)を出力する場合を想定する。撮像装置1から出力される画像信号の形式にはとくに制限はないが、ここでは10ビットのデジタル値で表されているものとする。なお、以下に説明する技術は、カラー画像あるいは距離画像など、モノクロ画像ではない画像にも適用することが可能である。カラー画像を用いる場合、撮像装置2からは画素値が三刺激値(赤色(R)、緑色(G)、青色(B))の濃淡値で表した画像信号が出力される。濃淡値は、たとえば、各色10ビットのデジタル値で表される。
【0023】
一方、画像処理装置1は、撮像装置2から出力された画像信号を画像処理に適した信号に変換する前置処理手段10と、前置処理手段10による変換後の画像を用いて撮像装置2により撮像した空間領域の特徴を抽出する主処理手段20とを備える。ここでは、撮像装置2により対象物を含む空間領域を撮像し、対象物の外観検査を行うために特徴抽出を行う場合を想定する。なお、外観検査のための特徴抽出を行う画像処理技術は種々提案されており、また要旨ではないので説明を省略する。
【0024】
画像処理装置1にはモニタ装置3および操作装置4が接続される。モニタ装置3の画面には前置処理手段10から出力された画像が、画像表示手段30を通して表示される。また、操作装置4は、数個の押釦スイッチを備える簡単な構成であって、モニタ装置3に表示する画面を選択する操作、モニタ装置3に表示された選択肢を選択する操作などの簡単な操作が可能になっている。すなわち、操作装置4はモニタ装置3を用いて対話的な入力が可能になっている。また、画像処理装置1には、パーソナルコンピュータのような外部装置5を接続することが可能であって、外部装置5を用いることにより、画像に対する処理の手順および内容(パラメータ)の設定が可能になっている。
【0025】
前置処理手段10は、撮像装置2から出力された画像信号を主処理手段20で扱う画像に変換する変換処理手段11を備える。たとえば、変換処理手段11では、撮像装置2から出力された10ビットの画像信号を主処理手段20が扱う8ビットの画像に対応付ける変換テーブル12を参照し、画像信号の階調数を10ビットから8ビットに変換する。
【0026】
なお、撮像装置2から出力される画像信号を10ビットで表し、主処理手段20が扱う画像を8ビットで表すことは一例であって限定をする主旨ではない。ただし、前置処理手段10から出力される変換後の画像の階調数は、撮像装置2から出力される画像の階調数と同じとするか、または小さくする必要がある。
【0027】
画像処理装置1は、主処理手段20による画像処理を行う運転モードと、変換テーブル12の内容を調節する校正モードとを切り替えることができる。校正モードと運転モードとの切替は、操作装置4を操作するか、画像処理装置1に接続されるパーソナルコンピュータのような外部装置5から指示することにより行う。あるいは、校正モードと運転モードとを切り替えるためのスイッチを画像処理装置1に設けてもよい。校正モードでは、変換テーブル12において、撮像装置2から出力される画像信号のビット値に対して、主処理手段20で扱う信号のビット値を割り当てる。
【0028】
ここに、変換テーブル12としては、運転モードにおいて停電などが生じてもデータが消失することのないように不揮発性メモリを用いることが望ましい。また、校正モードでは、変換テーブル12の内容を変更するから、作業用メモリとして揮発性メモリを用いることにより内容の変更に対応しやすくするのが望ましい。すなわち、校正モードにおいて揮発性メモリを用いて変換テーブル12の内容を作成し、校正モードから運転モードに移行する際に、揮発性メモリから不揮発性メモリにデータを転送し、不揮発性メモリを変換テーブル12として用いるのが望ましい。
【0029】
上述したように、変換テーブル12は、撮像装置2が撮像した空間領域のうち特徴抽出の対象となる領域(以下、「着目領域」という)の画素値が、主処理手段20での特徴抽出が可能な画素値となるように画素値の変換を行う目的で設けられている。したがって、変換テーブル12によって、撮像装置2が出力する画素値の範囲を、主処理手段20が扱う画素値の範囲に対応付けることができれば、撮像装置2のダイナミックレンジを有効利用して主処理手段20での特徴抽出の精度を高めることが可能になる。
【0030】
着目領域は、画像処理装置1に設けた範囲指定手段40により指定する。着目領域としては、画像内の一部を指定するほか、画像全体を着目領域とすることも可能である。範囲指定手段40による着目領域の指定は、モニタ装置3に表示された画像に合わせて操作装置4または外部装置5を操作することにより対話的に行う。個々の画像については、個別に指定する必要はなく、着目領域を一旦指定した後には、次に変更されるまで同じ着目領域が使用される。
【0031】
以下では、変換テーブル12の作成手順を説明する。変換テーブル12は、撮像装置2が撮像した画像の画素値の範囲に合わせて画像処理装置1の内部処理の画素値の範囲を調節するために設けている。そのため、変換テーブル12を作成するには、撮像装置2が撮像した画像に関する画素値の範囲を決定する必要がある。画像内の画素値の範囲は、着目領域の画素値の範囲とする技術と、着目領域とは別に画像内の特定部位の画素値に基づいて設定する技術とが考えられる。
【0032】
着目領域の画素値の範囲を用いる場合には、範囲指定手段40に設けた領域指定手段41により着目領域を指定する。また、範囲指定手段40には、領域指定手段41に指定された着目領域に関して画素値の上限値(最大値)と下限値(最小値)とを求めるレンジ算出手段42が設けらている。着目領域の画素値の上限値と下限値とは、画像処理装置1に設けたテーブル生成手段50に与えられる。
【0033】
テーブル生成手段50は、着目領域の画素値の上限値および下限値を、主処理手段20に入力する(つまり、前置処理手段10から出力する)デジタル値の上限値および下限値に対応付けた変換テーブル12を生成する。
【0034】
すなわち、テーブル生成手段50は、図2に示すように、着目領域の画素値の下限値を前置処理手段10が出力するデジタル値の下限値(0)に割り当てる。また、着目領域の上限値を前置処理手段10が出力するデジタル値の上限値(255)に対して一定値だけ小さい値に割り当てる。また、着目領域の画素値の上限値と下限値との間の値は、画素値の上限値と下限値とにそれぞれ割り当てたデジタル値の間のデジタル値に均等に割り当てる。ここに、着目領域の画素値の上限値を前置処理手段10の出力値の上限値よりも一定値だけ小さいデジタル値に割り当てているのは、デジタル値に余裕を持たせることによって、飽和を防止するためである。
【0035】
テーブル生成手段50が生成する変換テーブル12の一例を示す。いま、着目領域の画素値の下限値と上限値とが、それぞれ384と768であって、前置処理手段10から8ビットのデジタル値(0〜255)を出力する場合を想定する。また、着目領域の画素値の上限値(768)には、デジタル値として223を割り当てる。つまり、飽和を防止するための余裕を持たせる一定値を32に設定している。
【0036】
この場合、変換テーブル12のデータは、(デジタル値,画素値)の対であって、画素値には383以下がないから、(0,0)(0,1)…(0,382)(0,383)(0,384)とする。また、画素値の最大値は768であり、この画素値にはデジタル値の223を対応付けるから、変換テーブル12には(223,768)というデータが書き込まれる。さらに、0から223のデジタル値には、384から768の画素値がほぼ均等に割り当てられる。この例の場合、デジタル値は224個であり、画素値は385個であるから、異なる画素値に同じデジタル値が対応付けられる場合があるが、ほぼ線形関係で画素値とデジタル値とを対応付けることができる。
【0037】
すなわち、テーブル生成手段50は、範囲指定手段40により指定された画素値の上限値(たとえば、768)と下限値(たとえば、384)とを前置処理手段10から出力するデジタル値における規定範囲の上限値(たとえば、223)と下限値(たとえば、0)とに対応付けた変換テーブル12を生成する。この動作では、画素値が取り得る範囲の値にのみデジタル値を対応付けているから、デジタル値毎の画素値の刻み幅を小さくなり高分解能になる。
【0038】
上述の例では、画素値をデジタル値に変換する際に情報量が減少し情報が圧縮されているが、画素値の範囲がデジタル値の範囲よりも狭い場合には情報が伸長される。情報を伸長する場合には、各画素ごとに周辺画素(たとえば、3×3画素)の画素値の平均値を求め、当該平均値にデジタル値を対応付けてもよい。
【0039】
また、画素値の度数を求め、画素値の上限側と下限側との少なくとも一方において、度数が規定値以下である画素値は削除し、残りの画素値に対してデジタル値を対応付けてもよい。すなわち、度数が規定値以下である画素値を雑音成分であると判断し、画像処理の対象外とすれば、主処理手段20における特徴抽出の処理における処理負荷の低減につながる。
【0040】
上述の動作例では、着目領域における画素値の上限値および下限値を、前置処理手段10から出力されるデジタル値の上限値および下限値に対応付けることにより、特徴抽出には不要な画素を処理対象外としている。ここで、撮像装置2から出力される画素値の上限値と下限値との間の段階数に対して、主処理手段20が扱うデジタル値の最大値と最小値との間の段階数のほうが小さいとする。このような場合でも、着目領域の画素値に制限してデジタル値を対応付けていることにより、情報量の低下を抑制することができる。
【0041】
ところで、範囲指定手段40に設けた領域指定手段41により着目領域を指定すると、着目領域に含まれる画素について画素値の上限値および下限値が求められるが、着目領域とは関係なく画素値の上限値および下限値の設定が必要になる場合もある。このような場合に対応するために、範囲指定手段40には、モニタ装置3に表示されている画像内において、画素値の上限値を規定する所望の領域と、画素値の下限値を規定する所望の領域との2領域を指定する上下限指定手段43が設けられる。上下限指定手段43は、モニタ装置3の画面の表示内容を用いて操作装置4を操作することにより、領域を対話的に指定する。
【0042】
上下限指定手段43では、図3に示すように、モニタ装置3の画面に表示された画像内において、明度の高い領域D1と明度の低い領域D2とをそれぞれ単純な図形で囲むことができる。ここに、単純な図形としては矩形のほか、円形などを採用することができる。また、範囲指定手段40は、上下限指定手段43により指定した各領域D1,D2の画素値の代表値を求め、両者をそれぞれ画像に関する画素値の上限値および下限値に用いるレンジ決定手段44を備える。レンジ決定手段44が用いる代表値としては、平均値、中央値、最頻値、最大値、最小値などから選択して採用することができる。
【0043】
このように、モニタ装置3に表示された画像から上下限指定手段43を用いて2領域を指定し、指定した領域の画素値を用いて上限値および下限値を決めることにより、利用者が画素値の上限値および下限値を適宜に設定することが可能になる。
【0044】
さらに、範囲指定手段40には、撮像装置2により撮像した画像から画素値の度数分布を求める度数算出手段45が設けられる。度数算出手段45により求めた度数は、撮像装置2により撮像した画像の全体から求めるほか、領域指定手段41で指定した着目領域の範囲で求めることも可能である。どちらの度数を求めるかは利用者が選択する。
【0045】
度数算出手段45により画素値の度数分布を求めると、上限側と下限側とにおいて度数が規定の閾値以下になる画素値が生じると考えられる。閾値は、上限側と下限側とにおいて等しく設定すればよいが、異なる閾値を設定してもよい。画像内において画素値の上限側と下限側とにおいて画素値が閾値以下になる画素は雑音であると推定することができるから、自動設定手段46では、閾値以下の画素を雑音と推定して除去し、残った画素の上限値および下限値を、主処理手段20に与える画素値の上限値と下限値として採用する。すなわち、自動設定手段46では、閾値を設定しておくことにより、画素値の上限値および下限値を自動的に設定する。
【0046】
上述のように、範囲指定手段40では、領域指定手段41とレンジ算出手段42とを用いる動作、上下限指定手段43とレンジ決定手段44とを用いる動作、領域指定手段41と度数算出手段45と自動設定手段46とを用いる動作を可能にしている。これらの3動作は、目的に応じて利用者が操作装置4を用いて適宜に選択する。また、3動作を選択可能にすることは必須ではなく、2動作のみを選択可能としたり、単独の動作のみを可能としたりすることも可能である。
【0047】
上述の構成例では、画素値が明度である場合について説明したが、画素値として距離値を用いることも可能であり、また、彩度を画素値に用いてもよい。また、カラー画像を扱う場合には、前置処理手段10において、色空間における所望範囲の色を抽出するフィルタの機能を持たせることが望ましい。カラー画像に対しては、三刺激値の各色ごとにモノクロ画像に対する処理と同様の処理を行えばよい。
【0048】
(実施形態2)
実施形態1では、前置処理手段10から出力される画素値と、主処理手段20で扱うデジタル値とを線形関係に対応付けるにあたり、384〜768の画素値に0〜223のデジタル値を割り当てる場合を例として示した。この例では、画素値の上限値と下限値との間の値をデジタル値に割り当てることによって、高分解能が得られている。
【0049】
ただし、変換テーブル12による対応付けであるから、撮像装置2から出力される画像において情報が失われているときには調節することができない。とくに、撮像装置2の視野内に光反射を生じる物体が存在する場合には、撮像装置2での受光強度が大きくなり、画素値の上限側において飽和を生じる可能性が高くなる。このような場合に、偏光フィルタを用いて反射を抑制することが考えられるが、反射光に応じて偏光フィルタを調節する必要があるから、調節作業に手間がかかるという問題がある。
【0050】
以下の動作では、画像処理装置1から撮像装置2に対して、撮像装置2のカメラゲインの調節およびオフセットの設定を行う命令を与えることにより、撮像装置2から出力される画像について画素値の上限値と下限値とを調節する技術について説明する。
【0051】
ただし、以下に説明する動作においても、実施形態1で説明した変換テーブル12を併用することが可能である。カメラゲインの調節に際しては、撮像装置2に設けた撮像素子の出力を増幅する増幅器の増幅度を調節する動作のほか、撮像装置2に絞りがあれば絞りの調節を含み、また撮像装置2のシャッタ速度が調節可能であればシャッタ速度の調節を含む。シャッタ速度の調節には、機械式シャッタよりも電子式シャッタを用いるほうが望ましい。
【0052】
本実施形態では、図3に示すように、デジタル値に対応した画像が表示されるモニタ装置3の画面内において、光反射などによって輝度が高くなっている第1の領域D1と、輝度は低いが細部の表示が要求される第2の領域D2とを指定する。第1の領域D1と第2の領域D2との指定は、実施形態1において説明した上下限指定手段43による領域D1,D2の指定と同様である。
【0053】
いま、前置処理手段10に入力される画素値と、前置処理手段10から出力されるデジタル値とが、図4(a)の関係である場合を想定する。第1の領域D1からはデジタル値が最大値(255)を超える画素値を求めることができる。つまり、図4(a)の画素値V1を求めることができる。一方、第2の領域D2からはデジタル値を0(つまり、画像内で黒)にしたくない画素値の下限を求めることができる。
【0054】
図4(a)の例では、画素値の下限値においてデジタル値は0ではない正の値を有し、画素値の上限値はデジタル値の上限値を上回っている。この関係では、上限側の画素値に異なるデジタル値を割り当てることができないから、画素値が上限側である領域については、デジタル値によって細部を表すことができない。
【0055】
そのため、まず図4(b)に示すように、カメラゲインを規定値だけ低減させ画素値に対するデジタル値の傾きを小さくする。すなわち、デジタル値毎の画素値の刻み幅を大きくする。カメラゲインを低減させる規定値は、比較的小さい値に設定されており、たとえば、規定値だけカメラゲインを低減させたときに、デジタル値が5〜10程度変化するように設定される。ここで、カメラゲインを低減させると、撮像装置2から出力される画素値が小さくなり、画素値の上限側だけではなく下限側においても割り当てられるデジタル値が小さくなる。
【0056】
そこで、画素値の下限側において、細部が分離できなくなるのを防止するために、図4(c)のように、撮像装置2から出力される画素値に規定のオフセットを与えることにより、画素値の下限値に対応付けるデジタル値が0ではない正の値になるようにする。
【0057】
上述の処理によって、画素値の最大値に対するデジタル値が依然としてデジタル値の上限値を超える場合には、カメラゲインを規定値だけ低減させ、画素値にオフセットを与える処理を繰り返す。このような処理を繰り返すことにより、図4(d)に示すように、撮像装置2から出力される画素値の最大値とデジタル値の最大値とをほぼ一致させることが可能になる。上述した処理は、前置処理手段10に設けたカメラ制御手段13が行う。
【0058】
なお、カラー画像を対象にする場合には、RGBの各成分の比率を変えないようにカメラゲインを調節する必要がある。また、上述の動作では指定した領域D1,D2に対応する画素値を用いてカメラゲインの調節およびオフセットの設定を行っているが、領域D1,D2を指定せずに、画像全体の画素値に基づいて上述の処理を行うことも可能である。
【0059】
ところで、画像全体について画素値とデジタル値とを対応付ける場合には対象物に対するダイナミックレンジが低下する可能性がある。これは、指定した領域D1,D2に基づいて画素値とデジタル値とを対応付けた場合も同様である。
【0060】
そこで、実施形態1と同様にして、変換テーブル12を用いることにより、対象物の範囲の画素値にのみデジタル値を対応付ける。たとえば、図5の関係を有した変換テーブル12を作成し、対象物の領域の画素値よりも小さい画素値には、デジタル値の0を対応付けるようにすれば、対象物に関してダイナミックレンジを大きくとることができ、対象物の特徴抽出を精度よく行うことが可能になる。この変換テーブル12は、実施形態1と同様に、テーブル生成手段50が生成する。すなわち、図5の関係を有した変換テーブル12は、実施形態1と同様の処理で生成される。
【0061】
また、このような変換テーブル12を用いることにより、撮像装置2において生じるノイズ成分を除去することになり、主処理手段20ではノイズの影響を除去して特徴抽出が行えることになる。たとえば、撮像装置2の出力に暗電流の成分が含まれていると、撮像装置2に光が入射しない状態でも画素値が0にならない場合がある。
【0062】
このような場合に、画素値の下限側において、暗電流の成分に所定の余裕分を加えた程度の画素値に対応付けるデジタル値を0にしておくことにより、暗電流の成分にデジタル値が対応付けられることを防止できる。つまり、主処理手段20での特徴抽出の処理において暗電流の成分が混入することがなく、精度よく特徴抽出を行うことが可能になる。他の構成および動作は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0063】
1 画像処理装置
2 撮像装置
3 モニタ装置
4 操作装置
10 前置処理手段
11 変換処理手段
12 変換テーブル
13 カメラ制御手段
20 主処理手段
30 画像表示手段
40 範囲指定手段
41 領域指定手段
42 レンジ算出手段
43 上下限指定手段
44 レンジ決定手段
45 度数算出手段
46 自動設定手段
50 テーブル生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置により撮像した画像内の画素の画素値を変換テーブルに従って規定範囲のデジタル値に変換した画像を出力する前置処理手段と、前記前置処理手段から出力された画像を用いて前記撮像装置により撮像された所定の空間領域に関する特徴抽出を行う主処理手段と、前記前置処理手段から出力された画像をモニタ装置の画面に表示させる画像表示手段と、前記モニタ装置の画面に表示される画像のうち少なくとも前記主処理手段が特徴抽出に用いる領域について画素値の範囲を指定する範囲指定手段と、前記範囲指定手段により指定された画素値の範囲の上限値と下限値とを前記前置処理手段から出力するデジタル値の前記規定範囲に対応付けた前記変換テーブルを生成するテーブル生成手段とを備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記前置処理手段から出力される変換後の画像の階調数は、前記撮像装置から出力される画像の階調数よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記範囲指定手段は、前記モニタ装置に表示されている画像内において2領域を指定し、前記テーブル生成手段は、前記範囲指定手段により指定された2領域の各画素値を画素値の範囲の上限値および下限値としてデジタル値を対応付けることを特徴とする請求項1又は2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記範囲指定手段は、前記撮像装置により撮像した画像から画素値の度数分布を求め、画素値の上限側と下限側とにおいて度数が規定の閾値以下である画素値を除いて画素値の上限値と下限値とを自動的に決定することを特徴とする請求項1又は2記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記前置処理手段は、前記撮像装置のカメラゲインの調節および前記撮像装置から出力される画素値のオフセットの設定を行うカメラ制御手段を備え、前記カメラ制御手段は、前記撮像装置から出力された画像内において、前記範囲指定手段により指定された範囲の画素値の上限値に対応付けるデジタル値がデジタル値の上限値を超えているときにカメラゲインを規定値だけ低減させた後にオフセットを設定する処理を、画素値の上限値に対応付けるデジタル値がデジタル値の上限値以下になるまで繰り返すことを特徴とする請求項1又は2記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記画素値は明度であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記撮像装置はカラー画像を出力し、前記テーブル生成手段は、色相および彩度を変化させることなく明度の上限値と下限値とをデジタル値に対応付けることを特徴とする請求項6記載の画像処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−248413(P2011−248413A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117811(P2010−117811)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000106221)パナソニック電工SUNX株式会社 (578)
【Fターム(参考)】