説明

画像形成装置、トナー消費量の算出方法およびコンピュータープログラム

【課題】各回の印刷におけるトナー消費量をより正確に求める。
【解決手段】画像形成装置は、画素値別かつエッジ属性の画素と非エッジ属性の画素とを区別する属性別に、前記画像データの画素の数を計数し、センサーの出力に基づいて、現在の動作環境が予め分類された複数の環境のいずれであるかを判別し、計数された画素値別かつ属性別の画素の数と、画素値別かつ属性別に定められかつ判別された環境に適合する係数とに基づいて、画素値別かつ属性別のトナー消費量を算出し、得られたトナー消費量の総和をトナー像の形成におけるトナー消費量として計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式の画像形成装置、トナー消費量の算出方法およびトナー消費量を算出するコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像データに応じたトナー像を用紙に印刷する電子写真式の画像形成装置では、各回の印刷におけるトナーの消費量が画像データに基づいて算出される。トナーの消費量とトナー像におけるドットの数との間には相関があるので、予め推定された1ドット当りのトナー消費量(感光体上のトナー付着量)と画像データによって決まるドット数とから1画像当りのトナー消費量(厳密には推定消費量)を算出することができる。算出の結果は、例えばトナーボトルから現像器へのトナー補給の制御に用いられる。また、算出されたトナー消費量は積算され、積算値が所定値を超えると、トナーボトルのエンプティ表示や廃トナーボックスのフル表示といったメンテナンスのための表示が行なわれる。
【0003】
ところで、電子写真プロセスでは、画像内とエッジ部と非エッジ部とで静電潜像を現像するときのトナー付着量に差異が生じる。一般には、静電潜像のエッジ部に強い縁端電界が生じるので、同じ階調であってもエッジ部の方が非エッジ部よりも多くのトナーが付着する。そこで、特許文献1では、画像データのエッジ部分を検出してエッジ部分の画素の出現頻度を階調ごとにカウントし、カウント値に所定の係数を乗じてトナー消費量を演算することが提案されている。特許文献2には、画像全体におけるエッジの占める割合を算出し、その割合に応じて画像全体のトナー消費量を補正する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−276422号公報
【特許文献2】特開2009−169307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各回の印刷におけるトナー消費量をより正確に求める必要がある。正確にトナー消費量求めることにより、積算トナー消費量の誤差を小さくし、ユーザーに対する積算トナー消費量に基づいたメッセージ表示の信頼性を高めることができる。例えば、用紙に対する面積率が標準値(一般に5%)よりも小さい画像ばかりを印刷しているにもかかわらず、積算印刷枚数がトナーボトルの耐用印刷枚数(標準の面積率を基準に設定される)を超えない時点でトナーボトルの交換を求める、というユーザーにとって不都合な状況の発生を防ぐことができる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、各回の印刷におけるトナー消費量をより正確に求める装置および方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する画像形成装置は、画像データに対応したトナー像を形成する画像形成装置であって、画素値別かつ前記画像データに付加された属性情報によって示されるエッジ属性の画素と非エッジ属性の画素とを区別する属性別に、前記画像データの画素の数を計数する計数部と、温度および湿度の少なくとも一方を検出するセンサーの出力に基づいて、現在の動作環境が予め分類された複数の環境のいずれであるかを判別する環境判別部と、前記計数部によって計数された画素値別かつ属性別の画素の数と、前記環境判別部によって判別された環境に適合する画素値別かつ属性別に定められた係数とに基づいて、画素値別かつ属性別のトナー消費量を算出し、得られたトナー消費量の総和を前記トナー像の形成におけるトナー消費量として計算する算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エッジに該当するかしないかを区別しかつ動作環境に応じて定められる係数を画素単位で適用してトナー消費量を算出するので、トナー消費量が動作環境に依存する場合のトナー消費量の算出の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の概略の構成を示す図である。
【図2】画像形成装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】プリンターコントローラーの機能構成を示す図である。
【図4】トナー消費量の算出に係る要部の構成を示す図である。
【図5】エッジ画素と非エッジ画素とにそれぞれ対応する露光スポットを模式的に示す図である。
【図6】トナー付着特性の環境依存性を定性的に示す図である。
【図7】トナー付着特性の積算稼働量依存性を定性的に示す図である。
【図8】トナー消費量の算出に用いられるカウントテーブルの構成を示す図である。
【図9】トナー消費量の算出に用いられる係数テーブルの構成を示す図である。
【図10】トナー消費量の算出に用いられる係数テーブルの構成を示す図である。
【図11】トナー消費量の算出に用いられる係数テーブルの構成を示す図である。
【図12】トナー消費量を算出する処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】係数テーブルの第1変形例を示す図である。
【図14】係数テーブルの第1変形例を示す図である。
【図15】係数テーブルの第1変形例を示す図である。
【図16】係数テーブルの第2変形例を示す図である。
【図17】係数テーブルの第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
電子写真法によって画像を印刷する任意の画像形成装置に、トナー消費量を画像データに基づいて算出する機能を搭載することができる。プリンター、複写機、ファクシミリ装置、およびMFP(Multi-functional Peripheral)など、電子写真式の画像形成装置の種類は多い。以下では、コピーおよびネットワークプリンティングを含む多数の用途を有するMFPを例に挙げる。
【0011】
図1に例示される画像形成装置1は、電子写真法によってカラーまたはモノクロの画像を形成するタンデム式のプリンターエンジンを備えている。プリンターエンジンは、4個のイメージングユニット11,12,13,14を用いてイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の4色のトナー像を並行して形成することができる。イメージングユニット11,12,13,14は、像担持体としての感光体ドラム15,16,17,18を一つずつ有し、装置本体に対して個々に着脱可能である。イメージングユニット11,12,13,14のそれぞれにおいて、筒状の感光体の周囲に、帯電チャージャー、現像器、およびクリーナーといったトナー像の作像に必要なデバイスが配置されている。現像器には該当する色のトナーがトナーカートリッジ25,26,27,28から適時に補給される。
【0012】
画像形成装置1には、操作パネル35による直接の操作またはネットワークを介して接続される図示しない外部装置(典型的にはパーソナルコンピューター)からのアクセスによって、印刷ジョブが与えられる。印刷ジョブにはイメージスキャナー30によって原稿画像を読み取って複製するコピージョブが含まれる。例えば、カラー画像を形成する印刷ジョブが与えられたとき、画像形成装置1は次のように動作する。
【0013】
画像形成装置1は、原稿から読み取ったスキャン画像データまたは外部装置から与えられる画像データに基づいて、Y,M,C,Kの各色の露光パターンデータであるラスター画像を生成する。感光体ドラム15,16,17,18が回転する状態で、帯電した感光体に向けてプリントヘッド22がレーザー光を照射する。このとき、プリントヘッド22はラスター画像に従って光源を制御し、それによって感光体に対する色別の主走査を行なう。主走査と副走査(感光体の回転)とによって感光体上に静電潜像が形成される。現像形式が反転現像であるので、静電潜像においてトナーを付着させるべきドット部分の電荷が露光によって他の部分の電荷よりも少なくなっている。各イメージングユニット11,12,13,14の現像器が感光体にトナーを吸着させて静電潜像に対応するトナー像を形成する。形成されたトナー像は、感光体の配列に沿って移動する無端の被転写体である中間転写ベルト23に一次転写される。トナー像の形成順序および一次転写の順序はイメージングユニット11,12,13,14の配置によって決まっており、本例では上流側からY、M、C、Kの順である。4色についての潜像形成および一次転写のタイミングは、中間転写ベルト23の上で4色のトナー像が互いにずれることなく適切な位置関係で重なり合うように設定されている。
【0014】
用紙の1紙面あたり四つずつトナー像を形成する動作と並行して、多段式の用紙スタッカー40からピックアップローラー41によって用紙Pが取り出されて搬送される。手差しトレイ48から給紙される場合もある。図中の一点鎖線は用紙Pの搬送経路を示す。一対のレジストローラー44が用紙を一旦保持し、適切なタイミングで二次転写位置へ給紙する。二次転写位置は中間転写ベルト23と圧接ローラー45とがニップ部を形成するように対向する位置である。二次転写位置を通過する用紙Pに中間転写ベルト23から4色の重なり合ったトナー像が一括に二次転写される。その後、用紙Pは定着ユニット29の内部を通って排紙トレイ46上に排紙される。用紙が定着ユニット29を通過する際に、加熱・加圧を受けてトナーが溶融し、トナー像が印刷画像として用紙に定着する。
【0015】
図2に示されるように、画像形成装置1は全体の制御を統括するメインコントローラー60を有する。メインコントローラー20によって、操作パネル35によるユーザーの指示および通信インタフェース66を介して通信する外部機器からの動作要求に応じて所定の制御が行なわれる。コピー動作においては、イメージスキャナー30およびADF(Auto Document Feeder)31が制御される。コピーを含む各種印刷動作では、プリンターエンジン10の制御を受け持つエンジンコントローラー80へメインコントローラー20から指示が与えられる。また、必要に応じて、内蔵のストレージ68としてのハードディスクドライブ(HDD)がメインコントローラー20によってアクセスされる。このようなメインコントローラー20は、制御プログラムや各種アプリケーションを実行するCPU(central processing unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)およびプログラム実行のワークエリアとされるRAM(Random Access Memory)を有している。メインコントローラー20には、制御プログラムの実行によって実現される機能要素である画像生成部としてのプリンターコントローラー70が含まれる。
【0016】
図3のように、プリンターコントローラー70は、解析部71と、ラスタライズ部72と、階調再現部73とを有する。プリンターコントローラー70は、印刷対象データD1を印刷するための4色のトナー像のそれぞれに対応するラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kを生成する。プリンターコントローラー70には、コピー動作においてイメージスキャナー30からのスキャン画像が印刷対象データD1として入力され、ネットワークプリンティングおよびファクシミリ受信において通信インタフェース66から印刷対象データD1が入力される。また、画像形成装置1内で保存されているドキュメントを印刷する場合には、ストレージ68から印刷対象データD1がプリンターコントローラー70に入力される。
【0017】
解析部71は、印刷ジョブがネットワークプリンティングジョブである場合、ページ記述言語(Page Description Language :PDL)で記述された印刷対象データD1を解釈し、描画すべき内容を表す中間データを生成してラスタライズ部72に引き渡す。すなわち、中間データがこの場合の解析部71が出力するデータD2である。PDLで記述される描画すべき内容は、文字を表す「テキスト」、図形や線を表す「グラフィック」、およびラスター画像を表す「イメージ」の三つの属性(種類)に大別される。中間データには、ページ内の領域の属性を示す情報が含まれる。一方、コピージョブやファクシミリ受信ジョブのようにPDLで記述されていない印刷対象データD1が入力される場合、解析部71は、印刷対象データD1を実質的にそのままデータD2としてラスタライズ部72に引き渡す。それとともに、解析部71は、印刷対象データD1から公知の領域判別技術を用いてテキスト領域およびグラフィック領域を抽出し、その結果を示す領域属性情報DAをラスタライズ部72に与える。
【0018】
ラスタライズ部72は、解析部71から引き渡されたデータD2に対して、RGBからYMCKへの色変換処理を行ない、YMCKの4色のそれぞれに対応した多値のラスター画像(フレーム)D3y,D3m,D3c,D3kを生成する。加えて、ラスタライズ部72は、各ラスター画像D3y,D3m,D3c,D3kにおける領域属性がテキストまたはグラフィックに該当する領域内の画素について、エッジに該当するエッジ画素かそうではない非エッジ画素かを判別する。そして、どの画素がエッジ画素であるかを示すエッジ属性情報(タグ)DEy,DEm,DEc,DEkを該当する色のラスター画像D3y,D3m,D3c,D3kに付加する。ここでいうエッジとは、背景と文字または図形との境界部分、および図形内の隣接する画素の画素値の差が閾値以上の部分である。
【0019】
階調再現部73は、複数の階調再現方法をジョブの種別に応じて使い分けて、ラスター画像D3y,D3m,D3c,D3kを露光制御のためのラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kに変換する。本実施形態において、階調再現部73は、3種の階調再現方法から選択した一つを4色に対して一律にかつ各色の画像の全体に対して一律に適用する。具体的には、コピー動作の場合には誤差拡散法を適用し、属性情報をもつ電子文書を印刷するプリンター動作の場合にはスクリーン処理(ディザ法)を適用し、ファクシミリ受信データを印刷するファクシミリ動作の場合には2値化を適用する。ただし、画像内の領域ごとに例えば誤差拡散法とスクリーン処理とを使い分ける形で、一つの画像に対して複数の階調再現方法を適用するようにしてもよい。画像形成装置1のプリントヘッド22はパルス幅変調および光源パワー制御の片方または両方による画素ごとの露光量の増減が可能であるので、誤差拡散法またはスクリーン処理を適用して生成されるラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kは多値の画像とされる。階調再現部73によって生成されたラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kは、エンジンコントローラー80を介してプリントヘッド22に送られる。そして、イメージングユニット11,12,13,14における各色のトナー消費量をエッジ画素と非エッジ画素とを区別して算出するため、各色のエッジ属性情報DEy,DEm,DEc,DEkがエンジンコントローラー80に送られる。
【0020】
図4に示されるように、エンジンコントローラー80は、制御プログラムを実行するCPU81、プログラム実行のワークエリアとされるRAM82、および各種データを記憶する不揮発性メモリ83としてのCSIC(Customer Specific Integrated Circuit)を有している。CPU81は、プリンターエンジン10を構成する各種機構の動作を制御するとともに、イメージングユニット11,12,13,14によって消費されるトナーの量を印刷動作ごとに算出する。トナー消費量の算出に際して、画素値別に画素数をカウントするためのカウントテーブルCTがRAM82に設けられ、予め不揮発性メモリ83に格納されている後述の係数テーブルT1,T2,T3が参照される。
【0021】
トナー消費量の算出において、プリンターエンジン10の動作環境(温湿度)と積算稼動量とが加味される。感光体に付着するトナーの量が動作環境に依存し、かつ感光体や現像剤といった作像に係わる部材の消耗度合いにも依存するからである。エンジンコントローラー80のCPU81は、プリンターエンジン10に組み付けられている温湿度センサー52の出力と、着脱式のイメージングユニット11,12,13,14にそれぞれ備わる不揮発性メモリ91,92,93,94に記憶されている積算稼動量DUとに応じて、係数テーブルT1,T2,T3から計算に適用すべき係数を取り込む。
【0022】
色ごとに算出されるトナー消費量の算出結果は、トナーカートリッジから現像器へトナーを送るトナー補給機構56の制御に用いられる。各回の印刷のトナー消費量を操作パネル35において表示する場合、表示制御を受け持つメインコントローラー60にトナー消費量の算出結果が通知される。また、例えば不揮発性メモリ83に記憶されている積算トナー消費量が新たに算出されたトナー消費量を加算した値に更新される。
【0023】
なお、イメージングユニット11,12,13,14内で記憶されている積算稼動量DUは、稼動量カウンター54によってカウントされる印刷枚数や感光体ドラムの回転回数などを反映するように、適時に更新される。
【0024】
以下、画像形成装置1におけるトナー消費量の算出についてさらに詳しく説明する。
【0025】
図5(A)および(B)は、エッジ画素と非エッジ画素とを区別する露光方法を模式的に示している。図5(A)のように、濃度の均一な文字パターンG1を誤差拡散法によって再現する場合、エッジにトナーが過剰に多く付着することに因って像が拡がって見える文字太りを防ぐために、エッジ画素に対応する露光スポットSeの面積を非エッジ画素に対応する露光スポットSneの面積よりも小さめにするように、露光用のラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kの画素値が定められる。また、図5(B)のように、濃度の均一な文字パターンG2をスクリーン処理によって再現する場合にも、文字太りを防ぐために、エッジ画素に対応する露光スポットSeの面積が非エッジ画素に対応する露光スポットSneの面積よりも小さくされる。
【0026】
しかし、感光体上のトナー付着量は露光面積(すなわち画素値)にほぼ比例するが、完全には比例しない。言い換えれば、トナー付着量が露光面積に比例するものとしてトナー消費量を計算すると、実際の消費量との計算値との間に誤差が生じる。そして、トナー付着量と露光面積との関係は、エッジ画素と非エッジ画素との間で異なる。したがって、エッジ画素と非エッジ画素とを区別して画素値別にトナー消費量を算出する必要がある。
【0027】
図5(C)のように、濃度の均一な文字パターンG3を2値化によって再現する場合において、ラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kの画素値はドット(黒画素)に対応する値か下地(白画素)に対応する値かのいずれかである。つまり、エッジ画素に対応する露光スポットSeの面積と非エッジ画素に対応する露光スポットSneの面積とが等しい。しかし、トナーの付着量はエッジ画素と非エッジ画素との間で異なる。したがって、2値化の場合にもエッジ画素と非エッジ画素とを区別して画素値別にトナー消費量を算出する必要がある。
【0028】
図6はトナー付着特性の環境依存性を定性的に示している。図示のように、1画素当りの露光量が多いほど感光体上のトナー付着量は多い。そして、図6(A)のように、露光量の全範囲にわたって、LL環境と比べてNN環境の方が、NN環境と比べてHH環境の方がより多くのトナーが付着する。ここで、LL環境は気温が15℃未満で湿度が30%未満の状態であり、NN環境は気温が15℃以上26℃未満で湿度が30%以上70%未満の状態であり、HH環境は気温が26℃以上で湿度が70%以上の状態である。
【0029】
画像形成装置1は自動安定化機能を有しており、印刷画像の濃度に対する動作環境の影響を低減するため、例えば現像バイアス電圧(Vdc)を調整する。これにより、図6(B)のように、最大露光量に対応するトナー付着量が動作環境にかかわらず所定値に設定される。
【0030】
しかし、最小露光量および最大露光量を除く露光量に対応するトナー付着量を見ると、動作環境が違えばトナー付着量の値が異なる。したがって、より正確にトナー消費量を算出するには、印刷時の動作環境を計算に反映させる必要がある。
【0031】
図7はトナー付着特性の積算稼働量依存性を定性的に示している。図示のように、1画素当りの露光量が多いほど感光体上のトナー付着量は多い。そして、図7(A)のように、露光量の全範囲にわたって、積算稼動量の少ない方がより多くのトナーが付着する。ここで、積算稼動量は、回転回数で表す感光体の標準寿命に対する現在の積算回転回数の割合である。例えば、「少」は30%未満で、「中」は30%以上70%未満で、「多」は70%以上である。
【0032】
図7(B)のように、上述の自動安定化機能が最大露光量に対応するトナー付着量を所定値に設定する調整をしたとしても、最小露光量および最大露光量を除く露光量に対応するトナー付着量は、積算稼動量によって異なる。したがって、より正確にトナー消費量を算出するには、印刷時の積算稼動量を計算に反映させる必要がある。
【0033】
図8はトナー消費量の算出に用いられるカウントテーブルCTの構成を示している。カウントテーブルCTは、画素ごとに露光量を指し示すYMCKの各ラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kについて、階調再現方法別かつ画素値別かつエッジ属性別に画素の数をカウントするためのメモリ領域である。図示ではラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kの画素値(露光階調)が0から63までの64段階の値とされている。ただし、これに限らず、露光階調数は64より多くても少なくてもよい。また、ジョブの種別(コピー、プリント、ファクシミリ)に応じて一つの階調再現方法のみを用いる場合には、他の階調再現方法に係るカウント値を記憶する領域を省略することができる。
【0034】
用紙に印刷される1画像分のトナー消費量(Q)は、カウントテーブルCTに格納された複数個のカウント値(N1〜Nx)のそれぞれに1画素分のトナー付着量(q1〜qx)を乗じて得られる積を足し合わせた総和(N11+N2q2…Nx-1x-1+Nxx)である。1画素分のトナー付着量は、別個にカウントされる画素の種別ごとに定められる。詳しくは、1画素分のトナー付着量は、画素値別かつエッジ属性別(エッジ画素か非エッジ画素か)に応じて予め定められた基本トナー付着量に、印刷時の動作環境および積算稼動量を反映させる補正係数を乗じた積である。この補正係数は、予め図6および図7に示される特性を踏まえて実験または計算により定められ、係数テーブルT1,T2,T3のデータとしてエンジンコントローラー80が保有している。
【0035】
図9に示される係数テーブルT1は、ラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kの生成に際して誤差拡散法を適用する場合の補正係数を有している。図示では大半が省略されているが、合計1152個の補正係数が記憶されている。0から63までの64個の画素値ごとにエッジ画素と非エッジ画素とに分類された128個の画素種別のそれぞれに対して、動作環境による3通りの場合分けがなされ、その各場合がさらに積算稼動量によって3通りに場合分けされている。
【0036】
図10に示される係数テーブルT2は、ラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kの生成に際してスクリーン処理を適用する場合の補正係数を有している。図示では大半が省略されているが、係数テーブルT2においても合計1152個の補正係数が記憶されている。
【0037】
図11に示される係数テーブルT3は、ラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kの生成に際して2値化を適用する場合の補正係数を有している。2値化では画素値は区別されず、エッジ画素と非エッジ画素とに分類された2個の画素種別のそれぞれに対して、動作環境による3通りの場合分けがなされ、その各場合がさらに積算稼動量によって3通りに場合分けされている。係数テーブルT2には合計18個の補正係数が記憶されている。
【0038】
なお、係数テーブルT1,T2,T3のそれぞれにおいて、多数の補正係数の中に同じ値の補正係数が含まれる場合がある。また、係数テーブルT1,T2,T3の互いの間で、部分的に補正係数の値が共通する場合があるし共通でない場合もある。
【0039】
図12はトナー消費量を算出する処理の流れを示している。
【0040】
エンジンコントローラー80のCPU81は、メインコントローラー60から送られてくる画像データを取り込む(S10)。すなわち、カラー印刷の場合はラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kを取り込み、モノクロ印刷の場合は印刷色(一般にブラック)のラスター画像を取り込む。そして、CPU81は、取り込んだラスター画像の各画素がエッジ画素か非エッジ画素かをエッジ属性情報DEy,DEm,DEc,DEkに基づいて判別し(S11)、エッジ画素と非エッジ画素とを区別して画素値別に画素数をカウントする(S12)。カウントテーブルCTはこのとき用いられる。これらステップS11,S12を実行するとき、CPU81は計数部として動作する。
【0041】
次に、CPU81は、メインコントローラー60から通知されるジョブ種別に基づいて、
ラスター画像の生成に適用された階調再現方法を判別する(S13)。続けて、CPU81は、温湿度センサー52の出力を取り込んで現在の動作環境が上述した3種の環境のいずれに該当するかを判別し(S14)、不揮発性メモリ91,92,93,94に記憶されている耐久情報としての積算稼動量DUの値が上述した3種の範囲(少、中、多)のいずれに該当するかを判別する(S15)。ステップS14の動作が環境判別部としての動作であり、ステップS15の動作が稼動状況判別部としての動作である。
【0042】
ステップS13〜S15で判別した階調再現方法と動作環境と積算稼動量の範囲とに応じて、CPU81は係数テーブルT1,T2,T3から画素値別かつエッジ属性別の画素数の各カウント値に該当する補正係数を選出する(S16)。そして、CPU81は、各画素数のカウント値とそれに該当する1画素当たりの基本トナー付着量と選出した補正係数とを乗じ、得られた積を足し合わせて1画像当たりのトナー消費量を求める(S17)。
【0043】
図13、図14および図15はトナー消費量の算出の第1変形例において用いられる係数テーブルT1b,T2b,T3bを示している。これら係数テーブルT1b,T2b,T3bは、トナー消費量の算出において積算稼動量による場合分けをしないトナー消費量の算出を行う際に用いられる。トナーの付着に対する積算稼動量の影響が軽微であれば、積算稼動量による場合分けを省略することができる。
【0044】
図13の係数テーブルT1bはラスター画像D4y,D4m,D4c,D4kの生成に際して誤差拡散法を適用する場合の補正係数を有し、図14の係数テーブルT2bはスクリーン処理を適用する場合の補正係数を有している。係数テーブルT1b、T2bでは、0から63までの64個の画素値ごとにエッジ画素と非エッジ画素とに分類された128個の画素種別のそれぞれに対して、動作環境による3通りの場合分けがなされ、各係数テーブルT1b、T2bにそれぞれ384個の補正係数が記憶されている。図15の係数テーブルT3bは、2値化が適用される場合の補正係数を有している。係数テーブルT3bでは、エッジ画素と非エッジ画素とに分類された2個の画素種別のそれぞれに対して、動作環境による3通りの場合分けがなされ、合計6個の補正係数が記憶されている。
【0045】
図16および図17はトナー消費量の算出の第2変形例において用いられる係数テーブルT1c,T3cを示している。第2変形例は、「誤差拡散法を適用する場合には非エッジ画素のトナー付着に対する動作環境の影響が小さく、かつ2値化を適用する場合には動作環境の影響が小さい」という傾向の見られる状況に適している。影響の小さい画素種別に対して動作環境による場合分けを省略して補正計数の数を低減し、それによって係数テーブルT1c,T3cのデータ量を削減することができる。すなわち、図16の係数テーブルT1cは、誤差拡散法により生成されるラスター画像に適用される係数テーブルであって、エッジ属性の画素については画素値別かつ動作環境別かつ稼動量範囲別に定められた補正係数を示し、非エッジ属性の画素については画素値別かつ稼動量範囲別に定められ動作環境別には定められていない補正係数を示す。また、図17の係数テーブルT3cは、2値化より生成されるラスター画像に適用される係数テーブルであって、エッジ属性の画素および非エッジ画素について画素値別かつ稼動量範囲別に定められ動作環境別には定められていない補正係数を示す。
【0046】
以上の実施形態によれば、動作環境に応じた補正係数を用いてより正確にトナー消費量が算出され、その算出結果に基づいてトナー補給が行われるので、現像器内のトナー濃度を安定させることができる。積算トナー消費量の誤差を小さくし、ユーザーに対する積算トナー消費量に基づいたメッセージ表示の信頼性を高めることができる。すなわち、用紙に対する面積率が標準値よりも小さい画像ばかりを印刷しているにもかかわらず、積算印刷枚数がトナーカートリッジの耐用印刷枚数を超えない時点でトナーカートリッジの交換を求める、というユーザーにとって不都合な状況の発生を防ぐことができる。
【0047】
上述の実施形態では、係数テーブルT1,T2,T3,T1b,T2b,T3b,T1c,T3cの示す補正係数を基本トナー付着量に乗じて1画素当たりのトナー付着量を算出するものとして説明したが、予め計算しておいたトナー付着量を係数として係数テーブルT1,T2,T3,T1b,T2b,T3b,T1c,T3cに格納しておき、この係数を画素数のカウント値に乗じ、得られた積の総和を1画像当たりのトナー消費量として計算するようにしてもよい。
【0048】
係数テーブルT1,T2,T3,T1b,T2b,T3b,T1c,T3cを4色に共通に適用するものとして説明したが、4色の間でトナー付着特性に顕著な差異がある場合には、4色のそれぞれに対して係数テーブルT1,T2,T3,T1b,T2b,T3b,T1c,T3cを用意してもよい。トナー付着特性の似通った色について補正係数を共通化して、残りの色について個別に補正係数を定めてもよい。
【0049】
動作環境の区分の数は例示の3に限らず、2以上であればよい。積算稼動量の区分の数も例示の3に限らず、2以上であればよい。
【符号の説明】
【0050】
1 画像形成装置
D4y,D4m,D4c,D4k ラスター画像(画像データ)
81 CPU(計数部、環境判別部、算出部、稼動状況判別部)
52 温湿度センサー
70 プリンターコントローラー(画像生成部)
T1,T2,T3,T1b,T2b,T3b,T1c,T3c 係数テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに対応したトナー像を形成する画像形成装置であって、
画素値別かつ前記画像データに付加された属性情報によって示されるエッジ属性の画素と非エッジ属性の画素とを区別する属性別に、前記画像データの画素の数を計数する計数部と、
温度および湿度の少なくとも一方を検出するセンサーの出力に基づいて、現在の動作環境が予め分類された複数の環境のいずれであるかを判別する環境判別部と、
前記計数部によって計数された画素値別かつ属性別の画素の数と、前記環境判別部によって判別された環境に適合する画素値別かつ属性別に定められた係数とに基づいて、画素値別かつ属性別のトナー消費量を算出し、得られたトナー消費量の総和を前記トナー像の形成におけるトナー消費量として計算する算出部と、を備える
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
当該画像形成装置において記録される積算稼動量が予め定められた複数の稼動量範囲のいずれに該当するかを判別する稼動状況判別部をさらに備え、
前記算出部は、前記計数部によって計数された画素値別かつ属性別の画素の数と、前記環境判別部によって判別された環境に適合しかつ前記稼動状況判別部によって判別された稼動量範囲に適合する画素値別かつ属性別に定められた係数とに基づいて、画素値別かつ属性別のトナー消費量を算出し、得られたトナー消費量の総和を前記トナー像の形成におけるトナー消費量として計算する
請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
複数の階調再現方法のいずれかを画像全体に対して一律にまたは画像内の領域ごとに適用して前記画像データを生成する画像生成部をさらに備え、
前記計数部は、画素値別かつ属性別かつ適用された階調再現方法別に前記画像データの画素の数を計数し、
前記算出部は、前記計数部によって計数された画素値別かつ属性別かつ階調再現方法別の画素の数と、前記環境判別部によって判別された環境に適合しかつ前記稼動状況判別部によって判別された稼動量範囲に適合する画素値別かつ属性別かつ階調再現方法別に定められた係数とに基づいて、画素値別かつ属性別かつ階調再現方法別のトナー消費量を算出し、得られたトナー消費量の総和を前記トナー像の形成におけるトナー消費量として計算する
請求項2記載の画像形成装置。
【請求項4】
階調再現方法別かつ画素値別かつ属性別かつ環境別かつ稼動量範囲別に定められた係数を示すテーブルを有し、
前記算出部は、前記環境判別部によって判別された環境と前記稼動状況判別部によって判別された稼動量範囲とに該当する係数を前記テーブルから抽出して、画素値別かつ属性別かつ階調再現方法別の前記トナー消費量の算出に用いる
請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記複数の階調再現方法のうちの一つが誤差拡散法であり、
前記テーブルは、誤差拡散法が適用されるエッジ属性の画素について、画素値別かつ環境別かつ稼動量範囲別に定められた係数を示し、誤差拡散法が適用される非エッジ属性の画素については、画素値別かつ稼動量範囲別に定められ環境別には定められていない係数を示す
請求項4記載の画像形成装置。
【請求項6】
画像データに対応したトナー像を形成する画像形成装置におけるトナー消費量の算出方法であって、
前記画像データの取り得る画素値別かつ前記画像データに付加された属性情報が示すエッジ属性の画素と非エッジ属性の画素とを区別する属性別に、前記画像データの画素の数を計数し、
温度および湿度の少なくとも一方を検出するセンサーの出力に基づいて、現在の動作環境が予め分類された複数の環境のいずれであるかを判別し、
計数された画素値別かつ属性別の画素の数と、画素値別かつ属性別に定められかつ判別された環境に適合する係数とに基づいて、画素値別かつ属性別のトナー消費量を算出し、得られたトナー消費量の総和を前記トナー像の形成におけるトナー消費量として計算する
ことを特徴とするトナー消費量の算出方法。
【請求項7】
画像形成の動作速度の切替えが可能な電子写真式の画像形成装置におけるトナー消費量を算出するコンピューターによって実行されるコンピュータープログラムであって、
画素値別かつ前記画像データに付加された属性情報によって示されるエッジ属性の画素と非エッジ属性の画素とを区別する属性別に、前記画像データの画素の数を計数する計数処理と、
温度および湿度の少なくとも一方を検出するセンサーの出力に基づいて、現在の動作環境が予め分類された複数の環境のいずれであるかを判別する環境判別処理と、
前記計数処理によって計数された画素値別かつ属性別の画素の数と、前記環境判別処理によって判別された環境に適合する画素値別かつ属性別に定められた係数とに基づいて、画素値別かつ属性別のトナー消費量を算出し、得られたトナー消費量の総和を前記トナー像の形成におけるトナー消費量として計算する算出処理とを、前記コンピューターに実行させる
ことを特徴とするコンピュータープログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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