説明

画像形成装置およびその制御方法

【課題】用紙に張力が付与されることで生じる搬送精度の低下を抑制しながら、用紙に発生した斜行を補正することができる画像形成装置、およびその制御方法を提供する。
【解決手段】用紙がロール状に巻かれたロール紙を回転駆動する給紙モータ19と、ロール紙から引き出された用紙を所定方向に搬送する搬送ローラと、搬送ローラを回転駆動する搬送モータ24と、給紙モータ19および搬送モータ24の駆動を制御するモータ制御部100と、搬送ローラによって搬送される用紙の所定方向に対する斜行量を検知する斜行検知手段13と、を有し、モータ制御部100は、用紙が搬送される際に、斜行検知手段13によって検知された斜行量に基づいて、給紙モータ19および搬送モータ24の少なくとも一方の駆動を制御して、搬送ローラとロール紙との間の用紙に付与する張力を調節することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール紙を回転駆動する駆動源を備えた画像形成装置、およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の中には、用紙サイズがA2以上の大判の用紙を用いるタイプがある。このようなタイプの画像形成装置(大判プリンタ)では、多くの場合、単票紙以外にロール紙(以下、用紙がロール状に巻かれた部分を「ロール体」とし、ロール体から引き出された部分を「シート体」とする)が利用されている。ロール体からのシート体の引き出しは、用紙搬送ローラによって行われている。しかしながら、大判プリンタで使用されるロール体は重量が重いため、ロール体から引き出されるときに用紙にかかる負荷は大きなものとなる。そのため、用紙搬送ローラを駆動する搬送モータの駆動力のみでは、用紙が破断するなどの不具合が発生する可能性がある。そこで、ロール体を回転駆動するためのロールモータを備え、搬送モータと共にロールモータが作動して用紙を搬送させる画像形成装置が開発されている。
【0003】
この種の画像形成装置として、特許文献1に開示されたものが知られている。この装置は、用紙が間欠搬送されるタイプの画像形成装置であり、ロールモータ(第1モータ)と、用紙搬送ローラ(搬送駆動ローラ)と、搬送モータ(第2モータ)とを備えている。さらに、この画像形成装置は、シート体に作用するテンションを測定するテンション測定手段と、テンションの測定結果に基づいて、第1および第2モータの少なくとも一方の駆動を制御するモータ制御部とを備えている。この構成によれば、テンション測定手段によってテンションが精度良く測定され、それに基づいて、モータがフィードバック制御され用紙の送り量が決定されている。これにより、シート体に作用するテンションを適切な量に制御することができ、ロール体の巻径の変化によるテンションの変動を防ぐことができる。
【0004】
これと異なる構成を有する画像形成装置として、特許文献2に開示されたものが知られている。この画像形成装置は、用紙搬送ローラ(紙送りローラ)と、搬送モータ(紙送りモータ)とを備えている。さらに、この画像形成装置は、ロール体の外周面に当接可能な位置に配置された繰り出しローラと、繰り出しローラを回転駆動するための繰り出しモータと、印字時間および搬送時間を利用して繰り出しローラを回転させる制御部とを備えている。この構成によれば、紙送りローラによる紙送り動作終了から次の紙送り動作開始までの間に、繰り出しローラが回転して、紙送りローラによる紙送り動作に必要な紙送り量に対応する量だけロール体を送り方向に回転させる。これにより、ロール体と紙送りロータとの間のシート体が常に弛みのある状態に保たれ、ロール体の慣性負荷の影響を受けずに搬送精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−263044号公報
【特許文献2】特開2007−203564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の画像形成装置では、シート体に常にテンション(張力)が付与された状態となるため、この張力によって、搬送駆動ローラ上で用紙が滑ってしまう(つまり搬送駆動ローラが空回りしてしまう)場合がある。その場合、制御部から指令された送り量より実際の送り量が少なくなり、搬送精度に影響を与える虞がある。それに対して、特許文献2に記載の画像形成装置では、ロール体と紙送りローラとの間のシート体には張力が全くかかっていないため、実際の送り量が少なくなることはない。
【0007】
一方、ユーザによる用紙のセット不良などに起因して、シート体が所定方向に対して斜めに搬送される斜行(スキュー)が発生する場合がある。この斜行を防止するために、ロール体に対して、ロールモータの制御による負荷や、ロール体の軸芯部分に係合されたトルクリミッタなどによる負荷を与える方法が用いられている。この負荷によりシート体に対して搬送方向と反対方向にバックテンションが付与されると、バックテンションと搬送力とによって、シート体の斜行が補正され、シワの発生が防止されるようになっている。しかしながら、特許文献2に記載の画像形成装置の構成では、そのような負荷を与えることはできず、バックテンションが付与されることもない。そのため、シート体に斜行が発生した場合には、その補正が困難になるという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、用紙に張力が付与されることで生じる搬送精度の低下を抑制できるだけでなく、用紙に発生した斜行を補正することもできる画像形成装置、およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の画像形成装置は、用紙がロール状に巻かれたロール紙を回転駆動する給紙モータと、ロール紙から引き出された用紙を所定方向に搬送する搬送ローラと、搬送ローラを回転駆動する搬送モータと、給紙モータおよび搬送モータの駆動を制御するモータ制御部と、搬送ローラによって搬送される用紙の所定方向に対する斜行量を検知する斜行検知手段と、を有し、モータ制御部は、用紙が搬送される際に、斜行検知手段によって検知された斜行量に基づいて、給紙モータおよび搬送モータの少なくとも一方の駆動を制御して、搬送ローラとロール紙との間の用紙に付与する張力を調節することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の画像形成装置の制御方法は、用紙がロール状に巻かれたロール紙から用紙を引き出して、搬送ローラに給紙する工程と、ロール紙と共に搬送ローラを回転駆動させ、用紙を所定方向に搬送する工程と、搬送ローラによって搬送される用紙の所定方向に対する斜行量を検知する工程と、斜行量を検知する工程で検知された斜行量に基づいて、ロール紙および搬送ローラの少なくとも一方の回転駆動を制御して、ロール紙と搬送ローラとの間の用紙に付与する張力を調節する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、用紙に張力が付与されることで生じる搬送精度の低下を抑制できるだけでなく、用紙に発生した斜行を補正することもできる画像形成装置、およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示す概略側面図である。
【図3】ロール体を保持するスプールユニットの分解斜視図である。
【図4】図3のスプールユニットの駆動伝達構造を示す部分拡大平面図である。
【図5】搬送モータの駆動伝達構造を示す部分拡大平面図である。
【図6】制御部の構成を示すブロック図である。
【図7】用紙搬送速度と用紙の弛みとの関係を説明するための図である。
【図8】第1の制御モードでの用紙搬送速度と用紙の弛み量とを示すグラフである。
【図9】第2の制御モードでの用紙搬送速度と用紙の弛み量とを示すグラフである。
【図10】斜行状態で搬送されているシート体を示す概略平面図である。
【図11】用紙の斜行量と制御モードとの関係を示す図である。
【図12】本発明の画像形成装置の印字動作の一例を示すフローチャートである。
【図13】本発明の画像形成装置の印字動作の一例を示すフローチャートである。
【図14】本発明の画像形成装置の印字動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1および図2は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を概略的に示す斜視図および側面図である。なお、本実施形態の画像形成装置は、大きな用紙サイズ、例えばJIS規格のA2以上の用紙サイズを有する用紙を印刷するための画像形成装置である。
【0015】
画像形成装置1は、記録ヘッド2と、記録ヘッド2を搭載したキャリッジ3とを備えている。キャリッジ3は、キャリッジシャフト4によって、キャリッジシャフト4に沿って主走査方向D1に往復移動できるように支持されている。キャリッジ3の側面には、キャリッジ3に対向する用紙の有無を検出し、それによって用紙端位置を検出可能な用紙センサ13が設けられている。すなわち、キャリッジ3を往復移動させることで、用紙センサ13によって用紙の主走査方向D1の幅を検出することができる。また、主走査方向D1と交差する搬送方向D2に用紙を所定量(例えば300mm)搬送させ、用紙端位置の変動を検出することで、用紙が所定方向(ここでは搬送方向D2)に対して斜めに搬送される斜行の発生を検知することができる。
【0016】
用紙は、ロール状に巻かれたロール体6aとして準備され、画像形成装置1の給紙部28に対して回転可能に設置されている。すなわち、画像形成装置1は、ロール体6aを保持するスプールユニット(図1および図2には一部のみ図示)と、スプールユニットを回転駆動するロールモータ(給紙モータ、図1および図2には図示せず)とを有している。図3は、ロール体6aを給紙部28に回転可能に取り付けるスプールユニットを示す分解斜視図であり、図4は、スプールユニットとロールモータとの駆動伝達構造を示す部分拡大平面図である。なお、以下の説明でも、上述したように、用紙がロール状に巻かれた部分をロール体6aとし、ロール体6aから引き出される部分をシート体6bとする。
【0017】
図3に示すように、スプールユニット16は、スプール軸5と、スプール軸5に固定された基準側フランジ部材27aと、スプール軸5の先端に装着可能な非基準側フランジ部材27とを有している。スプールユニット16は、ロール体6aの芯である中空の紙管15にスプール軸5を差し込むことで、基準側フランジ部材27aによってロール体6aの一方の端部を保持することができる。また、ロール体6aの他方の端部側からスプール軸5の先端に非基準側フランジ部材27bを装着することで、ロール体6aの他方の端部も保持することができ、したがって、ロール体6aをスプールユニット16に保持することができる。
【0018】
スプールユニット16の基準側フランジ部材27aの端部には、ロールギア17が設けられている。ロールギア17は、図4に示すように、スプールユニット16に保持されたロール体6aが受け台(図示せず)にセットされた状態で、画像記録装置1に設けられたロール入力ギア18に接続されている。ロール入力ギア18はロールモータ19のギア19aと噛み合っており、これによりロールモータ19からスプールユニット16へ駆動伝達が行われる。また、画像形成装置1には、ロール入力ギア18に貼り付けられたエンコーダフィルム20の回転動作を検出するエンコーダセンサ21が設けられており、この検出結果に基づいてロールモータ19の駆動制御が行われる。この駆動制御は、後述するロールモータ制御部によって実行され、駆動モードとしては、主に、無負荷、所定力による励磁、ロール紙逆転駆動がある。所定力による励磁は、ロールのバックテンションと呼ばれるものであり、バックテンションを与えながら搬送することで、用紙セット時の斜行補正やたるみ取りを行うものである。なお、バックテンションの負荷調整は、ロールモータ19に流れる電流を調整し、ロールモータ19の発生トルクを制御することで行われる。
【0019】
さらに、画像形成装置1は、図2に示すように、対向するピンチローラ11と協働して、ロール体6aから引き出されたシート体6bを搬送する搬送ローラ10と、搬送ローラ10を回転駆動する搬送モータ24とを有している。図5は、搬送ローラ10とロールモータ24との駆動伝達構造を示す部分拡大平面図である。
【0020】
図5に示すように、搬送ローラ10の端部には搬送ロールギア22が設けられており、搬送ロールギア22は、画像記録装置1に設けられた搬送入力ギア23に接続されている。搬送入力ギア23は搬送モータ24のギア24aと噛み合っており、これにより搬送モータ24から搬送ローラ10へ駆動伝達が行われる。また、画像形成装置1には、搬送入力ギア23に貼り付けられたエンコーダフィルム25の回転動作を検出するエンコーダセンサ26が設けられており、この検出結果に基づいて搬送モータ24の駆動制御が行われる。この駆動制御は、後述する搬送モータ制御部によって実行される。
【0021】
ここで、再び図1および図2を参照して、ロール体6aから用紙が給紙され印字が完了するまでの一連の動作について簡単に説明する。まず、給紙部28に保持されたロール体6aからユーザによってシート体6bが引き出される。引き出されたシート体6bは、ユーザによってさらに搬送され、外ガイド7および内ガイド8から形成される搬送路を経由して、搬送ローラ10とそれに対向するピンチローラ11との間まで到達する。このとき、搬送ローラ10の下流側にある用紙検出手段(図示せず)によってシート体6bが検出される。シート体6bが検出されると、搬送ローラ10とピンチローラ11とによりシート体6bは挟持され、搬送ローラ10によって自動で繰り出されていく。そして、シート体6bは、搬送ローラ10とピンチローラ11に挟まれた状態で、記録ヘッド2と対向する記録位置に設けられたプラテン12まで搬送される。そこで、シート体6bは記録ヘッド2によって印字が行われながら、搬送ローラ10によって用紙カッター29の下まで搬送される。印字終了後、用紙カッター29によりカットされたシート体6aは、排紙カバー14上を滑り、排紙バスケット(図示せず)に収納される。
【0022】
上述したように、本実施形態では、ロールモータ19と搬送モータ24とは駆動制御が行われており、画像形成装置1は、そのためのモータ制御部を備えている。図6は、制御部とその周辺部の構成を示すブロック図である。モータ制御部100は、主制御部110と、ロールモータ制御部120と、搬送モータ制御部130とを有し、さらに、図示してはいないが、CPU、ROM、RAM、モータドライバ等も有している。主制御部110は、ロールモータ19と搬送モータ24との相関駆動を実現するために、ロールモータ制御部120と搬送モータ制御部130との両方に対して指令を与える役目を有している。主制御部110は、キャリッジ3を駆動するキャリッジモータ9と、キャリッジ3に設置された用紙センサ13とに接続されている。キャリッジ3と共に駆動される用紙センサ13の検知結果、すなわち用紙端位置の変動量が主制御部110にフィードバックされ、主制御部110によって用紙の斜行量が計算されるようになっている。ロールモータ制御部120は、2つの制御モード、すなわち第1の制御モードおよび第2の制御モードを有している。これらの制御モードの切り替えは、用紙センサ13で検知された用紙の斜行量に基づいて行われる。
【0023】
ここで、各制御モードにおける印字動作中の搬送ローラ10とロール体6aとの相関動作について説明する。本実施形態では、搬送ローラ10に対してロールモータ19の駆動を制御して、搬送ローラ10と同期させずにロール紙6aを回転駆動させることで、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bに付与する張力が調節されている。
【0024】
最初に、図7に基づいて、各制御モードでの動作を規定するパラメータを定義しておく。図7は、搬送ローラ10の用紙搬送速度およびロール体6aの紙送り速度と、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bに生じる弛みとの関係を表す図である。搬送ローラ10の用紙搬送速度(円周上の速度)をVlf、ロール体6aの紙送り速度(円周上の速度)をVrollとし、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bの搬送速度およびそれにかかる張力をそれぞれVpapおよびTpapとする。これらの値は図中矢印の方向を正とし、以下の説明では、この方向を基準とする。ここで、シート体6bの搬送速度は搬送ローラ10の速度で決定されるため、Vpap=Vlfである。また、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bの弛み量をSpapとする。シート体6bの弛み量Spapは、弛みがない状態を0とし、弛んだ量の最大値を絶対値で表す。
【0025】
まず、図8を参照して、第1の制御モードにおける印字動作中の搬送ローラ10とロール体6aとの相関動作について説明する。図8は、第1の制御モードおける、搬送ローラ10の用紙搬送速度Vlfと、ロール体6aの紙送り速度Vrollと、シート体6bの弛み量Spapとを示すグラフである。図には、上からそれぞれ、搬送ローラ10の用紙搬送速度Vlf、ロール体6aの紙送り速度Vroll、およびシート体6bの弛み量Spapが、時間を横軸として示されている。
【0026】
搬送ローラ10の用紙搬送速度Vlfの波形は、加速領域(時刻t2−t3)と、定速領域(時刻t3−t4)と、減速領域(時刻t4−t5)とから構成される。ロール体6aは、搬送ローラ10の動作開始前の時刻t1に紙送り方向へ動作させられ、これにより、シート体6bに弛みが発生する。シート体6bの弛みは、ロール体6aの紙送り速度Vrollと搬送ローラ10の用紙搬送速度Vlfとの差によって生じ、したがって、ロール体6aの紙送り動作の開始時刻t1から搬送ローラ10の加速が終了する時刻t3までの間に形成される。すなわち、弛み量Spapは、時刻t1から時刻t3まで増加する。搬送ローラ10の加速が終了し、定速領域および減速領域に入ると、ロール体6aは搬送ローラ10に追従する用紙搬送速度(Vlf=Vroll)で動作するため、弛み量Spapは一定に保たれる。ここで、弛み量Spapは、搬送ローラ10の用紙搬送動作に影響のない必要最低限の量であれば十分である。
【0027】
搬送ローラ10の動作終了後には、ロール体6aの紙送り方向とは逆方向にロールモータ19が回転して、シート体6bの弛み量Spapが0になるまで、すなわち時刻t5から時刻t6まで弛み取りが行われる。シート体6bの弛み取りは、搬送ローラ10の動作終了時刻t5から次のロール体6aの紙送り動作開始時刻t1’までの間に完了するようにする。以上の動作は、搬送ローラ10によって用紙が間欠搬送されるたびに、毎回実施される。
【0028】
以上のように、第1の制御モードでは、搬送ローラ10の用紙搬送動作の間(時刻t2−t5)、弛み量がSpap>0となる。すなわち、Spap>0となる期間では、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bには弛みが発生しており、そのシート体6bにかかる張力はTpap=0となる。これにより、第1の制御モードでは、ロール紙の種類や、幅サイズ、巻径の影響を受けることがなく、高精度な、搬送ローラ10による用紙搬送動作が可能となる。
【0029】
なお、本実施形態では、ロール体6aの紙送り動作開始(時刻t1)を搬送ローラの用紙搬送動作開始(時刻t2)よりも早めることで、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bに弛みを生じさせている。こうして、本実施形態の第1の制御モードでは、用紙搬送動作中(時刻t2−t5)にシート体6bにかかる張力Tpapが0になるように制御されているが、これを実現する他の制御方法があれば、それらを第1の制御モードとすることもできる。例えば、ロール体6aの紙送り速度Vrollを搬送ローラ10の用紙搬送速度Vlfより速くしたり、印字前にシート体6bに弛みを生じさせ、その弛み量を常に持続させたりする方法を用いることもできる。
【0030】
次に、図9を参照して、第2の制御モードにおける印字動作中の搬送ローラ10とロール体6aの相関動作について説明する。図9は、第2の制御モードにおける、搬送ローラ10の用紙搬送速度Vlfと、ロール体6aの紙送り速度Vrollと、シート体6bの弛み量Spapとを示すグラフであり、図8に対応する図である。
【0031】
搬送ローラ10の搬送速度Vlfの波形は、第1の制御モードと同様に、加速領域(時刻t1−t3)と、定速領域(時刻t3−t4)と、減速領域(時刻t4−t5)とから構成される。一方で、ロール体6aは、第1の制御モードと異なり、搬送ローラ10の動作開始時刻t1と同時刻に紙送り方向へ動作させられる。これに加えて、ロール体6aの加速度は一定ではなく、回転初期には搬送ローラ10の加速度よりも小さく、その後上回るようになる。その結果、加速領域の時刻t1−t2では、搬送ローラの用紙搬送速度がロール体6aの紙送り速度よりも大きくなる(Vlf>Vroll)ため、弛み量がSpap=0であるばかりでなく、シート体6bにかかる張力(バックテンション)がTpap>0となる。それにより、シート体6bに斜行が発生していた場合は、このタイミングで斜行補正が行われる。その後、加速領域の時刻t2−t3では、ロール体6aの紙送り速度が搬送ローラの用紙搬送速度よりも大きくなる(Vlf<Vroll)ため、弛み量がSpap>0となる。搬送ローラ10の加速が終了し、定速領域および減速領域に入った以降の動作は、第1の制御モードと同様である。
【0032】
ここで、図10を参照して、第2の制御モードにおいてシート体6bの斜行が補正されるメカニズムについて説明する。図10は、斜行状態で搬送されているシート体6bの様子を示す概略平面図である。図10(a)には、搬送ローラ10およびピンチローラ(図10には図示せず)によって付与される搬送力Hと、バックテンションBとが示されており、図10(b)には、図10(a)に示す2つの力H,Bを合成した有効搬送力Fが示されている。
【0033】
図10(a)に示すように、シート体6bがP2側に斜行した状態で搬送されているとき、シート体6bは、P1側に張りがあって、P2側に弛みがある状態となる。そのため、バックテンションBは、幅方向に分布を生じ、すなわちP1側で強く、P2側で弱くなる。一方、搬送ローラ10(およびピンチローラ)によって発生する搬送力Hは、斜行の有無に関わらず、幅方向で一様になる。そのため、搬送力HとバックテンションBとを合成した、シート体6bの実際の搬送に寄与する有効搬送力Fは、図10(b)に示すように、P2側で強く、P1側で弱くなる。これにより、P2側の弛みが相対的に大きな有効搬送力Fによって解消されるように、シート体6bの斜行が補正されることになる。つまり、斜行補正の効果は、バックテンションの大きさ、およびP2側とP1側とのバックテンションの差が大きくなるほど、また、搬送ローラ10(およびピンチローラ)による搬送力Hが小さくなるほど、大きいことになる。
【0034】
なお、ユーザが斜行を気にせずに用紙をセットした際に生じる可能性のある、許容を超える斜行を検知した場合には、斜行によって画像にスジが入るなど、画像不良が発生する虞があるため、斜行補正ではなく、再給紙を行う必要がある。しかしながら、再給紙を行うと印字が中断され、画像の出力までに時間がかかるというデメリットがあるため、できるだけ、第2の制御モードのような、印字中の斜行補正を行うことが望ましい。
【0035】
以上のように、第2の制御モードでは、搬送ローラ10の用紙搬送動作の初期(時刻t1−t2)において、弛み量がSpap=0となるとともに、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bにかかる張力(バックテンション)はTpap>0となる。これにより、シート体6bに斜行が生じた場合でも、印字動作を行いながら斜行の補正を行うことが可能となる。
【0036】
なお、本実施形態では、ロール体6aの運動の加速度を変化させることで、搬送ローラ10とロール体6aとの間のシート体6bに一時的に張りを生じさせている。こうして、本実施形態の第2の制御モードでは、用紙搬送動作の初期(時刻t1−t2)にシート体6bにかかる張力がTpap>0となるように制御されているが、これを実現する他の制御方法があれば、それらを第2の制御モードとすることもできる。例えば、搬送ローラ10の用紙搬送動作開始をロール体6bの紙送り動作開始より早めたり、搬送ローラ10の用紙搬送速度Vlfを常にロール体6aの紙送り速度Vrollより速くしたりする方法を用いることもできる。
【0037】
上述した各制御モードの切り替えは、上述したように、用紙センサ13による用紙の斜行量の検知結果に基づいて行われる。ここでは、用紙の斜行が検知されてから制御モードが選択されて印字が行われるまでの印字動作制御について説明する。
【0038】
図11は、用紙センサ13による斜行検知結果と、ロールモータ制御部120の制御モードとの関係を示す図である。ロールモータ制御部120は、斜行量が所定値以下であるか、あるいは所定値以上であるかによって、各制御モードを切り替えるようになっている。すなわち、斜行量がob1以下の場合には第1の制御モードが、斜行量がob1とob2との間の場合には第2の制御モードがそれぞれ選択される。また、搬送力HやバックテンションBには限界があるため、上述したように、印字中に補正できる斜行量にもある程度の限界がある。そのため、斜行量がob2以上の場合には、再給紙が行われる。第1および第2の制御モードが選択された場合、印字動作は続行されるが、再給紙となった場合には、印字動作は停止され、オペレーションパネル上に再給紙の表示が行われて、ユーザに再給紙が指示される。
【0039】
図12から図14は、本実施形態の画像形成装置で実施可能ないくつかの印字動作制御を示すフローチャートである。
【0040】
図12に示すフローチャートは、用紙に所定の画像が形成されて(印字が行われて)排紙され、新たな用紙が給紙されるごとに斜行量の検知が行われる印字動作制御(以下、「用紙枚数毎制御」とする)を示している。用紙枚数毎制御では、まず、ステップS01〜S02において、用紙(シート体6b)が給紙され、用紙センサ13で斜行量が検知される。その後、ステップS03〜S07において、第1および第2の制御モードでの印字動作、あるいは再給紙指示のいずれかが行われる。すなわち、斜行量がob1以下であれば、第1の制御モードで印字が行われ(ステップS03〜S04)、斜行量がob1とob2との間であれば、第2の制御モードで印字が行われる(ステップS05〜S06)。また、斜行量がob2以上であれば、印字動作は停止され、再給紙の指示が行われる(ステップS07)。それぞれの制御モードで印字(画像形成)が行われ、ステップS08において、1枚目の用紙への印字が終了する(1枚目の用紙が排紙される)と、ステップS09において、2枚目の用紙への印字が行われるかどうかの判断がなされる。2枚目の用紙への印字が行われる場合、再びステップS01から、1枚目の用紙と同様の印字動作が行われる。
【0041】
これにより、用紙セット不良などのために1枚目の用紙が大きく斜行していた(例えば、斜行量がob1とob2との間であった)としても、2枚目以降の用紙からは、高精度で用紙を搬送することも可能となる。すなわち、1枚目の用紙に対して第2の制御モードで印字動作を行うことで、用紙の斜行が補正され、2枚目の用紙の斜行量がob1以下になっていれば、2枚目以降の用紙からはバックテンションによる搬送誤差のない第1の制御モードで搬送することができる。また逆に、第1の制御モードでの印字動作中に外乱などによる影響で用紙が大きく斜行した(斜行量がob1とob2との間に増加した)場合であっても、その次の用紙から、斜行の補正を行う第2の制御モードで印字動作を行うことができる。
【0042】
図13に示すフローチャートは、用紙が一定距離搬送されて印字が行われるごとに斜行量の検知が行われる印字動作制御(以下、「印字長さ毎制御」とする)を示している。印字長さ毎制御では、用紙枚数毎制御と同様に、ステップS11〜S12において、用紙(シート体6b)が給紙され、斜行量が検知されると、ステップS13において、検知回数n=1がカウントされる。その後、用紙枚数毎制御と同様に、ステップS14〜S18において、第1および第2の制御モードでの印字動作、あるいは再給紙指示のいずれかが行われる。このとき、第1および第2の制御モードでの印字動作では、ステップS19において、検知間隔X(例えばX=1200mm)と検知回数nとの積が、印刷すべき印字長さLと比較される。検知間隔Xと検知回数nとの積が印字長さLよりも短い場合、ステップS20〜S21において、検知間隔Xだけ印字が行われた後、斜行検知が行われる。次に、ステップS22において、検知回数nのカウントが1だけ増やされ、再びステップS14から、ステップS21での検知結果に基づいた制御モードの決定が行われる。その後、検知間隔Xと検知回数nとの積が印刷すべき印字長さLより小さい間は、上記ステップが繰り返される。そして、ステップS19で検知間隔Xと検知回数nとの積が印刷すべき印字長さLより大きくなった時点で、ステップS23において印字長さLまで印字が行われ、印字が終了する。用紙ごとにではなく一定の搬送距離ごとに斜行検知および制御モードの決定が行われるため、バナー印刷のような印字物長さが長い場合(例えば10mなど)でも、常に最適な制御モードを保つことができ、良好な搬送精度で印字動作を行うことができる。
【0043】
図14に示すフローチャートは、印字物長さ(形成する画像の搬送方向の長さ)に基づいて、図12に示す用紙枚数毎制御か、図13に示す印字長さ毎制御かのいずれかが選択される印字動作制御を示している。この印字動作制御では、印字が開始される前に、ステップS31において、外部から取り込まれた印字情報の中から印字物長さYが読み取られる。この印字物長さYが、ステップS32において、所定の印字長さL(例えばL=1200mm)と比較され、短い場合には、図12に示す印字枚数毎制御が選択される(ステップS33)。一方、印字物長さYが所定の印字長さLよりも長い場合には、図13に示す印字長さ毎制御が選択される(ステップS34)。その後、ステップS35〜S36において、選択された印字動作制御に基づいて、印字動作が行われる。これにより、印字物長さに応じた最適な印字動作制御を選択することが可能となる。
【0044】
以上のように、本実施形態の画像形成装置では、検知された用紙の斜行量に応じて、用紙に張力(バックテンション)を付与するか否かを調節することができる。すなわち、斜行量が大きい場合には、用紙を搬送する際に用紙に張力を付与することで、その斜行を補正することができ、斜行量が小さい場合には、張力を付与せずに用紙を搬送することで、高精度な用紙搬送動作が可能となる。これにより、用紙に張力が付与されることで生じる搬送精度低下の抑制と、用紙セット不良などに起因して用紙に発生した斜行の補正とを両立することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
13 用紙センサ
19 給紙モータ
24 搬送モータ
100 モータ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙がロール状に巻かれたロール紙を回転駆動する給紙モータと、前記ロール紙から引き出された前記用紙を所定方向に搬送する搬送ローラと、該搬送ローラを回転駆動する搬送モータと、前記給紙モータおよび前記搬送モータの駆動を制御するモータ制御部と、を有する画像形成装置において、
前記搬送ローラによって搬送される前記用紙の前記所定方向に対する斜行量を検知する斜行検知手段を有し、
前記モータ制御部は、前記用紙が搬送される際に、前記斜行検知手段によって検知された前記斜行量に基づいて、前記給紙モータおよび前記搬送モータの少なくとも一方の駆動を制御して、前記搬送ローラと前記ロール紙との間の前記用紙に付与する張力を調節することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記モータ制御部は、前記用紙を搬送する際に前記搬送ローラと前記ロール紙との間の前記用紙に張力を付与する第1の制御モードと、前記搬送ローラと前記ロール紙との間の前記用紙に張力を付与しない状態で該用紙を搬送する第2の制御モードとを少なくとも備え、検知された前記斜行量に基づいて、前記各制御モードを切り替えることを特徴とする、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記モータ制御部は、検知された前記斜行量が所定値以上の場合には、前記第1の制御モードを選択し、検知された前記斜行量が前記所定値以下の場合には、前記第2の制御モードを選択することを特徴とする、請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記モータ制御部は、前記給紙モータの駆動を制御して、前記搬送ローラと同期させずに前記ロール紙を回転駆動させ、前記搬送ローラと前記ロール紙との間の前記用紙に付与する張力を調節することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記モータ制御部は、前記用紙に画像を形成するごとに、前記斜行検知手段に前記斜行量を検知させることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記モータ制御部は、前記用紙を一定距離搬送するごとに、前記斜行検知手段に前記斜行量を検知させることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記モータ制御部は、形成する画像の前記所定方向の長さに基づいて、前記用紙に前記画像を形成するごとに前記斜行検知手段に前記斜行量を検知させるか、前記用紙を一定距離搬送するごとに前記斜行検知手段に前記斜行量を検知させるかを選択することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
用紙がロール状に巻かれたロール紙から前記用紙を引き出して、搬送ローラに給紙する工程と、前記ロール紙と共に前記搬送ローラを回転駆動させ、前記用紙を所定方向に搬送する工程と、を含む画像形成装置の制御方法において、
前記搬送ローラによって搬送される前記用紙の前記所定方向に対する斜行量を検知する工程と、
前記斜行量を検知する工程で検知された前記斜行量に基づいて、前記ロール紙および前記搬送ローラの少なくとも一方の前記回転駆動を制御して、前記ロール紙と前記搬送ローラとの間の前記用紙に付与する張力を調節する工程と、を含むことを特徴とする画像形成装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−224413(P2012−224413A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91056(P2011−91056)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】