説明

画像形成装置

【課題】感光体の非接触帯電において、特定の個所で電荷のリークを起こすことなく、感光体の安定した帯電を行うことのできる非接触帯電の帯電ローラを提供する。
【解決手段】感光体に所定の帯電ギャップを置いて対向するように設けられて、感光体を非接触帯電する帯電ローラ3aは、芯金3c上に5〜50μmの導電性樹脂層3dが形成される。この導電性樹脂層3dは、イオン導電性樹脂であるバインダー樹脂3fに導電性酸化スズ(SnO2)の粒子3gが独立分散されて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真、静電複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられ、像担持体に対して所定の帯電ギャップを置いて、この像担持体を非接触帯電する帯電ローラの技術分野に関し、特に、金属シャフトの上に導電性樹脂層が形成された帯電ローラの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置として、像担持体に対して所定の帯電ギャップを置いて、この像担持体を非接触帯電する帯電ローラが知られている(例えば、特許文献1等参照)。この特許文献1に開示の帯電ローラは導電性芯金(金属シャフト)とその上に形成された導電性樹脂層とから成り、導電性樹脂層は熱可塑性樹脂に導電剤としてカーボンブラック(CB)を配合して構成されている。そして、カーボンブラック(CB)の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して5〜40重量部とされている。
【特許文献1】特開2005−17767号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、導電剤としてカーボンブラック(CB)を用いた場合、このカーボンブラック(CB)の配合量を多くすると帯電ローラの抵抗値が低くなるとともに、カーボンブラック(CB)が導電性樹脂層全体で繋がったチェーンストラクチャ−構造を形成する。このため、帯電ローラに一定の電圧を印加した場合に、帯電ローラの特定個所と感光体の特定個所との間で電荷のリークが起き、安定した帯電ができないという問題がある。
【0004】
また、逆にこのカーボンブラック(CB)の配合量を少なくすると、帯電ローラの抵抗値が高くなり過ぎて、帯電の時定数遅れが起こって絶対的な放電量が不足する状態となり、均一帯電を行うことができなくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、像担持体の非接触帯電において、特定の個所で電荷のリークを起こすことなく、像担持体の安定した帯電を行うことのできる非接触帯電の帯電ローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するために、請求項1の発明の帯電ローラは、金属シャフト上に5〜50μmの導電性樹脂層が形成されるとともに、この導電性樹脂層が像担持体に所定の帯電ギャップを置いて対向するように設けられて、前記像担持体を非接触帯電する帯電ローラにおいて、前記導電性樹脂層が、バインダー樹脂に導電性酸化スズ(SnO2)の粒子が独立分散されて構成されていることを特徴としている。
【0007】
また、請求項2の発明は、前記金属シャフト上の導電性樹脂層は2層以上の多層構造に形成されており、最内層から最外層に向かってバインダー樹脂に対する導電性酸化スズ(SnO2)の濃度が大きく設定されていることを特徴としている。
【0008】
更に、請求項3の発明は、前記多層構造の導電性樹脂層のうち、互いに隣接する層のバインダー樹脂がすべて同じ樹脂またはそれらの一部が同じ樹脂で構成されていることを特徴としている。
更に、請求項4の発明は、前記導電性樹脂層が、イオン導電性樹脂であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された本発明の帯電ローラによれば、導電剤として導電性SnO2を用いているので、導電剤として従来用いられているカーボンブラック(CB)の場合のような層内部でのチェーンストラクチャー構造が形成されないため、特定個所での電荷のリークが起こらない。したがって、安定した帯電を行うことができる。
【0010】
特に、請求項2および3の発明によれば、導電性樹脂層を2層以上の多層構造にするとともに、バインダー樹脂に対する添加された導電性SnO2の濃度を、内側層から外側層に向かって順次大きくなるように設定しているので、より外側の層の抵抗を低くできる。したがって、導電性樹脂層の全体において、放電を起こす最外層の導電性樹脂層までに電子の移動できる量が多くなるため、層自体が放電による破壊を起こし難くできる。これにより、長期的に安定した良好な帯電を行うことが可能となる。
【0011】
また、請求項3の発明によれば、導電性樹脂層を2層以上の多層構造にするとともに、互いに隣接する内側層と外側層とで、バインダー樹脂をすべて同じ樹脂でまたはそれらの一部が同じ樹脂で構成しているので、隣接する層間において少なくとも同じ樹脂であることからなじみやすくなり、隣接する層間の密着性を良好にできる。したがって、高電圧で高周波のバイアス電圧を印加される帯電ローラにおいても、長期的に安定した放電を行うことが可能となる。これにより、安定した良好な帯電をより確実に行うことができる。
【0012】
更に、請求項4の発明によれば、導電性樹脂層のバインダー樹脂をイオン導電性樹脂としてバインダー樹脂自体に導電性を持たせているので、導電性SnO2の添加量(濃度)を一定量に抑えることが可能となる。これにより、金属シャフト上に5〜50μmの薄膜の導電性樹脂層を形成しただけの帯電ローラであっても、長期的に安定した帯電を行うことが可能となるとともに、帯電ローラを低コストで製造することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明にかかる非接触帯電ローラの実施の形態の一例を備えた画像形成装置の一例を模式的にかつ部分的に示す図である。
【0014】
図1に示すように、この例の画像形成装置1は静電潜像およびトナー像が形成される像担持体である感光体2を備えているとともに、この感光体2の周囲に感光体2の回転方向(図1では、時計回り)上流側から、順次、帯電装置3、光書込み装置4、現像装置5、転写装置6、およびクリーニング装置7を備えている。
【0015】
帯電装置3は、本実施の形態の非接触の帯電ローラ3aおよび例えばローラ等からなるクリーニング部材3bを有している。そして、帯電ローラ3aにより感光体2を一様帯電するとともに、クリーニング部材3bにより帯電ローラ3aをクリーニングして帯電ローラ3aに付着するトナーやごみ等の異物を除去する。
【0016】
図2(a)および(b)に示すように、非接触の帯電ローラ3aは、芯金3cと、この芯金3cの帯電領域に対応する外周面に形成された樹脂の塗装部からなる導電性樹脂層3dと、この導電性樹脂層3dの両端部の外周面に設けられかつ感光体2に当接して導電性樹脂層3dと感光体2との間に所定のギャップG(図1に示す)を設定するテープ状の一対のスペーサ3eとからなっている。
【0017】
芯金3cは導電性を有し、金属シャフトから構成されている。この金属シャフトとしては、例えばSUM22の表面にNiめっきを施したものを用いることができる。
また、導電性樹脂層3dは、例えばスプレー塗装により金属シャフト上にコーティングされ、5〜50μmの厚みの単層構造に形成されている。この導電性樹脂層は、例えばポリウレタン(PU)樹脂やポリウレタン/シリコンアクリル(PU/Si−Ac)混合樹脂等の樹脂からなるバインダー樹脂3fに、導電剤として多数の導電性酸化スズ(SnO2)の粒子3gが独立分散されて構成されている。バインダー樹脂3fはイオン導電剤が添加されてイオン導電性樹脂とされている。
【0018】
光書込み装置4は、例えばレーザ光等により感光体2に静電潜像を書き込む。また、現像装置5は、現像ローラ5a、トナー供給ローラ5bおよびトナー層厚規制部材5cを有している。そして、トナー供給ローラ5bによって現像ローラ5a上に現像剤であるトナーTが供給されるとともに、この現像ローラ5a上のトナーTがトナー層厚規制部材5cによりその厚みを規制されて感光体2の方へ搬送され、搬送されたトナーTで感光体2上の静電潜像が現像されて感光体2上にトナー像が形成される。
【0019】
転写装置6は転写ローラ6aを有し、この転写ローラ6aにより感光体2上にトナー像が転写紙や中間転写媒体等の転写媒体8に転写される。そして、トナー像が転写媒体8である転写紙に転写された場合には、転写紙上のトナー像が図示しない定着装置によって定着され、転写紙に画像が形成され、また、トナー像が転写媒体8である中間転写媒体に転写された場合には、中間転写媒体上のトナー像が更に転写紙に転写された後、転写紙上のトナー像が図示しない定着装置によって定着され、転写紙に画像が形成される。
【0020】
クリーニング装置7は例えばクリーニングブレード等のクリーニング部材7aを有し、このクリーニング部材7aにより感光体2がクリーニングされて、感光体2上の転写残りトナーが除去されかつ回収される。
【0021】
このように構成されたこの例の非接触の帯電ローラ3aによれば、導電剤として導電性SnO2を用いているので、導電剤として従来用いられているカーボンブラック(CB)の場合のような層内部でのチェーンストラクチャー構造が形成されないため、特定個所での電荷のリークが起こらない。したがって、安定した帯電を行うことができる。
【0022】
しかも、導電性樹脂層3dのバインダー樹脂3fをイオン導電性樹脂としてバインダー樹脂3f自体に導電性を持たせているので、導電性SnO2の添加量(濃度)を一定量に抑えることが可能となる。これにより、芯金3c上に5〜50μmの薄膜の導電性樹脂層3dを形成しただけの帯電ローラ3aであっても、長期的に安定した帯電を行うことが可能となるとともに、帯電ローラ3aを低コストで製造することも可能となる。
【0023】
次に、この例の非接触の帯電ローラ3aの実施例および比較例について説明する。本実施の形態に属する実施例および本実施の形態に属さない比較例の各帯電ローラ3aを作製し、これらの帯電ローラ3aを用いて、本実施の形態の帯電ローラ3aが前述の作用効果を得ることができることを実証するために行った実験(以下、実験1という)について説明する。
実験1で用いた実施例および比較例を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1において、No. 3〜21が実施例の帯電ローラであり、No. 1、2、22〜34が比較例の帯電ローラである。また、表1中の帯電ローラに関して、シャフト径は芯金3cの導電性樹脂層3dが形成される部分の直径である。この芯金3cは、SUM22の表面にNiめっきを施したものを用いた。導電剤は導電性SnO2およびCBを用いた。また、導電性SnO2は、表2に示すものを用いた。これらの導電性SnO2はいずれも株式会社ジェムコ製であり、それらの詳細は株式会社ジェムコのホームページ(http://www.jemco-mmc.co.jp/corporate/index.html)に掲載されている。
【0026】
【表2】

【0027】
表2中、T−1、TDL、およびESはいずれも株式会社ジェムコの商品名であり、それぞれ、T−1はスズ−アンチモン系酸化物、TDLはスズ−アンチモン系酸化物水分散液、ESはスズ−アンチモン系酸化物塗料/分散液である。
【0028】
更に、表1中の濃度はバインダー樹脂に対する添加された導電剤の重量比(wt%)であり、樹脂はバインダー樹脂でポリウレタン(PU)樹脂またはポリウレタン/シリコンアクリル(PU/Si−Ac)混合樹脂を用いた。また、導電性樹脂層3dはスプレー塗装で芯金3c上にコーティングすることで形成したものであり、この導電性樹脂層3dの膜厚はマイクロメータを用いて測定した値(μm)である。バインダー樹脂には、いずれの例もイオン導電剤「YYP−12」(丸菱油化工業株式会社製)が重量比7wt%添加されている。
帯電ローラ3aのギャップGを20μmに設定し、このギャップGは20μmのポリイミドテープを導電性樹脂層3dの両端部の外周面に貼付することで形成した。
【0029】
表1中の感光体はセイコーエプソン株式会社製のLP−9000Cと同じ材料のものを用いて感光層の膜厚をいずれも23μmに設定し、感光体の直径はそれぞれ表1に示す値(φ:mm)に設定した。更に、表1中の速度は感光体の周速(mm/sec)である。
【0030】
画像形成装置の実験装置はセイコーエプソン株式会社製のLP−9000Cと同じ構成となるように構成した。帯電ローラ3aの印加電圧VC(V)は、直流電圧DC成分VDC(V)に交流電圧AC成分VAC(V)を重畳して、
C = VDC + VAC = −650 + (1/2)VPP・sin2πft
(ここで、VPP=1800V、f=1.5kHzであり、VACはsin波である。)
に設定した。実験は温度23℃で湿度50%の室内環境で、A4の普通紙にハーフトーン5%のベタ印字を行い、50k(50,000)枚のモノクロ耐久試験を行った。表1にその結果を示す。50k枚の印字をクリアしたとき、目視で所望の印字濃度の画像が得られて帯電が良好であると判断したものを◎で表し、リークにより感光体に孔が開いたものおよび目視で所望の印字濃度の画像が得られず帯電不良であると判断したものを×で表した。
【0031】
No. 3〜21の実施例の帯電ローラでは、いずれも◎で良好な帯電が得られた。これに対して、No. 1および2の比較例の帯電ローラでは、いずれも感光体に孔が開き、電荷のリークが発生した。また、No. 22〜27の比較例の帯電ローラでは、いずれも帯電不良が発生した。すなわち、No. 1、2、22〜27の比較例の帯電ローラでは、いずれも、実施例と同様に、帯電ローラ3aの導電性樹脂層3dに導電性SnO2を用いているにもかかわらず、リークあるいは帯電不良が発生することが確認された。そこで、実験結果を更に精緻に検討すると、No. 1および2の比較例における導電性樹脂層3dの膜厚が5μmより小さく、No. 22〜27の比較例における導電性樹脂層3dの膜厚が50μmより大きいのに対して、No. 3〜21の実施例における導電性樹脂層3dの膜厚が5μm〜50μmであることから、導電性樹脂層3dにSnO2を用いても、この導電性樹脂層3dの膜厚が5μm〜50μmであるときは良好な帯電が得られるが、導電性樹脂層3dの膜厚が5μmより小さいかあるいは50μmより大きいときは良好な帯電が得られないことがわかった。
【0032】
また、No. 28〜34の比較例の帯電ローラでは、いずれも導電性樹脂層3dにCBを用いているが、このCBを用いた場合には、導電性樹脂層3dの膜厚が5μm〜50μmであっても、感光体に孔が開き、リークが生じた。
この実験1により、帯電ローラ3による感光体2の非接触帯電において、導電性樹脂層3dの膜厚が5μm〜50μmであり、かつ導電性樹脂層3dに導電性SnO2の粒子3gを独立分散させることで、前述の本実施の形態の効果が得られることが実証された。
【0033】
図3は本発明の帯電ローラの実施の形態の他の例を示し、(a)は正面図、(b)は軸方向に沿う断面図である。なお、前述の図2(a)および(b)に示す例と同じ構成要素には同じ符号を付すことでその詳細な説明は省略する。
前述の図2(a)および(b)に示す例の帯電ローラ3aでは、導電性樹脂層3dの導電性樹脂層が単層構造に形成されているが、図3(a)および(b)に示すように、この例の帯電ローラ3aでは導電性樹脂層3dが、芯金3cの外周面にスプレー塗装でコーティングすることで形成された内側層3hとこの内側層3hの外周面にスプレー塗装でコーティングすることで形成された外側層3iとの2層構造に形成されている。なお、導電性樹脂層3dは2層構造に限定されることはなく、3層以上の多層構造に形成することもできる。以下の説明では、導電性樹脂層3dは2層構造であるとして説明する。
【0034】
この2層構造の導電性樹脂層3dの内、外側層3h,3iの何れの層においても、前述の例と同様にそれぞれバインダー樹脂3j,3kに導電性SnO2の粒子3m,3nが独立分散されている。その場合、外側層3iのバインダー樹脂3kに対する添加された導電性SnO2の重量比(wt%)が、内側層3hのバインダー樹脂3jに対する添加された導電性SnO2の重量比(wt%)より大きく設定されている。なお、導電性樹脂層3dが3層以上の多層構造の場合には、バインダー樹脂3kに対する添加された導電性SnO2の重量比(wt%)は、内側層から外側層に向かって順次大きくなるように設定される。
【0035】
また、内、外側層3h,3iの何れの層においても、バインダー樹脂3j,3kはイオン導電剤が添加されたイオン導電性樹脂とされている。
更に、外側層3iの膜厚が内側層3hの膜厚以下に設定されている。なお、導電性樹脂層3dが3層以上の多層構造の場合には、各層の膜厚は、内側層の膜厚がこれに隣接する外側層の膜厚以下に設定される。
【0036】
更に、各層3h,3iのバインダー樹脂3j,3kには、ともにすべてに同じ樹脂が用いられているか、あるいは少なくともそれらの一部に同じ樹脂が用いられている。なお、導電性樹脂層3dが3層以上の多層構造の場合には、互いに隣接する内側層と外側層とで、ともにすべてに同じ樹脂が用いられるか、あるいは少なくともそれらの一部に同じ樹脂が用いられる。
この例の非接触の帯電ローラ3aの他の構成は、前述の図2(a)および(b)に示す例と同じである。
【0037】
このように構成されたこの例の非接触の帯電ローラ3aによれば、導電性樹脂層3dを2層以上の多層構造にするとともに、バインダー樹脂3kに対する添加された導電性SnO2の重量比(wt%)を、内側層から外側層に向かって順次大きくなるように設定しているので、より外側の層の抵抗が低くなる。したがって、導電性樹脂層の全体において、放電を起こす最外層の導電性樹脂層までに電子の移動できる量が多くなるため、層自体が放電による破壊を起こし難くなる。これにより、長期的に安定した良好な帯電を行うことが可能となる。
【0038】
また、導電性樹脂層3dを2層以上の多層構造にするとともに、互いに隣接する内側層と外側層とで、ともにすべてに同じ樹脂を用いるか、あるいは少なくともそれらの一部に同じ樹脂を用いているので、隣接する層間において少なくとも同じ樹脂であることからなじみやすくなり、隣接する層間の密着性を良好にできる。したがって、高電圧で高周波のバイアス電圧を印加される帯電ローラ3aにおいても、長期的に安定した放電を行うことが可能となる。これにより、安定した良好な帯電をより確実に行うことができる。
この例の非接触の帯電ローラ3aの他の作用効果は、前述の図2(a)および(b)に示す例と同じである。
【0039】
次に、この例の非接触の帯電ローラ3aの実施例および比較例について説明する。本実施の形態に属する実施例および本実施の形態に属さない比較例の各帯電ローラ3aを作製し、これらの帯電ローラ3aを用いて、本実施の形態の帯電ローラ3aが前述の作用効果を得ることができることを実証するために行った実験(以下、実験2という)について説明する。
【0040】
実験2で用いた実施例および比較例の帯電ローラを表3に示す。実験2で用いた実施例および比較例の帯電ローラは、いずれも、内側層3hと外側層3iとからなる2層構造に形成されているとともに、バインダー樹脂および導電性SnO2がともに内側層3hと外側層3iとで同じものを用いている。
【0041】
【表3】

【0042】
表3において、No. 7、8、10〜12、および14〜16が実施例の帯電ローラであり、No. 1〜6、9、および13が比較例の帯電ローラである。表3中の帯電ローラに関して、導電剤は表2に示す導電性SnO2を用い、また導電剤の濃度は実験1と同様にバインダー樹脂に対する添加された導電剤の重量比(wt%)である。バインダー樹脂はすべての例でポリウレタン(PU)樹脂を用いた。その場合、内、外側層3h,3iの何れの層においても、バインダー樹脂3j,3kにはイオン導電剤「YYP−12」(丸菱油化工業株式会社製)が重量比7wt%添加されている。更に、導電性樹脂層3dの膜厚は実験1と同じ測定方法で測定され、その単位はμmである。
【0043】
芯金3cはSUM22の表面にNiめっきを施したものを用い、そのシャフト径の直径は、すべての例でφ8mmである。また、感光体2はセイコーエプソン株式会社製のLP−9000Cと同じ材料のものを用い、その感光層の膜厚をいずれも23μmに設定した。感光体2の直径はすべての例で一定のφ40mmでありかつ感光体2の周速もすべての例で一定の250mm/secである。
【0044】
帯電ローラ3aのギャップGを20μmに設定し、このギャップGは20μmのポリイミドテープを導電性樹脂層3dの両端部の外周面に貼付することで形成した。
画像形成装置の実験装置、帯電ローラ3aの印加電圧VC(V)、室内環境、用いた転写紙、および印字方法は、いずれも実験1と同じである。そして、印字枚数が50k枚のモノクロ耐久試験を行った。表3にその結果を示す。導電性樹脂層3dの外側層3iが実用に供し得る10k枚の印字をクリアする前に剥離する表層剥離を起こした場合は不良であるとして×で表し、50k枚の印字をクリアしたものは良好な帯電が得られたとして◎で表した。
【0045】
No. 7、8、10〜12、および14〜16の実施例の帯電ローラでは、いずれも5k枚の印字を行っても表層剥離を起こすことなく、良好な帯電が得られた。これに対して、No. 1〜6、9、および13の比較例の帯電ローラでは、いずれも表層剥離を起こして剥離した導電性SnO2が感光体に付着して感光体を傷付けてしまい、不良の結果となった。
【0046】
そこで、実験結果を更に精緻に検討すると、表層剥離が生じたNo. 1〜6、9、および13の比較例では、導電性樹脂層3dの外側層3iの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)が内側層3hの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より小さくなっているのに対して、表層剥離が生じなく良好な帯電が得られたNo. 7、8、10〜12、および14〜16の実施例では、外側層3iの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)が内側層3hの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より大きくなっていることが確認された。
【0047】
したがって、この実験2により、帯電ローラ3による感光体2の非接触帯電において、導電性樹脂層3dを2層構造に形成した場合、外側層3iの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)を内側層3hの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より大きく設定すると、表層剥離を起こさず、良好な帯電が得られることがわかり、前述の本実施の形態の効果が得られることが実証された。
【0048】
更に、実験2で用いたNo. 1〜16の帯電ローラの外側層3iの外周面に、それぞれ表4に示す第3層を前述と同様にしてスプレー塗装で形成した3層構造の導電性樹脂層3dを有する帯電ローラを作製し、これらの帯電ローラを用いて実験2と同じ実験(以下、実験3という)を行った。この実験3で用いた実施例および比較例の帯電ローラは、いずれも、バインダー樹脂および導電性SnO2がともに内側層3h、外側層3iおよび第3層で同じものを用いている。この実験3の結果も表4に示すが、その評価方法は実験2の場合と同じである。
【0049】
【表4】

【0050】
No. 7、8、10〜12、および14〜16の実施例の帯電ローラでは、いずれも50k枚の印字を行っても表層剥離を起こすことなく、良好な帯電が得られた。これに対して、No. 1〜6、9、および13の比較例の帯電ローラでは、いずれも10k枚の印字をクリアする前に表層剥離を起こして剥離した導電性SnO2が感光体に付着して感光体を傷付けてしまい、不良の結果となった。
【0051】
そこで、実験結果を更に精緻に検討すると、表層剥離が生じたNo. 1〜6、9、および13の比較例では、導電性樹脂層3dの最外層である第3層の導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)が最内層の第1層である内側層3hの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より小さくなっているのに対して、表層剥離が生じなく良好な帯電が得られたNo. 7、8、10〜12、および14〜16の実施例では、第3層の導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)が中間層の第2層である外側層3iの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より大きくなっているとともに、外側層3iの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)が内側層3hの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より大きくなっていることが確認された。
【0052】
したがって、この実験3により、帯電ローラ3による感光体2の非接触帯電において、導電性樹脂層3dを3層構造に形成した場合、最外層である第3層の導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)を中間層の第2層である外側層3iの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より大きく設定するとともに、外側層3iの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)を最内層の第1層である内側層3hの導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)より大きく設定すると、表層剥離を起こさず、良好な帯電が得られることがわかり、前述の本実施の形態の効果が得られることが実証された。そして、帯電ローラ3による感光体2の非接触帯電において、導電性樹脂層3dを4層以上の多層構造に形成した場合にも、導電性SnO2の濃度つまり重量比(wt%)を最内層から最外層に向かって順次大きく設定すると、表層剥離を起こさず、良好な帯電が得られることが普通に予測することができる。
【0053】
次に、前述の実験2で用いた2層構造の帯電ローラでは、バインダー樹脂および導電性SnO2がともに内側層3hと外側層3iとで同じものを用いているが、2層構造の帯電ローラであって、バインダー樹脂が内側層3hと外側層3iとですべて同じもの、内側層3hと外側層3iとで一部が同じもの、および内側層3hと外側層3iとでまったく異なるものを用いた帯電ローラ3aを作製し、これらの帯電ローラ3aを用いて、本実施の形態の帯電ローラ3aが前述の作用効果を得ることができることを実証するために行った実験(以下、実験4という)について説明する。
【0054】
実験4で用いた実施例および比較例の帯電ローラおよび実験4の結果を表5に示す。この実験4では、導電性SnO2が実施例および比較例の各例によっては異なる場合があるが、すべての例において導電性SnO2がともに内側層3hと外側層3iとで同じものを用いている。
【0055】
【表5】

【0056】
表5において、No. 1〜7、および11が実施例の帯電ローラであり、No. 8〜10、および12が比較例の帯電ローラである。表5中の帯電ローラに関して、導電剤は表2に示す導電性SnO2を用い、また導電剤の濃度は実験1と同様にバインダー樹脂に対する添加された導電剤の重量比(wt%)である。バインダー樹脂はポリウレタン(PU)樹脂またはポリウレタン/シリコンアクリル(PU/Si−Ac)混合樹脂を用いた。その場合、これらのバインダー樹脂には、いずれもイオン導電剤「YYP−12」(丸菱油化工業株式会社製)が重量比7wt%添加されている。更に、導電性樹脂層3d以外の帯電ローラ3aの他の構成、表5中の各値の単位、感光体を含む実験装置、および印字枚数が10k枚以外の実験方法は実験2と同じである。
【0057】
印字枚数が10k枚となる前に表層剥離が生じた場合は不良であるとして×で表し、印字枚数が50k枚をクリアしても表層剥離が生じない場合は、良好な帯電が得られたとして◎で表した。
【0058】
No. 1〜7、および11の実施例の帯電ローラでは、いずれも50k枚の印字を行っても表層剥離を起こすことなく、良好な帯電が得られた。これに対して、No. 8および9の比較例の帯電ローラでは、3k枚の印字をクリアした後表層剥離を起こし、また、No. 10および12の比較例の帯電ローラでは、2k枚の印字をクリアした後表層剥離を起こしてしまい、いずれも剥離した導電性SnO2が感光体に付着して感光体を傷付けてしまい、不良の結果となった。
【0059】
そこで、実験結果を更に精緻に検討すると、表層剥離が生じたNo. 8ないし10、および12の比較例では、バインダー樹脂がまったく異なっているのに対して、表層剥離が生じなく良好な帯電が得られたNo. 1〜7、および11の実施例では、バインダー樹脂がすべて同じであるかあるいは一部が同じであることが確認された。
【0060】
したがって、この実験4により、帯電ローラ3による感光体2の非接触帯電において、導電性樹脂層3dを多層構造に形成した場合、互いに隣接する樹脂層のバインダー樹脂がすべて同一の樹脂に設定するかあるいは一部を同一の樹脂に設定すると、印字枚数が10k枚クリアしても表層剥離を起こさず、良好な帯電が得られることがわかり、前述の本実施の形態の効果が得られることが実証された。
【0061】
ところで、前述の実験1ないし4に用いられているバインダー樹脂は、いずれもイオン導電性樹脂とされている。そこで、バインダー樹脂がイオン導電性樹脂であるか否かで、前述の作用効果が得られるかについて検討した。この検討のため、バインダー樹脂がイオン導電性樹脂でない場合について、実験1および実験4と同様の実験(以下、それぞれ、実験5および6という)行った。
まず、実験1に対応する実験5について説明する。この実験5で用いた実施例および比較例と実験結果とを表6に示す。その場合、10k枚の印字を行っても実用に供し得る印字濃度の画像が得られて帯電が良好であると判断したものを○で表した。
【0062】
【表6】

【0063】
表6において、No. 1〜4はいずれも本発明の実施例の帯電ローラであり、それぞれ実験1の表1に示すNo. 3〜6が対応する実施例である。この実験5におけるNo. 1〜4の実施例では、バインダー樹脂であるポリウレタン(PU)樹脂またはポリウレタン/シリコンアクリル(PU/Si−Ac)混合樹脂にはイオン導電剤が添加されておらず、これらのバインダー樹脂はイオン導電性樹脂ではない。また、バインダー樹脂以外の帯電ローラ3aの他の構成、表6中の各値の単位、感光体を含む実験装置、および実験方法は実験1と同じである。
【0064】
実験5でのNo. 1ないし4の実施例では、いずれも10k枚の印字をクリアしたとき、実用に供し得る印字濃度の画像が得られたのに対して、前述のように実験1でのNo. 3ないし6の実施例では、いずれもきわめて良好な帯電が得られた。
【0065】
したがって、この実験5により、帯電ローラ3による感光体2の非接触帯電において、導電性樹脂層3dのバインダー樹脂をイオン導電性樹脂としない(イオン導電剤を添加しない)場合、10k枚の印字をクリアすることができ、実用に供し得る印字濃度の画像が得られて良好な帯電が可能であることが分かった。しかし、バインダー樹脂をイオン導電性樹脂にした(イオン導電剤を添加した)場合、印字枚数が50k枚クリアして、より長期的に安定したきわめて良好な帯電が得られることがわかった。これにより、バインダー樹脂をイオン導電性樹脂にすることが好ましく、前述の実験1で実証された作用効果が得られることが、より明白に実証された。
【0066】
次に、実験4に対応する実験6について説明する。この実験6で用いた実施例および比較例と実験結果とを表7に示す。10k枚の印字を行っても実用に供し得る印字濃度の画像が得られて帯電が良好であると判断したものを○で表した。
【0067】
【表7】

【0068】
表7において、No. 1〜4が本発明の実施例の帯電ローラであり、それぞれ実験4の表5に示すNo. 1〜4が対応する実施例である。実験6におけるNo. 1〜4の実施例では、バインダー樹脂であるポリウレタン(PU)樹脂またはポリウレタン/シリコンアクリル(PU/Si−Ac)混合樹脂には、内側層3hおよび外側層4iのいずれにおいてもイオン導電剤が添加されておらず、これらの樹脂はイオン導電性樹脂ではない。また、バインダー樹脂以外の帯電ローラ3aの他の構成、表6中の各値の単位、感光体を含む実験装置、およぶい実験方法は実験4と同じである。
【0069】
実験6でのNo. 1ないし4の実施例では、いずれも10k枚の印字をクリアしたとき、実用に供し得る印字濃度の画像が得られたのに対して、前述のように実験4でのNo. 1ないし4の実施例では、いずれもきわめて良好な帯電が得られた。
【0070】
したがって、この実験5により、帯電ローラ3による感光体2の非接触帯電において、多層構造の導電性樹脂層3dのバインダー樹脂をイオン導電性樹脂としない(イオン導電剤を添加しない)場合、10k枚の印字をクリアすることができ、実用に供し得る印字濃度の画像が得られて良好な帯電が可能であることが分かった。しかし、バインダー樹脂をイオン導電性樹脂にした(イオン導電剤を添加した)場合、印字枚数が50k枚クリアして、より長期的に安定したきわめて良好な帯電が得られることがわかった。これにより、バインダー樹脂をイオン導電性樹脂にすることが好ましく、前述の実験4で実証された作用効果が得られることが、より明白に実証された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の帯電ローラは、電子写真、静電複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられ、感光体に対して所定の帯電ギャップを置いて、この感光体を非接触帯電する帯電ローラであって、金属シャフトの上に導電性樹脂層が形成された帯電ローラに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明にかかる非接触帯電ローラの実施の形態の一例を備えた画像形成装置の一例を模式的にかつ部分的に示す図である。
【図2】本発明の帯電ローラの実施の形態の一例を示し、(a)は正面図、(b)は軸方向に沿う断面図である。
【図3】本発明の帯電ローラの実施の形態の他の例を示し、(a)は正面図、(b)は軸方向に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1…画像形成装置、2…感光体、3…非接触帯電装置、3a…帯電ローラ、3c…芯金(金属シャフト)、3d…導電性樹脂層、3e…テープ状のスペーサ、3f,3j,3k…バインダー樹脂、3g,3m,3n…導電性SnO2の粒子、3h…内側層、3i…外側層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シャフト上に5〜50μmの導電性樹脂層が形成されるとともに、この導電性樹脂層が像担持体に所定の帯電ギャップを置いて対向するように設けられて、前記像担持体を非接触帯電する帯電ローラにおいて、
前記導電性樹脂層は、バインダー樹脂に導電性酸化スズ(SnO2)の粒子が独立分散されて構成されていることを特徴とする帯電ローラ。
【請求項2】
前記金属シャフト上の導電性樹脂層は2層以上の多層構造に形成されており、最内層から最外層に向かってバインダー樹脂に対する導電性酸化スズ(SnO2)の濃度が大きく設定されていることを特徴とする請求項1記載の帯電ローラ。
【請求項3】
前記多層構造の導電性樹脂層のうち、互いに隣接する層のバインダー樹脂は、すべて同じ樹脂またはそれらの一部が同じ樹脂で構成されていることを特徴とする請求項2記載の帯電ローラ。
【請求項4】
前記導電性樹脂層は、イオン導電性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1記載の帯電ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−343471(P2006−343471A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168084(P2005−168084)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】