説明

画像形成装置

【課題】戻し経路が短い場合であっても、両面印字を良好に行うことができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】画像形成装置は、正回転・逆回転可能なモータ71と、記録シート(用紙3)を装置本体外に排出または装置本体内に引き戻す排出ローラ52と、正回転時のみにモータ71から感光体(感光ドラム33)に駆動力を伝達させるワンウェイクラッチ72と、排出ローラ52で引き戻された記録シートを画像形成部に戻すための戻しローラ62と、モータ71の回転方向に関わらず、戻しローラ62を常に一定方向に回転させる回転方向変換機構90と、間隔を置いて配置される一対の係合部を有し、モータ71の回転方向を切り替えたときに、各係合部が所定時間後に係合することでモータ71から戻しローラ62への駆動力の伝達を遅らせるタイムラグ機構80とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面印字を実行可能な画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、用紙に画像を形成するための感光ドラムと、画像が形成された用紙を排紙トレイに排出する排出ローラと、排出ローラの逆回転により装置本体内に戻されてきた用紙を感光ドラムの用紙搬送方向上流側に戻すための戻しローラとを備える画像形成装置が知られている(特許文献1参照)。具体的に、この画像形成装置は、感光ドラムと戻しローラを駆動する第1モータと、排出ローラを駆動する第2モータとを備えており、片面印字を行う際には、第1モータおよび第2モータをともに正回転させることで、感光ドラム、排出ローラの順に用紙を搬送させる。
【0003】
また、両面印字を行う場合には、前述のように片面印字を行った後、排出ローラから用紙が完全に離れる前に第2モータのみを逆回転させることで、用紙を装置本体内に戻す。装置本体内に戻された用紙は、正回転のままの第1モータによって駆動する戻しローラおよび感光ドラムによって、感光ドラムの用紙搬送方向上流側に戻された後、裏面の印字が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−188318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、前述したように2つのモータを設けずに、1つのモータのみで排出ローラや感光ドラム等を駆動させることが望まれている。しかし、この場合、排出ローラを逆回転させる際に、感光ドラムや戻しローラも一緒に逆回転してしまう。
【0006】
このような問題を解消するには、モータから感光ドラムへの駆動力の伝達・遮断を切り替えるクラッチを設けたり、モータの回転方向に関わらず戻しローラを正回転させたままに維持する回転方向変換機構を設けることが考えられる。この構造によれば、片面印字の場合には、モータを正回転させて、用紙を感光ドラム、排出ローラの順に搬送させることで、用紙の一方の面に印字を行う。
【0007】
また、両面印字の場合には、前述のように用紙の一方の面の印字を行った後、排出ローラから用紙が完全に離れる前にモータを逆回転させる際に、クラッチを切って感光ドラムの回転を止め、回転方向変換機構の切換によって戻しローラを正回転させたままとする。そして、排出ローラから戻しローラに渡された用紙が、排出ローラから抜けた後で、モータを正回転に戻す。この際、クラッチ・回転方向変換機構を制御して、感光ドラムおよび戻しローラを正回転させる。
【0008】
そして、感光ドラムを正回転させることをきっかけに感光ドラムを帯電させ、画像形成の準備を開始する。しかしながら、この場合、装置の小型化に伴い、戻し経路(排出ローラから装置本体内に戻された用紙が感光ドラムへ向けて通る経路)を短くすると、感光ドラムの全周が帯電する前に、用紙が感光ドラムに到達してしまい、画像品質が悪くなるといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、戻し経路が短い場合であっても、両面印字を良好に行うことができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る画像形成装置は、現像剤像を担持する感光体を有し、当該感光体の現像剤像を記録シートに転写させることで記録シートに画像を形成する画像形成部と、正回転・逆回転可能なモータと、前記モータから駆動力が伝達され、前記正回転時に記録シートを装置本体外に排出させ、前記逆回転時に記録シートを装置本体内に引き戻す排出ローラと、前記正回転時に前記モータから前記感光体に駆動力を伝達させ、前記逆回転時には前記モータから前記感光体への駆動力の伝達を切るワンウェイクラッチと、前記排出ローラで引き戻された記録シートを、前記画像形成部に戻すための戻しローラと、前記モータの回転方向に関わらず、前記戻しローラを常に一定方向に回転させるように前記モータからの駆動力を前記戻しローラに伝達させる回転方向変換機構と、間隔を置いて配置される一対の係合部を有し、前記モータの回転方向を切り替えたときに、前記各係合部が所定時間後に係合することで前記モータから前記戻しローラへの駆動力の伝達を遅らせるタイムラグ機構とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、モータの逆回転により排出ローラから戻しローラに渡された用紙が排出ローラから抜けたときに、モータを正回転に切り替えると、タイムラグ機構によりモータから戻しローラへの駆動力の伝達が遅れる。すなわち、モータを正回転に切り替えた後は、戻しローラを一定時間止めておくことができるので、モータの正回転への切り替えと略同時に正回転する感光体の全周を良好に帯電させてから、記録シートを感光体に突入させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、戻しローラを一定時間止めておくことができるので、戻し経路が短い場合であっても、両面印字を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の画像形成装置の一例としてのレーザプリンタの一実施形態を示す側断面図である。
【図2】駆動機構を簡略化して示す説明図である。
【図3】駆動機構を装置本体の内側から見た斜視図である。
【図4】駆動機構を装置本体の外側から見た斜視図である。
【図5】タイムラグ機構周りの構造を入力ギア側から見た斜視図(a)と、分解斜視図(b)である。
【図6】タイムラグ機構周りの構造を出力ギア側から見た分解斜視図である。
【図7】回転方向変換機構の正回転時の状態を示す平面図(a)と、逆回転時の状態を示す平面図(b)である。
【図8】駆動機構が逆回転している状態を簡略化して示す説明図である。
【図9】用紙の表面を印字するときの状態を示す説明図(a)と、排出ローラの逆回転によって用紙を引き戻しているときの状態を示す説明図(b)と、引き戻された用紙が戻しローラに到達する際の状態を示す説明図(c)である。
【図10】用紙の後端が排出ローラから外れたときの状態を示す説明図(a)と、戻しローラが回転し始めた状態を示す説明図(b)である。
【図11】回転方向変換機構の変形例を示す平面図であり、正回転時の状態を示す平面図(a)と、逆回転時の状態を示す平面図(b)である。
【図12】タイムラグ機構の変形例を示す平面図であり、正回転時の状態を示す平面図(a)と、逆回転時の状態を示す平面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<レーザプリンタの全体構成>
最初に、本発明の画像形成装置の一例としてのレーザプリンタの全体構成について簡単に説明する。なお、以下の説明において、前後および上下は、図1に記載した方向を基準とする。
【0015】
図1に示すように、レーザプリンタ1は、装置本体2内に用紙3を給紙するためのフィーダ部4や、給紙された用紙3に画像を形成するための画像形成部5などを備えている。
【0016】
フィーダ部4は、装置本体2内の底部に着脱可能に装着される給紙トレイ11と、給紙トレイ11内に設けられた用紙押圧板12を備えている。また、フィーダ部4は、給紙トレイ11の一端側端部の上方に設けられる給紙ローラ13および給紙パット14と、給紙ローラ13に対し用紙3の搬送方向の下流側に設けられる紙粉取りローラ15,16を備えている。さらに、フィーダ部4は、紙粉取りローラ15,16に対して下流側に設けられるレジストローラ17を備えている。
【0017】
そして、このフィーダ部4では、給紙トレイ11内の用紙3が、用紙押圧板12によって給紙ローラ13側に寄せられ、この給紙ローラ13および給紙パット14で送り出されて各種ローラ13〜16を通った後一枚ずつ画像形成部5に搬送される。
【0018】
画像形成部5は、スキャナ部20、プロセスカートリッジ30、定着装置40などを備えている。
【0019】
スキャナ部20は、装置本体2内の上部に設けられ、レーザ発光部(図示せず)、回転駆動されるポリゴンミラー21、レンズ22,23、反射鏡24,25,26などを備えている。そして、スキャナ部20では、レーザビームが図の鎖線で示す経路を通って、プロセスカートリッジ30内にある感光体の一例としての感光ドラム33の表面上に高速走査にて照射される。
【0020】
プロセスカートリッジ30は、スキャナ部20の下方に配設され、装置本体2に対して着脱自在に装着される構造となっている。そして、このプロセスカートリッジ30は、感光ドラム33、スコロトロン型帯電器34、転写ローラ35、現像ローラ36、層厚規制ブレード37、供給ローラ38およびトナーホッパ39を備えている。
【0021】
このプロセスカートリッジ30では、スコロトロン型帯電器34で帯電された感光ドラム33の表面が、スキャナ部20からのレーザビームで露光されることで、感光ドラム33上に静電潜像が形成される。この静電潜像に、トナーホッパ39内の現像剤の一例としてのトナーが供給ローラ38や現像ローラ36を介して供給されることで、感光ドラム33上にトナー像(現像剤像)が形成される。その後、感光ドラム33と転写ローラ35との間で用紙3が搬送される際に、感光ドラム33上で担持されたトナー像が用紙3に転写され、用紙3に画像が形成される。
【0022】
定着装置40は、用紙3に転写されたトナー像を熱定着させる装置であり、プロセスカートリッジ30の下流側に配設され、加熱ローラ41と、加熱ローラ41と対向配置され加熱ローラ41を押圧する加圧ローラ42とを備えている。
【0023】
そして、定着装置40で熱定着された用紙3は、正回転する排出ローラ52によって装置本体2外の排紙トレイ53に排出される。
【0024】
なお、排出ローラ52は、両面印字時においては、用紙3の全体を排紙トレイ53上に排紙する前に逆回転することで、用紙3を装置本体2内に引き戻す。装置本体2内に引き戻された用紙3は、フラッパ54の切り替えにより、定着装置40の後側を通った後、両面搬送経路ユニット60に送られる。
【0025】
両面搬送経路ユニット60は、両面搬送のための搬送装置であり、定着装置40やプロセスカートリッジ30と、給紙トレイ11との間に配設されている。ここで、「両面搬送」とは、表面が印字された用紙3の裏面を印字するために、用紙3を、表裏を逆にした状態でプロセスカートリッジ30の上流側に戻すために行う搬送をいう。
【0026】
両面搬送経路ユニット60は、定着装置40の後側を通って下方に搬送される用紙3の向きを前方に切り替えるガイド部材61と、ガイド部材61で案内されてきた用紙3を感光ドラム33の上流側に戻すための前後に並列された複数対の戻しローラ62とを備えている。そして、この両面搬送経路ユニット60から排出された用紙3は、両面搬送経路ユニット60の前方にあるガイド55によって、表裏が反転されてレジストローラ17に向けて案内される。これにより、レジストローラ17で用紙3の先端が揃えられた後、感光ドラム33のトナー像が用紙3の裏面に転写される。
【0027】
<駆動機構>
次に、図2〜図4を参照して、前述した感光ドラム33、排出ローラ52および戻しローラ62を回転させるための駆動機構70について説明する。
【0028】
図2に示すように、駆動機構70は、正回転・逆回転可能なモータ71と、モータ71の駆動力を感光ドラム33に伝達させるワンウェイクラッチ72と、モータ71の駆動力を排出ローラ52に伝達させる複数のギア73〜77と、モータ71の駆動力を戻しローラ62に伝達させるタイムラグ機構80および回転方向変換機構90とを備えている。
【0029】
なお、図2においては、各ギアをピッチ円で示すとともに、各ギアの噛み合いの様子が分かり易いように、ギア歯同士が噛み合っている部分をドットで示している。
【0030】
ワンウェイクラッチ72は、モータ71の駆動軸71Aに形成されるギア歯と噛み合う大径ギア部72Aと、感光ドラム33の端部に同軸に一体に設けられるドラム駆動ギア33Aと噛み合う小径ギア部72Bを備えている。そして、図3に示すように、大径ギア部72Aと小径ギア部72Bは、軸方向で離れて配置され、これらの間に、クラッチ機構72Cが設けられている。
【0031】
クラッチ機構72Cは、モータ71の正回転時(図2の回転方向)にモータ71から感光ドラム33に駆動力を伝達させ、モータ71の逆回転時にはモータ71から感光ドラム33への駆動力の伝達を切るように作用する。なお、クラッチ機構72Cとしては公知の機構を採用できる。例えば、コイルバネの両端を大径ギア部72Aと小径ギア部72Bとに固定し、大径ギア部72Aが正回転するときには、コイルバネが巻き締められることで、大径ギア部72Aからの駆動力が小径ギア部72Bに伝達され、大径ギア部72Aが逆回転するときには、コイルバネが緩められることで、大径ギア部72Aからの駆動力が小径ギア部72Bに伝達されないような機構を採用できる。
【0032】
図2に示すように、ギア73は、2段ギアであり、その大径ギア部73Aがワンウェイクラッチ72の大径ギア部72Aに噛み合うことで、ワンウェイクラッチ72から駆動力が伝達されるようになっている。ここで、ワンウェイクラッチ72の大径ギア部72Aは、モータ71の正回転・逆回転に伴って正回転・逆回転するので、ギア73も正回転・逆回転可能となっている。
【0033】
ギア73の小径ギア部73Bは、ギア74,75,76,77を介して排出ローラ52の端部に同軸に一体に設けられる排出用ギア52Aに連結するとともに、タイムラグ機構80および回転方向変換機構90を介して戻し用ギア62Aに連結されている。そして、戻し用ギア62Aは、図示せぬギアを介して各戻しローラ62に駆動力を伝達している。
【0034】
なお、ギア77は、図4に示すように、2段ギアであり、その大径ギア部77Aが駆動力伝達方向の上流側にあるギア76に噛み合うとともに、その小径ギア部77Bが排出用ギア52Aに噛み合っている。
【0035】
図5(a),(b)に示すように、タイムラグ機構80は、モータ71側に配置される入力ギア81と、戻しローラ62側に配置される出力ギア82と、入力ギア81と出力ギア82との間に配置される2枚のタイムラグ部材83とを備えている。
【0036】
図5および図6に示すように、入力ギア81は、出力ギア82の第1軸部82Aに対して回転可能に支持されることで、出力ギア82と同軸に配置されている。そして、入力ギア81の出力ギア82側の面には、入力ギア81から出力ギア82に向けて突出する係合部の一例としての入力側突起部81Aが回転中心部からずれた位置に形成されている。
【0037】
出力ギア82は、回転中心部から入力ギア81側に突出する第1軸部82Aと、回転中心部から入力ギア81とは反対側に突出する第2軸部82Bと、係合部の一例としての出力側突起部82Cを備えている。出力側突起部82Cは、入力ギア81側の面のうち回転中心部とは異なる位置(詳しくは入力側突起部81Aと径方向において同じ位置)から入力ギア81に向けて突出している。
【0038】
2枚のタイムラグ部材83は、入力ギア81と出力ギア82との間に同軸に配置され、出力ギア82の第1軸部82Aに回転可能に支持されている。各タイムラグ部材83は、点対称な形状に形成されており、主に、円板状の本体部83Aと、本体部83Aから入力ギア81に向けて突出する第1突起部83Bと、本体部83Aから出力ギア82に向けて突出する第2突起部83Cとを備えている。
【0039】
そして、2枚のうち一方(入力ギア81側)のタイムラグ部材83の第1突起部83Bは、入力ギア81の入力側突起部81Aに周方向で係合し、第2突起部83Cは、他方のタイムラグ部材83の第1突起部83Bに周方向で係合する。
【0040】
言い換えると、一方のタイムラグ部材83の第2突起部83Cは、他方のタイムラグ部材83を介して出力ギア82の出力側突起部82Cに周方向で係合する。また、他方のタイムラグ部材83の第1突起部83Bは、一方のタイムラグ部材83を介して入力ギア81の入力側突起部81Aに周方向で係合し、第2突起部83Cは出力ギア82の出力側突起部82Cに周方向で係合する。
【0041】
以上のように構成されるタイムラグ機構80では、入力ギア81の入力側突起部81Aと、出力ギア82の出力側突起部82Cとが周方向で間隔を置いて配置され、これらの入力側突起部81Aと出力側突起部82Cとの間に2枚のタイムラグ部材83が介在することで、前述した間隔が実質的に広げられている。すなわち、2枚のタイムラグ部材83を設けない場合は、入力側突起部81Aと出力側突起部82Cとの周方向の間隔は、最大でも1周分に満たない距離であるが、2枚のタイムラグ部材83を設けることで、間隔が実質1周以上の距離まで広げられている。
【0042】
そして、このタイムラグ機構80では、モータ71の回転方向を切り替えたときに、入力側突起部81Aと出力側突起部82Cとが所定時間後に2枚のタイムラグ部材83を介して係合することで、モータ71から戻しローラ62への駆動力の伝達を遅らせている。具体的には、入力ギア81、各タイムラグ部材83および出力ギア82がそれぞれ係合して一体回転しているときにモータ71の回転方向を切り替えると、まず、入力側突起部81Aが一方のタイムラグ部材83の第1突起部83Bから離れていく。この間、入力ギア81のみが回転し、各タイムラグ部材83や出力ギア82は止まっている。
【0043】
その後、入力側突起部81Aが一方のタイムラグ部材83の第1突起部83Bに係合すると、入力ギア81と一方のタイムラグ部材83が一体に回り始めるとともに、一方のタイムラグ部材83の第2突起部83Cが他方のタイムラグ部材83の第1突起部83Bから離れていく。この間、入力ギア81と一方のタイムラグ部材83のみが一体に回転し、他方のタイムラグ部材83や出力ギア82は止まっている。
【0044】
その後、一方のタイムラグ部材83の第2突起部83Cが他方のタイムラグ部材83の第1突起部83Bに係合すると、入力ギア81と2枚のタイムラグ部材83が一体に回り始めるとともに、他方のタイムラグ部材83の第2突起部83Cが出力側突起部82Cから離れていく。この間、入力ギア81と2枚のタイムラグ部材83のみが一体に回転し、出力ギア82は止まっている。
【0045】
最後に、他方のタイムラグ部材83の第2突起部83Cが出力側突起部82Cに係合すると、入力ギア81、2枚のタイムラグ部材83および出力ギア82のすべてが回り始め、戻しローラ62へ向けて駆動力の伝達が開始される。
【0046】
図7(a)に示すように、回転方向変換機構90は、モータ71側に配置される上流側ギアの一例として前述したタイムラグ機構80の出力ギア82を共有する他、下流側ギア91、回転方向変換ギア92、揺動アーム93および遊星ギア94を備えている。
【0047】
下流側ギア91は、戻しローラ62側に配置される2段ギアであり、図2に示すように、遊星ギア94や回転方向変換ギア92に噛み合う大径ギア部91Aと、戻し用ギア62Aに噛み合う小径ギア部91Bとを有している。なお、図7では、便宜上、下流側ギア91の小径ギア部91Bは図示を省略している。
【0048】
図7(a)に示すように、回転方向変換ギア92は、下流側ギア91の下側に配設され、常時下流側ギア91と噛み合っている。
【0049】
図5および図6に示すように、揺動アーム93は、基端部が出力ギア82の第2軸部82Bに揺動可能に支持され、先端部には、出力ギア82の軸方向に沿って出力ギア82側に突出する軸部93Aが設けられている。
【0050】
遊星ギア94は、下流側ギア91および回転方向変換ギア92(図7参照)のいずれか一方に噛み合い可能なギアであり、揺動アーム93の軸部93Aに回転可能に支持されている。そして、この遊星ギア94は、揺動アーム93との間でコイルバネ95を縮めた状態で挟み込み、抜け止め部材96によって軸部93Aに取り付けられている。これにより、遊星ギア94とコイルバネ95との摩擦力に打ち勝たない限り、遊星ギア94が揺動アーム93に対して回転(自転)しないようになっている。
【0051】
すなわち、例えば、図7(a)の状態で、出力ギア82が正回転(図示反時計回りに回転)する際には、下流側ギア91と遊星ギア94との係合により、揺動アーム93の揺動が止められるので、出力ギア82から駆動力が伝達された遊星ギア94は、コイルバネ95との摩擦力に打ち勝って、その場で自転する。これにより、下流側ギア91が、図示反時計回りに回転する。
【0052】
また、図7(a)の状態から出力ギア82を逆回転(図示時計回りに回転)させる場合には、図7(b)に示すように、揺動アーム93の時計回り方向には揺動を阻害するものがないので、遊星ギア94が揺動アーム93(コイルバネ95)に対して回転する前にフリー(自由)となった揺動アーム93が揺動する。これにより、遊星ギア94が出力ギア82の周りを移動する(出力ギア82を中心に公転する)。
【0053】
そして、公転する遊星ギア94が回転方向変換ギア92に噛み合うと、揺動アーム93の揺動が止められるので、出力ギア82から駆動力が伝達された遊星ギア94は、コイルバネ95との摩擦力に打ち勝って、その場で自転する。この際、遊星ギア94と下流側ギア91との間に回転方向変換ギア92が1枚挟まれることになるので、下流側ギア91が、正回転時と同じ方向(図示反時計回り)に回転する。これにより、回転方向変換機構90は、図2および図8に示すように、モータ71の回転方向に関わらず、戻しローラ62を常に一定方向に回転させるようにモータ71からの駆動力を戻しローラ62に伝達させるように機能している。
【0054】
<両面印字時における駆動機構の動作>
次に、両面印字時における駆動機構70の動作について説明する。
図9(a)に示すように、レーザプリンタ1に両面印字の指令が入力されると、図示せぬ制御装置によって制御されるモータ71が正回転して、感光ドラム33、排出ローラ52および各戻しローラ62等が正回転する。これにより、給紙トレイ11内の用紙3は、その表面が感光ドラム33で印字されて、排出ローラ52で装置本体2外に排出されていく。
【0055】
その後、用紙3が排出ローラ52から完全に外れる前に、モータ71が逆回転することで、図9(b)に示すように、排出ローラ52が逆回転して、用紙3が装置本体2内へ引き戻される。この際、図8に示すように、ワンウェイクラッチ72の作用によって、逆回転するモータ71の駆動力が感光ドラム33には伝達されないので、感光ドラム33は図9(b)に示すように止まった状態となる。また、戻しローラ62も、タイムラグ機構80の各部材がすべて係合するまでの時間と、回転方向変換機構90の遊星ギア94が回転方向変換ギア92まで公転するまでの時間が経過しないうちは、止まった状態に維持される。
【0056】
そして、図8に示すように、タイムラグ機構80の各部材がすべて係合するとともに、回転方向変換機構90の遊星ギア94が回転方向変換ギア92に到達して噛み合うと、モータ71の駆動力が戻しローラ62に伝達されて、戻しローラ62が図9(c)に示すように正回転する。なお、戻しローラ62の正回転が復帰するタイミングは、図9(c)に示すように、排出ローラ52で装置本体2内に戻されてきた用紙3の先端(進行方向における先端)が、最初(最上流側)の戻しローラ62に到達する前となるのが望ましい。そのため、このようなタイミングで戻しローラ62の正回転が復帰するように、タイムラグ機構80や回転方向変換機構90を構成すればよい。
【0057】
その後は、図10(a)に示すように、各戻しローラ62によって用紙3が感光ドラム33の上流側に戻されるように搬送されていき、用紙3の後端(進行方向における後端)が排出ローラ52から外れると、モータ71が逆回転から正回転に切り替えられる。これにより、各戻しローラ62が、タイムラグ機構80の各部材がすべて係合し、かつ、回転方向変換機構90の遊星ギア94が下流側ギア91まで公転して係合するまで、再び止まった状態になり、用紙3の搬送が止められることとなる。
【0058】
そして、このように用紙3の搬送が止められている間に、ワンウェイクラッチ72の作用によって、感光ドラム33が再び正回転し始め、スコロトロン型帯電器34による帯電が開始される。そして、感光ドラム33の全周が良好に帯電された後、図10(b)に示すように、戻しローラ62の正回転が復帰して、用紙3の搬送が再開される。これにより、画像形成の準備が良好に行われた状態の感光ドラム33で、用紙3の裏面が良好に印字される。
【0059】
なお、本実施形態では、感光ドラム33の全周が良好に帯電された後で、戻しローラ62の正回転が復帰するように構成したが、厳密には、用紙3の先端が感光ドラム33に到達する前に感光ドラム33の全周が良好に帯電していればよい。すなわち、感光ドラム33の全周が良好に帯電される前に戻しローラ62の正回転を復帰させても、用紙3の先端が感光ドラム33に到達する前に感光ドラム33の全周が良好に帯電していればよい。そして、このようなタイミングで用紙3が感光ドラム33に突入するように、タイムラグ機構80や回転方向変換機構90を構成すればよい。
【0060】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
モータ71を逆回転から正回転に切り替えた後、戻しローラ62を一定時間止めておくことができるので、正回転で回転し始めた感光ドラム33の全周が帯電する前に、用紙3が感光ドラム33に到達してしまうのを防止することができる。そのため、戻し経路が短い場合であっても、両面印字を良好に行うことができる。
【0061】
タイムラグ機構80の入力ギア81と出力ギア82を同軸に配置したので、同軸に配置しないタイムラグ機構に比べ、小型化を図ることができる。
【0062】
入力ギア81と出力ギア82との間にタイムラグ部材83を設けたので、タイムラグ部材83の数を調整することで、タイムラグの時間を簡単に調整することができる。また、タイムラグ部材83が入力ギア81と出力ギア82とに同軸に配置されるので、小型化を図ることができる。
【0063】
入力ギア81と出力ギア82との間にタイムラグ部材83を複数枚(2枚)設けたので、タイムラグの時間を長くすることができる。
【0064】
タイムラグ部材83が点対称な形状に形成されているので、作業者が第1突起部83Bと第2突起部83Cの向きを逆にして取り付けても取り付けることができるので、組付作業を容易にすることができる。
【0065】
出力ギア82の周りを移動する遊星ギア94を備えた回転方向変換機構90を採用したので、遊星ギア94が出力ギア82の周りを移動する間も、戻しローラ62に駆動力を伝達する時間を遅らせることができる。すなわち、回転方向変換機構90でも、タイムラグを作ることができるので、その分、タイムラグ機構80で遅らせる時間を短くすることができ、タイムラグ機構80の構造を簡易化することができる(例えば、タイムラグ部材83を少なくすることができる)。
【0066】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、遊星ギア94が半周以上公転する回転方向変換機構90を採用したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図11(a)に示すような回転方向変換機構100を採用してもよい。
【0067】
具体的に、この回転方向変換機構100は、上流側ギア110と、下流側ギア120と、上流側ギア110の回転軸を中心に揺動するV字状の揺動アーム130とを備えている。揺動アーム130の一端側には、上流側ギア110の周りを移動するギア140が回転可能に設けられ、揺動アーム130の他端側には、上流側ギア110の周りを移動するギア150と、このギア150に噛み合うギア160とが回転可能に設けられている。
【0068】
そして、この回転方向変換機構100では、図11(a)に示すように、上流側ギア110の正転時には、揺動アーム130の一端側のギア140が下流側ギア120と噛み合って、下流側ギア120を図示反時計回りに回転させる。また、上流側ギア110の逆回転時には、図11(b)に示すように、揺動アーム130の揺動により揺動アーム130の他端側のギア160が下流側ギア120と噛み合って、下流側ギア120を図示反時計回りに回転させる。すなわち、このような回転方向変換機構100であっても、下流側ギア120、ひいては戻しローラを、常に一定方向に回転させることができる。
【0069】
前記実施形態では、入力ギア81と出力ギア82が同軸に配置されるタイムラグ機構80を採用したが、本発明はこれに限定されず、例えば、図12(a)に示すように、入力ギア210と出力ギア220が同軸に配置されないタイムラグ機構200を採用してもよい。具体的に、このタイムラグ機構200は、前記実施形態の回転方向変換機構90から回転方向変換ギア92を取り除いたような構造となっている。すなわち、前記実施形態と同様の揺動アーム93および遊星ギア94が、入力ギア210に対して揺動可能・移動可能に設けられている。
【0070】
このようなタイムラグ機構200であっても、図12(a)に示す正回転状態から図12(b)に示す逆回転状態に切り替えられると、遊星ギア94が入力ギア210周りを公転する間の時間だけ、タイムラグを作ることができる。なお、この構造においては、出力ギア220のギア歯と、遊星ギア94のギア歯とで、一対の係合部が構成される。
【0071】
前記実施形態では、タイムラグ部材83を2枚設けたが、本発明はこれに限定されず、1枚でも3枚以上でもいい。
前記実施形態では、レーザプリンタ1に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されず、その他の画像形成装置、例えば複写機や複合機などに本発明を適用してもよい。
【0072】
前記実施形態では、感光体として感光ドラム33を採用したが、本発明はこれに限定されず、例えばベルト状の感光体を採用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 レーザプリンタ
2 装置本体
3 用紙
5 画像形成部
33 感光ドラム
52 排出ローラ
52A 排出用ギア
60 両面搬送経路ユニット
61 ガイド部材
62 戻しローラ
62A 戻し用ギア
70 駆動機構
71 モータ
72 ワンウェイクラッチ
80 タイムラグ機構
81 入力ギア
81A 入力側突起部
82 出力ギア
82C 出力側突起部
83 タイムラグ部材
83A 本体部
83B 第1突起部
83C 第2突起部
90 回転方向変換機構
91 下流側ギア
92 回転方向変換ギア
93 揺動アーム
94 遊星ギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現像剤像を担持する感光体を有し、当該感光体の現像剤像を記録シートに転写させることで記録シートに画像を形成する画像形成部と、
正回転・逆回転可能なモータと、
前記モータから駆動力が伝達され、前記正回転時に記録シートを装置本体外に排出させ、前記逆回転時に記録シートを装置本体内に引き戻す排出ローラと、
前記正回転時に前記モータから前記感光体に駆動力を伝達させ、前記逆回転時には前記モータから前記感光体への駆動力の伝達を切るワンウェイクラッチと、
前記排出ローラで引き戻された記録シートを、前記画像形成部に戻すための戻しローラと、
前記モータの回転方向に関わらず、前記戻しローラを常に一定方向に回転させるように前記モータからの駆動力を前記戻しローラに伝達させる回転方向変換機構と、
間隔を置いて配置される一対の係合部を有し、前記モータの回転方向を切り替えたときに、前記各係合部が所定時間後に係合することで前記モータから前記戻しローラへの駆動力の伝達を遅らせるタイムラグ機構とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記一対の係合部は、
前記モータ側に配置される入力ギアと、
前記戻しローラ側に配置される出力ギアとの間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記入力ギアと前記出力ギアは同軸に配置され、
前記一対の係合部は、
前記入力ギアから前記出力ギアに向けて突出する入力側突起部と、
前記出力ギアから前記入力ギアに向けて突出して、前記入力側突起部に前記出力ギアの周方向で係合する出力側突起部とで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記タイムラグ機構は、
前記入力ギアと前記出力ギアとの間に同軸に配置されて回転可能なタイムラグ部材を有し、
前記タイムラグ部材には、
前記入力ギアに向けて突出して、前記入力側突起部に前記周方向で係合する第1突起部と、
前記出力ギアに向けて突出して、前記出力側突起部に前記周方向で係合する第2突起部とが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記タイムラグ部材は、前記入力ギアと前記出力ギアとの間に複数設けられていることを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記タイムラグ部材は、点対称な形状に形成されていること特徴とする請求項4または請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記回転方向変換機構は、
前記モータ側に配置される上流側ギアと、
前記戻しローラ側に配置される下流側ギアと、
前記下流側ギアと噛み合う回転方向変換ギアと、
前記上流側ギアの周りを移動することで、前記下流側ギアおよび前記回転方向変換ギアのいずれか一方に噛み合い可能な遊星ギアと、を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−275075(P2010−275075A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130048(P2009−130048)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】