説明

画像形成装置

【課題】 インク飛翔時のインク面での不安定さを解消し、インク飛翔を安定化させるとともに、印字速度を向上させることができる画像形成装置を得る。
【解決手段】 圧電体を使用し、圧電体の共振により発生した放射圧によりインクを飛翔させるノズルレス音響インクジェット方式による画像形成装置において、飛翔用振動子としての圧電体15に加えて、印字期間中安定したメニスカスを継続的に形成させるためのメニスカス発生用手段として超音波振動子16を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体の共振により発生した放射圧によりインクを飛翔させるノズルレス音響インクジェット方式による画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の画像形成装置として、音波発生手段によって発生させた音波によりインク自由表面よりインクをインクの自由表面に集束させ、吐出させることにより、インク自由表面と対向する位置にある画像記録媒体に印字を行なわせるノズルレス方式のインク記録装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−276622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来のノズルレス音響インクジェット方式では、インク飛翔後にインク面が不安定になり、次のインク飛翔が不安定になるという問題を生じている。
さらに、インク層表面が安定するまで次の印字を行うことがないので、印字速度の低下という問題が生じていた。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、インク飛翔時のインク面での不安定さを解消し、インク飛翔を安定化させるとともに、印字速度を向上させることができる画像形成装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る画像形成装置は、圧電体を使用し、圧電体の共振により発生した放射圧によりインクを飛翔させるノズルレス音響インクジェット方式による画像形成装置において、メニスカス発生用手段を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明(請求項2記載の発明)に係る画像形成装置は、請求項1において、メニスカス発生手段は、超音波振動子であることを特徴とする。
【0008】
本発明(請求項3記載の発明)に係る画像形成装置は、請求項1において、メニスカス発生手段として、複数の超音波振動子を用いることを特徴とする。
【0009】
本発明(請求項4記載の発明)に係る画像形成装置は、請求項3において、複数のメニスカス発生用超音波振動子の出力を可変させるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明に係る画像形成装置によれば、飛翔用振動子とメニスカス形成用振動子とを配置することにより、安定したメニスカスを形成し、インク層表面を安定化することが可能になり、その結果インク飛翔の安定化および印字速度の向上を行うことができる。
【0011】
また、本発明によれば、連続してメニスカスを形成することができるから、インク層表面の安定化が可能になり、印字速度の向上を行うことができる。さらに、インク飛翔用振動子の間隔を狭くすることができるから、記録解像度の向上が可能になるという利点もある。
【0012】
また、本発明によれば、メニスカス形成用振動子の出力を可変させることにより、インク飛翔方向の制御も可能になるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1ないし図6は本発明に係る画像形成装置の第1実施形態を示し、これらの図において、本発明の画像形成装置は、ノズルレス音響インクジェット記録方式によるものであって、インクを記録紙へ選択的に飛翔させて、記録パターンを記録紙上に作成するようになっている。
その模式的断面図を図1に示す。
【0014】
これを簡単に説明すると、この画像形成装置は、大きく分けて給紙部A、記録部B、排紙部Cで構成されている。
給紙部Aは、給紙カセット1、給紙ローラ2で構成され、不図示の中央演算装置から送られてくる給紙データに応じて記録部Bへ用紙Pを供給する。
【0015】
記録部Bは、搬送ローラA3、搬送ローラB7、プラテンローラ4、記録ヘッド5で構成されている。記録ヘッド5はライン型を採用する。
記録ヘッド5には、インクタンク6が接続されている。印字データに応じて記録ヘッド5からインクIが用紙Pへ向けて飛翔し、記録が行われる。必要に応じてインクタンク6からインクが記録ヘッド5へ供給される。
【0016】
記録部Bで記録が完了した用紙Pは、搬送ローラB7の回転により排紙部Cへ向かう。
排紙部Cでは、記録が完了した用紙Pをスタックする。
【0017】
記録ヘッド5の構成を図2、3、4に示す。
本発明では、音響インクジェット方式を採用する。
記録ヘッド5は、インク飛翔用の振動子A15とメニスカス発生用の振動子B16、ガラス基板9、インク搬送路13で構成されている。
【0018】
これらの振動子A15、振動子B16の構造を図3(A),(B)に示す。
すなわち、インク飛翔用振動子A15は、図3(A)に示すように、インクに接する面を防水膜14で覆われており、インクが振動子A15内の電極に直接触れないような構造になっている。
また、この振動子Aは、圧電体11を共通電極12とセグメント電極10とで挟み込む形で配置されている。
【0019】
振動子B16は、図3(B)に示すように、振動子A15とはガラス基板9を挟んだ両側に配置され、振動子同士の中心は同一になるようになっている。
そして、この振動子B16も、圧電体19を電極17,18で挟み込む形になっている。
【0020】
図4にインク搬送路13側から見た振動子A15と振動子B16の位置を示す。ここでは、説明のために防水膜14は、省略している。
振動子A15と振動子B16は、ガラス基板9を挟んで配置され、振動子A15は、振動子B16毎に配置されている。
ここで、本発明によれば、振動子B16は、コイン型の形状をしており、その位置は、点線で示している。
【0021】
図5に振動子B16の機能を示す。
不図示の制御装置から連続交流電圧が振動子B16に印加されると、振動子B16は超音波を発生し、超音波がガラス基板9を伝播しインク搬送路13のインク表面にメニスカス20を形成する。メニスカス20の高さは、振動子B16で発生する超音波の音圧によって決まる。振動子B16の機能は、上述したようにインク層表面にメニスカス20を形成するだけである。
【0022】
振動子A15には、印字データに応じて高周波のバースト波が印加される。
図6に示すように振動子B16の動作によりメニスカス20が形成されているインク層に振動子A15から高周波の超音波が印加されるとメニスカス20先端からインク21が飛翔する。飛翔したインク21が不図示の用紙Pに到達することにより印字が完了する。
【0023】
メニスカス20が振動子B16によって形成されていない場合でも、振動子A15によって、インクを飛翔させることは可能であるが、振動子A15のみでインクを飛翔させると振動子A15に印加される高周波のバースト波毎にメニスカスが形成、インク飛翔を繰り返す。この場合、メニスカスが生成、消滅するのを繰り返すとインク層表面の状態が不安定になり、インク飛翔方向が不安定になると言う不具合が生ずる。メニスカスが消滅しインク表面が安定してから次の高周波バースト波を印加すれば、インク飛翔は安定するが、インク表面が安定するまでに時間が掛かり、記録速度が低下する不具合も生ずる。
【0024】
さらに、振動子A15に印加するエネルギーが高くなり、振動子A15自体が発熱し、圧電体11の温度が高くなると圧電体11の熱破壊の危険が発生する。
本発明では、振動子B16によって印字時間中は連続してメニスカス20が形成されるため、インク層表面は振動せずに安定している。そのため、振動子A15に印加される高周波バースト波毎にメニスカスが発生、消滅を繰り返しインク層表面が振動することがなくなる。そして、インク層表面が振動せずに安定しているので、印字間隔を短くすることが可能になり、高速印字が実現できる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、振動子A15と振動子B16とで機能を分離したので、それぞれの振動子に印加するエネルギーを低くすることが可能になる。そのため、振動子の熱破壊の危険性が低減される。
【0026】
本発明では、振動子A15の圧電体11には、ZnOを用いている。振動子B16の圧電体19には、PZTを用いている。
圧電体19には、2.4MHzの連続交流電圧が印加され、インク層にメニスカス20を形成する。圧電体11には、260MMzのバースト波が印加される。
本発明では、1dotのインク飛翔を行うのにバースト長は、5μsecであった。メニスカス20が振動子B16により安定して形成されているので、インク層表面が安定している。これにより、バースト波の繰り返し周波数は、10Khzまではインク飛翔が可能であった。
【0027】
従来例では、インク飛翔時には事前にメニスカス20が形成されていない。インク飛翔に必要なバースト長は、20μsecとなり、本発明よりも長くする必要がある。
さらに、インク飛翔後、インク層表面はインク飛翔毎に振動する。次のインク飛翔を行うにはインク層表面が安定している必要があるので、安定するまで次のインク飛翔を行うことができない。バースト波の繰り返し周波数の上限は1Khzまでとなり、本発明の実施例よりも印字速度の向上は行えなかった。
【0028】
以上の構成によれば、飛翔用振動子15とメニスカス形成用振動子16とを配置することにより、安定したメニスカス20を形成し、インク層表面を安定化することが可能になり、その結果としてインク飛翔の安定化および印字速度の向上を行うことが可能になるものである。
【0029】
ここで、上述した実施形態の構成において、図7に示すように、振動子B16への入力電圧を変化させることにより、メニスカス20のサイズが変化させることが可能である。これにより、メニスカス20のサイズにより飛翔インク21のサイズを変化させることができるので、濃度階調が可能になる。
【0030】
図8ないし図10は本発明の第2実施形態を示す。
すなわち、この実施形態では、メニスカス形成用振動子1個に対して、複数個の飛翔用振動子を対応させる。この場合のレイアウトを図8に示す。この図8は、ガラス基板9をインク搬送路13側から見たものである。防水膜14は説明の為に省略してある。
振動子B16は、ガラス基板9の反対側に配置されるが、説明の為に点線で位置を示した。振動子B16A,Bは、長方形2枚で振動子A15を挟み込む形でレイアウトされている。
【0031】
図8の矢印Aの方向から見た模式的断面図を図9,10に示す。
図9に示すようにインク飛翔用振動子A15を挟む形で、メニスカス発生用振動子B16A,Bはガラス基板9上に配置されている。振動子B16A,Bにメニスカス形成用の波形が入力されると図10に示すようにメニスカス22が形成される。
【0032】
なお、上記の第1実施形態のように、コイン型振動子B16を使った場合、メニスカス20は円錐状に形成される。一方、この第2実施形態の場合、長方形の振動子B16A,Bを2枚使用すると超音波が干渉し、振動子B16ABの長手方向に伸びている振動子A15を頂点としたメニスカス22が形成される。
【0033】
図8の矢印Cの方向から見たメニスカス22の様子を図11に示す。
また、図8の矢印Bの方向から見た断面図を図12に示す。
すなわち、この図12に示すように印字データに応じた高周波交流電圧が振動子A15に印加されるとメニスカス22の先端からインクが飛翔する。メニスカス22は、振動子B16A,Bによって形成されているので、第1実施形態と同様にメニスカス22の状態は、振動子A15の状態に関係なく保持されている。したがって、高速印字にも対応可能である。
【0034】
さらに、上述した第1実施形態では、円錐状のメニスカス20が形成されるので、メニスカス20同士が干渉しないように振動子A15の間隔を調整する必要があったが、実施例2では、メニスカス22は長手方向に連続的に形成されるので、振動子A15の間隔を狭めることが可能になり高密度印字が可能になる。
【0035】
また、メニスカス発生用振動子B16A,Bに入力される連続交流電圧の電圧を通常印字の場合同一としているが、振動子B16Aに入力する電圧と振動子B16Bに入力する電圧とに差をつけると、前述した図7で例示したようにメニスカス22の状態が変化する。
【0036】
ここで、振動子B16Aに入力される電圧をAとする。振動子B16Bに入力される電圧をBとする。
入力する電圧がA=Bの場合、図13(A)に示すように、振動子A15上にメニスカス22の先端が保持され、この状態で振動子A15に記録信号が入力されるとインクは垂直に飛翔する。また、A<Bの場合、図13(B)に示すように、メニスカス22は、振動子B16Aの方向に傾く。この状態で、振動子A15に記録信号が入力されるとインクは、メニスカス22の傾いた方向に飛翔する。
【0037】
さらに、A>Bの場合も同様にメニスカス22を傾けることができるので、図13(C)に示すように、メニスカス22の傾いた方向にインクを飛翔させることが可能になる。
すなわち、振動子B16A,Bに入力する電圧を制御することにより、インクの飛翔方向を制御することが可能となる。
【0038】
上述した第2実施形態での構成によれば、連続してメニスカスを形成することが可能になるので、インク層表面の安定化が可能になり、印字速度の向上を行うことができる。
【0039】
また、インク飛翔用振動子の間隔を狭くすることができるので、記録解像度の向上が可能になる。
さらに、メニスカス形成用振動子B16A,Bの出力を可変させることによりインク飛翔方向の制御も可能になる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、画像形成装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る画像形成装置の第1実施形態を示し、その模式的断面図である。
【図2】本発明に係る画像形成装置における記録ヘッドの詳細図である。
【図3】(A),(B)はインク飛翔用振動子A、メニスカス発生用振動子Bの詳細図である。
【図4】インク搬送路側から見た振動子Aと振動子Bの位置を示す図である。
【図5】振動子Bの機能を示す図である。
【図6】図5の振動子Bの動作を説明するための説明図である。
【図7】振動子Bへの入力電圧を変化させた場合の説明図である。
【図8】本発明に係る画像形成装置の第2実施形態を示す概略平面図である。
【図9】図8の矢印A方向から見た模式的断面図である。
【図10】図8の矢印A方向から見た模式的断面図であって、メニスカスを形成した場合の説明図である。
【図11】図8の矢印C方向から見た図である。
【図12】図8の矢印B方向から見た図である。
【図13】(A),(B),(C)は、振動子B16A、16Bに入力する電圧の大小関係を変化させた場合の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
5…記録ヘッド、6…インクタンク、9…ガラス基板、10…セグメント電極、11…圧電体A、12…共通電極、13…インク搬送路、14…防水膜、15…インク飛翔用振動子A、16;16A,16B…メニスカス形成用振動子B、17,18…電極、19…圧電体、20…メニスカス、21…インク、22…メニスカス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体を使用し、圧電体の共振により発生した放射圧によりインクを飛翔させるノズルレス音響インクジェット方式による画像形成装置において、
メニスカス発生用手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像形成装置において、
前記メニスカス発生手段は、超音波振動子であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1記載の画像形成装置において、
前記メニスカス発生手段として、複数の超音波振動子を用いることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項3記載の画像形成装置において、
複数のメニスカス発生用超音波振動子の出力を可変させるように構成したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−52314(P2010−52314A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220715(P2008−220715)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】