説明

画像形成装置

【課題】特に粗悪紙が用いられる場合においてジャムの発生を抑制することが可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】画像形成装置1は、シートSを搬送するための搬送路26と、シートSが搬送路26における所定の位置に搬送されるまでに要する搬送時間に基づいて予め設定されているジャム判定時間内にシートSが所定の位置に搬送されなかったとき、ジャムが発生したと判定するジャム発生判定部41と、シートSを所定の位置に搬送する搬送ローラ27であって、シートSを搬送する際に搬送音を発生させる搬送ローラ27と、搬送ローラ27の近傍に配置され、搬送音を収音する収音器32と、予め定められた条件に従って収音された搬送音が異常音であるか否かを判定する搬送音判定部43と、搬送音が異常音であると判定されたとき、ジャム判定時間を変更する変更部45とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートのジャムの発生を判定する判定部を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機等の画像形成装置は、画像形成部に向けてシートを搬送するための搬送路と、シートを搬送路において搬送する搬送ローラと、搬送路においてジャムが発生したことを判定するジャム発生判定部を有する。ジャム発生判定部は、シートが所定のジャム判定時間(所定の搬送時間)内に搬送路における所定の位置に到達できないとき、ジャムが発生したと判定する。
【0003】
ジャム発生の主要因は、搬送ローラの耐久劣化である。搬送ローラが耐久劣化すると、搬送ローラとシートとの間の摩擦係数が低くなり、搬送ローラは搬送の際にシートに対してスリップし易くなる。そのため、シートをジャム判定時間内に搬送することが難しくなって、ジャムが発生し易くなる。搬送ローラが耐久劣化した場合でもジャムの発生を抑制する技術として、特許文献1のものが知られている。
【0004】
特許文献1の画像形成装置では、搬送した所定枚数Nのシートの搬送時間を平均化し、平均化して得られた搬送時間が規定値よりも大きくなり、シートの搬送が経年的に遅くなっていると判定されたとき、ジャム判定時間が延ばされる。言い換えれば、搬送ローラの耐久劣化の度合いに応じてジャム判定時間が延ばされる。これにより、分当たりの印字枚数が減少するものの、ジャムの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−351281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジャム発生の他の要因として、粗悪紙と呼ばれるシートが挙げられる。粗悪紙の表面には多量の紙紛が付着しているため、搬送ローラが粗悪紙を搬送する際に搬送ローラの表面に多量の紙紛が付着する。この付着した紙紛によって搬送ローラが粗悪紙に対してスリップし易くなる。そのため、粗悪紙をジャム判定時間内に搬送することが難しくなり、ジャムが発生し易くなる。
【0007】
粗悪紙は、購入したばかりの新しい画像形成装置においても、または耐久劣化していない搬送ローラを有する画像形成装置においても、初期印字時からわずか100枚〜3000枚程度の印字でジャムを発生させる。このように、画像形成装置自体に欠陥が無いにも関わらず、シートに起因してジャムが発生するため、画像形成装置の信用が低下してしまう。
【0008】
上記した特許文献1の画像形成装置は、搬送ローラの耐久劣化に対応してジャムの発生を抑制するものであって、粗悪紙の紙紛に起因して初期印字時からわずか100枚〜3000枚程度の印字で発生するジャムに対応するものではない。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、特に粗悪紙が用いられる場合においてジャムの発生を抑制することが可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る画像形成装置は、シート上に画像を形成する画像形成動作を行う画像形成部と、前記シートを前記画像形成部に向けて搬送するための搬送路と、前記シートが前記搬送路における所定の位置に搬送されるまでに要する搬送時間に基づいて予め設定されているジャム判定時間内に前記シートが前記所定の位置に搬送されなかったとき、ジャムが発生したと判定するジャム発生判定部と、前記シートを前記所定の位置に搬送する搬送ローラであって、前記シートを搬送する際に搬送音を発生させる搬送ローラと、前記搬送ローラの近傍に配置され、前記搬送音を収音する収音器と、予め定められた条件に従って収音された搬送音が異常音であるか否かを判定する搬送音判定部と、前記搬送音が異常音であると判定されたとき、前記ジャム判定時間を変更する変更部とを含む。
【0011】
本発明に係る画像形成装置によれば、搬送ローラの搬送音に基づいてジャムの発生が抑制される。具体的には、本発明に係る画像形成装置では、搬送ローラの近傍に配置された収音器によって、搬送ローラとシート間のスリップ音や、スリップによって搬送ローラを保持する筐体が振動して発生する共振音などの搬送音が収音される。収音される搬送音は、例えば搬送ローラによるシートの搬送動作に不具合が生じたときに異常音となる。異常音が発生したとき、シートをジャム判定時間内に搬送路における所定の位置に搬送することが難しくなるので、ジャムの頻度が高くなる。しかしながら、本発明に係る画像形成装置では、異常音が発生したとき、変更部はジャム判定時間を変更する。例えば、異常音発生時の適正な判定時間を予め設定しておき、ジャム判定時間をその判定時間に変更することで、ジャムの頻度を低減できる。このように、本発明に係る画像形成装置では、搬送ローラの搬送音を利用しているので、シート上に画像を形成する印字動作の初期時であっても、ジャムの頻度が低減される。
【0012】
本発明に係る好ましい実施形態では、画像形成装置は、さらに、前記搬送音の正常音を予め記憶する記憶部を含み、前記搬送音判定部は、前記収音器によって収音される前記搬送音と、前記記憶部に記憶されている前記正常音とを比較して、前記搬送音が前記異常音となっているか否かを判定する。
【0013】
この構成によれば、記憶部に記憶されている搬送音の正常音に基づき、搬送音が異常音となっているか否かが判定されるので、変更部によるジャム判定時間の変更は適切なものとなる。
【0014】
本発明に係る他の好ましい実施形態では、前記変更部は、前記ジャム判定時間を変更した後、新たな画像形成動作時において前記搬送音判定部によって前記異常音が発生していないと判定されたとき、変更した前記ジャム判定時間を当初の判定時間に戻す。
【0015】
この構成によれば、異常音が発生しなくなったとき、変更部は、変更したジャム判定時間を当初の判定時間に戻すので、ジャム発生判定部41は、経年劣化に起因する搬送遅延によるジャム発生の判定を迅速に行うことができる。
【0016】
本発明に係る他の好ましい実施形態では、前記異常音は、前記搬送ローラが前記シートを搬送するときに前記シートに対してスリップすることで発生するスリップ音であり、前記変更部は、前記スリップ音が収音されたとき、前記ジャム判定時間を延ばす。
【0017】
搬送ローラがシートに対してスリップすると、シートをジャム判定時間内に搬送路における所定の位置に搬送することが難しくなる。しかしながら、この構成によれば、変更部は、スリップ音が収音されたとき、ジャム判定時間を延ばすので、その延長時間分だけ搬送ローラによる搬送動作が継続して行われる。そのため、シートがジャム判定時間内に所定の位置に到達する可能性が高くなる。これにより、ジャムの頻度が低減される。このように、本実施形態に係る画像形成装置1では、ピックアップローラ27の搬送音を利用しているので、シートS上にトナー像を形成する印字動作の初期時(例えば累積印字枚数が約100〜5000枚)であっても、ジャムの頻度が低減される。
【0018】
本発明に係るさらに他の好ましい実施形態では、画像形成装置は、さらに、前記シートの束が貯留される給紙カセットを含み、前記搬送ローラは、前記給紙カセット中の最上位のシートに接触しつつ前記給紙カセットから前記最上位シートを取り出して、該最上位シートを前記画像形成部に向けて送り出すピックアップローラである。
【0019】
搬送ローラであるピックアップローラは、給紙カセット中の最上位のシートに接触した状態で給紙カセットからその最上位シートを取り出すように構成されている。そのため、特に、紙紛が多量に付着している粗悪紙が用いられる場合や、シートの平滑性が低い場合、ピックアップローラによる最上位シートの取り出しが遅れ易くなり、シートを、搬送路における所定の位置にジャム判定時間内に搬送することが難しくなる。しかしながら、本発明に係る画像形成装置では、ジャム判定時間が変更されるので、搬送ローラがピックアップローラであっても、ジャムの頻度を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る画像形成装置によれば、特に粗悪紙が用いられる場合において、ジャム判定時間が変更されるので、ジャムの頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の外観を示す斜視図である。
【図2】画像形成装置の内部構造を示す断面図である。
【図3】シートの搬送路を模式的に示すと共に、制御部の構成を示す図である。
【図4】ローラおよびシート間の摩擦係数と、印字枚数との間の関係を得るために行った実験の結果を示す図である。
【図5】異常音の発生および搬送遅延に応じたジャム判定時間の変更条件を示す図である。
【図6】変更部によるジャム判定時間の変更に関するフローチャートである。
【図7】変更部によるジャム判定時間の変更に関する他のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置1の外観を示す斜視図、図2は、画像形成装置1の内部構造を示す断面図である。ここでは、画像形成装置1は、いわゆる胴内排紙型の複写機を例示しているが、画像形成装置は、プリンタ、ファクシミリ装置、或いは、これらの機能を備える複合機であってもよい。
【0023】
画像形成装置1は、略直方体形状の筐体構造を有する装置本体2を備える。装置本体2は、シートに対して画像形成処理を行う。装置本体2は、略直方体形状の下部筐体21と、下部筐体21の上方に配設される略直方体形状の上部筐体22と、下部筐体21と上部筐体22とを連結する連結筐体23とを含む。下部筐体21には画像形成のための各種機器が収容され、上部筐体22には原稿画像を光学的に読み取るための各種機器が収容されている。下部筐体21、上部筐体22及び連結筐体23で囲まれる胴内空間が、画像形成後のシートを収容可能な胴内排紙部24とされている。連結筐体23は、装置本体2の右側面の側に配置され、胴内排紙部24へシートを排出するための排出口961(図2)が設けられている。
【0024】
胴内排紙部24として利用される前記胴内空間は、装置本体2の前面及び左側面において外部に開放されている。前記胴内空間の底面241は、下部筐体21の上面で区画され、排出口961から排出されたシートが積載される。
【0025】
上部筐体22の前面には、操作パネルユニット25が突出して設けられている。操作パネルユニット25は、操作キー251及びLCDタッチパネル252などを備え、ユーザからの各種の操作指示の入力を受け付ける。上部筐体22の上には、画像が読み取られる原稿を押さえる押さえカバー226(図2では省いている)が配設されている。
【0026】
下部筐体21には、画像形成処理が施されるシートを収容する給紙カセット211が装着されている。給紙カセット211は、下部筐体21(装置本体2)の前面から手前方向に引出可能である。この給紙カセット211は、自動給紙用に設けられたカセットである。
【0027】
装置本体2の右側面には、手差しトレイMTが装置本体2に対して開閉自在に取り付けられている。ユーザは、手差し給紙を行う場合、手差しトレイMTを開き、その上にシートを載置する。
【0028】
続いて、図2に基づいて、装置本体2の内部構造を説明する。下部筐体21の内部には、上方から順に、トナーコンテナ99Y、99M、99C、99K、中間転写ユニット92、画像形成ユニット93、露光ユニット94、及び上述の給紙カセット211が収容されている。中間転写ユニット92、画像形成ユニット93および露光ユニット94が画像形成動作を行う画像形成部を構成する。
【0029】
画像形成ユニット93は、フルカラーのトナー像(画像)を形成するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の各トナー像を形成する4つの画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kを含む。各画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kは、感光体ドラム11と、感光体ドラム11の周囲に配置された、帯電器12、現像装置13、一次転写ローラ14及びクリーニング装置15とを含む。
【0030】
感光体ドラム11は、その周面に静電潜像及びトナー像が形成される。帯電器12は、感光体ドラム11の周面を均一に帯電する。帯電後の感光体ドラム11の周面は、露光ユニット94によって露光され、静電潜像が形成される。現像装置13は、感光体ドラム11上に形成された静電潜像を現像するために、感光体ドラム11の周面にトナーを供給する。
【0031】
一次転写ローラ14は、中間転写ユニット92の中間転写ベルト921を挟んで感光体ドラム11とニップ部を形成し、感光体ドラム11上のトナー像を中間転写ベルト921上に一次転写する。クリーニング装置15は、トナー像転写後の感光体ドラム11の周面を清掃する。
【0032】
イエロー用トナーコンテナ99Y、マゼンタ用トナーコンテナ99M、シアン用トナーコンテナ99C、及びブラック用トナーコンテナ99Kは、それぞれ各色のトナーを貯留するものであり、対応する現像装置13にトナーを供給する。
【0033】
中間転写ユニット92は、中間転写ベルト921、駆動ローラ922及び従動ローラ923を含む。中間転写ベルト921上には、複数の感光体ドラム11からトナー像が重ね塗りされる(一次転写)。重ね塗りされたトナー像は、給紙カセット211又は手差しトレイMTから供給されるシートに、二次転写部98において二次転写される。
【0034】
連結筐体23の内部には、定着ユニット97と排紙ユニット96とが収納されている。定着ユニット97は、二次転写部98においてトナー像が二次転写されたシートを加熱及び加圧することで、定着処理を施す。定着処理されたカラー画像付のシートは、定着ユニット97の下流に配置されている排紙ユニット96により、排出口961から胴内排紙部24に向けて排出される。
【0035】
次に、図3を参照して、シートSの搬送路26について説明する。図3は、シートSの搬送路26を示す模式図である。装置本体2の下部筐体21内には、シートSを給紙カセット211から二次転写部98まで搬送するための搬送路26が設けられている。搬送路26は、給紙カセット211から二次転写部98にかけて上下方向に延びている。
【0036】
給紙カセット211は、複数のシートSが積層されてなるシート束を収納する。シート束は、シートSの枚数(重量)に応じて昇降する昇降板212上に積載される。
【0037】
搬送路26には、シートSを搬送する複数のローラが配設されている。具体的には、シートSの搬送方向上流側から搬送方向下流側に向けて、ピックアップローラ27、一対の給紙ローラ28および分離ローラ29、一対のコンベヤローラ30、一対のレジストローラ31が、搬送路26に配設されている。これらのローラは、下部筐体21に回転可能に支持されていると共に、図略の駆動源によって回転される。搬送路26は、ピックアップローラ27と一対の給紙ローラ28および分離ローラ29との間に配設されたガイド部材と、一対の給紙ローラ28および分離ローラ29と一対のコンベヤローラ30との間に配設されたガイド部材と、一対のコンベヤローラ30および一対のレジストローラ31間に配設されたガイド部材と、一対のレジストローラ31および二次転写部98間に配設されたガイド部材とによって画定されている。
【0038】
ピックアップローラ27は、給紙カセット211の右端部の上方に位置している。ピックアップローラ27は、昇降板212上のシート束の最上位のシートSに接触しつつ、回転によって最上位のシートSを給紙カセット211から取り出して、該シートSを搬送路26に送り出す。ピックアップローラ27は、本発明の搬送ローラの一例である。
【0039】
給紙ローラ28は、ピックアップローラ27によって送り出されたシートSをさらに下流側に搬送する。分離ローラ29は、給紙ローラ28の回転方向と同一の方向に回転することにより、シートSが給紙カセット211から重送されたときに下側のシートSに接触して重送を防止する。
【0040】
一対のコンベヤローラ30は、給紙ローラ28によって搬送されてくるシートSをさらに下流側に搬送する。一対のコンベヤローラ30の近傍には、手差し給紙用の給紙ローラ41(図2)が配設されている。手差しトレイMT上に載置されたシートは、給紙ローラ41によって一対のコンベヤローラ30に向けて搬送される。
【0041】
一対のレジストローラ31は、一対のコンベヤローラ30によって搬送されてくるシートSの姿勢を矯正すると共に、二次転写のための所定のタイミングでシートSを二次転写部98に搬送する。二次転写部98に搬送されたシートSは、上述したように中間転写ベルト921上のトナー像が二次転写される。
【0042】
一対のレジストローラ31の近傍位置、かつ一対のレジストローラ31よりも搬送方向上流側の位置には、シート検知センサ33が配設されている。シート検知センサ33は、搬送されてくるシートSの先端を検知する。
【0043】
上記構成の搬送路26では、シートSのジャムが発生し得る。シートSのジャムは、例えばピックアップローラ27の耐久劣化に起因して発生する。ピックアップローラ27の表層はゴム層で形成されている。ゴム層が耐久劣化すると、ゴム層とシートSとの間の摩擦係数が低下し、ピックアップローラ27がシートSを搬送するときにシートSに対してスリップし易くなる。スリップが発生すると、シートSを搬送路26における所定の位置に所定の搬送時間内に搬送することが難しくなり、シートSのジャムが発生する。
【0044】
装置本体2は、ユーザにジャムが発生したことを知らせるために制御部40をさらに含む。制御部40は、図3に示すように、ジャム発生判定部41と、シート計測部42とを含む。
【0045】
ジャム発生判定部41は、給紙カセット211から搬送路26に送り出されたシートSがジャム判定時間内にシート検知センサ33によって検知されないとき、シートSのジャムが発生したと判定する。シートSをピックアップローラ27によって搬送路26に送り出して一対のレジストローラ31に搬送するまでに要する搬送時間は、ローラの回転速度を適宜設定する等して出荷時等に予め設定されている。そして、ジャム判定時間は、その所定の搬送時間に基づいて予め設定されたものであって、前記所定の搬送時間に対して所定の時間幅を持たせて設定されている。
【0046】
シート計測部42は、シート検知センサ33による検知に基づいて印字動作時(画像形成時)におけるシートSの実際の搬送時間を計測する。つまり、シート計測部42は、シートSがピックアップローラ27によって給紙カセット211から取り出されて搬送路26に送り出された時点と、シートSが一対のレジストローラ31に到達したことがシート検知センサ33によって検知された時点との間の時間を計測する。
【0047】
そして、ジャム発生判定部41は、シート計測部42によって得た実際のシート搬送時間がジャム判定時間を超えている場合、ジャムが発生したと判定する。ジャムの発生は、報知音によってユーザに知らされる。シート計測部42は、実際のシートSの搬送時間に加え、シートSの搬送枚数(つまり、印字枚数)を計測する。
【0048】
ジャム発生の主要因は、ピックアップローラ27等の耐久劣化であるが、他の要因として、粗悪紙と呼ばれるシートが挙げられる。粗悪紙の表面には多量の紙紛が付着しているため、ローラが粗悪紙を搬送する際にローラの表面に多量の紙紛が付着する。特にピックアップローラ27は、他のローラと異なり、対をなしていないため、給紙カセット211からシートSを取り出すとき、付着した紙紛によって粗悪紙に対してスリップし易い。
【0049】
ピックアップローラ27がシートSに対してスリップすると、シートSをジャム判定時間内に一対のレジストローラ31に搬送することが難しくなり、シートの一対のレジストローラ31への到達が遅れる。そのため、ジャム発生判定部41により、実際にはピックアップローラ27が正常に回転しているにも関わらず、ジャムが発生していると判定される頻度が高くなる。
【0050】
粗悪紙に対するスリップは、付着した紙紛に起因するローラ表面およびシートS間の摩擦係数の急激な低下によって発生する。図4は、摩擦係数と印字枚数との間の関係を得るために行った実験の結果を示す図である。実験では、ローラ表層のゴム材料が異なる4つのローラA、ローラB、ローラCおよびローラDが用いられた。また、実験では、ローラA〜Dを一定の荷重で粗悪紙に対して固定した状態で粗悪紙のみを引っ張ることで、ローラA〜Dのローラ表面および粗悪紙間の摩擦係数と、印字枚数との関係が調べられた。
【0051】
図4に示すように、全てのローラA〜Dにおいて、印字枚数が約5000枚に達するまでに摩擦係数の急激な低下が確認された。また、摩擦係数の低下は、全てのローラA〜Dにおいて約100枚の印字後から確認された。
【0052】
図4に示す結果から明らかなように、粗悪紙は、購入したばかりの新しい画像形成装置1においても、または耐久劣化していないピックアップローラ27を有する画像形成装置1においても、初期印字時からわずか100枚〜5000枚程度の累積印字枚数でジャムを発生させる。このように、画像形成装置1自体に欠陥が無いにも関わらず、ジャムが発生するため、画像形成装置1の信用が低下してしまう。
【0053】
そこで、本実施形態では、粗悪紙が用いられる場合においてジャムの頻度を低減するために、装置本体2は、収音器32をさらに含むと共に、制御部40は、搬送音判定部43、記憶部44および変更部45をさらに含む。
【0054】
収音器32は、ピックアップローラ27の近傍位置に配設されている。収音器32は、例えば小型マイクであり、ピックアップローラ27の搬送音を収音する。ピックアップローラ27は、シートSを給紙カセット211から取り出して該シートSを搬送路26に送り出すとき、搬送音を発生させる。搬送音は、ピックアップローラ27のシートSに対する接触動作に起因する摩擦音や、ピックアップローラ27がシートSに接触しつつ回転するときに発生するローラ軸の振動音等である。
【0055】
搬送音判定部43は、収音器32によって収音されるピックアップローラ27の搬送音が異常音となっているか否かを判定する。粗悪紙が用いられているとき、ピックアップローラ27は粗悪紙に対してスリップし易いため、ピックアップローラ27のローラ軸が振動して、ブー音やゴー音と呼ばれるスリップ音が発生する。このようなピックアップローラ27によるシート搬送動作に不具合が生じたときに発生する音が異常音である。搬送音判定部43は、ピックアップローラ27がシートSを取り出す度に搬送音の判定を行ってもよいし、所定の枚数毎に搬送音の判定を行ってもよい。
【0056】
搬送音判定部43は、搬送音に対して、例えばバンドパスフィルタ処理を行うことにより、搬送音の判定を行う。搬送音判定部43は、バンドパスフィルタ処理のために、例えば、搬送音を増幅させる増幅器、搬送音を約100Hz〜500Hzの周波数帯で通すバンドパスフィルタ回路、フィルタされた搬送音を数値化(例えばdBで表される評価値)する演算回路等を含む。
【0057】
記憶部44は、ピックアップローラ27の搬送音の正常音を、約100Hz〜500Hzの周波数帯において数値化したもの、例えばdBで表される基準値を記憶する。正常音は、ピックアップローラ27がシートSに対してスリップすることなく給紙カセット211から取り出すときに発生させる音である。
【0058】
搬送音判定部43は、評価値と基準値とを比較して、評価値が基準値よりも大きいとき、搬送音が異常音であると判定する。
【0059】
変更部45は、搬送音判定部43によって搬送音が異常音であると判定されたとき、ジャム判定時間を変更する。具体的には、変更部45は、搬送音が異常音であると判定されたとき、ジャム判定時間を延ばす。異常音発生時の適正な判定時間は予め設定されており、変更部45は、ジャム判定時間をその判定時間に変更する。異常音発生時の適正な判定時間とは、例えば、予め定められているジャム判定時間と、シートSのレジストローラ31への到達が遅れる分の遅延時間とを合算したものである。そして、ジャム発生判定部41は、その延ばされたジャム判定時間に基づいてジャムの発生を判定する。
【0060】
また、変更部45は、ジャム判定時間を変更した後であっても、搬送音が異常音から正常音に戻り、搬送音判定部43によって搬送音が異常音となっていないと判定されたとき、変更したジャム判定時間(延ばされたジャム判定時間)をクリアし、ジャム判定時間を予め設定されている当初の判定時間に戻す。そして、ジャム発生判定部41は、当初のジャム判定時間に基づいてジャム発生の判定を行う。
【0061】
図5は、異常音の発生および搬送遅延に応じたジャム判定時間の変更条件を示す図である。搬送遅延とは、シートSがジャム判定時間内に搬送されないときのことである。同図に示すように、異常音が発生していると共に、搬送遅延が発生しているとき、変更部45は、ジャム判定時間を延ばす。
【0062】
また、異常音が発生していない一方、搬送遅延が発生しているとき、変更部45は、ジャム判定時間を変更しない。搬送遅延のみが発生している場合、ピックアップローラ27は、粗悪紙の紙紛に起因してスリップしているのではなく、経年劣化によるピックアップローラ27およびシートS間の摩擦係数の低下に起因してスリップしているため、変更部45はジャム判定時間を変更しない。経年劣化に起因する搬送遅延が発生した場合、ジャム発生の判定が行われることが好ましい。
【0063】
さらに、搬送遅延が発生していない一方、異常音が発生しているとき、変更部45は、ジャム判定時間を延ばす。搬送遅延が発生していなくとも、異常音が発生していれば、ジャムが近々発生する可能性が高いからである。つまり、変更部45は、搬送遅延の有無に関わらず、異常音が発生していればジャム判定時間を延ばす。
【0064】
さらに、異常音の発生および搬送遅延の発生の両方がないとき、変更部45はジャム判定時間を変更しない。
【0065】
次に、変更部45によるジャム判定時間の変更を、図6のフローチャートを参照しながら説明する。まず、印字動作が開始されると、収音器32によってピックアップローラ27の搬送音の収音が開始される(ステップS1)。搬送音判定部43は、収音情報である搬送音に対してフィルタ演算を行って評価値を抽出する(ステップS2)。そして、評価値が基準値よりも大きいと判定された場合(ステップS3においてYES)、搬送音判定部43は、異常音が発生していると判定する(ステップS4)。次に、ステップS5において、変更部45は、搬送音判定部43による判定に基づいてジャム判定時間を変更する(延ばす)。
【0066】
一方、評価値が基準値よりも小さいと判定された場合(ステップS3においてNO)、搬送音判定部43は、異常音が発生していないと判定する(ステップS6)。ジャム発生判定部41は、シート計測部42によるシートSの搬送時間の検出に基づき(ステップS7)、シートSがジャム判定時間内に検知されたか否かを判定する(ステップS8)。シートSがジャム判定時間内に検知された場合(ステップS8においてYES)、ジャム発生判定部41は、ジャムが発生していないと判定する(ステップS9)。
【0067】
一方、シートSがジャム判定時間内に検知されなかった場合(ステップS8においてNO)、ジャム発生判定部41は、ジャムが発生していると判定し、LCDタッチパネル252にジャムの発生を表示したり、報知音を発生させたりする(ステップS10)。
【0068】
また、ジャム判定時間が変更された状態で新たな印字動作(画像形成動作)が行われる場合においても、図7に示すように、収音器32によってピックアップローラ27の搬送音の収音が開始され(ステップS11)、搬送音判定部43により、収音情報である搬送音に対してフィルタ演算が行われて評価値が抽出される(ステップS12)。そして、搬送音判定部43により、異常音が発生していないと判定された場合(ステップS13)、変更部45は、ステップS5において変更したジャム判定時間(延ばされたジャム判定時間)をクリアし(ステップS14)、ジャム判定時間を、予め設定されている当初の判定時間に戻す(ステップS15)。そして、この状態で印字動作が行われる。なお、ステップ12において得られた評価値に基づいて異常音が依然として発生していると判定された場合、変更部45は、ステップS5において変更したジャム判定時間を維持する。そして、その状態で印字動作が行われる。このように、変更部45は、異常音が最早発生していないと判定された場合、ジャム判定時間を当初の判定時間に戻す一方、異常音が依然として発生していると判定された場合、変更したジャム判定時間を維持する。
【0069】
ジャム判定時間が当初の判定時間に戻されたとき、ジャム発生判定部41は、その当初のジャム判定時間に基づいてジャム発生の判定を行う。これにより、ジャム発生判定部41は、経年劣化に起因する搬送遅延によるジャム発生の判定を迅速に行うことができる。
【0070】
以上説明した本実施形態に係る画像形成装置1によれば、ピックアップローラ27の搬送音に基づいてジャムの頻度が低減される。具体的には、搬送音判定部43により、搬送音が異常音(スリップ音)となっていると判定されたとき、変更部45は、ジャム判定時間を延ばす。特に粗悪紙が用いられている場合、ジャム判定時間は延ばされるので、その延長時間分だけ搬送動作が継続して行われる。そのため、粗悪紙がジャム判定時間内に一対のレジストローラ31に到達する可能性が高くなる。これにより、ジャムの頻度が低減される。このように、本実施形態に係る画像形成装置1では、ピックアップローラ27の搬送音を利用しているので、シートS上にトナー像を形成する印字動作の初期時(例えば累積印字枚数が約100〜5000枚)であっても、ジャムの頻度が低減される。
【0071】
また、本実施形態に係る画像形成装置1によれば、搬送音判定部43は、記憶部44に記憶されている搬送音の正常音に基づき、搬送音が異常音となっているか否かを判定するので、変更部45によるジャム判定時間の変更を適切なものとすることができる。
【0072】
また、本実施形態に係る画像形成装置1によれば、粗悪紙の紙紛の影響を受け易いピックアップローラ27に対して収音器32が配置されているので、ジャムの頻度を確実に低減することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 画像形成装置
2 装置本体
26 搬送路
27 ピックアップローラ(搬送ローラ)
32 収音器
40 制御部
41 ジャム発生判定部
43 搬送音判定部
44 記憶部
45 変更部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート上に画像を形成する画像形成動作を行う画像形成部と、
前記シートを前記画像形成部に向けて搬送するための搬送路と、
前記シートが前記搬送路における所定の位置に搬送されるまでに要する搬送時間に基づいて予め設定されているジャム判定時間内に前記シートが前記所定の位置に搬送されなかったとき、ジャムが発生したと判定するジャム発生判定部と、
前記シートを前記所定の位置に搬送する搬送ローラであって、前記シートを搬送する際に搬送音を発生させる搬送ローラと、
前記搬送ローラの近傍に配置され、前記搬送音を収音する収音器と、
予め定められた条件に従って収音された搬送音が異常音であるか否かを判定する搬送音判定部と、
前記搬送音が異常音であると判定されたとき、前記ジャム判定時間を変更する変更部と、
を備えた画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、
さらに、前記搬送音の正常音を予め記憶する記憶部を備え、
前記搬送音判定部は、前記収音器によって収音される前記搬送音と、前記記憶部に記憶されている前記正常音とを比較して、前記搬送音が前記異常音となっているか否かを判定する画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の画像形成装置において、
前記変更部は、前記ジャム判定時間を変更した後、新たな画像形成動作時において前記搬送音判定部によって前記異常音が発生していないと判定されたとき、変更した前記ジャム判定時間を当初の判定時間に戻す画像形成装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記異常音は、前記搬送ローラが前記シートを搬送するときに前記シートに対してスリップすることで発生するスリップ音であり、
前記変更部は、前記スリップ音が収音されたとき、前記ジャム判定時間を延ばす画像形成装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
さらに、前記シートの束が貯留される給紙カセットを備え、
前記搬送ローラは、前記給紙カセット中の最上位のシートに接触しつつ前記給紙カセットから前記最上位シートを取り出して、該最上位シートを前記画像形成部に向けて送り出すピックアップローラである画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131579(P2012−131579A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282805(P2010−282805)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリュ−ションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】