説明

画像形成装置

【課題】分解能の低いプロペラをエンコーダシートの代わりに使用しても、DCモーターを狙いの回転速度に制御する。
【解決手段】ASIC203の前段に、逓倍回路210、211を設ける。分解能の低いエンコーダパルスセンサ103からの信号でも、逓倍回路210、211で周波数を逓倍することによりエンコーダパルス周期をサンプリング周期に対して十分に高くすることで、高精度にDCモーターの回転数、回転速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度にDCモーターの速度を制御する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像形成装置に用いられている、インクをインクカートリッジからキャリッジへ送り出すための動力となるDCモーターは、インクを送り出す量・速度を管理していることから、高精度な回転数と回転速度の制御が必要となる。
【0003】
そこで、DCモーターの軸にインクリメンタル型のエンコーダシートを取り付け、これをエンコーダセンサで読み取り、検出されたパルスの数からASICのソフト処理で回転の向き、回転数、回転速度を割り出し、DCモーターの制御アルゴリズムにフィードバックすることでDCモーターの回転の向き、回転数、回転速度を制御している。
【0004】
しかし、エンコーダシートは、その透過部にインクミストの汚れが付着してしまうと、透過部と遮光部の見分けがつかなくなり、エンコーダパルス信号が仕様通りに発生しなくなり、その結果、狙いの回転の向き、回転数、回転速度を制御できなくなるという問題が発生する。
【0005】
そこで、エンコーダシートの透過部を切り抜き、穴を開けることによってミストの汚れが透過部に付着しないようにする技術がある(例えば、特許文献1を参照)。この際に透過部のみに正確に穴を開けたエンコーダシートを作ることは技術的に難しく、特にプリンタで頻繁に使用される300dpi、150dpiのエンコーダシートにおいては高度な穴開け精度が必要とされ、生産性に難があるため、大幅に解像度(dpi)を落としたエンコーダシートまたは透過部と遮光部を非常に広く取ったプロペラをエンコーダセンサの部材読み取り用として使用する方法がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように大幅に解像度を落としたエンコーダシートまたは透過部と遮光部を非常に広く取ったプロペラを、エンコーダセンサの部材読み取り用として使用すると、サンプリング周期に対してパルス周期が長すぎるため、DCモーターの高精度な回転の向き、回転数、回転速度の制御ができなくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたもので、
本発明の目的は、大幅に解像度を落としたエンコーダシートまたは透過部と遮光部を非常に広く取ったプロペラを、エンコーダセンサの部材読み取り用として使用しても、高精度にDCモーターの速度を制御する画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、インクカートリッジからキャリッジへインクを送り出す動力となるDCモーターと、前記DCモーターの軸に取り付けられ、透過部と遮光部を有するプロペラと、前記プロペラの透過部と遮光部を検知する検知手段と、前記検知手段から出力される、互いに位相が90度ずれたパルスの周波数を逓倍する逓倍手段と、前記周波数が逓倍されたパルスをPWM信号に変換して出力する第1の制御手段と、前記PWM信号を高圧系のPWM信号に変換して前記DCモーターに出力する第2の制御手段を備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エンコーダセンサを用いてDCモーターの回転数、回転速度、回転の向きを制御する場合に、分解能の低いエンコーダパルス信号でも、逓倍回路において周波数を逓倍することによりエンコーダパルス周期をサンプリング周期に対して十分に高くし、高精度に回転数、回転速度を制御できる高分解能のパルスを生成し、またエンコーダセンサを用いてA相、B相信号により回転の向きも検知しているので、大幅に解像度を落としたエンコーダシートまたは透過部と遮光部を非常に広く取ったプロペラを、エンコーダセンサの読み取り用部材として使用しても、高精度にDCモーターの回転速度、回転数、回転の向きを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インクジェットプリンタのインクカートリッジ部、DCモーター、エンコーダセンサの周辺を示す。
【図2】従来のASICとDCモーターを制御する構成を示す。
【図3】図2の構成による問題点を説明するタイミングチャートを示す。
【図4】本発明の実施例1の構成を示す。
【図5】本発明を適用したタイミングチャートを示す。
【図6】本発明の実施例2の構成を示す。
【図7】本発明の実施例3の構成を示す。
【図8】本発明の実施例4の構成を示す。
【図9】本発明の実施例4の処理フローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態について図面により詳細に説明する。 図1(a)は、インクジェットプリンタのインクカートリッジ部、キャリッジ部の構造を示す。インクジェットプリンタは、キャリッジ3と、キャリッジ3に送られるインクが蓄えられているインクカートリッジ10k、10c、10m、10y(各々ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)と、それらをホールディングするためのインクカートリッジホルダ10とを備えている。DCモーターを動力として、インクカートリッジ10k、10c、10m、10yからインク供給チューブ6を通ってキャリッジ内のサブタンク5に各色が送られる。サブタンク5にあるインクは用紙2に吐出されることで印字動作が行われる。なお、1はガイドロッド、4は記録ヘッド、7は搬送ベルト、8は搬送ローラー、9はインク供給チューブをフレームに止めるための部材、11はフレームの側板である。
【0012】
図1(b)は、インクカートリッジ部、DCモーター、エンコーダセンサの周辺を示す。図1(b)に示すユニットは、DCモーター100と、DCモーター軸102と、DCモーター軸102に取り付けられたギア101と、ギア101に連動する連動ギア105と、DCモーター軸102に取り付けられたプラスチックなどの素材で作られたプロペラ104と、インクリメント型エンコーダセンサ103と、チューピングローター106と、インクチューブ6とを備えている。
【0013】
DCモーター100が回転すると、ギア101と連動ギア105を介してチュービングローター106が回転する。このとき、チュービングローター106がチューブ6を押し潰し、これが動力となってインクカートリッジ10k、10c、10m、10yからインクをキャリッジ3の方へ送り出す。
【0014】
このとき、DCモーター100の回転量、回転速度、回転の向きを制御することによってインクを送り出す量、インク送液の速度、インクの進む向きを制御することができる。
【0015】
DCモーター100の回転量、回転速度、回転の向きを制御するには、エンコーダセンサ103に検知させるための、かつインクミスト汚れにより誤検知しない、透過部と遮光部を有するプロペラ104を用いる。
【0016】
図2(a)は、従来のエンコーダセンサにより、ASICとDCモーターを制御する構成を示す。エンコーダセンサ103から出力されるA相信号201、B相信号202は、制御基板208内のASIC203に入力される。ASIC203にはエンコーダ信号専用のA端子204とB端子205が設けられている。また、それらとは別にASIC203はPWM出力端子206を持っている。さらに、PWM出力端子206から出力されるPWM信号が入力されるモータードライバIC207が制御基板208上に構成されている。モータードライバIC207は、DCモーター100に接続されており、モータードライバIC207から出力されるPWM信号でDCモーター100が制御される。
【0017】
図2(b)は、DCモーターの制御フローチャートを示す。DCモーター100が回転すると(ステップ301)、DCモーター100の軸に取り付けられたプロペラ104の透過部と遮光部をエンコーダセンサ103が光学的に検知し、パルス状の電圧を発生させる。このパルス上の電圧をASIC203が一定周期でサンプリングして(ステップ302)、サンプリングされたパルス数から回転速度と回転量をソフト処理により算出する(ステップ303)。また、同時にA相とB相信号の位相から回転の方向を検出する(ステップ304)。
【0018】
このとき、狙いの回転速度、回転量、回転方向であれば(ステップ305でYes)、PWM出力端子206から出力されるPWMのデューテイ比は現状が維持されるが、狙いの回転速度、回転量、回転方向でない場合は(ステップ305でNo)、PWM出力のデューテイ比を変更することによって、DCモーター100の回転速度、回転量、回転方向を制御する(ステップ306)。
【0019】
すなわち、回転速度、回転量、回転方向によって変化するパルス数とパルスの位相を検出することにより、回転速度、回転量、回転方向が目標値であるか否かを検出できる。
【0020】
図3(a)、(b)は、図2の問題点を説明するためのタイミングチャートを示す。(a)は、DCモーターが早く回転した場合のタイミングチャート、(b)は、DCモーターが遅く回転した場合のタイミングチャートを示す。図3に示すタイミングチャートのパルスは、A相、B相の位相が90度ずれているインクリメント型のエンコーダセンサを想定している。
【0021】
ASIC203によるパルス数のカウントは、A相、B相の立ち上がり・立ち下がり時に行われる。DCモーター100が早く回れば回るほど、プロペラ104もまた早く回転するのでパルスの周期は短くなる。逆に、DCモーター100が遅く回ればパルスの周期は長くなる。このパルスを一定周期でサンプリングすることを考える。
【0022】
前述したように、この制御におけるポイントは、回転速度、回転量、回転方向によって変化するパルス数とパルスの位相を検出することである。しかし、図3(a)、(b)の区間Bにおけるパルス数に注目すると、図3(b)のパルスカウント数が4から7に変化しているが、図3(a)のパルスカウント数が5から8に変化し、同じパルス数だけカウントされている。つまり、DCモーター100の回転速度が変化しているにもかかわらず、エンコーダセンサ103が、その変化を検知できない。
【0023】
これは、エンコーダシートから、インクミスト汚れの影響を受けないプロペラ104に変更したことにより、時間対パルス数の分解能がエンコーダシートに比べて著しく低下したことにその要因がある。
【実施例1】
【0024】
図4は、本発明の実施例1の構成を示す。本発明では、ASIC203の前段に、周波数を逓倍する逓倍回路210、211を設けて構成している。他の構成要素は図2と同様である。
【0025】
図5(a)は、DCモーターが早く回転した場合に、本発明を適用したタイミングチャートを示し、(b)は、DCモーターが遅く回転した場合に、本発明を適用したタイミングチャートを示す。
【0026】
ASIC203の前段に逓倍回路(ここでは、一例として周波数を4倍)210、211を設けることにより、図3(a)、(b)の信号が、どのように変化して逓倍後信号212、213として出力されるかを比較する。
【0027】
図3(a)の逓倍後が図5(a)、図3(b)の逓倍後が図5(b)である。図5(a)と(b)の区間Bを比較する。図5(b)では、カウント数が13から25になっているが、図5(a)では、17から32になっている。つまり、図3の場合とは異なり、本発明では、DCモーター100の速度が変化したとき、これに伴いカウント数も比例的に変化するようになる。
【0028】
すなわち、インク汚れの起きないプロペラ104を使用し、時間対パルス数の分解能が、エンコーダシートと比較して著しく低下するような場合でも、本発明では、逓倍回路210、211を設けることにより、ASIC203がDCモーター100の速度の変化を検知できるため、狙いの回転速度に対して精度良く制御することができる。
【0029】
このように、本実施例では、時間対パルス数の分解能の低いプロペラをエンコーダシートの代わりに使用しても、DCモーターを狙いの回転速度に制御することができる。
【実施例2】
【0030】
図6は、本発明の実施例2の構成とタイミングチャートを示す。実施例2では、実施例1の逓倍回路の前段に、波形整形を行うシュミットバッファを設けて構成している。
【0031】
エンコーダセンサ103から逓倍回路210、211までの信号線の距離が長い場合や細長いパターンで接続されている場合、パルス信号の通る経路の時定数の影響により、エンコーダセンサ103のパルスの立ち上がり時間tr、立ち下がり時間tfが長くなる。
【0032】
すなわち、trは、ある信号の立ち上がるときに、信号の電圧値が、ASIC203の電源電圧Vcc×0.3からVcc×0.7まで達するのに要する時間であり、また、tfは、ある信号が立ち下がるときに、信号の電圧値が、ASIC203の電源電圧Vcc×0.7からVcc×0.3まで達するのに要する時間である。このとき、逓倍回路210、211のAC入力規格tr、tfを満たすことができず、逓倍回路210、211の精度が下がる。
【0033】
そこで、本発明では、図6(a)に示すように、逓倍回路210、211の前段に、波形を整形するシュミットバッファ214、215を設けている。シュミットバッファ214、215がないときのタイミングチャート(b)と、シュミットバッファ212、213があるときのタイミングチャート(c)により、tr、tfの相違を示す。
【0034】
本実施例のシュミットバッファ214、215により、tr、tfを短縮でき、逓倍回路210、211のAC入力規格tr、tfが確実に満たされ、回路の精度が向上する。
【0035】
このように、本実施例では、パルスの波形なまりにより引き起こされる、ASICのパルスカウントエラーを防止することができる。
【実施例3】
【0036】
図7は、本発明の実施例3の構成を示す。実施例3では、実施例2のシュミットバッファ214、215を、プルアップ抵抗216、217に置き換えて構成している。
【0037】
エンコーダセンサ103がオープンコレクタ型の出力の場合、エンコーダセンサ内部のプルアップだけでは、電源から供給される電流値が小さい傾向にあることから、充電に時間がかかりtrが長くなる。
【0038】
そこで、実施例3では、A相信号201とB相信号202に対して、制御基板上208において抵抗値の小さいプルアップを形成することにより、エンコーダセンサ内部のプルアップ抵抗との合成負荷により、非常に抵抗値の小さいプルアップを形成できる。これにより、電源からの電流値が大きくなり、tr、tfを短縮でき、逓倍回路210、211のAC入力規格tr、tfが確実に満たされ、その結果、回路の精度が向上する。
【0039】
このように、本実施例では、シュミットバッファを必要としないので部品点数と制御基板の実装面積を削減でき、また、パルスの波形なまりによって引き起こされる、ASICのパルスカウントエラーを防止することができる。
【実施例4】
【0040】
図8は、本発明の実施例4の構成を示す、実施例1の構成に、サーミスタ401、サーミスタの信号をAD変換するためのADコンバータ402、AD変換されたデジタル信号を受けるためのポート(ASICのAD値入力)を追加して構成されている。サーミスタ401は、図1に示すインクカートリッジ10の近傍に配置され、インクの温度を測定する。図9は、実施例4の処理フローチャートを示す。
【0041】
図1に示すインクカートリッジ10内に貯蔵されているインクの粘度は温度によってわずかながら変化する。この粘度変化により、同じ速度でDCモーター100を回転させた時でもインクの送り出す量や速度が変化することがある。
【0042】
本実施例では、図9のフローチャートに示すように、ステップ507において、サーミスタ401のデジタル量を用いてPWM出力のデューテイ比にフィードバックをかける制御を加えることによって、温度変化が発生しても高精度にインク送り出し量、速度を制御できる。
【0043】
インクの粘度は、高温時は粘度が低く、低温時は粘度が高い。この粘度変化に対して常に同量、同速でインクを送り出すために、フィードバックの具体例として、yをPWM出力のデューテイ比、aを0未満の整数、bを0以上の実数、xを温度とするとy=−ax+bに従って直線的に変化させる。
【0044】
この制御により、インク粘度が低いときはデューテイ比が低い、つまりDCモーターの回転速度は遅くなり、逆にインク粘度が高いときはデューテイ比が高い、つまりDCモーターの回転速度は速くなり、結果的にインク粘度変化によるインク送り出し速度の変化を打ち消すことができる。
【0045】
このように、本実施例では、温度によってインクの粘度が変化した場合でも、温度によるフィードバックを加えることにより、インクを送り出す量や速度の変動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 DCモーター
103 エンコードセンサ
201 A相出力
202 B相出力
203 ASIC
204 A相入力
205 B相入力
206 PWM出力
207 モータードライバIC
208 制御基板
210、211 逓倍回路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】特開平7−314836号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクカートリッジからキャリッジへインクを送り出す動力となるDCモーターと、前記DCモーターの軸に取り付けられ、透過部と遮光部を有するプロペラと、前記プロペラの透過部と遮光部を検知する検知手段と、前記検知手段から出力される、互いに位相が90度ずれたパルスの周波数を逓倍する逓倍手段と、前記周波数が逓倍されたパルスをPWM信号に変換して出力する第1の制御手段と、前記PWM信号を高圧系のPWM信号に変換して前記DCモーターに出力する第2の制御手段を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記逓倍手段の前段にシュミットバッファを備えたことを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記逓倍手段の入力をプルアップすることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記インクの温度を測定する測定手段を備え、前記第1の制御手段は、前記測定結果に応じて前記PWM信号のデューテイ比を制御することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記測定手段は、前記インクカートリッジの近傍に配置されていることを特徴とする請求項4記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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