説明

画像表示体

【課題】見る角度に応じて色彩が変化するという回折格子の利点を生かしてそのコピー防止機能を維持しながら、自然な印象を与える多色画像を表示する画像形成体を提供する。
【解決手段】透明なシートを複数の区域に分割し、これら区域のそれぞれに、単色画像または単色画像が重畳された複数色の画像を設け、複数の前記単色画像を互いに重ね合わせることにより多色画像を表示する。このとき、前記単色画像または複数色の画像を構成する単色画像のうち、一部の単色画像を回折格子から構成し、その他の画像を着色剤によって着色する。観察角度を変えても色彩が変化するのは回折格子から構成された単色画像に止まり、その他の単色画像の色変化はないから、観察角度を厳密に特定しなくても自然な印象の多色画像を表示できる。この画像のコピー画像は観察角度を大きく変えても色彩が変化することがないから、真正の画像とコピー画像とを容易に判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる色彩を示す複数の単色画像を重畳して多色画像を表示する画像表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いに異なる色彩を示す複数の単色画像を重畳して多色画像を表示する画像表示体は周知である。
【0003】
例えば、一般的な多色印刷物は四色の単色画像を重ね刷りして構成されている。すなわち、色の三原色を示すイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の三色に、黒色(K)を加えた四色である。このような一般印刷物では、まずイエロー(Y)のインキを印刷してイエロー(Y)の単色画像を形成し、次にこのイエロー(Y)の単色画像に重ねてマゼンタ(M)のインキを印刷してマゼンタ(M)の単色画像を形成する。そして、同様にシアン(C)の単色画像と黒色(K)の単色画像を順次重ね刷りする。印刷順序は異なることもあるが、いずれにしても、こうして四色の単色画像を重畳して得られた多色画像は、カラー原稿と略同様の色彩を有し、かつ、自然な印象を与える多色画像であり、また、どの角度からみても同一の色彩を有する多色画像である。
【0004】
これに対し、見る角度に応じて色彩が変化する画像表示体として、回折格子を利用した表示体が知られている。工業的に実用化されている回折格子はレリーフタイプの反射型回折格子で、透明樹脂などの基材の表面に前記回折格子を構成する微細な凹凸を設け、この凹凸表面に光反射層を設けたものである。そして、このレリーフタイプの反射型回折格子においては、光反射層による反射光が互いに干渉して回折光を構成する。この回折光の波長は入射光の入射角度によって異なるため、その観察角度によって回折光の波長、すなわち、色彩が異なることになる。例えば、ある観察角度では長波長の赤色回折光を観察することができるが、別の観察角度では短波長の紫色の回折光を観察することができる。いずれにしても、観察できる回折光は光のスペクトルを構成する色彩である。
【0005】
そして、回折格子を利用した表示体は、前述のように観察角度に応じて色彩が異なるため、例えばコピー防止技術として利用されている。この表示体をコピーしても、得られたコピー画像は着色剤によって構成されたものであるから、観察角度を変えても色彩が変化することがない。このため、観察角度による色彩変化の有無を検査することにより、真正品とコピーとを判別できるのである。
【0006】
この回折格子を利用して自然な印象を与える多色画像を構成する試みが特許文献1に記載されている。すなわち、特許文献1に記載された画像表示体は、画像を画素に分解してこの画素を回折格子で構成すると共に、この画像を特定の観察角度から見たときに自然な印象を与えるように、それぞれの画素を構成する回折格子のピッチ等を制御したものである。
【0007】
しかしながら、このような多色画像を観察する場合、その観察角度を前記特定角度に厳密に一致させることは現実的でない。そこで、前記特定角度からわずかにずれた観察角度から観察すると、特許文献1に記載の画像表示体はその色彩が大きく変化し、しかも、画像を構成する全色彩が変化するから、自然な多色画像を観察することは、事実上困難なのである。また、回折格子で構成されたこの画像によって、例えばカラー原稿と略同様の色彩を有し、かつ、略同様の心象を与える多色画像を表示することも困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−305380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、見る角度に応じて色彩が変化するという回折格子の利点を生かしてそのコピー防止機能を維持しながら、しかも、自然な印象を与える多色画像を表示する画像形成体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、互いに異なる色彩を示す複数の単色画像を重畳して多色画像を表示する画像表示体において、
複数の前記単色画像のうち、一部の単色画像が回折格子から構成され、この回折格子から生じる回折光でその色彩を示すものであり、
その他の色彩を示す単色画像が、着色剤によって着色された単色画像である、
ことを特徴とする画像表示体である。
【0011】
この発明によれば、多色画像を構成する複数の単色画像のうち一部の単色画像が回折格子から構成され、その他の単色画像が着色剤によって着色されているから、観察角度を変えても、その色彩が変化するのは一部の単色画像(回折格子から構成された単色画像)に止まり、その他の単色画像(着色剤によって着色された単色画像)の色変化はない。また、観察角度の変化が微小であれば前記色変化も微小であって、多色画像の印象の変化もわずかであり、多色画像の印象は事実上変わらない。このため、観察角度を厳密に特定しなくても、極めて自然な印象を与える多色画像を表示することが可能となるのである。
【0012】
もっとも、回折格子から構成された単色画像は、観察角度の変化が大きければその色彩の変化も大きい。この多色画像をコピーした場合、得られたコピー画像は観察角度を大きく変えても色彩が変化することがないから、観察角度の変化に応じて色彩が変化するか否かを判別することにより、真正の多色画像とコピー画像とを容易に判別することが可能である。
【0013】
次に、請求項2に記載の発明は、複数の前記単色画像のそれぞれが、前記多色画像を色分解して得られる単色画像であることを特徴とする請求項1記載の画像表示体である。
【0014】
請求項2に記載の発明においては、複数の前記単色画像のそれぞれが、前記多色画像(すなわち、カラー原稿)を色分解して得られる単色画像であるから、これら複数の単色画像を重畳して得られる多色画像は色分解前のカラー原稿と同一である。このため、この多色画像は全体として単一の画像として認知されるものであり、例えば、後述する具体例のように、城郭等の多色画像である。なお、この点で、写真画像を特定の色彩の単色画像として形成し、この写真画像に別の色彩の文字画像を重畳した画像などの多重画像とは区別される。
【0015】
ところで、前述のように、回折格子から構成された単色画像によって発生する回折光は光のスペクトルを構成する色彩であり、代表的には、光の三原色を構成するレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)である。
【0016】
他方、着色剤によって着色された単色画像は、可視光の特定波長成分を着色剤が吸収し、残りの波長成分を反射又は透過することによって着色されるものであるから、互いに色彩の異なる2以上の単色画像が同一位置で重畳したとき両者は混色し、得られる色彩はその減色混合の原理によって指定される色彩となる。このため、この単色画像に使用される着色剤は、一般に、色の三原色を示すイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の三色を基調としたもので、例えば、イエロー(Y)とマゼンタ(M)とが混色したときにはレッド(R)の色彩を示す。また、イエロー(Y)とシアン(C)とが混色したときにはグリーン(G)の色彩を示し、マゼンタ(M)とシアン(C)とが混色したときにはブルー(B)の色彩を示す。
【0017】
そこで、着色剤によって着色された単色画像として、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の色彩を有する3種類の単色画像を使用してフルカラーの多色画像を表示すると共に、回折格子から構成された単色画像として、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)のうちから選択された色彩を示す単色画像を使用し、この回折格子から構成された単色画像を前記フルカラーの多色画像に重畳して、計4種類の単色画像(それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の色彩を有する3種類の単色画像と、回折格子から構成された単色画像)を重畳した多色画像とすることが望ましい。もちろん、回折格子から構成された単色画像を2種類以上使用して、計5種類または6種類の単色画像を重畳した多色画像とすることも可能である。
【0018】
なお、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の3色のすべてを混色したときには黒色を呈するが、その黒色は鮮明度に欠けるため、一般には、この3色に加えて、カーボンブラックを着色剤とする黒色の単色画像を重ね刷りすることが多い。本発明においても、前記3色に限定されることなく、着色剤によって着色された単色画像として黒色を示すものを使用することができる。
【0019】
請求項3〜5に記載の発明は、このような事情から、回折格子から構成された単色画像の色彩と、着色剤によって着色された単色画像の色彩とを、それぞれ、特定したものである。
【0020】
すなわち、請求項3に記載の発明は、回折格子から構成される単色画像が、光のスペクトルを構成する色彩から選択された色彩を示すものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像表示体であり、請求項4に記載の発明は、着色剤によって着色された単色画像が、色の三原色のうちから選択された色彩を示すものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の画像表示体である。また、請求項5に記載の発明は、着色剤によって着色された単色画像が、黒色を示すものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の画像表示体である。
【0021】
次に、本発明に係る複数の単色画像は、これらのすべてを1枚の基材シート上に重畳して設けることにより多色画像とすることもできるが、これら複数の単色画像の一部を透明フィルム上に形成し、その他の単色画像を1枚の基材シート上に形成し、これら透明フィルムと基材シートとを位置合わせして重ねることによって多色画像を構成することもできる。また、1枚の透明シートを折り曲げ線を介して複数の区域に分割し、この複数の区域のそれぞれにこれら複数の単色画像の一部を形成し、前記折り曲げ線から折り曲げて、複数の前記単色画像を位置合わせして重ねることによって多色画像を構成することもできる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、基材シートと透明シートとで構成され、これら基材シートと透明シートのそれぞれに単色画像または単色画像が重畳された複数色の画像が形成されており、これらシートを重ねることによって前記各画像が重畳されて多色画像を表示する画像表示体において、
前記単色画像または複数色の画像を構成する単色画像のうち、一部の単色画像が回折格子から構成され、この回折格子から生じる回折光でその色彩を示すものであり、
その他の画像が、着色剤によって着色された単色画像である、
ことを特徴とする画像表示体である。
【0023】
また、請求項7に記載の発明は、透明シートを折り曲げ線を介して複数の区域に分割し、この複数の区域のそれぞれに、単色画像または単色画像が重畳された複数色の画像が形成されており、前記折り曲げ線から折り曲げて、複数の前記単色画像を互いに重ね合わせることにより多色画像を表示する画像表示体において、
前記単色画像または複数色の画像を構成する単色画像のうち、一部の単色画像が回折格子から構成され、この回折格子から生じる回折光でその色彩を示すものであり、
その他の画像が、着色剤によって着色された単色画像である、
ことを特徴とする画像表示体である。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、観察角度を厳密に特定することなく、また、多少その観察角度が変化しても、極めて自然な印象を与える多色画像を表示することが可能となる。しかも、この多色画像をコピーした場合には、真正の多色画像とコピー画像とを容易に判別することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】カラー原稿のカラー画像の具体例
【図2】カラー画像を色分解して得られた単色画像の具体例
【図3】画像表示体の具体例を示す平面図
【図4】画像表示体の使用方法を示す説明図
【図5】多色画像を形成した状態の画像表示体の平面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る画像表示体は、複数の単色画像を重畳して多色画像を表示するものである。
【0027】
複数の単色画像は、1枚のシート材料を基材シートとして、この基材シートの片面に重畳して設けられたものであってもよい。この場合には、本発明に係る画像表示体は、この基材シートと、基材シートの片面に設けられた複数の単色画像とで構成される。
【0028】
また、本発明に係る画像表示体は、複数枚のシート材料のそれぞれに、複数の前記単色画像のそれぞれを設け、こうして単色画像が設けられた複数枚のシート材料を互いに重ねたものでもよい。この場合には、複数枚のシート材料のうち、もっとも下側に配置される基材シートを除き、この基材シートの上に重ねられるシート材料は透明である必要がある。そして、この場合には、本発明に係る画像表示体は、単色画像が設けられた複数枚のシート材料で構成される。もちろん、複数枚のシート材料のそれぞれには単色画像を設けるだけでなく、複数の単色画像を重畳した複数色の画像を設けることもできる。
【0029】
また、透明なシートを基材シートとし、この基材シートを折り曲げ線を介して複数の区域に分割し、この複数の区域のそれぞれに、複数の前記単色画像のそれぞれを設けたものでもよい。この場合には、前記折り曲げ線から折り曲げて、複数の前記単色画像を互いに重ね合わせることにより多色画像を形成することができる。なお、この場合、前記折り曲げ線を介して隣接する区域に設けられた単色画像は、互いに左右が反転した鏡像の関係にあることが必要である。もちろん、それぞれの区域に単色画像を設けるだけでなく、複数の単色画像を重畳した複数色の画像を設けることもできる。
【0030】
複数の単色画像のうち、一部の単色画像は回折格子から構成されたものである必要があ
る。また、この単色画像は、回折格子から生じる回折光でその色彩を示すものである必要がある。このような回折格子としては、例えば、レリーフタイプの反射型回折格子を使用することができる。レリーフタイプの反射型回折格子はよく知られており、透明樹脂などの基材の表面に回折格子を構成する微細な凹凸を設け、この凹凸表面に光反射層を設けることによって製造することができる。そして、前記単色画像の形状に光反射層の一部を除去してパターニングすることによってこの単色画像を形成することができる。また、単色画像をドット状の画素の集合で表現することもできる。この場合には、光反射層を画素形状にパターニングすることによって、この画素を構成することが望ましい。画素の大きさとしては、例えば、100μmでよい。
【0031】
光反射層としては金属薄膜や高屈折率透明薄膜が利用でき、真空製膜法によって、前記表面の凹凸に沿ってこの光反射層を形成することができる。金属薄膜としてはアルミニウムや銅が使用できる。高屈折率透明薄膜としては酸化チタンなどが使用できる。また、真空製膜法としては、真空蒸着法やスパッタリング法が使用できる。また、この光反射層をパターニングする方法としては、例えば、光反射層上にエッチングレジストを設けた後、エッチングすることによって可能である。また、前記凹凸表面に溶剤可溶性の樹脂被膜をパターン状に設け、この樹脂被膜を被覆して前記光反射層を製膜した後、溶剤を適用して、溶剤可溶性樹脂被膜を、この樹脂被膜に重畳した光反射層と共に溶解除去することによって、光反射層をパターニングすることも可能である。
【0032】
前述のように、一般に回折格子から生じる回折光は光のスペクトルを構成する色彩であることから、この回折格子から構成された単色画像も光のスペクトルを構成する色彩であることが望ましい。また、カラー原稿を色分解してこの単色画像を形成する際の便宜から、この単色画像は、光の三原色のうちから選択された色彩を示すものであることが望ましい。すなわち、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)のうちから選択された色彩である。これらレッド(R)、グリーン(G)又はブルー(B)を示す単色画像は、カラー原稿を色分解することによって容易に形成することができ、しかも、後述するように、着色剤によって着色された単色画像とのマッチングも容易である。なお、レッド(R)の色彩を示す場合、回折格子を構成する凹凸の線数は、その凸部の本数を線数として、約1150本/mm(ピッチ約0.43μm)である。また、グリーン(G)の場合には線数約1310本/mm(ピッチ約0.38μm)、ブルー(B)の場合には線数約1550本/mm(ピッチ約0.32μm)である。
【0033】
なお、回折格子から構成された単色画像は、観察角度を変化させるとその色彩も変化するから、本発明において「回折格子から構成された単色画像の色彩」というとき、その色彩は、画像表示体を予め定められた適正角度から観察したときの色彩を意味する。適正角度は、通常、画像表示体の正面である。
【0034】
次に、本発明において、回折格子から構成された単色画像を除いて、その他の色彩を示す単色画像は、着色剤によって着色された単色画像である必要がある。着色剤としては染料又は顔料が使用できるが、顔料を使用する場合であっても、この単色画像は透明なものであることが望ましい。
【0035】
前述のように、着色剤による色彩は、可視光のスペクトルから特定波長成分を吸収し、残りの波長成分を反射又は透過することによって着色されるものであるから、着色剤によって着色された単色画像は、色の三原色のうちから選択された色彩を示すものであることが望ましい。すなわち、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)のうちから選択された色彩である。望ましくは、着色剤によって着色された単色画像として、イエロー(Y)の色彩の単色画像、マゼンタ(M)の色彩の単色画像、及びシアン(C)の色彩の単色画像の3種類の単色画像を使用する。この場合、この3種類の単色画像の重畳によって、その中間色を含め、フルカラーの多色画像を表示することができる。また、カラー原稿を色分解することによって、これら3種類の単色画像を容易に形成することができる。
【0036】
なお、これら3種類の単色画像に加えて、着色剤によって着色された単色画像として、黒色の色彩の単色画像を使用することもできる。この場合、黒色(K)の色彩の単色画像は透明である必要はなく、むしろ不透明であることが望ましい。この黒色(K)の色彩の単色画像も、カラー原稿から容易に得ることができる。
【0037】
次に、回折格子から構成された単色画像と、着色剤によって着色された単色画像とを形成する方法について説明する。前述のように、これら単色画像は、いずれも、カラー原稿を色分解することによって形成することができる。
【0038】
回折格子から構成された単色画像がグリーン(G)の色彩を示すものである場合を例として説明する。なお、その他の単色画像はいずれも着色剤によって着色された単色画像であり、イエロー(Y)の色彩の単色画像、マゼンタ(M)の色彩の単色画像、及びシアン(C)の色彩の単色画像、黒色(K)の色彩の単色画像の4種類の単色画像であるとする。
【0039】
すなわち、カラー原稿にグリーン(G)の補色(マゼンタ)の色彩を有する透明シート(カラーフィルタ)を重ね、透過画像を撮影する。この場合、カラー原稿のカラー画像のうち、グリーン(G)の色彩を呈する領域は、このグリーン(G)以外の色彩を示す波長成分を吸収し、グリーン(G)の色光を透過する領域である。これに対し、前記カラーフィルタはグリーン(G)の色光を吸収するものであるから、この両者が重畳された領域では透過光がなくなり、黒色に撮影されることになる。こうして、カラー原稿のカラー画像から、グリーン(G)の成分を抽出して、その単色画像を得ることができる。なお、カラー原稿を撮影した後、コンピュータによって電子的にグリーン(G)成分を抽出することもできる。
【0040】
次に、カラー原稿のカラー画像からイエロー(Y)の色彩の単色画像を抽出する方法を説明する。すなわち、カラー原稿にイエロー(Y)の補色(ブルー)のカラーフィルタを重ね、透過画像を撮影する。こうして得られた透過画像は、前記カラー画像のうちイエロー(Y)成分を有する領域を抽出したものであるが、この透過画像には、グリーン(G)成分を有する領域が含まれている。そこで、このイエロー(Y)成分を示す透過画像とグリーン(G)成分を示す透過画像との差をとることにより、イエロー(Y)の色彩の単色画像を抽出することができる。例えば、イエロー(Y)成分を示す透過画像のネガフィルムに、グリーン(G)成分を示す透過画像を重ね、その透過画像を撮影すればよい。もちろん、これら一連の工程は、カラー原稿を撮影した後、コンピュータによって行うことも可能である。
【0041】
次に、カラー原稿のカラー画像からシアン(C)の色彩の単色画像を抽出する方法を説明する。すなわち、カラー原稿にシアン(C)の補色(レッド)のカラーフィルタを重ね、透過画像を撮影し、次に、この透過画像とグリーン(G)成分を示す透過画像との差をとることにより、シアン(C)の色彩の単色画像を抽出することができる。
【0042】
なお、イエロー(Y)の色彩の単色画像とシアン(C)の色彩の単色画像の両者の上に、金属薄膜を光反射層とする回折格子から構成された単色画像(但し、グリーンの色彩を示すもの)を重畳して多色画像を表示する場合には、イエロー(Y)成分を示す透過画像とグリーン(G)成分を示す透過画像との差をとる必要はない。また、シアン(C)成分を示す透過画像とグリーン(G)成分を示す透過画像との差をとる必要もない。前記金属薄膜は不透明だからである。
【0043】
次に、カラー原稿のカラー画像からマゼンタ(M)の色彩の単色画像を抽出するには、カラー原稿にマゼンタ(M)の補色(グリーン)のカラーフィルタを重ねて、透過画像を撮影すればよい。
【0044】
また、黒色(K)の色彩の単色画像を抽出するには、カラーフィルタを介することなく、モノクロフィルムで撮影すればよい。
【0045】
以上、回折格子から構成された単色画像がグリーン(G)の色彩を示すものである場合を例として説明したが、回折格子から構成された単色画像がレッド(R)又はブルー(B)の色彩を示すものである場合にも、同様にそれぞれの単色画像を得ることが可能である。
【実施例】
【0046】
次に、図面を参照しながら、実施例によって本発明を説明する。
【0047】
図面の図1はカラー原稿のカラー画像を示している。このカラー画像は、樹木に囲まれた城郭の写真画像で、図から分かるように、グリーンの色彩を有する部分(例えば、樹木の部分)が大きな面積を占めている。
【0048】
このカラー画像を色分解して得られた単色画像を図2(a)〜(e)に示す。図2(a)はカラー画像の黒色(K)成分を抽出したものである。また、図2(b)はマゼンタ(R)成分を抽出したものであり、図2(c)はグリーン成分(G)を抽出したものである。そして、図2(d)は、カラー画像のシアン成分(C)を抽出したものであり、図2(e)はカラー画像のイエロー成分(Y)を抽出したものである。
【0049】
次に、このグリーン(G)の単色画像を使用して、回折格子から構成された単色画像を有する転写箔を製造した。すなわち、まず樹脂フィルム上に剥離層を介して透明樹脂を塗布してその被膜を形成し、この透明樹脂層表面をエンボスして微細な凹凸を形成した。この凹凸は、正面方向に対してグリーン(G)の回折光を発生する回折格子を構成するものである。また、この凹凸は透明樹脂層の全面に一様に形成した。次に、この凹凸表面にアルミニウムを真空蒸着してその薄膜を形成し、光反射層とした。そして、この光反射層の上にフォトレジストを塗布して被膜を形成した後、グリーン(G)の前記単色画像を有するフォトマスクを介してフォトレジストを露光し、現像して、グリーン(G)の前記単色画像と同一パターンのフォトレジストを選択的に残存させ、そのほかの部位の光反射層を露出させた。そして、残存したフォトレジストをエッチングレジストとして、露出部位の光反射層を選択的にエッチングして除去し、この部位の透明樹脂層表面を露出させた。次に残存するフォトレジストを剥膜して、グリーン(G)の前記単色画像と同一パターン状に残存する前記光反射層を露出させた。そして、最後に、この光反射層を含めて全面に接着剤を塗布して、回折格子から構成された単色画像を有する転写箔を製造した。なお、この接着剤の塗布により、露出した透明樹脂層表面の凹凸は埋められてこの部位の回折格子は消失した。
【0050】
次に、透明シートを基材シートとし、この基材シートを折り曲げ線を介して、第1の区域と第2の区域とに区分し、そのうち、第1の区域に、イエロー(Y)の単色画像とシアン(C)の単色画像とを重ねて印刷した。印刷インキとしては、それぞれ、黄色の顔料を含有するインキ及び青色の顔料を含有するインキを使用した。なお、いずれの単色画像も透明である。
【0051】
そして、このイエローの印刷画像に位置合わせして前記転写箔を重ね、接着剤層によっ
て接着した後、樹脂フィルムを剥離除去して、光反射層及び透明樹脂を転写した。このとき、光反射層の下に位置する部位は、この光反射層に隠れて、観察できないようになった。
【0052】
次に、前記基材シートの第2の区域に、黒色(K)の単色画像とマゼンタ(M)の単色画像とを、この順に印刷した。印刷インキとしては、それぞれ、黒色の顔料(カーボンブラック)を含有するインキ及び赤色の顔料を含有するインキを使用した。なお、マゼンタ(M)の単色画像は透明であるが、黒色(K)の単色画像は不透明である。
【0053】
こうして得られた画像表示体を図3に示す。この画像表示体は、その表面が第1の区域と第2の区域とに区分された透明シートから構成され、その第1の区域には、イエロー(Y)の単色画像、シアン(C)の単色画像、及びグリーン(G)の単色画像で構成される3種類の単色画像が、この順に重畳して形成されている。このうち、イエロー(Y)の単色画像とシアン(C)の単色画像は印刷によって設けられたもので、着色剤(顔料)によって着色された単色画像である。他方、グリーン(G)の単色画像は回折格子から構成され、この回折格子から生じる回折光でその色彩を示す単色画像である。そして、このグリーン(G)の単色画像は、適正角度(正面)から観察すると鮮やかな緑色に観察され、その観察角度が多少適正角度(正面)からずれた場合にも、その色彩は実質的に変わらないが、観察角度を、例えば適正角度(正面)から75度ずらした角度から観察すると、その色彩は大きく変化した。
【0054】
また、この画像表示体の第2の区域には、黒色(K)の単色画像とマゼンタ(M)の単色画像とが、この順に重畳して形成されている。そして、第1の区域に設けられた画像と、第2の区域に設けられた画像とは、折り曲げ線を対象中心として左右対称の関係に配置されている。もちろん、両画像は鏡像の関係にある。
【0055】
この画像表示体を、折り曲げ線から折り曲げ、第1の区域に設けられた画像と第2の区域に設けられた画像と互いに見当よく重ね合わせる(図4参照)ことにより、5種類の単色画像(それぞれ、イエロー(Y)、シアン(C)、グリーン(G)、マゼンタ(M)、黒色(K)の単色画像)を重畳して、フルカラーの城郭の画像を表示することができる。なお、この多色画像では、黒色(K)の不透明な単色画像がその最上面に配置されていることから、この部位では鮮やかな黒色を呈している。
【0056】
そして、この画像表示体は、正面から観察した場合、図5に示すように、極めて自然な城郭の多色画像を見ることができた。また、その観察角度を少し変えたときにも、その自然な印象に変化はなかった。しかし、観察角度を大きく変えたときには、画像中大きな面積を占めるグリーンの色彩の部分(例えば、樹木の部分)の色彩が大きく変化し、極めて不自然な印象の画像となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる色彩を示す複数の単色画像を重畳して多色画像を表示する画像表示体において、
複数の前記単色画像のうち、一部の単色画像が回折格子から構成され、この回折格子から生じる回折光でその色彩を示すものであり、
その他の色彩を示す単色画像が、着色剤によって着色された単色画像である、
ことを特徴とする画像表示体。
【請求項2】
複数の前記単色画像のそれぞれが、前記多色画像を色分解して得られる単色画像であることを特徴とする請求項1記載の画像表示体。
【請求項3】
回折格子から構成される単色画像が、光のスペクトルを構成する色彩から選択された色彩を示すものであることを特徴とする請求項1又は2記載の画像表示体。
【請求項4】
着色剤によって着色された単色画像が、色の三原色のうちから選択された色彩を示すものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の画像表示体。
【請求項5】
着色剤によって着色された単色画像が、黒色を示すものであることを特徴とする請求項請求項1〜3のいずれかに記載の画像表示体。
【請求項6】
基材シートと透明シートとで構成され、これら基材シートと透明シートのそれぞれに単色画像または単色画像が重畳された複数色の画像が形成されており、これらシートを重ねることによって前記各画像が重畳されて多色画像を表示する画像表示体において、
前記単色画像または複数色の画像を構成する単色画像のうち、一部の単色画像が回折格子から構成され、この回折格子から生じる回折光でその色彩を示すものであり、
その他の画像が、着色剤によって着色された単色画像である、
ことを特徴とする画像表示体。
【請求項7】
透明なシートを折り曲げ線を介して複数の区域に分割し、この複数の区域のそれぞれに、単色画像または単色画像が重畳された複数色の画像が形成されており、前記折り曲げ線から折り曲げて、複数の前記単色画像を互いに重ね合わせることにより多色画像を表示する画像表示体において、
前記単色画像または複数色の画像を構成する単色画像のうち、一部の単色画像が回折格子から構成され、この回折格子から生じる回折光でその色彩を示すものであり、
その他の画像が、着色剤によって着色された単色画像である、
ことを特徴とする画像表示体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−140120(P2011−140120A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−443(P2010−443)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】