説明

画像表示装置

【課題】電子放出効率等の優れた電子放出素子を用い、高性能な表示パネルを実現する。
【解決手段】電子源基板83上の電子放出素子の導電性薄膜は、Sp結合性窒化ホウ素の微粒子膜、もしくは、Sp結合性窒化ホウ素の表面が微小突起形状を有する薄膜からなり、極めて良好な電子放出特性を持つ。電子源基板83上に、内面に蛍光体が塗布された保護基板86が配置されてシール部材87により封止される。電子源基板83と保護基板86の間のギャップ88は真空機密状態にされ、あるいは、不活性ガスを封入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に係り、特に、新規な材料からなる表面伝導型電子放出素子を用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子放出素子として熱電子源と冷陰極電子源の2種類が知られている。冷陰極電子源には電界放出型(以下、FE型という)、金属/絶縁層/金属型(以下、MIM型という)や表面伝導型の電子放出素子等がある。
【0003】
表面伝導型の電子放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に平行に電流を流すことにより電子放出が生ずる現象を利用するものであり、SnO2薄膜を用いたもの、Au薄膜を用いたもの,In23/SnO2薄膜を用いたもの、カーボン薄膜を用いたもの等が知られている。
【0004】
これらの表面伝導型電子放出素子の典型的な素子構成を図20に示す。図20において、1は基板、2と3は素子電極、4は導電性薄膜である。導電性薄膜4はH型形状のパターンに、スパッタで形成された金属酸化物薄膜等からなり、通常、通電フォーミングと呼ばれる通電処理により導電性薄膜4の一部に電子放出部5が形成される。図中の素子電極2,3間の間隔L1は例えば約0.5〜1mm、W1は例えば約0.1mmである。
【0005】
通電フォーミングとは導電性薄膜4の両端に直流電圧あるいは非常にゆっくりとした昇電圧(例えば1V/分程度)を印加通電し、導電性薄膜4を局所的に破壊、変形もしくは変質せしめ、電気的に高抵抗な状態にした電子放出部5を形成する処理である。通電フォーミング処理をした表面伝導型電子放出素子の素子電極2,3間に電圧を印加し導電性薄膜4に電流を流すことにより電子放出部5より電子を放出させることができる。
【0006】
上述したような表面伝導型電子放出素子は、構造が単純で製造も容易であることから、大面積にわたって多数の素子を配列形成できる利点がある。そこで、この特徴を活かした荷電ビーム源、表示装置等の応用研究がなされている。多数の表面伝導型電子放出素子を配列形成した例としては、後述するように、梯子型配置と呼ぶ並列に表面伝導型電子放出素子を配列し、個々の素子の両端を配線(共通配線とも呼ぶ)で、それぞれ結線した行を多数行配列した電子源があげられる(例えば特許文献1,2,3参照)。
【0007】
近年、液晶を用いた平板型表示装置がCRTに替わって普及してきたが、自発光型でないためバックライトを持たなければならない等の問題点があり、自発光型の表示装置の開発が望まれてきた。自発光型表示装置としては、表面伝導型電子放出素子を多数配置した電子源と、電子源より放出された電子によって可視光を発光せしめる蛍光体とを組み合わせたものがあげられる(例えば特許文献1,2,3参照)。
【0008】
従来、表面伝導型電子放出素子の製造方法は、真空成膜と半導体プロセスにおけるフォトリソグラフィ・エッチング法を多用するものであった。このような方法は、大面積にわたって素子を形成するには、工程数も多く、電子源基板の生産コストが高いといった問題がある。
【0009】
この問題を解決するために、本発明者は、表面伝導型電子放出素子の導電性薄膜の材料を含有した溶液の滴を、インクジェット液滴付与手段と同様の手段を利用して基板に噴射付与することにより導電性薄膜を形成する方法を提案している(特許文献3参照、インクジェット液滴付与手段については例えば特許文献4,5,6等参照)。この方法では、表面伝導型電子放出素子の導電性薄膜を真空成膜法とフォトリソグラフィ・エッチング法によって形成する方法に比べ、歩留まり良くかつ低コストで導電性薄膜を形成することができる。
【0010】
【特許文献1】特開平1−283749号公報
【特許文献2】特開平2−257552号公報
【特許文献3】特許第3600232号公報明細書
【特許文献4】米国特許第3596275号明細書
【特許文献5】米国特許第3747120号明細書
【特許文献6】特許第3312894号公報
【特許文献7】米国特許第5729257号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、新規な材料及び構成の電子放出素子を用いた画像表示装置を提供することにあり、また、かかる画像表示装置において蛍光体を発光させるための電子放出の高効率化、安定化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、基板上に形成された導電性薄膜と、該導電性薄膜に通電して該薄膜から電子放出を行わせるための電極と、
前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる蛍光体とを有し、
前記導電性記薄膜は、Sp結合性窒化ホウ素の微粒子膜、もしくは、表面に微小突起形状を有するSp結合性窒化ホウ素の薄膜からなることを特徴とする画像表示装置である。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に係る画像表示装置であって、前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる前記蛍光体の領域にカバー部材を設けたことを特徴とする画像表示装置である。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明に係る画像表示装置であって、前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる前記蛍光体の領域に不活性ガスを配したことを特徴とする画像表示装置である。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の発明に係る画像表示装置であって、前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる前記蛍光体の領域を真空気密状態にしたことを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0016】
(1)請求項1乃至4に係る画像表示装置においては、電子を放出する電性記薄膜として、Sp結合性窒化ホウ素の微粒子膜、もしくは、Sp結合性窒化ホウ素の表面に微小突起形状を有する薄膜が用いられ、かかる薄膜は電子放出効率を飛躍的に高めることができるととも大電流密度の電子放出が可能であり、さらに、弱い真空度もしくは大気圧の環境でも安定かつ効率的な電子放出が可能であるため、省電力で高輝度の画像表示が可能である。(2)請求項2に係る画像表示装置においては、発光させられる蛍光体の領域にカバー部材を設けることによって、蛍光体を発光させるための電子放出を安定化し、安定した画像表示が可能である。
(3)請求項3に係る画像表示装置においては、発光させられる蛍光体の領域に不活性ガスを配することによって、蛍光体を発光させるための電子放出が高効率かつ安定に行われるようになり、効率的かつ安定した画像表示が可能である。
(4)請求項4に係る画像表示装置においては、発光させられる蛍光体の領域を真空気密状態にすることによって、蛍光体を発光させるための電子放出が高効率かつ安定に行われるようになり、効率的かつ安定した画像表示が可能である、等々の効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を用い詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る電子源基板の基本的な構成を説明するための模式図である。図1(A)は模式的な平面図、図1(B)は図1(A)の模式的なB−B線断面図である。
【0019】
図1において、1は基板であり、その上に表面伝導型電子放出素子(以下、電子放出素子と略記する)が形成される。電子放出素子は、素子電極2,3と導電性薄膜4から構成される。そして、導電性薄膜45の一部に電子放出部5が形成される。
【0020】
図1においては、電子放出素子は1個のみ示されているが、画像表示装置等に用いられる電子源基板としては通常、基板1上に多数の電子放出素子が配列される。
【0021】
図1に示した電子放出素子は次のような手順で作成される。まず、図2(A)に示すように基板1に素子電極2,3が形成される。次に図2(B)に示すように素子電極2,3に跨るように導電性薄膜4が形成される。次に例えば通電フォーミング処理によって、図2(C)に示すように導電性薄膜4の一部に電子放出部5が形成される。
【0022】
なお、基板1上に導電性薄膜4、素子電極2,3を、この順に形成した構成としてもよい。要するに電子放出部5に電子放出がなされるように電界を作用させる構成であれば、どのような電極構成であってもよい。例えば1対の素子電極を平面状に配置しないで3次元立体構造とすることも可能である。
【0023】
本発明に係る電子源基板の最も大きな特徴は、電子放出素子の導電性薄膜4として、Sp結合性窒化ホウ素(Sp−bonded 5H−BN)の微粒子膜、もしくはSp結合性窒化ホウ素の表面に微小突起形状を有する薄膜を用いることであるが、その詳細は後述する。
【0024】
基板1としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を低減させたガラス、青板ガラス、SiO2を表面に堆積させたガラス基板、アルミナ等のセラミックス基板等を用いることができる。
【0025】
素子電極2,3の材料としては、一般的な導電材料を用いることができ、例えば、Ni,Cr,Au,Mo,W,Pt,Ti,Al,Cu,Pd等の金属あるいは合金,Pd,As,Ag,Au,RuO2,Pd−Ag等の金属あるいは金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体、In23−SnO2等の透明導電体、ポリシリコン等の半導体材料等から適宜選択することができる。
【0026】
素子電極2,3間の間隔Lは、好ましくは数千Åないし数百μmの範囲であり、より好ましくは素子電極2,3間に印加する電圧等を考慮して1μmないし200μmの範囲である。素子電極2,3の長さWは、電極の抵抗値および電子放出特性を考慮して、数μmないし数百μmであり、また、素子電極2,3の膜厚dは、100Åないし1μmの範囲である。
【0027】
導電性薄膜4としては、良好な電子放出特性を得るために、微粒子で構成された微粒子膜が特に好ましい。あるいは、薄膜であると同時にその表面が微小突起形状となるのが好ましい。そして、その微粒子あるいは微小突起部から電子放出がなされる。ここで述べる微粒子膜とは複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造として、微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接、あるいは重なり合った状態(いくつかの微粒子が集合し、全体として島状を形成している場合も含む)をとっているものである。微粒子の粒径は、数Åないし1μmであり、好ましくは10Åないし200Åである。
【0028】
導電性薄膜4の膜厚は、素子電極2,3へのステップカバレージ、素子電極2,3間の抵抗値および後述の通電フォーミング条件等によって適宜設定されるが、好ましくは、数Åないし数千Åであり、特に好ましくは10Åないし500Åである。またその抵抗値は、Rsが10の2乗ないし10の7乗Ωの値である。なお、Rsは厚さがt、幅がwで長さが1の薄膜の抵抗Rを、R=Rs(1/w)とおいたときに現われる値で、薄膜材料の抵抗率をρとするとRs=ρ/tで表される。なお、通電フォーミングを例に挙げて説明するが、フォーミング処理はこれに限られるものではなく、膜に亀裂を生じさせて高抵抗状態を形成する方法であればいかなる方法を用いても良い。
【0029】
導電性薄膜4を構成する材料としては、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb等の金属、PdO,SnO2,In2O3,PbO,Sb2O3等の酸化物、HfB2,ZrB2,LaB6,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、BN,TiN,ZrN,HfN等の窒化物、Si,Ge等の半導体、カーボン等の中から適宜選択可能であるが、本発明においては、前述のようにSp結合性窒化ホウ素(Sp−bonded
5H−BN)が用いられる。Sp結合性窒化ホウ素は、特に空気中における電子放出特性にも優れ、電子放出素子の導電性薄膜4の材料として極めて好ましい。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、導電性薄膜4の材料であるSp結合性窒化ホウ素の微細な微粒子が分散された溶液の液滴を、インクジェット原理によって成膜部位に噴射付与することによって、微粒子膜である導電性薄膜4が形成される。
【0031】
図3は、このような導電性薄膜形成方法を示す模式的な平面図である。対向する素子電極2、3間にSp結合性窒化ホウ素の微粒子を含有した溶液の滴を噴射付着させることにより導電性薄膜4となるドットパターン44を形成した例を示している。なお、素子電極2、3間の距離(ギャップ)は例えば約3μmであり、ドットパターン44の直径は例えば約12μmである。
【0032】
前述のように、本発明においては、Sp結合性窒化ホウ素(Sp−bonded 5H−BN)を、空気中における電子放出特性にも優れるため、電子放出素子の導電性薄膜4の最も好ましい材料として使用する。ここで、この材料について説明する。
【0033】
発明者らは、優れた電子放出特性を示す材料を探索中に、特定の条件下で製作した窒化ホウ素の中に、これを膜状に生成した場合に電界電子放出特性に優れた表面形状を呈するものを生成できることを見出した。
【0034】
すなわち、窒化ホウ素を気相からの反応によって基板上に生成堆積する場合、基板近傍にエネルギの高い紫外光を照射すると基板上に窒化ホウ素が膜状に形成され、かつ、その膜表面上に、先端が尖った状態を呈した形状の窒化ホウ素が適宜間隔を置いて光方向に自己組織的に生成、成長すること、そしてその得られた膜は、これに電界をかけると容易に電子を放出し、しかもこれまでのこの種材料から考えると破格といってもいい大電流密度を保ちながら、材料の劣化、損傷、脱落のない極めて安定した状態、性能を維持し得る極めて優れた電子放出材料であることを見出した。
【0035】
この材料が、電界電子放出特性に優れた表面形状が気相からの反応によって自己造形的に形成されるためには、紫外光の照射が必要である。このことは、後述の材料生成の詳細な条件で明らかにする。その理由については現段階では必ずしも定かではないものの、現時点では次のように考えることができる。
【0036】
すなわち、自己組織化による表面形態形成は、いわゆる「チューリング構造」として把握され、前駆体物質の表面拡散と表面化学反応とが競合するある種の条件において出現する。ここでは、紫外光照射がその両者の光化学的促進に関わり、初期核の規則的な分布に影響していると考えられる。紫外光照射により表面での成長反応が促進されるが、これは光強度に反応速度が比例することを意味する。初期核が半球形であると仮定すると、頂点付近では光強度が大きく、成長が促進されるのに対して、周縁部分では光強度が弱まり成長が遅れる。これが先端の尖った表面形成物の形成要因の一つであると考えられる。何れにしても紫外光照射が極めて重要な働きをなしており、これが重要なポイントであることは否定できない。
【0037】
以下に、この材料の生成方法についてより詳細に説明する。図4に示す構造のCVD反応容器は、本発明の電子放出素子の導電性薄膜4の材料して好適に使用される電子放出特性の優れたSp結合性窒化ホウ素膜体(Sp−bonded 5H−BN)を得る気相反応を実施するのに使用されたものである。
【0038】
図4において、反応容器45は、反応ガス及びその希釈ガスを導入するためのガス導入口46と、導入された反応ガス等を容器外へ排気するためのガス流出口47とを備え、このガス流出口47が真空ポンプに接続され、内部は大気圧以下に減圧維持されている。反応容器45内のガスの流路には窒化ホウ素が析出する基板6が設けられ、この基板6に面した反応容器の壁体の一部には光学窓48が取り付けられ、この窓を介して基板にエキシマ紫外レーザー(図中の矢印)が照射される。
【0039】
反応容器45に導入された反応ガスは、基板6の表面において照射される紫外光によって励起され、反応ガス中の窒素源とホウ素源とが気相反応し、基板6上に、一般式:BNで示され、5H型多形構造を有してなるSp結合性窒化ホウ素(Sp−bonded 5H−BN)が生成析出し、膜状に成長する。
【0040】
その場合の反応容器45内の圧力は、0.001〜760Torrの広い範囲において実施可能である。また、反応空間に設置された基板6の温度は、室温〜1300℃の広い範囲で実施可能であるが、目的とする反応生成物をより高純度で得るためには、圧力は低く、また高温度で実施した方が好ましい。
【0041】
なお、基板表面ないしその近傍空間領域に対して紫外光を照射して励起する際、プラズマを併せて照射するのもよい方法である。図4において、プラズマトーチ49は、この態様を示すものであり、反応ガス及びプラズマが基板6に向けて照射されるよう、反応ガス導入口46と、プラズマトーチ49とが基板6に向けて一体に設定されている。
【0042】
以下にさらに具体的な条件に基づいて説明する。ただし、以下に開示する条件は、あくまでも本発明に好適に適用されるSp結合性窒化ホウ素膜体(Sp−bonded 5H−BN)を理解するための一助として開示するものであって、この条件のみによって本発明が限定されるものではないことはいうまでもない。
【0043】
<生成条件例1>
アルゴン流量2SLM、水素流量50sccmの混合希釈ガス流中にジボラン流量10sccm及び、アンモニア流量20sccmを導入し、同時にポンプにより排気することで圧力30Torrに保った雰囲気中にて、加熱により800℃に保持したシリコン基板上に、エキシマレーザー紫外光を照射した(図4参照)。60分の合成時間により、所望の薄膜を得た。薄膜生成物をX線回折法により同定した結果、この試料の結晶系は六方晶であり、Sp結合による5H型多形構造で、格子定数は、a=2.52Å、c=10.5Åであった。
【0044】
走査型電子顕微鏡像によって観察した結果、この薄膜は電界集中の生じやすい先端の尖った円錐状の突起構造物(0.001μm〜数μmの長さ)に覆われた特異な表面形状が自己造形的に形成されていることが観察された。
【0045】
この薄膜の電界電子放出特性を調べるため、径1mmの円柱状の金属電極を表面から30μm離して真空中で薄膜−電極間に電圧を印可し、電子放出量を測定した結果、電界強度15−20(V/μm)において、電流密度の増大が見られ、20(V/μm)において、測定用高圧電源の限界電流値(1.3A/cm相当)にて飽和していることが明らかとなった。
【0046】
また、この時の電流値の時間変化を調べたところ、約15分の間、電流値に多少の揺動が認められたが、ほぼ平均的な電流値が維持され、材料劣化による電流値の減少は見られず、安定な材料であることが確認された。さらに、この評価を空気中において行ってもほぼ同等の特性を示した。また、薄膜を微細な粒子状(0.0005μm〜1μm)に粉砕し、それをペースト状にして塗膜、乾燥後その性能を評価したが、やはり同等の性能が得られた。
【0047】
<生成比較例1>
比較のため、紫外光の照射以外は生成条件例1の条件と同様の条件で同時に作製した薄膜で、紫外光の照射されなかった部分の電界電子放出特性を調べた。その結果、電子放出開始の閾値電界強度が42(V/μm)となり、紫外光照射を行って作製した生成条件例1の場合の15(V/μm)に比べて大幅に高くなっていることがわかった。また、この部分は、走査型電子顕微鏡で観察したところ、電界電子放出による薄膜の損傷・剥離が見られた。一方、紫外光照射下で成長した突起状表面形状を示す部分には、電界電子放出実験の後、このような損傷は見出されなかった。
【0048】
<生成条件例2>
アルゴン流量2SLM、水素流量50sccmの混合希釈ガス流中にジボラン流量10sccm及び、アンモニア流量20sccmを導入し、同時にポンプにより排気することで圧力30Torrに保った雰囲気中にて、出力800w、周波数13.56MHzのRFプラズマを発生し、加熱により900℃に保持したシリコン基板上に、エキシマレーザー紫外光を照射した(図4参照)。
【0049】
60分の合成時間により、薄膜生成物を得た。この生成物を生成条件例1と同様の方法で同定した結果、結晶系は六方晶であり、Sp結合による5H型多形構造で、格子定数は、a=2.5Å、c=10.4Åであった。
【0050】
走査型電子顕微鏡像によって観察した結果、この薄膜は電界集中の生じやすい先端の尖った円錐状の突起構造物(0.001μm〜数μmの長さ)に覆われた特異な表面形状が自己造形的に形成されていることが観察された。
【0051】
この薄膜の電界電子放出特性を調べるため、径1mmの円柱状の金属電極を表面から40μm離して真空中で薄膜−電極間に電圧を印可し、電子放出量を測定した。その結果は、電界強度18−22(V/μm)において、電流密度の増大が見られ、22(V/μm)において、測定用高圧電源の限界電流値(1.3A/cm相当)にて飽和していることが明らかとなった。また、空気中評価あるいは微細な粒子状評価も同様な結果が得られた。すなわち、生成条件例1と同様、安定な材料が得られたことが確認された。
【0052】
以上述べたとおり、本発明の電子放出素子の導電性薄膜4として好適に使用される電子放出特性の優れたSp結合性窒化ホウ素膜体(Sp−bonded 5H−BN)は、電界電子放出特性に優れた表面形状、すなわち、先端の尖った状態を呈した形状が自己造形的に形成されてなる特異な構成を有してなるものである。
【0053】
次に、以上に述べたような本発明に係る電子放出素子をマトリクス配列した電子源基板を製造するための装置について説明する。
【0054】
図5は、電子源基板の製造装置の一例を示す概略斜視図である。図中、11は噴射ヘッドを含む吐出ヘッドユニット、12はキャリッジ、13は基板保持台、14は平面型表面伝導型電子放出素子群(以下、電子放出素子群)が形成される基板である。また、15は電子放出素子の導電性薄膜の材料を含有する溶液を吐出ヘッドユニット11の噴射ヘッドへ供給するための溶液供給チューブ、16は噴射ヘッドの駆動信号を供給する信号供給ケーブル、17は噴射ヘッドの溶液供給と駆動を制御する噴射ヘッドコントロールボックスである。18はキャリッジ12のX方向走査のためのX方向スキャンモータ、19はキャリッジ12のY方向走査のためのY方向スキャンモータである。20は指令・データ入力、装置全体の制御や装置状態の監視等のためのコンピュータ、21はX,Y方向スキャンモータ18,19等の制御を行うコントロールボックスである。また、22(22X1,22Y1,22X2,22Y2)は基板14を基板保持台13に位置決めし保持するための位置決め/保持手段である。
【0055】
この製造装置は、基板保持台13に位置決め保持された(固定された)基板14の前面を、吐出ヘッドユニット11がキャリッジ走査により移動し、吐出ヘッドユニット11の噴射ヘッドより導電性薄膜材料を含有する溶液の液滴を基板14に噴射付与する構成である。噴射ヘッドは、任意の液滴を定量吐出できるものであれば如何なる構成のものでもよいが、特に数10ng程度の液滴を形成できるインクジェット方式のものが望ましい。インクジェット方式としては、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、ヒータの熱エネルギを利用して気泡を発生させるバブルインクジェット方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等いずれのものでも構わない。
【0056】
図6は、電子源基板製造装置の別の例を説明するための概略構成図である。この製造装置では、噴射ヘッドを含む吐出ヘッドユニット30を固定し、XY方向走査機構37により基板14を任意の位置に移動させ、吐出ヘッドユニット30の噴射ヘッドより電子放出素子の導電性薄膜の材料を含有した溶液の液滴を基板14の表面に噴射付着させることにより、電子放出素子の導電性薄膜を形成する。図7は吐出ヘッドユニット30の概略拡大図である。
【0057】
図6及び図7において、吐出ヘッドユニット30は、ヘッドアライメント制御機構31、検出光学系32、噴射ヘッド33、ヘッドアライメント微動機構34からなる。35は制御コンピュータ、36は画像識別機構、38は位置検出機構、39は位置補正制御機構、40はヘッド駆動・制御機構、41は検出光学系32の光軸、42は噴射ヘッド33より噴射される液滴、43は液滴着弾位置である。2,3は電子放出素子の素子電極である。
【0058】
吐出ヘッドユニット30の噴射ヘッド33としては、図6に示した例の場合と同様に、インクジェット方式のものが望ましく、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、ヒータの熱エネルギを利用して気泡を発生させるバブルインクジェット方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等いずれのものでも構わない。
【0059】
検出光学系32は、基板14上の画像情報を取り込むもので、液滴42を吐出させる噴射ヘッド33に近接し、検出光学系32の光軸41および焦点位置と、噴射ヘッド33による液滴42の着弾位置43とが一致するよう配置されている。検出光学系32と噴射ヘッド33との位置関係は、ヘッドアライメント微動機構34とヘッドアライメント制御機構31により精密に調整できるようになっている。検出光学系32は例えばCCDカメラとレンズから構成される。
【0060】
画像識別機構36は、検出光学系32で取り込まれた画像情報を2値化し、2値化した特定コントラスト部分の重心位置を算出する機能を有するものである。具体的には、例えば(株)キーエンス製の高精度画像認識装置VX−4210を画像識別機構36として用いることができる。画像識別機構36によって得られた情報に基板14上における位置情報を与える手段が位置検出機構38である。これには、XY方向走査機構37に設けられたリニアエンコーダ等の測長器を利用することができる。また、画像識別機構36により得られた情報と位置検出機構38により得られた基板14上での位置情報をもとに、XY方向走査機構37の位置補正を行うのが位置補正制御機構39である。また、ヘッド駆動・制御機構40によって噴射ヘッド33が駆動され、液滴が基板14上に噴射される。これまで述べた各制御機構は、制御コンピュータ35により集中制御される。
【0061】
なお、以上の説明は、吐出ヘッドユニット30は固定で、基板14がXY方向走査機構37により任意の位置に移動することで吐出ヘッドユニット30と基板14との相対移動を実現しているが、図5に示した例のように、基板14を固定とし、吐出ヘッドユニット30がXY方向に走査するような構成としてもよいことはいうまでもない。特に200mm×200mm程度の中画面から2000mm×2000mmあるいはそれ以上の大画面の画像表示装置用の電子源基板の製造に適用する場合には、基板14を固定とし吐出ヘッドユニット30をX,Yの2方向に走査するようにし、溶液の液滴の噴射付与を、このような直交する2方向に順次行うようにする構成としたほうがよい。
【0062】
基板サイズが200mm×200mm程度以下の場合には、液滴付与のための吐出ヘッドユニットを200mmの範囲をカバーできるラージアレイマルチノズルタイプとし、吐出ヘッドユニットと基板の相対移動を直交する2方向(X方向,Y方向)に行うことなく、1方向のみ(例えばX方向のみ)に相対移動させることも可能であり、また量産性も高くすることができるが、基板サイズが200mm×200mm以上の場合には、そのような200mmの範囲をカバーできるラージアレイマルチノズルタイプの吐出ヘッドユニットを製作することは技術的/コスト的に実現困難であり、上述のごとく吐出ヘッドユニット30を直交するX,Y2方向に走査するようにし、溶液の液滴の付与をこのような直交する2方向に順次行うようにする構成としたほうがよい。
【0063】
液滴42の材料には、先に述べた導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する水溶液、有機溶剤等を用いることができる。例えば、導電性薄膜となる元素あるいは化合物がパラジウム系の例を以下に示すと、酢酸パラジウム−エタノールアミン錯体(PA−ME),酢酸パラジウム−ジエタノール錯体(PA−DE),酢酸パラジウム−トリエタノールアミン錯体(PA−TE),酢酸パラジウム−ブチルエタノールアミン錯体(PA−BE),酢酸パラジウム−ジメチルエタノールアミン錯体(PA−DME)等のエタノールアミン系錯体を含んだ水溶液、また、パラジウム−グリシン錯体(Pd−Gly),パラジウム−β−アラニン錯体(Pd−β−Ala),パラジウム−DL−アラニン錯体(pd−DL−Ala)等のアミン酸系錯体を含んだ水溶液、さらには酢酸パラジウム・ビス・ジ・プロピルアミン錯体の酢酸ブチル溶液等が挙げられる。
【0064】
そして、本発明においては、好ましくは前述したような条件で生成されたSp結合性窒化ホウ素の微粒子を分散した溶液の液滴42をインクジェット原理によって空中を飛翔させ、基板上に液滴を付与することにより、図3に模式的に示したように電子放出素子の導電性薄膜(ドットパターン44)を形成することができる。
【0065】
こうした液滴42を吐出ヘッドユニット30の噴射ヘッド33により所望の素子電極部に付与する際には、付与すべき位置を検出光学系32と画像識別機構36とで計測し、その計測データ、噴射ヘッド33の吐出口面と基板14の距離、両者の相対移動速度に基づいて補正座標を生成し、この補正座標通りに基板14と噴射ヘッド33とを相対移動せしめながら液滴を噴射付与することになる。
【0066】
図8に、図5又は図6に示す製造装置において使用可能な噴射ヘッドの一例を図8に示す。ここに示す噴射ヘッドはマルチノズルで効率的なドット形成が可能である。
【0067】
図8において、(A)は組み立てられた噴射ヘッドの斜視図、(B)は噴射ヘッドの分解斜視図、(C)は(B)に示した蓋基板の内面側を示す斜視図である。
【0068】
ここに示す噴射ヘッド50はノズル数が4個の例である。51は発熱体基板、52は蓋基板である。発熱体基板51は、シリコン基板53上にウエハプロセスによって個別電極54、共通電極55、エネルギ作用部である発熱体56が形成されたものである。蓋基板52は、導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する溶液を導入するための溶液流入口57、流入した溶液を収容する共通液室を形成するための凹部領域60、この凹部領域60と連通した溝59が形成されたものである。
【0069】
このような発熱体基板51と蓋基板52とを図8(A)に示すように接合させることにより、前記共通液室が形成されるとともに、この共通液室に連通した流路が前記溝59により形成される。この流路の途中に発熱体56が位置し、また、流路の端部は溶液の液滴を吐出させるためのノズル58となる。
【0070】
このようなマルチノズル型の噴射ヘッドを用いると効率的に電子放出素子を形成することができる。この例では4ノズルの噴射ヘッドであるが、必ずしも4ノズルに限定されるものではなく、ノズル数が多ければ多いほど電子放出素子の形成が効率的になることはいうまでもない。ただし、単純に多くすればよいということではなく、多くすれば噴射ヘッドも高価になり、また噴射ノズルの目詰まりが起きる確率も高くなるので、それらも考慮し装置全体のバランス(装置コストと電子放出素子の製造効率のバランス)を考えてノズル数が決められる。
【0071】
また、ノズル数だけではなく、ノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅)についても、同様の考慮が必要である。すなわち、単純にノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅)を大きくすればよいということではなく、これも装置全体のバランス(装置コストと電子放出素子の製造効率のバランス)を考えて決められる。
【0072】
より具体的な数値を挙げると、図8に示した4ノズルのノズル列配列長さ(噴射ヘッドの有効噴射幅、言い換えるならば、両端のノズル間距離)は約127μm、各ノズル間距離は約42.3μmである。この例は、いわゆるインクジェットプリンタでいうところの600dpi(dotper inch)相当のノズル配列密度である。
【0073】
また、図3に示したような1つのドット径を約12μmとなるようにした場合、噴射ヘッドのノズル径を例えば10μm、発熱体サイズを例えば10μm×35μm(抵抗値101Ω)とし、駆動電圧を10.5V、パルス幅を3μs、駆動周波数を16kHzとして駆動することができる。この場合の1滴形成のエネルギは約3.3μJ、液滴の噴射速度は約8m/sであった。ただし、以上の溶液および噴射の条件は1例であり、この条件にのみ限定されるものではない。
【0074】
図8に示した噴射ヘッドは、いわゆるサーマルインクジェット(バブルジェット)として知られる熱エネルギーを利用する方式のものであるが、PZT等の圧電素子を利用するピエゾ方式の噴射ヘッドを利用するのも良い方法である。
【0075】
以上に述べたように、本発明の好ましい態様によれば、基板上の1対の素子電極間に、インクジェットの原理によりSp結合性窒化ホウ素微粒子を含有する溶液の液滴を噴射付与することにより電子放出素子の導電性薄膜4(図1,図2,図3参照)が形成されるが、このような材料を含有する溶液の液滴を噴射付与した後に、次に述べるようなフォーミング処理によって導電性薄膜4の一部に電子放出部5を形成する。
【0076】
電子放出部5は、導電性薄膜4の一部に形成された高抵抗の亀裂により構成され、導電性薄膜4の膜厚,膜質,材料等、あるいはフォーミング処理条件等に依存したものとなる。電子放出部5の内部には、1000Å以下の粒径の微粒子を含む場合もある。この微粒子は、導電性薄膜4を構成する材料の元素を含有するものとなる。
【0077】
この導電性薄膜4に施すフォーミング処理方法の一例として、通電処理による方法を説明する。素子電極2,3間に不図示の電源を用いて通電を行うと、導電性薄膜4の部位に構造の変化した電子放出部5が形成される。すなわち、通電フォーミングによれば導電性薄膜4に局所的に破壊,変形もしくは変質等の構造変化した部位が形成され、この部位が電子放出部5となる。
【0078】
図9に、通電フォーミング処理のために素子電極間に印加される電圧波形の例を示す。電圧波形は特にパルス波形が好ましい。そして、図9(A)に示すようにパルス波高値が一定の電圧パルスを連続的に印加する方法と、図9(B)に示すようにパルス波高値を徐々に増加させた電圧パルスを印加する方法とがある。
【0079】
図9(A)におけるT1及びT2はそれぞれ電圧波形のパルス幅とパルス間隔であり、T1を1μs〜10ms、T2を10μs〜100msとし、三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)を電子放出素子の形態に応じて適宜選択する。このような条件のもと、例えば、数秒ないし数十分間電圧を印加する。また、パルス波形は三角波に限定されるものではなく、矩形波など所望の波形を用いても良い。
【0080】
図9(B)におけるT1及びT2はそれぞれ電圧波形のパルス幅とパルス間隔であり、三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1Vステップ程度ずつ増加させることができる。
【0081】
通電フォーミング処理の終了は、パルス間隔T2中に、導電性薄膜4を局所的に破壊、変形しない程度の電圧を印加し、電流を測定して検知することができる。例えば0.1V程度の電圧印加により流れる素子電流を測定し、抵抗値を求めて、1MΩ以上の抵抗を示した時に通電フォーミングを終了させる。
【0082】
通電フォーミングを終了した電子放出素子に対し、さらに活性化工程と呼ぶ処理を施すことが望ましい。活性化処理を施すことにより、素子電流If、放出電流Ieが著しく変化する。
【0083】
活性化工程は、例えば有機物質のガスを含有する雰囲気下で、通電フォーミングと同様に、パルスの印加を繰り返すことで行うことができる。上記の雰囲気は、例えば油拡散ポンプやロータリーポンプなどを用いて真空容器内を排気した場合に雰囲気内に残留する有機ガスを利用して形成することができる他、イオンポンプなどにより一旦十分に排気した真空中に適当な有機物質のガスを導入することによっても得られる。このときの好ましい有機物質のガス圧は、前述の応用の形態、真空容器の形状や、有機物質の種類などにより異なるため場合に応じ適宜設定される。
【0084】
上記の有機物質としては、アルカン,アルケン,アルキンの脂肪族炭化水素類,芳香族炭化水素類,アルコール類,アルデヒド類,ケトン類,アミン類,フェノール,カルボン酸,スルホン酸等の有機酸類等が好ましく、具体的には、メタン,エタン,プロパンなどCnH2n+2で表される飽和炭化水素,エチレン,プロピレンなどCnH2n等の組成式で表される不飽和炭化水素,ベンゼン,トルエン,メタノール,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,アセトン,メチルエチルケトン,メチルアミン,エチルアミン,フェノール,蟻酸,酢酸,プロピオン酸等を使用できる。この処理により雰囲気中に存在する有機物質から炭素あるいは炭素化合物が素子上に堆積し、素子電流If,放出電流Ieが著しく変化する。活性化工程の終了判定は、素子電流Ifと放出電流Ieを測定しながら行う。なおパルス幅,パルス間隔,パルス波高値などは適宜設定される。
【0085】
ここで、炭素あるいは炭素化合物とは、グラファイト(単結晶,多結晶の両者を指す),非晶質カーボン(非晶質カーボン及び非晶質カーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を含むカーボン)であり、その膜厚は500Å以下にするのが好ましく、より好ましくは300Å以下である。
【0086】
活性化処理後の電子放出素子に対し、さらに安定化処理を行うことが好ましい。この処理は、真空容器内の有機物質の分圧が1×10-8Torr以下、望ましくは1×10-10Torr以下で行うのが良い。真空容器内の圧力は、10-6〜10-7Torr以下が好ましく、特に1×10-8Torr以下が好ましい。真空容器を排気する真空排気装置としては、装置から発生するオイルが素子の特性に影響を与えないように、オイルを使用しないものを用いるのが好ましい。具体的には、ソープションポンプ、イオンポンプ等の真空排気装置を挙げることができる。さらに真空容器内を排気するときには、真空容器全体を過熱して真空容器内壁や電子放出素子に吸着した有機物質分子を排気しやすくするのが好ましい。このときの加熱した状態での真空排気条件は、80〜200℃で5時間以上が望ましいが、特にこの条件に限るものではなく、真空容器の大きさや形状、電子放出素子の構成などの諸条件により変化する。
【0087】
なお、上記有機物質の分圧は、質量分析装置により質量数が10〜200の炭素と水素を主成分とする有機分子の分圧を測定し、それらの分圧を積算することにより求められる。安定化工程を経た後、駆動時の雰囲気は、上記安定化処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではなく、有機物質が十分除去されていれば、真空度自体は多少低下しても十分安定な特性を維持することができる。このような真空雰囲気を採用することにより、新たな炭素あるいは炭素化合物の堆積を抑制でき、結果として素子電流If,放出電流Ieが安定する。
【0088】
以上においては、新規な窒化ホウ素の微粒子を含有した溶液を液体噴射原理で噴射付与することにより導電性薄膜を形成する方法について説明したが、必ずしも、そのような微粒子を利用しなければいけないということではない。このような液体噴射原理を利用すれば、どのような大きさあるいは立体物のような基材に対しても、電子放出素子の導電性薄膜として新規な窒化ホウ素含有薄膜を形成できるという利点がある。しかし、そのような製造上の制約がない場合には、例えば、図4を用いて説明したプロセスで形成された薄膜、すなわちSp3結合性窒化ホウ素の薄膜を、そのまま電子放出素子の導電性薄膜として利用してもよいことはいうまでもない。この場合は、所望のパターン形状とするためのフォトリソグラフィー、エンチング等の技術も併用される。
【0089】
次に、本発明に係る画像表示装置について述べる。本発明に係る画像表示装置の一形態は、上述したように本発明に係る電子源基板に対向させて、蛍光体を搭載したフェースプレートを配置した構成の表示パネルである。電子源基板上の電子放出素子の配列については種々のものが採用できるが、その1つはいわゆる「単純マトリックス配置」であり、もう1つはいわゆる「梯子状配置」である。いずれの素子配列であっても、本発明に係る電子源基板は電子放出効率が極めて優れているため、省電力・高輝度の表示パネルを実現可能である。
【0090】
まず、単純マトリックス配置の電子源基板と、それを用いた表示パネルについて説明する。
【0091】
図10は、単純マトリックス配置の電子源基板の一例を示す模式図である。図中、10は電子源基板、14は基板、61はX方向配線、62はY方向配線、63は電子放出素子、64は結線である。X方向配線61はDX1,DX2,・・・DXmのm本の配線からなり、Y方向配線62はDY1,DY2,・・・DYnのn本の配線よりなる。これらの配線は、多数の電子放出素子63にほぼ均等な電圧が供給されるように、材料,膜厚,配線幅が適宜設定される。これらm本のX方向配線61とn本のY方向配線62の間は不図示の層間絶縁層により電気的に分離され、マトリックス配線を構成する(なお、上記m,nは共に正の整数である)。
【0092】
不図示の層間絶縁層は、X方向配線61を形成した基板14の全面域または一部の所望の領域に形成される。X方向配線61とY方向配線62はそれぞれ外部端子として引き出される。電子放出素子63の素子電極(不図示)がm本のX方向配線61及びn本のY方向配線62と結線64によって電気的に接続されている。X方向配線61とY方向配線62を構成する材料、結線64を構成する材料、及び一対の素子電極を構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なっても良い。これらの材料は、例えば前述の素子電極の材料より適宜選択される。素子電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、素子電極に接続した配線も含めて素子電極ということもできる。
【0093】
この表示パネルの駆動時には、X方向配線61は、X方向に並ぶ電子放出素子63の行を入力信号に応じて走査する走査信号を印加するための走査信号発生手段と電気的に接続される。一方、Y方向配線62は、Y方向に並ぶ電子放出素子63の各列を入力信号に応じて変調する変調信号を印加するための変調信号発生手段と電気的に接続される。各電子放出素子63には、一方の素子電極に印加される走査信号と他方の素子電極に印加される変調信号の差電圧が駆動電圧として供給されるものである。このような構成により、単純なマトリックス配線だけで個々の電子放出素子の選択駆動が可能になる。
【0094】
図11は、上に述べたような単純マトリックス配置の電子源基板を用いた表示パネルの一例を示す一部を破断した概略斜視図である。図中、10は上述の単純マトリックス配置の電子源基板、71は電子源基板10を固定したリアプレート、72は支持枠、76はフェースプレートである。このフェースプレート76は、ガラス基板73の内面に蛍光膜74とメタルバック75等が形成されたものである。フェースプレート76、リアプレート71、支持枠72及びフェースプレート76は、フリットガラス等を塗布し、大気中あるいは窒素中において400〜500℃で10分以上焼成することにより封着して外囲器78を構成する。また、63は電子放出素子、61,62はそれぞれ電子放出素子の一対の素子電極と接続されたX方向配線及びY方向配線である。
【0095】
上述のように、フェースプレート76、支持枠72及びリアプレート71で外囲器78を構成したが、リアプレート71は主に電子源基板10の強度補強の目的で設けられるものである。電子源基板10が十分な強度を持つ場合は、リアプレート71を省き、電子源基板10に直接的に支持枠71を封着し、フェースプレート76、支持枠72及び電子源基板10にて外囲器78を構成することも可能である。また、フェースプレート76とリアプレート71の間に、スペーサとよばれる耐大気圧支持部材を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器78を構成することもできる。
【0096】
図12は、蛍光膜74の模式図である。図12(A)はブラックストライプタイプの蛍光膜74の例を示し、図12(B)はブラックマトリックスタイプの蛍光膜74の例を示す。図12において、81は黒色導電材、82は蛍光体である。蛍光膜74は、モノクローム表示の場合は蛍光体のみからなるが、カラー表示の場合は、図示のようにブラックストライプあるいはブラックマトリックスなどと呼ばれる黒色導電材81と蛍光体82とで構成される。カラー表示の場合に、黒色導電材81のブラックストライプ又はブラックマトリックスを設ける目的は、必要となる三原色の各蛍光体82間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光膜74における外光反射によるコントラストの低下を抑制することである。黒色導電材81としては、黒鉛を主成分とする材料が用いられることが多いが、これに限定されるわけではなく、導電性があり、光の透過及び反射が少ない他の材料を用いることもできる。
【0097】
このようなマトリックス化された蛍光体82のストライプの方向、あるいはマトリックスの互いに直交する2方向と、電子放出素子63のマトリックスの互いに直交する2方向とがそれぞれ互いに平行になるようにし、かつ各電子放出素子63に対応した蛍光体82が一致するように位置決めされる。したがって、このような構成の表示パネルは、非常に高画質な画像表示が可能となる。
【0098】
ガラス基板73に蛍光体を塗布する方法としては、モノクローム、カラーのいずれの場合にも、沈澱法や印刷法が用いられる。また、蛍光膜74(図11)の内面側には通常、メタルバック75が設けられる。このメタルバック75は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート76側へ鏡面反射することにより輝度を向上させ、また、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用し、さらに外囲器内で発生した負イオンの衝突によるダメージから蛍光体を保護する等の役割を有する。メタルバック75は、蛍光膜74を作製後、蛍光膜74の内面側表面の平滑化処理(通常、フィルミングと呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。また、フェースプレート76には、さらに、蛍光膜74の導電性を高めるための透明電極(不図示)を蛍光膜74の外面側に設けてもよい。
【0099】
前述の外囲器78を作成するための封着を行う際、カラーの場合は各色蛍光体82と電子放出素子63とを対応させるために十分な位置合わせを行う必要がある。この十分な位置合わせを行うために、前述のように、電子放出素子63に対向する位置に蛍光体82を配置するとともに、電子放出素子63と蛍光体82のそれぞれのマトリックスの互いに直交する2方向がそれぞれ互いに平行となるようにしている。このような構成の高精度な表示パネルを得るためには、蛍光体基板についても電子源基板と同様な位置決め手法をとることが望ましい。
【0100】
図11に示した表示パネルは、具体的には以下のようにして製造される。外囲器78は前述の安定化工程と同様に、適宜加熱しながらイオンポンプ、ソープションポンプなどのオイルを使用しない排気装置により不図示の排気管を通じて排気し、10-7Torr程度の真空度の有機物質の十分少ない雰囲気にした後、封止される。外囲器78の封止後の真空度を維持するためにゲッター処理を行う場合もある。これは、外囲器78の封止を行う直前あるいは封止後に抵抗加熱あるいは高周波加熱等の加熱法により、外囲器78内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、蒸着膜の吸着作用により、例えば1×10-5Torrないし1×10-7Torrの真空度を維持するものである。
【0101】
ただし、本発明に係る電子放出素子の導電性薄膜の材料として用いられるSp結合性窒化ホウ素材料は、空気中においても良好な電子放出を行うことができるので、必ずしもそのような真空度を維持する必要はない。例えば、10-1Torr程度の弱い真空度、あるいは大気圧でも、電子放出と発光は可能である。
【0102】
蛍光体を塗布する他の方法として、例えば、溶液を微細なチューブの先から直接付与するディスペンサによって、対象物に接触付与して蛍光体を形成する方法もある。
【0103】
より好ましくは、蛍光体の形成に、以上に述べたインクジェット原理が適用される。例えば、赤色発光の蛍光体としては、Y23:Eu、YVO4:Eu、Gd23:Eu、(Y、Gd)BO3:Eu、YBO3:Euなど、緑色発光の蛍光体としては、Zn2SiO4:Mn、BaAl1219:Mn、BaMgAl1626:Eu、Mnなど、青色発光の蛍光体としては、CaWO4:Pb、Y2SiO5:Ce、BaMgAl1017:Euなどが好適に使用できる材料であり、これらの微粒子(大きさ0.05μm〜1μm)を、2〜20重量%、エチルアルコール、ジエチレングリコール等の混合溶液に分散し、これを前述のようなインクジェット原理により噴射付与することにより、所望の場所に選択的に塗布できる。なお、有機ポリマからなるバインダー成分を溶媒中に混合してもよいが、塗布した後、乾燥工程で溶媒(揮発成分)を除去し、さらに焼成工程でバインダー成分を熱分解して除去することが必要である。
【0104】
このようなインクジェット原理を利用すると、所望の場所に選択的に、しかも非接触で蛍光体材料を塗布できるので、上記のようなガラス基板73のみならず、放出される電子が衝突する種々の場所に蛍光体を付与できる。例えば電子放出素子そのものに蛍光体を付与することも簡単にできる。また、その領域が立体的な形状であっても、非接触で噴射付与できるので、複雑な形状であっても何ら支障なく蛍光体を形成できる。
【0105】
なお、上記サイズの蛍光体を使用する場合には、噴射ヘッドのノズル径は20〜30μmのものを使用すればノズルの目詰まりが生じることなく良好に噴射付与できる。それよりも小さいノズル(ノズル径2〜10μmのもの)を使用してより微細な発光領域となる蛍光体付与を行う場合には、使用する蛍光体も1〜20nmといったナノメーターオーダーのナノ粒子蛍光体を使用すれば目詰まりすることなく良好に噴射付与できる。
【0106】
このようなナノ粒子蛍光体としては、例えば水とアルコールとの混合溶媒を用いたソルボサーマル法によって合成できるLaPO4:Ce、Tbナノ蛍光体、グリコサーマル法によって合成できるY3Al5O12:Ce3+(YAG:Ce3+)、ZnGa2O4:Mn2+などの酸化物ナノ蛍光体、ポリオール法によって合成できるMg-Al-O系ナノ蛍光体、エタノール溶媒の超臨界ソルボサーマル法によって合成できるZn2SiO4:Mn2+ナノ蛍光体、ZnS:Mn2+ナノクリスタルを含む逆ミセル溶液にテトラエトキシシランとアンモニア水を添加して得られるZnS:Mn2+/SiO2コア/シェル型ナノ粒子、ポリアクリル酸やメルカプトエタノールなどを修飾したZnS:Mn2+ナノ蛍光体などを使用すればよい。
【0107】
図13に、電子源基板10上の電子放出素子の寸法と配列ピッチの例を模式的に示す。図中の各矩形で示された部分は、それぞれが図3に模式的に示した電子放出素子の露出領域200であり、そのサイズは35μm×7μmである。各電子放出素子の露出領域200を囲む余白として図示された部分は、ポリイミド系感光性樹脂層によって形成された障壁部201であり、その幅は7μm、高さは5μmである。換言すれば、この障壁部201によって各電子放出素子の露出領域200が画成されている。障壁部201は、電子放出素子に直接、赤色(R、Red)、緑色(G、Green)、青色(B、Blue)に発光する蛍光体材料を付与した場合に、隣り合う蛍光体材料が相互に接触あるいは混合しないようにするためである。したがって、図11に示したような、電子源基板に蛍光体を塗布した透明基板を対向配置するような構成の表示パネルの場合には、このような障壁部201はなくてもよい。ただし、かかる構成の表示パネルにおいても、電子源基板と透明基板の間を一定距離だけ離間させる場合には、その離間距離に対応した高さの障壁部を設けたほうがよい。
【0108】
図13に示したような電子源基板に対応した蛍光体の配列ピッチと寸法の例を図14に模式的に示す。図14中の各矩形で表された部分は蛍光体領域210であり、35μm×7μmのサイズである。各蛍光体領域210は図13に示した電子放出素子の露出領域200と1対1に対応している。
【0109】
隣接した3つの蛍光体領域210(破線211で囲んだ領域1、領域2、領域3)の組は1つの絵素(ピクセル)を構成するもので、全体として略正方形となる。そして、各絵素を構成する3つの蛍光体領域210には、赤色(R、Red)、緑色(G、Green)、青色(B、Blue)に発光する蛍光体材料がそれぞれ付与される(図13に示した連続した3つの電子放出素子の組が1つの絵素を表示させるために作用する)。そして、ピクセルを構成する3つの蛍光体領域の組(及び3つの電子放出素子の組)が、上下方向及び左右方向ともほぼ同じ密度でマトリックスをなすように配列できるため、高品質の画像表示が可能となる。
【0110】
なお、図13と及び図14に示した例では、電子放出素子及び蛍光体領域は縦長であったが、これを横長形状とすることも可能である。また、ピクセルを構成する3つの蛍光体領域に、赤色、緑色、青色をどのように割り当てるかは任意に選ぶことができる。
【0111】
図15は、以上に説明したような単純マトリックス配置の電子源基板を用いて構成した表示パネルを、NTSC方式のテレビ信号に基づき駆動するための駆動系の一例を示す概略ブロック図である。図15において、91は表示パネル、92は走査回路、93は制御回路、94はシフトレジスタ、95はラインメモリ、96は同期信号分離回路、97は変調信号発生器、Vx及びVaは直流電圧源である。
【0112】
表示パネル91は端子Dox1〜Doxm、端子Doy1〜Doyn、及び、高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。このうち端子Dox1〜Doxmには、表示パネル91内の電子源基板上のM行N列のマトリックス配線された電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動してゆくための走査信号が印加される。一方、端子Doy1〜Doynには前記走査信号により選択された一行の各電子放出素子の出力電子ビームを制御するための変調信号が印加される。また、高圧端子Hvには直流電圧源Vaより、例えば10kVの直流電圧が供給されるが、これは電子放出素子より出力される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギを付与するための加速電圧である。
【0113】
走査回路92は、内部にM個のスイッチング素子(図中、S1〜Smで模式的に示す)を有し、各スイッチング素子は直流電圧源Vxの出力電圧もしくは0V(グランドレベル)のいずれか一方を選択し、表示パネル91の端子Dox1〜Doxmと電気的に接続するものである。S1〜Smの各スイッチング素子は、制御回路93が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものであるが、実際には例えばFETのようなスイッチング素子を組み合わせることにより実現される。なお、前記直流電圧源Vxは、電子放出素子の特性(電子放出しきい値電圧)に基づき、走査されていない素子に印加される駆動電圧が電子放出しきい値電圧以下となるような一定電圧を出力するように設定されている。
【0114】
制御回路93は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行われるように各部の動作を整合させる働きをもつものである。この後説明する同期信号分離回路96より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscan、Tsft及びTmryの各制御信号を発生する。
【0115】
同期信号分離回路96は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から同期信号成分と映像信号成分とを分離するための回路であり、周波数分離(フィルタ)回路を用いて構成される。同期信号分離回路96により分離された同期信号は、良く知られるように垂直同期信号と水平同期信号よりなるが、ここでは説明の便宜上Tsync信号として図示した。一方、前記テレビ信号から分離された映像信号成分を便宜上DATA信号と表すが、同信号はシフトレジスタ94に入力される。
【0116】
シフトレジスタ94は、時系列的にシリアルに入力される前記DATA信号を画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのものであり、制御回路93より送られる制御信号Tsftに基づいて動作する。すなわち制御信号Tsftは、シフトレジスタ94のシフトクロックであると言い換えても良い。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子N個分の駆動データに相当する)のデータはId1〜IdnのN個の並列信号としてシフトレジスタ94より出力される。
【0117】
ラインメモリ95は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶するための記憶装置であり、制御回路93より送られる制御信号Tmryに従って適宜Id1〜Idnの内容を記憶する。記憶した内容は、Id′1〜Id′nとして出力され変調信号発生器97に入力する。
【0118】
変調信号発生器97は、前記画像データId1〜Idnの各々に応じて電子放出素子の各々を適切に駆動変調するための信号源であり、その出力信号は端子Doy1〜Doynを通じて表示パネル91内の電子放出素子に印加される。
【0119】
前述したように、本発明に係る電子放出素子は、放出電流Ieに対して以下の基本特性を有している。すなわち、前述したように電子放出には明確なしきい値電圧Vthがあり、Vth以上の電圧を印加された時のみ電子放出が生じる。また、電子放出しきい値以上の電圧に対しては素子への印加電圧の変化に応じて放出電流も変化していく。なお、電子放出素子の材料や構成,製造方法を変えることにより電子放出しきい値電圧Vthの値や印加電圧に対する放出電流の変化の度合いが変わる場合もあるが、いずれにしても以下のようなことがいえる。
【0120】
すなわち、電子放出素子にパルス状の電圧を印加する場合、例えば電子放出しきい値以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出しきい値以上の電圧を印加する場合には電子ビームが出力される。その際、第一にはパルスの波高値Vmを変化させることにより出力電子ビームの強度を制御することが可能であり、第二には、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御することが可能である。
【0121】
したがって、入力信号に応じて電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等があげられ、電圧変調方式を実施するには、変調信号発生器97として、一定の長さの電圧パルスを発生するが、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いる。またパルス幅変調方式を実施するには、変調信号発生器97としては、一定の波高値の電圧パルスを発生するが、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いる。
【0122】
シフトレジスタ94やラインメモリ95は、デジタル信号式のものであってもアナログ信号式のものであっても差し支えなく、画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行われればよい。デジタル信号式のものを用いる場合には、同期信号分離回路96の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があるが、これは同期信号分離回路96の出力部にA/D変換器を備えれば可能である。また、これと関連してラインメモリ95の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器97に用いられる回路が若干異なったものとなる。
【0123】
まずデジタル信号の場合について述べる。電圧変調方式において、変調信号発生器97には、例えばよく知られるD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路などを付け加えればよい。またパルス幅変調方式の場合、変調信号発生器97は、例えば高速の発振器、発振器が出力する波数を計数する計数器(カウンタ)、及び計数器の出力値とラインメモリ95の出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合わせた回路を用いることにより構成できる。必要に応じて比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付け加えてもよい。
【0124】
次にアナログ信号の場合について述べる。電圧変調方式においては、変調信号発生器97には、例えばよく知られるオペアンプなどを用いた増幅回路を用いればよく、必要に応じてレベルシフト回路などを付け加えてもよい。パルス幅変調方式の場合には、例えばよく知られた電圧制御型発振回路(VCO)を用いればよく、必要に応じて電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付け加えてもよい。
【0125】
以上のような構成において、表示パネル91の各電子放出素子には、容器外端子Dox1〜Doxm,Doy1〜Doynを通じ、電圧を印加することにより、電子放出させるとともに、高圧端子Hvを通じ、メタルバック75あるいは透明電極(不図示)に高圧を印加して電子ビームを加速し、蛍光膜74に衝突させ、励起・発光させることで画像を表示することができる。
【0126】
入力信号例は、NTSC方式のものに限定されるものでなく、PAL,SECAM方式などの諸方式のものでもよい。また、走査線数の多い、例えばMUSE方式をはじめとする高品位TV方式のテレビ信号でもよい。
【0127】
次に、梯子状配置の電子源基板とそれを用いた表示パネルの例について説明する。
【0128】
図16は、梯子状配置の電子源基板の一例を示す模式図である。図中、10は電子源基板であり、基板14上に多数の電子放出素子63が梯子状に配置されている。X方向に並列に配列された複数の電子放出素子63(素子行と呼ぶ)の素子電極は共通配線98(Dx1〜Dx10)に接続されている。各素子行の共通配線間に駆動電圧を印加することで、各素子行を独立に駆動させることができる。すなわち、電子ビームを放出させたい素子行には、電子放出しきい値以上の電圧を印加し、電子ビームを放出させない素子行には電子放出しきい値以下の電圧を印加すればよい。なお、各素子行間の共通配線、例えばDx2とDx3を同一配線とするようにしても良い。
【0129】
図17は、図16の示したような梯子型配置の電子源基板を用いた表示パネルの一例を示す一部破断した概略斜視図である。図中、100は各素子行間の共通配線を同一配線とした電子源基板、101はグリッド電極、102は電子が通過するための開口、103はDox1,Dox2,・・・Doxmよりなる容器外端子、104はグリッド電極101と接続されたG1,G2,・・・Gnからなる容器外端子である。その他、図11または図16と同様の機能を有する部分には同一符号を付してある。図11に示した表示パネルとの違いは、電子源基板100とフェースプレート76の間にグリッド電極101を備えていることである。
【0130】
グリッド電極101は、電子放出素子から放出された電子ビームを変調するためのものであり、梯子型配置の素子行と直交して設けられたストライプ状の電極に、電子ビームを通過させるため各素子に対応して1個ずつ円形の開口102が設けられている。なお、グリッドの形状や設置位置は図16に示したものに限定されるものではない。例えば、開口としてメッシュ状に多数の通過口を設けることもでき、グリッドを電子放出素子の周囲や近傍に設けることもできる。また、容器外端子103,104は、不図示の制御回路と電気的に接続される。
【0131】
この表示パネルの場合、素子行を1列ずつ順次駆動(走査)し、これに同期してグリッド電極列に画像1ライン分の変調信号を同時に印加する。これにより、各電子ビームの蛍光体への照射を制御し、画像を1ラインずつ表示することができる。このような表示パネルは、テレビジョン受像機用の表示装置,テレビ会議システム用の表示装置、コンピュータ用の表示装置として用いることができ、さらに、電子写真方式のプリンタにおいて感光体性ドラム等に静電潜像を書き込むための手段としても用いることができる。
【0132】
本発明に係る表示パネル(画像表示装置)の特徴について、図18及び図19を用いさらに説明する。図18は表示パネルをその表示面に垂直に切断した断面構造を示す模式的断面図であり、図19はこの表示パネルの組立方法を説明するための模式的な断面図である。
【0133】
図18において、83は以上に説明したような電子源基板、84はケース底板、85はケース枠、86はカバー部材として作用する保護基板、87はシール部材、88は電子源基板83と保護基板86との間のギャップである。
【0134】
このような表示パネルは例えば図19に示すような順序で組み立てられる。まず、(a)に示すように、ケース底板84とケース枠85よりなる電子源基板収納用のケースが組み立てられる。
【0135】
このケースに、(b)に示すように、電子放出素子が数千行×数千列〜数万行×数万列のオーダーのマトリクスに配列された電子源基板83が収納される。
【0136】
次に、(c)に示すように、電子源基板83の電子放出素子配列面に近接して、カバー部材としての保護基板86が取り付けられる。
【0137】
最後に、(d)に示すように、シール部材87によって、ケース内部が密封、封止される。この際に、電子源基板83と保護基板85の間のギャップ88内は、良好な電子放出を長時間安定して行うために、好ましくは1×10−1〜1×10−8Torrの真空気密状態に保たれる。より好ましくは、電子放出効率を上げるとともに電子放出素子の劣化のない安定電子放出状態を保つために、ギャップ88内を1×10−3〜1×10−8Torr程度の真空度を維持するのがよい。
【0138】
また、ギャップ88の距離は小さいほうが好ましく、大きくても保護基板86の厚さ以下とすべきである。このようにする必要があるのは、ギャップ88内部が真空状態であるため、大気圧によって保護基板86が変形し、最悪の場合には保護基板86大気圧によって破損することもあるためである。具体的には、保護基板86の厚さは0.5〜10mmとされ、ギャップ88をそれ以下とすれば、上記のような真空状態にしても保護基板86が破損したりすることはない。なお、より好ましくは、ギャップ88はほとんどない状態にするのがよい。すなわち、電子源基板83と保護基板86とを密着状態にするのもよい方法であり、かかる態様も本発明に含まれる。
【0139】
また、保護基板86は一般に前述のガラス基板73と同様に内面に蛍光体を塗布したものであり、発光した光を透過させる透光性材料からなる。その材料としては、コーニング社製パイレックスガラスなどが好適に用いられ、あるいは、耐衝撃性も考慮して日本板硝子株式会社製化学強化ガラスFL3.2などが好適に用いられる。
【0140】
また、蛍光体材料を保護基板86の内面に塗布するのではなく、蛍光体材料を電子源基板83上の電子放出素子に直接付与するような構成とすることもでき、かかる構成も本発明に包含される。このように電子放出素子に蛍光体材料を直接付与する場合においても、その領域を保護し、あるいは上記のような真空気密状態を維持するために、保護基板86は設けられ、その材料として同様なガラス材料が用いられる。
【0141】
なお、電子源基板83と保護基板86とを密着状態、あるいはそれに近い状態にするような場合においては、保護基板86の材料として、PET材料のようなプラスチック基板を使用することも可能である。また密着状態またはそれに近い状態と場合に、保護基板86のようなカバー部材ではなく、各電子放出素子及びそれに対応して付与された蛍光体材料の上から、酸化ケイ素等の透光性かつ封止性をもつ材料によって保護してもよい。あるいはエポキシ系の透光性樹脂材料の溶液、UV硬化型の樹脂材料を付与し、その後硬化させたり、樹脂シートをラミネートしたりして保護してもよい。またこれらの保護は、各電子放出素子および蛍光体材料を組み合わせたユニットごとに行ってもよい。あるいは、それらを搭載してなる電子源基板83および蛍光体材料の全面に保護材料を付与して保護をするようにしてもよい。このような態様も本発明に含まれる。
【0142】
他の好ましい構成として、電子源基板83と保護基板86の間のギャップ88の領域に窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを注入して密封状態とすることもでき、これにより高い電子放出効率を得られ、また、電子放出素子の劣化のない安定した電子放出を実現することができる。かかる態様も本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明に係る電子源基板上の平面型表面伝導型電子放出素子の構成を説明するための模式的な平面図及び断面図である。
【図2】図1に示す平面型表面伝導型電子放出素子の製造方法を説明するための模式な断面図である。
【図3】Sp結合性窒化ホウ素膜体の生成方法を説明するための模式図である。
【図4】電子放出素子の導電性薄膜を1滴の液滴で形成する例を説明するための模式図である。
【図5】本発明に係る電子源基板の製造に適用可能な製造装置の一例を示す概略斜視図である。
【図6】本発明に係る電子源基板の製造に適用可能な製造装置の他の例を説明するための模式的構成図である。
【図7】図6中の吐出ヘッドユニットの要部概略構成図である。
【図8】本発明に係る電子放出素子の導電性薄膜の形成に使用される噴射ヘッドの一例を説明するための斜視図及び分解斜視図である。
【図9】通電フォーミング処理のための電圧波形の例を示す図である波形図である。
【図10】単純マトリックス配置型の電子源基板の一例を示す模式図である。
【図11】単純マトリックス配置型の電子源基板を用いた表示パネルの一例を説明するための一部破断概略斜視図である。
【図12】表示パネルに用いられる蛍光膜の構成例を示す模式図である。
【図13】本発明に係る電子源基板上の電子放出素子の配列ピッチ及びサイズの例を示す模式図である。
【図14】図13に対応した蛍光体の配列ピッチ及びサイズの例を示す模式図である。
【図15】図11に示した表示パネルの駆動系の一例を示すブロック図である。
【図16】梯子状配置型の電子源基板の一例を示す模式図である。
【図17】梯子状配置型の電子源基板を用いた表示パネルの一例を説明するための一部破断概略斜視図である。
【図18】本発明に係る表示パネルの構成を説明するための模式的断面図である。
【図19】図18に示した表示パネルの組立方法を説明する模式的断面図である。
【図20】従来の電子放出素子の一例を示す模式的平面図である。
【符号の説明】
【0144】
1 基板
2,3 素子電極
4 導電性薄膜
5 電子放出部
10 電子源基板
11 吐出ヘッドユニット
12 キャリッジ
13 基板保持台
14 基板
15 溶液供給チューブ
16 信号供給ケーブル
17 噴射ヘッドコントロールボックス
18 X方向スキャンモータ
19 Y方向スキャンモータ
20 コンピュータ
21 コントロールボックス
22(22X1,22Y1,22X2,22Y2) 基板位置決め/保持手段
30 吐出ヘッドユニット
31 ヘッドアライメント制御機構
32 検出光学系
33 噴射ヘッド
34 ヘッドアライメント微動機構
35 制御コンピュータ
36 画像識別機構
37 XY方向走査機構
38 位置検出機構
39 位置補正制御機構
40 ヘッド駆動・制御機構
41 光軸
42 液滴
43 液滴着弾位置
44 噴射した液滴によるドットパターン
45 反応容器(反応炉)
46 ガス導入口
47 ガス流出口
48 光学窓
49 プラズマトーチ
50 噴射ヘッド
51 発熱体基板
52 蓋基板
53 シリコン基板
54 個別電極
55 共通電極
56 発熱体
57 溶液流入口
58 ノズル
59 溝部
60 凹部領域
61 X方向配線
62 Y方向配線
63 表面伝導型電子放出素子
64 結線
71 リアプレート
72 支持枠
73 ガラス基板
74 蛍光膜
75 メタルバック
76 フェースプレート
78 外囲器
81 黒色導電材
82 蛍光体
91 表示パネル
92 走査回路
93 制御回路
94 シフトレジスタ
95 ラインメモリ
96 同期信号分離回路
97 変調信号発生器
98 共通配線
100 電子源基板
101 グリッド電極
102 開口
103,104 容器外端子
Vx,Va 直流電圧源
83 電子源基板
84 ケース底板
85 ケース枠
86 保護基板(カバー部材)
87 シール部材
88 ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された導電性薄膜と、該導電性薄膜に通電して該薄膜から電子放出を行わせるための電極と、
前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる蛍光体とを有し、
前記導電性記薄膜は、Sp結合性窒化ホウ素の微粒子膜、もしくは、表面に微小突起形状を有するSp結合性窒化ホウ素の薄膜からなることを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる前記蛍光体の領域にカバー部材を設けたことを特徴とする請求項1記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる前記蛍光体の領域に不活性ガスを配したことを特徴とする請求項1又は2記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記導電性薄膜から放出される電子により発光させられる前記蛍光体の領域を真空気密状態にしたことを特徴とする請求項1又は2記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−242467(P2007−242467A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64444(P2006−64444)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】