説明

画像解析装置を使用したスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法

【課題】画像解析装置を使用して官能評価の結果と相関性の高い客観的なデータを得ることができるパン類の評価方法を提供すること。
【解決手段】画像解析装置を使用したスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法であって、内相が現れるように切断したパン類の内相中央部分を測定範囲とし、前記測定範囲内の内相表面の穴を画像解析装置により少なくとも面積が20Kピクセル以上の穴を認識できる測定条件で測定し、前記穴の個数を面積の大きさにより区分した範囲ごとに求め、その個数に評価係数を乗じた値を合計したパラメータ(F1)を使用することを特徴とするスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像解析装置を使用したスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類を評価する方法として目視によりパン類の内相の粗さ等を評価する官能評価が古くから行われている。
一方、機器を使用してパン類の内相を測定する方法として画像解析装置を使用してパン類の内相を測定する方法が知られている。
例えば、内相のキメの大きさを、パン断面の画像を画像解析装置にて解析し、気泡数(個) 及び気泡面積(気泡部の総面積:mm)から平均気泡面積(mm/個)を測定して検討することが行われている(例えば特許文献1参照)。
また、像解析ソフトウェアによりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータについて、内相(断面)を2値化し、粒子の面積、最大長、最小幅を測定することが行われている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−242647号公報
【特許文献2】特開2007−97445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記官能評価による方法は、その評価結果を客観的なデータとして保管することが困難であった。
一方、前記機器による内相の測定では、内相の穴の面積等を測定しているが、これは製造管理指標としての測定値であるので官能評価との関連性は全くない。
従って、本発明の目的は、画像解析装置を使用して官能評価の結果と相関性の高い客観的なデータを得ることができるスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、画像解析装置を使用して内相表面の穴の面積を測定し、この穴をその面積により区分して、区分毎の穴の個数に評価係数を乗じて合計した値が官能評価結果と相関性が高いことを見出し本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、画像解析装置を使用したスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法であって、内相が現れるように切断したパン類の内相中央部分を測定範囲とし、前記測定範囲内の内相表面の穴を画像解析装置により少なくとも面積が20Kピクセル以上の穴を認識できる測定条件で測定し、前記穴の個数を面積の大きさにより区分した範囲ごとに求め、その個数に評価係数を乗じた値を合計したパラメータ(F1)を使用することを特徴とするスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法である。
また、パラメータ(F1)が数式5である前記スポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法である。
【数5】

数式5中、Nは面積500Kピクセル以上の穴の個数、Nは面積300Kピクセル以上500Kピクセル未満の穴の個数、N2.5は面積250Kピクセル以上300Kピクセル未満の穴の個数、Nは面積200Kピクセル以上250Kピクセル未満の穴の個数である。
また、パラメータ(F1)とともに以下のパラメータ(F2)、パラメータ(F3)、パラメータ(F4)のうちいずれか1以上のパラメータを使用するスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法である。
【数6】

数式6中 全体の個数とは、面積20Kピクセル以上の穴の個数である。
【数7】

数式7中、|輝度−80|とは(輝度−80)の絶対値である。
【数8】

数式8中 全体の個数とは、面積20Kピクセル以上の穴の個数である。
【発明の効果】
【0006】
官能検査の結果と相関性の高い客観的な数値データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において使用できる画像解析装置はパン類を切断して現れる内相表面の20Kピクセル以上の穴を測定できる画像解析装置であれば特に限定はなく、市販の解像度が150dpi程度以上の画像解析装置(スキャナー)を使用することができる。
本発明において、Kは補正値であり、K=測定した解像度(dpi)/150(dpi)である。
例えば、解像度150dpiの場合、Kは150dpi/150(dpi)=1となり、20Kピクセルは20ピクセルとなる。
本発明では面積をピクセルの単位で求めていることから、解像度が異なればその測定値(ピクセル)が異なるので、解像度による測定値の違いを補正している。
【0008】
本発明において測定対象となるスポンジ状の内相を有するベーカリー食品は内相面に穴を持つベーカリー食品であれば特に限定はない。
測定対象となるベーカリー食品としては食パン、フランスパンなどのパン類やスポンジケーキなどのケーキ類を挙げることができる。
【0009】
本発明において測定対象となるベーカリー食品の調製は、官能評価の場合と同様に行えばよく特別な調製は必要としない。
【0010】
本発明において測定範囲となるのは、内相中央部分である。
この中央部分の範囲は、断面縦横長の40〜70%の範囲であり、好ましくは55〜65%の範囲である。
官能評価と相関性が高い測定部分を検討した結果、官能評価においては中央部分が最も影響があり縁部は評価にはほとんど影響がないことが判明した。
断面縦横長とは縁部からの縦及び横の幅であり縁部が湾曲などしていて測定対象物の縦幅や横幅が一定でない場合は、最大長の縦及び横の幅をいう。
対象物が円形の場合は、その縦及び横の最大直径をいう。
【0011】
測定における画像解析装置の調整は、20Kピクセルの穴が測定できれば特に限定はない。
これは20Kピクセル以下の面積の穴は官能評価に必要がないことが判明したからである。
穴の識別は閾値を適宜調整し、測定値を2値化して行う。
例えば、閾値以下を穴として評価する。
これは、画像解析装置に付属しているディスプレイγやヒストグラム調整、階調などを適宜調整して行うことができる。
また、閾値を使用しても穴をうまく識別できないときは、閾値に適宜補正値を加え調整することもできる。
測定範囲は、さらに小さな範囲(例えば16区分)に分けてそれぞれの自動閾値を使用することで内相の不均一による測定誤差を減少することができる。
【0012】
穴の面積の判定は市販のコンピュータソフトを使用して行うことができる。
隣り合う測定値が穴を示す測定値であれば、それらを1つの穴として判定しそのピクセル合計を求め穴の面積とする。
【0013】
前記求めた穴の個数を面積の大きさにより区分した範囲ごとに求め、その個数に評価係数を乗じた値を合計したパラメータ(F1)を求める。
区分の数は、測定対象とするベーカリー食品によって適宜調整できるが、4区分程度で十分に官能評価と相関性のあるデータを得ることができる。
また、区分の範囲も測定対象とするベーカリー食品によって適宜調整できるが、200K〜300Kピクセル程度で十分である。
本発明では、区分ごとの穴の個数を求め、これに評価係数を乗じてその合計値を求めることにより、官能評価と相関性の高い数値を得ることができる。
評価係数を、穴の面積の区分毎に規定するのは、官能評価で内相が粗い・細かいと判断する基準が、単位面積あたりの穴の総面積ではなく、単位面積あたりの面積の大きな穴の数と関係するからである。
すなわち、穴の総面積が同じでも、面積の小さな穴が多いよりも、面積の大きな穴がある方が、官能評価では粗いとされる。
【0014】
特に食パンの内相の官能評価と相関性が高い値を求めることができる式は、数式9である。
【数9】

数式9中、Nは面積500Kピクセル以上の穴の個数、Nは面積300Kピクセル以上500Kピクセル未満の穴の個数、N2.5は面積250Kピクセル以上300Kピクセル未満の穴の個数、N2は面積200Kピクセル以上250Kピクセル未満の穴の個数である。
【0015】
食パンの内相が粗ければ、パラメータ(F1)の値は大きくなり、内相が細かければパラメータ(F1)の値は小さくなる。
このように、パラメータ(F1)により官能評価の結果を相関性の高い数値として得ることができる。
さらに、パラメータ(F2)、パラメータ(F3)、パラメータ(F4)によりパラメータ(F1)を補完することができる。
パラメータ(F2)は、全区分の穴の個数でパラメータ(F1)を割ったものであり、面積の小さな穴の個数の官能評価への影響を考慮している。
パラメータ(F3)は、輝度の項をパラメータ(F1)に足したものであり、内相の明るさの官能評価への影響を考慮している。
パラメータ(F4)は、全区分の穴の個数でパラメータ(F3)を割ったものであり、面積の小さな穴の個数と内相の明るさの官能評価への影響を考慮している。
【実施例】
【0016】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1]
測定対象として官能評価で内相が細かいと評価された食パンをサンプルA、内相が中位と評価された食パンをサンプルB、内相が粗いと評価された食パンをサンプルCとして使用した。
図1は内相が細かいと評価されたサンプルAの測定する内相を示す写真である。
図2は内相が中位と評価されたサンプルBの測定する内相を示す写真である。
図3は内相が粗いと評価されたサンプルCの測定する内相を示す写真である
スキャナーとして汎用スキャナーEpsonGT−S600(商品名)を使用した。
食パンをスキャナー上に置き、光が入らないように、スポンジゴムの枠でパンを覆った。
付属のスキャナーソフトEpsonScan(Ver3.04J)(商品名)を起動して画像を取り込んだ。
スキャナーは8bitグレー、150dpi、ディスプレイγ 1.8、ヒストグラム (入力 0/0.70/255、出力0/255)に調整した。
測定範囲を、断面縦横長の65%に当たる中央部分に設定した。
測定は、前記測定範囲を16分割し、各範囲の毎に各範囲の自動閾値+15で2値化した。
自動閾値+15以下は0、自動閾値+15を超えると1とし、穴は値が0である。
穴の解析は汎用解析ソフトScion Image、β4.0.3(商品名)を使用した。
補正値Kは150/150=1である。
穴の個数を、面積500ピクセル以上、面積300ピクセル以上500ピクセル未満、面積250ピクセル以上300ピクセル未満、面積200ピクセル以上250ピクセル未満、面積20ピクセル以上250ピクセル未満の範囲に区分して、それぞれの個数をN、N、N2.5、N、Nとして求めた。
【0017】
この値を数式10に代入し、パラメータ(F1)の値を得た。
さらに、パラメータ(F2)、パラメータ(F3)、パラメータ(F4)に前記値を代入にして、値を求めた。
【数10】

【数11】

【数12】

【数13】

結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
このデータのパラメータ(F1)で比較すると、サンプルAは22、サンプルBは29、サンプルCは35であり、細かいものは値が小さく、粗いものは値が大きい。
官能評価とパラメータ(F1)は、明らかな相関関係が見られる。
他のパラメータでも同様である。
この関係を図示したものが、図4と図5である。
このように官能評価と相関性の高いデータを得ることができる。
【0020】
[実施例2]
実施例1において、測定範囲を断面縦横長の40%に当たる中央部分に設定した以外は実施例1と同様にして測定を行った。
結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
このデータのパラメータ(F1)で比較すると、サンプルAは8、サンプルBは9、サンプルCは11であり、細かいものは値が小さく、粗いものは値が大きい。
官能評価とパラメータ(F1)は、明らかな相関関係が見られる。
【0023】
[実施例3]
実施例1において、測定範囲を断面縦横長の70%に当たる中央部分に設定した以外は実施例1と同様にして測定を行った。
結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
このデータのパラメータ(F1)で比較すると、サンプルAは28、サンプルBは40、サンプルCは40であり、サンプルAは値が小さいが、サンプルBとサンプルCの値に差が見られず、官能評価とパラメータ(F1)は、相関関係は見られない。
しかし、パラメータ(F3)とパラメータ(F4)では、サンプルBは各々42と11、サンプルCは43と12であり、官能評価と相関関係が見られ、パラメータ(F1)に差が見られないことを補うことができる。
【0026】
[比較例1]
実施例1において、測定範囲を断面縦横長の30%に当たる中央部分に設定した以外は実施例1と同様にして測定を行った。
結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
このデータのパラメータ(F1)で比較すると、サンプルAは1、サンプルBは3、サンプルCは3であり、サンプルAは値が小さいが、サンプルBとサンプルCの値に差が見られず、官能評価とパラメータ(F1)は、相関関係は見られなかった。
更に、パラメータ(F2)では、サンプルBは6、サンプルCは4であり、官能評価と逆の関係となった。
このように、測定範囲を断面縦横長の30%に当たる中央部分に設定したものでは、好ましい結果は得られなかった。
【0029】
[比較例2]
実施例1において、測定範囲を断面縦横長の80%に当たる中央部分に設定した以外は実施例1と同様にして測定を行った。
結果を表5に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
このデータのパラメータ(F1)で比較すると、サンプルAは32、サンプルBは43、サンプルCは43であり、サンプルAは値が小さいが、サンプルBとサンプルCの値に差が見られず、官能評価とパラメータ(F1)は、相関関係は見られなかった。
他のパラメータでも同様であった。
【0032】
[実施例4]
測定対象として官能評価で内相が細かいと評価されたスポンジケーキをサンプルD、内相が中位と評価されたスポンジケーキをサンプルE、内相が粗いと評価されたスポンジケーキをサンプルFとして使用した。
図6は内相が細かいと評価されたサンプルDの測定する内相を示す写真である。
図7は内相が中位と評価されたサンプルEの測定する内相を示す写真である。
図8は内相が粗いと評価されたサンプルFの測定する内相を示す写真である
測定は、実施例1と同様にして行った。
結果を表6に示す。
【0033】
【表6】

【0034】
このデータのパラメータ(F1)で比較すると、サンプルDは18、サンプルEは29、サンプルFは31であり、細かいものは値が小さく、粗いものは値が大きい。
官能評価とパラメータ(F1)は、明らかな相関関係が見られる。
他のパラメータでも同様である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】内相が細かいと評価されたサンプルAの測定する内相を示す写真である。
【図2】内相が中位と評価されたサンプルBの測定する内相を示す写真である。
【図3】内相が粗いと評価されたサンプルCの測定する内相を示す写真である。
【図4】パラメータ(F1)、パラメータ(F3)の評価結果を示すグラフである。
【図5】パラメータ(F2)、パラメータ(F4)の評価結果を示すグラフである。
【図6】内相が細かいと評価されたサンプルDの測定する内相を示す写真である。
【図7】内相が中位と評価されたサンプルEの測定する内相を示す写真である。
【図8】内相が粗いと評価されたサンプルFの測定する内相を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像解析装置を使用したスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法であって、内相が現れるように切断した前記ベーカリー食品の内相中央部分を測定範囲とし、前記測定範囲内の内相表面の穴を画像解析装置により少なくとも面積が20Kピクセル以上の穴を認識できる測定条件で測定し、前記穴の個数を面積の大きさにより区分した範囲ごとに求め、その個数に評価係数を乗じた値を合計したパラメータ(F1)を使用することを特徴とするスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法。
【請求項2】
パラメータ(F1)が数式1である請求項1に記載のスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法。
【数1】

数式1中、Nは面積500Kピクセル以上の穴の個数、Nは面積300Kピクセル以上500Kピクセル未満の穴の個数、N2.5は面積250Kピクセル以上300Kピクセル未満の穴の個数、Nは面積200Kピクセル以上250Kピクセル未満の穴の個数である。
【請求項3】
パラメータ(F1)とともに以下のパラメータ(F2)〜パラメータ(F4)のうちいずれか1以上のパラメータを使用するスポンジ状の内相を有するベーカリー食品の内相評価方法。
【数2】

数式2中 全体の個数とは、面積20Kピクセル以上の穴の個数である。
【数3】

数式3中、|輝度−80|とは(輝度−80)の絶対値である。
【数4】

数式4中、全体の個数とは、面積20Kピクセル以上の穴の個数である。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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