説明

画像記録方法

【課題】転写性に優れており、色間に滲みのない優れた品位の画像が記録された記録物を得ることが可能な画像記録方法を提供する。
【解決手段】反応剤を含有する液体組成物を中間転写体に付与する工程と、液体組成物が付与された中間転写体に、液体組成物に含まれる反応剤の作用によって凝集する顔料、及び水性媒体を含有するインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して中間画像を記録する工程と、インクに含まれる水性媒体と接触して増粘する増粘物質を、中間画像に付与する工程と、増粘物質が付与された中間画像を記録媒体に転写する工程と、を備えることを特徴とする画像記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による画像記録の際に、中間転写体において隣接するインクドットが混ざり合い、記録媒体に転写した際に色間に滲みが生じるという問題がある。このような問題を解決するために、顔料を凝集させる液体組成物を付与した中間転写体にインクをさらに付与して中間画像を記録した後、中間転写体を記録媒体に圧着して記録物を得る画像記録方法(以下、「中間転写型画像記録方法」ともいう)が提案されている。このような中間転写型画像記録方法においては、液体組成物によってインク中の顔料が凝集するので、色間の滲み発生を抑制することができる。
【0003】
特許文献1では、インクを増粘させる粉末が予め付与された中間転写体に中間画像を記録した後、記録された中間画像を転写して記録物を得る画像記録方法が提案されている。中間転写体の粉末に接触したインクは増粘しているので、滲みの発生が抑制された中間画像が記録されるとともに、記録された中間画像が増粘しているので、転写性が向上するとされている。
【0004】
また、特許文献2では、中間転写体に記録した中間画像にインクを増粘させる粉末を付与した後、記録媒体に転写して記録物を得る画像記録方法が提案されている。記録された中間画像は粉末によって増粘しているので、転写後に記録媒体で画像が移動しにくく、高品位な画像が記録されるとしている。さらには、中間画像が増粘しているので、転写性も向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−188858号公報
【特許文献2】特開2000−103157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが上記の特許文献1及び2で提案された技術について検討したところ、これらの技術は以下に示す課題を有することが判明した。特許文献1において提案された方法によれば、中間転写体に予め付与された粉末によりインクが増粘するので、滲みのない画像が記録された記録物を得ることができる。しかしながら、増粘した中間画像は、記録媒体との密着力だけでなく、中間転写体との密着力も向上している。このため、中間画像の一部が中間転写体に残ってしまい、記録物に記録された画像が乱れやすいことが判明した。
【0007】
また、特許文献2において提案された方法によれば、特許文献1において提案された方法と同様に、増粘した中間画像は、記録媒体との密着力だけでなく、中間転写体との密着力も向上している。このため、中間画像の一部が中間転写体に残ってしまい、記録物に記録された画像が乱れやすいことが判明した。さらに、中間画像を記録する前に中間転写体に液体組成物を付与していないので、記録される中間画像に色間に滲みが生じてしまう。このため、記録物に記録された画像にも色間に滲みが生じてしまい、画像品位が低下することが分かった。
【0008】
従って、本発明の目的は、転写性に優れており、色間に滲みのない優れた品位の画像が記録された記録物を得ることが可能な中間転写型画像記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、反応剤を含有する液体組成物を中間転写体に付与する工程と、前記液体組成物が付与された前記中間転写体に、前記液体組成物に含まれる前記反応剤の作用によって凝集する顔料、及び水性媒体を含有するインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して中間画像を記録する工程と、前記インクに含まれる前記水性媒体と接触して増粘する増粘物質を、前記中間画像に付与する工程と、前記増粘物質が付与された前記中間画像を記録媒体に転写する工程と、を備えることを特徴とする画像記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転写性に優れており、色間に滲みのない優れた品位の画像が記録された記録物を得ることが可能な画像記録方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の画像記録方法に用いられる画像記録装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】比較例で用いた画像記録装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の画像記録方法は、液体組成物付与工程、中間画像記録工程、増粘物質付与工程、及び転写工程を備える。本発明の画像記録方法に特有の効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように推測している。まず、中間転写体に予め付与された液体組成物の作用によりインク中の顔料が凝集して、色間の滲みの発生が抑制された中間画像が記録される。その後に増粘物質を付与することで、インクにより記録された中間画像が増粘し、良好な転写性が発現する。中間画像を記録後に増粘させることで、良好な転写性が発現する理由を本発明者らは以下のように推測される。顔料が凝集することで固液分離が生じ、凝集した成分は中間画像の中間転写体側(下部)に移動し、凝集しない成分はその反対側(上部)に集まると考えられる。このため、記録された中間画像の上部には、インクに含まれる凝集しない成分である水性媒体が偏在している。その上部に水性媒体が偏在した中間画像に増粘物質を付与すると、増粘物質が付着した中間画像の上部に増粘層が形成される。このため、中間画像と中間転写体との密着力を向上させることなく、中間画像と記録媒体との密着力のみが向上し、良好な転写性が得られると考えられる。以下、本発明の画像記録方法の詳細について説明する。
【0013】
<液体組成物付与工程>
液体組成物付与工程では、インク中の顔料を凝集させる反応剤を含有する液体組成物を中間転写体に付与する。中間転写体に液体組成物を付与する方法としては、従来知られている各種の手法を適宜用いることができる。液体組成物の付与方法としては、ダイコーティング、ブレードコーティング、グラビアローラーを用いる方法、オフセットローラーを用いる手法、スプレーコーティングなどを挙げることができる。また、インクジェット方式の記録ヘッドを用いて中間転写体に液体組成物を付与することも好ましい。インクジェット方式の記録ヘッドを用いることで、高速かつ高精度に中間転写体に液体組成物を付与することができる。さらに、複数の方法を適宜組み合わせることも極めて好適である。
【0014】
(中間転写体)
中間転写体は、例えば、それ自体をハンドリングして必要な力を伝達するための支持部材と、中間画像が記録される表層部材とを備える。支持部材と表層部材は同一の部材であってもよいし、それぞれ独立した部材であってもよい。中間転写体の形状としては、シート形状、ローラー形状、ドラム形状、ベルト形状、無端ウエブ形状などを挙げることができる。中間転写体の形状がドラム形状又は無端ウエブ形状であると、同一の中間転写体を連続して繰り返し使用することが可能となり、生産性の面で好ましい。また、中間転写体のサイズは、記録可能な記録媒体のサイズに合わせて適宜設定することができる。
【0015】
中間転写体を構成する支持部材は、その搬送精度や耐久性の観点から、ある程度の構造強度を有することが要求される。支持部材の材質としては、金属、セラミックス、樹脂などが好ましい。中でも、アルミニウム、鉄、ステンレス、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン、シリカセラミクス、アルミナセラミクスが好ましい。これらの材質で支持部材を構成すると、転写時の加圧に耐えうる剛性や寸法精度を確保できるとともに、動作時のイナーシャを軽減して制御の応答性を向上させることができる。なお、これらの材質は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
中間転写体を構成する表層部材は、紙などの記録媒体に中間画像を圧着させて転写させるため、ある程度の弾性を有することが好ましい。例えば、記録媒体として紙を用いる場合を想定すると、JIS K6253に準拠した表層部材のデュロA硬度(デュロメータ タイプA硬度)は、10〜100であることが好ましく、20〜60であることがさらに好ましい。表層部材の材質としては、樹脂、セラミックス、金属などが好ましい。中でも、硬度や加工特性の観点から、各種エラストマー材料やゴム材料が好ましい。表層部材の材質の具体例としては、ポリブタジエン系ゴム、ニトリル系ゴム、クロロプレン系ゴム、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴム、ウレタン系ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩ビ系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマーなどを挙げることができる。また、ポリエーテル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、シロキサン化合物、パーフルオロカーボン化合物などを挙げることができる。中でも、ニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムが好ましい。これらの材質は、寸法安定性、耐久性、及び耐熱性などの面から極めて好適である。
【0017】
また、複数の材料を積層して表層部材を形成することも好ましい。具体的には、無端ベルト状のウレタンゴムをシリコーンゴムで被覆したもの、PETフィルムにシリコーンゴムを積層したシート、及びウレタンゴムシートにポリシロキサン化合物を成膜した積層シートは、表層部材として極めて好適である。また、綿、ポリエステル、レーヨン等の織布を基布とし、このような基布にニトリルブタジエンゴム、ウレタンゴム等のゴム材料を含浸させて得られるシートも表層部材として好適である。さらに、表層部材に適当な表面処理を施すことも好ましい。表面処理の具体例としては、フレーム処理、コロナ処理、プラズマ処理、研磨処理、粗化処理、活性エネルギー線照射処理、オゾン処理、界面活性剤処理を挙げることができる。また、これらの処理を複数組み合わせて施してもよい。なお、表層部材と支持部材の間に、これらの部材を固定及び保持するための各種接着材や両面テープを配置してもよい。
【0018】
(液体組成物)
液体組成物には、インク中の顔料を凝集させる反応剤が含有される。反応剤としては、多価金属イオン、有機酸、カチオンポリマー、及び多孔質性微粒子など、従来公知の化合物などを特に制限なく用いることができる。中でも、多価金属イオン及び有機酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、複数の種類の反応剤を液体組成物に含有させることも好ましい。液体組成物中の反応剤の含有量は、液体組成物の全質量を基準として、5質量%以上であることが好ましい。反応剤の含有量が5質量%未満であると、顔料の凝集が不十分になる場合がある。なお、反応剤の含有量の上限については特に限定されないが、70質量%以下であることが好ましい。さらには、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。なお、多価金属イオンの含有量は、多価金属原子換算で算出するものとする。
【0019】
多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+、及びZn2+などの二価の金属イオン;Fe3+、Cr3+、Y3+、及びAl3+などの三価の金属イオンなどを挙げることができる。本発明において、多価金属イオンは水酸化物、塩化物などの塩の形態で液体組成物に添加することができ、解離して生じるイオンとして用いられてもよい。また、有機酸の具体例としては、シュウ酸、ポリアクリル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、レブリン酸、コハク酸、グルタル酸、グルタミン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、オキシコハク酸、ジオキシコハク酸などを挙げることができる。
【0020】
液体組成物には、適量の水や水溶性有機溶剤を含有させてもよい。水としては、イオン交換水を用いることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、従来公知の水溶性有機溶剤をいずれも用いることができる。さらに、液体組成物には、各種の樹脂を含有させることもできる。適当な樹脂を液体組成物に含有させることで、転写時における記録媒体に対する中間画像の接着性を向上させることができるとともに、最終的に記録される画像の強度を高めることができるために好ましい。樹脂としては、反応剤と共存可能なものであれば特に制限はない。また、液体組成物には界面活性剤や粘度調整剤を添加することも好ましい。界面活性剤を添加することで、液体組成物の表面張力を適宜調整することができる。また、粘度調整剤を添加することで、液体組成物の粘度を適宜調整することができる。界面活性剤や粘度調整剤としては、反応剤と共存可能なものであれば特に制限はない。
【0021】
<中間画像記録工程>
中間画像記録工程では、液体組成物が付与された中間転写体に、インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出し、中間画像を記録する。
【0022】
インクジェット方式としては、例えば、電気−熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を記録することでインクを吐出する形態、電気−機械変換体によってインクを吐出する形態、静電気を利用してインクを吐出する形態などが挙げられる。中でも、電気−熱変換体を利用してインクを吐出することが、高速かつ高密度の印刷が可能であるために好ましい。インクジェット方式の記録ヘッドとしては、ラインヘッドやシリアルヘッドなどを用いることができる。なお、ラインヘッド形態のインクジェットヘッドは、中間転写体の回転方向と直交する方向(ドラム形状の場合は軸方向)にインク吐出口が配列されている。また、シリアルヘッドは、中間転写体の回転方向と直交する方向にヘッドを走査して記録するヘッドである。
【0023】
液体組成物が付与された中間転写体にインクジェット方式の記録ヘッドを用いてインクが付与されると、中間転写体の表面で液体組成物とインクとが接触し、顔料が凝集して中間画像が記録される。なお、中間画像は、記録媒体に転写されるため、所望の画像がミラー反転した画像である。
【0024】
(インク)
インクには、顔料及び水性媒体が含有される。インク中の顔料の含有量は、インクの全質量を基準として、0.5質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。顔料としては、従来公知の無機顔料や有機顔料を用いることができる。具体的には、C.I.(カラーインデックス)ナンバーであらわされる顔料を用いることができる。また、黒色顔料としては、カーボンブラックを用いることが好ましい。顔料の分散方法としては、分散剤として樹脂を用いる樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散剤を使用した樹脂分散顔料、顔料粒子の表面を樹脂で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面に樹脂を含む有機基が化学的に結合した樹脂結合顔料)や顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)が挙げられる。無論、分散方法の異なる顔料を併用することも可能である。
【0025】
また、インクに使用する顔料が樹脂分散タイプの顔料である場合には、樹脂を分散剤として用いる。顔料分散剤としては、インクジェット用インクに用いられる従来公知の分散剤であればいずれも使用することができる。中でも、その構造中に親水性部と疎水性部とを併せ持った水溶性の分散剤を用いることが好ましい。より具体的には、親水性モノマーと疎水性モノマーを含むモノマー成分を共重合させて得られる樹脂が好ましい。親水性モノマー及び疎水性モノマーとしては、従来公知のモノマーを用いることができる。親水性モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などを挙げることができる。また、疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0026】
分散剤として用いる樹脂の酸価は50mgKOH/g以上550mgKOH/g以下であることが好ましい。また、樹脂の重量平均分子量は1000以上50000以下であることが好ましい。インクに含有される樹脂分散剤の含有量(質量%)が、顔料の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.1倍以上3.0倍以下であることが好ましい。
【0027】
本発明において、インクは、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有する。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、一般的に用いられているものを何れも用いることができる。例えば、アルコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0028】
また、本発明においてインクは上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。さらに、本発明のインクは、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0029】
<増粘物質付与工程>
増粘物質付与工程では、中間転写体に記録された中間画像に増粘物質を付与する。増粘物質を中間画像に付与する方法は、中間画像を乱すことなく増粘物質を付与することが可能な方法であれば特に限定されない。例えば、非接触的方法と接触的方法が挙げられる。
【0030】
非接触的方法の具体例としては、ふるい掛けや静電気で付着させる方法、ロータリーフィーダーや静電付着装置を用いて付着させる方法などを挙げることができる。より具体的には、下面に排出口を有するホッパーと、排出口を塞ぐように配設された供給ロールとを備えたロータリーフィーダーを使用し、供給ロールを回転駆動させて、供給ロールと排出口との間の微小間隙から増粘物質が送出する。そして、ロータリーフィーダーの下方を走行する中間転写体の中間画像に増粘物質を散布して付着させる。
【0031】
また、帯電体とアース体を散布ロール内に配設した静電付着装置を使用し、散布ロールの帯電体が接触する部分に静電気を帯電させるとともに、アース体が接触する部分には静電気を帯電させないようにする。そして、バケット内に増粘物質を入れ、増粘物質に接触させつつ、散布ロールを回転駆動させる。増粘物質は、散布ロールの静電気が帯電した部分に静電吸着されるとともに、散布ロールの静電気が帯電しない部分から、静電吸着が解除されて脱離する。そして、静電付着装置の下方を走行する中間転写体の中間画像に増粘物質を散布して付着させる。
【0032】
接触的方法の具体例としては、増粘物質が収納された容器に中間画像が記録された中間転写体を接触させる方法、薄層形成ブレードを有する増粘物質供給ロール上に増粘物質の薄層を形成し、中間画像が記録された中間転写体に薄層を接触させる方法などがある。中でも、増粘物質を中間画像に付与する方法としては、中間画像を乱すことなく増粘物質を付与することが可能であることから非接触的方法が好ましい。また、中間画像に含まれる水性媒体の量に応じて、付与する増粘物質の量を変化させることが好ましい。例えば、中間転写体の下に帯電体を配設しておき、中間画像を記録するインクの付与量に応じて帯電量を変化させることで、付与する増粘物質の量を制御することができる。
また、中間転写体に余剰の増粘物質が残った状態で中間画像を転写してもよいが、転写前に余剰の増粘物質を除去することも好ましい。余剰の増粘物質の除去する方法としては、例えば吸引する方法や、エアによって吹き飛ばす方法などがある。
【0033】
(増粘物質)
増粘物質は、インクに含まれる水性媒体と接触し、増粘する成分であり、粉体であることが好ましい。粉体の平均粒径は50μm以下であることが好ましい。粉体の平均粒径が50μm以下であると比表面積が大きいために、水や水溶性有機溶剤との接触性が高まる。このため、水や有機溶剤を速やかに吸収させて増粘させることができる。
【0034】
増粘物質の具体例としては、多糖類、アクリル樹脂を含む乳化増粘剤などを挙げることができる。多糖類の具体例としては、セルロース、カラギナン、アガロース、アルギン酸、ペクチン、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、カシアガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ジェランガムなどを挙げることができる。また、アクリル樹脂を含む乳化増粘剤の具体例としては、以下商品名で、SEPINOV EMT 10(SEPPIC製);カーボポール 1382、カーボポール EDT 2020、カーボポール Ultez 20、およびカーボポール Ultez 21(以上、日光ケミカルズ製)などを挙げることができる。
【0035】
上記の多糖類の中でも、タラガム、グアーガム、グルコマンナン、キサンタンガムなどの、糖を構成単位とする側鎖を有する多糖類が好ましい。また、アクリル樹脂を含む乳化増粘剤は、インクと接触した際に瞬時に増粘するために好ましい。なお、複数種類の増粘物質を用いることも好適である。中間画像に付与する増粘物質の量は、中間画像に含有される水性媒体の合計質量に対して、0.1質量%以上20.0質量%以下とすることが好ましい。増粘物質の付与量が0.1質量%未満であると、増粘が不十分になる場合があり、転写性が向上しにくくなる傾向にある。一方、増粘物質の付与量が20.0質量%を超えると、中間画像が硬くなりすぎてしまい、かえって転写性が低下する場合がある。
【0036】
本発明の画像記録方法は、加熱、低湿空気の送風、又は減圧などによって中間画像の水分を除去する乾燥工程を備えることが好ましい。この乾燥工程は、中間画像に含まれる過剰な水性媒体を乾燥して除去し、転写工程における水性媒体のはみ出しや溢れ出しに起因する画像乱れや転写不良を抑制するための工程である。粉体の増粘物質は、インク中の水や水溶性有機溶剤を吸収しやすい。このため、粉体の増粘物質を用いると、乾燥工程が不要となり、画像記録装置の構成を簡素化できるとともに、消費電力を低下させることができる。また、粉体の色は、無色又は淡い乳白色であることが好ましい。さらに、水や水溶性有機溶剤を吸収した粉体の色が、無色又は淡い乳白色であることが好ましい。
【0037】
<転写工程>
転写工程では、増粘物質が付与された中間画像を記録媒体に転写する。記録媒体の表面に画像を記録し、記録物を得ることができる。本発明において、記録媒体としては、インク受容層を有する記録媒体や普通紙などの記録媒体、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非浸透性の記録媒体などが挙げられる。中間画像を記録媒体に転写する際には、例えば加圧ローラーなどを使用し、中間転写体と記録媒体の両側から加圧することが好ましい。加圧することで、効率良く画像を転写することができる。また、多段階に加圧することも、転写不良を軽減することができるために好ましい。なお、転写工程の前に、中間画像に含まれる過剰な液体分(余剰液体)を乾燥して除去する乾燥工程を設けてもよい。乾燥工程を設けることで、転写工程における余剰液体のはみ出しや溢れ出しに起因する画像乱れや転写不良をより効果的に防止することができる。なお、乾燥方法については特に限定されず、例えば、加熱、低湿空気の送風、減圧、自然乾燥、及びこれらを組み合わせる手法などを挙げることができる
【0038】
<その他の工程>
これまで述べてきた各工程により、目的とする記録物を得ることができる。本発明では、クリーニング工程や定着工程をさらに設けることが好ましい。
【0039】
(クリーニング工程)
クリーニング工程は、中間画像を記録媒体に転写した後に、中間転写体の表面を洗浄する工程である。中間転写体の表面を洗浄することで、中間転写体を繰り返し連続的に使用することができる。中間転写体を洗浄する方法としては、従来用いられている各種の方法をいずれも好適に適用することができる。具体的には、シャワー状に洗浄液を当てる方法、濡らしたモルトンローラを表面に当接させて払拭する方法、洗浄液面に接触させる方法、ワイパーブレードで掻き取る方法、各種エネルギーを付与する方法などを挙げることができる。なお、これらの方法を複数組み合わせてもよい。
【0040】
(定着工程)
定着工程は、記録媒体への画像の定着性を高める工程である。画像の定着性を高めるには、例えば、画像が記録された記録媒体をローラーなどで加圧する、或いは記録媒体を加熱すればよい。なお、ローラーなどで加圧することで、画像の表面平滑性及び堅牢性を高めることもできる。また、加熱ローラーを用いて加圧と加熱を同時に行うことも好ましい。
【0041】
<画像記録装置>
図1は、本発明の画像記録方法に用いられる画像記録装置の構成の一例を示す模式図である。中間転写体4は、回転可能なドラム形状の支持部材と、支持部材の外周面上に配設された表層部材とを備える。中間転写体4は、回転軸を中心として矢印方向に回転駆動する。そして、中間転写体4の回転と同期して、中間転写体4の周囲に配置された各構成が作動する。ローラー式塗布装置3は、液体組成物2を中間転写体4に連続的に付与する。中間画像を記録するためのインクは、インクジェット方式の記録ヘッド5から吐出される。記録ヘッド5から吐出されたインクにより、液体組成物が付与された中間転写体4上にミラー反転した中間画像が記録される。記録された中間画像に対して、増粘物質付与装置1によって増粘物質が付与される。その後、加圧ローラー7を用いて中間画像に記録媒体6を接触させることで、記録媒体6に中間画像が転写される。これにより、記録媒体6上に画像を記録することができる。画像記録後は、クリーニングユニット8により、中間転写体4の表面を洗浄することができる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。以下、「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限りいずれも質量基準である。
【0043】
(1)画像記録装置
図1に示すような構成を有する画像記録装置を用意した。中間転写体4の表層部材としては、厚さ0.5mmのPETシートに、デュロA硬度40、厚さ0.2mmのシリコーンゴム(商品名「KE12」、信越化学製)をコーティングしたものを用いた。なお、大気圧プラズマ処理装置(商品名「ST−7000」、キーエンス製)を使用し、処理距離:5mm、プラズマモード:High、処理速度:100mm/secの条件にて表面部材を表面改質して親水化させた。さらに、表層部材の表面を界面活性剤水溶液に10秒間浸漬させた後、水洗し、乾燥させた。なお、界面活性剤水溶液としては、市販の中性洗剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を3%となるように純水で希釈したものを用いた。この表層部材を、支持部材(不織布にウレタン樹脂を含浸させて得られたベルト)に貼り付け、固定したものを中間転写体4とした。なお、インクジェット方式の記録ヘッド5としては、電気熱変換素子を備えた、オンデマンド方式にてインク吐出を行うタイプの記録ヘッド(ノズル配列密度:1200dpi、吐出量:4pL)を使用した。
【0044】
(2)液体組成物の調製
グルタル酸30部、グリセリン5部、水酸化カリウム5部、アセチレングリコール系界面活性剤(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル製)1部、及び水59部を混合し、十分撹拌した。その後、ポアサイズ3μmのミクロフィルター(富士フィルム製)を用いて加圧濾過して、液体組成物を調製した。
【0045】
(3)インクの調製
(ブラック顔料分散液の調製)
カーボンブラック(商品名「モナク1100」、キャボット製)10部、顔料分散剤水溶液15部、及び純水75部を混合してバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズ200部を充填した。なお、樹脂分散剤水溶液としては、水酸化カリウム水溶液で中和したスチレン−アクリル酸エチル−アクリル酸共重合体(酸価200mgKOH/g、重量平均分子量9,000)の水溶液(樹脂の含有量が20%)を使用した。水冷しつつ、5時間分散処理して分散液を得た。得られた分散液を遠心分離機にかけて粗大粒子を除去し、顔料の含有量が10.0%のブラック顔料分散液を得た。
【0046】
(イエロー顔料分散液の調製)
カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いたこと以外は、前述のブラック顔料分散液の場合と同様にしてイエロー顔料分散液を得た。
【0047】
(インクの調製)
以下に示す配合で各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)を用いて加圧濾過した。これにより、ブラックとイエローのインクジェット記録用水性インク(以下、それぞれブラックインク、イエローインクという)をそれぞれ調製した。
ブラック又はイエロー顔料分散液(顔料の含有量が10.0%):20.0部
グリセリン:10.0部
アセチレノールE100(川研ファインケミカル製):0.5部
イオン交換水:69.5部
【0048】
(4)画像記録
(実施例1〜5)
液体組成物、増粘物質、及び画像記録装置を表1に示す組み合わせで使用して、画像を記録した。具体的には、前述の画像記録装置の中間転写体4の表層部材に、ローラー式塗布装置3を使用して液体組成物2を塗布した(図1参照)。液体組成物2を塗布した中間転写体4(表層部材)上にインクジェット方式の記録ヘッド5からブラックインク及びイエローインクを吐出し、それぞれのインクの記録デューティが100%の中間画像を記録した。この中間画像はブラックのベタ画像とイエローのベタ画像が隣接して記録された2cm×2cmの中間画像である。次いで、増粘物質付与装置1を使用して、記録した中間画像に増粘物質を付与した後、中間画像を記録媒体(商品名「パールコート」、三菱製紙製)6と接触させ、加圧ローラー7で加圧した。これにより、記録媒体6上に中間画像を転写して画像を記録した。上記画像記録装置では、解像度600dpi×600dpiで1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ng(ナノグラム)のインク滴を8ドット付与する条件が、記録デューティが100%であると定義される。
【0049】
(比較例1)
液体組成物を用いなかったこと以外は、前述の実施例1と同様にして画像を記録した。
【0050】
(比較例2)
液体組成物を用いなかったこと、及び図2に示す構成を有する画像記録装置を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして画像を記録した。
【0051】
(比較例3)
増粘物質を用いなかったこと以外は、前述の実施例1〜5と同様にして画像を記録した。
【0052】

【0053】
(5)評価
(転写性)
中間転写体における転写残りの有無を目視観察し、転写性を評価した。評価基準は以下に示す通りである。評価結果を表2に示す。
A:転写残りがほとんど観察されず、転写性が高かった。
B:転写残りが若干観察されたが、転写性はある程度高かった。
C:転写残りが顕著に観察され、転写性が低かった。
【0054】
(色間の滲み)
記録した画像について、ブラックのベタ画像とイエローのベタ画像の隣接部分における滲みの有無を目視観察し、色間滲みを評価した。評価基準は以下に示す通りである。評価結果を表2に示す。
○:滲みが殆どなかった。
×:明らかに滲みがあった。
【0055】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応剤を含有する液体組成物を中間転写体に付与する工程と、
前記液体組成物が付与された前記中間転写体に、前記液体組成物に含まれる前記反応剤の作用によって凝集する顔料、及び水性媒体を含有するインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して中間画像を記録する工程と、
前記インクに含まれる前記水性媒体と接触して増粘する増粘物質を、前記中間画像に付与する工程と、
前記増粘物質が付与された前記中間画像を記録媒体に転写する工程と、
を備えることを特徴とする画像記録方法。
【請求項2】
前記液体組成物に含まれる前記反応剤が、多価金属イオン及び有機酸から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記増粘物質が、アクリル樹脂を含有する乳化増粘剤及び多糖類から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の画像記録方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−111890(P2013−111890A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261281(P2011−261281)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】