説明

画像記録用着色組成物、画像記録用インキおよび画像記録方法

【課題】イエロー色、マゼンタ色およびシアン色の3原色のインキの配色の印字では発色できなかった鮮やかなバイオレット色の画像の形成を可能とする、画像記録用着色組成物、画像記録用インキおよび画像記録方法の提供。筆記具では勿論、特にバイオレット色インキを装填することでフルカラーインクジェットプリンティングなどの記録方式において、鮮明で発色範囲の広がった画像形成が可能となる画像記録用着色組成物、画像記録用インキおよび画像記録方法の提供。
【解決手段】バイオレット色色素が少なくとも含有されてなる画像記録用着色組成物であって、バイオレット色色素が、ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素であることを特徴とする画像記録用着色組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録用着色組成物、画像記録用インキおよび画像記録方法に関し、さらに詳しくは、ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素を使用したバイオレット色の画像記録用着色組成物、画像記録用バイオレット色インキおよびそれを使用するインクジェットプリンティングなどの画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターの印字機能および画像品質の向上により事務用や個人用のいろいろな文書、図表などがカラー印字されている。特にカラー写真は、デジタル式カメラの普及から、カラー写真の現像も直接カラープリントしたり、あるいはパーソナルコンピューター上で拡大、縮小あるいはトリミングしたり、写真中に文書を加えるなど画面の作成を行い、カラープリントする方法が普及している。
【0003】
市販されているインクジェットプリンティング用インキとしては、ブラック色インキおよびカラーの3原色である、イエロー色、マゼンタ色、シアン色の3色のインキが使用されている。更に、中間色は、通常、これらの3色の配色で出されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、中間色のバイオレット色について述べれば、マゼンタ色インキとシアン色インキで印字して発色させる場合に、シアン色(緑味青色)の持つ黄味の色調がマゼンタ色の紫味赤色と配色されて黒味となり、鮮やかさが低下したバイオレット色になるという欠陥がある。このため、インクジェット記録方式の分野に限らず、鮮やかなバイオレット色画像が得られる単独の紫色色素による画像記録用着色組成物や画像記録用インキの開発が要望されている。
【0005】
従って、本発明の目的は、従来の、イエロー色、マゼンタ色およびシアン色の3原色のインキの配色の印字では発色できなかった鮮やかなバイオレット色の画像の形成を可能とする、画像記録用着色組成物、画像記録用インキおよび画像記録方法を提供することにある。また、本発明の目的は、筆記具では勿論、特にバイオレット色インキを装填することでフルカラーインクジェットプリンティングなどの記録方式において、鮮明で発色範囲の広がった画像形成が可能となる画像記録用着色組成物、画像記録用インキおよび画像記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
1.バイオレット色色素が少なくとも含有されてなる画像記録用着色組成物であって、バイオレット色色素が、ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素であることを特徴とする画像記録用着色組成物。
【0007】
2.ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素が、イソジベンザントロン、ペリレノ−ジピリジノ−ビスベンズイミダゾール−ジオンまたはペリレンビス(カルボキシイミド)のいずれかの化学構造を少なくとも有する前記1に記載の画像記録用着色組成物。
【0008】
3.イソジベンザントロンの化学構造を有するバイオレット色色素が、イソジベンザントロン、クロルイソジベンザントロンまたはブロムイソジベンザントロンのいずれかである前記2に記載の画像記録用着色組成物。
【0009】
4.ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素の化学構造中に、アニオン性、カチオン性および/またはノニオン性の水溶性基あるいはそれらを含有する親水性の低分子基、付加重合体残基、付加縮合体残基の、少なくともいずれかを有する前記1〜3のいずれかに記載の画像記録用着色組成物。
【0010】
5.ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素と、水、水−親水性有機溶剤混合溶剤または有機溶剤から選ばれる少なくともいずれかの媒体と、必要に応じて分散剤あるいは固着材としての水溶性重合体を含有してなる前記1〜4のいずれかに記載の画像記録用着色組成物。
【0011】
6.前記1〜5のいずれかに記載の画像記録用着色組成物を使用して調製されてなることを特徴とする画像記録用インキ。
【0012】
7.前記1〜5のいずれかに記載の画像記録用着色組成物あるいは前記6に記載の画像記録用インキのいずれかを使用して着色して記録することを特徴とする画像記録方法。
【0013】
8.前記記録の方式が、インクジェットプリンターを使用するインクジェット記録方式あるいは筆記具を使用する記録方式である前記7に記載の画像記録方法。
【0014】
9.前記インクジェットプリンターが、オンディマンド方式水性着色インクジェットプリンターあるいはサーマル方式水性着色インクジェットプリンターである前記8に記載の画像記録方法。
【0015】
10.前記筆記具が、水性着色インキによって構成されているボールポイントペン、サインペン、ファイバーペン、万年筆、筆ペンまたは毛筆のいずれかである前記8に記載の画像記録方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来より使用されているイエロー色、マゼンタ色、シアン色インキ3原色の配色の印字では発色できなかった鮮やかなバイオレット色の印字がバイオレット色インキ単独の印字で可能となる。また、本発明によれば、鮮やかな赤味、青味のバイオレット色の印字が、本発明の実施形態であるバイオレット色インキと、マゼンタ色あるいはシアン色インキとの混合印字による配色により可能となる。この結果、本発明によれば、鮮明で発色範囲の広がった鮮明な記録画像が得られる画像記録用着色組成物、画像記録用インキおよび画像記録方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく、種々の紫色色素について鋭意研究した結果、イソジベンザントロンなどのペリレンジカルボニル残基を骨格とする紫色色素が、インクジェットプリンティングのバイオレット色インキ用の紫色色素として優れていることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき、インクジェットプリンティングのバイオレット色インキ用あるいは筆記具用の紫色色素についてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明が対象とする記録方式としては、情報を記録する、下記のような従来公知の記録方式が挙げられる。文書などの作成の際の出力装置として一般に普及している、インクジェットプリンターを使用するインクジェット記録方式に適用できる。インクジェット記録方式としては、例えば、オンディマンド方式インクジェットプリンターあるいはサーマル方式インクジェットプリンターが挙げられる。また、文書などの作成で印刷産業分野で行われている、グラビヤ印刷やフレキソ印刷やスクリーン印刷などの印刷関連などにも適用できる。また、筆記具としては、日常生活で常用されている水性着色インキが使用されるボールポイントペン、サインペン、ファイバーペン、万年筆、筆ペンあるいは毛筆が挙げられる。
【0019】
本発明を特徴づけるバイオレット色色素について説明する。本発明で使用するバイオレット色色素は、下記の一般式[式1]で示されるようなペリレンジカルボニル残基を骨格とする化学構造を有する公知の色素の中から選択される、紫色(バイオレット色)を呈色する色素を好適に使用することができる。
【0020】

【0021】
このようなものとしては、例えば、下記[式2]で示される化学構造を有するイソジベンザントロン、クロルイソジベンザントロン、ブロムイソジベンザントロンなどのイソジベンザントロン類、あるいは、下記[式3]で示される化学構造を有するペリレノ−ジピリジノ−ビスベンズイミダゾール−ジオン類、下記[式4]で示される化学構造を有するペリレンビス(カルボキシイミド)類の、バイオレット色色素などが挙げられる。
【0022】

【0023】

【0024】

【0025】
前記一般式[式1]で示される化学構造を有するペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素としては、水媒体に対する溶解性の違いから、不溶性の顔料型、コロイド分散性の自己分散型色素、可溶性の染料型がある。本発明の所期の目的を勘案すると、これらの中でも、水可溶性ないしコロイド分散性の色素を使用することが好ましい。水可溶性ないしコロイド分散性の色素は、ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素に、アニオン性、カチオン性および/またはノニオン性の水溶性基(親水性基)あるいはそれらを含有する親水性の低分子基、付加重合体残基、付加縮合体残基の、少なくともいずれかを導入することで合成される。アニオン性の親水性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン基、硫酸エステル基、燐酸エステル基などが挙げられる。ノニオン性の親水性基としては、水酸基、ポリエチレンオキサイド基、グリセリル基などの親水性基などが挙げられる。カチオン性の親水性基としては、第1〜3級アミノ基、第4級アンモニウム基、ピリジニウム基などが挙げられる。特に好ましいのは、アニオン性の親水性基であるカルボキシル基やスルホン基が導入された色素である。
【0026】
ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素に、上記に挙げたような親水性基を導入する方法としては、それぞれの公知の導入方法に準じて行なわれる。例えば、カルボキシル基の導入は、色素の中間体としてカルボキシル基を有する化合物を反応させて色素を合成することで、カルボキシル基を有する色素を合成する方法が挙げられる。その他、反応基を有する色素を合成した後、そこへ、モノクロル酢酸、2塩基酸無水物などを反応させる方法や、N−メチロールフタル酸イミド、N−メチロールトリメリット酸イミドなどを反応させ、次いでイミドを開環する方法などが挙げられる。また、ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素にスルホン基を導入する方法としては、下記に挙げる方法が使用できる。例えば、色素の中間体としてスルホン基を有する化合物を使用して反応させ色素を合成してスルホン基を導入する方法、色素を発煙硫酸や三酸化硫黄などを使用してスルホン化することでスルホン基を導入する方法、反応基を有する色素を合成した後、そこへスルファミン酸、スルファニル酸などを反応させてスルホン基を導入する方法などである。
【0027】
本発明の画像記録用着色組成物を使用して調製されてなる本発明の画像記録用インキの実施形態としては、種々のものが考えられるが、インクジェット記録方式などに好適に使用できる水性着色インキについて説明する。水性着色インキは、前記した特定のバイオレット色色素を用いる以外は、用途によってそれぞれの公知の組成、物性などに準じて作製することができる。例えば、インクジェットプリンターに使用される水性着色インキを作製する場合には、オンディマンド方式あるいはサーマル方式であるかによって、それぞれの性能が付与されるようにインキ設計をすればよい。また、筆記具に使用されるものの場合には、ボールポイントペン、サインペン、ファイバーペン、万年筆、筆ペンまたは毛筆など、個々の筆記具に用いられている水性着色インキの組成に準じて調製すればよい。上記したような水性着色インキ中における前記した特定のバイオレット色色素の含有量は、下記の点から発色性によって一概に決められるものではなく、特に限定されない。すなわち、インキ中における含有量は、印字画像の発色濃度、彩度、光沢などの印字画質を充分に満足させること、乾燥性、耐擦過性などの画像の堅牢性を満足させること、などの目的によって適正濃度があり、また、用途によっても、水性画像記録用インキとしての粘度および保存安定性を満足させることも、色素の含有量を決定するための重要なファクターとなるからである。一般的には、全インキ組成物に対して染料を使用する場合には0.3〜10質量%、油溶性染料あるいは顔料を使用する場合には1〜20質量%であることが好ましい。
【0028】
本発明の水性着色インキの好ましい形態としては、必要に応じて、分散剤あるいは固着材として、水溶性重合体を添加させたものが挙げられる。尚、本発明でいう重合体には、単一の重合性単量体からなる重合体のみならず、複数の重合性単量体からなる共重合体をも含む。インキ中に水溶性重合体を添加することで、印字あるいは筆記された文字や画像などの記録物に対して、色濃度、描線のかすれ、不連続、不均一の発生の抑制などの印字品質の向上、固着性、耐擦過性、耐湿性などの良好な物性の付与、を達成させることができる。この場合に使用する水溶性重合体の構造中の水溶性基の好適なものとしては、アニオン性の親水性基を有する重合体が挙げられるが、更に、ノニオン性あるいはカチオン性の親水性基を付与してもよい。また、固着性などの物性を付与する目的などからは、重量平均分子量が1,000〜50,000、より好ましくは、3,000〜40,000以下の水溶性重合体を使用することが好ましい。
【0029】
水溶性重合体の合成に用いることのできるアニオン性、ノニオン性あるいはカチオン性の親水性基を有する単量体としては、下記のようなものが挙げられる。本発明では、特に、アニオン性の親水性基を有する単量体を主体としてなるものが好ましい。アニオン性の親水性基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和2塩基酸およびそれらのハーフアルキル(C1〜C18)エステルなど、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸および、ヒドロキシアルキル(C2〜C4)(メタ)アクリレートの硫酸エステルなどが挙げられる。また、ノニオン性の親水性基を有する単量体としては、例えば、上記したα,β−エチレン性不飽和カルボン酸類のエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコールエステル、アルコキシポリエチレングリコールエステルおよび、グリセリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、カチオン性の親水性基を有する単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−(トリメチルアンモニウムクロライド)−2−ヒドロキシ−プロピルメタクリレートおよび、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0030】
水溶性重合体の合成に用いることのできる重合体に皮膜形成性をもたらす疎水性の単量体としては、下記のようなものが挙げられる。スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、(メタ)アクリル酸の脂肪族、脂環式、芳香族アルコール(C1〜C30)エステル、アルコキシ(C1〜C4)アルキル(C2〜C4)エステルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族、脂環式、芳香族アルコールエステルなど、酢酸ビニル、ブタジエン、イソプレン、エチレン、プロピレンおよびブチレンなどが挙げられる。
【0031】
本発明に好適な水溶性重合体としては、前記したアニオン性を主体とする親水性単量体と、上記した疎水性単量体とを共重合してなる、親水性ランダム共重合体、親水性グラフト共重合体あるいは親水性ブロック共重合体などが挙げられる。この場合におけるアニオン性単量体の共重合量は、単量体のアニオン性親水性基の種類や他の共単量体の性質にもよるので一概には決められないが、例えば、アニオン性単量体の共重合の量は、およそ5質量%〜70質量%、好ましくは、およそ10質量%〜50質量%とする。また、ノニオン性単量体を、共重合体中におよそ10質量%〜30質量%の範囲で添加した場合には、アニオン性単量体の共重合の量は、およそ5質量%〜40質量%、好ましくは、およそ10質量%〜30質量%とする。
【0032】
上記のような構成の重合体を水性媒体に可溶化するために使用するアルカリとしては、特に限定されないが、下記のようなものが使用できる。臭気や皮膚に対する影響を考えると、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属、アンモニア、第一級、第二級もしくは第三級の有機アミンなどを使用するとよい。また、特に室内で取り扱うことで、臭気のないことや作業者に対する影響を考えると、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、(モノ−、ジ−、トリ−)エタノールアミンなどを使用することが好ましい。
【0033】
本発明の水性着色インキ中に含有させる水溶性重合体の添加量は、色素に対して下記のような範囲となるように含有させることが好ましい。すなわち、前記したように、添加することで、印字した色素の発色性を向上させ、画像あるいはインキに充分な物性および再生時の易溶解性などの性質を付与する目的を達成できる量とすることが好ましく、例えば、色素が水溶性染料である場合には、該染料に対しては5〜100質量%、色素が油溶性染料である場合には、該染料(顔料)に対して10〜200質量%が好ましく、さらに好適には、20〜100質量%である。
【0034】
本発明の水性着色インキは、前記したペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素と、必要に応じて分散剤あるいは固着材として添加される上記した水溶性重合体とを有するが、さらに、これらを溶解あるいは分散させるための、水、水−親水性有機溶剤混合溶剤または有機溶剤から選ばれる少なくともいずれかの水性媒体とを含有してなる。以下、これらの水性媒体について説明する。本発明においては、特に、水と水溶性有機溶剤との混合溶剤をインキの水性媒体として用いることが好ましい。すなわち、水性着色インキ中に水溶性有機溶剤を含有させることによって、記録用紙の表面に設けられている疎水性樹脂コーティング表面に対しても良好な濡れ性を示す。このような構成とすることで、例えば、インクジェットプリンターのノズルから吐出されたインキ滴がはじかれずに、記録用紙表面に印字されるようになる。また、筆記具の場合にも、インクジェットプリンターの場合と同様に、はじかれずに筆記される。
【0035】
上記水性媒体に使用される水としては、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。なお、インキ中の水の含有量は、用途および記録方式によっても異なるが、通常、筆記具用の場合であれば、10〜70質量%、好ましくは20〜50質量%である。また、インクジェット記録用であれば、インキ中の水の含有量は10〜90質量%である。また、上記水性媒体に使用される水溶性有機溶剤としては、(C1〜C3)低級アルコール、アルキレン(C2〜C6)グリコール、ポリアルキレン(C2〜C3)グリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、(モノ〜トリ−)エチレングリコールモノアルキル(C1〜C4)エーテル:N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドンおよび、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、インクジェットプリンターのノズルや文房具のペン先の乾燥防止機能や溶解促進などの機能も有する。
【0036】
本発明における水性着色インキは、必要に応じて所望の物性値をもつインキとするために、上記の成分の他、上記以外の界面活性剤、消泡剤、防腐剤などの添加剤を添加することができる。さらに、ノズルやペン先の乾燥防止剤として、尿素、チオ尿素、エチレン尿素またはそれらの誘導体を含有させることもできる。
【0037】
本発明の水性着色インキは、特定の化学構造を有する紫色(バイオレット色)色素を含有するものであるが、使用に際しては、単独で用いることは勿論、インクジェットプリンター用インキや文房具用インキとして、ブラック色インキ、シアン色、マゼンタ色、イエロー色、スカイブルー色、ピンク色、オレンジ色、グリーン色インキなどの他の色彩のインキと共に使用される。
【実施例】
【0038】
次に具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、文中の「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0039】
<実施例1>
(イソジベンザントロンバイオレット色染料の調製)
攪拌機、逆流コンデンサー、温度計を取り付けた反応装置に、20%発煙硫酸50容量部を仕込み、そこへ、イソジベンザントロンを5部添加し、湯浴にて80℃に加温した。80℃〜85℃で4時間攪拌し、スルホン化反応を行なった。反応終了後、室温に冷却し、15倍量の水中に反応液を注いだ。そこに食塩を加えてスルホン化物を塩析させた。析出したスルホン化物をろ別した。次に、ろ過ケーキを容器に入れ、水を加え、苛性ソーダで中和してpH8に調整した。染料分がほぼ20%の水溶液に調製した。得られた硫酸ナトリウムを含む染料水溶液を常法に従い、電気透析を行なって硫酸ナトリウムを除去した。これにイオン交換水を加えて、染料分を10%に調整した。上記のようにして得られた染料水溶液を、以下「イソジベンザントロンバイオレット色染料水溶液−1」と称する。
【0040】
<実施例2>
(インクジェットプリンター用バイオレット色インキの調製)
実施例1で得た10%イソジベンザントロンバイオレット色染料水溶液−1を30部と、該染料水溶液に対して、水溶性重合体からなる固着材−1を10部、エチレングリコールを10部、グリセリンを20部、サーフィノール82(エア・プロダクツ社製)を1部、および、水29部の混合液70部を加えた。そして、これらを十分に攪拌した後、ポアサイズ5ミクロンのメンブランフィルターで濾過を行って、本実施例のインクジェットプリンター用のバイオレット色インキを得た。上記で使用した水溶性固着材−1は、スチレン−2−エチルヘキシルアクリレート−メタクリル酸−ジメチルアミノエチルメタクリレートランダム共重合体(モノマー比=10:50:20:20、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量=15,000)のアルカリ水溶液(固形分:40%)である。
【0041】
上記したインキとは別に、下記のようにして各色のインキを調製した。先ず、黒色染料としてC.I.フードブラック2、赤色染料としてC.I.アシッドレッド249、青色染料としてC.I.ダイレクトブルー199、黄色染料としてC.I.ダイレクトイエロー23、橙色染料としてC.I.アシッドオレンジ56、緑色染料としてC.I.アシッドグリーン28のそれぞれの10%水溶液を準備した。そして、実施例1における10%イソジベンザントロンバイオレット色染料水溶液−1と同様に、上記に挙げた染料を用いて、各染料の10%水溶液を得た。更に、実施例2で行ったインクジェットプリンター用バイオレット色インキの調製方法と同様にして、各色のインキを調製した。すなわち、イソジベンザントロンバイオレット色染料水溶液−1に代えて、上記で調製した各色染料水溶液を使用し、インクジェットプリンター用の、ブラック色インキ、マゼンタ色インキ、シアン色インキ、イエロー色インキ、オレンジ色インキおよびグリーン色インキをそれぞれ調製した。
【0042】
<実施例3>
(インクジェットプリンター用インキを用いた印字)
実施例2で得たインクジェットプリンター用のバイオレット色インキを含む7色のインキを、ピエゾ方式のインクジェットプリンターインクカートリッジにそれぞれ充填し、インクジェットプリンターにより写真用光沢紙にフルカラー写真画像をプリントした。比較のために、実施例2で得たインクジェットプリンター用のバイオレット色インキを除いた6色で、同様の画像をプリントした。実施例のカラープリント画像は、比較例のカラープリント画像と比べて、明らかに、バイオレット色インキが加わったことでバイオレット系の中間色が鮮明に発色し、十分な印字品質が得られ、鮮明なフルカラー写真画像がプリントされた。尚、実施例2で得た、バイオレット色インクを単独で印字したところ、鮮やかなバイオレット色の印字物が得られた。
【0043】
<実施例4>
実施例1で行ったイソジベンザントロンバイオレット色染料水溶液の調製の場合と同様にして、イソジベンザントロンに変えて、ペリレノ−ジピリジノ−ビスベンズイミダゾール−ジオンおよびペリレンテトラカルボキシ−ビス(p−メトキシフェニルイミド)を使用して、それぞれをスルホン化した。この結果、いずれもバイオレット色の染料水溶液が得られた。
【0044】
実施例2と同様にして、上記で得たバイオレット色の染料水溶液をそれぞれ用いてバイオレット色のインキを2種類調製した。更に、実施例3と同様にして、実施例2で調製した他の6色のインキと共に、上記で調製したバイオレット色のそれぞれのインキを用いてフルカラー写真画像を、写真用光沢紙にカラープリントをした。得られたカラープリント画像は、実施例3で得たバイオレット色インキを除いた6色でプリントした比較画像と比べた結果、バイオレット色インキが加わったことで、バイオレット系の中間色が鮮明に発色し、十分な印字品質が得られ、鮮明なフルカラー写真画像となることが確認された。尚、実施例4で得た、2種類のバイオレット色インクを単独で印字したところ、鮮やかなバイオレット色の印字物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の画像記録用着色組成物、該画像記録用着色組成物を用いた画像記録用インキおよび画像記録方法によれば、従来より行われているイエロー色、マゼンタ色およびシアン色のインキ3原色を用いてのフルカラーインキシステムでは発色できなかった鮮やかなバイオレット色の印字が、バイオレット色インキ単独の印字で達成される。さらに、このバイオレット色インキを使用することで、鮮やかな赤味、青味のバイオレット色の印字が、このバイオレット色インキと、マゼンタ色あるいはシアン色インキとの混合印字による配色により可能となるので、より鮮明で発色範囲の広がった鮮明な記録画像の提供が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオレット色色素が少なくとも含有されてなる画像記録用着色組成物であって、バイオレット色色素が、ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素であることを特徴とする画像記録用着色組成物。
【請求項2】
ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素が、イソジベンザントロン、ペリレノ−ジピリジノ−ビスベンズイミダゾール−ジオンまたはペリレンビス(カルボキシイミド)のいずれかの化学構造を少なくとも有する請求項1に記載の画像記録用着色組成物。
【請求項3】
イソジベンザントロンの化学構造を有するバイオレット色色素が、イソジベンザントロン、クロルイソジベンザントロンまたはブロムイソジベンザントロンのいずれかである請求項2に記載の画像記録用着色組成物。
【請求項4】
ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素の化学構造中に、アニオン性、カチオン性および/またはノニオン性の水溶性基あるいはそれらを含有する親水性の低分子基、付加重合体残基、付加縮合体残基の、少なくともいずれかを有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像記録用着色組成物。
【請求項5】
ペリレンジカルボニル残基を骨格とするバイオレット色色素と、水、水−親水性有機溶剤混合溶剤または有機溶剤から選ばれる少なくともいずれかの媒体と、必要に応じて分散剤あるいは固着材としての水溶性重合体を含有してなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像記録用着色組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像記録用着色組成物を使用して調製されてなることを特徴とする画像記録用インキ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像記録用着色組成物あるいは請求項6に記載の画像記録用インキのいずれかを使用して着色して記録することを特徴とする画像記録方法。
【請求項8】
前記記録の方式が、インクジェットプリンターを使用するインクジェット記録方式あるいは筆記具を使用する記録方式である請求項7に記載の画像記録方法。
【請求項9】
前記インクジェットプリンターが、オンディマンド方式水性着色インクジェットプリンターあるいはサーマル方式水性着色インクジェットプリンターである請求項8に記載の画像記録方法。
【請求項10】
前記筆記具が、水性着色インキによって構成されているボールポイントペン、サインペン、ファイバーペン、万年筆、筆ペンまたは毛筆のいずれかである請求項8に記載の画像記録方法。

【公開番号】特開2007−138161(P2007−138161A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285680(P2006−285680)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】