説明

画像記録装置、及び画像記録装置の制御方法

【課題】画像記録を行っている記録ヘッドに流入するインクの流量を制御することなく、インクの冷却性能を向上させることができる画像記録装置、及び画像記録装置の制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】インク温度制御部8は、画像記録に用いないインクがあるかどうかを判定する。インク温度測定部12の測定結果化から、画像記録に用いているインクの温度が特定値以上に上昇すると、インク温度制御部8は、インク循環部3の画像記録に用いていないインクのインク循環経路を循環させて、画像記録に用いているインクの温度を下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット方式の画像記録装置及び画像記録装置の制御方法に関し、更に詳しくは、インクを循環するインク循環部でインク温度を最適に制御する画像記録装置及び画像記録装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファックス等の画像記録装置の記録方式の一つにインクジェット方式がある。インクジェット方式の画像記録装置では、記録媒体に対して画像データに基づいて吐出ノズルからインクを吐出することによって、画像記録処理を行う。
【0003】
例えばインクジェット方式のフルライン型のカラー画像記録装置では、複数の色のインク毎、例えばK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロ)の各色のインク毎に長尺の記録ヘッドを設ける構成となっている。あるいはKCMYの色毎に短尺の複数の記録ヘッドを設ける構成となっている。なお、色毎に短尺の複数の記録ヘッドを設ける場合、複数の短尺記録ヘッドは記録媒体の搬送方向(副走査方向)に対して直交する方向(主走査方向)に並べる形で設けられる。
【0004】
このようなインクジェット方式の画像記録装置では、記録ヘッドの対向位置には、記録媒体を搬送する搬送機構が設けられている。そして上位装置等外部から送信される記録データを含むジョブ情報を受信すると、画像記録装置は、このジョブ情報に基づいて、吐出ノズルからそれぞれKCMYの各色のインクを吐出し、記録ヘッドの直下を搬送される記録媒体に画像記録を行う。
【0005】
このような画像記録装置では、画像記録を行う際に記録ヘッドを駆動するが、このときに発生する駆動熱がインクに蓄積されることになる。そのため画像記録を行うと、インク温度が上昇して行く。そしてインク温度が、適正なインク吐出が可能な温度を逸脱することによる記録ヘッドの不吐出が発生することがある。さらにインク中の気泡や異物によっても不吐出が発生することがある。
【0006】
これらの課題を解決するため、記録ヘッドの駆動熱により上昇したインク温度を不吐出が発生しない最適な温度範囲に保ち、かつインク中の気泡や異物を記録ヘッド内に滞留させないように、インクを循環させる構成を備えるものがある。そしてこのインクの循環経路に、記録ヘッド、インクを貯蔵するインクタンク、循環経路内のインクを冷却する冷却部、及びインク内の異物を除去するフィルタを備えている構成のものが提案されている。
【0007】
例えば特許文献1には、インク循環経路を備えたインクジェット方式の記録装置が開示されている。そしてこの特許文献1の装置は、インク循環経路中のインク流量をインク温度によって変更できるように構成されると共に、エアバッファとフィルタをインク循環経路中に備え、これらによってインク中の気泡、及び異物を捕捉する。この構成によって、特許文献1の装置は、記録ヘッドの不吐出を防止することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−23806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の装置は、インク循環経路のインクの流量を制御することにより実現しているが、インク循環経路のインクの流量が記録ヘッド内のインク経路の流量により制限される場合には最適なインク流量を得る事ができない。
そこで本発明は、画像記録を行っている記録ヘッドに流入するインクの流量を制御することなく、インクの冷却性能を向上させることができる画像記録装置、及び画像記録装置の制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本画像記録装置は、上位装置から送信されるジョブ情報に基づいて、記録媒体にインクを吐出して画像記録を行う画像記録装置であって、記録媒体にインクを吐出し画像を記録する画像記録部と、前記画像記録部内のインクの温度を計測するインク温度計測部と、内部を流れるインクの温度を周囲の空気温度と交換するための熱交換部と、前記熱交換部及び前記画像記録部にインクを送液するインク循環経路及び当該インク循環経路内のインクを循環させるポンプ部を有し、それぞれ異なるインクが充填された複数のインク循環経路部と、前記ジョブ情報によって指示された画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環の制御を、前記インク温度計測部による計測結果に基づいて行うインク温度制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本画像記録装置の制御方法は、上位装置から送信されるジョブ情報に基づいて、記録媒体にインクを吐出して画像記録を行う画像記録装置の制御方法であって、画像記録部から記録媒体にインクを吐出して画像記録を行い、前記画像記録に用いるインクの温度計測を行い、内部を流れるインクの温度を周囲の空気温度と交換するための熱交換部及び前記画像記録部にインクを送液する、それぞれ異なるインクが充填された複数のインク循環経路のうち、前記ジョブ情報によって指示された画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環の制御を、前記温度計測の結果に基づいて行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、画像記録に用いるインクに十分な流量を与えることが出来る。また画像記録に用いないインクの循環を行うことにより、画像記録に用いるインクの冷却性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態における画像記録装置の構成例を示す概念的なブロック図である。
【図2】本実施形態の画像記録装置が2種類のインクを用いる構成の場合の、第1の実施形態のインク循環部の各構成要素の配置例を示す図である。
【図3】本実施形態の画像記録装置が4つのインク循環経路を備える構成の場合の、第1の実施形態のインク循環部の各構成要素の配置例を示す図である。
【図4】(a)はインク循環経路を2つ備えるインク循環部に配設されている熱交換器23aの構成例、(b)はインク循環経路を4つ備えるインク循環部に配設されている熱交換器の構成例を示す図である。
【図5】画像記録指示として上位装置から通知されるジョブ情報のデータフォーマット例を示す図である。
【図6】インク温度制御部が実施する上記インク温度の制御処理を説明するフローチャートである。
【図7】第2のインク循環部の各構成要素の配置例を示す図である。
【図8】インク温度制御部が実施する上記インク温度の制御処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、本実施形態の画像記録装置として、インクジェット方式のフルライン型の画像記録装置の例を用いて説明する。
【0015】
フルライン型の画像記録装置では、ノズル列(記録ヘッド)が、記録媒体を搬送する方向(副走査方向)に所定の間隔に離間してインク色毎に配設されている。このノズル列は、インク吐出のための複数のノズルであり、副走査方向に対して直交する方向(主走査方向)に記録媒体の幅以上の長さに亘って配設されている。また、フルライン型画像記録装置(以下、単に画像記録装置で示す)では、各色のノズル列の複数のノズルからインクを記録媒体に向けて吐出することで所望の文字や画像の記録処理を高速に行うことができる。
【0016】
なお、本実施形態の画像記録装置は、フルライン型の画像記録装置に限定されるものではなく、インクを使用する画像記録装置であればスキャン型等他の方式の画像記録装置にも適用可能である。
【0017】
図1は、本実施形態における画像記録装置の構成例を示す概念的なブロック図である。
図1に示されている画像記録装置1は、制御部2、インク循環部3、画像記録部4、給送部5、搬送部6、及び収納部7を備える構成となっている。
【0018】
また、本実施形態の画像記録装置1には、パーソナルコンピュータ(PC)等の上位装置13が接続され、上位装置13から受信したジョブ情報に基づいて、後述する複数のノズルより記録媒体上にインクを吐出し、記録処理を行う。
【0019】
制御部2は、例えば制御機能及び演算機能を有する演算処理装置であり、MPU(Micro Processor Unit:演算処理装置)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、及びMPUが作業用記憶領域として使用するRAM(Random Access Memory)等からなる制御処理回路、及び画像記録装置1の制御に関する各種設定値等を記憶する不揮発性メモリとを少なくとも有する。
【0020】
画像記録装置1の制御部2では、例えば記憶部9を上記RAMと不揮発性メモリにより構成する。また、制御部2では、例えばMPUが制御プログラムを実行することでインク温度制御部8を構成し、この制御プログラムを例えばROMに予め記憶させておく。
【0021】
なお、記憶部9の所定の記憶領域には、インク温度制御処理を実行するための判定条件を予め記録させておく。この判定条件としては、不吐出が発生する虞のあるインク温度の上限(第1の特定温度)及び下限(第2の特定温度)に対応する情報が記憶されている。
【0022】
なお、インク温度制御部8は、制御部2の演算処理装置が制御するハードウェアである信号処理回路として構成してもよい。
画像記録部4は、例えば、少なくとも1つのノズル列11、ノズル列駆動部10、及びインク温度計測部12を備えている。ノズル列11は、記録処理のためのインクを吐出するノズルを主走査方向に並べて構成されるものである。ノズル列駆動部10は、制御部2の駆動指示に基づいてノズル列11の複数のノズルをそれぞれ駆動するものである。インク温度計測部12は、ノズル列11の近傍のインク温度を計測するものである。
【0023】
給送部5は、例えば紙やフィルム等による不図示の記録媒体を積載する給送トレイ、及び記録媒体を搬出する給送ローラを備え、制御部2からの指示に従って給送ローラを駆動し、記録媒体を搬送部6まで搬送する。
【0024】
搬送部6は、例えば不図示の無端ベルトで構成される搬送部材、無端ベルトを駆動する搬送駆動部、及び記録媒体の搬送距離情報を生成する搬送情報生成部を備え、制御部2から指示があると記録媒体を収納部7に搬送する。
【0025】
制御部2は、この搬送情報生成部からの搬送距離情報に基づいて、画像記録部4のノズル列11によるインク吐出のタイミングを決定する。そして制御部2は、記録媒体がノズル列11と対向する位置に搬送されるタイミングでノズル列駆動部10を制御し、ノズル列11からインクを吐出させ、記録処理を行う。
【0026】
収納部7は不図示の排紙ローラと収納トレイによって構成され、画像記録部4により記録処理が行われた記録媒体を排紙ローラによって排出し、収納トレイに収納する。
次に本実施形態の画像記録装置1のインク循環部3について説明する。なお説明の簡略化のため、以下の例では画像記録装置1は、2色のインクを用いて画像記録を行う構成となっているものとする。
【0027】
図2は、本実施形態の画像記録装置1が2種類のインクを用いる構成の場合の、第1の実施形態のインク循環部3aの各構成要素の配置例を示す図である。
図2に示されている画像記録装置1は、2種類のインクを用いる構成なので、そのインク循環部3aは、2種類のインクそれぞれを循環する第1のインク循環経路14、及び第2のインク循環経路15から構成されている。また、第1のインク循環経路14、及び第2のインク循環経路15にはそれぞれ画像記録部4が接続され、第1のインク循環経路14及び第2のインク循環経路15内のインクを循環することによって、画像記録部4の各ノズル列11にインクが供給される。
【0028】
第1のインク循環経路14は、第1のタンク20、第1のポンプ21、熱交換器23a、及び各構成要素を連通するインク経路22、24及び25が設けられている。また第2のインク循環経路15は、第2のタンク26、第2のポンプ27、熱交換器23a、及び各構成要素を連通するインク経路28、29及び30が設けられている。
【0029】
第1のインク循環経路14内には、予め不図示のインク供給部からインクが充填された状態となっており、画像記録部4からの吐出により消費されたインクはこのインク供給部から第1のタンク20に適時補給される。
【0030】
第1のインク循環経路14は、画像記録装置1がジョブ情報を受信すると、制御部2からの駆動指示によって第1のポンプ21が駆動され、第1のタンク20に貯留されているインクがインク経路22を介して熱交換器23aのインク流路31aに送液される。そして熱交換器23aに送液されたインクは、インク経路24を介して画像記録部4に送液され、このうち画像記録部4で吐出されなかったインクは、インク経路25を介して第1のタンク20に回収される。
【0031】
また第2のインク循環経路15では、画像記録装置1がジョブ情報を受信すると、制御部2からの駆動指示によって第2のポンプ27が駆動され、第2のタンク26に貯留されているインクがインク経路28を介して熱交換器23aのインク流路31bに送液される。そして熱交換器23aに送液されたインクは、インク経路29を介して画像記録部4に送液され、このうち画像記録部4にて吐出されなかったインクは、インク経路30を介して第2のタンク26に回収される。
【0032】
図3は、本実施形態の画像記録装置1が4つのインク循環経路を備える構成の場合の、第1の実施形態のインク循環部3bの各構成要素の配置例を示す図である。
図3の画像記録装置1は、例えば4種類のインクを用いて画像記録を行う等、それぞれ独立した4つのインク循環経路を備えている。このうち第1のインク循環経路14及び第2のインク循環経路15は、図2の構成と同様、制御部2からの駆動指示によって第1のポンプ21や第2のポンプ27を駆動して、内部のインクを循環させる。
【0033】
また第3のインク循環経路16は、第3のタンク32、第3のポンプ33、熱交換器23b、及び各構成要素を連通するインク経路34、35及び36が設けられている。そしてまた第4のインク循環経路17は、第4のタンク37、第3のポンプ38、熱交換器23b、及び各構成要素を連通するインク経路39、40及び41が設けられている。そしてこの第3の循環経路16及び第4のインク循環経路17は、制御部2からの駆動指示に基づいて、第3のポンプ33や第4のポンプ38を駆動することによって、内部のインクを循環させて、画像記録部4の各ノズル列11にインクを供給する。
【0034】
第3のインク循環経路16では、画像記録装置1がジョブ情報を受信すると、制御部2からの駆動指示によって第3のポンプ33が駆動され、第3のタンク32に貯留されているインクがインク経路34を介して熱交換器23bのインク流路31cに送液される。そして熱交換器23bに送液されたインクは、インク経路36を介して画像記録部4に送液され、このうち画像記録部4で吐出されなかったインクは、インク経路35を介して第3のタンク32に回収される。また第4のインク循環経路17では、画像記録装置1がジョブ情報を受信すると、制御部2からの駆動指示によって第4のポンプ38が駆動され、第4のタンク37に貯留されているインクがインク経路39を介して熱交換器23bのインク流路31dに送液される。そして熱交換器23bに送液されたインクは、インク経路40を介して画像記録部4に送液され、このうち画像記録部4で吐出されなかったインクは、インク経路41を介して第4のタンク37に回収される。
【0035】
このように本実施形態の画像記録装置1では、インク循環経路は、例えばインクの種類に対応して複数備える構成であれば良い。したがって画像記録装置1は、上記した2つのインク循環経路を備える構成や、4つのインク循環経路を備える構成に限定されるものもではなく、3つのインク循環経路を備える構成や、5つ以上のインク循環経路を備える構成であっても良い。
【0036】
次に熱交換器23の構成について説明する。
図4(a)は、図2に示したインク循環経路を2つ備えるインク循環部3に配設されている熱交換器23aの構成例を示す図である。
【0037】
同図に示されている熱交換器23aは、インク流路31、及び放熱フィン65により構成される。
熱交換器23aのインク流路31は、2つのインク循環経路のインクを同時に送液できるように、内部に2つの経路が隣接して設けられている。同図では、第1のインク循環経路14のインクが流れるインク流路31aと第2のインク循環経路15のインクが流れるインク流路31bの2つのインク流路31が設けられている。またインク流路31には、放熱フィン65が接続されており、インク流路31を流れるインクの熱を大気中に放熱して周囲の空気温度と熱交換できるように構成されている。
【0038】
図4(b)は、図3に示したインク循環経路を4つ備えるインク循環部3に配設されている熱交換器23bの構成例を示す図である。
同図の熱交換器23bは、図4(a)の熱交換器23aと比較して、インク流路31として第1のインク循環経路14及び第2のインク循環経路15の一部となるインク流路31a及び31bの他に、第3のインク循環経路16と第4のインク循環経路17の一部となるインク流路31c及び31dが設けられている。これらのインク流路31a乃至31dを流れるインクは、後述する制御によって一定の温度以下に保たれる。
【0039】
次に、インク循環部3でのインク温度制御動作について説明する。
図5は、画像記録指示として上位装置13から通知されるジョブ情報のデータフォーマット例を示す図である。
【0040】
上位装置13から通知されるジョブ情報には、図5に示すようにジョブ番号、使用インク情報、ページ数情報、及び画像サイズ情報等の画像記録情報が含まれている。
このうちジョブ番号は、上位通知から通知されるジョブ情報を識別する識別番号である。使用インク情報は、このジョブ情報による画像記録で用いるインクの種類を指定するものである。同図ではKCMYの4色のインクを使用して画像記録を行うことが指定されている。ページ数情報は、このジョブ情報によって行われる画像記録のページ数を示す情報である。画像サイズ情報は、このジョブ情報による画像記録で記録される画像の大きさ、言い換えればページの大きさを指定するものである。
【0041】
上位装置13からジョブ情報を受信すると、制御部2はこのジョブ情報内の使用インク情報を調べる。そしてこのジョブ情報による画像記録で用いる色のインクのインク循環経路の制御を開始して、その色のインクを循環させる。以下の例では、ジョブ情報の使用インク情報でK色のインクが使用インクとして指定されており、制御部2は、K色のインクが充填されている第1の循環経路14のみインク循環制御を開始して、画像記録を開始したものとする。
【0042】
画像記録が開始され、ノズル列11からインクの吐出が行われると、画像記録部4で駆動熱が発生し、徐々に第1のインク循環経路14を送液されているインク温度が上昇する。このとき熱交換器23では、放熱フィン65による放熱により内部のインクを冷却するが、第2のインク循環経路15が送液されていないため、徐々に熱交換器23内のインク温度が上昇し、熱交換器23による冷却性能が低下してゆく。
【0043】
制御部2は、画像記録部4のインク温度計測部12によってインク温度を計測し、インク温度が所定の温度を超えた場合は、第2のポンプ27を駆動させる。これによって、画像記録では使用していない第2のインク循環経路15のインク循環を開始する。
【0044】
第2のインク循環経路15のインクの循環が開始されることにより、熱交換器23に滞留していた第2のインク循環経路15内のインクが送液される。この第2のインク循環経路15内のインクは画像記録に用いられていないため、温度が低い。よってこの温度が低い第2のインク循環経路15のインクが熱交換器23に送液されると、インク流路31の熱がこのインクにより吸収され、インク流路31の温度が低下する。
【0045】
第2のインク循環経路15のノズル列11は駆動していないため、第2のインク循環経路15を流れるインクは、インク流路31で熱を吸収しても、この熱は第2のインク循環経路15を循環するうちに放熱される。よってこの第2のインク循環経路15のインクの循環によって熱交換器23による放熱効果は低下することが無く、画像記録に用いている第1の循環経路15を流れるインクの温度は、一定の温度以下に保たれる。
【0046】
次に図2、図3に示した第1の実施形態のインク循環部3を備える画像記録装置1における、インク温度制御部8による記録処理を行わないインク循環経路を使用したインク温度制御処理について説明する。
【0047】
インク温度制御部8は、ジョブ単位、若しくはページ単位で画像記録に用いるインクの種類と、使用しないインクの種類を認識し、画像記録中にインクの温度が特定値以上に上昇したならば、使用しないインクを循環させて、使用しているインクの温度を下げる。
【0048】
図6は、インク温度制御部8が実施する上記インク温度の制御処理を説明するフローチャートである。尚同図に示す処理は、制御部2のROMに予め記憶する制御プログラムをMPUが読み出して実行することにより実現され、制御部2はこの制御プログラムをMPUが実行することによって、インク温度制御部8として機能してインク温度を制御する。
【0049】
図6において画像記録装置1の起動後、まず制御部2は上位装置13からの画像記録を指示するジョブ情報を受信するまで待機する(ステップS1、NO)。そして上位装置13からジョブ情報を受信すると(ステップS1、YES)、ステップS2として制御部2は、ジョブ情報内の使用インク情報を参照し、ジョブ単位若しくはページ単位で使用するインクと使用しないインクの認識を行う。
【0050】
次に制御部2は、ステップS3においてステップS2で使用すると認識したインクのインク循環経路のインクを循環させて、画像記録部4による画像記録処理を開始する。そして制御部2は、画像記録処理行っている間、インク温度計測部12により画像記録部4のインク温度を監視する。そして画像記録処理中の画像記録部4のインク温度が第1の特定温度、例えば40℃を超えていないと判断した場合(ステップS4、NO)、ステップS5乃至S7をスキップして、ステップS8に処理を移す。そしてステップS8では、制御部2は、ステップS1で受信したジョブ情報によって指示された全ての画像記録を終了したかどうかを判断する。そして、終了していないと判断したならば(ステップS8、NO)処理をステップS4に戻し、全て終了したと判断したならば(ステップS8、YES)本処理を終了する。
【0051】
またステップS4で、制御部2が画像記録処理に用いているインクの温度が、第1の特定温度を超えたと判断したとき(ステップS4、YES)、次にステップS5として制御部2は、ステップS2で画像記録処理に使用しないと判定したインクのインク循環経路の循環を開始する。このインク循環経路の循環によって、熱交換器23のインク冷却能力が上がり、画像記録に用いているインクの温度が下がってゆく。
【0052】
この状態で制御部2は、S6においてインク温度計測部12により画像記録処理中の画像記録部4のインク温度を監視し、画像記録処理に用いている画像記録部4のインク温度が第2の特定温度、例えば35℃を下回るまで待つ(ステップS6、NO)。そして制御部2が、画像記録に用いているインクの温度が第2の特定温度よりも低下したと判定したならば(ステップS6、YES)、ステップS7として制御部2は、ステップS5でインクの循環を開始したインク循環経路のインクの循環を停止する。そしてステップS8で制御部2は、ステップS1で受信したジョブ情報によって指示された全ての画像記録を終了したかどうかを判断する。そして、終了していないと判断したならば(ステップS8、NO)処理をステップS4に戻してステップS4乃至S8の処理を繰り返し、全て終了したと判断したならば(ステップS8、YES)本処理を終了する。
【0053】
なお上記説明中の第1の特定温度及び第2の特定温度は、ノズル列11から適正なインク吐出が可能な温度範囲に基づいて決定する。
以上のように第1の実施形態の場合、画像記録に用いるインクの流量に制限を与えることなく、画像記録に用いているインクの温度が上昇すると、画像記録に用いていない他のインクを循環させることによってインクの温度の上昇を抑制することが出来る。
【0054】
次に第2の実施形態のインク循環部を備えた画像記録装置によるインク温度制御について説明する。
図7は、第2のインク循環部3cの各構成要素の配置例を示す図である。同図は、2種類のインクを用いることが出来る構成で、第1のインク循環経路50と第2のインク循環経路60の2つのインク循環経路を備えている。なおこの第2の実施形態のインク循環部3cにおいても、第1の実施形態のインク循環部と同様、3つ以上のインク循環経路を備える構成であっても良いことは言うまでもない。
【0055】
第2の実施形態のインク循環部3cの各インク循環経路50及び60は、その経路上に制御部2からの指示に基づいてインクの流路を変更する3方向弁51及び61を新たに設けている。そして第1の循環経路50の3方向弁51は、熱交換器23aからインク経路24を介して流れてくるインクを画像記録部4につながっているインク経路52方向若しくは画像記録部4を通らないインク経路53方向のどちらか一方向に流す。また同様に第2の循環経路60の3方向弁61は、熱交換器23aからインク経路29を介して流れてくるインクを画像記録部4につながっているインク経路62方向若しくは画像記録部4を通らないインク経路63方向のどちらか一方向に流す。
【0056】
第2の実施形態のインク循環部3cでは、画像記録に用いないインクの循環経路でインクの循環を行うときは、インクの流路を画像記録部4に流さないように3方向弁51及び61を切り替える。
【0057】
これによって画像記録部4によるインクの流量の制限を受けないようにすることができる。すなわち第1のインク循環経路50では、3方向弁51を制御して、画像記録処理を行わない場合のインク循環を、第1のポンプ21−>インク経路22−>熱交換器23a−>インク経路24−>3方向弁51−>インク経路53−>インク経路25−>第1のタンク20−>第1のポンプ21として、画像記録部4にインクを流さない。また画像記録を行う際には、3方向弁51を制御して、第1のポンプ21−>インク経路22−>熱交換器23a−>インク経路24−>3方向弁51−>インク経路52−>画像記録部4−>インク経路25−>第1のタンク20−>第1のポンプ21として、画像記録部4にインクを流すようにする。
【0058】
また第2のインク循環経路60においても、制御部2が3方向弁61を制御して、画像記録を行わないときはインク経路63に切り替えて画像記録部4にインクを流さないようにし、また画像記録を行うときはインク経路62に切り替えて画像記録部4インクを流すようにする。
【0059】
これにより、画像記録を行わずにインクを循環させる際のインク量を、画像記録部4による制限を受けずに増やすことが出来る。
図8は、インク温度制御部8が実施する上記インク温度の制御処理を説明するフローチャートである。尚同図に示す処理は、制御部2のROMに予め記憶する制御プログラムをMPUが読み出して実行することにより実現され、制御部2はこの制御プログラムをMPUが実行することによって、インク温度制御部8として機能してインク温度を制御する。
【0060】
図8の処理中ステップS11乃至S14は、図6の第1の実施形態の場合のステップS1乃至S4と基本的に同じなので説明は、省略する。
図8の処理において、制御部2は、画像記録処理行っている間、インク温度計測部12により画像記録部4のインク温度を監視し、ステップS14において、画像記録処理中の画像記録部4のインク温度が第1の特定温度、例えば40℃を超えていないと判断した場合(ステップS14、NO)、ステップS15乃至S19をスキップして、ステップS20に処理を移す。そしてステップS20では、制御部2は、ステップS11で受信したジョブ情報によって指示された全ての画像記録を終了したかどうかを判断する。そして、終了していないと判断したならば(ステップS20、NO)処理をステップS14に戻し、全て終了したと判断したならば(ステップS20、YES)本処理を終了する。
【0061】
またステップS14で、制御部2が画像記録処理に用いているインクの温度が、第1の特定温度を超えたと判断したとき(ステップS14、YES)、まずステップS15として制御部2は、ステップS2で画像記録処理に使用しないと判定した全てのインクのインク循環経路の3方向弁を制御してインクの流路を画像記録部4へインクが流れないように切り替える。そしてステップS16として、制御部2は、ステップS15でインクの流路を切り替えた、画像記録に使用していないインクのインク循環経路の循環を開始する。このインク循環経路の循環によって、熱交換器23のインク冷却能力が上がり、画像記録に用いているインクの温度が下がってゆく。
【0062】
この状態で制御部2は、S17においてインク温度計測部12により画像記録処理中の画像記録部4のインク温度を監視し、画像記録処理に用いている画像記録部4のインク温度が第2の特定温度、例えば35℃を下回るまで待つ(ステップS17、NO)。そして制御部2が、画像記録に用いているインクの温度が第2の特定温度よりも低下したと判定したならば(ステップS17、YES)、まずステップS18として制御部2は、ステップS15でインクの循環を開始したインク循環経路のインクの循環を停止する。そして次にステップS19として制御部2は、ステップS16で切り替えた3方向弁を戻して、インクが画像記録部4に流れるようにする。
【0063】
そしてステップS20で制御部2は、ステップS11で受信したジョブ情報によって指示された全ての画像記録を終了したかどうかを判断する。そして、終了していないと判断したならば(ステップS20、NO)処理をステップS14に戻してステップS14乃至S20の処理を繰り返し、全て終了したと判断したならば(ステップS20、YES)、本処理を終了する。
【0064】
このように第2の実施形態では、熱交換器23を冷却するために行う、画像記録に使用していないインクの循環を、インクの流路を切り替えてインクが画像記録部4に行かないようにする。これにより、循環するインクの流量を、画像記録部4による制限を受けずに増やすことが出来る。
【0065】
なお上記説明では、本実施形態の画像記録装置としてカラープリンタの場合を例として説明したが、本実施形態の画像記録装置はプリンタに限らず、複写機やスキャナー等を含むいわゆる複合機であってもよい。
【0066】
さらに、本実施形態の画像記録装置は上記例に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、本実施形態は上記説明に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態をなすことができる。例えば上記説明で示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良いし、あるいは新たな構成要素を付け加えても良い。
【符号の説明】
【0067】
1 画像記録装置
2 制御部
3 インク循環部
4 画像記録部
5 給送部
6 搬送部
7 収納部
8 インク温度制御部
9 記憶部
10 ノズル列駆動部
11 ノズル列
12 インク温度計測部
13 上位装置
14、50 第1のインク循環経路
15、60 第2のインク循環経路
16 第3のインク循環経路
17 第4のインク循環経路
20 第1のタンク
21 第1のポンプ
22、24、25、28、29、30、34、35、36、39、40、41、52、53、62、63 インク経路
23 熱交換器
26 第2のタンク
27 第2のポンプ
31 インク流路
32 第3のタンク
51、61 3方向弁
33 第3のポンプ
37 第4のタンク
38 第4のポンプ
65 放熱フィン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位装置から送信されるジョブ情報に基づいて、記録媒体にインクを吐出して画像記録を行う画像記録装置であって、
前記記録媒体にインクを吐出し画像を記録する画像記録部と、
前記画像記録部内のインクの温度を計測するインク温度計測部と、
内部を流れるインクの温度を周囲の空気温度と交換するための熱交換部と、
前記熱交換部及び前記画像記録部にインクを送液するインク循環経路及び当該インク循環経路内のインクを循環させるポンプ部を有し、それぞれ異なるインクが充填された複数のインク循環経路部と、
前記ジョブ情報によって指示された画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環の制御を、前記インク温度計測部による計測結果に基づいて行うインク温度制御部と、
を備えることを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
演算処理部、及び制御プログラムを予め記憶している記憶部を有する制御部を更に備え、
前記演算処理部が前記制御プログラムを実行させることにより前記インク温度制御部として機能する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記インク温度制御部は、前記インク温度計測部による計測が前記インクの温度が第1の特定温度を超えたとき、前記画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環を開始し、前記インク温度計測部による計測が前記インクの温度が第2の特定温度以下となったとき、前記画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環を停止することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記インク温度制御部は、前記ジョブ情報内の情報から当該ジョブ情報によって指示された画像記録に用いないインクを判別することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項5】
前記インク循環経路中に前記画像記録部にインクを流すインク経路と前記画像記録部にインクを流さないインク経路を切り替える3方向弁を有し、前記インク温度制御部は、前記インク温度計測部による計測結果に基づいて前記3方向弁の切り替え制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項6】
前記インク温度制御部は、前記インク温度計測部による計測が前記インクの温度が第1の特定温度を超えたとき、前記画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内の前記3方向弁を前記画像記録部にインクを流さないインク経路に切り替え、当該インク循環経路部内のインクの循環を開始することを特徴とする請求項5に記載の画像記録装置。
【請求項7】
前記インク循環経路部は、前記インクを一時的に貯留し、前記インク循環経路にインクを供給すると共に当該インク循環経路を循環したインクを回収するインクタンクを更に有することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項8】
上位装置から送信されるジョブ情報に基づいて、記録媒体にインクを吐出して画像記録を行う画像記録装置の制御方法であって、
画像記録部から記録媒体にインクを吐出して画像記録を行い、
前記画像記録に用いるインクの温度計測を行い、
内部を流れるインクの温度を周囲の空気温度と交換するための熱交換部及び前記画像記録部にインクを送液する、それぞれ異なるインクが充填された複数のインク循環経路のうち、前記ジョブ情報によって指示された画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環の制御を、前記温度計測の結果に基づいて行う、
ことを特徴とする画像記録装置の制御方法。
【請求項9】
前記温度計測の結果、前記インクの温度が第1の特定温度を超えたとき、前記画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環を開始し、前記インク温度計測部による計測が前記インクの温度が第2の特定温度以下となったとき、前記画像記録に用いないインクが充填された前記インク循環経路部内のインクの循環を停止することを特徴とする請求項8に記載の画像記録装置の制御方法。
【請求項10】
前記インク循環経路中に前記画像記録部にインクを流すインク経路と前記画像記録部にインクを流さないインク経路を切り替える3方向弁を有し、前記インク温度計測部による計測結果に基づいて前記3方向弁の切り替え制御を行うことを特徴とする請求項8に記載の画像記録装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−6261(P2012−6261A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144273(P2010−144273)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【出願人】(511050985)オルテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】