説明

画像記録装置及び画像記録装置の製造装置

【課題】画像記録装置の個体差によって撮影画像が劣化しても、画像処理により劣化した画像を復元することのできる画像記録装置およびその製造装置を提供すること。
【解決手段】画像記録装置1は、画像データを得るイメージセンサ4と、イメージセンサを仮想的に分割した複数の領域のうちの1または2の領域のPSFを示す測定PSFデータを保持するメモリ6と、撮像レンズの設計値から得られるPSFを示す設計PSFデータと測定PSFデータとから、他領域PSFデータを推測する推測手段7と、測定PSFデータおよび他領域PSFデータを用いて画像データを復元する復元手段8と、を備え、測定PSFデータは、調整用チャートを画像記録装置で撮影した撮影データから得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像記録装置及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮影した被写体の画像を画像データに変換して電子的に保存するデジタルカメラ等に用いられる画像記録装置としてのカメラモジュールが知られている。このような画像記録装置で撮影された画像は、主に光学収差により、濃度ひずみ・幾何ひずみ・ボケなどが発生して画質が劣化する。劣化した画像から不要な情報を抑制し、有用な情報を取り出すために、一般的にはエッジ強調フィルタ処理が行われる。さらに、精度の高い情報を得るための技術として画像復元処理技術がある。画像復元技術には、様々な種類があるが、例えば、光学伝達関数であるPSF(Point Spread Function)を用いた復元処理が特許文献1に提示されている。
【0003】
しかしながら、画像記録装置に用いられるレンズの設計値に対するPSFを計算することはできるが、レンズ製造誤差や、画像記録装置の組み立て誤差に依存する光学ひずみについては復元をすることが難しいという問題があった。なお、本願において、レンズ製造誤差や、画像組み立て装置の組み立て誤差によって生じる画像記録装置ごとの差を個体差という。
【0004】
従来は、画像記録装置によって得られる画像データの品質を高めるために、レンズの製造や画像記録装置の組み立てに高い精度を要求していた。これにより、部品コスト・組み立てコストが高くなるという問題があった。また、レンズの製造や画像記録装置の組み立てに高い精度を要求した場合、歩留まりの低下を招くことでもコスト増加の要因となる。
【0005】
【特許文献1】特開2007−183842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、画像記録装置の個体差によって撮影画像が劣化しても、画像処理により劣化した画像を復元することのできる画像記録装置およびその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の一態様によれば、撮影された画像データを記録するための画像記録装置であって、被写体からの光を取り込む撮像レンズと、撮像レンズが取り込んだ光を信号電荷に変換し、画像データを得るイメージセンサと、イメージセンサを仮想的に分割した複数の領域のうちの1または2の領域のPSFを示す測定PSFデータを保持するメモリと、撮像レンズの設計値から得られるPSFを示す設計PSFデータと測定PSFデータとから、複数の領域の一部である1または2以上の領域とは異なる他の領域のPSFを示す他領域PSFデータを推測する推測手段と、測定PSFデータおよび他領域PSFデータを用いて画像データを復元する復元手段と、を備え、測定PSFデータは、イメージセンサを仮想的に複数の領域に分割する調整用チャートを画像記録装置で撮影した撮影データから得られることを特徴とする画像記録装置が提供される。
【0008】
また、本願発明の一態様によれば、画像記録装置にこの画像記録装置が備えるイメージセンサを仮想的に複数の領域に分割する調整用チャートを撮影させる撮影手段と、画像記録装置が撮影した調整用チャートの撮影データと、画像記録装置が備える撮像レンズの設計値とに基づいて複数の領域から1または2の領域を選択する選択手段と、1または2の領域のPSFを示す測定PSFデータを画像記録装置が備えるメモリに入力して保持させる入力手段と、を備え、測定PSFデータは、撮影データから得られることを特徴とする画像記録装置の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、画像記録装置で撮影した調整用チャートの撮影データから得られる測定PSFデータを用いて画像データを復元するので、画像記録装置ごとの個体差によって画像データの劣化の程度が異なる場合であっても、個体差に応じた復元をすることができるという効果を奏する。これにより、レンズの製造や画像記録装置の組み立てに要求される精度を抑えることができ、歩留まりの向上や製造コストの抑制を図ることができる。また、メモリには、イメージセンサの複数の領域の一部である1または2以上の領域のPSFを示す測定PSFデータを保持させるので、複数の領域すべてのPSFデータを保持させる場合に比べて、メモリの容量が小さくて済み、部品コストの抑制を図ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、調整用チャートの撮影データと、画像記録装置が備える撮像レンズの設計値とに基づいて、複数の領域から1または2の領域を選択するので、例えば、画像データの復元処理に適した測定PSFデータとなる領域を1または2の領域として選択することができる。画像記録装置ごとに、画像データの復元処理の効果が高くなるように1または2の領域を選択すれば、画像データの復元処理について、画像記録装置ごとのばらつきを抑えることができる。これにより、画像記録装置の歩留まりを向上させて、製造コストを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる画像記録装置としてのカメラモジュールおよびその製造装置の最良な実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
まず、カメラモジュール1の構成について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るカメラモジュール1の概略構成を示すブロック図である。撮像レンズ2は、被写体からの光を取り込む。イメージセンサ4は、被写体からの光を信号電荷に変換し、画像データを得る。PSFメモリ(メモリ)6は、得られた画像データを復元するためのPSFデータを保持する。PSFメモリ6に保持されるPSFデータは、測定PSFデータと設計PSFデータを有して構成される。なお、設計PSFデータとは、撮像レンズ2の設計値から得られるPSFを示すPSFデータである。測定PSFデータとは、カメラモジュール1で後述する調整用チャートを撮影した撮影データから得られるPSFを示すPSFデータである。
【0013】
PSF推測部(推測手段)7は、PSFメモリ6に保持された測定PSFデータと設計PSFデータとから、他のPSFデータ(他領域PSFデータ)を推測する。画像補正部(復元手段)8は、PSFデータを用いた画像データの復元処理等の補正を行う。画像メモリ10は、補正された画像データを記録保持する。なお、PSFメモリ6にPSFデータを保持させる工程、画像補正部8による画像の補正の工程、PSF推測部7による他領域PSFデータの推測の工程については、後に詳説する。
【0014】
次に、カメラモジュール1の製造装置20の構成について説明する。図2は、カメラモジュール1の製造装置20の概略構成を示すブロック図である。製造装置20は、載置部22、調整用チャート24、制御部26を有して構成されている。載置部22は、カメラモジュール1を載置して、製造装置20におけるカメラモジュール1の位置決めを行う。なお、載置部22には、撮像レンズ2やイメージセンサ4が組み立てられた状態のカメラモジュール1が載置される。カメラモジュール1には、製造装置20の載置部22に載置されるときに組み立て誤差等の個体差が生じている。
【0015】
調整用チャート24は、PSFメモリ6に保持される測定PSFデータを得るために、カメラモジュール1に撮影させるものである。調整用チャート24は、カメラモジュール1に撮影された場合に、イメージセンサ4の全面を3行3列の9領域(領域Q1〜Q9)に仮想的に分割するもので、撮影データからPSFデータが得られるような複数の点像からなる点像チャートとする。なお、載置部22と調整用チャート24との位置関係は、載置部22に載置されたカメラモジュール1が調整用チャート24を撮影するのに適した位置関係となるように設定されている。
【0016】
制御部26は、載置部22に載置されたカメラモジュール1を制御する。具体的には、載置部22に載置されたカメラモジュール1に調整用チャート24を撮影させる。制御部26は、カメラモジュール1に調整用チャートを撮影させるチャート撮影手段として機能する。
【0017】
次に、カメラモジュール1が備えるPSFメモリ6にPSFデータを保持させる工程を説明する。図3は、カメラモジュール1の製造工程、撮影した画像データの補正の工程、および他領域PSFデータの推定の工程のフローを示す図である。まず、制御部26が載置部22に載置されたカメラモジュール1に調整用チャート24を撮影させる(ステップS1)。これにより、3行3列に分割された9領域について、撮像レンズ2の製造誤差やカメラモジュール1の組み立て誤差を含めたPSFデータを取得できたことになる(ステップS2)。ここで、制御部26は、取得したPSFデータのうち、領域Q1から得たPSFデータと、領域Q5から得たPSFデータを、測定PSFデータとしてPSFメモリ6に入力して保持させる(ステップS3)。
【0018】
すなわち、PSFメモリ6は、イメージセンサ4の中心部と周辺部の2の領域のPSFデータを測定PSFデータとして保持する。なお、領域Q1から得られたPSFデータを測定PSFデータp1とし、領域Q5から得られたPSFデータを測定PSFデータp5とする。これにより、PSFメモリ6にアクセスすればいつでも測定PSFデータp1,p5を読み出して使用できるようになる。なお、すでに組み立てられたカメラモジュール1、すなわち個体差の発生しているカメラモジュール1で調整用チャートを撮影して測定PSFデータp1,p5を得ている。したがって、この測定PSFデータp1,p5は、カメラモジュール1の個体差を反映したものとなる。
【0019】
次に、カメラモジュール1で撮影した画像データの補正を行う工程を説明する。まず、カメラモジュール1で被写体を撮影する(ステップS11)。これにより、被写体の画像データとしてRAWイメージが得られる。画像補正部8は、RAWイメージに対してノイズリダクションを行う(ステップS12)。次に、画像補正部8は、RAWイメージに対して復元処理を行う。ここで、図4は、仮想的に分割されたイメージセンサ4を説明するための図である。イメージセンサ4は、仮想的に9領域(T1〜T9)に分割される。画像補正部8は、領域T1から得られるRAWイメージには、測定PSFデータp1を用いて復元処理を行う。領域T5から得られるRAWイメージには、測定PSFデータp5を用いて復元処理を行う。領域T1,T5と異なる他の領域に対しては、PSF推測手段7によって推測された他領域PSFデータp2〜p4,p6〜p9を用いて復元処理を行う(ステップS13)。ここで、他領域PSFデータp2〜p4,p6〜p9とは、領域T2〜T4,T6〜T9におけるPSFデータであって、PSF推測部7によって推測されるものである。なお、PSF推測手段7による他領域PSFデータp2〜p4,p6〜p9の推測については、後に詳説する。そして、補正された画像データが画像メモリ10に保持される(ステップS14)。
【0020】
次に、PSF推測部7が他領域PSFデータp2〜p4,p6〜p9を推測する工程を説明する。PSF推測部7は、測定PSFデータp1,p5と設計PSFデータとから他領域PSFデータp2〜p4,p6〜p9を推測する。まず、PSF推測部7は、測定PSFデータp1,p5から3次収差である球面収差・コマ収差・非点収差等の基本収差量や焦点ずれ量などの大きさを得る。ここで、球面収差・コマ収差・非点収差は方向性を持っているため、それらは独立成分として考える。図5に示すように、それぞれの収差成分A3〜A8が得られる(ステップS21)。
【0021】
PSF補正部7は、設計PSFデータからも同様に、3次収差である球面収差・コマ収差・非点収差等の基本収差量や焦点ずれ量などの大きさを得る。これらの独立成分を収差成分D3〜D8とする(ステップS22)。撮像レンズ2の製造誤差や、カメラモジュール1の組み立て誤差がなければ、A(i)とD(i)は一致する。しかし、一般的に製造誤差や組み立て誤差をなくすことは困難であるため、カメラモジュール1ではA(i)とD(i)とは異なる。
【0022】
そこで、PSF推測部7は、収差成分A3〜A8と収差成分D3〜D8に対して最小自乗法を用いて多項式近似を行う(ステップS23)。PSF推測部7は、修正された係数を元に、近似多項式を用いて領域T2〜T4,T6〜T9におけるPSFデータ、すなわち、他領域PSFデータp2〜p4,p6〜p9を算出する(ステップS24)。このように、PSF推測部7は、測定値と設計値とから収差成分の変化率を求め、その変化率に基づいてイメージセンサ4の全面におけるPSFデータを推測するのである。なお、この他領域PSFデータp2〜p4,p6〜p9を用いてステップS13における画像復元処理が行われる。
【0023】
復元効果は、画像復元アルゴリズムに依存するが、例えばRichardson-Lucy法による画像復元方法を用いればよい。これにより、光学歪やボケの少ない現像に近い画像を得ることができる。また、撮像レンズ2の製造誤差がある場合でも、本第1の実施の形態で説明した復元処理により、現像に近い画像を得ることができるので、撮像レンズ2に要求される製造精度を抑えて、製造コストの抑制を図ることができる。
【0024】
また、PSFメモリ6には、測定PSFデータp1,p5と設計PSFデータを保持させるだけでよいので、イメージセンサ4の全面におけるPSFデータすべてを保持させる場合に比べて、PSFメモリ6の容量が小さくて済み、部品コストの抑制を図ることができる。
【0025】
なお、調整用チャート24を複数の点像からなる点像チャートとしたが、これに限られず、それぞれの領域Q1〜Q9における撮影データがPSFデータとして用いることができるものや、PSFデータと非常に相関の強いイメージになるものであればよい。
【0026】
また、調整用チャート24の中心部である領域Q5から得られるPSFデータと、周辺部である領域Q1から得られるPSFデータを測定PSFデータとしたが、これに限られず、任意の2箇所を選択してもよい。
【0027】
また、調整用チャート24を3行3列の9領域に分割したが、M,Nを整数としてM行N列のM×N領域に分割してもよい。M×Nが大きいほど、復元処理の精度を高めることができる。
【0028】
また、分割の方向は、縦横の行列状に限られず、例えば曲座標であってもよい。また、分割数は分割方向に依存するものではなく、任意の2点であってもよい。また、PSFデータは、イメージデータに限られない。例えば、別途のROMにPSFイメージテーブルを持ち、そのPSFイメージデータとの差分データや、比率係数をPSFメモリ6に保持させてもよい。差分データや比率係数が、イメージデータに比べて小さな容量であれば、カメラモジュール1が備えるPSFメモリ6の容量を小さなものとすることができる。また、PSFデータとして、予め算出した収差成分を保持させるものであってもよい。
【0029】
また、PSFデータは、カメラモジュール1内のPSFメモリ6ではなく、外部メモリに保持されるように構成してもよい。また、画像復元のアルゴリズムは、Richardson-Lucy法と異なるアルゴリズムを用いてもよい。また、PSFデータの推測方法は、必ずしも最小自乗法に限定するものではない。
【0030】
次に、第1の実施の形態の変形例について説明する。本変形例では、PSF推測部7が、他領域PSFデータを推測する際に、イメージセンサ4の領域T1〜T9をさらに細分化して、イメージセンサ4の全面を81行×81列の6561領域に分割する。図6は、領域T1および領域T5を拡大した図である。このように、PSF推測部7は、領域T1〜T9を17行×17列の289領域に分割する。この場合、測定PSFデータp1は、領域t1におけるPSFデータとなり、測定PSFデータp5は、領域t5におけるPSFデータとなる。
【0031】
すなわち、PSF推測部7は、領域T1内における領域t1以外の領域ごと、および、領域T5内における領域t5以外の領域ごとにおけるPSFデータを他領域PSFデータとして推測する。もちろん、領域T2〜T4,T6〜T9の細分化された各領域におけるPSFデータも他領域PSFデータとして推測する。なお、他領域PSFデータを推測する手法は、第1の実施の形態で説明したものと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0032】
一般に、同じ領域T1内であっても、その場所ごとにPSFは異なる。第1の実施の形態では、領域T1を代表するPSFデータとして測定PSFデータp1を採用し、領域T1の全域に測定PSFデータp1を適用して画像データを復元している。これに対し、本変形例では、領域T1をさらに細分化して、その細分化された領域ごとにPSFデータを推測し、他領域PSFデータを得る。この他領域PSFデータを用いて復元処理を行っているので、その場所に応じたPSFデータを用いて復元処理を行うことができ、より精度のよい復元処理を実現することができる。なお、本変形例では81行×81列の6561領域に分割したが、I,Jを整数としてI行J列のI×J領域に分割してもよい。I×Jが大きいほど、復元処理の精度を高めることができる。
【0033】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態について図面を用いて説明する。実施の形態1と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。第2の実施の形態では、PSF推測部7が、測定PSFデータp1,p5と設計PSFデータに対して、フーリエ変換をすることで3次収差である球面収差・コマ収差・非点収差などの基本収差量や焦点ずれ量などの波面収差量を得る。
【0034】
球面収差・コマ収差・非点収差は方向性を持っているため、それらは独立成分として考える。第1の実施の形態と同様に、それぞれの収差成分をA3〜A8,D3〜D8とする。PSF推測部7は、収差成分A3〜A8と収差成分D3〜D8に対して最小自乗法を用いて多項式近似を行う。PSF推測部7は、修正された係数を元に近似多項式を用いて波面収差量を算出する。PSF推測部7は、算出された波面収差量に対して逆フーリエ変換を行うことで他領域PSFデータを算出する。ここで、PSF推測部7は、他領域PSFデータとして、イメージセンサ4を9領域に分割した領域のうち領域T2〜T4,T6〜T9におけるPSFデータを算出してもよいし、第1の実施の形態の変形例のように、領域T1〜T9をさらに細分化して、その細分化された領域ごとにおけるPSFデータを算出してもよい。また、画像データの復元処理は、第1の実施の形態と同様に、測定PSFデータと他領域PSFデータを用いて行えばよい。
【0035】
第2の実施の形態では、収差成分を求めるために、測定PSFデータおよび設計PSFデータをフーリエ変換しているので、各収差成分A3〜A8,D3〜D8を完全な独立成分として取り扱うことが可能となり、他領域PSFデータの推測精度を高めることができる。これにより、より一層精度のよい復元処理を実現することができる。
【0036】
次に、第2の実施の形態の変形例について説明する。本変形例では、PSFメモリ6には、イメージセンサ4の中央部である領域T5における測定PSFデータp5および設計PSFデータが保持され、周辺部である領域T1におけるPSFデータは保持されない。
【0037】
PSF推測部7は、測定PSFデータp5と設計PSFデータに対して、フーリエ変換をすることで3次収差である球面収差・コマ収差・非点収差などの基本収差量や焦点ずれ量などの波面収差量を得る。球面収差・コマ収差・非点収差は方向性を持っているため、それらは独立成分として考える。第1の実施の形態と同様に、それぞれの収差成分をA3〜A8,D3〜D8とする。PSF推測部7は、収差成分A3〜A8と収差成分D3〜D8に対して最小自乗法を用いて多項式近似を行う。PSF推測部7は、修正された係数を元に近似多項式を用いて波面収差量を算出する。PSF推測部7は、算出された波面収差量に対して逆フーリエ変換を行うことで他領域PSFデータを算出する。ここで、PSF推測部7は、他領域PSFデータとして、イメージセンサを9領域に分割した領域のうちT2〜T4,T6〜T9におけるPSFデータを算出してもよいし、第1の実施の形態の変形例のように、領域T1〜T9をさらに細分化して、その細分化された領域ごとにおけるPSFデータを算出してもよい。また、画像データの復元処理は、第1の実施の形態と同様に、測定PSFデータと他領域PSFデータを用いて行われる。
【0038】
本変形例でも、収差成分を求めるために、測定PSFデータおよび設計PSFデータをフーリエ変換しているので、各収差成分A3〜A8,D3〜D8を完全な独立成分として取り扱うことが可能となり、他領域PSFデータの推測精度を高めることができる。これにより、より一層精度のよい復元処理を実現することができる。なお、フーリエ変換を行わずに他領域PSFデータを推測しても構わない。
【0039】
また、PSFメモリ6に保持されるのが、1の測定PSFデータp5と設計PSFデータであるので、2の測定PSFデータp1,p5を保持させる場合に比べて、PSFメモリ6の容量が小さくて済み、より一層の部品コストの抑制を図ることができる。
【0040】
なお、PSFメモリに保持させるのは、イメージセンサ4の中央部である領域T5における測定PSFデータp5に限られず、周辺部である領域T1〜T4,T6〜T9から選択した1の領域におけるPSFデータであってもよい。
【0041】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態について図面を用いて説明する。上記実施の形態と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。第3の実施の形態では、製造装置20の制御部26が、カメラモジュール1が撮影した調整用チャート24の撮影データと、撮像レンズ2の設計値とに基づいて、仮想的に分割されたイメージセンサ4の複数の領域から1の領域を選択する選択手段として機能する。また、制御部26は、選択した領域におけるPSFデータを測定PSFデータとして、PSFメモリ6に入力して保持させる入力手段として機能する。
【0042】
図7は、第3の実施の形態において、1の領域が選択され、その測定PSFデータが保持される工程のフローを示す図である。まず、制御部26が載置部22に載置されたカメラモジュール1に調整用チャート24を撮影させる(ステップS31)。これにより、3行3列に分割された9領域について、撮像レンズ2の製造誤差やカメラモジュール1の組み立て誤差を含めたPSFデータを取得できたことになる(ステップS32)。ここで、制御部26は、取得したPSFデータおよび設計PSFデータにフーリエ変換を行い、イメージセンサ4の領域T1〜T9ごとの収差成分A3〜A8,D3〜D8を得る(ステップS33)。次に、制御部26は、イメージセンサ4の領域T1〜T9ごとに収差成分A3〜A8と収差成分D3〜D8の変化率を算出し、変化率の最も大きい領域を1の領域として選択する(ステップS34)。制御部26は、1の領域として選択された領域におけるPSFデータを、測定PSFデータとしてPSFメモリ6に入力して保持させる(ステップS35)。
【0043】
なお、PSFメモリに保持された測定PSFデータと設計PSFデータを用いた、他領域PSFデータの推測および画像データの復元処理の工程は、上記実施の形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0044】
このように、設計値と測定値の変化率が最も大きい領域を1の領域として選択することで、PSF推測部7によって推測される他領域PSFデータの精度を高めることができる。また、カメラモジュール1ごとに変化率を算出し、1の領域を選択するので、そのカメラモジュール1の他領域PSFデータを推測するのに適した領域を1の領域とすることができる。これにより、カメラモジュール1による画像データの復元処理の精度のばらつきを抑えることができ、品質にばらつきの少ないカメラモジュール1を提供することができる。また、品質のばらつきが少なくなることで、より一層の歩留まりの向上を図ることができる。なお、第3の実施の形態では、1の領域を選択したが、2またはそれ以上の領域を選択して、その領域のPSFデータを測定PSFデータとして保持させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1の実施の形態に係るカメラモジュールの概略構成を示すブロック図。
【図2】カメラモジュールの製造装置の概略構成を示すブロック図。
【図3】カメラモジュールの製造工程および撮影した画像データの復元処理の工程のフローを示す図。
【図4】仮想的に分割されたイメージセンサを説明するための図。
【図5】仮想的に分割されたイメージセンサの領域における収差成分を説明する図。
【図6】領域T1および領域T5を拡大した図。
【図7】第3の実施の形態において、1の領域が選択され、その測定PSFデータが保持される工程のフローを示す図。
【符号の説明】
【0046】
Q1〜Q9,T1〜T9 領域、1 カメラモジュール(画像記録装置)、2 撮像レンズ、4 イメージセンサ、6 PSFメモリ(メモリ)、7 PSF推測部(推測手段)、8 画像補正部(復元手段)、10 画像メモリ、20 製造装置、22 載置部、24 調整用チャート、26 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影された画像データを記録するための画像記録装置であって、
被写体からの光を取り込む撮像レンズと、
前記撮像レンズが取り込んだ光を信号電荷に変換し、前記画像データを得るイメージセンサと、
前記イメージセンサを仮想的に分割した複数の領域の一部である1または2以上の領域のPSFを示す測定PSFデータを保持するメモリと、
前記撮像レンズの設計値から得られるPSFを示す設計PSFデータと前記測定PSFデータとから、前記複数の領域のうち前記1または2の領域とは異なる他の領域のPSFを示す他領域PSFデータを推測する推測手段と、
前記測定PSFデータおよび前記他領域PSFデータを用いて前記画像データを復元する復元手段と、を備え、
前記測定PSFデータは、前記イメージセンサを仮想的に複数の領域に分割する調整用チャートを前記画像記録装置で撮影した撮影データから得られることを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
前記メモリに保持される前記測定PSFデータは、前記調整用チャートと、前記撮影データとの差分データおよび比率係数の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記推測手段は、前記測定PSFデータおよび前記設計PSFデータから得られる収差成分に基づいて前記他領域PSFデータを推測することを特徴とする請求項1または2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記収差成分は、前記測定PSFデータおよび前記設計PSFデータをフーリエ変換することで算出されることを特徴とする請求項3に記載の画像記録装置。
【請求項5】
画像記録装置にこの画像記録装置が備えるイメージセンサを仮想的に複数の領域に分割する調整用チャートを撮影させる撮影手段と、
前記画像記録装置が撮影した前記調整用チャートの撮影データと、前記画像記録装置が備える撮像レンズの設計値とに基づいて前記複数の領域から1または2の領域を選択する選択手段と、
前記1または2の領域のPSFを示す測定PSFデータを前記画像記録装置が備えるメモリに入力して保持させる入力手段と、を備え、
前記測定PSFデータは、前記撮影データから得られることを特徴とする画像記録装置の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−177919(P2010−177919A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17046(P2009−17046)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】