説明

界面活性剤−安定化オルガノアルコキシシラン組成物

本発明は、少なくとも一つのオルガノアルコキシシランS及び少なくとも一つの無水界面活性剤Tを含むオルガノアルコキシシラン組成物であって、オルガノアルコキシシランSの全重量画分の合計が当該オルガノアルコキシシラン組成物の重量に基づいて33重量%以上であり、且つ全無水界面活性剤Tの合計重量に対する全オルガノアルコキシシランSの合計重量の比(S:T)が5:1乃至1:2の値を有する、オルガノアルコキシシラン組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノアルコキシシランの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノアルコキシシランは、既知の物質であり、例えば接着促進剤として長年使用されている。これらは当業者によってしばしばシランとも呼称される。これらはアルコキシシラン基を有し、前記アルコキシシラン基は水(液体形態または大気中水分として)と接触すると加水分解してシラノール基(Si−OH)を形成し、その後架橋してシロキサン化合物を形成する。これは非常に短時間でさえも沈澱もしくはヘイジングの例をもたらしうる。この感受性は特に極性オルガノアルコキシシランにおいて、さらには塩基性pHにて、したがってとりわけアミノシランにおいて非常に顕著である。
【0003】
したがって、オルガノアルコキシシランを取り扱う際には、これらを確かに湿分のない状態で貯蔵及び処理せねばならない。このことは実際には多くの場合に、例えばパックが不透性でないかどうか、あるいはこれが開封されていないかもしくはきちんと閉じられていなかった場合に、問題を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、オルガノアルコキシシランの貯蔵安定性を改善すること、とりわけオルガノアルコキシシランの水、特に大気中水分に対する感受性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
驚くべきことに、請求項1のオルガノアルコキシシラン組成物がこの目的を達成しうることが判明した。
【0006】
本発明は、少なくとも一つのオルガノアルコキシシランS及び少なくとも一つの無水界面活性剤Tを含むオルガノアルコキシシラン組成物であって、オルガノアルコキシシランSの全重量画分の合計がオルガノアルコキシシラン組成物の重量に基づいて33重量%以上であり、且つ全無水界面活性剤Tの合計重量に対する全オルガノアルコキシシランSの合計重量の比(S:T)が5:1乃至1:2の値を有するオルガノアルコキシシラン組成物を提供する。
【0007】
「オルガノアルコキシシラン」または略称の「シラン」なる語は、本明細書中においては、一方では少なくとも一つの、典型的には二つもしくは三つのアルコキシ基がケイ素原子に(Si−O結合によって)直接結合したアルコキシ基を有し、他方では少なくとも一つの有機基がケイ素原子に(Si−C結合によって)直接結合し、且つSi-O-Si結合を有しない化合物を意味する。これに対応して、「シラン基」なる語はオルガノアルコキシシランの有機基に結合したケイ素含有基を意味する。オルガノアルコキシシランの特性、もしくはそのシラン基の特性は、水分と接触して加水分解することである。この過程によりオルガノシラノール、すなわち一つ以上のシラノール基(Si−OH基)を含む有機ケイ素化合物が生成し、これに続く縮合反応を経てオルガノシロキサン、すなわち一つ以上のシロキサン基(Si−O−Si基)を含む有機ケイ素化合物が生成する。
【0008】
「アミノシラン」、「エポキシシラン」、「アルキルシラン」、及び「メルカプトシラン」等の語は、対応する官能基を有するシランを意味し、したがってこの場合はアミノアルキルアルコキシシラン、エポキシアルキルアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、及びメルカプトアルキルアルコキシシランを意味する。
【0009】
本明細書においては、「無水」なる語は「全く水を含まない」意味であると解されるべきでない。然るに「無水」なる形容詞はまた、微少残留量の水を含む化合物及び組成物、すなわち1重量%を超えない、特に0.5重量%を超えない残留水含量を有する化合物及び組成物を意味して使用される。
【0010】
オルガノアルコキシシランSは、特にアミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン、及びアルキルシランである。
【0011】
アミノシランは、特に下式(I)のアミノシランであるか、または少なくとも一つの第二級または第一級アミノ基を有する式(I)と第一級もしくは第二級アミノ基と反応しうる少なくとも一つの官能基を含む化合物(ARV)との反応生成物である。
【0012】
【化1】

【0013】
この式中、Rは1乃至8の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基である。Rは好ましくはメチル基である。
【0014】
さらに、Rは1乃至5の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基またはイソプロピル基である。Rは好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0015】
さらに、Rは1乃至4の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基である。Rは好ましくはプロピレン基である。
【0016】
さらに、RはHであるか、または1乃至10の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であるか、または下式(II)の置換基である。
【0017】
【化2】

【0018】
さらに、RはHであるか、または1乃至10の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であるか、または1乃至10の炭素原子を有し、更にヘテロ原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であるか、または下式(II)の置換基である。
【0019】
【化3】

【0020】
1乃至10の炭素原子を有し、更にヘテロ原子を有する直鎖状のアルキル基として特に有利であると考えられる基RはCHCHNHである。
【0021】
最後に、指数aは0、1、または2、とりわけ0または1の値を表す。好ましくは、aは0を表す。
【0022】
この種の式(I)のアミノシランの例は、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノ−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルジメトキシメチルシラン、4−アミノ−3−メチルブチルトリメトキシシラン、4−アミノ−3,3−ジメチルブチルトリメトキシシラン、4−アミノ−3,3−ジメチルブチルジメトキシメチルシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルジメトキシメチルシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルジメトキシメチルシラン、アミノメチルメトキシジメチルシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ブチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノ−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、N−エチル−3−アミノ−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、N−エチル−3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−フェニル−4−アミノブチルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−メチルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−エチルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−プロピルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−ブチルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)アミン、及び、ケイ素原子上のメトキシ基の代わりにエトキシまたはイソプロポキシ基を有するこれらの類似体である。
【0023】
式(I)の好ましいアミノシランは、下式(III)、(IV)、及び(V)のアミノシランが包含する群より選択されるアミノシランである。
【0024】
【化4】

【0025】
式(I)の最も好ましいアミノシランは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、及びトリス−(トリメトキシシリルプロピル)アミンのアミノシラン類である。
【0026】
一実施態様においては、アミノシランは、上述の式(I)のアミノシランであって且つ少なくとも一つの第二級または第一級アミノ基を有するアミノシランと、第一級もしくは第二級アミノ基と反応しうる少なくとも一つの官能基を含む化合物(ARV)との反応生成物である。
【0027】
第一級もしくは第二級アミノ基と反応しうるこの官能基は、好ましくはエポキシ基である。しかしながら、例えばイソシアネート基または活性二重結合等の別の基もまた想起される。エポキシ基を有する特に好適な化合物はエポキシシランである。少なくとも一つの第二級または第一級アミノ基を有する式(I)のアミノシランと反応しうる好ましい化合物(ARV)は、下式(VI)のエポキシシランである。
【0028】
【化5】

【0029】
この式中、R1’は1乃至8の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基である。R2’は1乃至5の炭素原子を有するアルキル基である。R3’は1乃至4の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基であり、さらにaは0、1、または2、とりわけ0または1である。
【0030】
1’はとりわけメチル基である。R2’は好ましくはメチル基またはエチル基またはイソプロピル基である。特に好ましくは、R2’はメチル基またはエチル基である。R3’は好ましくはプロピレン基である。指数a’は好ましくは0である。
【0031】
エポキシシランの例には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、及び3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランが含まれる。
【0032】
好ましいエポキシシランと考えられるのは、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン及び3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランである。最も好ましいエポキシシランは、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランである。
【0033】
反応生成物のために使用される式(I)のアミノシランは、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランと共に、好ましくはN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、とりわけ式(III)または(IV)のアミノシラン、更には3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、及びビス(トリエトキシシリルプロピル)アミンである。好ましいものは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンである。
【0034】
式(I)のアミノシランとアミン反応性化合物(ARV)との化学量論によって、反応生成物は依然として第一級または第二級アミノ基を有しうるか否かである。
【0035】
この種の反応生成物の例は、式(VII)、(VIII)、(IX)、(X)、(XI)、及び(XII)の化合物である。
【0036】
式(VII)、(VIII)、及び(IX)の化合物は、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランと3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランとの反応から得られる。
【0037】
【化6】

【0038】
式(X)及び(XI)の化合物は、3−アミノプロピルトリメトキシシランと3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランとの反応から得られる。
【0039】
【化7】

【0040】
式(XII)の化合物は、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンと3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランとの反応から得られる。
【0041】
【化8】

【0042】
活性二重結合を有するアミン反応性化合物(ARV)の例は、例えば、α,β−不飽和化合物、とりわけマレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル、シトラコン酸ジエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、桂皮酸エステル、イタコン酸ジエステル、ビニルホスホン酸ジエステル、ビニルスルホン酸アリールエステル、ビニルスルホン、ビニルニトリル、1−ニトロエチレン、またはクネーフェナーゲル縮合生成物、例えば、マロン酸ジエステルとアルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、またはベンズアルデヒドとからの生成物である。この種のアミン反応性化合物は、アミンが二重結合に付加したマイケル付加物を成す。この種の反応生成物の例は、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、4−アミノ−3,3−ジメチルブチルトリメトキシシラン、4−アミノ−3,3−ジメチルブチルジメトキシメチルシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、またはアミノメチルジメトキシメチルシランと、ジメチル、ジエチル、もしくはジブチルマレエート、テトラヒドロフルフリル、イソボルニル、ヘキシル、ラウリル、ステアリル、2−ヒドロキシエチル、もしくは3−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチル、ジエチル、もしくはジブチルホスホネート、アクリルニトリル、2−ペンテンニトリル、フマロニトリル、またはβ−ニトロスチレン、並びにケイ素原子上のメトキシ基の代わりにエトキシ基を有する前記アミノシランの類似体である。とりわけマイケル付加物ジエチルN−(3−トリメトキシシリルプロピル)アミノスクシネートを挙げてよい。
【0043】
イソシアネート基を有するアミン反応性化合物(ARV)の例は、イソシアネートシランまたはポリイソシアネートである。イソシアネートシランには、特に3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン及び3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが含まれる。ポリイソシアネートの例には、2,4−及び2,6−トリレンジイソシアネート(MDI)並びにこれら異性体のあらゆる所望の混合物、4,4’−、2,4’−、及び2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、並びにこれらと更なる異性体とのあらゆる所望の混合物、1,3−及び1,4−フェニレンジイソシアネート、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−ジイソシアネートベンゼン、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2-メチルペンタメチレン−1,5−ジイソシアネート、2,2,4−及び2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(TNDI)、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−及び−1,4−ジイソシアネート、並びにこれらの異性体のあらゆる所望の混合物、1−イソシアネート−3,3,5−トリメチル−5−イソシアネートメチルシクロヘキサン(すなわちイソホロンジイソシアネートまたはIPDI)、ペルヒドロ−2,4’−及び−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(HMDI)、1,4−ジイソシアネート−2,2,6−トリメチルシクロヘキサン(TMCDI)、m−及びp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,3−及び−1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、1,3−及び−1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、上述のポリイソシアネートのオリゴマー、並びに上述のポリイソシアネートのあらゆる所望の混合物が含まれる。好ましいものは、MDI、TDI、HDI、及びIPDI、並びにこれらのビウレットまたはイソシアヌレートである。
【0044】
オルガノアルコキシシランSがエポキシシランである場合には、好ましいものはアミン反応性化合物(ARV)として前述したエポキシシランである。
【0045】
オルガノアルコキシシランSとしてのメルカプトシランの例は、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び3−メルカプトプロピルトリエトキシシランである。
【0046】
オルガノアルコキシシランSがアルキルシランである場合には、とりわけC−Cアルキル基を有するシラン、例えばメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、及びブチルトリメトキシシランを挙げてよい。
【0047】
アミノシランは、オルガノアルコキシシランSとして、エポキシシラン、メルカプトシラン、及びアルキルシランよりも好ましい。
【0048】
オルガノアルコキシシランSは、特に、界面活性剤Tと反応しうる化学基を全くもたない。
【0049】
界面活性剤Tとしては、溶液中で水または別の液体の表面張力を低下させる天然または合成の化合物を使用することができる。湿潤剤とも呼称される界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性、または両性の界面活性剤あるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0050】
アニオン性界面活性剤の例は、カルボキシレート、サルフェート、ホスフェート、またはスルホネート基、例えばアミノ酸誘導体、脂肪アルコールエーテルサルフェート、脂肪アルコールサルフェート、石鹸、アルキルフェノールエトキシレート、および脂肪アルコールエトキシレート、さらにはアルカンスルホネート、オレフィンスルホネート、またはアルキルホスフェートである。
【0051】
非イオン性界面活性剤には、例えばエトキシレート、例えばアルコールのエトキシ化付加物、例えばポリオキシアルキレンポリオール、アミン、脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキルフェノール、エタノールアミド、脂肪アミン、ポリシロキサンまたは脂肪酸エステル、更にアルキルもしくはアルキルフェニルポリグリコールエーテル、例えば、脂肪アルコールポリグリコールエーテル、または脂肪酸アミド、アルキルグリコシド、糖エステル、ソルビタンエステル、ポリソルベート、またはトリアルキルアミンオキシド、更にはその一端にアルキル基が結合した、ポリ(メタ)アクリル酸とポリアルキレングリコールもしくはアミノポリアルキレングリコールとのエステル及びアミドが含まれる。
【0052】
カチオン性界面活性剤の例は、第四級アンモニウムもしくはホスホニウム化合物、例えばテトラアルキルアンモニウム塩、N,N−ジアルキルイミダゾリン化合物、ジメチルジステアリルアンモニウム化合物、またはN−アルキルピリジン化合物、とりわけ塩化アンモニウムである。
【0053】
両性界面活性剤には、両性電解質として知られる両性の電解質、例えばアミノカルボン酸、例えばベタインが含まれる。
【0054】
この種の界面活性剤は、市販品として広く入手可能である。
【0055】
特に適当な界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、とりわけアルコキシ化アルコールである。アルコキシ化非イオン性フッ化界面活性剤、とりわけZonyl(登録商標) FSO-100(ABCR, Germanyより購入可能)並びにアルコキシ化アルコールまたはアルコキシ化アルキルフェノール、とりわけAntarox FM 33(Rhodiaより購入可能)は特に適当であることが判明している。
【0056】
界面活性剤は、界面活性剤による相当量の水の導入はシランの時期尚早な加水分解をもたらし、よって貯蔵に問題を引き起こすため、無水でなければならない。「無水」なる語の理解については、上述の定義を参照されたい。
【0057】
更にまた、オルガノアルコキシシランSの界面活性剤Tに対する比率は、所定の比率範囲内に維持されねばならない。S:Tの比が5:1を超えると、水に対する感受性は実質的に改善されない。この比率が1:2未満、とりわけ2:3未満である場合に、シラン組成物が接着促進剤として使用されるならば、接着がますます損なわれる。
【0058】
特にオルガノアルコキシシランSとしてのアミノシランとしては、オルガノアルコキシシランSの界面活性剤Tに対する最適な比率は3:1乃至2:3の値である。
【0059】
オルガノアルコキシシラン組成物は更なる成分を含んでも良い。こうした添加物の例は、溶媒、無機充填剤、触媒、及び安定化剤、染料または顔料である。
【0060】
こうした更なる成分が使用される場合には、一方では該組成物が含む水は1重量%を超えない、とりわけ0.5重量%を超えないことを確実にせねばならない。他方、オルガノアルコキシシラン組成物は、少なくとも33重量%、とりわけ少なくとも40重量%のオルガノアルコキシシランSを含まねばならない。
【0061】
好ましいオルガノアルコキシシラン組成物は、本質的にオルガノアルコキシシランSと界面活性剤Tとのみを含むものである。本明細書中で「実質的に」とは、オルガノアルコキシシランSと界面活性剤Tとの合計重量が、当該オルガノアルコキシシラン組成物の重量に基づいて90重量%超、とりわけ95重量%超、好ましくは99重量%超であることを意味する。
【0062】
極性の、とりわけ水溶性の、特にオルガノアルコキシシランが、その水に対する貯蔵安定性においてより感受性であることから、本発明により達成されうる改善は、特に極性の、とりわけ水溶性のオルガノアルコキシシランSの場合に顕著である。このことが非常に無極性のオルガノアルコキシシランS、例えば高級アルキルアルコキシシラン、例えばドデシルトリメトキシシランまたはオクタデシルトリメトキシシランが、オルガノアルコキシシランSとして好ましくない所以である。水に対する貯蔵安定性における改善は、オルガノアルコキシシランSとしてのアミノシランの場合に特に顕著である。
【0063】
オルガノアルコキシシラン組成物は、特にこれらがオルガノアルコキシシランSとしてアミノシランを含む場合には、貯蔵期間中の水の作用に対する感受性が著しく低い。この挙動は、特に水、とりわけ大気中水分の形態の水がオルガノアルコキシシラン組成物と接触しうる場合に特に顕著である。こうした接触の理由は、例えば不透性でないパックでありうる。然るに、実際にはこれは例えば元々のパックが不透性でない場合、あるいは貯蔵容器が初めて開けられた後にきちんと再封止されないか、もしくは不透性に再封止されない場合、あるいは前記容器が全く蓋のない状態で所定時間に亘って大気に暴露される場合であってもよい。最後に、オルガノアルコキシシラン組成物の貯蔵安定性は、これらがプラスチック製の容器中に貯蔵されるならば従来技術と比較して大幅に増大する。これは、特に容器の体積に対する表面積の比率が高い場合、換言すれば低容量容器の場合である。この理由は、プラスチック容器に典型的に使用されるプラスチック、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンは、多くの場合、その持つ不透性が水蒸気拡散に対して不適当である。したがって、少量については、従来技術によるシラン組成物はプラスチック容器中でなくガラスもしくは金属容器中に貯蔵される。然るに、プラスチック容器を使用して本発明のオルガノアルコキシシラン組成物を貯蔵する可能性を通じて、多大な費用優位及び重量優位が生じ、またパッケージのデザイン及び構造においても更なる自由度が生じる。
【0064】
改善された貯蔵特性及び/または貯蔵期間中の水に対する低減された感受性は、沈殿またはヘイジングの形成がなくなること、または少なくとも大幅に遅延することによってとりわけ明白である。
【0065】
オルガノアルコキシシラン組成物はとりわけ接着促進剤として使用される。これら接着促進剤は効果的な接着を呈することが必要とされる組成物の一部を成してよい。例えば、オルガノアルコキシシラン組成物は接着剤または封止剤の成分とすることが可能である。これらはまた、ペンキまたは床仕上げ剤等の塗料中に使用してもよい。1つの実施態様においては、オルガノアルコキシシランSはこの場合は反応性基と共有結合的に反応しうる。したがって、例えば、式(I)のアミノシランは、イソシアネート基を含むプレポリマーと反応させてシラン末端ポリウレタン(SPUR)として既知のものを調製するというこの目的のために使用可能である。
【0066】
オルガノアルコキシシラン組成物は、更に、応用される接着剤または封止剤の接着を改善するための予備処理剤または予備処理剤の一部として使用して良い。
【0067】
この意味において、オルガノアルコキシシラン組成物またはオルガノアルコキシシラン組成物を含む組成物が、接着接合または封止または被覆しようとする基体に適用される。いわゆる「フラッシュオフタイム」が経過した後、接着剤、封止剤、または塗料が続けて適用される。懸かる製剤はとりわけ反応性−すなわち、架橋性−の接着剤、封止剤、または塗料であり、とりわけイソシアネート基を含むポリウレタンに基づくものである。
【0068】
好ましい二成分下塗剤は、とりわけ成分K1及び成分K2を含む水性二成分下塗剤である。本発明の一実施態様では、第一成分K1はオルガノアルコキシシラン組成物を含み、第二成分K2は水及び酸を含む。好ましくは、成分K1及びK2の混合により2乃至5のpH、好ましくは3.5乃至4.5のpHが生じる。この種の下塗剤組成物は、単純な振盪によって十分に混合可能であり、縮合が遅延し、然るに望ましからぬシロキサンの精製が遅延する一方で迅速な加水分解を経る。結果として、混合と水性下塗剤の適用との間に望ましからぬ沈殿またはヘイジングが形成されることなく、非常に優れた接着が形成される。
【実施例】
【0069】
【表1】

【0070】
表1:オルガノアルコキシシランを使用
更に、反応生成物RP1を、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン及びN―(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランから、1molのA1120と3molのA187とを混合することによって調製した。混合の直後に、IRによって転換を確認することができた。混合の直後には約910cm-1のエポキシ基の帯域特性が依然として検出可能であったが、これは迅速に消滅した。
【0071】
【表2】

【0072】
表2:界面活性剤を使用
表3において、界面活性剤に対するオルガノアルコキシシランの比率を変化させた。使用したオルガノアルコキシシランは反応生成物RP1であり、これを様々な界面活性剤と混合した。
【0073】
第一の参照用シリーズRef.S1では界面活性剤を使用せず、換言すれば純粋オルガノアルコキシシランを使用した。第二及び第三の参照用シリーズRef.S2及びRef.S3では、比率はそれぞれ20:1及び10:1であった。
【0074】
それぞれの界面活性剤を、予め200℃のオーブン中で1日間乾燥させてから25℃で50%の相対湿度にて室温にまで冷却したガラス容器(直径12mm、高さ4cm、体積約4.5ml、プラスチックのねじ式蓋付き)中の2.5gの反応生成物RP1に加えた。次いでこの方式で充填した容器の蓋を閉め、オーブン(Ehret、TK/L 4061)中で空気循環を行いつつ50℃で貯蔵した。30日間に亘り試料を毎日検査した。表3は、安定性を、特に試料がゲル化したことが観察されるまでに過ぎた日数を表示することによって明示する。試料が30日後にも依然として完全であるならば、>30の値を示した。
【0075】
【表3】

【0076】
表3:密閉容器中50℃までのオルガノアルコキシシラン−界面活性剤混合物の安定性(ゲル化までの日数)
【0077】
表4では、様々なシランと様々な界面活性剤とを上述のように2.125:1の混合比S:Tで混合したが、これは組成物全体の総重量の割合としてオルガノアルコキシシランS画分が68重量%であることに相当する。この一連の実験では、しかしながら、非不透性のパックを模するため、ドリルを使用して蓋に1mmの穴を開けた。貯蔵及び安定性の決定は表3の実験のように行う。比較実験用シリーズRef.S4は界面活性剤を加えずに、すなわち純粋オルガノアルコキシシランの形態で行った。
【0078】
【表4】

【0079】
更なる一連の実験では、アミノシラン及びエポキシシランの様々な界面活性剤との反応生成物を含む組成物の貯蔵安定性を比較した。
【0080】
このシリーズでは、上述の反応生成物RP1を使用した。さらに、反応生成物RP2を、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランと3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシランとから、1molのA1130と6.6molのA187とを混合することによって調製した。
【0081】
表5では、RP1またはRP2と様々な界面活性剤とを上述のように2.125:1の混合比S:Tで混合したが、これは組成物全体の総重量の割合としてオルガノアルコキシシランS画分が68重量%であることに相当する。この一連の実験では、蓋(表4のような穴なし)で密閉した容器は50℃にて既述の通りオーブン中で、または23℃にて相対湿度50%で貯蔵した。安定性を表3の実験のように測定した。比較実験用シリーズRef.S5は界面活性剤を加えずに、すなわち純粋オルガノアルコキシシランの形態で行った。
【0082】
【表5】

表5:密閉容器中、50℃及び23℃でのオルガノアルコキシシラン−界面活性剤混合物の安定性(ゲル化までの日数)
【0083】
(水性下塗剤の調製)
オルガノアルコキシシラン組成物を、表6に示した割合のA1110と様々な界面活性剤とから調製し、水性下塗剤の第一成分K1として使用した。第二成分K2は水と1重量%の酢酸とからなるものとした。1.05gの成分K1を49gの成分K2に加え、混合物を振盪した。
【0084】
次いでこの混合物を、該混合物をしみこませたセルロース布(Tela(登録商標), Tela-Kimberly Switzerland GmbH)を使用してSplintex製のMitsubishi Space WagonのVSGフロントガラスのセラミック端部に適用した。10分間のフラッシュオフ時間後に、一成分湿気硬化形ポリウレタン接着剤、Sikaflex(登録商標)-250 DM-2またはSikaflex(登録商標)-250 HMW-2+(いずれもイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを含み、Sika Schweiz AGより市販されている)を、カートリッジプレス及びノズルを使用して円形ビーズとして適用し、23℃及び相対湿度50%にて4日間硬化させた。
【0085】
接着試験(「ビード試験」)
接着剤の接着製を「ビード試験」を利用して試験した。この試験では、接着面のすぐ上に末端部において切り込みを設ける。切り込みを入れたビードの末端部を先の丸いピンセットでつまみ、基体から引っ張る。これを、ピンセットの先でビードを注意深く巻き上げながら、ビードの引っ張り方向に対して垂直に、むき出しの基体に切れ目を入れながら行う。ビード剥離の速度は、切れ目が約3秒ごとに必ず形成されるように選択される。試験長は少なくとも8cmなくてはならない。評価は、ビードを引き剥がした後に基体上に残る接着剤(凝集破壊)について行う。接着特性は、接着面の凝集成分を見積もることによって評価する:
1= >95%凝集破壊
2= 75−95%凝集破壊
3= 25−75%凝集破壊
4= <25%凝集破壊
5= 0%凝集破壊(完全な接着破壊)
評価4または5は不適当と見なされる。
【0086】
接着結果が表6及び7に報告される。
【表6】

表6:成分K1中にシラン/界面活性剤混合物を含む水性下塗剤
Sikaflex(登録商標)250 DM-2の接着
【0087】
【表7】

表7:成分K1中にシラン/界面活性剤混合物を含む水性下塗剤
Sikaflex(登録商標)250 HMV-2+の接着

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのオルガノアルコキシシランS及び少なくとも一つの無水界面活性剤Tを含むオルガノアルコキシシラン組成物であって、オルガノアルコキシシランSの全重量画分の合計が当該オルガノアルコキシシラン組成物の重量に基づいて33重量%以上であり、且つ全無水界面活性剤Tの合計重量に対する全オルガノアルコキシシランSの合計重量の比(S:T)が5:1乃至1:2の値を有する、オルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項2】
界面活性剤Tが非イオン性界面活性剤であることを特徴とする、請求項1のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項3】
無水界面活性剤Tに対するオルガノアルコキシシランSの重量比(S:T)が3:1乃至2:3の値を有することを特徴とする、請求項1または2のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項4】
オルガノアルコキシシランSの全重量画分の合計が当該オルガノアルコキシシラン組成物の重量に基づいて40重量%以上であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項5】
オルガノアルコキシシランSがアミノシランであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項6】
アミノシランが下式(I):
【化1】

[式中、
は1乃至8の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基、とりわけメチル基であり;
は1乃至5の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基またはイソプロピル基、とりわけメチル基またはエチル基であり;
は1乃至4の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基、とりわけプロピレン基であり;
はHであるか、または1乃至10の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であるか、または下式(II):
【化2】

の置換基であり;
はHであるか、または1乃至10の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であるか、または1乃至10の炭素原子を有し、更にヘテロ原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であるか、または下式(II):
【化3】

(式中、aは0、1、または2、とりわけ0または1、好ましくは0である)
の置換基である]
を有することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項7】
がCHCHNHであることを特徴とする、請求項6のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項8】
アミノシランが下式(III)、(IV)、及び(V):
【化4】

のアミノシランを包含する群より選択されることを特徴とする、請求項6のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項9】
アミノシランが、請求項6または7または8に規定される式(I)のものであるが、少なくとも一つの第二級または第一級アミノ基を有するアミノシランと第一級もしくは第二級アミノ基と反応しうる少なくとも一つの官能基を含む化合物(ARV)との反応生成物であることを特徴とする、請求項5のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項10】
第一級もしくは第二級アミノ基と反応しうる官能基がエポキシ基であることを特徴とする、請求項9のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項11】
アミノシランが、請求項8に規定される式(III)または(IV)のアミノシランとエポキシ基を含む化合物との反応生成物であることを特徴とする、請求項5のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項12】
エポキシ基を含む化合物がエポキシシランであり、とりわけ下式:
【化5】

[式中、
1’は1乃至8の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基、とりわけメチル基であり;
2’は1乃至5の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基またはイソプロピル基、とりわけメチル基またはエチル基であり;
3’は1乃至4の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基、とりわけプロピレン基であり;さらに
は0、1、または2、とりわけ0または1、好ましくは0である]
のエポキシシランであることを特徴とする、請求項10または11のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項13】
a=0であり、Rがメチルであり、Rがプロピレンであることを特徴とする、請求項6乃至12のいずれか一項のオルガノアルコキシシラン組成物。
【請求項14】
接着促進剤としての、請求項1乃至13のいずれか一項のオルガノアルコキシシラン組成物の使用。
【請求項15】
接着接合または密閉しようとする基体表面に適用される接着剤もしくは封止剤の接着を改善するために前記表面を予備処理するための作用剤としての、請求項1乃至13のいずれか一項のオルガノアルコキシシラン組成物の使用。
【請求項16】
接着剤の接着を改善するための水性予備処理剤の製造のための、請求項1乃至13のいずれか一項のオルガノアルコキシシラン組成物の使用。

【公表番号】特表2009−507100(P2009−507100A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528531(P2008−528531)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065915
【国際公開番号】WO2007/026015
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】