説明

異なる平均粒径サイズの粒子からなる混合微粒子カプセルの製造方法

【課題】従来知られている方法では、異なるサイズのナノ粒子を合成するためには、それぞれの粒子を別途に合成し精製を行わなければならず、生産効率が悪く、高いコストが必要であった。そこで、異なるサイズのナノ粒子を同時に一斉合成することが可能であり、生産効率を改善することができるような合成方法の開発が強く切望されていた。
【解決手段】シアノアクリレートモノマーの重合反応において、異なる2種以上の安定剤の共存下に重合反応に付すことにより、異なる平均粒径サイズの混合微粒子カプセルを一斉同時合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合微粒子カプセル、即ち平均粒径サイズの異なる微粒子群からなる微粒子カプセルの混合物を同時に一括合成する方法に関する。具体的には、シアノアクリル系モノマーの重合反応において、多糖類及び界面活性剤から選ばれる異なる2種以上の安定剤の存在下にシアノアクリルモノマーを水性溶媒中で重合させることを特徴とする混合微粒子カプセル、例えば数十ナノメーター単位の粒子と数百ナノメーター単位の粒子を同時に含む混合ナノ粒子(粒子径の異なる二種以上の粒子群の混合物)を1回の反応で同時合成する方法に関する。さらには本発明の合成方法により作成された混合微粒子カプセルの医薬としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新薬の研究はめざましく薬効のより強い薬が続々と開発され、治療成績は確実に上昇してきた。その反面、薬の副作用の発現頻度も増えて、特にガン治療や抜本治療の難しい生活習慣病などの難治性疾患の医療において、薬の対使用効果・対費用効果に国民の厳しい視線が注がれるようになってきた。これらの問題に答えるべく、薬の徐放化や局所投薬を目的に、リポソーム、ナノミセル、ナノスフエアーなどの微粒子技術を用いた新剤型の開発(新薬剤)や標的臓器への薬物送達システム(DDS)の研究が始まっている。
【0003】
リポソーム、ナノミセル、ナノスフエアーなどの微粒子は、薬剤、医薬品、診断薬、アンチセンスオリゴヌクレオチド、タンパク質、プラスミド等の天然または合成の物質との結合(例えば、吸着、吸収、取り込み)に優れ、また、ヒトまたは動物の体内における脳、肝臓、腎臓等の標的器官へのこのような物質の運搬に好適であることが、従来技術において明らかとなっている。また、特に我が国においては、カチオン性リポソーム系を用いた抗ガン剤などの開発が進んでいる。
【0004】
一方、患者の臨床から疾病状態を観ると、癌で著明であるように、疾病臓器・器官の全体が悪いのではなく、その臓器の一部が機能不全で疾病を生じている実態がほとんどであり、言い換えればその臓器細胞の一部の小器官の不良から疾病が生じてくると考えるに至った。
【0005】
また、21世紀の新しい治療法として注目されている遺伝子治療では、目的の遺伝子や薬物を標的となる細胞や臓器へピンポイントで導入することが不可欠である。これまで薬物や遺伝子の運搬体として、リポソームやナノミセルほかウイルスベクターを用いる方法が開発されているが、特定の細胞や臓器に効率よく標的化することは困難であり、細胞・組織特異性がないことやヒトに用いるには重篤な副作用が懸念されることなどの重大な問題点がある。
【0006】
従って、難治性疾患を含めた究極な治療法とは細胞治療を目指すべきであり、その究極な薬物療法とは細胞の各小器官にそれぞれ親和性の高い薬剤の開発である。すなわち、細胞小器官への新しいDDSの開発である。現在の新薬開発では、臨床試験において正常な器官や組織での薬理作用に由来する副作用の問題でほとんどの新薬候補が消えている。選択的細胞治療の薬剤形を開発すれば、多くの知能と経済産物である多くの新薬候補が蘇るばかりか、現在の医薬品25、000種類を構成する主成分を新しい薬剤形に改良することにより、医療の現状を大幅に改善することができる。
【0007】
ナノテクノロジーの分子制御や構造体構築への応用研究は、我が国では数年前に始まったばかりであるが、各国の国家施策として世界の開発競争はすさまじい。しかしながら、薬剤の作用機作別にサイズと物理化学的性質を変えた細胞治療薬剤の開発研究は未だ行われておらず、細胞治療への応用は実現されていない。
【0008】
ナノ構造体の原料はリポソーム系とアクリル系に2分される。リポソーム系は脂質であるので網内系へ取り込まれ易く、遺伝子の細胞内導入技術として我が国がリーダーシップを発揮している。ナノ構造体のひとつであるナノ粒子(ナノカプセル)は、複合微粒子のひとつであり、複数の素材から構成される。構成成分として「気体、液体、固体」と様々な状態の物質を複合化することができ、何を複合化するかにより、複合微粒子に様々な機能を付与することができる。
【0009】
ナノカプセルとは一般的に大きさが数十nmから数百nm (1nm=1,000,000分の1mm)の範囲にあるものをいう。ナノカプセルの形状と構造は、使用する物質の物理化学的性質、調製方法などによって決まり、どのような形状や構造が良いのかは、用途により異なる。ナノカプセルは、容器と内部の空間から構成されており、容器の部分を「カプセル壁」あるいは「シェル」、内部空間に入れられる物質を「芯物質」あるいは「コア」という。調製方法や応用目的により、核(コア)を複数存在させることができる。複合微粒子、カプセルの働きとしては、芯物質を長い時間にわたり保護・隔離する、芯物質を必要な時に瞬間的に取り出す、芯物質を長い時間をかけて取り出す(徐放性)、気体や液体をカプセル化することにより、見かけ上、固体として扱えるなどが挙げられる。
【0010】
医薬品への応用の観点からは、その徐放性が極めて有効であると考えられる。即ち、薬理的な有効成分を、治療に最適な速度及び薬量でその作用部位に制御送達することや、有効成分の生体内での分布を調節することが可能となり、それにより治療効果を改善することが可能となると考えられる。
【0011】
ナノカプセルの製造方法は基本的にはマイクロカプセルのそれと同様である。このような微小カプセルの作り方には、そのカプセル壁の作り方により、化学的方法、物理化学的方法、機械的方法がある。このうち、化学的方法について以下に説明する。
【0012】
化学的方法は、化学反応を利用してカプセル壁を形成し、ナノカプセルをつくる方法で、この方法には界面重合法とin-situ重合法がある。界面重合法は、
A(反応物)+B(反応物)→C(固体反応性生物=カプセル壁)のような反応によってナノカプセルを生成する方法である。まず、芯物質が溶解、あるいは分散している水溶液に反応物Aを溶解しておき、この水溶液を油相に注入し、激しく攪拌すると、水溶液は小さな液滴となって油相の中に分散する。このような分散系をW/O分散系といい、すなわち、Wは水滴となっている水相を表し、Oは油相を表す。このような分散系に、油相に溶ける反応物質Bを注入すると、水滴内に溶けている反応物Aとの反応が水滴と油相の界面でおこり、反応物質Cが水滴を囲むように生成されるため、カプセル化が行われる。このような機構によって芯物質のカプセル化が完了するためには、反応が非常に速く進行しなければならないため、ヘキサメチレンジアミン(反応物A)とセバコイルジクロライド(反応物B)によりナイロンが生成されるような重縮合反応がよく利用される。このように、液体(水相)と液体(油相)との界面でおこる重合反応によってナノカプセルをつくるために界面重合法とよばれている。水相と油相の順序を入れ換えても同じ方法でナノカプセルがつくられる。この場合には、芯物質は油溶性、あるいは油相に分散した状態にある。
【0013】
in-situ重合法は、界面重合法とちがい、モノマーと呼ばれる一種類の反応物だけを芯物質溶液の中に溶解させておき、このモノマー同士を重合させて高分子状のカプセル壁を形成する。
特にアニオン重合は、芯物質溶液に溶解させたモノマーを、低pHで、ヒドロキシルイオンを触媒とすることにより行なわれる。このモノマー同志が多数結合して分子量の大きいポリマーを生成し、カプセル壁となり、ナノカプセルが合成される。例えば、現在アクリル系モノマーから重合安定剤(デキストランやポリソルベート等)を用いて、ナノサイズの重合ポリマーを合成する方法が知られている(非特許文献1参照)。しかし、この方法では百nmサイズ別に微粒子を別合成することができない上、重合安定化剤のデキストランの重合度やポリソルベートなどの入乳化剤の毒性が、ナノカプセル製剤の開発にとって大きな問題点となっている。
【0014】
医薬品等としてのナノカプセルの製造には、上記方法のうち化学的方法が主に用いられ、特にポリシアノアクリレートを用いた製剤技術について、多くの報告がなされている。シアノアクリレートは、瞬間接着剤として知られており、医療分野でも外科用接着剤や止血剤として実用化されている。
【0015】
例えば、特表平11−503148号公報は、インスリンを含有する生分解性ナノ粒子の制御放出について次のように報告している。(特許文献1参照)
【0016】
制御放出型薬剤配合物は、インスリンを捕獲した生分解性ポリシアノアクリレートポリマーから形成されたナノ粒子を含み、その際インスリンはポリシアノアクリル酸アルキルに複合体形成している。これらの粒子はインビボで生物活性インスリンを、インスリンが遊離であるナノ粒子より遅い速度で放出することができる。配合物は目的とする放出プロフィルを得るために、インスリンが遊離であるナノ粒子とインスリンが複合体形成しているナノ粒子との混合物を含んでもよい。ナノ粒子は好ましいインスリン装填量15〜25%w/v、および好ましい大きさ100〜400nmをもつ。投与は経口または非経口のいずれであってもよく、経口投与のためには放出を小腸にターゲティングするための腸溶コーティングを付与してもよい。インスリンの複合体形成は、シアノアクリレートモノマーをインスリンの存在下で低いpH、好ましくはpH=2において重合させることにより達成される。
【0017】
上記ナノ粒子の製造において、安定化剤として各種デキストランが用いられたり、ソルベート等の界面活性剤が使用されている。デキストランはショ糖に乳酸菌を作用させることによって得られる高分子量(10万以上)の粘性の多糖類である。しかし、得られるナノカプセルの粒径は、デキストランを用いた場合で約200〜350nm、ソルベート(例えば、Tween 20(登録商標))を用いた場合で約10〜100nm(ピークは約80nm)と、極めて限られたものであり、粒径設計の自由度は低いものであった。また、重合のための安定剤乃至はイニシエーターとして、単糖類化合物及び2糖類化合物を使用することを示唆するような文献も知られていなかった。
【0018】
身体を構成する各臓器および各細胞・各小器官の機能発現には定まった大きさがあり、情報物質の伝達には、膜に於いて情報物質の大きさ(アロステリックを含む)や電気的強度など物理化学的な特性によって受動輸送系や能動輸送系また膜動輸送系によって選択的に膜を通過しその機能を発現している。
しかし、上記従来法においては、ナノスケールで大きさと電気的強度などの物理化学的性質が異なるカプセルを所望に応じて作成することができないため、選択的な細胞治療を行うことが不可能であった。また、樹状細胞をはじめとする免疫提示細胞への抗原選択的移送や、AIDS、鳥インフルエンザやコイヘルペスなど各種ウイルス疾患へのワクチネーション手法の開拓も不可能であった。
【0019】
【非特許文献1】S.J.Douglas、 L.Illum、 and S.S.Davis ; Particle Size and Size Distribution of Poly(butyl2-cyanoacrylate) Nanoparticles、II. Influence of Stabilizers、 J.Colloid Inter Science、 103、 154-163、 1985
【特許文献1】特表平11−503148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
リポソーム・ナノミセル・ナノスフエアーなどの微粒子技術を用いた新潮形の開発(新薬剤)や標的臓器への薬物送達システム(DDS)の研究が行われているが、従来知られている方法では、2以上の異なるサイズのナノ粒子群からなる混合製剤を製造するためには、それぞれの粒子を別途に合成して混合を行わなければならなかった。しかし均一に混合することは非常に困難な作業であり、そのため生産効率が悪く、高いコストが必要であった。
一方、バイオアベイラビリテイの観点からすると長期に薬効が持続する製剤が望まれており、また、芳香剤等でも初期においては速効的であるにもかかわらず効果を長期持続するような製剤が望まれている。そのためには、粒径分布がよりブロードなもの、あるいは異なる粒径サイズからなる混合製剤が有利である。このような背景のもと、サイズ異なるナノ粒子を同時に一斉合成することが可能であり、生産効率を改善することができるような合成方法の開発が強く切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、ナノカプセルの合成の際の、シアノアクリレートモノマーの重合反応を精査した結果、その重合反応にはイニシエーターが必要であることを突き止めた。また、従来の安定剤は、求核置換反応におけるイニシエーターの役割も担っていること突き止めた。そこで、異なる安定剤を同時に用いれば、反応時にそれらが独自に別異の重合反応が進行し、その結果として、異なるサイズの重合体が同時に得られることを見出した。従来、異なる2種以上の安定剤を使用した場合、得られるナノカプセルの粒径は、両者を単独で用いて得られるカプセル粒径の平均値であると考えられていたが、驚くべきことに、予想に反して、異なる粒径を有するカプセルの混合物が得られることを見出して本発明を完成させた。
【0022】
具体的には本発明は以下のとおりである。
1.多糖類及び界面活性剤から選ばれる異なる2種以上の安定剤の存在下にシアノアクリルモノマーを水性溶媒中で重合させることを特徴とする、少なくとも1つの活性有効成分を含有し異なる平均粒径サイズの粒子群からなる混合微粒子カプセルの製造方法。
2.安定剤が、アルキルアリールポリ(オキシエチレン)スルフェートアルカリ塩、デキストラン、サイクロデキストリン、ポリ(オキシエチレン)、ポリ(オキシプロピレン)−ポリ(オキシエチレン)−ブロックポリマー、エトキシル化された脂肪アルコール(セトマクロゴール)、エトキシル化された脂肪酸、アルキルフェノールポリ(オキシエチレン)、アルキルフェノールポリ(オキシエチレン)及びアルデヒドのコポリマー、ソルビタンの部分脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンの部分脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)の脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)の脂肪アルコールエーテル、サッカロースの脂肪エステル又はマグロゴールグリセロールエステル、ポリビニルアルコール、ポリ(オキシエチレン)−ヒドロキシ脂肪酸エステル、多価アルコールのマクロゴール及び部分脂肪酸エステルから選ばれる2種以上の安定剤である上記1に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
3.安定剤が、デキストラン、β―サイクロデキストリン及びポリソルベートから選ばれる2種以上の安定剤である上記2に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
4.2種以上の安定剤の組合せが、デキストランとβ―サイクロデキストリン、デキストランとポリソルベート、β―サイクロデキストリンとポリソルベート、又は、デキストランとβ―サイクロデキストリンとポリソルベートである上記3記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
5.シアノアクリレートモノマーが、シアノアクリル酸n−ブチルモノマー、シアノアクリル酸イソブチルモノマー、シアノアクリル酸イソヘキシルモノマー、重合度の異なるデキストラン、又はそれらの混合物である上記1乃至4のいずれか1項に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
6.活性有効成分が、医薬組成物、化粧品組成物、消臭・芳香組成物、塗料組成物、接着剤組成物、摩擦低減組成物又は食品組成物のための活性有効成分である上記1乃至5のいずれか1項に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
7.活性有効成分が、抗癌剤、アンチセンス製剤、抗ウィルス製剤、抗生物質製剤、蛋白質製剤、ポリペプチド製剤、ポリヌクレオチド製剤、アンチセンス・ヌクレオチド製剤、ワクチン製剤、免疫調整製剤、ステロイド製剤、鎮痛製剤、アンチモルヒネ製剤、抗真菌製剤及び駆虫製剤から選ばれる医薬組成物のための活性有効成分である上記6に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
8.上記1乃至7のいずれか1項に記載の方法により製造した混合微粒子カプセル製剤。
【発明の効果】
【0023】
下記試験結果から明らかなとおり、本発明の方法を用いることにより、異なるサイズの混合微粒子カプセルを同時に一斉合成することができるようになり、生産効率を上昇させ、生産コストを低減させることに成功した。
また、治療を必要とする局所は必ずしも単一の組織や細胞群からなる場合だけでなく、複数の組織又は細胞群から構成されている場合が多い。情報物質の伝達には、膜に於いて情報物質の大きさ(アロステリックを含む)や電気的強度など物理化学的な特性によって、受動輸送系や能動輸送系また膜動輸送系によって、選択的に膜を通過しその機能を発現している。同じ構成成分からなるサイズの異なる混合微粒子カプセルを医薬品として使用することができれば、治療効果をさらに上昇させることができると思われる。また、活性有効成分の放出速度の観点からしても、異なるサイズの混合微粒子カプセルはそれぞれ異なる放出速度を有するゆえ、持続性、除放性の点でも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、シアノアクリレートモノマーの重合反応により、サイズの重合ポリマーを合成する際に、異なる複数の安定剤を同時に使用することにより、異なる平均粒径サイズの粒子群からなる混合微粒子カプセルを製造するものである。
より具体的には、下記実施例に示す通り、シアノアクリレートモノマーの重合反応の際に、デキストランやβ‐サイクロデキストリン、ソルベート等から選ばれる少なくとも2種以上の安定剤を共存させることにより、少なくとも同時に2種類の異なる平均粒径サイズの粒子群からなる混合微粒子カプセルを製造するものである。さらに低分子糖類化合物を共存させてもよい。
【0025】
以下、本発明において使用される語句を説明することにより、本発明を詳細に説明する。
本発明において、「シアノアクリレートモノマー」とは、(2−シアノアクリル酸2〜12C(直鎖または分枝鎖)アルキル)を意味する。好ましいシアノアクリレートモノマーは、シアノアクリル酸4〜6Cアルキルモノマー、例えばシアノアクリル酸n−ブチル、シアノアクリル酸イソブチル、シアノアクリル酸イソヘキシル、またはそれらの混合物である。
ナノカプセルの調製のためのシアノアクリレートモノマーの重合方法は、界面重合法又はアニオン重合法のいずれであってもよい。界面重合法は、モノマーおよび薬物を有機相に溶解し、有機相を水相に添加して、有機−水界面で重合反応させる方法である。この方法でナノカプセルが生成する。一般に先行技術のペプチドを装填したナノ粒子はこの方法で調製されている。
アニオン重合は、低pHの水性媒質中で反応が起こり、ヒドロキシルイオンにより触媒される。この方法では、薬物を重合媒質に添加する時間によって薬物がナノ粒子に取り込まれるか、ナノ粒子上に吸着し、または両者の組み合わせが起こるといわれている。
【0026】
本発明において「低分子糖類化合物」とは、単糖類化合物、2糖類化合物又は3糖類化合物を意味し、好ましくは、単糖類化合物又は2糖類化合物である。
【0027】
本発明において「単糖類化合物」とは、特に限定されるものではないが、エリトロース、トレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、フルクトース、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等をいう。中でもグルコース、マンノース、リボース、フルクトースが好ましい。
【0028】
本発明において「2糖類化合物」とは、特に限定されるものではないが、マルトース、トレハロース、ラクトース、スクロース、セロビオース、ニゲロース、ソフォロース等をいう。中でもマルトース、トレハロース、ラクトース、スクロースが好ましい。
【0029】
「水性溶媒」とは、具体的には水であり、好ましくは蒸留水、弱酸塩、生理食塩水あるいは含水アルコールである。
【0030】
「混合微粒子カプセル」とは、平均粒径サイズの異なる微粒子群からなる微粒子カプセルの混合物を意味する。また、ここで「微粒子カプセル」とは約50〜5000nmの粒径を有するカプセルを意味するが、好ましくは、50〜800nmの粒径を有するカプセルである。
「ナノ粒子」及び「ナノカプセル」は同意である。カプセルとは鞘状の容器形状をしたものを意味するが、特にこれに限定されるものではなく単なるナノ粒子であってもよい。
生分解性ナノカプセルに抱合される有効成分量は、モノマー含量に対して好ましくは5〜30%w/vの、より好ましくは15〜25%w/vである。
【0031】
シアノアクリレートモノマーを重合して得られる混合微粒子カプセルの粒子径は一般的にある広がりを持っている。本明細書中における「平均粒径サイズ」とは、これら分布においてピークを示す粒子径を意味するものである。よって、必ずしも統計的な平均値を示すものではないが、殆どの場合、統計的平均値と一致する。
「異なる平均粒径サイズの粒子群からなる混合微粒子カプセル」とは、異なる平均粒径サイズを有する2以上の粒子群からなる混合微粒子カプセルを意味し、少なくとも1種のナノ粒子を含む異なる粒子径群から構成されるカプセル混合物を意味し、混合カプセルの全てがナノカプセルであることが好ましい。
【0032】
「活性有効成分」は、医薬組成物、化粧品組成物、消臭・芳香組成物、塗料組成物、接着剤組成物、摩擦低減組成物又は食品組成物のための活性成分(有効成分)を意味するものであり、特に限定されるものではないが、好ましくは、抗癌剤、アンチセンス剤、抗ウィルス剤、抗生剤、蛋白質、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、アンチセンス・ヌクレオチド、ワクチン物質、免疫調整剤、ステロイド剤、鎮痛剤、アンチモルヒネ剤、抗真菌剤又は駆虫剤である。
「医薬組成物のための活性有効成分」における「医薬組成物」としては、抗癌剤、アンチセンス製剤、抗ウィルス製剤、抗生物質製剤、蛋白質製剤、ポリペプチド製剤、ポリヌクレオチド製剤、アンチセンス・ヌクレオチド製剤、ワクチン製剤、免疫調整製剤、ステロイド製剤、鎮痛製剤、アンチモルヒネ製剤、抗真菌製剤及び駆虫製剤を挙げることができる。
また、「活性有効成分」の形態は、低分子化合物、蛋白質、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、アンチセンス・ヌクレオチドなど様々な形態が可能であり特に限定されるものではないが、DDS乃至ワクチンの観点からすると、好ましいのはポリペプチド、ポリヌクレオチド、アンチセンス・ヌクレオチドである。これら活性成分は、ナノカプセル内に抱合されてもよいし、あるいはナノカプセルの表面に付着保持されたものであってもよい。
【0033】
「ウイルス疾患」とは、AIDS、鳥インフルエンザやコイヘルペスなど各種ウイルスに起因する疾患を意味する。
【0034】
「安定剤」とは、ナノカプセルを安定化する作用を有する物質を意味し、デキストランやサイクロデキストリン等の多糖類からなる安定剤やポリソルベート等の界面活性剤を使用し得る。具体的には、アルキルアリールポリ(オキシエチレン)スルフェートアルカリ塩、デキストラン、β‐サイクロデキストリン等の環状デキストリン、ポリ(オキシエチレン)、ポリ(オキシプロピレン)−ポリ(オキシエチレン)−ブロックポリマー、エトキシル化された脂肪アルコール(セトマクロゴール)、エトキシル化された脂肪酸、アルキルフェノールポリ(オキシエチレン)、アルキルフェノールポリ(オキシエチレン)及びアルデヒドのコポリマー、ソルビタンの部分脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンの部分脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)の脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)の脂肪アルコールエーテル、サッカロースの脂肪エステル又はマグロゴールグリセロールエステル、ポリビニルアルコール、ポリ(オキシエチレン)−ヒドロキシ脂肪酸エステル、多価アルコールのマクロゴール又は部分脂肪酸エステル等を挙げることができる。好ましくは、多糖類及び界面活性剤であり、多糖類として特に好ましいのはデキストラン又はβ‐サイクロデキストリンであり、また安定剤として好ましい界面活性剤は、ポリソルベート等のあり、特に好ましくは、デキストラン、Tween(登録商標)である。
「多糖類及び界面活性剤から選ばれる異なる2種以上の安定剤」として、好ましい組み合わせは、デキストランとβ―サイクロデキストリン、デキストランとポリソルベート、重合度の異なるデキストラン、β―サイクロデキストリンとポリソルベート、又は、デキストランとβ―サイクロデキストリンとポリソルベートである。特に好ましくは、デキストランとポリソルベート、重合度の異なるデキストランの組合わせである。
【0035】
「デキストラン」は、ショ糖を原料として乳酸菌の一種が生産する多糖類で、グルコースを唯一の構成成分とし、α―1、6グリコシド結合を多く含むことを特徴とする物質である。産業上有用なデキストランは、乳酸菌の一種が生産する高分子デキストランを部分的に加水分解し、分画・精製工程を経て製造される。分解精製工程を調節することにより、用途に応じて異なった分子量を持つデキストランが合成される。本発明において「デキストラン」とは、上記の特徴を持つ物質であれば特に限定されるものではないが、デキストラン10(MW10000)、 デキストラン20(MW20000)、 デキストラン40(MW40000)、 デキストラン70(MW70000)、 デキストラン150(MW150000)が好ましい。
【0036】
安定剤の使用量は、安定剤によってその物理的性質が異なるので一概には言えないが、用いる安定剤、特に界面活性剤の場合はその臨界ミセル濃度の範囲内であるのが好ましい。具体的には、全体に対して約0.05〜5(w/w)%程度、より好ましくは約0.1〜2.5(w/w)%程度、最も好ましくは約1.0%〜1.5%程度である。
【0037】
本発明のナノカプセル粒子径は、10〜1000nm、好ましくは50〜900nm、特に好ましくは100〜400nmの範囲であって、徐放、ターゲット療法、バリアー通過のいずれの目的にも適用できる。また、粒子径を10nm程度まで微小にすることができるので、経皮吸収、経粘膜に使用することができるとともに、注射剤、経口剤としても使用することができる。
【0038】
たとえば簡便かつ効果的な経口投与のためには、薬剤学的に有効な量の本発明のナノカプセルを1種またはそれ以上の賦形剤と共に打錠し、ゲルカプセルなどに封入し、水を添加した際に発泡溶液を与える成分と配合し、また溶液などに懸濁することができる。非経口投与のためには、ナノカプセルを食塩溶液などに懸濁することができる。
【0039】
経口配合物及び非経口配合物は、好ましくは1日1回乃至3回の製剤としてデザインすることができる。
【0040】
ナノカプセルの調製のためのポリシアノアクリレートの重合方法は、界面重合法又はアニオン重合法のいずれであってもよい。界面重合法は、モノマーおよび薬物を有機相に溶解し、有機相を水相に添加して、有機−水界面で重合反応させる方法である。この方法でナノカプセルが生成する。一般に先行技術のペプチドを装填したナノ粒子はこの方法で調製されている。
アニオン重合は、低pHの水性媒質中で反応が起こり、ヒドロキシルイオンにより触媒される。この方法では、薬物を重合媒質に添加する時間によって薬物がナノ粒子に取り込まれるか、ナノ粒子上に吸着し、または両者の組み合わせが起こる。
【0041】
上記のごときナノカプセルの製造は、(a)酸性水溶液中に少なくとも1つの安定剤を適量配合して溶解させ、さらに(b)低分子糖類化合物を適量配合して溶解させた後、(c)少なくとも一つのシアノアクリレートモノマーを徐々に添加して、このモノマーを重合すればよい。シアノアクリレートのアニオン重合は、水溶液中のOH−によって開始される。また、重合速度は、溶液のpHの影響を受け、pHが4以下ではOH−濃度が高くなるので比較的早くなるが、pHが2以下ではOH−濃度が低くなるので比較的遅くなる。重合は、−10℃〜60℃、好ましくは0℃〜50℃、及び特に好ましくは、10℃〜35℃の温度で行われる。
【0042】
以下の実施例において、シアノアクリル酸n−ブチルはロクタイト社(アイルランド)のものを用いた。製造したナノ粒子の表面形態を走査電子顕微鏡検査(SEM)(ライカ・ケンブリッジ(Leica
Cambridge)S360)により調べた。ナノカプセル粒子の運動特性はブラウン拡散とゼータ電位、また分子量をHe-Neレーザー散乱法により測定した。各水溶液に於けるナノ粒子特性変化はコロイド特性を指標として観察した。
以下、実施例を以て本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が該実施例に記載される態様のみに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0043】
参考例1;デキストラン(安定剤)を用いたナノ粒子の製造
(1)1Nの塩酸溶液(1ml)を蒸留水100mlで希釈して0.01N、pH2.21の塩酸水溶液とした。
(2)上記pH2.21の0.01N塩酸水溶液50mlに500mgの重合度の異なるデキストランを溶解させて、1%デキストラン0.01N塩酸水溶液とした。デキストランは、(Dex10(分子量;10000)1%、Dex70(分子量;70000)1%、Dex150 (分子量;150000)1%)を用いた。
(3)攪拌しながら、上記1%デキストラン0.01N塩酸水溶液にn-ブチル-2-シアノアクリレート(ヒストアクリルブルー(Histacryl blue(ビー・ブラウンエースクラップ社) 1 tube:0.5ml)を最終濃度が0.5%になるように滴下した。
(4)これを室温で2時間攪拌して重合させた。
(5)0.1N水酸化ナトリウム水溶液を混合して中和し、更に30分間攪拌した。
(6)これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。(7)He+Neレーザー散乱光解析によって、得られたナノ粒子の粒径を測定した。
なお、デキストラン重合度による(n−ブチルシアノアクリレート)ナノ粒子の平均粒子径は下表のとおり約150〜220nmであった。
【0044】
【表1】

【0045】
参考例2;Tween(界面活性剤)を用いた試験
(1)1Nの塩酸溶液1mlを蒸留水100mlで希釈し、0.01N、pH2.21の塩酸水溶液とした。
(2)上記pH2.21の0.01N塩酸水溶液49.25mlに0.25mlのTween-20を加えた。
(3)600rpmで攪拌しながら、上記Tween-20塩酸水溶液にシアノアクリレート(ヒストアクリルブルー(Histacryl blue 1 tube:0.5ml)を最終濃度が0.5%になるように加えた。
(4)0.1N水酸化ナトリウム水溶液を適量加えて中和した。
(5)更に、これを室温で2時間攪拌して重合させた。
(6)これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。
(7)He+Neレーザー散乱光解析によって、得られたナノ粒子の粒径を測定した。
この結果を図1に示す。A、B、Cと3回行ったが、いずれにおいても粒子径のピークは47.6nmであった。
【0046】
参考例3;β-サイクロデキストリンを用いた試験
(1)1Nの塩酸溶液1mlを蒸留水100mlで希釈し、0.01N、pH2.21の塩酸水溶液とした。
(2)上記pH2.21の0.01N塩酸水溶液50mlに1gのβ-サイクロデキストリンを加えて溶解した。
(3)600rpmで攪拌しながら、上記β-サイクロデキストリン塩酸水溶液にシアノアクリレート(ヒストアクリルブルー(Histacryl blue 1 tube:0.5ml)を最終濃度が0.5%になるように加えた。
(4)更に、これを室温で2時間攪拌して重合させた。
(5)0.1N水酸化ナトリウム水溶液を適量加えて中和した。
(6)これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。
(7)He+Neレーザー散乱光解析によって、得られたナノ粒子の粒径を測定した。
この結果を図2に示す。粒子径のピークは405.3nm(8.78%%)、1577nm(86.7%)、5370nm(4.5%)であり、3種類の粒径が異なる混合微粒子製剤が得られた。しかし、その大半(86.7%)は1577nm であった。
【0047】
実施例1;安定剤と界面活性剤の併用による粒子径の異なる混合微粒子カプセルの製造
A.デキストランとTweenの併用による混合微粒子カプセルの製造
0.001規定の塩酸水溶液50mlに、500mgのデキストラン10(分子量10000)を加えて溶解してデキストラン溶液とした。このデキストラン溶液に500μlのTween-20を加えて溶解し、さらにグルコース2500mgを加えて溶解した。攪拌下、n−ブチルシアノアクリレート(nBCA)
0.5mlを加え、3時間攪拌して重合させた。反応溶液に0.1規定水酸化ナトリウム液を滴下して中和した後、30分間攪拌し、これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。最後に、He+Neレーザー散乱光解析によって、得られた混合微粒子カプセルの粒径を測定した。
この結果を図3に示す。粒子径のピークは27.1nm(58.9%)、218nm(37.5%)、4570nm(3.5%)であり、粒子径の異なるナノ粒子が得られた。
デキストラン10(分子量10000)に代えてデキストラン70(分子量70000)を用いて同様の試験を行った。この結果を図4に示す。粒子径のピークは34.7nm(75.9%)、455nm(23.2%)、4130nm(0.9%)であり、粒子径の異なるナノ粒子が得られた。
【0048】
B.ナノ粒子の性状
上記試験で製造した混合微粒子カプセルについて更に詳しく分析したところ、粒子径ピークは3箇所であり、異なる3種類の粒子径のナノ粒子混合物が得られた。
図3及び図4から明らかなとおり、デキストランとTweenを併用することにより異なる粒子径を有するナノ粒子を同時に製造することができた。
デキストラン10+Tween-20+単糖(グルコース)のケースでは、27.1nm(58.9%)、218nm(37.5%)、4570nm(3.5%)の3種類の異なるナノ粒子が得られた。これら粒子のSEM画像を図5に示す。
デキストラン70+Tween-20+単糖(グルコース)のケースでは、34.7nm(75.9%)、455nm(23.2%)、4130nm(0.9%)の3種類の異なるナノ粒子が得られた。これら粒子のSEM画像を図6に示す。
【0049】
C.考察
上記A、Bの試験結果から明らかなとおり、安定剤として、デキストランと界面活性剤(例えば、Tween)を併用することにより、粒子径の異なる混合微粒子カプセルの同時製造が可能となった。ただし、デキストラン10及びデキストラン70を用いたいずれの場合も、第3のピークは無視し得る程度なので、大きくは、異なる2種類の粒径を有する混合粒子であるといえるだろう。
【0050】
活性有効成分としてアンピシリン、DNAを抱合させた混合微粒子カプセルを試作したが、粒径や分布は上記と同様の結果を示した。以下の試験においても同様であった。
【0051】
実施例2;安定剤とβ-サイクロデキストリンの併用による粒子径の異なる混合微粒子カプセルの製造
A.デキストランとβ-サイクロデキストリンの併用による混合微粒子カプセルの製造
0.001規定の塩酸水溶液50mlに、500mgのデキストラン10(分子量10000)と50mgのβ-サイクロデキストリンを加えて溶解し、攪拌しながらn−ブチルシアノアクリレート(nBCA) 0.5mlを加え、3時間攪拌して重合させた。反応溶液に0.1規定水酸化ナトリウム液を滴下して中和した後、30分間攪拌し、これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。最後に、He+Neレーザー散乱光解析によって、得られた混合微粒子カプセルの粒径を測定した。また、デキストラン10(分子量10000)の配合量を500mgに変えて同様の試験を行った。
結果は下表のとおりであった。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例3;界面活性剤とβ-サイクロデキストリンの併用による粒子径の異なる混合微粒子カプセルの製造
A.β-サイクロデキストリンとTweenの併用による混合微粒子カプセルの製造
0.001規定の塩酸水溶液50mlに、0.25mlのTween-20と50mgのβ-サイクロデキストリンを加えて溶解した。この溶液を攪拌しながら、n−ブチルシアノアクリレート(nBCA) 0.5mlを加え、3時間攪拌して重合させた。反応溶液に0.1規定水酸化ナトリウム液を滴下して中和した後、30分間攪拌し、これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。最後に、He+Neレーザー散乱光解析によって、得られた混合微粒子カプセルの粒径を測定した。また、β-サイクロデキストリンの配合量を500mgに変えて同様の試験を行った。
結果は下表のとおりであった。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例4;安定剤と界面活性剤の併用による粒子径の異なる混合微粒子カプセルの製造(配合量の影響)
A.デキストランとTweenの併用による混合微粒子カプセルの製造
0.001規定の塩酸水溶液50mlに、0.25mlのTween-20と50mgのデキストラン10(分子量10000)を加えて溶解してデキストラン溶液とした。このデキストラン溶液を攪拌しながらn−ブチルシアノアクリレート(nBCA) 0.5mlを加え、3時間攪拌して重合させた。反応溶液に0.1規定水酸化ナトリウム液を滴下して中和した後、30分間攪拌し、これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。最後に、He+Neレーザー散乱光解析によって、得られた混合微粒子カプセルの粒径を測定した。
また、デキストラン10(分子量10000)の配合量を500mgに変えて同様の試験を行った。
結果は下表のとおりであった。
【0056】
【表4】

【0057】
実施例5;安定剤、界面活性剤及びβ-サイクロデキストリンの併用による粒子径の異なる混合微粒子カプセルの製造
A.デキストラン、Tween及びβ-サイクロデキストリンの併用による混合微粒子カプセルの製造
0.001規定の塩酸水溶液50mlに、0.25mlのTween-20と500mgのデキストラン10(分子量10000)と50mgのβ-サイクロデキストリンを加えて溶解した。この溶液を攪拌しながらn−ブチルシアノアクリレート(nBCA) 0.5mlを加え、3時間攪拌して重合させた。反応溶液に0.1規定水酸化ナトリウム液を滴下して中和した後、30分間攪拌し、これをセントリプレプを用いて蒸留水で4回洗浄した。最後に、He+Neレーザー散乱光解析によって、得られた混合微粒子カプセルの粒径を測定した。結果を図7に示す。粒子径のピークは45.3nm(54.5%)、130nm(15.8%)、4430nm(29.7%)であり、粒子径の異なるナノ粒子が得られた。
また、β-サイクロデキストリンの配合量を500mgに変えて同様の試験を行った。
結果は下表のとおりであった。
【0058】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の方法によれば、異なるサイズの混合微粒子カプセルを同時に一斉合成することが可能であり、生産効率を上昇させ、生産コストを低減させることが可能である。また、治療を必要とする局所は必ずしも単一の組織や細胞群からなる場合だけでなく、複数の組織又は細胞群から構成されている場合が多い。情報物質の伝達には、膜に於いて情報物質の大きさ(アロステリックを含む)や電気的強度など物理化学的な特性によって、受動輸送系や能動輸送系また膜動輸送系によって、選択的に膜を通過しその機能を発現している。本発明の方法を用いることにより、同じ構成成分からなるサイズの異なるナノカプセルを効率よく合成することが可能となるため、これらを医薬品として使用することができれば、治療効果をさらに上昇させることができる。有効成分の時間差放出の観点からしても好ましいものである。
すなわち、ナノテクノロジーを用いた新しい医薬品の開発が期待され、新しい診断技術、新しいワクチン技術の開発も可能である。さらには、化粧品、消臭・芳香剤、摩擦低減組成物、新しい塗装技術等への応用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】Tween20を安定剤として用いた場合のナノカプセルの粒子径分布を示す図である(参考例2)。
【図2】β-サイクロデキストリンを安定剤として用いたカプセル粒子の粒子径分布を示す図である(参考例3)。
【図3】安定剤としてTween20とデキストラン10を用いた場合のナノカプセルの粒子径分布を示す図である(実施例1)。
【図4】安定剤としてTween20とデキストラン70を用いた場合のナノカプセルの粒子径分布を示す図である(実施例1)。
【図5】安定剤としてTween20とデキストラン10を用いた場合のナノカプセルのSEM画像である(実施例1)。5Aは、25KVx20,000であり、目盛は1μmである。。5Bは、25KVx35,000であり、目盛は0.5μmである。
【図6】安定剤としてTween20とデキストラン70を用いた場合のナノカプセルのSEM画像である(実施例1)。6Aは、25KVx10,000であり、目盛は1μmである。。6Bは、25KVx35,000であり、目盛は0.5μmである。
【図7】安定剤としてデキストラン、Tween及びβ-サイクロデキストリンを用いた場合のナノカプセルのSEM画像である(実施例5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類及び界面活性剤から選ばれる異なる2種以上の安定剤の存在下にシアノアクリルモノマーを水性溶媒中で重合させることを特徴とする、少なくとも1つの活性有効成分を含有し異なる平均粒径サイズの粒子群からなる混合微粒子カプセルの製造方法。
【請求項2】
安定剤が、アルキルアリールポリ(オキシエチレン)スルフェートアルカリ塩、デキストラン、サイクロデキストリン、ポリ(オキシエチレン)、ポリ(オキシプロピレン)−ポリ(オキシエチレン)−ブロックポリマー、エトキシル化された脂肪アルコール(セトマクロゴール)、エトキシル化された脂肪酸、アルキルフェノールポリ(オキシエチレン)、アルキルフェノールポリ(オキシエチレン)及びアルデヒドのコポリマー、ソルビタンの部分脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンの部分脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)の脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン)の脂肪アルコールエーテル、サッカロースの脂肪エステル又はマグロゴールグリセロールエステル、ポリビニルアルコール、ポリ(オキシエチレン)−ヒドロキシ脂肪酸エステル、多価アルコールのマクロゴール及び部分脂肪酸エステルから選ばれる2種以上の安定剤である請求項1に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
【請求項3】
安定剤が、デキストラン、β―サイクロデキストリン及びポリソルベートから選ばれる2種以上の安定剤である請求項2に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
【請求項4】
2種以上の安定剤の組合せが、デキストランとβ―サイクロデキストリン、デキストランとポリソルベート、β―サイクロデキストリンとポリソルベート、重合度の異なるデキストラン、又は、デキストランとβ―サイクロデキストリンとポリソルベートである請求項3記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
【請求項5】
シアノアクリレートモノマーが、シアノアクリル酸n−ブチルモノマー、シアノアクリル酸イソブチルモノマー、シアノアクリル酸イソヘキシルモノマー又はそれらの混合物である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
【請求項6】
活性有効成分が、医薬組成物、化粧品組成物、消臭・芳香組成物、塗料組成物、接着剤組成物、摩擦低減組成物又は食品組成物のための活性有効成分である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
【請求項7】
活性有効成分が、抗癌剤、アンチセンス製剤、抗ウィルス製剤、抗生物質製剤、蛋白質製剤、ポリペプチド製剤、ポリヌクレオチド製剤、アンチセンス・ヌクレオチド製剤、ワクチン製剤、免疫調整製剤、ステロイド製剤、鎮痛製剤、アンチモルヒネ製剤、抗真菌製剤及び駆虫製剤から選ばれる医薬組成物のための活性有効成分である請求項6に記載の混合微粒子カプセルの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法により製造した混合微粒子カプセル製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−207137(P2008−207137A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48203(P2007−48203)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(507066884)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】