説明

異なる頚部病変におけるHPV16の診断用転写物、及びスプライスパターン

本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、被験体の試料中の第1遺伝子産物量及び第2遺伝子産物量を決定し、そして前記第1遺伝子産物量と前記第2遺伝子産物量の比を計算することに基づく前記方法に関する。オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物が、本発明によってさらに想定される。本発明の方法を実施するために適したキット及び装置もまた、本発明によって想定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト・パピローマウイルス16(HPV16)を患っている被験体において、試料中の単一の遺伝子産物(複数の遺伝子産物)の量の決定に基づいて(i)重症型HPV16感染と(ii)軽症型HPV16感染を判別する方法に関する。オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物が、本発明によってさらに想定される。本発明の方法を実施するために適合されたキット及び装置もまた、本発明によって想定される。
【背景技術】
【0002】
子宮頚部の癌(CxCa)は、世界の女性の間で2番目に多い悪性腫瘍であり、最も一般的なタイプであるHPV16を含めた高リスク・ヒト・パピローマウイルスによって引き起こされる。先進国では、従来の細胞学的スクリーニングプログラムがこの種の癌の発症を実質的に減少させている。しかしながら、これらの細胞学的スクリーニングプログラムには、いくつかの欠点がある。
【0003】
Pap検査と呼ばれることも多いパパニコロー(Papanicolaou)検査は、子宮頚部における前癌状態及び悪性病変の検出のために設計された診断法である。パパニコロー検査のために、試料は子宮頚部から得られ、そして悪性又は前癌状態の細胞を示している細胞形態の変化に関して光学顕微鏡検査によってスクリーニングされる。そして、観察された病変の重症度によって試料が分類される。しかしながら、子宮頚部細胞診による診断は主観的方法であるので、その質はサービスを提供する研究所の基準に依存する。それ自体、病変分類が十分に再現可能なものではなく、そして膣鏡検査と比較して低い感度のものである(Baldwin, P., R. Laskey, and N. Coleman. 2003. Translational approaches to improving cervical screening. Nat Rev Cancer 3:217-26)。さらに、偽陽性の結果によって、多数の患者が余分な治療を受けている。
【0004】
ここ20年間の間に、HPVのためのさまざまな新しい診断検査が開発された。これらの方法は、ウイルスマーカー、分子マーカー及び生化学的マーカー、例えばHPVタンパク質、DNA及びRNAなどの検出に基づいている。
【0005】
FDAによって承認されたHybrid Capture II Test System(HC2)(旧Digene Corp., USA, now Qiagen, Germany)は臨床診療におけるHPV DNA検査の優れた標準法であると見なされるが、しかしながら、それはいくつかの不都合な点を示す:a)遺伝子型決定を実施せずに、代わりに、HPV感染が単に「低リスク」又は「高リスク」群に起因すると考える、b)多重感染を特定できない、c)それは、HPV検出に関してPCRベースの方法ほど高感度ではない(Birner et al. 2001. Mod. Pathol. 14:702-709)、及びd)それは、子宮頚部前癌病変と癌リスクの予測に関して中程度にしか特異的ではない。そのうちのいくつかは臨床的エンドポイントに関して非特異的であり、それは非発癌性HPV遺伝子型との交差性によるものとみなされ得る(Castle, P. E., D. Solomon, C. M. Wheeler, P. E. Gravitt, S. Wacholder及びM. Schiffman. 2008. Human papillomavirus genotype specificity of hybrid capture 2. J Clin Microbiol 46:2595-604)。さらに、それは、被験体がHPVに感染しているか否かの評価を可能にするだけである。この検査は、HPV感染の重症度の評価を可能にすることはない。よって、HPVが診断された時点で、追加の検査が必要とされる。
【0006】
HPV感染のより正確な検出を可能にするいくつかのPCRベースの方法がここ数年の間に開発された。これらのPCRシステムの大部分が、HPVゲノムの高度に保存された領域、例えばL1領域内に結合するコンセンサス又は汎用プライマーを使用する。増幅されたPCR産物は、次に、特定の粘膜HPV遺伝子型を特定するためにさらなる分析(例えば、配列決定、制限断片長多型(RFLP)分析又はハイブリダイゼーション)にかけられる。経時的コホートの研究は、Pap−HPV併用検査が単独の細胞学的検査に比べてCIN3に対してより高い感度を示し、且つ、(両検査の正常な結果を得た女性の間での)より良好な長期保護を予測することを明らかにした(Bulkmans, N. W., J. Berkhof, L. Rozendaal, F. J. van Kemenade, A. J. Boeke, S. Bulk, F. J. Voorhorst, R. H. Verheijen, K. van Groningen, M. E. Boon, W. Ruitinga, M. van Ballegooijen, P. J. Snijders, and C. J. Meijer. 2007. Human papillomavirus DNA testing for the detection of cervical intraepithelial neoplasia grade 3 and cancer: 5-year follow-up of a randomised controlled implementation trial. Lancet 370:1764-72、Hoyer, H., C. Scheungraber, R. Kuehne-Heid, K. Teller, C. Greinke, S. Leistritz, B. Ludwig, M. Durst, and A. Schneider. 2005. Cumulative 5-year diagnoses of CIN2, CIN3 or cervical cancer after concurrent high-risk HPV and cytology testing in a primary screening setting. Int J Cancer 116:136-43)。しかしながら、HPV PCR検査の高感度はまた、臨床的に関連していない感染又は消退病変の同定につながる。そのため、個々の高リスクHPV DNA陽性の結果に関して、進行性病変の存在又は子宮頚癌の発症に関する陽性適中率(PPV)は低くなった。その結果生じた、検査で陽性であったが疾患陰性の診断の多くが、関係した女性に過剰処置、追加費用、及び大きな懸念を与えた(International Agency for Research on Cancer. 2005. Cervix Cancer Screening. IARC Press, Lyon)。
【0007】
HPV DNA検査とは異なり、RNA検出は転写活性のあるウイルスの同定と分析を可能にする。DNA及び細胞形態は別として、RNAもまた保存する子宮頚部塗抹標本の保存媒質の最近の導入が、RNA検出法の開発を促進した。これまでに、2種類の市販のHPV RNA検出アッセイ:i)hrHPVタイプ16、18、31、33、及び45からのE6及びE7配列(E6/E7)を標的として初期完全長mRNAを検出するBiomerieux(旧NorChip)製のPreTect HPV Proofer(登録商標)、及びii)GenProbe製の広範囲のE6/E7完全長mRNA増幅法であるAptima(登録商標)HPV検査が導入された。これらの検査からの限られたデータは、HPV DNA単独よりむしろ完全長HPV E6/E7 mRNAに関する検査がわずかにだけ子宮頚癌の発症及びその前兆に関するPPVを上げる一方でそれと同時に、感度そしてそれによる陰性適中率(NPV)を下げることを示す(Cuschieri, K. S., M. J. Whitley, and H. A. Cubie. 2004. Human papillomavirus type specific DNA and RNA persistence--implications for cervical disease progression and monitoring. J Med Virol 73:65-70)。これらの技術の主な不都合は、それらが単一の完全長ウイルス癌遺伝子転写物の定性的決定のみにより疾患を予測できないことである。さらに、子宮頚部塗抹標本は、これらの技術によってそれを制御できない異なる量のHPV感染細胞を含み得る。
【0008】
子宮頚癌の発症は、宿主細胞の染色体内へのHPVゲノムの組み込みと密接に関連する。低グレードの病変では、HPVゲノムの大部分が、エピソーム状態で存在しているが、それに対して、高グレードの病変及び癌腫は、HPVゲノムが宿主ゲノム内に組み込まれ得る。しかしながら、すべての子宮頚癌においてではないが、HPVゲノムが組み込み型で存在していることが実証された(Vinokurova, S., N. Wentzensen, I. Kraus, R. Klaes, C. Driesch, P. Melsheimer, F. Kisseljov, M. Durst, A. Schneider, and M. von Knebel Doeberitz. 2008. Type-dependent integration frequency of human papillomavirus genomes in cervical lesions. Cancer Res 68:307-13.)。宿主ゲノム内へのHPV16ゲノムの組み込みは、子宮頚部癌患者の約60%に見られただけである。よって、HPVゲノムの組み込み状況のみを決定する診断手段は、リスク層別化に関して信頼できない。
【0009】
膣鏡検査は、子宮頚部及び膣を観察することができる。この外観検査によって、これらの領域における多くの前癌状態の病変及び悪性病変が検出できる。この高い信頼性のため、膣鏡検査は、子宮頚部疾患を診断するための優れた標準法であると見なされている。しかしながら、この診断法は、コスト及び時間がかかる。膣鏡検査は、高度に訓練された人材を必要とし、且つ、侵襲的手技(その後の組織学的分析を伴った生検)を伴うことが多い。その結果、膣鏡検査を、子宮頚癌前兆スクリーニングプログラムには使用できない。
【発明の概要】
【0010】
本発明の基礎となる技術的問題点は、上述した欠点なしにHPV16感染の軽症型と重症型を効率的、且つ、確実に判別する手段及び方法の提供と考えることもできる。さらに、手段及び方法は、ゲノム内に組み込まれたHPVゲノムを持たない被験体の確実なリスク層別化に必要である。前記技術的問題点は、請求項及び本明細書中で以下に特徴づけた実施形態によって解決される。
【0011】
従って、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は、880^2582の遺伝子産物であり、
b)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物、及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され、
c)ステップa)で決定した前記第1遺伝子産物量とステップb)で決定した前記前記第2遺伝子産物量の比を計算し、
d)ステップc)で計算した比を基準比と比較し、並びに、
e)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】HPV16のゲノム構成、オープン・リーディング・フレーム、及び転写物種。ORFを、長方形(図の上部)としてそれらの固有のリーディング・フレームで示す。長方形の上部左隅の最初の数字は、最初のATGのヌクレオチド(nt)位置に対応している。それぞれのORFの終止コドンにおける最後のntの位置を、長方形の上部右隅に表示している。ゲノムスケールの下に位置しているのは、スプライスされたmRNA種のダイヤグラムである。エクソンを黒い長方形で例示し、同時にイントロンを黒い細線で示した。その線の下に表示した数字は、5’及び3’スプライスジャンクションの位置を示す。転写物種Oのプロモーターをマッピングしなかった。完全長E1タンパク質をコードする転写物を描いていない。E6及びE1の可能性のある、切断型遺伝子産物をアスタリスク(*)によって示し、E1とE4タンパク質の融合産物をE1^E4と示す。Zheng, Z. M., and C. C. Baker. 2006. Papillomavirus genome structure, expression, and post-transcriptional regulation. Front Biosci 11:2286-302からの変法。
【図2】Q‐RNA量に対するwt/q‐RNA比の依存度。NASBA反応あたり1000〜100000コピー数の範囲にわたるQ‐RNAを、E6*I wt‐RNA希釈系列内に加え、NASBAによって増幅し、そしてLuminexハイブリダイゼーションを使用して検出した。点線として表示したカットオフを、以下のとおり計算した:各プローブに関して、ハイブリダイゼーション混合物にアンプライマーを加えなかった反応におけるMFI値をバックグラウンド値と見なした。ハイブリダイズしたアンプライマーの正味のMFI値を、総MFI値からの中央バックグラウンド値の1.1倍の引き算によって計算した。3MFIを上回る正味のMFI値を、陽性反応と規定した。2つのハイブリダイゼーション反応の標準誤差を示す。カーブ・スロープをより見やすくするために、データ点の間の線を加えた。
【図3】SiHaの全RNAを使用したE7のNASBAの検出限界。SiHaの全RNAの希釈系列を、NASBA反応あたり10000個のQ‐RNA分子を使用したE7のNASBA‐Luminex分析にかけた。2つのハイブリダイゼーション反応の平均及び標準誤差を示す。カーブ・スロープをより見やすくするために、データ点の間の線を加えた。
【図4】E6*Iと*II対E6fl発現のパターン。転写物E6*I(A)、及び*II(B)対E6flの比をY軸上にプロットし、そして細胞学的病変グレード及び病変群をX軸上に示す。点線は中央値を表す。
【図5】細胞転写物を用いたE6*II発現の標準化。E6*II対細胞転写物の比をY軸上にプロットし、そして細胞学的病変グレード並び病変群をX軸上に示す。点線は中央値を表す。
【図6】E6*II対880^3358、及びE6fl対E5fl発現のパターン。E6*II対880^3358(左側)及びE6fl対E5fl(右側)の比をY軸上にプロットし、そして細胞学的病変グレード及び病変群をX軸上に示す。点線は中央値を表す。
【図7】優れた標準法としての細胞診と比較したBiomerieux HPVキット及びDKFZ NASBA‐Luminexアッセイの性能。
【図8】患者の分類のためのスキーム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、好ましくは、試験管内における方法である。さらに、それは、先に明確に言及したステップに加えて複数のステップを含み得る。一例を挙げれば、さらなるステップは、試料の前処理過程又は本方法によって得られた結果の評価に関連してもよい。本発明の方法は、HPV16に感染している被験体におけるHPV16感染の軽症型と重症型を判別するために使用されことが好ましい。しかしながら、本発明の方法はさらに、前記被験体のモニタリング、確認、及び下位分類に使用することもできる。その方法は、手作業で実施されることもでき、自動化によって補助されることもできる。好ましくは、ステップ(a)、(b)、(c)、(d)、及び/又は(e)は、全体又は一部が、自動化によって、例えばステップ(a)及び(b)における決定に好適なロボット及びセンサー機器、ステップ(e)におけるコンピューターに実装された計算ステップ又はステップ(d)におけるコンピューターに実装された比較によって、補助されることもできる。
【0014】
本明細書中で使用する「判別する」という用語は、(i)軽症型のHPV16感染と(ii)重症型のHPV16感染を見分けることを意味する。本明細書中で使用する前記用語は、HPV16感染の軽症型と重症型を示差的に診断/検出することを包含するのが好ましい。
【0015】
当業者には当然のことながら、通常、前記判別が、分析される被験体の100%について正確であることを意図していない。しかしながら、前記用語は、評価が、分析される被験体のうちの統計的に有意な割合について有効であることを必要とする。割合が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計値評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt‐検定である、マン・ホイットニー検定など、を使用することで余分な手間をかけることなく当業者によって判断されることができる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.001であることが好ましい。好ましくは、本発明によって想定される確率は、判別が所定のコホートの被験体のうちの少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%で正しいことを見込んでいる。
【0016】
本明細書中で使用する「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、そしてより好ましくはヒトに関する。しかしながら、被験体がHPV16に感染していなければならないということが、本発明の前記方法に従って想定される。被験体がHPV16に感染しているか否かを評価するための方法は、当該技術分野で周知である。例えば、HPV16感染は、サザン及びドット・ブロット・ハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーションによる被験体の試料中のHPV16 DNAの遺伝子型決定、シグナル増幅アッセイ、又は様々なPCR法によって評価できる(Molijn, A., B. Kleter, W. Quint, and L. J. van Doorn. 2005. Molecular diagnosis of human papillomavirus (HPV) infections. J Clin Virol 32 Suppl 1:S43-51)。
【0017】
ヒト・パピローマウイルスは、皮膚や粘膜に感染するDNAウイルスである。100を超えるHPV遺伝子型が記載されている(de Villiers, E. M., C. Fauquet, T. R. Broker, H. U. Bernard, and H. zur Hausen. 2004. Classification of papillomaviruses. Virology 324:17-27)。HPV16は高リスクHPV遺伝子型に属し、そして子宮頚癌の発症の主原因である。HPV16は外陰部、肛門、腟、陰茎、及び口咽頭の癌、並びに腟上皮内新生物、肛門上皮内新生物、外陰部上皮内新生物、及び陰茎上皮内新生物を引き起こすことも知られている。
【0018】
HPVゲノムは、約7906塩基対(bp)の二本鎖であって、閉じた環状DNAの単一分子から成る。HPV16ゲノムの核酸配列であるHPV16Rを配列番号1に示す(例えば、Myers, G., H. Delius, J. Icenogle, H. U. Bernard, M. Favre, M. van Ranst, and C. M. Wheeler. 1997. Human papillomaviruses 1997: a compilation and analysis of nucleic acid and amino acid sequences. Theoretical Biology and Biophysics, Los Alamos National Laboratory, Los Alamos, N.Mex.を参照のこと)。3つのオープン・リーディング・フレーム(ORF)が一本鎖上で見つかっている。3つの機能領域、長調節領域(LCR)、並びに「初期」及び「後期」転写領域が規定されている。LCRは、DNA複製及び転写の調整に関与する長さ850bpの非コード上流領域である。それは、ウイルスE2及び他の細胞転写因子のためのいくつかの結合部位、並びにウイルスE1複製タンパク質のための結合部位を含んでいる。さらに、それは、サイレンサー及びエンハンサー配列を含み、そしてE6 ORF付近にp97コアプロモーターを持っている;それはウイルスゲノムの中でも変化の度合いが最も大きい領域である。「初期」領域は、ORF E1、E2、E4、E5、E6、及びE7から成り、前記領域はウイルス複製と細胞の形質転換に関わる。「後期」領域は、ウイルスカプシドを形成するL1及びL2構造タンパク質をコードする。「初期」タンパク質の中でも、悪性疾患に関する2種類の最重要HPVタンパク質がE6及びE7であり、それらは正常状態から不死状態への細胞の形質転換に対して相乗的に作用する。HPV16トランスクリプトームが少なくとも11個の別個のスプライスジャンクションをもたらす(HPV16R基準ゲノムの226、880、1302及び3632位のヌクレオチドにおける)いくつかのスプライス供与部位と、(HPV16R基準ゲノムの409、526、742、2582、2709、3358、及び5639位のヌクレオチドにおける)スプライス受容部位を示すことが、当該技術分野で知られている(Baker, C., and C. Calef. 1996. Maps of papillomavirus mRNA transcripts. Los Alamos National Laboratories, Los Alamos, NM, USA.; Zheng, Z. M., and C. C. Baker. 2006. Papillomavirus genome structure, expression, and post-transcriptional regulation. Front Biosci 11:2286-302.)。スプライシング産物は、産物を作り出すために使用されるスプライス供与部位と受容部位に基づいて、本明細書中において特徴づけられる。それぞれのスプライス供与部位と受容部位を「^」によって区切っている。
【0019】
HPV16の感染が様々な兆候により下位分類されることは、当該技術分野で知られている。子宮頚癌は、子宮頚部上皮内新生物1〜3(CIN1〜CIN3)として組織学的に分類される一連の明確に定義された病期を経た持続性HPV感染領域から発症する。HPV進行の病期はさらに、低グレード及び高グレードの扁平上皮内病変(LSIL及びHSIL)として細胞学的に知られている。LSILはCIN1と同等であり得る一方、CIN2及びCIN3は、好ましくはHSILと同等である。HPV16の初期感染は、上皮の下部三分の一における正常分化の阻害によって現れるCIN1の発症を引き起こし得る。免疫が保たれている人では、これらの病変の大部分は、おそらく細胞性免疫能によって媒介されて自然消退する。しかしながら、一部の人では、例えば遺伝性又は誘発性免疫不全により、HPV16の感染が持続する、及びCIN1病変がCIN2病変に進行するリスクがある。CIN2病変はさらに、高い消退率を示すが、しかしながら、CIN2病変はさらに、癌腫(上皮内癌腫はもちろん、さらには浸潤性癌腫)に進行することがある高グレードの疾患(CIN3)に進行することもある。
【0020】
本明細書中で意味する「軽症型のHPV感染」は、好ましくは、正常な子宮頚部組織又はCIN1(最小限若しくは軽症の子宮頚部形成異常)として組織学的に分類されるか、あるいは、NIL/M(上皮内病変又は悪性腫瘍に関して陰性)又はLSIL(低グレードの扁平上皮内病変)として細胞学的に分類されるHPV感染の形態を指す。よって、HPV感染の軽症型は、好ましくは、良性子宮頚部病変を包含し、よって軽症グレードのHPV病変を包含する(総説のためにSmith, J. H. 2002. Bethesda 2001. Cytopathology 13:4-10を参照のこと)。
【0021】
本明細書中で意味する「重症型のHPV感染」は、好ましくは、CIN2(中程度の子宮頚部上皮形成異常)若しくはCIN3(重度の子宮頚部形成異常)又は癌(上皮内又は浸潤性)として組織学的に分類されるHPV感染の形態を指す。従って、「重症型のHPV16感染」という用語は、好ましくは、HSIL又は癌として細胞学的に分類されるHPV16感染の形態を指す。よって、重症型のHPV感染は、好ましくは、悪性子宮頚部病変を包含し、よって高グレードのHPV病変を包含する(総説のためにSmith, J. H. 2002. Bethesda 2001. Cytopathology 13:4-10を参照のこと)。
【0022】
試料は、周知の技術で入手でき、且つ、本明細書中で言及した遺伝子産物を発現する若しくは産生するそれらの細胞、組織又は臓器からの試料を含む。好ましくは、試料は、泌尿生殖管又は口咽頭管からかき取るか又は生検採取する。そういった試料は、ブラシ、(綿)スワブ、スパチュラ、すすぎ/洗浄液、パンチ生検採取装置、針若しくは外科用器具類を用いた空洞穿刺の使用によって入手できる。好ましくは、かき取ったものは、粘膜細胞を含む。より好ましくは、試料は、子宮頚部塗抹標本又はPap塗抹標本である。分離された細胞は、例えば濾過、遠心分離若しくは細胞選別などの分離技術によって体液又は組織若しくは臓器から得ることもできる。さらに、試料は、本明細書中で言及した遺伝子産物をさらに濃縮及び/又は精製するために、周知の方法によってさらに処理されてもよい。遺伝子産物の更なる加工は、遺伝子産物の性質、すなわち、遺伝子産物がポリペプチドであるか、RNA分子であるかに依存することが好ましい。好ましくは、遺伝子産物がポリペプチドであれば、ポリペプチドは、当業者で周知の方法によって濃縮及び/又は精製される。好ましくは、遺伝子産物がmRNA分子であれば、前記RNA分子は、当該技術分野で周知の方法によって濃縮及び/又は精製されてもよい。
【0023】
本明細書中で使用する「遺伝子産物」という用語は、好ましくは、転写物に関連し、よってmRNA若しくはポリペプチドに関連する。
【0024】
前記方法は、第1遺伝子産物量と第2遺伝子産物量の比の計算を含んでなる。比の計算に使用される少なくとも一方の量が、HPV16のスプライスされたmRNA(又は前記スプライスされたmRNAによってコードされるポリペプチド)の量である。本明細書中で以下に記載するとおり、HPV16のスプライスされたmRNA(又は前記スプライスされたmRNAによってコードされるポリペプチド)の量の決定が、軽症型と重症型のHPV感染を判別するために特に有益である。
【0025】
前記方法は、好ましくは、以下の比:880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量と3632^5639(好ましくはHPV16Rの3632^5639スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量と880^3358(好ましくはHPV16Rの880^3358スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とApm1(好ましくはApm1 mRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とユビキチンC(Ubc)(好ましくはUbc mRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とU1A(好ましくはU1A mRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とE1(好ましくはHPV16RのE1の完全長mRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とE5(好ましくはHPV16RのE5の完全長mRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とL1(好ましくはHPV16RのL1の完全長mRNA)の遺伝子産物量の比、又は880^2582(好ましくはHPV16Rの880^2582スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量と226^409(好ましくはHPV16Rの226^409スプライスされたmRNA(E6*I))の遺伝子産物量の比の決定を想定する。
【0026】
本発明の前記方法との関連において第1遺伝子産物は、好ましくは、880^2582の遺伝子産物である。好ましくは、「880^2582の遺伝子産物」という用語は、HPV16Rの880^2582スプライスされたmRNAを指すか、又はE1Cポリペプチドを指す。880^2582転写物は、あるいは880位と2582位にてスプライシングされたHPV16Rのスプライシングされた転写物である(下記を参照のこと)。
【0027】
E1Cポリペプチドは、HPVのE1ポリペプチドのN末端切断型変異体であり、LCRの転写活性化因子として機能すると考えられる。HPV16RのE1Cのアミノ酸配列を配列番号2に示す。HPV16Rの前記E1Cのポリペプチドをコードする核酸配列を、配列番号3に示す。
【0028】
好ましくは、880^2582スプライスされたmRNAは、880^2582スプライスジャンクションを含んでなるHPV mRNAである。よって、前記mRNAは、880位(供与ヌクレオチド)と2582位(受容ヌクレオチド)の核酸にてHPV16転写物をスプライシングし、そして供与ヌクレオチドを受容ヌクレオチドに接続した結果であるHPV16RによってコードされるmRNAである。本発明との関連において、スプライスされたmRNAの最初の数字、ここでは880は、好ましくは、スプライシングのための供与ヌクレオチド、要するに5’スプライスジャンクションの位置を示し、それに対して2番目の数字、ここでは2582は、スプライシングのための受容ヌクレオチド、要するに3’スプライスジャンクションの位置を示す。示された位置は、配列番号1に示したとおりHPV16Rの7906bpのゲノムに線で描かれている。HPVの様々なmRNA種が880^2582スプライシングされた配列、例えば種K‐Nなど、を含んでなることが、当該技術分野で知られている。図1を参照のこと。従って、880^2582スプライスされたmRNAの量の決定は、好ましくは、880^2582を含有しているmRNA種すべての累積量の決定を包含する。
【0029】
本発明との関連において、第1遺伝子産物が、880位の供与ヌクレオチドを2582位の受容ヌクレオチドに連結することによって作り出される核酸配列、要するにスプライシング後にスプライスジャンクションを含んでなる配列を含んでなることが理解されるべきである。従って、880^2582スプライスされたmRNAは、好ましくは、スプライシングによって作り出された前記スプライスジャンクションを含んでなる。好ましくは、前記スプライスされたmRNAは、配列番号4に示した核酸配列を含んでなる。
【0030】
好ましくは、E1Cポリペプチドは、前記スプライスジャンクションを含んでなるポリヌクレオチドから翻訳される/それによってコードされる。従って、HPV16のE1Cポリペプチドは、配列番号5に示したアミノ酸配列を含んでなることが好ましい。本発明の前記方法との関連において、第2遺伝子産物は、好ましくは、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物、及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択される。
【0031】
3632^5639、880^3358及びE6*Iの遺伝子産物は、好ましくは、HPV16の選択的にスプライスされたmRNA、又は前記選択的にスプライスされたmRNAによってコードされるポリペプチドである。
【0032】
本明細書中で使用する「3632^5639の遺伝子産物」という用語は、好ましくは、HPV16の3632^5639スプライスされたmRNA又は前記3632^5639スプライスされたmRNAによってコードされるHPV16の、26個のアミノ酸が切り詰められた、(それらによってコードされる)それぞれのL1ポリペプチドを指す。HPVのL1ポリペプチドは、カプシドタンパク質である。増殖感染の後期段階中、主要なカプシドタンパク質であるL1ポリペプチドは、上皮の上部近くの分化細胞内で発現され、そしてHPV16のL2ポリペプチドと共に顆粒層内でウイルスカプシドを形成する。前記3632^5639スプライスされたmRNAによってコードされる、26個のアミノ酸が切り詰められた、L1ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号6に示す。前記L1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を、配列番号7に示す。
【0033】
3632^5639スプライスされたmRNAは、好ましくは、3632位の供与ヌクレオチドを5639位の受容ヌクレオチドに連結することによって作り出される核酸配列を含んでなる。従って、3632^5639スプライスされたmRNAは、好ましくは、スプライスジャンクションを含めた前記核酸配列を含んでなる。好ましくは、前記スプライスされたmRNAは、配列番号8に示した核酸配列を含んでなる(対応するDNA配列が示される)。
【0034】
本明細書中で使用する「880^3358の遺伝子産物」という用語は、好ましくは、HPV16の880^3358スプライスされたmRNA又は前記880^3358スプライスされたmRNA、好ましくはHPV16のE4ポリペプチドとE1ポリペプチドのN末端の融合ポリペプチドである前記ポリペプチド、によってコードされるHPVのポリペプチドを指す。前記融合ポリペプチドは、E1^E4と呼ばれることも多い。前記ポリペプチドは、ウイルス生活環の後期相で発現される。それは、有棘及び顆粒細胞層において検出され、そしてHPV16の感染の後期にいくつかの機能を果たす。融合ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号9に示す。前記融合ペプチドをコードする核酸配列を、配列番号10に示す。880^3358の遺伝子産物は、図1に示した種A‐D、及びQ‐Sによってコードされることが示された。
【0035】
880^3358スプライスされたmRNAは、好ましくは、880位の供与ヌクレオチドを3358位の受容ヌクレオチドに連結することによって作り出される核酸配列を含んでなる。従って、880^3358スプライスされたmRNAは、好ましくは、スプライスジャンクションを含めた前記核酸配列を含んでなる。好ましくは、前記スプライスされたmRNAは、配列番号11に示した核酸配列を含んでなる。従って、HPV16のE1^E4融合ポリペプチドは、配列番号12に示したアミノ酸配列を含んでなることが好ましい。
【0036】
本明細書中で使用する「E6*Iの遺伝子産物」という用語は、好ましくは、HPV16の226^409スプライスされたmRNA、又は前記226^409スプライスされたmRNAによってコードされるHPVのE6*Iポリペプチドを指す。E6*IポリペプチドがウイルスLCRを転写活性化する可能性があることが示唆されている(Alloul, N., and L. Sherman. 1999. Transcription-modulatory activities of differentially spliced cDNAs encoding the E2 protein of human papillomavirus type 16. J Gen Virol 80 (Pt 9):2461-70.)。前記融合ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号13に示す。前記融合ペプチドをコードする核酸配列を、配列番号14に示す。
【0037】
226^409スプライスされたmRNAは、好ましくは、226位の供与ヌクレオチドを409位の受容ヌクレオチドに連結することによって作り出される核酸配列を含んでなる。従って、226^409スプライスされたmRNAは、好ましくは、前記核酸配列を含んでなる。好ましくは、前記スプライスされたmRNAは、配列番号15に示した核酸配列を含んでなる。従って、HPV16のE6*Iポリペプチドは、配列番号16に示したアミノ酸配列を含んでなることが好ましい。
【0038】
Ubc、U1A、及びApm1は、宿主細胞のゲノムによって含まれる遺伝子である。よって、前記遺伝子はHPV16のゲノムによってコードされない。また、本発明との関連において、宿主特異的である前記遺伝子は、細胞遺伝子とも呼ばれる。Ubc、U1A、及びApm1の遺伝子産物は、好ましくは、mRNA、及び前記遺伝子によってコードされるポリペプチドである。よって、本発明の方法は、Ubc、U1A及びApm1 mRNA又はUbc、U1A及びApm1ポリペプチドの量の決定を企図する。
【0039】
本明細書中で意味する「Ubc」という用語は、好ましくは、ユビキチンC、好ましくはヒト・ユビキチンCを指す。ヒトUbc1の核酸配列及びアミノ酸配列は、当該技術分野で周知であり、そして、例えばジェンバンク(GenBank)受入番号:NM_021009.4(核酸配列、配列番号17)及びジェンバンク受入番号:NP_066289.2(アミノ酸配列、配列番号18)に示されている。
【0040】
本明細書中で意味するU1Aという用語は、好ましくは、U1小核リボ核タンパク質ポリペプチドAのことを、好ましくはヒトのU1小核リボ核タンパク質ポリペプチドAを指す。ヒトU1Aの核酸配列及びアミノ酸配列は、当該技術分野で周知であり、そして、例えばジェンバンク受入番号:NM_004596.3(核酸配列、配列番号19)及びジェンバンク受入番号:NP_004587.1(アミノ酸配列、配列番号20)に示されている。
【0041】
本明細書中で意味するApm1という用語は、好ましくは、「ME180細胞内へのパピローマウイルスDNA組み込みによって影響を受けた」又は「ジンクフィンガー及びBTBドメイン含有7C」(ZBTB7C)を指す。ヒトApm1の核酸配列及びアミノ酸配列は、当該技術分野で周知であり、そして、例えばジェンバンク受入番号:NM_001039360.1(核酸配列、配列番号21)及びジェンバンク受入番号:NP_001034449.1(アミノ酸配列、配列番号22)に示されている。
【0042】
本発明の方法はさらに、E1転写物を含むポリヌクレオチドの量の決定、又はE1ポリペプチドの量の決定を企図する。前記ポリヌクレオチド及び前記ポリペプチドは、HPV16ゲノムによってコードされる。
【0043】
E1ポリペプチドは、非スプライスE1 ORF(オープン・リーディング・フレーム)含有転写物によってコードされる。E1は、ウイルス複製に不可欠であり、そしてSV40巨大腫瘍抗原と構造類似性を共有している。E1は、ATPアーゼ、ヘリカーゼ及びヌクレオチド結合活性を示し、細胞DNAポリメラーゼαと相互作用し、そしてLCRにおける複製のウイルス起源に対して細胞複製開始機構を動員する。E1転写物の核酸配列を配列番号23に示し、E1ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号24に示す。
【0044】
本発明の方法はさらに、E5転写物を含めたポリヌクレオチドの量の決定、又はE5ポリペプチドの量の決定を企図する。前記ポリヌクレオチド及び前記ポリペプチドは、HPV16ゲノムによってコードされる。
【0045】
E5ポリペプチドは、非スプライスE2/E5転写物(特に、種F‐J、P、図1を参照のこと)から発現されるが、E1^E4/E5転写物(種A‐D、Q、R)からは発現されない。宿主ゲノム内へのHPV16ゲノムの組み込みにより、E5ポリペプチドと転写物発現は、E2領域の断裂のため終わる。E5は、疎水性膜タンパク質であって、細胞内膜及び原形質膜内に見られる。E5二量体は、成長因子受容体であるEGF又はPDGF受容体と相互作用し、そしてそれらのリガンド非依存性二量化とそれに続く細胞質チロシン残基のリン酸基転移と細胞シグナル伝達タンパク質の動員を引き起こすので、感染の初期経過において重要であると考えられる。配列番号26にE5転写物の核酸配列は配列番号25に示されており、E5ポリペプチドのアミノ酸配列は示されている。
【0046】
本発明の方法はまた、完全長L1転写物を含めたポリヌクレオチドの量の決定又は完全長L1ポリペプチドの量の決定を企図する。前記ポリヌクレオチド及び前記ポリペプチドは、HPV16ゲノムによってコードされる。
【0047】
先に記載したとおり、HPVのL1ポリペプチドは、カプシドタンパク質である。増殖感染の後期段階中、主要なカプシドタンパク質であるL1ポリペプチドは、上皮の上部近くの分化細胞内で発現され、そしてHPV16のL2ポリペプチドと共に顆粒層内でウイルスカプシドを形成する。完全長L1転写物の核酸配列は配列番号27に示されており、完全長L1ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号28に示す。
【0048】
遺伝子産物量の決定は、好ましくは、遺伝子産物の性質、すなわち、遺伝子産物が転写物であるか、ポリペプチドであるかに依存する。
【0049】
被験体の試料中の転写物の量、要するにmRNAの量の決定は、適当であると思われるあらゆる方法によっておこなわれることができる。
【0050】
好ましくは、転写物の量は、分析すべき転写物を特異的に検出するプローブ・オリゴヌクレオチドを使用することによって決定される。
【0051】
特異的なプローブ・オリゴヌクレオチドによる転写物又はその増幅産物の量の決定は、好ましくは、転写物又はその増幅産物(「増幅産物」の説明に関して、下記を参照のこと)を、前記転写物又はその増幅産物に特異的に結合するプローブ・オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせるステップを含んでなる。本発明との関連においてプローブ・オリゴヌクレオチドは、好ましくは、前記転写物又はその増幅産物に特異的な1本鎖核酸分子である。当業者は、プローブ・オリゴヌクレオチドが標的に特異的にハイブリダイズする、要するに標的ポリヌクレオチドに相補的である一続きのヌクレオチドを含んでなることを知っている。前記一続きのヌクレオチドは、好ましくは、標的ポリヌクレオチドに含まれる配列領域に対して85%、90%、95%、99%、又はより好ましくは100%同一である。
【0052】
転写物又はその増幅産物の特異的検出を可能にするために、プローブ・オリゴヌクレオチドは、好ましくは、検出すべき転写物又は増幅産物には特異的に結合するが、前記試料に含まれる他のポリヌクレオチドには結合しない。好適なプローブ・オリゴヌクレオチドをどのように選択するかは、当該技術分野で知られている。
【0053】
本発明のプローブ・オリゴヌクレオチドは、標識されても、転写物若しくはその増幅産物の量の決定を可能にする酵素を含めた他の修飾を含んでもよい。標識は、当該技術分野で周知であり、且つ、使用される標識による様々な技術によっておこなわれることができる。好ましい標識を、この明細書中の他の場所に記載する。
【0054】
プローブ・オリゴヌクレオチドは、固体表面に結合させても、液相中に存在していてもよい。一例として、プローブ・オリゴヌクレオチドを、固体表面を提供する担体に結合させる。好ましくは、前記担体は小粒子又はビーズである。小粒子又はビーズの外形サイズは、好ましくは、マイクロメートル又はナノメートルの範囲内であり得る。前記ビーズ及び粒子を、特定の色素、より好ましくは特定の蛍光色素で染色してもよい。好ましくは、様々な色素で様々な担体を染色することによって、その担体は、互いに判別されることが可能になる。特定のプローブ・オリゴヌクレオチド(よって特定の配列の増幅ポリヌクレオチドを標的とする核酸)に関して特定の色素を含む担体を使用することによって、前記担体は、異なる色素を含むその他の担体と判別できる。1つの好ましい実施形態では、市販のLuminexミクロスフェア(Luminex Corp., Austin, Texas, USA)が使用される。よって、転写物又はその増幅産物の検出のために、プローブを、好適な条件下、好ましくはストリンジェント条件下、増幅産物とハイブリダイズさせる蛍光標識ポリスチレンビーズ(Luminex懸濁液アレイ技術)と対にする。さらに、増幅産物は、マイクロアレイ法、Reverse‐Line Blots(RLB)法、Dotブロット法又は好適な担体に連結された特定のオリゴヌクレオチドを含む同様の技術の使用によって識別されてもよい。液相中に存在するプローブ・オリゴヌクレオチドは、固定された標的核酸分子又は増幅ポリヌクレオチドに結合することができる。当業者によって知られる特定の標識又は修飾が、標的の検出又はシグナル増幅を可能にすることもある。加えて、増幅産物は、サイズ分離、例えばゲル又はキャピラリー電気泳動によって、例えば核磁気共鳴を使用したヌクレオチド組成によって、又は本明細書中の他の場所に記載したリアルタイム及びシグナル増幅によって検出されることもできる。
【0055】
当業者は好適なプローブ・オリゴヌクレオチドを選択できる。スプライスされた転写物の決定のために、スプライスジャンクションに特異的に結合する、要するにそれぞれの特定のスプライス供与ヌクレオチドとスプライス受容ヌクレオチドをつなぐことによって作り出される核酸配列に結合するプローブ・オリゴヌクレオチドを使用することによって前記選択的にスプライスされたmRNAの量を決定することが特に企図される。
【0056】
従って、880^2582スプライスされたmRNAの決定のためのプローブ・オリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号4に示した核酸配列を含んでなる。
【0057】
さらに、3632^5639スプライスされたmRNAの決定のためのプローブ・オリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号8に示した核酸配列を含んでなる。
【0058】
また、880^3358スプライスされたmRNAの決定のためのプローブ・オリゴヌクレオチドは、好ましくは配列番号11に示した核酸配列を含んでなる。
【0059】
さらに、E6*I転写物、要するに226^409スプライスされたmRNAの決定のためのプローブ・オリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号15に示した核酸配列を含んでなる。
【0060】
本明細書中で言及したその他の転写物の決定のための好ましいプローブ・オリゴヌクレオチドを、表1に示す。
【0061】
好ましくは、転写物の量の決定は、前記転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを用いて前記転写物を増幅し、そしてそのようにして増幅された転写物の量を決定するステップを含んでなる。よって、転写物の量の決定のために、本明細書中の他の場所に記載した好適な方法によって転写物を増幅し、その後、その増幅産物の量を決定することが特に好ましい。あるいは、転写物の量の決定は、前記転写物に特異的に結合し、そして線形シグナル増幅とその後の増幅されたシグナルの決定を可能にするオリゴヌクレオチド・プローブを用いたシグナル増幅法によって達成される。
【0062】
転写物をどのように増幅するかは、当該技術分野で周知である。転写物の増幅は、好ましくは、初期量に応じて対応する核酸分子の量の増大をもたらす鋳型依存性の過程である。増幅産物は、好ましくは、核酸、DNA又はRNAである。転写物の増幅が、周知の方法による転写物の逆転写過程などの追加ステップを含んでもよいことが理解されるべきである。
【0063】
標的シグナルをどのように増幅するかは、当該技術分野で周知である。シグナルの増幅は、好ましくは、初期量に応じてレポーターシグナルの量の増大をもたらす鋳型依存性の過程である。そのレポーターシグナルは、好ましくは、可視光、蛍光、化学発光、及び発光である。シグナル増幅のための方法は、当該技術分野で周知であり、そしてチラミド(tyramide)シグナル増幅法、分岐DNA増幅法、Dendrimer(登録商標)増幅法、padlock及びrolling circle増幅法、Invader(登録商標)シグナル増幅法、及び他のシグナル増幅法を基にすることもできる。
【0064】
目的の転写物の増幅は、周知の方法によって、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、逆転写酵素PCRによって、リアルタイムPCR、核酸配列ベースの増幅法(NASBA)、転写媒介型増幅法(TMA)、及びポリメラーゼとプライマーとして特異的なオリゴヌクレオチドを使用するその他の等温増幅法によって実施することもできる。PCR法は当該技術分野で周知である。好ましくは、その増幅は、好適なオリゴヌクレオチド対を使用することによる。
【0065】
本発明は、前記技術のいずれにも制限されない。転写物の増幅のための代表的な方法として、NASBA技術が簡潔に要約され得る。NASBAは、単一温度での核酸の増幅のためのオリゴヌクレオチド依存型の技術である。増幅すべき転写物を含んでなる試料が、前記転写物の増幅のための少なくとも2種類の転写物特異的なオリゴヌクレオチドを含んでなる反応混合物に加えられる。T7 RNAプロモーター配列を含んでいる第1のオリゴヌクレオチドが、鋳型の3’末端の標的部位に結合する。逆転写過程によって、RNA/DNAハイブリッドが作り出される。酵素RNAseHがRNA部分を分解する。RNA鋳型の分解後に、第2のオリゴヌクレオチドが1本鎖cDNAの3’末端に結合して、完全なT7 RNAプロモーターを含む二本鎖DNAが作り出される。そして、酵素T7 RNAポリメラーゼが、アンチセンスRNAを線状に作り出す。それぞれの新たに合成されたアンチセンスRNA分子は、それ自体が第2のプライマーを含む鋳型として役割を果たすことができ、そして機能的なT7プロモーターを含むDNA中間体に変換される。しかしながら、この場合、新たに作り出されたRNA分子が本来の標的に対して向きが逆であり、且つ、得られたDNA中間体が一部だけ二本鎖であるので、オリゴヌクレオチド・プライマーは、逆順でアニーリングする。このように、等温条件下でのRNA産物の線状合成をもたらす反応に再度加わる多くのRNAコピーがそれぞれのRNA標的から作り出される。約106倍〜109倍増幅が、90分以内に得られる(Compton, J. 1991. Nucleic acid sequence-based amplification. Nature 350:91-2)。
【0066】
本明細書中に言及したスプライスされたmRNAを特異的に増幅するために、転写物の増幅のためのオリゴヌクレオチド対は、好ましくは、それぞれのスプライスジャンクションを含んでなる核酸領域を特異的に増幅できなくてはならない。そのため、増幅のためのオリゴヌクレオチドは、転写物(又はその相補鎖、特に本明細書中の他の場所に記載したアプローチによって作り出された相補的DNA又はRNA鎖)のスプライスジャンクションの5’側と3’側(一方のプライマーが3’側、一方のプライマーが5’側)に特異的に結合しなくてはならない。前記オリゴヌクレオチドを使用することによって作り出される増幅産物は、それぞれのスプライスジャンクションを含み得る。
【0067】
従って、880^2582スプライスされたmRNAの増幅のための好ましいオリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号29及び配列番号30に示した核酸配列を含んでなる。
【0068】
3632^5639スプライスされたmRNAの増幅のための好ましいオリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号31及び配列番号32に示した核酸配列を含んでなる。
【0069】
880^3358スプライスされたmRNAの増幅のための好ましいオリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号29及び配列番号33に示した核酸配列を含んでなる。
【0070】
E6*I転写物、及び226^409スプライスされたmRNAの増幅のための好ましいオリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号34及び配列番号34に示した核酸配列を含んでなる。
【0071】
本明細書中に言及したその他のmRNAの増幅のための好ましいオリゴヌクレオチドを、表3に示す。
【0072】
本願発明で言及したポリヌクレオチド又はその増幅産物の量の決定は、量又は濃度を、好ましくは半定量的又は定量的に計測することに関する。好ましくは、前記決定は、転写物の定量のための標準化ステップを含む。典型的なものとして、この標準化の過程は、NASBA標的増幅法のために簡潔に記載され得る。標準化とそれによる定量化は、増幅混合物に所定の量のキャリブレーターRNA(Q‐RNA)を加えることによって達成されることが好ましい。前記キャリブレーターRNAは、好ましくは、分析すべき転写物を特異的に増幅できる同じオリゴヌクレオチドによって増幅され得る試験管内転写RNAでなくてはならない。しかしながら、前記Q‐RNAは、プローブ・オリゴヌクレオチドに特有の標的部位(すなわち、分析すべき転写物に含まれていない標的部位)を含んでいなくてはならない。前記特有の標的部位は、分析すべき転写物の増幅産物とQ‐RNAの増幅産物を判別することを可能にしなくてはならない。標準化の原理は、同じオリゴヌクレオチド対を用いたQ‐RNAと分析すべきmRNAとの拮抗同時増幅である(van Gemen et al. 1993: Quantification of HIV-1 RNA in plasma using NASBA during HIV-1 primary infection. J Virol Methods 43:177-87)。本発明との関連において、Q‐RNA量は、好ましくは、分析すべき各mRNAに対して量を決定する必要があることが理解されるべきである。定量化のために、発現レベルは、試験管内転写mRNAを使用した検量線又は好適な基準物質と比較される。これは、余分な手間をかけることなく当業者によっておこなわれることができる。
【0073】
本発明との関連において、転写物の増幅のためのオリゴヌクレオチドは、標的ポリヌクレオチドの一続きの配列に特異的に結合するために十分である多数のヌクレオチドを含んでいなくてはならない。好ましくは、本明細書中で意味するオリゴヌクレオチドは、15〜35ヌクレオチドの長さ、より好ましくは18〜30ヌクレオチドの長さ、そして最も好ましくは20〜27ヌクレオチドの長さを有する。本発明との関連において、プローブ・オリゴヌクレオチドは、本明細書中で言及した転写物、及び/又は前記転写物の増幅産物の検出を可能にする(本明細書中の他の部分を参照のこと)。転写物又はその増幅産物を検出することによって、特定の転写物の量を、HPV16に感染している被験体の試料中で評価できる。転写物若しくはその増幅産物の特異的検出を可能にするために、プローブ・オリゴヌクレオチドは、前記転写物若しくはその増幅産物に対して、又は前記転写物若しくは前記その増幅産物の一部に対して十分に相補的でなければならない。特に好ましいオリゴヌクレオチドは、本明細書中で言及した特定の配列及び/又は特性を有する。
【0074】
特に、前記オリゴヌクレオチドは、ストレプトアビジンの表面又は蛍光コンジュゲートへの増幅産物の結合を可能にするためにビオチン化されることもできる。さらに、本発明との関連において使用される標識は、とりわけ蛍光色素、例えばR‐フィコエリトリン、Cy3、Cy5、フルオレセイン、ローダミン、Alexa、又はTexas Redなどを含めた蛍光標識であってもよいが、これだけに限定されるものではない。しかしながら、標識はまた、酵素又は抗体であってもよい。標識として使用されるべき酵素は基質と反応することによって検出可能なシグナルを生じることが想定される。好適な酵素、基質、及び技術は、当該技術分野で周知である。標識として使用されるべき抗体は、直接的に(例えば、それ自体が蛍光である標的分子)又は間接的に(例えば、酵素などの検出可能なシグナルを発生する標的分子)検出されることができる標的分子を特異的に認識してもよい。さらに、オリゴヌクレオチドは、前記標識又は修飾のいずれかを含み得る相補的な検出プローブへのハイブリダイゼーションによって検出を可能にする一般的配列を含んでいてもよい。本発明のオリゴヌクレオチドはさらに、5’制限部位、ロックド核酸分子(LNA)を含んでいても、又はペプチド核酸分子(PNA)の一部であってもよい。かかるPNAは、原則として、例えば抗体によってペプチド部分を介して検出されることができる。
【0075】
本発明による転写物の量を決定するためのアレイ・ベースの技術の使用もまた、転写物(又はその増幅産物)の量の決定のために企図される。本明細書中で言及したアレイは、規則的パターンで配置された様々な固定されたポリヌクレオチドの試料を含んでいる、例えば、小さな膜、ナイロン膜、若しくはガラススライドを用いた固体支持体、例えばマイクロアレイを含んでなるシステムである。あるいは、ビーズ・アレイは、プローブ・オリゴヌクレオチドの多重化を可能にする明確に蛍光標識されたミクロスフェア又はビーズから成っていてもよい。オリゴヌクレオチド・プローブは、好ましくは、遺伝子を示し、すなわち、それらは示されるべき遺伝子の核酸配列から成るか又はそれを含んでなる。アレイを使用することによって、多くの転写物又は遺伝子を、好ましくは、たった一回の実験で決定することができる。自動リーダー装置などの好適な分析器の助けによって、アレイ内のプローブに結合した標的の量を正確に計測できる。
【0076】
この明細書中で言及したペプチド又はポリペプチドの量の決定は、量又は濃度を、好ましくは半定量的に又は定量的に計測することに関する。計測は、直接的又は間接的におこなうことができる。直接計測は、ペプチド若しくはポリペプチド自身から得られるシグナル、及び試料中に存在するペプチドの分子数と直接相関する強度に基づくペプチド又はポリペプチドの量又は濃度の計測に関する。そういったシグナル‐本明細書中では強度シグナルとよばれることもある‐を、例えばペプチド又はポリペプチドの特有の物理的又は化学的特性の強度値を計測することによって、得ることもできる。間接計測には、二次的な成分(すなわち、成分はペプチド又はポリペプチド自体でない)、又は生物学的読み出しシステムから得られたシグナル、例えば計測可能な細胞応答、リガンド、標識、又は酵素反応産物から得られたシグナルを計測することを含む。
【0077】
本発明によれば、ペプチド又はポリペプチドの量の決定は、試料中のペプチドの量を決定するあらゆる公知の手段によって達成できる。前記手段には、様々なサンドイッチアッセイ、競合アッセイ、又はその他のアッセイ形式で標識分子を利用することができるイムノアッセイ・装置及び方法が含まれる。前記アッセイは、ペプチド又はポリペプチドの存在又は不存在を示すシグナルを発する。さらに、シグナル強度は、好ましくは、試料中に存在しているポリペプチドの量に直接的又は間接的に相関(例えば、反比例)し得る。
【0078】
更なる適切な方法には、ペプチド又はポリペプチドに特有な物理的又は化学的特性、例えば正確なその分子量又はNMRスペクトルなどを計測することが含まれる。前記方法には、好ましくは、バイオセンサー、イムノアッセイと組み合わせた光装置、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器、又はクロマトグラフィー・装置などが含まれる。さらに、方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、全自動又はロボット化イムノアッセイ(例えば、Elecsys(商標)分析器で使用可能)、CBA(酵素コバルト結合アッセイ、例えばRoche‐Hitachi(商標)分析器で使用可能)、及びラテックス凝集反応(例えば、Roche‐Hitachi(商標)分析器で使用可能)が含まれる。
【0079】
ポリペプチドの量の決定は、好ましくは、決定すべきポリペプチドに特異的に結合する抗体の使用を含んでなる。好ましくは、決定されるべきポリペプチドが、特異的にスプライスされたHPV転写物の翻訳から誘導される場合には、抗体は、スプライスジャンクションに隣接している核酸によってコードされるポリペプチドの領域に特異的に結合しなくてはならない。
【0080】
好ましくは、(880^2582スプライスされたmRNAによってコードされる)E1Cポリペプチドの量の決定のために、抗体は配列番号5に示したアミノ酸配列を持っているペプチドに特異的に結合しなくてはならない。
【0081】
好ましくは、(226^409スプライスされたmRNAによってコードされる)E6*Iポリペプチドの量の決定のために、抗体は配列番号16に示したアミノ酸配列を持っているペプチドに特異的に結合しなくてはならない。
【0082】
好ましくは、(880^3358スプライスされたmRNAによってコードされる)E1^E4融合ポリペプチドの量の決定のために、抗体は配列番号12に示したアミノ酸配列を持っているペプチドに特異的に結合しなくてはならない。
【0083】
本明細書中で使用する「量」という用語は、前記遺伝子産物の絶対量、前記遺伝子産物の相対量又は濃度、及びこれらと相関する又はそれに由来し得る任意の値又はパラメーターを包含する。そういった値又はパラメーターには、直接決定によって前記遺伝子産物から得られる特有の物理的又は化学的特性についてのすべての強度シグナル値が含まれる。さらに、この明細書中の他の場所で指定された間接計測によって得られるすべての値又はパラメーターが包含される。例えば、ポリペプチドに関して、反応レベルは、当該ペプチドに応答する生物学的読み出しシステムから、又は特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナルから決定できる。前記量又はパラメーターと相関する値がさらに、すべての標準的な数学的操作によっても得られ得ることが理解されるべきである。
【0084】
本明細書中で使用する「比較」という用語は、この明細書の他の場所に指定した好適な基準源に対して、本発明の方法のステップa)で決定される第1遺伝子産物量と、本発明の方法のステップb)で決定される前記第2遺伝子産物量の比を計算することによって決定される値を比較することを包含する。本明細書中で使用する比較は、値の比較を指すことが理解されるべきである。本発明の方法のステップd)で言及する比較は、手動で実施してもコンピューターに補助されて実施してもよい。コンピューターに補助された比較では、決定された量の値は、コンピュータープログラムによってデータベース内に保存された好適な基準に相当する値と比較することもできる。コンピュータープログラムは、比較の結果をさらに評価することもできる、すなわち、好適な出力形式で所望の評価を自動的に提供することもできる。基準比と、本発明の方法のステップc)で計算された比の比較に基づいて、HPV16を患っている被験体において軽症型のHPV16への感染と重症型のHPV16への感染を判別することが可能である。そのため、基準は、比較した値の相違又は類似のいずれかが、軽症型のHPV16への感染と重症型のHPV16への感染を判別することか可能にするように選択されるべきである。
【0085】
従って、本明細書中で使用する「基準」又は「基準比」という用語は、好ましくは、HPV16感染の軽症型と重症型の判別を可能にする値を指す。従って、基準は、本発明の方法のステップa)及びb)を実施し、そして本発明の方法のステップa)で決定される、HPV16感染を患っている被験体の試料中の第1遺伝子産物量と、本発明の方法のステップb)で決定される前記第2遺伝子産物量の比について計算することから得ることができ、ここで前記被験体は重症型のHPV16感染、例えばHSIL又は子宮頚癌などに罹患していることが知られる。また、基準は、本発明の方法のステップa)及びb)を実施し、そして被験体において、本発明の方法のステップa)で決定される、HPV16感染を患っている被験体の試料中の第1遺伝子産物量と、本発明の方法のステップb)で決定される、HPV16を患っている被験体の試料中の前記第2遺伝子産物量の比について計算することから得ることができ、ここで前記被験体は軽症型のHPV16感染(例えば、LSILと分類される形態)を示すことが知られる。さらに、基準量は、好ましくは、閾値を規定する。好適な基準比又は閾値は、検査試料と一緒に、すなわち、同時に又はそれに続いて分析されるべき基準試料から本発明の方法によって決定することもできる。基準又は閾値の値は、遺伝子産物(転写物又はポリペプチド)の性質によって、又はどれ位の遺伝子産物量が試料中で決定されたかによって異なり得ることが理解されるべきである。例えば、第1及び第2遺伝子産物量の決定がPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による遺伝子産物の増幅を伴う場合、例えば特定の遺伝子産物の増幅用の様々なオリゴヌクレオチド対の増幅効率が異なるので、遺伝子産物量の決定はPCR反応に使用されるオリゴヌクレオチドに依存することがある。しかしながら、当業者は、基準比について計算するときにこのことを考慮している。特に、当業者は、好ましくは、同じ手段と方法が基準試料中及び検査試料中の特定の遺伝子産物量を決定するために使用されなければならないことを知っている。
【0086】
閾値としての役割を果たす好ましい基準比は、正常上限(ULN)、すなわち、被験体(例えば臨床検査に登録された患者)の集団で見られる生理学的量の上限、から得ることができる。所定の被験体集団のULNは、様々な周知の技術によって決定できる。
【0087】
好ましくは、本発明との関連において計算される比は、第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比である。また、第2遺伝子産物量対第1遺伝子産物の比もまた計算され得ることが理解されるべきである。
【0088】
第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比が計算される場合、好ましくは、以下の事項が適用される:
【0089】
好ましくは、基準比より高い、検査試料において計算された比は、重症型のHPV感染を示す。より好ましくは、基準比より著しく高い、検査試料において計算された比は、重症型のHPV感染を示す。最も好ましくは、基準比より統計的に有意に高い、検査試料において計算された比は、重症型のHPV感染を示す。重症型のHPV感染を示す好ましい比を表5に示す。
【0090】
好ましくは、基準比より低い、検査試料において計算された比は、軽症型のHPV感染を示す。より好ましくは、基準比より著しく低い、検査試料において計算された比は、軽症型のHPV感染を示す。最も好ましくは、前記計算された比は、基準比より統計的に有意に低い。軽症型のHPV感染を示す好ましい比を表5に示す。
【0091】
特に、基準比より著しく高い(若しくはより低い)又は統計的に有意に高い(若しくは低い)比は、本明細書中で言及した判別のために著しいと見なされる程度の比である。「より高い」、「著しく高い」、「統計的に有意に高い」、「低い」、「著しく低い」、及び「統計的に有意に低い」という用語は、当業者に知られている。よって、比が、高い(若しくは低い)、著しく高い(若しくは低い)、又は統計的に有意に高い(若しくは低い)かどうかは、様々な周知の統計的評価ツールを使用することで当業者によって余分な手間をかけることなく決定できる。
【0092】
好ましくは、基準比より高い、検査試料中の第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比は、重症型のHPV感染を示す。好ましくは、前記第1遺伝子産物は、880^2582の遺伝子産物、好ましくは880^2582スプライスされたmRNAであり、好ましくは前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、好ましくは3632^5639スプライスされたmRNAである。
【0093】
好ましくは、基準比より低い、検査試料中の第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比は、軽症型のHPV感染を示す。好ましくは、前記第1遺伝子産物は、880^2582、好ましくは880^2582スプライスされたmRNAの遺伝子産物であり、好ましくは前記第2遺伝子産物は、3632^5639、好ましくは3632^5639スプライスされたmRNAの遺伝子産物である。
【0094】
第1遺伝子産物対その他の第2遺伝子産物量であって880^2582を持つ好ましい基準比を、表5に要約する。
【0095】
有益なことには、HPV16を患っている被験体の試料中の、本明細書中に示した第1遺伝子産物量を決定し、及び被験体の試料中の、本明細書中に示した第2遺伝子産物量を決定し、前記第1遺伝子産物の前記量と前記第2遺伝子産物の前記量の比を計算し、そして前記比を基準と比較することが、HPV16感染の軽症型と重症型を確実に判別するために必要であることが示された。特に、以下の比が、軽症型又は重症型のHPV感染に罹患しているHPV保菌被験体の合計80個の試料において計算された(実施例もまた参照のこと):HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16の3632^5639スプライスされたmRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16の880^3358スプライスされたmRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対Apm1 mRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対Ubc mRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対U1A mRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16の3632^5639スプライスされたmRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16のE1 mRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16のE1 mRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16のE5 mRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16のL1 mRNAの量の比、HPV16の880^2582スプライスされたmRNAの量対HPV16の226^409スプライスされたmRNAの量の比。計算された比は、次第に軽症型のHPV16感染(特にNIL/M)から重症型のHPV16感染(特に子宮頚部癌)へと非常に著しい差異が示されたことが明らかになった。特に、完全長ORF含有転写物の量の決定に比べて、スプライスされた転写物の発現レベルを決定することは、(p値で示したように)HPV関連疾患の病期を示していることが観察された。さらに、本発明の方法は、従来技術のものに比べて高い特異性と感度でHPV感染の軽症型と重症型を判別することを可能にする。
【0096】
US20070154884では、E6及び/又はE7の発現レベルとL1及び/又はE2の発現レベル、並びにE6及び/又はE7対L1及び/又はE2の比が決定され、ここでは、2より大きな比がHPV誘導細胞形質転換と新生物のリスクを示していた。同様に、WO/2001/073135及びWO/2003/057914では、E6、E7又はE6/E7領域の転写物の存在又は不存在、並びにヒト・パピローマウイルスのL1、L2又はL1/L2領域の転写物の存在又は不存在を検出することによってヒト・パピローマウイルス感染の進行を判断するための方法が記載されており、ここで、E6、E7又はE6/E7領域の転写物の不存在及びL1、L2又はL1/L2領域の転写物の不存在が、ヒト・パピローマウイルス感染なしを意味し;E6、E7又はE6/E7領域の転写物の存在及びL1、L2又はL1/L2領域の転写物の存在が、早期ヒト・パピローマウイルス感染を意味し、そしてE6、E7又はE6/E7領域の転写物の存在及びL1、L2又はL1/L2領域の転写物の不存在が、末期ヒト・パピローマウイルス感染を意味する。
【0097】
本発明で提示されたデータによると、完全長ORF含有転写物の量の決定に比べて、スプライスされた転写物の発現レベルを決定することに基づいてHPV関連疾患の臨床的に有用な評価をすることが可能であり、そして(表6、p値で示したように)HPV関連疾患の病期をさらに示した。好ましくは、2種類の遺伝子産物の示す比において、少なくとも一方がスプライスされた転写物880^2582であり;そして最も好ましくは両方の遺伝子産物がスプライスされた転写物に由来する。この方法は、技術的に簡単であり、好ましい実施形態では、高速大量処理形式による自動化に適している。さらに、本発明の方法を使用することで得られた結果に基づいて、患者の分類のための新たなスキームを、HPV遺伝子発現のパターンにおける疾患関連分子変化と関係がある高グレード病変又は子宮頚癌を発症するリスクに基づいて規定した(図8、実施例8)。
【0098】
よって、本発明の方法は、HPV感染の軽症型と重症型の迅速で、確実で、安価な判別を可能にするので、特に有益である。特に、前記方法は、リスクが高い、要するに癌に罹りやすい被験体、及び/又は癌療法、癌検査、特に膣鏡検査や組織学的検査、及び潜在的治療法を必要としている被験体を特定することを可能にする。さらに、前記方法は、軽症型のHPV感染だけに罹患していて、且つ、追加的な徹底的な検査や治療法を必要としない被験体を特定することを可能にする。本発明の方法を適用することがなければ、前記被験体は、過剰な検査及び処置を受けたかもしれない(そして、不都合な副作用の高いリスクや高い医療費につながる)。
【0099】
前記方法に関する定義は、別段の記述のない限り、必要な変更を加えて下記の事項に適用される。
【0100】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は、E6*IIの遺伝子産物であり、
b)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、及びE5の遺伝子産物から成る群から選択され、
c)ステップa)で決定した前記第1遺伝子産物量とステップb)で決定した前記第2遺伝子産物量の比を計算し、
d)ステップc)で計算した比を基準比と比較し、そして、
e)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる方法に関する。
【0101】
前記方法は、好ましくは、以下の比の計算を想定する:E6*II(好ましくはHPV16の226^526スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とApm1(好ましくはAmp1 mRNA)の遺伝子産物量の比、又はE6*II(好ましくはHPV16の226^526スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とUbc(好ましくはUbc mRNA)の遺伝子産物量の比、又はE6*II(好ましくはHPV16の226^526スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量とE5(好ましくは非スプライスE5 mRNA)の遺伝子産物量の比、又はE6*II(好ましくはHPV16の226^526スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量と880^2709(好ましくは880^2709スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量の比、又はE6*II(好ましくはHPV16の226^526スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量と880^3358(好ましくは880^3358スプライスされたmRNA)の遺伝子産物量の比。
【0102】
本明細書中で使用する「E6*IIの遺伝子産物」という用語は、好ましくは、HPV16の226^526スプライスされたmRNA又は前記226^526スプライスされたmRNAによってコードされるHPV16のE6*IIポリペプチドを指す。好ましくは、mRNA種C、H、M(図1を参照のこと)は、226^526スプライスジャンクションを含んでなる。
【0103】
E6*IIポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号36に示す。前記E6*IIポリペプチドをコードする核酸配列を、配列番号37に示す。
【0104】
226^526スプライスされたmRNAは、好ましくは、226位の供与ヌクレオチドを526位の受容ヌクレオチドに連結することによって作り出される核酸を含んでなる。従って、226^526スプライスされたmRNAは、好ましくは、前記核酸配列を含んでなる。従って、前記スプライスされたmRNAは、配列番号38に示した核酸配列を含んでなる。従って、HPV16のE6*IIポリペプチドは、好ましくは、配列番号39に示したアミノ酸配列を含んでなる。
【0105】
標的増幅法、例えばPCR又はNASBAを使用することで、226位の供与ヌクレオチドの5’側と526位の受容ヌクレオチドの3’側(比較図1)に結合するE6*II特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用することによって、E6*Iの遺伝子産物量は、E6*IIの遺伝子産物の検出と同時に検出できる。よって、本発明に記載のE6*IIオリゴヌクレオチドプライマーもまた、E6*I転写物の得られた263ヌクレオチドの長さの断片にアニールし、そして増幅できる。E6*IIプライマーによって増幅されたE6*I転写物断片は、E6*I特異的オリゴヌクレオチドプローブによって検出できる。
【0106】
ポリペプチドE7は、すべてがnt226のスプライス供与部位そしてそれぞれnt409又はnt526のスプライス受容部位を使用する、選択的にスプライスされたE6*I mRNA(種B、G、L、図1を参照のこと)及びおそらく選択的にスプライスされたE6*II mRNA(種C、H、M、図1を参照のこと)から翻訳される。E7はさらに、リーキースキャニング(leaky scanning)によって完全長E6/E7 mRNAから翻訳されるとも考えられている。E7は核タンパク質であり、感染細胞においてG1‐から‐Sフェーズへの進行を促進している。それは、網膜芽細胞腫の腫瘍抑制タンパク質(pRB)に結合し、そしてそのユビキチン化とそれに続く分解を助けることによって機能する。E7の結合により、E2F転写因子のpRB介在性阻害が止まり、そして放出されたE2Fが細胞周期のS期の開始を刺激し、そして細胞複製につながるいくつかのタンパク質の発現を誘導する。加えて、E7は、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子、p21及びp27の機能を阻害し、且つ、S期遺伝子のサイクリンA及びサイクリンEを刺激する。E7ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの核酸配列を、配列番号40に示す。E7ポリペプチドのアミノ酸配列を、配列番号41に示す。
【0107】
ポリペプチドE6*Iは、選択的にスプライスされたE6*I mRNA(種B、G、L、図1を参照のこと)から翻訳され、それに対しポリペプチドE6*IIは、選択的にスプライスされたE6*II mRNA(種C、H、M、図1を参照のこと)から翻訳される。E6*Iポリペプチドは、HPV LCRの転写活性化因子として機能し得ると考えられている。今までのところ、E6*IIポリペプチドに割り当てられている機能はない。E6*Iポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号13に示す。E6*IIポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号36に示す。
【0108】
好ましくは、(226^526によってコードされる)E6*IIポリペプチドのスプライスされたmRNAの量の決定のために、抗体は、配列番号39に示したアミノ酸配列を持っているペプチドに特異的に結合しなくてはならない。
【0109】
さらに、226^526スプライスされたmRNA、要するにE6*II mRNAの量の決定のためのプローブ・オリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号38に示した核酸配列を含んでなる。
【0110】
226^526スプライスされたmRNAの増幅のための好ましいオリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号34及び配列番号42に示した核酸配列を含んでなる。
【0111】
前記方法との関連において言及したその他のポリペプチドの量の決定のための好ましい抗体、その他のmRNAの量の決定のための好ましいプローブ・オリゴヌクレオチド、及びその他のmRNAの増幅のための好ましいオリゴヌクレオチドを、本明細書中の他の場所(表1、表3、表7)に記載する。
【0112】
本明細書中で使用する「880^2709の遺伝子産物」という用語は、好ましくは、HPV16の880^2709スプライスされたmRNA、及び前記880^2709スプライスされたmRNAによってコードされるHPV16のE2ポリペプチドを包含する。
【0113】
E2ポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号79に示す。前記E2ポリペプチドをコードする核酸配列を、配列番号80に示す。
【0114】
880^2709スプライスされたmRNAは、好ましくは、880位の供与ヌクレオチドを2709位の受容ヌクレオチドに連結することによって作り出される核酸配列を含んでなる。従って、880^2709スプライスされたmRNAは、好ましくは、スプライスジャンクションを含む前記核酸配列を含んでなる。好ましくは、前記スプライスされたmRNAは、配列番号81に示した核酸配列を含んでなる。
【0115】
好ましくは、第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比が決定される。前記比に関して、基準比より高い、検査試料において計算された比は、好ましくは、重症型のHPV感染を示す。より好ましくは、基準比より著しく高い、検査試料において計算された比は、重症型のHPV感染を示す。最も好ましくは、前記計算された比は、基準比より統計的に有意に高い。重症型のHPV感染を示す好ましい比を、表5に示す。
【0116】
好ましくは、基準比より低い、検査試料において計算された(第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の)比は、軽症型のHPV感染を示す。より好ましくは、基準比より著しく低い、検査試料において計算された比は、軽症型のHPV感染を示す。最も好ましくは、前記計算された比は、基準比より統計的に有意に低い。軽症型のHPV感染を示す好ましい比を、表5に示す。
【0117】
有益なことには、HPV16を患っている被験体の試料中の、本明細書中に示した第1遺伝子産物量を決定し、及び被験体の試料中の、本明細書中に示した第2遺伝子産物量を決定し、前記第1遺伝子産物の前記量と前記第2遺伝子産物の前記量の比を計算し、そして前記比を基準と比較することが、HPV16感染の軽症型と重症型を確実に判別するために必要であることが示された。特に、以下の比が、軽症型又は重症型のHPV感染に罹患しているHPV保菌被験体の合計80個の試料において計算された(実施例もまた参照のこと):HPV16の226^526スプライスされたmRNAの量対Apm1 mRNAの量の比、HPV16の226^526スプライスされたmRNAの量対Ubc mRNAの量の比、HPV16の226^526スプライスされたmRNAの量対U1A mRNAの量の比、HPV16の226^526スプライスされたmRNAの量対HPV16の880^3358スプライスされたmRNAの量の比、HPV16の226^526スプライスされたmRNAの量対HPV16の880^2709スプライスされたmRNAの量の比、及びHPV16の226^526スプライスされたmRNAの量対HPV16のE5 mRNAの量の比。計算された比は、次第に軽症型のHPV16感染から重症型のHPV16感染へと非常に著しい差異が示されたことが明らかになった。さらに、本発明の方法は、従来技術のものに比べて高い特異性と感度でHPV感染の軽症型と重症型を判別することを可能にする。
【0118】
US20070154884では、E6及び/又はE7の発現レベルとL1及び/又はE2の発現レベル、並びにE6及び/又はE7対L1及び/又はE2の比が決定され、ここでは、2より大きな比がHPV誘導細胞形質転換と新生物のリスクを示していた。
【0119】
本発明の方法で提示されたデータによると、第2遺伝子産物、例えばUbc転写物に対する比較において、E6又はE7の完全長ORF含有転写物の量の決定に比べて、226^526スプライスされた転写物の発現レベルを決定することが、(表6、p値によって示したとおり)HPVベースの疾患の病期をより示している。驚いたことに、癌の進行中、226^526(E6*II)スプライスされた転写物の発現は、E6*I、E6又はE7の完全長ORF含有転写物に比べて、より強く上方制御されることがわかった(図4)。その結果、226^526スプライスされた転写物の遺伝子発現の決定は、HPV16感染の軽症型と重症型を判別するためにより有益である。好ましくは、E6*II発現の決定値が、前記第2遺伝子産物と比較される。さらに、本発明は、HPVの組み込み状況の分析のために、第2遺伝子産物、例えば880^3358、880^2709又はE5の完全長ORF含有転写物などと組み合わせたE6*IIが好適であることを説明する(図6)。特に、組み込み状況を検出する際に、これらの組み合わせは、当該技術分野で知られている他の組み合わせに比べてより確実であった。
【0120】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)第1の比を計算し、ここで、前記計算は以下のステップ:
a1)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は、880^2582の遺伝子産物であり
a2)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物、及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され、そして
a3)ステップa1)で決定した前記第1遺伝子産物量とステップa2)で決定した前記第2遺伝子産物量の第1の比を計算すること、
を含んでなり、
b)第2の比を計算し、ここで、前記計算は、以下のステップ:
b1)前記被験体の試料中の第3遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第3遺伝子産物は、E6*IIの遺伝子産物であり、
b2)前記被験体の試料中の第4遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第4遺伝子産物は、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、880^2709の遺伝子産物、及びE5の遺伝子産物から成る群から選択され、並びに
b3)ステップb1)で決定した前記第3遺伝子産物量とステップb2)で決定した前記第4遺伝子産物量の第2の比を計算すること、
を含んでなり、
c)ステップa)で決定された前記第1の比を第1の基準比と比較し、及びステップb)で決定された前記第2の比を第2の基準比と比較し、並びに、
d)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる方法に関する。
【0121】
好ましくは、前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物であり、好ましくは、前記第4遺伝子産物は、880^3358の遺伝子産物である。
【0122】
本発明との関連において、様々な遺伝子産物の好ましい基準比を、本明細書中の他の場所(表5)に記載する。
【0123】
好ましくは、第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物の比、及び第3遺伝子産物量対第4遺伝子産物の比が計算される。
【0124】
好ましくは、(i)前記第1の基準比より高い第1の比、及び/又は(ii)第2の基準比より高い第2の比は、重症型のHPV16感染を示唆している。よって、重症型のHPV16は、好ましくは、前記第1の比若しくは前記第2の比のいずれか、又はその両方が対応する基準比より高い場合に示唆される。
【0125】
好ましくは、(i)前記第1の基準比より低い第1の比、及び(ii)第2の基準比より低い第2の比は、軽症型のHPV16感染を示唆している。よって、軽症型のHPV16感染は、好ましくは、前記第1の比と前記第2の比の両方が対応する基準比より低い場合に示唆される。
【0126】
本発明との関連において、(前記方法のステップa)の)第1の比、及び前記方法の(ステップbの)第2の比を計算し、そして前記第1の比と前記第2の比を基準比と比較することが、HPV16感染の重症型と軽症型を確実に判別することを可能にすることが分かった。特に、前記第1の比を計算し、そして前記第1の比を基準比と比較することが、エピソーム型(下記を参照のこと)でHPV16ゲノムを含んでいるが、重症型のHPV感染を患っている(又はそのリスクがある)被験体を特定することを可能にすることがわかった。一般に、エピソーム型のみでHPV16ゲノムを含んでいる被験体は、組み込み型(「エピソーム型」及び「組み込み型」という用語の説明については、本明細書中、下記を参照のこと)でHPV16ゲノム含んでいる被験体に比べて、HSIL又は癌に罹患するリスクが低いと考えられている。しかしながら、エピソーム型のみでHPV16ゲノムを含んでいるいくらかの被験体が、重症型のHPV16感染に罹患しているか又はそれに罹患する高いリスクを有する徴候がある(Vinokurova, S., N. Wentzensen, I. Kraus, R. Klaes, C. Driesch, P. Melsheimer, F. Kisseljov, M. Durst, A. Schneider, and M. von Knebel Doeberitz. 2008. Type-dependent integration frequency of human papillomavirus genomes in cervical lesions. Cancer Res 68:307-13、Pett, M., and N. Coleman. 2007. Integration of high-risk human papillomavirus: a key event in cervical carcinogenesis? J Pathol 212:356-67)。先に記載したとおり第1の比を計算することによって、エピソーム型でHPV16ゲノムを持ち、且つ、重症型のHPV16感染に罹患している(又はそのリスクがある)被験体が、確実に特定できる。好ましくは、対応する第1の基準比より高い第1の比を有する被験体は、エピソーム型でHPV16ゲノムを含んでいるが、重症型のHPV16感染に罹患している(又はそのリスクがある)。好ましくは、基準比より低い第1の比は、前記罹患体は重症型のHPV16感染に罹患していないことを示唆している(第2の比もまた対応する基準比より低い、要するに前記被験体が組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいない場合には、下記を参照のこと)。
【0127】
さらに、第2の比を計算し、そして前記第2の比を第2の基準比と比較することが、組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいる被験体を確実に特定することを可能にすることがわかった。特に、第2の基準比より高い第2の比は、被験体が組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいることを示唆し、それに対し、第2の基準比より低い第2の比は、前記被験体が組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいないことを示唆している。
【0128】
よって、対応する基準比より高い第1の比及び/又は第2の比は、好ましくは、被験体が重症型のHPV16感染に罹患している(又はそのリスクがある)ことを示唆しているが、それに対して、対応する基準比より低い第1の比及び第2の比は、好ましくは、被験体が軽症型のHPV16感染に罹患していることを示唆している。よって、第1の比と第2の比の計算は、診断の特異性と感度を著しく高める。
【0129】
さらに、880^2582単独の遺伝子産物の決定は、エピソーム型でHPV16を含んでおり、且つ、重症型のHPV16感染に罹患している(又はそれに罹患するリスクがある)被験体を特定することを可能にすることが、本発明との関連において明らかになった。HPV関連疾患のこの臨床的に有用な評価は、HPV880^2582含有RNA転写物の発現の簡単な陽性又は陰性決定だけに基づいており、発現レベルの正確な定量決定又は2種類の転写物の発現レベルの相違の決定を必要としない(下記を参照のこと)。
【0130】
よって、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a1)前記被験体の試料において、880^2582の遺伝子産物量を決定し、
a2)ステップa1)で決定した量を基準と比較し、
b)前記被験体の試料において、HPV16ゲノムの組み込み状況を評価し、及び
c)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる方法に関する。
【0131】
好ましくは、前記方法のステップa1)及びa2)は、エピソーム型でHPV16のゲノムを含んでいるが、重症型のHPV16感染に罹患している(又はそのリスクがある)被験体を特定することを可能にする。好ましくは、前記方法のステップb)における評価は、組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいる被験体とそうでない被験体を特定する。組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいる被験体は、好ましくは、重症型のHPV16感染に罹患している(又はその高いリスクがある)(Vinokurova, S., N. Wentzensen, I. Kraus, R. Klaes, C. Driesch, P. Melsheimer, F. Kisseljov, M. Durst, A. Schneider, and M. von Knebel Doeberitz. 2008. Type-dependent integration frequency of human papillomavirus genomes in cervical lesions. Cancer Res 68:307-13、Pett, M., and N. Coleman. 2007. Integration of high-risk human papillomavirus: a key event in cervical carcinogenesis? J Pathol 212:356-67)。組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいない被験体は、また、880^2582の遺伝子産物量が基準より少ないのであれば、好ましくは、重症型のHPV16感染に罹患していない(及びその高いリスクがない)。
【0132】
前記方法は、被験体の試料中のHPV16ゲノムの組み込み状況を評価するステップを含んでなる。HPV16ゲノムが、組み込み型、エピソーム型、又はその両方で宿主細胞内に存在していることが当該技術分野で知られている。「組み込まれた」及び「エピソーム」という用語は、当業者に理解されている。前記HPV16ゲノムが宿主細胞の染色体DNAによって安定的に含まれている場合、HPV16ゲノムは、好ましくは、宿主細胞内に組み込み型で存在している。前記ゲノムが宿主細胞の染色体DNA内に組み込まれることなしに前記宿主細胞内で複製している場合、HPV16ゲノムは、好ましくは、宿主細胞内にエピソーム型で存在している(Vinokurova, S., N. Wentzensen, I. Kraus, R. Klaes, C. Driesch, P. Melsheimer, F. Kisseljov, M. Durst, A. Schneider, and M. von Knebel Doeberitz. 2008. Type-dependent integration frequency of human papillomavirus genomes in cervical lesions. Cancer Res 68:307-13)。
【0133】
本明細書中で使用する「HPV16ゲノムの組み込み状況を評価する」という語句は、好ましくは、HPV16のゲノムが組み込み型で存在しているかどうか、要するに、前記ゲノムが宿主細胞の染色体DNA内に組み込まれているかどうか評価することを意味する。HPV16ゲノムが被験体のゲノム内に組み込まれている場合、前記被験体の全細胞がそのゲノム内に組み込まれたHPV16ゲノムをもっているわけではないことは、理解されるべきである。好ましくは、HPV16感染を受けた細胞だけが、組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいる可能性がある。好ましくは、前記細胞は、前記被験体の泌尿生殖器又は口咽頭管に存在している。「組み込み型」という用語はさらに、宿主細胞の染色体DNA内へのHPV16の一部の組み込みも包含する。好ましくは、E6、E7、及びE1のN末端の一部の遺伝子を含めたHPV16ゲノムの初期領域が、宿主ゲノム内に組み込まれることは、理解されるべきである。しかしながら、E4、E5、及びL1遺伝子を含めたHPV16ゲノムの後期領域もまた、宿主ゲノム内に組み込まれるかもしれないが、最も好ましくは、ゲノム再配列のため転写的に不活性であることは、理解されるべきである。さらに、通常、E2遺伝子は、組み込み又は転写的不活化の間に失われることが知られている(Pett, M., and N. Coleman. 2007. Integration of high-risk human papillomavirus: a key event in cervical carcinogenesis? J Pathol 212:356-67)。
【0134】
HPV16ゲノムの組み込み状況をどのように評価するかは、当該技術分野で周知である。好ましくは、組み込み状況は、被験体の試料において決定される。組み込み状況を決定するために好ましい方法は、(i)ウイルス‐宿主融合転写物、特に、例えばパピローマウイルス癌遺伝子転写物の増幅(APOTアッセイ)及びRNAインサイツ(in situ)ハイブリダイゼーション(ISH)による転写的に活性なウイルス成分を検出する方法;並びに(ii)その転写状況にかかわらず組み込まれたウイルスDNAを検出する方法、例えば、サザンブロッティング、定量的リアルタイムPCR、制限部位PCR、及びDNA ISH、である(Pett, M., and N. Coleman. 2007. Integration of high-risk human papillomavirus: a key event in cervical carcinogenesis? J Pathol 212:356-67)。
【0135】
従って、本明細書中で使用する「基準量」という用語は、HPV16に感染している被験体において軽症型と重症型のHPV感染を判別することができる量を指す。従って、基準は、(i)軽症型のHPV感染に罹患していることが知られている被験体、又は(ii)重症型のHPV感染に罹患しているのが知られている被験体のいずれかから得ることもできる。(i)及び(ii)に関して、基準は、好ましくは、エピソーム型だけでHPVを含んでいる被験体から得られる。さらに、880^2582の遺伝子産物の基準量は、閾値量と規定することもでき、それにより、(前記被験体が組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいない場合、他の場所を参照のこと)それぞれの閾値より低い880^2582の遺伝子産物量は、軽症型のHPV感染に罹患している被験体を示唆するものとし、それに対して、閾値より高い880^2582の遺伝子産物量は、重症型のHPV16感染に罹患している被験体を示唆するものとする。個々の被験体に適用できる基準量は、様々な生理学的パラメーター、例えば年齢、性別、又は下位個体群など、並びに本明細書中で言及した転写物又はポリペプチドの決定に使用した手段によって異なることがある。好適な基準量は、検査試料と一緒に、すなわち、同時又はそれに続いて分析されるべき基準試料から本発明の方法によって決定することもできる。
【0136】
好ましくは、基準量より多い880^2582の遺伝子産物量、及び/又は組み込み型でのHPV16ゲノムの存在は、重症型のHPV16感染を示唆する。
【0137】
好ましくは、基準量より少ない880^2582の遺伝子産物量、及びHPV16ゲノムの組み込み型の不存在(要するに、HPV16ゲノムは染色体DNA内に組み込まれていない)は、軽症型のHPV16感染を示唆する。
【0138】
本発明との関連において、880^2582の遺伝子産物の存在が重症型のHPV16感染を示唆することが明らかにされた。ここで、HPV16ゲノムの組み込み型の不存在と共に、880^2582の遺伝子産物の不存在は、軽症型のHPV16感染を示唆する(次の段落もまた参照のこと)。よって、基準量は、好ましくは、検出限界である。従って、検出限界より多い880^2582の遺伝子産物量、及び/又は組み込み型でのHPV16ゲノムの存在は、好ましくは、重症型のHPV16感染を示唆する。好ましくは、検出限界より少ない880^2582の遺伝子産物量、及び組み込み型のHPV16ゲノムの不存在(要するに、HPV16ゲノムは染色体DNA内に組み込まれていない)は、軽症型のHPV16感染を示唆する。当業者は検出限界を決定する方法を知っている。本明細書中で使用する「検出限界」という用語は、好ましくは、実施例に記載した880^2582の決定のためのアッセイの検出限界を指す。
【0139】
有益なことには、880^2582の遺伝子産物量を決定し、前記量を基準量と比較し、そしてHPV16ゲノムの組み込み状況を評価することが、HPV16に感染している被験体において軽症型と、より重症型のHPV16感染を確実に判別するために必要であることが、明らかにされた。具体的には、880^2582スプライスされたmRNAの量は、細胞学的に規定された病変を持つ患者の子宮頚部剥離細胞を含んでいる試料において決定された(LSIL〜HSIL、子宮頚癌)。さらに、880^2582スプライスされたmRNAは、SiHa、CasKi、MRI‐H196、及びMRI‐H186を含めた様々な子宮頚癌細胞株に見られた。さらに、組み込み状況は、組み込まれたHPVゲノムが細胞内に通常存在しない転写物の量を決定することによって評価された(例えば、880^3358の不存在は、HPVゲノムが染色体に組み込まれているが、E1^E4発現を欠くことを示唆する)。E1^E4をコードする880^3358転写物、E2をコードする880^2709転写物又はE5をコードするE5の完全長転写物の検出に対する、E6*IIをコードする転写物の検出が組み込み状況について示唆していることが、明らかにされた。よって、E6*IIをコードする転写物と、例えばE1^E4、E2又はE5をコードする転写物の比を決定することによって、転写物の既知の組み合わせ、例えばE2、E5、及び/又はL1と比較したE6及び/又はE7などを使用することによるのと比べて、より正確に組み込み状況が予測し得る(図6、表5)。
【0140】
適用されるのであれば、本発明の方法は有益である。なぜなら、当該方法は、HPVに感染した細胞の染色体DNA内にHPVゲノムが組み込まれていない患者のHPV感染の重症度を評価することを可能にするからである。従来技術では、宿主の染色体DNA内へのHPVゲノムの組み込みは、より悪い予後に関連することが知られており、且つ、子宮頚癌の発症における重要な役割を担っていると考えられている。しかしながら、子宮頚癌はHPVゲノムが宿主の染色体DNA内に組み込まれていなくても発症するという、いくつかの報告もまた存在する。組み込み型でHPVゲノムを含んでいない被験体における軽症型と重症型のHPV16感染を判別するための確実なHPVマーカーベースの方法は、当該技術分野において説明されていない。
【0141】
本発明の方法の好ましい実施形態では、組み込み状況の評価は、以下のステップ:
b1)被験体の試料において、E6*IIの第1遺伝子産物量、及び880^3358の遺伝子産物、880^2709の遺伝子産物、及びE5の遺伝子産物から成る群から選択される第2遺伝子産物量を決定し、
b2)前記第1遺伝子産物量と前記第2遺伝子産物量の比(好ましくは、第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比)を計算し、及び
b3)前記比を基準比と比較すること、
を含んでなる。
【0142】
遺伝子産物量の決定及び基準比の計算のための好ましい方法、並びに好ましい基準比は、本明細書中の他の場所に記載されている(表5)。
【0143】
好ましくは、組み込み状況を評価するために決定されるべき比は、E6*IIの遺伝子産物量対880^3358の遺伝子産物量の比である。
【0144】
好ましくは、基準比より高い、E6*IIの第1遺伝子産物量対、好ましくは880^3358の、第2遺伝子産物量の比は、HPVのゲノムが組み込み型で存在していることを示唆する。
【0145】
好ましくは、基準比より低い、E6*IIの第1遺伝子産物量対、好ましくは880^3358の、第2遺伝子産物量の比は、HPVのゲノムが組み込み型で存在していないことを示唆する。
【0146】
従って、(i)基準量より多い880^3358の遺伝子産物量、及び/又は(ii)基準比より高い、E6*IIの遺伝子産物量対880^2582の遺伝子産物量の比は、重症型のHPV16感染を示唆する。
【0147】
好ましくは、(i)基準量より少ない880^2582の遺伝子産物量、及び(ii)(組み込み型のHPV16ゲノムの不存在を示唆する)基準比より低いE6*IIの遺伝子産物量対880^3358の遺伝子産物量の比は、軽症型のHPV16感染を示唆する。
【0148】
有益なことには、HPV16ゲノムの組み込み状況は、b1)被験体の試料において、E6*IIの遺伝子産物量と第2遺伝子産物(好ましくは880^3358)を決定し、b2)E6*IIの遺伝子産物量と第2遺伝子産物量の比(好ましくはE6*IIの遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比)を計算し、そしてb3)前記比を基準比と比較すること、によって評価できることが、本発明の研究により明らかにされた。前記ステップを実施することによる組み込み状況の評価は有益である、なぜなら、一回の反応において880^2582、3632^5639、E6*II、及び880^3358の遺伝子産物を定量化することによって、880^2582(ステップa1を参照のこと)の遺伝子産物量の決定と組み込み状況の評価を同時におこなうことができるためである。
【0149】
本発明の前記方法のよりいっそう好ましい実施形態では、ステップa1)は、更なる遺伝子産物量を決定し、ここで、前記更なる遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物、及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され、並びに、880^2582の遺伝子産物量と前記更なる遺伝子産物量の比を計算することを更に含んでなる。よって、ステップa2)では、(880^2582の量を基準量と比較することの代わりに)決定された比が基準比と比較される。好ましい基準比は、本明細書中の他の場所に記載されている。
【0150】
好ましくは、前記更なる遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物である。
【0151】
好ましくは、880^2582の遺伝子産物量と前記更なる遺伝子産物量の計算された比は、880^2582の遺伝子産物量対前記更なる遺伝子産物量の比である。
【0152】
好ましくは、基準比より高い、前記880^2582の遺伝子産物量対前記更なる遺伝子産物量の比、及び/又は組み込み型のHPV16ゲノムの存在は、重症型のHPV16感染を示唆する。
【0153】
より好ましくは、基準比より高い、前記880^2582の遺伝子産物量対前記更なる遺伝子産物量の比、及び/又は組み込み型のHPV16ゲノムの存在は、重症型のHPV16感染を示唆する。
【0154】
最も好ましくは、(i)基準比より高い、前記880^2582の遺伝子産物量対前記更なる遺伝子産物量の比、及び/又は(ii)基準比より低い、E6*IIの遺伝子産物量対880^3358の遺伝子産物量の比(組み込み型のHPV16ゲノムの不存在を示唆する)は、軽症型のHPV16感染を示唆する。
【0155】
好ましくは、基準比より低い、880^2582の遺伝子産物量対前記更なる遺伝子産物量の比、及び組み込み型のHPV16ゲノムの不存在(よって、HPV16ゲノムは染色体DNA内に組み込まれていない)は、軽症型のHPV16感染を示唆する。
【0156】
より好ましくは、基準比より低い、880^2582の遺伝子産物量対前記更なる遺伝子産物量の比、及び基準比より低い、E6*IIの遺伝子産物量対880^3358の遺伝子産物量の比(組み込み型のHPV16ゲノムの不存在を示唆する)は、軽症型のHPV16感染を示唆する。
【0157】
その他のHPV遺伝子型(HPV16の代わり、要するにその他のHPV遺伝子型に感染している被験体に関する)、特にHPV18、HPV31、HPV33、HPV35、HPV45に関して本発明の方法を実施することもまた企図される。本明細書中に記載のHPV16の遺伝子産物に対応するそれらの遺伝子産物の量が決定されることは、理解されるべきである。
【0158】
HPV16を除いた高リスクHPVタイプは、全子宮頚癌の〜45%に寄与していることは周知である。組み込みはすべての高リスクHPVタイプの発癌において重要な役割を果たすことが実証された。しかしながら、高リスクHPVタイプ16、並びに系統学的に関連したタイプ31及び33については、組み込みは頻繁に起こらないので、例えばLCRのE1C媒介型上方制御などの進行に関する第2のモードが示唆される。それにしても、これらのHPVタイプによって引き起こされた子宮頚癌のうちの大部分に関して、及びHPV18や45を含めたその他のタイプによって引き起こされた子宮頚癌のうちの非常に高い割合に関して、組み込みは子宮頚癌の発症における重要事象である(Vinokurova, S., N. Wentzensen, I. Kraus, R. Klaes, C. Driesch, P. Melsheimer, F. Kisseljov, M. Durst, A. Schneider, and M. von Knebel Doeberitz. 2008. Type-dependent integration frequency of human papillomavirus genomes in cervical lesions. Cancer Res 68:307-13)。よって、本明細書中に記載した転写解析による組み込みの計測は、組み込まれたHPVゲノムを持っている女性を容易に特定することを可能にする。好ましい実施形態では、組み込みは、HPVタイプ18、31、33、35、及び45のE6*Iの遺伝子産物を定量化し、そしてそれをE1^E4の第2遺伝子産物と比較することによって計測される。E6*Iをコードする転写物のそれぞれのスプライス供与部位は、HPVタイプ18、31、33、35、45については、それぞれnt233、210、231、232、及び230に位置している、そしてスプライス受容部位は、PVタイプ18、31、33、35、及び45については、それぞれnt416、413、509、415、及び413に位置している。E1^E4をコードする転写物のそれぞれのスプライス供与部位は、HPVタイプ18、31、33、及び45については、それぞれnt929、877、894、及び929に位置し、そしてスプライス受容部位は、HPVタイプ18、31、33、及び45については、それぞれnt3432、3295、3351、3421に位置している。当業者は、例えばPCRによるcDNAの増幅とその後の配列決定によって、HPV35のE1^E4をコードする転写物のスプライスジャンクションを決定する方法を知っている。
【0159】
先に言及した様々なHPV遺伝子型のゲノムの配列には、以下のジェンバンク受入番号がある:
HPV31 J04353.1 GI:333048
HPV33 M12732.1 GI:333049
HPV35 M74117.1 GI:333050
HPV18 NC_001357.1 GI:9626069
HPV45 X74479.1 GI:397022
【0160】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料において、880^2582の遺伝子産物量を決定し、
b)ステップa1)で決定した量を基準量と比較し、
c)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなり、ここで、前記被験体が、組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいない前記方法に関する。
【0161】
好ましくは、基準量より多い880^2582の遺伝子産物量は、前記被験体における重症型のHPV16感染を示唆する。
【0162】
好ましくは、基準量より少ない880^2582の遺伝子産物量は、前記被験体における軽症型のHPV16感染を示唆する。
【0163】
好ましい実施形態では、ステップa)は、更なる遺伝子産物量を決定し、ここで、前記更なる遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され(上記も参照のこと)、そして、880^2582の遺伝子産物量対更なる遺伝子産物量、好ましくは3632^5639の遺伝子産物量の比を計算することをさらに含んでなる。よって、ステップb)では、(880^2582の遺伝子産物量を基準量と比較する代わりに)決定された比を基準比と比較する。
【0164】
好ましくは、880^2582の遺伝子産物量対更なる遺伝子産物量の計算された比は、880^2582の遺伝子産物量対更なる遺伝子産物量の比である。
【0165】
好ましくは、基準比より高い、880^2582の遺伝子産物量対更なる遺伝子産物量の比は、前記被験体における重症型のHPV16感染を示唆する。
【0166】
好ましくは、基準比より低い、880^2582の遺伝子産物量対更なる遺伝子産物量の比は、前記被験体における軽症型のHPV16感染を示唆する。
【0167】
好ましい基準比は、本明細書中の他の場所に記載されている。
【0168】
HPV16以外に、他の高リスクHPVタイプが子宮頚癌を引き起こすことが知られている(Munoz, N., F. X. Bosch, S. de Sanjose, R. Herrero, X. Castellsague, K. V. Shah, P. J. Snijders, and C. J. Meijer. 2003. Epidemiologic classification of human papillomavirus types associated with cervical cancer. N. Engl. J. Med. 348:518-527)。それらの中でも、それらの発癌可能性の最も強い徴候は、HPVタイプ18、31、33、35、及び45について知られている。HPV16のように、これらのタイプによって引き起こされた子宮頚癌のすべてのケースにおいて、組み込みは見られなった(Vinokurova, S., N. Wentzensen, I. Kraus, R. Klaes, C. Driesch, P. Melsheimer, F. Kisseljov, M. Durst, A. Schneider, and M. von Knebel Doeberitz. 2008. Type-dependent integration frequency of human papillomavirus genomes in cervical lesions. Cancer Res 68:307-13)。これは、HPV16様の880^2582転写物又はそれぞれのHPV16様のE1C(ウイルスE1タンパク質のC末端部分)ポリペプチドもまた、これらのHPVタイプに存在することを示唆する。当業者は、例えばPCRによるcDNAの増幅とそれに続く配列決定によって、他の高リスクHPVタイプのスプライスジャンクションをどのように決定するか知っている。従って、それぞれのE1C転写物の量を決定し、そして随意に組み込み状況を評価することにより、それぞれのhrHPV遺伝子型、特にHPV18、31、33、35、及び45を持つhrHPV感染の軽症型と重症型を判別することが可能となる。
【0169】
また、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物はp16INK4Aの遺伝子産物であり、
b)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は880^3358の遺伝子産物であり、
c)ステップa)で決定した前記第1遺伝子産物量対ステップb)で決定した前記第2遺伝子産物量の比を計算し、
d)ステップc)で計算した比を基準比と比較し、及び
e)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる方法に関する。
【0170】
p16INK4Aは、宿主細胞のゲノムに含まれる遺伝子である。よって、前記遺伝子は、HPV16のゲノムによってコードされていない。本発明の方法は、そのため、p16INK4AmRNA又はp16INK4Aポリペプチドの量の決定を企図する。
【0171】
本明細書中で意味する「p16INK4A」という用語は、好ましくは、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2Aアイソフォーム1を指す。ヒトp16INK4Aのアミノ酸配列、及び核酸配列は、当該技術分野で周知であり、そして例えば、ジェンバンク受入番号:NM_000077.3(核酸配列、配列番号75)及びジェンバンク受入番号:NP_000068.1(アミノ酸配列、配列番号76)に示されている。
【0172】
E7によって媒介されたp16INK4A過剰発現は、形質転換hrHPV感染に関する貴重なマーカーであると考えられる。p16INK4Aの免疫染色は、子宮頚部細胞診及び組織学的標本において上皮内新生物又は浸潤性新生物に関連することが分かっている(Dallenbach-Hellweg, G., M. J. Trunk, and M. von Knebel Doeberitz. 2004. Traditional and new molecular methods for early detection of cervical cancer. Arkh Patol 66:35-9)。
【0173】
前記方法のいずれかを実施することによって被験体において重症型のHPV16感染が診断された時点で、癌療法又は追加の癌診断を開始できる。
【0174】
従って、本発明は、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示すHPV16に感染している被験体を特定する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は880^2582の遺伝子産物であり、
b)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物、及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され、
c)ステップa)で決定した前記第1遺伝子産物量対ステップb)で決定した前記第2遺伝子産物量の比を計算し、
d)ステップc)で計算した比を基準比と比較し、並びに、
e)癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定すること、
を含んでなる方法に関する。
【0175】
さらに、本発明は、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示すHPV16に感染している被験体を特定する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物はE6*IIの遺伝子産物であり、
b)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、880^2709の遺伝子産物、及びE5の遺伝子産物から成る群から選択され、
c)ステップa)で決定した前記第1遺伝子産物量対ステップb)で決定した前記第2遺伝子産物量の比を計算し、
d)ステップcで計算した比を基準比と比較し、並びに、
e)癌療法に対して感受性を示す被験体を特定すること、
を含んでなる方法に関する。
【0176】
さらに、本発明は、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示すHPV16に感染している被験体を特定する方法であって、以下のステップ:
a1)前記被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定し、
a2)ステップa1)で決定した量を基準量と比較し、
b)前記被験体の試料において、HPV16ゲノムの組み込み状況を評価し、並びに、
c)癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定すること、
を含んでなる方法に関する。
【0177】
さらに、本発明は、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示すHPV16に感染している被験体を特定する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定し、
b)ステップa1)で決定した量を基準量と比較し、
c)癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定すること、
を含んでなり、ここで、前記被験体が組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいない前記方法に関する。
【0178】
さらに、本発明は、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示すHPV16に感染している被験体を特定する方法であって、以下のステップ:
a)第1の比を計算し、ここで、前記第1の比の前記計算は、以下のステップ:
a1)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は880^2582の遺伝子産物であり、
a2)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物、及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され、並びに、
a3)ステップa1)で決定した前記第1遺伝子産物量対ステップa2)で決定した前記第2遺伝子産物量の第1の比を計算すること、
を含んでなり、
b)第2の比を計算し、ここで、前記計算は、以下のステップ:
b1)前記被験体の試料中の第3遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第3遺伝子産物はE6*IIの遺伝子産物であり、
b2)前記被験体の試料中の第4遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第4遺伝子産物は、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、880^2709の遺伝子産物、及びE5の遺伝子産物から成る群から選択され、並びに、
b3)ステップb1)で決定した前記第3遺伝子産物量対ステップb2)で決定した前記第4遺伝子産物量の第2の比を計算すること、
を含んでなり、並びに、
c)ステップa)で決定された前記第1の比を第1の基準比と比較し、及びステップb)で決定された前記第2の比を第2の基準比と比較し、並びに、
d)癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定すること、
を含んでなる、前記方法に関する。
【0179】
本明細書中で使用する「特定する」という用語は、被験体が癌療法に対して感受性を示すかどうか評価すること、又は被験体が癌診断に対して感受性を示すかどうか評価することを意味する。当業者には当然のことながら、こういった評価は、通常、特定されるべき被験体のすべて(すなわち100%)について正確であることを意図していない。しかしながら、前記用語は、(例えば、コホート調査において)被験体のうちの統計的に有意な部分を特定できることを必要とする。割合が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計値評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt‐検定である、マン・ホイットニー検定など、を使用することで余分な手間をかけることなく当業者によって判断されることができる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983で見つけられる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.001であることが好ましい。より好ましくは、集団の中の被験体のうち少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%が、本発明の方法によって適切に特定され得る。
【0180】
好適な癌療法は、当該技術分野で周知である。好ましくは、「癌療法」という用語には、重症型のHPV16感染、好ましくはHSIL、CIN2/3、及び子宮頚癌を処置することを目指すあらゆる治療法が含まれる。好ましくは、前記癌療法は、円錐切除術、電気外科的ループ切除術(LEEP)、子宮頚部切除術や子宮摘出術を含めた外科手術、化学療法、及び放射線化学療法から選択される。好ましくは、「癌診断」という用語は、膣鏡検査法、及びその後の組織化学的分析を伴う膣鏡診主導の生検から選択される。
【0181】
さらに、本発明は、プローブ・オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物に関連し、ここで、前記プローブ・オリゴヌクレオチド混合物は、本明細書中に規定した第1の転写物を特異的に検出するプローブ・オリゴヌクレオチド、及び本明細書中に規定した第2の転写物を特異的に検出するプローブ・オリゴヌクレオチドを含んでなる。好ましくは、前記組成物は、2種類のプローブ・オリゴヌクレオチドを含んでなる。好ましいプローブ・オリゴヌクレオチドの好ましい核酸配列は、本明細書中の他の場所に記載されている(表1)。
【0182】
さらに、本発明は、オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物に関し、そして、前記オリゴヌクレオチド混合物は、本発明の方法の第1遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチド、及び本発明の方法の少なくとも1つの第2遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを含んでなる(表3)。
【0183】
さらに、本発明は、プローブ・オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる第1の組成物、及びオリゴヌクレオチド混合物を含んでなる第2の組成物を含んでなる組成物に関連し、そして、前記オリゴヌクレオチド混合物は、本発明の方法の第1遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチド、及び本発明の方法の少なくとも1つの第2遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを含んでなる(表1、3)。
【0184】
さらに、本発明は、(i)第1のポリペプチドに含まれるペプチドに特異的に結合する抗体(好ましくは、本明細書中で言及したスプライスジャンクションに隣接している核酸によってコードされる第1のポリペプチド領域に結合する抗体)、及び(ii)第2のポリペプチドに含まれるペプチドに特異的に結合する抗体(好ましくは、本明細書中で言及したスプライスジャンクションに隣接する核酸によってコードされる第2のポリペプチド領域に結合する抗体)を含んでなる組成物に関する。
【0185】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において、i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又は癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する装置であって、以下の:
a)オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物であって、前記オリゴヌクレオチド混合物が、本発明の方法の第1遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチド、及び本発明の方法の少なくとも1つの第2遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを含んでなるもの、
b)プローブ・オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物、又は
c)プローブ・オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物、及びオリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物であって、前記オリゴヌクレオチド混合物が、本発明の方法の第1遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチド、及び本発明の方法の少なくとも1つの第2遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを含んでなるもの、
を含んでなる装置に関する。
【0186】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又は癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定するための装置であって、被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定する手段、被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定する手段、前記第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比を計算するための手段、及び計算された比を基準比と比較するための手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又はそれによって、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する、前記装置に関する。
【0187】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又は癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定するための装置であって、被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定する手段、前記手段によって決定した量を基準量と比較する手段、及び前記被験体の試料中のHPV16ゲノムの組み込み状況を評価する手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又はそれによって、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する、前記装置に関する。
【0188】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又は癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定するための装置であって、被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定する手段、前記手段によって決定した量を基準量と比較する手段、及び前記被験体の試料中のHPV16ゲノムの組み込み状況を評価する手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又はそれによって、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する、前記装置に関する。
【0189】
さらに、本発明は、HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又は癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定するための装置であって、前記被験体が組み込み型でHPV16ゲノムを含んでおらず、ここで、被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定する手段、及び前記手段によって決定した量を基準量と比較する手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)が軽症型のHPV16感染を判別するか、又は癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する、前記装置に関する。
【0190】
本明細書中で使用する「装置」という用語は、HPV16感染の軽症型と重症型を判別すること、又は癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定することを可能にするように互いに作動できるように連結された前記手段を少なくとも含んでなる手段のシステムに関する。遺伝子産物の量を決定する好ましい手段、比を計算する手段、及び比較を実施する手段が、本発明の方法に関連して先に開示されている。作動様式によりどのように手段を連結するかは、その装置内に組み込まれる手段のタイプによる。例えば、自動的に遺伝子産物量を決定する手段が適用される場合、前記自動的に作動する手段によって得られたデータを、例えば、所望の結果を得るためのコンピュータープログラムによって処理できる。好ましくは、前記手段は、このような場合、単独の装置に含まれる。従って、前記装置は、適用された試料中の遺伝子産物量の計測のための分析ユニット、及び評価のために得られたデータを処理するためのコンピューターユニットを含むこともできる。検出のための好ましい手段は、上記の発明の方法に関連する実施形態に関連して開示されている。このような場合には、システムのユーザーが、量の決定結果と、マニュアルに定められた指示及び解釈による診断値又は予後値をまとめるという点で、手段が作動できるように連結される。そのような態様では、手段は別々の装置のようであってもよいが、好ましくは、キットとして一緒にパッケージされている。当業者は、余分な手間をかけることなく、どのように手段を連結するか気付く。好ましい装置は、専門的な臨床医の特別な知識を必要とせずに適用されるもの、例えば、試験紙又は試料をただ添加するだけでよい電子装置である。結果は、臨床医による解釈を必要とする未処理データの出力として得ることもできる。しかしながら、好ましくは、装置の出力は、その解釈に臨床医を必要としない処理された生データ、すなわち、評価された生データである。さらに好ましい装置は、本発明の方法に従って先に言及した分析ユニット/装置(例えば、バイオセンサー、アレイ、その量が決定されるべきポリペプチド、mRNA、増幅された遺伝子産物を特異的に認識するリガンドが結合した固体支持体、表面プラズモン共鳴装置、NMRスペクトロメーター、質量分析計など)又は、評価ユニット/装置を含んでなる。
【0191】
さらに、本発明は、本発明の方法を実施するために適したキットに関し、前記キットは、前記方法を実施するための使用説明書、並びに
a)オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物、ここで、前記オリゴヌクレオチド混合物は、本発明の方法の第1遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチド、及び本発明の方法の少なくとも1つの第2遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを含んでなる、
b)プローブ・オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物、又は
c)プローブ・オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物、及びオリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物、ここで、前記オリゴヌクレオチド混合物は、本発明の方法の第1遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチド、及び本発明の方法の少なくとも1つの第2遺伝子産物、好ましくは転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを含んでなる、
を含んでなる。
【0192】
さらに、本発明は、本発明の方法を実施するために適したキットに関し、前記キットは、前記方法を実施するための使用説明書、並びに被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定する手段、被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定する手段、前記第1遺伝子産物量対第2遺伝子産物量の比を計算する手段、及び計算した比を基準比と比較する手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又はそれによって、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する。
【0193】
さらに、本発明は、本発明の方法を実施するために適したキットに関し、前記キットは、前記方法を実施するための使用説明書、並びに被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定する手段、前記手段によって決定した量を基準量と比較する手段、及び前記被験体の試料中のHPV16ゲノムの組み込み状況を評価する手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又はそれによって、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する。
【0194】
さらに、本発明は、本発明の方法を実施するために適したキットに関し、前記キットは、前記方法を実施するための使用説明書、並びに被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定する手段、前記手段によって決定した量を基準量と比較する手段、及び前記被験体の試料中のHPV16ゲノムの組み込み状況を評価する手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するか、又はそれによって、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定する。
【0195】
さらに、本発明は、本発明の方法を実施するために適したキットに関し、前記キットは、前記方法を実施するための使用説明書、並びに被験体の試料中の880^2582の遺伝子産物量を決定する手段、及び前記手段によって決定した量を基準量と比較する手段を含んでなり、それによって、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染の間で判別するか、又はそれによって、癌療法に対して感受性を示す及び/又は癌診断に対して感受性を示す被験体を特定するが、ここで、前記被験体は、組み込み型でHPV16ゲノムを含んでいない。
【0196】
本明細書中で使用する「キット」という用語は、一緒にパッケージされていても、そうでなくてもよい本発明の前記化合物、手段又は試薬の一群を指す。キットの成分は、別々のバイアルに(すなわち、別々の部分から成るキットとして)含まれていても、単一のバイアルにより提供されてもよい。さらに、本発明のキットが、本明細書中で先に言及した方法を実施するために使用されるべきであることは、理解されるべきである。全ての成分が、先に言及した方法を実施するためのすぐに使える様式で提供されることが、好ましくは、想定される。さらに、キットは、前記方法を実施するための使用説明書を含んでいることが好ましい。使用説明書は、紙形式又は電子形式のユーザー用マニュアルによって提供できる。一例を挙げれば、マニュアルは、本発明のキットを使用して前記方法を実施したときに得られた結果を解釈するための使用説明書を含んでなることもできる。
【0197】
この明細書中に引用したすべての参考文献を、その開示内容全体及びこの明細書で具体的に言及した開示内容に関して援用する。
【実施例】
【0198】
以下の実施例は、本発明を単に例示するものとする。それらは、どんな形であれ、本発明の範囲を限定すると解釈されないものとする。
【0199】
実施例1:アッセイ計画
最近の研究において、子宮頚部におけるスプライスRNA配列及び非スプライスRNA配列の検出と定量のための新しい手順が開発された。これらのRNAパターンを、異なるグレードの子宮頚部病変におけるそれらの診断可能性に関して特徴づけた。そういったものとして、10種類のスプライスされたHPV16 RNA配列(226^409(E6*I)、226^526(E6*II)、226^3358(E6*III)、226^2709(E6*IV)、880^2582、880^2709、880^3358、1302^3358、1302^5639、3632^5639)(Zheng, Z. M., and C. C. Baker. 2006. Papillomavirus genome structure, expression, and post-transcriptional regulation. Front Biosci 11:2286-302、図1に概説される)、及び5種類の完全長ORF HPV16 RNA配列(E6、E7、E1、E5、L1)、並びに2種類の細胞ハウスキーピング(ユビキチンC、U1A)の転写物の検出のための新しいアッセイが開発された。
【0200】
NASBAは、3種類の酵素、ニワトリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV‐RT)、RNアーゼH、及びT7 RNAポリメラーゼの同時反応を用いた等温標的増幅を使用する。ステップは、1本の反応管内で特定の温度(41℃)にて行われる。検査の特徴は、第1のオリゴヌクレオチドプライマー(P1)がT7 RNAポリメラーゼ・プロモーター配列を含んでいることである。反応中、AMV‐RTが、標的RNAの単一DNAコピーを作り出す。RNアーゼHが、DNA/RNAハイブリッドのRNA部分を分解し、そして第2のプライマー(P2)が残っているDNA鎖にアニーリングする。Luminexを使用したその後の検出のために、第2のプライマーは5’汎用配列を含んでいる。AMV‐RTのDNA依存性DNAポリメラーゼ活性は、P2を伸長し、そして完全なT7 RNAポリメラーゼ・プロモーターを持つ本来の標的RNAのdsDNAコピーを作り出す。このT7プロモーターは、大量のアンチセンスRNAアンプライマーの転写を起こさせるT7 RNAポリメラーゼによって認識される。
【0201】
NucliSens Basic Kit(BioMerieux Ltd., France)を、製造業者の使用説明書に従って使用した。簡単に言えば、2.5μLのRNA鋳型を、80mMのKCl、0.2μmoleの各プライマー、及び1XのReagent Sphereを含むが、酵素を含んでいない5μlの反応混合物に加え、そしてその混合物を65℃にて2分間加熱し、その後41℃にてさらに2分間置いた。次に、保存しておいた酵素2.5μLを各反応に加え、そして増幅反応物を41℃にて90分間インキュベートした。
【0202】
アンチセンスRNAは、Luminexビーズに結合させたオリゴヌクレオチドプローブ(表1)とのハイブリダイゼーションによって特異的に検出できる。P2の汎用部分へのビオチン標識検出プローブのアニーリングにより、そのプローブがアンチセンスRNA内に組み込まれ、Strep‐PEによって染色され、そしてLuminex分析器により計測が行われた。
【0203】
NASBAによって作り出されたRNA単位複製配列を、ビーズに結合させたオリゴヌクレオチドプローブ(表1)を使用して検出した。RNA特異的プローブを、最近記載されたとおり結合させた(Schmitt, M., I. G. Bravo, P. J. Snijders, L. Gissmann, M. Pawlita, and T. Waterboer. 2006. Bead-based multiplex genotyping of human papillomaviruses. J Clin Microbiol 44:504-12)。すべての溶液及びバッファーは、DNアーゼ/RNアーゼ不含であることが保証されている。NASBA反応では、1〜0.1μlをPCRプレートに移した。マルチチャンネル・ピペットを使用して、33μlの1.5M TMAC、75mMのTris‐HCl、pH8.0、6mMのEDTA、pH8.0、1.5g/Lのサルコシル、16μlのTEバッファー、0.2μmolarの5’‐ビオチン化デコレータープローブ、及び1種類につき2000個のハイブリダイゼーションプローブが結合したビーズの混合物から成る49μlのハイブリダイゼーション溶液を加えた。混合物全体を、95℃にて5分間変性させ、そしてすぐに氷上に1分間置いた。ハイブリダイゼーション・プレートを、加熱したブロック振盪機に移し、そして41℃にて30分間ハイブリダイゼーションを実施した。それぞれのウェルの内容物を、マルチチャンネル・ピペットを使用することによって洗浄プレートに移した。それに続いて、ウェルを、洗浄ステーション上で100μlの洗浄バッファー(1×PBS、0.02%のTween)によって洗浄した。振盪機により、ビーズを、1/1000希釈したStrep‐PEを含む検出溶液(2MのTMAC、75mMのTris‐HCl、pH8.0、6mMのEDTA、pH8.0、1.5g/Lのサルコシル)50μl中、RTにて20分間再懸濁した。ビーズを、100μlの洗浄バッファーで二度洗浄し、そして振盪機により100μlの洗浄バッファー中、2分間再懸濁した。分析をLuminex100分析装置で実施した。
【0204】
完全長RNA配列からスプライスされたものを識別するために、特異的プライマーよりむしろスプライス部位特異的Luminexプローブを使用した。異なるHPVタイプのスプライス部位間の高度な相同性のため、追加のタイプ特異的な下流プローブを利用した。
【0205】
【表1】

【0206】
実施例2:定量的NASBAの開発
NASBAアッセイにおける定量化及び内部性能対照は、NASBA混合物への既知濃度のインビトロ転写キャリブレーターRNA(Q‐RNA)の添加を必要とした。野生型(wt)とQ‐RNAの唯一の相違点であるハイブリダイゼーションプローブ結合領域が、Luminex技術を使用したアンプライマーの識別と定量化を可能にした。wt‐RNA及びQ‐RNAをcDNAに変換し、両RNAの競合増幅を可能にする同じプライマーを用いた同時増幅をおこなった。増幅の終了時点の2種類のアンプライマーの比は、増幅開始時点で存在していた2種類の標的、wt及びQの比を反映した。未知の試料中に存在しているwt‐mRNAを、外部検量線を使用することで定量化した。この検量線は、一定量のQ‐RNA中のインビトロ転写RNAの10倍希釈系列によって形成された。インビトロ転写wt‐RNAは、wt‐mRNAに類似したNASBA特性を示すことが予想された。
【0207】
Bluescript M13‐KSベクター内にクローニングし、適当な制限酵素によって線状化したQ‐RNA鋳型を、融合PCRによって作り出した。T3 RNAポリメラーゼを使用してQ‐RNAをインビトロで転写し、そしてDNaseIで処理して、プラスミドDNAを取り出した。NASBA反応あたりのキャリブレーターRNA分子の投入レベルは、一連のwt‐RNA希釈系列内のQ‐RNAの所定の数量をスパイクし、それに続くNASBA‐Luminexの分析によるwt‐RNAの正確な定量化のために最適化した。検量線を得るために、wt‐RNA対Q‐RNAの比を計算し、そしてwt‐RNAコピー数に対してプロットした。1アッセイあたり106コピーのwt‐RNAより多い投入量は、それらは臨床的に無関係であると思われたので試験しなかった。この開発は、E6*I NASBA‐Luminexアッセイのために見本となるように示された(図2)。
【0208】
最適のQ‐RNA濃度を、あらゆるNASBA標的について決定し、それを表2に要約する。一般に、すべてのNASBA検量線が、4〜5 logの広いダイナミックレンジを示し、細長形よりむしろ多項式の形であった。多項式曲線の平坦な中間部分のため、未知試料におけるRNA濃度の補間は、この部分で不正確である。それにもかかわらず、すべてのNASBAアッセイが、10倍のRNAコピー数の相違に関して信頼できる同定を可能にした。定量化に加えて、wt‐NASBAにおける同時陰性の結果を含めたQ‐RNA NASBAの部分的又は完全な失敗は、エタノールなどのNASBA阻害剤の存在を示唆した(データ未掲載)。
【0209】
総合すれば、定量的NASBA‐Luminexアッセイは、試料中に存在するwt‐RNA量の10倍の相違を4〜5桁にわたって定量化できた。
【0210】
【表2】

【0211】
実施例3:NASBA反応の感度
HPV16からの種々でスプライスされたRNA及び完全長のRNA、並びに細胞転写物の検出は、スプライス部位に特異的なハイブリダイゼーションプローブとスプライス部位の上流や下流にアニーリングする転写物特異的プライマーの設計を必要とする(表1及び表3)。NASBAプライマーの慎重な設計が、最適な感度のために重要であるように思われる。U1Aハウスキーピング転写物の検出に関して、有効な高感度プライマー配列が記載された(米国特許番号第5876937号)。
【0212】
オリゴヌクレオチドプライマーを、HPV16のRNA標的からの、連続的に希釈したインビトロ転写wt‐RNA、及び最適化したQ‐RNA投入量を用いた細胞転写物を使用したNASBA‐Luminex反応で検査した(表2を参照のこと)。検出限界は、陽性の結果を明らかにする最低RNA量として定義された。異なる日に実施した3回の独立したアッセイのうち、最も高い検出限界を表示する(表2)。
【0213】
すべてのNASBA標的の検出限界は、NASBA反応あたり25〜2500コピー数の範囲で変化した。唯一の例外は、25000RNAコピーを必要とする細胞p16INK4Aの検出であった。さらに、SiHaの全RNAを、精製し、連続的に希釈し、そして、E6*I、E6*II、E7fl、U1A、及びUbcのNASBAと、それに続くLuminexハイブリダイゼーションによって検査した。最低0.3個のSiHa細胞等価物が、E6*I及びE7特異的NASBAプライマーを使用して検出できたのに対し、E6*II、Ubc及びU1A NASBAプライマーは、3個の細胞を検出した(図3、E7flについて見本となるように示した)。全体的に見て、定量的NASBA反応は、ウイルス及び細胞転写物の検出に関して高感度であるように思われる。
【0214】
【表3】

【0215】
実施例4:異なるグレードの病変におけるHPV16 RNAパターン
異なるグレードの子宮頚部病変におけるHPV16の完全長RNA配列、及びスプライスされたRNA配列、並びに細胞p16INK4A、Apm1、及びハウスキーピングRNA配列の発現を、表2に列挙した標的に関するsingleplex定量的NASBA‐Luminex検定法によって分析した。C.Clavel博士(Reims, France)との連携により、PreservCyt(商標)媒質中に保存した子宮頚部剥離細胞から精製したRNA試料を入手した。その群は、正常(NIL/M、n=25)、LSIL(n=24)、HSIL(n=24)及びCxCa(n=7)細胞診を受けたHPV16 DNA陽性塗抹標本から成った。このクロスセクション調査は、低又は高グレードの子宮頚部病変の存在を予測する転写物又は転写物パターンの同定を目的とした。
【0216】
ハウスキーピング転写物の分析は、RNAの完全性を判断するために主に使用した。合計78個の試料は、U1A及びUbcによって一致して陽性であり、1つの試料が一致して陰性であり、そしてたった1つの試料だけが、U1Aによって不明確な陽性であり、Ubcによって陰性であった(データ未掲載)。U1A RNA及びUbc RNAの二重陰性試料(共にQ‐RNAは陽性であった)は、65ng/μl全RNAを含んでいて、このRNAが分解されたと解釈された。
【0217】
異なる病変タイプにおける1つの転写物の発現率(prevalence)
スプライスされた転写物880^2582は、病変においてほぼ例外なく検出され、そしてその発現率はLSIL(30%)からCxCa(57%)へと次第に増強された。
【0218】
E6*Iは、NIL/m症例の70%、LSIL症例の75%、HSIL症例の83%、及びCxCa症例の100%で検出され、要するに、すべての群(NIL/m症例の57%、LSIL症例の55%、HSIL症例の75%、及びCxCa症例の86%)においてE6*IIに比べてより頻繁に検出された。E6*II NASBAプライマーはさらに、263ヌクレオチド長のE6*I転写物にアニールし、そして増幅することができ、より大きなRNAアンプライマーを作り出す。より大きなサイズにもかかわらず、E6*IIプライマーは、E6*I(この組み合わせを*I(*II)で略記した)を増幅するので、LSIL及びHSILにおけるE6*Iのわずかに高い発現率を特定するためによりいっそう効果的であった。
【0219】
すべての病変タイプにおいて非常にであったL1完全長含有転写物とは対照的に、L1タンパク質をコードする3632^5639スプライスされた転写物は、LSILで最も大量であり(60%)、CxCaさらにNIL/mでそれほど頻繁でなかった(それぞれ42及び39%)。
E7完全長含有転写物はほとんどすべてのNIL/M症例に既に存在していたが、p16INK4A転写物は、この病期においてかなり希であり、しかしHSIL〜CxCaにおいて非常に一般的であった。
【0220】
【表4】

【0221】
単一転写物の発現レベル
上方制御された転写物の中で、初期癌遺伝子転写物E6*I、*I(*II)、E6*II、E6完全長、及びE7完全長は、NIL/mとCxCaの間のそれらの発現において非常に有意な上方制御を示した(データ未掲載)。スプライスされたE6転写物対完全長のE6転写物の比が発癌現象中に変化したどうかを分析するために、E6*IとE6*II発現をE6完全長発現と相関させた。E6*Iと対照的に、E6*II対E6完全長の比のメジアンだけがLSILからCxCaへの進行の間に上昇した(図4)。
【0222】
加えて、潜在的LCR転写活性化因子をコードしている転写物880^2582は、NIL/Mに比べて高グレード病変(HSIL、CxCa)において非常に有意により頻繁に発現された。細胞マーカー転写物p16INK4Aは、低グレード病変に対して高グレード病変において有意な上方制御を示した(p<<0.05)。
【0223】
逆に、ウイルス・カプシド形成と放出に必要とされ、しかし頻繁に存在している、タンパク質をコードする転写物、例えば880^3358、3632^5639及びL1完全長などの発現は、LSILからCxCaへの進行中に下方制御された(データ未掲載)。この下方制御は、880^3358発現において特に強く、LSILからCxCa病変へと非常に有意に減少した。L1完全長発現は、NIL/MからLSILで非常に有意に上方制御され(p<0.01)、正常な細胞診を受けた感染において低いウイルス活性しか示さなかった。すべてのCxCaで検出可能であったL1完全長配列は、LSILと比較して高グレード病変においてそれらの発現は下方制御される傾向があった(p>0.05)。
【0224】
定量的な発現データは、癌の進行中の初期癌遺伝子転写物の既に知られている上方制御を確認した。癌遺伝子転写物とは対照的に、L1完全長及び880^3358(E1^E4)RNAは進行中に下方制御される。加えて、880^2582転写物は、ほぼ例外なく子宮頚部病変において検出された。
【0225】
実施例5:転写物対のパターン
子宮頚部塗抹標本(実施例4)における定量的な転写解析の限界は、これらの試料が不定量のHPV感染細胞を含む可能性が高いという事実である。全RNAの標準化は、HPV感染細胞の一部ではなく、細胞総量の変動及びRNAの質を補正する。しかしながら、HPV感染細胞の数は、HPV RNA濃度全体に強い影響力を持っている。異なる量のHPV感染細胞を標準化するために、HPV転写物の対パターン分析を受けた。2以上の転写物のパターンは所定の病変群のHPV陽性細胞の大部分において同様であると仮定すると、これは100個の細胞が分析されるかそれとも1000個の細胞が分析されるかに関係しない。
【0226】
転写物対の発現レベルの比は病変群に関連した:高グレード病変対低グレード病変(CxCa/HSIL対LSIL/NIL/M)。目的の両転写物に関して二重陰性である試料を分析から除外した。相関関係を、ウィルコクソン順位和検定を使用して評価した。群間の転写物対発現レベル比の相違の有意性を、仕分けし、そして表5に要約した。
【0227】
【表5】

【0228】
【表6】

【0229】
正常(NIL/M)からCxCaへの進行中の統計的に有意な及び統計的に非常に有意な相違を示す転写物対転写物の比を、表5に提示する。一般に、少なくとも1つのスプライスされた転写物を含む比は、NASBA‐Luminex検査で決定した完全長転写物だけを利用した比(従来技術)に比べて常により有意であった(表6)。
【0230】
【表7】

【0231】
細胞転写物(Apm1、U1A、Ubc)又はスプライスされたウイルス転写物(880^3358、3632^5639)で標準化したウイルス転写物のうちの限られた数のもの、例えばE6*II、*I(*II)及び880^2582などが、高グレードのCxCa/HSIL病変対低グレード病変、LSILのみ又はNIL/mのみのいずれかの非常に有意な識別(p<0.01)を可能にした。これらの比は、高グレード病変において880^2582及びE6*IIの顕著な上方制御によって促進された。HSIL/CxCaに対する比較において、LSILはE6*II対880^3358の非常に有意な発現の低下を示した。
【0232】
文献によると、p16INK4A発現は、CxCa及びHSILで上方制御されるように思われ、そして880^3358に対する標準化が、CxCa/HSILとLSIL/NIL/Mの非常に有意な識別を可能にした。
【0233】
Apm1、並びにハウスキーピング転写物U1A及びUbcを含めた細胞転写物は、特にE6*II発現を標準化するために有益であると分かった。得られた標準化は、使用される細胞転写物に依存することなく高グレード病変と低グレード病変を非常に有意に判別した(図5)。
【0234】
総合すれば、完全長転写物の分析よりむしろスプライスされた転写物の分析が、細胞学的群のさらに有意な相違を提供した。スプライスされた転写物の中で、E6*II及び880^2582は、群間の最も強い相違を示し、そしてさまざまな細胞及びウイルス転写物によって標準化することができた。さらに、880^2582の発現は、特に高グレード病変の存在と強く関連した。よって、880^2582は、癌発症中にこれまでに知られていない役割を果たし得るため、それが高グレード病変及び癌病変に関する新しいHPVマーカー候補になっている。
【0235】
実施例6:組み込み状況の分析
HPV16の組み込みは、発癌中の重要因子であることが知られている。大抵の場合、腫瘍細胞に存在している組み込みは、E1/E2/E5領域の中で起こり、そしてウイルスDNAの分裂につながる。E6/E7/E1の中の前半の配列は、組み込み中におそらく破壊されず、そのため、初期転写物対880^3358、880^2709又はE5flの比を、ウイルス組み込み事象を評価するために使用できた。
【0236】
E6*II対880^3358のメジアン発現は、低グレード病変と比較して、高グレード病変において最も有意に増加した。この知見は、既知の高グレード病変における高いHPV16組み込み優勢と十分に一致している(図6)。E6*II対880^3358に1.5のカットオフを使用することで、合計6症例のCxCa及び5症例のHSILが、組み込まれたHPV16ゲノムを含むと予測できた。これらのうちの少なくとも3症例(27%)は、880^3358としての発現だけがこれらの症例の中で欠けていたが組み込みを含むことができ、その一方、その他の8症例はまたエピソームDNAも含むことができる。880^3358、880^2709又はE5flのいずれかと比較される他の初期転写物、例えばE6*I、しかしE6fl、E7fl、及びE1flもまた、低い程度まで転写活性な組み込みの存在の予測することを可能にした(E6*II対880^3358及びE6fl対E5の見本として描く、図6)。
【0237】
結論として、RNA配列を含む880^3358又は880^2709のいずれかと比較したE6*II RNA配列の検出及び定量化は、特に組み込まれたゲノムだけが関与するとき、HPV16組み込み状況の評価に非常に好適であるように思えた。加えて、880^3358対E6*IIの比又はE6*II対880^2709の比は、完全長転写物を含む他の比と比較して優れていた。
【0238】
実施例7:HPV関連病変の高性能分子診断のための異なるHPV転写物マーカーの組み合わせ
実施例5及び6からのデータは、子宮頚部高グレード病変が、異なっているが独特の転写パターンで存在し得ることを示唆した。
【0239】
そのため、市販Biomerieux HPVキットと比較して、(i)880^2582対3632^5639と(ii)E6*II対880^3358の組み合わせが、高グレード病変又は低グレード病変の存在を予測する感度と特異性を顕著に増強したことがわかった。この組み合わせを使用することで、合計7症例のCxCa(100%)、15症例のHSIL(63%)が、高グレード(CxCa/HSIL)と正しく特定され、そして14症例のLSIL(70%)及び21症例(91%)の正常試料が低グレード(LSIL/NIL/M)と正しく特定された。PreTect HPV Proofer(登録商標)との比較において、高グレード病変と低グレード病変を識別することに関するNASBA‐Luminexアッセイの特異性は、23%から83%に強力に高まった(図7)。得られたHPV Proofer(登録商標)データは、予報と一致しており、NIL/M試料の大部分がE6/E7 mRNAに関して陽性であったことを裏付け、健常人の過剰処置に潜在的につながった。
【0240】
全体で、この研究は、子宮頚部病変の格付けのために診断HPV16 RNAパターンの存在の証拠を提供した。20個の分析された転写物のうち、4個のウイルス・スプライス部位含有転写物と1個のハウスキーピング転写物(RNA品質管理のため)だけが診断応用に十分であり得る。あるいは、特定のエピトープを検出するより短いオリゴヌクレオチド又はスプライス部位特異的抗体が、それぞれの遺伝子産物を検出するために使用できた(表7)。
【0241】
【表8】

【0242】
実施例8:本発明を使用した患者の管理
35歳の女性が、日常的な子宮頚癌前兆スクリーニングプログラムの間に担当の婦人科医に相談した。Pap検査が、低グレード病変(LSIL)の存在を示すが、一方その後のHPV遺伝子型決定アッセイは、HPV16の存在を明らかにした。用心深い医師は、先に記載したようにRNAプロファイリング検査を勧めた。結果は、880^2582含有mRNAの存在を示唆し、したがって高グレード病変を示唆した。医師は、1年後の経過観察を提案した。1年後、その女性は、Pap検査によって再び検査されて、このとき、高グレード病変(HSIL)の存在が示唆され、そして女性は治療法について言及された。
【0243】
37歳の別の女性が、日常的な子宮頚癌前兆スクリーニングプログラムの間に担当の婦人科医に相談した。Pap検査が、高グレード病変(HSIL)の存在を示し、その後のHPV遺伝子型決定アッセイが、HPV16の存在を明らかにした。医師は、先に記載したようにRNAプロファイリング検査を勧めた。結果は、低グレード病変の存在又は正常な細胞診を示唆した。医師は、低グレード病変を確認する膣鏡検査への委託を提案した。
【0244】
35歳の女性の例は、先に記載したRNAプロファイリング検査が高グレード病変の将来的な発症を予測できたことを説明する。37歳の女性の例は、Pap検査は不正確である場合が多いので、HSIL陽性と診断された女性の過剰処置をもたらすという事実を説明する。先に記載したようにRNAプロファイリング検査を使用することで、膣鏡検査や治療法に対する不要な紹介を減らすことができた。
【0245】
好ましい実施形態では、女性の一次スクリーニングをPap検査及び/又はhrHPV DNA遺伝子型決定アッセイでおこなう。HrHPV陽性の女性を、続いて本発明の遺伝子産物を定量化するhrHPV RNA検査によって分析する。第1ステップでは、E1C及び第2遺伝子、例えば3632^5639からの遺伝子産物を評価する(評価基準1、実施例7に従う)。高グレードの結果を有する患者を治療に向かわせる。評価基準1に関して陰性である患者を、例えばE6*IIから遺伝子産物の発現対、例えば880^3358(実施例7による評価基準2)を評価することによって、HPVの組み込みについて分析する。基準2に関して陽性である女性を治療に向かわせる。基準1及び2に関して陰性の患者を、経過観察する(図8)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、前記被験体は組み込み型でHPV16ゲノムを含んでおらず、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の、880^2582の遺伝子産物量を決定し、
b)ステップa)で決定された量を基準量と比較し、及び
c)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
前記880^2582の遺伝子産物が、880^2582ジャンクションを含んでなるスプライスされた転写物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記転写物の量が、前記転写物を特異的に検出するプローブ・オリゴヌクレオチドを用いることによって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記転写物の量の決定が、前記転写物を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを用いて前記転写物を増幅するステップ、及び、増幅された転写物の量を決定するステップを含んでなる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記880^2582の遺伝子産物がポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
基準量より多い880^2582の遺伝子産物量が、重症型のHPV16感染を示唆する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
基準量より少ない880^2582の遺伝子産物量が、軽症型のHPV16感染を示唆する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は、880^2582の遺伝子産物であり、
b)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物、及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され、
c)ステップa)で決定された前記第1遺伝子産物量とステップb)で決定された前記第2遺伝子産物量の比を計算し、
d)ステップc)で計算された比を基準比と比較し、並びに、
e)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる、前記方法。
【請求項9】
HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は、E6*IIの遺伝子産物であり、
b)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、880^2709の遺伝子産物、及びE5の遺伝子産物から成る群から選択され、
c)ステップa)で決定された前記第1遺伝子産物量とステップb)で決定された前記第2遺伝子産物量の比を計算し、
d)ステップc)で計算された比を基準比と比較し、並びに、
e)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる、前記方法。
【請求項10】
前記遺伝子産物がポリペプチドであり、並びに、第1ポリペプチド量及び第2ポリペプチド量が、前記第1ポリペプチド及び前記第2ポリペプチドのそれぞれを特異的に検出する抗体を使用することによって決定される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1遺伝子産物量の、前記第2遺伝子産物量に対する比が計算され、並びに、(i)基準比より高い比が重症型のHPV16感染を示唆し、及び/又は、(ii)基準比より低い比が軽症型のHPV16感染を示唆する、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
プローブ・オリゴヌクレオチド混合物を含んでなる組成物であって、ここで、前記プローブ・オリゴヌクレオチド混合物が、請求項8又は9に記載の第1遺伝子産物を特異的に検出するプローブ・オリゴヌクレオチド、及び、請求項8又は9に記載の第2遺伝子産物を特異的に検出するプローブ・オリゴヌクレオチドを含んでなり、ここで、前記第1遺伝子産物及び第2遺伝子産物が転写物である、前記組成物。
【請求項13】
HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別するための装置であって、880^2582の遺伝子産物量を決定するための手段、及び前記量を基準量と比較するための手段を含んでなり、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別することを可能にする、前記装置。
【請求項14】
好ましくは、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法を実施するために適したキットであって、前記方法を実施するための使用説明書、並びに880^2582の遺伝子産物量を決定するための手段、及び前記量を基準量と比較するための手段を含んでなり、(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別することを可能にする、前記キット。
【請求項15】
HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a1)前記被験体の試料中、880^2582の遺伝子産物量を決定し、
a2)ステップa1)で決定された量を基準量と比較し、
b)前記被験体の試料において、HPV16ゲノムの組み込み状況を評価し、及び、
c)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること、
を含んでなる、前記方法。
【請求項16】
HPV16に感染している被験体において(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別する方法であって、以下のステップ:
a)第1の比を計算し、ここで、前記計算は、以下のステップ:
a1)前記被験体の試料中の第1遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第1遺伝子産物は、880^2582の遺伝子産物であり、
a2)前記被験体の試料中の第2遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第2遺伝子産物は、3632^5639の遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、E1の遺伝子産物、E5の遺伝子産物、L1の遺伝子産物及びE6*Iの遺伝子産物から成る群から選択され、並びに、
a3)ステップa1)で決定された前記第1遺伝子産物量とステップa2)で決定された前記第2遺伝子産物量との第1の比を計算すること
を含んでなり、
b)第2の比を計算し、ここで、前記計算は、以下のステップ:
b1)前記被験体の試料中の第3遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第3遺伝子産物は、E6*IIの遺伝子産物であり、
b2)前記被験体の試料中の第4遺伝子産物量を決定し、ここで、前記第4遺伝子産物は、Apm1の遺伝子産物、Ubcの遺伝子産物、U1Aの遺伝子産物、880^3358の遺伝子産物、880^2709の遺伝子産物、及びE5の遺伝子産物から成る群から選択され、並びに、
b3)ステップb1)で決定された前記第3遺伝子産物量とステップb2)で決定された前記第4遺伝子産物量との第2の比を計算すること
を含んでなり、
c)ステップa)で決定された前記第1の比を第1の基準比と比較し、及びステップb)で決定された前記第2の比を第2の基準比と比較し、並びに、
d)(i)重症型のHPV16感染と(ii)軽症型のHPV16感染を判別すること
を含んでなる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−507999(P2012−507999A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535121(P2011−535121)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064811
【国際公開番号】WO2010/052317
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511111301)
【Fターム(参考)】