説明

異原子導入型酸化チタン光触媒の製造方法

【課題】 可視光領域における光触媒として高い性能を有する異原子導入型酸化チタン光触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の方法は、導入する窒素原子を含んだ反応性化合物と酸化チタンを混合後、電離性放射線を照射して、酸化チタンおよび反応性化合物を部分的に活性化し、続いて無酸素雰囲気下で加熱処理することを含む。本発明の方法により、電離性放射線を照射しない場合と較べて可視光下での光触媒性能を大幅に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光下で高性能を示す異原子導入型酸化チタン光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光触媒として酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンが広く使用されている。このアナターゼ型二酸化チタンは、光触媒として使用されると、紫外光において触媒活性を示すが、可視光においてはほとんど触媒活性を示さない。太陽エネルギーの効率的な利用の観点からも、また太陽光以外の光源を使用するという観点からも、可視光照射下で動作する光触媒が必要となる。
【0003】
現在、このような可視光領域で動作できる可視光動作型光触媒として窒素、硫黄、炭素等の異原子導入型酸化チタン光触媒が注目されている。特開2001−207082(特許文献1)には、アンモニアを窒素源とする窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法が記載されている。この方法は、600℃以上の高温で加熱処理する必要があり、酸化チタンの比表面積が50m/g以下とかなり少なくなる。比表面積は、酸化チタン光触媒が処理物質を吸着する量を反映するため、比表面積が大きいほど、処理物質の吸着量が大きくなり、光触媒の分解除去能力も大きくなる。したがって、酸化チタン光触媒の製造時に、高温で熱処理することにより比表面積が小さくなることは、光触媒の処理能力の点から好ましくない。
【0004】
また、特開2002−154823(特許文献2)に記載されている尿素を窒素源とする窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法は、上記アンモニア処理方法に較べて低い温度である400℃〜450℃で処理するため、比表面積は保持されている。
【0005】
特開2004−143032(特許文献3)に記載されているチオ尿素等を硫黄源とする硫黄導入型酸化チタン光触媒の製造方法は、窒素以外に硫黄も同時に酸化チタンに導入することが特徴である。
【0006】
また、チオ尿素と尿素を酸化チタンと混合し、400〜500℃の温度で加熱して、炭素導入型酸化チタン光触媒が製造できることも知られている(例えば、"Degradation of Methylene Blue on Carbonate Species-doped TiO2 Photocatacatalysts under Visible Light" Chemistry Letters Vol.33, P.750 (2004)参照(非特許文献1))。
【0007】
特開2000−70728(特許文献4)には、20〜80kVの低エネルギー電子線を光触媒を含む塗膜に照射して光触媒活性を高める方法が開示されている。この方法は、紫外光にのみ有効な光触媒塗膜の表面に露出している部分だけを活性化させるとしている。また、光触媒活性向上の原理は、光触媒が有する結晶欠陥に電子線を照射することにより電子密度を増して光触媒活性を高めるとしている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−207082
【特許文献2】特開2002−154823
【特許文献3】特開2004−143032
【特許文献4】特開2000−70728
【非特許文献1】"Degradation of Methylene Blue on Carbonate Species-doped TiO2 Photocatacatalysts under Visible Light" Chemistry Letters Vol.33, P.750 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記可視光応答型光触媒である異原子導入型酸化チタン光触媒は、可視光領域において良好な光触媒活性を示す物質である。しかし、太陽エネルギー等をより効率的に利用する為に、上記異原子導入型酸化チタン等の可視光応答型光触媒の性能をさらに向上させることが望ましい。
【0010】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、可視光領域における光触媒として高い性能を有する異原子導入型酸化チタン光触媒、特に窒素導入型酸化チタン光触媒、硫黄導入型酸化チタン光触媒および炭素導入型酸化チタン光触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、導入する異原子を含む反応性化合物を異原子供給源とする異原子導入型酸化チタン光触媒の製造方法に関する。特に本発明は、窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法に関する。
【0012】
本発明の方法は、(1)酸化チタンと窒素化合物を混合し、電離性放射線を照射する工程と、(2)電離性放射線を照射した混合物を無酸素雰囲気下で加熱処理する工程を含む。窒素化合物は、尿素、チオ尿素、1,1−ジメチル尿素、尿素化合物、シアヌル酸、ヒドラジン、メラミン、アミン、アミノ酸、アミノ酸塩基、アミド、アジド、シアン、シアン塩、シアン酸、またはシアン酸塩から選択される少なくとも1つの物質であることが好ましい。また、電離性放射線は、α線、β線、γ線、加速電子線、X線であることが好ましい。
【0013】
本発明の方法では、電離性放射線は、アンモニアガス雰囲気下のような無酸素雰囲気で行われることが好ましい。また、加熱処理は130℃以上600℃以下の温度範囲で、好ましくはアンモニア雰囲気下で行われる。窒素化合物の残留物がある場合は、これを除去することが好ましい。
【0014】
本発明では、(1)の工程で、酸化チタンが予め乾燥されているものであるか、または、酸化チタンと反応性化合物の混合物を電離性放射線の照射前に、80℃以上120℃以下の温度で乾燥することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電離性放射線を照射することにより、電離性放射線を照射しないものに比べて、可視光下における光触媒性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、光触媒、特に異原子導入型酸化チタンの光触媒の活性を向上させる為に、異原子導入方法を種々検討した。その結果、酸化チタンと反応性化合物、好ましくは尿素またはチオ尿素を混合して無酸素雰囲気下で電離性放射線を照射して活性化した後に、無酸素雰囲気下で加熱処理することにより、電離性放射線を照射しない場合に較べて可視光下での光触媒性能が向上することを見い出した。
【0017】
特に本発明では、尿素化合物を使用することにより、従来よりも優れた触媒能を有する窒素導入型酸化チタン光触媒を提供できる方法に関する。
【0018】
以下に図面を参照して本発明の製造方法を説明する。
【0019】
本発明の方法の第1工程(図1参照)は、光触媒の原料(好ましくは酸化チタン)と反応性化合物を混合し、電離性放射線を照射して活性化する工程である。混合は、光触媒の原料と反応性化合物が均一に混合できるものであれば特に限定されないが、例えば、酸化チタンと反応性化合物をボールミルや乳鉢で混合粉砕する方法、または酸化チタンと反応性化合物をそれぞれボールミルや乳鉢で粉砕後、電離性放射線を照射する容器内で混合する方法等がある。
【0020】
光触媒の原料には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化タングステン、酸化珪素、酸化ニオブ等を使用することができるが、もっとも光触媒として高い性能を有することができるのは酸化チタンである。したがって、本発明においては、上記光触媒の材料の中で、異原子導入型光触媒の原料としては酸化チタンが最も好ましい。したがって、以下の説明では、酸化チタンを光触媒の原料として説明する。
【0021】
酸化チタンに導入する異原子としては、窒素、硫黄、炭素等の非金属系の原子や、クロム、バナジウム、鉄等の金属系の原子を挙げることができる。その中でも、窒素、硫黄または炭素を酸化チタンに導入した光触媒は、可視光応答型光触媒として高い性能を有することができる。従って、本発明の好ましい実施形態は、窒素および/または硫黄および/または炭素を異原子として含有する可視光応答型光触媒の製造方法に関する。即ち、本発明の好ましい実施形態は、窒素、硫黄および炭素から選択される異原子を1種以上含有する可視光応答型酸化チタン光触媒の製造方法である。特に、本発明は窒素源を異原子として導入した可視光応答型酸化チタン光触媒を指向する。
【0022】
窒素、硫黄または炭素を含む反応性化合物としては、尿素、チオ尿素、二酸化チオ尿素、1,1−ジメチル尿素、尿素化合物、シアヌル酸、ヒドラジン、メラミン、アミン、アミノ酸、アミノ酸塩基、アミド、アジド、シアン、シアン塩、シアン酸、またはシアン酸塩等がある。これらの化合物は、窒素、硫黄または炭素を含んでおり、酸化チタンへの窒素、硫黄および炭素の導入源となる。これらの物質のうち少なくとも1種類の反応性化合物を用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。特に、毒性、反応性等の観点から、取扱いが容易で反応性の高い尿素およびチオ尿素、シアヌル酸、メラミンが好適である。窒素を異原子として導入する場合、尿素が好適である。
【0023】
上述した酸化チタンと上記反応性化合物との混合比は任意でよいが、例えば窒素化合物として尿素粉末を使用する場合には、酸化チタン粉末100に対し尿素粉末を10以上1000未満の重量比で混合することが望ましい。これは、10未満の重量比では尿素が少なすぎて酸化チタンに十分な量の窒素が導入されないためであり、また1000以上の重量比では、尿素粉末が過剰となる為である。
【0024】
本発明では、酸化チタンは乾燥されることが好ましい。従って、第1工程では、予め乾燥された酸化チタン触媒を用いるか、電離性放射線を照射する前に、酸化チタンと反応性化合物の混合物を加熱乾燥して、酸化チタンに吸着している水分を除去することが好ましい。水分は、電離性放射線により分解されてOHラジカル等が生成し、酸素と同じように、後述する窒素、硫黄、炭素等と酸化チタンの反応を妨害する。第1工程で、予め乾燥した酸化チタン触媒を用いる場合には、酸化チタンを加熱処理することによって乾燥すればよい。また、酸化チタンと反応性化合物の混合物を乾燥する場合には、所定温度で混合物加熱乾燥すればよい。混合物を加熱する場合、酸化チタンと反応性化合物の反応が起こらない温度条件で加熱する必要がある。
【0025】
乾燥温度は、好ましくは、80℃以上、120℃以下、さらに好ましくは80℃以上、100℃以下である。このような温度範囲で乾燥することで、酸化チタンと反応性化合物の反応を防止できる(特に窒素導入源である尿素の場合にその効果が著しい)。
【0026】
酸化チタン単独または酸化チタンと反応性化合物の混合物を乾燥する手段は特に限定されないが、例えば、乾燥機、オーブン、電気炉等により乾燥することができる。
【0027】
乾燥された酸化チタン単独または酸化チタンと反応性化合物の混合物は、水分を含まない乾燥空気、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等で封入することが好ましい。
【0028】
次に、酸化チタンと反応性化合物を電離性放射線照射処理する。
【0029】
上述した酸化チタンと反応性化合物の混合物の電離性放射線照射処理は、酸素が存在しないように窒素またはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを充填した密閉容器で行うのが好ましい。また、尿素等が電離性放射線により分解されて生成するアンモニアを充填してもよい。電離性放射線としては、α線、β線、γ線、加速電子線、X線等があるが、商用規模で照射加工ができる設備が存在する加速電子線およびγ線が好ましい。また、密閉容器は、電離性放射線が透過できる程度の厚さとし、電離性放射線のエネルギーによって選択する必要がある。例えば、約200keVの加速電子線であれば、50μm以下の厚さのチタン板を電子線の窓として使う必要がある。また、2MeV以上の電子線であれば、1mm程度の厚さのガラス瓶は透過できるので、耐圧ガラス瓶等を使用してもよい。電離性放射線を吸収または反射する素材を密閉容器として使用すると、電離性放射線が透過できないため、酸化チタンと反応性化合物の混合物を活性化できない。
【0030】
電離性放射線が酸化チタンと反応性化合物の混合物に照射されると、酸化チタンは部分的に格子酸素が抜けて活性化されると考えられる。格子酸素が抜けた後は、格子欠陥となり、加熱処理時に窒素、硫黄、炭素等の異原子が入り込む場を提供すると推測される。窒素化合物は、電離性放射線の照射により部分的に化学結合が切断され、ラジカル等の活性種が形成すると考えられる。大部分は再結合してもとの化合物や類似化合物になると考えられるが、一部のラジカル等の活性種は、酸化チタンと反応して窒素−チタン、硫黄−チタン、炭素−チタン、窒素−酸素、硫黄−酸素、炭素−酸素等の結合を形成すると考えられる。このとき、窒素、硫黄および炭素は酸化チタン結晶の一部となり、この後の加熱処理において、異原子が酸化チタン結晶に導入されやすくなり、通常の加熱処理だけに比べて異原子が多く導入されると考えられる。反応性化合物が電離性放射線で活性化されることは、尿素を反応性化合物として電離性放射線で照射した後に、アンモニアが生成していることから推測される。ここで、酸素または水分が存在すると、酸化チタンから酸素が抜けた後にできる格子欠陥が、再び酸化により消失することが考えられる。酸素や水分は、電離性放射線により活性化されてオゾンやOHラジカルとなり、強い酸化力を示す。したがって、電離性放射線を照射するときは、酸素や水分が存在しないことが望ましい。しかし、反応性化合物も酸素や水分と反応するため、反応性化合物が酸素や水分と比較して反応に必要な当量以上が存在すれば、酸化チタンの酸素欠陥が形成され、さらに、反応性化合物と反応して異原子が酸化チタンと反応できる。
【0031】
これらの、電離性放射線による酸化チタンの格子欠陥の形成および反応性化合物のラジカル等の活性種の形成が、可視光下での光触媒性能の向上に寄与していると考えられる。
【0032】
本発明の方法の第2工程は、活性化された上記混合物を無酸素雰囲気下で加熱処理する工程である。(図1参照)。加熱処理は、上記混合物を所定温度に加熱できる手段を用いて行われるが、この手段は特に限定されない。例えば、無酸素状態にした雰囲気焼成炉で処理する方法、または、管状炉内を無酸素状態にして、外部から電気ヒータまたはバーナー等で加熱して処理する方法等がある。
【0033】
また、上記混合物を加熱する際には、無酸素雰囲気であれば良く、特に雰囲気の種類は限定はされない。例えば、尿素を反応性化合物として用いる場合、窒素ガス中、アルゴンガス中、アンモニアガス中などが好適である。
【0034】
上述した混合物を電離性放射線照射後に、密閉容器から加熱処理する装置に移し替える必要があるが、特に酸素および水分の存在を気にする必要はない。つまり、密閉容器を大気中で解放して、混合物を酸素および水蒸気に暴露させてから、加熱処理装置に詰め替えても特に問題はない。上述した混合物は、加熱処理装置に詰め替えた後、酸素を含まないガスに置換して無酸素雰囲気にすることが好ましい。また、加熱処理装置に移し替える前に、上述した混合物に反応性化合物を添加してもよい。電離性放射線照射により、反応性化合物の一部が分解するため、その分解した分を補充するためである。特に、強線量の電離性放射線を照射した場合は、反応化合物の分解が著しいので、加熱処理前に反応性化合物を添加することが好ましい。また、加熱処理前に添加する反応性化合物は、電離性放射線照射前に混合した反応性化合物であることが好ましいが、別の種類の反応性化合物を添加してもよい。
【0035】
加熱処理された混合物には、異原子導入源(例えば尿素等の反応性化合物)が熱分解した物質が残存しているため、これを充分に除去しておく必要がある。例えば、反応性化合物が尿素である場合、加熱処理した混合物を水洗して不純物を除去する。さらに、水洗した混合物を乾燥する。
【0036】
なお、以上に述べた実施形態では、酸化チタンと所定の窒素化合物とがともに粉末の形状である場合を説明したが、必ずしもこれに限定されない。例えば、薄膜状の酸化チタンに液状の窒素化合物を塗布し、電離性放射線を照射し、その後加熱して反応させる方法とすることもできる。
【実施例】
【0037】
上述した実施形態の具体例を、以下に実施例として説明する。
【0038】
(実施例1)
100℃であらかじめ乾燥しておいたアナターゼ型二酸化チタン粉末と尿素粉末とを、100対100の重量比で混合し、窒素ガス置換したバイアル瓶に密閉した。このバイアル瓶に10MeVの加速電子線を約600kGy照射した。その後、混合物を取り出し、アンモニアガス中において450℃で2時間加熱処理した。粉末は、橙色に変化した。色が変化したのは、酸化チタンに窒素が導入されたためである。この処理により得られた粉末を水洗、乾燥した。
【0039】
(実施例2)
アナターゼ型二酸化チタン粉末と尿素粉末とを、100対100の重量比で混合し、窒素ガス置換したバイアル瓶に密閉した。このバイアル瓶に10MeVの電子線を約600kGy照射した。その後、混合物を取り出し、アンモニアガス中において300℃で2時間加熱処理した。粉末は、薄い黄色に着色した。この処理により得られた粉末を水洗、乾燥した。
【0040】
(実施例3)
アナターゼ型二酸化チタン粉末と尿素粉末とを、100対100の重量比で混合し、80℃で1晩以上乾燥して水分を除去した後、窒素ガス置換したバイアル瓶に密閉した。このバイアル瓶に10MeVの加速電子線を約600kGy照射した。その後、混合物を取り出し、アンモニアガス中において450℃で2時間加熱処理した。粉末は、橙色に変化した。色が変化したのは、酸化チタンに窒素が導入されたためである。この処理により得られた粉末を水洗、乾燥した。
【0041】
(実施例4)
アナターゼ型二酸化チタン粉末と尿素粉末とを、100対100の重量比で混合し、80℃で1晩以上乾燥して水分を除去した後、窒素ガス置換したバイアル瓶に密閉した。このバイアル瓶に10MeVの加速電子線を約600kGy照射した。その後、混合物を取り出し、アンモニアガス中において300℃で2時間加熱処理した。粉末は、薄い黄色に着色した。この処理により得られた粉末を水洗、乾燥した。
【0042】
(実施例5)
実施例1において、加速電子線の照射量を210kGyとした以外は、同様に行った。得られた粉末は、橙色であった。
【0043】
(比較例1)
実施例1において、加速電子線照射を行わず加熱処理のみ行った以外は、同様に操作を行った。得られた粉末は、橙色であった。
【0044】
(比較例2)
実施例2において、加速電子線照射を行わず加熱処理のみ行った以外は、同様に操作を行った。得られた粉末は、薄い黄色であった。
【0045】
(比較例3)
アナターゼ型二酸化チタン粉末と尿素粉末とを、100対100の重量比で混合し、石英ガラス管につめた。窒素を流しながら、80℃で1時間以上乾燥して水分を除去した後、アンモニアガスに置換し、次いで450℃で2時間加熱処理した。粉末は、橙色に変化した。この処理により得られた粉末を水洗、乾燥した。
【0046】
(比較例4)
アナターゼ型二酸化チタン粉末と尿素粉末とを、100対100の重量比で混合し、石英ガラス管につめた。窒素を流しながら、80℃で1時間以上乾燥して水分を除去した後、アンモニアガスに置換し、次いで300℃で2時間加熱処理した。粉末は、薄い黄色に着色した。この処理により得られた粉末を水洗、乾燥した。
【0047】
(性能評価試験1)
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3および比較例4で製造された光触媒の性能の評価を以下の方法によって行なった。
【0048】
光触媒粉末をガラス板に塗布し、メチレンブルー水溶液を滴下してメチレンブルーを光触媒に吸着した。その後、可視光(1.0mW/cm)を照射した。光照射により光触媒がメチレンブルーを酸化し、脱色されるので、この脱色速度の測定を行ない、性能評価とした。脱色速度、すなわち光照射1時間当たりの水溶液の吸光度減少速度が表1に示される。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示されるように、可視光照射時において、吸光度減少速度は比較例1よりも実施例1の方が、比較例2よりも実施例2の方が速く、約1.3倍であった。このように電子線を照射することにより、可視光下での光触媒性能が向上していることがわかった。なお、表1に示されるように、比較例1および比較例2と、比較例3および比較例4は、それぞれ同じ値となったが、これは、予め乾燥時間をとらなくても、加熱処理工程で、処理温度になるまでに水分が酸化チタンから脱離して除去されたことによると考えられる(水分は、120℃に上昇するまでに除去される)。具体的には、石英ガラス管に酸化チタンと尿素の混合物を詰めて加熱処理すると、熱がかかっていない石英ガラス管の両端に水分が凝集した状態になり、加熱部分にはわずかな水蒸気しか存在していないことが確認できた。従って、水分が存在しないことが好ましい工程は、密閉容器で水蒸気の逃げることができない電子線照射処理工程であり、本発明の方法では、工程(1)の電離性放射線の照射前までに酸化チタン、または酸化チタンと反応性化合物の混合物の乾燥を行っておくことが好ましい。
【0051】
(性能評価試験2)
実施例3、実施例4、実施例5、比較例3で製造された光触媒の性能の評価を以下の方法によって行なった。
【0052】
0.1mmol/Lメチレンブルー水溶液40gに、光触媒10mgを添加し、蛍光灯で10000LUXの光を当てながら、6時間攪拌した。残存したメチレンブルー濃度を分光光度計で測定した。また、0.1mmol/Lメチレンブルー水溶液40gに、光触媒10mgを添加したものを暗所で6時間保存し、メチレンブルー濃度が低下した分を吸着量とした。メチレンブルー分解率は下記式(1)の計算式で算出した。さらに、式(2)を使用して、各実施例の触媒のメチレンブルー分解率を比較例1触媒の分解率を100としたときの相対値とした。結果を表2に示した。
【0053】
【数1】

【0054】
【数2】

【0055】
【表2】

【0056】
表2に示されるように、可視光照射時において、メチレンブルー分解性能は比較例1に比べて、実施例の方が高いことが判明した。
【0057】
実施例3および比較例3で得られた粉末の含有窒素量をCHN分析装置NCH−900((株)住化分析センター製)を用いて測定した結果、表3の結果となった。
【0058】
【表3】

【0059】
表3に示されるように、比較例3に比べて実施例3の光触媒には、窒素原子が多く導入されていることが判明した。
【0060】
以上の結果より、加速電子線等の加速電子線を照射することにより、光触媒への窒素等の異原子の導入量が向上すること、および可視光下での光触媒の性能が向上することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、酸化チタンと導入する異原子を含んだ反応性化合物を電離性放射線処理した後に、無酸素雰囲気下で加熱処理することを特徴とする異原子導入型酸化チタン光触媒の製造方法である。本発明の光触媒は、通常の光触媒と同様の種々の利用分野があるが、例えば、脱臭、殺菌、VOC除去、超親水性膜等の分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の光触媒の製造方法を説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸化チタンと窒素化合物を混合し、電離性放射線を照射する工程と、
(2)電離性放射線を照射した混合物を無酸素雰囲気下で加熱処理する工程
を含むことを特徴とする、可視光下での光触媒性能に優れた窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項2】
前記窒素化合物が、尿素、チオ尿素、1,1−ジメチル尿素、尿素化合物、シアヌル酸、ヒドラジン、メラミン、アミン、アミノ酸、アミノ酸塩基、アミド、アジド、シアン、シアン塩、シアン酸、またはシアン酸塩から選択される少なくとも1つの物質であることを特徴とする請求項1に記載の窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項3】
電離性放射線が、α線、β線、γ線、加速電子線、X線であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項4】
酸化チタンと窒素化合物を混合した後、無酸素雰囲気で電離性放射線を照射することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理を130℃以上600℃以下の温度範囲で行った後、前記窒素化合物の残留物を除去することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項6】
前記電離性放射線の照射をアンモニアガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理をアンモニアガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項8】
前記(1)の工程で、酸化チタンが予め乾燥されているものであるか、または、酸化チタンと反応性化合物の混合物を電離性放射線の照射前に、80℃以上120℃以下の温度で乾燥することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の窒素導入型酸化チタン光触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−95520(P2006−95520A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253591(P2005−253591)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】