説明

異常血管出血の認識のための方法及び装置

本発明は、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスに送られているときと、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスから得られているときとの少なくとも一方のときに、血管周囲出血を、特に、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過のために、体外血液処置中の血管周囲出血を検出するための方法及び異常血管出血の認識のための装置に関する。本発明は、さらに、血管周囲出血を検出するための構成体を有する、体外血液処置のための、特に、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過のための、体外血液処置装置に関する。本発明に係る方法及び装置は、体外血液処置中の、血液処置の動脈のブランチ(5)の動脈圧と静脈のブランチ(7)の静脈圧との変更に基づいている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスに送られているときと、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスから得られているときとの少なくとも一方のときに、血管周囲出血(perivascular bleeding)を、特に、例えば、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過の目的のためのような、体外血液処置(extra-corporeal blood treatment)中に、血管周囲出血を検出するための方法及び構成体に関する。これと同様に、本発明はまた、血管周囲出血を検出するための構成体を有し、特に、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過のための、体外血液処置のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管路を通って、バスキュラーアクセスに血液を送るためと、バスキュラーアクセスから血液を得るためとの少なくとも一方のための構成体が、一般的によく知られている。このような構成体は、血液が、例えば、管路を通って、静脈又は動脈へのアクセスのようなバスキュラーアクセスに送られるか、バスキュラーアクセスから取り除かれるという事実によって特徴付けられる。この種の構成体は、例えば、注入又は輸血用構成体の形態で知られている。
【0003】
さらに、例えば、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過の目的のための、体外血液処置のための既知の要素は、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスに送られ、かつ、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスから得られる構成体である。
【0004】
例えば、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過のためのような、血液を処置する既知の方法では、患者の血液は、血液を処置するための手段を含む体外血液回路を通って運ばれる。体外血液回路には、一般的に、この回路中の動脈圧及び静脈圧を絶えず監視する保護システムが取り付けられている。圧力のこのモニタリングの目的は、体外血液処置中に生じうるさまざまな困難な状況(complication)を検出することである。起こりうる困難な状況には、例えば、針の滑り出しや引き入れに因る、欠陥のあるバスキュラーアクセスがある。
【0005】
欠陥のあるバスキュラーアクセスが見つかったとき、既知の保護システムには、通例、停止される体外血液回路中の血液をポンピングするための血液ポンプと、閉じられる体外回路の静脈血管路にあるチューブクランプと、与えられる聴覚又は視覚警報信号とが用意されている。この手段によって、血液処置装置は、患者にとって安全な状態に変更されるが、治療が中断されることとなる。
【0006】
体外血液回路の静脈部分と動脈部分との両方の圧力のモニタリングに基づいた体外血液回路を監視するための方法及び構成体が、DE102006032815並びにEP0995451A2から知られている。
【0007】
例えば、体外血液処置の過程で生じうるさらなる困難な状況は、バスキュラーアクセスを損傷し、これは、周囲組織への出血をもたらしうるものであり、血管周囲出血と呼ばれる。血管周囲出血の場合は、穿刺針に延びている管路、又は穿刺針自体の非常にゆっくりとした圧力上昇を発生させるので、血管周囲出血の検出は、実際上、問題となる。管路又は針の圧力が既知の圧力モニタリング構成体が応答するところの圧力の限界値よりもまだ十分に低ければ、単位時間当たりの圧力上昇は、これが起こったとき、たとえますます多くの血液がそのときに組織に連続的に流れ出して強まっていても、最初は気付かれず、この結果、患者への害がますます大きくなる。それ故、かなりの時間が経過し、血液が、圧力の制限レベルに達するまで、検出されていない組織に流れ出てしまう。
【0008】
圧力信号のモニタリングに基づいており、正常な状態でないバスキュラーアクセスを検出するための他の方法及び構成体は、例えば、USA4,530,696、USA5,423,743又はUSA4,846,792から知られている。また、EP0817653B1から、針に血液が入るのを検出するように穿刺針に係合された構成体が知られている。血管が穿孔されたときに血液が入るのが、圧力センサにより圧力上昇を測定することによって検出される。既知の構成体を用いて、血管の対向壁が穿孔されたときに生じる圧力降下によって血管の対向壁の穿孔が検出されることが可能である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の基礎となる目的は、特に、体外血液処置において、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスに送られているときと、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスから得られているときとの少なくとも一方のときに、血管周囲出血が比較的高い安全性及び信頼性で迅速に検出される方法を規定することである。本発明のさらなる目的は、特に、体外血液処置において、血液がバスキュラーアクセスに送られているときと、血液がバスキュラーアクセスから得られているときとの少なくとも一方のときに、血管周囲出血が比較的高い安全性及び信頼性で迅速に検出される、血管周囲出血を検出するための構成体を提供することである。これと同様に、さらに、本発明の目的は、比較的高い安全性及び信頼性で血管周囲出血を迅速に検出する、血管周囲出血を検出するための構成体を具備する体外血液処置装置を規定することである。
【0010】
これらの目的は、請求項1、10並びに20の特徴部分によって、本発明に従って達成される。本発明の好ましい実施の形態は、従属請求項の主題を形成する。
【0011】
本発明の基本原理は、既知のモニタリング構成体の場合におかれる圧力の限界値よりも十分に低い圧力のレベルから始まる圧力の連続的な増加が、圧力の動的解析のための分析アルゴリズムの助けを借りて不均衡であるように考慮されるということであり、この理由は、この種の初期状態があるとき、これらが既知のモニタリング構成体によって検出される前に、特に長期間継続する血管周囲出血の危険性が存在するからである。
【0012】
プリセット基準値からかなり離れた圧力の変化が分析により大きな寄与をもたらすので、測定された圧力とプリセット基準値との間の差の適切な非線形関数の値が、本発明に従って決定される。基本的には、非線形関数が使用されることができ、これは、測定された圧力とプリセット基準値との間の差の小さな絶対値によりも、測定された圧力とプリセット基準値との間の差の大きな絶対値に大きな寄与を与える。べき関数が、例えば、測定された圧力とプリセット基準値との間の差が、例えば、高次の累乗に上げられるように使用されることができる。特に好ましくは、測定された圧力とプリセット基準値との間の差の絶対値が高次の累乗に上げられることができる。実際には、測定された圧力とプリセット基準値との間の差の絶対値は、2ないし4の値の範囲の累乗に上げられることができることがわかっている。また、べき指数は、この場合、2、3又は4である必要はなく、また、基本的には、べき指数は、2ないし4の値の特定の範囲で所望の中間の値であることができる。検体検査において特に効果的であるとわかったものは、3の累乗であった。累乗の値が高いほど、基準値からかなり離れた圧力変化によってなされた寄与が大きい。
【0013】
非線形関数の値がプリセット制限値を超えた場合には、血管周囲出血があると結論付けられる。
【0014】
体外血液処置において、本発明に係る方法及び本発明に係る構成体は、動脈部分で検出された動脈圧の変化と、静脈部分で検出された静脈圧の変化との少なくとも一方に基づいている。血液処置中に血管周囲出血が生じたならば、バスキュラーアクセスに延びた管路の、すなわち静脈針のところの正の背圧が上昇する、又は、バスキュラーアクセスから離れるように延びた管路の、すなわち動脈針のところの吸引圧が上昇する、すなわち、吸引圧がより負になる。初めに、圧力上昇が穏やかに始まり、そして、だんだん大きくなる。それ故、本発明に係る方法及び本発明に係る構成体にとって、基準値から少しだけ離れた圧力のレベルから始まる圧力変化よりも、基準値からかなり離れたレベルから始まる圧力変化をより考慮することが重要である。
【0015】
本発明に係る方法及び本発明に係る構成体は、例えば、血管の壁に対して引き出される穿刺針が検出されるのを可能にするために、体外血液処置装置の静脈針のところの圧力のみならず、同様に、体外血液処置装置の動脈針のところの圧力も監視することができる。
【0016】
本発明に係る方法及び本発明に係る構成体は、血液処置装置の既知の要素にある動脈及び静脈圧力センサを利用することができる。それ故、保護システムが実行される装置側の変更は、単に、装置の制御システムの修正に限られる。
【0017】
本発明の好ましい一実施の形態では、測定された圧力とプリセット基準値との間の差の絶対値の累乗の値の積分は、t−tのプリセット時間間隔にわたって決定されて、プリセット動脈又は静脈の制限値と比較されて、これを超えていれば、血管周囲出血があると結論付けられる。かくして、積分値が臨界値を超過するまで、差が積算される。
【0018】
本発明に係る方法及び本発明に係る構成体はまた、体外血液処置の欠陥のあるバスキュラーアクセスを検出するための他の方法並びに構成体と組み合わせられることができる。モニタリングシステムの安全性及び信頼性は、このようにしてなおもさらに高められることができる。本発明に係る方法及び本発明に係る構成体は、例えば、DE102006032815A1並びにEP0995451A2に開示されている方法並びに構成体と組み合わせられることができる。
【0019】
本発明の意図は、本発明に従う差のモニタリングに取って代わられる血液処置装置の既知の要素の動脈圧又は静脈圧の通常のモニタリングに向けられていない。代わって、2つのモニタリングシステムが、互いに独立して動作することができる。
【0020】
通常の圧力モニタリングシステムの圧力の上限値に近いがそれよりも低い圧力のレベルから始まる血管周囲出血に起因する圧力の連続的な増加があるとき、通常の圧力モニタリングシステムは、圧力の既知の上限値を短時間で超えられた後にのみ反応する。それ故、任意の長さの時間の間、気付かれないままとなるこの種の圧力の危険性が高まらないので、このようなレベルの圧力から始まる圧力の増加が不均衡であるように考慮される必要がない。通常の圧力モニタリングシステムの圧力の上限値よりも十分に低い圧力レベルから始まる血管周囲出血に起因する圧力の連続的な増加があるとき、積分への不均衡な大きな寄与が、本発明に従って計算され、かくして、初期段階で血管周囲出血があると結論付けられることができる。
【0021】
血管周囲出血が起こっている場合には、聴覚と視覚との少なくとも一方の報知が、好ましくは与えられる。これと同様に、体外血液回路中の血液の流れもまた、血液が失われるのを防ぐために遮断されることができる。血液の流れは、体外血液回路中に配置された血液ポンプを停止させることと、例えば、チューブクランプ、特に、静脈血液管路に配置された静脈チューブクランプのような、体外血液回路中に配置された安全弁を閉じることとの少なくとも一方によって、体外血液処置のための装置の既知の要素で遮断されうる。
【0022】
本発明に係る方法及び本発明に係る構成体は、血管の対向壁の不慮の穿孔の結果として、血管を囲んでいる患者の組織への血液の故意ではない不慮の注入を検出するのに基本的に適している。特に、本発明に係る方法及び本発明に係る構成体は、血液が針を通って患者の血管に送り戻される体外血液処置のあらゆる方法での使用に適している。これらの例は、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過であり、また、患者の血液が体外血液回路中のセルの分離に晒され、これが果されたときにその成分に分離されるセルの分離の方法である。
【0023】
以下では、本発明は、一例として体外血液処置を挙げることによって、及び図面を参照することによって、詳細に説明される。体外血液処置での血管周囲出血を検出するための本発明に係る方法及び本発明に係る構成体、及び、血管周囲出血を検出するための構成体を有する本発明に係る体外血液処置装置が、一実施の形態を参照して詳細に説明される。しかし、基本的に、本発明は、患者のバスキュラーシステム(血管系)への他のアクセスに適用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、血管周囲出血を検出するための構成体を有する体外血液処置のための装置のかなり単純化された概略図である。
【図2】図2は、血管周囲出血が起こったときの体外血液回路の静脈部分中の静脈圧の上昇を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、体外血液処置装置の一実施の形態としての透析装置のかなり単純化された概略図である。
【0026】
この透析装置は、血液を処置する手段として、半透膜2で血液チャンバ3と透析流体チャンバ4とに分けられた透析装置1を有する。ぜん動性の血液ポンプ6が接続される動脈血管路5が、血液チャンバ3の入口3Aに接続されている。血液チャンバ3の出口3Bから、静脈血管路7が患者に延びている。ドリップチャンバ8が、静脈血管路7に接続されている。患者の適切な動脈血管及び静脈血管(分路)内にそれぞれ挿入される針5A及び7Aが、動脈血管路5及び静脈血管路7の端部に接続されている。動脈血管路5及び静脈血管路7は、体外血液回路Iのそれぞれの動脈部分及び静脈部分をそれぞれ形成している。血液管路は、使い捨てであるように設定された可撓性チューブのシステムの一部であり、透析装置内に挿入される。
【0027】
新しい透析液が、透析液源9から利用可能である。透析液源9から、透析流体供給管路10が、透析装置1の透析流体チャンバ4の入口4Aに延びており、一方、透析流体回収管路11が、透析チャンバ4の出口4Bから排出部12に延びている。
【0028】
透析装置はまた、例えば、状態評価手段及び限外濾過手段のような他の構成要素を有することができるが、より明瞭にするために、これらは図示されない。
【0029】
これと同様に、透析装置はまた、欠陥のあるバスキュラーアクセスの場合に血液の流れを遮断させるための手段を有する。血液の流れを遮断させるために、電磁石によって動作されるシャットオフクランプ13が、ドリップチャンバ8の下流側の静脈血管路7に設けられている。動脈血液ポンプ6及び静脈シャットオフクランプ13は、制御ライン14、15を通って透析装置の中央制御ユニット16によって駆動される。
【0030】
血管周囲出血を検出するための体外血液回路のモニタリングは、患者へのバスキュラーアクセスをなす動脈針と静脈針とがある2針モードとして知られているようにして動作する既知の要素の血液処置装置で、及び、患者へのバスキュラーアクセスのための1つのみの針である1(シングル)針モードの既知の透析装置でなされることができる。
【0031】
血管周囲出血を検出するための構成体17は、体外血液回路Iの動脈部分5中の動脈圧とその静脈部分7中の静脈圧とを測定するための手段18を有する。測定手段18は、動脈血管路5の圧力を監視する動脈圧力センサ18Aと、静脈血管路7の圧力を監視する静脈圧力センサ18Bとを有する。圧力検出センサ18A、18Bから測定された値は、データライン19A、19Bを介して血管周囲出血を検出するための構成体17の計算及び分析ユニット20に伝送される。
【0032】
分析及び計算ユニット20は、以下の方程式を使用することによって、所定時間で測定された動脈圧又は静脈圧p(t)と、プリセット基準値prefとの間の差の非線形関数を計算するための手段を有する。
【数1】

【0033】
次の実施の形態では、非線形関数は、以下のように仮定される。分析及び計算ユニット20は、以下の方程式から、所定時間で測定された動脈圧又は静脈圧p(t)と、プリセット時間間隔t−tの間の圧力のプリセット基準値prefとの間の差の絶対値のn次の累乗の値の積分Iを計算するための手段20Aを有する。
【数2】

【0034】
以下に与えられる値が、基準値prefとして得られることができる。
1. prefは、既知の圧力モニタリングの制限圧帯域の上限圧であることができる。
2. prefは、既知の圧力モニタリングの制限圧帯域の下限圧であることができる。
3. prefは、既知の圧力モニタリングの制限圧帯域の中心(対称又は非対称)制限圧であることができる。
4. prefは、ローパスフィルタによってフィルタリングされたときの圧力の値であることができる。
5. prefは、圧力の滑り平均値(sliding mean value)であることができる。
6. prefは、定数であることができる。
【0035】
基準値は、さまざまなやり方で予め設定されることができる。基準値prefと、べき指数nと、時間間隔t−tとの少なくとも1つが、ユーザによって手動で構成体に入力されて予め設定されてもよいし、あるいは、構成体に固定形式で格納されてもよいし、あるいは、以下のプリセットルールに従って自動的に計算され示されてもよい。
【0036】
分析及び計算ユニット20はまた、積分Iとプリセット制限値critとを比較するための手段20Bを有する。
【数3】

【0037】
積分Iは、動脈圧力センサ18Aによって測定された動脈圧part(t)と、静脈圧力センサ18Bによって測定された静脈圧力センサ18Bとの両方に対して、方程式(2)から計算されて、積分Iartが、プリセット動脈制限値critartと比較され、また、積分Ivenが、プリセット静脈制限値critvenと比較される。
【0038】
制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられる。
【0039】
検体検査では、べき指数n=3は、方程式(2)のべき関数にとって特に有用であることが証明された。より大きな上付きnの値が、prefから大きく離れたところでの値p(t)に対して選択される。しかし、基本的には、べき指数は、さらに、2ないし4の範囲の他の所望の中間の値であることができる。
【0040】
制限値が超えられている結果として血管周囲出血が検出されたとき、分析及び制御ユニット20は、制御信号を生成して、この制御信号を、透析装置の中央制御ユニット16が、制御ライン21を介して受信する。そして、制御ユニット16は、血液ポンプ6を停止させて、静脈シャットオフクランプ13を閉じて、かくして体外血液回路I中の血液の流れを遮断する。この結果、これ以上の血液は、末梢組織に流れ出ることができない。
【0041】
計算及び分析ユニット20はまた、制御ライン23を介して透析装置の中央制御ユニット16に接続された報知ユニット22を有する。報知ユニット22は、血管周囲出血が検出されたら、聴覚と視覚とのいずれか一方の報知を与える。
【0042】
既知の先行技術の保護システムによる通常の圧力モニタリングに関して、及び静脈針7Aの血管周囲出血の発生に関して、図2は、血管周囲出血の発生の前後に、静脈針7Aの上流側で、静脈圧力センサ18Bによって測定された静脈血管路7中の静脈圧pven(t)に従う曲線を示している。血管周囲出血が起こったとき、圧力上昇が現れ、静脈圧は、初めにゆっくりと上昇し、そして、かなり速く上昇する。その限界が通常のモニタリングシステムで監視される静脈圧の上限が、破線によって図2に示される。現在の実施の形態では、これは、330mmHg付近にある。原理上、静脈圧に対する上限に到達したか超えられると、血液処置は、通常のモニタリングシステムの場合には、血液ポンプ6を停止させて、チューブクランプ13が閉じられることによって遮断される。
【0043】
しかし、水平な点線によって図2に示された既知の上限値が既に約9秒を超えているとしても、およそt=3711秒まで血液ポンプが停止されないことが図2から理解されることができる。この理由は、透析装置の通常の保護システムが、固定プリセット報知ウインドウの形態である遅延反応に対して用意されているので、血液の流れの遮断が、プリセット遅延後にのみ起こることによる。通常の血液の流れに関して、約120mlの血液が、この時間の間ポンピングされることができる、すなわち、血管周囲出血が上限値超過の結果として検出されたとき、さらなる120mlの血液が、患者の組織になおもポンピングされる。この遅延反応の目的は、圧力によるかなり頻繁なオーバランがあるとき、誤った報知の頻度を下げるためであり、これは、一般的に、短い周期だけの間続き、また、大部分は、危害のない原因に因るものであり、すなわち、この反応は、必ずしもポンプのただちのスイッチオフとは限らない。この場合、初期段階で血管周囲出血が検出され誤った報知を最小限にするという、実際には比較的稀であるが重大な結果を招きうる血管周囲出血に対する要望に関して、通常の保護システムにおける目的と衝突する。それ故、本発明は、既知の保護システムが、好ましくは、残されており、本発明に係る保護システムが、それと平行して動作されることを想定しており、これによって、モニタリングの安全性及び信頼性が高められ、誤った報知が大部分は回避される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液が管路を通ってバスキュラーアクセスに送られているときと、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスから得られているときとの少なくとも一方のときに血管周囲出血を検出する方法であって、前記管路中の圧力が測定される、方法において、
前記管路中の測定された圧力と、プリセット基準値との間の差の非線形関数が決定されて、
前記非線形関数の値が、プリセット制限値と比較されて、
前記制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることを特徴とする方法。
【請求項2】
測定された前記圧力と、前記プリセット基準値との間の差の累乗の値が決定されて、
圧力の差の累乗の前記値が、前記プリセット制限値と比較されて、
前記制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
測定された前記圧力と、前記プリセット基準値との間の差の絶対値の累乗の値が決定されて、
圧力の差の絶対値の累乗の前記値が、前記プリセット制限値と比較されて、
前記制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることを特徴とする請求項1又は2の方法。
【請求項4】
血液が、動脈のバスキュラーアクセスから体外血液回路の動脈部分を通って血液処置手段に、及び、前記血液処置手段から前記体外血液回路の静脈部分を通って静脈のバスキュラーアクセスに流れ、
前記体外血液回路の前記動脈部分中の動脈圧と、前記体外血液回路の前記静脈部分中の静脈圧との少なくとも一方が測定される、体外血液処置中に血管周囲出血を検出するための方法において、
測定された動脈圧と動脈圧のプリセット基準値との間の差の非線形関数の第1の値が決定されることと、測定された静脈圧と静脈圧のプリセット基準値との間の差の非線形関数の第2の値が決定されることとの少なくとも一方と、
前記第1の値が第1の制限値と比較されることと、前記第2の値が第2の制限値と比較されることとの少なくとも一方と、
前記第1の制限値及び前記第2の制限値がそれぞれの場合に超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることとを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1の方法。
【請求項5】
測定された前記動脈圧と前記動脈圧のプリセット基準値との間の差の絶対値の累乗の第1の値が決定されることと、測定された前記静脈圧と前記静脈圧のプリセット基準値との間の差の絶対値の累乗の第2の値が決定されることとの少なくとも一方と、
前記第1の値が第1の制限値と比較されることと、前記第2の値が第2の制限値と比較されることとの少なくとも一方と、
前記第1の制限値及び前記第2の制限値がそれぞれの場合に超えられていれば、血管周囲があると結論付けられることを特徴とする請求項4の方法。
【請求項6】
測定された前記動脈圧と前記動脈圧のプリセット基準値との間の差の絶対値の累乗の形態である第1の値が、プリセット間隔t−tにわたって決定されて、前記第1の値が第1のプリセット制限値と比較されて、第1の制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることと、
測定された前記静脈圧と前記静脈圧のプリセット基準値との間の差の絶対値の累乗の形態である第2の値が、プリセット間隔t−tにわたって決定されて、前記第2の値が第2のプリセット制限値と比較されて、第2の制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることと、の少なくとも一方を特徴とする請求項5の方法。
【請求項7】
測定された前記動脈圧と前記動脈圧のプリセット基準値との間の差の2、3又は4の累乗の値、特に、3の累乗の値が決定される、又は測定された前記静脈圧と前記静脈圧のプリセット基準値との間の差の2、3又は4の累乗の値、特に、3の累乗の値が決定されることを特徴とする請求項5又は6の方法。
【請求項8】
血管周囲出血があることが見つかったとき、視覚と聴覚との少なくとも一方の報知が与えられることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1の方法。
【請求項9】
血管周囲出血があることが見つかったとき、血液の流れが遮断されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1の方法。
【請求項10】
血液が管路を通ってバスキュラーアクセスに送られているときと、血液が管路を通ってバスキュラーアクセスから得られているときとの少なくとも一方のときに血管周囲出血を検出するための構成体であって、
前記圧力は、前記管路中で測定され、
血管周囲出血を検出するための構成体は、前記管路中の圧力を測定するための手段を有する、構成体において、
血管周囲出血を検出するための構成体は、前記管路中の測定された圧力と、プリセット基準値との間の差の非線形関数が決定されることができ、前記非線形関数の値が、プリセット制限値と比較されることができ、前記制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることができるように設定された分析及び計算ユニット(20)を具備することを特徴とする構成体。
【請求項11】
前記分析及び計算ユニット(20)は、測定された前記圧力と前記プリセット基準値との間の差の累乗の値が決定されることができ、圧力の差の累乗の前記値が、前記プリセット制限値と比較されることができ、前記制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることができるように設定されていることを特徴とする請求項10の構成体。
【請求項12】
前記分析及び計算ユニット(20)は、測定された前記圧力と、前記プリセット基準値との間の差の絶対値の累乗の値が決定されることができ、圧力の差の絶対値の累乗の前記値が、前記プリセット制限値と比較されることができ、前記制限値が超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることができるように設定されていることを特徴とする請求項10又は11の構成体。
【請求項13】
体外血液処置装置によって、体外血液処置中、血管周囲出血を検出するための構成体であって、
前記体外血液処置装置は、
一端側で、血液処置手段の入口に接続されており、他端側に、動脈のバスキュラーアクセスのための動脈接続部が設けられた、体外血液回路に属する動脈血液管路と、
一端側で、前記血液処置手段の出口に接続されており、他端側に、静脈のバスキュラーアクセスのための静脈接続部が設けられた、前記体外血液回路に属する静脈血液管路と、
前記体外血液回路の動脈部分の動脈圧と、前記体外血液回路の静脈部分の静脈圧との少なくとも一方を測定するための手段とを具備する、構成体において、
血管周囲出血を検出するための構成体は、分析及び計算ユニット(20)を具備し、
この分析及び計算ユニット(20)は、
測定された動脈圧と動脈圧のためのプリセット基準値との間の差の非線形関数の第1の値と、測定された静脈圧と静脈圧のためのプリセット基準値との間の差の非線形関数の第2の値との少なくとも一方の値が決定されることができ、
前記第1の値が第1のプリセット制限値と比較されることができるか、前記第2の値が第2のプリセット制限値と比較されることができるかの少なくとも一方であることができ、
前記第1の制限値及び前記第2の制限値がそれぞれの場合に超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることができるように設定されていることを特徴とする方法。
【請求項14】
血管周囲出血を検出するための構成体は、分析及び計算ユニット(20)を有し、
この分析及び計算ユニット(20)は、
測定された前記動脈圧と前記動脈圧のためのプリセット基準値との間の差の絶対値の累乗である第1の値と、測定された前記静脈圧と前記静脈圧のためのプリセット基準値との間の差の絶対値の累乗である第2の値との少なくとも一方の値が決定されることができ、
前記第1の値が第1のプリセット制限値と比較されることができるか、前記第2の値が第2のプリセット制限値と比較されることができるかの少なくとも一方であることができ、
前記第1の制限値及び前記第2の制限値がそれぞれの場合に超えられていれば、血管周囲出血があると結論付けられることができるように設定されていることを特徴とする請求項13の構成体。
【請求項15】
前記分析及び計算ユニット(20)は、
測定された前記動脈圧と前記動脈圧の基準値との間の差の絶対値の積分の形態である第1の値を、プリセット時間間隔t−tにわたって計算するためと、測定された前記静脈圧と前記静脈圧の基準値との間の差の絶対値の積分の形態である第2の値を、プリセット時間間隔t−tにわたって計算するためとの少なくとも一方のための手段(20A)と、
前記第1の値を第1のプリセット制限値と比較するためと、前記第2の値を第2のプリセット制限値と比較するためとの少なくとも一方のための手段(20B)とを有することを特徴とする請求項14の構成体。
【請求項16】
前記分析及び計算ユニット(20)は、
測定された前記動脈圧と前記動脈圧のプリセット基準値との間の差の2、3又は4の累乗の値、特に、3の累乗の値が決定されることができる、又は、測定された前記静脈圧と前記静脈圧のプリセット基準値との間の差の2、3又は4の累乗の値、特に、3の累乗の値が決定されることができるように設定されていることを特徴とする請求項15の構成体。
【請求項17】
血管周囲出血を検出するための構成体は、血管周囲出血があることが見つかったとき、視覚と聴覚との少なくとも一方の報知を与える報知ユニット(22)を有することを特徴とする請求項10ないし16のいずれか1の構成体。
【請求項18】
血管周囲出血を検出するための構成体は、血管周囲出血があることが見つかったとき、血液の流れを遮断させるための制御信号を生成するための手段(20)を有することを特徴とする請求項13ないし17のいずれか1の構成体。
【請求項19】
血管周囲出血を検出するための構成体は、血管周囲出血があることが見つかったとき、前記体外血液処置装置の血液の流れを遮断させるための制御信号を生成するための手段(20)を有することを特徴とする請求項13ないし18のいずれか1の構成体。
【請求項20】
一端側で、血液処置手段の入口に接続されており、他端側に、動脈のバスキュラーアクセスのための動脈接続部が設けられた、体外血液回路(I)に属する動脈血液管路(5)と、
一端側で、血液処置手段の出口に接続されており、他端側に、動脈のバスキュラーアクセスのための静脈接続部が設けられた、体外血液回路(I)に属する静脈血液管路(7)と、
前記体外血液回路の動脈部分の動脈圧と、前記体外血液回路の静脈部分の静脈圧との少なくとも一方を測定するための手段とを具備する、体外血液処置装置において、
請求項13ないし19のいずれか1の構成体を有することを特徴とする体外血液処置装置。
【請求項21】
前記体外血液回路の中の血液の流れを遮断させるための手段(6,13)を有することを特徴とする請求項20の体外血液処置装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−509118(P2012−509118A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536766(P2011−536766)
【出願日】平成21年11月14日(2009.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008128
【国際公開番号】WO2010/057600
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(501276371)フレセニウス・メディカル・ケア・ドイチュラント・ゲーエムベーハー (31)
【Fターム(参考)】