説明

異方導電性ポリイミドベルトおよびその製造方法

【課題】本発明の目的は、面方向と厚み方向で、大きな異方導電性を有する異方導電性イミドベルトおよびその製造方法を提供することである。
【解決手段】ポリイミド系樹脂を主成分とし、少なくとも導電性フィラーを含有する異方導電性ポリイミドベルトであって、ベルト厚み方向に導電性を有し、表面抵抗率の常用対数値が13以上、かつ体積抵抗率の常用対数値が7以下であることを特徴とする異方導電性ポリイミドベルトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系樹脂を主成分とし、少なくとも導電性フィラーを含有する異方導電性ポリイミドベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、その高い機械特性、電気絶縁性、耐熱性に優れ、電気・電子材料、耐熱材料等の各分野において幅広く使用されている。OA機器用部材においては導電性フィラーを添加することによってポリイミドの耐熱性、機械特性を活かしつつ、ポリイミド樹脂組成物に導電性を付与する試みが行われており、その導電性を付与する材料の一つとしてカーボンブラックが挙げられる。
【0003】
ポリイミド樹脂に導電性が付与された導電部材は、例えば、中間転写ベルト等に用いうる半導電性ポリイミドベルトがある。また、このような導電部材は、電子写真方式の複写機やプリンターなどに用いられる画像形成装置において、像担持体の帯電、現像、クリーニングなどのプロセスに使用される帯電装置内の、ベルト形状の異方導電性部材などに使用される(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−311263号公報
【特許文献2】特開2002−55511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、ポリイミド樹脂に導電性が付与された導電部材は幅広い用途で使用され、異方導電などの機能を付与する試みがなされているが、汎用カーボンブラックを樹脂に一般的な手法で分散させた場合(例えば、ビーズミルにて混合分散させる方法)には、面方向と厚み方向で、大きな異方性を得ることが困難であり、改善が望まれていた。なお、ビーズミルは、ベッセル(容器)の中へビーズ(メディア)を充填しておき、中央の回転軸を回転させることによりビーズを作用させ、ここに原料を送り込んで、ビーズで摺りつぶすことにより粉砕、分散を行うことができる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、面方向と厚み方向で、大きな異方導電性を有する異方導電性イミドベルトおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、面方向と厚み方向で、大きな異方導電性を発現させるために鋭意検討した結果、ポリイミド樹脂の原料液中に分散させた導電性フィラー(例えば、カーボンブラック)の粒子径を制御することによって、所望の異方導電性を発現できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の異方導電性ポリイミドベルトは、ポリイミド系樹脂を主成分とし、少なくとも導電性フィラーを含有する異方導電性ポリイミドベルトであって、
ベルト厚み方向に導電性を有し、
表面抵抗率の常用対数値が13以上、かつ、体積抵抗率の常用対数値が7以下であることを特徴とする。
【0009】
また、上記本発明において、前記導電性フィラーがカーボンブラックであることが好ましい。また、前記ポリイミド系樹脂の原料溶液に前記カーボンブラックを分散させた分散液の数平均粒子径が120nm〜300nmであることが好ましい。また、当該分散液の数平均粒子径は、より好ましくは、120nm〜200nm、さらに好ましくは、120nm〜150nm、特に好ましくは、125nm〜135nmである。
【0010】
また、本発明の異方導電性ポリイミドベルトの製造方法は、ポリイミド系樹脂を主成分とし、少なくとも導電性フィラーを含有する異方導電性ポリイミドベルトの製造方法であって、
少なくとも導電性フィラーを含有するポリイミド系樹脂の原料溶液を調製する工程と、
前記調製されたポリイミド系樹脂溶液を円筒状金型の内面に塗布、展開して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱してイミド転化を行なう工程とを有し、
前記ポリイミド系樹脂の原料溶液を調製する工程において、
当該原料溶液に導電性フィラーを分散させる工程を有することを特徴とする。
【0011】
上記製造方法において、前記導電性フィラーがカーボンブラックであることが好ましい。また、前記原料溶液に前記カーボンブラックを分散させた分散液の数平均粒子径が120nm〜300nmであることが好ましい。また、当該分散液の数平均粒子径は、より好ましくは、120nm〜200nm、さらに好ましくは、120nm〜150nm、特に好ましくは、125nm〜135nmである。
【0012】
一般的にはカーボンブラック分散液中のカーボンブラック粒子径を小さく制御して分散し導電性を制御するが、カーボンブラックの粒子径を大きくしたまま制御することによって、面方向への絶縁性を保持したまま厚み方向へ導電性を付与でき、大きな異方導電性を示すポリイミドベルトを作製することができる。本発明において、「異方導電性」は、ベルト面方向への絶縁性を保持したまま、ベルト厚み方向への導電性を有する特性をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
(導電性フィラー) 本発明の異方導電性ポリイミドベルトは、導電性を付与するためにカーボンブラックを含有する。ベルトの表面抵抗率(Ω/□)の常用対数値が13、より好ましくは14以上である。また、体積抵抗率(Ω・cm)の常用対数値が7以下、より好ましくは6以下である。
【0014】
表面抵抗率は、例えば、三菱化学株式会社製 Hiresta−UP MCP−HT450に接続したリングプローブをベルト表面に押し当てて印加電圧100V、250V、500V、1000Vの10秒後の表面抵抗率をそれぞれ測定することで得られる。
【0015】
体積抵抗率は、例えば、三菱化学株式会社製 Hiresta−UP MCP−HT450に接続したリングプローブをベルト表面に押し当てて印加電圧100V、250V、500V、1000Vの10秒後の体積抵抗率をそれぞれ測定することで得られる。
【0016】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、これらは単独使用することもでき、または複数種類のカーボンブラックを併用してもよい。
【0017】
カーボンブラックの一次粒子の平均粒径は、0.1〜80μmの範囲、より好ましくは20〜40μmの範囲に設定されていることが好ましい。このような範囲内であれば、ポリイミド系樹脂の原料溶液にカーボンブラックを分散させた分散液の数平均粒子径が120nm〜300nmの範囲となるので好ましい。
【0018】
カーボンブラックの一次粒子の平均粒径は、例えば、エタノール等の有機溶剤中に超音波分散した液を試料として、光透過式遠心沈降法を用いた粒度分布測定器によって測定できる。
【0019】
カーボンブラックの含有量については、その目的に応じ、添加するカーボンブラックの種類により適宜決定されるが、画像形成装置用機能性ベルトとしては、ポリイミド樹脂固形分に対し3〜40重量%、より好ましくは3〜30重量%である。
【0020】
カーボンブラックの分散性や親和性の向上を狙って、カーボンブラックを分散剤の存在下でポリアミド酸希釈溶液(ポリイミド樹脂の原料溶液の希釈液)に分散することが好ましい。前記分散剤は本発明の目的にかなうものであれば特に限定されない。
【0021】
分散剤の添加量は、カーボンブラックに対して0,01〜10wt%が好ましく、0.1〜5wt%がより好ましい。添加量が0.01wt%未満の場合も10wt%を超える場合も異方導電性を発現するまでには至らない。
【0022】
(その他の導電性フィラー)
上記導電性フィラーとしてカーボンブラックを例示したが、これに限定されない。例えば、アルミニウム、ニッケル等の金属、酸化錫のような酸化金属化合物、チタン酸カリウム等の導電性粉末、或いは、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性ポリマー等も例示される。これらは、単独であるいは2種以上を用いることができる。
【0023】
(ポリイミド系樹脂の原料)
本発明の異方導電性ポリイミドベルトは、ポリイミド系樹脂を主成分とし、導電性フィラーを含有するイミドベルトである。ここで、上記「主成分」とは、ポリイミド樹脂系組成物を構成する主たる成分のことであって、組成物の特性に大きな影響を与えるものであることを意味する。
【0024】
ポリイミド系樹脂の原料としては、その前駆体であるポリアミド酸が例示される。このポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物あるいはその誘導体とジアミンとの略等モルを有機溶媒中で反応させて得ることができる。
【0025】
上記テトラカルボン酸二無水物としては、下記の一般式(1)で表されるものがあげられる。
【0026】
【化1】

[式(I)中、Rは4価の有機基であり、芳香族、脂肪族、環状脂肪族、芳香族と脂肪族とを組み合わせたもの、またはそれらの置換された基である。]
【0027】
そして、上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等があげられる。
【0028】
また、このようなテトラカルボン酸二無水物と反応させるジアミンの具体例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビスーp−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ピペラジン、HN(CHO(CHOCHNH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH)(CHNH等が挙げられる。
【0029】
これらテトラカルボン酸二無水物あるいはその誘導体およびジアミンは、それぞれ1種類以上を適宜に選定し反応させることができる。
【0030】
上記テトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させる際に用いられる有機極性溶媒は、その官能基がテトラカルボン酸二無水物またはジアミンと反応しない双極子を有するものである。そして、系に対して不活性であり、かつ生成物であるポリアミド酸に対して溶媒として作用しなければならない。しかも、反応成分の少なくとも一方、好ましくは両者に対して溶媒として作用しなければならない。
【0031】
上記有機極性溶媒としては、特にN,N−ジアルキルアミド類が有用であり、例えばこれの低分子量のものであるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等があげられる。これらは蒸発、置換または拡散によりポリアミド酸およびポリアミド酸成形品から容易に除去することができる。
【0032】
また、上記以外の有機極性溶媒として、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、併せて用いても差し支えない。
【0033】
さらに、上記有機極性溶媒にクレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を単独でもしくは併せて混合することもできる。ただし、生成するポリアミド酸の加水分解による低分子量化を防ぐため、水の使用は避けることが好ましい。
【0034】
(異方導電性ポリイミドベルトの製造方法)
本発明の異方導電性ポリイミドベルトは、ポリアミド酸溶液の溶媒を加熱等による除去、脱水閉環水の除去および、イミド添加反応を完結することにより得られる。
【0035】
前記イミド転化は高温加熱による方法もしくは、ポリアミド酸に触媒単独あるいは触媒と脱水剤を併用して低温過熱する方法いずれを用いてもよく、本発明の目的にかなうものであれば特に限定されない。
【0036】
以下に、本発明の異方導電性ポリイミドベルトの製造方法の一例の工程を示す。
(1)少なくとも導電性フィラーを含有するポリイミド系樹脂の原料溶液を調製する工程;さらに、このポリイミド系樹脂の原料溶液を調製する工程において、当該原料溶液に導電性フィラーを分散させる工程を有する。
(2)調製されたポリイミド系樹脂溶液を円筒状金型の内面に塗布、展開して塗布膜を形成する工程
(3)塗布膜を加熱してイミド転化を行なう工程
(4)イミド転化後のベルトを円筒状金型より剥離して取り出す工程
以下に、各工程について詳述する。
【0037】
(ポリアミド酸溶液の調製方法)
上記ポリアミド酸溶液は、上記テトラカルボン酸二無水物(x)とジアミン(y)とを有機極性溶媒中で、0.5〜10時間程度反応させて得ることが好ましい。すなわち、0.5時間未満であると反応が不十分となり、10時間を超えてもそれ以上の効果が得られないからである。また、反応時におけるモノマー濃度〔上記溶媒中における(x)+(y)の濃度〕は種々の要因に応じて設定できるが、通常5〜30重量%である。また、反応温度は80℃以下に設定することが好ましい。
【0038】
また、このようにして有機極性溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させると、その反応の進行に伴い溶液の粘度が上昇するが、本発明においては対数粘度(η)が0.5以上となったポリアミド酸溶液を用いることが好ましい。すなわち、対数粘度(η)が0.5以上のポリアミド酸溶液を用いて形成した場合、熱劣化に対する信頼性(耐熱性)が対数粘度0.5未満のものと比較して特に優れているという利点がある。なお、上記対数粘度(η)は毛細管粘度計を用いてポリアミド酸溶液と溶媒の落下時間を各々測定し、下記の数式(1)により算出される値である。
【0039】
【数1】

このようなポリアミド酸溶液は、使用する際に、粘度が高い場合には適当な溶媒で希釈して粘度を低くして用いる。例えば、ポリアミド酸溶液の粘度は、塗布厚み、シリンダーの内径、溶液温度、走行体の形状等に応じて設定されるが、通常、10〜10000ポイズ(塗布作業時の温度でB型粘度計にて測定)に設定される。
【0040】
ポリアミド酸溶液は、使用する際に、溶液粘度が高い場合には適当な溶媒で希釈して粘度を低くして用いることができる。例えば、ポリアミド酸溶液の粘度は、塗布厚み、塗布方法、塗布条件、溶液温度等に応じて設定されるが、通常10〜10000ポイズ(塗布作業時の温度(25℃)でB型粘度計にて測定した粘度)に設定される。
【0041】
(導電性フィラーの分散方法)
本発明において、導電性フィラーをポリアミド酸溶液中に分散させた場合に、この分散させた分散液の数平均粒子径が120nm〜300nmの範囲となることが必要である。この条件を満たすような導電性フィラーの分散方法であれば、特に制限されない。
【0042】
導電性フィラーの分散方法としては、例えば、ダイヤノール300等の分散安定剤を混合したNMP溶液に導電性フィラーを添加し、時間をかけて自然に分散させる方法が挙げられる。導電性フィラーの種類及び配合量に依存して自然分散の時間は異なる。
【0043】
(塗布膜形成)
円筒状金型へのポリアミド酸溶液(カーボンブラック含有)の塗布方法としては、ポリアミド酸溶液中に円筒状金型を浸潰して内面に塗布膜を形成しこれを円筒状ダイス等で成膜する方法や、円筒状金型内面の片端部にポリアミド酸溶液を供給した後、この円筒状金型と一定のクリアランスを有する走行体(弾丸状、球状)を走行させる方法、円筒状金型を軸周りに回転させ、内面にポリアミド酸溶液を供給し、遠心力により均一な皮膜とする方法等が挙げられる。
【0044】
上述の走行体を走行させる方法において、走行体を走行させる方法としては、自重走行法(円筒状金型を垂直に立て、走行体をその自重により下方に走行させる方法)の他、圧縮空気やガス爆発力を利用する方法、牽引ワイヤ等により牽引する方法等が挙げられる。
【0045】
(イミド化)
上記ポリアミド酸溶液を塗布した後の加熱温度は、80〜200℃程度の低温で加熱して溶媒を除去した、250〜400℃程度に昇温してイミド転化を終了する多段加熱法等が用いられる。
【0046】
また、低温加熱後にベルト自身で支持できる状態になったベルトを剥離して、プライマー層やフッ素樹脂層を形成した後、高温加熱を行ってもよい。加熱時の所要時間は加熱時間に応じて適宜設定されるが、通常低温加熱およびその後の高温加熱ともに20〜60分程度である。このような多段加熱法を用いれば、イミド転化に伴い発生する閉環水や溶媒の蒸発に起因するベルトにおける微小ボイドの発生を防止することができる。
【0047】
上記製法において、成形金型となる円筒状金型としては、従来からシームレスベルトの製造に用いられるものであればどのようなものであっても差し支えなく、材質としては耐熱性の観点から、金属、ガラス、セラミックス等各種のものが例示される。
【0048】
(剥離工程)
このようにして得たベルトを円筒状金型より剥離する。円筒状金型からポリイミド樹脂製のベルトを剥離する方法として、例えば円筒状金型端部の周壁面に予め設けられた微小貫通孔に空気を圧送する方法等が挙げられる。なお、シームレスベルトを形成する円筒状金型内周面等に予めシリコーン樹脂等による離型処理を施しておけば、ベルトの剥離作業性が向上し、好ましい。
【0049】
(異方導電性ポリイミドベルトの特徴)
本発明の異方導電性ポリイミドベルトによれば、導電性フィラー(例えば、カーボンブラック)の粒子径を大きくしたまま制御することによって、面方向への絶縁性を保持したまま厚み方向へ導電性を付与できるので、所望の異方導電性ポリイミドベルトを作製することができる。
【0050】
[実施例]
以下に、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価は下記のようにして測定を行った。また、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
<評価方法>
(1)表面抵抗率、体積抵抗率
三菱化学株式会社製 Hiresta−UP MCP−HT450に接続したリングプローブをベルト表面に押し当てて印加電圧100V、250V、500V、1000Vの10秒後の表面抵抗率、体積抵抗率をそれぞれ測定した。
(2)数平均粒子径
カーボンブラック分散液中のカーボンブラック数平均粒子径を、動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LB−500)を用いて測定温度25℃で測定した。
【0052】
<実施例1>
(1)ダイヤノール300(第一工業製薬製、7.5g)が混合されたNMP溶液(NMP(N−メチル−2−ピロリドン):2700g)を撹拌しながら、Special Black 250(デグサ製、300 g)を添加し、時間をかけて自然に分散させた。この分散させた分散液の数平均粒子径は134nmであった。
(2)この分散液(217g)にNMP溶液(185.43g)を加えて希釈し、次に、p−フェニレンジアミン(0.10mol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.10mol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(0.19mol)の順に添加した。
(3)増粘後、撹拌しながら加温し、カーボン18wt%、固形分20wt%のカーボンブラック含有ポリアミド酸溶液を得た。
(4)このポリアミド酸ワニスを、内径60mm、長さ850mmの円筒状金型の内面にディスペンサーで塗布し、均一な塗膜面を得た。
(5)その後、130℃で20分間予備乾燥し、次いで、340℃で10分間加熱してイミド転化を行い、ポリイミドベルトを得た。
【0053】
このベルトの表面抵抗率を評価したところ、100Vから1000Vの印加電圧範囲内で表面抵抗率ρs(Ω/□)の常用対数値が13(log(Ω/□))以上であった。また、このベルトの体積抵抗率も評価したところ、100Vから1000Vの印加電圧範囲で体積抵抗率ρv(Ω・cm)の常用対数値が7(log(Ω・cm))以下であった。
【0054】
<比較例1>
(1)ダイヤノール300(7.5g)が混合されたNMP溶液(NMP:2700g)を撹拌しながら、Special Black 250(300g)を添加し、ビーズミル分散混合装置で分散させた。その分散液の数平均粒子径は103.6nmであった。
(2)実施例1と同様の方法で重合し、カーボンブラック含有ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸ワニスを、実施例1と同じようにイミド転化を行い、ポリイミドベルトを得た。
【0055】
このベルトの表面抵抗率を評価したところ、100Vから1000Vの印加電圧範囲で表面抵抗率ρs(Ω/□)の常用対数値が13より大きいものであった。また、このベルトの体積抵抗率も評価したところ、100Vから1000Vの印加電圧範囲で体積抵抗率ρv(Ω・cm)の常用対数値が13より大きいものであった。
【0056】
<結果>
カーボンブラックの分散において、通常、異方伝導性を持たせることは難しいものであったが、本実施例1に示すように、表面抵抗率と体積抵抗率の異なるポリイミドベルトが作製でき、大きな異方伝導性を発現できた。一方、比較例では、異方伝導性が見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂を主成分とし、少なくとも導電性フィラーを含有する異方導電性ポリイミドベルトであって、
ベルト厚み方向に導電性を有し、
表面抵抗率の常用対数値が13以上、かつ
体積抵抗率の常用対数値が7以下であることを特徴とする異方導電性ポリイミドベルト。
【請求項2】
前記導電性フィラーがカーボンブラックである請求項1に記載の異方導電性ポリイミドベルト。
【請求項3】
前記ポリイミド系樹脂の原料溶液に前記カーボンブラックを分散させた分散液の数平均粒子径が120nm〜300nmである請求項2に記載の異方導電性ポリイミドベルト。
【請求項4】
ポリイミド系樹脂を主成分とし、少なくとも導電性フィラーを含有する異方導電性ポリイミドベルトの製造方法であって、
少なくとも導電性フィラーを含有するポリイミド系樹脂の原料溶液を調製する工程と、
前記調製されたポリイミド系樹脂溶液を円筒状金型の内面に塗布、展開して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱してイミド転化を行なう工程とを有し、
前記ポリイミド系樹脂の原料溶液を調製する工程において、
当該原料溶液に導電性フィラーを分散させる工程を有することを特徴とする異方導電性ポリイミドベルトの製造方法。
【請求項5】
前記導電性フィラーがカーボンブラックである請求項4に記載の異方導電性ポリイミドベルトの製造方法。
【請求項6】
前記原料溶液に前記カーボンブラックを分散させた分散液の数平均粒子径が120nm〜300nmであることを特徴とする請求項5に記載の異方導電性ポリイミドベルトの製造方法。

【公開番号】特開2007−298692(P2007−298692A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125889(P2006−125889)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】